説明

酸化またはアンモ酸化用触媒

プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いるための触媒であって、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)及びアンチモン(Sb)を構成元素として特定の原子比で含有する酸化物を包含し、還元率が8〜12%であり、比表面積が5〜30m/gである酸化物触媒が開示される。また、該触媒の効率的な製造方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いるための触媒に関する。さらに詳しくは、本発明は、酸化またはアンモ酸化用触媒であって、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)及びアンチモン(Sb)を構成元素として特定の原子比で含有する酸化物を包含し、還元率が8〜12%であり、比表面積が5〜30m/gである酸化物触媒に関する。本発明はまた、該触媒の効率的な製造方法に関する。本発明の酸化物触媒は、目的生成物の選択率および収率が高く、長時間の反応においても収率低下が少ないので、本発明の酸化物触媒を用いてプロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応を行なうと、長期間にわたり高収率で安定的に不飽和カルボン酸または不飽和ニトリル((メタ)アクリル酸または(メタ)アクリロニトリル)を製造することができる。また、本発明の触媒は経時的な収率低下が少ないので、モリブデンの揮発や逃散による触媒劣化を防いで収率を維持するために従来行われるモリブデン化合物の添加において、その添加量や添加回数が少なくてすみ、経済的に有利である。更に、本発明の酸化物触媒は活性が適度であるため、反応に必要な触媒量が多すぎて反応器に過大な荷重が掛かることもなく、また、反応熱が高くなり過ぎて十分な除熱が不可能になることもない。
従来技術
従来、プロピレンまたはイソブチレンのアンモ酸化反応によって(メタ)アクリロニトリルを製造する方法や、プロピレンまたはイソブチレンの酸化反応によって(メタ)アクリル酸を製造する方法が周知である。最近、プロピレンまたはイソブチレンを用いるそのような方法に代わって、プロパンまたはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって(メタ)アクリロニトリルを製造する方法や、プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応によって(メタ)アクリル酸を製造する方法が着目されている。
これらの反応において選択性や反応収率を高めることができる触媒として、モリブデン、バナジウム、ニオブおよびアンチモンを含む酸化物触媒が種々提案されている。
例えば、選択率、収率を高める為の触媒組成が、日本国特開平9−157241号公報(USP5,750,760とEP767164B1に対応)、日本国特開平10−45664号公報、および日本国特開2002−239382号公報(EP1146067A1に対応)などに開示されている。
また、触媒構成元素の平均価数や、触媒組成式中の酸素存在比を教示しているものもある。例えば、日本国特開2002−301373号公報では、担体成分を除く構成元素の平均価数に関しての記載があり、平均価数が通常4以上6未満、好ましくは4.5以上5.9以下、特に好ましくは5以上5.8以下であることを教示している。日本国特開2003−24790号公報(U.S.Patent Application Publication No.US2002/0183548A1とEP1254708A2に対応)では、触媒組成式における、存在する酸素の量は、モリブデン原子に対する原子比で典型的に3〜4.7の範囲に入ると教示している。
しかしながら、これら公報で記されているモリブデン、バナジウム、ニオブ、およびアンチモンを含む触媒は、性能が未だ不充分であり、工業的には満足されるものではない。
更に、選択性や収率を高めるためのこれら触媒の製造方法についても種々知られている。例えば、日本国特開平10−28862号公報、EP895809A1、日本国特開2001−58827号公報、日本国特開2002−301373号公報、日本国特開2002−316052号公報、および、日本国特開2003−24790号公報(U.S.Patent Application Publication No.US2002/0183548A1とEP1254708A2に対応)などに開示されている。
特に、選択率や収率の高い触媒の製造方法における、焼成方法について教示しているものもある。例えば、日本国特開平9−157241号公報(USP5,750,760とEP767164B1に対応)では、焼成は酸素存在雰囲気下で行っても良いが、酸素不存在雰囲気下で行うことが好ましいとしている。日本国特開平10−28862公報などでは、焼成工程において、流動焼成炉や回転焼成炉を用いてもよく、これらを組み合わせても良いとしている。日本国特開平10−45664号公報では、焼成に先立ち、触媒前駆体を通常大気中で熱分解させて揮発成分の大部分を除去しても良いとしている。また、日本国特開2002−316052号公報では、連続式焼成の場合、供給前駆体1kg当たり、500〜10000Nリットルで不活性ガスを流通し、熱分解を実施するとしている。
しかしながら、焼成方法において、選択率及び収率を支配する要因が見出されていないため、工業的には充分な選択率、収率が得られない。
工業的触媒においては、初期の収率を高めるだけでなく、反応を長時間(具体的には1500時間以上)実施した場合にも収率を維持できる事が重要である。収率を長時間維持することができない場合、劣化した触媒を抜き出し、新しい触媒を補充できればよいが、操作に手間がかかる上、連続運転の妨げになるほか、経済的にも不利である。また、劣化した触媒を抜き出して、再生して補充する方法も考えられるが、再生に時間がかかったり、複雑な再生装置が必要であったり、充分に再生できない等の問題点がある。このため、収率低下の少ない触媒が求められている。例えば、日本国特開2002−239382号公報(EP1146067A1に対応)には、1000時間程度の比較的短い期間の反応においてであるが、選択率をほぼ維持する触媒が開示されている。しかしながら、この触媒は、活性が低く、プロパンの転化率が低い。そのため、単流収率は高くない。また、プロパンの転化率が低い場合、未反応のプロパンを反応器流出ガスから分離、回収して反応器に再供給する反応形式も考えられるが、未反応プロパンを分離、回収するために大規模な設備が必要となってしまう。また、日本国特開平11−169716号公報には、1300時間程度の比較的短い期間の反応においてであるが、収率をほぼ維持する方法が開示されている。しかしながら、実施例ではアンチモンを含まず、テルルを含む触媒が記載されており、モリブデン、バナジウム、ニオブ、およびアンチモンを含む触媒に関しての具体的な記載はない。さらに、テルルを含む触媒では工業的なスケールでの反応において、経時的にテルルが揮発、逃散し、反応が不安定であることがあり、工業的にさらに長期間運転する上では難がある。また、日本国特開平2−2877(USP4,784,979とEP320124Aに対応)にはアンチモン、バナジウムの酸化還元の記載はあるが、触媒の還元率を制御する技術的思想は無く、この公報の実施例における触媒の製造条件では触媒の還元率は8%よりはかなり低いと推定される。
一方、モリブデンを含む触媒においては、テルルに比べ少ないものの、モリブデンの揮発、逃散による劣化が認められる場合があり、反応中にモリブデン化合物を添加する方法が知られている。
例えば、日本国特開2001−213855号公報には、モリブデン、バナジウム、ニオブ、およびアンチモンを含有する触媒に、テルル化合物とモリブデン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物からなる補充化合物を反応系内に添加し、高収率で安定的に不飽和ニトリルを製造する方法が開示されている。該公報において、該補充化合物の量は、重量で触媒1に対し0.1相当以下、好ましくは0.02相当以下である事が記載されており、該公報の実施例2ではテルル化合物とモリブデン化合物を同時に触媒45g当たり0.1gづつ(重量比で触媒1に対し添加剤0.0022相当づつ)添加し、反応開始から合計53時間反応した例を記している。従って、反応時間1時間当りのモリブデン化合物の添加量は、モリブデン化合物/触媒の重量比が0.000042/1となる量で、即ち、大量のモリブデン化合物を反応系に添加している。モリブデン化合物を添加して収率の維持をはかる場合、モリブデン化合物の添加量が多すぎると、モリブデン化合物の費用がかさみ、経済的にも不利であるばかりか、工業的な流動床反応器を用いた場合では、モリブデン化合物が除熱コイルに付着し、伝熱を悪化させ、安定運転できない場合が生じる。このため、極力モリブデン化合物の添加量、添加回数が少なくてすむ触媒が望まれている。
特に、工業的に目的物を安定かつ経済的に製造するに当たり、反応開始後1500時間以上にわたり収率を維持することが重要であり、1500時間以降でのモリブデン化合物の添加の少なくてすむ触媒が求められている。しかしながら、反応中に添加するモリブデン化合物量が少なくてすむ、収率低下が少ない触媒については従来知られていない。
更に、工業的にプロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応を実施する場合、収率や収率の経時的安定性に加えて触媒に要求される重要な性能は、適度な活性を示すという事である。通常、活性の低い触媒を用いるためには、所望の転化率を得るため、触媒量を増やして反応する。しかし、活性が低すぎると、多量の触媒量が必要となる上、反応器にかかる荷重も大きくなったり、反応器自身を大きくする必要が生じる。
当然、反応温度を高めて活性を高める方法も考えられるが、適切な反応温度以上に反応温度を高めると、目的物の収率が低下したり、アンモ酸化反応の場合では、副原料のアンモニアが無駄に燃焼してしまう等の問題点が生じる。また、装置の材質上からも、過度に反応温度を高めることは、好ましくない。
逆に、活性の高すぎる触媒を用いる場合は、転化率が高すぎて収率が低下したり、反応熱の発生が大きくなりすぎるので、触媒量を減らすことが考えられるが、次のような問題が生じる。流動床反応の場合、酸化反応やアンモ酸化反応による反応熱を除熱するため、工業規模の反応器内には除熱コイルが設けられている。触媒の活性が高すぎる場合、触媒量を減らすと、触媒と除熱コイルとの接触面積が少なくなりすぎて、除熱できなくなり、運転できない可能性が生じる。更には、触媒重量当たりの反応させる原料ガスが多くなり、触媒劣化の原因になることがある。ここでも、反応温度を下げて、活性を低下させる方法も考えられるが、目的物の選択率が下がる問題が生じる。
このように、プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応を実施する際に、選択率と収率が高く、長期間の反応でも収率低下が少なく、収率を長期間維持するのが容易であり、かつ適度な活性を示す触媒については、従来全く知られていない。
発明の概要
このような状況下において、本発明者らは、従来技術の上記問題を解決するために、プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いるための、モリブデン、バナジウム、ニオブおよびアンチモンを含む酸化物触媒、およびその製造方法について鋭意検討した。その結果、意外にも、モリブデン、バナジウム、ニオブ及びアンチモンを構成元素として特定の原子比で含有する酸化物を包含し、還元率が8〜12%であり、比表面積が5〜30m/gである触媒が、適度な活性を示し、反応成績(目的生成物の選択率と収率)が良く、また、経時的な収率低下が少ないので、長時間の反応においてモリブデン化合物の添加量及び添加頻度が少なくても収率低下を抑制できる、という優れた特性を有することを見出した。また、本発明者らは、この触媒は、特定の焼成条件を用いることを含む触媒製造方法により効率的に製造できることを見出した。これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
従って、本発明の1つの目的は、プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化または気相接触アンモ酸化反応に用いるための、モリブデン、バナジウム、ニオブおよびアンチモンを含む酸化物触媒であって、収率が高く、モリブデン化合物の添加量及び添加頻度が少なくても長時間収率を維持する事が可能であり、かつ適度な活性を示す触媒を提供することにある。
本発明の他の1つの目的は、上記の触媒の効率的な製造方法を提供することにある。
本発明の更に他の1つの目的は、上記の触媒を用いた不飽和カルボン酸または不飽和ニトリル((メタ)アクリル酸または(メタ)アクリロニトリル)の製造方法を提供することにある。
発明の詳細な説明
本発明の1つの態様によれば、プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いる触媒であって、下記式(1)で表される酸化物を包含し、
下記式(2)で定義される還元率が8〜12%であり、比表面積が5〜30m/gである、
ことを特徴とする触媒が提供される。
MoNbSb (1)
(式中:
a、b、c及びnは、それぞれ、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、アンチモン(Sb)及び酸素(O)のモリブデン(Mo)1原子に対する原子比を表し、
0.1≦a≦1、
0.01≦b≦1、
0.01≦c≦1 であり、そして
nは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。)
還元率(%)=((n−n)/n)×100 (2)
(式中:
nは式(1)において定義されている通りであり、
は式(1)の該酸化物の酸素以外の構成元素がそれぞれの最高酸化数を有する時に必要な酸素原子の数である。)
本発明の他の1つの態様によれば、上記の触媒の製造方法であって、
モリブデン化合物、バナジウム化合物、ニオブ化合物及びアンチモン化合物を含む水性原料混合物を提供し、
該水性原料混合物を乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして
該乾燥触媒前駆体を焼成し、その際、該乾燥触媒前駆体の加熱温度を、400℃より低い温度から昇温を始めて、550〜700℃の範囲内にある温度まで連続的にまたは断続的に昇温する焼成条件で行い、その際、加熱温度が400℃に達した時の焼成中の触媒前駆体の還元率が8〜12%となるように焼成条件を調節する、但し、該還元率は、上記の触媒に関連して定義されている通りであり、
こうして、還元率が8〜12%であり、比表面積が5〜30m/gである触媒を得る、
ことを包含することを特徴とする触媒の製造方法が提供される。
次に、本発明の理解を容易にするために、本発明の基本的特徴および好ましい態様を列挙する。
1.プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いる触媒であって、下記式(1)で表される酸化物を包含し、
下記式(2)で定義される還元率が8〜12%であり、比表面積が5〜30m/gである、
ことを特徴とする触媒。
MoNbSb (1)
(式中:
a、b、c及びnは、それぞれ、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、アンチモン(Sb)及び酸素(O)のモリブデン(Mo)1原子に対する原子比を表し、
0.1≦a≦1、
0.01≦b≦1、
0.01≦c≦1 であり、そして
nは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。)
還元率(%)=((n−n)/n)×100 (2)
(式中:
nは式(1)において定義されている通りであり、
は式(1)の該酸化物の酸素以外の構成元素がそれぞれの最高酸化数を有する時に必要な酸素原子の数である。)
2.式(1)中のa、b、cが以下の通りであることを特徴とする前項1に記載の触媒。
0.1≦a≦0.3、
0.05≦b≦0.2、
0.1≦c≦0.3
3.更にシリカ担体を包含し、該酸化物が、該酸化物とシリカ担体の合計重量に対してSiO換算で20〜60重量%のシリカ担体に担持されていることを特徴とする前項1または2に記載の触媒。
4.式(2)中のnが4〜5であることを特徴とする前項1〜3のいずれかに記載の触媒。
5.前項1の触媒の製造方法であって、
モリブデン化合物、バナジウム化合物、ニオブ化合物及びアンチモン化合物を含む水性原料混合物を提供し、
該水性原料混合物を乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして
該乾燥触媒前駆体を焼成し、その際、該乾燥触媒前駆体の加熱温度を、400℃より低い温度から昇温を始めて、550〜700℃の範囲内にある温度まで連続的にまたは断続的に昇温する焼成条件で行い、その際、加熱温度が400℃に達した時の焼成中の触媒前駆体の還元率が8〜12%となるように焼成条件を調節する、但し、該還元率は、前項1において定義されている通りであり、
こうして、還元率が8〜12%であり、比表面積が5〜30m/gである触媒を得る、
ことを包含することを特徴とする触媒の製造方法。
6.該水性原料混合物が、モリブデン化合物、バナジウム化合物及びアンチモン化合物を含む水性混合物(A)と、ニオブ化合物を含む水性液(B)とを混合して得られることを特徴とする前項5に記載の方法。
7.該水性混合物(A)が、モリブデン化合物、バナジウム化合物及びアンチモン化合物を水性溶媒中で50℃以上で加熱して得られることを特徴とする前項6に記載の方法。
8.該加熱後に、過酸化水素を該水性混合物(A)に添加することを特徴とする前項7に記載の方法。
9.該過酸化水素の量が、該過酸化水素の、アンチモン換算の該アンチモン化合物に対するモル比(H/Sbモル比)が0.01〜20の範囲となる量であることを特徴とする前項8に記載の方法。
10.該水性液(B)が、ニオブ化合物に加えてジカルボン酸を含み、該ジカルボン酸の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(ジカルボン酸/Nbモル比)が1〜4の範囲であることを特徴とする前項6に記載の方法。
11.ニオブ化合物を含む該水性液(B)の少なくとも一部を、過酸化水素との混合物として用いることを特徴とする前項6または10に記載の方法。
12.該過酸化水素の量が、該過酸化水素の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(H/Nbモル比)が0.5〜20の範囲となる量であることを特徴とする前項11に記載の方法。
13.ニオブ化合物を含む該水性液(B)の少なくとも一部を、過酸化水素及びアンチモン化合物との混合物として用いることを特徴とする前項6または10に記載の方法。
14.該過酸化水素の量が、該過酸化水素の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(H/Nbモル比)が0.5〜20の範囲となる量であり、
該水性液(B)の該少なくとも一部及び該過酸化水素と混合する該アンチモン化合物の量が、該アンチモン化合物の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(Sb/Nbモル比)が5以下となる量であることを特徴とする前項13に記載の方法。
15.該焼成の少なくとも一部を不活性ガス雰囲気下で行い、その際、
焼成をバッチ式で行う場合は、不活性ガス供給量が、乾燥触媒前駆体1kg当たり、50Nリットル/Hr以上であり、
焼成を連続式で行う場合は、不活性ガス供給量が、乾燥触媒前駆体1kg当たり、50Nリットル以上であることを特徴とする前項5に記載の方法。
16.該焼成が前段焼成と本焼成からなり、該前段焼成を250〜400℃の温度範囲で行い、該本焼成を550〜700℃の温度範囲で行うことを特徴とする前項5または15に記載の方法。
17.加熱温度が400℃に達した時の焼成中の触媒前駆体の還元率が8〜12%となるように、焼成時の雰囲気中に酸化性成分または還元性成分を添加することを特徴とする前項5、15または16に記載の方法。
18.該酸化性成分が酸素ガスであることを特徴とする前項17に記載の方法。
19.該還元性成分がアンモニアであることを特徴とする前項17に記載の方法。
20.前項1の触媒の存在下にプロパンまたはイソブタンを、気相で分子状酸素と反応させることを包含する、アクリル酸またはメタクリル酸の製造方法。
21.前項1の触媒の存在下にプロパンまたはイソブタンを気相でアンモニア及び分子状酸素と反応させることを包含する、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の触媒は、モリブデン、バナジウム、ニオブおよびアンチモンを含むものである。
本発明の触媒は、下記の式(1)で示される酸化物を包含する。
MoNbSb (1)
(式中:
a、b、c及びnは、それぞれ、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、アンチモン(Sb)及び酸素(O)のモリブデン(Mo)1原子に対する原子比を表し、
0.1≦a≦1、
0.01≦b≦1、
0.01≦c≦1 であり、そして
nは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。)
上記式(1)中のV、Nb、SbのMo1原子に対する原子比a、b、cは、それぞれ、0.1≦a≦0.5、0.01≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5であることが好ましい。また、0.1≦a≦0.3、0.05≦b≦0.2、0.1≦c≦0.3であることが更に好ましい。
反応形式に流動床を選択した場合、触媒に充分な強度が要求されるので、本発明の触媒においては、式(1)の酸化物が充分な量のシリカ担体に担持されている事が好ましい。
本発明の触媒が更にシリカ担体を包含する場合は、該酸化物が、該酸化物とシリカ担体の合計重量に対してSiO換算で20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%のシリカ担体に担持されていることが好ましい。
シリカ担体の含有量が20重量%よりも少ないと、強度が不足して触媒が粉化し、反応器から逃散してしまう。工業的には安定運転が難しいし、ロスした触媒を補充する必要が生じるため経済的にも好ましくない。
逆にシリカ担体の含有量が60重量%よりも多いと、充分な触媒活性が得られず、必要な触媒量が増えてしまう。特に流動床の場合、シリカの含有量が60重量%よりも多いとシリカ担持触媒の比重が軽くなりすぎ、良好な流動状態を作りにくくなる。
本発明の触媒の還元率は8〜12%、好ましくは9〜11%である。還元率が8%より低いと、選択率が低下し、また特に活性の低下が激しい。逆に還元率が12%より高いと活性が低下し、また特に選択率の低下が激しい。
還元率は次の式(2)で表される。
還元率(%)=((n−n)/n)×100 (2)
(式中:
nは式(1)において定義されている通りであり、
は式(1)の該酸化物の酸素以外の構成元素がそれぞれの最高酸化数を有する時に必要な酸素原子の数である。)
式(2)中のnは原料仕込み組成比から計算によって算出することができる。モリブデンの最高酸化数は6であり、バナジウムの最高酸化数は5であり、ニオブの最高酸化数は5であり、アンチモンの最高酸化数は5である。なお、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アンチモン及び酸素以外の構成元素(例えばタングステン)が触媒に含まれる場合は、その構成元素の価数とモリブデンに対する原子比をn及びnに反映させる。
式(2)中のnは4〜5であることが好ましい。
本発明の触媒の比表面積は、BET法、即ちBET吸着等温式(Brunauer−Emmett−Teller adsorption isotherm)に基づく方法で得られる表面積である。本発明の触媒の比表面積は5〜30m/gであり、7〜20m/gであることが好ましい。
触媒の比表面積が5m/gより小さいと、充分な活性が得られず、収率も低い。逆に比表面積が30m/gより大きくても必ずしも活性が高まるわけではなく、また収率も悪化し、活性の劣化も激しくなる。また、アンモ酸化反応の場合、副原料のアンモニアが無駄に燃焼してしまう。
また、酸化反応またはアンモ酸化反応中の収率維持のためのモリブデン化合物の添加効果に関して、驚くべき事に、触媒の比表面積の影響が顕著であることを本発明者らは見出した。比表面積が5m/gより小さいと、モリブデン化合物を添加した効果がほとんど発揮されない。比表面積が30m/gより大きいと、モリブデン化合物の添加効果は暫時発揮されるが、すぐに劣化を示し、モリブデン化合物の添加量、添加頻度が多くなってしまう。この理由については明らかではないが、比表面積が5m/gよりも小さいと、反応を司る活性種の活性面も小さく、モリブデン化合物の添加効果が発揮されないと推定される。また、比表面積が30m/gよりも大きいと、活性種の活性面も大きいかわりに、活性面からのモリブデンの逃散も速いものと推定される。
活性は、反応温度440℃での活性で代表することができる。工業的に好ましい活性は、1.5〜10(×10Hr−1)、更に好ましくは2〜6(×10Hr−1)、更に好ましくは2〜4(×10Hr−1)である。本発明において、触媒の活性は以下の式で定義される。
活性(Hr−1)=
−3600/(接触時間)×ln((100−プロパンまたはイソブタン転化率)/100)
(式中、lnは自然対数を表す)
次に本発明の触媒の製造方法について詳細に説明する。
本発明の触媒は、例えば、以下の製造方法によって効率的に製造することができる。即ち:
本発明の触媒の製造方法であって、
モリブデン化合物、バナジウム化合物、ニオブ化合物及びアンチモン化合物を含む水性原料混合物を提供し、
該水性原料混合物を乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして
該乾燥触媒前駆体を焼成し、その際、該乾燥触媒前駆体の加熱温度を、400℃より低い温度から昇温を始めて、550〜700℃の範囲内にある温度まで連続的にまたは断続的に昇温する焼成条件で行い、その際、加熱温度が400℃に達した時の焼成中の触媒前駆体の還元率が8〜12%となるように焼成条件を調節する、但し、該還元率は、本発明の触媒に関連して定義されている通りであり、
こうして、還元率が8〜12%であり、比表面積が5〜30m/gである触媒を得る、
ことを包含することを特徴とする触媒の製造方法である。
この製造方法を詳しく説明する。本発明の酸化物触媒の製造方法は、水性原料混合物を提供する工程(原料調合工程)、該水性原料混合物を乾燥して乾燥触媒前駆体を得る工程(乾燥工程)、そして該乾燥触媒前駆体を焼成する工程(焼成工程)を含む。以下、これらの工程を詳しく説明する。
(原料調合工程)
原料調合工程で用いられるモリブデン化合物に特に制限はないが、ヘプタモリブデン酸アンモニウム等を好適に用いることができる。
バナジウム化合物は、メタバナジン酸アンモニウム等を好適に用いることができる。
ニオブ化合物は、ニオブ酸、ニオブの無機酸塩、およびニオブの有機酸塩などの少なくとも1種を用いることができる。特にニオブ酸がよい。
ニオブ酸はNb・nHOで表され、ニオブ水酸化物または酸化ニオブ水和物とも称される。
中でも、ニオブ酸は、日本国特開平11−47598号公報に記載されている様に、ニオブ酸とジカルボン酸(例えばシュウ酸)とアンモニアを含む水性混合物であり、ジカルボン酸/ニオブのモル比が1〜4でアンモニア/ニオブのモル比が2以下であるニオブ酸含有水性混合物として用いることが好ましい。
アンチモン化合物は、アンチモン酸化物などを好適に用いることができる。特に三酸化二アンチモンが好ましい。
本発明の触媒がシリカ担体に担持された触媒である場合の、シリカの原料は、シリカゾル、フュームドシリカを好適に用いることができる。
水性媒体として通常は水を用いるが、原料化合物の水性媒体に対する溶解性を調節するため、所望により、得られる触媒に悪影響のない範囲でアルコールを水に混合して用いてもよい。用いることのできるアルコールの例としては、炭素数1〜4のアルコールなどが挙げられる。
これら各化合物のうち、好適に用いられる各化合物を原料として用いる場合の原料調合工程について述べる。
ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、三酸化二アンチモンを水に添加し、加熱して水性混合物(A)を調製する。攪拌しながら加熱することが好ましい。加熱温度は好ましくは50℃以上、より好ましくは50℃以上沸点以下、さらに好ましくは70℃以上沸点以下で実施できる。80℃から100℃がさらに好ましい。また、冷却管を設けた装置で加熱還流させても良い。なお上記沸点は、一般的に、加熱還流した場合、約101℃から102℃の範囲である。加熱時間は0.5時間以上で実施できる。加熱温度が低い場合(例えば50℃未満の場合)は、長時間を要する。好ましい温度である80〜100℃で実施する場合は、1〜5時間が好ましい。
また、上記の加熱後に、過酸化水素を該水性混合物(A)に添加することが好ましい。この方法を採用すると、水性混合物(A)を調合するときに還元されたモリブデンとバナジウムが、液中で過酸化水素により酸化される。過酸化水素を添加する場合、該過酸化水素の量が、該過酸化水素の、アンチモン換算の該アンチモン化合物に対するモル比(H/Sbモル比)が好ましくは0.01〜20、より好ましくは0.5〜3、特に好ましくは1〜2.5である。また、この時、30℃〜70℃で、30分〜2時間撹拌を続けることが好ましい。
ニオブ化合物(例えばニオブ酸)を水に添加し、加熱して水性液(B)を調製する。加熱温度は通常は50〜100℃、好ましくは70〜99℃、更に好ましくは80〜98℃の範囲である。該水性液(B)が、ニオブ化合物に加えてジカルボン酸(例えばシュウ酸)を含み、該ジカルボン酸の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(ジカルボン酸/Nbモル比)が1〜4の範囲であることが好ましく、2〜4の範囲であることが更に好ましい。即ち、この場合、ニオブ酸とシュウ酸を水に加えて加熱撹拌して水性液(B)を調製する。
水性液(B)の調製方法の例として、
(1)水、ジカルボン酸(例えばシュウ酸)およびニオブ化合物(例えばニオブ酸)を混合し、予備的ニオブ含有水溶液、またはニオブ化合物が分散している予備的ニオブ含有水性懸濁液を得;
(2)得られた予備的ニオブ含有水溶液または水性懸濁液を冷却して、ジカルボン酸の一部を沈殿させ;
(3)予備的ニオブ含有水溶液から沈殿したジカルボン酸を除去する、または予備的ニオブ含有水性懸濁液から沈殿したジカルボン酸および分散しているニオブ化合物を除去することによって、水性液(B)を得る、
という方法を挙げることができる。
この方法によって得られた水性液(B)は、通常ジカルボン酸/ニオブモル比が2〜4の範囲にある。
この方法の工程(1)では、ジカルボン酸としてシュウ酸を用いることが特に好ましい。またこの方法の工程(1)において、ニオブ化合物として好適に用いることができるニオブ化合物の例として、ニオブ酸およびシュウ酸水素ニオブを挙げることができる。これらのニオブ化合物は、固体または懸濁液として用いることができる。
なお、ニオブ化合物としてシュウ酸水素ニオブを用いる場合は、ジカルボン酸を加えなくてもよい。また、ニオブ化合物としてニオブ酸を用いる場合は、製造過程においてニオブ酸に混入している可能性のある酸性不純物を除去することを目的として、使用前にニオブ酸をアンモニア水および/または水で洗浄してもよい。
またニオブ化合物として、新たに調製したニオブ化合物を用いることが好ましいが、上記の方法においては、長期保存などにより若干変質(脱水などによる)したニオブ化合物を用いることもできる。
この方法の工程(1)において、少量のアンモニア水の添加や加熱により、ニオブ化合物の溶解を促進することができる。
上記予備的ニオブ含有水溶液または水性懸濁液におけるニオブ化合物の濃度(ニオブ換算)は、0.2〜0.8(mol−Nb/Kg−液)程度であることが好ましい。またこのとき、ジカルボン酸の使用量は、ニオブ換算のニオブ化合物に対するジカルボン酸のモル比が3〜6程度となるようにすることが好ましい。ジカルボン酸の使用量が多すぎると、ニオブ化合物は充分溶解するが、得られた予備的ニオブ含有水溶液または水性懸濁液を冷却した際に過剰のジカルボン酸が多量に析出する。その結果、添加したジカルボン酸のうち実際に利用される量が少なくなる。逆に、ジカルボン酸の使用量が少なすぎると、ニオブ化合物が充分溶解しない。その結果、添加したニオブ化合物のうち実際に利用される量が少なくなる。
この方法の工程(2)における冷却の方法に特に制限はなく、単に氷冷することにより容易に実施することができる。
この方法の工程(3)における、沈殿したジカルボン酸(または、沈殿したジカルボン酸および分散しているニオブ化合物)の除去は、公知の方法、例えば濾過やデカンテーションにより容易に実施することができる。
得られた水性液(B)のジカルボン酸/ニオブモル比が2〜4の範囲から外れている場合には、水性液(B)にニオブ化合物またはジカルボン酸を添加することにより、上記の範囲に含まれるようにすることができる。しかし通常この操作は必要でなく、上記予備的ニオブ含有水溶液または水性懸濁液におけるニオブ化合物の濃度、ニオブ化合物に対するジカルボン酸の量比および冷却温度を適宜制御することによって、ジカルボン酸/ニオブモル比が2〜4の範囲にある水性液(B)を得ることができる。
このようにして、水性液(B)を調製することができるが、水性液(B)には、以下のように、更に他の成分を添加することもできる。
即ち、ニオブ化合物を含む該水性液(B)(またはニオブ化合物とジカルボン酸を含む該水性液(B))の少なくとも一部を、過酸化水素との混合物として用いることが好ましい。この時、該過酸化水素の量が、該過酸化水素の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(H/Nbモル比)が0.5〜20の範囲となる量であることが好ましく、H/Nbモル比が1〜20の範囲となる量であることが更に好ましい。
更には、ニオブ化合物を含む該水性液(B)(またはニオブ化合物とジカルボン酸を含む該水性液(B))の少なくとも一部を、過酸化水素及びアンチモン化合物(例えば三酸化二アンチモン)との混合物として用いることも好ましい。この時、該過酸化水素の量が、該過酸化水素の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(H/Nbモル比)が0.5〜20の範囲となる量であることが好ましく、H/Nbモル比が1〜20の範囲となる量であることが更に好ましい。また、該水性液(B)の該少なくとも一部及び該過酸化水素と混合する該アンチモン化合物の量が、該アンチモン化合物の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(Sb/Nbモル比)が5以下となる量であることが好ましく、Sb/Nbモル比が0.01〜2の範囲となる量であることが更に好ましい。
目的とする触媒組成に合わせて、これら水性混合物(A)と水性液(B)を適切に混合して、水性原料混合物を得る。この水性原料混合物は通常はスラリーになる。水性原料混合物中の水性媒体の含量は通常50重量%以上100重量%未満、好ましくは70〜95重量%、更に好ましくは75〜90重量%である。
本発明の触媒がシリカ担持触媒の場合、シリカ原料(シリカゾルやフュームドシリカ)を含むように該水性原料混合物を調製する。シリカ原料の添加量は、得られる触媒中のシリカ担体の量にあわせて適宜調節することができる。
(乾燥工程)
原料調合工程で得られた水性原料混合物を乾燥することによって、乾燥触媒前駆体を得る。乾燥は公知の方法で行うことができ、例えば、噴霧乾燥または蒸発乾固によって行うことができる。噴霧乾燥を採用し、微小球状の乾燥触媒前駆体を得ることが好ましい。噴霧乾燥法における噴霧化は遠心方式、二流体ノズル方式、または高圧ノズル方式によって行うことができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気を用いることができる。噴霧乾燥装置の乾燥機入口温度は150〜300℃が好ましい。乾燥機出口温度は100〜160℃が好ましい。
(焼成工程)
乾燥工程で得られた乾燥触媒前駆体を焼成に供することによって触媒を得る。焼成装置は、回転炉(ロータリーキルン)、流動焼成炉などで実施することができる。乾燥触媒前駆体は静置したまま焼成されると、均一に焼成されず性能が悪化するとともに、割れ、ひびなどが生じる原因となる。
焼成は、得られる触媒の還元率が8〜12%、比表面積が5〜30m/gとなるように実施される。具体的には、該乾燥触媒前駆体を焼成し、その際、該乾燥触媒前駆体の加熱温度を、400℃より低い温度から昇温を始めて、550〜700℃の範囲内にある温度まで連続的にまたは断続的に昇温する焼成条件で行い、その際、加熱温度が400℃に達した時の焼成中の触媒前駆体の還元率が8〜12%となるように焼成条件を調節する。こうして、還元率が8〜12%であり、比表面積が5〜30m/gである触媒を得る。
焼成雰囲気は、空気雰囲気下もしくは空気流通下で実施することもできるが、焼成の少なくとも一部を、窒素などの実質的に酸素を含まない不活性ガスを流通させながら実施することが好ましい。
特に、前述した原料調合工程で、水性混合物(A)に過酸化水素を添加する方法を採用し、モリブデン、バナジウムをほぼ最高酸化数まで液中で酸化することを含む工程により水性原料混合物を得る場合は、乾燥触媒前駆体の焼成を、窒素などの実質的に酸素を含まない不活性ガスを流通させながら行うことが好ましい。乾燥触媒前駆体は、通常、水分の他、アンモニウム根、有機酸、無機酸などを含んでいる。実質的に酸素を含まない不活性ガスを流通させながら焼成する場合、これらが蒸発、分解などする際、触媒構成元素は還元される。乾燥触媒前駆体中の触媒構成元素がほぼ最高酸化数である場合、触媒の還元率を所望の範囲にするには、焼成工程において還元のみを実施すればよいので、工業的には簡便である。
一方、後述するように、還元率が所望の範囲になるように焼成雰囲気中に酸化性成分または還元性成分を添加しても良い。
焼成をバッチ式で行う場合は、不活性ガスの供給量は乾燥触媒前駆体1kg当たり、50Nリットル/Hr以上である。好ましくは50〜5000Nリットル/Hr、更に好ましくは50〜3000Nリットル/Hrである(Nリットルは、標準温度・圧力条件、即ち0℃、1気圧で測定したリットルを意味する)。
焼成を連続式で行う場合は、不活性ガスの供給量は乾燥触媒前駆体1kg当たり、50Nリットル以上である。好ましくは50〜5000Nリットル、更に好ましくは50〜3000Nリットルである。この時、不活性ガスと乾燥触媒前駆体は向流でも並流でも問題ないが、乾燥触媒前駆体から発生するガス成分や、乾燥触媒前駆体とともに微量混入する空気を考慮すると、向流接触が好ましい。
触媒の還元率については、一般的に、乾燥触媒前駆体に含有されるシュウ酸などの有機分の量や原料のアンモニウム塩に由来するアンモニウム根の量、焼成開始時の昇温速度、不活性ガス雰囲気下で焼成する場合は不活性ガスの量、また、空気雰囲気下で焼成する場合はその温度及び時間が影響を及ぼす。触媒の還元率を8〜12%とするためには、焼成において、400℃より低い温度から昇温を始めて、乾燥触媒前駆体中のシュウ酸根、アンモニウム根などを分解し、ガスの発生をほぼ終了させ、加熱温度が400℃に達した時の焼成中の触媒前駆体の還元率を8〜12%にすることが重要である。
また、触媒の比表面積については、最終的に焼成(加熱)される温度や時間、触媒がシリカに担持されている場合のシリカ担持量が影響するが、加熱温度が400℃に達した時の還元率と最終的な焼成温度が特に大きな影響を及ぼす。焼成の最終段階は550℃〜700℃、0.5時間〜20時間で実施される。最終的な焼成温度が高いほど、また時間が長いほど比表面積は小さくなる傾向にある。また、加熱温度が400℃に達した時の還元率が低いと、触媒の比表面積は小さくなり、加熱温度が400℃に達した時の還元率が高いと比表面積は高まる傾向にある。触媒の比表面積を5〜30m/gとするためには、加熱温度が400℃に達した時の還元率を8〜12%の範囲内とすることと、最終的な焼成温度を550℃〜700℃とすることが特に重要である。
焼成工程は、1段でも実施可能であるが、還元率が8〜12%であり比表面積が5〜30m/gである触媒を効率よく得るためには、該焼成が前段焼成と本焼成からなり、該前段焼成を250〜400℃の温度範囲で行い、該本焼成を550〜700℃の温度範囲で行うことが好ましい。前段焼成と本焼成を連続して実施しても良いし、前段焼成を一旦完了してからあらためて本焼成を実施しても良い。又、前段焼成及び本焼成のそれぞれが数段に分かれていても良い。
焼成中の触媒前駆体の還元率を測定する場合は、試料をその温度で焼成装置から取り出しても良いが、高温の場合、空気に接触することで酸化され、還元率が変化する場合があるので、室温に冷却した後、焼成装置から取り出したものを代表試料とすることができる。
加熱温度が400℃に達した時の還元率を所望の範囲に制御する方法としては、具体的には、前段焼成温度を変更する方法、焼成時の雰囲気中に酸素などの酸化性成分を添加する方法、または、焼成時の雰囲気中に還元性成分を添加する方法などが挙げられる。また、これらを組み合わせても良い。
前段焼成温度を変更する方法とは、前段焼成温度を変更することで、加熱温度が400℃に達した時の還元率を変える手法である。通常、前段焼成温度を下げると還元率は下がり、前段焼成温度を上げると還元率は上がる傾向を示すので、前段焼成温度を変化させて還元率を制御できる。
焼成においては、まず、乾燥触媒前駆体の加熱温度を、400℃より低い温度から昇温を始める。好ましくは250℃より低い温度から昇温を始める。
前段焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、加熱温度250℃〜400℃、好ましくは300℃〜400℃の範囲で行う。250℃〜400℃の温度範囲内の一定温度で保持することが好ましいが、250℃〜400℃範囲内で温度が変動したり、緩やかに昇温、降温されていても構わない。加熱温度の保持時間は30分以上、好ましくは3〜12時間が好ましい。
前段焼成温度に達するまでの昇温パターンは直線的に上げても良いし、上または下に凸なる弧を描いて昇温しても良い。
前段焼成温度に達するまでの昇温時の平均昇温速度には特に限定はないが、一般に0.1〜15℃/min程度であり、好ましくは0.5〜5℃/min、更に好ましくは1〜2℃/minである。
加熱温度が400℃に達した時の還元率を所望の範囲に制御するために、焼成時の雰囲気中に酸素などの酸化性成分を添加する方法とは、還元率を下げる時に用いることが出来る方法である。焼成時とは、前段焼成段階、本焼成段階、またはその両段階である。焼成時の雰囲気中に添加した酸化性成分とは、焼成装置に供給する不活性ガス中の酸化性成分を言う。酸化性成分の添加量は焼成装置に入る不活性ガス中の濃度で管理する。酸化性成分を添加することで、還元率を制御できる。酸化性成分が酸素の場合、空気(または空気を含む不活性ガス)を焼成装置に供給し、空気中の酸素を酸化性成分として利用できる。
加熱温度が400℃に達した時の還元率を所望の範囲に制御するために、焼成時の雰囲気中に還元性成分を添加する方法とは、還元率を上げる時に用いることが出来る方法である。焼成時とは、前段焼成段階、本焼成段階、またはその両段階である。焼成時の雰囲気中に添加した還元性成分とは、焼成装置に供給する不活性ガス中の還元性成分を言う。還元性成分の添加量は焼成装置に入る不活性ガス中の濃度で管理する。還元性成分を添加することで、還元率を制御できる。一般には還元性成分はアンモニアを用いることが出来る。
尚、加熱温度が400℃に達した時点での還元率が所望の還元率でなかった場合は、実際の還元率と、所望の還元率の差から、必要な酸化性物質または還元性物質の総量を算出し、焼成の雰囲気中に添加することができる。
本焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、550〜700℃、好ましくは580〜650℃で実施することができる。550〜700℃の温度範囲内の一定温度で保持することが好ましいが、550℃〜700℃の範囲内で温度が変動したり、緩やかに昇温、降温されていても構わない。本焼成の時間は0.5〜20時間、好ましくは1〜8時間である。なお、不活性ガス流通下の焼成雰囲気には、還元率を調節するため、所望により、酸化性成分(例えば酸素)または還元性成分(例えばアンモニア)を添加してもかまわない。
本焼成温度に達するまでの昇温パターンは直線的に上げても良いし、上または下に凸なる弧を描いて昇温しても良い。
本焼成温度に達するまでの昇温時の平均昇温速度には特に限定はないが、一般に0.1〜15℃/min、好ましくは0.5〜10℃/min、更に好ましくは1〜5℃/minである。
また、本焼成終了後の平均降温速度は0.01〜1000℃/min、好ましくは0.05〜100℃/min、更に好ましくは0.1〜50℃/min、特に好ましくは0.5〜10℃/minである。また、本焼成温度より低い温度で一旦保持することも好ましい。保持する温度は、本焼成温度より5℃、好ましくは10℃、更に好ましくは50℃低い温度である。保持する時間は、0.5時間以上、好ましくは1時間以上、更に好ましくは3時間以上、特に好ましくは10時間以上である。
還元率を求めるにあたり、上記式(2)における(n−n)の値は、試料をKMnOで酸化還元滴定することによって得られる。焼成終了前の触媒前駆体と焼成終了後の触媒のいずれについても、酸化還元滴定により(n−n)の値を求めることができる。しかし酸化還元滴定による測定は、焼成終了前の触媒前駆体と焼成終了後の触媒とでは条件が異なる。焼成終了前の触媒前駆体と焼成終了後の触媒のそれぞれについて、測定方法の一例を以下に示す。
焼成終了前の触媒前駆体については以下のようにして測定する。ビーカーに試料約200mgを精秤する。更に濃度が既知のKMnO水溶液を過剰量添加する。更に70℃の純水150ml、1:1硫酸(即ち、濃硫酸と水を容量比1/1で混合して得られる硫酸水溶液)2mlを添加した後、ビーカーに時計皿で蓋をし、70℃±2℃の湯浴中で1Hr攪拌し、試料を酸化させる。この時、KMnOは過剰に存在させており、液中には未反応のKMnOが存在するため、液色は紫色である事を確認する。酸化終了後、ろ紙にてろ過を行い、ろ液全量を回収する。濃度が既知のシュウ酸ナトリウム水溶液を、ろ液中に存在するKMnOに対し、過剰量添加し、液温が70℃となるように加熱攪拌する。液が無色透明になることを確認し、1:1硫酸2mlを添加する。液温を70℃±2℃に保ちながら攪拌を続け、濃度が既知のKMnO水溶液で滴定する。液色がKMnOによりかすかな淡桃色が約30秒続くところを終点とする。 全KMnO量、全Na量から、試料の酸化に消費されたKMnO量を求める。この値から、(n−n)を算出し、これに基づき還元率を求める。
焼成終了後の触媒については以下のようにして測定する。ビーカーに、瑪瑙(めのう)製乳鉢で擂り潰した触媒約200mgを精秤する。95℃の純水150ml、1:1硫酸(即ち、濃硫酸と水を容量比1/1で混合して得られる硫酸水溶液)4mlを添加する。液温を95℃±2℃に保ちながら攪拌を続け、濃度が既知のKMnO水溶液で滴定する。この時、液色がKMnO滴下により一時的に紫色となるが、紫色が30秒以上続かないように、ゆっくりと少量ずつKMnOを滴下する。また、水の蒸発により液量が少なくなるので、液量が一定になるように95℃の純水を追加する。液色がKMnOによりかすかな淡桃色が約30秒続くところを終点とする。 こうして、試料の酸化に消費されたKMnO量を求める。この値から、(n−n)を算出し、これに基づき還元率を求める。
また、上記の測定方法の他に、焼成終了前の触媒前駆体と焼成終了後の触媒のいずれについても、以下のようにして測定することもできる。試料の構成元素が揮発、逃散しない条件で、触媒前駆体または触媒が焼成された焼成温度よりも高い温度まで加熱し、酸素による完全酸化を行い、増加した重量(結合した酸素の量)を求め、これから(n−n)の値を求め、これに基づき還元率を求める。
本発明の優れた触媒は、このように簡便な方法で得ることができる。こうして得られた本発明の触媒を用いて、プロパンまたはイソブタンを分子状酸素と気相で反応させて、対応する不飽和カルボン酸(アクリル酸またはメタクリル酸)を製造することができる。また、本発明の触媒を用いて、プロパンまたはイソブタンをアンモニアおよび分子状酸素と気相で反応させて、対応する不飽和ニトリル(アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル)を製造することができる。
プロパンまたはイソブタンおよびアンモニアの供給原料は必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのガスを使用できる。
供給酸素源としては、空気、純酸素または純酸素で富化した空気を用いることができる。さらに、希釈ガスとしてヘリウム、ネオン、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気、窒素などを供給してもよい。
アンモ酸化反応の場合は、反応系に供給するアンモニアのプロパンまたはイソブタンに対するモル比は0.3〜1.5好ましくは0.8〜1.2である。
酸化反応とアンモ酸化反応のいずれについても、反応系に供給する分子状酸素のプロパンまたはイソブタンに対するモル比は0.1〜6、好ましくは0.1〜4である。
酸化反応とアンモ酸化反応のいずれについても、反応圧力は0.5〜5atm、好ましくは1〜3atmである。
酸化反応とアンモ酸化反応のいずれについても、反応温度は350℃〜500℃、好ましくは380℃〜470℃である。
酸化反応とアンモ酸化反応のいずれについても、接触時間は0.1〜10(sec・g/cc)、好ましくは0.5〜5(sec・g/cc)である。
本発明において、接触時間は次式で定義される。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)×273/(273+T)×P
但し、
W=触媒の重量(g)、
F=標準状態(0℃、1atm)での原料混合ガス流量(Ncc/sec)、
T=反応温度(℃)、そして
P=反応圧力(atm) である。
反応方式は、固定床、流動床、移動床など従来の方式を採用できるが、反応熱の除熱が容易で触媒層の温度がほぼ均一に保持できること、触媒を反応器から運転中に抜き出したり、触媒を追加することができるなどの理由から、流動床反応が最も好ましい。
工業的に反応を長期間安定に行うため、反応系中にモリブデン化合物を添加することが好ましい。モリブデン化合物は、モリブデン元素を含んでおれば、その種類に制約はないが、ハンドリング性、コストなどを考えると、触媒原料に用いたのと同じモリブデン化合物、特にヘプタモリブデン酸アンモニウムが好ましい。本発明の触媒を用いると、従来の触媒の場合よりも、モリブデン化合物の添加量を下げ、添加頻度も少なくする事が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明を、実施例と比較例によって更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例と比較例においては、プロパン転化率、アクリロニトリル選択率、アクリロニトリル収率、および活性は、それぞれ次の定義に従う。
プロパン転化率(%)=(反応したプロパンのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
アクリロニトリル選択率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(反応したプロパンのモル数)×100
アクリロニトリル収率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
活性(Hr−1)=
−3600/(接触時間)×ln((100−プロパン転化率)/100)
(式中、lnは自然対数を表す)
還元率の測定方法:
加熱温度が400℃に達した時の焼成中の触媒前駆体については、還元率は以下の方法で測定した。
ビーカーに試料約200mgを精秤する。更に濃度が既知のKMnO水溶液を過剰量添加する。更に70℃の純水150ml、1:1硫酸(即ち、濃硫酸と水を容量比1/1で混合して得られる硫酸水溶液)2mlを添加した後、ビーカーに時計皿で蓋をし、70℃±2℃の湯浴中で1Hr攪拌し、試料を酸化させる。この時、KMnOは過剰に存在させており、液中には未反応のKMnOが存在するため、液色は紫色である事を確認する。酸化終了後、ろ紙にてろ過を行い、ろ液全量を回収する。濃度が既知のシュウ酸ナトリウム水溶液を、ろ液中に存在するKMnOに対し、過剰量添加し、液温が70℃となるように加熱攪拌する。液が無色透明になることを確認し、1:1硫酸2mlを添加する。液温を70℃±2℃に保ちながら攪拌を続け、濃度が既知のKMnO水溶液で滴定する。液色がKMnOによりかすかな淡桃色が約30秒続くところを終点とする。 全KMnO量、全Na量から、試料の酸化に消費されたKMnO量を求める。この値から、式(2)中の(n−n)を算出し、これに基づき還元率を求める。
焼成終了後の触媒については、還元率は以下の方法で測定した。
ビーカーに、瑪瑙(めのう)製乳鉢で擂り潰した触媒約200mgを精秤する。95℃の純水150ml、1:1硫酸(即ち、濃硫酸と水を容量比1/1で混合して得られる硫酸水溶液)4mlを添加する。液温を95℃±2℃に保ちながら攪拌を続け、濃度が既知のKMnO水溶液で滴定する。この時、液色がKMnO滴下により一時的に紫色となるが、紫色が30秒以上続かないように、ゆっくりと少量ずつKMnOを滴下する。また、水の蒸発により液量が少なくなるので、液量が一定になるように95℃の純水を追加する。液色がKMnOによりかすかな淡桃色が約30秒続くところを終点とする。 こうして、試料の酸化に消費されたKMnO量を求める。この値から、式(2)中の(n−n)を算出し、これに基づき還元率を求める。
触媒の比表面積の測定方法:
比表面積測定装置Gemini2360(米国、マイクロメリティックス社製、輸入販売元:日本国、島津製作所)を用いてBET法により測定した。
(ニオブ原料液の調製)
日本国特開平11−253801号公報に倣って、以下の方法でニオブ原料液を調製した。水8450gにNbとして80.2重量%を含有するニオブ酸1290gとシュウ酸二水和物〔H・2HO〕4905gを混合した。仕込みのシュウ酸/ニオブのモル比は5.0、仕込みのニオブ濃度は0.532(mol−Nb/kg−液)である。
この液を95℃で1時間加熱撹拌することによって、ニオブ化合物が溶解した水溶液を得た。この水溶液を静置、氷冷後、固体を吸引濾過によって濾別し、均一なニオブ化合物水溶液を得た。同じような操作を数回繰り返して、得られたニオブ化合物水溶液を一つにし、ニオブ原料液とした。このニオブ原料液のシュウ酸/ニオブのモル比は下記の分析により2.40であった。
るつぼに、このニオブ原料液10gを精秤し、95℃で一夜乾燥後、600℃で1時間熱処理し、Nb0.8639gを得た。この結果から、ニオブ濃度は0.65(mol−Nb/kg−液)であった。
300mlのガラスビーカーにこのニオブ原料液3gを精秤し、約80℃の熱水200mlを加え、続いて1:1硫酸10mlを加えた。得られた溶液をホットスターラー上で液温70℃に保ちながら、攪拌下、1/4規定KMnO4を用いて滴定した。KMnOによるかすかな淡桃色が約30秒以上続く点を終点とした。シュウ酸の濃度は、滴定量から次式に従って計算した結果、1.56(mol−シュウ酸/kg)であった。
2KMnO+3HSO+5H→KSO+2MnSO+10CO+8H
得られたニオブ原料液を、以下の触媒製造においてニオブ原料液(B)として用いた。
【実施例1】
式がMo0.21Nb0.09Sb0.24/45wt%−SiOで示される触媒を次のようにして製造した。
(水性原料混合物の調製)
水4640gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を931.4g、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を128.8g、三酸化二アンチモン〔Sb〕を153.1g加え、攪拌しながら90℃で2.5時間加熱して水性混合物A−1とした。
ニオブ原料液(B)725.3gに、Hとして30wt%を含有する過酸化水素水154.4gを添加した。液温をおよそ20℃に維持しながら、三酸化二アンチモン〔Sb〕30.6gを徐々に添加した。その後、攪拌混合して、水性液B−1とした。
得られた水性混合物A−1を70℃に冷却した後にSiOとして30.6wt%を含有するシリカゾル1960gを添加した。更にHとして30wt%を含有する過酸化水素水178.2gを添加し、50℃で1時間撹拌混合した。次に水性液B−1を添加した。更に、平均一次粒子径が約12nmのフュームドシリカ300gを4500gの水に分散させた液を添加して水性原料混合物を得た。
(乾燥触媒前駆体の調製)
得られた水性原料混合物を、遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥触媒前駆体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、そして出口温度は120℃であった。
(焼成)
乾燥触媒前駆体480gを直径3インチのSUS製焼成管に充填し、1.5Nリットル/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、345℃まで約4時間かけて昇温し、345℃で4時間保持した。その後、640℃まで2時間で昇温し、640℃で2時間焼成して触媒を得た。400℃に達した時にサンプルを一部還元されないように抜き出し、還元率を測定したところ、10.3%であった。
また、焼成後の触媒の還元率を測定したところ、10.3%であった。
焼成後の触媒の比表面積を、上記比表面積測定装置Gemini2360を用いてBET法により測定したところ、16m/gであった。
【実施例2】
式がMo0.21Nb0.09Sb0.24/45wt%−SiOで示される触媒を次のようにして製造した。
(水性原料混合物の調製)
水4640gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を931.4g、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を128.8g、三酸化二アンチモン〔Sb〕を183.8g加え、攪拌しながら90℃で2.5時間加熱して水性混合物A−2とした。
ニオブ原料液(B)725.3gに、Hとして30wt%を含有する過酸化水素水106.9gを添加し、攪拌混合して、水性液B−2とした。
得られた水性混合物A−2を70℃に冷却した後にSiOとして30.6wt%を含有するシリカゾル1960gを添加した。更にHとして30wt%を含有する過酸化水素水213.8gを添加し、50℃で1時間撹拌混合した。次に水性液B−2を添加した。更に、平均一次粒子径が約12nmのフュームドシリカ300gを4500gの水に分散させた液を添加して水性原料混合物を得た。
(乾燥触媒前駆体の調製)
得られた水性原料混合物を、遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥触媒前駆体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、そして出口温度は120℃であった。
上記操作を5回繰り返し、乾燥触媒前駆体を集めて焼成を実施した。
(焼成)
乾燥触媒前駆体を80g/Hrの供給量で直径3インチ、長さ89cmの焼成管を有する連続式SUS製焼成器に供給した。1.5Nリットル/minの窒素ガスを向流(乾燥触媒前駆体の供給方向と対向する方向)で流通した。管を回転させながら、345℃まで約4時間かけて昇温し、345℃で4時間保持できるよう炉の温度を設定した。焼成管出口で前段焼成終了品を回収した。回収した前段触媒焼成品を少量サンプリングし、窒素雰囲気下400℃に加熱した後、還元率を測定したところ、10.4%であった。
回収した前段焼成終了品を1.5Nリットル/minの窒素ガス流通下、130g/Hrで直径3インチ、長さ89cmの焼成管を有する連続式SUS製焼成器に供給した。640℃まで約4時間で昇温し、640℃で2時間焼成できるよう炉の温度を設定した。焼成管出口より触媒を得た。焼成後の触媒の還元率、比表面積を測定したところ、10.4%、17m/gであった。
【実施例3】
実施例2で得られた乾燥触媒前駆体を、実施例1と同様に焼成を行った。但し、前段焼成温度を350℃、本焼成温度を620℃とした。400℃に達した時にサンプルを一部還元されないように抜き出し、還元率を測定したところ、10.8%であった。焼成後の触媒の還元率、比表面積を測定したところ、10.8%、19m/gであった。
比較例1
式がMo0.21Nb0.09Sb0.24/45wt%−SiOで示される触媒を次のようにして製造した。
(水性原料混合物の調製)
水4640gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を931.4g、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を128.8g、三酸化二アンチモン〔Sb〕を183.8g加え、攪拌しながら90℃で2.5時間加熱して水性混合物A−3とした。
ニオブ原料液(B)725.3gを、水性液B−3とした。
得られた水性混合物A−3を70℃に冷却した後にSiOとして30.6wt%を含有するシリカゾル1960gを添加した。次に水性液B−3を添加した。更に、平均一次粒子径が約12nmのフュームドシリカ300gを4500gの水に分散させた液を添加して水性原料混合物を得た。
(乾燥触媒前駆体の調製)
得られた水性原料混合物を、遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥触媒前駆体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、そして出口温度は120℃であった。
(焼成)
乾燥触媒前駆体480gを直径3インチのSUS製焼成管に充填し、1.5Nリットル/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、345℃まで約4時間かけて昇温し、345℃で4時間保持した。その後、660℃まで2時間で昇温し、660℃で2時間焼成して触媒を得た。400℃に達した時にサンプルを一部還元されないように抜き出し、還元率を測定したところ、15.4%であった。焼成後の触媒の還元率、比表面積を測定したところ、15.5%、25m/gであった。
比較例2
式がMo0.21Nb0.09Sb0.24/45wt%−SiOで示される触媒を次のようにして製造した。
(水性原料混合物の調製と乾燥触媒前駆体の調製)
比較例1と同様に実施して、乾燥触媒前駆体を得た。
(焼成)
乾燥触媒前駆体480gを直径3インチのSUS製焼成管に充填し、1.5Nリットル/minの空気流通下、管を回転させながら、400℃まで約4時間かけて昇温し、400℃で4時間保持した。その後、640℃まで2時間で昇温し、640℃で2時間焼成して触媒を得た。400℃に達した時にサンプルを一部還元されないように抜き出し、還元率を測定したところ、1.1%であった。焼成後の触媒の還元率、比表面積を測定したところ、1.0%、11m/gであった。
比較例3
実施例2で得られた乾燥触媒前駆体を、実施例1と同様に焼成を行った。但し、前段焼成温度を460℃、本焼成温度を640℃とした。400℃に達した時にサンプルを一部還元されないように抜き出し、還元率を測定したところ、13.2%であった。焼成後の触媒の還元率、比表面積を測定したところ、13.2%、21m/gであった。
比較例4
実施例2で得られた乾燥触媒前駆体を、実施例1と同様に焼成を行った。但し、前段焼成温度を350℃、本焼成温度を500℃とした。400℃に達した時にサンプルを一部還元されないように抜き出し、還元率を測定したところ、10.8%であった。焼成後の触媒の還元率、比表面積を測定したところ、10.8%、45m/gであった。
比較例5
実施例2で得られた乾燥触媒前駆体を、実施例1と同様に焼成を行った。但し、前段焼成温度を350℃、本焼成温度を800℃とした。400℃に達した時にサンプルを一部還元されないように抜き出し、還元率を測定したところ、10.7%であった。焼成後の触媒の還元率、比表面積を測定したところ、10.8%、4m/gであった。
【実施例4】
実施例2で得られた乾燥触媒前駆体を、実施例1と同様に焼成を行った。但し、酸素400ppmを含む窒素を用い、前段焼成温度を460℃、本焼成温度を640℃とした。400℃に達した時にサンプルを一部還元されないように抜き出し、還元率を測定したところ、11.0%であった。焼成後の触媒の還元率、比表面積を測定したところ、11.1%、18m/gであった。
【実施例5】
(触媒の活性評価)
内径10mmの固定床式反応管に、実施例1で得られた触媒を2.0g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1.2:2.8:11のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で通過させた。結果を表1に示す。
(触媒の収率評価)
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に、実施例1で得られた触媒を45g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3.2:12のモル比の混合ガスを接触時間3.2(sec・g/cc)で通過させた。
反応開始後、1600Hr後に、ヘプタモリブデン酸アンモニウム0.1gを1回、反応中の系内に添加した。結果を表2に示す。
【実施例6】
(触媒の活性評価)
実施例2で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に活性評価のための反応を実施した。結果を表1に示す。
(触媒の収率評価)
実施例2で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に収率評価のための反応を実施した。結果を表2に示す。
【実施例7】
(触媒の活性評価)
実施例3で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に活性評価のための反応を実施した。結果を表1に示す。
(触媒の収率評価)
実施例3で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に収率評価のための反応を実施した。結果を表2に示す。
比較例6
(触媒の活性評価)
比較例1で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に活性評価のための反応を実施した。結果を表1に示す。
(触媒の収率評価)
比較例1で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に収率評価のための反応を実施した。但し、収率が低いため、24時間で終了した。結果を表2に示す。
比較例7
(触媒の活性評価)
比較例2で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に活性評価のための反応を実施した。結果を表1に示す。
(触媒の収率評価)
比較例2で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に収率評価のための反応を実施した。但し、収率が低いため、24時間で終了した。結果を表2に示す。
比較例8
(触媒の活性評価)
比較例3で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に活性評価のための反応を実施した。結果を表1に示す。
(触媒の収率評価)
比較例3で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に収率評価のための反応を実施した。反応開始後、100Hr後と200Hr後に、ヘプタモリブデン酸アンモニウムを0.1gづつ、反応中の系内に添加した。結果を表2に示す。
比較例9
(触媒の活性評価)
比較例4で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に活性評価のための反応を実施した。結果を表1に示す。
(触媒の収率評価)
比較例4で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に収率評価のための反応を実施した。但し、収率が低いため、24時間で終了した。結果を表2に示す。
比較例10
(触媒の活性評価)
比較例5で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に活性評価のための反応を実施した。結果を表1に示す。
(触媒の収率評価)
比較例5で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に収率評価のための反応を実施した。但し、収率が低いため、24時間で終了した。結果を表2に示す。
【実施例8】
(触媒の活性評価)
実施例4で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に活性評価のための反応を実施した。結果を表1に示す。
(触媒の収率評価)
実施例4で得られた触媒を用いて、実施例5と同様に収率評価のための反応を実施した。結果を表2に示す。


【産業上の利用可能性】
本発明の酸化物触媒は、目的生成物の選択率および収率が高く、長時間の反応においても収率低下が少ないので、本発明の酸化物触媒を用いてプロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応を行なうと、長期間にわたり高収率で安定的に不飽和カルボン酸または不飽和ニトリル((メタ)アクリル酸または(メタ)アクリロニトリル)を製造することができる。また、本発明の触媒は経時的な収率低下が少ないので、モリブデンの揮発や逃散による触媒劣化を防いで収率を維持するために行われるモリブデン化合物の添加において、その添加量や添加回数が少なくてすみ、経済的に有利である。更に、本発明の酸化物触媒は活性が適度であるため、反応に必要な触媒量が多すぎて反応器に過大な荷重が掛かることもなく、また、反応熱が高くなり過ぎて十分な除熱が不可能になることもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロパンまたはイソブタンの気相接触酸化反応または気相接触アンモ酸化反応に用いる触媒であって、下記式(1)で表される酸化物を包含し、
下記式(2)で定義される還元率が8〜12%であり、比表面積が5〜30m/gである、
ことを特徴とする触媒。
MoNbSb (1)
(式中:
a、b、c及びnは、それぞれ、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、アンチモン(Sb)及び酸素(O)のモリブデン(Mo)1原子に対する原子比を表し、
0.1≦a≦1、
0.01≦b≦1、
0.01≦c≦1 であり、そして
nは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。)
還元率(%)=((n−n)/n)×100 (2)
(式中:
nは式(1)において定義されている通りであり、
は式(1)の該酸化物の酸素以外の構成元素がそれぞれの最高酸化数を有する時に必要な酸素原子の数である。)
【請求項2】
式(1)中のa、b、cが以下の通りであることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
0.1≦a≦0.3、
0.05≦b≦0.2、
0.1≦c≦0.3
【請求項3】
更にシリカ担体を包含し、該酸化物が、該酸化物とシリカ担体の合計重量に対してSiO換算で20〜60重量%のシリカ担体に担持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
式(2)中のnが4〜5であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の触媒。
【請求項5】
請求項1の触媒の製造方法であって、
モリブデン化合物、バナジウム化合物、ニオブ化合物及びアンチモン化合物を含む水性原料混合物を提供し、
該水性原料混合物を乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして
該乾燥触媒前駆体を焼成し、その際、該乾燥触媒前駆体の加熱温度を、400℃より低い温度から昇温を始めて、550〜700℃の範囲内にある温度まで連続的にまたは断続的に昇温する焼成条件で行い、その際、加熱温度が400℃に達した時の焼成中の触媒前駆体の還元率が8〜12%となるように焼成条件を調節する、但し、該還元率は、請求項1において定義されている通りであり、
こうして、還元率が8〜12%であり、比表面積が5〜30m/gである触媒を得る、
ことを包含することを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項6】
該水性原料混合物が、モリブデン化合物、バナジウム化合物及びアンチモン化合物を含む水性混合物(A)と、ニオブ化合物を含む水性液(B)とを混合して得られることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該水性混合物(A)が、モリブデン化合物、バナジウム化合物及びアンチモン化合物を水性溶媒中で50℃以上で加熱して得られることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該加熱後に、過酸化水素を該水性混合物(A)に添加することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該過酸化水素の量が、該過酸化水素の、アンチモン換算の該アンチモン化合物に対するモル比(H/Sbモル比)が0.01〜20の範囲となる量であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該水性液(B)が、ニオブ化合物に加えてジカルボン酸を含み、該ジカルボン酸の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(ジカルボン酸/Nbモル比)が1〜4の範囲であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項11】
ニオブ化合物を含む該水性液(B)の少なくとも一部を、過酸化水素との混合物として用いることを特徴とする請求項6または10に記載の方法。
【請求項12】
該過酸化水素の量が、該過酸化水素の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(H/Nbモル比)が0.5〜20の範囲となる量であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ニオブ化合物を含む該水性液(B)の少なくとも一部を、過酸化水素及びアンチモン化合物との混合物として用いることを特徴とする請求項6または10に記載の方法。
【請求項14】
該過酸化水素の量が、該過酸化水素の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(H/Nbモル比)が0.5〜20の範囲となる量であり、
該水性液(B)の該少なくとも一部及び該過酸化水素と混合する該アンチモン化合物の量が、該アンチモン化合物の、ニオブ換算の該ニオブ化合物に対するモル比(Sb/Nbモル比)が5以下となる量であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該焼成の少なくとも一部を不活性ガス雰囲気下で行い、その際、
焼成をバッチ式で行う場合は、不活性ガス供給量が、乾燥触媒前駆体1kg当たり、50Nリットル/Hr以上であり、
焼成を連続式で行う場合は、不活性ガス供給量が、乾燥触媒前駆体1kg当たり、50Nリットル以上である
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項16】
該焼成が前段焼成と本焼成からなり、該前段焼成を250〜400℃の温度範囲で行い、該本焼成を550〜700℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項5または15に記載の方法。
【請求項17】
加熱温度が400℃に達した時の焼成中の触媒前駆体の還元率が8〜12%となるように、焼成時の雰囲気中に酸化性成分または還元性成分を添加することを特徴とする請求項5、15または16に記載の方法。
【請求項18】
該酸化性成分が酸素ガスであることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該還元性成分がアンモニアであることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
請求項1の触媒の存在下にプロパンまたはイソブタンを気相で分子状酸素と反応させることを包含する、アクリル酸またはメタクリル酸の製造方法。
【請求項21】
請求項1の触媒の存在下にプロパンまたはイソブタンを気相でアンモニア及び分子状酸素と反応させることを包含する、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。

【国際公開番号】WO2004/108278
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500572(P2005−500572)
【国際出願番号】PCT/JP2003/007274
【国際出願日】平成15年6月9日(2003.6.9)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】