説明

酵素処理ローヤルゼリー、並びにそれを含有する抗酸化剤、保湿剤、皮膚繊維芽細胞の増殖促進剤、血圧降下剤、疲労回復剤、及びカルシウム吸収促進剤

【課題】化粧品等の様々な用途に利用することが可能な酵素処理ローヤルゼリー、並びにそれを含有する抗酸化剤、保湿剤、皮膚繊維芽細胞の増殖促進剤、血圧降下剤、疲労回復剤、及びカルシウム吸収促進剤を提供する。
【解決手段】本発明の酵素処理ローヤルゼリーは、生ローヤルゼリー及び乾燥ローヤルゼリーから選ばれる少なくとも一種に抽出溶媒として、例えば含水エタノールを添加して可溶性画分を分離した後、前記抽出溶媒に対して不溶性の画分に中性プロテアーゼ、例えばサーモリシンを作用して得られることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローヤルゼリーエキス抽出時に用いる親水性有機溶媒等に対し不溶性の画分を中性プロテアーゼ処理することにより得られる酵素処理ローヤルゼリー、並びにそれを有効成分として含有する抗酸化剤、保湿剤、皮膚繊維芽細胞の増殖促進剤、血圧降下剤、疲労回復剤、及びカルシウム吸収促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ローヤルゼリーは、羽化後3〜15日の雌のミツバチが下咽頭腺及び大腮腺から分泌する分泌物を混合して作るゼリー状の物質で、特有のタンパク質、脂肪酸及びミネラル等が含有されていることが知られている。ローヤルゼリーは、血圧降下作用、抗腫瘍作用、創傷治癒促進、血清コレステロール低下作用、血流増加作用、性中枢老化防止作用、抗菌作用、成長促進作用、放射線及び化学療法剤の副作用軽減作用、慢性疾患に対する作用等の種々の生理作用を有していることが知られている。したがって、従来よりローヤルゼリーは、栄養価の高い健康食品のみならず、医薬品、化粧品等の用途にも用いられてきた。
【0003】
従来より、ローヤルゼリーを利用する形態として、特許文献1に開示される方法が知られている。特許文献1は、生ローヤルゼリー又は乾燥ローヤルゼリーに例えば含水エタノールを添加して混合液を調製し、ローヤルゼリー中の可溶性成分を含水エタノール中に溶解させた後、これを濾過して得られるローヤルゼリーエキスの製造方法について開示する。ローヤルゼリーエキスはデセン酸をはじめとするローヤルゼリーに特有な脂肪酸、そのエステルからなる脂質、ローヤルゼリーにのみ含有される特殊な水溶性タンパク質、アミノ酸、糖質、ミネラル等を含有している。
【特許文献1】特開2000−60455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ローヤルゼリーエキス製造中に生成する抽出溶媒に不溶性の沈澱は、主として水溶性タンパク質から構成される。従来、この不溶性の沈殿は、工程ロス、除菌濾過の障害の原因となるとともに、安定性低下等の品質低下の原因となるため、通常、抽出溶媒よりろ過除去され、ローヤルゼリーエキスの抽出残渣として破棄されていた。
【0005】
本発明は、ローヤルゼリーエキス抽出後の抽出溶媒に不溶性の画分に対して、中性プロテアーゼを作用させることにより、抗酸化作用の向上効果等の生体に有用な作用効果が得られることを発見したことに基づくものである。
【0006】
本発明の目的とするところは、化粧品等の様々な用途に利用することが可能な酵素処理ローヤルゼリー、並びにそれを含有する抗酸化剤、保湿剤、皮膚繊維芽細胞の増殖促進剤、血圧降下剤、疲労回復剤、及びカルシウム吸収促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明の酵素処理ローヤルゼリーは、生ローヤルゼリー及び乾燥ローヤルゼリーから選ばれる少なくとも一種に抽出溶媒として親水性有機溶媒又は含水親水性有機溶媒を添加して可溶性画分を分離した後、前記抽出溶媒に対して不溶性の画分に中性プロテアーゼを作用して得られることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の酵素処理ローヤルゼリーにおいて、前記親水性有機溶媒は、エタノールであることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の酵素処理ローヤルゼリーにおいて、前記中性プロテアーゼは、サーモリシンであることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の酵素処理ローヤルゼリーにおいて、前記中性プロテアーゼは、アスペルギルス・オリザエ由来のエンド型プロテアーゼ及びエキソ型プロテアーゼであることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明の抗酸化剤は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする。
請求項6に記載の発明の保湿剤は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の発明の皮膚繊維芽細胞の増殖促進剤は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする。
請求項8に記載の発明の血圧降下剤は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする。
【0012】
請求項9に記載の発明の疲労回復剤は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする。
請求項10に記載の発明のカルシウム吸収促進剤は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、化粧品等の様々な用途に利用することが可能な酵素処理ローヤルゼリー、並びにそれを含有する抗酸化剤、保湿剤、皮膚繊維芽細胞の増殖促進剤、血圧降下剤、疲労回復剤、及びカルシウム吸収促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の酵素処理ローヤルゼリーを具体化した実施形態を説明する。以下、ローヤルゼリーをRJと略記する。
本実施形態の酵素処理RJは、生RJ及び乾燥RJから選ばれる少なくとも一種より抽出溶媒を用いて得られる不溶性の分画が原料として使用される。一方、生RJ及び乾燥RJから選ばれる少なくとも一種に抽出溶媒を添加して得られる可溶性画分は、一般にRJエキスとよばれ、デセン酸をはじめとするローヤルゼリーに特有な脂肪酸、そのエステルからなる脂質等が含有されている。本実施形態において使用される生RJ及び乾燥RJの産地は、中国、台湾、日本等のアジア諸国、ヨーロッパ諸国、北アメリカ諸国、南アメリカ諸国のいずれでも良い。生RJ又はRJ粉末(生RJを凍結乾燥処理等により乾燥させて粉末化したもの)のうち、取り扱い性の観点より、RJ粉末が好ましい。
【0015】
生RJ及び乾燥RJから選ばれる少なくとも一種に添加する抽出溶媒としては、親水性有機溶媒又は含水親水性有機溶媒が使用される。親水性有機溶媒としては、例えばエタノール、メタノール、ブタノール及びプロパノール等の低級アルコール類、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類が挙げられる。これらの親水性有機溶媒を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中で、不溶性の高タンパク質分画の抽出効率、生体に対する適用性等の観点からエタノールが最も好ましい。含水親水性有機溶媒として例えば含水エタノールが使用される場合、抽出溶媒中におけるエタノールの濃度は、50〜99容量%が好ましく、80〜99容量%がより好ましく、90〜99容量%が最も好ましい。これらの抽出溶媒の添加量は、抽出効率の点から、生RJ及び乾燥RJから選ばれる少なくとも一種の1重量部に対して1〜10重量部が好ましく、2〜8重量部がより好ましく、3〜6重量部が最も好ましい。これらの抽出溶媒は、生RJ及び乾燥RJから選ばれる少なくとも一種とともに混合及び撹拌される。
【0016】
抽出の温度は、溶媒の揮発を防ぐ点から、10〜40℃が好ましく、20〜30℃がより好ましい。抽出の時間は、収率の点から、1〜24時間が好ましく、1.5〜12時間がより好ましく、2〜6時間がさらに好ましい。得られた抽出物は、溶媒に可溶性の画分と沈殿物からなる不溶性の画分から構成される。これらの可溶性画分と不溶性画分は、公知の方法、例えば濾過処理、遠心分離を用いることにより、容易に分離することができる。
【0017】
本実施形態の酵素処理RJは、原料に抽出溶媒を添加して得られる可溶性画分であるRJエキスを分離した後の不溶性画分が原料として使用される。この抽出溶媒に不溶性の画分には、主として水溶性タンパク質が高含有されている。以下、RJエキス抽出原料に抽出溶媒を添加して得られる抽出溶媒に不溶性の画分を「高タンパクRJ」と呼ぶ。
【0018】
本実施形態の酵素処理RJは、高タンパクRJをタンパク分解処理することにより得られる。タンパク分解処理は、中性プロテアーゼを用いて高タンパクRJ中に含有されるタンパク質のペプチド結合を加水分解し、低分子化する処理である。中性プロテアーゼとしては、至適pHを中性付近(pH5.0〜8.5、好ましくはpH6.5〜7.5)に有するプロテアーゼを挙げることができる。中性プロテアーゼには、ペプチドの末端から加水分解するエキソ型プロテアーゼとペプチドの途中から分解するエンド型プロテアーゼとが存在するが、いずれのプロテアーゼも使用することができる。中性プロテアーゼとして、具体的には、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)(バチルス・サーモプロテオライティクス・ロッコ(Bacillus thermoproteolyticus Rokko))由来の中性プロテアーゼであるサーモリシン、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)由来の中性プロテアーゼ、及びバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)由来の中性プロテアーゼを挙げることができる。これらの中で、酵素処理により抗酸化活性等の作用向上効果の高いサーモリシン及びアスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)由来の中性プロテアーゼが好ましい。
【0019】
サーモリシンは、金属プロテアーゼに分類され、至適pHは約6.5〜8.5である。サーモリシンは、イソロイシン、ロイシン、バリン、フェニルアラニン、メチオニン等の大きな疎水性側鎖を持つアミノ残基を含むペプチド結合を切断するエンドペプチダーゼである。市販品としては、例えばサモアーゼPC10F(大和化成社製)を挙げることができる。また、中性付近に至適pHを有するとともに単独で又は組み合わせることによりサーモリシンと同様の部位を切断することができる他の中性プロテアーゼも使用することができる。サーモリシンを用いたタンパク質分解酵素処理は、好ましくは10〜80℃、より好ましくは40〜75℃、さらに好ましくは50〜70℃の条件下で行われる。
【0020】
アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)由来の中性プロテアーゼとして、市販品としては、例えばスミチームFP(新日本化学工業社製)を使用することができる。スミチームFPは、エンド型とエキソ型プロテアーゼを含有し、タンパク質をアミノ酸レベルにまで高度に分解することができる。また、中性付近に至適pHを有するとともに単独で又は組み合わせることによりスミチームFP(新日本化学工業社製)と同様の部位を切断することができる他の中性プロテアーゼも使用することができる。スミチームFP(新日本化学工業社製)を用いたタンパク質分解酵素処理は、好ましくは10〜80℃、より好ましくは40〜75℃、さらに好ましくは45〜60℃の条件下で行われる。
【0021】
バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)由来の中性プロテアーゼとして、市販品としては、例えばプロテアーゼN「アマノ」G(天野エンザイム社製)を使用することができる。プロテアーゼN「アマノ」Gは、至適pHは約5.0〜7.0である。また、中性付近に至適pHを有するとともに単独で又は組み合わせることによりプロテアーゼN「アマノ」G(天野エンザイム社製)と同様の部位を切断することができる他の中性プロテアーゼも使用することができる。プロテアーゼN「アマノ」G(天野エンザイム社製)を用いたタンパク質分解酵素処理は、好ましくは10〜80℃、より好ましくは35〜75℃、さらに好ましくは40〜60℃の条件下で行われる。
【0022】
中性プロテアーゼを用いたタンパク質分解酵素処理は、高タンパクRJ、中性プロテアーゼ及び水(又は緩衝液)を含む反応液を、所定条件下でインキュベートすることにより実施される。タンパク質分解酵素処理の処理時間は、反応温度、酵素の力価等により適宜設定されるが、好ましくは0.1〜6時間、より好ましくは0.5〜2時間である。処理時間が0.1時間未満の場合、酵素処理RJの抗酸化作用を十分に高めることができない。逆に、処理時間が6時間を越える場合、酵素処理RJの製造に要する時間が著しく浪費されるため不経済である。また、抗酸化作用等の有用な効果が逆に低下するおそれがある。なお、このタンパク質分解酵素処理は、前記インキュベート後の反応液を直ちに85〜100℃で5〜60分間加熱して前記プロテアーゼを失活させることが望ましい。
【0023】
前記反応液には、高タンパクRJに起因する粘度上昇を抑えてタンパク質分解酵素処理を迅速に進行させるための溶媒として、水又は緩衝液が含有されている。反応液は、高タンパクRJの重量に対して2〜15倍量、好ましくは2〜14倍量、より好ましくは3〜10倍量の水又は緩衝液が含有されていることが望ましい。高タンパクRJの重量に対して2倍量未満の溶媒が加えられる場合、高タンパクRJに起因する反応液の粘度上昇を十分に抑えることができないため、タンパク質分解酵素処理を迅速に進行させることが困難になる。逆に、高タンパクRJの重量に対して10倍量を超える溶媒が加えられる場合、得られた酵素処理RJを粉末化する際、多くの時間を要するという不都合が発生する。
【0024】
本実施形態の酵素処理RJは、高い抗酸化作用、保湿作用、皮膚繊維芽細胞の増殖促進作用、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性作用、疲労回復作用、及びカルシウム吸収促進作用を有する。したがって、それらの作用効果を得ることを目的とした抗酸化剤、保湿剤、皮膚繊維芽細胞の増殖促進剤、ACE阻害剤又は血圧降下剤、疲労回復剤、及びカルシウム吸収促進剤として適用することができる。具体的な配合形態として、抗酸化剤は、好ましくは飲食品、化粧品及び医薬品等として適用することができる。保湿剤及び皮膚繊維芽細胞の増殖促進剤は、好ましくは化粧品等として適用することができる。ACE阻害剤又は血圧降下剤は、好ましくは血圧が高めの方の飲食品及び医薬品等として適用することができる。疲労回復剤は、好ましくは栄養補助食品等の飲食品及び医薬品等として適用することができる。カルシウム吸収促進剤は、好ましくは栄養補助食品等の飲食品及び医薬品等として適用することができる。
【0025】
本実施形態の酵素処理RJを化粧品に適用する場合、化粧品基材に配合することにより製造することができる。化粧品の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状等のいずれであってもよい。このような美白化粧品を肌に適用することにより、保湿等の効果を得ることができる。化粧品基剤は、一般に化粧品に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、美白剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤及び香料から選択される少なくとも一種が適宜配合される。
【0026】
本実施形態の酵素処理RJを飲食品に適用する場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって使用することができる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状等のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤のいずれであってもよい。その中でも、吸湿性が抑えられることから、カプセル剤であることが好ましい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0027】
本実施形態の酵素処理RJを医薬品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。本実施形態の酵素処理RJは経口摂取により投与されることが望ましい。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0028】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態において、生RJ等に抽出溶媒を添加して可溶性画分を分離した後、前記抽出溶媒に対して不溶性の画分に中性プロテアーゼを作用して得られる酵素処理RJは、高い抗酸化作用を有している。したがって、抗酸化作用を目的とした化粧品、飲食品及び医薬品に好ましく適用することができる。
【0029】
(2)本実施形態において、生RJ等に抽出溶媒を添加して可溶性画分を分離した後、前記抽出溶媒に対して不溶性の画分に中性プロテアーゼを作用して得られる酵素処理RJは、高い保湿作用及び皮膚繊維芽細胞の増殖を促進する作用を有している。したがって、保湿作用等を目的とした化粧品により好ましく適用することができる。
【0030】
(3)本実施形態において、生RJ等に抽出溶媒を添加して可溶性画分を分離した後、前記抽出溶媒に対して不溶性の画分に中性プロテアーゼを作用して得られる酵素処理RJは、高いACE阻害活性作用を有している。したがって、血圧降下作用を目的とした飲食品及び医薬品等により好ましく適用することができる。
【0031】
(4)本実施形態において、生RJ等に抽出溶媒を添加して可溶性画分を分離した後、前記抽出溶媒に対して不溶性の画分に中性プロテアーゼを作用して得られる酵素処理RJは、高い疲労回復作用を有している。したがって、疲労回復作用を目的とした飲食品及び医薬品等により好ましく適用することができる。
【0032】
(5)本実施形態において、生RJ等に抽出溶媒を添加して可溶性画分を分離した後、前記抽出溶媒に対して不溶性の画分に中性プロテアーゼを作用して得られる酵素処理RJは、高いカルシウム吸収促進作用を有している。したがって、カルシウム吸収促進作用を目的とした飲食品及び医薬品等により好ましく適用することができる。
【0033】
(6)本実施形態において、高タンパクRJを得るために、生RJに配合する親水性有機溶媒は、エタノールが好ましく使用される。したがって、最終的に得られる酵素処理RJを生体に対して容易に適用することができる。
【0034】
(7)本実施形態において、高タンパクRJに適用する中性プロテアーゼは、サーモリシンが好ましく適用される。したがって、酵素処理によって抗酸化作用、保湿作用、皮膚繊維芽細胞の増殖促進作用、ACE阻害活性作用、疲労回復作用、及びカルシウム吸収促進作用をより高めることができる。
【0035】
(8)本実施形態において、高タンパクRJに適用する中性プロテアーゼは、アスペルギルス.オリザエ由来のエンド型プロテアーゼ及びエキソ型プロテアーゼが好ましく適用される。したがって、酵素処理によって抗酸化作用、保湿作用、皮膚繊維芽細胞の増殖促進作用、ACE阻害活性作用、疲労回復作用、及びカルシウム吸収促進作用をより高めることができる。
【0036】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態における酵素処理RJは、酵素によるタンパク質分解処理後の反応液をそのまま飲食品、医薬品及び化粧品等に適用してもよく、溶媒を蒸発させて濃縮処理して適用してもよく、乾燥及び粉末化して適用してもよい。
【0037】
・上記実施形態における酵素処理RJは、ヒトが摂取する飲食品及び医薬品等に対して適用することができるのみならず、家畜の飼料にサプリメント、栄養補助食品、医薬品等として配合してもよい。
【0038】
・高タンパク質画分は、不純物を取り除くために再度、抽出溶媒を用いて洗浄処理を行なってもよい。
【実施例】
【0039】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(酵素処理RJの調製)
中国産生RJ(固形分35%(w/w))1kgに抽出溶媒としてエタノール99容量%の含水親水性有機溶媒2.5kgを加えて室温(約25℃)で24時間攪拌し、生RJ中の不溶性成分を沈殿させた。その後、攪拌抽出液を濾布で濾過して可溶性成分を溶解する溶媒と不溶性画分(高タンパクRJ)を分離した。この高タンパクRJには、主として水溶性タンパク質が高含有されている。生RJ1kgより高タンパクRJ約0.7kg(固形分48質量%)を得た。
【0040】
前記高タンパクRJ100gに水660mlを加え、pH7に調整することにより、酵素処理用のRJ希釈液を調製した。次に、前記RJ希釈液に、中性プロテアーゼを添加することにより、反応液を調整した。中性プロテアーゼとしてサーモリシン、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)由来の中性プロテアーゼ、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)由来の中性プロテアーゼの3種類を使用した。
【0041】
サーモリシンは、サモアーゼPC10F(大和化成社製)を使用した。サモアーゼPC10Fは、90000PU/g以上の力価(1PU=カゼイン(終濃度0.5%)にpH7.2、35℃で作用するとき、反応初期の1分間に1μgのチロシンに相当する酸可溶性低分子分解産物を生成するのに必要な酵素量)を有している。サモアーゼPC10Fを上記酵素処理用のRJ希釈液に0.5g添加することにより、反応液を調製した。
【0042】
アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)由来の中性プロテアーゼは、スミチームFP(新日本化学工業社製)を使用した。スミチームFPは、エンド型プロテアーゼ50000U/g以上の力価を有している。スミチームFPを上記酵素処理用のRJ希釈液に0.5g添加することにより、反応液を調製した。
【0043】
バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)由来の中性プロテアーゼは、プロテアーゼN「アマノ」G(天野エンザイム社製)を使用した。プロテアーゼN「アマノ」Gは、150000U/g以上の力価を有している。プロテアーゼN「アマノ」Gを上記酵素処理用のRJ希釈液に0.5g添加することにより、反応液を調製した。
【0044】
続いて、サモアーゼを添加した反応液を65℃、その他の反応液を50℃でインキュベートすることにより、タンパク質分解酵素処理を実施した。タンパク質分解酵素処理の開始から、30分後、1時間後、2時間後、4時間後及び17時間後にそれぞれ反応液を少量ずつ採取した。採取直後の各反応液をろ紙(アドバンテック東洋製No.2)で吸引ろ過後、凍結乾燥し、粉末状にした酵素処理RJをそれぞれ調製した。ちなみに、前記タンパク質分解酵素処理の開始から終了までの反応液の温度及びpHを不定期に測定したところ、温度管理上の誤差や実験上の誤差の範囲内で、概ね初期反応温度及び中性領域の条件が継続的に維持されていたことを確認した。
【0045】
(試験例1、抗酸化活性としてのラジカル捕捉能試験)
酵素処理RJの生理活性作用の一つである抗酸化作用をラジカル捕捉能試験によって比較した。本試験では、ラジカル状態で517nmの極大吸収を持つDPPH(1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl)が抗酸化物質により還元されて退色することを利用するものである。各酵素処理RJを無水エタノール中に各々0.001質量%の濃度で溶解させて試料溶液を調製した。前記各試料溶液100μlに、170μMのDPPHエタノール溶液1.9mlを加えて混合し、DPPHエタノール試料溶液とした後、室温(22℃)で15分間反応させた。そして、分光光度計(島津製作所製UV-1200)を用いて、各DPPHエタノール試料溶液の光の波長517nmにおける吸光度を測定した。尚、対照(コントロール)として溶媒のみを用いて同操作を行なった。DPPHラジカル捕捉率は以下の式より求めた。また、比較対照として抽出原料として用いた中国産生RJの凍結乾燥RJ(FDRJ)を使用し、上記と同様の方法によりDPPHラジカル捕捉率を測定した。その結果を表1に示す。
【0046】
DPPHラジカル捕捉率(%)={(Ac−As)/Ac}×100
Ac:コントロールの吸光度
As:DPPH溶液添加時の吸光度−エタノールのみ添加時の吸光度
【0047】
【表1】

表1に示されるように、高タンパクRJを各々のタンパク質分解酵素で処理する事により産出された酵素処理RJは、特にスミチーム処理及びサモアーゼ処理において、生RJよりもDPPHラジカル捕捉率が向上した。また、スミチーム処理及びサモアーゼ処理において、酵素処理時間30分が最もDPPHラジカル捕捉率が高く、その後、酵素処理時間2時間を超え4時間目以降になるとDPPHラジカル捕捉率が減少していくことが確認された。プロテアーゼN処理も処理時間2時間において僅かに生RJよりも高いDPPHラジカル捕捉率を示した。
【0048】
フリーラジカルは悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患等の種々の疾患の原因因子と考えられている。フリーラジカルを除去する作用を有する酵素処理RJはそれらの疾患の予防及び治療のための有効な成分になり得る。したがって、フリーラジカル除去能の発揮を目的とする健康食品、化粧品及び医薬品等の有効成分として好適に配合することができる。
【0049】
(試験例2、抗酸化活性としてのβカロチン退色試験)
酵素処理RJの生理活性作用の一つである抗酸化作用をβカロチン退色試験によって比較した。主として植物の黄色色素として知られるβカロチンは、水溶液中では、自然酸化により退色が進行する。一方、この退色は、抗酸化物質を共存させることにより、進行を抑制することができる。本試験で用いる酵素処理RJの試料として、試験例1で用いたスミチーム2時間処理、及びサモアーゼ4時間処理後の凍結乾燥した粉末を水で0.5mg/mlに希釈したものを使用した。陽性対象の試料として、カルノシン(0.02mg/ml)及びBHT(0.02mg/ml)を使用した。また、比較対照として抽出原料として用いた中国産生RJの凍結乾燥RJ(FDRJ)を水で0.5mg/mlに希釈したものを使用した。
【0050】
まず、褐色ナスフラスコ内にてβカロチン0.5mg、リノール酸20mg、tween80;200mgをクロロホルム10mlに溶解した。溶解後、蒸発乾固によりクロロホルムを除き、蒸留水100mlを加えた。この溶液45mlに0.2Mリン酸緩衝液4mlを加え、キャップ付試験管に4.9ml分注した。分注後、下記表2に示される各試料を0.1ml添加し、吸光度(OD470nm)を測定した。その時の吸光度の値を0時間反応値とした。0時間反応値を測定した後、試験液は40℃で保管し、1時間毎にOD470nmを測定した。本試験系の抗酸化能の評価として、0時間の吸光度値を100%とし、1時間毎に測定される値を下記の式に当てはめることによりβカロチン残存率を算出した。4時間後のβカロチン残存率の結果を表2に示す。
【0051】
βカロチン残存率(%)=(時間毎の吸光度の値×100)÷(0時間反応値)
【0052】
【表2】

表2に示されるように、スミチーム処理及びサモアーゼ処理した酵素処理RJは、いずれも生RJよりも高い抗酸化能が確認された。酵素処理RJは、酵素処理を行なっていない生RJと比較して、値が約2倍に上昇していることが確認された。従って、高タンパクRJをサモアーゼ処理及びスミチウム処理することによって産出された酵素処理RJは、抗酸化能が処理前よりも向上し、高い抗酸化活性を有することが確認された。
【0053】
(試験例3、抗酸化活性としてのジエチルチオバルビツール酸(DETBA)試験)
酵素処理RJの生理活性作用の一つである抗酸化作用をDETBA試験によって比較した。本試験では、リノール酸の自動酸化反応で微量に生じた過酸化脂質を高感度なジエチルチオバルビツール酸(DETBA)法にて検出する。本試験で用いる酵素処理RJの試料として、試験例1で用いたスミチーム2時間処理、及びサモアーゼ4時間処理後の凍結乾燥した粉末を水で0.05mg/mlに希釈したものを使用した。陽性対象の試料として、カルノシン(0.05mg/ml)及びBHT(0.05mg/ml)を使用した。また、比較対照として抽出原料として用いた中国産生RJの凍結乾燥RJ(FDRJ)を水で0.05mg/mlに希釈したものを使用した。
【0054】
まず、試料区(n=3)として、0.2%リノール酸(エタノール溶液)20μlと、表3に示される各試料又は蒸留水80μlをキャップ付試験管内にて混合した。ブランク(n=2)は、エタノール20μlと、表3に示される各試料又は蒸留水20μlを混合した。試料区及びブランクは、キャップを外し80℃で60分間加熱した。加熱後、氷冷した。酸化防止剤として20mM;BHT(2,6-Di-t-butyl-4-methylphenol:和光純薬社製)200μl添加及び混合後、リノール酸の酸化を停止させた。そこに8%SDSを200μlと蒸留水400μl添加し、混合した。混合後、12.5mMのDETBA3.2mlを添加し、キャップを締めて90℃15分加熱した。加熱後、酢酸エチルを4ml添加、攪拌後に遠心分離(2000rpm、10min、室温)した。酢酸エチル層を蛍光光度計(Ex515−Em555)にて測定した。各試料の抗酸化力は、測定値を下記の式を用いて算出した。結果を表3に示す。
【0055】
蒸留水(試料区)−蒸留水(ブランク)=A
試料(試料区)−試料(ブランク)=B
100−(B÷A×100)=阻害率
【0056】
【表3】

表3に示されるように、スミチーム処理及びサモアーゼ処理した酵素処理RJは、いずれも生RJよりも高い抗酸化能が確認された。特にスミチーム処理した酵素処理RJは、陽性対照であるカルノシンと同等の抗酸化力を有していることが確認された。
【0057】
(試験例4、保湿試験)
酵素処理RJと酵素処理前の生RJとの保湿性を比較した。酵素処理RJの試料として、試験例1で用いたスミチーム2時間処理及びサモアーゼ4時間処理後の凍結乾燥した各々の粉末について、それぞれ水で3.3%及び10%水溶液としたものを使用した。陽性対照として、アルギン酸ナトリウム(1.25%水溶液)を使用した。陰性対照として、蒸留水を使用した。また、比較対照として抽出原料として用いた中国産生RJの凍結乾燥RJ(FDRJ)を水で3.3%溶液に調整したものを測定に用いた。
【0058】
まず、精密天秤の秤量室内にシリカゲルを置き、湿度が安定するまで放置する。次に、直径6mm、厚さ0.7mmのペーパーディスクを秤量皿の中央に置き、ゼロあわせを行なう。そして、試料10μlを滴下し、直ちに重量を測定した。次に、試料滴下後、20分後の重量を測定した。滴下直後の重量に対する20分後の重量変化を水分残存率(%)として算出した。結果を表4に示す。
【0059】
【表4】

表4に示されるように、FDRJについて、蒸留水と変わらない結果となった。一方、酵素処理RJ(スミチーム処理RJ及びサモアーゼ処理RJ)は、いずれも水分残存率が50%を超え、保水性が1.25%アルギン酸ナトリウム溶液とほぼ同等の水分残存率であることが確認された。また、サモアーゼ処理した酵素処理RJは、スミチーム処理した酵素処理RJより僅かに水分残存率が高かった。また、酵素処理RJ(スミチーム処理RJ及びサモアーゼ処理RJ)は、いずれも濃度依存的に保水性の効果が向上することが確認された。この結果から、生RJは、抽出溶媒に不溶性の画分である高タンパクRJを特定の酵素処理によって、低分子化されることによってはじめて保湿性が得られることが確認された。本実施例の酵素処理RJは、保湿性の発揮を目的とする化粧品等の有効成分として好適に配合することができる。
【0060】
(試験例5、皮膚保湿性モニター試験)
酵素処理RJを、ヒトの皮膚に塗布した際の保湿性について評価した。酵素処理RJの試料として、試験例1で用いたサモアーゼ4時間処理後の凍結乾燥した粉末について、水で2.0%溶液としたものを使用した。陰性対照として、蒸留水を使用した。また、比較対照として抽出原料として用いた中国産生RJの凍結乾燥RJ(FDRJ)を水で2.0%溶液に調整したものを測定に用いた。
【0061】
まず、20代〜60代の男女9名の上腕内側に、各試料を塗布し指で十分に皮膚に浸透させた後、1分後の水分量を測定した。水分量の測定には、モイスチュアーチェッカー(スカラ社製)を使用し、各試料について5回ずつ測定し、その平均値を集計した。測定時の室温は24〜25℃、湿度は37〜41%に設定した。結果を表5,6に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

表5,6に示されるように、蒸留水を塗布した時と比較して、生RJ及び酵素処理RJを塗布した時は水分量の向上が認められ、保湿性が向上したことが確認された。特に、酵素処理RJの塗布時には、蒸留水に対して有意な水分量の向上が認められた。尚、生RJ又は生RJの希釈液を肌に塗布した際のざらつきも酵素処理することにより改善されるとともに、希釈液に溶解した際の濁りが認められないことが確認された(データ未添付)。かかる点からも本実施例の酵素処理RJは、保湿性の発揮を目的とする化粧品等の有効成分として好適に配合することができることが確認された。
【0064】
(試験例6、皮膚繊維芽細胞増殖試験)
酵素処理RJが、ヒトの皮膚繊維芽細胞の増殖に及ぼす影響について評価した。酵素処理RJの試料として、試験例1で用いたスミチーム2時間処理及びサモアーゼ4時間処理後の凍結乾燥した粉末を使用した。陰性対照(コントロール)として、蒸留水を使用した。また、比較対照として抽出原料として用いた中国産生RJの凍結乾燥RJ(FDRJ)を使用した。ヒト皮膚繊維芽細胞(NB1RGB;理化学研究所から分譲)を10%FBS、ペニシリン(100unit/mL)及びストレプトマイシン(100μg/mL)を含有するα−MEM培地で培養し、2×10cells/mLとなるように調整して、100μl播種した。次に、水を用いて最終濃度200μg/mlとなるよう調整した各試料溶液10μlを添加し、48時間培養後、MTTアッセイにて細胞の増殖度を確認した。MTTアッセイにおける吸光度の変化を表7に示す。
【0065】
【表7】

表7に示されるように、コントロール(蒸留水)に対して、サモアーゼを用いた酵素処理RJは、僅かにその増殖作用が有意に向上した。また、生RJとの比較し、酵素処理したRJの方がヒト皮膚繊維芽細胞を有意に増殖させることが確認された。この結果より、生RJは、抽出溶媒に不溶性の画分である高タンパクRJを特定のプロテアーゼにより低分子化することにより、皮膚細胞に対して良い影響を及ぼすことが確認された。
【0066】
(試験例7、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性試験)
アンジオテンシン変換酵素(ACE)は血圧上昇因子アンジオテンシンIIの生成に関わる酵素であり、この酵素の働きを抑えることは、血圧の降下にもつながることが確認されている。そこで、酵素処理RJに関して、その作用を確認した。本試験で用いる酵素処理RJの試料として、試験例1で用いたスミチーム2時間処理、及びサモアーゼ4時間処理後の凍結乾燥した各粉末を水で最終濃度1mg/ml、0.2mg/ml、0.04mg/mlにそれぞれ希釈したものを使用した。また、比較対照として中国産生RJより得られる抽出溶媒に不溶性の画分である高タンパクRJの凍結乾燥した粉末を水で100mg/ml、10mg/ml、1mg/mlにそれぞれ希釈したものを使用した。
【0067】
ACE阻害活性の測定は受田らの方法に準じて行った。即ち、まず各試料溶液50μl及び5.83mM基質(Bz−Gly−His−Leu:1M食塩含有125mMホウ酸緩衝液に溶解)150μlを混合し、37℃5分間プレインキュベートした。次に、ブランクには1N塩酸250μlを加え、各試料には、120mU/mlのウサギ肺由来アンジオテンシン変換酵素を50μl添加し、37℃で30分間インキュベートした。各試料に1N塩酸を250μl加えて攪拌後、酢酸エチルにて生成した馬尿酸を抽出し、228nmの吸光度を測定した。各濃度の試料溶液よりACE阻害活性を50%阻害する濃度(mg/ml)をACE阻害活性IC50値として求めた。結果を表8に示す。
【0068】
【表8】

表8に示されるように、酵素処理前の高タンパクRJでは、ACE阻害活性については殆ど認められなかった。一方、中性プロテアーゼ処理を行なった試料については、ACE阻害活性が認められた。ACE阻害活性は、中性プロテアーゼ処理を行なうことにより初めて発現することが確認された。尚、本実施例の酵素処理RJのACE阻害活性は、中国産生RJを原料として上記の中性プロテアーゼで処理したものと比較して同等以上であった(データ未掲載)。本実施例の酵素処理RJは、血圧降下作用の発揮を目的とする飲食品及び医薬品等の有効成分として好適に配合することができることが確認された。
【0069】
(試験例8、疲労回復試験)
酵素処理RJの生理活性作用の一つである疲労回復作用をマウス強制水泳試験によって確認した。マウスを水中に入れると、最初の1分間程度は四肢と尾を使って泳ぎ、脱出を試みる。しかしその後は、疲労によりマウスが水泳を止め、水面に浮くだけの時間が生じる。これを不動時間として計測する。本試験で用いる酵素処理RJの試料として、試験例1で用いたサモアーゼ4時間処理後の凍結乾燥した各粉末を使用した。比較対照として抽出原料として用いた中国産生RJの凍結乾燥RJ(FDRJ)を使用した。陽性対象の試料として、カルノシンを使用した。尚、強制水泳は、直径19cm、深さ27cmの水槽に水(水温25℃)を入れ、この水槽で行なった。試験動物としてddy系雄性マウス(4週齢)を使用した。まず、各試料を蒸留水に溶解し(500mg/kg(体重)/10ml、陽性対照は50mg/kg(体重)/10ml)、1日1回、10日間を経口投与した。11日目は5分間の予備強制水泳を試行し、その直後に各試料を同量経口投与した。その経口投与60分経過後に再強制水泳を5分間試行した。5分間の再強制水泳中に、マウスが水中で動かない時間を累計し、これを不動時間とした。不動時間の結果を表9に示す。
【0070】
【表9】

表9に示されるように、コントロール(蒸留水)に対して、サモアーゼを用いた酵素処理RJは、有意な不動時間の短縮が認められた。また、生RJは不動時間の短縮効果はほとんど認められなかった。さらに、ATP/AMP比(エネルギー消費の指標)の測定を行った結果、酵素処理RJ及びカルノシンを投与した場合、それぞれATP/AMP比が回復している傾向が認められた(データ未掲載)。この結果より、生RJは、抽出溶媒に不溶性の画分である高タンパクRJを特定のプロテアーゼにより低分子化することにより、肉体疲労の改善作用を示すことが確認された。
【0071】
(試験例9、カルシウム吸収試験)
酵素処理RJの生理活性作用の一つであるカルシウム吸収促進作用を反転腸管試験によって確認した。まず、ラットの小腸を摘出し、反転させ、反転腸管嚢を作成、腸管内に生理食塩水を2ml入れ、酸素で5分間還流後、以下の試料溶液80ml中で40℃、30分間インキュベートした。腸管内に取り込まれたカルシウムイオンの量をカルシウム測定キット(アクアオートカイノスCa測定キット、カイノス社製)を用いて比色定量(660nm)した。本試験で用いる酵素処理RJの試料として、試験例1で用いたサモアーゼ4時間処理後の凍結乾燥した各粉末を使用した。比較対照として抽出原料として用いた中国産生RJの凍結乾燥RJ(FDRJ)を使用した。各試料をカルシウムイオン溶液に0.3重量%の濃度で溶解させた。カルシウムイオン溶液は、生理食塩水に塩化カルシウムを添加し、カルシウム濃度が0.07重量%となるように調製した。結果を表10に示す。
【0072】
【表10】

表10に示されるように、カルシウムイオン溶液(コントロール)に対して、サモアーゼを用いた酵素処理RJをカルシウムイオン溶液に添加した場合、吸光度が約2倍上昇した。つまり、酵素処理RJにより腸管内へのカルシウムイオンの吸収が促進されたことを示す。一方、生RJをカルシウムイオン溶液に添加した場合、吸光度の上昇は認められなかった。この結果より、RJを特定の酵素を用いてペプチド化することにより初めてカルシウム吸収促進能が発揮されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ローヤルゼリー及び乾燥ローヤルゼリーから選ばれる少なくとも一種に抽出溶媒として親水性有機溶媒又は含水親水性有機溶媒を添加して可溶性画分を分離した後、前記抽出溶媒に対して不溶性の画分に中性プロテアーゼを作用して得られることを特徴とする酵素処理ローヤルゼリー。
【請求項2】
前記親水性有機溶媒は、エタノールであることを特徴とする請求項1に記載の酵素処理ローヤルゼリー。
【請求項3】
前記中性プロテアーゼは、サーモリシンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酵素処理ローヤルゼリー。
【請求項4】
前記中性プロテアーゼは、アスペルギルス・オリザエ由来のエンド型プロテアーゼ及びエキソ型プロテアーゼであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酵素処理ローヤルゼリー。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする保湿剤。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする皮膚繊維芽細胞の増殖促進剤。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする血圧降下剤。
【請求項9】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とする疲労回復剤。
【請求項10】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素処理ローヤルゼリーを有効成分として含有することを特徴とするカルシウム吸収促進剤。

【公開番号】特開2009−29772(P2009−29772A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33395(P2008−33395)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【Fターム(参考)】