説明

酸化薄膜の作成方法

【課題】 成膜時間の短縮化及び、成膜装置の簡素化が図れ、原料ガスの利用効率を高めることのできる酸化薄膜の作成方法を提供する。
【解決手段】 酸化対象物(1)の表面に酸化薄膜を形成する酸化薄膜の作成方法であって、酸化対象物(1)を収容した気密チャンバー(2)に内に爆発限界濃度以上のオゾンガスを封入する。気密チャンバー(2)内に封入したオゾンガスに着火源(7)を作用させてオゾンガスを強制的に分解させる。分解により発生した酸素ラジカルと分解反応熱を酸化対象物表面に到達させることにより、酸化対象物(1)の表面に酸化薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半金属や金属の表面に酸化膜を形成する方法に関し、特に高濃度オゾンを使用した酸化膜生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のようにオゾンガスは強い酸化力を有するガスであることから、近年、半導体製造の分野では、酸化膜形成にオゾンガスを使用することが検討されている。
そして、従来、酸化膜形成にオゾンガスを使用するものとして、被酸化試料の被酸化領域に赤外光を照射する光源や加熱手段で局所加熱し、この加熱された被酸化試料に流通するオゾンガスを作用させて、熱によりオゾンガスを分解させて酸化させるようにしたもの(特許文献1)や、流通しているオゾンガスにレーザー光を作用させてオゾンガスを分解させ、このオゾン分解により得られた酸素ラジカルを加熱されている被酸化試料に作用させて、被酸化試料に酸化膜を形成するようにしたもの(非特許文献1)が知られている。
【特許文献1】特開2003−209108
【非特許文献1】雑誌「真空」 日本真空協会発行 Vol.48 No.5 2005 9ページから12ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術を含む従来の酸化膜形成技術は、低温処理といっても、酸化対象物を加熱して処理温度として400℃程度の加熱雰囲気で行われている。半導体製造においては、年々極小化が進み、温度と処理時間の低減が求められており、そのような要求を満たすべく製造プロセスが年々複雑化し、高コスト化している。
【0004】
又、従来のオゾンガスを使用した酸化膜形成処理では、チャンバー内にオゾンガスを流通させながら行ない、酸化対象物に作用した分解ガスのみが酸化膜形成に寄与し、残りのガスはチャンバーから排出されることになるから、原料となるオゾンガスの利用効率が低いという問題もある。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたもので、成膜時間の短縮化及び、成膜装置の簡素化が図れ、原料ガスの利用効率を高めることのできる酸化薄膜の作成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、酸化対象物の表面に酸化薄膜を形成する酸化薄膜の作成方法であって、酸化対象物を収容した気密チャンバーに内に起爆限界濃度以上のオゾンガスを封入し、気密チャンバー内に封入したオゾンガスに着火源を作用させてオゾンガスを強制的に分解させ、発生したラジカル酸素と分解反応熱を酸化対象物表面に到達させることにより、酸化対象物の表面に酸化薄膜を形成するようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、酸化対象物を収容した気密チャンバー内に起爆限界濃度以上のオゾンガスを封入し、この封入したオゾンガスに着火源を作用させて封入されたオゾンガスを強制分解するように構成してあることから、オゾン分解が瞬時に行なわれ、ラジカル酸素及び反応熱を集中して酸化対象物表面に到達させることができるので、数ミリ秒という短時間で成膜を行なうことができ、成膜時間を大幅に短縮することができる。
【0008】
しかも、気密チャンバー内に封入されたオゾンガスはその全量を利用することができるから、原料ガスの有効利用が図れる。
【0009】
また、オゾン分解時に発生する熱を酸化膜形成反応に利用することになるから、大規模な加熱源を必要とせず、成膜装置として簡素化することができる。
【0010】
さらに、成膜に利用したオゾンガスを始めとするガスは、その排気時には、全量が酸素及び酸化された安定な状態となるため、希釈排気用のガスや除害設備を必要としない。このため、装置全体として構成を小型簡素化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明方法を実施するための成膜装置の一例を示す概略構成図である。この成膜装置は、酸化対象物であるシリコンウエハ(1)を収容載置している気密チャンバー(2)と、この気密チャンバー(2)に供給する高濃度オゾンガスを発生させる高濃度オゾン発生装置(3)と、高濃度オゾンを高濃度オゾン発生装置(3)から気密チャンバー(2)に送給する高濃度オゾン送給路(4)と、気密チャンバー(2)内を減圧排気する排気路(5)と、排気路(5)に配置した真空ポンプ(6)と、気密チャンバー(2)内に封入したオゾンガスを強制分解するための着火源としての放電火花を発生させる放電火花発生装置(7)とを具備している。符号(8)は高濃度オゾン送給路(4)に配置した入口弁、(9)は排気路(5)に配置した出口弁、(10)は気密チャンバー(2)の内圧を検出する圧力計である。
【0012】
上述の構成からなる成膜装置では、高濃度オゾン発生装置(3)に酸素供給装置(図示略)から酸素ガスを供給し、オゾンを生成するとともに、精製して対酸素比率12〜90vol.%の高濃度オゾンガスとして、気密チャンバー(2)に供給封入する。
【0013】
そして、火花放電装置(7)を作動させて気密チャンバー(2)内で火花放電させ、気密チャンバー(1)内のオゾンガスを強制的に分解させてラジカル酸素を発生させる。このオゾンガスの強制分解により生じたラジカル酸素と、分解時に発生する熱とを酸化対象物であるシリコンウエハ(1)の表面に到達させてシリコンウエハ(1)の表面に酸化膜を生成する。
【0014】
図2は気密チャンバー(2)に封入するオゾンガスの濃度と生成される酸化膜厚との関係を示す図である。図2によると、オゾン濃度が濃いほど、形成される酸化膜厚が厚くなることがわかる。なお、このときの気密チャンパー(2)内のオゾン封入圧力は100torr(13.33kPa)であった。
【0015】
図3は、気密チャンバー(2)に封入するオゾンガスの圧力と生成される酸化膜厚との関係を示す図である。図3によると、封入圧力の高いほうが、形成される酸化膜厚が厚くなることがわかる。なお、このときの気密チャンパー(2)内に供給されるオゾンガスの濃度は対酸素比90vol.%であった。
【0016】
図4は、処理回数と生成される酸化膜厚との関係を示す図である。図4によると、オゾンガス封入操作と強制分解操作とを繰り返し行なうことにより、形成される酸化膜厚が厚くなることがわかる。しかし、繰り返し回数が5回を超えると、膜厚の増加率はあまり変動しなくなることがわかった。このときのチャンバー内オゾン封入圧力は20torr(2.66kPa)とオゾンガスの濃度は対酸素比90vol.%であった。
【0017】
なお、オゾンガスの起爆限界は、図5に示す通りであることから、気密チャンバー(2)に封入するオゾンガスの濃度は10vol.%以上の濃度であることが求められる。また、その場合の封入圧力は、図5で示される起爆限界線図における起爆限界圧力が必要である。
【0018】
図6は対酸素比50vol.%のオゾンガスを強制分解させた際の時間経過による圧力変動を示すグラフである。図6によると、強制分解が始まって、0.5〜0.8ミリ秒後に圧力が最大になり、1ミリ秒後には反応が終わっているなることがわかる。
【0019】
なお、上記実施形態では、着火源として火花放電装置を使用したが、レーザーを用いてオゾンガスに強制分解を起こさせるようにしてもよい。着火源としてレーザーを使用した場合には、熱エネルギーだけの供給であることからクリーンな着火源となり、酸化膜に不純物が混入しない。又、一酸化窒素などのオゾンガスと反応性があるガスを気密チャンバー内に導入することで強制分解を起こさせるようにしてもよい。
【0020】
さらに、上記実施形態では、気密チャンバーに酸化対象物 (1)を収容載置しているが、この酸化対象物を予め予熱しておくようにすると、ラジカル酸素との反応性が高まり生成される酸化膜の膜厚を増加させることができる。
【0021】
また、気密チャンバー内に水素ガスやアンモニアガス、あるいは窒素酸化物のガスを追加混合させて強制分解させることで発生する酸素ラジカル以外のラジカル種をあわせて用いた酸化物薄膜を形成することもできる。
【0022】
上記実施形態で使用した気密チャンバーはその内面を不動態化処理してオゾンガスの分解抑制を行なってあり、封入圧力に相当する爆発圧力以上の耐圧性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、半導体製造工程での薄膜形成だけでなく、ガラス基板や金属基板表面への薄膜形成にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明方法を実施するための成膜装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】酸化膜厚のオゾン濃度依存性を示す図である。
【図3】酸化膜厚の圧力依存性を示す図である。
【図4】酸化膜厚の作業繰り返し依存性を示す図である。
【図5】オゾンの爆発限界を示す線図である。
【図6】オゾンの強制分解による時間経過による圧力変化を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1…酸化対象物、2…気密チャンバー、3…高濃度オゾン発生装置、4…高濃度オゾン送給路、5…排気路、6…真空ポンプ、7…火花放電装置(着火源)、8…高濃度オゾン送給路に配置した入口弁、9…排気路に配置した出口弁、10…圧力計。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化対象物(1)の表面に酸化薄膜を形成する酸化薄膜の作成方法であって、酸化対象物(1)を収容した気密チャンバー(2)に内に起爆限界濃度以上のオゾンガスを封入し、気密チャンバー(2)内に封入したオゾンガスに着火源(7)を作用させてオゾンガスを強制的に分解させ、発生したラジカル酸素と分解反応熱を酸化対象物表面に到達させることにより、酸化対象物(1)の表面に酸化薄膜を形成するようにしたことを特徴とする酸化薄膜の作成方法。
【請求項2】
オゾンガスの封入操作とオゾンガスの強制分解操作とを繰り返し行うようにした請求項1に記載した酸化薄膜の作成方法。
【請求項3】
酸化対象物を予め予熱しておく請求項1または2に記載した酸化薄膜の作成方法。
【請求項4】
着火源(7)が放電火花である請求項1〜3のいずれか1項に記載した酸化薄膜の作成方法。
【請求項5】
着火源(7)がレーザーである請求項1〜3のいずれか1項に記載した酸化薄膜の作成方法。
【請求項6】
オゾンガスが封入されている気密チャンバーにオゾンとの反応性ガスを注入することでオゾンガスを強制分解して、酸素ラジカルとともにラジカル酸素以外のラジカル種をあわせて用いるようにした請求項1〜5のいずれか1項に記載した酸化薄膜の作成方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−251071(P2007−251071A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75827(P2006−75827)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】