説明

配線基板の製造方法

【課題】高湿高温の環境下で長時間にわたり使用されたとしても水分の滲入による配線導体同士の電気的絶縁性の低下がなく、搭載する電子部品を常に正常に作動させることが可能な信頼性の高い配線基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】耐熱繊維基材に熱硬化性樹脂と架橋材と重合開始剤とから成る未硬化の熱硬化性樹脂組成物を含浸させて成るプリプレグ1Pと金属から成る配線導体3とを交互に複数積重ねて配線基板用の積層体20を形成し、この積層体20を前記熱硬化性樹脂組成物の流動開始温度から前記重合開始剤の10時間半減期温度までの間の温度で所定時間保持した後、次に5〜10MPaの間の圧力を加えながら、積層体20を前記重合開始剤の1分半減期温度以上の温度で硬化させた後、積層体20に0.1〜1MPaの低圧力を加えながら熱硬化性樹脂組成物のガラス転位点以下の温度に冷却して配線基板を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に半導体素子等の電子部品を搭載するための配線基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体素子等の電子部品を搭載するために用いられる配線基板として、ガラスクロス等の耐熱性繊維基材にアリル変性ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させて成る絶縁樹脂層と銅箔等から成る配線導体とを交互に積層するとともに、絶縁樹脂層を挟んで上下に位置する配線導体同士を、絶縁樹脂層に形成された配線接続用の貫通孔内に充填された導体ペーストの硬化物から成る貫通導体により電気的に接続して成る配線基板が知られている。
【0003】
この配線基板は、例えば下記のようにして製造される。まず、耐熱性繊維基材に高分子量の熱硬化性樹脂と架橋材と重合開始剤とから成る未硬化の熱硬化性樹脂組成物を含浸させて成るプリプレグを配線基板の形成に必要な枚数準備するとともに、各プリプレグにおけるそれぞれの所定位置に配線接続用の貫通孔をレーザ加工により形成する。
【0004】
次に、この貫通孔内に金属粉末および前記未硬化の熱硬化性樹脂組成物と反応する硬化剤を含有する導体ペーストをスクリーン印刷で埋め込んで充填する。
【0005】
その一方で、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂から成る転写用基材シートの表面に銅箔から成る配線導体を剥離可能な状態でそれぞれ所定のパターンに形成した転写シートを配線基板の形成に必要な枚数準備する。
【0006】
次に、配線接続用の貫通孔内に導体ペーストが充填された前記プリプレグの各々に、それぞれのプリプレグに対応する転写シートを、所定の配線導体と所定の導体ペーストとが接続するように位置合わせしてプレスすることにより配線導体をプリプレグの表面に埋入させる。
【0007】
次に、配線導体が埋入されたプリプレグの表面から転写用基材シートを剥ぎ取って除去するとともに、配線導体が埋入された各プリプレグを所定の順序で積層して配線基板用の積層体を形成し、これを上下から加圧しながら加熱することにより前記未硬化の熱硬化性樹脂組成物の一部を前記導体ペースト中に滲入させて前記硬化剤と反応させることにより導体ペーストを硬化させるとともにプリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物を硬化させることにより配線基板を得る。
【0008】
なお、このような従来の配線基板の製造方法においては、特許文献1に記載されているように、例えば、プリプレグに含有される熱硬化性樹脂組成物の流動開始温度から重合開始剤の10時間半減期温度までの間の第1の温度で配線基板用の積層体を加熱して熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を5000〜50000Pa・sに上昇させた後、重合開始剤の1分間半減期温度以上の第2の温度で加熱しながら加圧することによりプリプレグおよび導体ペーストを熱硬化する方法が採用されている。
【0009】
この特許文献1に記載された方法によると、配線基板用の積層体をプリプレグに含有される熱硬化性樹脂組成物の流動開始温度から重合開始剤の10時間半減期温度までの間の第1の温度で加熱して熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を5000〜50000Pa・sに上昇させた後、重合開始剤の1分間半減期温度以上の第2の温度で加熱しながら加圧することによりプリプレグおよび導体ペーストを熱硬化することから、プリプレグ中の熱硬化性樹脂組成物はその熱硬化時の最低溶融粘度が5000〜50000Pa・sと高く流動しにくくなるため、プリプレグに埋入された配線導体が大きくずれることがない。したがって、配線導体と貫通導体との位置が合い、両者が正確に接続された配線基板を提供することができる。
【0010】
なお、上述のような配線基板においては、従来、配線基板を構成する絶縁樹脂層の層数が2〜5層程度と比較的少なかったものの、近時においては配線基板の更なる高密度配線化の要求に伴い、配線基板を構成する絶縁樹脂層の層数が従来よりもはるかに多い、8〜12層程度の極めて多層の配線基板が製造されるようになってきている。
【0011】
しかしながら、配線基板を構成する絶縁樹脂層の層数が8〜12層程度と極めて多層の配線基板においては、熱等による応力が加えられると配線基板を構成する絶縁樹脂層において熱硬化性樹脂中にマイクロクラックが発生しやすい傾向があった。このようなマイクロクラックが発生すると、配線基板を高湿高温の環境下で長時間にわたり使用しているとマイクロクラックから外部の水分が滲入し、その水分により内部の配線導体同士の電気的絶縁性が損なわれてしまい、搭載する電子部品を正常に作動させることができなくなる危険性が高くなるという問題点が発生した。
【特許文献1】特開2004−253515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、配線基板を構成する絶縁樹脂層の層数が8〜12層程度と極めて多層の配線基板であっても、熱応力等により絶縁樹脂層にマイクロクラックが発生することがなく、その結果、例え高湿高温の環境下で長時間にわたり使用されたとしても水分の滲入による配線導体同士の電気的絶縁性の低下がなく、搭載する電子部品を常に正常に作動させることが可能な信頼性の高い配線基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者は、種々検討の結果、従来の方法においては、配線基板用の積層体を重合開始剤の1分間半減期温度以上の温度で加熱しながら加圧することによりプリプレグおよび導体ペーストを硬化した後、高い圧力を加えたままで常温まで冷却しており、そのため、硬化後の配線基板の熱収縮が高圧力により抑制されて配線基板の内部に大きな歪が形成され、その歪の影響でマイクロクラックが発生してしまうものと考え本発明を案出するにいたった。
【0014】
本発明の配線基板の製造方法は、耐熱繊維基材に高分子量の熱硬化性樹脂と架橋材と重合開始剤とから成る最低溶融粘度が800〜2000Pa・sである未硬化の熱硬化性樹脂組成物を含浸させて成るプリプレグと金属から成る配線導体とを交互に複数積重ねて積層体を形成するとともに該積層体を上下から加熱および加圧して前記熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させる工程を含む配線基板の製造方法であって、前記熱硬化させる工程は、以下の(1)〜(3)の段階を順次行なうことを特徴とするものである。
(1)前記積層体に0.1〜1MPaの間の低圧力を上下から加えながら該積層体を前記熱硬化性樹脂組成物の流動開始温度から前記重合開始剤の10時間半減期温度までの間の第1の温度に加熱するとともに前記低圧力および第1の温度で所定時間保持して前記熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を5000〜50000Pa・sに上昇させる段階
(2)前記積層体に5〜10MPaの間の高圧力を上下から加えながら、該積層体を前記重合開始剤の1分半減期温度以上の第2の温度に加熱するとともに前記高圧力および第2の温度で所定時間保持して前記熱硬化性樹脂組成物を硬化させる段階
(3)前記積層体に0.1〜1MPaの間の低圧力を上下から加えながら、該積層体を前記第2の温度から前記硬化した熱硬化性樹脂組成物のガラス転位点以下の第3の温度に冷却する段階
【0015】
さらに、本発明の配線基板の製造方法は、前記(1)の段階と前記(2)の段階との間に、前記積層体に0.1〜1MPaの間の低圧力を上下から加えながら該積層体を前記重合開始剤の1時間半減期温度である第4の温度まで加熱するとともに前記低圧力および第4の温度で所定時間保持し前記積層体内の温度を均一化する段階を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の配線基板の製造方法によれば、上記(1)により、積層体を構成する各プリプレグに含有される熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を所定の値に調整した後、(2)により、高圧力を加えながら第2の温度で熱硬化性樹脂組成物を硬化させ、しかる後、(3)により、低圧力を加えながら第2の温度から硬化した熱硬化性樹脂組成物のガラス転位点以下の温度に冷却することから、冷却時における積層体の熱収縮が加圧の圧力により抑制されることはない。したがって、配線基板を構成する絶縁樹脂層の層数が8〜12層程度と極めて多層の配線基板であっても内部に大きな歪が形成されることはなく、その結果、絶縁樹脂層に熱応力等が加えられてもマイクロクラックが発生せず、例え高湿高温の環境下で長時間にわたり使用されたとしても水分の滲入による配線導体同士の電気的絶縁性の低下がなく、搭載する電子部品を常に正常に作動させることが可能な信頼性の高い配線基板を得ることができる。
【0017】
さらに、上記(1)と(2)の間に前記積層体に0.1〜1MPaの間の低圧力を上下から加えながら該積層体を前記重合開始剤の1時間半減期温度である第4の温度まで加熱するとともに前記低圧力および第4の温度で所定時間保持し前記積層体内の温度を均一化する段階を行なうと、この段階において、積層体を構成する各プリプレグに含有される熱硬化性樹脂組成物を均一に溶融軟化した状態とし、各プリプレグの熱硬化性樹脂が一様に溶融軟化した状態で均一に圧力が加えられ、その状態で硬化されるので、全てのプリプレグにおける熱硬化性樹脂組成物が十分に流動して緻密に硬化され、さらに信頼性の高い配線基板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明における配線基板の製造方法の一例について、図面を参照して詳細に説明する。図1〜図8は、本発明の配線基板を製造する方法を示す概略図である。
【0019】
まず、図1に示すように、高分子量の熱硬化性樹脂と架橋剤と重合開始剤とから成り最低溶融粘度が800〜2000Pa・sである熱硬化性樹脂組成物を耐熱性繊維基材に含浸させて成るプリプレグ1Pを配線基板の製造に必要な枚数用意する。
【0020】
このプリプレグ1Pは、ガラスクロスやアラミド繊維等の耐熱性繊維基材にアリル変性ポリフェニレンエーテル樹脂や変性ポリシクロペンタジエン樹脂・変性ポリスチレン樹脂等の高分子量の熱硬化性樹脂およびトリアリルイソシアヌレート等の架橋剤およびパーへキシン25BやパーブチルD・パーブチルP等のジアルキルパーオキサイド類(有機過酸化物)等の重合開始剤から成る熱硬化性樹脂組成物を含浸させて成り、配線基板における絶縁樹脂層となるものである。
【0021】
なお、プリプレグ1Pの熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度が800Pa・s未満であると、後述するように、プリプレグ1Pに配線導体3を転写する際に、熱硬化性樹脂組成物が極めて流動しやすくなるために配線導体3がずれやすくなる。また、2000Pa・sを超えると、プリプレグ1Pに後述する配線導体3を転写する際に、熱硬化性樹脂組成物が流動しにくくなり、そのため配線導体3を埋入し難くなる。従って、プリプレグ1Pの熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度は、800〜2000Pa・sの範囲に特定される。なお、本発明でいう最低溶融粘度とは、熱硬化性樹脂組成物を加熱して熱硬化させる際に熱硬化性樹脂組成物が溶融して粘度が一旦低下した後、粘度が上昇して硬化するまでに達する最低の溶融粘度のことであり、例えば、プリプレグ1Pより熱硬化性樹脂組成物を揉み出すことで分離し、その熱硬化性樹脂組成物を加圧してペレットに成形し、これを一定温度で昇温しながら島津製作所社製の硬化式フローテスターにより、1.0mmのノズルを用いて、圧力が0.5〜5MPaの条件で測定することにより知ることができる。
【0022】
また、プリプレグ1Pの熱硬化性樹脂組成物は配線導体3を転写する際の流動開始温度が80〜100℃の温度範囲であることが好ましい。配線導体3を転写する際の熱硬化性樹脂組成物の流動開始温度が80℃未満であるとプリプレグ1Pに配線導体3を転写する際の溶融粘度が低くなり転写時に配線導体3がずれやすくなる傾向にあり、100℃を超えるとプリプレグ1Pに配線導体3を転写する際の溶融粘度が高く配線導体3をプリプレグ1Pに埋入しにくくなる傾向にある。したがって、配線導体3を転写する際の熱硬化性樹脂組成物の流動開始温度は、80〜100℃の温度範囲が好ましい。なお、流動開始温度とは、厚みが大きさが25×25mmの四角形状にプリプレグ1Pを切取り、それを離型フィルムで挟み、所定温度で10MPaの圧力を印加しながら10分間プレスした時に、切り取ったプリプレグ1Pの上下面の面積の増大が1%を超える時点の温度とした。
【0023】
次に、図2に示すように、各プリプレグ1Pに配線接続用の貫通孔Vを所定の配置で形成する。なお、貫通孔Vの形成には、周知のレーザ加工法を用いればよい。貫通孔Vの直径は30〜200μmの範囲であることが好ましく、直径が30μmより小さいと、後述するように貫通孔V内に導体ペースト2Pを充填する際に、導体ペースト2Pを良好に充填することが困難となる傾向があり、200μmより大きいと高密度配線が困難となる傾向にある。
【0024】
次に、図3に示すように、貫通孔V内に導電性粉末と架橋剤とから成る導体ペースト2Pを充填する。このような導体ペースト2Pとしては、銅や銀等の導電性粉末にトリアリルイソシアヌレート等の液状の架橋剤とを混練したものが好ましく、導体ペースト2Pを熱硬化して成る貫通導体を低抵抗化するという観点からは、金属粉末に少なくとも錫を含む低融点金属を含有させても良い。貫通孔Vへの導体ペースト2Pの充填は、例えばスクリーン印刷法により行なわれる。
【0025】
一方、図4に示すように、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂から成る転写用基材シート10aの表面に銅箔等の金属箔から成る導体層により形成された所定パターンの配線導体3が例えばアクリル系の粘着剤(不図示)を介して剥離可能に貼着された転写シート10を配線基板の製造に必要な枚数準備する。このような転写シート10は、転写用基材シート10aの表面の全面に配線導体3を形成するための銅箔を例えばアクリル樹脂系の粘着剤を介して貼着した後、前記銅箔を周知のフォトリソグラフィー技術を用いて所定のパターンにエッチングすることによって形成される。
【0026】
ついで、図5に示すように、配線接続用の貫通孔V内に導体ペースト2Pが充填されたプリプレグ1Pと、配線導体3が形成された転写シート10とをそれぞれ位置合わせした後、プリプレグ1Pの流動開始温度よりも若干高い温度で加熱しながら上下から加圧して転写シート10上の配線導体3を各プリプレグ1Pの表面に埋入し、その後、図6に示すように、転写用基材シート10aを剥ぎ取って除去することにより配線導体3を各プリプレグ1Pに転写する。
【0027】
このような加熱および加圧は、例えば、熱プレス機を用いて温度が80〜150℃、圧力が0.5〜5MPaの条件で数分間加熱加圧することにより行なわれる。加熱温度が80℃未満であると配線導体3をプリプレグ1Pに充分に埋入できない傾向にあり、150℃を超えると転写された配線導体3の表面に粘着剤に残り配線導体3と貫通導体との間で接続不良が発生する危険性が高くなる。したがって、配線導体3をプリプレグ1Pに埋入させる際の加熱温度は80〜150℃の温度範囲であることが好ましい。
【0028】
そして、最後に図7に示すように、配線導体3が埋入転写されたプリプレグ1Pを所定の順序で重ねて配線基板用の積層体20を形成するとともに、以下に示す(段階1)〜(段階3)の各段階を経ながら加熱および加圧することにより、プリプレグ1Pに含有される熱硬化性樹脂組成物の一部を導体ペースト2P中に滲入させることにより導体ペースト2Pに含有される架橋剤と反応させて導体ペースト2Pを硬化させるとともにプリプレグ1P内の熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させて配線基板を得る。
【0029】
(段階1)
先ず、積層体20に0.1〜1MPaの間の低圧力を上下から加えながら積層体20をプリプレグ1Pに含有される熱硬化性樹脂組成物の流動開始温度から重合開始剤の10時間半減期温度までの間の第1の温度に加熱するとともに前記低圧力および第1の温度で所定時間保持してプリプレグ1Pに含有される熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を5000〜50000Pa・sに上昇させる。
【0030】
なお、このときの加熱温度が熱硬化性樹脂組成物の流動開始温度未満の温度であると、熱硬化性樹脂組成物の重合反応が殆ど進まずに熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を5000〜50000Pa・sの範囲とするのが困難となり、逆に重合開始剤の10時間半減期温度を超える温度であると、重合反応が急激に進みすぎて、やはり熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を5000〜50000Pa・sの範囲とするのが困難となる。したがって、熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を5000〜50000Pa・sの範囲とする際の加熱温度は、熱硬化性樹脂組成物の流動開始温度から重合開始剤の10時間半減期温度までの温度範囲に特定される。
【0031】
また、このとき加える低圧力が0.1MPa未満であると、積層体20を良好に保持することができないとともに積層体20に熱を良好に加えることが困難となり、逆に1MPaを超えると、熱硬化性樹脂組成物が過剰に流動してしまい、配線導体3がずれしてしまう危険性が高くなる。したがって熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を5000〜50000Pa・sの範囲とする際に加える低圧力は0.1〜1MPaの範囲に特定される。
【0032】
このようにプリプレグ1Pに含有される熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を5000〜50000Pa・sに上昇させることにより、後述する(段階2)における熱硬化性樹脂組成物の過剰な流動を抑制して配線導体3のずれを有効に防止するとともに配線基板における絶縁樹脂層間の密着信頼性を十分に確保することが可能となる。
【0033】
なお、この時の熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度が5000Pa・s未満であると、後述する(段階2)において、熱硬化性樹脂組成物が過剰に流動して配線導体3が大きくずれる危険性が高くなり、逆に50000Pa・sを超えると、後述する(段階2)においてに熱硬化性樹脂組成物が十分に流動せずに配線基板における絶縁樹脂層間の密着信頼性が低下してしまう危険がある。したがって、この時の熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度は5000〜50000Pa・sの範囲とすることに特定される。
【0034】
(段階2)
次に、積層体20に5〜10MPaの間の高圧力を上下から加えながら、該積層体20をプリプレグ1Pに含有される重合開始剤の1分半減期温度以上の第2の温度に加熱するとともに前記高圧力および第2の温度で所定時間保持しプリプレグ1Pに含有される熱硬化性樹脂組成物を硬化させるとともに熱硬化性樹脂組成物の一部を導体ペースト2P中に滲入させることにより導体ペースト2Pに含有される重合開始剤と反応させて導体ペースト2Pを硬化させる。
【0035】
なお、このとき加える高圧力が5MPa未満であると、加熱により一旦軟化溶融した熱硬化性樹脂組成物を加圧により十分に流動させることが困難となるので配線基板の絶縁樹脂層間の密着信頼性が低下してしまう危険性が高くなり、逆に10MPaを超えると、圧力により積層体20に変形やクラックが発生する危険性が高くなる。したがって積層体20を硬化させる際に加える高圧力は5〜10MPaの範囲に特定される。
【0036】
また、このときの加熱温度が重合開始剤の1分間半減期温度未満であると、プリプレグ1Pに含有される熱硬化性樹脂組成物の架橋密度を充分にあげることができずに、プリプレグ1Pが硬化して成る絶縁樹脂層の絶縁性を保持できなくなる危険性が高くなる。したがって、プリプレグ1Pを熱硬化させるときの加熱温度は重合開始剤の1分間半減期温度以上の温度に特定される。
【0037】
(段階3)
最後に、積層体20に0.1〜1MPaの間の低圧力を上下から加えながら、前記第2の温度から前記硬化した熱硬化性樹脂組成物のガラス転位点以下の第3の温度に冷却する。このとき、硬化した積層体20には0.1〜1MPaの間の低圧力しか加わっていないので、冷却時における積層体20の熱収縮が加圧の圧力により抑制されることはない。したがって、配線基板を構成する絶縁樹脂層の層数が8〜12層程度と極めて多層の配線基板であっても内部に大きな歪が形成されることはなく、その結果、絶縁樹脂層に熱応力等が加えられてもマイクロクラックが発生せず、例え高湿高温の環境下で長時間にわたり使用されたとしても水分の滲入による配線導体同士の電気的絶縁性の低下がなく、搭載する電子部品を常に正常に作動させることが可能な信頼性の高い配線基板を得ることができる。
【0038】
なお、このとき加える低圧力が0.1MPa未満であると、硬化した積層体20を冷却する段階において、積層体20に撓みや反りが発生する危険性が高くなり、逆に1MPaを超えると、冷却時における積層体20の熱収縮を抑制して配線基板の内部に大きな歪が形成される危険性が高くなる。したがって、積層体20を硬化した熱硬化性樹脂組成物のガラス転位点以下の温度に冷却する際に加える低圧力は0.1〜1MPaの範囲に特定される。
【0039】
かくして本発明の配線基板の製造方法によれば、絶縁樹脂層にマイクロクラックが発生することがなく、例え高湿高温の環境下で長時間にわたり使用されたとしても水分の滲入による配線導体同士の電気的絶縁性の低下がなく、搭載する電子部品を常に正常に作動させることが可能な信頼性の高い配線基板を提供することができる。
【0040】
なお、本発明の配線基板の製造方法は、上述の実施形態例に特定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の変更は可能である。例えば上述の(段階1)と(段階2)との間に、前記積層体20に0.1〜1MPaの間の低圧力を上下から加えながら該積層体20を前記重合開始剤の1時間半減期温度である第4の温度まで加熱するとともに前記低圧力および第4の温度で所定時間保持し積層体20内の温度を均一化する段階を加えてもよい。
【0041】
ここで、重合開始剤の1時間半減期温度は、プリプレグ1Pに含有される熱硬化性樹脂組成物が最低溶融粘度に達する温度に相当し、この時点で積層体20における全てのプリプレグ1Pに含有される熱硬化性樹脂組成物が略一様に軟化溶融した状態となる。なお、本発明における第4の温度は、プリプレグ1Pに含有される重合開始剤の1時間半減期温度に厳密に一致する必要はなく、±5℃程度の誤差は許容される。
【0042】
このように積層体20における全てのプリプレグ1Pに含有される熱硬化性樹脂組成物が略一様に軟化溶融した状態となるので、次の(段階2)において積層体20に5〜10MPaの圧力を加えると、全てのプリプレグ1Pに含有される熱硬化性樹脂組成物が十分に流動してボイドを発生させることなく緻密に硬化して上下の絶縁樹脂層間における密着信頼性に優れた配線基板を得ることが可能となる。
【実施例1】
【0043】
まず、ガラスクロスから成る耐熱性繊維基材にアリル変性ポリフェニレン樹脂が100重量部と、トリアリルイソシアヌレートが20重量部と、パーヘキシン25Bが3重量部とから成る熱硬化性樹脂組成物を含浸させることにより幅が325mm、長さが510mmで厚みが100μmのプリプレグを10枚準備した。この10枚のプリプレグは評価用の試料となる基板の各絶縁樹脂層を形成するためのものであり、45mm角の評価用の基板を5列×8列で縦横に並べた状態で40個同時に形成する領域を有している。また、プリプレグに含有される熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度は1800Pa・sとした。
【0044】
次に、これらのプリプレグの上下面にポリエチレンテレフタレートから成る厚みが12μmの保護フィルムを貼着した後、保護フィルム上から炭酸ガスレーザを照射して保護フィルムおよびプリプレグを貫通する直径が100μmの貫通孔を各評価用の基板となる領域に200μmのピッチで2000個ずつ10枚とも同じ位置に穿孔した。
【0045】
次に、この貫通孔が穿孔された保護フィルム付きのプリプレグ上に銅と低融点金属およびトリアリルイソシアヌレートからなる導体ペーストを供給するとともに保護フィルム上にスキージを摺動させることにより各貫通孔内に前記導体ペーストを摺り込んで充填した後、プリプレグ上から保護フィルムを剥して除去した。
【0046】
一方、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂から成る転写用基材シートの表面に厚みが12μmで直径が140μmの銅箔から成る円形パッドを前記貫通孔に対応する200μmのピッチで剥離可能な状態で被着形成した転写シートを準備した。
【0047】
次に、前記プリプレグ上に、前記転写シートを、前記各貫通孔を前記各円形パッドが覆うように位置合わせして重ね合わせ、これらを熱プレス機を用いて121℃の温度で数分間上下からプレスすることにより互いに圧接して、円形パッドをプリプレグに埋入させ後、転写用基材シートをプリプレグから剥離した。
【0048】
次に、前記円形パッドが埋入された10枚のプリプレグを上下に重ねて評価用の基板となる積層体を形成するとともに、これに上下から0.5MPaの低圧力を加えながら110℃の温度になるまで16分かけて加熱した後、0.5MPaの低圧力および110℃の温度を保ったままで30分間保持した。なお、110℃は本実施例に用いたプリプレグに含有される重合開始剤の10時間半減期温度に相当する温度である。これによりプリプレグに含有される熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度は8000Pa・sに上昇した。
【0049】
次に、前記0.5MPaの低圧力および110℃の温度を保ったままで30分間保持した積層体を、上下から0.5MPaの低圧力を加えながら160℃の温度になるまで10分かけて加熱した後、0.5MPaの低圧力および160℃の温度を保ったままで15分間保持した。なお、160℃は本実施例に用いたプリプレグに含有される重合開始剤の1時間半減期温度に相当する温度である。これにより積層体内の温度が160℃に均一化され、各プリプレグに含有される熱硬化性樹脂組成物が最低溶融粘度となる。
【0050】
次に、積層体を、上下から7.5MPaの高圧力を加えながら240℃の温度になるまで15分間かけて加熱した後、7.5MPaの高圧力および240℃の温度を保ったままで1時間保持した後、加える圧力を0.5MPaの低圧力に下げた状態で240℃の温度を保ったまま2時間保持し、その後、0.5MPaの低圧力を保ったままで常温まで冷却し、これを各評価用の基板となる領域に切断することにより40個の本発明よる評価用の基板を得た。なお、240℃は本実施例に用いたプリプレグに含有される重合開始剤の1分間半減期温度より40℃高い温度であり、この温度で3時間加熱することにより各プリプレグおよび導体ペーストが十分に硬化する。また、硬化した熱硬化性樹脂組成物のガラス転位点は210℃である。
【0051】
[比較例]
上記実施例1と同様にして円形パッドが埋入された10枚のプリプレグを上下に重ねて比較のための基板となる積層体を形成するとともに、これに上下から0.5MPaの低圧力を加えながら110℃の温度になるまで16分かけて加熱した後、0.5MPaの低圧力および110℃の温度を保ったままで30分間保持した。
【0052】
次に、前記0.5MPaの低圧力および110℃の温度を保ったままで30分間保持した積層体を、上下から0.5MPaの低圧力を加えながら160℃の温度になるまで10分かけて加熱した後、0.5MPaの低圧力および160℃の温度を保ったままで15分間保持した。
【0053】
次に、積層体を、上下から7.5MPaの高圧力を加えながら240℃の温度になるまで15分間かけて加熱し、その後7.5MPaの高圧力および240℃の温度を保ったままで3時間保持した後、20分かけて50℃まで冷却し、その時点で積層体に加える圧力を0.1MPaの低圧に下げ、さらに10分かけて常温まで冷却し、これを各評価用の基板となる領域に切断することにより40個の比較のため評価用の基板を得た。
【0054】
次に、本発明による評価用の基板(実施例1)および比較のための評価用の基板(比較例1)のそれぞれについて、260℃の温度のリフロー炉を3回通した後、湿度が85%で温度85℃の高湿高温の雰囲気中に隣接する円形パッド間に5Vのバイアスをかけた状態で1000時間放置した後、各隣接する円形パッド間の絶縁抵抗が1×106MΩ以下になるものを不合格品として判定した。また、判定の終わった評価用の基板(実施例1)および比較のための評価用の基板(比較例1)のそれぞれについて、その断面を倍率20000倍の走査電子顕微鏡写真で観察することによりマイクロクラックの有無を観察した。
【0055】
上記判定の結果、本発明による評価用の基板(実施例1)では40個中、不合格品の発生は0であったのに対して、比較のための評価用の基板(比較例1)では40個中、8個が不合格となった。また、上記観察の結果、比較のための評価用の基板(比較例1)ではマイクロクラックの発生が観察されたが、本発明による評価用の基板(実施例1)ではマイクロクラックの発生は観察されなかった。以上の結果より本発明による評価用の基板は高湿高温の環境下での電気的絶縁信頼性に優れることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態にかかる配線基板の製造方法を説明するための概略図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる配線基板の製造方法を説明するための概略図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる配線基板の製造方法を説明するための概略図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる配線基板の製造方法を説明するための概略図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる配線基板の製造方法を説明するための概略図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる配線基板の製造方法を説明するための概略図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる配線基板の製造方法を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0057】
1P:プリプレグ
2P:導体ペースト
3:配線導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱繊維基材に高分子量の熱硬化性樹脂と架橋材と重合開始剤とから成る最低溶融粘度が800〜2000Pa・sである未硬化の熱硬化性樹脂組成物を含浸させて成るプリプレグと金属から成る配線導体とを交互に複数積重ねて積層体を形成するとともに該積層体を上下から加熱および加圧して前記熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させる工程を含む配線基板の製造方法であって、前記熱硬化させる工程は、以下の(1)〜(3)の段階を順次行なうことを特徴とする配線基板の製造方法。
(1)前記積層体に0.1〜1MPaの間の低圧力を上下から加えながら該積層体を前記熱硬化性樹脂組成物の流動開始温度から前記重合開始剤の10時間半減期温度までの間の第1の温度に加熱するとともに前記低圧力および第1の温度で所定時間保持して前記熱硬化性樹脂組成物の最低溶融粘度を5000〜50000Pa・sに上昇させる段階
(2)前記積層体に5〜10MPaの間の高圧力を上下から加えながら、該積層体を前記重合開始剤の1分半減期温度以上の第2の温度に加熱するとともに前記高圧力および第2の温度で所定時間保持して前記熱硬化性樹脂組成物を硬化させる段階
(3)前記積層体に0.1〜1MPaの間の低圧力を上下から加えながら、該積層体を前記第2の温度から前記硬化した熱硬化性樹脂組成物のガラス転位点以下の第3の温度に冷却する段階
【請求項2】
前記(1)の段階と前記(2)の段階との間に、前記積層体に0.1〜1MPaの間の低圧力を上下から加えながら該積層体を前記重合開始剤の1時間半減期温度である第4の温度まで加熱するとともに前記低圧力および第4の温度で所定時間保持し前記積層体内の温度を均一化する段階を含むことを特徴とする請求項1記載の配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−40592(P2010−40592A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198790(P2008−198790)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(304024898)京セラSLCテクノロジー株式会社 (213)
【Fターム(参考)】