説明

酸化チタンおよびアルミナアルカリ金属組成物

アルカリ金属およびアルカリ金属の合金を金属の反応性の大きな損失なしに容易に扱い得る形態で入手可能にする。本発明は、液体第1族金属と、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物と、を不活性雰囲気中、液体第1族金属を多孔質金属酸化物の孔に吸収するのに十分な恒温条件下で混合した生成物を含有しており、ドライOと反応することを特徴とする、第1族金属/多孔質金属酸化物組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、アルカリ金属またはアルカリ金属合金と多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナとの相互作用により製造される多孔質金属酸化物組成物に関する。この組成物は取り扱い適性が改良されており、かつ中性アルカリ金属または中性アルカリ金属合金の反応性を保持している。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
周期表の第1族に存在するアルカリ金属およびアルカリ金属の合金は、金属状態または中性状態において非常に反応性が高い。アルカリ金属およびアルカリ金属の合金は、空気および水分に対して非常に反応性が高く、これらの物質に曝されると自然に発火する。活性に付随する固有の危険を避けるために、中性金属または合金は、酸化または他の反応をもたらす大気との接触から保護するために、しばしば真空中または不活性液体(例えばオイル)の下で貯蔵されなければならない。例えばナトリウム金属は、しばしば、ヌジョールオイル中で貯蔵されるが、そのオイルは不要な不純物を避けるために化学反応における使用の前に除去しなければならない。このことはその輸送および使用に厳しい制限をかける。
【0003】
アルカリ金属とシリカゼオライトとの組み合わせ(例えばZSM−5)は、多くの研究室で広く研究されてきた。例えば、純粋なシリカゼオライトが最大12モルパーセントまでのセシウムおよび同程度の量の他のアルカリ金属(リチウムを除く)を蒸気相から吸収し得ることが最近示された。全シリカゼオライト(all−silica zeolites)中へのアルカリ金属封入のこれまでの研究が、そのような組み合わせが水と発熱反応して水素を定量的に製造することを明らかにした(例えば、“Toward Inorganic Electrides”,A.S.Ichimura,J.L.Dye,M.A.Camblor and L.A.Villaescusa,J.Am.Chem.Soc.,124,1170−1171(2002)および“Inorganic Electrides Formed by Alkali Metal Addition to Pure Silica Zeolites”,D.P.Wernette,A.S.Ichimura,S.A.Urbin and J.L.Dye,Chem.Mater.15,1441−1448,(2003)参照)。しかしながら、ゼオライト組成物により吸収されるナトリウムの濃度は非常に低いので実用的ではない。加えて、この反応は、限られたゼオライトの孔サイズの中でのナトリウムの拡散が遅いので比較的遅い。
【0004】
有機合成における反応物としてシリカに分散されたカリウム金属の使用が、Levy等、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.20(1981)p.1033によって報告されている。カリウム金属をシリカゲル(CAS登録番号7631−86−9:実質的には内部表面積を有さないコロイドシリカである)に分散して無定形材料を製造した。この材料の反応性を水およびベンゾフェノンで以下に示すように試験した。更にRussel等、Organometallics 2002,21,4113−4128、スキーム3参照。
【0005】
酸化チタン(TiO)上にナトリウムを分散してすぐに塩化亜鉛を還元して、高活性亜鉛粉末を形成し、この亜鉛粉末は穏和な条件下で二級アルキルおよび臭化ベンジルに挿入して対応する亜鉛反応物を高収率で製造することが報告されている(Heinz Stadtmuller,Bjorn Greve,Klaus Lennick,Abdelatif Chair,and Paul Knochel,“Preparation of Secondary Alkyl and Benzylic Zinc Bromides Using Activated Zinc Metal Deposited on Titanium Dioxide”Syntheis,1995,69−72参照)。Stadtmullerによると、支持体中の残留水含量が悪影響を有することが認められた。このため、固体支持体(例えば、バリウム、錫、またはアルミナ、並びにシリカ)は使用できなかった。市販のTiOは、ほぼ水がなく、この目的に最良の支持体を構成する。従って、150℃におけるTiO(150℃にて2時間乾燥)へのナトリウム(約8g/100g TiO)の添加が15分後に均質の灰色粉末を生成する。この粉末は自燃性ではないが、その空気および水分への曝露は緩慢な分解(2〜3分)をもたらす。
【化1】

【0006】
Stadtmullerの実験は、以下の通りである。Ar注入口、ガラス栓、およびセプタムキャップを備える100mLの3つ口フラスコにTiO(18g、380mmol)を入れ、150℃で2時間真空下(0.1mmHg)において加熱した。ガラス栓をメカニカルスターラーに取り替え、反応フラスコをArでフラッシュし、Na(1.50g、65mmol)を一気に添加した。代わりに、Naを25℃でドライTiOに添加してもよい。反応混合物を150℃で15分間勢いよく攪拌し、0℃に冷却して灰色均質粉末を生じた。ドライZnCl(4.57g、35.5mmol)のTHF(20mL)溶液を攪拌しながら添加した。15分後、TiO上の活性化Znがすぐに使えるようになった。
【0007】
Sterling E.Voltzは、“The Catalytic Properties of Supported Sodium and Lithium Catalysts”J.Phys.Chem.,61,1957,756−758において、水素−重水素交換およびエチレン水素化に関する支持アルカリ金属触媒の触媒特性を吟味した。ドライアルミナに分散されたナトリウムは、水素−重水素交換用のアルミナの活性を増加しない。しかしながら、ナトリウム−アルミナ水素添加は交換活性を非常に増加し、この水素化触媒は−195℃でも活性である。ナトリウム−シリカ触媒は対応するナトリウム−アルミナ触媒よりはるかに活性が低い。支持ナトリウムおよびリチウム触媒は、更に室温以下であってもエチレン水素化に関して活性である。しかしながら、この場合、水素処理は活性への影響が比較的小さい。支持アルカリ金属触媒は、これらの両方の反応に関してナトリウムおよびリチウムのバルクな水素化物よりはるかに活性である。支持体の主な役割は、おそらくアルカリ金属の有効面積の増加である。この研究の結果は、アルカリ金属水素化物上の水素およびエチレンの活性化のメカニズムがこれまでアルカリ土類金属水素化物に関して主張されていたメカニズムに類似している。この活性化は、おそらく金属−金属水素化物界面における金属サイトにおいて生じる。バルクな水素化物で得られる結果は、水素の活性化がリチウムサイトにおいてナトリウムサイトより容易に起こり、エチレンの活性化に関して逆の状況が同様に起こることを示唆している。
【0008】
Voltzの実験は、以下の通りである。500℃における約16時間の排気により乾燥した粉末アルミナまたはシリカに溶融金属を分散させることにより支持ナトリウムおよびリチウム触媒を製造した。典型的な製造(ナトリウム−アルミナ)では、ドライアルミナおよびナトリウムを、マグネティックスターラーを備える高真空反応器に入れた。反応器への材料の移動を、ドライ窒素中のドライボックスにおいて行った。固体を攪拌しながら反応器を排気下でゆっくりと加熱した。ナトリウムが融解すると、アルミナ粉末に分散した。反応器を約150℃に加熱し、この温度で(排気下で攪拌しながら)少なくとも一時間半保持した。いくつかの製造では、融解アルカリ金属が粉末に分散する時に少量の気体生成物が出された。リチウム−アルミナ触媒の製造では、リチウムの融点が高い(186℃)ので、反応器を約280℃に加熱した。
【0009】
更に、Alois FurstnerとGunter Seidelは、“‘High−Surface Sodium’as a Reducing Agent for TiCl”Synthesis,1995,63−68.において無機支持体(例えば、Al、TiO、およびNaCl(「高表面ナトリウム(high−surface sodium)」))上に付着したナトリウムが、安価で容易に製造される、TiClの非自燃性還元剤であることを開示している。従って、ほんの1時間の還元時間後に得られる低原子価Tiがマクマリーカップリング反応、特に芳香族カルボニル化合物のカップリング反応、によく適している。このことは、これまで無類であったジカルボニル化合物の(大環状)シクロアルケンへの環化に関する鋳型効果を示しており、N−アシル−2−アミノベンゾフェノン誘導体の2,3−二置換インドールへの還元に好適である。
【0010】
この関連で、Na/Alは好都合なことに二つの異なる方法で均質灰色非自燃性粉末として製造され得る(方法A:AlとNaとの180〜190℃における混合/粉砕;方法B:Ultra turraxスターラーにより沸騰トルエン中に懸濁されたAlへの融解Naの付着)。反応物1gあたりNa〜4mmol(金属含量10w/w%)でアルミナの有効表面積が、深刻な過荷重のリスクなしに良好に利用される。
【0011】
Furstnerの実験は、以下の通りである。
【0012】
方法A:Naサンド(10g;1〜2mm)を部分で30分の間に、180〜190℃でAr下において良好な機械的攪拌をしながら、予備乾燥したAl(100g)に添加した。このことは、室温でAr下において長期間活性の損失なしに保存できる灰黒色の感空気性(air−sensitive)であるが非自燃性である粉末としてNa/Alを提供した。Furstnerによると、この単純な手順は不十分な混合のためNa/TiOおよびNa/NaClの製造にあまり適切ではない。
【0013】
方法B:沸騰トルエン(350mL)において勢いよく攪拌された予備乾燥Al(100g)の懸濁液を、Naサンド(10g)に20分かけて添加した。攪拌および還流を更に15分間継続し、この混合物を室温に冷却し、Ar下において濾過し、ペンタンで(約300mLを数回に分けて)洗浄し、真空乾燥した。Na/TiOの製造に関して、良好なかきまぜを達成するのに大量のトルエン(〜800mL)を必要とする。同上。
【0014】
加えて、2004年11月24日に出願され、“SILICA GEL COMPOSITIONS CONTAINING ALKALI METALS AND ALKALI METAL ALLOYS”と題された米国特許出願第10/995,327号は、アルカリ金属またはアルカリ金属の合金とシリカゲルとの相互作用により製造されたシリカゲル組成物を開示しており、参照することにより本明細書に含まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、アルカリ金属およびアルカリ金属の合金を金属の反応性の大きな損失なしに容易に扱い得る形態で入手可能にする必要がある。本発明は、この必要性にかなう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の要旨
本発明は、液体第1族金属または合金と、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物と、の液体第1族金属または合金を多孔質金属酸化物の孔に吸収するのに十分な周囲温度近くの恒温条件下における不活性雰囲気中での混合生成物を含有する、第1族金属/多孔質金属酸化物組成物に関する。製造される第1族金属/多孔質金属酸化物組成物は、ドライOと反応する。この材料を、「ステージ0」材料と呼ぶ。
【0017】
本発明は、更に、第1族金属または合金と、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物と、の第1族金属または合金を多孔質金属酸化物の孔に吸収するのに十分な周囲温度以上であってもよい発熱条件下での混合生成物を含有する、第1族金属/多孔質金属酸化物組成物に関する。製造される第1族金属/多孔質金属酸化物組成物は、ドライOと反応しない。この材料を、「ステージI」材料と呼ぶ。
【0018】
本発明は、更に、液体第1族金属または合金と、多孔質金属酸化物と、の液体第1族金属または合金を多孔質金属酸化物の孔に吸収するのに十分な条件下で混合し、生じる混合物を約150℃またはそれ以上の温度に加熱した生成物を含有する第1族金属/多孔質金属酸化物組成物に関する。この製造された第1族金属/多孔質金属酸化物組成物は、ドライOと反応しない。
【0019】
本発明は、更に、本明細書中に開示される第1族金属/多孔質金属酸化物組成物と水とを接触させる工程を包含する、水素ガスの製造方法にも関する。更に、本発明は、改良が本明細書中に開示される第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の存在下で反応を行うことを包含する、アルカリ金属の存在下における有機化合物の還元反応にも関する。還元反応は、例えば、脱ハロゲン化反応およびウルツ(Wurtz)反応を含み得る。
【0020】
加えて、本発明は、有機溶媒を多孔質アルミナと十分な時間接触させて溶媒から水を除去する工程を包含する、有機溶媒を乾燥する方法に関する。この接触工程は、バッチによってまたはカラムを通じて行われ得る。
【0021】
発明の詳細な説明
【0022】
第1族金属:アルカリ金属とアルカリ金属合金
【0023】
アルカリ金属は、周期表の第1族系統における金属である。用語「第1族金属」は、本明細書中で、本発明の多孔質金属酸化物組成物において使用され得るアルカリ金属およびアルカリ金属の合金を示すのに使用すされる。これらのアルカリ金属は、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、およびセシウム(Cs)を含む。これらのアルカリ金属の中で、ナトリウムおよびカリウムが本発明の多孔質金属酸化物組成物における使用に好ましく、ナトリウムが特に好ましい。
【0024】
アルカリ金属合金も、更に本発明の多孔質金属酸化物組成物において使用され得る。アルカリ金属合金は、好ましくは二種類以上のアルカリ金属の合金(例えば、ナトリウム−カリウム(例えば、NaKまたはNaK)合金であり、これらは、特に好ましい)である。別の好ましいアルカリ金属合金は、カリウム、セシウム、およびルビジウムを互いに含むアルカリ金属合金であり、特にこれらの元素とナトリウムとの合金である。アルカリ金属合金は、本明細書および請求項で使用される「第1族金属」の定義の範囲内にある。
【0025】
本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の製造において、第1族金属は、典型的には多孔質金属酸化物(多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナ)と混合される。液体第1族金属の粘度は、多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナの孔に吸収されるように、少なくとも十分低くなければならない。このことを達成するひとつの方法は、アルカリ金属を多孔質金属酸化物と混合する前の不活性雰囲気中での加熱である。また、製造される材料のステージに依存して、第1族金属を固体として多孔質金属酸化物と混合し、この混合物を加熱してアルカリ金属を融解してもよい。
【0026】
第1族金属を多孔質金属酸化物に導入する別の方法は、ゼオライトでなされたように蒸気相から導入するする方法である(A.S.Ichimura,J.L.Dye,M.A.Camblor and L.A.Villaescusa,J.Am.Chem.Soc.,124,1170−1171(2002)およびD.P.Wernette,A.S.Ichimura,S.A.Urbin and J.L.Dye,Chem.Mater.15,1441−1448,(2003)参照)。別の方法では、第1族金属を金属−アンモニア溶液から多孔質金属酸化物に付着してもよい(M.Makesya and K.Grala,Syn.Lett.1997,pp.267−268,“Convenient Preparation of ‘High Surface Sodium’ in Liquid Ammonia:Use in Acyloin Reaction.”参照)。金属−アンモニア溶液を使用して、多孔質金属酸化物と混合するときに中の金属の凝集を防止し、金属と多孔質金属酸化物との初期混合物を製造してもよい。しかしながら、実際には第1族金属と多孔質金属酸化物との混合の金属−アンモニア溶液法は、アミドを形成する金属−アンモニア溶液の相当の分解により完成される。しかしながら、本発明に関して好ましくは、単純に液体第1族金属を多孔質金属酸化物と接触させることが、多大な時間を必要とする蒸着または金属−アンモニアルートを防止する。
【0027】
以下において論じられるように、少なくともステージ0材料に関しては、一般的に、第1族金属が室温(約25℃)の約15℃の範囲の融点を有することが好ましい。例えば、セシウムおよびルビジウムは、それぞれ28.5℃および38.5℃の融点を有する。典型的におよび好ましくは、二以上のアルカリ金属の合金は、室温またはその付近で液体である。好ましい低融点合金は、Na対Kが0.5〜3.0の様々なモル比のナトリウムとカリウムの合金(NaK)、好ましくは2:1のモル比の合金、すなわちNaKである。モル比が0.5〜2.5である全てのNa−K合金は、共融温度−12.6℃において融解し始める。モル比約0.12および3.1に関して、融解は25℃において完了する。他のアルカリ金属の二成分合金、例えば、CsとRb、KまたはNa、およびRbとNaまたはKは、更に室温以下、または室温よりわずかに上の温度で融解し、それゆえにこの目的に関する使用に適している。これら四種類のアルカリ金属のうち三種類からつくられる三成分合金、またはこれら四種類の金属の合金は、更に十分低い温度で融解して本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物を形成する。
【0028】
多孔質金属酸化物
【0029】
本発明で使用される多孔質金属酸化物粉末は、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナである。TiO、TiO、Ti、およびTiを含むどの多孔質酸化チタンも使用され得る。それらの多孔質性を前提として、これら多孔質金属酸化物は大量の吸収材料を吸収し得る。従前の酸化チタンまたはアルミナ粉末へのアルカリ金属の吸収と違い、本発明の組成物は、アルカリ金属を多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナの空隙に吸収する。多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナは、よりよく知られている非多孔質形態、例えば、コロイド酸化チタンおよびコロイドアルミナと異なる。多孔質酸化チタンはSachtleben Chemieから、多孔質アルミナはAlmatis ACから購入し得る。
【0030】
本発明の多孔質金属酸化物組成物において使用される多孔質金属酸化物は、好ましくは孔サイズが50Å〜1000Åの範囲内である。より好ましくは、孔サイズは、100〜300Åの範囲内である。更により好ましくは、多孔質金属酸化物の孔の平均直径は、約150Åである。
【0031】
多孔質金属酸化物は、購入される時さらさらとした粉末であるが、それらは典型的には多量の気体材料、例えば水および空気を含む。これらは好ましくは多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナをアルカリ金属または合金と混合して本発明の組成物を形成する前に除去される。この多孔質金属酸化物は、当業者に知られている方法を使用して脱気し得る。例えば、気体材料を除去するために、多孔質金属酸化物を排気可能なフラスコ中真空下において最初に熱風乾燥機で、次にトーチで加熱してもよい。そのような加熱は約300℃の温度に到達する。多孔質金属酸化物を空気中で600℃またはより高温(900℃)に加熱することにより気体をより容易に除去し、活性サイトを不動態化(カ焼(calcination))することが更に可能であり、実際に好ましい。典型的には、多孔質金属酸化物を室温に冷却した後、本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物を製造する。
【0032】
アルカリ金属およびアルカリ金属合金を含む多孔質金属酸化物組成物
【0033】
アルカリ金属またはその同等品の便利な形態における利用可能性は、化学産業において、および水素製造コミュニティに関して必要とされ続ける。その必要に応答して、本発明は、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物およびアルカリ金属またはアルカリ金属合金を含有する第1族金属/多孔質金属酸化物組成物に関する。酸化チタンまたは多孔質アルミナを使用する本発明の組成物をステージ0およびI材料と記述する。これらの材料はその製造および化学反応性が異なる。ステージIは、以下にステージ0材料の初期製造から記述される方法を使用して直接製造され得る。ステージ0材料は、例えば、恒温条件下、好ましくは室温もしくはそのすぐ上の温度において多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナによりすみやかに吸収されるNaとKとの液体合金を使用して製造され、親金属の大部分の還元能力を保持しているルースブラックパウダーを形成する。ステージ0材料は、多孔質金属酸化物の孔に吸収された中性第1族金属の小さな塊を有すると考えられている。このステージ0材料は、自燃性であるが、その出発第1族金属と比較して空気中における爆発性は小さい。ステージI材料は、ステージ0材料を150℃で一晩加熱することにより製造され得る。ステージI材料は、ドライエア中で安定なルースブラックパウダーである。更に200℃以上に加熱することは別のステージを製造する発熱反応を生じる。ステージIおよびより高温で形成される材料は第1族金属の吸収後に多孔質金属酸化物の還元を示すと考えられている。好ましい本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物は、ナトリウム、カリウム、またはナトリウム−カリウム合金を含んでおり、ナトリウムおよびナトリウム−カリウム合金を含んでいるものが最も好ましい。
【0034】
以下に示されるように、この材料のNaKとの多くの試料を、様々な負荷および重量比において示差走査熱量測定(DSC)によって試験した。−25〜0℃における多孔質金属酸化物孔中のNaKの融解で吸収された熱を使用して多孔質金属酸化物中に金属として残った封入金属の量を決定した。この次に5℃〜450℃のブロードな発熱ピークが続いた。同じ試料の冷却および再加熱後、感知できる熱のピークは観測されなかった。このことは、境界はシャープではないが、この加熱処理により、孔中の封入金属が多孔質金属酸化物と反応して新しい材料を形成することを示す。この転化は感知できるほどには材料の水素製造能力を変化させない。
【0035】
本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物は、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物と吸収された第1族金属とを含有する。充填されている第1族金属の量は、孔サイズおよび使用される実際の多孔質金属酸化物の孔密度に依存する。典型的には、第1族金属は本発明の組成物中に約30重量%まで存在し得る。好ましくは、この材料の量は約25〜30重量%に及ぶ。本発明のステージI材料において、約30重量%以上の充填は多孔質金属酸化物の孔または表面に残るいくつかのフリーの金属をもたらす。
【0036】
本発明のステージ0およびステージI金属/多孔質金属酸化物組成物は、水とすばやく反応して気体状水素を製造する。ステージI金属/多孔質アルミナの場合、収率はほぼ定量的であり、典型的には約90〜95%である。しかしながら、ステージ0およびステージI金属/多孔質酸化チタンの場合、収率はより低かった。約10%の添加金属は、水を添加した時、水素を放出しなかった。明らかにこの金属は多孔質酸化チタンと反応して、水と反応して水素を製造しない生成物を製造した。本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物(その製造および性質を以下に示す)は、容易に輸送され、処理される、混じりけのない水素の源および様々な有機化合物の反応の強力な還元剤として有望である。以下の表Iは、ステージ0およびI材料の製造方法および使用を要約している。
表I

【0037】
上で論じたように、全ての本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物を製造するために、第1族金属と混合する前に脱気および多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナの不動態化を行うことが好ましい。典型的には、本発明の材料の製造において、多孔質金属酸化物を最初に約600℃以上に空気中で加熱して水を除去、多孔質金属酸化物を脱気および欠陥部位を最小化する。乾燥、脱気および/または多孔質金属酸化物の不動態化で当業者に知られている他の方法も更に使用され得る。
【0038】
ステージ0材料
【0039】
本発明のステージ0材料は、反応せずに(上記多孔質酸化チタンとの部分反応を除く)多孔質金属酸化物の孔に吸収された融点の低い第1族金属を明らかに含む。従って、ステージ0材料は、多孔質金属酸化物中の開口気孔およびチャンネルに吸収されたナノスケールのアルカリ金属またはアルカリ金属合金粒子と見なされ得る。本発明のステージ0材料は、液体第1族金属または液体第1族金属合金(例えば、NaK)と多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナとを恒温条件下において、液体第1族金属または液体第1族金属合金を多孔質金属酸化物の孔に吸収させるのに十分混合した生成物を含有する、第1族金属/多孔質金属酸化物組成物である。ステージ0材料に関する好ましい第1族金属は、融点の低い第1族金属、例えばセシウムまたはNaK合金を含む。本発明のステージ0第1族金属/多孔質金属酸化物組成物はドライOと反応し、このことがステージ0材料をステージI材料と区別する。ステージ0材料がドライエアと反応性であるため、これは真空下、酸素フリーの雰囲気下、好ましくは不活性雰囲気下(例えば窒素または不活性ガスの下)で取り扱われるべきである。ステージ0材料は空気中で自然発火するが、これは密封容器(例えば、ねじ蓋式バイアル(vial))中で貯蔵され得る。
【0040】
ステージ0材料を形成するために、アルカリ金属または合金をシリカに吸収するのに十分な時間、第1族液体金属または合金を、不活性雰囲気下恒温条件、好ましくは室温またはそれよりもわずかに高い温度において多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナと混合する。この混合は不活性雰囲気下、例えばグローブボックスまたはグローブバッグ中で行わなければならない。好ましいステージ0材料の形成の間、液体第1族金属(例えば、NaK)を室温において多孔質金属酸化物のベッドに注いでもよい。この混合物をかきまぜ、好ましくは攪拌または振盪して、良好な混合を達成する。液体第1族金属を好ましくは重大な反応熱も明らかな熱の放出もなく多孔質金属酸化物に吸収する。より大きな規模において、アルカリ金属を、好ましくはゆっくりと添加してアルカリ金属の多孔質金属酸化物の孔への吸収による発熱を避ける。
【0041】
使用される第1族金属に依存して、ステージ0材料を形成する液体第1族金属の吸収は、好ましくは室温(25℃)の15℃以内で起こる。典型的な工程において、ほんのわずかの熱を放出して、試料が顕著に暖かくはならないが、それぞれの粒子が光沢のある表面を有するさらさらの無定形黒色粉末である生成物に転化する。この混合物を、多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナの孔にアルカリ金属または合金を吸収または「取り入れ」る十分な時間かきまぜる。混合時間は、一般的に製造される材料のバッチサイズに依存し、数分から数時間の範囲内である。この混合時間は、本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の製造について言える。
【0042】
ステージ0材料を製造する時、反応により生じるかもしくは反応に使用する熱は、制御するか放散しなければならない。製造中の大幅な温度上昇を避けなければならない。好ましい態様では、ステージ0材料を周囲温度(例えば室温(25℃)付近)で形成する。この温度を大きく上回る温度に加熱することは、一般的にステージI材料の形成をもたらす。多孔質金属酸化物を分散(例えば、金属トレー上に)、多孔質金属酸化物を攪拌、または反応容器を冷却することによって温度を制御してもよい。しかしながら、第1族金属が液体のままで、多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナによって吸収されるように、反応温度を保持しなければならない。室温で保存すると、ステージ0材料は時間と共にゆっくりとステージI材料に転化するが、より高いステージ材料への更なる転化は以下に示されるように加熱なしでは起こらないことに留意すべきである。
【0043】
ステージ0材料は、水と発熱反応する光沢のある黒色粉末である。アルミナでつくられるステージ0材料のDSCは、多孔質金属酸化物中における中性状態のアルカリ金属の存在を示す。この吸熱融解シグナルは、ステージ0第1族金属/多孔質酸化チタンでは観測されなかった。ステージ0材料の正確な組成は現在分かっていないが、ステージ0材料中の金属の融点は、最も一般的な第1族合金(例えばNaK)の融点よりも低く、従って、第1族合金の小さな粒子が多孔質金属酸化物の孔の中に存在することを示している。
【0044】
ステージ0材料は、本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の最も反応性が高いメンバーである。融点が低いアルカリ金属または合金の多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナへの添加が重大な発熱なしにステージ0材料を製造するので、ステージ0材料はアルカリ金属の還元性の大部分を保持する。ステージ0材料の空気および水分への反応性のため、ステージ0材料は注意して扱い、多量の空気および水分と接触させてはならない。これらの制限にも拘わらず、ステージ0材料は高還元クロマトグラフィーの用途に実用的である。本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の充填カラムの多孔性は、親金属または合金と接触し得ない還元環境を提供する。以下で議論するように、このことは、ステージ0材料が水から水素を製造するのに使用されることおよび純粋なアルカリ金属の方法と類似する方法で多数の還元性有機材料と反応する還元剤として使用されることを可能にする。
【0045】
ステージI材料
【0046】
本発明のステージI材料は、ステージ0材料の加熱生成物または固体第1族金属と多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナとを混合し、この混合物をこの金属の融点以上に加熱して第1族金属を多孔質金属酸化物の孔に吸収する生成物を含有する第1族金属/多孔質金属酸化物組成物である。製造されるステージI第1族金属/多孔質金属組成物はドライOと反応しない。ステージI材料中、アルカリ金属または合金がバルクな金属(例えば融解金属)の性質を失う形態に転化されたように思われる。
【0047】
本発明のステージI材料は、第1族金属を多孔質金属酸化物の孔に吸収することを可能にするために、液体第1族金属をその融点またはわずかに高い温度において多孔質酸化チタンまたは多孔質アルミナと不活性雰囲気下において混合することにより形成され得る。第1族金属を、更に、上で議論した別の方法のうちの一つ(例えば、第1族金属を蒸気として添加する方法)を使用して、多孔質金属酸化物と混合してもよい。次に混合物を第1族金属の融点またはわずかに高い温度(すなわち、約70℃〜150℃)に保持し、数分〜数時間の間かきまぜた。一般的に言えば、高い反応温度は材料を短時間で転化する。ステージI材料を形成する反応は、穏発熱性であり、大きなスケールにおいて、この方法は好ましくは、熱が生成される時に取り除くような方法で継続的な混合をしながら液体金属または合金を多孔質金属酸化物に添加することにより行われる。この反応はアルカリ金属−多孔質金属酸化物格子を形成するように思われる。反応の発熱性は、ステージI材料とステージ0材料とを区別する。発熱以上の加熱は、温度に依存してステージI材料をより高いステージ材料に転化し得る。
【0048】
閉じた環境(例えばエルレンマイヤーフラスコ)において融点が低い第1族金属をカ焼および脱ガス多孔質金属酸化物に添加する時、この系はしばしばアルカリ金属と多孔質金属酸化物またはその欠陥部位との発熱反応のため暖かくなる。このことはステージ0およびIの混合物の形成をもたらし得る。ステージI材料の最も単純かつ最も直接の製造は、ステージ0試料を一晩不活性雰囲気下、150℃の温度において加熱することである。他の時間および温度もまた作用し得るが、より高いステージ材料の形成を引き起こす過熱を避けて処理を行うべきである。均質な生成物を保証するために、加熱工程の間かきまぜの準備をするべきである。
【0049】
ステージI材料は、ドライエアと直ちには反応しないが水と発熱反応する無定形黒色粉末である。ステージI材料のDSCは、多孔質金属酸化物中に残っている第1族金属がほとんどないかもしくは全くないことを示している。ステージIと0との間の差は、前者がドライエアにおいて取り扱われ、通常の実験室の空気中であっても引火も迅速な分解もなく素速く転化され得ることである。ドライ酸素の雰囲気下で数時間〜数日保持される場合、ステージI材料は、(ドライOと反応するステージ0材料と対照的に)変化せず、液体の水との反応で新鮮な試料と同量の水素ガスを製造する。
【0050】
ステージI材料は、反応性化学において活性還元剤としてかつ水素の製造に関して多くの用途を有する。
【0051】
熱挙動
【0052】
第1族金属は、本発明の多孔質金属酸化物組成物と発熱的に反応する。図1に示されるDSC槽における固体ナトリウム金属2.9mgと多孔質アルミナ(Al)8.0との混合物に関する示差走査熱量測定(DSC)トレースは、98℃におけるナトリウム融解吸熱(ΔH=89J/gNa)、次いで280〜380℃におけるNa1モルあたりΔH=−235kJの複数の発熱を有する。これは非常に大きいのでNaとAlとの化学反応を示すに相違ない。破線は大きな熱ピークを示さない再走査である。図1において、実線は最初の走査であり、破線は再走査である。
【0053】
図2は、DSC槽における多孔質酸化チタン(TiO)8.2mgとNa金属3.0mgの類似する混合物に関する示差走査熱量測定(DSC)トレースである。このDSCトレースは、98℃におけるNa融解吸熱(ΔH=107J/gNa)、次いで330℃におけるNa1モルあたりΔH=−43.2kJ(ΔH=−1.88kJ/gNa)の発熱を示す。従って、図3〜6において示されるDSCトレースにおける様々な第1族金属/多孔質金属酸化物組成物で観測される発熱ピークは類似した還元反応であると推定される。
【0054】
例えば、図3は、実施例2において議論される方法に従って製造されるステージ0、25wt%NaK−TiOの試料14.9mgに関する示差走査熱量測定(DSC)トレースである。注目すべきは、融解吸熱がなく、金属とTiOとの反応が生じる時の実質的な発熱である。図4は実施例2において議論されるように150℃に一晩加熱したステージI、25wt%NaK−TiOの試料6.0mgの示差走査熱量測定(DSC)トレースである。図5は実施例1において議論される方法によって調製されたステージ0、25wt%NaK−Alの試料11.7mgの示差走査熱量測定(DSC)トレースである。挿入図はAlの孔に吸収されたNaKの融解吸熱である。ブロードな発熱も50〜250℃において明らかである。図6は実施例3において議論される方法によって製造されたステージI、21wt%NaK−Al試料44.7mgの示差走査熱量測定(DSC)トレースである。最後に、図7は実施例5において議論される方法によって製造されたd−8テトラヒドロフラン(THF)中における塩化ベンジルの(ステージI、25wt%NaK−Alでの)還元生成物のH NMRスペクトルである。主生成物はビベンジルである。芳香族部は左、脂肪族部は右である。ビベンジルの主なピークは2.86ppmにある。左側の小さなピークはTHFからのピークであり、2.27ppmにある小さなピークは少ない方の生成物トルエンからのピークである。
【0055】
第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の反応化学
【0056】
本発明の全ての第1族金属/多孔質金属酸化物組成物が水と発熱的に反応して水素を生じる。従って、本発明の組成物は有利に第1族金属の反応性を保持する。ステージ0材料はドライエア中において簡単に扱い得るが、酸素とゆっくりと反応し、水分と素速く反応する。一方、第1族金属/多孔質金属酸化物組成物のステージIはドライ酸素に対して非反応性である。実施例7において示されるように、多孔質アルミナは再利用可能なアルミナを生じる。従って、多孔質アルミナは、溶媒と多孔質アルミナとを接触させることによりドライな溶媒を生じる効果的な方法である。これによって多孔質アルミナを消費することなく水を除去する。この乾燥はカラムを通じるかもしくはバッチ法によって実行し得る。
【0057】
本発明のステージI第1族金属/多孔質金属酸化物組成物は比較的無毒かつ反応性が激しくないが、強塩基性であり、水との反応でアルカリ金属水酸化物を形成する。完全に可溶性であるシリカゲルベース材料の反応生成物と対照的に、本発明のアルミナベースの材料は、実施例6において示されるように単に水で洗浄および600℃において再焼成することにより再利用され得る固体白色反応生成物を形成する。水との反応で本発明の酸化チタンベースの材料は黒色固体を形成する。
【0058】
本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の各ステージは、アルカリ金属およびその合金で知られているのと同じ方法で多数の還元性有機材料と反応する還元剤として使用され得る。例えば、第1族金属/多孔質金属酸化物組成物は、一般的にアルカリ金属−アンモニア溶液で行われるいわゆるバーチ還元で一般的なように芳香族化合物を還元してそのラジカルアニオンにするために使用され得る。バーチ還元は、液体アンモニア中におけるアルカリ金属による芳香族化合物の還元の一般的な方法である。バーチ還元の理論的および準備の側面はいくつかのレビューにおいて議論されてきた(G.W.Watt,Chem.Rev.,46,317(1950);A.J.Birch,Quart.Rev.(ロンドン),4,69(1950);A.J.Birch and H.F.Smith,Quart.Rev.(ロンドン),12,17(1958);およびC.D.Gutsche and H.H.Peter,Org.Syntheses,Coll.Vol.4,887(1963)参照)。本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物は、テトラヒドロフラン(THF)溶液中でナフタレンおよびアントラセン両方と難なく芳香族ラジカルアニオンを形成する。従って、それらはバーチ還元においてナトリウムの代わりになり得る。実施例4は本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物を使用する還元反応である。
【0059】
同様に、激しい還元、例えばハロゲン化有機化合物(例えばPCB)のウルツ還元は制御された条件下で行われ得る。ウルツ反応は、二モルの有機ハロゲン化物(RX)を二モルのナトリウムで処理することによる二種類の有機ラジカル(R)のカップリングである。
2RX+2Na→R−R+2NaX
(A.Wurtz,Ann.Chim.Phys.[3]44,275(1855);Ann.96,364(1855).;J.L.Wardell,Comp.Organometal.Chem.1,52(1982);W.E.Lindsell,同書.193;B.J.Wakefield,同書.193;B.J.Wakefield,同書.7,45;D.C.Billington,Comp.Org.Syn.3,413〜423(1991)参照。)本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物はウルツ反応または他のそのような脱ハロゲン化反応において難なくナトリウムの代わりになり得る。本発明の組成物は脱ハロゲン化無機ハロゲン化物にも使用されてきた。実施例5は、本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物を使用するウルツ還元である。
【0060】
本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の使用は、アルカリ金属反応(例えば上記の反応)が対応するアルカリ金属または合金を超えるこの組成物のより安全な処理に起因する、より安全な条件下で行われることを可能にする。この組成物の使用は、一般的に対応する単なる第1族金属との反応より高収率を与える。
【0061】
ステージI材料(例えば、ステージINaK/多孔質金属酸化物組成物)は製造が非常に容易であり、親第1族金属の還元能力の大部分を保持するので、強力かつ便利な還元剤としての使用が見いだされそうである。ステージI粉末で満たされた小さなガラスカラムは、有機化合物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、カラムを通すと様々な有機化合物を還元することができる。代わりに、ステージI材料と有機化合物のTHF溶液を攪拌することによりバッチ反応を単純に行い得る。例えば、下に示されるように、ベンゾフェノン(1)を還元してラジカルアニオン(ケチル);とベンジルクロリド(2)にしてウルツ還元を受けてビベンジル(3)を形成する。
【化2】

【0062】
ステージI材料の多くの他の反応が可能かつ適当である。例えば、ナフタレンを還元してラジカルアニオンにし、塩化ベンジル(2)をビベンジル(3)に転化してもよい。上で議論した代表の化合物の還元は、本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物が芳香族化合物を還元してラジカルアニオンまたはジアニオンにし、芳香族クロリドを完全に脱塩素化し得ることを示唆している。従って、この材料はPCBを脱塩素化によって破壊し得る。本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の強力な還元特性は、更に現在Na−Kまたはアルカリ金属−アンモニア溶液によって還元されている有機および無機化合物の還元への、この材料が詰まったクロマトグラフィーカラムの使用も可能にする。
【0063】
本発明の還元多孔質金属酸化物組成物の両方のステージに関する主な使用は、燃料貯蔵ポテンシャル(fuel storage potential)および可動性燃料電池に必要な水素ガスの形成における使用である。例えば、還元多孔質金属酸化物粉末の大きなストックは、貯蔵タンク中コンベアトレイ上に保持され得る。水への添加は純粋な水素ガスと水蒸気を遊離する。還元多孔質アルミナの両方のステージが、使用されるアルカリ金属から製造される水素とほぼ定量的な量の水素を製造する。次に、この水素は電力可動性燃料電池に使用され得る。例えば、第1族金属/多孔質金属酸化物組成物のストックは、貯蔵タンク中コンベアトレイ上に保持され得る。次に、水を導入し、水との混合が水素を遊離し、次にこれを抽出および圧縮または加圧する。圧縮水素を可動性燃料電池を満たすのに使用し得る。このステージにおいて使用される粉末は、現在まさに新規の第1族金属で再活性化されるかもしくは他の目的に使用され得る多孔質金属酸化物である。
【実施例】
【0064】
実施例
【0065】
実施例1:典型的な多孔質金属酸化物。Sachtleben Chemieからの多孔質TiO(アナターゼ)(孔径29.5nm、すなわち295Å)およびAlmatis ACからの活性化多孔質アルミナ(358m/g)を空気中600℃において焼成し、次に室温に冷却した。これらの粉末にヘリウム充填グローブボックス中で液体NaKをステンレス鋼トレー中の多孔質酸化物上に滴下した。液体合金が多孔質金属酸化物に素速く吸収された。全体の金属の濃度が30wt%を超えない限り、白色粉末が暗黒色に変色し、この混合物が均質のルースパウダーになった。このことが図5に示すようにステージ0材料の試料を提供した。
【0066】
実施例2:本発明の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物のある重要な特徴は、水への添加によるその純粋な水素ガスの製造能力である。第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の「還元力」を、水を脱気試料に添加し、修飾Toepplerポンプで水素を収集することにより測定した。還元力を同量の水素を製造する使用されるアルカリ金属または合金の重量パーセントとして定義する。このことは除気水との反応で既知の質量の材料から製造される水素を収集することにより確認した。修飾したToepplerポンプ(水銀充填)を使用して較正したピペット中に水素を収集した。そのような分析を材料のステージに関係なく還元多孔質金属酸化物の全ての試料に行った。例えば、ステージI多孔質金属酸化物におけるNaKの30wt%試料が、その量のNaK単独によって製造される量と同量の水素を製造する場合、還元力は30%である。次に形成されるアルカリ金属水酸化物の総量をHClの添加および水酸化ナトリウムでの逆滴定により測定した。滴定から得られる総アルカリ金属百分率と還元力との差は、おそらく多孔質金属酸化物上に存在するOH基および他の水素源の濃度の程度である。アルカリ金属は、そのような基と試料調製中反応して水素を放出し得る。この反応はおそらく金属または合金と多孔質金属酸化物との混合中に形成される検出可能な量のガスの源である。多孔質TiOへの添加を除いて、製造される水素の量は一般的に金属だけによって製造された量の90〜95%であった。NaK−TiOまたはNa−TiOを使用する場合、水素の量は約10%金属相当減少した。例えば、図3に示すように25wt%NaKで製造したステージ0試料はわずか13wt%金属相当の水素しか生じず、12wt%金属を有する他の試料はわずか3wt%NaK相当の水素しか生じなかった。25wt%Naで製造したステージINa−TiOの試料は、わずか16wt%金属相当の水素しか生じなかった。一方、30wt%金属を有するステージINaK−Alの試料は、27wt%金属相当の水素を生じた。ドライエアへの二時間の曝露後であっても、生じる水素は23wt%金属に相当し、空気とのいくらかの反応を示すが、穏やかな反応性だけである。
【0067】
実施例3:ステージI材料の製造は、ステージ0材料の150℃への連続加熱によってまたはより高い融解アルカリ金属(例えばナトリウムおよびカリウム)を使用することにより行われ得る。除気および焼成多孔質アルミナ14.0gを量りとり、Na金属6.0gと共にテフロン(登録商標)ガスケットシールを備えたParr Stainless鋼反応器に導入した。反応器を60rpmにおいて回転させながら、多孔質金属酸化物とNaとの組み合わせを最初105℃に1時間加熱し、次に155℃に一晩加熱した。この粉末はルースな黒色かつさらさらした粉末であった。同様のステージ0NaK−Al、NaK−TiOおよびNa−TiOをステージI材料に転化する方法もまた行われた。例えば、21wt%材料のDSCを図6に示す。
【0068】
実施例4:ステージ0またはステージIのアルカリ金属−多孔質金属酸化物粉末全てが、ナフタレンおよびアントラセンを対応するラジカルアニオンに還元することができる。この還元は、それぞれ溶液の非常に濃い緑または青色の形成により観測された。これらのラジカルアニオンは長時間溶液中に存在するほど十分安定である。この反応はいくつかの反応構成、例えばバッチ反応または本発明の還元材料を充填したクロマトグラフィーカラムを使用して行われ得る。アントラセンを用いる反応が以下に示されるように説明され得る。
【化3】

【0069】
実施例5:アルカリ金属と有機化合物との最も速い反応の一つが、新しい炭素−炭素結合を形成するカップリングをもたらすクロロカーボンの脱ハロゲン化であるウルツ反応である。しかしながらバルクなアルカリ金属および純粋なクロロカーボンと使用される場合、この反応は危険なほど爆発性になり得る。以下に示されるように、このカップリング反応はTHF中に溶解された塩化ベンジルとステージINaK−TiOとステージINaK−Al(〜25wt%NaK)と両方との反応により行われた。前者はパスツールピペットからつくられ還元材料で充填された小さなカラムの通過により行われ、後者はバッチ反応において行われた。H NMRにより検出された唯一の生成物がビベンジルであった(図7参照)。
【化4】

【0070】
実施例6:ステージINaK−Alのリサイクル能力を調べるために、この材料約7.5gを水と反応させ、多量の白色残渣を生じた。これを5回洗浄し(毎回遠心分離し)、乾燥した。次に乾燥粉末を600℃において焼成し、ヘリウム充填グローブボックスに入れた。回収した試料は5.0gであり、これをNaK1.86gと滴下混合し、名目金属濃度が27.3wt%のルースブラックパウダーを形成した。この再構成NaK−Alからの水素収集は、20.8wt%金属に相当する水素を生じた。この回収方法は出発原料100%を生じる訳ではないが、これらの結果はステージINaK−Alが洗浄およびカ焼によりリサイクルされ得ることを示す。従って、Alの同一試料が単に洗浄、熱処理およびアルカリ金属の再導入によって再使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、Na金属2.9mgと多孔質Al8.0mgとの混合物の示差走査熱量測定(DSC)トレースである。
【図2】図2は、Na金属3.0mgと多孔質TiO8.2mgとの混合物の示差走査熱量測定(DSC)トレースである。
【図3】図3は、ステージ0の試料(25wt%NaK−TiO)14.9mgの示差走査熱量測定(DSC)トレースである。
【図4】図4は、150℃に一晩加熱したステージIの試料(25wt%NaK−TiO)6.0mgの示差走査熱量測定(DSC)トレースである。
【図5】図5は、ステージ0の試料(25wt%NaK−Al)11.7mgの示差走査熱量測定(DSC)トレースであり、挿入図はAlの孔に吸収されたNaKの融解吸熱である。
【図6】図6は、ステージIの試料(21wt%NaK−Al)44.7mgの示差走査熱量測定(DSC)トレースである。
【図7】図7は、ステージI(25wt%NaK−Al)で還元した塩化ベンジルの還元生成物のH NMRスペクトルであり、主生成物はビベンジルであり、塩化ベンジルはこの生成物中で検出されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体第1族金属と、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物と、を不活性雰囲気中、液体第1族金属を多孔質金属酸化物の孔に吸収するのに十分な恒温条件下で混合した生成物を含有しており、ドライOと反応することを特徴とする、第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項2】
該多孔質金属酸化物の孔径が50〜1,000Åであることを特徴とする、請求項1記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項3】
該第1族金属がナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、および二以上の第1族金属の合金からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項4】
該液体第1族金属と、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物と、の混合が周囲温度において行われることを特徴とする、請求項1記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項5】
液体第1族金属と、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物と、を液体第1族金属または液体第1族金属合金を多孔質金属酸化物の孔に吸収するのに十分な発熱条件下において混合した生成物を含有しており、ドライOと反応しないことを特徴とする、第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項6】
該多孔質金属酸化物の孔の平均孔サイズが約50〜1,000Åであることを特徴とする、請求項5記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項7】
該第1族金属がナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、および二以上の第1族金属の合金からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項8】
第1族金属が30重量%以下の量で存在することを特徴とする、請求項5記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項9】
液体第1族金属と、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物と、を液体第1族金属を多孔質金属酸化物の孔に吸収するのに十分な発熱条件下で混合し、生じる混合物を少なくとも150℃の温度に加熱した生成物を含有しており、ドライOと反応しないことを特徴とする、第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項10】
該多孔質金属酸化物の孔の平均孔サイズが約50〜1,000Åであることを特徴とする、請求項9記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項11】
該第1族金属がナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、および二以上の第1族金属の合金からなる群から選択されることを特徴とする、請求項9記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項12】
第1族金属が約30重量%以下の量で存在することを特徴とする、請求項9記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物。
【請求項13】
液体第1族金属と、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物と、を恒温条件下で不活性雰囲気中または真空中で接触させて第1族金属を多孔質金属酸化物の孔に吸収させる工程を包含する、ステージ0第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の製造方法。
【請求項14】
液体第1族金属を多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物と周囲温度において接触させることを特徴とする、請求項13記載のステージ0第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項13記載のステージ0第1族金属/多孔質金属酸化物組成物を、150℃に所定の時間、ステージ0第1族金属/多孔質金属酸化物組成物をステージI第1族金属/多孔質金属酸化物組成物に転化する条件下で加熱する工程を包含する、ステージI第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の製造方法。
【請求項16】
液体第1族金属と、多孔質酸化チタンおよび多孔質アルミナから選択される多孔質金属酸化物と、を液体第1族金属または液体第1族金属合金を多孔質金属酸化物の孔に吸収するのに十分な発熱条件下において混合する工程を包含する、ステージI第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項1記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物と水とを接触させる工程を包含する、水素ガスの製造方法。
【請求項18】
請求項5記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物と水とを接触させる工程を包含する、水素ガスの製造方法。
【請求項19】
請求項9記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物と水とを接触させる工程を包含する、水素ガスの製造方法。
【請求項20】
改良が請求項1記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の存在下で反応を行うことを包含する、アルカリ金属の存在下における有機化合物の還元反応。
【請求項21】
改良が請求項5記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の存在下で反応を行うことを包含する、アルカリ金属の存在下における有機化合物の還元反応。
【請求項22】
改良が請求項9記載の第1族金属/多孔質金属酸化物組成物の存在下で反応を行うことを包含する、アルカリ金属の存在下における有機化合物の還元反応。
【請求項23】
該還元反応が脱ハロゲン化反応またはウルツ反応であることを特徴とする、請求項20記載のアルカリ金属の存在下における有機化合物の還元反応。
【請求項24】
該還元反応が脱ハロゲン化反応またはウルツ反応であることを特徴とする、請求項21記載のアルカリ金属の存在下における有機化合物の還元反応。
【請求項25】
該還元反応が脱ハロゲン化反応またはウルツ反応であることを特徴とする、請求項22記載のアルカリ金属の存在下における有機化合物の還元反応。
【請求項26】
有機溶媒と多孔質アルミナとを十分な時間接触させて溶媒から水を除去する
工程を包含する、有機溶媒の乾燥方法。
【請求項27】
該接触工程がバッチによってまたはカラムを通して行われることを特徴とする、請求項26記載の有機溶媒の乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−513347(P2008−513347A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533609(P2007−533609)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/033823
【国際公開番号】WO2006/036697
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(506414842)シグナ・ケミストリー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (4)
【氏名又は名称原語表記】SIGNA CHEMISTRY LLC
【出願人】(594114134)ミシガン ステイト ユニバーシティー (22)
【Fターム(参考)】