部分放電計測装置
【課題】インバータ駆動されるモータの部分放電の発生相、または発生箇所を容易かつ確実に特定できる部分放電計測装置を提供する。
【解決手段】モータ3の電源端子に接続された給電ケーブル4に接続した高域通過フィルタ7によってインバータ装置2からのスイッチングノイズを除いてモータ内の部分放電で生じる部分放電信号のみを各相で選別する。次に選別された各相の部分放電信号の振幅がピークとなるピーク到達時間をピーク検出回路8で検出した後、演算処理回路9でこの各相の部分放電信号のピーク到達時間の相互の関係に基づいて部分放電の発生相を判定する。続いて、部分放電の発生相を基準にして各部分放電信号の各相間の到達時間差を求め、この時間差とモータ巻線の1コイル毎の部分放電信号の伝搬時間との関係に基づいて部分放電の発生箇所を特定する。
【解決手段】モータ3の電源端子に接続された給電ケーブル4に接続した高域通過フィルタ7によってインバータ装置2からのスイッチングノイズを除いてモータ内の部分放電で生じる部分放電信号のみを各相で選別する。次に選別された各相の部分放電信号の振幅がピークとなるピーク到達時間をピーク検出回路8で検出した後、演算処理回路9でこの各相の部分放電信号のピーク到達時間の相互の関係に基づいて部分放電の発生相を判定する。続いて、部分放電の発生相を基準にして各部分放電信号の各相間の到達時間差を求め、この時間差とモータ巻線の1コイル毎の部分放電信号の伝搬時間との関係に基づいて部分放電の発生箇所を特定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置により駆動されるモータ内に生じる部分放電の発生相または発生箇所を特定することができる部分放電計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータの速度制御が容易で、省エネルギー化が図れるなどの利点が得られることから、交流電源からインバータ装置を介してモータに電力を供給するインバータ運転が広く採用されている。
【0003】
しかし、このようなインバータ装置を使用する場合、これに起因した急峻なサージ電圧が発生し、このサージ電圧がモータ内に侵入すると、モータ巻線の電圧分布に過渡現象が生じてモータ巻線間に過電圧が加わり、モータ巻線間に部分放電が起こることがある。そして、この部分放電が長期にわたって発生すると、絶縁劣化により最終的に絶縁破壊に至る。したがって、絶縁破壊に至る前に部分放電の発生の有無を検出することが必要となる。このため、従来より、部分放電を検出するための各種の提案がなされている。
【0004】
例えば、従来技術では、モータとインバータ装置とを結ぶ給電ケーブルの途中に過電圧抑制フィルタを設けるとともに、この過電圧抑制フィルタに部分放電を検出する部分放電検出手段を接続し、過電圧抑制フィルタで給電ケーブルに流れる部分放電電流を電圧に変換し、部分放電検出手段でこの部分放電の電圧の極性から、部分放電の発生相を判別するようにしたインバータ駆動モータシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、他の従来技術では、部分放電信号とノイズを含んだ全パルスを検出して、その全パルスをデジタル化して記憶手段に一時保存し、その後、この記憶手段に保存した部分放電信号とノイズの特性量の差異(部分放電信号とノイズの信号伝播特性の差や、信号伝播に基づく周波数特性、振幅値、到達時間の差など)に基づく演算処理を行って、部分放電信号とノイズとを識別し、ノイズ除去後の部分放電信号の測定結果を表示装置に表示するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、他の従来技術では、電機機器巻線の2カ所に部分放電の検出器を設け、これらの検出器で検出された部分放電信号の立ち上がり時間と予め測定した巻線の単位長さ当たりの立ち上がり時間とから部分放電の発生位置を演算したり、あるいは、これらの検出器で検出された各部分放電信号の立ち上がり時間の時間差と予め測定した巻線の単位長さ当たりの信号伝搬時間とから部分放電の発生位置を演算するようにした放電位置測定装置が提供されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
さらに、他の従来技術では、モータ内部に部分放電に起因して発生する電磁波を検出するための検出器を配置し、モータの部分放電による巻線内の容量性電位分布による電磁波信号の到達時間と、部分放電を起こした巻線ターンとその隣の巻線ターンとの電位差により巻線ターン間に発生する進行波信号の到達時間との時間差に基づいて部分放電の発生箇所を同定できるようにした部分放電計測装置が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2003−143862号公報
【特許文献2】特開平11−94897号公報
【特許文献3】特開昭58−15167号公報
【特許文献4】特開2003−107122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1記載の従来技術では、インバータ駆動中に部分放電の発生相を部分放電信号の極性から判別できるものの、モータ巻線のどの位置で部分放電が発生したかまでは特定することができない。
【0010】
また、特許文献2記載の従来技術では、部分放電信号とノイズ信号が混在したアナログデータをデジタル化して演算回路でノイズの分離を行う方法について記載されているものの、部分放電の発生相、発生箇所まで特定する方法を提示するまでには至っていない。
【0011】
特許文献3記載の従来技術では、各検出器で部分放電信号の立ち上がり時間、あるいは、各検出器で検出された各部分放電信号の立ち上がり時間の時間差を検出することにより部分放電の発生位置を演算するようにしているが、電源端子に到達する部分放電信号には、コイル間の浮遊静電容量によって伝搬する信号と、モータ巻線のコイルを順次伝搬する信号とが混在するため、現実的には微少な部分放電信号の立ち上がり時間や時間差を正確に検出することが困難である。
【0012】
この点について、図12および図13を参照してさらに説明する。
図12はモータ巻線の高周波特性を考慮した等価回路図である。モータ巻線は1相当たり複数個のコイル100で構成されており、ここでは、1コイルごとに集中定数回路が順次接続された状態として示している。
【0013】
低周波領域では各コイル100の集中定数回路は、インダクタンスL1とコイル抵抗R1の直列回路となるが、高周波領域ではコイル100の巻始めと巻き終わり間の浮遊静電容量C1およびコイル100とモータの対地間の浮遊静電容量C2,C3を考慮する必要がある。
【0014】
いま、モータ内の任意の箇所で部分放電が発生した場合、この部分放電信号はパルス状の信号となって立ち上がりが急峻であるため、信号周波数が高くて図中のインダクタンスL1は高インピーダンスとなり、浮遊静電容量C1〜C3によるインピーダンスが低くなるため、部分放電信号の立ち上がり付近ではモータ内の回路は浮遊静電容量C1〜C3によって支配される。したがって、図13(a)に示すように、部分放電信号の一部の信号S1は、立ち上がり付近ではコイル100間の浮遊静電容量C1によって電源端子側に到達する。一方、部分放電信号の大部分の信号S2は、図13(b)に示すように、各コイル100のインダクタンスL1とコイル抵抗R1の直列回路を経由して伝搬する進行波として電源端子側に到達する。
【0015】
このように、電源端子に到達する部分放電信号には、各コイル100間の浮遊静電容量C1によって伝搬する信号S1と、各コイル100を進行波として順次伝搬する信号S2とが混在し、電源入力端子側では、図13(c)に示すように両信号S1,S2の波形が互いに重なり合った信号S3となる。このため、微少な部分放電信号の立ち上がりの時間を判別することが困難である。つまり、部分放電信号が図13(b)に示すような波形であれば、立ち上がり時間taを比較的精度良く測定することができるが、実際には図13(c)に示すような波形となるため、部分放電信号の立ち上がりの時間を判別することが困難である。特に、モータの定格容量が小さい場合や、コイル長が短い場合、あるいは部分放電の発生箇所が電源入力端子に近い場合などには、この信号波形の重なり合いが顕著となり、部分放電信号の立ち上がり時間を判別することが困難となり、部分放電の発生位置を特定する際の誤差が大きいという問題がある。
【0016】
また、特許文献4記載の従来技術では、モータの部分放電による巻線内の容量性電位分布による電磁波信号の到達時間と、部分放電を起こした巻線ターンとその隣の巻線ターンとの電位差に基づいて部分放電の発生箇所を特定するようにしているが、数Wから数十W程度の小型のモータでは、モータ内に電磁波検出用の検出器を配置することが困難である。
【0017】
これに対処するため、例えば、電磁波検出用の検出器をモータの外部に配置した場合、部分放電による放電電磁波は1/R3(Rは放電源よりセンサまでの距離)で減衰することや、モータのフレーム、ブラケットなどは金属で構成されているので、電磁波がシールドされた状態となって放電信号が微弱となるため、部分放電の検出感度が低下するという問題がある。
【0018】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、モータがインバータ駆動される際のモータ巻線における部分放電の発生相、または発生箇所を簡単かつ精度良く特定することのできる部分放電計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するために、本発明では、交流電源からインバータ装置を介して電力を授受するモータに発生する部分放電を計測する部分放電計測装置において、次の構成を採用している。
【0020】
すなわち、本発明では、上記インバータ装置と上記モータとの間を接続する給電ケーブルから分岐して上記インバータ装置の駆動に伴って生じるスイッチングノイズと上記モータの部分放電に伴って生じる部分放電信号とを各相で弁別する弁別手段を設けるとともに、この弁別手段で弁別された各相の部分放電信号の振幅がピークとなるピーク到達時間を検出するピーク検出手段と、各相の上記ピーク到達時間の相互の関係に基づいて部分放電の発生した相を判定する相判定手段と、を備えることを特徴としている。
【0021】
特に、上記構成に加えて、相判定手段で判定された部分放電の発生相を基準にして各部分放電信号の各相間の到達時間差Δtkを求め、この到達時間差Δtkと予め算出したモータ巻線の1コイル当たりの部分放電信号の伝搬時間tcとの関係に基づいて、部分放電の発生箇所を特定する発生箇所特定手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来技術のような部分放電信号の立ち上がり時間を検出するのではなく、各相の部分放電信号の振幅がピークとなる時間を測定し、その測定した各相の部分放電信号の到達時間の長短によって部分放電の発生相を判定するので、インバータ駆動時におけるモータ内の各相巻線における部分放電の発生相がどれかを簡単に判定することができる。
【0023】
さらに、上記の発生箇所特定手段を設けた場合には、各相で検出された部分放電信号の内、最も早く信号が検出された相を基準として各部分放電信号の各相間の到達時間差Δtkを求め、この到達時間差Δtkと予め算出したモータ巻線の1コイル当たりの部分放電信号の伝搬時間tcとの関係に基づいて、部分放電が発生した箇所を特定することができるため、部分放電の発生箇所を従来よりも一層精度良く特定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1における部分放電計測装置を設けたインバータ駆動モータシステムの構成図である。
【0025】
図1において、1は商用の三相交流電源、2は三相交流電源1の電圧を所要の周波数の交流電圧に変換するインバータ装置、3は三相交流電源1からインバータ装置2を介して電力を授受する三相モータ、4はインバータ装置2と三相モータ3のU,V,W相の各電源端子との間を接続する給電ケーブルである。この場合の給電ケーブルは、キャプタイヤケーブルのような多芯ケーブルであり、インバータ装置2と三相モータ3のU,V,W相の各電源端子との間を接続する各相に対応した3本の配線が含まれている。そして、この給電ケーブル4の三相モータ3に近接した位置に本発明の部分放電計測装置5が設けられている。なお、これに限らず、三相モータ3の端子に部分放電計測装置5を接続した構成であってもよい。
【0026】
この部分放電計測装置5は、電流/電圧変換回路6、三相分の高域通過フィルタ7、三相分のピーク検出回路8、演算処理回路9、および結果出力部10を備えている。
【0027】
上記の電流/電圧変換回路6は、給電ケーブル4の各相の電流を電圧に変換するもので、各相でコンデンサCと検出抵抗Rとからなる直列回路が給電ケーブル4と対地間に接続されて構成されている。
【0028】
各高域通過フィルタ7は、インバータ装置2のIGBT等の図示しないスイッチング素子の駆動に伴って生じるスイッチングノイズを除いて三相モータ3の部分放電に伴って生じる各相の部分放電信号のみを通過させるもので、特許請求の範囲における弁別手段に対応している。
【0029】
各ピーク検出回路8は、図13(c)に示すように、高域通過フィルタ7を通過した各相の部分放電信号の振幅がピークVpとなるときのピーク到達時間tpを検出するものである。
【0030】
演算処理回路9は、ピーク検出回路8でピークが検出されたときの各相の部分放電信号の到達時間tpの相互の関係に基づいて部分放電が発生した相を判定するとともに、判定された部分放電の発生相を基準にして各部分放電信号の各相間の到達時間差Δtkを求め、この到達時間差Δtkと、予め算出したモータ巻線の1コイル当たりの部分放電信号の伝搬時間tcとの関係に基づいて部分放電の発生箇所を特定する処理を行うもので、例えばマイクロコンピュータやメモリで構成されている。そして、この演算処理回路9が特許請求の範囲における相判定手段および発生箇所特定手段に対応している。
【0031】
結果出力部10は、演算処理回路9の演算結果を出力するもので、例えば、表示器やプリンタで構成される。
【0032】
次に、上記構成を備えた部分放電計測装置5を用いて三相モータ3の部分放電の発生相の判定、および発生箇所を特定する場合の動作について説明する。
【0033】
三相モータ3がインバータ装置2で駆動されている状態で、三相モータ3内部のモータ巻線に部分放電が発生すると、パルス状の部分放電信号が三相モータ3のU,V,W相の各電源端子から給電ケーブル4を経由して電流/電圧変換回路6に伝達される。また、インバータ装置2からはインバータ駆動時のスイッチング素子の動作に伴ってスイッチングノイズが発生し、このスイッチングノイズも給電ケーブル4を経由して電流/電圧変換回路6に伝達される。したがって、電流/電圧変換回路6には、部分放電信号とスイッチングノイズとが共に伝達されて両者が重なり合う。このため、次段の高域通過フィルタ7によってスイッチングノイズを除いて部分放電信号のみを通過させる。
【0034】
図2はインバータ装置2のスイッチング素子としてIGBTを使用した場合に生じるスイッチングノイズN0と、部分放電信号S0のそれぞれの周波数特性(FFTスペクトル)を測定した結果を示すものである。
【0035】
この図から分かるように、インバータ装置2のスイッチング素子の近年の高速動作化によってスイッチング時間は数十nsecに達するが、その場合に生じるスイッチングノイズN0の周波数帯域は数十MHzまでの帯域である。一方、部分放電信号S0は、部分放電発生箇所の近傍では低周波側から数GHzまでの広帯域の信号成分を有する。したがって、低域遮断周波数が数百MHz以上の高域通過フィルタ7を用いることでスイッチングノイズの影響を有効に除去することができる。ただし、部分放電信号S0は、モータ巻線や給電ケーブル4を伝搬する際にその高周波成分が減衰するため、高域通過フィルタ7の低域遮断周波数が高すぎると十分な信号検出が難しくなる。そのため、この場合の高域通過フィルタ7としては、低域遮断周波数が100MHzから500MHzの範囲のものを使用するのが好適である。
【0036】
こうして高域通過フィルタ7を通過した部分放電信号は、各ピーク検出回路8に入力されるので、各ピーク検出回路8は、図13(c)に示すように、高域通過フィルタ7を通過した各相の部分放電信号の振幅がピークVpとなる時のピーク到達時間tpを検出する。この部分放電信号のピークVpに対応したピーク到達時間tpの検出は、従来技術のように部分放電信号の立ち上がり時間を検出する場合に比べて検出が容易であり、高い検出精度を確保することができる。
【0037】
続いて、演算処理回路9は、同じく図13(c)に示すように、各ピーク検出回路8で各相の部分放電信号の振幅がピークVpとなるときのピーク到達時間tpに基づいて三相モータ3内の部分放電が発生した相を判定する。
【0038】
次に、演算処理回路9において、各相の部分放電信号の到達時間tpに基づいて部分放電の発生相を判定する原理について説明する。なお、ここでは発明の理解を促すため、図3に示すように、三相モータ3のモータ巻線がY結線され、かつ、U,V,W相の各相巻線が2つのコイルで構成されている場合を例にとって説明する。
【0039】
モータ巻線を伝搬する信号の速度は、モータ巻線を構成する各コイルの単位長さ当たりのインダクタンスL(H/m)と、単位長さ当たりの対地容量C(F/m)とによって決定され、伝搬速度νは次式で表される。
ν=1/√(LC) (1)
【0040】
また、1コイル分のコイル長をlとすると、1コイル当たりの伝搬時間tcは、次式で表される。
tc=l/ν (2)
【0041】
いま、例えばU相の電源端子30u側から1番目のコイル31と2番目のコイル32との間で部分放電が発生したと想定すると、部分放電信号は、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30wに向かって各コイルを伝搬する。この場合、図4に示すように、部分放電信号がU相の電源端子30uに到達するのは、1コイル分の伝搬時間(=1×tc)が経過した時点tu(同図(a)参照)であり、また、部分放電信号がV相およびW相の各電源端子30v,30wに到達するのは、3コイル分の伝搬時間(=3×tc)が経過した時点tv,tw(同図(b)、(c)参照)である。したがって、U相の電源端子30vに到達する部分放電信号の到達時間tuは、他のV相、W相の各電源端子30v,30wに到達する部分放電信号の到達時間tv,twに比べて最も早くなる。
【0042】
これは、他相の巻線で部分放電が発生した場合も同様の結果となる。したがって、演算処理回路9において、各相の内で最も早く部分放電信号の到達が観測された相が部分放電の発生相となり、これにより発生相を特定することができる。上記の例では部分放電の発生相はU相となる。
【0043】
次に、演算処理回路9が部分放電信号の到達時間tu,tv,twに基づいて、部分放電が発生した箇所を特定する原理について説明する。
【0044】
上述のように、例えばU相の電源端子30uより1番目のコイル31と2番目のコイル32との間で部分放電が発生したと想定すると、部分放電信号がU相の電源端子30uに到達する時刻tuは、1コイル分の伝搬時間(=1×tc)が経過した時であり、また、部分放電信号がV相、W相の各電源端子30v,30wに到達する時刻tv,twは、3コイル分の伝搬時間(=3×tc)が経過した時である。したがって、演算処理回路9において測定されるU相の部分放電信号とV相、W相の部分放電信号との到達時間差は、2コイル分の伝搬時間(=2×tc)になる。
【0045】
次に、U相の電源端子30u付近で部分放電が発生したと想定すると、U相の電源端子30uに達する部分放電信号の放電発生源からの時間遅れはほとんど無い。これに対して、V相、W相の各電源端子30v,30wに到達する部分放電信号は、U相の2コイル分とV相、W相それぞれの2コイル分を伝搬することになる。したがって、V相、W相の各電源端子30v,30w側の部分放電信号は、放電発生源より4コイル分の伝搬時間がかかることになる。したがって、演算処理回路9において測定されるU相の部分放電信号とV相、W相の部分放電信号との到達時間差は、4コイル分の伝搬時間(=4×tc)になる。
【0046】
以上のことから、U相の電源端子30u側の1番目のコイル31内の任意の箇所で部分放電が発生した場合、U相の部分放電信号とV相、W相の部分放電信号との到達時間差をΔt1(=|tu−tv|=|tu−tw|)とすると、以下の関係式が得られる。
2×tc<Δt1<4×tc (3)
【0047】
次に、中性点30n付近で部分放電が発生したと想定すると、この場合には、U,V,Wの各相それぞれの電源端子30u,30v,30側で測定される部分放電信号には時間遅れがほとんど生じない。このため、U相の部分放電信号と、V相、W相の部分放電信号との到達時間差をΔt2(=|tu−tv|=|tu−tw|)とすると、以下の関係式が得られる。
0<Δt2<2×tc (4)
【0048】
そこで、上記の部分放電の発生箇所を特定する方法を一般化する。ここでは、Y結線された三相モータ3のU,V,W相の各相巻線のコイルが共にn個で構成されているものとし、U相の電源端子30uからk番目のコイルで部分放電が発生したと想定する。
【0049】
このとき、演算処理回路9において測定されるU相の部分放電信号とV相、W相の部分放電信号との到達時間差Δtkは、次の関係式で表せる。
{2×(n−k)}×tc<Δtk<{2×(n−(k−1))}×tc
(5)
【0050】
そして、演算処理回路9は、この(5)式の関係が満たされたときに、U相の電源端子30u側からk番目のコイルで部分放電が発生したと判定する。このことは、他相の巻線内で放電が発生した場合でも同様であるから、上記と同様の考え方で部分放電の発生箇所を特定することができる。
【0051】
図5は、図3に示した構成の三相モータ3(Y結線で各相巻線のコイル数が2個の場合)について、各相巻線のコイル間に模擬放電発生源を接続して部分放電信号を発生させ、その部分放電信号の到達時間の時間差を本発明の部分放電計測装置5を用いて実測した結果を示す特性図である。なお、ここでのモータ巻線の1コイル当たりの部分放電信号の伝搬時間tcは約1.5μsecである。
【0052】
図5において、番号1,5,7のものは、U、V、W相の各電源端子30u,30v,30w付近でそれぞれ部分放電が発生した場合の各相の部分放電信号の到達時間差を示している。例えば、番号1の例では、U相に対するV相、W相の部分放電信号の到達時間差が約6μsecであり、前述したように、4コイル分の伝搬時間の差になっていることが分かる。
【0053】
また、番号2,4,6のものは、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30w側から1コイル目と2コイル目の間で部分放電が発生した場合の各相の部分放電信号の到達時間差を示している。この場合も前述の説明と同様であり、部分放電信号の到達時間差は約3μsecであり、2コイル分の伝搬時間の差になっている。
【0054】
さらに、番号3のものは、中性点30n近傍で部分放電が発生した場合の結果である。中性点30nで発生した部分放電信号は、各相の電源端子30u,30v,30wに到達する時間が理論的には同じになるため、各相で測定される信号の時間差は極めて小さくなる。すなわち、中性点30n近傍で部分放電が生じた場合の到達時間の差はtc=1.5μsec以内となるため、各相の2コイル目の中性点30n寄りの箇所で部分放電が発生していると判定される。
【0055】
以上のように、この実施の形態1では、従来のような部分放電信号の立ち上がり時間を検出するのではなく、測定が容易な各相の部分放電信号の振幅がピークとなるピーク到達時間を測定し、その測定した各相の部分放電信号のピーク到達時間の長短によって部分放電の発生相を判定するので、インバータ駆動時におけるモータ内の各相巻線における部分放電の発生相がどれかを簡単に判定することができる。
【0056】
しかも、各相で検出された部分放電信号の内、最も早く信号が検出された相を基準として他相との信号到達時間の時間差を算出し、この時間差と各相巻線を伝搬する進行波の伝搬時間の関係から部分放電が発生したコイルを特定することができるため、部分放電の発生箇所を従来よりも一層精度良く特定することが可能となる。
【0057】
なお、上記の説明では、各相巻線の1コイル分を伝搬する時間tcを、モータ巻線のインダクタンスLと対地静電容量Cとの関係(前述の(1)、(2)式)から導いたが、これに限らず、例えば、異なる2相間(例えばU相−V相の電源端子間)にパルス波を実際に伝搬させてその時間差を実測し、その時間差とコイル数とから1コイル当たりの伝搬時間tcを算出することも可能である。
【0058】
実施の形態2.
この実施の形態2は、三相モータ3のモータ巻線がデルタ結線されている場合であり、部分放電計測装置5自体の構成は、図1に示した実施の形態1の場合と同様であるため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0059】
次に、演算処理回路9において、三相モータ3の部分放電の発生相を判定する原理について説明する。なお、この実施の形態2ではモータ巻線がデルタ結線されているので、部分放電の発生相とは、部分放電がどの電源端子間で発生したかを意味する。また、発明の理解を促すため、ここでは図6に示すように、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30w間の各巻線が3個のコイルで構成されている場合を例にとって説明する。
【0060】
いま、例えばU相とV相の電源端子30u,30v間に接続された巻線のU相の電源端子30u側から1番目のコイル34と2番目のコイル35との間で部分放電が発生したと想定すると、部分放電信号は、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30wに向かってコイルを伝搬する。この場合、図7に示すように、部分放電信号がU相の電源端子30uに到達するのは、1コイル分の伝搬時間(=1×tc)が経過した時点tu(同図(a)参照)であり、また、部分放電信号がV相の電源端子30vに到達するのは、2コイル分の伝搬時間t(=2×tc)が経過した時点tv(同図(b)参照)である。さらに、部分放電信号がW相の電源端子30wに到達するのは、U相の電源端子30uを経由して4コイル分の伝搬時間(=4×tc)が経過した時点tw1と、V相の電源端子30vを経由して5コイル分の伝搬時間(=5×tc)が経過した時点tw2とがある。
【0061】
したがって、デルタ結線の場合には、演算処理回路9において、U,V,W相の内、部分放電信号の到達時間の早い上位2つの時間tu,tvを採用し、これからU相とV相の電源端子30u,30v間に接続された巻線で部分放電が発生したものと判定する。これは、U相とW相の電源端子30u,30w間や、V相とW相の電源端子30v,30w間で部分放電が発生した場合も同様である。このようにして、部分放電の発生相、すなわち、部分放電はどの電源端子間で発生したかを判定することができる。
【0062】
次に、演算処理回路9において、部分放電が発生した箇所を特定する原理について説明する。
【0063】
図6の構成において、U相の電源端子30uより1番目のコイル34と2番目のコイル35の間で部分放電が発生したと想定すると、上述のように、部分放電信号がU相の電源端子30uに到達する時刻tuは、1コイル分の伝搬時間(=1×tc)が経過した時であり、また、部分放電信号がV相の電源端子30vに到達する時刻tvは、2コイル分の伝搬時間(=2×tc)が経過した時である。部分放電信号がW相の電源端子30wに到達するのは、4コイル分の伝搬時間(=4×tc)が経過した時刻tw1と、5コイル分の伝搬時間(=5×tc)が経過した時刻tw2の2つがある。
【0064】
したがって、デルタ結線の場合、演算処理回路9は、U,V,W相の内、部分放電信号の到達時間の早い上位2つの時間tu,tvを採用し、この二相の時刻tu,tvの到達時間差(=|tu−tv|)を用いて放電発生箇所の特定を行う。
【0065】
上記の部分放電の発生箇所を特定する方法を一般化する。ここでは、デルタ結線された三相モータ3のU,V,W相の各巻線のコイルが共にn個で構成されているものとする。そして、U相とV相の電源端子30u,30v間のU相の電源端子30u側からk番目のコイルで部分放電が発生したと想定する。
【0066】
このとき、演算処理回路9において、U相の電源端子30uを経由して測定される部分放電信号の到達時間が、V相の電源端子30uを経由して検出される部分放電信号の到達時間より早く測定された場合、両者間の部分放電信号の到達時間差Δtkは次の関係式で表せる。
(n−2×k)×tc<Δtk<{n−2×(k−1)}×tc (6)
なお、この(6)式における左辺の値はnとkとの関係により負になる場合があるが、この場合は0と読み替える。
【0067】
そして、演算処理回路9は、U相の電源端子30uを経由して測定される部分放電信号の到達時間が、V相の電源端子30uを経由して検出される部分放電信号の到達時間より早く測定され、かつ、(6)式の関係が満たされたときに、U相とV相の電源端子30u,30v間において、U相の電源端子30u側からk番目のコイルで部分放電が発生したと特定する。このことは、U相とW相の電源端子30u,30w間や、V相とW相の電源端子30v,30w間で部分放電が発生した場合も同様であるから、上記と同様の考え方で部分放電の発生箇所を特定することができる。
【0068】
Δ結線したモータでは、部分放電信号の到達時間差が二相間で同じで、他の一相の信号のみ時間遅れが生じる場合がある。その場合は二相間のコイルの中間部分で部分放電が発生したと判定する。
【0069】
実施の形態3.
図8は本発明の実施の形態3における部分放電計測装置5を設けたインバータ駆動モータシステムの構成図であり、図1に示した実施の形態1と対応する構成部分には同一の符号を付す。
【0070】
この実施の形態3の部分放電計測装置5の特徴は、高域通過フィルタ7の出力側に、各相の部分放電信号のピークの振幅値を検出する振幅値検出手段としての振幅値検出回路11が設けられている。また、演算処理回路9は、この振幅値検出回路11で検出された各振幅値に基づいて部分放電の発生相の判定に加えて、中性点の可否を判定するように構成されている。
その他の構成は実施の形態1の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0071】
三相モータ3内で発生した部分放電信号は、モータ巻線を伝搬するが、高周波領域ではモータ巻線の表皮効果の影響で信号強度が減衰する。部分放電信号の信号強度は、放電発生源からモータ巻線を伝搬する長さが長くなるのに従って指数関数的に減衰する。部分放電信号の電圧をVとすると、次式で定式化される。
V=|A|exp(−αl) (7)
ここに、Aは部分放電信号の放電発生源における振幅最大値、αは減衰定数、lは放電発生源からの部分放電信号が伝搬したモータ巻線の長さである。
【0072】
例えば、図3に示したY結線された三相モータ3において、U相の電源端子30u付近で部分放電が発生したとすると、V相、W相の電源端子30v,30wで測定される部分放電信号の信号強度は、U相、V相の各モータ巻線を伝搬してくるためにU相の電源端子30u側で測定される部分放電信号の信号強度に比べて減衰量が大きい。したがって、振幅値検出回路11において、各相で測定された部分放電信号のピークの振幅値を検出した後、演算処理回路10において各部分放電信号の振幅値を比較すれば、どの相で部分放電が発生したのかを判定することができる。
【0073】
図9は図3に示したY結線された構成の三相モータ3(各相巻線のコイル数が2個の場合)について、各相巻線のコイル間に模擬放電発生源を接続して部分放電信号を発生させ、U,V,Wの各相の電源端子側における部分放電信号のピークの振幅を測定した結果を示す特性図である。
【0074】
図9において、符号1,5,7のものは、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30w付近でそれぞれ部分放電が発生した場合の各相の部分放電信号のピークの振幅(電圧振幅)を示している。これらの結果から分かるように、放電発生源に近い相の電源端子における振幅が最も大きい。
【0075】
また、符号2,4,6のものは、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30w側から1コイル目と2コイル目の間で部分放電を発生した場合の各相の部分放電信号のピークの振幅を示している。この場合も、各電源端子側で部分放電が発生した場合と同様に、放電発生源に近い相の電源端子における振幅が最も大きい。
【0076】
さらに、番号3のものは、中性点30n近傍で部分放電が発生した場合の結果である。この場合は、各相の電源端子30u,30v,30wで検出された部分放電信号のピークの振幅は略同じ値となる。
【0077】
このように、三相モータ3の中性点30n近傍で部分放電が発生した場合、各相の部分放電信号の振幅はほぼ同一の値となるが、それ以外の場合には各相の部分放電信号の振幅値の差が大きくなる。したがって、特に、中性点30n近傍で部分放電が発生したか否かを判定する上で、部分放電信号のピークの振幅を検出することは有効である。
【0078】
以上のように、上記の実施の形態1,2に示した部分放電信号のU,V,W相の各電源端子30u,30v,30w側の到達時間に基づく部分放電の発生相の判定に加えて、この実施の形態3における部分放電信号のピークの振幅値に基づく発生相の判定、および中性点30nの可否判定を行えば、部分放電の発生相の判定がより一層確実なものとなり、これにより、部分放電発生箇所を特定する精度もさらに高めることが可能となる。
【0079】
実施の形態4.
図1に示した実施の形態1の部分放電計測装置では、電流/電圧変換回路6を設けているが、これに代えて、図10に示すように、三相モータ3の各電源端子に接続された給電ケーブル4の各相で生じる電流を検出する高周波用の変流器12(CT)を設け、各変流器12の出力を高域通過フィルタ7に個別に接続した構成とすることもできる。
【0080】
同様に、図8に示した実施の形態3における電流/電圧変換回路6に代えて、図11に示すように、給電ケーブル4の各相で生じる電流を検出する高周波用の変流器(CT)12を設け、各変流器12の出力を高域通過フィルタ7に接続した構成とすることもできる。
【0081】
このように、三相モータ3の電源端子に接続される給電ケーブル4の各相に高周波用の変流器12を用いることにより、給電ケーブル4に対して非接触で、かつ簡単な構成でもって部分放電信号を検出することができる。
その他の構成、および作用効果は、実施の形態1〜3と同様であるからここでは詳しい説明は省略する。
【0082】
なお、以上の各実施の形態1〜4では、いずれも本発明を三相モータ3に適用した場合について説明したが、三相モータ3に限らず、単相、六相、九相等の他多相のモータであっても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態1における部分放電計測装置を設けたインバータ駆動モータシステムの構成図である。
【図2】モータ内部に生じる部分放電信号とインバータ装置のスイッチングノイズとの周波数の関係を示す特性図である。
【図3】三相モータのモータ巻線のY結線図である。
【図4】Y結線されたモータ内に部分放電が生じた場合の各相の電源端子に到達する部分放電信号を示すタイムチャートである。
【図5】部分放電信号の各相間の検出時間差を測定した一例を示す特性図である。
【図6】三相モータのモータ巻線のデルタ結線図である。
【図7】本発明の実施の形態2において、デルタ結線されたモータ内に部分放電が生じた場合の各相の電源端子側に到達する部分放電信号を示すタイムチャートである。
【図8】本発明の実施の形態3における部分放電計測装置を設けたインバータ駆動モータシステムの構成図である。
【図9】各相の電源端子における部分放電信号のピークの振幅を測定した一例を示す特性図である。
【図10】実施の形態1の変形例としての実施の形態4におけるインバータ駆動モータシステムの構成図である。
【図11】実施の形態3の変形例としての実施の形態4におけるインバータ駆動モータシステムの構成図である。
【図12】モータ巻線の高周波特性を考慮した等価回路図である。
【図13】モータ内に生じた部分放電信号がモータ巻線を伝搬する場合の伝搬特性を示す波形図である。
【符号の説明】
【0084】
1 交流電源、2 インバータ装置、3 三相モータ、4 給電ケーブル、
5 部分放電計測装置、6 電流/電圧変換回路、7 高域通過フィルタ(弁別手段)、8 ピーク検出回路、9 演算処理回路(相判定手段、発生箇所特定手段)、
10 結果出力部、11 振幅値検出回路、12 変流器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置により駆動されるモータ内に生じる部分放電の発生相または発生箇所を特定することができる部分放電計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータの速度制御が容易で、省エネルギー化が図れるなどの利点が得られることから、交流電源からインバータ装置を介してモータに電力を供給するインバータ運転が広く採用されている。
【0003】
しかし、このようなインバータ装置を使用する場合、これに起因した急峻なサージ電圧が発生し、このサージ電圧がモータ内に侵入すると、モータ巻線の電圧分布に過渡現象が生じてモータ巻線間に過電圧が加わり、モータ巻線間に部分放電が起こることがある。そして、この部分放電が長期にわたって発生すると、絶縁劣化により最終的に絶縁破壊に至る。したがって、絶縁破壊に至る前に部分放電の発生の有無を検出することが必要となる。このため、従来より、部分放電を検出するための各種の提案がなされている。
【0004】
例えば、従来技術では、モータとインバータ装置とを結ぶ給電ケーブルの途中に過電圧抑制フィルタを設けるとともに、この過電圧抑制フィルタに部分放電を検出する部分放電検出手段を接続し、過電圧抑制フィルタで給電ケーブルに流れる部分放電電流を電圧に変換し、部分放電検出手段でこの部分放電の電圧の極性から、部分放電の発生相を判別するようにしたインバータ駆動モータシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、他の従来技術では、部分放電信号とノイズを含んだ全パルスを検出して、その全パルスをデジタル化して記憶手段に一時保存し、その後、この記憶手段に保存した部分放電信号とノイズの特性量の差異(部分放電信号とノイズの信号伝播特性の差や、信号伝播に基づく周波数特性、振幅値、到達時間の差など)に基づく演算処理を行って、部分放電信号とノイズとを識別し、ノイズ除去後の部分放電信号の測定結果を表示装置に表示するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、他の従来技術では、電機機器巻線の2カ所に部分放電の検出器を設け、これらの検出器で検出された部分放電信号の立ち上がり時間と予め測定した巻線の単位長さ当たりの立ち上がり時間とから部分放電の発生位置を演算したり、あるいは、これらの検出器で検出された各部分放電信号の立ち上がり時間の時間差と予め測定した巻線の単位長さ当たりの信号伝搬時間とから部分放電の発生位置を演算するようにした放電位置測定装置が提供されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
さらに、他の従来技術では、モータ内部に部分放電に起因して発生する電磁波を検出するための検出器を配置し、モータの部分放電による巻線内の容量性電位分布による電磁波信号の到達時間と、部分放電を起こした巻線ターンとその隣の巻線ターンとの電位差により巻線ターン間に発生する進行波信号の到達時間との時間差に基づいて部分放電の発生箇所を同定できるようにした部分放電計測装置が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2003−143862号公報
【特許文献2】特開平11−94897号公報
【特許文献3】特開昭58−15167号公報
【特許文献4】特開2003−107122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1記載の従来技術では、インバータ駆動中に部分放電の発生相を部分放電信号の極性から判別できるものの、モータ巻線のどの位置で部分放電が発生したかまでは特定することができない。
【0010】
また、特許文献2記載の従来技術では、部分放電信号とノイズ信号が混在したアナログデータをデジタル化して演算回路でノイズの分離を行う方法について記載されているものの、部分放電の発生相、発生箇所まで特定する方法を提示するまでには至っていない。
【0011】
特許文献3記載の従来技術では、各検出器で部分放電信号の立ち上がり時間、あるいは、各検出器で検出された各部分放電信号の立ち上がり時間の時間差を検出することにより部分放電の発生位置を演算するようにしているが、電源端子に到達する部分放電信号には、コイル間の浮遊静電容量によって伝搬する信号と、モータ巻線のコイルを順次伝搬する信号とが混在するため、現実的には微少な部分放電信号の立ち上がり時間や時間差を正確に検出することが困難である。
【0012】
この点について、図12および図13を参照してさらに説明する。
図12はモータ巻線の高周波特性を考慮した等価回路図である。モータ巻線は1相当たり複数個のコイル100で構成されており、ここでは、1コイルごとに集中定数回路が順次接続された状態として示している。
【0013】
低周波領域では各コイル100の集中定数回路は、インダクタンスL1とコイル抵抗R1の直列回路となるが、高周波領域ではコイル100の巻始めと巻き終わり間の浮遊静電容量C1およびコイル100とモータの対地間の浮遊静電容量C2,C3を考慮する必要がある。
【0014】
いま、モータ内の任意の箇所で部分放電が発生した場合、この部分放電信号はパルス状の信号となって立ち上がりが急峻であるため、信号周波数が高くて図中のインダクタンスL1は高インピーダンスとなり、浮遊静電容量C1〜C3によるインピーダンスが低くなるため、部分放電信号の立ち上がり付近ではモータ内の回路は浮遊静電容量C1〜C3によって支配される。したがって、図13(a)に示すように、部分放電信号の一部の信号S1は、立ち上がり付近ではコイル100間の浮遊静電容量C1によって電源端子側に到達する。一方、部分放電信号の大部分の信号S2は、図13(b)に示すように、各コイル100のインダクタンスL1とコイル抵抗R1の直列回路を経由して伝搬する進行波として電源端子側に到達する。
【0015】
このように、電源端子に到達する部分放電信号には、各コイル100間の浮遊静電容量C1によって伝搬する信号S1と、各コイル100を進行波として順次伝搬する信号S2とが混在し、電源入力端子側では、図13(c)に示すように両信号S1,S2の波形が互いに重なり合った信号S3となる。このため、微少な部分放電信号の立ち上がりの時間を判別することが困難である。つまり、部分放電信号が図13(b)に示すような波形であれば、立ち上がり時間taを比較的精度良く測定することができるが、実際には図13(c)に示すような波形となるため、部分放電信号の立ち上がりの時間を判別することが困難である。特に、モータの定格容量が小さい場合や、コイル長が短い場合、あるいは部分放電の発生箇所が電源入力端子に近い場合などには、この信号波形の重なり合いが顕著となり、部分放電信号の立ち上がり時間を判別することが困難となり、部分放電の発生位置を特定する際の誤差が大きいという問題がある。
【0016】
また、特許文献4記載の従来技術では、モータの部分放電による巻線内の容量性電位分布による電磁波信号の到達時間と、部分放電を起こした巻線ターンとその隣の巻線ターンとの電位差に基づいて部分放電の発生箇所を特定するようにしているが、数Wから数十W程度の小型のモータでは、モータ内に電磁波検出用の検出器を配置することが困難である。
【0017】
これに対処するため、例えば、電磁波検出用の検出器をモータの外部に配置した場合、部分放電による放電電磁波は1/R3(Rは放電源よりセンサまでの距離)で減衰することや、モータのフレーム、ブラケットなどは金属で構成されているので、電磁波がシールドされた状態となって放電信号が微弱となるため、部分放電の検出感度が低下するという問題がある。
【0018】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、モータがインバータ駆動される際のモータ巻線における部分放電の発生相、または発生箇所を簡単かつ精度良く特定することのできる部分放電計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するために、本発明では、交流電源からインバータ装置を介して電力を授受するモータに発生する部分放電を計測する部分放電計測装置において、次の構成を採用している。
【0020】
すなわち、本発明では、上記インバータ装置と上記モータとの間を接続する給電ケーブルから分岐して上記インバータ装置の駆動に伴って生じるスイッチングノイズと上記モータの部分放電に伴って生じる部分放電信号とを各相で弁別する弁別手段を設けるとともに、この弁別手段で弁別された各相の部分放電信号の振幅がピークとなるピーク到達時間を検出するピーク検出手段と、各相の上記ピーク到達時間の相互の関係に基づいて部分放電の発生した相を判定する相判定手段と、を備えることを特徴としている。
【0021】
特に、上記構成に加えて、相判定手段で判定された部分放電の発生相を基準にして各部分放電信号の各相間の到達時間差Δtkを求め、この到達時間差Δtkと予め算出したモータ巻線の1コイル当たりの部分放電信号の伝搬時間tcとの関係に基づいて、部分放電の発生箇所を特定する発生箇所特定手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来技術のような部分放電信号の立ち上がり時間を検出するのではなく、各相の部分放電信号の振幅がピークとなる時間を測定し、その測定した各相の部分放電信号の到達時間の長短によって部分放電の発生相を判定するので、インバータ駆動時におけるモータ内の各相巻線における部分放電の発生相がどれかを簡単に判定することができる。
【0023】
さらに、上記の発生箇所特定手段を設けた場合には、各相で検出された部分放電信号の内、最も早く信号が検出された相を基準として各部分放電信号の各相間の到達時間差Δtkを求め、この到達時間差Δtkと予め算出したモータ巻線の1コイル当たりの部分放電信号の伝搬時間tcとの関係に基づいて、部分放電が発生した箇所を特定することができるため、部分放電の発生箇所を従来よりも一層精度良く特定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1における部分放電計測装置を設けたインバータ駆動モータシステムの構成図である。
【0025】
図1において、1は商用の三相交流電源、2は三相交流電源1の電圧を所要の周波数の交流電圧に変換するインバータ装置、3は三相交流電源1からインバータ装置2を介して電力を授受する三相モータ、4はインバータ装置2と三相モータ3のU,V,W相の各電源端子との間を接続する給電ケーブルである。この場合の給電ケーブルは、キャプタイヤケーブルのような多芯ケーブルであり、インバータ装置2と三相モータ3のU,V,W相の各電源端子との間を接続する各相に対応した3本の配線が含まれている。そして、この給電ケーブル4の三相モータ3に近接した位置に本発明の部分放電計測装置5が設けられている。なお、これに限らず、三相モータ3の端子に部分放電計測装置5を接続した構成であってもよい。
【0026】
この部分放電計測装置5は、電流/電圧変換回路6、三相分の高域通過フィルタ7、三相分のピーク検出回路8、演算処理回路9、および結果出力部10を備えている。
【0027】
上記の電流/電圧変換回路6は、給電ケーブル4の各相の電流を電圧に変換するもので、各相でコンデンサCと検出抵抗Rとからなる直列回路が給電ケーブル4と対地間に接続されて構成されている。
【0028】
各高域通過フィルタ7は、インバータ装置2のIGBT等の図示しないスイッチング素子の駆動に伴って生じるスイッチングノイズを除いて三相モータ3の部分放電に伴って生じる各相の部分放電信号のみを通過させるもので、特許請求の範囲における弁別手段に対応している。
【0029】
各ピーク検出回路8は、図13(c)に示すように、高域通過フィルタ7を通過した各相の部分放電信号の振幅がピークVpとなるときのピーク到達時間tpを検出するものである。
【0030】
演算処理回路9は、ピーク検出回路8でピークが検出されたときの各相の部分放電信号の到達時間tpの相互の関係に基づいて部分放電が発生した相を判定するとともに、判定された部分放電の発生相を基準にして各部分放電信号の各相間の到達時間差Δtkを求め、この到達時間差Δtkと、予め算出したモータ巻線の1コイル当たりの部分放電信号の伝搬時間tcとの関係に基づいて部分放電の発生箇所を特定する処理を行うもので、例えばマイクロコンピュータやメモリで構成されている。そして、この演算処理回路9が特許請求の範囲における相判定手段および発生箇所特定手段に対応している。
【0031】
結果出力部10は、演算処理回路9の演算結果を出力するもので、例えば、表示器やプリンタで構成される。
【0032】
次に、上記構成を備えた部分放電計測装置5を用いて三相モータ3の部分放電の発生相の判定、および発生箇所を特定する場合の動作について説明する。
【0033】
三相モータ3がインバータ装置2で駆動されている状態で、三相モータ3内部のモータ巻線に部分放電が発生すると、パルス状の部分放電信号が三相モータ3のU,V,W相の各電源端子から給電ケーブル4を経由して電流/電圧変換回路6に伝達される。また、インバータ装置2からはインバータ駆動時のスイッチング素子の動作に伴ってスイッチングノイズが発生し、このスイッチングノイズも給電ケーブル4を経由して電流/電圧変換回路6に伝達される。したがって、電流/電圧変換回路6には、部分放電信号とスイッチングノイズとが共に伝達されて両者が重なり合う。このため、次段の高域通過フィルタ7によってスイッチングノイズを除いて部分放電信号のみを通過させる。
【0034】
図2はインバータ装置2のスイッチング素子としてIGBTを使用した場合に生じるスイッチングノイズN0と、部分放電信号S0のそれぞれの周波数特性(FFTスペクトル)を測定した結果を示すものである。
【0035】
この図から分かるように、インバータ装置2のスイッチング素子の近年の高速動作化によってスイッチング時間は数十nsecに達するが、その場合に生じるスイッチングノイズN0の周波数帯域は数十MHzまでの帯域である。一方、部分放電信号S0は、部分放電発生箇所の近傍では低周波側から数GHzまでの広帯域の信号成分を有する。したがって、低域遮断周波数が数百MHz以上の高域通過フィルタ7を用いることでスイッチングノイズの影響を有効に除去することができる。ただし、部分放電信号S0は、モータ巻線や給電ケーブル4を伝搬する際にその高周波成分が減衰するため、高域通過フィルタ7の低域遮断周波数が高すぎると十分な信号検出が難しくなる。そのため、この場合の高域通過フィルタ7としては、低域遮断周波数が100MHzから500MHzの範囲のものを使用するのが好適である。
【0036】
こうして高域通過フィルタ7を通過した部分放電信号は、各ピーク検出回路8に入力されるので、各ピーク検出回路8は、図13(c)に示すように、高域通過フィルタ7を通過した各相の部分放電信号の振幅がピークVpとなる時のピーク到達時間tpを検出する。この部分放電信号のピークVpに対応したピーク到達時間tpの検出は、従来技術のように部分放電信号の立ち上がり時間を検出する場合に比べて検出が容易であり、高い検出精度を確保することができる。
【0037】
続いて、演算処理回路9は、同じく図13(c)に示すように、各ピーク検出回路8で各相の部分放電信号の振幅がピークVpとなるときのピーク到達時間tpに基づいて三相モータ3内の部分放電が発生した相を判定する。
【0038】
次に、演算処理回路9において、各相の部分放電信号の到達時間tpに基づいて部分放電の発生相を判定する原理について説明する。なお、ここでは発明の理解を促すため、図3に示すように、三相モータ3のモータ巻線がY結線され、かつ、U,V,W相の各相巻線が2つのコイルで構成されている場合を例にとって説明する。
【0039】
モータ巻線を伝搬する信号の速度は、モータ巻線を構成する各コイルの単位長さ当たりのインダクタンスL(H/m)と、単位長さ当たりの対地容量C(F/m)とによって決定され、伝搬速度νは次式で表される。
ν=1/√(LC) (1)
【0040】
また、1コイル分のコイル長をlとすると、1コイル当たりの伝搬時間tcは、次式で表される。
tc=l/ν (2)
【0041】
いま、例えばU相の電源端子30u側から1番目のコイル31と2番目のコイル32との間で部分放電が発生したと想定すると、部分放電信号は、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30wに向かって各コイルを伝搬する。この場合、図4に示すように、部分放電信号がU相の電源端子30uに到達するのは、1コイル分の伝搬時間(=1×tc)が経過した時点tu(同図(a)参照)であり、また、部分放電信号がV相およびW相の各電源端子30v,30wに到達するのは、3コイル分の伝搬時間(=3×tc)が経過した時点tv,tw(同図(b)、(c)参照)である。したがって、U相の電源端子30vに到達する部分放電信号の到達時間tuは、他のV相、W相の各電源端子30v,30wに到達する部分放電信号の到達時間tv,twに比べて最も早くなる。
【0042】
これは、他相の巻線で部分放電が発生した場合も同様の結果となる。したがって、演算処理回路9において、各相の内で最も早く部分放電信号の到達が観測された相が部分放電の発生相となり、これにより発生相を特定することができる。上記の例では部分放電の発生相はU相となる。
【0043】
次に、演算処理回路9が部分放電信号の到達時間tu,tv,twに基づいて、部分放電が発生した箇所を特定する原理について説明する。
【0044】
上述のように、例えばU相の電源端子30uより1番目のコイル31と2番目のコイル32との間で部分放電が発生したと想定すると、部分放電信号がU相の電源端子30uに到達する時刻tuは、1コイル分の伝搬時間(=1×tc)が経過した時であり、また、部分放電信号がV相、W相の各電源端子30v,30wに到達する時刻tv,twは、3コイル分の伝搬時間(=3×tc)が経過した時である。したがって、演算処理回路9において測定されるU相の部分放電信号とV相、W相の部分放電信号との到達時間差は、2コイル分の伝搬時間(=2×tc)になる。
【0045】
次に、U相の電源端子30u付近で部分放電が発生したと想定すると、U相の電源端子30uに達する部分放電信号の放電発生源からの時間遅れはほとんど無い。これに対して、V相、W相の各電源端子30v,30wに到達する部分放電信号は、U相の2コイル分とV相、W相それぞれの2コイル分を伝搬することになる。したがって、V相、W相の各電源端子30v,30w側の部分放電信号は、放電発生源より4コイル分の伝搬時間がかかることになる。したがって、演算処理回路9において測定されるU相の部分放電信号とV相、W相の部分放電信号との到達時間差は、4コイル分の伝搬時間(=4×tc)になる。
【0046】
以上のことから、U相の電源端子30u側の1番目のコイル31内の任意の箇所で部分放電が発生した場合、U相の部分放電信号とV相、W相の部分放電信号との到達時間差をΔt1(=|tu−tv|=|tu−tw|)とすると、以下の関係式が得られる。
2×tc<Δt1<4×tc (3)
【0047】
次に、中性点30n付近で部分放電が発生したと想定すると、この場合には、U,V,Wの各相それぞれの電源端子30u,30v,30側で測定される部分放電信号には時間遅れがほとんど生じない。このため、U相の部分放電信号と、V相、W相の部分放電信号との到達時間差をΔt2(=|tu−tv|=|tu−tw|)とすると、以下の関係式が得られる。
0<Δt2<2×tc (4)
【0048】
そこで、上記の部分放電の発生箇所を特定する方法を一般化する。ここでは、Y結線された三相モータ3のU,V,W相の各相巻線のコイルが共にn個で構成されているものとし、U相の電源端子30uからk番目のコイルで部分放電が発生したと想定する。
【0049】
このとき、演算処理回路9において測定されるU相の部分放電信号とV相、W相の部分放電信号との到達時間差Δtkは、次の関係式で表せる。
{2×(n−k)}×tc<Δtk<{2×(n−(k−1))}×tc
(5)
【0050】
そして、演算処理回路9は、この(5)式の関係が満たされたときに、U相の電源端子30u側からk番目のコイルで部分放電が発生したと判定する。このことは、他相の巻線内で放電が発生した場合でも同様であるから、上記と同様の考え方で部分放電の発生箇所を特定することができる。
【0051】
図5は、図3に示した構成の三相モータ3(Y結線で各相巻線のコイル数が2個の場合)について、各相巻線のコイル間に模擬放電発生源を接続して部分放電信号を発生させ、その部分放電信号の到達時間の時間差を本発明の部分放電計測装置5を用いて実測した結果を示す特性図である。なお、ここでのモータ巻線の1コイル当たりの部分放電信号の伝搬時間tcは約1.5μsecである。
【0052】
図5において、番号1,5,7のものは、U、V、W相の各電源端子30u,30v,30w付近でそれぞれ部分放電が発生した場合の各相の部分放電信号の到達時間差を示している。例えば、番号1の例では、U相に対するV相、W相の部分放電信号の到達時間差が約6μsecであり、前述したように、4コイル分の伝搬時間の差になっていることが分かる。
【0053】
また、番号2,4,6のものは、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30w側から1コイル目と2コイル目の間で部分放電が発生した場合の各相の部分放電信号の到達時間差を示している。この場合も前述の説明と同様であり、部分放電信号の到達時間差は約3μsecであり、2コイル分の伝搬時間の差になっている。
【0054】
さらに、番号3のものは、中性点30n近傍で部分放電が発生した場合の結果である。中性点30nで発生した部分放電信号は、各相の電源端子30u,30v,30wに到達する時間が理論的には同じになるため、各相で測定される信号の時間差は極めて小さくなる。すなわち、中性点30n近傍で部分放電が生じた場合の到達時間の差はtc=1.5μsec以内となるため、各相の2コイル目の中性点30n寄りの箇所で部分放電が発生していると判定される。
【0055】
以上のように、この実施の形態1では、従来のような部分放電信号の立ち上がり時間を検出するのではなく、測定が容易な各相の部分放電信号の振幅がピークとなるピーク到達時間を測定し、その測定した各相の部分放電信号のピーク到達時間の長短によって部分放電の発生相を判定するので、インバータ駆動時におけるモータ内の各相巻線における部分放電の発生相がどれかを簡単に判定することができる。
【0056】
しかも、各相で検出された部分放電信号の内、最も早く信号が検出された相を基準として他相との信号到達時間の時間差を算出し、この時間差と各相巻線を伝搬する進行波の伝搬時間の関係から部分放電が発生したコイルを特定することができるため、部分放電の発生箇所を従来よりも一層精度良く特定することが可能となる。
【0057】
なお、上記の説明では、各相巻線の1コイル分を伝搬する時間tcを、モータ巻線のインダクタンスLと対地静電容量Cとの関係(前述の(1)、(2)式)から導いたが、これに限らず、例えば、異なる2相間(例えばU相−V相の電源端子間)にパルス波を実際に伝搬させてその時間差を実測し、その時間差とコイル数とから1コイル当たりの伝搬時間tcを算出することも可能である。
【0058】
実施の形態2.
この実施の形態2は、三相モータ3のモータ巻線がデルタ結線されている場合であり、部分放電計測装置5自体の構成は、図1に示した実施の形態1の場合と同様であるため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0059】
次に、演算処理回路9において、三相モータ3の部分放電の発生相を判定する原理について説明する。なお、この実施の形態2ではモータ巻線がデルタ結線されているので、部分放電の発生相とは、部分放電がどの電源端子間で発生したかを意味する。また、発明の理解を促すため、ここでは図6に示すように、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30w間の各巻線が3個のコイルで構成されている場合を例にとって説明する。
【0060】
いま、例えばU相とV相の電源端子30u,30v間に接続された巻線のU相の電源端子30u側から1番目のコイル34と2番目のコイル35との間で部分放電が発生したと想定すると、部分放電信号は、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30wに向かってコイルを伝搬する。この場合、図7に示すように、部分放電信号がU相の電源端子30uに到達するのは、1コイル分の伝搬時間(=1×tc)が経過した時点tu(同図(a)参照)であり、また、部分放電信号がV相の電源端子30vに到達するのは、2コイル分の伝搬時間t(=2×tc)が経過した時点tv(同図(b)参照)である。さらに、部分放電信号がW相の電源端子30wに到達するのは、U相の電源端子30uを経由して4コイル分の伝搬時間(=4×tc)が経過した時点tw1と、V相の電源端子30vを経由して5コイル分の伝搬時間(=5×tc)が経過した時点tw2とがある。
【0061】
したがって、デルタ結線の場合には、演算処理回路9において、U,V,W相の内、部分放電信号の到達時間の早い上位2つの時間tu,tvを採用し、これからU相とV相の電源端子30u,30v間に接続された巻線で部分放電が発生したものと判定する。これは、U相とW相の電源端子30u,30w間や、V相とW相の電源端子30v,30w間で部分放電が発生した場合も同様である。このようにして、部分放電の発生相、すなわち、部分放電はどの電源端子間で発生したかを判定することができる。
【0062】
次に、演算処理回路9において、部分放電が発生した箇所を特定する原理について説明する。
【0063】
図6の構成において、U相の電源端子30uより1番目のコイル34と2番目のコイル35の間で部分放電が発生したと想定すると、上述のように、部分放電信号がU相の電源端子30uに到達する時刻tuは、1コイル分の伝搬時間(=1×tc)が経過した時であり、また、部分放電信号がV相の電源端子30vに到達する時刻tvは、2コイル分の伝搬時間(=2×tc)が経過した時である。部分放電信号がW相の電源端子30wに到達するのは、4コイル分の伝搬時間(=4×tc)が経過した時刻tw1と、5コイル分の伝搬時間(=5×tc)が経過した時刻tw2の2つがある。
【0064】
したがって、デルタ結線の場合、演算処理回路9は、U,V,W相の内、部分放電信号の到達時間の早い上位2つの時間tu,tvを採用し、この二相の時刻tu,tvの到達時間差(=|tu−tv|)を用いて放電発生箇所の特定を行う。
【0065】
上記の部分放電の発生箇所を特定する方法を一般化する。ここでは、デルタ結線された三相モータ3のU,V,W相の各巻線のコイルが共にn個で構成されているものとする。そして、U相とV相の電源端子30u,30v間のU相の電源端子30u側からk番目のコイルで部分放電が発生したと想定する。
【0066】
このとき、演算処理回路9において、U相の電源端子30uを経由して測定される部分放電信号の到達時間が、V相の電源端子30uを経由して検出される部分放電信号の到達時間より早く測定された場合、両者間の部分放電信号の到達時間差Δtkは次の関係式で表せる。
(n−2×k)×tc<Δtk<{n−2×(k−1)}×tc (6)
なお、この(6)式における左辺の値はnとkとの関係により負になる場合があるが、この場合は0と読み替える。
【0067】
そして、演算処理回路9は、U相の電源端子30uを経由して測定される部分放電信号の到達時間が、V相の電源端子30uを経由して検出される部分放電信号の到達時間より早く測定され、かつ、(6)式の関係が満たされたときに、U相とV相の電源端子30u,30v間において、U相の電源端子30u側からk番目のコイルで部分放電が発生したと特定する。このことは、U相とW相の電源端子30u,30w間や、V相とW相の電源端子30v,30w間で部分放電が発生した場合も同様であるから、上記と同様の考え方で部分放電の発生箇所を特定することができる。
【0068】
Δ結線したモータでは、部分放電信号の到達時間差が二相間で同じで、他の一相の信号のみ時間遅れが生じる場合がある。その場合は二相間のコイルの中間部分で部分放電が発生したと判定する。
【0069】
実施の形態3.
図8は本発明の実施の形態3における部分放電計測装置5を設けたインバータ駆動モータシステムの構成図であり、図1に示した実施の形態1と対応する構成部分には同一の符号を付す。
【0070】
この実施の形態3の部分放電計測装置5の特徴は、高域通過フィルタ7の出力側に、各相の部分放電信号のピークの振幅値を検出する振幅値検出手段としての振幅値検出回路11が設けられている。また、演算処理回路9は、この振幅値検出回路11で検出された各振幅値に基づいて部分放電の発生相の判定に加えて、中性点の可否を判定するように構成されている。
その他の構成は実施の形態1の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0071】
三相モータ3内で発生した部分放電信号は、モータ巻線を伝搬するが、高周波領域ではモータ巻線の表皮効果の影響で信号強度が減衰する。部分放電信号の信号強度は、放電発生源からモータ巻線を伝搬する長さが長くなるのに従って指数関数的に減衰する。部分放電信号の電圧をVとすると、次式で定式化される。
V=|A|exp(−αl) (7)
ここに、Aは部分放電信号の放電発生源における振幅最大値、αは減衰定数、lは放電発生源からの部分放電信号が伝搬したモータ巻線の長さである。
【0072】
例えば、図3に示したY結線された三相モータ3において、U相の電源端子30u付近で部分放電が発生したとすると、V相、W相の電源端子30v,30wで測定される部分放電信号の信号強度は、U相、V相の各モータ巻線を伝搬してくるためにU相の電源端子30u側で測定される部分放電信号の信号強度に比べて減衰量が大きい。したがって、振幅値検出回路11において、各相で測定された部分放電信号のピークの振幅値を検出した後、演算処理回路10において各部分放電信号の振幅値を比較すれば、どの相で部分放電が発生したのかを判定することができる。
【0073】
図9は図3に示したY結線された構成の三相モータ3(各相巻線のコイル数が2個の場合)について、各相巻線のコイル間に模擬放電発生源を接続して部分放電信号を発生させ、U,V,Wの各相の電源端子側における部分放電信号のピークの振幅を測定した結果を示す特性図である。
【0074】
図9において、符号1,5,7のものは、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30w付近でそれぞれ部分放電が発生した場合の各相の部分放電信号のピークの振幅(電圧振幅)を示している。これらの結果から分かるように、放電発生源に近い相の電源端子における振幅が最も大きい。
【0075】
また、符号2,4,6のものは、U,V,W相の各電源端子30u,30v,30w側から1コイル目と2コイル目の間で部分放電を発生した場合の各相の部分放電信号のピークの振幅を示している。この場合も、各電源端子側で部分放電が発生した場合と同様に、放電発生源に近い相の電源端子における振幅が最も大きい。
【0076】
さらに、番号3のものは、中性点30n近傍で部分放電が発生した場合の結果である。この場合は、各相の電源端子30u,30v,30wで検出された部分放電信号のピークの振幅は略同じ値となる。
【0077】
このように、三相モータ3の中性点30n近傍で部分放電が発生した場合、各相の部分放電信号の振幅はほぼ同一の値となるが、それ以外の場合には各相の部分放電信号の振幅値の差が大きくなる。したがって、特に、中性点30n近傍で部分放電が発生したか否かを判定する上で、部分放電信号のピークの振幅を検出することは有効である。
【0078】
以上のように、上記の実施の形態1,2に示した部分放電信号のU,V,W相の各電源端子30u,30v,30w側の到達時間に基づく部分放電の発生相の判定に加えて、この実施の形態3における部分放電信号のピークの振幅値に基づく発生相の判定、および中性点30nの可否判定を行えば、部分放電の発生相の判定がより一層確実なものとなり、これにより、部分放電発生箇所を特定する精度もさらに高めることが可能となる。
【0079】
実施の形態4.
図1に示した実施の形態1の部分放電計測装置では、電流/電圧変換回路6を設けているが、これに代えて、図10に示すように、三相モータ3の各電源端子に接続された給電ケーブル4の各相で生じる電流を検出する高周波用の変流器12(CT)を設け、各変流器12の出力を高域通過フィルタ7に個別に接続した構成とすることもできる。
【0080】
同様に、図8に示した実施の形態3における電流/電圧変換回路6に代えて、図11に示すように、給電ケーブル4の各相で生じる電流を検出する高周波用の変流器(CT)12を設け、各変流器12の出力を高域通過フィルタ7に接続した構成とすることもできる。
【0081】
このように、三相モータ3の電源端子に接続される給電ケーブル4の各相に高周波用の変流器12を用いることにより、給電ケーブル4に対して非接触で、かつ簡単な構成でもって部分放電信号を検出することができる。
その他の構成、および作用効果は、実施の形態1〜3と同様であるからここでは詳しい説明は省略する。
【0082】
なお、以上の各実施の形態1〜4では、いずれも本発明を三相モータ3に適用した場合について説明したが、三相モータ3に限らず、単相、六相、九相等の他多相のモータであっても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態1における部分放電計測装置を設けたインバータ駆動モータシステムの構成図である。
【図2】モータ内部に生じる部分放電信号とインバータ装置のスイッチングノイズとの周波数の関係を示す特性図である。
【図3】三相モータのモータ巻線のY結線図である。
【図4】Y結線されたモータ内に部分放電が生じた場合の各相の電源端子に到達する部分放電信号を示すタイムチャートである。
【図5】部分放電信号の各相間の検出時間差を測定した一例を示す特性図である。
【図6】三相モータのモータ巻線のデルタ結線図である。
【図7】本発明の実施の形態2において、デルタ結線されたモータ内に部分放電が生じた場合の各相の電源端子側に到達する部分放電信号を示すタイムチャートである。
【図8】本発明の実施の形態3における部分放電計測装置を設けたインバータ駆動モータシステムの構成図である。
【図9】各相の電源端子における部分放電信号のピークの振幅を測定した一例を示す特性図である。
【図10】実施の形態1の変形例としての実施の形態4におけるインバータ駆動モータシステムの構成図である。
【図11】実施の形態3の変形例としての実施の形態4におけるインバータ駆動モータシステムの構成図である。
【図12】モータ巻線の高周波特性を考慮した等価回路図である。
【図13】モータ内に生じた部分放電信号がモータ巻線を伝搬する場合の伝搬特性を示す波形図である。
【符号の説明】
【0084】
1 交流電源、2 インバータ装置、3 三相モータ、4 給電ケーブル、
5 部分放電計測装置、6 電流/電圧変換回路、7 高域通過フィルタ(弁別手段)、8 ピーク検出回路、9 演算処理回路(相判定手段、発生箇所特定手段)、
10 結果出力部、11 振幅値検出回路、12 変流器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源からインバータ装置を介して電力を授受するモータに発生する部分放電を計測する部分放電計測装置において、
上記インバータ装置と上記モータとの間を接続する給電ケーブルから分岐して、上記インバータ装置の駆動に伴って生じるスイッチングノイズと上記モータの部分放電に伴って生じる部分放電信号とを各相で弁別する弁別手段と、
上記弁別手段で弁別された各相の部分放電信号の振幅がピークとなるピーク到達時間を検出するピーク検出手段と、
各相の上記ピーク到達時間の相互の関係に基づいて部分放電の発生した相を判定する相判定手段と、を備えることを特徴とする部分放電計測装置。
【請求項2】
上記相判定手段で判定された部分放電の発生相を基準にして各部分放電信号の各相間のピーク到達時間差Δtkを求め、このピーク到達時間差Δtkと予め算出したモータ巻線の1コイル当たりの部分放電信号の伝搬時間tcとの関係に基づいて、部分放電の発生箇所を特定する発生箇所特定手段を備えることを特徴とする請求項1記載の部分放電計測装置。
【請求項3】
上記弁別手段で弁別された各相の部分放電信号のピークの振幅値を検出する振幅値検出手段を備え、
上記相判定手段は、この振幅値検出手段で検出された各振幅値に基づいて部分放電の発生相の判定のみならず、中性点の可否をも判定するものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の部分放電計測装置。
【請求項4】
上記給電ケーブルと上記弁別手段とは、高周波用の変流器を介して接続されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の部分放電計測装置。
【請求項1】
交流電源からインバータ装置を介して電力を授受するモータに発生する部分放電を計測する部分放電計測装置において、
上記インバータ装置と上記モータとの間を接続する給電ケーブルから分岐して、上記インバータ装置の駆動に伴って生じるスイッチングノイズと上記モータの部分放電に伴って生じる部分放電信号とを各相で弁別する弁別手段と、
上記弁別手段で弁別された各相の部分放電信号の振幅がピークとなるピーク到達時間を検出するピーク検出手段と、
各相の上記ピーク到達時間の相互の関係に基づいて部分放電の発生した相を判定する相判定手段と、を備えることを特徴とする部分放電計測装置。
【請求項2】
上記相判定手段で判定された部分放電の発生相を基準にして各部分放電信号の各相間のピーク到達時間差Δtkを求め、このピーク到達時間差Δtkと予め算出したモータ巻線の1コイル当たりの部分放電信号の伝搬時間tcとの関係に基づいて、部分放電の発生箇所を特定する発生箇所特定手段を備えることを特徴とする請求項1記載の部分放電計測装置。
【請求項3】
上記弁別手段で弁別された各相の部分放電信号のピークの振幅値を検出する振幅値検出手段を備え、
上記相判定手段は、この振幅値検出手段で検出された各振幅値に基づいて部分放電の発生相の判定のみならず、中性点の可否をも判定するものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の部分放電計測装置。
【請求項4】
上記給電ケーブルと上記弁別手段とは、高周波用の変流器を介して接続されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の部分放電計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−209172(P2008−209172A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−44862(P2007−44862)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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