説明

配線回路基板の製造方法

【課題】錫めっき層を正常に形成することが可能な配線回路基板の製造方法を提供する。
【解決手段】ベース絶縁層41上に複数の配線パターンW1およびグランドパターンG1を形成し、その後、配線パターンW1およびグランドパターンG1の表面に無電解錫めっき処理を施す。これにより、配線パターンW1およびグランドパターンG1の表面を覆うように錫めっき層S1,S2が形成される。無電解錫めっき処理には、ホウフッ酸、硫酸、アルカノールスルフォン酸、有機カルボン酸およびフェノールスルフォン酸のうち少なくとも1つ、ならびに銀イオンを含む無電解錫めっき液が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線回路基板の製造方法
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ装置等のドライブ装置に用いられるアクチュエータは、回転軸に回転可能に設けられるアームと、アームに取り付けられる磁気ヘッド用のサスペンション基板とを備える(例えば特許文献1参照)。サスペンション基板は、磁気ディスクの所望のトラックに磁気ヘッドを位置決めするための配線回路基板である。
【0003】
サスペンション基板は、例えばステンレスからなる金属基板を備える。金属基板上にベース絶縁層が形成され、ベース絶縁層上に所定の配線パターンおよびグランドパターンが形成される。グランドパターンは、金属基板に電気的に接続される。
【特許文献1】特開2004−133988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サスペンション基板の製造時には、配線パターンおよびグランドパターンの表面に無電解錫めっき処理が施される。これにより、配線パターンおよびグランドパターンの表面を覆うように錫めっき層が形成される。
【0005】
ところで、配線パターンの表面とグランドパターンの表面とでは、無電解錫めっき処理時における錫の析出状態が異なる。そのため、共通の条件で無電解錫めっき処理を行った場合、配線パターンおよびグランドパターンの一方において、錫めっき層が正常に析出しないことがある。それにより、サスペンション基板の外観不良が発生する。また、配線パターンおよびグランドパターンの寸法精度が低下することもある。
【0006】
本発明の目的は、錫めっき層を正常に形成することが可能な配線回路基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る配線回路基板の製造方法は、金属基板上に絶縁層を形成する工程と、絶縁層上に銅を含む金属材料からなる配線パターンを形成する工程と、金属基板に電気的に接続されるように絶縁層上に銅を含む金属材料からなるグランドパターンを形成する工程と、配線パターンおよびグランドパターンの表面に無電解錫めっき処理を行う工程とを備え、無電解錫めっき処理を行う工程において、ホウフッ酸、硫酸、アルカノールスルフォン酸、有機カルボン酸およびフェノールスルフォン酸のうち少なくとも1つ、錫イオンならびに銀イオンを含む無電解錫めっき液を用いるものである。
【0008】
その製造方法においては、金属基板上に絶縁層が形成され、絶縁層上に銅を含む金属材料からなる配線パターンおよびグランドパターンが形成される。配線パターンは金属基板から絶縁され、グランドパターンは金属基板に電気的に接続される。その状態で、配線パターンおよびグランドパターンの表面に無電解錫めっき処理が施される。
【0009】
無電解錫めっき処理時には、ホウフッ酸、硫酸、アルカノールスルフォン酸、有機カルボン酸およびフェノールスルフォン酸のうち少なくとも1つ、錫イオンならびに銀イオンを含む無電解錫めっき液が用いられる。これにより、配線パターンおよびグランドパターンの表面にほぼ均一に錫を析出させることができる。それにより、配線パターンおよびグランドパターンの両方に良好に錫めっき層を形成することができる。
【0010】
(2)無電錫めっき液中の錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率が0.2%以上1.5%以下であってもよい。
【0011】
この場合、錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率が0.2%以上であることにより、配線パターンおよびグランドパターンの表面に安定に錫を析出させることができる。また、錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率が1.5%以下であることにより、金属基板に銀が析出することを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、配線パターンおよびグランドパターンの表面にほぼ均一に錫を析出させることができる。それにより、配線パターンおよびグランドパターンの両方に良好に錫めっき層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る配線回路基板の製造方法について図面を参照しながら説明する。以下の説明においては、配線回路基板の一例として、HDD(Hard Disk Drive)の磁気ヘッド用のサスペンション基板の製造方法について説明する。
【0014】
(1)製造工程
図1は、サスペンション基板の製造工程を示す縦断面図である。図1(a)に示すように、まず、例えばステンレスからなる金属基板10上に接着剤を用いて例えばポリイミドからなるベース絶縁層41を積層する。
【0015】
金属基板10の厚みは例えば5μm以上50μm以下であり、10μm以上30μm以下であることが好ましい。金属基板10の材料としては、ステンレスに代えてアルミニウム等の他の金属または合金等を用いてもよい。
【0016】
ベース絶縁層41の厚みは例えば1μm以上15μm以下であり、2μm以上12μm以下であることが好ましい。ベース絶縁層41の材料としては、ポリイミドに代えてエポキシ等の他の絶縁材料を用いてもよい。
【0017】
次に、図1(b)に示すように、ベース絶縁層41の所定の部分に、例えばレーザを用いたエッチングまたはウェットエッチングにより貫通孔H11を形成する。
【0018】
次に、図1(c)に示すように、ベース絶縁層41上に複数の配線パターンW1およびグランドパターンG1を形成する。本実施の形態では、配線パターンW1およびグランドパターンG1の材料として、銅が用いられる。配線パターンW1およびグランドパターンG1の材料として、銅に代えて、銅を含む合金等の他の金属材料を用いてもよい。
【0019】
グランドパターンG1は、ベース絶縁層41の貫通孔H11を埋めるように形成される。それにより、グランドパターンG1が金属基板10に電気的に接続される。
【0020】
配線パターンW1およびグランドパターンG1は、例えばセミアディティブ法を用いて形成してもよく、サブトラクティブ法等の他の方法を用いて形成してもよい。
【0021】
配線パターンW1およびグランドパターンG1の厚みは例えば3μm以上16μm以下であり、6μm以上13μm以下であることが好ましい。また、配線パターンW1およびグランドパターンG1の幅は例えば20μm以上200μm以下であり、30μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0022】
次に、図1(d)に示すように、配線パターンW1およびグランドパターンG1の表面に無電解錫めっき処理を施す。これにより、配線パターンW1およびグランドパターンG1の表面を覆うように錫めっき層S1,S2が形成される。錫めっき層S1,S2の厚みは例えば0.15μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0023】
次に、図1(e)に示すように、配線パターンW1およびグランドパターンG1を覆うようにベース絶縁層41上に例えばポリイミドからなるカバー絶縁層42を形成する。配線パターンW1およびグランドパターンG1上におけるカバー絶縁層42の厚みは例えば4μm以上26μm以下であり、5μm以上21μm以下であることが好ましい。カバー絶縁層42の材料としては、ポリイミドに代えてエポキシ等の他の絶縁材料を用いてもよい。
【0024】
このようにして、サスペンション基板1が完成する。
【0025】
(2)無電解錫めっき液
次に、図1(d)の無電解錫めっき処理時に用いる無電解錫めっき液について説明する。
【0026】
本実施の形態では、ホウフッ酸、硫酸、アルカノールスルフォン酸、有機カルボン酸およびフェノールスルフォン酸のうち少なくとも1つ、ならびに銀イオン(Ag)を含む無電解錫めっき液が用いられる。
【0027】
この場合、配線パターンW1とグランドパターンG1とでほぼ均一に錫を析出させることができる。それにより、配線パターンW1およびグランドパターンG1に正常に錫めっき層S1,S2を形成することができる。
【0028】
なお、錫イオン(Sn2+)の濃度に対する銀イオンの濃度の比率は、0.2%以上1.5%以下であることが好ましい。錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率が0.2%より低いと、錫が安定に析出しない場合がある。一方、錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率が1.5%より高いと、金属基板10に銀が析出することがある。
【0029】
したがって、錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率が0.2%以上1.5%以下であることにより、金属基板10に銀が析出することを防止しつつ配線パターンW1およびグランドパターンG1上に安定に錫を析出させることができる。
【0030】
また、無電解錫めっき液は、メタンスルフォン酸錫等の有機酸錫および硫酸錫等の無機酸錫の少なくとも一方から分離した錫イオン(Sn2+)を含む。また、無電解錫めっき液は、チオ尿素、次亜リン酸および界面活性剤を含んでもよい。この場合、チオ尿素は、キレート効果によって配線パターンW1およびグランドパターンG1の銅の電位を卑にする。次亜リン酸は、錫イオンの酸化防止剤として作用する。また、無電解錫めっき液は、ホウフッ酸および硫酸の他の無機酸、ならびにアルカノールスルフォン酸、有機カルボン酸およびフェノールスルフォン酸の他の有機酸を含んでもよい。
【0031】
(3)実施例および比較例
種々の配合の無電解錫めっき液を用いて配線パターンW1およびグランドパターンG1に無電解錫めっき処理を行い、形成された錫めっき層S1,S2の状態を調べた。
【0032】
(3−1)実施例1,2
実施例1,2では、銀イオン、錫イオン、メタンスルフォン酸、チオ尿素、次亜リン酸および界面活性剤を含む無電解錫めっき液を用いた。また、無電解錫めっき液に含まれる錫イオンの濃度を40(g/L)とした。
【0033】
実施例1では、銀イオンの濃度を0.1(g/L)とし、錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率を0.25%とした。実施例2では、銀イオンの濃度を0.4(g/L)とし、錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率を1.0%とした。
【0034】
実施例1,2において形成された錫めっき層S1,S2の状態を図2に示す。
【0035】
(3−2)実施例3,4
実施例3,4では、銀イオン、錫イオン、有機カルボン酸、硫酸、チオ尿素、次亜リン酸および界面活性剤を含む無電解錫めっき液を用いた。また、無電解錫めっき液に含まれる錫イオンの濃度を25(g/L)とした。
【0036】
実施例3では、銀イオンの濃度を0.1(g/L)とし、錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率を0.4%とした。実施例4では、銀イオンの濃度を0.2(g/L)とし、錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率を0.8%とした。
【0037】
実施例3,4において形成された錫めっき層S1,S2の状態を図3に示す。
【0038】
(3−3)実施例5,6
実施例5,6では、銀イオン、錫イオン、メタンスルフォン酸、有機カルボン酸、フェノールスルフォン酸、チオ尿素、次亜リン酸および界面活性剤を含む無電解錫めっき液を用いた。また、無電解錫めっき液に含まれる錫イオンの濃度を12(g/L)とした。
【0039】
実施例5では、銀イオンの濃度を0.1(g/L)とし、錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率を0.83%とした。実施例6では、銀イオンの濃度を0.15(g/L)とし、錫イオンの濃度に対する銀イオンの濃度の比率を1.25%とした。
【0040】
実施例5,6において形成された錫めっき層S1,S2の状態を図4に示す。
【0041】
(3−4)比較例1
比較例1では、銀イオンを含まない点を除いて実施例1,2と同様の無電解錫めっき液を用いた。比較例1において形成された錫めっき層S1,S2の状態を図5に示す。
【0042】
(3−5)比較例2
比較例2では、銀イオンを含まない点を除いて実施例3,4と同様の無電解錫めっき液を用いた。比較例2において形成された錫めっき層S1,S2の状態を図6に示す。
【0043】
(3−6)比較例3
比較例3では、銀イオンを含まない点を除いて実施例5,6と同様の無電解錫めっき液を用いた。比較例3において形成された錫めっき層S1,S2の状態を図7に示す。
【0044】
(3−7)比較例4
比較例4では、比較例1と同様の無電解錫めっき液を用い、その再現性を調べた。比較例4において形成された錫めっき層S1,S2の状態を図8に示す。なお、図8(b)には、錫めっき層S2が拡大して示される。
【0045】
(3−8)評価
図2〜図4に示すように、錫イオンを含む無電解錫めっき液を用いた実施例1〜6では、配線パターンW1上に形成される錫めっき層S1の状態とグランドパターンG1上に形成される錫めっき層S2の状態との差がほとんどなかった。
【0046】
一方、図5〜図8に示すように、銀イオンを含まない無電解錫めっき液を用いた比較例1〜4では、配線パターンW1上に形成される錫めっき層S1の状態とグランドパターンG1上に形成される錫めっき層S2の状態とが異なり、錫めっき層S1,S2の一方に凹凸等の異常が発生した。
【0047】
これにより、ホウフッ酸、硫酸、アルカノールスルフォン酸、有機カルボン酸およびフェノールスルフォン酸のうち少なくとも1つ、ならびに銀イオン(Ag)を含む無電解錫めっき液を用いることにより、配線パターンW1上およびグランドパターンG1上に正常に錫めっき層S1,S2が形成されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、種々の配線回路基板の製造に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】サスペンション基板の製造工程を示す縦断面図である。
【図2】実施例において形成された錫めっき層の状態を示す図である。
【図3】実施例において形成された錫めっき層の状態を示す図である。
【図4】実施例において形成された錫めっき層の状態を示す図である。
【図5】比較例において形成された錫めっき層の状態を示す図である。
【図6】比較例において形成された錫めっき層の状態を示す図である。
【図7】比較例において形成された錫めっき層の状態を示す図である。
【図8】比較例において形成された錫めっき層の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1 サスペンション基板
41 ベース絶縁層
42 カバー絶縁層
G1 グランドパターン
H11 貫通孔
S1,S2 錫めっき層
W1 配線パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板上に絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層上に銅を含む金属材料からなる配線パターンを形成する工程と、
前記金属基板に電気的に接続されるように前記絶縁層上に銅を含む金属材料からなるグランドパターンを形成する工程と、
前記配線パターンおよび前記グランドパターンの表面に無電解錫めっき処理を行う工程とを備え、
前記無電解錫めっき処理を行う工程において、ホウフッ酸、硫酸、アルカノールスルフォン酸、有機カルボン酸およびフェノールスルフォン酸のうち少なくとも1つ、錫イオンならびに銀イオンを含む無電解錫めっき液を用いることを特徴とする配線回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記無電錫めっき液中の前記錫イオンの濃度に対する前記銀イオンの濃度の比率が0.2%以上1.5%以下であることを特徴とする請求項1記載の配線回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−126768(P2010−126768A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302876(P2008−302876)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】