説明

酸化物超電導線材及び酸化物超電導線材の製造方法

【課題】超電導線材の長尺化及び特性向上を図ることができ、全長にわたって安定した特性を得ることができる酸化物超電導線材及び酸化物超電導線材の製造方法を提供すること。
【解決手段】Y系超電導線材10は、テープ状の無配向金属基板11と、テープ状の無配向金属基板11上にIBAD法を用いて成膜された第1中間層(シード層)12とからなるテープ状線材13と、テープ状線材13上にRTR式のRF−magnetronsputtering法により、第1中間層(シード層)12の側面まで延びた側面部14aを有する第2中間層(キャップ層)14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材及び酸化物超電導線材の製造方法に係り、特に、Y系超電導線材の中間層の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導線材のうち、YBaCu7−x(以下、適宜YBCOという。)超電導線材は、一般に、金属基板上に2軸配向した無機材料薄膜を1層あるいは複数層形成し、その上に超電導膜及び安定化層を順次形成した構造を有する。この線材は結晶が2軸配向しているため、ビスマス系の銀シース線材に比べて臨界電流値(Ic)が高く、液体窒素温度での磁場特性に優れているため、この線材を用いることにより、現在、液体ヘリウム温度近傍の低温で使用されている超電導機器が高温状態で使用できる利点を有する。
【0003】
また、酸化物超電導体はその結晶方位により超電導特性が変化することから、Jcを向上させるためには、その面内配向性を向上させることが必要であり、酸化物超電導体をテープ状の基板上に形成する必要がある。このため、面内配向性の高い基板上に酸化物超電導体をエピタキシャル成長させる成膜プロセスが採用されている。
【0004】
この場合、Jcを向上させるためには、酸化物超電導体のc軸を基板の板面に垂直に配向させ、かつそのa軸(又はb軸)を基板面に平行に面内配向させて、超電導状態の量子的結合性を良好に保持する必要があり、このため、面内配向性の高い金属基板上に面内配向度と方位を向上させた中間層を形成し、この中間層の結晶格子をテンプレートとして用いることによって、超電導層の結晶の面内配向度と方位を向上させることが行われている。また、Ic値を向上させるためには、基板上に形成される酸化物超電導体の膜厚を厚くする必要がある。
【0005】
超電導体の通電特性(Jc)は、中間層の結晶性と表面平滑性に依存しており、下地の状態に応じて敏感にその特性が大きく変化することが判明している。
【0006】
YBCO超電導線材は、現在、種々の成膜方法で検討が行われ、これに用いられるテープ状金属基板の上に面内配向した中間層を形成した2軸配向金属基板の製造技術として、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法やRABiTS(商標:Rolling Assisted Biaxially Textured Substrate)法が知られており、無配向また配向金属テープ上に面内配向度と方位を向上させた中間層を形成したYBCO超電導線材が多く報告され、例えば、基板として、強圧延加工後の熱処理により配向集合組織を有するNi又はNi基合金からなる基板を用い、この表面上にNi酸化物の薄層、CeO(酸化セリウム)等のMOD(Metal Organic Deposition Processes:金属有機酸塩堆積)法により形成された酸化物中間層及びYBCO超電導層を順次形成した希土類系テープ状酸化物超電導体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
このうち、最も高特性が得られているのはIBAD基板を用いた方法である。この方法は、非磁性で高強度のテープ状Ni系基板(ハステロイ等)上に、このNi系基板に対して斜め方向からイオンを照射しながら、ターゲットから発生した粒子をレーザ蒸着法で堆積させて形成した高配向性を有し超電導体を構成する元素との反応を抑制する中間層(CeO、Y、YSZ等)又は2層構造の中間層(YSZ又はGdZr/CeO又はY等)を成膜し、その上にCeOをPLD(Pulsed Laser Deposition)法で成膜した後、更にYBCO超電導層をPLD法で成膜する超電導線材である(例えば、特許文献2参照)。以下、GdZrは、単にGZOという。
【0008】
Y系超電導体の中間層としては、CeOが用いられている。CeO中間層は、YBCO超電導層との整合性がよく、かつYBCO超電導層との反応性が小さいため最も優れた中間層の一つとして知られている。
【0009】
超電導層の下地となるCeO中間層は、酸化物超電導層とGZO中間層間の格子整合性を良くすること、金属基板の元素拡散の抑制などの役割がある。CeO中間層の結晶粒配向性が、その上層の超電導層の結晶配向性と臨界電流値(Ic)に大きく影響を及ぼすことが知られている。すなわち、YBCO膜の超電導特性は、CeO中間層の面内配向性や表面平滑性などに大きく左右される。
【0010】
CeO中間層の作製プロセスは、ターゲットと作製した膜の組成ずれが少なく、高酸素雰囲気中で成膜が可能なPLD法が酸化膜の成膜に採用される。また、PLD法を用いた場合の2次的効果として、GZO中間層上にCeO膜を成膜した場合、膜厚の増加に伴いCeO膜の結晶粒面内配向性(Δφ)が急激に向上する自己配向(selfpitaxy)すること、高速成膜が可能なことが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−171841号公報
【特許文献2】特開2004−71359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
YBCO超電導線材の長尺化では、全長に亘り局所劣化がないことが求められる。局所劣化の要因には非常に多くの原因要素が考えられる。例えば、テープ状金属基板上にGZO及びCeOの2層からなる中間層、及び超電導層を積層した構造のYBCO線材の場合、テープ状金属基板の機械的強度に対してGZO及びCeO中間層の強度は極端に小さく、長尺化する場合2つの中間層の維持が不可欠である。特に、GZO中間層の上に成膜される及びCeO中間層は、その後のTFA−MOD法によるYBCO膜の成膜においては、線材表面となるため損傷を受け易く、曲げなどの応力を受けた場合に剥がれることが考えられる。しかしCeO中間層は、YBCO超電導層との整合性がよく、かつYBCO超電導層との反応性が小さいため最も優れた中間層として欠かすことができない。
【0013】
特に、超電導層をMOD法にて成膜する場合おいては以下に記載する特有の課題が生ずる。
【0014】
具体的には、MOD法により使用される溶液に晒される表面線材は、CeO層である。GZO中間層は、酸に対して弱いことが知られており、少なくともGZO層側面についてはMOD法により使用される溶液に晒されることとなる。特に、超電導層をMOD法にて成膜する際、第1中間層(GZO層)と第2中間層(CeO層)の界面箇所、若しくは第1中間層(GZO層)と基板との界面箇所から各々の各層界面に前記溶液が侵入する、特有の課題がある。
【0015】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、超電導層をMOD法にて成膜する際に生ずるCeO層と各層との剥がれを防止することができ、耐酸性を高めることができる酸化物超電導線材及び酸化物超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の酸化物超電導線材は、テープ状金属基板上に、第1中間層と第2中間層とを順に積層した酸化物超電導線材であって、前記第2中間層は、前記第1中間層の側面まで延びている構成を採る。
【0017】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、テープ状金属基板上に1又は複数の層からなる第1中間層を成膜したテープ状線材に、第2中間層を成膜する酸化物超電導線材の製造方法であって、一対のターンリール間に前記テープ状線材を一定速度でスパッタリング成膜領域中を移動させる工程と、前記スパッタリング成膜領域中を移動する前記テープ状線材を、所定間隔離して複数回に亘って折り返し移動させる工程と、ターゲットから弾き出した蒸着原料を、所定間隔離れて配置された前記テープ状線材の側面に回り込むように堆積させ、前記第2中間層が、前記第1中間層の側面まで延びた薄膜を形成する工程とを有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、超電導層をMOD法にて成膜する際に生ずるCeO層と各層との剥がれを防止することができ、耐酸性を高めることができる。これにより、超電導線材の長尺化及び特性向上を図ることができ、全長にわたって安定した特性を得ることができる酸化物超電導線材及び酸化物超電導線材の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1に係るテープ状酸化物超電導体の中間層の膜構造を示す断面図
【図2】上記実施の形態1に係るテープ状酸化物超電導体の断面図
【図3】上記実施の形態1に係るテープ状酸化物超電導体の成膜装置の概略構成示す斜視図
【図4】本発明の実施の形態2に係るテープ状酸化物超電導体の中間層の膜構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るテープ状酸化物超電導体の中間層の膜構造を示す断面図である。本実施の形態は、2層の中間層を有する酸化物超電導体に適用した例である。
【0022】
図1に示すように、Y系超電導線材10は、テープ状の無配向金属基板11と、テープ状の無配向金属基板11上にIBAD法を用いて成膜された第1中間層(シード層)12とからなるテープ状線材13と、テープ状線材13上にRF(Radio Frequency)−Sputtering法により成膜され、第1中間層12の側面まで延びる側面部14aを有する第2中間層(キャップ層)14とを備える。
【0023】
本実施の形態は、第2中間層14が、一般的なRF−Sputtering法ではなく、後述するように、RF−Sputtering法と、RTR(Reel to Reel)方式テープ移動機構と、テープ線材をマルチターンさせてターゲット上を通過させるマルチターン機構とを組み合わせた構成の成膜装置100(図3参照)により成膜される。以下、RF−Sputtering法とRTR方式テープ移動機構とマルチターン機構とを組み合わせた方式を、RTR式のRF−magnetronsputtering法又は成膜装置100のRF−Sputtering法と呼称する。
【0024】
本実施の形態の成膜装置100(図3参照)は、RF−Sputtering法の成膜条件、RTR方式テープ移動機構のテープ走行などの移動条件、マルチターン機構のターン設定条件を調整することができる。これにより、第2中間層14は、第1中間層12上に成膜されるのみならず、第1中間層12の側面にも側面部14aとして成膜される。この側面部14aは、上記調整により無配向金属基板11の側面にまで成膜することが可能である。また、側面部14aを成膜しないことも可能である。
【0025】
無配向金属基板11は、高強度のテープ状金属基板であり、Ni−Cr系(具体的には、Ni−Cr−Fe−Mo系のハステロイB、C、X等)、W−Mo系、Fe−Cr系(例えば、オーステナイト系ステンレス)、Fe−Ni系(例えば、非磁性の組成系のもの)などの材料に代表される立方晶系のHv=150以上の非磁性の合金からなる。これらの系の合金に90%以上の熱間圧延加工が施され、更にその後に再結晶温度以上で熱処理されることで集合組織とされて良好な結晶配向性を示すようになる。
【0026】
第1中間層12は、GdZr(GZO)、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、MgOなどからなり、IBAD法により無配向金属基板11上に成膜される。第1中間層12は、配向金属基板上に二軸配向したセラミック層を作製するためのシード層、及び無配向金属基板11からの元素が超電導層に拡散し、超電導特性の劣化が引き起こされることを防ぐための拡散防止層である。
【0027】
本実施の形態は、テープ状の無配向金属基板11(例えば、ハステロイ)上に第1中間層12(例えば、GdZr)が成膜されたテープ状線材13に対して、成膜装置100(図3参照)のRF−Sputtering法によりCeOを蒸着して、第1中間層12の側面にまで延びる側面部14aを有する第2中間層14を成膜することを特徴とする。
【0028】
第2中間層14は、酸化物超電導体と第1中間層12間の格子整合性を高め、かつ第1中間層12を構成する元素(Zrなど)拡散を抑制する。第2中間層14は、例えばc軸配向したRe系(123)超電導層を成長させる中間層と超電導層の格子整合性を良くする。
【0029】
第2中間層14は、Y系超電導体の中間層としては、CeOが用いられている。CeO中間層は、YBCO超電導層との整合性がよく、かつYBCO層との反応性が小さいため最も優れた中間層の一つとして知られている。第2中間層14は、CeO膜にGdを所定量添加したCe−Gd−O膜、又はCeの一部が他の金属原子又は金属イオンで一部置換されたCe−M−O系酸化物からなる膜であってもよい。
【0030】
第2中間層14は、RTR式のRF−magnetronsputtering法により、第1中間層12上に成膜されるとともに、第1中間層12の側面にも側面部14aとして成膜される。側面部14aは、第1中間層12の主面の成膜と同時に一体化して成膜されることになる。
【0031】
第2中間層14は、耐酸性を有する中間層であり、例えばCeO膜である。第1中間層12の側面まで延びる側面部14aを有する第2中間層14のCeO膜は、耐酸性の薄膜である。
【0032】
側面部14aの膜厚は、第2中間層14の主面の膜厚の1/5以下であることが好ましい。側面部14aの膜厚が、第2中間層14の膜厚の1/5以下であると、長尺化した場合に、第2中間層14のCeO膜の剥がれを防ぎつつ、側面部14aのCeO膜それ自体の厚みによってYBCO超電導特性に悪影響を及ぼすような応力を発生させずに済むことが確かめられた。
【0033】
また、側面部14aは、第1中間層12の側面の少なくとも1/2以上に成膜されることが好ましい。
【0034】
特に、超電導層をMOD法にて成膜する際、第1中間層12(GZO層)と第2中間層14(CeO層)の界面箇所、若しくは第1中間層12(GZO層)と無配向金属基板11との界面箇所から各々の各層界面箇所に前記溶液が侵入する特有の課題がある。この課題を解決するためには、前記界面箇所を第2中間層14にて覆う必要がある。したがって、側面部14aは、無配向金属基板11の側面の少なくとも一部、さらにはその底面に成膜されることが好ましい。
【0035】
また、無配向金属基板11の主表面側は研磨などにより平滑性を有しているものの、側面側及びその底面は主表面に比べて粗い状態となっている。このため、無配向金属基板11の側面の一部にまで第2中間層が成膜されると、粗い側面に第2中間層が入り込み、より第2中間層14が剥がれにくい状態となる。
【0036】
ここで、側面部14aは、RTR式のRF−magnetronsputtering法により、第2中間層14と一体に成膜され、従って第2中間層14と同一組成により形成される。上述したように、CeO膜は、YBCO超電導層との整合性がよく、かつYBCO層との反応性が小さいため最も優れている。これに加えて、CeO膜は、耐酸性の点でも優れている。因みに、耐酸性はMOD法で中間層にCeO膜を使用する理由の一つである。以上のことから、第2中間層14及びその側面部14aは共に、CeO膜により成膜される。
【0037】
また、第2中間層14は、結晶粒配向性が、その上層の超電導層の結晶配向性と臨界電流値(Ic)に大きく影響を及ぼすことが知られている。本実施の形態では、RTR式のRF−magnetronsputtering法により、第2中間層14を高精度で成膜する。RTR式のRF−magnetronsputtering法は、PLD法と同様に、ターゲットと作製した膜の組成ずれが少なく、精確な成膜が可能である一方、PLD法に比べ、メンテナンスコスト等が安価である利点がある。第2中間層14の膜厚は、50nm〜3μmが好ましい。50nm未満では無配向金属基板11の元素拡散防止に対する効果が少なく、3μm以上では膜にクラックが入る可能性がある。
【0038】
本実施の形態では、第2中間層14のCeO膜の膜厚は、1μmとしたため、側面部14aのCeO膜の膜厚は、その1/5以下となる。
【0039】
なお、CeO層をMOD法で成膜すると、基板との熱膨張率との違い等の原因でクラックが入り、中間層としての機能を果たさない。本実施の形態のRTR式のRF−magnetronsputtering法は、このようなクラックは発生しない。
【0040】
図2は、本実施の形態に係るテープ状酸化物超電導体の断面図である。
【0041】
図2に示すように、テープ状酸化物超電導体20は、テープ状線材13上に第2中間層14が成膜されたY系超電導線材10に対して、第2中間層14上に、TFA−MOD(Trifluoroacetates−Metal Organic Deposition)法によりYBCO超電導膜21が成膜されている。第2中間層14及びYBCO超電導膜21もそれぞれの下層の結晶配向に従って高いc軸及びa軸配向性(面内配向性)を有する。
【0042】
テープ状酸化物超電導体20は、第2中間層14の成膜工程で、RTR式のRF−magnetronsputtering法により第1中間層12の側面にも側面部14aが成膜される。この側面部14aは、第2中間層14の成膜と同時に、すなわち第2中間層14のCeO蒸着時に、一体的に成膜される緻密なCeO膜である。第2中間層14は、側面部14aとして第1中間層12まで延びていること、すなわち第1中間層12の側面に側面部14aを成膜することで、以下の効果を期待することができる。(1)側面部14aは、Y系超電導線材10の上面角部の第2中間層14を覆うので、Y系超電導線材10が曲げ・引っ張りなどの応力を受けた場合に、第2中間層14のCeO膜を剥がれ難くする。(2)また、側面部14aは、第1中間層12を側面からシールドすることで、TFA−MOD法の溶液の酸から第1中間層12を保護することができる。換言すれば、TFA−MOD法の溶液の種類/溶液濃度の選択自由度を拡げることができ、YBCO超電導膜21成膜条件を最適化することができる。
【0043】
上記(1)(2)は、テープ状酸化物超電導体20の長尺作製において、特性向上と作製時間短縮につながる。
【0044】
図3は、上記Y系超電導線材10の第2中間層14を成膜する成膜装置100の概略構成示す斜視図である。
【0045】
成膜装置100は、無配向金属基板11上に第1中間層12を成膜したテープ状線材13上に側面部14aを有する第2中間層14を成膜する。
【0046】
図3に示すように、成膜装置100は、送入及び送出するテープ状線材13を支持する線材ホルダ101a,101bと、線材ホルダ101a,101bの間に設置され、線材ホルダ101bの上に送り出された走行中のテープ状線材13を過熱するテープ状線材加熱用ヒータ102と、RF−Sputtering装置110とを備える。
【0047】
RF−Sputtering装置110は、線材ホルダ101bの下方でテープ状線材加熱用ヒータ102に対向配置された板状のターゲット111(ここでは、CeOターゲット)、ターゲット111に高周波電圧を印加する高周波印加装置(不図示)を有する。高周波印加装置は、コロナ放電等によりターゲット111から弾き出されたCeO(蒸着原料)を、高周波印加によりテープ状線材13の表面に堆積して薄膜を形成する。テープ状線材13の主面に堆積したCeO膜は、第2中間層14の主面を形成し、テープ状線材13の側面に堆積したCeO膜は、側面部14aを形成する。
【0048】
図3では、ターゲット111の表面の上方位置が、RF−Sputtering装置110によるスパッタリング成膜領域112を形成している。
【0049】
また、成膜装置100は、スパッタリング成膜領域112の両端に設置された一対のターンリール121,122からなり、ターンリール121,122間にテープ状線材13を一定速度でスパッタリング成膜領域112中を移動させるRTR方式テープ移動機構120と、ターンリール121,122間にテープ状線材13を巻き付け、マルチターン(ここでは5ターン)させてスパッタリング成膜領域112中を通過させるマルチターン機構130とを備える。
【0050】
マルチターン機構130は、テープ状線材13を複数回、好ましくは5回以上に亘って、スパッタリング成膜領域112に移動させるので、RTR方式プロセスに比べて成膜速度を大きくすることができるという利点がある。
【0051】
また、テープ状線材13の側面に第2中間層が所望の位置まで回り込むように成膜するためには、スパッタリング成膜領域112をテープ状線材13が複数回通過する本構造に加え、RTR方式テープ移動機構120により移動するテープ状線材13を、所定間隔離して複数回に亘って折り返し移動させるマルチターン機構130が必要である。
【0052】
かかる所定間隔としては、第2中間層が所望の位置まで回り込むように成膜するような所定間隔であればよいが、3〜20mm程度の間隔が好ましい。いずれにせよ、RF−Sputtering装置110とRTR方式テープ移動機構120とマルチターン機構130などの組み合わせた、RTR式のRF−magnetronsputtering法を有することで、テープ状線材13の側面に回り込むようにCeOが成膜される。
【0053】
マルチターン方式を採用しなければ、かかる間隔は生じないことに加え、スパッタリング成膜領域112をテープ状線材13が複数回通過する本構造でなければ十分な膜厚及び側面等へ回りこむCeOが堆積することはない。
【0054】
なお、成膜装置100は、RF−Sputtering装置110、RTR方式テープ移動機構120、及びマルチターン機構130全体が、図示しない成膜処理容器(チャンバ)に格納されている。また、RF−Sputtering装置110は、上記チャンバ内において放電を発生させる。RF−Sputtering装置110は、チャンバ内のインピーダンスを自動的に調整する機構を備えていてもよく、このように構成すれば成膜の安定性を高めることができる。
【0055】
ここで、成膜領域を大きく確保するために、ターゲット111は、複数のターゲット材をタイル状に貼り合せてもよい。タイル状に貼り合せたターゲットを用いることで、大面積の酸化物ターゲットをマウントすることができる。ターゲット111は、目的とする多結晶薄膜を形成するためのものであり、目的の組成の多結晶薄膜と同一組成あるいは近似組成のものなどを用いる。ターゲット111は、CeOターゲットを用いるがこれに限るものではない。
【0056】
[実施例]
図2に示すように、テープ状酸化物超電導体20は、無配向金属基板11上に、GdZr(GZO)第1中間層12と、側面部14aを有するCeO第2中間層14と、YBCO超電導層21とを積層した構造となっている。
【0057】
使用した基板は、100μm厚×10mm幅の長さ100mのハステロイテープ上にGZO膜をIBAD法で成膜したテープ状線材13を用いている。
【0058】
図3のRTR式のRF−magnetronsputtering法を有する成膜装置100を用いて、テープ状線材13に、側面部14aを有するCeO第2中間層14を成膜する。
【0059】
成膜条件は、以下の通りである。
【0060】
テープ状線材加熱用ヒータ102の設定温度:400〜900℃
RF−Sputtering装置110のRF印加電力:0.5〜2kW
チャンバ内のガス圧:1〜100mTorr
図3に示すように、成膜装置100は、RF−Sputtering装置110とRTR方式テープ移動機構120とマルチターン機構130とを組み合わせた構造を有する。
【0061】
RF−Sputtering装置110を有することで、PLD法を用いることなく、CeO第2中間層14を成膜することができる。また、RTR方式テープ移動機構120を有することで、長尺化したテープ状線材13にCeO第2中間層14を成膜することができる。さらに、マルチターン機構130を有することで、テープ状線材13がスパッタリング成膜領域112を5回通過することができ、成膜の高速化を図ることができる。
【0062】
さらに、成膜装置100は、RF−Sputtering装置110とRTR方式テープ移動機構120とマルチターン機構130とを組み合わせた、RTR式のRF−magnetronsputtering法を有することで、上記夫々の機能が実施できることは勿論のこと、本実施の形態の特有の機能が実現可能になった。すなわち、RTR方式で、かつマルチターン方式において、RF−Sputtering法を採ることで、テープ状線材13に、CeO第2中間層14の成膜と同時に、第1中間層12の側面に側面部14aを成膜することができる。より詳細に説明すると、RTR方式で、かつマルチターン方式であるが故に、各マルチターンおいて、隣り合うテープ状線材13間に所定間隔が生じている。マルチターンで生じたテープ状線材13間に、RF−Sputtering法によりテープ状線材13の側面に回り込むようにCeOが成膜される。マルチターン方式を採用しなければ、かかる間隔は生じないことに加え、スパッタリング成膜領域112をテープ状線材13が5回通過する本構造でなければ十分な膜厚のCeOが堆積することはない。
【0063】
長時間にわたる長尺中間層の安定成膜検討実験は、ハステロイリードに20cm長のIBAD−GZO基板を10m間隔で接続した模擬長尺線材を作製して行った。
【0064】
作製したCeO第2中間層14の評価は、X線回折法を使用して行い、結晶性に関しては(200)の強度、c軸配向度はθ−2θで評価を行った。CeO第2中間層14の結晶粒面内配向性は、極点図の測定を行い、4回対称性を示すφスキャンピークの半値幅(Δφ)の平均値をとり評価した。CeO第2中間層14の表面形状と膜表面平滑性の評価は、SEM(Scanning Electron Microscopy)及びAFM(Atomic Force Microscopy)によりそれぞれ行った。
【0065】
CeO膜の第2中間層(キャップ層)14としての有効性評価は、実際にYBCO超電導膜21をTFA−MOD法により作製し、超電導膜の臨界電流(Ic)を測定することによって判断した。Ic値の測定は直流四端子法を用い、1μV/cmの電界基準によって定義した。
【0066】
実験結果より、Sputtering法で作製したCeO中間層上のYBCO超電導層21において良好な通電特性を示したことから、十分にYBCO線材の中間層として使用できることがわかった。
【0067】
本実施の形態では、RTR式のRF−magnetronsputtering法を用いて、RF印加電力を上げるとともに、成膜領域を広げるためのマルチターン機構を実施した。この結果、長手方向に対するΔφの分布は、全長にわたり6°以下(膜厚:1.4μm)のΔφを示し、きわめて均一に面内配向したCeO中間層膜が形成された。
【0068】
RTR式のRF−magnetronsputtering法により結晶粒面内配向性(Δφ)が6°以下のCeO中間層膜を長尺化することに成功し、PLD法に代わりSputtering法でも高性能なYBCO線材用中間層として適用可能であることを実証した。
【0069】
以上詳細に説明したように、本実施の形態のY系超電導線材10は、テープ状の無配向金属基板11と、テープ状の無配向金属基板11上にIBAD法を用いて成膜された第1中間層(シード層)12とからなるテープ状線材13と、テープ状線材13上にRTR式のRF−magnetronsputtering法により、第1中間層12の側面まで延びた側面部14aを有する第2中間層14とを備える。すなわち、Y系超電導線材10は、第2中間層14が、側面部14aとして、少なくとも第1中間層12の側面を覆うように延びている構造を採る。
【0070】
これにより、Y系超電導線材10の上面角部の第2中間層14が、第1中間層12の側面まで延びて、側面部14aとして第1中間層12を覆うので、Y系超電導線材10が曲げ・引っ張りなどの応力を受けた場合に、第2中間層14のCeO膜を剥がれ難くすることができる。また、側面部14aは、第1中間層12を側面からシールドすることで、TFA−MOD法の溶液の酸から第1中間層12を保護することができる。
【0071】
ところで、従来のCeO中間層作製プロセスでは、PLD法を用いていたため以下の問題があった。
【0072】
(1)装置価格が高価である。
【0073】
(2)数年間隔でレーザ発振管の交換が必要となるため、装置のメンテナンスコストが高価である。
【0074】
(3)長時間運転におけるレーザエネルギの経時変化などにより、製造時の無人運転が難しい。
【0075】
(4)レーザ光がレーザ光導入のビューイングポートのガラス表面に付着した埃などを焼き付け、ビューイングポートの透過率が経時的に低下する。それに伴ってターゲットに到達するレーザ光の強度も低下し、膜質が劣化する。
【0076】
これに対して、本実施の形態の成膜装置100は、ターゲット111から弾き出されたCeOを、高周波印加によりテープ状線材13に堆積して、第1中間層12の側面まで延びた側面部14aを有する第2中間層14を形成するRF−Sputtering装置110と、一対のターンリール間にテープ状線材13を一定速度でスパッタリング成膜領域112中を移動させるRTR方式テープ移動機構120と、テープ状線材13を複数回に亘って、スパッタリング成膜領域に移動させるマルチターン機構130とを備える。
【0077】
このように、成膜装置100は、RTR式のRF−magnetronsputtering法により、CeO第2中間層14を成膜しているので、以下の効果を有する。
【0078】
(1)PLD法に比べて装置価格が安価である。
【0079】
(2)PLD法に比べてメンテナンスコストが安価である。
【0080】
(3)100時間以上の長時間連続運転が可能であり、また成膜は長時間に亘って安定であるため無人運転が可能である。
【0081】
(4)高速化の手法として、マルチターン構造が比較的安価に実現できる。この場合、膜材料となるターゲット111を幅広形状とし、テープ状線材13をマルチターンさせてターゲット111上を通過させることにより、スパッタリング成膜領域112を拡大することができる。
【0082】
上記(1)−(4)により、第2中間層14及びその側面部14aの製造において、装置コスト・ランニングコストを安価にすることができ、高速成膜が可能になる。装置の導入コストやメンテナンスコストが安価で量産に適している。
【0083】
(実施の形態2)
YBCO膜の超電導特性は、CeO中間層の面内配向性や表面平滑性などに大きく左右される。CeO膜の場合にはクラックの発生がない成膜が必要である。また、GZO中間層上にCeO膜をPLD法で成膜した場合、膜厚の増加に伴いCeO膜の結晶粒面内配向性(Δφ)が急激に向上する自己配向(selfepitaxy)利用することができる。その他の理由により、中間層は多層により成膜されることが一般的である。
【0084】
実施の形態1は、2層の中間層を有する酸化物超電導体に適用した例である。実施の形態2は、3層以上の中間層を有する酸化物超電導体に適用した例について説明する。
【0085】
本発明は、第2中間層が第1中間層の側面まで延びていればよく、第1及び第2中間層は、金属基板と酸化物超電導層と間の各中間層のいずれであってもよい。例えば、第2中間層は、酸化物超電導層の直下に形成される。
【0086】
また、第1中間層は、複数の中間層からなるものでもよい。例えば、第1中間層が2層である場合、中間層は3層となる。以下、この3層の例を実施の形態2により説明する。なお、中間層を金属基板上から順次、成膜する場合の説明の便宜上から、実施の形態2では、実施の形態1の第2中間層が、第3中間層に対応する。
【0087】
図4は、本発明の実施の形態2に係るテープ状酸化物超電導体の中間層の膜構造を示す断面図である。本実施の形態は、3層の中間層を有する酸化物超電導体に適用した例である。
【0088】
図4に示すように、テープ状酸化物超電導体30は、配向金属基板31上に、それぞれ特有の機能を有する3層構造の第1中間層32、第2中間層33、及び第3中間層34を積層する。第3中間層34を積層した後、酸化物超電導層(図示略)を設け、更に銀等からなる表面保護等の役割を果たす安定化層(図示略)を設ける。なお、上述したように、第3中間層34は、実施の形態1の第2中間層14(図1参照)に対応している。
【0089】
配向金属基板31は、2軸配向性を有する配向金属基板である。
【0090】
第1中間層32は、配向金属基板31と同等の配向性を有するテンプレート層である。
【0091】
第2中間層33は、配向金属基板31を構成する金属元素の酸化物超電導層への拡散を防止する拡散防止層である。
【0092】
第3中間層34は、酸化物超電導層の配向性を制御し反応性を防止する配向制御層である。
【0093】
特に、第3中間層34は、酸化物超電導層と第2中間層33間の格子整合性を高め、かつ配向金属基板31の元素拡散を抑制する。第3中間層34は、第2中間層33の側面まで延びている。
【0094】
第3中間層34は、第2中間層33上に成膜されるのみならず、第2中間層33の側面にも側面部34aとして成膜される。この側面部34aは、第1中間層32又は配向金属基板31の側面にまで成膜することが可能である。
【0095】
上記各中間層32〜34は、酸化物超電導層(図示略)の面内配向性を向上させるために、2軸配向した配向金属基板31の結晶配向を引き継ぐ必要があり、このため配向金属基板31は、少なくとも第1中間層32に接触する側において2軸配向した表面層を備えることが必要である。このような配向金属基板31としては、冷間圧延後、所定の熱処理を施したNi、Ni基合金やCu又はCu基合金、例えば、Niに(W、Mo、Ta、V、Cr)から選択されたいずれか1種又は2種以上の元素を0.1〜15at%含むNi基合金を用いることができる他、これらの配向金属基板と耐熱性及び耐酸化性を有する金属基板(ハステロイ、インコネル、ステンレス等)とNi又はNi基合金あるいはCu又はCu基合金とを冷間加工により貼り合わせ、900〜1300℃の温度で配向化熱処理を施した積層構造からなる複合金属基板を用いることもできる。
【0096】
第1中間層12及び第3中間層34は、CeO又はCe−RE1−Oにより形成することが好ましく、この場合、Ce:RE1のモル比は、Ce:RE1=30:70〜(100−α):α(α>0)、より好ましくは、Ce:RE1=40:60〜70:30の範囲内である。この理由は、Ce/RE1比が3/7より少ないと2軸配向性が低下することによる。
【0097】
第1中間層32の厚さは、10〜100nmの範囲内であることが好ましく、この理由は、膜厚が10nm未満では金属基板を完全に被覆しきれずに配向性向上の効果が認められず、一方、膜厚が100nmを超えると表面粗さが増大して第2中間層及び第3中間層の配向性や超電導層の超電導特性を著しく低下させる結果を導くことによる。
【0098】
また、第3中間層34の厚さは、30nm以上の範囲であることが好ましく、膜厚が30nm未満では、超電導層の成膜時に超電導層と第3中間層13が反応して消失することにより超電導特性を著しく低下させる結果を導く。
【0099】
一方、第2中間層33は、RE2−Zr−Oにより形成することができ、この場合、RE2:Zrのモル比は、RE2:Zr=30:70〜70:30の範囲内であることが好ましい。第2中間層33の厚さは、30nm以上の範囲であることが好ましく、膜厚が30nm未満では、超電導層の成膜時に金属基板10を構成する合金元素と超電導層の相互拡散が生じるため超電導特性が著しく劣化する結果となる。
【0100】
以上の第1乃至第3中間層及び酸化物超電導層は、有機金属塩塗布熱分解(MOD)法、RFスパッタ法、パルスレーザーデポジション法、EB法、CVD法等の上記の酸化物を形成できる方法であればいずれの方法も用いることが可能である。第1及び第2中間層並びに酸化物超電導層は、有機金属塩塗布熱分解(MOD)法により形成することが好ましい。この場合、これらの中間層及び酸化物超電導層は、当該中間層又は酸化物超電導層を構成する元素を所定のモル比で含むオクチル酸塩、ナフテン酸塩、ネオデカン酸塩又は三弗化酢酸塩の混合溶液の塗布後、熱処理を施すことにより形成することができ、1種類あるいは2種類以上の有機溶媒に均一に溶解し、基板上に塗布できるものであれば、この例によって制約されない。
【0101】
この場合、酸化物超電導層の形成に対してはTFA−MOD法が好適する。この方法は、非真空プロセスで製造する方法として知られており、酸化物超電導体を構成する各金属元素を所定のモル比で含むトリフルオロ酢酸塩(TFA塩)を始めとする金属有機酸塩の溶液を基板上に塗布し、それに仮焼熱処理を施してアモルファス状の前駆体を形成し、その後、結晶化熱処理を施して、前駆体を結晶化させて酸化物超電導体を形成する。
【0102】
金属基板への塗布方法は、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法等が挙げられるが、基板に均一な膜が形成できるものであれば、この例によって制約されない。
【0103】
MOD法による第1中間層11の面内配向性は、2軸配向性を有する配向金属基板31のX線回折によるΔφ(半値幅)に対して−2度〜+5度程度の範囲で形成されるが、好ましくは、第1中間層乃至第3中間層の面内配向性を2軸配向した配向金属基板10のΔφ(半値幅)に対して±1.0度の範囲内に維持する。
【0104】
このように、本実施の形態によれば、テープ状酸化物超電導体30は、第2中間層33の側面まで延びる第3中間層34を備える。これにより、実施の形態1と同様の効果、すなわち、超電導層をMOD法にて成膜する際、第2中間層33と第3中間層34(CeO層)の界面箇所に溶液が侵入する特有の課題を解決することができる。また、配向金属基板31の側面の一部にまで側面部34aが成膜されると、粗い配向金属基板31の側面に第3中間層34(CeO層)が入り込み、より第1中間層32及び第2中間層33が剥がれにくい状態となる。
【0105】
また、本実施の形態では、2軸配向した配向金属基板31上に、第1中間層32、第2中間層33及び第3中間層34を順次形成した3層構造からなる中間層を設けたことにより、第1中間層32が配向金属基板31のテンプレートとして配向金属基板31の面内配向性を引き継ぎ、その上に積層される第2中間層33により金属基板を構成する元素の酸化物超電導層への拡散を防止するとともに、第3中間層34がその上に積層される酸化物超電導層の配向性を制御するため、配向金属基板31を構成する元素の拡散や中間層におけるクラックの発生を防止することができる上、酸化物超電導層の面内配向性を配向金属基板31と同等に維持することが可能となり、超電導特性に優れたテープ状酸化物超電導体を得ることができる。
【0106】
[実施例]
幅5mm、厚さ70μmのNi基合金基板(配向金属基板31)上に、第1中間層32としてCe−Gd−O系酸化物層及び第2中間層33としてCe−Zr−O系酸化物層をMOD法により形成した。Ni基合金基板1の結晶の配向性は、X線回折で測定した結果、そのΔφ(半値幅)は6.5度であった。
【0107】
Ce−Gd−O系酸化物層32は、Ce及びGdをそれぞれ所定のモル比で含むオクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸等の有機金属塩の混合溶液をDipコーティングを用いて塗布した後、100〜400℃の温度範囲で仮焼し、次いで900〜1200℃の温度範囲で焼成を施すことにより膜を結晶化させて形成した。
【0108】
また、Ce−Zr−O系酸化物層33は、Ce及びZrをCe:Zr=50:50のモル比で含むオクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸等の有機金属塩の混合溶液を用い、上記と同様の方法により、Ce−Gd−O系酸化物層2の上に成膜した。このときの膜厚は100nmであった。
【0109】
上記のCe−Zr−O系酸化物層33の上に、RTR式のRF−magnetronsputtering法により、CeOターゲットを用い、Ni基合金基板(配向金属基板31)を400〜750℃の温度範囲で制御して第3中間層34としてCeO酸化物層を膜厚150nmに成膜した。
【0110】
以上のようにして形成した3層構造の中間層の上に、YBCO超電導層をTFA−MOD法により成膜した。このときの成膜条件は、トリフルオロ酢酸塩(TFA塩)を含む金属有機酸塩の混合原料溶液をCeO酸化物層の上に塗布後、仮焼成して形成した仮焼成膜を710〜780℃の温度範囲で本焼成して成膜した。焼成時の全圧は5〜800Torr、酸素分圧は100〜5000ppm、水蒸気分圧は2〜30%の範囲とした。このようにして成膜したYBCO超電導層の膜厚は1μmであった。
【0111】
以上のようにして形成したテープ状酸化物超電導体は、具体的に、実施の形態1では、第2中間層が第1中間層の側面まで延びており、実施の形態2では、第3中間層が第2中間層の側面まで延びている。この第2中間層及び第3中間層は、便宜的な名称であり、その上方に酸化物超電導層が積層されていればよい。
【0112】
実施例1,2は、実施の形態1の2層の第1及び第2中間層からみた場合の第2中間層の構成である。より具体的には、実施例1は、第2中間層が第1中間層側面1/2まで成膜されており、実施例2は第2中間層が基板側面まで成膜されている。また、実施例3は、実施の形態2の3層の第1乃至第3中間層の構成である。
【0113】
第2中間層(実施の形態2にあっては第3中間層)がその下層の中間層又は基板の側面まで延びている実施例1−3の構成では、中間層が側面まで成膜されていない比較例と比較して、剥離状態がない良好な状態で、Jcが2.0以上であり、かつ、基板の長手方向(長さ100m)のどの位置においてもIcが300A以上であることが確認された。
【0114】
以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されることはない。
【0115】
例えば、第2中間層が第1中間層の側面まで延びていればよく、第1及び第2中間層は、金属基板と酸化物超電導層と間の各中間層のいずれであってもよい。また、第1中間層は、複数の中間層からなるものでもよい。
【0116】
また、実施の形態1では、RTR式のRF−magnetronsputtering法により、第2中間層(キャップ層)14と側面部14aのCeO膜の堆積が同時に進行する。しかしながら、第1中間層(シード層)12の側面に、耐酸性を有するキャップ層(例えばCeO膜)を備える酸化物超電導線材であれば、どのような成膜方法、例えばMOD法、PLD法、スパッタ法又はRFスパッタ法により成膜された線材でもよい。実施の形態2についても同様である。
【0117】
また、高強度のテープ状金属基板は、ハステロイ、ステンレス、Ni系合金、Ag又はAg系合金から選ばれた一種を使用してもよい。
【0118】
また、YBCO超電導層21は、RE1+XBa2-XCu3Y(REは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb又はHoから選択された1種以上を示す。Hoはホルミウムを示し、xは6〜7である。)を使用してもよい。
【0119】
また、上記各実施の形態では、テープ状酸化物超電導体、テープ状酸化物超電導体の製造装置及び製造方法という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、酸化物超電導線材、超電導線材、テープ状酸化物超電導線の製造装置及び製造方法等であってもよい。また、Y系超電導線材は、YBCO超電導線材、テープ状線材は、YBCOテープ線材などと呼称されることがある。
【0120】
さらに、上記酸化物超電導体、及び酸化物超電導体の製造装置を構成する各部、例えば酸化物超電導体については中間層、酸化物超電導体の製造装置及び方法については成膜装置及び方法等の種類及び個数などは前述した実施の形態に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明に係る酸化物超電導線材及び酸化物超電導線材の製造方法は、超電導線材の長尺化及び特性向上を図ることができ、全長にわたって安定した特性を得ることができるテープ状酸化物超電導線に適用することができる。本発明に係る酸化物超電導線材は、超電導ケーブル、電力機器及び動力機器等の機器への利用が可能である。
【符号の説明】
【0122】
10 Y系超電導線材
11 無配向金属基板
12,32 第1中間層
13 テープ状線材
14,33 第2中間層
14a,34a 側面部
20,30 テープ状酸化物超電導体
21 YBCO超電導膜
31 配向金属基板
34 第3中間層
100 成膜装置
101a,101b 線材ホルダ
102 テープ状線材加熱用ヒータ
110 RF−Sputtering装置
111 ターゲット
120 RTR方式テープ移動機構
121,122 ターンリール
130 マルチターン機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状金属基板上に、第1中間層と第2中間層とを順に積層した酸化物超電導線材であって、
前記第2中間層は、前記第1中間層の側面まで延びている酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記第1中間層は、1又は複数の中間層からなり、前記第2中間層は、酸化物超電導層の直下に形成される請求項1記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
前記第2中間層は、前記第1中間層よりも耐酸性の薄膜である請求項1記載の酸化物超電導線材。
【請求項4】
前記第2中間層は、CeO膜である請求項1記載の酸化物超電導線材。
【請求項5】
前記第2中間層の前記側面の膜厚は、前記第2中間層の主面の膜厚の1/5以下である請求項1記載の酸化物超電導線材。
【請求項6】
前記第2中間層は、前記第1中間層の側面の少なくとも1/2以上にまで延びている請求項1記載の酸化物超電導線材。
【請求項7】
前記第2中間層は、前記テープ状金属基板の側面又は底面まで延びている請求項1記載の酸化物超電導線材。
【請求項8】
前記酸化物超電導層は、MOD法により成膜されたREBaCuO(REは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb又はHoから選択された1種以上を示す。)からなる請求項3記載の酸化物超電導線材。
【請求項9】
テープ状金属基板上に1又は複数の層からなる第1中間層を成膜したテープ状線材に、第2中間層を成膜する酸化物超電導線材の製造方法であって、
一対のターンリール間に前記テープ状線材を一定速度でスパッタリング成膜領域中を移動させる工程と、
前記スパッタリング成膜領域中を移動する前記テープ状線材を、所定間隔離して複数回に亘って折り返し移動させる工程と、
ターゲットから弾き出した蒸着原料を、所定間隔離れて配置された前記テープ状線材の側面に回り込むように堆積させ、前記第2中間層が、前記第1中間層の側面まで延びた薄膜を形成する工程と
を有する酸化物超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−165568(P2011−165568A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29119(P2010−29119)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】