説明

酸化物半導体電極基板の製造方法および色素増感型太陽電池

【課題】高品質な酸化物半導体電極基板を低コストで製造することが可能な酸化物半導体電極基板の製造方法、色素増感型太陽電池、および色素増感型太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】耐熱基板6上に、金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層形成用塗工液を塗布し、固化させて多孔質層形成用層12’を形成する多孔質層形成用層形成工程と、多孔質層形成用層を焼成して多孔質体とし、多孔質層を形成することにより酸化物半導体電極基板用積層体1”を形成する焼成工程と、金属層を少なくとも有する第1電極基材11、および酸化物半導体電極基板用積層体を、導電性接着剤層を介して多孔質層および金属層が対向するように配置することにより、耐熱基板付酸化物半導体電極基板1’を形成する接着工程と、耐熱基板付酸化物半導体電極基板から耐熱基板を剥離して、酸化物半導体電極基板1を形成する剥離工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低コストで高品質な酸化物半導体電極基板を製造することが可能な酸化物半導体電極基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の増加が原因とされる地球温暖化等の環境問題が深刻となり、世界的にその対策が進められている。中でも環境に対する負荷が小さく、クリーンなエネルギー源として、太陽光エネルギーを利用した太陽電池に関する積極的な研究開発が進められている。このような太陽電池としては、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、および化合物半導体太陽電池などが既に実用化されているが、これらの太陽電池は製造コストが高い等の問題がある。そこで、環境負荷が小さく、かつ製造コストを削減できる太陽電池として、色素増感型太陽電池が注目され研究開発が進められている。
【0003】
図11は、一般的な色素増感型太陽電池の一例を示す概略断面図である。図11(a)に示すように、一般的な色素増感型太陽電池100は、透明基材111b、透明基材111b上に形成された透明電極層111aを有する第1電極基材111、および透明電極層111a上に形成された色素増感剤が坦持された金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層112を有する酸化物半導体電極基板110と、電極としての機能を備えた第2電極基材121および第2電極基材121上に形成された触媒層122を有する対極基板120と、酸化物半導体電極基板110および対極基板120の間に、多孔質層112と接触するように形成された電解質層130と、色素増感型太陽電池を封止するためのシール剤140とを有するものである。そして、多孔質層112における金属酸化物半導体微粒子の表面に吸着した色素増感剤が、酸化物半導体電極基材111側から太陽光を受光することによって励起され、励起された電子が透明電極層111aへ伝導し、外部回路を通じて第2電極基材121へ伝導される。その後、酸化還元対を介して色素増感剤の基底準位に電子が戻ることよって発電するものである。
【0004】
このような色素増感型太陽電池としては、上記多孔質層を多孔質二酸化チタンから構成し、色素増感剤の含有量を増加させたグレッチェルセルが代表的であり、発電効率の高い色素増感型太陽電池として広く研究の対象となっている。
なお、図11(a)においては、第1電極基材111が透明性を有し、酸化物半導体電極基板110側から太陽光を受光する、いわゆる‘順構造セル型’の色素増感型太陽電池を例に挙げて示しているが、色素増感型太陽電池としては、図11(b)に例示するように、第2電極基材121が透明性を有し、対極基板120側から太陽光を受光する、いわゆる逆構造セル型'の構成を有するものも知られている。なお、図11(b)においては、第2電極基材121が透明基材121bおよび透明基材121b上に形成された透明電極層121aを有するものであり、第1電極基材111は透明性を有しないものである。
【0005】
上記順構造セル型の色素増感型太陽電池の酸化物半導体電極基板において、例えば、第1電極基材の基材としてガラス基板を用いた場合は、多孔質膜を形成するために400℃〜600℃での焼成を行うことが可能であるが、ガラス基板よりも耐熱性が劣るフィルム基板を用いた場合は、フィルムの耐熱温度以下で焼成しなければならず、金属酸化物半導体微粒子間の結合力が不十分となるため、光励起により生じた電子における増感色素から酸化物半導体層、および透明電極への伝達経路が十分に確保できないことがあった。また、フィルム基板と酸化物半導体層との密着性も十分でなくフィルムの可撓性に追従できずに膜の剥離や亀裂が生じるといった不都合があった。
【0006】
この問題に対して、例えば、特許文献1には、耐熱性基板上に酸化物半導体及び/又はその前駆体を含む層を形成させ、これを加熱焼成して得られる酸化物半導体層を、フィルム上に転写することを特徴とする酸化物半導体電極基板の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献1における酸化物半導体電極基板の製造方法においては、フィルムおよび酸化物半導体層の間には、酸化インジウムに酸化錫を添加した化合物(以下、ITOとする。)等からなる透明電極層を介する必要があり、上記透明電極層の材料は高価であるため製造コストが高くなること、および酸化物半導体電極基板を製造する工程が煩雑であるといった問題があった。
【0007】
一方、逆構造セル型の色素増感型太陽電池においては、対極基板側から太陽光が受光されることから、多孔質層が形成される第1電極基材としては、透明性を有する必要がなく、例えば耐熱性の高い金属箔を用いることができる。特許文献2には、耐熱性の高い金属箔上に酸化物半導体を含む層を形成し、これを500℃で焼成することを特徴とする酸化物半導体電極基板の製造方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、そもそも金属箔を高温で焼成した場合は、その表面上に金属酸化物が形成されるため、製造された酸化物半導体電極基板によっては電極としての機能が低下してしまう可能性があった。
【0009】
また、上述した耐熱性の高い金属箔の材質としては、チタン、貴金属、ステンレス鋼等が用いられるが、これらの金属箔は、いずれも高価であるため、酸化物半導体電極基板の製造コストが高くなるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−166648号公報
【特許文献2】特開2006−324111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高品質な酸化物半導体電極基板を低コストで製造することが可能な酸化物半導体電極基板の製造方法、上記酸化物半導体電極基板の製造方法により得られる酸化物半導体電極基板用積層体、耐熱基板付酸化物半導体電極基板、酸化物半導体電極基板、これを用いた色素増感型太陽電池、および色素増感型太陽電池モジュールを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、耐熱基板上に、金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層形成用塗工液を塗布し、固化させて多孔質層形成用層を形成する多孔質層形成用層形成工程と、上記多孔質層形成用層を焼成して多孔質体とし、多孔質層を形成することにより酸化物半導体電極基板用積層体を形成する焼成工程と、金属層を少なくとも有する第1電極基材、および上記酸化物半導体電極基板用積層体を、導電性接着剤層を介して上記多孔質層および上記金属層が対向するように配置することにより、耐熱基板付酸化物半導体電極基板を形成する接着工程と、上記耐熱基板付酸化物半導体電極基板から上記耐熱基板を剥離して、酸化物半導体電極基板を形成する剥離工程と、を有することを特徴とする酸化物半導体電極基板の製造方法を提供する。
【0013】
本発明によれば、上記多孔質層を、別途耐熱基板上で焼成した後、導電性接着剤層を介して第1電極基材の金属層上に形成することができることから、金属箔上に多孔質層を焼成して形成する方法において問題とされている金属箔表面に金属酸化物膜が形成されることを防止することが可能となる。よって、上記第1電極基材の電極としての機能が金属酸化物膜によって低下することを防止することが可能となる。
また、上記金属層を上記多孔質層とともに焼成しないことから、金属層の材料として耐熱性の低い安価な金属材料を用いることができるので、酸化物半導体電極基板の製造コストを下げることが可能となる。
また、従来の多孔質層および透明基材の間にITO薄膜等を有する構成の酸化物半導体電極基板を製造する場合に比べて、工程が少なく、高価なITO薄膜等を形成する必要がないことことから、酸化物半導体電極基板の製造が容易であり、かつ、製造コストを下げることが可能となる。さらに、ITO薄膜等よりも抵抗の低い金属層を用いることができることから、発電効率の高い酸化物半導体電極基板を製造することが可能となる。
【0014】
本発明においては、上記多孔質層形成用層形成工程では、上記耐熱基板上に上記金属酸化物半導体微粒子を含有する介在層形成用塗工液を塗布し、固化させて介在層形成用層を形成する介在層形成用層形成工程と、上記介在層形成用層上に、上記金属酸化物半導体微粒子を含有し、かつ、上記介在層形成用塗工液よりも上記金属酸化物半導体微粒子の固形分中の濃度が高い酸化物半導体層形成用塗工液を塗布し、固化させて酸化物半導体層形成用層を形成する酸化物半導体層形成用層形成工程とを行うことにより、上記介在層形成用層および上記酸化物半導体層形成用層の積層体からなる多孔質層形成用層を形成し、上記焼成工程では、上記多孔質層形成用層を焼成することにより介在層および酸化物半導体層を有する多孔質層を形成することが好ましい。上記多孔質層が上記介在層および酸化物半導体層の積層体からなることにより、上記焼成工程後であっても、上記耐熱基板および介在層の密着性を良好なものとすることができ、上記剥離工程では、酸化物半導体電極基板から耐熱基板を容易に剥離することが可能となる。
【0015】
本発明においては、上記接着工程では、上記多孔質層および上記金属層の間に、上記導電性接着剤層をパターン状に形成し、上記剥離工程では、上記耐熱基板付酸化物半導体電極基板から上記耐熱基板を剥離することにより、上記金属層上に形成された上記導電性接着剤層上に上記多孔質層をパターン状に形成することが好ましい。上記接着工程で、上記導電性接着剤層をパターン状に形成することにより、上記多孔質層を上記導電性接着剤層上に容易にパターニングすることが可能となる。
【0016】
本工程においては、上記金属層が金属箔であり、上記第1電極基材が上記金属箔からなることが好ましい。第1電極基材を準備するのが容易であり、また上記金属箔はフレキシブル性を有することから、加工性に優れた酸化物半導体電極基板を製造することが可能となる。
【0017】
本発明は、耐熱基板と、上記耐熱基板上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層と、上記多孔質層上に形成された導電性接着剤層とを有することを特徴とする酸化物半導体電極基板用積層体を提供する。
【0018】
本発明によれば、上記酸化物半導体電極基板用積層体を用いて転写方式により酸化物半導体電極基板を形成することが可能であることから、上記第1電極基材の材料として耐熱性の低い安価な金属材料を用いることが可能となり、低コストで酸化物半導体電極基板を形成することが可能となる。
【0019】
本発明は、金属層を少なくとも有する第1電極基材と、上記金属層上に形成された導電性接着剤層と、上記導電性接着剤層上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層と、上記多孔質層上に配置された耐熱基板と、を有することを特徴とする耐熱基板付酸化物半導体電極基板を提供する。
【0020】
本発明によれば、上記導電性接着剤層を用いて、上記多孔質層を上記金属層上に形成していることから、上記金属層としては耐熱性の低い金属材料を用いることができるので、低コストで耐熱基板付酸化物半導体電極基板を得ることが可能となる。また、上記耐熱基板が多孔質層の保護層として働くことから、外部からの衝撃等による多孔質層の破損を防ぐことができ、酸化物半導体電極基板の品質の低下を防止することが可能となる。
【0021】
また、本発明は、金属層を少なくとも有する第1電極基材と、上記金属層上に形成された導電性接着剤層と、上記導電性接着剤層上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層と、を有することを特徴とする酸化物半導体電極基板を提供する。
【0022】
本発明によれば、上記導電性接着剤層を用いて、上記多孔質層を上記金属層上に配置していることから、上記金属層としては、耐熱性の低い金属箔等を用いることができるので、低コストで酸化物半導体電極基板を得ることが可能となる。
【0023】
本発明においては、上記第1電極基材が、基材と、上記基材上に配置された上記金属層とを有するものであり、上記金属層上に、上記導電性接着剤層および上記多孔質層の積層体がパターン状に形成されているものであることが好ましい。上記の構成の酸化物半導体電極基板を用いることにより、色素増感型太陽電池が複数個配列されている色素増感型太陽電地モジュールを容易に形成することが可能となるからである。
【0024】
また、本発明においては、上記金属層が金属箔であり、上記第1電極基材が上記金属箔からなることが好ましい。第1電極基材を準備するのが容易であり、また上記金属箔はフレキシブル性を有することから、加工性に優れた酸化物半導体電極基板とすることが可能となる。
【0025】
本発明は、金属層を少なくとも有する第1電極基材、上記金属層上に形成された導電性接着剤層、および上記導電性接着剤層上に形成され、色素増感剤が坦持された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層を有する酸化物半導体電極基板と、透明性を有し、かつ電極としての機能を備えた第2電極基材、および上記第2電極基材上に形成された触媒層を有する対極基板とが、上記多孔質層および上記触媒層が対向するように配置されており、上記酸化物半導体電極基板および上記対極基板の間に酸化還元対を含む電解質層が形成されていることを特徴とする色素増感型太陽電池を提供する。
【0026】
本発明によれば、上記酸化物半導体電極基板を有することから、低コストで高品質な色素増感型太陽電池とすることができる。
【0027】
本発明は、金属層を少なくとも有する第1電極基材、上記金属層上に形成された導電性接着剤層、および上記導電性接着剤層上に形成され、色素増感剤が坦持された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層を有する酸化物半導体電極基板と、透明性を有し、かつ電極としての機能を備えた第2電極基材、および上記第2電極基材上に形成された触媒層を有する対極基板とが、上記多孔質層および上記触媒層が対向するように配置されており、上記酸化物半導体電極基板および上記対極基板の間に酸化還元対を含む電解質層が形成されている色素増感型太陽電池を複数個配列したことを特徴とする色素増感型太陽電池モジュールを提供する。
【0028】
本発明によれば、上記酸化物半導体電極基板を有することから、低コストで高品質な色素増感型太陽電池モジュールとすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、上記多孔質層を別途耐熱基板上で焼成した後、導電性接着剤層を介して金属層上に形成することができることから、金属箔上に多孔質層を直接焼成する場合に生じる不具合がなく、また、上記金属層として耐熱性の低い安価な金属箔を用いることが可能であることから、低コストで高品質な酸化物半導体電極基板を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の酸化物半導体電極基板の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の酸化物半導体電極基板の製造方法の他の一例を示す工程図である。
【図3】本発明の酸化物半導体電極基板用積層体の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の耐熱基板付酸化物半導体電極基板の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の耐熱基板付酸化物半導体電極基板の他の一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の酸化物半導体電極基板の一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の酸化物半導体電極基板の他の一例を示す概略断面図である。
【図8】本発明の色素増感型太陽電池の一例を示す概略断面図である。
【図9】本発明の色素増感型太陽電池モジュールの一例を示す概略断面図である。
【図10】本発明の色素増感型太陽電池モジュールの他の一例を示す概略断面図である。
【図11】色素増感型太陽電池の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の酸化物半導体電極基板の製造方法、酸化物半導体電極基板用積層体、耐熱基板付酸化物半導体電極基板、酸化物半導体電極基板、色素増感型太陽電池、および色素増感型太陽電池モジュールについて詳細に説明する。
【0032】
A.酸化物半導体電極基板の製造方法
まず、本発明の酸化物半導体電極基板の製造方法について説明する。
本発明の酸化物半導体電極基板の製造方法は、耐熱基板上に、金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層形成用塗工液を塗布し、固化させて多孔質層形成用層を形成する多孔質層形成用層形成工程と、上記多孔質層形成用層を焼成して多孔質体とし、多孔質層を形成することにより酸化物半導体電極基板用積層体を形成する焼成工程と、金属層を少なくとも有する第1電極基材、および上記酸化物半導体電極基板用積層体を、導電性接着剤層を介して上記多孔質層および上記金属層が対向するように配置することにより、耐熱基板付酸化物半導体電極基板を形成する接着工程と、上記耐熱基板付酸化物半導体電極基板から上記耐熱基板を剥離して、酸化物半導体電極基板を形成する剥離工程と、を有することを特徴とする製造方法である。
【0033】
本発明の酸化物半導体電極基板の製造方法について図を用いて説明する。
図1は本発明の酸化物半導体電極基板の製造方法の一例を示す工程図である。図1に示すように、本発明の酸化物半導体電極基板の製造方法は、耐熱基板6上に、金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層形成用塗工液を塗布し、固化させて多孔質層形成用層12’を形成する多孔質層形成用層形成工程(図1(a))と、多孔質層形成用層12’を焼成して多孔質体とし、多孔質層12を形成することにより酸化物半導体電極基板用積層体1”を形成する焼成工程(図1(b))と、酸化物半導体電極基板用積層体1”、および金属箔のみからなる第1電極基材11を、導電性接着剤層13を介して多孔質層12および第1電極基材11が対向するように配置することにより、耐熱基板付酸化物半導体電極基板1’を形成する接着工程(図1(c))と、耐熱基板付酸化物半導体電極基板1’から耐熱基板6を剥離して、酸化物半導体電極基板1を形成する剥離工程(図1(d))と、を有することを特徴とする製造方法である。
【0034】
また図1においては、多孔質層形成用層形成工程では、金属酸化物半導体微粒子を含有する介在層形成用塗工液を塗布し、固化させて介在層形成用層12’aを形成する介在層形成用層形成工程と、介在層形成用層12’a上に、介在層形成用塗工液よりも金属酸化物半導体微粒子の固形分中の濃度が高い酸化物半導体層形成用塗工液を塗布し、固化させて酸化物半導体層形成用層12’bを形成する酸化物半導体層形成用層形成工程とを行い(図1(a))、焼成工程では、介在層形成用層12’aおよび酸化物半導体層形成用層12’bの積層体からなる多孔質層形成用層12’を焼成することにより、介在層12aおよび酸化物半導体層12bの積層体からなる多孔質層12を形成する(図1(b))例について示している。
【0035】
本発明によれば、上記多孔質層を、別途耐熱基板上で焼成した後、導電性接着剤層を介して第1電極基材の金属層上に形成することができることから、金属箔上に多孔質層を焼成して形成する方法において問題とされている金属箔表面に金属酸化物膜が形成されることを防止することが可能となる。よって、上記第1電極基材の電極としての機能が金属酸化物膜によって低下することを防止することが可能となる。
また、上記金属層を上記多孔質層とともに焼成しないことから、金属層の材料として耐熱性の低い安価な金属材料を用いることができるので、酸化物半導体電極基板の製造コストを下げることが可能となる。
また、従来の多孔質層および透明基材の間にITO薄膜等を有する構成の酸化物半導体電極基板を製造する場合に比べて、工程が少なく、高価なITO薄膜等を形成する必要がないことから、酸化物半導体電極基板の製造が容易であり、かつ、製造コストを下げることが可能となる。さらに、ITO薄膜よりも抵抗の低い金属層を用いることができることから、発電効率の高い酸化物半導体電極基板を製造することが可能となる。
【0036】
以下、本発明の酸化物半導体電極基板の製造方法における各工程について、それぞれ説明する。
【0037】
1.多孔質層形成用層形成工程および焼成工程
本発明における多孔質層形成用層形成工程および焼成工程は、耐熱基板上に多孔質層を形成するための工程である。
そこで、まず上記の工程により形成される多孔質層について説明する。
【0038】
(1)多孔質層
上記多孔質層形成用層形成工程および焼成工程において形成される多孔質層は、本発明により製造された酸化物半導体電極基板が色素増感型太陽電池に用いられた際に、多孔質層の細孔の表面に坦持された色素増感剤に光が照射されることによって生じた電荷を、第1電極基材の金属層に伝導する光電変換層として機能するものである。
【0039】
このような多孔質層としては、上述した光電変換層としての機能を有することができるのであれば特に限定されるものではなく、単層であってもよいし、複数層であってもよい。
【0040】
上記多孔質層が単層である場合は、上記多孔質層は酸化物半導体層からなるものである。また、上記多孔質層が複数層である場合は、例えば上記多孔質層は、上記酸化物半導体層の他に、耐熱基板および酸化物半導体層の間に形成された介在層を有するものであってもよい。
【0041】
ここで、上記酸化物半導体層とは、金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質体として形成されるものである。また、本発明により製造された酸化物半導体電極基板が色素増感型太陽電池に用いられた際には、上記酸化物半導体層は、上記酸化物半導体層の細孔の表面に色素増感剤を坦持させることによって、光電変換層として用いられるものである。
【0042】
またここで、上記介在層とは、金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔体として形成され、かつ、上記酸化物半導体層よりも空孔率が高くなるように形成されたものである。上記介在層も、本発明により製造された酸化物半導体電極基板が色素増感型太陽電池に用いられた際には、上記酸化物半導体層と同様に、上記介在層の細孔の表面に色素増感剤を坦持させることによって、光電変換層として用いられるものである。
【0043】
上記多孔質層形成用層形成工程および焼成工程により形成される多孔質層としては、介在層および酸化物半導体層の積層体からなる多孔質層であることがより好ましい。
上記多孔質層が上記介在層を有する場合は、焼成工程において密着性良く耐熱基板上に多孔質層を形成することができるからである。また、上記介在層を有することにより、上記多孔質層および耐熱基板との剥離性を優れたものとすることが可能となることから、後述する接着工程で酸化物半導体層上に第1電極基材を設けた後、後述する剥離工程で、耐熱基板付酸化物半導体電極基板から耐熱基板を良好に剥離することが可能となる。したがって、歩留まり良く酸化物半導体電極基板を製造することができるからである。
【0044】
以下、上記多孔質層を形成するための多孔質層形成用層形成工程および焼成工程についてそれぞれ説明する。
【0045】
(2)多孔質層形成用層形成工程
本工程は、耐熱基板上に、金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層形成用塗工液を塗布し、固化させて多孔質層形成用層を形成する工程である。
【0046】
ここで、上述したように、本工程および後述する焼成工程において形成される多孔質層は少なくとも酸化物半導体層を有するものであることから、本工程は、少なくとも酸化物半導体層形成用層を形成する酸化物半導体層形成用層形成工程を有する工程である。以下、酸化物半導体層形成用層形成工程について説明する。
【0047】
(a)酸化物半導体層形成用層形成工程
上記酸化物半導体層形成用層形成工程は、耐熱基板上に、金属酸化物半導体微粒子を含有する酸化物半導体層形成用塗工液を塗布し、固化させて酸化物半導体層形成用層を形成する工程である。
【0048】
本工程において具体的に使用可能な金属酸化物半導体微粒子は、本発明により製造された酸化物半導体電極基板を色素増感型太陽電池に用いた際に、色素増感剤から発生した電荷を第1電極基材の金属層へ伝導させることができるものであれば特に限定はされない。具体的には、TiO、ZnO、SnO、ITO,ZrO、SiO、MgO、Al、CeO、Bi、Mn、Y、WO、Ta、Nb、La等を挙げることができる。これらの金属酸化物半導体微粒子は、多孔性の酸化物半導体層を形成するのに適しており、エネルギー変換効率の向上、コストの削減を図ることができるため好ましい。また、上記微粒子のうち、いずれか一種を使用しても良く、また、2種以上を混合して使用してもよい。中でも、TiOを好ましく用いることができる。さらに、これらのうち一種をコア微粒子とし、他の金属酸化物半導体微粒子により、コア微粒子を包含してシェルを形成するコアシェル構造としてもよい。
【0049】
また、酸化物半導体層形成用塗工液に含有された金属酸化物半導体微粒子の粒径は、後述する焼成工程で酸化物半導体層を形成することができるのであれば特に限定はされないが、具体的には、1nm〜10μmの範囲内、その中でも、10nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。上記範囲よりも粒子径が小さい場合は、そのような微粒子を製造すること自体が困難であり、各々の粒子が凝集し、二次粒子を形成する場合があるため好ましくない。一方、上記範囲よりも粒子径が大きい場合は、酸化物半導体層を厚膜化させる場合があり、抵抗が高くなるため好ましくない。
【0050】
また、上記範囲内の粒子径を有し、粒径の異なる同種または異種の金属酸化物半導体微粒子を混合して用いてもよい。これにより、光散乱効果を高めることができ、最終的に得られる酸化物半導体層内でより多くの光を閉じ込めることができるため、色素増感剤における光吸収を効率的に行うことができるからである。例えば、10nm〜50nmの範囲内にある金属酸化物半導体微粒子と、50nm〜200nmの範囲内にある金属酸化物半導体微粒子とを混合して用いる場合を挙げることができる。
【0051】
本工程において用いられる酸化物半導体層形成用塗工液は、金属酸化物半導体微粒子を含有し、酸化物半導体層形成用層を形成することができるものであれば特に限定されるものではない。具体的に、酸化物半導体層形成用塗工液における金属酸化物半導体微粒子の固形分中の濃度としては、50質量%〜100質量%の範囲内、中でも、65質量%〜90質量%の範囲内であることが好ましい。このような酸化物半導体層形成用塗工液を用いることにより、焼成工程後に得られる多孔質体として形成された酸化物半導体層において、その細孔の表面に十分な量の色素増感剤を坦持させることができるため、最終的に得られる酸化物半導体層において、光照射により色素増感剤から生じた電荷を伝導する機能を十分に得ることができるからである。
【0052】
さらにまた、金属酸化物半導体微粒子の酸化物半導体層形成用塗工液に対する濃度としては、5質量%〜50質量%の範囲内、中でも、10質量%〜40質量%の範囲内であることが好ましい。このような酸化物半導体層形成用塗工液を用いることにより、所望の膜厚に精度良く酸化物半導体層形成用層を成膜することができるからである。
【0053】
本発明に用いられる酸化物半導体層形成用塗工液としては、上記金属酸化物半導体微粒子を含有するものであれば特に限定されるものではなく、他の成分を含んでいてもよい。
上記酸化物半導体層形成用塗工液に用いられる他の成分としては、例えば有機物を挙げることができる。
【0054】
また、上記有機物としては、後述する焼成工程において、分解されやすいものであれば特に限定はされない。具体的には、樹脂を挙げることができる。このような樹脂としては、上述した酸化物半導体層を形成する際に使用する溶媒に溶解しにくいものであれば特に限定はされない。中でも、本発明においては、分子量が2000〜600000の範囲内である樹脂が好ましく、さらには、分子量が10000〜200000の範囲内である樹脂が好ましい。上記範囲の分子量を有する樹脂であれば、後述する焼成工程において分解されやすく、酸化物半導体層形成用層を連通孔を有する多孔性の酸化物半導体層に容易に形成することができるからである。
【0055】
また、酸化物半導体層形成用層の形成に使用可能な樹脂としては、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂などのほか、ポリエチレングリコールのような多価アルコール類等を挙げることができる。
【0056】
上記樹脂の含有量は、酸化物半導体層形成用塗工液に対して、0.5質量%〜20質量%の範囲内、その中でも、1質量%〜10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0057】
また、本発明においては、上記酸化物半導体層形成用塗工液が溶媒を含むものであってもよい。酸化物半導体層形成用塗工液に溶媒を用いた場合には、上述した樹脂が溶解するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、水またはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ターピネオール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等の各種溶剤を挙げることができる。中でも、水ないしアルコール系の溶媒であることが好ましい。
【0058】
また、酸化物半導体層形成用塗工液の塗工適性を向上させるために、各種添加剤を用いてもよい。例えば、添加剤としては、界面活性剤、粘度調整剤、分散助剤、pH調節剤等を用いることができる。例えば、pH調製剤としては、硝酸、塩酸、酢酸、ジメチルホルムアミド、アンモニア等を挙げることができる。また、分散助剤としては、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのようなポリマー、界面活性剤、酸、またはキレート剤等を挙げることができる。中でも、ポリエチレングリコールの分子量を変えることで、分散液の粘度が調節可能となり、剥がれにくい酸化物半導体層の形成、酸化物半導体層の空孔率の調整等を行うことができるので、ポリエチレングリコールを添加することが好ましい。
【0059】
このような本工程において、上記塗工液を塗布する方法としては、公知の塗布方法であれば特に限定はされないが、具体的には、ダイコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、リバースロールコート、バーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート、マイクロバーコート、マイクロバーリバースコートや、スクリーン印刷(ロータリー方式)等を挙げることができる。
【0060】
また、酸化物半導体層形成用層の膜厚としては、最終的に酸化物半導体層として形成された際に、光照射により色素増感剤により生じた電荷を伝導する機能を十分に得ることができるのであれば特に限定はされない。例えば、後述する焼成工程において多孔質体として形成された際に、後述する「2.焼成工程」の中に記載した膜厚となるように調整して決定することが好ましい。具体的には、1μm〜65μmの範囲内、中でも、5μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。
【0061】
また、本工程において用いる耐熱基板としては、耐熱性に優れたものであれば特に限定はされない。具体的には、ガラス、セラミクス、または金属板等からなる耐熱基板を挙げることができる。このような材料からなる耐熱基板を用いることにより、後述する焼成工程において十分に高温で焼成を行うことができるので、金属酸化物半導体微粒子間の結着性を高くすることができる。
【0062】
(b)介在層形成用層形成工程
上記多孔質層形成用層形成工程は、必要に応じて上記酸化物半導体層形成用層形成工程の前に介在層形成用層を形成する介在層形成用層形成工程を有していてもよい。以下、介在層形成用層形成工程について説明する。
【0063】
本工程は、耐熱基板上に、金属酸化物半導体微粒子を含有する介在層形成用塗工液を塗布し、固化させて介在層形成用層を形成する工程である。なお、上記多孔質層形成用層形成工程が介在層形成工程を有する場合は、上述した酸化物層形成用層形成工程に用いられる酸化物半導体層形成用塗工液は、上記介在層形成用塗工液よりも金属酸化物半導体微粒子の固形分中の濃度が高くなるように調製される。
【0064】
本工程において、具体的に使用可能な金属酸化物半導体微粒子については「(1)酸化物半導体層形成用層形成工程」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0065】
また、介在層形成用塗工液に含有された金属酸化物半導体微粒子の粒径としては、後述する焼成工程で介在層を形成することができるのであれば特に限定はされないが、具体的には、5nm〜500nmの範囲内、中でも、10nm〜250nmの範囲内であることが好ましい。
【0066】
上記介在層形成用塗工液において、金属酸化物半導体微粒子の固形分中の濃度は、上述した酸化物半導体層形成用塗工液における金属酸化物半導体微粒子の固形分中の濃度よりも低いのであれば特に限定はされないが、具体的には、20質量%〜80質量%の範囲内、中でも、30質量%〜70質量%の範囲内であることが好ましい。上記範囲で金属酸化物半導体微粒子を含有する介在層形成用塗工液であれば、このような介在層形成用塗工液を用いて形成された介在層形成用層を介して酸化物半導体層形成用層を形成することにより、後述する酸化物半導体層を耐熱基板上に適度な密着性を有して形成することができるからである。また、後述する焼成工程により多孔質体である介在層として形成された際には、耐熱基板との剥離性に優れているため、上記金属層上に良好に介在層および酸化物半導体層の積層体からなる多孔質層を形成することができる。
【0067】
さらにまた、上記介在層形成用塗工液において、金属酸化物半導体微粒子の介在層形成用塗工液中に対する濃度は、塗布方法等によって異なるものではあるが、具体的には、0.1質量%〜15質量%の範囲内であることが好ましく、中でも、0.2質量%〜12質量%の範囲内であることが好ましい。
【0068】
上記介在層形成用塗工液としては、上記金属酸化物半導体微粒子を含有するものであれば特に限定されるものではなく、他の成分を有していてもよい。上記介在層形成用塗工液に用いられる他の成分としては、例えば有機物が挙げられる。
【0069】
また、上記有機物としては、後述する焼成工程において、分解されやすいものであれば特に限定はされない。具体的には、樹脂を挙げることができる。このような樹脂としては、上述した酸化物半導体層を形成する際に使用する溶媒に溶解しにくいものであれば特に限定はされない。中でも、本発明においては、分子量が2000〜600000の範囲内である樹脂が好ましく、さらには、分子量が10000〜200000の範囲内である樹脂が好ましい。上記範囲の分子量を有する樹脂であれば、後述する焼成工程において分解されやすく、介在層形成用層を連通孔を有する多孔性の介在層に容易に形成することができるからである。
【0070】
具体的に使用可能な樹脂としては、焼成によって容易に熱分解し介在層中に残存しない樹脂が好ましく、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルセルロース、アセチルエチルセルロース、セルロースプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロース、ブチルセルロース、ベンジルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、又はメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ターシャルブチルメタクリレート、ノルマルブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、2−エチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の重合体もしくは共重合体からなるアクリル系樹脂、ポリエチレングリコール等の多価アルコール類等を挙げることができる。
【0071】
上記樹脂の含有量は、介在層形成用塗工液に対して、0.01質量%〜15質量%の範囲内、その中でも、0.1質量%〜10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0072】
また、上記介在層形成用塗工液は、溶媒を含有するものであってもよい。上記介在層形成用塗工液に溶媒が含有されている場合には、用いる有機物に対して良溶媒であり、かつ、上述した酸化物半導体層形成用塗工液に用いられる樹脂を溶解しにくいものであることが好ましい。このような溶剤の選定は、溶剤の揮発性と、使用する有機物の溶解性を主に考慮して適宜選択する。具体的には、ケトン類、炭化水素類、エステル類、アルコール類、ハロゲン化炭化水素類、グリコール誘導体、エーテル類、エーテルエステル類、アミド類、アセテート類、ケトンエステル類、グリコールエーテル類、スルホン類、スルホキシド類等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ノルマルブタノール、イソブタノール、テルピネオール、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、ブチルカルビトール等の有機溶媒であることが好ましい。介在層形成用塗工液は耐熱基板上に塗布されるため上記有機溶媒を用いることにより、耐熱基板上に濡れ性良く塗布することができるからである。また上述したように、酸化物半導体層に用いられる溶媒は水ないしアルコール系の溶媒が好ましいことから、酸化物半導体層形成用層の下層として形成される介在層形成用層においては、両者の混合を防止するため、酸化物半導体層と異なる有機溶媒であることが好ましいのである。
【0073】
また、上記介在層形成用塗工液の塗工適性を向上させるために、各種添加剤を用いてもよい。例えば、添加剤としては、界面活性剤、粘度調整剤、分散助剤、pH調節剤等を用いることができる。例えば、pH調製剤としては、硝酸、塩酸、酢酸、ジメチルホルムアミド、アンモニア等を挙げることができる。
【0074】
このような本工程において、上記介在層形成用塗工液を塗布する方法としては、公知の塗布方法であれば特に限定はされないが、具体的には、ダイコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、リバースロールコート、バーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート、マイクロバーコート、マイクロバーリバースコートや、スクリーン印刷(ロータリー方式)等を挙げることができる。このような塗布法を用い、単数回または複数回、塗布および固化を繰り返すことにより介在層形成用層を所望の膜厚に調整して形成する。
【0075】
また、介在層形成用層の膜厚としては、酸化物半導体層を耐熱基板上に適度な密着性を有して形成することを可能とする膜厚であれば特に限定はされないが、後述する焼成工程において多孔質体として形成された際に、後述する「2.焼成工程」の中に記載した膜厚となるように調整して決定することが好ましい。具体的には、0.01μm〜30μmの範囲内、中でも、0.05μm〜6μmの範囲内であることが好ましい。
【0076】
(c)その他
上述したように、本工程および後述する焼成工程により形成される多孔質層としては、介在層および酸化物半導体層の積層体からなるものであることが好ましいことから、本工程においては、上記介在層形成用層形成工程と、上記酸化物半導体層形成用層形成工程とを行うことにより、上記介在層形成用層および上記酸化物半導体層形成用層の積層体からなる多孔質層形成用層を形成することが好ましい。
【0077】
(3)焼成工程
次に、本発明における焼成工程について説明する。
本工程は、上記多孔質層形成用層を焼成して多孔質体とし、多孔質層を形成することにより酸化物半導体電極基板用積層体を形成する工程である。
【0078】
本工程においては、上記多孔質層形成工程で形成された多孔質層形成用層を焼成して多孔質体とし、多孔質層を形成することができるのであれば特に限定されないが、上述した多孔質層形成用層形成工程においては、介在層形成用層および酸化物半導体層形成用層を有する多孔質層形成用層を形成することが好ましいことから、本工程においては、上記介在層形成用層および酸化物半導体層形成用層の積層体からなる多孔質層形成用層を焼成して多孔質体とし、介在層および酸化物半導体層の積層体からなる多孔質層を形成することが好ましい。
【0079】
本工程において、焼成の温度は、300℃〜700℃の範囲内であることが好ましく、中でも、350℃〜600℃の範囲内であることが好ましい。本発明においては、耐熱性に優れた耐熱基板を用いていることから、上記範囲の高温域での焼成が可能であり、上記多孔質層を金属酸化物半導体微粒子間の結着性良く形成することができるからである。
なお、酸化物半導体層及び/又は介在層に有機物を含む場合には、有機物の熱分解開始温度以上で焼成することが好ましい。有機物の熱分解開始温度以上で焼成することで、連通孔を有する多孔性の酸化物半導体層及び/又は介在層を容易に形成することができる。なお、熱分解開始温度は、島津製作所の自動TG/DTA同時測定装置DTG-60Aを用いて熱分解温度を測定することにより求めることができる。
【0080】
また、本工程において、上記多孔質層形成用層を焼成する際の加熱方法としては、加熱ムラなく一様に上記多孔質層形成用層を焼成できる方法であれば特に限定はされない。具体的には、公知の加熱方法を用いることができる。
【0081】
また、本工程により多孔質体として形成された多孔質層の膜厚としては、1μm〜100μmの範囲内、その中でも、5μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。本工程により得られる多孔質層の細孔の表面に色素増感剤を坦持させることにより、色素増感型太陽電池として使用された際に、光照射により色素増感剤から生じた電荷を伝導する機能を有する光電変換層となるため、上記多孔質層の膜厚を上記範囲内とすることにより、光電変換層の膜抵抗を小さくすることができ、十分な量の光吸収を得ることができるからである。なお、上記多孔質層が介在層および酸化物半導体層の積層体からなる層である場合は、両方を併せた膜厚が、上記範囲内であるものとする。
【0082】
さらに、上記多孔質層が介在層および酸化物半導体層の積層体からなる層である場合は、上記多孔質層が酸化物半導体層と、介在層との膜厚比は、10:0.1〜10:5の範囲内であることが好ましく、中でも、10:0.1〜10:3の範囲内であることが好ましい。介在層および酸化物半導体層を併せた膜厚のうち、酸化物半導体層と介在層との膜厚比を上記範囲とすることにより、介在層を介して形成された酸化物半導体層を耐熱基板上に適度な密着性を有して形成することができるからである。また、上記介在層形成用層および酸化物半導体層形成用層の両者は、金属酸化物半導体微粒子の固形分中の濃度が異なる塗工液を用いて形成されているため、これらを焼成して得られる介在層および酸化物半導体層においては、空孔率が異なる。すなわち、介在層よりも酸化物半導体層の方が空孔率が低い。このような両者の空孔率の関係等を考慮すると、上記範囲の膜厚比とすることにより、最終的に得られる光電変換層において、十分な機械的強度を保持するものとすることができるからである。
【0083】
2.接着工程
本工程は、金属層を少なくとも有する第1電極基材、および上記酸化物半導体電極基板用積層体を、導電性接着剤からなる導電性接着剤層を介して上記多孔質層および上記金属層が対向するように配置することにより、耐熱基板付酸化物半導体電極基板を形成する工程である。
以下、本発明に用いられる導電性接着剤層および第1電極基材について説明する。
【0084】
(1)導電性接着剤層
本工程に用いられる導電性接着剤層は、導電性接着剤からなり、上記酸化物半導体電極基板用積層体の多孔質層および第1電極基材の金属層を接着するために用いられるものである。
【0085】
また、後述する剥離工程では、耐熱基板付酸化物半導体電極基板から対極基板を剥離することにより、均一な膜厚で、割れ等のない良好な多孔質層を金属層上に形成することが好ましいことから、本工程に用いられる導電性接着剤層としては、導電性接着剤層を介して形成された多孔質層および金属層の密着性を、耐熱基板および多孔質層の密着性よりも高くすることができるものであることが好ましい。
【0086】
上記導電性接着剤層としては、導電性を有し、上記多孔質層および金属層を接着させることにより、耐熱基板付酸化半導体電極基板を形成することができるのであれば特に限定されるものではない。
【0087】
上記導電性接着剤層としては、通常、導電性材料を有するものである。
【0088】
上記導電性材料としては、上記導電性接着剤層に所定の導電性を付与することが可能であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素化合物、銀、銅、ニッケル、アルミなどの金属化合物、酸化錫、酸化インジウムなどの金属酸化物化合物、ポリチオフェン、ポリエチレンスルフォン酸(PSS)、ポリアニリン(PA)、ポリピロール、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)などの導電性高分子等を挙げることができる。これらの材料は、粒状や針状などの各種形状の微粒子にして、後述する導電性接着剤材料に分散させて用いることができる。また、導電性高分子などについては、後述する導電性接着剤材料に相溶させて用いることもできる。なお、後述するように、本工程に用いられる第1電極基材は透明性を要しない基材であることから、上記導電性材料としては、透明性を有するものまたは透明性を有しないもののいずれの導電性材料も用いることが可能である。例えば、カーボンブラックやカーボンナノチューブなどの炭素化合物は、透明性を有しないが、樹脂に対する分散性が良好であり、比較的安価に入手できるので、本発明において好ましく用いることができる。
【0089】
上記導電性接着剤層の固形分成分中の上記導電性材料の濃度(質量%)としては、本発明により製造された酸化物半導体電極基板を用いて色素増感型太陽電池を作製した際に、発電を行うことができる程度の導電性を有することができるのであれば特に限定されるものではないが、20質量%〜95質量%の範囲内、なかでも30質量%〜85質量%の範囲内、特に40質量%〜75質量%の範囲内であることが好ましい。上記導電性材料の濃度が上記範囲を超える場合は、導電性接着剤を用いて、上記金属層および多孔質層を良好に接着することが困難となる可能性があるからである。また、上記導電性材料の濃度が上記範囲に満たない場合は、導電性接着剤が十分な導電性を有しないことから、本発明により製造された酸化物半導体電極基板を用いた色素増感型太陽電池の発電効率を低下させる可能性があるからである。
【0090】
上記導電性接着剤層に用いられる導電性接着剤としては、上述した導電性材料を含有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば上記導電性材料を含有するヒートシール剤であってもよいし、また例えば、上記導電性材料を含有する両面テープであってもよい。
【0091】
上記導電性接着剤がヒートシール剤である場合は、上記導電性接着剤は、上記導電性材料の他に、通常、接着性樹脂を含有するものである。
また、上記接着性樹脂としては、上記多孔質層および後述する第1電極基材の金属層を接着することができるものであれば特に限定されるものではないが、所定の温度で融解する樹脂であることが好ましい。なかでも本発明に用いられる接着性樹脂は融点が50℃〜200℃の範囲内であることが好ましく、特に60℃〜180℃の範囲内であることが好ましく、さらに65℃〜150℃の範囲内であることが好ましい。融点が上記範囲よりも低いと、例えば、本発明の酸化物半導体電極基板を用いて作製した色素増感型太陽電池を、屋外で使用した場合に、上記金属層および多孔質層との間の密着性が十分に保持されない可能性があるからである。また、融点が上記範囲よりも高いと、上記金属層に用いられている金属材料によっては、熱によるダメージを受ける場合があるからである。
【0092】
本発明に用いられる接着性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレンゴム等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチルセルロース、トリ酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリ(メタ)アクリル酸とそのエステルとの共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール、ポリアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ナイロン、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アイオノマー樹脂等を挙げることができる。また、本発明に用いられる接着性樹脂としては、例えば、特開2006−310256号公報に記載されたものを挙げることができる。本発明においては、これらの接着性樹脂のいずれであっても好適に用いることができるが、なかでも接着性、電解液に対する耐性及び転写性の点から、ポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アイオノマー樹脂、シラン変性樹脂、および酸変性樹脂が好ましい。
【0093】
また、本発明に用いられる導電性接着剤は、上記導電性材料および接着性樹脂を有しているのであれば特に限定されるものではないが、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤および酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有することが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、長期にわたって安定した機械強度、黄変防止、ひび割れ防止、優れた加工適性を得ることができるからである。
【0094】
光安定化剤は、導電性接着剤層に用いられる熱可塑性樹脂中の光劣化開始の活性種を補足し、光酸化を防止するものである。具体的には、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードピペリジン系化合物などの光安定化剤が挙げられる。
【0095】
紫外線吸収剤は、太陽光中の有害な紫外線を吸収して、分子内で無害な熱エネルギーへと変換し、導電性接着剤層に用いられる熱可塑性樹脂中の光劣化開始の活性種が励起されるのを防止するものである。具体的には、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サルチレート系、アクリロニトリル系、金属錯塩系、ヒンダードアミン系、および超微粒子酸化チタン(粒子径:0.01μm〜0.06μm)もしくは超微粒子酸化亜鉛(粒子径:0.01μm〜0.04μm)などの無機系等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0096】
熱安定剤としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4′−ジイルビスホスフォナイト、およびビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト等のリン系熱安定剤;8−ヒドロキシ−5,7−ジ−t−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンとの反応生成物等のラクトン系熱安定剤などを挙げることができる。リン系熱安定剤とラクトン系熱安定剤とを併用することが好ましい。
【0097】
酸化防止剤は、導電性接着剤層に用いられる熱可塑性樹脂の酸化劣化を防止するものである。具体的には、フェノール系、アミン系、イオウ系、リン系、およびラクトン系などの酸化防止剤が挙げられる。
【0098】
これらの光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤および酸化防止剤は、それぞれ1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0099】
さらに、本発明に用いられる他の化合物としては上記以外に、架橋剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤等を挙げることができる。
【0100】
本発明に用いられる導電性接着剤層の厚みは、導電性接着剤層を構成する接着性樹脂の種類に応じて、必要な接着力を発現できる範囲内であれば特に限定されないが、通常、1μm〜300μmの範囲内であることが好ましく、特に10μm〜200μmの範囲内であることが好ましい。導電性接着剤層の厚みが上記範囲よりも薄いと所望の接着力を得ることができない場合があり、また厚みが上記範囲よりも厚いと導電性接着剤層により層間接着強度を十分に発現させるために過剰な加熱が必要となり、上記金属層などへの熱ダメージが大きくなる場合があるからである。
【0101】
一方、上記導電性接着剤が両面テープである場合は、上記導電性接着剤としては、一般的な両面テープ材料に上記導電性材料が添加されているものを挙げることができる。また、上記導電性接着剤が両面テープである場合の導電性接着剤層の厚みとしては、上述した導電性接着剤層がヒートシール剤である場合の厚みと同様とすることができる。
【0102】
(2)第1電極基材
本工程に用いられる第1電極基材は、金属層を少なくとも有するものである。
【0103】
上記第1電極基材としては、具体的には金属層のみを有する態様(以下、第1態様とする。)と、基材と基材上に配置された金属層とを有する態様(以下、第2態様とする。)とが挙げられる。以下、各態様について説明する。
【0104】
(a)第1態様
本発明に用いられる第1電極基材の第1態様は、金属層のみを有するものである。
【0105】
上記金属層としては、第1電極基材として用いることができるのであれば特に限定されるものではなく、フレキシブル性を有するものであってもよいし、フレキシブル性を有しないものであってもよいが、第1電極基材の加工の容易性等を考慮すると、フレキシブル性を有するものであることが好ましい。フレキシブル性を有する金属層としては、金属箔を挙げることができる。
なお、上記フレキシブル性の有無は、JISZ2248の金属材料曲げ試験方法をおこなって、5×10Nの力をかけたときに曲がるか否で判断することができる。
【0106】
上記金属箔に用いられる金属材料としては、具体的には、銅、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン、モリブデン、白金、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、亜鉛、および鉄などの単体、ステンレス鋼などの上記金属の合金等が挙げられ、なかでも銅、アルミニウムを用いることが好ましい。本発明の酸化物半導体電極基板の製造方法においては、上記多孔質層を上記金属箔上に導電性接着剤層を介することで形成するものであることから、上記金属箔としては、銅やアルミニウムのように、チタン等と比較して耐熱性は低いが安価な金属材料を用いることができ、これにより、酸化物半導体電極基板の製造コストを下げることが可能となるからである。
【0107】
上記金属箔の厚みとしては、上記接着剤層を介して上記多孔質層を形成することができる程度の自己支持性を有する範囲内であれば特に限定されるものではない。このような金属箔の厚みとしては、5μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、10μm〜500μmの範囲内であることがより好ましく、20μm〜200μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0108】
なお、フレキシブル性を有しない金属層としては、金属基板を挙げることができる。このような金属基板に用いられる金属材料については、上述した金属箔に用いられる金属材料と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。また、上記金属基板の膜厚については、一般的な電極基材に用いられる金属基板の膜厚と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0109】
(b)第2態様
本発明に用いられる第1電極基材の第2態様は、基材と基材上に配置された金属層とを有するものである。以下、金属層および基材についてそれぞれ説明する。
【0110】
(i)金属層
上記金属層としては、後述する基材上に配置することにより、第1電極基材として用いることが可能であれば特に限定されるものではない。上記金属層としては、例えば、金属薄膜や金属板を挙げることができるが、本態様においては、金属薄膜であることがより好ましい。本態様の第1電極基材においては、基材上に配置された金属層をエッチングして、パターン状に形成する等の加工が可能であることから、上記金属層として金属薄膜を用いることにより、エッチングによる金属層のパターニングを容易に行うことが可能となる。また、フレキシブル性を有する基材上に金属薄膜を配置することにより、本態様の第1電極基材をフレキシブル性を有するものとすることができることから、加工性に優れた第1電極基材とすることが可能となる。なお、フレキシブル性の有無の判断については、「(a)第1態様」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0111】
このような金属薄膜の厚みとしては、後述する基材上に均一な膜厚で配置することが可能であり、上記第1電極基材が電極としての機能を有することができる程度の厚みであれば特に限定されるものではない。上記金属薄膜の厚みとしては、0.005μm〜1μmの範囲内、なかでも0.010μm〜0.5μmの範囲内、特に0.020μm〜0.3μmの範囲内であることが好ましい。
【0112】
上記金属薄膜に用いられる金属材料については、「(a)第1態様」の項で説明した金属箔に用いられる金属材料と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0113】
上記金属薄膜を後述する基材に配置する方法としては、上記金属薄膜を接着剤等を用いて基材上に配置する方法、基材上に直接上記金属薄膜を蒸着法等を用いて形成することにより配置する方法等を挙げることができる。上記接着剤等については、一般的な電極部材に用いられているものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。また、上記蒸着法についても、金属薄膜を形成する際に一般的に用いられる方法と同様とすることができるので、ここでの記載は省略する。
【0114】
なお、上述したように、本態様においては、金属層として金属板を用いることも可能である。上記金属板とは、後述する基材上に形成される金属層の内、フレキシブル性を有しないものである。
このような金属板については、「(a)第1態様」の項で説明した金属基板と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。また、上記金属板を後述する基材上に配置する方法としては、例えば上記金属基板を接着剤等を用いて基材上に配置する方法等を挙げることができる。なお、上記接着剤等については、一般的な電極部材に用いられているものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0115】
(ii)基材
次に、本態様に用いられる基材について説明する。本態様に用いられる基材としては、金属薄膜および多孔質層を支持することが可能な程度の自己支持性を有しているのであれば特に限定されるものではない。また、上記基材は透明性を有するものであってもよいし、透明性を有しないものであってもよい。
【0116】
上記基材は可撓性を有するフレキシブル材であってもよく、または、石英ガラス、パイレックス(登録商標)、合成石英板等の可撓性を有さないリジッド材であってもよい。なかでも本発明に用いられる基材はフレキシブル材であることが好ましく、上記フレキシブル材のなかでもフィルム基材であることが好ましい。フィルム基材は加工性に優れ、製造コストの低減ができるからである。
【0117】
上記フィルム基材としては、例えば、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルサルフォン(PES)フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム、ポリエーテルイミド(PEI)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム、ポリエステルナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等の樹脂フィルム基材等を挙げることができ、なかでも二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、ポリエステルナフタレート(PEN)、ポリカーボネートフィルム(PC)が好ましい。
【0118】
また、本発明に用いられる基材の厚みは、本発明の酸化物半導体電極基板の用途等に応じて適宜選択することができるものであるが、通常、50μm〜2000μmの範囲内であることが好ましく、特に75μm〜1800μmの範囲内であることが好ましく、さらに100μm〜1500μmの範囲内であることが好ましい。基材の厚みが上記範囲よりも薄いと、本発明の酸化物半導体電極基板に十分な機械的強度を付与できない可能性があるからである。また基材の厚みが大きすぎると、本発明の酸化物半導体電極基板の加工適性を損なう可能性があるからである。
【0119】
また、本発明に用いられる基材は、耐熱性、耐候性、水蒸気、その他のガスバリア性に優れたものであることが好ましい。上記基材がガスバリア性を有することにより、例えば、本発明の酸化物半導体電極基板を色素増感型太陽電池に用いた場合に、色素増感型太陽電池の経時安定性を向上できるからである。なかでも本発明においては、酸素透過率が温度23℃、湿度90%の条件下において1cc/m/day・atm以下、水蒸気透過率が温度37.8℃、湿度100%の条件下において1g/m/day以下のガスバリア性を有する基材を用いることが好ましい。本発明においては、このようなガスバリア性を達成するために、任意の基材上にガスバリア層を設けたものを用いてもよい。
【0120】
(c)第1電極基材
本工程においては、上記金属層が金属箔であり、上記第1電極基材が上記金属箔からなることがより好ましい。第1電極基材を準備するのが容易であり、また上記金属箔はフレキシブル性を有することから、加工性に優れた酸化物半導体電極基板を製造することが可能となる。
【0121】
(3)第1電極基材および酸化物半導体電極基板用積層体の配置方法
本工程に用いられる第1電極基材および酸化物半導体電極基板用積層体の配置方法としては、上記第1電極基材および酸化物半導体電極基板用積層体を、上記導電性接着剤層を介して、上記金属層および多孔質層が対向するように配置することができる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、上記酸化物半導体電極基板の多孔質層上に導電性接着剤を塗布して導電性接着剤層を形成し、上記導電性接着剤層上に第1電極基材を配置する方法、上記第1電極基材の金属層上に導電性接着剤層を形成し、上記導電性接着剤層上に多孔質層を配置する方法、上記導電性接着剤を用いてフィルム状の導電性接着剤層を別途形成し、上記フィルム状の導電性接着剤層を介して酸化物半導体電極基板の多孔質層および第1電極基材の金属層を接着させる方法等を挙げることができる。
【0122】
また、上記多孔質層および第1電極基材の金属層の接着方法としては、上記導電性接着剤層がヒートシール剤である場合は、上記多孔質層および第1電極基材の金属層をヒートシール法を用いて接着させる。なお、上記ヒートシール法については、一般的なヒートシール剤を用いてヒートシールを行う際に用いられる方法と同様とすることができるため、ここでの説明は省略する。
また、上記導電性接着剤層が両面テープである場合は、上記多孔質層および上記第1電極基材の金属層を両面テープを介して圧着させることによって、接着させる。
【0123】
また、本工程においては、上記多孔質層および金属層の間に、上記導電性接着剤層をパターン状に形成してもよい。これにより後述する剥離工程において、上記多孔質層を上記金属層上に容易にパターニングすることが可能となる。
【0124】
ここで、上記導電性接着剤層を、上記多孔質層および金属層の間にパターン状に形成することにより、多孔質層をパターニングする方法について、図を用いて説明する。
図2は本発明の酸化物半導体電極基板の製造方法の他の一例を示す工程図である。なお、図2においては、多孔質形成用層形成工程、および焼成工程については図1(a)、および図1(b)を用いて説明した工程と同様であるため省略している。
図2に示すように、本工程では、まず酸化物半導体層12b上に、導電性接着剤をパターン状に塗布して、導電性接着剤層13をパターン状に形成し(図2(a))、次いで、導電性接着剤層13上に金属箔のみからなる第1電極基材11を配置して、耐熱基板付酸化物半導体電極基板1’を形成する(図2(b))。これにより、多孔質層12は、導電性接着剤層13が形成されている領域には接着し、導電性接着剤層13が形成されていない領域には接着していない状態となる。また、導電性接着剤層13および多孔質層12の密着性は、多孔質層12および耐熱基板6の密着性よりも高いものである。
よって、剥離工程で、このような耐熱基板付酸化物半導体電極基板1’から耐熱基板6を剥離することにより、多孔質層12は、導電性接着剤層13が形成されている領域には配置されるが、導電性接着剤層13が形成されていない領域には配置されず、耐熱基板6上に残存することから、多孔質層12を第1電極基材11上に容易にパターニングすることが可能となる(図2(c))。なお、図2において説明していない符号については、図1と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0125】
なお、上記多孔質層および上記第1電極基材の間に、上記導電性接着剤層をパターン状に形成する方法としては、上記導電性接着剤層をパターン状に形成することにより、上記多孔質層を所定の形状にパターニングすることができるのであれば特に限定されるものではない。例えば、金属層上に導電性接着剤をパターン状に塗布することにより導電性接着剤層をパターン状に形成する方法や、上記多孔質層上に導電性接着剤をパターン状に塗布することにより導電性接着剤層をパターン状に形成する方法を挙げることができる。
【0126】
3.剥離工程
次に、本発明に用いられる剥離工程について説明する。
本工程は上記耐熱基板付酸化物半導体電極基板から上記耐熱基板を剥離して、酸化物半導体電極基板を形成する工程である。
【0127】
上記剥離工程において、耐熱基板付酸化物半導体電極基板から耐熱基板を剥離する方法としては、多孔質層に破損等の不具合を生じさせることなく耐熱基板を剥離することができる方法であれば特に限定されず、一般的な剥離方法を用いることができる。また本工程においては、耐熱基板を機械的研磨除去や、エッチングなどによる化学的除去により剥離することもできる。
【0128】
なお、上述した接着工程において形成された耐熱基板付酸化物半導体電極基板が、上記金属層および多孔質層の間に、パターン状に形成された導電性接着剤層を有する場合は、本工程において、上記耐熱基板付酸化物半導体電極基板から耐熱基板を剥離することにより、上記金属層上に多孔質層がパターン状に形成された酸化物半導体電極基板を形成することが可能となる。
【0129】
4.その他の工程
本発明においては、上述した多孔質層形成用層形成工程、焼成工程、接着工程および剥離工程を有するものであれば特に限定されるものではなく、必要な工程を適宜選択して追加することができる。このような工程としては、上記金属酸化物半導体微粒子に色素増感剤を坦持させることによって、上記多孔質層の細孔の表面に色素増感剤を坦持させる色素増感剤坦持工程を挙げることができる。
【0130】
上記色素増感剤坦持工程に用いられる色素増感剤としては、光を吸収し起電力を生じさせることが可能なものであれば特に限定はされない。具体的には、有機色素または金属錯体色素を使用することができる。例えば有機色素としては、アクリジン系、アゾ系、インジゴ系、キノン系、クマリン系、メロシアニン系、フェニルキサンテン、インドリン系、カルバゾール系の色素が挙げられる。中でも、インドリン系、カルバゾール系であることが好ましい。
【0131】
また、金属錯体色素では、ルテニウム系色素が好ましく、特にルテニウム錯体であるルテニウムビピリジン色素およびルテニウムターピリジン色素が好ましい。上記多孔質層では、可視光(400nm〜800nm程度の波長の光)を殆ど吸収することはできないが、例えば、ルテニウム錯体を上記多孔質層に坦持させることにより、大幅に可視光まで取り込んで光電変換を生じさせることができ、光電変換できる光の波長領域を大幅に広げることができる。
【0132】
また、上記色素増感剤を坦持させる処理を施す方法としては、金属酸化物半導体微粒子に色素増感剤を坦持させることが可能な方法であれば特に限定はされない。例えば、色素増感剤の溶液に多孔質層を浸漬させ、浸透させた後、乾燥させる方法や、色素増感剤の溶液を多孔質層上に塗布し、両者に浸透させた後、乾燥させる方法等を挙げることができる。
【0133】
本発明において、上記金属酸化物半導体微粒子に上記色素増感剤を坦持させる処理は、上記焼成工程後であれば特に限定はされない。例えば、上記焼成工程後で上記接着工程前の酸化物半導体電極基板用積層体の多孔質層に上記処理を施してもよいし、また例えば上記接着工程後で上記剥離工程の前の耐熱基板付酸化物半導体電極基板の多孔質層に上記処理を施してもよいし、上記剥離工程後の酸化物半導体電極基板の多孔質層に上記処理を施してもよい。
【0134】
上記方法により金属酸化物半導体微粒子に色素増感剤を坦持させることにより、上記多孔質層の細孔の表面に色素増感剤を坦持させることができることから、光照射により色素増感剤から生じた電荷を伝導する機能を有する光電変換層とすることができる。
【0135】
本発明においては、上述した色素増感剤坦持工程以外にも、必要な工程を適宜選択して追加することができる。
【0136】
B.酸化物半導体電極基板用積層体
次に、本発明の酸化物半導体電極基板用積層体について説明する。
本発明の酸化物半導体電極基板用積層体は、耐熱基板と、上記耐熱基板上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層と、上記多孔質層上に形成された導電性接着剤層とを有することを特徴とするものである。
【0137】
本発明の酸化物半導体電極基板用積層体について図を用いて説明する。
図3は、本発明の酸化物半導体電極基板用積層体の一例を示す概略断面図である。本発明の酸化物半導体電極基板用積層体1”は、耐熱基板6と、耐熱基板6上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層12と、多孔質層12上に形成された導電性接着剤層13とを有することを特徴とするものである。なお、図3においては、多孔質層12が、耐熱基板6上に形成された介在層12aおよび介在層12a上に形成された酸化物半導体層12bの積層体からなる層である例について示している。
【0138】
本発明によれば、本発明の酸化物半導体電極基板用積層体を用いて酸化物半導体電極基板を形成することにより、第1電極基材の材料として耐熱性の低い安価な金属箔を用いることが可能となることから、低コストで酸化物半導体電極基板を形成することが可能となる。
【0139】
本発明に用いられる耐熱基板、多孔質層、および導電性接着剤層については、「A.酸化物半導体電極基板の製造方法」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
なお、本発明においては、上記多孔質層は、その細孔の表面に色素増感剤を坦持するものであってもよいし、色素増感剤を坦持していないものであってもよい。上記色素増感剤については、「A.酸化物半導体電極基板の製造方法」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0140】
C.耐熱基板付酸化物半導体電極基板
次に、本発明の耐熱基板付酸化物半導体電極基板について説明する。
本発明の耐熱基板付酸化物半導体電極基板は、金属層を少なくとも有する第1電極基材と、上記金属層上に形成された導電性接着剤層と、上記導電性接着剤層上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層と、上記多孔質層上に配置された耐熱基板と、を有することを特徴とするものである。
【0141】
本発明の耐熱基板付酸化物半導体電極基板について図を用いて説明する。
図4は、本発明の耐熱基板付酸化物半導体電極基板の一例を示す概略断面図である。本発明の耐熱基板付酸化物半導体電極基板1’は、金属箔のみからなる第1電極基材11と、第1電極基材11上に形成された導電性接着剤層13と、導電性接着剤層13上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層12と、多孔質12層上に配置された耐熱基板6と、を有することを特徴とするものである。
図4においては、多孔質層12が、介在層12aおよび酸化物半導体層12bを有する層である例について示している。
【0142】
本発明によれば、上記導電性接着剤層を用いて、上記多孔質層を上記金属層上に形成していることから、上記金属層としては、耐熱性の低い金属材料を用いることができるので、低コストで耐熱基板付酸化物半導体電極基板を得ることが可能となる。また、上記耐熱基板が多孔質層の保護層として働くことから、外部からの衝撃等による多孔質層の破損を防ぐことができ、酸化物半導体電極基板の品質の低下を防止することが可能となる。
【0143】
なお、本発明において用いられる第1電極基材、導電性接着剤層、多孔質層、および耐熱基板については、「A.酸化物半導体電極基板の製造方法」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
なお、本発明においては、上記多孔質層は、その細孔の表面に色素増感剤を坦持するものであってもよいし、色素増感剤を坦持していないものであってもよい。上記色素増感剤については、「A.酸化物半導体電極基板の製造方法」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0144】
また、本発明においては、上記金属層が金属箔であり、上記第1電極基材が上記金属箔からなることが好ましい。第1電極基材を準備するのが容易であり、また上記金属箔はフレキシブル性を有することから、加工性に優れた酸化物半導体電極基板とすることが可能となる。
【0145】
また、本発明においては、図5に示すように、第1電極基材11が、基材11bと、基材11b上にパターン状に配置された金属薄膜11aとを有するものであり、導電性接着剤層13が、第1電極基材11上にパターン状に形成されたものであってもよい。導電性接着剤層13がパターン状に形成されていることから、耐熱基板付酸化物半導体電極基板1’から耐熱基板6を剥離することにより、多孔質層12がパターン状に形成された酸化物半導体電極基板を容易に形成することが可能となる。なお、図5において、説明していない符号については、図4と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0146】
また、上記層構造の耐熱基板付酸化物半導体電極基板に用いられる第1電極基材としては、上記基材全面に上記金属層が配置されているものであってもよいし、図5に示すように上記基材上に上記金属層がパターン状に配置されているものであってもよい。いずれの場合も、得られた酸化物半導体電極基板を用いて、色素増感型太陽電池を複数個配列させた色素増感型太陽電池モジュールを容易に形成することが可能となる。
【0147】
本発明においては、上記第1電極基材が、上記基材上に上記金属層がパターン状に配置されているものであることがより好ましい。これにより、図7に示すように、第1電極基材のパターン状に形成された金属薄膜11a上に、導電性接着剤層13、および多孔質層12の積層体を有する酸化物半導体電極基板を得ることができる。また、このような酸化物半導体電極基板を用いて色素増感型太陽電地モジュールを形成した場合は、配線を工夫することにより複数個の色素増感型太陽電池を直列に連結させることが可能な色素増感型太陽電池モジュールを容易に形成することが可能となる。なお、図7については、後述する「D.酸化物半導体電極基板」の項で詳しく説明するため、ここでの説明は省略する。
【0148】
また、上記導電性接着剤層のパターンとしては、本発明の耐熱性酸化物半導体電極基板が用いられる色素増感型太陽電池の形状により適宜選択することができる。
【0149】
D.酸化物半導体電極基板
次に、本発明の酸化物半導体電極基板について説明する。
本発明の酸化物半導体電極基板は、金属層を少なくとも有する第1電極基材と、上記金属層上に形成された導電性接着剤層と、上記導電性接着剤層上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層と、を有することを特徴とするものである。
【0150】
本発明の酸化物半導体電極基板について、図を用いて説明する。
図6は、本発明の酸化物半導体電極基板の一例を示す概略断面図である。本発明の酸化物半導体電極基板1は、金属箔のみからなる第1電極基材11と、第1電極基材11上に形成された導電性接着剤層13と、導電性接着剤層13上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層12と、を有することを特徴とするものである。図6においては、多孔質層12が介在層12aおよび酸化物半導体層12bの積層体からなる場合について示している。
【0151】
本発明によれば、上記導電性接着剤層を用いて、上記多孔質層を上記金属層上に形成していることから、上記金属層としては、耐熱性の低い金属箔等を用いることができるので、低コストで酸化物半導体電極基板を得ることが可能となる。また、金属箔上に多孔質層を直接焼成して形成する場合に問題となる金属酸化物膜が、金属層表面に形成されないことから、高品質な酸化物半導体電極基板を形成することが可能となる。
【0152】
なお、本発明の酸化物半導体電極基板に用いられる第1電極基材、導電性接着剤層、および多孔質層については、「A.酸化物半導体電極基板の製造方法」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0153】
また、本発明においては、上記金属層が金属箔であり、上記第1電極基材が上記金属箔からなることが好ましい。第1電極基材を準備するのが容易であり、また上記金属箔はフレキシブル性を有することから、加工性に優れた酸化物半導体電極基板とすることが可能となる。
【0154】
本発明においては、図7に示すように、第1電極基材11が、基材11bと、基材11b上にパターン状に配置された金属薄膜11aとを有するものであり、金属薄膜11a上に、導電性接着剤層13および多孔質層12の積層体がパターン状に形成されているものであってもよい。導電性接着剤層13および多孔質層12の積層体がパターン状に形成されていることから、上記酸化物半導体電極基板を用いることにより、配線を工夫することにより色素増感型太陽電池を複数個直列に連結することが可能な色素増感型太陽電地モジュールを容易に形成することが可能となるからである。なお、図7において説明していない符号については、図6と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0155】
上記の層構造を有する酸化物半導体電極基板に用いられる第1電極基材および導電性接着剤層および多孔質層のパターンについては、「C.耐熱基板付酸化物半導体電極基板」の項で説明したパターン状に形成された耐熱基板付酸化物半導体電極基板に用いられるものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0156】
E.色素増感型太陽電池
次に本発明の色素増感型太陽電池について説明する。
本発明の色素増感型太陽電池は、金属層を少なくとも有する第1電極基材、上記金属層上に形成された導電性接着剤層、および上記導電性接着剤層上に形成され、色素増感剤が坦持された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層を有する酸化物半導体電極基板と、透明性を有し、かつ電極としての機能を備えた第2電極基材、および上記第2電極基材上に形成された触媒層を有する対極基板とが、上記多孔質層および上記触媒層が対向するように配置されており、上記酸化物半導体電極基板および上記対極基板の間に酸化還元対を含む電解質層が形成されていることを特徴とするものである。
【0157】
本発明の色素増感型太陽電池について、図を用いて説明する。
図8は、本発明の色素増感型太陽電池の一例を示す概略断面図である。図8に示すように、本発明の色素増感型太陽電池10は、金属箔のみからなる第1電極基材11、第1電極基材11上に形成された導電性接着剤層13、および導電性接着剤層13上に形成され、色素増感剤が坦持された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層12を有する酸化物半導体電極基板1と、透明基材21bおよび透明基材21b上に形成された透明電極層21aを有する第2電極基材21、および透明電極層21a上に形成された触媒層22を有する対極基板2とが、多孔質層12および触媒層22が対向するように配置されており、酸化物半導体電極基板1および対極基板2の間に酸化還元対を含む電解質層3が形成されていることを特徴とするものである。また、通常、色素増感型太陽電池10の端部は、シール剤4等によって封止がされているものである。また図8においては、多孔質層12は、介在層12aおよび酸化物半導体層12bの積層体からなる層である例について示している。
【0158】
本発明によれば、上記酸化物半導体電極基板を有することから、低コストで高品質な色素増感型太陽電池とすることができる。
以下、本発明の色素増感型太陽電池に用いられる各部材についてそれぞれ説明する。
【0159】
1.酸化物半導体電極基板
本発明に用いられる酸化物半導体電極基板については、「D.酸化物半導体電極基板」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの説明は、省略する。
【0160】
2.対極基板
本発明の対極基板は、透明性を有し、かつ電極としての機能を備えた第2電極基材、および第2電極基材上に形成された触媒層を有するものである。以下、上記対極基板に用いられる第2電極基材および触媒層についてそれぞれ説明する。
【0161】
(1)第2電極基材
本発明に用いられる第2電極基材は透明性を有する基材である。本発明に用いられる第2電極基材の透明性としては、本発明の色素増感型太陽電池が上記対極基板側から太陽光を受光することにより機能を発揮することができるように、太陽光を透過することができるものであれば特に限定されるものではないが、本発明においては、波長400nm〜800nmの光の透過率が70%以上であることが好ましく、なかでも80%以上であることがより好ましい。第2電極基材の透明性が上記範囲よりも低いと、本発明の色素増感型太陽電池の発電効率が損なわれてしまう可能性があるからである。
【0162】
このような第2電極基材としては、具体的には、透明基材と、上記透明基材上に形成された第2電極層とを有するものであり、上記第2電極層として透明電極層、メッシュ電極層、もしくは透明電極層およびメッシュ電極層を有する電極層のいずれか1つの電極層を有するものである。
以下、透明基材、および第2電極層についてそれぞれ説明する。
【0163】
(a)透明基材
本発明に用いられる透明基材としては、後述する第2電極層を形成し、対極基板として用いることができる程度の自己支持性を有するものであれば特に限定されるものではない。このような透明基材としては、例えば無機透明基材や樹脂製基材を用いることができる。このうち、樹脂製基材は、軽量であり、加工性に優れ、製造コストの低減ができるため好ましい。
【0164】
上記樹脂製基材としては、例えば、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルサルフォン(PES)フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム、ポリエーテルイミド(PEI)フィルム、ポリイミド(PI)フィルム、ポリエステルナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等の樹脂からなる基材等を挙げることができる。なかでも本発明においては二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、ポリエチレンナフタレートフィルム(PEN)、ポリカーボネートフィルム(PC)が用いられることが好ましい。
【0165】
また、上記無機透明基材としては、合成石英基材やガラス基板等を挙げることができる。
【0166】
また、本発明に用いられる透明基材の厚みは、上記色素増感型太陽電池の用途等に応じて適宜選択することができるものであるが、通常、10μm〜2000μmの範囲内であることが好ましく、特に50μm〜1800μmの範囲内であることが好ましく、さらに100μm〜1500μmの範囲内であることが好ましい。
【0167】
また、本発明に用いられる透明基材は、耐熱性、耐候性、水蒸気、その他のガスバリア性に優れたものであることが好ましい。上記透明基材がガスバリア性を有することにより、例えば、本発明の色素増感型太陽電池の経時安定性を高いものとすることができるからである。なかでも本発明においては、酸素透過率が温度23℃、湿度90%の条件下において1cc/m/day・atm以下、水蒸気透過率が温度37.8℃、湿度100%の条件下において1g/m/day以下のガスバリア性を有する透明基材を用いることが好ましい。本発明においては、このようなガスバリア性を達成するために、上記透明基材上に任意のガスバリア層を設けたものを用いてもよい。
【0168】
(b)第2電極層
次に、本発明に用いられる第2電極層について説明する。本発明に用いられる第2電極層は、上記基材上に形成されたものである。
【0169】
上記第2電極層としては、具体的には、透明電極層、メッシュ電極層、および透明電極層およびメッシュ電極層を有する電極層を挙げることができる。
以下、それぞれについて説明する。
【0170】
(i)透明電極層
本発明に用いられる透明電極層を構成する材料としては、透明性を有し、所望の導電性を有する材料であれば特に限定されるものではなく、導電性高分子や金属酸化物等を用いることができる。
上記金属酸化物としては、所望の導電性を有するものであれば特に限定されるものではない。なかでも本発明に用いられる金属酸化物は太陽光に対して透過性を有するものであることが好ましい。このような太陽光に対する透過性を有する金属酸化物としては、例えば、SnO、ITO、ZnO、酸化インジウムに酸化亜鉛を添加した化合物(IZO)を挙げることができる。本発明においては、これらのいずれの金属酸化物であっても好適に用いることができるが、なかでもフッ素ドープしたSnO(以下、FTOと称する。)、ITOを用いることが好ましい。FTOおよびITOは、導電性および太陽光の透過性の両方に優れているからである。
一方、上記導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン、ポリエチレンスルフォン酸(PSS)、ポリアニリン(PA)、ポリピロール、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等を挙げることができる。また、これらを2種以上混合して用いることもできる。
【0171】
本発明に用いられる透明電極層は、単一の層からなる構成であってもよく、また、複数の層が積層された構成であってもよい。複数の層が積層された構成としては、例えば、仕事関数が互いに異なる材料からなる層が積層された態様や、互いに異なる金属酸化物からなる層が積層された態様を挙げることができる。
【0172】
本発明に用いられる透明電極層の厚みは、上記色素増感型太陽電池の用途等に応じて、所望の導電性を実現できる範囲内であれば特に限定されない。なかでも本発明における透明電極層の厚みとしては、通常、5nm〜2000nmの範囲内が好ましく、特に10nm〜1000nmの範囲内であることが好ましい。厚みが上記範囲よりも厚いと、均質な透明電極層を形成することが困難となる場合や全光線透過率が低下して良好な光電変換効率を得ることが難しくなる場合があり、また、厚みが上記範囲よりも薄いと、透明電極層の導電性が不足する可能性があるからである。
なお、上記厚みは、透明電極層が複数の層から構成される場合には、すべての層の厚みを合計した総厚みを指すものとする。
【0173】
上記透明電極層を基材上に形成する方法としては、一般的な電極層の形成方法と同様とすることができるのでここでの記載は省略する。
【0174】
(ii)メッシュ電極層
次にメッシュ電極層について説明する。本発明に用いられるメッシュ電極層は、導電性材料を用いてメッシュ状に形成された電極層である。また、上記メッシュ電極層は、透明基材上に形成され、透明性を有する基材として用いられるものである。
【0175】
上記メッシュ電極層としては、電極層としての機能を有することができ、かつ、メッシュの開口部を太陽光が透過することにより、本発明の色素増感型太陽電池が第2電極基材側から太陽光を十分に受光して作動することができるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、三角形の格子状、平行四辺形の格子状、六角形の格子状等を挙げることができる。
【0176】
上記メッシュ電極層としては、電極層としての機能を有することができるものであれば特に限定されるものではないが、0.01μm〜10μmの範囲内、なかでも0.1μm〜5μmの範囲内、特に0.2μm〜1μmの範囲内であることが好ましい。上記メッシュ電極層の膜厚が上記範囲を超える場合、本発明に用いられる第2電極基材が、太陽光を透過させるのに必要な所定の透明性を有することが困難となるからである。また、上記メッシュ電極層を形成するための材料、時間等が多くかかるため、製造効率が低下したり、製造コストが高くなるからである。また、上記メッシュ電極層の膜厚が上記範囲に満たない場合は、上記メッシュ電極層が電極層としての機能を十分に果たさない可能性があるからである。
【0177】
本発明に用いられるメッシュ電極層の開口部の比率としては、本発明の色素増感型太陽電池が第2電極基材側から太陽光を受光して作動することができるのであれば特に限定されるものではない。このようなメッシュ電極層の開口部の比率としては、1%〜99.9%の範囲内、なかでも40%〜98%の範囲内、特に70%〜95%の範囲内であることが好ましい。上記メッシュ電極層の開口部の比率が上記範囲に満たない場合は、本発明の色素増感型太陽電池が第2電極基材側から太陽光を十分に受光することができないため、発電効率を下げる可能性があるからである。また、上記メッシュ電極層の開口部の比率が上記範囲を超える場合は、上記メッシュ電極層が電極層としての機能を十分に果たさない可能性があるからである。
【0178】
また、上記メッシュ電極層の線幅、およびメッシュピッチとしては、上記第2電極基材が電極としての機能を有することができるものであれば特に限定されず、用いられる色素増感型太陽電池の形状に合わせて適宜選択されるものであるが、上記メッシュ電極層の線幅としては、0.02μm〜10mmの範囲内、なかでも1μm〜2mmの範囲内、特に10μm〜1mmの範囲内であることが好ましく、上記メッシュ電極層のメッシュピッチとしては、0.001mm〜10mmの範囲内、なかでも0.01mm〜5mmの範囲内、特に0.1mm〜1mmの範囲内であることが好ましい。
【0179】
上記メッシュ電極層の材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではなく、具体的には材質としては、銅、アルミニウム、チタン、クロム、タングステン、モリブデン、白金、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、亜鉛、各種ステンレスおよびそれらの合金等が挙げられ、好ましくはチタン、クロム、タングステン、各種ステンレスおよびそれらの合金が望ましい。
【0180】
(iii)透明電極層およびメッシュ電極層を有する電極層
本発明に用いられる第2電極層としては、上述した透明電極層およびメッシュ電極層を有する電極層を用いることができる。上記の構成とすることにより、上記透明電極層の導電性が不足する場合に、メッシュ電極層により補充することができるため、本発明の色素増感型太陽電池をより発電効率に優れたものにできるという利点がある。
なお、透明電極層およびメッシュ電極層については、上述したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0181】
(2)触媒層
本発明に用いられる触媒層は、上述した第2電極基材上に形成されるものである。
【0182】
上記第2電極基材に触媒層が形成されていることにより、本発明の色素増感型太陽電池をより発電効率に優れたものにすることができる。このような触媒層の例としては、例えば、上記第2電極基材上にPtを蒸着した態様や、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリスチレンスルフォン酸(PSS)、ポリアニリン(PA)、パラトルエンスルホン酸(PTS)およびこれらの混合物から触媒層を形成する態様を挙げることができるが、この限りではない。
【0183】
このような触媒層の膜厚としては、上記第2電極基材上に形成することができ、本発明の色素増感型太陽電池を発電効率に優れたものとすることができるのであれば特に限定されるものではないが、5nm〜500nmの範囲内、なかでも10nm〜300nmの範囲内、特に15nm〜100nmの範囲内であることが好ましい。上記触媒層の膜厚が上記範囲を超える場合は、上記触媒層の材料や、形成するための時間等が多くかかるため、本発明の色素増感型太陽電池の製造コストが高くなるからである。また、上記範囲に満たない場合は、上記第2電極基材上に触媒層を形成することが困難であるからである。
【0184】
3.電解質層
次に、本発明に用いられる電解質層について説明する。本発明における電解質層は、酸化還元対を含むものである。
【0185】
本発明における電解質層に用いられる酸化還元対としては、一般的に色素増感型太陽電池の電解質層に用いられているものであれば特に限定はされるものではない。中でも本発明に用いられる酸化還元対は、ヨウ素およびヨウ化物の組合せ、臭素および臭化物の組合せであることが好ましい。
【0186】
上記酸化還元対として本発明に用いられるヨウ素およびヨウ化物の組合せとしては、例えば、LiI、NaI、KI、CaI等の金属ヨウ化物と、Iとの組合せを挙げることができる。
さらに、上記臭素および臭化物の組合せとしては、例えば、LiBr、NaBr、KBr、CaBr等の金属臭化物と、Brとの組合せを挙げることができる。
【0187】
本発明における電解質層には、上記酸化還元対以外のその他の化合物として、架橋剤、光重合開始剤、増粘剤、常温融解塩等の添加剤を含有していてもよい。
【0188】
電解質層は、ゲル状、固体状または液体状のいずれの形態からなる電解質層であってもよい。電解質層をゲル状とした場合には、物理ゲルと化学ゲルのいずれであってもよい。ここで、物理ゲルは物理的な相互作用で室温付近でゲル化しているものであり、化学ゲルは架橋反応などにより化学結合でゲルを形成しているものである。
また、電解質層を液体状とした場合には、例えば、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、炭酸プロピレンなどを溶媒とし、酸化還元対を含んだものや、同じくイミダゾリウム塩をカチオンとするイオン性液体を溶媒とすることができる。
さらに、電解質層を固体状とした場合には、酸化還元対を含まずにそれ自身が正孔輸送剤として機能するものであればよく、例えばCuI、ポリピロール、ポリチオフェンなどを含む正孔輸送剤であってもよい。
【0189】
4.その他の部材
本発明の色素増感型太陽電池は、上述した酸化物半導体電極基板、対極基板、および電解質層を有するものであれば、特に限定されるものではなく、他にも必要な部材を適宜追加することができる。このような部材としては、例えば、色素増感型太陽電池の端部を封止するシール剤を挙げることができる。上記シール剤としては、一般的な色素増感型太陽電池に用いられるものと同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0190】
5.色素増感型太陽電池の製造方法
本発明の色素増感型太陽電池の製造方法としては、例えば、上述した「A.酸化物半導体電極基板の製造方法」を用いて製造された酸化物半導体電極基板と、上記対極基板とを多孔質層および触媒層が対向するように配置してシール剤で封止し、次いで液体状またはゲル状の電解質を酸化物半導体電極基板および対極基板の間に注入することによって電解質層を形成することにより色素増感型太陽電池を製造する製造方法を挙げることができる。
また例えば、上記酸化物半導体電極基板の多孔質層上に固体状の電解質層材料を塗布して乾燥させることにより固体電解質層を形成し、ついで、上記酸化物半導体電極基板および対極基板を上記固体電解質層および触媒層が対向するように接触させて配置することにより色素増感型太陽電池を製造する製造方法を挙げることができる。
【0191】
なお、上記に挙げた色素増感型太陽電池の製造方法はいずれも一例であり、本発明においては、他の一般的な色素増感型太陽電池の製造方法を用いることが可能である。
【0192】
F.色素増感型太陽電池モジュール
次に、本発明の色素増感型太陽電池モジュールについて説明する。
本発明の色素増感型太陽電池モジュールは、上述した「E.色素増感型太陽電池」の項で説明した色素増感型太陽電池を複数個配列したことを特徴とするものである。
【0193】
本発明の色素増感型太陽電池モジュールについて、図を用いて説明する。
図9は、本発明の色素増感型太陽電池の一例を示す概略断面図である。図9に示すように、本発明の色素増感型太陽電池モジュール30は、金属箔のみからなる第1電極基材11、第1電極基材11上に形成された導電性接着剤層13、および導電性接着剤層13上に形成され、色素増感剤が坦持された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層12を有する酸化物半導体電極基板1と、透明基材21bおよび透明基材21b上に形成された透明電極層21aを有する第2電極基材21、および透明電極層21a上に形成された触媒層22を有する対極基板2とが、上記多孔質層12および上記触媒層22が対向するように配置されており、上記酸化物半導体電極基板1および上記対極基板2の間に酸化還元対を含む電解質層3が形成されている色素増感型太陽電池10が並列に複数連結されているものである。
また、通常、各色素増感型太陽電池10の間には、隔壁5が形成され、色素増感型太陽電池モジュール30の端部は、シール剤4等によって封止がされているものである。また図9においては、多孔質層12が、介在層12aおよび酸化物半導体層12bを有する層である例について示している。
【0194】
また、本発明においては、図10に示すように、酸化物半導体電極基板1として、基材11b上に金属薄膜11aがパターン状に配置された第1電極基材11と、それぞれの金属薄膜11a上に形成された導電性接着剤層13、および多孔質層12の積層体とを有する酸化物半導体電極基板1を用いることによって、配線を工夫することにより複数個の色素増感型太陽電池を直列に連結することが可能な色素増感型太陽電池モジュールとすることが可能となる。なお、図10において説明していない符号については、図9と同様とすることができるので、ここでの説明は省略する。
【0195】
本発明によれば、上記酸化物半導体電極基板を有することにより、低コストで高品質な色素増感型太陽電池モジュールとすることができる。
【0196】
本発明に用いられる色素増感型太陽電池については、「A.色素増感型太陽電池」の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの記載は省略する。
【0197】
本発明において、複数個の色素増感型太陽電池が連結された態様としては、本発明の色素増感型太陽電池モジュールにより所望の起電力を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。このような態様としては、個々の色素増感型太陽電池が直列に連結された態様であってもよく、あるいは並列で連結されたものであってもよい。
【0198】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0199】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0200】
[実施例1]
(酸化物半導体電極基板用積層体の作製)
一次粒径20nmの酸化チタン微粒子(日本アエロジル社製 P25)1質量%、主成分がポリメチルメタクリレートであるアクリル樹脂(分子量25000、ガラス転移温度105℃)(三菱レーヨン社製 BR87)1質量%を、溶媒にメチルケトンとトルエンを用いて混合し、分散することにより、介在層形成用塗工液を調製した。次いで、この介在層形成用塗工液を耐熱基板として用意したステンレス基板上にワイヤーバーで塗工し、100℃で乾燥して固化させ、介在層形成用層を作製した。
【0201】
次に、一次粒径20nmの酸化チタン微粒子(日本アエロジル社製 P25)37.5質量%、アセチルアセトン1.25質量%、ポリエチレングリコール(平均分子量3000)1.88質量%となるように溶媒に水とイソプロピルアルコールを用いて混合し、分散することにより、酸化物半導体層形成用塗工液を調製した。これを上記介在層形成用層上にドクターブレードで塗布後、100℃で乾燥させて固化させ、酸化物半導体層形成用層を作製した。これにより、介在層形成用層および酸化物半導体層形成用層の積層体からなる多孔質層形成用層を作製した。
【0202】
電気マッフル炉(デンケン社製 P90)を用い、500℃、30分間、大気圧雰囲気下にて上記多孔質層形成用層を焼成した。これにより、多孔質体として形成された介在層および酸化物半導体層の積層体からなる多孔質層を作製した。また、焼成により、介在層中にアクリル樹脂および酸化物半導体層中にポリエチレングリコールが残存していないことを光電子分光法により確認できた。よって、焼成を行うことにより、アクリル樹脂およびポリエチレングリコールは熱分解されて除去することができた。また、この時、ステンレス基板上に介在層および酸化物半導体層は剥離することなく、良好に形成されていた。
【0203】
(耐熱基板付酸化物半導体電極基板及び酸化物半導体電極基板の作製)
次に、導電性接着剤として、カーボンブラックを含有させた導電性接着シート(共同技研工業社製 P40015)を用いた。この導電性接着シートを多孔質層上に貼ることにより導電性接着剤層を形成した。
【0204】
第1電極基材として銅箔を用い、上記導電性接着剤層上に配置して、圧着させた後、ステンレス基板を剥離することにより、多孔質層を導電性接着剤層を介して第1電極基材上に転写した。なお、導電性接着剤層は1cm×1cmの面積とし、同面積で転写を行った。
【0205】
色素増感剤としてルテニウム錯体(Solaronix社製 RuL(NCS))を無水エタノール溶液に濃度3×10−4mol/lとなるように溶解させ、色素増感剤が溶解した吸着用色素溶液を得た。
上記吸着用色素溶液中に、上記多孔層が形成された基板を浸漬して、攪拌下にて40℃、3時間の条件にて多孔質層に色素増感剤を吸着させた。これにより、酸化物半導体電極基板を得た。
【0206】
(色素増感型太陽電池の作製)
カチオン性ヒドロキシセルロース(ダイセル化学社製 ジェルナーQH200)0.14gをエタノール2.72gに溶解させた溶液に、ヨウ化カリウムを0.043g入れて、攪拌して溶解させた。次いで、その溶液に、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート(EmIm―B(CN)) 0.18g、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド(PMIm−I)0.5g,I 0.025gを加えて、攪拌して溶解させた。これらにより、塗工可能な電解質溶液を調製した。
【0207】
導電性支持体としてPENフィルム上にITO膜が形成された透明導電性フィルムを用意し、そのITO上に白金を厚み13Å(透過率72%)で積層することにより、対極基板を作製した。
【0208】
上記多孔質層上に電解質溶液をドクターブレードで塗工し、100℃で乾燥した。次いで、酸化物半導体電極基板および対極基板を貼り合わせ、クリップで圧着することにより、色素増感型太陽電池を得た。
【0209】
[実施例2]
第1電極基材としてアルミ箔を用いたこと以外は、実施例1と同様にして色素増感型太陽電池を形成した。
【0210】
[実施例3]
下記に示す導電性接着剤を用い、かつ、下記の転写法を用いたこと以外は、実施例1と同様にして色素増感型太陽電池を形成した。
導電性接着剤として、ヒートシール剤(住友精化製 ザイクセン−A、融点80〜95℃)と、導電性高分子であるPEDOT−PSS(エイチ・シー・スタルク社製 バイトロンP)を固形分比で1:4の割合で調整したものを用いた。この導電性接着剤をドクターブレードでステンレス基板上の酸化物半導体層に塗工し、100℃で乾燥させて、酸化物半導体層上に導電性接着剤層を形成した。塗工量は2g/mとした。
第1電極基材として銅箔を用いて、その銅箔と酸化物半導体層上の導電性接着剤層とを貼り合わせて、ヒートローラーを用いてロール温度110℃で加熱した後、ステンレス基板を剥離することにより、多孔質層を導電性接着剤層を介して第1電極基材上に転写させた。
【0211】
[実施例4]
下記の導電性接着剤を用いたこと以外は、実施例3と同様にして色素増感型太陽電池を形成した。
導電性接着剤として、ヒートシール剤(住友精化製 ザイクセン−A、融点80℃〜95℃)と、水に分散させたカーボンナノチューブ(ナノブリッジテクノロジー社製)とを固形分比1:4で混合して調整したものを用いた。
【0212】
[実施例5]
下記の導電性接着剤を用いたこと以外は、実施例3と同様にして色素増感型太陽電池を形成した。
導電性接着剤として、ヒートシール剤(DIC社製 タイフォースNT―810−45、融点40℃〜50℃)と、ポリ(メタ)アクリル酸とエステル共重合体に分散させた銀微粒子(藤倉化成社製 ドータイトD−550)とを固形分比1:4で混合して調整したものを用いた。
【0213】
[実施例6]
下記に示す導電性接着剤を用いて、かつ、下記の転写法を用いたこと以外は、実施例1と同様にして色素増感型太陽電池を形成した。
導電性接着剤として、ヒートシール剤(住友精化製 ザイクセン−A、融点80℃〜95℃)と、導電性高分子であるPEDOT−PSS(エイチ・シー・スタルク社製 バイトロンP)を固形分比で1:4の割合で調整したものを用いた。この導電性接着剤をドクターブレードで第1電極基材として用いられる銅箔に塗工し、100℃で乾燥させて、銅箔上に導電性接着剤層を形成した。塗工量は2g/mとした。
ステンレス基板上の酸化物半導体層と銅箔上の導電性接着剤層とを貼り合わせて、ヒートローラーを用いてロール温度110℃で加熱した後、ステンレス基板を剥離することにより、多孔質層を導電性接着剤層を介して第1電極基材上に転写させた。
【0214】
[比較例1]
以下のように酸化物半導体電極基板を作製したこと以外については、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を得た。
実施例1と同様にした酸化物半導体層形成用塗工液を調製した。これを第1電極基材である銅箔上にドクターブレードで塗布後、100℃で乾燥させて、酸化物半導体層形成用層を形成した。その後、電気マッフル炉(デンケン社製P90)を用い、500℃、30分間、大気圧雰囲気下にて焼成を行い、多孔質体として形成された酸化物半導体層を有する多孔質層を得た。また、上記多孔質層に、実施例1と同様の方法で、色素増感剤を坦持させることにより、酸化物半導体電極基板を得た。
【0215】
[比較例2]
酸化物半導体層形成用層を120℃、30分間、大気圧雰囲気下にて焼成を行ったこと以外は、比較例1と同様にして、色素増感型太陽電池を得た。
【0216】
[評価]
実施例1〜6、および比較例1〜2の色素増感型太陽電池を用いて、AM1.5、疑似太陽光(入射光強度 100mW/cm)を光源としてソースメジャーユニット(ケースレー2400型)にて電圧印加により電流電圧特性を測定した。実施例1〜6で作製した色素増感型太陽電池はいずれも変換効率が2%以上であり、良好に発電した。一方、比較例1は銅が酸化されてしまったため、発電しなかった。比較例2は変換効率が1%にも満たなかった。
【符号の説明】
【0217】
1 … 酸化物半導体電極基板
1’ … 耐熱基板付酸化物半導体電極基板
1” … 酸化物半導体電極基板用積層体
11 … 第1電極基材
11a … 金属薄膜
11b … 基材
12 … 多孔質層
12a … 介在層
12b … 酸化物半導体層
12’ … 多孔質層形成用層
12’a … 介在層形成用層
12’b … 酸化物半導体層形成用層
13 … 導伝性接着剤層
2 … 対極基板
21 … 第2電極基材
22 … 触媒層
3 … 電解質層
4 … シール剤
5 … 隔壁
6 … 耐熱基板
10 … 色素増感型太陽電池
30 … 色素増感型太陽電池モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱基板上に、金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層形成用塗工液を塗布し、固化させて多孔質層形成用層を形成する多孔質層形成用層形成工程と、
前記多孔質層形成用層を焼成して多孔質体とし、多孔質層を形成することにより酸化物半導体電極基板用積層体を形成する焼成工程と、
金属層を少なくとも有する第1電極基材、および前記酸化物半導体電極基板用積層体を、導電性接着剤層を介して前記多孔質層および前記金属層が対向するように配置することにより、耐熱基板付酸化物半導体電極基板を形成する接着工程と、
前記耐熱基板付酸化物半導体電極基板から前記耐熱基板を剥離して、酸化物半導体電極基板を形成する剥離工程と、を有することを特徴とする酸化物半導体電極基板の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質層形成用層形成工程では、前記耐熱基板上に前記金属酸化物半導体微粒子を含有する介在層形成用塗工液を塗布し、固化させて介在層形成用層を形成する介在層形成用層形成工程と、前記介在層形成用層上に、前記金属酸化物半導体微粒子を含有し、かつ、前記介在層形成用塗工液よりも前記金属酸化物半導体微粒子の固形分中の濃度が高い酸化物半導体層形成用塗工液を塗布し、固化させて酸化物半導体層形成用層を形成する酸化物半導体層形成用層形成工程とを行うことにより、前記介在層形成用層および前記酸化物半導体層形成用層の積層体からなる多孔質層形成用層を形成し、前記焼成工程では、前記多孔質層形成用層を焼成することにより介在層および酸化物半導体層を有する多孔質層を形成することを特徴とする請求項1に記載の酸化物半導体電極基板の製造方法。
【請求項3】
前記接着工程では、前記多孔質層および前記金属層の間に、前記導電性接着剤層をパターン状に形成し、
前記剥離工程では、前記耐熱基板付酸化物半導体電極基板から前記耐熱基板を剥離することにより、前記金属層上に形成された前記導電性接着剤層上に前記多孔質層をパターン状に形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物半導体電極基板の製造方法。
【請求項4】
前記金属層が金属箔であり、前記第1電極基材が前記金属箔からなることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の酸化物半導体電極基板の製造方法。
【請求項5】
耐熱基板と、前記耐熱基板上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層と、前記多孔質層上に形成された導電性接着剤層とを有することを特徴とする酸化物半導体電極基板用積層体。
【請求項6】
金属層を少なくとも有する第1電極基材と、
前記金属層上に形成された導電性接着剤層と、
前記導電性接着剤層上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層と、
前記多孔質層上に配置された耐熱基板と、
を有することを特徴とする耐熱基板付酸化物半導体電極基板。
【請求項7】
金属層を少なくとも有する第1電極基材と、
前記金属層上に形成された導電性接着剤層と、
前記導電性接着剤層上に形成された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層と、
を有することを特徴とする酸化物半導体電極基板。
【請求項8】
前記第1電極基材が、基材と、前記基材上に配置された前記金属層とを有するものであり、前記金属層上に、前記導電性接着剤層および前記多孔質層がパターン状に形成されているものであることを特徴とする請求項7に記載の酸化物半導体電極基板。
【請求項9】
前記金属層が金属箔であり、前記第1電極基材が前記金属箔からなることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の酸化物半導体電極基板。
【請求項10】
金属層を少なくとも有する第1電極基材、前記金属層上に形成された導電性接着剤層、および前記導電性接着剤層上に形成され、色素増感剤が坦持された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層を有する酸化物半導体電極基板と、
透明性を有し、かつ電極としての機能を備えた第2電極基材、および前記第2電極基材上に形成された触媒層を有する対極基板とが、
前記多孔質層および前記触媒層が対向するように配置されており、前記酸化物半導体電極基板および前記対極基板の間に酸化還元対を含む電解質層が形成されていることを特徴とする色素増感型太陽電池。
【請求項11】
金属層を少なくとも有する第1電極基材、前記金属層上に形成された導電性接着剤層、および前記導電性接着剤層上に形成され、色素増感剤が坦持された金属酸化物半導体微粒子を含有する多孔質層を有する酸化物半導体電極基板と、透明性を有し、かつ電極としての機能を備えた第2電極基材、および前記第2電極基材上に形成された触媒層を有する対極基板とが、前記多孔質層および前記触媒層が対向するように配置されており、前記酸化物半導体電極基板および前記対極基板の間に酸化還元対を含む電解質層が形成されている色素増感型太陽電池を複数個配列したことを特徴とする色素増感型太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−142024(P2011−142024A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2329(P2010−2329)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】