説明

重合体の製造方法

【課題】沈殿工程においてスラリー状沈殿物が生成することにより、攪拌機への負荷を軽減し、攪拌機の故障の危険性を減らして工業的に安全に、かつ、時間を短縮し沈殿工程に用いる貧溶媒の量を削減して効率的に重合体を精製する重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】重合体溶液を攪拌しながら重合体を沈殿させる工程を含む重合体の製造方法であって、上記沈殿工程は、軸流型の攪拌翼を用いて攪拌することを特徴とする重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体の製造方法に関する。より詳しくは、スラリー状沈殿物が生成して攪拌機に負荷をかけず安定生産することができる重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体の製造において、溶媒を用いて単量体を重合する工程、得られた重合体溶液中の重合体を沈殿させ、重合体と重合溶媒等とを分離させる工程、重合溶媒等を除去する工程、溶媒で重合体を再溶解する工程等を行うことにより、組成分布、分子量分布の狭い重合体を得る方法が知られている。このようにして得られた重合体は、種々の工業用途において用いることができ、例えば感光性樹脂等に好適に用いることができ有用である。用途としては、電子情報材料用、表示材料用等が挙げられ、例えば、FPD(フラットパネルディスプレイ)等の表示機器関連や半導体等に用いることができる。代表的な用途としては、LCD(液晶ディスプレイ)用の層間絶縁膜や高視野角用突起物、カラーフィルター、オーバーコート、フォトスペーサー、反射型ディスプレイ用反射材等、有機EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレイ用のカソードセパレーター等、半導体用の層間絶縁膜やシュリンク剤、ソルダーレジスト等が挙げられる。
【0003】
このような重合体の製造方法において、重合体溶液中の重合体の沈殿工程を行う場合、重合体溶液に貧溶媒を添加して攪拌しながら沈殿させる方法がある。この製造方法の沈殿工程においては、溶媒に不溶状態となった重合体によってスラリーが生成し、この量が次第に増加することになるが、重合体溶液の性状に起因して攪拌機に負荷がかかる等、沈殿工程や再溶解工程で工業的な生産において不具合が生じることになる。このような不具合を改善し、生産工程及びそれによって生産される製品において従来よりも有利なものとすることが望まれていた。
【0004】
従来の重合体の製造方法としては、重合体が発揮する基本性能が向上され、各種の用途において好適に用いることができる重合体及びその製造方法(例えば、特許文献1参照。)が開示されている。これは、例えば、アルカリ水溶液への溶解性等の基本性能を有し、感光性樹脂等の用途に用いられるものである。
種々の工業用途に有用な重合体の製造において、安全かつ効率的に、製造工程に過大な負荷がかかることなく重合体が得られるようにすることが望まれるところであった。
【特許文献1】特開2005−105174号公報(第2、3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、沈殿工程においてスラリー状沈殿物が生成することにより、攪拌機への負荷を軽減し、攪拌機の故障の危険性を減らして工業的に安全に、かつ、時間を短縮し沈殿工程に用いる貧溶媒の量を削減して効率的に重合体を精製する重合体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、重合体の製造方法に関し、沈殿工程で生成する重合体の性状にまず着目した。ここで、貧溶媒を大量に用いると重合体は粉体状に沈殿する傾向があり、製造上これがもっとも好都合である。しかし、貧溶剤を大量に用いると、わずかな重合体を得るのに巨大な装置が必要となり、廃溶媒も大量に出ることになる。また、貧溶媒使用量が少ない場合と比べて、沈殿の生成量もあまり増えない。すなわち、一定量の沈殿(製品)を得るのにより巨大な装置が必要となり、より大量の貧溶媒が必要となり、より大量の廃溶媒が生じることになる。これらは大幅なコストアップ要因となる。したがって、生産性が著しく低下する。貧溶媒を減らすと生産性は上がるが沈殿はスラリー(又はモチ)状になる傾向がある。本発明では、攪拌翼形状を工夫することにより、やわらかいスラリーを生成させ安全かつ効率的に重合体を製造できることを見いだした。すなわち、通常の沈殿工程では非常に硬いモチ状沈殿物が生成することになり、このような重合体性状では攪拌機に負荷がかかる場合があり、その後の再溶解工程において溶解時間が長いものとなるおそれがあることから、重合体性状がスラリー状である沈殿物として沈殿させることができれば、攪拌機に負荷がかからず、再溶解工程において溶解時間が大幅に短縮することができることを見いだした。重合体を沈殿させる工程において、垂直パドル翼を用いて攪拌を行った場合は、沈殿が貧溶媒の多い条件下に曝され、成長して通常の硬いモチ状の沈殿となるが、軸流型の攪拌翼を用いて攪拌すれば、沈殿がこのような条件下に曝されることがなく、スラリー状の沈殿物が生成することを見いだした。輻流型はいったん生成したスラリーを巻き上げてしまい、翼に当たるなどして攪拌機に負荷がかかり故障の原因となるおそれがあり、また大能力の攪拌機が必要になる。軸流型はスラリーの巻き上げがないので負荷がかからず故障が起きにくくなる。また、小能力の攪拌機でも製造可能となる。更に、再溶解工程にかかる時間を短縮されたものとすることができ、効率的に重合体を製造することができる。すなわち、重合体溶液を攪拌しながら重合体を沈殿させる工程を含む重合体の製造方法であって、該沈殿工程が軸流型の攪拌翼を用いて攪拌することにより、攪拌機に負荷がかからず、また後の再溶解工程においても溶解時間が大幅に短縮することが可能となり、その結果安全かつ効率的に重合体を製造することが可能となり、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、上記製造方法が、重合体を沈殿させる工程、重合体が沈殿した後の上澄み層を抜き出す工程、及び、重合体を溶媒で再溶解させる工程を行うものとすると、更に本発明における優れた作用効果を発揮することができることを見いだした。また、上記攪拌翼が、沈殿した重合体に該攪拌翼が半分以上埋没する位置よりも上方に設置されたものであるとすると、より攪拌機にかける負荷を低減することができることを見いだし、更に、上記沈殿工程が、貧溶媒を重合体溶液に添加して攪拌しながら重合体を沈殿させるものとすると、生成する重合体をより好適なものとして本発明の効果をより充分に発揮させることが可能であることを見いだした。そして、上記重合体が、スチレン及び/又はスチレン誘導体の単量体単位と不飽和有機酸の単量体単位とを有するものとすると、更にこのような重合体が発揮する基本性能を充分に向上させることができることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、重合体溶液を攪拌しながら重合体を沈殿させる工程を含む重合体の製造方法であって、上記沈殿工程は、軸流型の攪拌翼を用いて攪拌することを特徴とする重合体の製造方法である。
以下に、本発明を詳述する。
【0008】
本発明の重合体の製造方法は、軸流型の攪拌翼を用いて攪拌する沈殿工程を含む方法である。
上記沈殿工程は、例えば重合体精製の操作の一工程として好適に行うことができる。
例えば、重合体溶液を調製した後、本発明の重合体の沈殿工程を行い、その後溶媒を抜き取り等により除去する工程、溶媒で重合体を再溶解する工程を行うことが好ましく、これにより重合体を精製することができる。更に、脱揮工程を行うことが好ましい。脱揮工程とは、溶剤その他の軽沸成分の一部又は全部を留去する工程をいう。脱揮工程を行うことにより、不揮発成分を調整し、軽沸成分を除去することができる。このように製造された重合体と溶媒とを含む重合体組成物は、重合体溶液の製品としての好適な組成分布や分子量分布の狭いものであり、種々の工業用途、特に電子情報材料用、表示材料用に使用する際において取り扱いやすく、有用なものである。
すなわち、本発明の重合体の製造方法は、後述する沈殿・再溶解工程を含むものであることが好ましく、沈殿・再溶解工程及び脱揮工程を含むものであることがより好ましく、重合工程、沈殿・再溶解工程及び脱揮工程を含むものであることが更に好ましい。
沈殿・再溶解工程とは、沈殿工程の後に再溶解工程を行う場合、沈殿工程と再溶解工程とを合わせたものをいう。
本発明の重合体の製造方法の好適な実施形態は、重合体と溶媒とを含む組成物、すなわち重合体溶液を製造する方法である。
【0009】
先ず、沈殿工程について詳述する。
上記沈殿工程は、通常軸流型の攪拌翼が設置されている沈殿槽内で行うものである。
輻流型の攪拌翼、すなわち攪拌しても軸中心から下降流を発生しない攪拌翼を用いて攪拌を行い、重合体を沈殿させた場合、硬いモチ状沈殿物が生成することになる。
本発明の製造方法においては、上記軸流型の攪拌翼を用いて攪拌することにより、硬いモチ状沈殿物が沈殿することなく、スラリー状の沈殿物が沈殿することになる。
スラリー状の沈殿物が沈殿することにより、硬いモチ状沈殿物がほとんど生成しないので、塊状の沈殿が攪拌機に接触することにより攪拌機にかかる負荷が充分に抑えられたものとなり、重合体を安定生産することが可能となる。またスラリー状の沈殿物となることで、後の再溶解工程において取り扱いしやすく、重合体の溶解にかかる時間が大幅に短縮されることになる。
上記「スラリー状」及び「硬いモチ状」とは、共に、析出した重合体が溶媒等の液状成分に懸濁している状態をいうが、上記「スラリー状」は、粘度が低く流動性が十分ある(実施例3の沈殿槽の場合、沈殿槽を90°横倒しにすると数秒〜数分でこぼれる)状態をいい、上記「硬いモチ状」は、粘度が高く、流動性が全く又はほとんどない状態をいう。
上記「攪拌機への負荷」は、攪拌機電流値の振れの大きさ(小さい方が良い)で判断できるが、電流計で読み取れないような瞬間的な負荷については目視等の官能評価を行う。
【0010】
重合体を沈殿させた場合、輻流型の攪拌翼を用いて攪拌すると硬いモチ状の沈殿が生成するが、軸流型の攪拌翼を用いて攪拌するとスラリー状の沈殿物が生じる理由は、以下のように考えられる。
沈殿工程前半(図1のaが軸流型の攪拌翼を用いた場合、図1のcが輻流型の攪拌翼を用いた場合)では貧溶剤への親和性が小さく、比較的沈殿しやすい成分が、貧溶媒比率の低い条件で沈殿し、スラリー状沈殿物を形成する。
その後、沈殿しにくい成分が沈殿を始め、スラリーの量が増える。
沈殿工程後半において、軸流型の攪拌翼を用いて攪拌した場合(図1のb)では、下向きの力が発生するのでスラリーは巻き上げられずそのままスラリー状沈殿物として残る。すなわち、スラリーが巻き上げられず貧溶媒比率の高い条件に曝されることがないため、そのままスラリー状沈殿物として残ることになると考えられる。
一方、輻流型の攪拌翼のみを用いて攪拌した場合(図1のd)では、スラリーが巻き上げられて、沈殿しやすい成分が貧溶媒比率の高い条件に曝されるので、非常に硬いモチ状沈殿物が生成する(図1b)と考えられる、すなわち、スラリーが巻き上げられて沈殿が貧溶媒に曝されることにより硬いモチ状の沈殿となるためであると考えられる。言い換えれば、貧溶媒比率の高い状態で攪拌されるとスラリーと貧溶媒とがより激しく接触するため、スラリーは非常に硬くなる。また硬くなったもの同士がくっついて大きなボール状になって回転する。スラリーが巻き上がらないとこのような現象は起きない。
【0011】
上記軸流型の攪拌翼とは、軸流の流れを形成する攪拌翼であれば特に限定されない。軸流型の定義には、以下の表1に示すように、(1)佐竹化学機械工業株式会社編、「攪拌技術」、佐竹化学機械工業株式会社発行、1992年12月18日発行、1995年4月15日改訂、p.11、12、50に記載されるような、「軸流型」は傾斜パドルを含まず、「斜流型」が傾斜パドルを含むとするものと、(2) より広義に、傾斜パドルや「斜流型」の攪拌翼は「軸流型」に含まれるとするものがある。本明細書中では、「斜流型」は「軸流型」に含まれると定義する。例えば、「軸流型の攪拌翼」は、傾斜パドルを含むものである。すなわち、プロペラであっても、傾斜パドルであっても、その他の形状であっても、攪拌されることにより軸中心から下降流を形成するものであれば、攪拌機等の装置にかかる負荷を充分に抑え、再溶解工程において溶解時間が大幅に短縮される本発明の効果を生じるものであるから、本明細書中では「軸流型の攪拌翼」が傾斜パドルを含むものとする。
【0012】
【表1】

【0013】
上記軸流型の攪拌翼は、軸中心から下降流を形成するような攪拌翼が好ましい。また、かき下げ形状の翼を持つものであることが好ましい。これにより下降流がスラリーの巻き上げを充分に防いでスラリー状沈殿が生成することになり、本発明の有利な効果が充分に発揮されることになる。
軸流型の攪拌翼としては、例えば、佐竹化学機械工業株式会社編、「攪拌技術」、佐竹化学機械工業株式会社、1992年12月18日発行、1995年4月15日改訂、p.478の図5−30に記載されるような、軸流型のパドル型攪拌翼、プロペラ、ハイドロフォイル型攪拌翼、軸流型のタービン型攪拌翼(傾斜翼を付けたタービン型攪拌翼)、リボン・スクリュー型攪拌翼、シングルコーン型攪拌翼等が挙げられる。
上記軸流型のパドル型攪拌翼としては、例えば、ピッチドブレード(ピッチドパドル)、ノコ歯付ブレード、V型ピッチドブレード、H型ピッチドブレード、ファードラー型が挙げられる。
上記プロペラとしては、コンスタントピッチ、軸流ポンプ型、コンスタントアングルが挙げられる。上記タービン型としては、ピッチドブレード、ディスク有孔型ピッチドブレード、後返角付ピッチドブレード、ディスク有孔型後返角付ピッチドブレードが挙げられる。リボン・スクリュー型攪拌翼としては、シングルリボン、ダブルリボン、スクリュウ、シングルリボン+スクリュウ、ダブルリボン+スクリュウ、軸無しダブルリボンが挙げられる。
シングルコーン型攪拌翼としては、コーン上向、コーン下向が挙げられる。
また、社団法人化学工学協会編、「改訂四版 化学工学便覧」、丸善株式会社、昭和53年10月25日、p1310−1311に記載されるような角度付羽根ファンタービン、プロペラ等の攪拌翼が挙げられる。中でも、軸流型のパドル型攪拌翼、プロペラ又は軸流型のタービン型攪拌翼が好ましく、軸流型のパドル型攪拌翼がより好ましい。
【0014】
例えば、軸流型のパドル型攪拌翼としては、図2aに示される形状のピッチドブレード、軸流型のプロペラとしては、図2bに示される形状のプロペラ、軸流型のタービン型攪拌翼としては、図2cに示される形状のピッチドブレードが挙げられ、中でも図2aに示される形状のピッチドブレードが特に好ましい。このような軸流型の攪拌翼を用いて攪拌することにより、より好適に軸中心から下降流を発生させて本発明の有利な効果を発揮することができる。
また、上記軸流型の攪拌翼は、下降流を発生する向き(例えば、上記パドル型のピッチドブレードの場合、図3に示される矢印の向き)に攪拌されることが好ましい。これによりスラリー状沈殿が生成して本発明の有利な効果が充分に発揮されることになる。
一方、例えば佐竹化学機械工業株式会社編、「攪拌技術」、佐竹化学機械工業株式会社、1992年12月18日発行、1995年4月15日改訂、p.478の図5−30に記載される4枚垂直パドルであるフラットブレード(図2d)、2枚垂直パドル(図2e)のような輻流型の攪拌翼を用いた場合は、軸中心から下降流を発生させることができず、本発明の有利な効果を発揮することができない。
【0015】
上記軸流型の攪拌翼の大きさは、特に限定されないが、工業的に適用する場合、例えば、攪拌翼の直径が沈殿槽の内径の0.1〜0.9倍のものがより好ましい。中でも0.2〜0.8倍がより好ましく、0.3〜0.7倍が更に好ましい。
【0016】
上記軸流型の攪拌翼の角度は、水平を0°、垂直を90°としたとき、0°を超え、90°未満であればよいが、15°以上が好ましく、30°以上がより好ましい。また75°以下が好ましく、60°以下がより好ましい。角度が15°未満であったり、75°を超えると、充分な下降流を形成することができなくなり、好適なスラリー状の沈殿を生成することができなくなるおそれがある。
【0017】
沈殿槽中、バッフル(邪魔板)が設置されていても設置されていなくてもよいが、設置されていない方が攪拌機にかかる負荷が小さくなり好ましい。上記邪魔板としては、例えば、図4の8aに示されるような平面邪魔板、8b、8cに示されるような傾斜邪魔板、8dに示されるようなフィンガー邪魔板が挙げられる。
上記沈殿槽の形状は、特に限定されず、図4に示されるような形状、筒状、球状、直方体状等、種々の形状のものを使用することができる。
【0018】
上記軸流型の攪拌翼の材質は、通常使用されるものであれば特に限定されないが、金属、プラスチック又はガラスがより好ましい。
上記金属としては、鉄、ステンレスがより好ましい。中でもSUS304、SUS304L、SUS316、SUS316Lが特に好ましい。
上記プラスチックとしては、フッ素樹脂が好ましく、四フッ化エチレン樹脂又は四フッ化エチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合樹脂等がより好ましい。
攪拌翼の材質として金属、プラスチック又はガラスを使用することにより、安価で丈夫な攪拌翼とすることができる。
材質の加工について、第一に各種材質の採用に当たっては、強度や耐食性を考慮し選定すればよい。
第二に、その施工方法については、材質そのものを使用する方法(無垢材の使用)や、母材として鉄等を使用した上で、ライニング・コーティング・クラッド・デポジット等の方法により表面を所望の材料で被覆する方法が用いられる。
【0019】
本発明の重合体の製造方法において、上記軸流型の攪拌翼は、沈殿した重合体に該攪拌翼が半分以上埋没する位置よりも上方に設置されたものであることが好ましい。すなわち、沈殿した重合体に該攪拌翼が半分未満しか埋没しない位置に設置されたものであることが好ましい。このように設置することにより、攪拌機にかかる負荷を低減することができ、またスラリーの巻き上げを防いでスラリー状の沈殿を生成することができるので、本発明の効果がより充分に達成されることになる。1/3以上埋没する位置よりも上方に設置されたものであることがより好ましく、1/4以上埋没する位置よりも上方に設置されたものであることが更に好ましく、埋没しない位置に設置されたものであることが最も好ましい。すなわち、上記軸流型の攪拌翼が沈殿した重合体層にかからないように設置することが最も好ましい。
【0020】
上記沈殿槽中に二つの攪拌翼が設置されている場合は、下段の攪拌翼が軸流型であればよく、上段の攪拌翼は軸流型であってもよく、輻流型であってもよい。沈殿槽中に二つを超える複数の攪拌翼が設置されている場合は、最も下段の攪拌翼が軸流型であればよく、その他の攪拌翼は軸流型であってもよく、輻流型であってもよい。
【0021】
上記軸流型の攪拌翼は、通常、動力をかけて攪拌を行うことになる。一旦攪拌が始まると、特に大きな動力は必要とされない。よって単位容積当りの攪拌動力Pvは、特に限定されないが、0<Pv≦1kW/mであることが好ましい。上記攪拌動力Pvは、0.8kW/m以下であることがより好ましく、0.6kW/m以下であることが更に好ましい。
【0022】
上記攪拌羽根は、特に限定されないが、その回転数が、5〜500rpmであることが好ましく、10〜400rpmであることがより好ましく、15〜300rpmであることが更に好ましい。
【0023】
上記攪拌機の電流値は、特に限定されないが、起動時に1〜20Aであることが好ましく、2〜18Aであることがより好ましく、3〜15Aであることが更に好ましい。
電流値の振れは、定常攪拌時の電流値の20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。
上記沈殿槽の容量は、特に限定されないが、0.1〜10000Lが好ましく、20〜8000Lがより好ましく、100〜6000Lが更に好ましい。
【0024】
本発明の重合体の製造方法における製造工程の好ましい形態を図1に示す。
重合体溶液を軸流型の攪拌翼を用いて攪拌しながら貧溶媒を添加して重合体を析出させる。重合体が析出した後、一定時間静置され、上澄み液が抜かれる。残った重合体に良溶媒を添加して再度攪拌して再溶解する。この重合体溶液を脱揮槽に移動し、常圧でも減圧でも構わないが、より好ましくは減圧下で、昇温して脱揮を行い、重合体溶液を得る。
【0025】
本発明の重合体の製造方法において、該重合体は、その単量体組成(構成単位組成)が本発明の作用効果が発揮されるようなものであることが好ましく、中でもスチレン及び/又はスチレン誘導体の単量体単位と不飽和有機酸の単量体単位とを有するものがより好ましい。不飽和有機酸の単量体単位を有することにより、アルカリ水溶液への溶解性等の特性を有し、感光性樹脂等の用途に好適に用いることができることになり、スチレン及び/又はスチレン誘導体の単量体単位を有することにより、このような重合体が発揮する基本性能を充分に向上させることができることになる。
また、これらの単量体以外のその他の単量体の単量体単位を有していてもよい。
【0026】
本発明の重合体の製造方法において、上記沈殿工程は、貧溶媒を重合体溶液に添加しながら攪拌して重合体を沈殿させることが好ましい。貧溶媒を添加しながら攪拌して重合体を沈殿させることにより、スラリー状の沈殿を生成するうえで有利となる。本発明の好ましい実施形態としては、上記沈殿工程が貧溶媒を重合体溶液に添加して攪拌しながら重合体を沈殿させる形態が挙げられる。
上記貧溶媒としては、重合体が溶解しないものであれば特に限定されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、メタノール、エタノール、水が挙げられる。これらは単独でも2種以上を併用しても好適に用いることができる。
貧溶媒の添加方法としては、特に限定されないが、連続添加や分割添加が好ましい。また等速滴下が最も好ましい。すなわち、等速等量で貧溶媒を滴下することが最も好ましい。
滴下によって貧溶媒を添加する場合、上記滴下方法は、軸流型の攪拌翼を用いて攪拌しながら行うものであれば特に限定されるものではなく、壁面を伝わせず滴下する方法であってもよく、壁面を伝わせて滴下する方法であってもよい。また一箇所から滴下するものでもよく、複数箇所から滴下するものでも良いが、一箇所から滴下することが好ましい。
【0027】
上記貧溶媒を重合体溶液に添加しながら攪拌して重合体を沈殿させる時間は、特に限定されないが、5〜180分が好ましく、10〜150分がより好ましく、15〜120分が更に好ましい。
上記沈殿工程において、沈殿槽内部の温度は、特に限定されないが、0〜60℃が好ましく、5〜50℃がより好ましく、10〜40℃が更に好ましい。
【0028】
本発明の重合体の製造方法は、重合体を沈殿させる工程、重合体が沈殿した後の上澄み層を抜き出す工程、及び、重合体を溶媒で再溶解させる工程を行うことが好ましい。
重合体を沈殿させる工程と重合体が沈殿した後の上澄み層を抜き出す工程との間に、沈殿した重合体を静置する工程を行うことがより好ましい。
静置工程を行わない場合、浮遊した重合体を吸い上げ、配管を詰まらせるため(1)故障が起こる、(2)修理のため開放時に不純物の混入が起こる、(3)工程時間が延びる等の問題が生じるおそれがある。
上記静置工程は、通常攪拌を止めて行うものであり、好ましくは1時間以上、より好ましくは1.5時間以上、更に好ましくは2時間以上攪拌を止めて行うことが好ましい。
上記静置工程は、沈殿槽内の温度が0〜60℃で行うことが好ましく、5〜50℃で行うことがより好ましく、10〜40℃で行うことが更に好ましい。
上記再溶解工程は、溶媒を添加して重合体を溶解することになる。溶媒の添加は、一括で加えてもよく、徐々に加えるものであってもよい。
上記溶媒としては、重合体を溶解するために好適なものを適宜選択することができるが、例えば、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;トルエン、エチルベンゼン、o,m,p−キシレン等の芳香族類等が好適であり、これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、酢酸エチル、3−メトキシブチルアセテートが好ましい。溶媒は、重合時の溶媒と同じ溶媒であってもよく、異なる溶媒であってもよい。
上記再溶解工程は、沈殿槽内の温度が0〜90℃で行うことが好ましく、10〜80℃で行うことがより好ましい。上記沈殿槽内の温度は特に限定されず、再溶解工程中で温度を変更してもよい。
上記再溶解工程は、攪拌翼形状に特に限定はないが、軸流型の攪拌翼を用いて攪拌しながら行うことが好ましい。再溶解工程における攪拌の好ましい形態は、上述した沈殿工程における攪拌の好ましい形態と同様である。
上記再溶解工程にかかる時間は、重合体の製造方法を簡便なものとするため、3時間未満であることが好ましく、2時間未満であることがより好ましく、1.5時間未満であることが更に好ましい。
以下に、重合工程及び脱揮工程について詳述する。
【0029】
上記重合工程に通常使用される重合開始剤としては、熱によりラジカルを発生するものであることが好ましく、具体的には、例えば、以下のアゾ化合物や有機過酸化物等が好適である。このように、上記重合開始剤溶液がアゾ化合物を含む形態は、本発明の好ましい形態の一つである。なお、上記重合開始剤は、1種のものを使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。
【0030】
上記アゾ化合物としては、例えば、以下の化合物等が挙げられる。
2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ジメチル2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2′−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2′−アゾビス〔N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド〕、2,2′−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2′−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)。
【0031】
上記有機過酸化物としては、例えば、以下の化合物等が挙げられる。
ジイソブチリルパーオキシド、パーオキシネオデカン酸クミル、パーオキシジカルボン酸ジ−n−プロピル、パーオキシジカルボン酸ジイソプロピル、パーオキシジカルボン酸ジ−sec−ブチル、パーオキシネオデカン酸1,1,3,3−テトラメチルブチル、パーオキシジカルボン酸ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)、パーオキシジカルボン酸ジ(2−エチルヘキシル)、パーオキシネオデカン酸t−ヘキシル、パーオキシネオデカン酸t−ブチル、パーオキシネオヘプタン酸t−ブチル、パーオキシピバリン酸t−ヘキシル、パーオキシピバリン酸t−ブチル、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジコハク酸パーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシアセテート、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、p−メンタンヒドロパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(1−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド等。
【0032】
本発明の重合体の製造方法は、上述した沈殿工程の前に、重合工程を含むことが好ましい。
本発明の製造方法により製造される重合体としては、本発明の作用効果が発揮されるようなものであることが好ましいが、中でも上述したスチレン及び/又はスチレン誘導体の単量体と不飽和有機酸の単量体とを有する単量体成分を重合することにより製造することがより好ましい。単量体成分の重合系内への投入方法としては、重合開始前に一括で仕込んでもよく、単量体の全部又は一部を連続して投入してもよく、分割して投入してもよい。
【0033】
上記スチレン誘導体としては、例えば、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−エトキシスチレン、m−エトキシスチレン、p−エトキシスチレン、o−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、p−フルオロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、o−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、p−ブロモスチレン、o−アセトキシスチレン、m−アセトキシスチレン、p−アセトキシスチレン、o−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレン等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、スチレンが好ましい。また、スチレン及び/又はスチレン誘導体は、ベンゼン環が、メチル基やtert−ブチル基等のアルキル基、ニトロ基、ニトリル基、アルコキシル基、アシル基、スルホン基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子等の官能基で置換されていてもよい。
【0034】
上記不飽和有機酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、α−ブロモ(メタ)アクリル酸、α−クロル(メタ)アクリル酸、β−フリル(メタ)アクリル酸、β−スチリル(メタ)アクリル酸;マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノイソプロピル等のマレイン酸モノエステル;フマール酸、フマール酸モノメチル、フマール酸モノエチル、フマール酸モノイソプロピル等のフマール酸モノエステル;イタコン酸、イタコン酸無水物、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノイソプロピル等のイタコン酸モノエステル;シトラコン酸、シトラコン酸無水物、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノイソプロピル等のシトラコン酸モノエステル;ケイ皮酸、α−シアノケイ皮酸、クロトン酸、プロピオール酸等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0035】
上記その他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレートアクリルアミド、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレートアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド類;(メタ)アクリロニトリル;ビニルエチルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル等のビニルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ブタン酸ビニル等のビニルエステル類;N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミド等のマレイミド類等が好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0036】
上記重合反応においては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合等が好適であり、これらを組み合わせて重合してもよい。これらの中でも、塊状重合、溶液重合等が好ましい。また、重合開始剤を用いてもよく、例えば、熱によりラジカルを発生するものであることが好適である。このような重合開始剤としては、上述したようなものを好適に用いることができる。
【0037】
上記重合工程においてはまた、反応溶媒を用いることもできる。
上記反応溶媒としては、単量体成分等を溶解することが可能なものであればよく、例えば、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;トルエン、エチルベンゼン、o,m,p−キシレン等の芳香族類等が好適であり、これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、酢酸エチル、3−メトキシブチルアセテートが好ましい。
【0038】
上記重合工程における反応条件について、反応温度としては、40℃以上、150℃以下が好適である。より好ましくは、50℃以上、135℃以下であり、更に好ましくは、60℃以上、120℃以下である。また、反応時間としては、60分以上、720分以下が好ましい。より好ましくは、120分以上、660分以下であり、更に好ましくは、240分以上、600分以下である。
【0039】
本発明の製造方法により得られる重合体としては、酸価は特に限定されないが、30〜300mgKOH/gであることがより好ましい。酸価が30mgKOH/g未満であっても、300mgKOH/gを超えても、感光材料として用いた場合、重合体が発揮する基本性能を充分に向上させることができないおそれがある。下限値としては、より好ましくは50mgKOH/g、更に好ましくは70mgKOH/gであり、上限値としては、より好ましくは250mgKOH/g、更に好ましくは200mgKOH/gである。また、より好ましい範囲としては、50〜250mgKOH/gであり、更に好ましい範囲としては、70〜200mgKOH/gである。
上記酸価は、重合体1g中の酸を中和するのに必要なKOHの質量(mg)であり、自動滴定装置(例えば、平沼産業社製のCOM−1500)を用い、KOH水溶液を滴定剤とする滴定により測定することができる。
【0040】
上記重合体はまた、重量平均分子量が3000〜100000であることが好ましい。重量平均分子量が3000未満であっても、100000を超えても、感光材料として用いた場合、重合体が発揮する基本性能を充分に向上させることができないおそれがある。下限値としては、より好ましくは4000、更に好ましくは5000であり、上限値としては、より好ましくは70000、更に好ましくは50000である。また、より好ましい範囲としては、4000〜70000であり、更に好ましい範囲としては、5000〜50000である。
上記重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;溶出溶媒テトラヒドロフラン)で測定することができる。
【0041】
本発明の重合体の製造方法は、脱揮工程を含むことが好ましい。
再溶解工程後に脱揮工程を行うことにより、重合体溶液から製品として用いるときに不要になる軽沸成分を除去することができ、また不揮発成分の調整をすることが可能となる。例えば濃度、粘度を調整することができる。
上記脱揮工程は、上記重合工程において用いた反応槽や沈殿槽等の装置を用いて行うことができる。なお、本発明の重合体の製造方法において重合液等を槽間で移動する場合は、その移動方法は特に限定されず、配管を通じて行ってもよいし、ドラム缶に詰めること等により移動させてもよい。
上記脱揮工程は、常圧でも減圧でも構わないが、減圧下で行うことが好ましい。上記脱揮工程は系の沸点が200℃以下になる圧力で行うことが好ましい。より好ましくは150℃以下であり、更に好ましくは120℃以下である。
【0042】
本発明の製造方法で得られる重合体は、組成用途とも本発明の作用効果が発揮されるようなものであることが好ましく、中でも不飽和有機酸の単量体単位を有するもの、スチレン及び/又はスチレン誘導体の単量体単位と不飽和有機酸の単量体単位とを有するものは、FPD(フラットパネルディスプレイ)や半導体等に好適に使用でき、中でも、例えば、LCD(液晶ディスプレイ)用の層間絶縁膜や高視野角用突起物、カラーフィルター、オーバーコート、フォトスペーサー、反射型ディスプレイ用反射材等;有機EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレイ用のカソードセパレーター等;半導体用の層間絶縁膜やシュリンク剤;ソルダーレジスト等に特に好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の重合体の製造方法は、上述の構成よりなるので、攪拌機等の装置への負荷を軽減し、装置の故障の危険性を減らして工業的に安全に、かつ、時間を短縮し沈殿工程に用いる貧溶媒の量を削減して効率的に重合体を精製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
重合工程、沈殿・再溶解工程、脱揮工程を以下の条件で行った。なお詳細については、以下の表2、表3に記載の通りである。
【0045】
合成例1
熱交換器、滴下槽2基、攪拌機、温度計、温度調節機器類等を備えた重合槽に酢酸エチル28部を入れ、攪拌しながら70℃に昇温する。滴下槽のうち1基にスチレン41部とメタクリル酸9部を仕込み均一に混合する。別の滴下槽にはABN−V(日本ファインケム株式会社製:2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))4部と酢酸エチル18部を入れ混合し、完全に溶解させる。両滴下槽より反応槽に内容物を等速で4時間かけて滴下する。滴下終了後4時間の熟成を行う。滴下開始から熟成終了までは内温を70℃に保ち、その後冷却する。冷却後にアセトン90部を添加し、完全に均一になるまで混合する。こうして得られた重合体溶液は重量平均分子量7000、不揮発分濃度25%であった。
【0046】
合成例2
合成例1で酢酸エチルのかわりに3−メトキシブチルアセテートを用いた以外は同様に合成を行った。得られた重合体溶液は重量平均分子量7500、不揮発分濃度25%であった。
【0047】
比較例1
合成例1で得た重合体溶液76kgを2枚垂直パドル(輻流型:図2e)を備えた攪拌機を有する600L沈殿槽に仕込み、攪拌を行った。ヘキサン84kgを30分かけて等速で供給し重合体を沈殿させた。ヘキサン供給開始後20分以降は硬いモチ状の沈殿物が多く生成し、生成した沈殿物の一部が塊になって液中に浮遊した。塊が攪拌機に頻繁に接触するため、瞬間的に大きな負荷が攪拌機にかかった。
静置後、上澄み液を除去し、3−メトキシブチルアセテート76kgを一括投入し、攪拌して溶解を試みたが、沈殿物が非常に硬く完全溶解まで約3時間を要した。また、溶解途中に液中に漂った固形物は非常に硬く、攪拌機に頻繁に接触して大きな負荷を与えた。
比較例1では攪拌機を損傷するリスクが高く、また溶解に長時間要するため生産性も低くなった。
【0048】
実施例1
合成例1で得た重合体溶液228kgを4枚傾斜パドル(軸流型:図2a)を備えた攪拌機を有する1000L沈殿槽に仕込み、攪拌を行った。ヘキサン252kgを30分かけて等速で供給し重合体を沈殿させた。ヘキサン供給開始後20分以降も沈殿物はやわらかいスラリー状で、生成した沈殿物はすべて底に沈み浮遊することはなかった。塊が攪拌機に接触することはなく、瞬間的にも大きな負荷が攪拌機にかかることはなかった。
静置後、上澄み液を除去し、3−メトキシブチルアセテート228kgを一括投入し、攪拌して溶解を試みたところ、沈殿物は約1時間で容易に溶解した。また、溶解途中に液中に漂った固形物は非常にやわらかく、攪拌機に接触してもほとんど負荷を与えることはなかった。
実施例1では攪拌機を損傷するリスクがほとんどなく、また溶解は短時間で終了するため生産性も高くなった。
【0049】
実施例2
合成例1で得た重合体溶液1482kgを下段に4枚傾斜パドル(軸流型:図2a)を、上段に4枚垂直パドル(輻流型:図2d)を備えた攪拌機を有する5000L沈殿槽に仕込み、攪拌を行った。ヘキサン1638kgを30分かけて等速で供給し重合体を沈殿させた。ヘキサン供給開始後20分以降も沈殿物はやわらかいスラリー状で、生成した沈殿物はすべて底に沈み浮遊することはなかった。塊が攪拌機に接触することはなく、瞬間的にも大きな負荷が攪拌機にかかることはなかった。
静置後、上澄み液を除去し、3−メトキシブチルアセテート1482kgを一括投入し、攪拌して溶解を試みたところ、沈殿物は約1時間で容易に溶解した。また、溶解途中に液中に漂った固形物は非常にやわらかく、攪拌機に接触してもほとんど負荷を与えることはなかった。
実施例2では攪拌機を損傷するリスクがほとんどなく、また溶解は短時間で終了するため生産性も高くなった。
【0050】
比較例2
合成例1で得た重合体溶液0.38kgを2枚垂直パドル(輻流型:図2e)を備えた攪拌機を有する2L沈殿槽に仕込み、攪拌を行った。ヘキサン0.42kgを30分かけて等速で供給し重合体を沈殿させた。ヘキサン供給開始後20分以降は硬いモチ状の沈殿物が多く生成し、生成した沈殿物の一部が塊になって液中に浮遊した。塊が攪拌機に頻繁に接触するため、瞬間的に大きな負荷が攪拌機にかかった。
静置後、上澄み液を除去し、3−メトキシブチルアセテート0.38kgを一括投入し、攪拌して溶解を試みたが、沈殿物が非常に硬く完全溶解まで約3時間を要した。また、溶解途中に液中に漂った固形物は非常に硬く、攪拌機に頻繁に接触して大きな負荷を与えた。
比較例2では攪拌機を損傷するリスクが高く、また溶解に長時間要するため生産性も低くなった。
【0051】
実施例3
合成例1で得た重合体溶液0.38kgを2枚傾斜パドル(軸流型)を備えた攪拌機を有する2L沈殿槽に仕込み、攪拌を行った。ヘキサン0.42kgを30分かけて等速で供給し重合体を沈殿させた。ヘキサン供給開始後20分以降も沈殿物はやわらかいスラリー状で、生成した沈殿物はすべて底に沈み浮遊することはなかった。塊が攪拌機に接触することはなく、瞬間的にも大きな負荷が攪拌機にかかることはなかった。
静置後、上澄み液を除去し、3−メトキシブチルアセテート0.38kgを一括投入し、攪拌して溶解を試みたところ、沈殿物は約1時間で容易に溶解した。また、溶解途中に液中に漂った固形物は非常にやわらかく、攪拌機に接触してもほとんど負荷を与えることはなかった。
実施例2では攪拌機を損傷するリスクがほとんどなく、また溶解は短時間で終了するため生産性も高くなった。
【0052】
比較例3
合成例2の重合体溶液を用いた以外は比較例2と同様の操作を行ったところ、結果も比較例2と同様であった。
【0053】
実施例4
合成例2の重合体溶液を用いた以外は実施例3と同様の操作を行ったところ、結果も実施例3と同様であった。
【0054】
【表2】

【0055】
表2中、「攪拌機への負荷」は、攪拌機電流値の振れの大きさで判断し、電流計で読み取れないような瞬間的な負荷については目視による官能評価を行った。
攪拌機下段の羽根を垂直パドル翼から傾斜パドル翼(45°かき下げ)へ変更すると、スラリー状沈殿物が生成し、攪拌機に負荷をかけず安定生産できるようになった。
【0056】
【表3】

【0057】
注)表3中、径は、図2eにおける両翼端の間の水平距離、すなわち、パドル翼の直径をいう。
幅は、図2eにおける翼の高さ方向の長さ、すなわち、パドル翼の横幅をいう。
翼高さは、フラスコ底面からパドル翼の一番下の部分までの距離をいう。
比較例2:比較例1と同じ垂直パドル(90°)を用いた場合は硬いモチ状沈殿物が生成した。
実施例3:実施例1、実施例2と同様に傾斜パドル(45°かき下げ)を用いた場合はスラリー状沈殿物が生成した。
【0058】
上述した実施例では、軸流型の攪拌翼として傾斜パドルを使用しているが、軸流型の攪拌翼である限り、軸流の流れを形成することができるようなものであれば、スラリーは巻き上げられずそのままスラリー状沈殿物として残る機構は同様であり、その結果、巻き上げられたスラリーが翼に当たることがなく、攪拌機等の装置にかかる負荷が充分に抑えられたものとなる。また小能力の攪拌機でも製造可能となる。更に、続く再溶解工程において溶解時間が大幅に短縮されることになる。したがって、沈殿工程において軸流型の攪拌翼を用いて攪拌すれば、本発明の効果を生じさせる作用機構は同様である。すなわち、沈殿工程において軸中心から下降流を形成するところに本発明の本質的特徴があり、この下降流がスラリーの巻き上げを妨げて沈殿をスラリー状のままで残すことにより、この実施例で示されるような効果を奏することになる。少なくとも、傾斜パドルを用いて攪拌する場合においては、上述した実施例で充分に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の重合体の製造方法の好適な形態を示す工程図である。
【図2】本発明の重合体の製造方法において好適に用いられる攪拌翼を例示する図である。
【図3】本発明の重合体の製造方法における攪拌翼の好適な回転方向を示す図である。
【図4】本発明の重合体の製造方法において好適に用いられる攪拌槽及び邪魔板を例示する上面図及び断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1:貧溶媒
2:沈殿物
3:軸流型攪拌翼
4:重合体溶液
5:沈殿槽
6:輻流型攪拌翼
7:攪拌槽
8a、8b、8c、8d:邪魔板
9:軸流型攪拌機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体溶液を攪拌しながら重合体を沈殿させる工程を含む重合体の製造方法であって、
該沈殿工程は、軸流型の攪拌翼を用いて攪拌することを特徴とする重合体の製造方法。
【請求項2】
前記製造方法は、重合体を沈殿させる工程、重合体が沈殿した後の上澄み層を抜き出す工程、及び、重合体を溶媒で再溶解させる工程を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
前記攪拌翼は、沈殿した重合体に該攪拌翼が半分以上埋没する位置よりも上方に設置されたものである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
前記沈殿工程は、貧溶媒を重合体溶液に添加して攪拌しながら重合体を沈殿させる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項5】
前記重合体は、スチレン及び/又はスチレン誘導体の単量体単位と不飽和有機酸の単量体単位とを有するものである
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−222931(P2008−222931A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65488(P2007−65488)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】