説明

酸化ガドニウム溶射皮膜とその製造法

【課題】酸化ガドニウム粉末とアナターゼ型チタニア粉末を使用して溶射によりセラミックス皮膜を製造する場合、プラズマ溶射を用いた場合は、フレーム温度が15000℃から30000℃にもなる。また従来のフレーム溶射はフレーム温度が2200℃から3400℃になり粉末が容易に溶融し、また昇華、分解することにより、溶射粉末と異なる変態した皮膜、組成が変わる皮膜となる。低温で溶射することにより要求を満足する蛍光性と光触媒によう洗浄性を有する優れた溶射皮膜を得る安価な方法を提供する。
【解決手段】 従来のフレーム溶射と異なり、ガンの燃焼室の後に、溶射粉末と燃焼ガスを供給ノズルからフレームの軸に向けて燃焼ガスとスラリー状溶射微粉末を噴射し、燃焼室に導入の酸素量と供給ノズルから導入する燃焼ガスとの容量を調整してフレーム中に存在するセラミックス微粉末の温度を制御し、また燃焼生成ガスにより加速して、要求蛍光性と高温での密着性、および光触媒による洗浄性を有する溶射皮膜を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光体、耐熱性、光触媒性などの機能を有する酸化ガドニウム皮膜と溶射による製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属・合金、セラミックスは温度が変化することにより変態し特性が変わる。処理温度が高い表面改質プロセスにおいて、常温での材料特性が高温処理によって変態し別の特性に変わる。特に溶射プロセスでは電気式溶射法のプラズマ溶射では4000℃から30000℃、ガス式溶射法2200℃から3400℃でその温度以下で制御して溶射することは困難である。材料が変態しない温度で精度良く制御して、皮膜構成を変化させて溶射する方法が強く望まれている。
蛍光体は塗料と混ぜて塗装されているので塗料の使用温度以上、例えば350℃以上で塗料が燃えて用いられない。また、蛍光体は大気中に暴露されると、塵、ごみなどが付着して蛍光性機能を損なう。光触媒のアナターゼTiO2は洗浄効果があるが、高温溶射のためルチルTiO2に変態して機能を満足しない。

【特許文献1】特開平10―60617 フレーム温度2200から3400℃、内部から粉末を供給
【特許文献2】特開2006-108178 Al2O3粒子プラズマ溶射未溶融のまま
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
溶射プロセス
Ar+水素、Ar+窒素、He+水素などの作動ガスを用いるプラズマ溶射はフレーム温度が15000℃から30000℃にもなる。一方燃料と酸素を用いる従来のフレーム溶射において、酸素/灯油、空気/灯油、酸素/水素、酸素/プロピレン、酸素/プロパン、酸素/エチレン、酸素/アセチレン、酸素/天然ガスのいずれかの混合ガスを用いて燃焼させ熱を発生させる。フレーム温度は2200℃から3400℃になり、連続燃焼反応であるので、それ以下の温度に制御するのは非常に困難である。
【0004】
粉末供給装置
セラミックスのような熱伝導性の低い材料を瞬間的に加熱し、溶融する場合は粉末の粒度が細かいほうが優れている。また溶射粉末が細かいと皮膜の面粗さは細かく、後の表面の仕上げ工程は省略できる利点がある。しかし粒径0.1μmから10μmの微粉末は凝集し易く、送給は困難である。
【0005】
溶射方法
溶射材料
比較的低温で溶解する材料系、変態する材料系、昇華する材料系はフレーム温度に注意する必要がある。Gd2O3の融点は2310℃である。アナターゼTiO2は700℃から800℃でルチルTiO2に変態する。またその融点は1840℃である。
【0006】
蛍光色を発し、その耐久性を増すために、光触媒を添加して被覆することにより、洗浄効果が出て埃の付着を防ぐ。
【0007】
溶射プロセス
プラズマ溶射のフレーム温度15000℃から30000℃ではGd2O3、アナターゼTiO2は溶融して被覆困難である。 一方従来のフレーム溶射のフレーム温度2500℃から3400℃範囲でも同様溶融して皮膜の蛍光性、光触媒性を損なう。
【0008】
溶射皮膜構成
蛍光性を持たせる皮膜構成においては緻密な皮膜が良い。従来のフレーム溶射において、フレーム温度を安定して2200℃以下に下げたり、セラミックスの微粉末がフレームに投入された部位での雰囲気温度を細かく制御したりして、緻密皮膜を被覆することは困難である。
[課題を解決するための手段]
【0009】
本発明に係わる、溶射方法は酸素/灯油、空気/灯油、酸素/水素、酸素/プロピレン、酸素/プロパン、酸素/エチレン、酸素/アセチレン、酸素/天然ガスを用いるフレーム溶射ガンにおいてガン先端筒をガン先端に取り付け、先端筒の円筒軸に向かって180°対象の位置2箇所、或いは90°の位置に4箇所に粉末供給ノズルを設置する。
【0010】
溶射微粉末は狭い搬送チューブの中でブリッジを造り、安定した供給はできないので、微粉末をスラリー状にして搬送する。セラミックスの微粉末粒径0.1μmから10μmの微粉末を用いてエチルアルコール、メチルアルコールや灯油を溶媒にして攪拌し混ぜスラリー状にする。なお、粒径10μm以上の粉末が存在してもスラリー状化可能である。ポンプでチューブに送り、チューブのY字ユニオンからC2H2ガスを送付し混合する。 スラリー状粉末とC2H2ガスの混合物が粉末供給ノズルに搬送される。
【0011】
溶射微粉末をスラリー状にする溶媒としてエチルアルコール、メチルアルコール、灯油を用い、また可燃ガスとしてC2H2を用いて混合物とすることにより、いずれも酸素量が多い時は燃焼して発熱し、少ない時は燃焼しないで冷却する特徴があり、このバランスにより微粉末を溶かしたり、加熱したりして温度を調整する。
【0012】
燃料に対して酸素が理論酸素量より多いと、燃焼ガスは酸素を含み、上記粉末供給ノズルから搬送されるC2H2(アセチレン)ガスやアルコールと反応して発熱する。他方、燃料に対して酸素量が理論酸素量より少ないと、燃えない燃料が含まれ温度を下げる。また上記粉末供給ノズルから搬送されるてくるC2H2(アセチレン)ガスやアルコール類も燃焼しないで、フレームを冷却する。従って、酸素量が理論酸素量以上は溶射材料を高温で加熱し、逆に酸素量が理論酸素量以下の場合は溶射材料を低温で加熱する。
参考:C12H26+37/2O2→12CO2+13H2O
【0013】
溶射条件因子として灯油或いは燃焼ガスと酸素の比率、その全体量、溶射距離、ガン先端筒における粉末供給ノズルのガンからの距離、C2H2供給量、スラリー供給量があり、それらのバランスで溶射加熱粒子或いは溶融粒子のフレームの雰囲気温度や溶射加熱粒子或いは溶融粒子の速度を制御し、目標にあった皮膜構成に造り込む。
【0014】
例えば、燃料として灯油/酸素の混合体を使用する場合の溶射条件は、酸素ガスを圧力0.5 〜1.5MPa、流量400〜1400リットル/分に、灯油圧力0.4〜1.4 MPa、流量0.2〜0.5リットル/分、圧縮空気を圧力0.2 〜1.5MPa、500〜1000リットル/分に、スラリー状粉末供給量.100 〜900グラム/分、C2H2(アセチレン)圧力0.1 〜1.5MPa、20〜600リットル/分にする。溶射距離はガン先端筒先から70mm〜400mmにする。
【0015】
燃料としてアセチレン/酸素の混合体を使用する場合の溶射条件は、酸素ガスを圧力0.15 〜0.3MPa、流量
30〜70リットル/分にアセチレン圧力0.10〜0.24MPa、流量15〜55リットル/分、圧縮空気を圧力0.2 〜1.5MPa、100〜1500リットル/分に、スラリー状粉末供給量. 100〜900グラム/分、C2H2(アセチレン)圧力0.3〜1.5MPa、60〜600リットル/分にする。溶射距離はガン先端筒先から50mm〜300mmにする。
【発明の効果】
【0016】
フレーム温度を下げて、温度を精度良く制御し、酸化物Gd2O3、酸化物Gd2O3+アナターゼTiO2の溶射が可能となった。複合化により、洗浄効果で常にクリーンな蛍光体の発色が可能になった。
【0017】
簡素な粉末供給システムと使用溶媒とガスにより微粉末の供給が可能となった。微粉末を用いた溶射皮膜ができ、表面粗さを細かくして表面仕上げ工程を省略できるようになった。そのためコスト増加を抑えることが可能となった。
【0018】
フレーム温度を下げて、温度を精度良く制御し、溶射皮膜構成を緻密、気孔、ラメラー、或いは球状未溶融粒子+溶融混合皮膜の形成を可能にし、今まで不可能であった機能性を有する皮膜が得られるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1の模式図に示すようにフレーム溶射ガン1は燃焼室2を有し、酸素通路2から酸素ガスを導入し、
燃料通路4から灯油、アセチレン、プロピレン、プロパン、エチレン、天然ガスなどの燃焼ガスや燃料液を導入する。燃焼室2で燃料と酸素は混合され、ガンノズル5に導かれ、点火されると燃焼する。ガンノズルにはその内部に圧縮空気通路6を有し、圧縮空気がガン先端筒9の内面を層流に流れ、溶射粉末がガン先端筒9内面に凝着しないように構成されている。
【0020】
ガン先端筒9には粉末供給ノズル7がガン先端筒9の軸に向かって設置されている。その粉末供給ノズル7はガス/溶射粉末通路8を有している。 スラリー状粉末とC2H2ガスとの混合物を粉末供給ノズル7に導入され、上記燃焼ガスのフレームの内部に噴射する。
【0021】
燃料に対して理論酸素量が多いと、燃焼ガスは酸素を含み、ガン先端筒9部の内面において、フレーム温度が上がり、溶射粉末が高温に加熱される。燃料に対して理論酸素量が少ないと、ガン先端筒9部の内面において、C2H2ガスが燃焼せずに冷却され、溶射粉末が低温で加熱される。ガンノズル5とガン先端筒9の内径が狭くなっているので、燃焼ガスの速度が速くなり、加熱粒子或いは溶融粒子は加速されて基材11に衝突し、皮膜10を形成する。
【0022】
蛍光性と耐熱性と光触媒性を必要とする、Gd2O3、アナターゼTiO2微粉末を用いた図2のラメラー層からなる緻密な皮膜構成を造るのが望ましい。アナターゼTiO2は700℃から800℃でルチルTiO2に変態するので極力低温で、フレーム温度を保持し、加速して被覆する必要がある。
本発明を実施例で詳しく説明する。
【実施例1】
【0023】
100mm×100mm×板厚さ2mmのSUS304の試験片を使用した。皮膜を形成する前に予め洗浄し粗面化処理としてグリットブラスト処理をおこなう。アルミナグリット60メッシュを用いて0.5Mpa程度の圧力で試験片基材に吹き付ける。ブラスト後の表面粗さRa10〜15μmであった。
【0024】
図1に示す溶射ガンを用いて粉末とアセチレンガスを止めて、燃焼させ、試験片を50℃から150℃に加熱して予熱処理を行った。この処理により湿気、水、水蒸気を除去した。
【0025】
Gd2O3微粉末粒径1μmから5μmを用いてエチルアルコールと混ぜる。Gd2O3嵩容量1に対して、エチルアルコールの容量1.5を容器に入れて撹拌しスラリー状にする。これらの混合物はスラリー搬送チューブを通じて、チューブのY字ユニオンからアセチレンを混合させガス/粉末通路8に導入される。
ガン先端筒先から試験片基材の距離を150mmに保ち、ガンの軸と試験片面を垂直に保持する。即ち、溶射距離は150mmにする。下記にまとめて溶射条件を示す。
[溶射施工条件]
【0026】
燃料灯油:圧力0.8MPa, 流量 0.4リットル/分
酸素ガス:圧力1.0MPa, 流量 700リットル/分
圧縮空気:圧力0.5MPa, 流量 600 リットル/分
粉末供給量:Gd2O3+エチルアルコール:500g/分
アセチレンガス:圧力0.3MPa, 流量 60 リットル/分
【0027】
このようにして得られた試験片基材への溶射皮膜の厚さは80μmであり、表面粗さはRa1〜4μmであった。この皮膜断面の組織は図5に示す。若干気孔を含んだラメラー層を有する組織である。
またこの皮膜をX線回折装置で調べた結果を図4に示す。Gd2O3が検出された。
上記Gd2O3皮膜の外観写真を図6に示す。この試験片にブラックライトで光を当て図7のような蛍光色を確認した。また、大気中で上記皮膜を有する試験片から切り出し、室温から900℃に昇温して、5分間保持し、空冷した。その結果は900℃以下であれば剥離をしなかった。350℃以上900℃以下に曝された環境でもGd2O3皮膜の蛍光性を保持されていることを確認した。また上記皮膜を有する試験片から切り出し600℃加熱、5分間保持し、空冷したGd2O3皮膜をブラックライトで光を当て蛍光色を発している試験片を図8に示す。
【実施例2】
【0028】
100mm×100mm×板厚さ2mmのSUS304の試験片を使用した。皮膜を形成する前に予め洗浄し粗面化処理としてグリットブラスト処理をおこなう。アルミナグリット60メッシュを用いて0.5Mpa程度の圧力で試験片基材に吹き付ける。ブラスト後の表面粗さRa10〜15μmであった。図1に示す溶射ガンを用いて粉末とアセチレンガスを止めて、試験片を50℃から150℃加熱して予熱処理を行った。この処理により湿気、水、水蒸気を除去した。
【0029】
Gd2O3粒径1μmから5μmの粉末嵩容量1に対してアナターゼTiO2微粉末1μmから5μmの粉末嵩容量30%混合物を用いてメチルアルコールと混ぜる。上記Gd2O3とアナターゼTiO2の混合粉末嵩容量1に対して、メチルアルコールの容量1を容器に入れて撹拌しスラリー状にする。これらの混合物はスラリー搬送チューブを通じて、チューブのY字ユニオンからアセチレンを混合させガス/粉末通路8に導入される。
【0030】
ガン先端筒先から試験片基材の距離を150mmに保ち、ガンの軸と試験片面を垂直に保持する。即ち、溶射距離は150mmにする。下記にまとめて溶射条件を示す。
[溶射施工条件]
【0031】
燃料灯油:圧力0.9MPa, 流量 0.45リットル/分
酸素ガス:圧力1.0MPa, 流量 700リットル/分
圧縮空気:圧力0.4MPa, 流量 480リットル/分
粉末供給量Gd2O3とアナターゼTiO2+メチルアルコール:450g/分
アセチレン:圧力0.4MPa, 流量 80リットル/分
【0032】
このようにして得られた試験片基材への溶射皮膜の厚さは100 μmであり、表面粗さはRa1〜4μmであった。この皮膜断面の組織は図に示されていないが、若干気孔を含んだラメラー層を有する組織である。
またこの皮膜をX線回折装置で調べた結果はGd2O3とアナターゼTiO2が検出された。
上記Gd2O3皮膜をブラックライトで光を当て蛍光色を確認した。また長期間大気中に暴露しアナターゼTiO2の洗浄効果が確認できた。

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のフレーム溶射方法を実施するための溶射ガンの模式図
【図2】溶射皮膜断面のラメラー層の模式図
【図3】溶射皮膜断面の気孔を含むラメラー層の模式図
【図4】Gd2O3のX線回折チャート
【図5】Gd2O3皮膜断面写真
【図6】Gd2O3溶射皮膜外観写真
【図7】溶射した状態のGd2O3皮膜の蛍光を発している外観写真
【図8】Gd2O3皮膜を600℃×5分保持後の蛍光を発している外観写真
【符号の説明】
【0034】
1 フレーム溶射ガン
2 燃焼室
3 酸素通路
4 燃料通路
5 ガンノズル
6 圧縮空気通路
7 粉末供給ノズル
8 スラリー状溶射粉末+C2H2:ガス/粉末通路
9 ガン先端筒
10 溶射皮膜
11 基材
12 ラメラー
13 気孔
14 球状未溶融粒子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料と酸素を用いるフレーム溶射において、酸素/灯油、空気/灯油、酸素/水素、酸素/プロピレン、酸素/プロパン、酸素/エチレン、酸素/アセチレン、酸素/天然ガスのいずれかの混合ガスを用いてフレームを発生させる。
フレームの後方に粉末供給用ノズルを設置する。そのノズルから微粉末溶射粉末や或いはスラリー状にした溶射粉末と燃焼ガスとしてアセチレンからなる混合物を噴射する。その際、燃焼室の酸素量、ノズルからのアセチレン量を調整して溶射粉末の温度を制御して被覆する溶射方法。
【請求項2】
上記請求項の溶射微粉末をスラリー状にする媒体として、エチルアルコール、メチルアルコ
ール、灯油を用いる。
【請求項3】
上記請求項の溶射材料としてGd2O3とアナターゼTiO2の混合物からなるセラミックスにおいて、Gd2O3粉末嵩容量に対してアナターゼTiO2が粉末嵩容量で0から70%を含む。
【請求項4】
上記請求項により形成されたGd2O3とアナターゼTiO2混合物皮膜からなり、緻密、気孔、ラメラー、或いは球状+溶融混合などの構造において単体や複合構造をとり、単層や組み合わせられる2層構造を特徴とする皮膜。
【請求項5】
上記請求項の形成された皮膜は蛍光性、耐熱性、光触媒性機能を有することを特徴とする皮
膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−161800(P2009−161800A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340382(P2007−340382)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(307048550)リバストン工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】