説明

酸無水物導入高分子および高分子組成物ならびに被覆電線およびワイヤーハーネス

【課題】フィラーとともに用いて、機械特性などの材料特性を向上させる酸無水物導入高分子および高分子組成物を提供すること。
【解決手段】ポリマー主鎖にグラフト側鎖を有しており、イミド結合またはアミド結合を介して、このグラフト側鎖に前記酸無水物構造が導入された酸無水物導入高分子とする。例えば、末端にアミノ基を有するアルキル鎖がポリマー主鎖にグラフトされてなるアミノ基含有ポリマーと、酸無水物構造を2個有する化合物とを反応させることにより形成可能である。ポリマー主鎖は、オレフィン系樹脂やスチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。また、この酸無水物導入高分子とフィラーとを含有してなる高分子組成物とする。酸無水物導入高分子の含有率は、0.1〜20重量%の範囲内にあることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸無水物導入高分子、界面強化剤、高分子組成物、および、被覆電線ならびにワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な分野において、樹脂やゴム、エラストマーなどを含有する高分子組成物が用いられている。この高分子組成物には、その用途に応じて、各種機能を付与するなどの目的で、フィラーが添加されることが多い。
【0003】
例えば、自動車などの車両部品や電気・電子機器部品などの配線として用いられる電線の分野では、電線の被覆材などに高分子組成物が用いられている。この場合、被覆材などには、耐摩耗性などの機械特性、柔軟性、加工性、難燃性などの電線に要求される特性に応じて、可塑剤や安定剤、難燃剤などの各種フィラーが添加されることがある。
【0004】
ところで、高分子組成物にフィラーが添加される場合には、フィラーの種類や材質、添加量などによっては、かえって機械特性などの材料特性を損なうことがある。
【0005】
例えば電線の場合、被覆材などには、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、燃焼時に有害なハロゲン系ガスを出さないオレフィン系樹脂などの有機高分子が用いられるようになってきている。
【0006】
この場合、十分な難燃性を確保するため、難燃剤を多量に添加することが有効である。その一方で、難燃剤を多量に添加すると、耐摩耗性などの機械特性が著しく低下することが知られている(特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特許第3280099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、機械特性などの材料特性が低下する原因は、高分子組成物中にフィラーが十分に分散されていないためと推察される。従来知られる高分子組成物においても、このような機械特性などの材料特性の低下を抑えるために、フィラーの分散性を高めるような種々の検討はなされているものの、その機械特性などの材料特性には改良の余地があった。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、フィラーとともに用いて、機械特性などの材料特性を向上させることが可能な酸無水物導入高分子および高分子組成物を提供することにある。また、他の課題は、これを用いて、耐摩耗性などの機械特性に優れる被覆電線ならびにワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、フィラーとの親和性に優れる構造と、オレフィン系樹脂などの有機高分子との親和性に優れる構造とをあわせ持つ材料を用いれば、フィラーを含有していても、機械特性などの材料特性を向上させることが可能であるとの知見を得た。
【0011】
すなわち、本発明に係る酸無水物導入高分子は、分子構造中に、酸無水物構造が導入されていることを要旨とするものである。
【0012】
このとき、ポリマー主鎖にグラフト側鎖を有しており、このグラフト側鎖に前記酸無水物構造が導入されていると良い。
【0013】
そして、前記酸無水物構造は、イミド結合またはアミド結合を介して、前記グラフト側鎖に導入されていることが望ましい。
【0014】
また、本発明に係る酸無水物導入高分子は、末端に官能基を有するアルキル鎖がポリマー主鎖にグラフトされてなる官能基含有ポリマーと、酸無水物構造を有する化合物とを反応させて得られることを要旨とするものである。
【0015】
このとき、前記官能基はアミノ基であり、前記官能基含有ポリマーと前記酸無水物構造を有する化合物とがイミド結合またはアミド結合を形成して得られることが望ましい。
【0016】
そして、前記ポリマー主鎖は、オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーよりなることが好ましい。
【0017】
一方、本発明に係る高分子組成物は、上記酸無水物導入高分子と、フィラーとを含有してなることを要旨とするものである。
【0018】
このとき、高分子組成物中における前記酸無水物導入高分子の含有率は、0.1〜20質量%の範囲内にあることが望ましい。
【0019】
そして、本発明に係る被覆電線は、上記高分子組成物を被覆材に用いたことを要旨とするものである。
【0020】
さらに、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記高分子組成物を用いたことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る酸無水物導入高分子は、分子構造中に、酸無水物構造が導入されている。そのため、フィラーとともに用いて、材料特性、とりわけ機械特性を向上させることができる。これは、酸無水物導入高分子中の酸無水物構造がフィラーとの親和性に優れるので、フィラーと強く結合してフィラー同士が互いに凝集するのを防止し、フィラーが高分子組成物中に高分散されるためであると推測される。
【0022】
また、この酸無水物導入高分子は、ポリマー部分を有するので、これ自体で高分子組成物を形成することもできるし、他の有機高分子とともに高分子組成物を形成することもできる。後者の場合には、このポリマー部分が他の有機高分子と相溶可能なので、この酸無水物導入高分子と結合するフィラーが高分子組成物中に高分散可能となる。そのため、機械特性などの材料特性を向上させることができる。
【0023】
このとき、酸無水物導入高分子のポリマー主鎖にグラフト側鎖を有しており、このグラフト側鎖に前記酸無水物構造が導入されているものは、上述するように、フィラーとともに用いて、機械特性などの材料特性を向上させることができる。
【0024】
そして、前記酸無水物構造は、イミド結合またはアミド結合を介して、前記グラフト側鎖に確実に導入することができる。また、イミド結合またはアミド結合を介して、種々の酸無水物構造を簡便に導入することができる。さらに、強い結合により、酸無水物構造を導入することができる。
【0025】
また、本発明に係る酸無水物導入高分子は、末端に官能基を有するアルキル鎖がポリマー主鎖にグラフトされてなる官能基含有ポリマーと、酸無水物構造を有する化合物とを反応させて得られる。そのため、種々の酸無水物構造を導入可能であり、また、簡便に導入することができる。
【0026】
このとき、前記官能基はアミノ基であり、前記官能基含有ポリマーと前記酸無水物構造を有する化合物とがイミド結合またはアミド結合を形成して得られる場合には、確実に、上記効果を奏する。
【0027】
そして、前記ポリマー主鎖が、オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーよりなると、ハロゲン元素を含有しないので、燃焼時に有害なハロゲン系ガスが出ることはなく、地球環境にやさしい。
【0028】
そして、本発明に係る高分子組成物は、上記酸無水物導入高分子と、フィラーとを含有してなる。そのため、この高分子組成物よりなる材料の機械的特性を向上させることができる。
【0029】
このとき、高分子組成物中における前記酸無水物導入高分子の含有率が0.1〜20質量%の範囲内にあると、特に、材料の機械的特性を向上させる効果に優れる。
【0030】
そして、本発明に係る被覆電線は、上記高分子組成物を被覆材に用いてなる。さらに、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記高分子組成物を用いてなる。そのため、耐摩耗性などの機械特性に優れる。これにより、材料の劣化が抑えられ、長期にわたって高い信頼性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0032】
本発明に係る酸無水物導入高分子は、高分子の分子構造中に酸無水物構造が導入されたものからなる。
【0033】
酸無水物構造は、例えば、被覆電線の被覆材に用いられる高分子組成物中に配合される可塑剤や安定剤、難燃剤などの各種フィラーとの親和性に優れ、フィラーと結合する機能を有している。そのため、酸無水物導入高分子は、フィラーとともに高分子組成物中に配合されたときには、高分子組成物中における高分子とフィラーとの相溶性を高める効果を発揮すると考えられる。すなわち、フィラー同士が互いに凝集するのを防止され、フィラーが高分子組成物中に高分散されやすくなると考えられる。したがって、酸無水物導入高分子を配合することで、耐摩耗性などの材料の機械特性を向上させることができる。
【0034】
高分子の分子構造中の酸無水物構造が導入される位置は、特に限定されるものではない。例えば、酸無水物導入高分子のポリマー主鎖に導入されていても良いし、酸無水物導入高分子が、そのポリマー主鎖にグラフト側鎖を有しており、このグラフト側鎖に導入されていても良い。酸無水物構造の導入しやすさや、種々の酸無水物構造を導入できる汎用性などを考慮して、適宜定めることができる。
【0035】
酸無水物構造を導入するには、例えば、官能基を含有する官能基含有ポリマーと酸無水物構造を有する化合物とを反応させる方法や、官能基含有ポリマーと多価カルボン酸とを反応させた後、無水酢酸などの脱水剤を用いてカルボン酸を無水カルボン酸に閉環させる方法などを採用することができる。
【0036】
このとき、反応溶媒を用いても良いし、撹拌させても良い。また、反応速度を上げるなどの目的で、加熱しても良いし、触媒を添加しても良い。さらに、副生物を除去するなどして、平衡反応を生成系に偏らせて、高収率で目的物が得られるようにしても良い。
【0037】
官能基含有ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリマー主鎖よりアルキル側鎖がグラフトされ、そのアルキル側鎖の末端に官能基を有するものなどを示すことができる。官能基としては、特に限定されるものではないが、酸無水物構造を有する化合物と結合形成しやすいなどの観点から、アミノ基、ヒドロキシル基が好ましい。
【0038】
酸無水物構造を有する化合物は、上記官能基と反応して結合形成し得るものである。例えば、上記官能基がアミノ基である場合には、酸無水物構造を有する化合物としては、例えば、複数個の酸無水物構造を有する化合物や、置換活性なエステル基と酸無水物構造とを合わせ持つ化合物などを示すことができる。複数個の酸無水物構造を有する化合物は、少なくとも1つ以上の酸無水物構造を残存させるためには、アミノ基含有ポリマーに対して当量以上に加えると良い。アミノ基含有ポリマーと複数個の酸無水物構造を有する化合物とから形成される場合には、イミド結合またはアミド結合を介して、酸無水物構造が高分子の分子構造中に導入される。
【0039】
一方、アミノ基含有ポリマーと多価カルボン酸とを反応させると、イミド結合またはアミド結合を介して、多価カルボン酸が高分子の分子構造中に導入される。次いで、脱水剤を用いてカルボン酸を無水カルボン酸に閉環させると、イミド結合またはアミド結合を介して、酸無水物構造が高分子の分子構造中に導入される。
【0040】
官能基含有ポリマー中における官能基の含有量としては、0.1〜10質量%の範囲内にあることが好ましい。官能基の含有量が0.1質量%未満では、得られる酸無水物導入高分子中の酸無水物構造の導入量が少なくなり、酸無水物導入高分子がフィラーと結合する機能が低下しやすい。一方、酸無水物構造の導入量が10質量%を超えると、得られる酸無水物導入高分子中の酸無水物構造の導入量が多くなりすぎて、高分子組成物中の高分子マトリックスとの相溶性が低下しやすい。
【0041】
官能基含有ポリマーを前駆体として、酸無水物構造を有する化合物を導入する方法では、官能基を介して、酸無水物構造を簡便に導入可能となる。また、種々の酸無水物構造を有する化合物を設計することにより、種々の酸無水物構造が導入可能となり、酸無水物構造の制約を少なくすることができる。さらに、相互作用によるのではなく結合により酸無水物構造を有することとなるので、安定性に優れる。
【0042】
特に、官能基含有ポリマーがアミノ基含有ポリマーである場合には、イミド結合またはアミド結合を介して、酸無水物構造を確実に導入することができる。また、イミド結合またはアミド結合を介して、強い結合により、種々の酸無水物構造を簡便に導入することができる。
【0043】
アミノ基含有ポリマーは、例えば、ポリマー主鎖に不飽和脂肪族アミンなどのモノマーをグラフトさせる方法や、カルボン酸変性ポリマーとジアミンとを縮合させる方法などにより形成することができる。その方法は、特に限定されるものではない。また、アミノ基以外の官能基を含有する官能基含有ポリマーについても、同様の方法により形成することができる。
【0044】
グラフト法によりアミノ基含有ポリマーを得るには、ポリマーと、不飽和脂肪族アミンなどのモノマーとをラジカル発生剤の存在下で反応させると良い。ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ブチルパーアセテート、t−ブチルパーベンゾエートなどの有機過酸化物などを例示することができる。
【0045】
ポリマー主鎖を形成するポリマーとしては、例えば、オレフィン系樹脂や、スチレン系熱可塑性エラストマーなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0046】
オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンや、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテンなどのα−オレフィンの共重合体などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0047】
スチレン系熱可塑性エラストマーにおいて、スチレンと共重合させる成分としては、エチレンやプロピレン、ブタジエン、イソプレンなどを例示することができる。これらは単独で共重合させても良いし、複数組み合わせて共重合させても良い。
【0048】
具体的には、スチレン−ブタジエンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−スチレン共重合体(SES)やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体およびその水添または部分水添誘導体であるスチレン−エチレン−プロピレン共重合体(SEP)やスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)などを例示することができる。
【0049】
不飽和脂肪族アミンとしては、例えば、オレイルアミン、エルカニルアミン、リシルイルアミン、リノレルアミンなどを例示することができる。
【0050】
カルボン酸変性ポリマーは、例えば、ポリマー主鎖に、不飽和カルボン酸などのモノマーをグラフトさせるグラフト法や、エチレン、プロピレンなどのオレフィン、スチレンなどのモノマーと、不飽和カルボン酸などのモノマーとを共重合させる共重合法などにより形成することができ、その方法は特に限定されるものではない。
【0051】
例えば、グラフト法によりカルボン酸変性ポリマーを得るには、通常、ポリマーと、不飽和カルボン酸などのモノマーとをラジカル発生剤の存在下でグラフトさせる方法などが好適に用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物など、上述するものと同様の一般的なものを用いることができる。
【0052】
グラフト法によりカルボン酸変性されるポリマーとしては、例えば、オレフィン系樹脂や、スチレン系熱可塑性エラストマーなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。オレフィン系樹脂やスチレン系熱可塑性エラストマーは、上述するものを用いることができる。
【0053】
カルボン酸変性ポリマーのカルボン酸変性量は、0.1〜10重量%の範囲内にあることが好ましい。カルボン酸変性量が0.1重量%未満であると、導入可能な酸無水物構造の量が少なくなるので、フィラーとともに用いて、機械特性などの材料特性を向上させる効果が低下しやすくなる。また、カルボン酸変性量が10重量%を越えると、導入される酸無水物構造の量が多くなり過ぎ、フィラーの凝集を引き起こしやすくなる。
【0054】
不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸、無水フマル酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、フタル酸、無水フタル酸、フタル酸モノエステル、フタル酸ジエステルなどを例示することができる。好ましくは、無水マレイン酸および無水フマル酸である。ジアミンとの反応活性が高く、アミノ基含有ポリマーを形成しやすい。また、無水マレイン酸で変性されたものは入手も容易である。
【0055】
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンなど、炭素数が2〜12程度のジアミンを例示することができる。
【0056】
複数個の酸無水物構造を持つ化合物としては、ピロメリット酸二無水物(1、2、4、5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、ジエチレントリアミン五酢酸二無水物、3、4、3’、4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3、4、3’、4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2、3、3’、4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2、3、2’、3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2、2−ビス(3、4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2、2−ビス(2、3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3、4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2、3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、4、4’−{2、2、2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチリデン}ビス(ベンゼンジカルボン酸無水物)、9、9−ビス{4−(3、4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル}フルオレン二無水物、1、2、5、6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2、3、6、7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3、4、9、10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2、3、5、6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2、2、2)−オクト−7−エン−2、3、5、6−テトラカルボン酸二無水物テトラカルボン酸二無水物などを例示することができる。
【0057】
多価カルボン酸としては、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、メリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジアミノシクロヘキシル四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、N、N−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン二酢酸、ヘキサメチレンジアミンN、N、N、N−四酢酸、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、トリエチレンテトラミン六酢酸などを例示することができる。
【0058】
酸無水物構造の導入方法としては、上述する方法に限定されるものではない。例えば、酸無水物構造を有するモノマー成分と、他のモノマー成分とを共重合させる方法や、高分子化合物のポリマー主鎖に、酸無水物構造を有するモノマー成分をグラフトさせる方法であっても良い。
【0059】
酸無水物構造を有するモノマー成分としては、例えば、ジアミンの両N末端に、不飽和カルボン酸無水物と、複数個の酸無水物構造を持つ化合物とがそれぞれイミド結合またはアミド結合により結合されたものなどを示すことができる。
【0060】
また、例えば、官能基を有するモノマー成分と他のモノマー成分とを共重合させた後、官能基を介して、酸無水物構造を有する化合物を反応させる方法や、高分子化合物のポリマー主鎖に、官能基を有するモノマー成分をグラフトさせた後、官能基を介して、酸無水物構造を有する化合物を反応させる方法を示すことができる。
【0061】
官能基を有するモノマー成分としては、例えば、ジアミンの1つのN末端に不飽和カルボン酸無水物がイミド結合またはアミド結合により結合されたものなどを示すことができる。
【0062】
次に、本発明に係る酸無水物導入高分子の好ましい例について説明する。以下の式(1)〜式(4)は、ポリマー主鎖にアルキル鎖がグラフトされ、このグラフト側鎖にイミド結合を介して酸無水物構造が導入された例を示している。式(1)〜式(4)では、ポリマー主鎖をR1で表し、酸無水物構造を有するグラフト側鎖を中心に示している。R1は、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはSEBSのいずれかを示している。なお、本発明に係る酸無水物導入高分子は、以下の化合物に限定されるものではない。
【0063】
【化1】

【0064】
式(1)は、グラフト側鎖にイミド結合を介してエチレンジアミン四酢酸二無水物に由来する酸無水物構造が導入された酸無水物導入高分子である。末端の酸無水物構造によって、フィラー表面との結合が可能になっている。式(1)の酸無水物導入高分子は、例えば、無水マレイン酸変性ポリマーとヘキサメチレンジアミンとを反応させて末端にアミノ基を有するアミノ基含有ポリマーを形成した後、さらにエチレンジアミン四酢酸二無水物と反応させることにより得られる。
【0065】
【化2】

【0066】
式(2)は、グラフト側鎖にイミド結合を介してジエチレントリアミン五酢酸二無水物に由来する酸無水物構造が導入された酸無水物導入高分子である。末端の酸無水物構造によって、フィラー表面との結合が可能になっている。式(2)の酸無水物導入高分子は、例えば、無水マレイン酸変性ポリマーとヘキサメチレンジアミンとを反応させて末端にアミノ基を有するアミノ基含有ポリマーを形成した後、さらにジエチレントリアミン五酢酸二無水物と反応させることにより得られる。
【0067】
【化3】

【0068】
式(3)は、グラフト側鎖にイミド結合を介してピロメリット酸二無水物に由来する酸無水物構造が導入された酸無水物導入高分子である。末端の酸無水物構造によって、フィラー表面との結合が可能になっている。式(3)の酸無水物導入高分子は、例えば、無水マレイン酸変性ポリマーとヘキサメチレンジアミンとを反応させて末端にアミノ基を有するアミノ基含有ポリマーを形成した後、さらにピロメリット酸二無水物と反応させることにより得られる。
【0069】
【化4】

【0070】
式(4)は、グラフト側鎖にイミド結合を介して3、4、3’、4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物に由来する酸無水物構造が導入された酸無水物導入高分子である。末端の酸無水物構造によって、フィラー表面との結合が可能になっている。式(4)の酸無水物導入高分子は、例えば、無水マレイン酸変性ポリマーとヘキサメチレンジアミンとを反応させて末端にアミノ基を有するアミノ基含有ポリマーを形成した後、さらに3、4、3’、4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と反応させることにより得られる。
【0071】
次に、本発明に係る高分子組成物について説明する。本発明に係る高分子組成物は、上記酸無水物導入高分子と、フィラーとを含有してなる。上記酸無水物導入高分子は、ポリマー構造を有するので、これ自体で組成物のポリマー成分を構成しても良いし、他の有機高分子とともにポリマー成分を構成しても良い。他の有機高分子としては、特に限定されるものではないが、樹脂やエラストマー、ゴムを示すことができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0072】
上記酸無水物導入高分子を、他の有機高分子とともに用いる場合には、酸無水物導入高分子中の酸無水物構造がフィラーと結合し、酸無水物導入高分子中のポリマー主鎖が他の有機高分子と良くなじむ。そのため、上記酸無水物導入高分子は、他の有機高分子とフィラーとの間の界面を強化する働きをする。すなわち、他の有機高分子とフィラーとを混ざりやすくする。したがって、この場合には、上記酸無水物導入高分子は界面強化剤となる。
【0073】
本発明に係る高分子組成物において、上記酸無水物導入高分子の含有率は、0.1〜20重量%の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.5〜10重量%の範囲内である。0.1重量%未満では、酸無水物導入高分子の量が少ないので、機械特性などの材料特性を向上させる効果が低下しやすく、一方、20重量%を超えると、コストが増大するからである。よって、上記範囲内にあれば、機械特性などの材料特性を向上させる効果に一層優れる。
【0074】
他の有機高分子は、樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−アクリル酸メチル(EMA)、エチレン−アクリル酸エチル(EEA)、エチレン−アクリル酸ブチル(EBA)、エチレン−メタクリル酸メチル(EMMA)、エチレン−酢酸ビニル(EVA)等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート(PC)等のエンジニアリングプラスチックなどを例示することができる。
【0075】
エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー(TPO)、スチレン系エラストマー(SEBS等)、アミド系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アイオノマー、フッ素系エラストマー、1,2−ポリブタジエンやトランス−1,4−ポリイソプレン等の熱可塑性エラストマーなどを例示することができる。
【0076】
ゴムとしては、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)などを例示することができる。
【0077】
上記樹脂やエラストマー、ゴムには、各種物性を高めるために、その物性を妨げない範囲において、必要に応じて官能基の導入を行なうことができる。導入可能な官能基としては、例えば、カルボン酸基、酸無水基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、シラン基などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0078】
上記フィラーは、材料の要求特性に応じて添加される。その添加量は、フィラーの種類や材料の要求特性などに応じて定められるが、高分子組成物中のポリマー成分100質量部に対して30〜250質量部含有していることが好ましい。より好ましくは、50〜200質量部である。30質量部未満では、フィラーとしての添加効果が小さく、一方、250質量部を超えると、ポリマーの特性がフィラーに打ち消されやすくなる。
【0079】
フィラーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、金属粉、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化アンチモン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラス繊維、チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、木材繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、メラミンシアヌレートなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0080】
本発明においては、本発明の特性を阻害しない範囲で、有機高分子とフィラー以外に、一般的に高分子組成物に使用される添加剤を配合しても良い。このような添加剤としては、酸化防止剤、金属不活性化剤(銅害防止剤)、紫外線吸収剤、紫外線隠蔽剤、難燃剤、難燃助剤、加工助剤(滑剤、ワックス等)、着色用顔料などを例示することができる。
【0081】
また、本発明に係る高分子組成物は、必要に応じて架橋させても良い。架橋の手段は、過酸化物架橋、シラン架橋、電子線架橋などが挙げられるが、その手段は特に限定されない。
【0082】
上述した本発明に係る高分子組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いることができる。例えば、酸無水物導入高分子と、フィラーと、必要に応じて他の有機高分子と、その他の添加剤などを配合し、これらを通常のタンブラーなどでドライブレンドしたり、あるいは、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機で溶融混練して均一に分散したりすることにより当該組成物を得ることができる。
【0083】
このとき、組成物を構成する成分の添加方法は、特に限定されるものではない。例えば、酸無水物導入高分子とフィラーとを混練した後、他の有機高分子やその他の添加剤などを添加して混練しても良いし、組成物を構成する成分全部を加えてから混練しても良い。
【0084】
混練時の温度は、フィラーが組成物中に分散されやすくなる程度に、有機高分子の粘度が低下する温度にすると良い。具体的には、100〜300℃の範囲にあることが好ましい。混練時、有機高分子がせん断されることにより発熱が起きる場合には、発熱による温度上昇を考慮して、最適温度になるように温度調整すれば良い。
【0085】
混練した後は、混練機から取り出して当該組成物を得る。その際、ペレタイザーなどで当該組成物をペレット状に成形すると良い。
【0086】
以上により説明した本発明に係る高分子組成物の用途は、特に限定されるものではない。例えば、自動車などの車両部品や電気・電子機器部品などの配線として用いられる被覆電線の被覆材や、電線束を被覆するワイヤーハーネス保護材、コネクタハウジングなどのコネクタ部品、医療器具、人工臓器、高分子塗料、建築材料などのフィラーが添加される材料を例示することができる。
【0087】
次に、本発明に係る被覆電線およびワイヤーハーネスについて説明する。
【0088】
本発明に係る被覆電線は、上述する高分子組成物を被覆材の材料として用いたものである。被覆電線の構成としては、導体の外周に直接この被覆材が被覆されていても良いし、導体とこの被覆材との間に、他の中間部材、例えば、他の絶縁体やシールド導体などが介在されていても良い。被覆材が複数層形成されていても良い。
【0089】
導体は、その導体径や導体の材質など、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。また、被覆材の厚さについても、特に制限はなく、導体径などを考慮して適宜定めることができる。
【0090】
上記被覆電線は、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練機を用いて混練した本発明に係る高分子組成物を、通常の押出成形機などを用いて導体の外周に押出被覆するなどして製造することができる。また、一軸押出機や二軸押出機などで高分子組成物を混練形成しつつ、導体の外周に押出被覆する方法でも良い。
【0091】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上述する高分子組成物を用いたものである。本発明に係るワイヤーハーネスは、上述する高分子組成物を被覆材の材料として用いた本発明に係る被覆電線を含んでなるものであっても良いし、上述する高分子組成物を、複数本の被覆電線よりなる電線束を被覆するワイヤーハーネス保護材の材料として用いたものであっても良い。ワイヤーハーネス保護材の材料として用いるときの電線束には、本発明に係る被覆電線を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0092】
ワイヤーハーネス保護材は、複数本の被覆電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を有するものである。ワイヤーハーネス保護材を構成する基材としては、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系高分子組成物が好ましい。
【0093】
ワイヤーハーネス保護材としては、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0094】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、本実施例では、材料特性の一つとして、被覆電線の耐摩耗性を評価した。
【0095】
(供試材料および製造元など)
本実施例および比較例において使用した供試材料を製造元、商品名などとともに示す。
【0096】
(A)有機高分子
・ポリプロピレン(PP)[(株)プライムポリマー製、商品名「プライムポリプロE−150GK」]
・ポリエチレン(PE)[(株)プライムポリマー製、商品名「ハイゼックス5000S」]
・エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「エバフレックスEV360」]
・アイオノマー[三井・デュポンポリケミカル(株)製、商品名「ハイミラン1706」]
・オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)[(株)プライムポリマー製、商品名「T310E」]
・スチレン系熱可塑性変性エラストマー(変性SEBS)[クレイトンポリマージャパン(株)製、商品名「KRATON G FG1901X」]
・ポリアミド(PA6)[デュポン(株)製、商品名「ザイテルFN727」]
・ポリカ−ボネート(PC)[三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名「ユーピロンS−2000」]
・ポリブチレンテレフタレート(PBT)[東レ(株)製、商品名「トレコン1401X06」]
・エチレン−プロピレンゴム(EPR)[JSR(株)製、商品名「EP51」]
・ブタジエンゴム(BR)[JSR(株)製、商品名「BR01」]
・イソプレンゴム(IR)[JSR(株)製、商品名「IR2200」]
【0097】
(B)フィラー
・金属無機水和物(水酸化マグネシウム)[マーチンスベルグ社製、商品名「マグニフィンH10」]
・メラミンシアヌレート[DSMジャパン(株)製、商品名「melapurMC15」]
・クレー[白石カルシウム(株)製、商品名「オプチホワイト」]
・炭酸カルシウム[白石カルシウム(株)製、商品名「白艶華CCR」]
・タルク[日本タルク(株)製、商品名「MS−P」]
・酸化亜鉛[ハクスイテック(株)製、商品名「亜鉛華2種」]
【0098】
(C)その他添加剤
・酸化防止剤[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックス1010」]
・金属不活性化剤[チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガノックスMD1024」]
【0099】
(D)酸無水物導入高分子
・化合物A(式(1)の化合物)の合成
無水マレイン酸変性ポリプロピレン((株)三洋化成製、商品名「ユーメックス1010」)200gをキシレン1.5Lに懸濁させ、130℃まで加温し、溶解させる。そこにヘキサメチレンジアミン70gを加え、130℃を保ちながら2時間撹拌する。反応後、室温まで放冷し、3Lの冷メタノールに撹拌しながら加えて、再沈殿させる。1時間室温で撹拌した後、沈殿した高分子化合物を吸引ろ過する。ろ過物を再び3Lの冷メタノール中で1時間懸濁撹拌し、未反応のヘキサメチレンジアミンを除去する。再び吸引ろ過し、真空中で24時間乾燥させ、アミノヘキサン変性ポリプロピレン198gを得た。
【0100】
次いで、アミノヘキサン変性ポリプロピレン30gと、エチレンジアミン四酢酸二無水物5gとをキシレン400mlに懸濁させる。撹拌しながら120℃まで加温し、2時間反応させる。得られた淡黄色透明液体を激しく撹拌しながら2Lの冷メタノールに少しずつ加え、再沈殿させる。1時間室温で撹拌した後、沈殿した高分子化合物を吸引ろ過し、真空中で24時間乾燥させ目的物を得た。IR:1860cm−1、1780cm−1、1700cm−1
【0101】
・化合物B(式(2)の化合物)の合成
エチレンジアミン四酢酸二無水物に変えて、ジエチレントリアミン五酢酸二無水物を用いたこと以外、化合物Aと同様にして合成した。IR:1860cm−1、1780cm−1、1700cm−1、1640cm−1、1305cm−1
【0102】
(高分子組成物および被覆電線の作製)
まず、後述の表1または表2に示す各成分を二軸混練機に投入し、有機高分子やキレート導入高分子が流動する好適温度(例えばポリプロピレンなどでは220℃)で約5分混練した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して本実施例および比較例に係る高分子組成物をそれぞれ得た。次いで、得られた各組成物を、φ50mm押出機により、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積0.5mm)の外周に0.20mm厚で押出被覆し、本実施例および比較例に係る被覆電線を作製した。
【0103】
以上のように作製した各被覆電線について、耐摩耗性試験を行った。実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に示す。各比較例の高分子組成物は、同じ番号の各実施例の高分子組成物と比べて、(D)酸無水物導入高分子を含有していない点で異なっており、(A)有機高分子、(B)フィラー、(C)その他添加剤、の種類および含有量は同じになっている。なお、表1および表2に示される(A)有機高分子、(B)フィラー、(C)その他添加剤、の量は、質量部でそれぞれ表されている。また、(D)酸無水物導入高分子の量は、高分子組成物全体量に対する質量%で表されている。
【0104】
(耐摩耗性試験)
JASO D611−94に準拠し、ブレード往復法により行った。すなわち、被覆電線を750mmの長さに切り出して試験片とした。次いで、25℃の室温下にて、台上に固定した試験片の被覆材表面を軸方向に10mmの長さにわたってブレードを往復させ、被覆材の摩耗によってブレードが導体に接触するまでの往復回数を測定した。この際、ブレードにかける荷重は7Nとし、ブレードは毎分50回の速度で往復させた。次いで、試験片を100mm移動させて、時計方向に90度回転させ、上記の測定を繰り返した。この測定を同一試験片について合計3回行い、その最低値を評価値とした。摩耗回数が500回以上を合格とした。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
表1および表2によれば、本発明に従う酸無水物導入高分子を含有していない比較例に係る被覆電線は、耐摩耗性に劣ることが分かる。これに対し、本発明の一実施例に係る酸無水物導入高分子を含有する実施例に係る被覆電線は、耐摩耗性に優れることを確認した。これは、酸無水物導入高分子中の酸無水物構造がフィラーと強く結合してフィラー同士が互いに凝集するのを防止し、フィラーが高分子組成物中に高分散されるとともに、酸無水物構造と高分子構造を併せ持つ酸無水物導入高分子が、フィラーと有機高分子との界面を強化して結合性を高めているためと推測される。
【0108】
したがって、本実施例に示される被覆電線を電線束中に含んだワイヤーハーネスとすれば、電線束中の他の被覆電線などと接触する形態で使用されても、被覆材が著しく摩耗することはなく、長期にわたって高い信頼性が確保される。
【0109】
なお、本実施例では、電線特性のうち、フィラー添加により低下しやすい耐摩耗性について評価しているが、フィラーの分散性に起因して低下する他の電線特性についても向上効果があると考えられる。また、電線だけでなく、他の材料、例えば成形材料全般などまたはこれ以外の材料についても、フィラーの分散性に起因して低下する機械特性などの材料特性の向上効果があると考えられる。
【0110】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造中に、酸無水物構造が導入されていることを特徴とする酸無水物導入高分子。
【請求項2】
ポリマー主鎖にグラフト側鎖を有しており、このグラフト側鎖に前記酸無水物構造が導入されていることを特徴とする請求項1に記載の酸無水物導入高分子。
【請求項3】
前記酸無水物構造は、イミド結合またはアミド結合を介して、前記グラフト側鎖に導入されていることを特徴とする請求項1または2に記載の酸無水物導入高分子。
【請求項4】
末端に官能基を有するアルキル鎖がポリマー主鎖にグラフトされてなる官能基含有ポリマーと、酸無水物構造を有する化合物とを反応させて得られることを特徴とする酸無水物導入高分子。
【請求項5】
前記官能基はアミノ基であり、前記官能基含有ポリマーと前記酸無水物構造を有する化合物とがイミド結合またはアミド結合を形成して得られることを特徴とする請求項4に記載の酸無水物導入高分子。
【請求項6】
前記ポリマー主鎖は、オレフィン系樹脂および/またはスチレン系熱可塑性エラストマーよりなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の酸無水物導入高分子。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の酸無水物導入高分子と、フィラーとを含有してなることを特徴とする高分子組成物。
【請求項8】
前記酸無水物導入高分子の含有率は、0.1〜20質量%の範囲内にあることを特徴とする請求項7に記載の高分子組成物。
【請求項9】
請求項7または8に記載の高分子組成物を被覆材に用いた被覆電線。
【請求項10】
請求項7または8に記載の高分子組成物を用いたワイヤーハーネス。

【公開番号】特開2009−120750(P2009−120750A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297402(P2007−297402)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】