説明

酸素含有炭化水素の改質触媒、それを用いた水素又は合成ガスの製造方法及び燃料電池システム

【課題】銅を含有し、かつ耐熱性に優れ、単位表面積当たりの活性が大きく向上した酸素含有炭化水素改質用触媒、及び水素又は合成ガスの製造方法を提供する。また、このような優れた改質用触媒を備えた改質器と、該改質器により製造される水素を燃料とする燃料電池とを有する優れた燃料電池システムを提供する。
【解決手段】銅を必須元素として含み、かつニッケル、コバルト及び白金族元素から選ばれる少なくとも一種の元素を含有し、これら元素は金属酸化物として存在し、かつその少なくとも一部がスピネル構造を有することを特徴とする酸素含有炭化水素の改質用触媒、同改質用触媒を用い、酸素含有炭化水素を水蒸気改質することを特徴とする水素又は合成ガスの製造方法、および同改質用触媒を備える改質器と、該改質器により製造される水素を燃料とする燃料電池とを有することを特徴とする燃料電池システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素含有炭化水素改質用触媒、それを用いた水素又は合成ガスの製造方法及び燃料電池システムに関する。さらに詳しくは、銅を必須元素として含み、かつニッケル、コバルト及び白金族元素から選ばれる少なくとも一種の元素の金属酸化物の少なくとも一部がスピネル構造を有する銅含有スピネル触媒、及び該銅含有スピネル触媒を用いて酸素含有炭化水素に各種改質を施し、水素又は合成ガスを効率よく製造する方法、並びにこの改質用触媒を利用した燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
合成ガスは、一酸化炭素と水素からなり、メタノール合成、オキソ合成、フィッシャートロプシュ合成などの原料ガスとして用いられるほか、アンモニア合成や各種化学製品の原料として広く用いられている。
この合成ガスは、従来石炭のガス化による方法、あるいは天然ガスなどを原料とする炭化水素類の水蒸気改質法や部分酸化改質法などにより製造されてきた。しかしながら、石炭のガス化方法においては、複雑で高価な石炭ガス化炉が必要である上、大規模なプラントになるなどの問題があった。また、炭化水素類の水蒸気改質法においては、反応が大きな吸熱を伴うため、反応の進行に700〜1200℃程度の高温を必要とし、特殊な改質炉が必要となる上、使用される触媒に高い耐熱性が要求されるなどの問題があった。さらに、炭化水素類の部分酸化改質においても、高温を必要とするために、特殊な部分酸化炉が必要となり、また反応に伴って大量の煤が生成することから、その処理が問題となる上、触媒が劣化しやすいなどの問題があった。
【0003】
そこで、このような問題を解決するために、近年、ジメチルエーテル(DME)などの酸素含有炭化水素を原料として用い、これに各種の改質を施し、合成ガスを製造することが試みられている。一方、近年、環境問題から新エネルギー技術が脚光を浴びており、この新エネルギー技術の一つとして燃料電池が注目を集めている。
この燃料電池は、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換させるものであって、エネルギーの利用効率が高いという特徴を有しており、民生用、産業用あるいは自動車用などとして、実用化研究が積極的になされている。また、発電効率が高く、最近注目度の高い固体酸化物型燃料電池は、水素以外に一酸化炭素も利用することができる。この燃料電池の水素源(固体酸化物型燃料電池においては、水素及び一酸化炭素源)としては、メタノール、メタンを主体とする液化天然ガス、この天然ガスを主成分とする都市ガス、天然ガスを原料とする合成液体燃料、さらには石油系のナフサや灯油などの石油系炭化水素の研究がなされている。
【0004】
これらの石油系炭化水素を用いて水素を製造する場合、一般に、該炭化水素に対して、触媒の存在下に水蒸気改質処理や自己熱改質処理、部分酸化改質処理などが施されるが、この場合、前記のような問題が生じる。したがって、水素の製造においても、ジメチルエーテルなどの酸素含有炭化水素を原料として用いる方法が、種々試みられている。ジメチルエーテルなどの酸素含有炭化水素を原料として、これに各種の改質を施して、水素や合成ガスを製造する際に使用される触媒については、これまで各種のものが開示されているが、その中でCu系の触媒を用いて、酸素含有炭化水素を改質する技術としては、例えばCu含有触媒を用いて、酸素含有炭化水素と二酸化炭素から合成ガスを製造させる触媒及びそれを用いた合成ガスの製造方法(特許文献1等)、Cu含有触媒を用いて、酸素含有炭化水素と水蒸気から水素を製造する触媒及びそれを用いた水素の製造方法(特許文献2等)、固体酸にCuを含む金属が担持されたものからなる酸素含有炭化水素改質用触媒(特許文献3および4等)、Cu含有物質と固体酸性物質との混合物からなる、酸素含有炭化水素と水蒸気から水素を製造する触媒及びそれを用いた水素の製造方法(特許文献5等)、Cu含有物質と固体酸性物との混合物からなる、酸素含有炭化水素と水蒸気から合成ガスを製造する触媒及びそれを用いた合成ガスの製造方法(特許文献6等)などが開示されている。
しかしながら、特許文献1〜6の技術において用いられるCu系触媒は、いずれも耐熱性が不十分であり、したがって、反応活性を向上させるために反応温度を上げると触媒が劣化するのを免れないという問題があった。
上記問題を解決するために、銅を含み、かつスピネル構造を有する金属酸化物または、さらに固体酸性物質を含有する酸素含有炭化水素改質用触媒が提案されている(特許文献7等)。特許文献7では、固体酸性物質としてアルミナ、シリカ・アルミナ、ゼオライト等が列挙されているが、アルミナが好ましい旨記載されている。また、特許文献8では、Cu−Zn−Al型メタノール分解型触媒とZSM−5を混合した触媒を開示しているが、特許文献7の触媒と比較して、触媒劣化の原因となるコークが生成し易い点、或いは耐熱性の点で十分でない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−174869号公報
【特許文献2】特開平10−174871号公報
【特許文献3】特開2001−96159号公報
【特許文献4】特開2001−96160号公報
【特許文献5】特開2003−10684号公報
【特許文献6】特開2003−33656号公報
【特許文献7】特開2005−342543号公報
【特許文献8】特開平9−118501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような銅を含み、かつスピネル構造を有する金属酸化物の混合物である酸素含有炭化水素改質用触媒の性能をさらに改良することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記従来技術の現状に鑑み、上記触媒をさらに改良すべく鋭意研究を行った結果、上記のような銅を必須元素として含み、かつニッケル、コバルト及び白金族元素から選ばれる少なくとも一種の元素の金属酸化物を含有し、かつ同金属酸化物の少なくとも一部がスピネル構造を有する銅含有スピネル触媒が酸素含有炭化水素の改質反応において高い耐久性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(14)
(1)銅を必須元素として含み、かつニッケル、コバルト及び白金族元素から選ばれる少なくとも一種の元素を含有し、これら元素は金属酸化物として存在し、かつその少なくとも一部がスピネル構造を有することを特徴とする酸素含有炭化水素の改質用触媒、
(2)さらに固体酸を含む上記(1)に記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒、
(3)銅の一部がスピネル構造を有する上記(1)又は(2)に記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒、
(4)金属酸化物が銅を含み、ニッケル及びコバルトから選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒、
(5)スピネル構造がCuNi−Mn、CuCo−Mn、CuNi−MnFe、CuNi−Fe、CuCo−FeおよびCuCo−MnFeから選ばれる少なくとも一つである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒、
(6)銅と、ニッケル、コバルト及び白金族元素から選ばれる少なくとも一つの元素の組成比が99.9:0.1〜10:90である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒、
(7)固体酸がアルミナである上記(2)〜(6)のいずれかに記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒、
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の改質用触媒を還元することにより得られる酸素含有炭化水素の改質用触媒、
(9)酸素含有炭化水素が、ジメチルエーテル及びメタノールから選ばれる少なくとも一種である上記(1)〜(8)のいずれかに記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒、
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の改質用触媒を用い、酸素含有炭化水素を水蒸気改質することを特徴とする水素又は合成ガスの製造方法、
(11)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の改質用触媒を用い、酸素含有炭化水素を自己熱改質することを特徴とする水素又は合成ガスの製造方法、
(12)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の改質用触媒を用い、酸素含有炭化水素を部分酸化改質することを特徴とする水素又は合成ガスの製造方法、
(13)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の改質用触媒を用い、酸素含有炭化水素を二酸化炭素改質することを特徴とする水素又は合成ガスの製造方法、
および
(14)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の改質用触媒を備える改質器と、該改質器により製造される水素を燃料とする燃料電池とを有することを特徴とする燃料電池システムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸素含有炭化水素改質用触媒を用いることにより、酸素含有炭化水素から水素または合成ガスを高い転化率で効率よく製造する方法および効率の高い燃料電池システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、スピネル構造を有する金属酸化物は、AB24型の金属複合酸化物にみられる代表的結晶構造型の一つで立方晶系を有している。前記AB24において、通常Aは二価の金属であり、Bは三価の金属である。
本発明においては、銅を含むスピネル構造の金属酸化物(以下、Cu含有スピネルと記載する場合がある)が用いられ、このような金属酸化物としては、触媒活性及び耐熱性などの点から、CuNi−Mn、CuCo−Mn、CuNi−MnFe、CuNi−Fe、CuCo−Fe、CuCo−MnFe型スピネル構造の金属酸化物等が挙げられる。
ニッケル、コバルトおよび白金族元素は上述のようにCuとともにスピネル構造を有していても良いし、Cu含有スピネルに混合されている状態でも良い。
これらは単独で用いてもよいし、混合して用いても良い。
このような銅と、ニッケル、コバルトや白金族元素を含むスピネル構造の金属酸化物は、Cu−Mn型スピネル、Cu−Fe型スピネル、Cu−Cr型スピネル構造などのニッケル、コバルトや白金族元素を含まないCu含有スピネル構造のもの、あるいはCuZnAl系酸化物等の銅を含む非スピネル構造のものに比べて、耐熱性に優れる。
【0011】
本発明の酸素含有炭化水素の改質用触媒は、銅と、ニッケル、コバルト及び白金族元素から選ばれる少なくとも一種の元素の金属酸化物を含有し、かつ同金属酸化物の少なくとも一部がスピネル構造を有する。このうち、ニッケル、コバルト及び白金族元素の成分源は下記の通りである。なお、白金族元素としてはPt、Ru、Rh、Pd、Irを包含する。
ニッケル成分源であるニッケル化合物としては、Ni(NO32、NiSO4、NiCl2、Ni(OH)2、Ni(CH3COO)2、Ni32(CO34、NiCO3などを挙げることができる。
コバルト成分源であるコバルト化合物としては、Co(NO32、Co(OH)2、CoCl2、CoSO4、Co2(SO43、CoF3、CoCO3などを挙げることができる。
上記のニッケル及びコバルトの成分源としては硝酸塩が一般的に用いられる。
白金成分源である白金化合物としては、PtCl4、H2PtCl6、Pt(NH34Cl2、(NH42PtCl2、H2PtBr6、NH4〔Pt(C24)Cl3〕、Pt(NH34(OH)2、Pt(NH32(NO22などを挙げることができる。
ルテニウム成分源であるルテニウム化合物としては、例えば、RuCl3・nH2O、Ru(NO33、Ru2(OH)2Cl4・7NH3・3H2O、K2(RuCl5(H2O))、(NH42(RuCl5(H2O))、K2(RuCl5(NO))、RuBr3・nH2O、Na2RuO4、Ru(NO)(NO33、(Ru3O(OAc)6(H2O)3)OAc・nH2O、K4(Ru(CN)6)・nH2O、K2(Ru(NO24(OH)(NO))、(Ru(NH36)Cl3、(Ru(NH36)Br3、(Ru(NH36)Cl2、(Ru(NH36)Br2、(Ru32(NH314)Cl6・H2O、(Ru(NO)(NH35)Cl3、(Ru(OH)(NO)(NH34)(NO32、RuCl2(PPh33、RuCl2(PPh34、(RuClH(PPh33)・C78、RuH2(PPh34、RuClH(CO)(PPh33、RuH2(CO)(PPh33、(RuCl2(cod))n、Ru(CO)12、Ru(acac)3、(Ru(HCOO)(CO)2n、Ru24(p−cymene)2などのルテニウム塩を挙げることができる。これらの化合物を一種単独でも二種以上を併用してもよい。好ましくは、取り扱い上の点でRuCl3・nH2O、Ru(NO33、Ru2(OH)2Cl4・7NH3・3H2Oが用いられる。
ロジウム成分源であるロジウム化合物としては、Na3RhCl6、(NH42RhCl6、Rh(NH35Cl3、RhCl3などを挙げることができる。
パラジウム成分源であるパラジウム化合物としては、(NH42PdCl6、(NH42PdCl4、Pd(NH34Cl2、PdCl2、Pd(NO32などを挙げることができる。
イリジウム成分源であるイリジウム化合物としては、(NH42IrCl6、IrCl3、H2IrCl6などを挙げることができる。
【0012】
ニッケル、コバルト及び白金族元素から選ばれる少なくとも一種の元素の銅含有スピネルへの担持・添加方法としては特に制限は無い。担持操作としては、加熱含浸法、常温含浸法、真空含浸法、常圧含浸法、蒸発乾固法、ポアフィリング法、incipient wetness法などの各種含浸法、浸漬法、スプレー法、イオン交換法、更に銅含有スピネル合成初期からの添加などの方法が採用できる。特に銅含有スピネル合成初期からの添加が好ましい。
ニッケル、コバルト及び白金族元素から選ばれる少なくとも一種の元素の銅含有スピネルへの担持・添加量は、Cu:(Ni、Co、白金族元素)の質量比で99.9:0.1〜10:90であり、好ましくは99.5:0.5〜50:50である。このような範囲とすることにより副生メタンの生成量が増加して水素収率が低下するのを防止する。
【0013】
また、本発明の改質用触媒においては、銅を含むスピネル構造の金属酸化物として、非スピネル構造の銅を含む化合物を、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により含有するものも用いることができる。
次に、本発明の改質用触媒の調製方法の一例について、CuxNi1-xMn24スピネルからなる触媒を調製する場合を例に挙げて説明する。
まず、銅源として、硝酸銅などの水溶性銅塩を、ニッケル源として硝酸ニッケルなどの水溶性ニッケル塩を、マンガン源として、硝酸マンガンなどの水溶性マンガン塩を用い、これらを実質上化学量論的な割合、すなわちCu、Ni及びMnのモル比が、実質上x:(1−x):2になるように含む水溶液を調製する。
次いで、この水溶液に、クエン酸などのキレート剤を加えたのち、加熱して水を蒸発させてゲルを生成させる。次に、このゲルを加熱処理して、ゲル中の硝酸根やクエン酸などを分解して得られた酸化物微粉末を、空気中で300〜500℃程度の温度で1〜5時間程度仮焼したのち、さらに500〜1,000℃程度の温度で5〜15時間程度焼成することにより、CuxNi1-xMn24スピネルからなる触媒が得られる。
【0014】
この方法においては、CuとNiの和がMnに対して化学量論的な割合より過剰になるように、銅源とニッケル源を用いることができる。この場合、得られた触媒は、銅及びニッケルの酸化物とスピネル型酸化物との混合物となり、このものも、改質用触媒として用いることができる。
また、CuxCo1-xFe24スピネルからなる触媒を調製する場合には、前記ニッケル源の代わりに硝酸コバルトなどの水溶性コバルト塩を、マンガン源の代わりに、硝酸鉄などの水溶性鉄塩等の鉄源を用いればよい。さらに、前記マンガン源の代わりに、鉄源とマンガン源との混合物を用いることにより、CuxCo1-xFeyMn2-y4スピネルからなる触媒を得ることができる。このものも、もちろん改質用触媒として用いることができる。これらの改質用触媒は、通常適当な大きさのペレット状に成型されて用いられる。
本発明の酸素含有炭化水素の改質用触媒はさらに固体酸を含んでいてもよく、固体酸としては、アルミナ、シリカ・アルミナ、ゼオライト等が挙げられるが、
触媒活性および耐久性の観点からアルミナが好ましい。触媒活性および耐久性の観点から改質用触媒中、Cuとして質量基準で1〜50%、更には2〜30%となるように固体酸含有量を調整することが好ましい。なお、後記する酸素含有炭化水素としてジメチルエーテル等のエーテル類を使用する場合は固体酸を含むことが好ましい。
【0015】
本発明においては、上記改質用触媒を還元することにより、さらに活性を向上させることができる。還元処理は、水素を含む気流中で処理する気相還元方法と、還元剤で処理する湿式還元方法がある。前者の還元処理は、通常水素を含む気流下、150〜500℃、好ましくは、200〜300℃の温度で30分〜24時間、好ましくは、1〜10時間実施する。水素ガス以外に、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを共存させてもよい。
後者の湿式還元法としては、液体アンモニア/アルコール/Na、液体アンモニア/アルコール/Liを用いるBirch還元、メチルアミン/Li等を用いるBenkeser還元、Zn/HCl、Al/NaOH/H2O、NaH、LiAlH4又はその置換体、ヒドロシラン類、水素化ホウ素ナトリウム又はその置換体、ジボラン、蟻酸、ホルマリン、ヒドラジン等の還元剤で処理する方法がある。この場合、通常、室温〜100℃で、10分〜24時間、好ましくは、30分〜10時間行うものである。
【0016】
また、反応原料である酸素含有炭化水素を流すことによって、生成した水素やCOによって反応中にも触媒は還元される。本発明においては、触媒は還元前処理あるいは生成ガスによって還元されることで、Cuあるいは他の元素はスピネル構造から脱離し、スピネル構造は一部あるいは全部が保持されていない状態になっているが、最初にスピネル構造を有するCu触媒を使用することが本発明の重要な点である。
【0017】
本発明の水素又は合成ガスの製造方法における反応原料である酸素含有炭化水素としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテルなどのエーテル類を好ましく挙げることができる。この中でメタノールおよびジメチルエーテルが特に好ましい。
本発明の水素又は合成ガスの製造方法においては、前述の本発明の改質用触媒を用いてジメチルエーテル等の酸素含有炭化水素を、(1)水蒸気改質、(2)自己熱改質、(3)部分酸化改質又は(4)二酸化炭素改質することにより、水素又は合成ガスを製造する。次に、各改質方法についてジメチルエーテルを用いた場合を例に挙げて説明する。
【0018】
[水蒸気改質]
本発明の改質用触媒を用いる場合、ジメチルエーテルの水蒸気改質は、以下に示す反応式に従って、反応が進行するものと思われる。
CH3OCH3+H2O→2CH3OH・・・(1)
2CH3OH+2H2O→2CO2+6H2・・・(2)
2CO2+2H2→2CO+2H2O・・・(3)
したがって、水素を製造する場合には、前記(3)の反応が進行しにくいように、すなわち
CH3OCH3+3H2O→2CO2+6H2・・・(4)
の反応が起こるように反応条件を選択すればよい。
一方、合成ガスを製造する場合には、前記(1)、(2)及び(3)の反応が生じるように、すなわち、
CH3OCH3+H2O→2CO+4H2・・・(5)
の反応が起こるように反応条件を選択すればよい。
水素を製造する場合、水蒸気/ジメチルエーテルモル比は、理論的には3であるが、3〜6程度が好ましく、一方、合成ガスを製造する場合、水蒸気/ジメチルエーテルモル比は、理論的には1であるが、1〜2程度が好ましい。
反応温度は、通常200〜500℃、好ましくは250〜450℃の範囲で選定される。この温度を200℃以上とすることにより、ジメチルエーテルの転化率が低くなるのを防止し、500℃以下とすることにより、触媒が熱劣化するのを防止する。GHSV(ガス時空間速度)は、ジメチルエーテル基準で50〜5,000h-1の範囲が好ましい。さらに好ましくは、100〜3000h-1である。このGHSVを50h-1以上とすることにより、生産効率が低くなるのを防止し、5,000h-1以下とすることにより、ジメチルエーテルの転化率が低くなりすぎるのを防止する。また、反応圧力は、通常、常圧〜1MPa程度である。この圧力をこのような範囲とすることにより、ジメチルエーテルの転化率が低下するのを防止する。
【0019】
[自己熱改質]
自己熱改質反応においては、ジメチルエーテルの酸化反応と水蒸気との反応が同一反応器内で、又は連続した反応器内で起きる。この場合、水素製造と合成ガス製造では、反応条件は若干異なるが、一般的には、酸素/ジメチルエーテルモル比は、好ましくは0.1〜1の範囲で選定され、水蒸気/ジメチルエーテルモル比は、好ましくは0.5〜3の範囲で選定される。
酸素/ジメチルエーテルモル比を0.1以上とすることにより、発熱による反応熱の供給が十分になる。一方、1以下とすることにより、完全酸化が生じて水素濃度が低下するのを防ぐ。また、水蒸気/ジメチルエーテルモル比を0.5以上とすることにより、水素濃度が低下するのを防止し、一方3以下とすることにより、発熱の供給が足りなくなるのを防止する。反応温度は、通常200〜800℃、好ましくは250〜500℃の範囲で選定される。また、GHSV及び反応圧力については、前記水蒸気改質の場合と同様である。
【0020】
[部分酸化改質]
部分酸化改質反応は、ジメチルエーテルの部分酸化反応が起こり、水素製造と合成ガス製造では、反応条件が若干異なるが、一般的には、酸素/ジメチルエーテルモル比は、好ましくは0.3〜1.5の範囲で選定される。この酸素/ジメチルエーテルモル比を0.3以上とすることにより、ジメチルエーテルの転化率が十分に高くなり、一方1.5以下とすることにより、完全酸化が起こり、水素濃度が低下するのを防止する。反応温度は、通常200〜900℃、好ましくは250〜600℃の範囲で選定される。また、GHSV及び反応圧力については、前記水蒸気改質の場合と同様である。
【0021】
[二酸化炭素改質]
二酸化炭素改質反応は、ジメチルエーテルと二酸化炭素の反応が起こり、水素製造と合成ガス製造では、反応条件は若干異なるが、一般的には、CO2/ジメチルエーテルモル比は、好ましくは0.8〜2、より好ましくは0.9〜1.5の範囲で選定される。このCO2/ジメチルエーテルモル比を0.8以上とすることにより、ジメチルエーテルの転化率が十分に高くなり、一方2以下とすることにより、生成物中にCO2が多く残り、水素の分圧が低下するのを防止する。この反応では、水蒸気を導入することができ、この導入により水素濃度を高めることが可能となる。一方、酸素の導入、あるいは、酸素と水蒸気を導入することもできる。これにより、反応速度を向上させることが可能である。また、反応温度、GHSV及び反応圧力については、前記水蒸気改質の場合と同様である。
【0022】
本願の第三発明は、前述の改質触媒を備える改質器と、該改質器により製造される水素を燃料とする燃料電池とを有することを特徴とする燃料電池システムであり、図1により説明する。図1は本発明の燃料電池システムの一例の流れ図である。
燃料タンク21内の燃料(酸素含有炭化水素)は脱硫器23に導入される(図1には示されていないが、酸素含有炭化水素が液体の場合はポンプを介して導入される)。通常、酸素含有炭化水素として好適なジメチルエーテルやメタノールを使用する場合には硫黄は含まれないが、着臭剤等として硫黄含有化合物を含む場合等に脱硫器が有効である。脱硫器23には例えば活性炭、ゼオライト又は金属系の吸着剤などを充填することができる。脱硫器23で脱硫された燃料は水タンクから水ポンプ24を経た水と混合した後、気化器1に導入されて気化され、改質器31に送り込まれる。改質器31には前述の改質触媒が充填されており、改質器31に送り込まれた燃料混合物(酸素含有炭化水素及び水蒸気)から、前述した水蒸気改質反応によって水素が製造される。
【0023】
このようにして製造された水素はCO変成器32、CO選択酸化器33を通じてCO濃度が燃料電池の特性に及ぼさない程度まで低減される。これらの反応器に用いる触媒例としては、CO変成器32においては、鉄-クロム系、銅-亜鉛系、貴金属系触媒が用いられ、CO選択酸化器33においては、ルテニウム系、白金系触媒あるいはそれらの混合触媒が用いられる。改質反応で製造された水素中のCO濃度が低い場合、CO変成器32を取り付けなくてもよい。
【0024】
燃料電池34は負極34Aと正極34Bとの間に高分子電解質34Cを備えた固体高分子形燃料電池の例である。負極側には上記の方法で得られた水素リッチガスが、正極側には空気ブロアー35から送られる空気が、それぞれ必要であれば適当な加湿処理を行った後(加湿装置は図示せず)導入される。
この時、負極側では水素ガスがプロトンとなり電子を放出する反応が進行し、正極側では酸素ガスが電子とプロトンを得て水となる反応が進行し、両極34A、34B間に直流電流が発生する。その場合、負極には、白金黒もしくは活性炭担持のPt触媒あるいはPt−Ru合金触媒などが使用され、正極には、白金黒もしくは活性炭担持のPt触媒などが使用される。
【0025】
負極34A側に改質器31のバーナ31Aを接続して余った水素を燃料とすることができる。また、正極34B側に気水分離器36を接続し、正極34B側に供給された空気中の酸素と水素との結合により生じた水と排気ガスとを分離し、水を水蒸気の生成に利用することができる。燃料電池34では発電に伴って熱が発生するため、排熱回収装置37を付設してこの熱を回収して有効利用することができる。排熱回収装置37は、燃料電池34に付設され反応時に生じた熱を奪う熱交換器37Aと、この熱交換器37Aで奪った熱を水と熱交換するための熱交換器37Bと、冷却器37Cと、これら熱交換器37A、37B及び冷却器37Cへ冷媒を循環させるポンプ37Dとを備え、熱交換器37Bにおいて得られる温水は他の設備などで有効に利用することができる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
〔実施例1:Cu0.95Ni0.05−Mn2スピネル型酸化物の調製法〕
1リットルのビーカーに、硝酸銅[和光純薬工業社製、99.5%Cu(NO32・3H2O]50.3g(207.1ミリモル)、硝酸ニッケル[和光純薬工業社製、98%Ni(NO32・6H2O]3.23g(10.9ミリモル)及び硝酸マンガン[和光純薬工業社製、98.0%Mn(NO32・6H2O]128g(436ミリモル)に、蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、この溶液にクエン酸第一水和物[和光純薬工業社製]152g(719ミリモル)を加え、60℃で1時間攪拌したのち、80℃に昇温して水を蒸発させた。
このようにして生成したゲルを120℃で7時間、180℃で5時間加熱し、硝酸根およびクエン酸を分解させて酸化物微粉末を得たのち、空気中にて400℃で2時間仮焼し、さらに焼成炉にて空気中、900℃で10時間焼成を行ない、Cu0.95Ni0.05−Mn2スピネル型酸化物を得た。
【0028】
〔実施例2:Cu0.9Ni0.1−Mn2スピネル型酸化物の調製法〕
1リットルのビーカーに、硝酸銅[和光純薬工業社製、99.5%Cu(NO32・3H2O]47.6g(196.2ミリモル)、硝酸ニッケル[和光純薬工業社製、98%Ni(NO32・6H2O]6.47g(21.8ミリモル)及び硝酸マンガン[和光純薬工業社製、98.0%Mn(NO32・6H2O]128g(436ミリモル)に、蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、実施例1と同様に、上記溶液にクエン酸第一水和物を加え、撹拌、乾燥、焼成を行い、Cu0.9Ni0.1−Mn2スピネル型酸化物を得た。
【0029】
〔実施例3:Cu0.8Ni0.2−Mn2スピネル型酸化物の調製法〕
1リットルのビーカーに、硝酸銅[和光純薬工業社製、99.5%Cu(NO32・3H2O]42.3g(174.4ミリモル)、硝酸ニッケル[和光純薬工業社製、98%Ni(NO32・6H2O]12.9g(43.6ミリモル)及び硝酸マンガン[和光純薬工業社製、98.0%Mn(NO32・6H2O]128g(436ミリモル)に、蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、実施例1と同様に、上記溶液にクエン酸第一水和物を加え、撹拌、乾燥、焼成を行い、Cu0.8Ni0.2−Mn2スピネル型酸化物を得た。
【0030】
〔実施例4〜6:各Cu−Ni含有スピネル型酸化物+アルミナ混合触媒(質量比2:1)の調製法〕
実施例1〜3で得られた各Cu−Ni含有スピネル型酸化物10gをアルミナ(住友化学工業社製「AKP−G015」)5gと乳鉢で混合することにより、各Cu−Ni含有スピネル型酸化物とアルミナ混合触媒(質量比2:1)を得た。
【0031】
〔実施例7:Cu0.5Ni0.5−Mn2スピネル型酸化物+アルミナ混合触媒(質量比2:1)の調製法〕
1リットルのビーカーに、硝酸銅[和光純薬工業社製、99.5%Cu(NO32・3H2O]26.5g(109ミリモル)、硝酸ニッケル[和光純薬工業社製、98%Ni(NO32・6H2O]32.3g(109ミリモル)及び硝酸マンガン[和光純薬工業社製、98.0%Mn(NO32・6H2O]128g(436ミリモル)に、蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、実施例1と同様に、上記溶液にクエン酸第一水和物を加え、撹拌、乾燥、焼成を行い、Cu0.5Ni0.5−Mn2スピネル型酸化物を得た。
得られたCu0.5Ni0.5−Mn2スピネル型酸化物10gをアルミナ(住友化学工業社製「AKP−G015」)5gと乳鉢で混合することにより、Cu0.5Ni0.5−Mn2スピネル型酸化物とアルミナ混合触媒(質量比2:1)を得た。
【0032】
〔実施例8:Cu0.1Ni0.9−Mn2スピネル型酸化物+アルミナ混合触媒(質量比2:1)の調製法〕
1リットルのビーカーに、硝酸銅[和光純薬工業社製、99.5%Cu(NO32・3H2O]5.29g(21.8ミリモル)、硝酸ニッケル[和光純薬工業社製、98%Ni(NO32・6H2O]58.2g(196.2ミリモル)及び硝酸マンガン[和光純薬工業社製、98.0%Mn(NO32・6H2O]128g(436ミリモル)に、蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、実施例1と同様に、上記溶液にクエン酸第一水和物を加え、撹拌、乾燥、焼成を行い、Cu0.1Ni0.9−Mn2スピネル型酸化物を得た。
得られたCu0.1Ni0.9−Mn2スピネル型酸化物10gをアルミナ(住友化学工業社製「AKP−G015」)5gと乳鉢で混合することにより、Cu0.1Ni0.9−Mn2スピネル型酸化物とアルミナ混合触媒(質量比2:1)を得た。
【0033】
〔実施例9:Cu0.8Co0.2−Mn2スピネル型酸化物の調製法〕
1リットルのビーカーに、硝酸銅[和光純薬工業社製、99.5%Cu(NO32・3H2O]42.3g(174.4ミリモル)、硝酸コバルト[和光純薬工業社製、98%Co(NO32・6H2O]12.9g(43.6ミリモル)及び硝酸マンガン[和光純薬工業社製、98.0%Mn(NO32・6H2O]128g(436ミリモル)に、蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、実施例1と同様に、上記溶液にクエン酸第一水和物を加え、撹拌、乾燥、焼成を行い、Cu0.8Co0.2−Mn2スピネル型酸化物を得た。
【0034】
〔実施例10:Cu0.5Co0.5−Mn2スピネル型酸化物の調製法〕
1リットルのビーカーに、硝酸銅[和光純薬工業社製、99.5%Cu(NO32・3H2O]26.5g(109ミリモル)、硝酸コバルト[和光純薬工業社製、98%Co(NO32・6H2O]32.4g(109ミリモル)及び硝酸マンガン[和光純薬工業社製、98.0%Mn(NO32・6H2O]128g(436ミリモル)に、蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、実施例1と同様に、上記溶液にクエン酸第一水和物を加え、撹拌、乾燥、焼成を行い、Cu0.5Co0.5−Mn2スピネル型酸化物を得た。
【0035】
〔実施例11及び12:各Cu−Co含有スピネル型酸化物+アルミナ混合触媒(質量比2:1)の調製法〕
実施例9及び10で得られた各Cu−Co含有スピネル型酸化物10gをアルミナ(住友化学工業社製「AKP−G015」)5gと乳鉢で混合することにより、各Cu−Co含有スピネル型酸化物とアルミナ混合触媒(質量比2:1)を得た。
【0036】
〔比較例1:Cu−Mn2型スピネル酸化物の調製法〕
1リットルのビーカーに、硝酸銅[和光純薬工業社製、99.5%Cu(NO32・3H2O]52.9g(218ミリモル)及び硝酸マンガン[和光純薬工業社製、98.0%Mn(NO32・6H2O]128g(436ミリモル)に、蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、実施例1と同様に、上記溶液にクエン酸第一水和物を加え、撹拌、乾燥、焼成を行い、Cu−Mn2型スピネル型酸化物を得た。
【0037】
〔比較例2:Cu−Mn2スピネル型酸化物++アルミナ混合触媒(質量比2:1)の調製法〕
比較例1で得られたCu−Mn2型酸化物10gをアルミナ(住友化学工業社製「AKP−G015」)5gと乳鉢で混合することにより、Cu−Mn2スピネル型酸化物とアルミナ混合触媒(質量比2:1)を得た。
【0038】
〔比較例3:Cu−Zn−Al+アルミナ混合触媒(質量比2:1)の調製法〕
市販のCu−Zn−Al触媒(ズードケミー社製「MDC−3」)10gをアルミナ(住友化学工業社製「AKP−G015」)5gと乳鉢で混合することにより、Cu−Zn−Alとアルミナ混合触媒(質量比2:1)を得た。
【0039】
実施例1〜12及び比較例1〜3で得られたスピネル型酸化物及びスピネル型酸化物とアルミナの混合触媒のそれぞれについて下記の触媒評価を行った。
〔触媒評価方法〕
<前処理>
16〜32メッシュに成形した触媒を、反応器に充填した。反応前に水素還元を、100%H2、温度350℃及び反応時間1時間で行った。
<反応試験1 メタノール水蒸気改質反応>
試験触媒:実施例1、2、3、9と10及び比較例1で得られた触媒。
触媒量は10mlである。GHSV(ガス空間速度)は、メタノール分は667h-1、メタノールと水の合計では2000h-1であり、10%の窒素を含んでいた。スチーム/炭素(モル比)は2、反応温度は400℃、反応時間は100時間である。
メタノールC1転化率は次式で求める。
メタノールC1転化率(%)=(A/B)×100
ここで、Aは(出口COモル濃度+出口CO2モル濃度+出口CH4モル濃度)×入口N2モル流量/出口N2モル濃度であり、Bは入口メタノール流量である。
100時間後の活性低下率は次式で求める。
100時間後の活性低下率(%)=[(初期メタノールC1転化率−100時間後のメタノールC1転化率)/初期メタノールC1転化率]×100
ただし、通常は400℃一定で連続反応を行い、反応初期と100時間後のみ温度を250℃に下げてメタノールC1転化率を測定し、その値から活性低下率を算出した。これは、活性の高い触媒は、200時間後も、400℃では100%転化率を維持するため、活性低下率が見かけ上0となるためである。
<反応試験2 ジメチルエーテル(DME)水蒸気改質反応>
試験触媒:実施例4、5、6、7、8、11と12及び比較例2と3
触媒量は10mlである。GHSV(ガス空間速度)は、DME分は333h-1、DMEと水の合計では2000h-1である。スチーム/炭素(モル比)は2.5、反応温度は400℃、反応時間は200時間である。
DMEの転化率(%)を次式で求める。
DMEの転化率=C/D×100
ここで、C=出口COモル濃度+出口CO2モル濃度+出口CH4モル濃度であり、D=出口COモル濃度+出口CO2モル濃度+出口CH4モル濃度+出口DMEモル濃度×2である。
200時間後の活性低下率は次式で求める。
200時間後の活性低下率(%)=[(初期DME転化率−100時間後のDME転化率)/初期DME転化率]×100
ただし、通常は400℃一定で連続反応を行い、反応初期と200時間後のみ温度を350℃に下げてDME転化率を測定し、その値から活性低下率を算出した。これは、活性の高い触媒は、200時間後も、400℃では100%転化率を維持するため、活性低下率が見かけ上0となるためである。
【0040】
〔実施例13用Cu0.95Co0.05Fe24スピネル型酸化物の調製法〕
1リットルのビーカーに硝酸銅第三水和物[和光純薬工業社製、99.9%Cu(NO32・3H2O]11.49g(47.5ミリモル)、硝酸コバルト第六水和物[和光純薬工業社製、99.5%Co(NO32・6H2O]0.73g(2.5ミリモル)および硝酸鉄第九水和物[和光純薬工業社製、99.9%Fe(NO33・9H2O]40.44g(100ミリモル)に蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、上記溶液に全金属カチオンモル当量の1.5倍モル量となるクエン酸第一水和物[和光純薬工業社製、99.5%C687・H2O]47.52g(225ミリモル)を加え、60℃で1時間攪拌し、90℃でゲル化、140〜300℃で粉末化した。その後、900℃で10時間焼成し、Cu0.95Co0.05Fe24スピネル型酸化物を得た。
【0041】
[実施例14用Cu0.95Ni0.05Fe24スピネル型酸化物の調製法]
1リットルのビーカーに硝酸第銅三水和物[和光純薬工業社製、99.9%Cu(NO32・3H2O]11.49g(47.5ミリモル)、硝酸ニッケル第六水和物[和光純薬工業社製、99.9%Ni(NO32・6H2O]0.60g(2.5ミリモル)および硝酸鉄第九水和物[和光純薬工業社製、99.9%Fe(NO33・9H2O]40.44g(100ミリモル)に蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、上記溶液に全金属カチオンモル当量の1.5倍モル量となるクエン酸第一水和物[和光純薬工業社製、99.5%C687・H2O]47.52g(225ミリモル)を加え、60℃で1時間攪拌し、90℃でゲル化、140〜300℃で粉末化した。その後、900℃で10時間焼成し、Cu0.95Ni0.05Fe24スピネル型酸化物を得た。
【0042】
〔比較例4用CuFe24スピネル型酸化物の調製法〕
1リットルのビーカーに硝酸銅第三水和物[和光純薬工業社製、99.9%Cu(NO32・3H2O]12.09g (50ミリモル)および硝酸鉄第九水和物[和光純薬工業社製、99.9%Fe(NO33・9H2O]40.44g(100ミリモル)に蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、上記溶液に全金属カチオンモル当量の1.5倍モル量となるクエン酸第一水和物[和光純薬工業社製、99.5%C687・H2O]47.52g(225ミリモル)を加え、60℃で1時間攪拌し、90℃でゲル化、140〜300℃で粉末化した。その後、900℃で10時間焼成し、CuFe24スピネル型酸化物を得た。
【0043】
〔実施例13、14および比較例4用Cu含有スピネル型酸化物+アルミナ混合触媒(質量比2:1)の調製法〕
上記Cu−Co−FeおよびCu−Ni−Fe、Cu−Feスピネル型酸化物およびCu含有スピネル型酸化物5gをそれぞれアルミナ[住友化学工業社製「AKP−G015」]2.5gと乳鉢で混合することにより、Cu−Co−Fe、Cu−Ni−Feスピネル型酸化物およびCu−Feスピネル型酸化物とアルミナ混合触媒(質量比2:1)を得た。
【0044】
〔実施例13、14および比較例4〕
上記で得られたスピネル型酸化物とアルミナ混合触媒について下記の触媒評価を行った。
〔触媒評価方法〕
<前処理>
10〜18メッシュに圧縮成型した触媒を固定床常圧反応器に充填した。反応前に水素還元を、10%H2/N2、温度250℃で3時間行った。
<反応試験 ジメチルエーテル(DME)水蒸気改質反応>
試験触媒:Cu−Co−Fe、Cu−Ni−Feスピネル型酸化物およびCu −Feスピネル型酸化物とアルミナ混合触媒
触媒量は0.5gである。GHSV(ガス空間速度)は、DME分は1200h-1、DMEと水の合計分では7200h-1であり、40% N2にて希釈して12,000h-1で行った。
反応ガス中のスチーム/炭素(モル比)は2.5、反応温度は375℃で、反応時間は15時間である。
DMEの転化率(%)を次式で求める。
DMEの転化率=(A/B)×100
ここで、A=出口COモル濃度+出口CO2モル濃度+出口CH4モル濃度であり、B=出口COモル濃度+出口CO2モル濃度+出口CH4モル濃度+出口DMEモル濃度×2である。
15時間後の活性低下率は次式で求める。
15時間後の活性低下率(%)=[(1時間後DME転化率−15時間後のDME転化率)/1時間後のDME転化率]×100
【0045】
〔実施例15用Cu0.95Co0.05Fe24スピネル型酸化物の調製法〕
1リットルのビーカーに硝酸銅第三水和物[和光純薬工業社製、99.9%Cu(NO32・3H2O]22.975g(95.0ミリモル)、硝酸コバルト第六水和物[和光純薬工業社製、99.5%Co(NO32・6H2O]1.462g(5.0ミリモル)および硝酸鉄第九水和物〔和光純薬工業社製、99.9%Fe(NO33・9H2O〕80.881g(200ミリモル)に蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、上記溶液にクエン酸第一水和物[和光純薬工業社製、99.5%C687・H2O]92.926g(440ミリモル)を加え、60℃で1時間攪拌し、90℃でゲル化、140〜200℃で粉末化した。その後、900℃で10時間焼成し、Cu0.95Co0.05Fe24スピネル型酸化物を得た。
【0046】
〔実施例16用Cu0.95Ni0.05Fe24スピネル型酸化物の調製法〕
1リットルのビーカーに硝酸第銅三水和物 (和光純薬工業社製、99.9% Cu(NO32・3H2O)22.975g(95.0ミリモル)、硝酸ニッケル第六水和物〔ナカライテスク社製、98.0%Ni(NO32・6H2O〕1.484g(5.0ミリモル)および硝酸鉄第九水和物〔和光純薬工業社製、99.9%Fe(NO33・9H2O〕80.881g(200ミリモル)に蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。
次いで、上記溶液にクエン酸第一水和物[和光純薬工業社製、99.5%C687・H2O]92.926g(440ミリモル)を加え、60℃で1時間攪拌し、90℃でゲル化、140〜200℃で粉末化した。その後、900℃で10時間焼成し、Cu0.95Ni0.05Fe24スピネル型酸化物を得た。
【0047】
〔比較例5用CuFe24スピネル型酸化物の調製法〕
1リットルのビーカーに硝酸銅第三水和物[和光純薬工業社製、99.9%Cu(NO32・3H2O]24.184g(100ミリモル)および硝酸鉄第九水和物[和光純薬工業社製、99.9%Fe(NO33・9H2O]80.881g(100ミリモル)に蒸留水300ミリリットルを加え、60℃で2時間攪拌した。次いで、上記溶液にクエン酸第一水和物[和光純薬工業社製、99.5%C687・H2O]92.926g(440ミリモル)を加え、60℃で1時間攪拌し、90℃でゲル化、140〜200℃で粉末化した。その後、900℃で10時間焼成し、CuFe24スピネル型酸化物を得た。
【0048】
〔実施例15、16および比較例5用Cu含有スピネル型酸化物およびCuスピネル型酸化物+アルミナ混合触媒(質量比2:1)の調製法〕
上記Cu−Co−Fe、Cu−Ni−FeおよびCu−Feスピネル型酸化物について、それぞれ10gを700℃で30分間焼成したアルミナ(住友化学工業社製「AKP−G015」)5gと乳鉢で混合し、その後700℃で10時間焼成し、Cu−Co−Fe、Cu−Ni−Feスピネル型酸化物およびCu−Feスピネル型酸化物とアルミナ混合触媒(質量比2:1)を得た。
【0049】
〔実施例15、16および比較例5〕
上記で得られたスピネル型酸化物とアルミナ混合触媒について下記の触媒評価を行った。
〔触媒評価方法〕
<前処理>
10〜18メッシュに圧縮成型した触媒を固定床常圧反応器に充填した。反応前に水素還元は行わなかった。
<反応試験 ジメチルエーテル(DME)水蒸気改質反応>
試験触媒:Cu−Co−FeおよびCu−Ni−Feスピネル型酸化物および
Cu−Feスピネル型酸化物とアルミナ混合触媒
触媒量は6mLである。GHSV(ガス空間速度)は、DME分は83.3h-1、DMEと水の合計分では500h-1で行った。
反応ガス中のスチーム/炭素(モル比)は2.5、反応温度は375℃で、反応時間は約500時間(実施例15、16は508時間、比較例5は500時間)である。
DMEの転化率(%)を次式で求める。
DMEの転化率=(A/B)×100
ここで、A=出口COモル濃度+出口CO2モル濃度+出口CH4モル濃度であり、B=出口COモル濃度+出口CO2モル濃度+出口CH4モル濃度+出口DMEモル濃度×2である。
活性低下率は次式で求める。
約500時間後の活性低下率(%)=[(10時間後DME転化率−約500 時間後のDME転化率)/10時間後のDME転化 率]×100
【0050】
<触媒評価結果>
250℃におけるメタノール水蒸気改質反応による触媒活性の評価結果、350℃におけるDME水蒸気改質反応による触媒活性の評価結果、ならびに375℃におけるDME水蒸気改質反応による触媒活性の評価結果を表1、表2及び表3にそれぞれ示す。

【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
実施例1、2、3、9及び10を比較例1と、実施例4、5、6、7、8、11及び12を比較例2及び3と比較することによって、ニッケル及びコバルトを含んだCuxNi1-XMn24、CuyCo1-yMn24はCuMn24よりも活性低下率が低いことが分かる。また、実施例13及び14を比較例4と、ならびに実施例15及び16を比較例5と、それぞれ比較することによって、ニッケル及びコバルトを含んだCuxNi1-XFe24、CuyCo1-yFe24はCuFe24より活性低下率が低いことが分かる。すなわち、ニッケル、コバルト及び白金族元素から選ばれる少なくとも一種の元素の金属酸化物の少なくとも一部がスピネル構造を有する本発明の触媒およびそれとアルミナとの混合触媒は、ニッケル、コバルト及び白金族元素を含まない触媒よりも高い耐久性を有することが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の酸素含有炭化水素改質用触媒は酸素含有炭化水素から水素または合成ガスを高い転化率で効率よく製造することができ、効率の高い燃料電池システムに応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の燃料電池システムの一例の流れ図である。
【符号の説明】
【0057】
1:気化器
11:水供給管
12:燃料導入管
15:接続管
21:燃料タンク
23:脱硫器
24:水ポンプ
31:改質器
31A:改質器のバーナ
32:CO変成器
33:CO選択酸化器
34:燃料電池
34A:燃料電池負極
34B:燃料電池正極
34C:燃料電池高分子電解質
35:空気ブロワー
36:気水分離器
37:排熱回収装置
37A:熱交換器
37B:熱交換器
37C:冷却器
37D:冷媒循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を必須元素として含み、かつニッケル、コバルト及び白金族元素から選ばれる少なくとも一種の元素を含有し、これら元素は金属酸化物として存在し、かつその少なくとも一部がスピネル構造を有することを特徴とする酸素含有炭化水素の改質用触媒。
【請求項2】
さらに固体酸を含む請求項1に記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒。
【請求項3】
銅の一部がスピネル構造を有する請求項1又は2に記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒。
【請求項4】
金属酸化物が銅を含み、ニッケル及びコバルトから選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物である請求項1〜3のいずれかに記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒。
【請求項5】
スピネル構造がCuNi−Mn、CuCo−Mn、CuNi−MnFe、CuNi−Fe、CuCo−FeおよびCuCo−MnFeから選ばれる少なくとも一つである請求項1〜4のいずれかに記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒。
【請求項6】
銅と、ニッケル、コバルト及び白金族元素から選ばれる少なくとも一つの元素の組成比が99.9:0.1〜10:90である請求項1〜5のいずれかに記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒。
【請求項7】
固体酸がアルミナである請求項2〜6のいずれかに記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の改質用触媒を還元することにより得られる酸素含有炭化水素の改質用触媒。
【請求項9】
酸素含有炭化水素が、ジメチルエーテル及びメタノールから選ばれる少なくとも一種である請求項1〜8のいずれかに記載の酸素含有炭化水素の改質用触媒。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の改質用触媒を用い、酸素含有炭化水素を水蒸気改質することを特徴とする水素又は合成ガスの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の改質用触媒を用い、酸素含有炭化水素を自己熱改質することを特徴とする水素又は合成ガスの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の改質用触媒を用い、酸素含有炭化水素を部分酸化改質することを特徴とする水素又は合成ガスの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載の改質用触媒を用い、酸素含有炭化水素を二酸化炭素改質することを特徴とする水素又は合成ガスの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれかに記載の改質用触媒を備える改質器と、該改質器により製造される水素を燃料とする燃料電池とを有することを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−221200(P2008−221200A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237765(P2007−237765)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】