説明

重合性組成物、これを用いる金属ナノ粒子の製造方法及びこの金属ナノ粒子を保持した硬化膜

【課題】 湿式法により、特殊な設備等を必要とすることなく、分散安定性に優れ、粒径の制御が可能な金属ナノ粒子を簡便かつ容易に製造する方法を提供すること。
【解決手段】 還元により金属微粒子を生成可能な金属化合物[A]と、金属化合物[A]を構成する金属イオン又は金属錯体と相互作用し、かつ還元により析出した金属微粒子の表面に吸着可能な官能基(Q)を有するラジカル重合性ビニル単量体[B]と、光ラジカル重合開始剤[C]と、溶媒[D]とを含有することを特徴とする重合性組成物および上記重合性組成物に活性エネルギー線を照射することにより、金属ナノ粒子の形成と保護ポリマーの形成を一工程で行うことを特徴とする金属ナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線を用いて任意の粒径の金属ナノ粒子を生成させると同時にその保護剤となる高分子化合物をも生成させることが可能な重合性組成物、これを用いる金属ナノ粒子の製造方法及びこの金属ナノ粒子を保持した硬化膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の粒子径をナノサイズまで小さくするにより、特異な光化学的、電気的性質を示すようになるため、この現象を新しい用途や高機能材料等へ応用することが期待されており、ナノサイズの金属粒子の配線材料、センサー、色材等の分野での利用が活発に研究されている。
【0003】
ところで、金属ナノ粒子の製造方法としては大きく2種類が知られている。即ち、CVD法や噴霧熱分解法などの気相法と、化学的な還元反応を利用した湿式法である。このうち、従来の湿式法では、製造された微粒子の凝集性が強く、単分散粒子が得られ難いため、凝集が少ない高純度の銀微粒子などは多くが気相法によって製造されていた。一方、気相法によって得た金属微粒子は単分散性に優れるが、製造コストが高く、かつ粒度制御が難しいと云う問題がある。
【0004】
そこで、湿式法、例えば、酸化銀、硝酸銀などの銀化合物を溶媒中で還元剤により還元する公知の湿式製造方法によりながら、分散性に優れた金属微粒子を製造することが試みられている。
【0005】
例えば、特許文献1には、硝酸銀溶液をクエン酸ソーダの存在下、硫酸第一鉄によって還元して銀微粒子を製造する方法が開示され、クエン酸ソーダと硫酸第一鉄の水溶液に、硝酸銀水溶液を短時間で添加することによって銀ナノ粒子を製造できるとしている。
【0006】
また、特許文献2では、還元性ラジカル活性種の前駆体と金属イオン又は金属錯体とを含んだ媒体に、2種類の励起光を照射することにより発生する活性ラジカル種からの電子移動を用いて、金属ナノ粒子が製造できるとしている。
【0007】
このほかにも、特許文献3では、水溶液中で、還元剤としてテトラヒドロほう酸ナトリウム、金属ナノ粒子分散剤としてポリマーを使用し、硝酸銀を還元するに当たり、その時の水溶液温度、分散剤の量を調整することで、還元される銀ナノ粒子の形状を制御することができ、対応する銀ナノ粒子のプラズモン共鳴の吸収特性を制御して化粧品着色剤へ応用できるとしている。
【0008】
また、特許文献4には、大気条件下での安定性、小さな粒径、高い費用効率、及び高い処理量歩留りという条件を満たし、高い費用効率でより容易に製造し使用することができるインクの製造方法として、銅塩に光ラジカル発生剤を加え、汎用のUV光を照射することで粒子径の小さな銅を還元する方法が示されている。
【0009】
しかしながら特許文献1の方法は、硝酸銀溶液の投入を10秒以内の短時間で行う必要があり、大量に銀ナノ粒子を製造する場合には実用的とは言えない。
【0010】
また、特許文献2に関しても、活性ラジカル種を生成させるために、2種類の波長の光を用いる必要があり、光を当てる時間間隔も高度に制御する必要があるため、大掛かりな装置を有することになり、コスト面からみて実用的な方法とは言えない。
【0011】
更に、特許文献3、4に関しては大量生産といった観点からは有用であると思われるが、粒径の制御といった観点からみれば、特許文献3は、還元温度によっても粒径が変化し、大量生産した場合、反応熱の影響で生成する金属ナノ粒子の粒径が変化することも考えられるが、その点について触れられていない。また特許文献4に関しては、還元された金属ナノ粒子は無コーティングであり、安定剤として金属ナノ粒子と相互作用する安定化分子を添加する必要があり、金属ナノ粒子製造から安定化剤を添加する時間により金属ナノ粒子の粒径が変化し、凝集、沈降するといった保存安定性の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−45655号公報
【特許文献2】特開2007−70723号公報
【特許文献3】特開2009−221140号公報
【特許文献4】特開2009−280812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、湿式法による金属ナノ粒子の製造方法についての上記事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、特殊な設備等を必要とすることなく、分散安定性に優れ、粒径の制御が可能な金属ナノ粒子を簡便かつ容易に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題に対して本発明者らは鋭意研究した結果、形成される金属ナノ粒子と相互作用する官能基とラジカル反応部位を有するモノマー、光ラジカル開始剤、ナノ粒子の金属源となる各種金属塩を含む重合性組成物を用い、これに活性エネルギー線を照射することにより、分散安定性に優れ、粒径が制御された金属ナノ粒子を簡便かつ容易に製造できることを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[11]の態様を含むものである。
【0016】
[1]還元により金属微粒子を生成可能な金属化合物[A]と、金属化合物[A]を構成する金属イオン又は金属錯体と相互作用し、かつ還元により析出した金属微粒子の表面に吸着可能な官能基(Q)を有するラジカル重合性ビニル単量体[B]と、光ラジカル重合開始剤[C]と、溶媒[D]とを含有することを特徴とする重合性組成物。
【0017】
[2]前記金属化合物[A]が、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀および銅よりなる群から選択された少なくとも1種の金属の金属塩又は金属錯体である[1]の重合性組成物。
【0018】
[3]前記ラジカル重合性ビニル単量体[B]において、官能基(Q)が、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子よりなる群から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する官能基又はハロゲン原子である[1]又は[2]の重合性組成物。
【0019】
[4]前記ラジカル重合性ビニル単量体[B]において、官能基(Q)が、ヒドロキシル基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基及びカルボキシル基の塩から選択される1種又は2種以上の官能基である[1]〜[3]のいずれかに記載の重合性組成物。
【0020】
[5]前記ラジカル重合性ビニル単量体[B]が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩およびオキシアルキレン基を含む(メタ)アクリル酸エステルよりなる群から選択される1種又は2種以上である[1]〜[4]のいずれかに記載の重合性組成物。
【0021】
[6]前記溶媒[D]が、水、アルコール類、脂肪族多価アルコール類、ピロリドン類及びこれらの混合溶媒よりなる群から選択される極性溶媒である[1]〜[5]のいずれかの重合性組成物。
【0022】
[7]溶媒中に保護ポリマーで被覆された金属ナノ粒子を形成する金属ナノ粒子の製造方法であって、[1]〜[6]の何れかの重合性組成物に活性エネルギー線を照射することにより、金属ナノ粒子の形成と保護ポリマーの形成を一工程で行うことを特徴とする金属ナノ粒子の製造方法。
【0023】
[8][1]〜[6]の何れかの重合性組成物に活性エネルギー線を照射することにより得られる保護ポリマーで被覆された金属ナノ粒子と、多官能単量体と、重合開始剤と、溶媒とを含む硬化性組成物を基板に塗布し、加熱又は活性エネルギー線を照射することにより金属ナノ粒子を保持した硬化膜を形成することを特徴とする、金属ナノ粒子を保持した硬化膜の製造方法。
【0024】
[9][1]〜[6]の何れかの重合性組成物にさらに多官能単量体を配合した硬化性組成物を基板に塗布し、活性エネルギー線を照射することにより金属ナノ粒子の形成と硬化膜の形成とを一工程で行うことを特徴とする、金属ナノ粒子を保持した硬化膜の製造方法。
【0025】
[10]多官能単量体が多官能(メタ)アクリル酸エステルである[8]又は[9]の硬化膜の製造方法。
【0026】
[11][8]〜[10]の何れかの製造方法により製造された硬化膜。
【発明の効果】
【0027】
本発明の重合性組成物を使用することにより、簡便な方法で、分散安定性に優れ、かつ粒径の制御された金属ナノ粒子を製造することができる。そして、本発明で得られた金属ナノ粒子は、導電性ペースト、生体センサー、塗料用色材等へ応用することができるものである。
【0028】
また、本発明の重合性組成物によれば、金属ナノ粒子を保持した硬化膜を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の重合性組成物は、還元により金属微粒子を生成可能な金属化合物[A]と、金属化合物[A]を構成する金属と相互作用する官能基を有するラジカル重合性基ビニル単量体[B]と、光ラジカル重合開始剤[C]と、溶媒[D]を含有するものであり、金属ナノ粒子の製造に有利に用いられる。
【0030】
上記重合組成物に用いられる金属化合物[A]としては、金属ナノ粒子とすべき金属(以下、「目的金属」ということがある)を含む化合物であればよく、目的金属の金属塩や、金属錯体が用いられる。このうち、金属塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などの無機塩;酢酸銀、クエン酸銀などの有機酸塩などが挙げられる。また、金属錯体としては、例えば、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、アセチルアセトン錯体などが挙げられる。
【0031】
一方、金属化合物[A]での目的金属としては、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅などが挙げられる。導電性ペーストなど配線材料として使用する場合は、導電膜の比抵抗を低くすることができる点で金、銀、銅が好ましい。
【0032】
好ましい金属化合物[A]の具体的な例としては、塩化金酸、塩化金酸カリウム、三塩化金、硝酸銀、塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、白金アセチルアセトン錯体、塩化パラジウム、パラジウムアセチルアセトン錯体、塩化銅、銅アセチルアセトン錯体、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケルなどが挙げられる。
【0033】
上記に挙げた金属化合物[A]は、2種以上の異なる目的金属の混合物を用いることもでき、この場合は、2種以上の異なる金属からなる複合金属ナノ粒子を形成することができる。
【0034】
本発明の重合性組成物における金属化合物[A]を構成する目的金属の濃度は、0.01〜50質量%(以下、単に「%」で示す)の範囲が好ましく、0.1〜30%がより好ましい。金属化合物[A]の含有量が上記目的金属濃度範囲を超えて大きくなると、得られる金属ナノ粒子が凝集して分散が悪くなる場合がある。また、金属化合物[A]の含有量が上記目的金属濃度範囲未満であると希薄濃度であるため溶液の無駄が多くなり、収率が低下する問題が生じる場合がある。
【0035】
また、上記重合組成物に用いられるラジカル重合性ビニル単量体[B](以下、「ビニルモノマー」ということがある)は、単にラジカル重合性を有するビニル単量体であるだけでなく、前記金属イオン又は金属錯体と相互作用し、かつ還元により析出した金属微粒子の表面に吸着可能な官能基(Q)を有することが必要である。このような官能基(Q)としては、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する官能基又はハロゲン原子を挙げることができる。
【0036】
上記官能基のうち、より具体的に窒素原子を有するものとしては、例えば、アミノ基(−NH);ジアルキルアミノ基などの置換アミノ基;イミノ基(−NH−);ピリジル基、カルバゾール基、モルホリニル基、ピロリジニル基などの窒素環基;アミド基(−CON<);イミド基;カルバモイル基(−CONH);シアノ基;ニトロ基などが挙げられる。
【0037】
また、酸素原子を有する官能基としては、例えば、ヒドロキシル基;エーテル基(−O−);ホルミル基;カルボニル基(−CO−);エステル基(−COO−);カルボキシル基(−COOH)及びその塩;テトラヒドロピラニル基などの酸素環基などが挙げられる。
【0038】
更に、硫黄原子を有する官能基としては、例えば、チオール基;チオエーテル基(−S−);チオカルボニル基(>S=O);スルホ基(−SOH)及びその塩;スルファモイル基;スルホニル基(−SO−)などが挙げられる。
【0039】
更にまた、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0040】
これらの官能基の中でも、酸素原子を有する官能基が好ましく、特にヒドロキシル基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基及びカルボキシル基の塩が好ましい。エーテル基としては、オキシアルキレン基が好ましく、ポリオキシアルキレン基がより好ましい。カルボキシル基の塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが好ましい。
【0041】
ビニルモノマー[B]は、これらの官能基を1又は2以上有しているものが用いられるが、異なる官能基を2種以上組み合わせて有していてもよい。
【0042】
このようなビニルモノマー[B]としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸ナトリウムなどの不飽和カルボン酸塩;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレートなどの不飽和カルボン酸の低級アルキルエステル;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メチルポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エチルポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのオキシアルキレン基を含む不飽和カルボン酸エステル;無水マレイン酸などの不飽和酸無水物;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンなどの不飽和カルボン酸アミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミドなどのマレイミド化合物;ビニルピリジン、N−ビニルピロリジノン、N−ビニルカルバゾールなどの窒素環基を有するビニル化合物;ヒドロキシスチレン、メトキシスチレンなど、含酸素機を有するスチレン誘導体;アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩などが挙げられる。これらの中でも、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸塩、オキシアルキレン基を含む不飽和カルボン酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩、オキシアルキレン基を含む(メタ)アクリル酸エステルが特に好ましい。これらは単独で用いてもよいし、数種類を同時に使用してもよい。
【0043】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とはアクリル又はメタクリルを、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート又はメタクリレートを、「(メタ)アクリロイル」とはアクリロイル又はメタクリロイルをそれぞれ意味する。
【0044】
本発明の重合性組成物におけるビニルモノマー[B]の濃度は1〜50%の範囲が好ましく、3〜30%がより好ましい。ビニルモノマー[B]の含有量が上記範囲未満であると、得られる金属ナノ粒子の分散が悪くなる場合がある。また、ビニルモノマー[B]の含有量が上記範囲を超えて大きくなると、例えば金属ナノ粒子を焼結して導電膜を得る場合などにおいて、ポリマー由来の残渣やボイドが多くなり、金属ナノ粒子同士の接合が不十分となり、抵抗値が高くなる場合がある。
【0045】
更に、本発明に重合性組成物において用いられる光ラジカル重合開始剤[C](以下、「開始剤[C]」ということがある)は、活性エネルギー線で結合開裂する化合物であればよく、このような性質を有している化合物であれば特に限定なく、広範な化合物を用いることができる。
【0046】
この開始剤[C]としては、例えば、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、キサントール、フルオレイン、ベンズアルデヒド、アンスラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−メチルアセトフェノン、3−ペンチルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、4−メトキシアセトフェン、3−ブロモアセトフェノン、4−アリルアセトフェノン、p−ジアセチルベンゼン、3−メトキシベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4−クロロ−4’−ベンジルベンゾフェノン、3−クロロキサントーン、3,9−ジクロロキサントーン、3−クロロ−8−ノニルキサントーン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、ベンジルメトキシケタール、2−クロロチオキサントーン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0047】
これらの開始剤[C]として、以下の商品名の市販品を用いても良い。すなわち、チバスペシャルティケミカルズ社製IRGACURE(登録商標)184、127、2959、369、379、DAROCURE(登録商標)1173、MBF、TPO等の市販品を利用することができる。
【0048】
これらの開始剤[C]は単独で用いてもよいし、活性エネルギー線の波長、強度により最適化を目的に2種以上使用を併用してもよい。
【0049】
本発明の重合性組成物中における開始剤[C]の濃度は、通常0.0001〜20%、好ましくは0.001〜15%、より好ましくは、0.01〜10%である。開始剤[C]の濃度が上記範囲を超えて高くなると、結合開裂後の分解物が大量に発生し、液が白濁したり、分解物の除去に多大なコストが発生するため好ましくない。
【0050】
更にまた、本発明の重合性組成物に使用する溶媒[D]としては、前記ビニルモノマー[B]を溶解し、前記金属化合物[A]及び開始剤[C]を溶解又は分散可能なものであれば特に限定されず、混合物の種類に応じて、極性溶媒(水溶性溶媒)であっても、疎水性溶媒(非水溶性溶媒)であってもよい。
【0051】
上記の極性溶媒には、水及び水溶性有機溶媒が含まれる。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなど脂肪族多価アルコール類;ホルムアミド、アセトアミドなどのアミド類;N−メチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド,N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのモノ又はジアシルアミド類;2−ピロリドン、3−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−3−ピロリドンなどのピロリドン類;アセトンなどのケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;酢酸などの有機カルボン酸類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類;エチルセロソルブアセテートなどアセテート類;メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルカルビトールなどカルビトール類;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらの極性溶媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
また、疎水性溶媒としては、例えば、ヘキサン、トリメチルペンタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルなどのエーテル類が挙げられる。これらの疎水性溶媒は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
これらの溶媒のうち、溶解性、分散性、環境保全性及び簡便性などの観点から極性溶媒が好ましく、中でも水、アルコール類、脂肪族多価アルコール類、ピロリドン類及びこれらの混合溶媒が好ましく、特に水又は水とアルコール類、脂肪族多価アルコール類、ピロリドン類からなる群から選択された少なくとも一種の極性溶媒とを組み合わせた混合溶媒が好ましい。
【0054】
溶媒[D]として、水と極性溶媒の混合溶媒を用いる場合、極性溶媒の割合は、水100部に対して、通常0.01〜80部、好ましくは0.05〜60部であり、より好ましくは、0.1〜40部である。
【0055】
上記した本発明の重合性組成物を用いて金属ナノ粒子を製造するには、次のようにすればよい。すなわち、上記の重合性組成物に活性エネルギー線を照射することにより、前記金属化合物[A]の還元と前記ビニルモノマー[B]のラジカル重合が同時に生起し、金属ナノ粒子と、その保護剤となる高分子化合物の形成が一工程で行なわれ、溶液中で金属ナノ粒子が製造される。
【0056】
重合性組成物に対する活性エネルギー線の照射方法は特に限定されないが、その光ラジカル重合開始剤の性質に応じて、高圧水銀灯、低圧水銀灯、DeepUVランプ、電子線照射装置、ハロゲンランプ、発光ダイオード、半導体レーザー等による光及び電子線の照射が挙げられる。
【0057】
活性エネルギー線の照射強度としては、開始剤[C]を開裂させるに足りる照射強度以上が望ましく、通常1〜10000mW/cm、好ましくは10〜5000mW/cmであり、より好ましくは、100〜2500mW/cmである。
【0058】
なお、上記の金属ナノ粒子の製造方法においては、ビニルモノマー[B]の種類やその添加量を変化させることにより、金属ナノ粒子の粒径を制御することができる。例えば、ビニルモノマー[B]としてアクリル酸を用いて銀ナノ粒子を製造する場合、アクリル酸の添加量が小さくなるほど相対的に粒径の大きな銀ナノ粒子が得られ、また、ビニルモノマー[B]としてアクリル酸とメトキシポリエチレングリコールモノアクリレートを併用した場合、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレートの添加量が大きくなるほど相対的に粒径の小さな銀ナノ粒子が得られる。
【0059】
上記した方法で得られた金属ナノ粒子は、ビニルモノマー[B]由来の保護ポリマーに含まれる官能基(Q)が金属ナノ粒子の表面に吸着することにより、保護ポリマーで被覆された状態で溶液中に分散しているため、溶媒に対して高い分散性を有しており、また、長期間に亘りこのような高い分散安定性を維持している。また、本発明で得られる金属ナノ粒子含有溶液を、生成ポリマーの貧溶媒に投入することで、金属ナノ粒子を保持した粉体として取り出すことができる。
【0060】
金属ナノ粒子を配線材料や導電阻止として使用することは公知であり、本発明方法により得られた金属ナノ粒子は、溶液で、あるいは金属ナノ粒子を保持した粉体を分散させたペーストを基板に塗膜し、これを熱処理することによって電気伝導層を形成することができ、配線材料や伝導素子として使用することができる。
【0061】
上記のように、本発明の重合性組成物に対し活性エネルギー線を照射することにより得られる保護ポリマーで被覆された金属ナノ粒子は、溶媒に対して高い分散性を有しているので、これを利用して硬化性組成物を調製すれば、金属ナノ粒子を保持した硬化膜を容易に得ることができる。すなわち、具体的な方法の一つとしては、本発明の重合性組成物に活性エネルギー線を照射して得られる保護ポリマーで被覆された金属ナノ粒子と、多官能単量体と、重合開始剤と、溶媒とを含む硬化性組成物を調製し、これを基板などに塗布し、更に加熱又は活性エネルギー線を照射することにより、金属ナノ粒子を保持した硬化膜を容易に製造することができる(製法I)。
【0062】
上記製法Iにおいて、硬化性組成物に用いる多官能単量体としては、保護ポリマーの良溶媒に対して溶解するものが好ましく、具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンエチレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加体のトリ(メタ)アクリレートなどの多官能の不飽和カルボン酸エステル;N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどの多官能の不飽和カルボン酸アミドなどが挙げられる。これらのなかでも多官能(メタ)アクリル酸エステルを好適に用いることができる。
【0063】
また、硬化性組成物に用いる重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤又は光ラジカル重合開始剤が挙げられる。熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム又は過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、o−クロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート又は1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)又はアゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。光ラジカル重合体としては、本発明の重合性組成物に用いられる開始剤[C]として例示したものを用いることができる。これらの重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
硬化性組成物に用いる溶媒としては、本発明の重合性組成物に用いられる溶媒[D]と同様の溶媒を挙げることができる。
【0065】
金属ナノ粒子は、本発明方法により得られた保護ポリマーで被覆された金属ナノ粒子を溶液のまま用いても良いし、金属ナノ粒子を保持した粉体として取り出した後、上記溶媒に溶解させてもよい。硬化性組成物中の金属ナノ粒子の濃度は0.01〜50%の範囲が好ましく、0.1〜30%がより好ましい。また、多官能単量体の濃度は1〜50%の範囲が好ましく、3〜30%がより好ましい。さらにまた、重合開始剤の濃度は、通常0.0001〜20%、好ましくは0.001〜15%であり、より好ましくは、0.01〜10%である。
【0066】
また、本発明の重合性組成物を用いて金属ナノ粒子を保持した硬化膜を製造する別の方法としては、当該重合性組成物に多官能単量体を配合した硬化性組成物を調製し、これに活性エネルギー線を照射する方法が挙げられる(製法II)。すなわち、多官能単量体を含有する重合性組成物を硬化性組成物として基板に塗布し、活性エネルギー線を照射することにより、前記金属化合物[A]の還元と、前記ビニルモノマー[B]および多官能単量体の架橋重合が同時に生起し、金属ナノ粒子の形成と硬化膜の形成とを一工程で行うことができる。
【0067】
製法IIに用いられる多官能単量体としては、製法Iにおいて例示したものを同様に用いることができる。
【0068】
また、製法IIにおいて使用される硬化性組成物中の多官能単量体の濃度は、1〜50%の範囲が好ましく、3〜30%がより好ましい。
【0069】
なお、製法I又は製法IIによって得られる金属ナノ粒子を保持した硬化膜は、反射膜、導電膜、分離膜など、種々の用途に応用することができる。また、銀ナノ粒子は粒径や形状に応じてプラズモン共鳴による発色が異なることが知られており、銀ナノ粒子を保持した硬化膜は、光学デバイスやセンサー、色材などにも応用することができる。
【実施例】
【0070】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に何ら制約されるものではない。
【0071】
なお、金ナノ粒子及び銀ナノ粒子においては、金属ナノ粒子由来の表面プラズモン共鳴により発色することが知られているので、実施例での金属ナノ粒子の生成は、目視による発色および吸光光度計(日本分光株式会社製、V−570)による吸収波長の確認によりおこなった。
【0072】
また、活性エネルギー線照射装置としては、スポットキュアSP−7(ウシオ電機株式会社製)を用いた〔光源:DeepUVランプ、ピーク照度:500mW/cm〕。更に照射強度は、紫外線照度計 UIT−101(ウシオ電機株式会社製)を用い、測定した。
【0073】
実 施 例 1
ガラス瓶に、アクリル酸ナトリウム(40%中和)0.5g、1mol/L塩化金酸水溶液 0.5g、光ラジカル重合開始剤(DALOCURE1173(商品名);チバスペシャルティケミカルズ社製)0.02g、イオン交換水10g及びメタノール0.3gを投入し、5分間攪拌して重合性組成物を調製した。次いで、活性エネルギー線を90秒照射した。照射後の溶液は赤色を呈しており、浮遊物や沈殿物は無かった。吸光光度計による吸収波長を確認した結果、表面プラズモン吸収(ピークトップ波長λmax=527nm)が観測され、金ナノ粒子の生成が確認された。
【0074】
実 施 例 2
アクリル酸ナトリウムとして100%中和品を用いた以外は実施例1と同様に重合性組成物を調製し、活性エネルギー線を90秒照射した。照射後の溶液は赤紫色を呈しており、浮遊物や沈殿物は無かった。吸光光度計による吸収波長を確認した結果、表面プラズモン吸収(ピークトップ波長λmax=577nm)が観測され、金ナノ粒子の生成が確認された。なお、金ナノ粒子は粒径が大きくなるに従って吸収スペクトルが長波長側にシフトすることが知られており、このことから実施例2では、実施例1と比較して粒径の大きな金ナノ粒子が生成していることが示唆された。
【0075】
比 較 例 1
アクリル酸ナトリウムを用いなかった以外は、実施例1と同様に重合性組成物を調製し、活性エネルギー線を90秒照射した。照射後の溶液は無色であり、黒い沈殿物が発生していた。吸光光度計による吸収波長を確認した結果、表面プラズモン吸収は観測されなかった。
【0076】
比 較 例 2
アクリル酸ナトリウム及び光ラジカル重合開始剤(DALOCURE1173(商品名))を用いなかった以外は、実施例1と同様に重合性組成物を調製し、活性エネルギー線を90秒照射した。照射後の溶液は無色であり、浮遊物や沈殿物は無かった。吸光光度計による吸収波長を確認した結果、表面プラズモン吸収は観測されなかった。
【0077】
比 較 例 3
アクリル酸ナトリウムのかわりにポリアクリル酸ナトリウムを用いた以外は、実施例1と同様に重合性組成物を調製し、活性エネルギー線を90秒照射した。照射後の溶液は無色であり、黒い沈殿物が発生していた。吸光光度計による吸収波長を確認した結果、表面プラズモン吸収は観測されなかった。
【0078】
実施例1、2及び比較例1〜3の組成物の配合および活性エネルギー線照射後の溶液の様子を表1にまとめて示す。
【0079】
【表1】

【0080】
実 施 例 3
ガラス瓶にアクリル酸 3.5g、イオン交換水 10g、光ラジカル重合開始剤(DALOCURE1173(商品名))0.02g、1mol/L硝酸銀水溶液 5g、メタノール 0.2gを投入し、5分間攪拌して重合性組成物を調製した。次いで、これに活性エネルギー線を90秒照射した。照射後の溶液は黄色を呈しており、沈殿物や析出物は無かった。吸光光度計による吸収波長を確認した結果、表面プラズモン吸収(ピークトップ波長λmax=458nm)が観測され、銀ナノ粒子の生成が確認された。
【0081】
実 施 例 4〜8 および 比 較 例 4
実施例3と同様にして、後記表2の実施例4〜8および比較例4に示す組成(重量部)で重合性組成物を調製し、活性エネルギー線を90秒照射した。照射後の溶液の色、沈殿物の有無及び吸光光度計による吸収波長を確認した結果も表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
この結果、実施例3〜6では、いずれも460nm付近に吸収ピークを有しているが、銀に対するアクリル酸の添加量が少なくなるにつれて長波長側にピークがシフトする傾向が見られた。銀ナノ粒子では、粒径が大きくなるに従い吸収ピークが長波長側にシフトすることが知られており、実施例3〜6の結果は、アクリル酸の添加量により銀ナノ粒子の粒径を制御することができることを示すものである。更に、最もアクリル酸の添加量が少ない実施例6では、757nm付近にも小さな吸収ピークが見られ、やや緑がかった色調を呈した。
【0084】
また、アクリル酸とメトキシポリエチレングリコール550モノアクリレートを併用した実施例7及び8では、メトキシポリエチレングリコール550モノアクリレートの添加量に応じて吸収ピークが低波長側にシフトしており、アクリル酸とメトキシポリエチレングリコール550モノアクリレートの配合比率により銀ナノ粒子の粒径を制御可能であることが示された。
【0085】
なお、アクリル酸ナトリウムのかわりにポリアクリル酸ナトリウム2.5gを用いた以外は、実施例3と同様に重合性組成物を調製した場合(比較例4)は、硝酸銀水溶液を入れると同時にポリマーが沈殿した。この状態で活性エネルギー線を90秒照射したところ青黒く変色し、銀ナノ粒子を得ることはできなかった。
【0086】
実 施 例 9〜13
実施例3と同様にして、表3に示す組成(重量部)で重合性組成物を調製し、活性エネルギー線を90秒照射した。照射後の溶液の色、沈殿物の有無及び吸光光度計による吸収波長を確認した結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
この結果、実施例9〜13では800nm付近に大きな吸収ピークが見られ、実施例3〜8とは大きく色調の異なる溶液が得られた。800nm付近のピークは、実施例3〜8で得られた銀ナノ粒子とは全く異なる形態で銀ナノ粒子が分散している状態を示すものと考えられる。
【0089】
実施例9〜11では460nm付近のピークは全く見られず、アクリル酸濃度が10%以下では、実施例3〜8で得られた銀ナノ粒子と同じ形態の銀ナノ粒子は生成していないことが分かる。一方、アクリル酸濃度が実施例5及び6とほぼ同程度である実施例12及び13では、460nm付近にも弱いピークがみられて色調も緑色を呈しており、実施例3〜8で得られた銀ナノ粒子と同じ形態の銀ナノ粒子が得られていることが分かる。
【0090】
以上、表1〜3の結果から、金属化合物[A]と、この金属化合物[A]を構成する金属イオン又は金属錯体と相互作用し、かつ還元により析出した金属微粒子の表面に吸着可能な官能基(Q)を有するビニルモノマー[B]を併用することで、金属ナノ粒子を溶媒中に安定に保持することができることが明らかになった。
【0091】
また、表2及び3から明らかなように、アクリル酸の濃度、もしくはアクリル酸と金属塩の比率を変えることで、粒径の大きさを制御することができることも明らかになった。
【0092】
実 施 例 14
製法Iによる硬化膜の製造例:
実施例1で得られた金ナノ粒子を含む溶液に、アセトン20gを投入し、金ナノ粒子を保持したポリマーを析出させた。このポリマーを一昼夜60℃のオーブンで減圧乾燥させ、金ナノ粒子を保持したポリマー0.5gを得た。得られたポリマーは、金ナノ粒子の特徴である赤紫の呈色を示していた。
【0093】
得られた金ナノ粒子を保持したポリマー0.5gにイオン交換水2.0gを加え、超音波にて溶解させた。この溶液にポリエチレングリコールジアクリレート(n=9)(A−400(商品名);新中村化学株式会社製)0.5gと、光ラジカル重合開始剤(DALOCURE1173(商品名))0.02gを投入し、攪拌を行った。
【0094】
得られた調製液をバーコーターにてガラス基板上に塗布し、活性エネルギー線を90秒照射し、ついで140℃のオーブンで10分間加熱して、赤紫色に呈色した透明な独立膜を得た。
【0095】
実 施 例 15
製法IIによる硬化膜の製造例:
ガラス瓶に、アクリル酸ナトリウム(40%中和)0.5g、1mol/L塩化金酸水溶液0.5g、光ラジカル重合開始剤(DALOCURE1173(商品名))0.02g、イオン交換水2.0g、メタノール0.2g及びポリエチレングリコールジアクリレート(n=9)(A−400(商品名))0.1gを混合し、5分間攪拌して重合性組成物を調製した。
【0096】
この液をバーコーターにてガラス基板上に塗布し、活性エネルギー線を90秒照射し、ついで140℃のオーブンで10分間加熱して、赤紫色に呈色した透明な独立膜を得た。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の重合性組成物を使用することにより、簡単に、分散安定性に優れ、かつ粒径の制御された金属ナノ粒子を製造することができ、得られたこの金属ナノ粒子は、導電性ペースト、生体センサー、塗料用色材等へ利用することができる。
【0098】
また、本発明の重合性組成物を利用することで、金属ナノ粒子を保持した硬化膜を容易に製造することができ、この硬化膜は、反射膜、導電膜、分離膜等に利用することができる。更に、銀ナノ粒子は粒径や形状に応じてプラズモン共鳴による発色が異なることが知られており、銀ナノ粒子を保持した硬化膜は、光学デバイスやセンサー、色材などにも応用することができる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元により金属微粒子を生成可能な金属化合物[A]と、金属化合物[A]を構成する金属イオン又は金属錯体と相互作用し、かつ還元により析出した金属微粒子の表面に吸着可能な官能基(Q)を有するラジカル重合性ビニル単量体[B]と、光ラジカル重合開始剤[C]と、溶媒[D]とを含有することを特徴とする重合性組成物。
【請求項2】
前記金属化合物[A]が、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀および銅よりなる群から選択された少なくとも1種の金属の金属塩又は金属錯体である請求項1記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記ラジカル重合性ビニル単量体[B]において、官能基(Q)が、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子よりなる群から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する官能基又はハロゲン原子である請求項1又は2記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記ラジカル重合性ビニル単量体[B]において、官能基(Q)が、ヒドロキシル基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基及びカルボキシル基の塩から選択される1種又は2種以上の官能基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項5】
前記ラジカル重合性ビニル単量体[B]が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩およびオキシアルキレン基を含む(メタ)アクリル酸エステルよりなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項6】
前記溶媒[D]が、水、アルコール類、脂肪族多価アルコール類、ピロリドン類及びこれらの混合溶媒よりなる群から選択される極性溶媒である請求項1〜5のいずれか1項に記載の重合性組成物。
【請求項7】
溶媒中に保護ポリマーで被覆された金属ナノ粒子を形成する金属ナノ粒子の製造方法であって、請求項1〜6の何れか1項記載の重合性組成物に活性エネルギー線を照射することにより、金属ナノ粒子の形成と保護ポリマーの形成を一工程で行うことを特徴とする金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項記載の重合性組成物に活性エネルギー線を照射することにより得られる保護ポリマーで被覆された金属ナノ粒子と、多官能単量体と、重合開始剤と、溶媒とを含む硬化性組成物を基板に塗布し、加熱又は活性エネルギー線を照射することにより金属ナノ粒子を保持した硬化膜を形成することを特徴とする、金属ナノ粒子を保持した硬化膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか1項記載の重合性組成物にさらに多官能単量体を配合した硬化性組成物を基板に塗布し、活性エネルギー線を照射することにより金属ナノ粒子の形成と硬化膜の形成とを一工程で行うことを特徴とする、金属ナノ粒子を保持した硬化膜の製造方法。
【請求項10】
多官能単量体が多官能(メタ)アクリル酸エステルである請求項8又は9記載の硬化膜の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10の何れか1項記載の製造方法により製造された硬化膜。

【公開番号】特開2012−12529(P2012−12529A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151598(P2010−151598)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】