説明

酸化物超電導ケーブル及びその製造方法

【課題】本発明は、酸化物超電導導体の複合化をスロットを用いて効率的、かつ、簡便に行うことができ、個々の酸化物超電導導体について外部から作用すると思われる負荷を軽減して酸化物超電導導体の損傷の問題を回避することができる酸化物超電導ケーブルの提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、テープ状の基材上に中間層を介し酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に安定化層が形成されてなる酸化物超電導導体と、管体からなりその外周面に溝部が複数、その長さ方向に沿って形成されてなるスロットとが備えられ、前記酸化物超電導導体が、その基材側を前記溝部の底部側に向けた状態で前記溝部に収容されるとともに、前記スロットの周方向に複数本、前記スロットの長さ方向に配置されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導ケーブルの構造とその製造方法に係り、より詳細には、複数の溝を有するスロットに酸化物超電導導体を収容して構成し、複数の酸化物超電導導体を複合化してなるケーブル構造を提供し、超電導特性の安定性を高める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X :REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示すことから実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。
そして、酸化物超電導体を線材に加工するための方法としては、強度が高く、耐熱性もあり、線材に加工することが容易な金属を長尺のテープ状に加工し、この金属基材上に酸化物超電導体を薄膜状に形成する方法が検討されている。
【0003】
また、酸化物超電導体はその結晶自体は結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流し易いが、c軸方向には電気を流しにくいという電気的異方性を有している。従って、基材上に酸化物超電導体を形成する場合には、電気を流す方向にa軸あるいはb軸を配向させ、c軸をその他の方向に配向させる必要がある。
しかしながら、金属基材自体は非結晶もしくは多結晶体であり、その結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、基材上に上記のような結晶配向性の良好な酸化物超電導体膜を形成することは困難である。
そこで、上記のような問題を解決するために、まず金属基材上に熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が基材と酸化物超電導体との中間的な値を示すMgO、YSZ(イットリア安定化ジルコニウム)、SrTiO等の材料から成る中間層(バッファー層)を形成し、この中間層の上に酸化物超電導薄膜を形成することが行われている。
【0004】
そして、上記中間層の製造方法の一例として、イオンビームアシスト法(IBAD法:Ion Beam Assisted Deposition)が知られており、この方法は、スパッタリング法によりターゲットから叩き出した構成粒子を基材上に堆積させる際に、イオン銃から発生されたアルゴンイオン等を同時に斜め方向(例えば、45度)から照射しながら中間層を堆積させる方法として知られている。このIBAD法によれば、基材上の成膜面に対して、高いc軸配向性及びa軸面内配向性を有する中間層を得ることができるので、この中間層上に酸化物超電導薄膜を形成することで超電導特性の優れた酸化物超電導導体を得ることができる。
【0005】
この酸化物超電導導体を各種コイルや電線として利用する場合、超電導モータや限流器、超電導電線などへの応用開発が進められており、この場合に酸化物超電導導体を用いて可撓性を有するケーブル構造とする必要がある。
この種の超電導ケーブルとして、従来、以下の特許文献1に記載の如く、導体を断熱管内に収容した高温超電導ケーブルであって、前記導体として複数本の導体素線を撚り合わせて構成し、各導体素線として複数本の超電導線材を巻回して構成し、複数の導体素線の絶縁層を一括形成した構造が提供されている。
【0006】
また、以下の特許文献2に記載の如く、断面円形の金属管からなるフォーマの外周面に複数の超電導線材層をスパイラル状に巻き付け積層してなり、超電導線材層間に半導電性シートを介在させ、それらの外側に内部半導電層と絶縁層と外部半導電層を順次設けた高温超電導ケーブルが知られている。
更に、以下の特許文献3に記載の如く金属パイプのフォーマの外周に導体層と電気絶縁層と磁気遮蔽層と保護層と層間絶縁層とを積層した構造の超電導ケーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3877057号公報
【特許文献2】特許第4114120号公報
【特許文献3】特許第4174824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これら従来の特許文献に記載されているのは、断面円形の導体素線を撚線化したものを管体の内部に複合化した構造の超電導ケーブル、あるいは、金属管体の外周にスパイラル状に巻き付けられた高温超電導線材あるいは多層化された超電導層の配置構造が開示されているのであって、前述の如き基材上に中間層を介し、結晶構造を整えた酸化物超電導層を備えた多層構造の酸化物超電導導体を如何なる構造のケーブルとすれば、超電導特性の優れた安定性の高いケーブル構造と出来るか否かについての開示は見られない。
【0009】
従って、テープ状の金属基材上に中間層を介し結晶配向性を整えた酸化物超電導層を形成した酸化物超電導導体について、可撓性に優れ、超電導特性の安定性に優れたケーブル構造の提供が望まれている。
また、前述のテープ状の金属基材上に中間層を介し結晶配向性を整えた酸化物超電導層を形成した構造の酸化物超電導導体にあっては、現状の技術において、酸化物超電導層を備えた1本あたりの酸化物超電導導体に流すことができる電流が数100A程度であるので、これを電力ケーブルとして使用するためには、必要な容量に応じて数本〜数10本の酸化物超電導導体の複合化が必要であり、それらを一方向に撚線化するためには、酸化物超電導導体の本数分のボビンを装着した相当大がかりな巻線設備が必要であり、このためこの種の酸化物超電導導体をケーブル化するためには設備コストが嵩み、ケーブル自体が極めて高価になってしまう問題がある。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、複数本の酸化物超電導導体の複合化をスロットを用いて効率的、かつ、簡便に行うことができ、個々の酸化物超電導導体について外部から作用すると思われる負荷を軽減して酸化物超電導導体の損傷の問題を回避することができる構造の酸化物超電導ケーブルとその製造方法の提供を目的とする。
また本発明は、スロットにおける酸化物超電導導体の配置を工夫して冷媒による冷却を効率良く行うことができ、超電導特性の安定性を高め、優れた超電導特性を発揮できる構造の酸化物超電導ケーブルとその製造方法の提供を目的とする。
本発明は、スロットに設けた酸化物超電導導体収納用の溝の形状を工夫して酸化物超電導導体の冷却効率を高め、超電導特性に優れた超電導ケーブルとその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、テープ状の基材上に中間層を介し酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に安定化層が形成されてなる酸化物超電導導体と、管体からなりその外周面に溝部が複数、その長さ方向に沿って形成されてなるスロットとが備えられ、前記酸化物超電導導体が、その基材側を前記溝部の底部側に向けた状態で前記溝部に収容されるとともに、前記スロットの周方向に複数本、前記スロットの長さ方向に配置されてなることを特徴とする。
【0012】
本発明において、前記溝部の開口部側の溝幅が、前記酸化物超電導導体の幅の1.1〜1.5倍の範囲内に設定されることが好ましい。
本発明において、前記溝部がその底部側よりもその開口部側の方を幅広とした横断面形状とされてなることが好ましい。
本発明において、前記スロットの周方向に複数配列される酸化物超電導導体において、隣接する酸化物超電導導体の酸化物超電導層を含む平面どうしが交差する交差角度が135゜以上、180℃未満とされてなることが好ましい。
本発明において、前記スロットが、4フッ化ポリエチレン、エチレンプロピレンゴムのいずれかからなることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記スロットが複数本SZ撚りされた構造にすることができる。
本発明において、前記スロットが複数本SZ撚りされ、それらの外側に、内部遮蔽層と、外部遮蔽層と、被覆層が設けられ、前記内部遮蔽層と前記外部遮蔽層との間に冷媒の流通路が形成され、前記スロットの内部に冷媒の流通路が形成されてなる構造にすることができる。
【0014】
本発明の製造方法は、テープ状の基材上に中間層を介し酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に安定化層が形成されてなる酸化物超電導導体と、管体からなりその外周面に溝部が複数、その長さ方向に沿って形成されてなるスロットとが備えられ、前記酸化物超電導導体がその基材側を前記溝部の底部側に向けた状態で前記溝部に収容され、前記スロットの周方向に複数本、前記スロットの長さ方向に配置されてなることを特徴とする酸化物超電導ケーブルの製造方法であって、
前記スロットとして、その周方向に前記複数の溝部を所定の間隔で複数形成してなるスロットを用い、このスロットの複数の溝部に前記酸化物超電導導体を収容した後、複数本の酸化物超電導導体を収容したスロットを複数本まとめてSZ撚りすることを特徴とする。
本発明において、前記スロットを、4フッ化ポリエチレン、エチレンプロピレンゴムのいずれかから形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化物超電導ケーブルによれば、スロットの外周部にスロットの長さ方向に沿って設けた複数の溝部に酸化物超電導導体を収納することで複数本の酸化物超電導導体を複合化した酸化物超電導ケーブルを提供することができる。また、スロットの溝部の内側に酸化物超電導導体を収容して個々の酸化物超電導導体をスロットにより保護することができるので、スロットの外側から酸化物超電導導体に作用しようとする圧力などの負荷を軽減することができ、酸化物超電導導体の損傷を抑制できる。
また、酸化物超電導導体をスロットの溝部に収容する場合、溝部の底部側に基材を配置することで基材上の酸化物超電導層を溝幅の広い開口部側に配置することが可能となり、酸化物超電導層を冷却する場合の冷却効率の面で有利な構造とすることができる。
【0016】
酸化物超電導導体を収容する溝部の幅を酸化物超電導導体の幅の1.1〜1.5倍の範囲とすることにより、溝部内に収容されている状態において酸化物超電導導体の周囲には空間を確実に生成できるので、この空間に冷媒を流通させることで酸化物超電導導体を冷却する場合の冷却効率を高めることができ、良好な超電導特性を維持することができる。また、溝部の幅を過剰に大きくしないようにすることにより、スロットの周方向に隣接される他の酸化物超電導導体との間隔を適度な間隔に調節することができる。
【0017】
ここで、Y系酸化物超電導体にあっては、臨界電流密度(Jc)が酸化物超電導体の結晶のC軸と磁場のなす角度に依存し、結晶のC軸と磁界が平行の時、臨界電流密度が最も小さくなる。Y系酸化物超電導体の結晶のC軸方向には超電導電流があまり流れないことから、線材の長手方向に対して磁場が垂直になるように設定することが重要となる。
そのため、スロットの周方向に隣接して配置される酸化物超電導導体において個々の超電導層を含む面が交差する角度を90゜より大きく、望ましくは135゜以上とすることにより、隣接する酸化物超電導層どうしに通電時に発生する磁場が酸化物超電導層のC軸に平行になることを避けることができる。
また、スロットの周方向に隣接する酸化物超電導層どうしを含む面の交差する角度を180゜未満としたのは、物理的に180゜とそれを超える角度はあり得ないためである。
【0018】
本発明構造においてスロットに複数本の酸化物超電導導体を収容した状態でスロットを複数本SZ撚りするならば、個々の酸化物超電導導体を個別にSZ撚りしなくても複数本の酸化物超電導導体を収容したスロットの単位でSZ撚りすることにより酸化物超電導導体をSZ撚りした構造の酸化物超電導ケーブルを製造することができる。
これにより、酸化物超電導導体を1本単位でSZ撚りする構造よりも遙かに簡便な工程でSZ撚りした酸化物超電導導体を備えた酸化物超電導ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る超電導ケーブルに適用する酸化物超電導導体の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明に係る超電導ケーブルに適用する酸化物超電導導体を複数収容したスロットの一例構造を模式的に示す図である。
【図3】本発明に適用する酸化物超電導導体を複数収容するためのスロットの一例を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る超電導ケーブルの一例を示す断面図である。
【図5】本発明に係る超電導ケーブルの一例に適用可能なスロットの他の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る酸化物超電導ケーブルの一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に適用される酸化物超電導導体の一例構造を示し、図1に示す構造の酸化物超電導導体Aを図2、3に示すスロットBに複数本収容して酸化物超電導集合導体Cが構成されるとともに、この酸化物超電導集合導体Cを複数本SZ撚りして集合し、それらの周囲を種々の層で覆って図4に示す断面構造の酸化物超電導ケーブルDが構成されている。
【0021】
本実施形態に適用される図1に示す酸化物超電導導体Aは、テープ状の基材11の上にベッド層12と中間層15とキャップ層16と酸化物超電導層17とが積層されるとともに、酸化物超電導層17の上に安定化基層18と安定化層19が積層され、これら積層体の全周を絶縁層20で覆って概略構成されている。なお、酸化物超電導導体Aの構造においてベッド層12は略することもできる。
【0022】
本実施形態の酸化物超電導導体Aに適用できる基材11は、通常の超電導線材の基材として使用でき、高強度であれば良く、長尺のケーブルとするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、銀、白金、ステンレス鋼、銅、ハステロイ等のニッケル合金等の各種金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配したもの、等が挙げられる。各種耐熱性の金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。
【0023】
ベッド層12は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層12は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y)、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成される。このベッド層は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜200nmである。
【0024】
中間層15は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層される酸化物超電導層17の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。中間層15の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。
この中間層15をIBAD法により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、その上に形成するキャップ層16の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これによりキャップ層16の上に成膜する酸化物超電導層17の結晶配向性を良好なものとして優れた超電導特性を発揮できるようにすることができる。
【0025】
中間層15の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.005〜2μmの範囲とすることができる。
中間層15は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する)、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層17やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、下地の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる中間層15は、IBAD法における結晶配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0026】
キャップ層16は、前記中間層15の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層からなる中間層15よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
【0027】
このCeO層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。PLD法によるCeO層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で行うことができる。
CeO層の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましく、500nm以上であれば更に好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、500〜1000nmとすることが好ましい。
【0028】
酸化物超電導層17は公知のもので良く、具体的には、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものを例示できる。この酸化物超電導層17として、Y123(YBaCu7−X )又はGd123(GdBaCu7−X )などを例示することができる。
酸化物超電導層17は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法)等で積層することができ、なかでも生産性の観点から、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)、PLD法又はCVD法を用いることが好ましい。
このMOD法は、金属有機酸塩を塗布後熱分解させるもので、金属成分の有機化合物を均一に溶解した溶液を基材上に塗布した後、これを加熱して熱分解させることにより基材上に薄膜を形成する方法であり、真空プロセスを必要とせず、低コストで高速成膜が可能であるため長尺のテープ状酸化物超電導導体の製造に適している。
【0029】
ここで前述のように、良好な配向性を有するキャップ層16上に酸化物超電導層17を形成すると、このキャップ層16上に積層される酸化物超電導層17もキャップ層16の配向性に整合するように結晶化する。よって前記キャップ層16上に形成された酸化物超電導層17は、結晶配向性に乱れが殆どなく、この酸化物超電導層17を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、金属基材11の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、金属基材11の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層16は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、金属基材2の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0030】
酸化物超電導層17の上に積層されている安定化基層18はAgなどの良電導性かつ酸化物超電導層17と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる層として形成される。また、安定化層19は銅などの良導電性の金属材料からなり、安定化基層18を構成するAgよりも厚く形成しても安価な材料からなることが好ましい。
そして、これらの積層体(基材11とベッド層12と中間層15とキャップ層16と酸化物超電導層17と安定化基層18と安定化層19の積層体)の全周を覆ってポリイミドなどの絶縁材料製のテープを巻回してなる絶縁層20が形成され、絶縁被覆付きの酸化物超電導導体Aが構成されている。
【0031】
以上説明の積層構造とされた酸化物超電導導体Aは、図2、図3に示す構造の管状のスロットBの外周に形成されている螺旋状の溝部26に収容されている。
このスロットBは、ポリ4フッ化エチレン(テフロン:登録商標:ディユポン社)あるいはEP(エチレンプロピレン)ゴムなどの耐熱性の樹脂材料からなる管体25の外周面に螺旋状の溝部26が管体25の長さ方向に沿って複数相互に所定の間隔をあけた状態で形成されてなる。なお、これらの溝部26は、それらの底部26a側の溝幅よりも開口部26b側の溝幅の方が幅広とされた外拡がり状の溝とされ、これらの溝部26の底部26aに接するように酸化物超電導導体Aが設置されている。また、スロットBの中心部には冷媒往路(流通路)28を構成するための流通孔がその長さ方向全長に形成されている。
【0032】
このスロットBの溝部26において底部26aの溝幅は酸化物超電導導体Aの幅(絶縁層20を含む酸化物超電導導体Aの全体幅)の1.1倍〜1.5倍の範囲内であることが好ましい。
【0033】
前記溝部26において底部26aの溝幅を上述の範囲とすることにより、酸化物超電導導体Aの周囲の溝部26の内部に適度な空間を確保できるので、この部分に冷媒が存在する場合に酸化物超電導導体Aの冷却効率を高めることができ、超電導特性の安定化に寄与する。
更に、溝部26において底部26a側よりも開口部26b側の方を幅広に形成しているので、酸化物超電導導体Aの周囲の溝部26の開口部側に更に適度な空間を確保することができ、この部分に冷媒が存在する場合に酸化物超電導導体Aの冷却効率を高めることができ、超電導特性の安定化に寄与する。
また、溝部26において底部26a側の溝幅を酸化物超電導導体Aの幅の1.1倍〜1.5倍の範囲とすることにより、溝部26の幅を過剰に大きくしないようにしているので、スロットBの周方向に隣接される他の酸化物超電導導体Aとの間隔を適度な間隔に調節することができる。
【0034】
前記スロットBの外周に形成されている溝部26は、この例では図3に示す如くスロットBの外周面の周方向に等間隔で10本螺旋状に形成されている。そして各溝部26に酸化物超電導導体Aがその基材11側を溝部26の底部26a側に向けて溝底に接するように収容されている。この例ではスロットBに対して10本の酸化物超電導導体Aが集合された状態とされ、スロットBに10本の酸化物超電導導体Aを複合化することにより酸化物超電導集合導体Cが構成されている。
【0035】
なお、この実施形態ではスロットBに10本の溝部26を形成しているので10本の酸化物超電導導体Aを複合化しているが、スロットBに形成する溝部26の本数は複合化しようとする酸化物超電導導体の本数に合わせて適宜な数を選択すれば良い。
なお、スロット10の外周に酸化物超電導導体Aを複数本配置するので、スロット10に対してあまりに多くの酸化物超電導導体Aを複合すると、スロットBの外周に沿って隣接する酸化物超電導導体Aどうしが接近しすぎることとなる。
【0036】
前記スロットBの外周部の複数の溝部26の間には螺旋型の凸条25aが形成され、各凸条25aの上面により構成されるスロットBの周面には、図3に示すようにスロットBの全周を囲む環状の溝25bが所定の間隔でスロットBの全長にわたり複数間欠的に形成されている。前記溝25bはこの形態ではV字状に形成され、スロットBの周方向に隣接する溝部26、26を結ぶように形成されている。
スロットBに間欠的に複数の溝25bを形成しておくことで、スロットBの撓曲性が向上するので、スロットBを後述の如く撚線加工する場合に有利となる。なお、溝25bは凸条25aを介して隣接する溝部26、26を連通しているので、冷媒が複数の溝部26を流れる場合のバイパス路となって冷媒の流通性を向上させる。
【0037】
更に、本実施形態の構造においては、パイプ状のスロットBに対してその周回りに酸化物超電導導体Aを配置しているので、スロットBの周方向に隣接する酸化物超電導導体Aの酸化物超電導層17を含む面がなす角度を135゜以上、180゜未満の範囲とすることが好ましい。ここで、酸化物超電導層17を含む面とは、図2に示す如く酸化物超電導導体Aを収容した酸化物超電導集合導体Cを横断面視した場合、酸化物超電導層17の面方向、換言すると、酸化物超電導層17が形成されているテープ状の基材11の面方向、あるいは、溝部26の底面とも表現できる。従って、スロットBの周方向に隣接する酸化物超電導導体Aの酸化物超電導層17どうしは、135゜以上の角度、180゜未満の角度でもってスロットBの周面近くに配置されている。
【0038】
これは、各酸化物超電導層17に通電した場合、各酸化物超電導層17の周囲に磁場が生成するが、酸化物超電導層17が発生させた磁場が、隣接する他の酸化物超電導層17に与える磁気的影響を出来る限り少なくするためである。スロットBの周方向に隣接する酸化物超電導層17の面どうしのなす角度が90゜を下回るようであると、隣接する酸化物超電導層17どうしの発生させる磁場で酸化物超電導層17自体の超電導特性に影響を及ぼすおそれがある。
即ち、Y系酸化物超電導体にあっては、臨界電流密度(Jc)が酸化物超電導体の結晶のC軸と磁場のなす角度に依存し、結晶のC軸と磁界が平行の時、臨界電流密度が最も小さくなる。Y系酸化物超電導体の結晶のC軸方向には超電導電流があまり流れないことから、線材の長手方向に対して磁場が垂直になるように設定することが重要となる。
そのため、スロットの周方向に隣接して配置される酸化物超電導導体において個々の超電導層を含む面が交差する角度を90゜より大きく、望ましくは135゜以上とすることにより、隣接する酸化物超電導層どうしに通電時に発生する磁場が酸化物超電導層のC軸に平行になることを避けることができる。
また、スロットの周方向に隣接する酸化物超電導層どうしを含む面の交差する角度を180゜未満としたのは、物理的に180゜はあり得ないためである。
【0039】
図4に示す酸化物超電導ケーブルDは、前記構成の酸化物超電導集合導体Cの周囲に内部遮蔽層30と絶縁層31と外部遮蔽層32とを順次被覆し、更にこれらを3本SZ撚りして撚線導体として配置し、そのSZ撚線導体の外方に、内部保護パイプ34と断熱層35と外部保護パイプ36と防食層37とからなる被覆層39を順次配置することで構成されている。
なお、前記内部保護パイプ34と外部保護パイプ36は屈曲性を確保するため、コルゲート形状を呈していることが好ましい。
前記内部遮蔽層30は、前記スロットBの外面に巻回された銅テープなどの導電テープ30aとこの導電テープ30aの外方にカーボンテープなどを巻回して構成された半導電層30bとから構成され、前記外部遮蔽層32は、絶縁層31の外方にカーボンテープなどを巻回して構成された半導電層32aと半導電層32aの外方に巻回された銅テープなどの導電テープ32bとから構成されている。前記絶縁層31は、クラフト紙あるいは合成紙(ポリプロピレンラミネート紙:PPLP)などからなり、絶縁耐圧を確保するために設けられている。なお、この絶縁層31が絶縁テープを巻回して構成されたものであるので、その外側の後述する冷媒復路38を流れる冷媒の液体窒素が半導電層32aを介してこの部分に染み込んできて絶縁特性の向上に寄与する。
【0040】
前記SZ撚線導体とした3本の酸化物超電導集合導体Cの外方には、酸化物超電導集合導体Cの外周の外部遮蔽層32と、その外側に位置する内部保護パイプ34とによって冷媒復路(流通路)38が区画されている。この冷媒復路38は、液体窒素などの冷媒が流される流路であり、酸化物超電導ケーブルDの一端側でこの冷媒復路38と前記スロットB内部の冷媒往路(流通路)28とを接続し、他端側で冷媒往路28と冷媒復路38を図示略の液体窒素などの冷媒供給源に接続し、この冷媒供給源から冷媒往路28に冷媒を供給し、冷媒復路38を介して冷媒を戻すことで、酸化物超電導ケーブルDの全長にわたり冷媒の循環ができるようになっている。
【0041】
なお、酸化物超電導導体Aを冷却するための冷媒は冷媒往路28に加え、酸化物超電導導体Aを収容しているスロットBの溝部26にも流通させるものとする。スロットBの外周面は内部遮蔽層30が覆っているので酸化物超電導導体Aを収容した溝部26は冷媒の流通路とされており、この溝部26を流れる冷媒により酸化物超電導導体Aを効率良く冷却することができる。なお、酸化物超電導導体AはスロットBの溝部底面に接するように溝部26に収容されているので、冷媒により冷却されたスロットBを介し熱伝導によっても冷却される。酸化物超電導導体AはスロットB側からの熱伝導による冷却効果と溝部26を流通する冷媒の冷却効果を合わせて効率的に冷却される。
【0042】
前記内部保護管34と外部保護管36は、ステンレス鋼あるいはアルミニウムなどの金属材料からなるもので、この例では、屈曲性を確保するためにコルゲート加工されており、防食層37は防食用の樹脂被覆層からなる。前記内部保護パイプ34は、厚さ1.5〜2mm程度のステンレス鋼などの金属材料からなり、断熱層35は、スーパーインシューションなどを巻回して構成された厚さ10〜20mm程度のものである。
【0043】
前記酸化物超電導ケーブルDを製造するには、まず、スロットBの溝部26の数に合わせた複数本の酸化物超電導導体Aを用意し、これらをスロットBの溝部26に沿って挿入しつつ個々に螺旋状に巻き付け、酸化物超電導集合導体Cを得る。なお、一般的な酸化物超電導導体Aは数mm〜数cm程度の幅であるので、スロットBの外径と、スロットBに形成する溝部26の数に応じてスロットBに収容する酸化物超電導導体Aの数は適宜の数を選択できる。
そして、用意した酸化物超電導集合導体Cに導電テープ32aと半導電テープ32bを順次巻き付けて内部遮蔽層30を形成し、その上に絶縁テープを巻き付けて絶縁層31を形成し、その上に半導電テープ32aと銅の導電テープ32bを巻き付けて外部遮蔽層32を形成したものを複数本、例えば3本〜10数本程度集合し、これらをSZ撚りする。
次に、これらSZ撚りした複数本の酸化物超電導集合導体Cの外方に、内部保護パイプ34を被せ、スーパーインシュレーションを巻き付けて断熱層35を形成し、最後に外部保護パイプ36を被せて防食層37を形成し、図4に示す断面構造の酸化物超電導ケーブルDを得ることができる。
【0044】
前記酸化物超電導集合導体CをSZ撚りするには、例えば、本出願人が特開平9−105085号公報あるいは特開平11−247079号公報などにおいて開示しているSZ撚りが可能なSZ撚り線の製造装置を用いればよい。SZ撚りとは、S撚り(右撚り)とZ撚り(左撚り)とが反転位置を介して交互に繰り返し撚られている構造なので、酸化物超電導導体Aを複数本備えたスロットBからなる酸化物超電導集合導体Cを複数本、SZ撚りするための上記公報等に記載のダイス装置を用い、スロットBの長さ方向に所定の間隔でS撚りとZ撚りとを繰り返し反転位置を介し撚り込むことでSZ撚りを実現することができる。
【0045】
前述の如くスロットBの溝部26酸化物超電導導体Aを収容しているスロットBの状態でSZ撚りするならば、酸化物超電導導体をボビンに巻き付けたものを必要数用意し、これらのボビンから酸化物超電導導体を必要本数繰り出すようにして酸化物超電導導体をSZ撚線化して複合化する製造方法に比べ、SZ撚線作業を簡略化することができ、SZ撚線化する装置を小型化することができる。従って、複数のボビンを用いて個別にSZ撚線化して複合化する装置を用いる方法より、遙かに安価な装置でSZ撚線化した酸化物超電導ケーブルDを得ることができる。
【0046】
以上説明の如く構成した酸化物超電導ケーブルDであるならば、スロットBの冷媒往路28と溝部26に流通させる液体窒素の冷媒を用いて効率良く酸化物超電導導体Aを冷却することができる。そして、スロットBの外周に配置した酸化物超電導導体Aはそれらの酸化物超電導層17をスロットBの周方向に隣接するものどうしのなす角度を135゜〜180゜の範囲に配置してなり、隣接する酸化物超電導導体A同士の磁気的影響を少なくする配置をしているので、超電導特性の劣化を起こすことが無いので、目的の容量に合わせた複合数に見合った通電容量を確保することができるとともに、超電導特性の安定した酸化物超電導ケーブルDを提供することができる。
【0047】
図5は本発明に適用するスロットの他の実施形態を示すもので、この形態のスロットEは、予めスロットEの外周面にSZ撚りが可能なように、SZ撚り形状に溝部36を形成したものである。
溝部36は図5に示す如くS撚り形状とされた領域36AとZ撚り形状とされた領域36Bが反転部36Cを介してスロットEの長さ方向に交互に形成された形状とされている。
このような溝部36に対し先に説明の酸化物超電導導体Aを収容するならば、スロットEに対してSZ撚りした状態の酸化物超電導集合導体とすることが可能であり、この酸化物超電導集合導体を必要本数用いて超電導ケーブルを構成することも可能である。
【実施例】
【0048】
金属基材として、表面を研磨した10mm幅のハステロイテープ(ハステロイC276:米国ヘインズ社商品名)を使用した。この金属基材上に、中間層を構成する第一層としてIBAD法によってMgO膜(10nm)を形成した。
次いで、このMgO膜上に、中間層を構成する第二層としてIBAD法によって200nmの厚さのGdZr膜を積層形成した。このときMgO膜及びGdZr膜は、200℃以下の基材温度で、Arの希ガスイオンビームによるイオンビームアシストを行いながら作製した。
【0049】
さらに前記GdZr膜上に、PLD法によってCeO膜のキャップ層を500nm積層形成した。このキャップ層上にY123(YBaCu7−X )系超電導層をPLD法によって1500nmの厚さに形成し、その上にAgからなる厚さ10μmの安定化層を形成した。その上に厚さ100μmのCuの安定化層を積層し、これら積層体の全周にポリイミド絶縁テープを巻回して絶縁層を被覆形成し、酸化物超電導導体を得た。
この酸化物超電導導体の超電導特性を評価した結果、液体窒素温度にて、臨界電流密度Jc=2MA/cm、臨界電流Ic=300Aの高特性が得られていることを確認できた。
【0050】
次に、ポリ4フッ化エチレン(テフロン:登録商標:デュポン社)製の内径22mm、外径40mm、長さ50mのパイプ状であって、その外周面の周方向に等間隔で8本の溝部を螺旋状に形成してなるスロットを用意した。
上記構造の長さ50mのスロットに対し前記構造の長さ60mの酸化物超電導導体を用意し、スロットの各溝部に上述の酸化物超電導導体を挿入して収容した後、同等構造のスロットを3本用意し、これらをまとめてピッチ400mmのSZ撚り加工してSZ撚りした撚り線状の酸化物超電導ケーブル素線を得た。
【0051】
次いでこの酸化物超電導ケーブル素線の外方に厚さ0.1mmの銀テープを巻回し、更にカーボンを含有した半導電テープを巻回して内部遮蔽層を形成し、その上にクラフト紙を巻回して絶縁層を形成した。この時の絶縁層の厚さは6〜7mmとして高電圧の電気絶縁にも耐え得る構造とした。そして、前記絶縁層の上に、半導電テープと厚さ0.1mmの銅テープを巻回し、交流用ケーブルとした。
次に銅テープの上に、直径5mmのポリ4フッ化エチレン(テフロン:登録商標:デュポン社)製ワイヤーを数本巻回し、更に、外径82mm、内径75mmのステンレス鋼からなる内部保護パイプに挿入し、コルゲート加工して外径82mm、内径65mmとした。この内部保護パイプの内側が冷媒復路となる。更にこの内部保護パイプの上にスーパーインシュレーションを巻き付け、その外部にステンレス鋼製の外部保護パイプを被せ、コルゲート加工し、その外側にビニル防食を施して外径120mmの酸化物超電導電力ケーブルを得た。
【0052】
この酸化物超電導電力ケーブルについて、スロット内部の冷媒流通路と内部保護パイプの内側の冷媒流通路を用いて液体窒素の循環を行い、全体を77Kに冷却し、外部磁場0Tにおいて通電試験を行った。
【0053】
次に、上述のスロットに対し、その外周面に形成する溝部の数と間隔を調整してスロットの周面に沿って隣接する溝部の位置を変えてスロットの周面に沿って配置される酸化物超電導層どうしのなす角度の影響について試験した。なお、スロットの周方向に沿って隣接する溝部の底面どうしのなす角度は、各溝部にテープ状の酸化物超電導導体を配置した場合、スロットの周方向に沿って隣接する酸化物超電導層どうしのなす角度に相当すると近似している。表1において隣接酸化物超電導層どうしがなす角度135゜は、上述した8本の酸化物超電導導体をスロットに複合化した場合の例に相当する。
なお、テープ状の酸化物超電導導体の幅は複合化本数に併せて2mm、8mmに変更した。
「表1」
隣接酸化物超電導層 複合化本数 120゜相対 テープ幅
どうしのなす角度 交流損失
157.5゜ 16本 0.00125 2mm
135゜ 8本 0.075 8mm
120゜ 6本 1 10mm
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、従来から銅線などの金属製導体で製造されていたコイルや電線などのうち、超電導線材に置き換えが期待されている超電導モータ、限流器、超電導電線などへの適用が可能となる。
【符号の説明】
【0055】
A…酸化物超電導導体、B、E…スロット、C…酸化物超電導集合導体、D…超電導ケーブル、11…基材、12…ベッド層、15…中間層、16…キャップ層、17…超電導層、18…安定化基層、19…安定化層、20…絶縁層、25…管体、25a…凸条、25b…溝、26…溝部、26a…底部、26b…開口部、28…冷媒往路(流通路)、30…内部遮蔽層、31…絶縁層、34…内部保護管、35…断熱層、36…外部保護管、37…防食層、38…冷媒復路(流通路)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の基材上に中間層を介し酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に安定化層が形成されてなる酸化物超電導導体と、管体からなりその外周面に溝部が複数、その長さ方向に沿って形成されてなるスロットとが備えられ、前記酸化物超電導導体が、その基材側を前記溝部の底部側に向けた状態で前記溝部に収容されるとともに、前記スロットの周方向に複数本、前記スロットの長さ方向に配置されてなることを特徴とする酸化物超電導ケーブル。
【請求項2】
前記溝部の開口部側の溝幅が、前記酸化物超電導導体の幅の1.1〜1.5倍の範囲内に設定されたことを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導ケーブル。
【請求項3】
前記溝部がその底部側よりもその開口部側の方を幅広とした横断面形状とされてなることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導ケーブル。
【請求項4】
前記スロットの周方向に複数配列される酸化物超電導導体において、隣接する酸化物超電導導体の酸化物超電導層を含む平面どうしが交差する交差角度が135゜以上、180℃未満とされてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物超電導ケーブル。
【請求項5】
前記スロットが、4フッ化ポリエチレン、エチレンプロピレンゴムのいずれかからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物超電導ケーブル。
【請求項6】
前記スロットが複数本SZ撚りされてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物超電導ケーブル。
【請求項7】
前記スロットが複数本SZ撚りされ、それらの外部に、内部遮蔽層と、外部遮蔽層と、被覆層が設けられ、前記内部遮蔽層と前記外部遮蔽層との間に冷媒の流通路が形成され、前記スロットの内部に冷媒の流通路が形成されてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物超電導ケーブル。
【請求項8】
テープ状の基材上に中間層を介し酸化物超電導層が形成され、この酸化物超電導層上に安定化層が形成されてなる酸化物超電導導体と、管体からなりその外周面に溝部が複数、その長さ方向に沿って形成されてなるスロットとが備えられ、前記酸化物超電導導体がその基材側を前記溝部の底部側に向けた状態で前記溝部に収容され、前記スロットの周方向に複数本、前記スロットの長さ方向に配置されてなる酸化物超電導ケーブルの製造方法であって、
前記スロットとして、その周方向に前記複数の溝部を所定の間隔で複数形成してなるスロットを用い、このスロットの複数の溝部に前記酸化物超電導導体を収容した後、前記複数本の酸化物超電導導体を備えたスロットを複数本まとめてSZ撚りすることを特徴とする酸化物超電導ケーブルの製造方法。
【請求項9】
前記スロットを、4フッ化ポリエチレン、エチレンプロピレンゴムのいずれかから形成することを特徴とする請求項8に記載の酸化物超電導ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−76750(P2011−76750A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224306(P2009−224306)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】