説明

酸性多糖の酪酸−ギ酸混合エステル、ならびに肌用化粧品としてのその調製および使用

酪酸およびギ酸でエステル化された各アルコール基の併存を特徴とする酸性多糖が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性多糖の酪酸−ギ酸混合エステル、ギ酸エステルが酪酸無水物および塩基の存在下でホルムアミドから生じる方法によるその調製、透析および凍結乾燥によるその精製および回収、ならびに化粧用および皮膚保護用の弾性強化および保湿物質としてのその使用を開示する。
【背景技術】
【0002】
現況技術
物理化学的特性および生物学的特性から見て、グリコサミノグリカン(GAG)は、人体の特定の範囲で、一般にプロテオグリカンの形で存在して非常に重要な役割を果たしているので、この応用分野において非常に興味深い産物である。前記分子は、多糖鎖がタンパク質に共有結合または非共有結合している場合もある複雑な系である。この分子は、細胞外マトリックスにおけるイオン拡散モジュレーターとしての組織中の水分の調節から、細胞の運動性および他の機能の調節、生殖系への関与から単なる支持構造としての働きに至るまで、いくつもの生物学的機能を果たす。
【0003】
最も研究が進んでおり、最も化学修飾がなされているGAGは、ヒアルロン酸(HA)である。
【0004】
一般に、HAに対する修飾は、主に、生体材料、薬物制御放出、関節内補充療法製品、術後の癒着防止デバイスなどの生物医学の分野における新たな誘導体の使用に関するものである。化粧品では、HAは、特定の分子量を特徴とする修飾されていない未変性の形で保湿剤として使用される。
【0005】
文献によれば、最近では、HAを架橋して、特定の生物学的特性(粘弾性)を有する新たな生体適合性分子を得る方法に最大の労力が向けられており、たとえば、EP341745は、関節内補充療法による関節内治療で使用するための、また術後の癒着防止デバイスとしての、HAの自己架橋によって得られる生成物を記載している。
【0006】
US4582865やUS4713488などの他の特許は、外因性分子を架橋剤として使用して、前記の性質を請求している。
【0007】
生体材料および薬物制御放出の分野における修飾されたHAの使用については、カルボキシルとのエステル誘導体がEP216453に記載されている。
【0008】
HAの有機酸とのヒドロキシルエステルに関する特許ははるかに少ない。たとえば、US5679657は、低粘性および低分子量のHAを出発材料とする、薄膜形成剤(filming agent)としての化粧品用の、置換の程度が0.6〜3.6の間であるHAアセチル化物を請求しており、US6017901は、多糖鎖にさらに負の電荷を導入するための、HAのヘミコハク酸エステル誘導体の使用を請求している。
【0009】
EP941253は、ヒドロキシル官能基のレベルでエステル化された生成物を得るための、塩基性環境で酪酸無水物を用いるHA誘導体の合成を開示している。
【0010】
皮膚科学/美容分野での使用に向けた他のGAGの機能付与は、本発明者らが承知する限りでは知られていない。使用され請求されている本来の合成過程の結果として酪酸残基とギ酸残基が同時に存在することは、言及したどの事例にも記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】EP341745
【特許文献2】US4582865
【特許文献3】US4713488
【特許文献4】EP216453
【特許文献5】US5679657
【特許文献6】US6017901
【特許文献7】EP941253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明の説明
本発明は、グリコサミノグリカン(GAG)ファミリーに属する酸性多糖、特にヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、およびケラタン(cheratan)硫酸の遊離のヒドロキシル基が酪酸およびギ酸で部分的または完全にエステル化されている酸性多糖誘導体に関する。本発明はまた、その調製方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】酵素と共にインキュベートしたポリマー溶液から取り出したサンプルに関する0〜4時間の間の分子量Mwの値を示す図である。
【図2】酵素と共にインキュベートしたポリマー溶液から取り出したサンプルに関する0〜4時間の間の分子量Mwの値を示す図である。
【0014】
本発明による生成物は、保湿、弾性強化、皮膚の調整、老化防止、および抗ニキビ活性を有する局所用(化粧用または医学的)調製物中に使用でき、また炎症、潰瘍、およびUV、X線、γ線などの照射によって誘発される熱傷(hyperthermia)病変などの皮膚病変の治療における補助剤として有用である。
【0015】
各多糖モノマーのヒドロキシル基の置換度(DS)は、酪酸エステルの場合では、0.01〜1*Nの間、好ましくは0.01〜0.2*Nの間(Nは、繰返し単位中に存在する遊離アルコール基の数である)で様々でよく、ポリマーのヒドロキシル基におけるギ酸によるエステル化度は、0.01〜0.2の間(すなわち1%〜20%の間)である。
【0016】
エステル化度は、調整および再現可能であるので様々にすることができ、出発多糖の特性、ならびに多糖基質、用いる触媒塩基の種類、および酪酸無水物の化学量論比など、使用する反応条件に応じて決まる。
【0017】
エステル化されていないカルボキシル官能基はいずれも、酸の形で存在してもよいし、またはアルカリ金属、特にナトリウムで塩化されていてもよい。
【0018】
酸性多糖の分子量は、103ダルトン〜107ダルトンの間であるのが普通であり、多糖がヒアルロン酸である場合、分子量は、104ダルトン〜106ダルトンの間であることが好ましい。
【0019】
ヒアルロン酸の場合では、ポリマーのヒドロキシル基における酪酸によるエステル化度は、0.01〜0.8の間であることが好ましく、ポリマーのヒドロキシル基におけるギ酸によるエステル化度は、0.01〜0.20の間である。
【0020】
個々の構成要素のエステル化度を様々にすることにより、本発明による誘導体の物理化学的特性および流動学的特性は変化し、そうした誘導体は、保湿剤、弾性強化剤、皮膚調整剤、老化防止剤、もしくは抗ニキビ剤として、または炎症、潰瘍、創傷、皮膚炎、および照射によって引き起こされる皮膚熱傷などの皮膚病変の治療のための補助剤として、治療用の局所用組成物に使用することができる。
【0021】
本発明はまた、前記誘導体の調製方法に関する。前記方法は、以下のステップを含む。
a)ナトリウムまたは他のアルカリ金属で塩化した酸性多糖を、60℃〜120℃の間の温度、好ましくは95℃で加熱することにより、ホルムアミドに溶解させるステップと、
b)得られた溶液に、有機塩基の存在下、室温で酪酸無水物を加えるステップと、
c)均質な粘性の反応混合物をNaCl水溶液で希釈し、それをpH6〜7.5に中和するステップと、
d)希釈した反応混合物を透析または接触濾過(tangential filtration)によって精製するステップと、
e)精製した多糖溶液を凍結させ、凍結乾燥または噴霧乾燥によって生成物を回収するステップ。
【0022】
有機塩基は、少なくとも1個の三置換窒素原子を含む芳香族または脂肪族の塩基、好ましくはジメチルアミノピリジンまたはトリエチルアミンである。
【0023】
たとえば天然の(未修飾の)市販のヒアルロン酸と比べた、本発明による化合物の長所の1つは、修飾ポリマーの酪酸およびギ酸エステル置換基の存在によって、組織中に存在するヒアルロニダーゼによる酵素分解から保護されることである。本発明による化合物の前記の新規な性質を以下の実験によって説明する。
【0024】
市販のHAナトリウム塩と、例2および4に記載するとおりに得たサンプルを実験で使用する。
【0025】
多糖の母溶液(10mg/ml)を、37℃で1時間機械的に穏やかに撹拌した後、酵素を加える。前記溶液から出発して、0.1mg/mlの酵素(ウシ睾丸ヒアルロニダーゼ1060U/mg)を含有する10mlの希釈溶液(1mg/ml)を調製する。10分の1の量の酵素で第2の希釈溶液を調製する。両方の溶液を37℃でインキュベートする。0.6mlのサンプルを一定の間隔で取り出し、100℃の水浴に5分間浸し、濾過して酵素を除去し、次いで凍結させる。
【0026】
HP−SEC−TDAクロマトグラフィーによる加重平均分子量分布の決定
4種の検出器の組合せ(90°および8°での光散乱、屈折率、および粘度計検出器)を使用しながら、サンプルをサイズ排斥クロマトグラフィーにかけた。クロマトグラムの処理によって、分子量Mw(重量分子量)分布の決定が可能になる。
【0027】
クロマトグラフィー条件
計器装備:Viscotekポンプ、モデルVE1121;インライン2チャネル脱ガス装置、Gastorr 150。
カラム:2×GMPWXL混合床カラム、内径7.8mmID×30cm、Viscotek;温度40℃。
移動相:0.1M NaNO3
流量:0.6ml/分。
検出器: 屈折率検出器、細管粘度計検出器、および90°および8°で測定する光散乱検出器を備えたViscotekモデル302 TDA、温度40℃。
注入体積:100μl。
【0028】
図1および2は、酵素と共にインキュベートしたポリマー溶液から取り出したサンプルに関する0〜4時間の間の分子量Mwの値を示す。未変性の無置換ヒアルロン酸を含有するサンプルは、本発明による酪酸/ギ酸で部分的にエステル化されたサンプルより速い破壊速度を示した。プラトーに達した解重合の程度も、未変性ポリマーの方が大きかった。どちらの影響も、酪酸/ギ酸エステルの置換度によってモジュレートされる。
【0029】
ポリマー:酵素比10:1(図1)では、エステル化度の高い例4に関する化合物は、実験終了の時点(4時間)で重合速度を未変性ポリマーの約10倍に保っている。ポリマー:酵素比100:1(図2)では、本発明による化合物は全く解重合しないが、未変性HAの分子量は、約3分の2減少する。
【0030】
健康なボランティアにおけるin vivoでの効力の評価
本発明による酸性多糖エステルは、健康なボランティアにおいてin vivoで行った実験で強力な弾性強化活性を示した。
【0031】
本発明を例示する例を以下で述べる。
【0032】
脱イオン水(98.35%)中に例2に記載するとおりに得たHAナトリウム塩の酪酸/ギ酸混合エステル0.1%を、賦形剤、すなわち増粘剤(0.5%)および保存剤(1.05%)と共に含有するゲルを調製した。
【0033】
市販のHAナトリウム塩を同じ濃度(0.1%)で同じ賦形剤と共に含有する同じ組成のゲルを対照(comparator)として使用した。
【0034】
実験の目的は、機器を用いた潤いおよび弾性の測定によって、本発明による化合物を含有するゲル製剤(処置群A)の効力を、市販の未修飾HAナトリウム塩(処置群B)と比較して評価することであった。
【0035】
24人のボランティア(平均年齢49.8才)が、4週間にわたり各製品を顔面の半分に1日2回、毎日適用した。
【0036】
試験期間の始め(To)および4週間の処置の終わり(Tf)に、適用部位で、特定範囲における皮膚の潤いおよび弾性を機器によって測定した。ボランティアらは、機器による記録の3時間前に水洗いによって製品を完全に落とした。
【0037】
顔面の角質層の潤いレベルは、皮膚表面の潤いレベルを測定する機器であるコルネオメーターで測定し、一方皮膚弾性は、測定プローブに吸引された際の皮膚表面の変形を測定する機器であるキュトメーターを使用して、弾性吸引法(elastometric suction method)によって測定した。皮膚に接触したプローブの内部で350ミリバールの一定の陰圧を1秒間生じさせた。実験は、3回の吸引/解放サイクルからなるものであり、これによって皮膚の弾性特性である変形を測定し、パラメーターR2として示した。
【0038】
そうして得た結果を以下の表に要約する。
【0039】
生物学的弾性(パラメーターR2)の測定
【0040】
【表1】

【0041】
表に示したデータから、本発明に従って得た調製物(A群)では、パラメーターR2(生物学的弾性)の有意性の高い増加が見られたが、比較製品(B群)では、パラメーターR2に対する有意な効果が何ら示されなかったことが示唆される。
【0042】
保湿パラメーターに関しては、どちらの処置群でも時間ToとTfとに有意差はなく、この結果は、使用した実験プロトコールが、機器による測定の3時間前に調製物を洗い落とすことをスケジュールに組み込んだタイプであったことから説明がつく。
【0043】
照射による熱ストレスに曝された皮膚に対する鎮静作用の評価
乳癌に罹患している平均年齢52才の8人の患者が、γ粒子の線形加速器での放射線療法による治療を受けた。
【0044】
治療サイクルは、1週間に5日2Gyずつの照射を含む15回の治療を含むものであり、合計照射線量は30Gyになった。
【0045】
この調査の目的は、必要な全治療サイクルを実施できる見込み、製品の忍容性、および製品の保護効力を評価することであった。
【0046】
例9に記載するとおりに得た軟膏を、各適用の間に8時間空けて1日3回毎日、常に放射線療法処置の2時間前に開始し、放射線療法が完了した後も5日間継続して、照射した範囲に適用した。放射線を浴びた皮膚範囲をその段階で評価した。
【0047】
全員の患者が、計画した治療サイクル(30Gy)に耐え、使用した調製物の優れた保護効果および忍容性が実証された。
【0048】
処置の効力を、放射線を浴びた皮膚での有害反応に得点を付けることによっても評価した。詳細には、以下の得点を割り当てた。
0:反応なし
1:軽度の紅斑
2:中程度の紅斑
3:重度の紅斑
4:剥離
8人の患者のうち1人が剥離を示し、1人が中程度の紅斑を示し、1人が軽度の紅斑を示し、5人は反応がなかった。
【0049】
結論として、本発明によるクリーム調製物を用いたこの予備的な試験により、十分な忍容性、および放射線療法による皮膚炎からの優れた局所保護効果が実証された。
【0050】
これらの所見は、本発明による誘導体が、皮膚科学的に許容される不活性担体と混合された局所用組成物の活性成分として有利に使用できることを明らかに示唆している。
【0051】
本発明による誘導体は、0.05重量%〜5重量%の間の範囲のパーセンテージで存在してよいはずである。適切な組成物としては、クリーム、軟膏、ゲル、親水性液体、水性ローションまたは水−アルコールローション、油/水型または水/油型エマルジョンが挙げられる。
【0052】
酸性多糖の酪酸/ギ酸混合エステルの調製について以下の例で報告する。
【0053】
例1
ヒアルロン酸ナトリウム塩の酪酸およびギ酸エステル(BUT07005)の合成
分子量約300kDaのヒアルロン酸ナトリウム5.00gを、窒素流中にて機械的に撹拌しながら95℃で約1時間かけて100mLのホルムアミドに可溶化する。
【0054】
得られた多糖溶液を室温で冷まし、4−ジメチルアミノピリジンを5mLのホルムアミドに溶かした溶液503.3mgを、1.67mL/分の速度で滴下する。15分後、734μlの酪酸無水物を加え、40分間反応させる。均質で粘性の高い反応混合物を1.2Lの0.9%NaCl(w/v)に移す。
【0055】
溶液を減圧下にてガラス濾過器で濾過し、次いで0.9%NaCl溶液(w/v)でさらに希釈して、最終体積を2.5Lとする。
【0056】
生成物を、まず0.9%NaCl(w/v)に対して、次いで超純水に対して徹底的に、空孔率10kDaの濾過膜を介した接触濾過によって精製する。
【0057】
最後に、溶液を凍結させ、凍結乾燥によって生成物を回収し、4.03gの白色の凍結乾燥物(lyophilisate)を得る。
【0058】
凍結乾燥物を1H NMRによって分析する。
【0059】
酪酸エステルの置換度(DSbut.):0.13、ギ酸エステルの置換度(DSform.):0.07。
【0060】
例2
ヒアルロン酸ナトリウム塩の酪酸およびギ酸エステル(BUT07002)の合成
分子量約300kDaのヒアルロン酸ナトリウム5.00gを、窒素流中にて機械的に撹拌しながら95℃で約1時間かけて100mLのホルムアミドに可溶化する。
【0061】
得られた多糖溶液を室温で冷まし、0.76gの4−ジメチルアミノピリジンを5mLのホルムアミドに溶かした溶液を、1.67mL/分の速度で滴下する。15分後、1.0mlの酪酸無水物を加え、40分間反応させる。均質で非常に粘性のある反応混合物を1.2Lの0.9%NaCl(w/v)に移す。
【0062】
溶液を減圧下にてガラス濾過器で濾過し、次いで0.9%NaCl溶液(w/v)でさらに希釈して、最終体積を2.5Lとする。
【0063】
サンプルを、まず0.9%NaCl(w/v)に対して、次いで超純水に対して徹底的に、空孔率10kDaの濾過膜を介した接触濾過によって精製する。
【0064】
多糖溶液を最後に凍結させ、凍結乾燥によって生成物を回収し、4.90gの白色の凍結乾燥物を得る。
【0065】
凍結乾燥物を1H NMRによって分析する。
【0066】
酪酸エステルの置換度(DSbut.):0.23、ギ酸エステルの置換度(DSform.):0.07。
【0067】
例3
ヒアルロン酸ナトリウム塩の酪酸およびギ酸エステル(BUT07004)の合成
分子量約300kDaのヒアルロン酸ナトリウム5.00gを、窒素流中にて機械的に撹拌しながら95℃で約1時間かけて100mLのホルムアミドに可溶化する。
【0068】
得られた多糖溶液を室温で冷まし、1.26gの4−ジメチルアミノピリジンを8mLのホルムアミドに溶かした溶液を、1.67gmL/分の速度で滴下する。15分後、1.7mLの酪酸無水物を加え、40分間反応させる。均質で粘性の高い反応混合物を1.2Lの0.9%NaCl(w/v)に移す。
【0069】
溶液を減圧下にてガラス濾過器で濾過し、次いで0.9%NaCl溶液(w/v)でさらに希釈して、最終体積を2.5Lとする。
【0070】
サンプルを、まず0.9%NaCl(w/v)に対して、次いで超純水に対して徹底的に、空孔率10kDaの濾過膜を介した接触濾過によって精製する。
【0071】
多糖溶液を最後に凍結させ、凍結乾燥によって生成物を回収し、4.79gの白色の凍結乾燥物を得る。
【0072】
凍結乾燥物を1H NMRによって分析する。
【0073】
酪酸エステルの置換度(DSbut.):0.50、ギ酸エステルの置換度(DSform.):0.06。
【0074】
例4
ヒアルロン酸ナトリウム塩の酪酸およびギ酸エステル(BUT07001)の合成
分子量約300kDaのヒアルロン酸ナトリウム5.00gを、窒素流中にて機械的に撹拌しながら95℃で約1時間かけて100mLのホルムアミドに可溶化する。
【0075】
得られた多糖溶液を室温で冷まし、1.67gの4−ジメチルアミノピリジンを10mLのホルムアミドに溶かした溶液を、1.67mL/分の速度で滴下する。15分後、2.25mlの酪酸無水物を加え、40分間反応させる。均質で粘性の高い反応混合物を1.2Lの0.9%NaCl(w/v)に移す。
【0076】
溶液を減圧下にてガラス濾過器で濾過し、次いで0.9%NaCl溶液(w/v)でさらに希釈して、最終体積を2.5Lとする。
【0077】
サンプルを、まず0.9%NaCl(w/v)に対して、次いで脱イオン水に対して徹底的に、空孔率10kDaの濾過膜を介した接触濾過によって精製する。
【0078】
多糖溶液を最後に凍結させ、凍結乾燥によって生成物を回収し、5.15gの白色の凍結乾燥物を得る。
【0079】
凍結乾燥物を1H NMRによって分析する。
【0080】
酪酸エステルの置換度(DSbut.):0.69、ギ酸エステルの置換度(DSform.):0.04。
【0081】
例5
ヒアルロン酸ナトリウム塩の酪酸およびギ酸エステル(BUT07007)の合成
分子量約300kDaのヒアルロン酸ナトリウム23.00gを、窒素流中にて機械的に撹拌しながら95℃で約1時間かけて0.46Lのホルムアミドに可溶化する。
【0082】
得られた多糖溶液を室温で冷まし、5.47gの4−ジメチルアミノピリジンを20mLのホルムアミドに溶かした溶液を、2.0mL/分の速度で滴下する。15分後、7.3mlの酪酸無水物を加え、40分間反応させる。均質で粘性の高い反応混合物を2.5Lの0.9%NaCl(w/v)に移す。
【0083】
溶液を減圧下にてガラス濾過器で濾過し、次いで0.9%NaCl溶液(w/v)でさらに希釈して、最終体積を8.0Lとする。
【0084】
サンプルを、まず0.9%NaCl(w/v)に対して、次いで超純水に対して徹底的に、空孔率10kDaの濾過膜を介した接触濾過によって精製する。
【0085】
多糖溶液を最後に凍結させ、凍結乾燥によって生成物を回収し、22.26gの白色の凍結乾燥物を得る。
【0086】
凍結乾燥物を1H NMRによって分析する。
【0087】
酪酸エステルの置換度(DSbut.):0.41、ギ酸エステルの置換度(DSform.):0.07。
【0088】
例6
ヒアルロン酸ナトリウム塩の酪酸およびギ酸エステル(BUT07008)の合成
分子量約300kDaのヒアルロン酸ナトリウム23.00gを、窒素流中にて機械的に撹拌しながら95℃で約1時間かけて0.46Lのホルムアミドに可溶化する。
【0089】
得られた多糖溶液を室温で冷まし、7.71gの4−ジメチルアミノピリジンを35mLのホルムアミドに溶かした溶液を、3.5mL/分の速度で滴下する。15分後、10.3mlの酪酸無水物を加え、40分間反応させる。均質で粘性の高い反応混合物を7.0Lの0.9%NaCl(w/v)に移す。
【0090】
溶液を減圧下にてガラス濾過器で濾過し、次いで0.9%NaCl溶液(w/v)でさらに希釈して、最終体積を8.0Lとする。
【0091】
サンプルを、まず0.9%NaCl(w/v)に対して、次いで超純水に対して徹底的に、空孔率10kDaの濾過膜を介した接触濾過によって精製する。
【0092】
多糖溶液を最後に凍結させ、凍結乾燥によって生成物を回収し、23.50gの白色の凍結乾燥物を得る。
【0093】
凍結乾燥物を1H NMRによって分析する。
【0094】
酪酸エステルの置換度(DSbut.):0.54、ギ酸エステルの置換度(DSform.):0.10。
【0095】
例7
ヒアルロン酸の酪酸およびギ酸エステルのナトリウム塩(BUT07014)の合成
分子量約300kDaのヒアルロン酸ナトリウム150.00gを、窒素流中にて機械的に撹拌しながら95℃で約1時間45分かけて3Lのホルムアミドに可溶化する。
【0096】
得られた多糖溶液を室温で冷まし、32.00gの4−ジメチルアミノピリジンを200mLのホルムアミドに溶かした溶液を、20.0mL/分の速度で滴下する。15分後、43.0mlの酪酸無水物を加え、45分間反応させる。均質で粘性の高い反応混合物を4.0Lの超純水に移す。
【0097】
溶液を減圧下にてガラス濾過器で濾過し、次いで超純水でさらに希釈して、最終体積を30.0Lとする。
【0098】
サンプルを、まず0.9%NaCl(w/v)に対して、次いで超純水に対して徹底的に、空孔率10kDaの濾過膜を介した接触濾過によって精製する。
【0099】
次いで、溶液を、圧力(2バール)をかけながら0.22μmの濾過膜に通して殺菌し、最後に凍結させる。
【0100】
凍結乾燥によって生成物を回収して、140gの白色の凍結乾燥物を得る。
【0101】
凍結乾燥物を1H NMRによって分析する。
【0102】
酪酸エステルの置換度(DSbut.):0.32、ギ酸エステルの置換度(DSform.):0.07。
【0103】
例8
コンドロイチン硫酸ナトリウム塩の酪酸およびギ酸エステル(BUT07015)の合成
分子量約20kDaのコンドロイチン硫酸201.9mgを、窒素流中にて機械的に撹拌しながら95℃で約20分かけて1mLのホルムアミドに可溶化する。
【0104】
得られた多糖溶液を室温まで冷まし、49.2mgの4−ジメチルアミノピリジンを0.5mLのホルムアミドに溶かした溶液を加える。15分後、65μlの酪酸無水物を加え、40分間反応させる。
【0105】
生成物を20体積のアセトン中に沈殿させて回収し、アセトンで3回洗浄し、次いで低圧で乾燥させる。
【0106】
180.0mgの白色固体が得られる。サンプルを1H NMRによって分析する。
【0107】
酪酸エステルの置換度(DSbut.):0.50、ギ酸エステルの置換度(DSform.):0.03。
【0108】
例9
O/W型弾性強化クリームの調製
本発明による酪酸/ギ酸エステルの1つを含有するクリーム製剤の調製を例示する本発明の非限定的な例を以下で述べる。
【0109】
O/W型クリーム製剤は、乳化剤、増粘剤、油、湿潤剤(moisturiser)、ゲル化剤、保存剤などの、皮膚科学的化粧品中に使用される一般的な賦形剤と適切に混合された例2に記載の化合物を、弾性強化および保湿剤として0.1%の濃度で含有する。
【0110】
簡潔に述べると、方法は以下のとおりである。
【0111】
(製剤全体の約60重量%に相当する)約600mlの脱イオン水をターボ乳化機に装入し、予め融解させた脂肪相を撹拌しながら約70℃で加える。混合物を乳化し、35〜40℃の温度にゆっくりと冷却する。熱不安定性および揮発性の成分をその温度で加えた後、適切な量の水に溶解させた例2に記載のHAナトリウム塩の酪酸/ギ酸エステルを加える。温度が25〜30℃になるまで混合物をゆっくりと撹拌し、次いで完成した生成物を適切な容器に注入する。
【0112】
得られたのは以下の組成(%W/W)のクリームである。
HAナトリウムの酪酸/ギ酸エステル(例2) 0.1
油(パルミチン酸/カプリル酸グリセリド−トリグリセリド) 12
非イオン性乳化剤 6
セチルアルコール 2
ジメチコン 4
MgAlケイ酸塩 2
グリセリン 3
キシリトール 2
パラベン 0.7
2O 100までの十分量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酪酸およびギ酸でエステル化された各アルコール基の併存を特徴とする酸性多糖。
【請求項2】
多糖がグリコサミノグリカンである、請求項1に記載の酸性多糖。
【請求項3】
グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、およびケラタン硫酸から選択される、請求項2に記載の酸性多糖。
【請求項4】
カルボキシル基が酸の形で存在するか、またはアルカリ金属、特にナトリウムで塩化されている、請求項1から3に記載の酸性多糖。
【請求項5】
分子量が103ダルトン〜107ダルトンの範囲から選択される、請求項1に記載の酸性多糖。
【請求項6】
多糖が、104ダルトン〜106ダルトンの間の分子量を有するヒアルロン酸である、請求項1に記載の酸性多糖。
【請求項7】
ポリマーのヒドロキシル基における酪酸によるエステル化度が0.01〜1*Nの間(Nは、繰返し単位中に存在する遊離アルコール基の数である)であり、ポリマーのヒドロキシル基におけるギ酸によるエステル化度が0.01〜0.20の間であることを特徴とする、請求項1に記載の酸性多糖。
【請求項8】
ポリマーのヒドロキシル基における酪酸によるエステル化度が0.01〜0.2*Nの間(Nは、繰返し単位中に存在する遊離アルコール基の数である)であり、ポリマーのヒドロキシル基におけるギ酸によるエステル化度が0.01〜0.20の間であることを特徴とする、請求項1に記載の酸性多糖。
【請求項9】
酸性多糖がヒアルロン酸であり、ポリマーのヒドロキシル基における酪酸によるエステル化度が0.01〜0.8の間であり、ポリマーのヒドロキシル基におけるギ酸によるエステル化度が0.01〜0.20の間であることを特徴とする、請求項8に記載の酸性多糖。
【請求項10】
a)ナトリウムまたは他のアルカリ金属で塩化した酸性多糖を加熱によってホルムアミドに溶解させるステップと、
b)得られた溶液に、有機塩基の存在下、室温で酪酸無水物を加えるステップと、
c)均質な粘性の反応混合物をNaCl水溶液で希釈し、それをpH6〜7.5に中和するステップと、
d)希釈した反応混合物を透析または接触濾過によって精製するステップと、
e)精製した多糖溶液を凍結させ、凍結乾燥または噴霧乾燥によって生成物を回収するステップと
を含む、請求項1から9に記載の酸性多糖の調製方法。
【請求項11】
塩基が、1個の三置換窒素原子を含む芳香族または脂肪族の有機塩基、好ましくはジメチルアミノピリジンまたはトリエチルアミンである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
多糖のホルムアミドへの可溶化温度が60℃〜120℃の間、好ましくは95℃である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
ギ酸エステルが、酪酸無水物および塩基の存在下でのホルムアミドの加水分解から生じる、請求項1または10に記載の酸性多糖の調製方法。
【請求項14】
請求項1から9に記載の酸性多糖誘導体と、皮膚科学的に許容される不活性担体とを含有する局所用組成物。
【請求項15】
組成物の0.05重量%〜5重量%の間の多糖酸を含むことを特徴とする、請求項14に記載の局所用組成物。
【請求項16】
クリーム、軟膏、ゲル、親水性液体、水性ローションまたは水−アルコールローション、油/水型または水/油型エマルジョンから選択される、請求項14に記載の局所用組成物。
【請求項17】
保湿剤、弾性強化剤、皮膚調整剤、老化防止剤、および抗ニキビ剤としての治療のための、請求項14から16に記載の局所用組成物の使用。
【請求項18】
皮膚病変の補助的治療のための、請求項14から16に記載の局所用組成物の使用。
【請求項19】
皮膚病変が、炎症、慢性潰瘍、創傷、アトピー性もしくは接触性皮膚炎、老化の徴候、または照射によって引き起こされる皮膚熱傷である、請求項18に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−504950(P2011−504950A)
【公表日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535273(P2010−535273)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009801
【国際公開番号】WO2009/068215
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(510146034)シジェア ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (2)
【氏名又は名称原語表記】SIGEA S.R.L.
【Fターム(参考)】