説明

酢酸エスリカルバゼピン及び使用方法

本開示は、情動性障害、分裂情動性障害、双極性障害、注意障害、不安障害、神経障害的疼痛及び神経障害的疼痛関連障害、感覚運動障害、前庭障害、又は消耗性及び虚血後疾患における神経機能変化などの様々な疾病及び状態の酢酸エスリカルバゼピンによる治療に関する。本開示は、また、患者におけるてんかん発作を低減又は減少させるための方法における酢酸エスリカルバゼピンの使用に関する。本開示は、また、患者におけるエスリカルバゼピンへの曝露を増加させるための方法に関する。本開示は、また、酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物を調製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(背景)
本開示は、酢酸エスリカルバゼピンを使用した医薬組成物及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
てんかん、三叉神経痛などの疼痛状態、及び双極性障害などの情動性脳障害は、一般的に、カルバマゼピンで治療される。しかし、カルバマゼピンによる治療は、毒性代謝物質の生成により深刻な副作用をもたらし得る。それらの副作用の重症度を低減するためにオクスカルバゼピンが開発されたが、オクスカルバゼピンは、効力が非常に弱い。例えば、Almeida, L. & Soares-da-Silva, P.の論文「健康な若いヒトにおける上昇複数回投与試験における新規の推定的抗てんかん剤であるBIA 2-093の安全性、耐用性及び薬物動態特性」、J. Clin. Pharmacol., 44, 906-918 (2004)(本明細書では、「Almeida I」と称する)。
したがって、効力が強く、かつ副作用の発生率が低い、例えばてんかん、三叉神経痛及び情動性脳障害などの様々な状態又は疾病を治療するための医薬組成物及び方法が必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、酢酸エスリカルバゼピン及び使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(要旨)
酢酸エスリカルバゼピン、(S)-(-)-10-アセトキシ-10,11-ジヒドロ-5H-ジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド(「BIA 2-093」)は現在開発されている新規の薬物であり、例えばてんかん及び情動性脳障害などの様々な状態、並びに疼痛状態、及び消耗性及び虚血後疾患における神経機能変化の治療に有用である。酢酸エスリカルバゼピンは、カルバマゼピン及びオクスカルバゼピンと化学的に関連しているが、特定の毒性代謝物質(例えばエポキシド等)の生成を回避し、薬理活性を低下させることなく、代謝物質及び複合体の鏡像異性体又はジアステレオ異性体の不必要な生成を回避すると考えられる。Benesらの論文、「新規の10,11-ジヒドロ-5H-ジアベンズ[b,f]アゼピン-5-カルボキサミド誘導体の抗痙攣及びナトリウムチャネル遮断特性」、J. Med. Chem., 42, 2582-2587 (1999)を参照されたい。
【0005】
カルバマゼピン及びオクスカルバゼピンのように、酢酸エスリカルバゼピンは、ナトリウムチャネルの不活性化状態の部位2と競合的に相互作用する電位開口型ナトリウムチャネル(voltage-gated sodium channel)(VGSC)遮断剤であると考えられる。チャネルのこの状態に対する親和性は、カルバマゼピンの親和性に類似しているが、チャネルの静止状態に対する親和性は、カルバマゼピンの親和性約3分の1である。この特性は、正常な活性を示す神経細胞よりも急速発火神経細胞に対する酢酸エスリカルバゼピンの阻害選択性が高いことを示唆するものといえる。例えば、Bonifacioらの論文、「新規の抗痙攣剤BIA 2-093と電位開口型ナトリウムチャネルとの相互作用:カルバマゼピンとの比較」、Epilepsia, 42, 600-608 (2001)を参照されたい。
【0006】
ラット、イヌ、サル及びヒトの肝ミクロソームでのキラル分析による酢酸エスリカルバゼピンの代謝特性の評価は、リカルバゼピンのS(+)鏡像異性体、(S)-(+)-10,11-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-5Hジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド(「エスリカルバゼピン」としても知られている)を与え、かつリカルバゼピン、(R)-(-)-10,11-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-5Hジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド(「R-リカルバゼピン」としても知られている)を与えないことが見いだされた。
【0007】
経口投与後に、酢酸エスリカルバゼピンは、急速且つ大量に代謝されて活性代謝エスリカルバゼピンになり、R-リカルバゼピンになるのは少量であることがヒトにおける試験によって示された。Silveiraらの論文、「健康な高齢の被験者におけるBIA 2-093の薬物動態」、Epilepsia, 45 (suppl. 3), 157 (2004)を参照されたい。例えば、親薬物(酢酸エスリカルバゼピン)の血漿濃度は、検定の定量限界(limit of quantification)(LOQ)(10ng/mL)より低いことが全身にわたって見いだされた。Almeida I; Almeida, L. & Soares-da-Silva, P.の論文、「ヒトに対する最初の投与中における、新規の推定的抗てんかん剤BIA 2-093の安全性、耐用性及び薬物動態特性」、Drugs R&D, 4, 269-284 (2003)(本明細書では、「Almedia II」と称する)を参照されたい。非キラル法が用いられる場合は、エスリカルバゼピンとR-鏡像異性体とが検定により区別されず、混合物は、「BIA 2-005」又は「ラセミ体リカルバゼピン」として報告された。
【0008】
発明人らは、健康な被験者で人体試験を実施し、その結果をともに引用により本明細書に組み込まれているAlmeida I及びAlmeida IIの文献に記載した。これらの試験において、健康な被験者は、酢酸エスリカルバゼピンの単回経口投与物を与えられ、その投与量は、20mgから1200mgの範囲であり(Almeida II参照)、酢酸エスリカルバゼピンの1日の複数回投与量は、200mg(1日2回)から1200mg(1日1回)であった(Almeida I参照)。発明人らによる(まだ公開されていない)さらなる試験では、例えば、2400mg(1日1回)までの範囲の投与量を含む、酢酸エスリカルバゼピンのより多量の投与量について調べた。観察されたBIA 2-005の最大血漿濃度(Cmax)は、投与後約1から約4時間(tmax)で達成され、BIA 2-005への全身曝露の規模は、ほぼ投与量に比例し、BIA 2-005血漿濃度の安定状態は、約4から5日で達成されることがそれらの試験によって示された。血漿からのBIA 2-005の平均腎臓浄化率は、20〜30mL/分であり、尿に回収されたBIA 2-005の全量は、投与後12時間及び24時間以内にそれぞれ約20%及び40%であった。
【0009】
それらの試験により、BIA 2-005の見かけの終端半減期は、約8時間から約17時間の範囲であることも示された。例えば、Almeida IIを参照されたい。
米国特許第6,296,873号には、25時間から85時間の範囲の半減期を有するカルバマゼピンの持続放出送達系が開示されている。悪影響を回避するために、米国特許第6,296,873号には、カルバマゼピンを1日2回以上までで錠剤形態で投与し、化合物を徐々に放出して、濃度値を4〜12μg/mLに維持することが教示されている。当該送達系は、錠剤形態などの、長時間にわたって化合物を送達することが可能である形態を必要とする。
【0010】
本開示の一態様において、発明人らは、1日2回の投与と比較して、1日1回の投与を用いると、様々な状態の治療における酢酸エスリカルバゼピンの効果が高められることを思いがけず発見した。酢酸エスリカルバゼピンの見かけの半減期(t1/2=約8時間から約17時間)は、典型的には1日3〜4回投与される化合物であるカルバマゼピンの半減期(t1/2=25時間から85時間)より有意に短いため、この発見は、特に驚くべきことである。
【0011】
本開示の別の態様において、発明人らは、ヒトにおいて、1日2回の投与と比較して、酢酸エスリカルバゼピンを1日1回投与した後に、エスリカルバゼピンへの曝露が向上することも思いがけず発見した。酢酸エスリカルバゼピンの1日1回の投与は、驚くべきことに、同一薬物投与を1日2回の投与に分割した場合よりもエスリカルバゼピンへの曝露を増加させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書に記載されている試験を含む先述及び以下の態様及び実施態様は、例示のみを意図して説明及び例示されており、範囲を限定するものと見なされるべきではない。
本開示の一態様は、薬理的有効量の酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物を投与することによって、それを必要とする患者における少なくとも1種の疾病又は状態を治療するための方法に関する。
【0013】
本開示の1つの例示的な実施態様において、酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物を、1日1回の投与療法で投与する。
本開示の別の例示的な実施態様において、医薬組成物を、曝露率及び曝露規模(Cmax及びAUC0-τ)で測定される、エスリカルバゼピンへの全曝露を最大にすることを意図する投与量で投与する。
【0014】
本開示の例示的実施態様において、治療される少なくとも1種の疾病又は状態は、例えば、情動性障害、分裂情動性障害、双極性障害、注意障害、不安障害、神経障害的疼痛及び神経障害的疼痛関連障害、感覚運動障害、前庭障害、及び消耗性及び虚血後疾患における神経機能変化から選択され得る。
情動性障害の例としては、鬱病、月経前不快性障害、産後鬱病、更年期鬱病、拒食症、大食症及び神経変成関連鬱症候群が挙げられる。
【0015】
本開示に開示されている方法を用いて、例えば分裂鬱症候群、分裂症、極度精神病状態、分裂躁鬱症候群、不快及び攻撃的挙動、偶発性制御困難又は間欠性爆発性障害、及び境界人格障害などの分裂情動性傷害を治療することができる。
本開示の方法に従って治療できる双極性障害としては、例えば、急速な動揺を伴う双曲性障害及び不安定双曲性障害(急速サイクラー)、躁鬱障害、急性的熱狂、気分的発作、及び躁病及び軽躁病発作が挙げられる。
【0016】
注意障害の例としては、注意欠陥機能亢進障害、及び例えば自閉症などの他の注意障害が挙げられる。
不安障害としては、例えば社会不安障害、外傷後ストレス障害、パニック、強迫性障害、アルコール中毒、薬物禁断症候群及び欲求などの状態を挙げることができる。
本開示の方法に従って治療できる神経障害的疼痛及び神経障害的疼痛関連障害としては、例として:三叉神経性神経痛、ヘルペス性神経痛、ヘルペス後神経痛及び脊髄癆性神経痛を含む神経障害的疼痛及び関連痛覚過敏;糖尿病性神経障害的疼痛;偏頭痛;緊張型頭痛:灼熱痛;及び例えば腕神経叢剥離などの求心路遮断症候群;が挙げられる。
【0017】
感覚運動障害の例としては、不穏下肢症候群、痙攣、片側顔面痙攣、夜間発作性失調症、脳虚血関連運動及び感覚欠乏、パーキンソン病及びパーキンソン病様障害、抗精神病誘発運動欠乏、遅発性ジスキネジア、偶発性夜間遊走及び筋緊張症が挙げられる。
例示的な前庭障害としては、耳鳴、又は例えばニューロン損失、聴力損失、突発的聴覚消失、眩暈及びメニエール病などの他の蝸牛興奮関連疾病が挙げられる。
【0018】
他の例示的な実施態様において、少なくとも1つの疾病又は状態は、てんかん、双極性障害及び三叉神経痛から選択することができる。
当業者であれば、これらの状態は、例示にすぎないことを理解するとともに、開示内容から、他のどのような疾病及び状態が本開示の範囲内にあると考えられるかを理解するであろう。
本開示の別の態様は、酢酸エスリカルバゼピン、及び少なくとも1つの医薬賦形剤、少なくとも1つの補助物質、少なくとも1つの担体材料、又はそれらの組合せを含む医薬組成物に関する。
【0019】
本開示のさらなる態様は、酢酸エスリカルバゼピンと、少なくとも1つの賦形剤、少なくとも1つの補助物質、少なくとも1つの担体材料、又はそれらの組合せとを組み合わせることを含む医薬組成物の調製方法に関する。本発明に有用である好適な賦形剤、担体材料及び他の補助物質は、当業者に知られており、容易に決定される。医薬組成物を調製するための方法も当業者に知られている。
【0020】
本開示の1つの例示的な実施態様において、医薬組成物は、錠剤形態であってもよく、少なくとも1つの賦形剤、補助物質及び/又は担体材料を含んでいてもよい。少なくとも1つの賦形剤、補助物質及び/又は担体材料は、例えば、ポビドン、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、第二リン酸カルシウム二水和物、ラウリル硫酸ナトリウム、香料、及びそれらの組合せから選択してよい。例示的な錠剤は、例えば水及びエタノールなどの顆粒化液体を使用して形成され得る。
【0021】
本開示の別の例示的な実施態様において、医薬組成物は、経口懸濁液の形態であってもよく、少なくとも1つの賦形剤、補助物質及び/又は担体材料を含んでいてもよい。少なくとも1つの賦形剤、補助物質及び/又は担体材料は、例えば、キサンタンガム、ステアリン酸マクロゴール(例えば、UNIQEMA製Myrj 59 P等)、メチルパラベン、プロピルパラベン、サッカリンナトリウム、ソルビトール、緩衝剤、香料、及びそれらの組合せから選択してよい。
【0022】
本開示の別の態様は、薬理的有効量の酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物の投与物を患者に投与することによって、患者におけるてんかん発作の回数、持続時間又は頻度を低減又は減少させるための方法に関する。本開示の1つの例示的な実施態様において、患者におけるてんかん発作を低減するための方法は、薬理的有効量の酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物の1日1回の投与量を投与することを含む。
【0023】
また、本開示は、有効量の酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物を患者に投与して、投与間隔のエスリカルバゼピンの血漿濃度を増加させることによって、患者におけるエスリカルバゼピンへの曝露を増加させるための方法に関する。1つの例示的な実施態様において、日々の投与回数を最小限にする様式で医薬組成物を送達することによって、エスリカルバゼピンへの曝露を増加させることができる。本開示のさらなる例示的な実施態様において、患者におけるエスリカルバゼピンへの曝露を増加させるための方法は、投与間隔の間エスリカルバゼピンの血漿濃度を増加させるのに有効な量の酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物の1日1回の投与量を患者に投与することを含む。
【0024】
本開示のさらなる例示的な実施態様において、医薬組成物の活性成分は、実質的に酢酸エスリカルバゼピンから構成され得る。
本開示のさらなる態様において、酢酸エスリカルバゼピンを、約7400ng/mLを上回るエスリカルバゼピンの最大血漿濃度(Cmax)をもたらす量で患者に投与することができる。他の例示的な実施態様において、酢酸エスリカルバゼピンを、約12000ng/mLを上回る、又は約16100ng/mLを上回るエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で患者に投与することができる。さらなる例示的な実施態様において、酢酸エスリカルバゼピンを、約22700ng/mLを上回る、例えば約36500ng/mLを上回る、約45200ng/mLを上回る、又はそれより大きいエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で患者に投与することができる。
【0025】
さらなる例示的な実施態様において、酢酸エスリカルバゼピンを、58800ng/mL又は67800ng/mLまでのエスリカルバゼピンの最大血漿濃度(Cmax)をもたらす量で患者に投与することができる。さらなる例示的な実施態様において、酢酸エスリカルバゼピンを、885000ng/mL又は1000000ng/mLまでのエスリカルバゼピンの最大血漿濃度(Cmax)をもたらす量で患者に投与することができる。
【0026】
例えば、約7400ng/mLを上回るエスリカルバゼピンの最大血漿濃度(Cmax)をもたらす約400mgの1日1回の投与量を患者に投与することができる。さらなる実施例として、それぞれ約16100ng/mLを上回る、又は22700ng/mLを上回るエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす約800mg又は約1200mgの1日1回の投与量を患者に投与することができる。他の実施例において、それぞれ約36500ng/mL、約45200ng/mLを上回るエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす、約1800mg又は約2400mgなどの1200mgを上回る1日1回の投与量の酢酸エスリカルバゼピンを投与することができる。
【0027】
本開示のさらなる態様において、約110000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンの投与間隔の間、濃度曲線下面積(全身曝露の規模に対応する)(AUC0-τ)をもたらす量の酢酸エスリカルバゼピンを患者に投与することができる。他の例示的な実施態様において、それぞれ約240000ng・h/mLを上回る、又は約375000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量の酢酸エスリカルバゼピンを患者に投与することができる。他の例示的な実施態様において、約595000ng・h/mLを上回る、約790000ng・h/mLを上回る、又はそれより大きいエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量の酢酸エスリカルバゼピンを患者に投与することができる。
【0028】
例えば、約110000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンの投与間隔の濃度曲線下面積(全身曝露の規模に対応する)(AUC0-τ)をもたらす約400mgの1日1回の投与量を投与することができる。他の例示的な実施態様において、それぞれ約240000ng・h/mLを上回る、又は約375000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす約800mg又は約1200mgの1日1回の投与量を投与することができる。他の実施例において、それぞれ約595000ng・h/mLを上回る、約790000ng・h/mLを上回る、又はそれより大きいエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす、約1800mg、約2400mg又はそれを上回る量などの約1200mgを上回る1日1回の投与量の酢酸エスリカルバゼピンを投与することができる。
【0029】
本開示の1つの例示的な実施態様において、1日1回の投与量を、少なくとも約400mgの酢酸エスリカルバゼピンを含む投与物で投与することができる。別の例示的な実施態様において、1日1回の投与量を、約800mgから約1200mgの範囲の量の酢酸エスリカルバゼピンを含む投与物で投与することができる。さらなる例示的な実施態様において、1日1回の投与量を、約1800mg、約2400mg又はそれを上回る量などの約1200mgを上回る量のエスリカルバゼピンを含む投与物で投与することができる。
【0030】
酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物を、当業者に知られている任意の経路で場合によって投与してもよく、及び、例えば、錠剤又は経口懸濁液から選択される形態、又は他の形態であってもよい。
本発明の別の態様によれば、てんかんを治療するための医薬組成物の製造における、少なくとも1つの他の抗てんかん薬と組み合わせた酢酸エスリカルバゼピン又はその塩の使用が提供され、該医薬組成物は1日1回投与用である。少なくとも1つの他の抗てんかん薬の濃度は、酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物の1日1回の投与によって有意に低下する。好ましくは、少なくとも1つの他の抗てんかん薬は、バルプロエート、ラモトリギン、トピラマート、及びそれらの組合せから選択される。
【0031】
本発明の別の態様によれば、約400から1200mgの酢酸エスリカルバゼピンを含み、該投与形態は、1日当たり1200mgまでの最大投与量で、てんかんを除く上記の疾病の治療のための経口投与に好適である医薬単位投与組成物が提供される。
本明細書で使用する「約」という用語は、該用語によって修飾される数字を、特定の用途に求められる所望の特性又は効果に応じて異なり得る近似値と見なしてよいことを意味し、それゆえ、当業者が、所望又は記載の特性又は効果を達成するものと理解し得る範囲を包括するものと見なされるべきである。
【0032】
本明細書に記載されている「治療方法」とは、治療されている疾病又は状態、又はその症状の効果を低減、抑制又は解消するのに有効な任意の量の記載の化合物を患者に投与することを意味する。
本明細書に記載されている「患者におけるエスリカルバゼピンへの曝露を増加させるための方法」とは、患者において投与間隔の間エスリカルバゼピンの血漿濃度を増加させるのに有用な任意の量の記載の化合物を患者に投与することを意味する。これは、例えば、1日2回の投与と比較した1日1回の投与による増加であってもよい。
【0033】
本明細書に記載されている「患者におけるてんかん発作の低減」とは、治療されていない患者が経験するてんかん発作の回数、持続時間又は頻度と比較して、患者におけるてんかん発作の回数、持続時間又は頻度のあらゆる減少を意味する。
本明細書に記載されている医薬組成物の中の酢酸エスリカルバゼピンの「薬理的有効量」とは、所望の薬理活性を有するのに十分な任意の量をいう。
本明細書に記載されているすべての有効量は、例えば、治療されている状態、及び治療されている患者の生理特性などの良く知られ、かつ理解されている様々な要因に応じて異なる。よって、有効量は、当業者の決定能力の範囲内に十分におさまる。
【0034】
(試験材料及び方法)
本開示の一実施例として、それを必要とする患者においててんかんを治療するための酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物の有効量の決定及び投与を以下に実証する。他の疾病及び/又は状態を治療するための医薬組成物の有効量は、本明細書に記載されている技術及び概念並びに当該技術分野で知られている技術及び概念に基づいて当業者が決定することができる。
【0035】
ヒトにおける酢酸エスリカルバゼピンの効果を、少なくとも以下の臨床試験で調査した。第1の試験、すなわちプラセボ対照治療探査試験では、1日1回投与及び1日2回投与を、標準的な抗てんかん薬療法では治りにくいてんかん患者において比較した。第2の試験では、健康な被験者に、900mgの酢酸エスリカルバゼピンの1日1回(o.d.)の経口投与量又は450mgの酢酸エスリカルバゼピンの1日2回(b.i.d.)の投与量を与えた。第3の試験では、健康な被験者に、20mgから2400mgの範囲の酢酸エスリカルバゼピンの経口単回投与量、及び400から2400mgの範囲の酢酸エスリカルバゼピンの1日1回(o.d.)の経口投与量を繰返し与えた。
錠剤及び経口懸濁液の生物学的同等性を、相対的な生物学的利用能試験で証明した。
【0036】
(てんかん患者における試験)
この臨床試験は、クロアチア、チェコ共和国、ドイツ、リトアニア及びポーランドの20のセンターで実施された二重盲検無作為プラセボ対照試験である。その試験の正規の目的は、難治性部分てんかん患者において、補助療法としてのBIA 2-093の効果及び安全性を評価することであった。1種又は2種の抗てんかん薬(antiepileptic drug)(AED)(例えば、フェニトイン、バルプロエート、プリミドン、フェノバルビタール、ラモトリギン、ガバペンチン、トピラマート又はクロナゼパン)による治療にかかわらず1カ月当たり少なくとも4回の部分発症発作を起こす18〜65歳の合計で143人の患者を、12週間(+1週間の漸減期間):プラセボによる治療(n=47);1日1回のBIA 2-093(n=50);又は1日2回のBIA 2-093(n=46);の3つの群の1つに無作為に割り当てた。最初の4週間では、日用量は、400mgであった。次いで、日用量を800mg(5〜8週間)、そして最終的には1200mg(9〜12週間)まで増加させた。200mg、400mg及び600mgの酢酸エスリカルバゼピンの強度の錠剤及びプラセボ錠剤は、適正製造基準に従ってBIAL(S. Mamede do Coronado(ポルトガル))によって製造された。本明細書に記載されているように、BIA 2-005の濃度を測定するための血漿検定を、単一四重極質量分析検出(mass spectrometric detection)(MS)を備えた定組成液体クロマトグラフィー(liquid chromatography)(LC)を用いた非キラル法により実施した。例えば、Almeida I及びAlmeida IIを参照されたい。
【0037】
(健康なヒトボランティアにおける試験)
試験A
このヒト薬理試験は、健康な被験者における酢酸エスリカルバゼピンの1日1回及び1日2回の投与計画の定常状態薬物動態を調べるための試験であった。その試験は、10〜15日の休薬期間によって分断された2×8日間の治療期間からなる、健康な12人のボランティア(男性6人及び女性6人)での単一施設非盲検無作為二方向交差試験であった。各々の治療期間において、ボランティアに、1日1回(o.d.)の酢酸エスリカルバゼピン900mg、又は1日2回(b.i.d.)の酢酸エスリカルバゼピン450mgの経口日用量を投与した。適正製造基準に従ってBIAL(S. Mamede do Coronado(ポルトガル))が製造した450mgの酢酸エスリカルバゼピンの強度の錠剤を使用した。
【0038】
薬物血漿検定のための血液試料を以下の時間に採取した。
段階A:
投与前、及び投与後0.5、1、1.5、2、3、4、6、8、12、24、36、48、72及び96時間;
段階B:
5日目以降11日目まで:毎日投与前(トラフ濃度検定について);
12日目:投与前、及び投与後0.5、1、1.5、2、3、4、6、8、12、24、36、48、72、96及び120時間。
【0039】
血液試料を、直接静脈穿刺又は静脈内カテーテルによってリチウムヘパリン管に導入し、4℃で10分間にわたって約1500gで遠心分離した。得られた血漿を1mLの2つの等量の一定分量に分割し、分析に必要とされるまで-20℃で保管した。
単一四重極質量分析検出(MS)を備えた定組成液体クロマトグラフィー(LC)を用いて、酢酸エスリカルバゼピン、エスリカルバゼピン及びR-リカルバゼピンの血漿濃度を測定した。
【0040】
本方法は、約0.5μg/mLの10,11-ジヒドロカルバマゼピン(アセトニトリル:水3:97(v:v)で調製した内部標準) 500μLを、ポリプロピレン管中の(分析に先立って1800rpmで遠心分離された)250μLの血漿に添加することを必要とした。ボルテックスで10秒間混合した後、混合物を Schleicher & Schuell 社のC18/100mgの96ウェル固相抽出プレートに移した。全試料体積の適用に先立って、各ウェルを800μLのメタノールで前調整した後、800μLのアセトニトリル及びアセトニトリル:水(3:97(v:v))で前調整した。次いで、各ポリプロピレン管を、500μLのアセトニトリル:水(3:97(v:v))で洗浄し、洗浄物をそれぞれのウェルに移した。化合物を、750μLのアセトニトリルを用いて回収プレートに溶出させ、抽出物を無酸素窒素下で40℃にて蒸発乾固させた。Tomtec QUADRA 96(登録商標)モデル320システムを使用してすべての固相抽出操作を実施し、各溶出工程で真空を適用した。最終抽出物を100μLの水:メタノール(90:10(v:v))で復元し、混合した。次いで、分析に先立って、回収プレートを約3000rpmで(約4℃にて約10分間)遠心分離した。最終抽出物の一定分量(10μL)をLC-MSシステムに注入した。
【0041】
分析に使用したLC-MSシステムは、Perkin Elmerシリーズ200マイクロポンプ、Perkin Elmerシリーズ200自動試料採取器、及びTurbo IonSpray(登録商標)源が装着されたPerkin Elmer/Sciex API 150EX単一四十極質量分析計から構成されていた。LichroCART 250-4 ChiraDexカラム(β-シクロデキストリン(5μm))、LichroCART 4-4 ChiraDexカラムガードカラム(β-シクロデキストリン(5μm))、50℃のジョーンズクロマトグラフィー7971カラム加熱器、移動相A(0.2mM酢酸ナトリウム、水)及び移動相B(0.2mM酢酸ナトリウム、MeOH)を使用して分離を達成した。MS検出器を正イオンモードで操作し、BIA 2-093、エスリカルバゼピン、R-リカルバゼピン及び内部標準に対する質量遷移は、それぞれ319.16amu(200ms)、277.08amu(200ms)、277.08amu(200ms)及び261.05amu(200ms)であった。検定の定量限界は、酢酸エスリカルバゼピンについては10ng/mLであり、エスリカルバゼピン及びR-リカルバゼピンについては100ng/mLであった。
【0042】
酢酸エスリカルバゼピン、(S)-(-)-10-アセトキシ-10,11-ジヒドロ-5Hジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミド;エスリカルバゼピン、(S)-(+)-10,11-ジヒドロ-10-ヒドロキシ-5Hジベンズ/b,f/アゼピン-5-カルボキサミドが、BIAL化学研究所において、99.5%を上回る純度で合成された。内部標準、すなわち10,11-ジヒドロカルバマゼピンは、Sigma-Aldrich(MO(ミズーリ)州St. Louis)によって供給された。
【0043】
WinNonlin(バージョン4.0、Pharsight 社(California(カリフォルニア)州Mountain View))を用いて、薬理学的パラメータを非区画分析から導いた。個々の血漿濃度−時間特性から以下のパラメータを適宜導いた:Cmaxの発生の最大観察血漿濃度(Cmax)時間(tmax);時間0から、濃度が、直線台形公式で計算された定量限界(AUC0-τ)以上になる最終試料採取時間までの血漿濃度対時間曲線下面積(area under the plasma concentration versus time curve)(AUC);投与間隔、すなわちそれぞれ1日1回及び1日2回の群における24時間及び12時間のAUC(AUCτ);AUC0-τ+(Clastz)(Clastは、最終定量可能濃度である)から計算される時間0から無限までのAUC(AUC0-∞);血漿濃度対時間曲線の終端部分の対数直線回帰によって計算される見かけの終端速度定数(λz);ln 2/λzから計算される見かけの終端半減期(t1/2)。
【0044】
薬理学的分析に実際の試料採取時間を用いた。
AUCを無限に外挿する場合は、外挿面積の全面積に対する比率を評価した。20%を上回る場合は、AUC値を信頼性がないものと見なした。いずれの計算においても検定の定量限界を下回る(below the limit of quantification)(BLQ)血漿濃度を0とした。計算はすべて生データを用いて行った。tmaxの値を公称時間として表示した。
【0045】
幾何平均、算術平均、標準偏差(standard deviation)(SD)、変動係数(coefficient of variation)(CV)、中央値、最小値及び最大値を用いて、各群及び試料採取時間スケジュールに対する統計概要を適宜報告した。単回投与及び複数回投与データに関する高齢者群と若年者群との比較は、対数変換Cmax、AUCt及びAUC0-∞パラメータの分散分析(analysis of variance)(一元配置ANOVA)に基づいた。年齢群間のtmax比較は、ウィルコクソン符号付順位検定を用いた非パラメータ手法を想定して実施した。また、線形目盛上の比率の形をとる年齢群間の対数変換パラメータ(Cmax、AUCt及びAUC0-∞)の差及びそれらに対応づけられた95%信頼区間(condifence interval)(95%Cl)を推定した。年齢群間のtmaxの中央値及び差、及び95%Clを報告した。すべての有意な試験をp=0.05レベルで実施した。統計パッケージSAS(バージョン8.2、SAS Institute Inc,(NC(ノースカロライナ)州Cary))を使用した。
【0046】
試験B
このヒト薬理試験は、単回及び繰返し投与後の酢酸エスリカルバゼピンの薬物動態を測定するための試験であった。
本試験では、3つの二重盲検無作為プラセボ対照試験の結果を統合した。単回投与の後の酢酸エスリカルバゼピンの薬物動態を測定するために、20mgから2400mgの範囲の酢酸エスリカルバゼピンの経口単回投与量を健康な若年男性被験者に投与した(1投与当たり6人の被験者)。8日間の期間にわたって、400mgから2400mgの範囲の酢酸エスリカルバゼピンの繰返し経口投与量を健康な若年男性被験者に投与する(1投与当たり6人の被験者)ことによって、繰返し投与後の酢酸エスリカルバゼピンの薬物動態を測定した。分析試験方法及び実験手順は、上記の試験Aについて説明したものと同様であった。
【0047】
(試験結果)
(てんかん患者における試験)
ベースライン特性
ベースラインでは、治療群は、年齢、身長、体重及び体重指数に関して類似していた。143人の患者すべてがカフカス人であった。性別に関しては、女性は、1日1回の群(56.0%)プラセボ群(57.4%)よりも1日2回の群(65.2%)の方が比較的多かった。この差は、結果にほとんど影響しなかった。使用されたAEDの数に有意な差はなかった。1日1回、1日2回及びプラセボ群における患者のそれぞれ30.0%、34.8%及び29.8%を1つのAEDで治療した。残りの患者を2つのAEDで治療した。最も高頻度に使用された併用AEDは、バルプロ酸(1日1回、1日2回及びプラセボ群における患者のそれぞれ68.0%、60.9%及び66.0%)、トピラマート(それぞれ36.0%、34.8%及び21.3%)及びラモトリギン(それぞれ30.0%、28.3%及び31.9%)であった。
【0048】
ベースラインでは、てんかんの平均持続時間は、それぞれ1日1回の群、1日2回の群及びプラセボ群において16.7、19.5及び20.0年間であった。発作型頻度に関しては、単純部分発作IA、複雑部分発作IB、及び二次的に全身性に進展する部分発作ICが、それぞれ、1日1回の群の34.0%、72.0%及び80.0%に、1日2回の群の37.0%、71.7%及び80.4%に、プラセボ群の27.7%、80.9%及び72.3%で存在した。本試験前における1カ月当たりの発作の全回数の平均は、それぞれ1日1回の群、1日2回の群及びプラセボ群において14.1、13.6及び11.8であった。
【0049】
効果結果
治療予定(intention-to-treat)(ITT)集団(n=143)において、ベースライン期間と比較して治療期間における発作頻度が50%以上減少した患者の割合を一次的効果終点とした。1200mg/日(9〜12週間)の投与量では、1日1回の群における応答者の割合(54%)は、プラセボ群(28%)より有意に高かった(p=0.008)。1日1回の群における応答者の割合(54%)は、1日2回の群(41%)よりも高かった。800mg/日の投与量では、1日1回の群における応答者の割合(58%)は、1日2回の群(33%)及びプラセボ群(38%)より有意に高かった(p<0.05)。この投与量では、1日2回の群とプラセボ群の間に有意な差が見いだされなかった。
【0050】
二次的終点は、全体的な発作頻度の減少、発作のない患者の割合、応答者の分布、1日1回療法と2回療法との比較、及び調査者及び患者の全体的評価を含む。
発作の回数の最大の減少は、1200mg及び800mgの1日1回の投与量で達成され、1日1回の群の結果は、1日2回の群において得られた結果より良好であった(図1)。いずれの投与量(400mg、800mg及び1200mg)についても、1日1回の投与量の酢酸エスリカルバゼピンが与えられた患者は、1日2回及びプラセボ群における患者と比較して、発作の回数の減少が実質的に大きかった。
【0051】
1200mg及び800mgの1日1回の投与量の酢酸エスリカルバゼピンが与えられた患者における発作の回数は、それぞれ59.5%及び55.8%減少した。それに対して、1200mg及び800mgの1日2回の投与量が与えられた患者における発作は、それぞれ45.7%及び38.1%減少した。400mgの1日1回の投与量の酢酸エスリカルバゼピンが与えられた患者は、発作の回数が38.9%減少し、400mgの1日2回の投与量の酢酸エスリカルバゼピンが与えられた患者において観察された発作の減少(20.2%)のほぼ2倍であった。
【0052】
12週間の治療段階の最後に、1日1回投与群における患者の27.9%が、発作を起こさなくなった。
また、調査者による効果の評価(CGI−臨床総合所見(clinical Global Impression))及び患者による受容性の評価は、1日1回の群で最良であった。
【0053】
薬物動態結果
BIA 2-005及び併用AEDの「トラフ」(投与前)レベルに対する血漿/血清試料を、V5(試験後巡回)を除くすべての巡回時に回収した。目的は、併用AED(例えば、フェニトイン、バルプロエート、プリミドン、フェノバルビタール、ラモトリギン、ガバペンチン、トピラマート及びクロナゼパン)の薬物動態挙動における酢酸エスリカルバゼピンの影響を特徴づけることであった。BIA 2-005の平均トラフ血漿濃度を表1に示す。図2に示されるように、1日1回の群と1日2回との群の間に、BIA 2-005トラフ(投与前)値の有意な差は見いだされなかった。
【0054】
【表1】

結果を、対応する標準偏差(sd)(括弧内)とともに算術平均として記載した。
【0055】
フェニトイン、プリミドン、フェノバルビタール、ガバペンチン及びクロナゼパンを投与された比較的少数の患者については、これらの併用AEDの薬物動態挙動における酢酸エスリカルバゼピンの究極的な効果の適切な特徴付けを除外した。バルプロエート、ラモトリギン及びトピラマートについても、患者の数は少なかったが、これらの併用AEDのトラフ血液値における酢酸エスリカルバゼピンの効果の探索的分析を実施した。1日1回(7.0%;95%IC:-7.6、36.2)又は1日2回(6.3%;95%IC:-7.5、20.1)の酢酸エスリカルバゼピンの同時投与では、バルプロエートの平均トラフ血清濃度は有意に変化しなかった。プラセボ群において、バルプロエートの血清値の有意な増加が認められた(25.4%;95%IC:5.1、45.8)。ラモトリギンに関しては、1日1回(-10.0%;95%IC:-46.2、26.2)の酢酸エスリカルバゼピン又はプラセボ(12.6%;95%IC:-12.6、37.8)を療法に加えた場合でも、その血清値は、有意に変化しなかった。1日2回の酢酸エスリカルバゼピンを用いた場合、ラモトリギンの血清値が有意に減少した(-46.7%;95%IC:-69.7;-23.8)。トピラマートに関しては、1日1回の酢酸エスリカルバゼピン(-15.2%;95%IC:-34.8、4.4)を療法に加えた場合でも、その血清値は、有意に変化しなかった。1日2回の酢酸エスリカルバゼピンを用いた場合、トピラマートの血清値が有意に減少した(-32.4%;95%IC:-49.5;-15.3)。血清値の変化が有意であるかどうかを当業者なら把握するであろう。
【0056】
(健康なヒトボランティアにおける試験)
試験A
薬物動態結果
酢酸エスリカルバゼピンは、大量に代謝されてエスリカルバゼピンになり、R-リカルバゼピンになるのは少量であることが示された。定常状態のエスリカルバゼピン血漿濃度は、両方の群での投与の4日目から5日目で達成された。
【0057】
最後の投与後、1日1回の群において、エスリカルバゼピン及びR-リカルバゼピンの平均Cmaxは、それぞれ22210ng/mL及び674ng/mLであり、かつそれぞれ投与後2.45時間及び9.42時間(tmax中間値)で達成された。エスリカルバゼピン及びR-リカルバゼピンの平均AUC0-tは、それぞれ381601ng・h/mL及び19600ng・h/mLであった。1日2回の群において、エスリカルバゼピン及びR-リカルバゼピンの平均Cmaxは、それぞれ16667ng/mL及び718ng/mLであり、それぞれ投与後2.09時間及び6.40時間(tmax中間値)で達成された。エスリカルバゼピン及びR-リカルバゼピンの平均AUC0-tは、それぞれ283014ng・h/mL及び19661ng・h/mLであった。8日間の酢酸エスリカルバゼピンの複数回投与の後に、エスリカルバゼピンは、それぞれ1日1回及び1日2回の被験者において(AUC0-24で評価された)全体的な全身薬物曝露の約95%及び96%を占める主たる代謝物質であることが示された。表2及び表3は、酢酸エスリカルバゼピンの最後の投与後、1日1回及び1日2回の群におけるエスリカルバゼピン及びR-リカルバゼピンの薬物動態パラメータを示す。1日1回の群における健康なボランティアのエスリカルバゼピンへの全体曝露は、思いがけず、1日2回の群より少なくとも26%高かった。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
試験B
薬物動態結果
試験Aに記載のように、酢酸エスリカルバゼピンは、大量に代謝されてエスリカルバゼピンになり、R-リカルバゼピンになるのは少量であった。定常状態のエスリカルバゼピン血漿濃度は、1日1回の投与の4日目から5日目で達成された。
最後の投与の後に、繰り返しの1日1回の群において、エスリカルバゼピンの平均Cmaxは、酢酸エスリカルバゼピンを400mg投与した場合の8800ng/ML(変動係数(CV)16.0%)から酢酸エスリカルバゼピンを2400mg投与した場合の56500ng/ML(CV20.0%)までの範囲であった。すべての投与量についての最大血漿濃度は、2から3.5時間で達成された(中央値tmax)。24時間の投与間隔に関する平均濃度下面積AUC0-24hは、1日1回の酢酸エスリカルバゼピンの投与量が400mgの場合の126300ng/MLから1日1回の酢酸エスリカルバゼピンの投与量が2400mgの場合の905900ng/MLまでの範囲であった。表4及び5は、酢酸エスリカルバゼピンの単回投与の後のエスリカルバゼピン及びR-リカルバゼピンの薬物動態パラメータ、並びに酢酸エスリカルバゼピンの繰返し投与の最後の投与後の薬物動態パラメータを示す。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
(試験の考察)
酢酸エスリカルバゼピンの1日1回の投与は、同じ全体投与量を1日2回の投与量に分割する場合より効果的であり、プラセボよりてんかん発作を減少させる効果が明らかに高いことが認められた。酢酸エスリカルバゼピンの800mg及び1200mgの1日1回の投与量は、全体の日用量が同じである1日2回の投与量よりてんかん発作を減少させる効果が顕著に高いことが示された。
【0064】
酢酸エスリカルバゼピンは、大量に代謝されてエスリカルバゼピンになり、R-リカルバゼピンになるのは少量であることが示された。エスリカルバゼピンは、(AUC0-τ、すなわち投与間隔のAUCで評価される)全体の全身薬物曝露の95%から98%を占めたため、酢酸エスリカルバゼピンの投与の後の薬理活性を主に担うと考えられる。親薬物(酢酸エスリカルバゼピン)の血漿濃度は、定量限界を下回ることが全体的に見いだされた。複数回投与では、定常状態の血漿濃度は、両方の群において投与の4日目から5日間で達成され、約20〜24時間のオーダの有効半減期と一致した。
【0065】
1日1回の群におけるエスリカルバゼピンの動態学的特性は、1日2回の群と著しく異なっており、酢酸エスリカルバゼピンの複数回経口投与後に評価された薬物動態パラメータのいくつか(Cmax、AUC0-τ及びAUC0-∞)について統計的な差が認められた。実際、1日1回の群における健康なボランティアのエスリカルバゼピンへの全体曝露は、思いがけず、1日2回の群より少なくとも26%高かった。この予想外の結果は、てんかん患者において、酢酸エスリカルバゼピンの1日1回の投与が、同じ全体の日用量を1日2回の投与量に分割した場合より効果的であるという知見と一致する。この結果は、臨床的効果の向上が、エスリカルバゼピンへの曝露の速度(Cmax)及び規模(AUC)の向上に起因することを暗示するが、1日2回の投与と比べて1日1回の投与後の曝露規模の当該向上の理由は、不明である。
【0066】
上述の例示的な態様及び実施態様に加えて、さらなる態様及び実施態様も、先述の記載を検討することにより当業者に明らかになるであろう。上述の記載には若干の変更が可能であり、かつ当該変更は、本発明の範囲内にあるものと見なされることを当業者なら認識するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲(そのあらゆる補正を含む)及びその後に導入されるあらゆる特許請求の範囲は、すべての当該態様、実施態様及び変更を含むものと解釈されるべきであることを意図するものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】基準に対する各投与期間における発作回数の減少率を示す図である(1日2回及びプラセボに対する1日1回の400mg;1日2回及びプラセボに対する1日1回の800mg;1日2回及びプラセボに対する1日1回の1200mg)。
【図2】400mg、800mg及び1200mgのBIA-2-093の日用量を、1日1回(o.d.)又は1日2回(b.i.d.)投与した後のBIA 2-005の平均(95%Cl)トラフ血漿濃度(μg/mL)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情動性障害、分裂情動性障害、双極性障害、注意障害、不安障害、神経障害的疼痛及び神経障害的疼痛関連障害、感覚運動障害、前庭障害、又は消耗性及び虚血後疾患における神経機能変化を治療するための医薬組成物の製造における酢酸エスリカルバゼピンの使用であって、該医薬組成物は1日1回の投与用である、前記使用。
【請求項2】
前記1日1回の投与量を、約7400ng/mLを上回るエスリカルバゼピンの最大観察血漿濃度Cmaxをもたらす量で投与する、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記1日1回の投与量を、約12000ng/mLを上回るエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で投与する、請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記1日1回の投与量を、約111000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンの濃度曲線下面積AUC0-τ(式中、τは投与間隔である)をもたらす量で投与する、請求項1記載の使用。
【請求項5】
前記1日1回の投与量を、約140000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与する、請求項4記載の使用。
【請求項6】
前記1日1回の投与量を、少なくとも約400mgの酢酸エスリカルバゼピンを含む投与物で投与する、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
前記1日1回の投与量を、約800mgから約2400mgの範囲の量の酢酸エスリカルバゼピンを含む投与物で投与する、請求項6記載の使用。
【請求項8】
前記医薬組成物における活性成分は、本質的に酢酸エスリカルバゼピンからなる、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
前記情動性障害は、鬱病、月経前不快性障害、産後鬱病、更年期鬱病、拒食症、大食症又は神経変成関連鬱症候群である、請求項1〜8のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
前記分裂情動性障害は、分裂鬱症候群、分裂症、極度精神病状態、分裂躁鬱症候群、不快及び攻撃的挙動、偶発性制御困難又は間欠性爆発性障害、又は境界人格障害である、請求項1〜9のいずれか一項記載の使用。
【請求項11】
前記双極性障害は、急速な動揺を伴う双曲性障害及び不安定双曲性障害(急速サイクル)、躁鬱障害、急性的熱狂、気分的発作、及び躁病及び軽躁病発作である、請求項1〜10のいずれか一項記載の使用。
【請求項12】
前記注意障害は、注意欠陥機能亢進障害又は自閉症である、請求項1〜11のいずれか一項記載の使用。
【請求項13】
前記不安障害は、社会不安障害、外傷後ストレス障害、パニック、強迫性障害、アルコール中毒、薬物禁断症候群又は欲求である、請求項1〜12のいずれか一項記載の使用。
【請求項14】
前記神経障害的疼痛及び神経障害的疼痛関連障害は:三叉神経性神経痛、ヘルペス性神経痛、ヘルペス後神経痛及び脊髄癆性神経痛を含む神経障害的疼痛及び関連痛覚過敏;糖尿病性神経障害的疼痛;偏頭痛;緊張型頭痛;灼熱痛;又は腕神経叢剥離などの求心路遮断症候群;である、請求項1〜13のいずれか一項記載の使用。
【請求項15】
前記感覚運動障害は、不穏下肢症候群、痙攣、片側顔面痙攣、夜間発作性失調症、脳虚血関連運動及び感覚欠乏、パーキンソン病及びパーキンソン病様障害、抗精神病誘発運動欠乏、遅発性ジスキネジア、偶発性夜間遊走又は筋緊張症である、請求項1〜14のいずれか一項記載の使用。
【請求項16】
前記前庭障害は、耳鳴、又はニューロン損失、聴力損失、突発的聴覚消失、眩暈及びメニエール病などの他の蝸牛興奮関連疾病である、請求項1〜15のいずれか一項記載の使用。
【請求項17】
前記疾病は、双極性障害又は三叉神経痛である、請求項1〜8のいずれか一項記載の使用。
【請求項18】
患者におけるエスリカルバゼピンへの曝露を増加させるための医薬組成物の製造における酢酸エスリカルバゼピンの使用であって、前記医薬組成物が1日1回の投与用である、前記使用。
【請求項19】
前記医薬組成物における活性成分は、本質的に酢酸エスリカルバゼピンからなる、請求項18記載の使用。
【請求項20】
前記1日1回の投与量を、約7400ng/mLを上回るエスリカルバゼピンの最大観察血漿濃度Cmaxをもたらす量で投与する、請求項18又は19記載の使用。
【請求項21】
前記1日1回の投与量を、約111000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンの濃度曲線下面積AUC0-τ(式中、τは投与間隔である)をもたらす量で投与する、請求項18又は19記載の使用。
【請求項22】
前記1日1回の投与量を、少なくとも約400mgの酢酸エスリカルバゼピンを含む投与物で投与する、請求項18〜21のいずれか一項記載の使用。
【請求項23】
前記1日1回の投与量を、約800mgから約2400mgの範囲の量の酢酸エスリカルバゼピンを含む投与物で投与する、請求項22記載の使用。
【請求項24】
前記医薬組成物は、経口投与のために処方される、請求項1〜23のいずれか一項記載の使用。
【請求項25】
それを必要とする患者におけるてんかんを除く少なくとも1つの状態又は疾病を治療するための方法であって、薬理的有効量の酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物の1日1回の投与量を前記患者に投与することを含む前記方法。
【請求項26】
前記1日1回の投与量を、約7400ng/mLを上回るエスリカルバゼピンの最大観察血漿濃度Cmaxをもたらす量で投与する、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記1日1回の投与量を、約12000ng/mLを上回るエスリカルバゼピンのCmaxをもたらす量で投与する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記1日1回の投与量を、約111000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンの濃度曲線下面積AUC0-τ(式中、τは投与間隔である)をもたらす量で投与する、請求項25記載の方法。
【請求項29】
前記1日1回の投与量を、約140000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンのAUC0-τをもたらす量で投与する、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記1日1回の投与量を、少なくとも約400mgの酢酸エスリカルバゼピンを含む投与物で投与する、請求項25記載の方法。
【請求項31】
前記1日1回の投与量を、約800mgから約2400mgの範囲の量の酢酸エスリカルバゼピンを含む投与物で投与する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記医薬組成物の中の活性成分は、本質的に酢酸エスリカルバゼピンからなる、請求項25記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つの疾病又は状態は、情動性障害、分裂情動性障害、双極性障害、注意障害、不安障害、神経障害的疼痛及び神経障害的疼痛関連障害、感覚運動障害、前庭障害、及び消耗性及び虚血後疾患における神経機能変化から選択される、請求項25記載の方法。
【請求項34】
前記疾病は、双極性障害又は三叉神経痛である、請求項25〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
患者におけるエスリカルバゼピンへの曝露を増加させるための方法であって、酢酸エスリカルバゼピンを含む医薬組成物の1日1回の投与量を前記患者に投与することを含む、前記方法。
【請求項36】
前記医薬組成物における活性成分は、本質的に酢酸エスリカルバゼピンからなる、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記1日1回の投与量を、約7400ng/mLを上回るエスリカルバゼピンの最大観察血漿濃度Cmaxをもたらす量で投与する、請求項35又は36記載の方法。
【請求項38】
前記1日1回の投与量を、約111000ng・h/mLを上回るエスリカルバゼピンの濃度曲線下面積AUC0-τ(式中、τは投与間隔である)をもたらす量で投与する、請求項35又は36記載の方法。
【請求項39】
前記1日1回の投与量を、少なくとも約400mgの酢酸エスリカルバゼピンを含む投与物で投与する、請求項35〜38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
前記1日1回の投与量を、約800mgから約2400mgの範囲の量の酢酸エスリカルバゼピンを含む投与物で投与する、請求項39記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−540405(P2008−540405A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509964(P2008−509964)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【国際出願番号】PCT/PT2005/000006
【国際公開番号】WO2006/121363
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(503003843)ポルテラ・アンド・シーエー・エスエー (6)
【Fターム(参考)】