説明

酸化スズ含有ガラス

【課題】透明性に優れるとともに、比較的長波長の励起光によっても発光強度に優れる酸化スズ含有ガラスを提供する。
【解決手段】酸化ケイ素、および所望によりホウ酸を含んでなる透明ガラス母体に、SnOが添加されてなる酸化スズ含有ガラスであって、前記SnOが、ガラス中に3〜35mol%含有されている、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、酸化スズを含有したガラスに関し、より詳細には、紫外線照射により白色発光するガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
発光性材料として用いられている材料として、単結晶材料、セラミックス材料、ガラス材料等が知られている。例えば、発光性の単結晶材料として、ZnS、ZnO、AlGaN、CeO添加YAG結晶等が使用されている。しかしながら、発光体を製造する工程が複雑であり、コストが高いといった問題がある。
【0003】
ガラスを使用した発光性材料としては、蛍光体をガラスに含有させた発光ガラスが知られている。例えば、特開平8−133780号公報(特許文献1)には、蛍光剤としてテルビウムまたはユロピウムなどの希土類元素を含むリン酸塩蛍光材料をガラスに添加した発光ガラスが提案されている。しかしながら、この発光ガラスは蛍光剤として高価な希土類元素を用いるため、大型の発光ガラスに適用するには、コストの観点から実用性に欠ける場合があった。また、この発光性ガラスは、発光ガラスの発光強度を向上させるために蛍光体の添加量を増加させると、ガラス自体が不透明になる場合があった。
【0004】
また、希土類以外の蛍光材料を用いた発光ガラスとして、特開平10−167755号公報(引用文献2)には、銅含有青色蛍光ガラスが提案されている。この蛍光ガラスは、ガラス製造工程において、ガラス原料を還元雰囲気で溶融することにより2価の銅イオンの生成を抑制し、安定した1価の銅イオンを生成することで、青色の蛍光を呈するガラスを実現している。しかしながら、製造工程においてガラス原料の還元が進行すると、金属の銅が析出してしまうため、透明で所定の機械特性を有するガラスを安定的に製造できないという問題があった。
【0005】
さらに、特開2005−231941号公報(特許文献3)には、ソーダライムガラスに酸化スズを0.8〜2.5金属捕捉%の割合で添加した、紫外線照射により白色に発光するガラスが提案されている。しかしながら、この発光ガラスは酸化スズの含有量が0.8〜2.5重量%と比較的少ないため、発光効率が低く、実用的に使用するには無理があった。例えば、図1に示すように、ソーダライムガラス中に酸化スズを2.5重量%添加したガラスにおいては、比較的長波長である300nmの励起光で励起した場合、発光が確認されない。
【特許文献1】特開平8−133780号公報
【特許文献2】特開平10−167755号公報
【特許文献3】特開2005−231941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、今般、特定の組成のガラス母体であれば二価の酸化スズ(SnO)をガラスに対して3〜35mol%添加してもガラスが不透明になることはなく、比較的長波長の励起光によっても、発光強度に優れる発光ガラスが得られる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、透明性に優れるとともに、比較的長波長の励起光によっても発光強度に優れる酸化スズ含有ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明による酸化スズ含有ガラスは、透明ガラス母体に、SnOが添加されてなる酸化スズ含有ガラスであって、
前記SnOが、ガラス中に3〜35mol%含有されていることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明においては、上記した酸化スズ含有ガラスの、発光ガラスまたは紫外線遮蔽ガラスとしての使用や、当該発光ガラスを用いた照明装置または表示装置も提供する。
【0010】
本発明によれば、透明性に優れるとともに、比較的長波長の励起光によっても発光強度に優れる酸化スズ含有ガラスを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
酸化スズ含有ガラス
本発明による酸化スズ含有ガラスは、透明なガラス母体を使用する。ガラス母体材料は、酸化ケイ素、酸化ボロン、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、または酸化ナトリウム等を含有するものである。このようなガラス母体材料としては、例えば、NaO・CaO・SiOを主成分とし、Al等が添加された組成であるソーダボロシリケートガラスや、BaOおよびBを含有する組成であるバリウムボレイトガラスや、ZnOを添加したリン酸ガラス等が好適に使用できる。
【0012】
本発明においては、ガラス母体が、酸化ケイ素を20〜50mol%、酸化ホウ素を10〜30mol%、および酸化ナトリウムを10〜30mol%含んでなることが好ましく、また、酸化ケイ素を30〜50mol%、ホウ酸を20〜30mol%、および酸化カルシウムを20〜30mol%含んでなることが好ましい。
【0013】
本発明の酸化スズ含有ガラスは、上記のガラス母体材料にSnOが1〜15mol%含有されたものである。従来、SnOは有色ガラスの還元剤と使用されていたものであり、酸化されやすく、加熱により容易に四価の酸化スズ(SnO)に酸化される。石英ガラス等の添加物を含まないガラスを母体とするガラスに、SnOを1mol%以上添加すると、結晶化した不透明な部分が生成するため、透明なガラスが得られない。また、SnOがガラスの溶融時の加熱により酸化されてSnOとなり、導電性や発光性を有さなくなってしまう。
【0014】
本発明においては、ガラス母体の組成を、上記のような組成とすることにより、SnOを3〜35mol%ガラス母体に添加しても透明性を維持しながら、かつ発光性に優れるガラスを実現したものである。本発明者らは、SnOを3mol%以上添加した場合、より長波長の紫外線励起によっても、ガラスが発光するとの知見を得た。上述したように、従来のSnO含有ガラスにあっては、300nm以上の波長をもつ励起光では、発光が見られなかった。本発明においては、所定量のSnOをガラス中に添加することにより、300nm程度の比較的長波長の紫外線で励起した場合であっても、強い白色発光が見られること見出したものである。
【0015】
SnOの添加量が、3mol%未満であると、300nmの紫外線を照射した時の発光強度が不十分な場合であり、一方、35mol%を超えるとガラス中に不透明な結晶部分を生じ、透明なガラスを形成できない。SnOの添加量は、15〜30mol%が好ましく、17〜25mol%がより好ましい。
【0016】
本発明の酸化スズ含有ガラスは、ガラス母体として酸化ケイ素、および所望によりホウ酸を含み、さらに、酸化ボロン、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、または酸化ナトリウムを含有することにより、ガラスの融点が下がるため、SnOを3mol%以上添加した場合であっても、SnOが酸化されてSnOとなることが抑制される。そのため、透明性に優れるとともに、発行強度の高い酸化スズ含有ガラスを実現できる。
【0017】
本発明においては、酸化スズ含有ガラスが、酸化リチウム、酸化リン、酸化カルシウム、リン酸カルシウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化バリウム、リン酸バリウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化ランタニウムからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物をさらに含んでなることが好ましい。上記の添加剤をガラス母体に添加することにより、より一層ガラス化しやすくなり、安定なガラスの製造が可能になる。上記の添加成分は、ガラス母体に対して、1〜15mol%であることが好ましく、1〜7mol%であることがより好ましい。
【0018】
また、酸化スズ含有ガラスに増光剤を添加することにより、ガラスの発光強度をより向上させることができる。本発明においては、CeOが特に好ましく用いられる。また、CeOは0.1〜1.0mol%の割合で添加されるのが好ましい。0.1mol%未満であると、発光特性の改善に効果が見られず、一方、添加量が1.0mol%を超えるとガラス化しなくなる。
【0019】
酸化スズ含有ガラスの製造方法
上記した酸化スズ含有ガラスは、周知のガラス母体材料に、含有量が3〜35mol%とるようにSnOを添加し、前記SnOが添加されたガラス母体材料を、1500℃以下の温度で溶融させ、溶融したガラスを冷却して固化させることにより製造できる。ガラス材料を溶融させる好ましい温度は、ガラス母材の組成によって適宜決定できるが、本発明においては1500℃以下の温度とする必要がある。1500℃を超える温度では、SnOが酸化されてSnOとなってしまうため、ガラスの発光強度が低下したり、ガラスが不透明となる。本発明においては、溶融温度を好ましくは1400℃以下、より好ましくは1350℃以下とする。
【0020】
上記の溶融温度でガラス母体材料を溶融する時間は、30分〜1時間程度であることが好ましい。30分間未満であるとガラス成分の溶融が不十分なため、結晶核が溶融体に残存し、ガラスを固化したときの透明性が損なわれる。一方、1時間を超えて溶融を行うとSnOの酸化が促進されるため、ガラスの発光特性に影響を与えたり、また、ガラスが不透明になる。
【0021】
また、SnOの酸化を抑制するために、窒素等の不活性ガス雰囲気下でガラスを溶融・固化させることが好ましい。
【0022】
このようにして得られた本発明の酸化スズ含有ガラスは、二価の状態にある酸化スズ(SnO)をガラス中に3〜35mol%含有するため、紫外線等の電離放射線の照射により発光が得られる。具体的には、波長200〜400nmの紫外線を照射することにより、可視光帯域のブロードな発光が得られる。また、二価の状態の酸化スズを含有するため、ガラスの結晶化の生じないため、透明なガラスとなる。従って、白色発光特性を有する本発明の酸化スズ含有ガラスは、光学ガラスや紫外線吸収ガラスとして使用することができる。
【0023】
また、本発明による酸化スズ含有ガラスは、電圧の印可によっても発光するため、発光ダイオードや白色光源、表示装置等に応用することができる。
【0024】
本発明においては、透明性に優れるとともに、比較的長波長の励起光によっても発光強度に優れる酸化スズ含有ガラスが得られるだけでなく、発光原料として安価なSnOを使用するため、大型ガラス等の商業的な実用性に富む発光ガラスを実現できる。
【実施例】
【0025】
本発明を実施例により詳細に説明するが、これら実施例により本発明の範囲が制限されるものではない。
【0026】
実施例1
以下の組成の化合物を混合したものを原料として、電気炉中で1350℃、1時間加熱して溶融させた後、溶融したガラス組成物をカーボン板に流し出して室温まで急冷することによりガラス1を得た。
SiO 37.50mol%
BO 25.00mol%
NaCO 12.50mol%
SnO 25.00mol%
【0027】
このようにして得られたガラス1の理論上の組成は、以下に示される通りであり、いわゆるシーダボロシリケートガラスと呼ばれるガラスである。
SiO 42.85mol%
2 14.28mol%
Na 14.28mol%
SnO 28.57mol%
【0028】
比較例1
また、比較のため、SiO、NaCO、CaO、Al(OH)、およびSnOの各化合物を混合したものを原料として、実施例1と同様にしてガラス5を得た。なお、この組成は、重量換算でSnOを2.0重量%含有するものであり、上記した特開2005−231941号公報に開示されたSnOを含有するガラスと略同一の組成を有するものである。
【0029】
上記の得られたガラス5の組成は、以下の通りであり、いわゆるソーダライムガラスと呼ばれるものである。
SiO 72.84mol%
NaO 15.22mol%
CaO 10.14mol%
Al 1.25mol%
SnO 0.5mol%
【0030】
このようにして得られたガラス1を、種々の波長の紫外線で励起して白色の発光を肉眼で確認した。発光は、蛍光灯がついた室内でも肉眼で確認できる程度であった。ガラスの発光特性を調べるため、蛍光分光光度計(F-4800、日立製作所製)を用いて、280nm、300nm、320nmの各波長の紫外線にて励起した時の発光を調べた。得られた発光スペクトルを図2に示す。また、ガラス1およびガラス5について、300nmの励起光にて励起した時の発光特性を図1に示す。
【0031】
図2に示されるように、400〜800nmの波長領域でブロード(発光ピーク波長は500nm)な発光を確認できた。
【0032】
また、図1に示されるように、SnOを0.5mol%しか含有しないガラス5は、300nm波長の励起では発光が観察できなかったが、約28.57mol%含有するガラス1は、300nmの励起光によっても強い発光が観察された。
【0033】
実施例2
以下の組成の化合物を混合したものを原料として、電気炉中で、1200℃で2時間加熱して溶融させた後、溶融したガラス組成物をカーボン板に流し出して室温まで急冷することによりガラス2を得た。
ZnO 37.50mol%
NHPO 33.33mol%
SnO 29.17mol%
【0034】
このようにして得られたガラス2の理論上の組成は、以下に示される通りである。
ZnO 45mol%
20mol%
SnO 35mol%
【0035】
このようにして得られたガラスを紫外線で励起して白色の発光を肉眼で確認した。発光は、蛍光灯がついた室内でも肉眼で確認できる程度であった。ガラスの発光特性を調べるため、上記と同様の蛍光分光光度計を用いて、250nm、280nm、300nm、320nmの各波長の紫外線にて励起した時の発光を調べた。結果は図3に示される通りであった。
【0036】
図3からも明らかなように、320nmの長波長励起によっても、400〜800nmの波長領域でブロードな発光を確認できた。
【0037】
実施例3
以下の組成の化合物を混合したものを原料として、電気炉中で、1350℃で2時間加熱して溶融させた後、溶融したガラス組成物をカーボン板に流し出して室温まで急冷することによりガラス3を得た。
BaCO 28.57mol%
BO 57.14mol%
SnO 14.28mol%
【0038】
このようにして得られたガラス3の理論上の組成は、以下に示される通りである。
BaO 40.00mol%
3BO 40.00mol%
SnO 20.0mol%
【0039】
このようにして得られたガラスを紫外線で励起して白色の発光を肉眼で確認した。発光は、蛍光灯がついた室内でも肉眼で確認できる程度であった。ガラスの発光特性を調べるため、上記と同様の蛍光分光光度計を用いて、280nm、320nm、340nmの各波長の紫外線にて励起した時の発光を調べた。結果は図4に示される通りであった。
【0040】
図4からも明らかなように、340nmの長波長励起によっても、400〜800nmの波長領域でブロードな発光を確認できた。
【0041】
実施例4
以下の組成の化合物を混合したものを原料として、電気炉中で、1350℃で2時間加熱して溶融させた後、溶融したガラス組成物をカーボン板に流し出して室温まで急冷することによりガラス3を得た。
SiO 42.55mol%
BO 28.36mol%
NaCO 14.18mol%
SnO 14.18mol%
CeO 0.71mol%
【0042】
このようにして得られたガラス4の理論上の組成は、以下に示される通りである。
SiO 49.58mol%
16.53mol%
NaO 16.53mol%
SnO 16.53mol%
CeO 0.82mol%
【0043】
このようにして得られたガラスを紫外線で励起して白色の発光を肉眼で確認した。発光は、蛍光灯がついた室内でも肉眼で確認できる程度であった。ガラスの発光特性を調べるため、上記と同様の蛍光分光光度計を用いて、340nm、360nm、380nmの各波長の紫外線にて励起した時の発光を調べた。結果は図5に示される通りであった。
【0044】
図5からも明らかなように、380nmの長波長励起によっても、400〜800nmの波長領域でブロードな発光を確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の酸化スズ含有ガラスの発光スペクトルである。
【図2】本発明の酸化スズ含有ガラスの発光スペクトルである。
【図3】本発明の酸化スズ含有ガラスの発光スペクトルである。
【図4】本発明の酸化スズ含有ガラスの発光スペクトルである。
【図5】本発明の酸化スズ含有ガラスの発光スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明ガラス母体に、SnOが添加されてなる酸化スズ含有ガラスであって、
前記SnOが、ガラス中に3〜35mol%含有されている、ことを特徴とする、酸化スズ含有ガラス。
【請求項2】
前記透明ガラス母体が、ソーダボロシリケートガラス、バリウムボレイトガラス、およびリン酸ガラスからなる群から選択されるものである、請求項1に記載の酸化スズ含有ガラス。
【請求項3】
増光剤として、CeOを0.1〜1.0mol%さらに含んでなる、請求項1または2に記載の酸化スズ含有ガラス。
【請求項4】
酸化ボロン、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、または酸化ナトリウムをさらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化スズ含有ガラス。
【請求項5】
前記ガラス母体が、酸化ケイ素を20〜50mol%、酸化ホウ素を10〜30mol%、および酸化ナトリウムを10〜30mol%含んでなる、請求項4に記載の酸化スズ含有ガラス。
【請求項6】
前記ガラス母体が、酸化ケイ素を20〜50mol%、ホウ酸を10〜30mol%、および酸化カルシウムを10〜30mol%含んでなる、請求項4に記載の酸化スズ含有ガラス。
【請求項7】
酸化リチウム、酸化リン、リン酸カルシウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化バリウム、リン酸バリウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化ランタニウムからなる群から選択される少なくとも一種以上の化合物をさらに含んでなる、請求項5または6に記載の酸化スズ含有ガラス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の酸化スズ含有ガラスからなる発光ガラス。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の酸化スズ含有ガラスからなる紫外線遮蔽ガラス。
【請求項10】
請求項8に記載の発光ガラスを用いた照明装置。
【請求項11】
請求項8に記載の発光ガラスを用いた表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−127255(P2008−127255A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315788(P2006−315788)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(392017004)湖北工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】