説明

金の吸着剤および金の選択的分離回収方法

【課題】金を含有する液体から金を容易に効率よく選択的に回収するための吸着剤、およびそれを用いた金の選択的分離回収方法の提供。
【解決手段】一般式(1):


(式中、R1およびR2は、同一または異なり、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を示す。R3およびR4は、同一または異なり、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい単環式炭素環基、置換基を有してもよい縮合多環式炭素環基、置換基を有してもよい単環式複素環基または置換基を有してもよい縮合多環式複素環基を示す。)で表される繰り返し単位を有し、数平均分子量が500〜1000000の範囲であるポリアニリン系樹脂を有効成分とする金の吸着剤、それを用いた選択的分離回収方法等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金の吸着剤およびそれを用いた金の選択的分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子・電気分野、有機合成分野等を始めとする工業技術のめざましい発展に伴い、金、銀、パラジウム、白金、ロジウム等の金属は、装飾品だけではなく、例えば半導体、基板、ブラウン管等の電子工業材料や有機化学反応の触媒等として広く使用されている。ところが、その一方で、これらの金属の産出量が他の金属に比べて少ないことはよく知られた事実であり、これらの金属を効率良く回収、再利用することが大きな課題となっている。
【0003】
金を含有する排水より金を回収する方法として、いくつかの方法が知られている。例えば、加熱濃縮、活性炭、溶媒抽出、電気分解利用などである。しかし、これらの方法では、排水中の金の濃度が高い場合には適用可能であるが、排水中の金濃度が希薄な場合には、回収されずに溶液中に残存する金が多くなり、回収率が低下するといった問題がある。また、複数の金属を含む排水中から金を選択的に回収することが困難であった(非特許文献1参照)。
【0004】
イオン交換樹脂を用いて金を濃縮回収する方法では、回収率が比較的高いことが知られているが、金を吸着した樹脂から金を回収する際に、樹脂から金を脱着させることができず、高価な樹脂を灰化してから金を回収しなければならなかったり、脱着することができても脱着率が低く、金の回収率が低下するため、樹脂を再利用することが出来なくなってしまうといった問題点がある。
【0005】
また、回収を目的とした金を含有する溶液には、金の他に、パラジウム、白金、鉄、ニッケル、銅、鉛、亜鉛、スズ、コバルトなどの金属が多量に含まれていることが多く、金回収の際にこれらの金属が金に混入し、品位の高いものが得られず、その後の金の精製に多くの工程を有するといった問題点がある(特許文献1参照)。
【0006】
【非特許文献1】機能材料,26巻,5(2006)
【特許文献1】特開平1−111824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金を含有する液体から金を容易に効率よく選択的に回収するための吸着剤およびそれを用いた金の選択的分離回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1およびR2は、同一または異なり、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を示す。R3およびR4は、同一または異なり、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい単環式炭素環基、置換基を有してもよい縮合多環式炭素環基、置換基を有してもよい単環式複素環基または置換基を有してもよい縮合多環式複素環基を示す。)で表される繰り返し単位を有し、数平均分子量が500〜1000000の範囲であるポリアニリン系樹脂を有効成分とする金の吸着剤に関する。
【0011】
本発明は、金を含有する液体に前記の吸着剤を接触させることを特徴とする金の吸着方法に関する。
さらに、本発明は、金を含有する液体に酸性下で前記の吸着剤を接触させ、金を吸着した前記吸着剤から脱着剤を用いて金を脱着させることを特徴とする金の選択的分離回収方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金を含有する液体から金を容易に効率よく選択的に回収する方法が提供される。
本発明の選択的分離回収方法により,パラジウム、白金、鉄、ニッケル、銅、鉛、亜鉛、スズ、コバルト等の金属が混在する液体から金のみを選択的に吸着分離することができる。また,チオ尿素誘導体を含む酸性溶液を用いることにより吸着分離した金を高収率で脱着、回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の金の吸着剤は、下記一般式(1):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R1およびR2は、同一または異なり、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を示す。R3およびR4は、同一または異なり、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい単環式炭素環基、置換基を有してもよい縮合多環式炭素環基、置換基を有してもよい単環式複素環基または置換基を有してもよい縮合多環式複素環基を示す。)で表される繰り返し単位を有し、数平均分子量が500〜1000000の範囲であるポリアニリン系樹脂を有効成分とする。
【0016】
1およびR2で表される炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0017】
3およびR4で表される炭素数1〜10のアルキル基としては、前記と同様のものが挙げられる。
置換基を有してもよい単環式炭素環基としては、例えば、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよい2−シクロヘキセン−1−イル基、置換基を有してもよい3−シクロヘキセン−1−イル基、置換基を有してもよいシクロプロピル基、置換基を有してもよいシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0018】
置換基を有してもよい縮合多環式炭素環基としては、例えば、置換基を有してもよいナフチル基、置換基を有してもよいアントリル基、置換基を有してもよいピレニル基、置換基を有してもよいペンタレニル基、置換基を有してもよいインデニル基、置換基を有してもよいアズレニル基、置換基を有してもよいヘプタレニル基、置換基を有してもよいアセナフチル基、置換基を有してもよいフルオレニル基、置換基を有してもよいフェナレニル基、置換基を有してもよいフェナントリル基、置換基を有してもよいフルオランテニル基、置換基を有してもよいトリフェニレニル基、置換基を有してもよいペリレニル基、置換基を有してもよいクリセニル基、置換基を有してもよいピセニル基、置換基を有してもよいペンタセニル基、置換基を有してもよいコロネリル基および置換基を有してもよいオバレニル基等が挙げられる。
【0019】
置換基を有してもよい単環式複素環基としては、例えば、置換基を有してもよいピリジル基、置換基を有してもよいピリミジル基、置換基を有してもよいフリル基、置換基を有してもよいチオフェニル基、置換基を有してもよいチオピレニル基、置換基を有してもよいピラジニル基および置換基を有してもよいピリダジニル基等が挙げられる。
【0020】
置換基を有してもよい縮合多環式複素環基としては、例えば、置換基を有してもよいキノリル基、置換基を有してもよいベンゾフリル基、置換基を有してもよいイソベンゾフリル基、置換基を有してもよい1−ベンゾチオフェニル基、置換基を有してもよい2−ベンゾチオフェニル基、置換基を有してもよいカルバゾイル基、置換基を有してもよいキサンテニル基、置換基を有してもよいイソキノリル基、置換基を有してもよいアクリジニル基、置換基を有してもよいキノキサリル基および置換基を有してもよいクマリニル基等が挙げられる。
【0021】
なお、上記の置換基としては、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、アルカノイル基、カルバモイル基またはシアノ基等が挙げられる。
炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、R1およびR2で表される炭素数1〜10のアルキル基と同様である。
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
アルカノイル基としては、メタノイル基、エタノイル基等が挙げられる。
また、前記の単環式炭素環基、縮合多環式炭素環基、単環式複素環基および縮合多環式複素環基におけるかかる置換基は、1または複数の置換基で有り得る。
【0022】
前記ポリアニリン系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(o−アニリン)、ポリ(3−n−ヘキシル−o−アニリン)、ポリ(3−n−オクチル−o−アニリン)、ポリ(4−n−ヘキシル−o−アニリン)、ポリ(4−n−オクチル−o−アニリン)、ポリ(イミノ(3−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(3−n−オクチル−1,2−フェニレン))、ポリ(イミノ(3−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(4−n−オクチル−1,2−フェニレン))、ポリ(イミノ(4−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(3−n−オクチル−1,2−フェニレン))、ポリ(イミノ(4−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(4−n−オクチル−1,2−フェニレン))、ポリ(m−アニリン)、ポリ(2−n−ヘキシル−m−アニリン)、ポリ(2−n−オクチル−m−アニリン)、ポリ(4−n−ヘキシル−m−アニリン)、ポリ(4−n−オクチル−m−アニリン)、ポリ(イミノ(2−n−ヘキシル−1,3−フェニレン)イミノ(2−n−オクチル−1,3−フェニレン))、ポリ(イミノ(2−n−ヘキシル−1,3−フェニレン)イミノ(4−n−オクチル−1,3−フェニレン))、ポリ(イミノ(4−n−ヘキシル−1,3−フェニレン)イミノ(2−n−オクチル−1,3−フェニレン))、ポリ(イミノ(4−n−ヘキシル−1,3−フェニレン)イミノ(4−n−オクチル−1,3−フェニレン))、ポリ(p−アニリン)、ポリ(2−n−ヘキシル−p−アニリン)、ポリ(2−n−オクチル−p−アニリン)、ポリ(3−n−ヘキシル−p−アニリン)、ポリ(3−n−オクチル−p−アニリン)、ポリ(イミノ(2−n−ヘキシル−1,4−フェニレン)イミノ(2−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(イミノ(2−n−ヘキシル−1,4−フェニレン)イミノ(3−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(イミノ(3−n−ヘキシル−1,4−フェニレン)イミノ(2−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(イミノ(3−n−ヘキシル−1,4−フェニレン)イミノ(3−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(イミノ(3−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(2−n−オクチル−1,3−フェニレン))、ポリ(イミノ(3−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(4−n−オクチル−1,3−フェニレン))、ポリ(イミノ(4−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(2−n−オクチル−1,3−フェニレン))、ポリ(イミノ(4−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(4−n−オクチル−1,3−フェニレン))、ポリ(イミノ(3−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(2−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(イミノ(3−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(3−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(イミノ(4−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(2−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(イミノ(4−n−ヘキシル−1,2−フェニレン)イミノ(3−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(イミノ(2−n−ヘキシル−1,3−フェニレン)イミノ(2−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(イミノ(2−n−ヘキシル−1,3−フェニレン)イミノ(3−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(イミノ(4−n−ヘキシル−1,3−フェニレン)イミノ(2−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(イミノ(4−n−ヘキシル−1,3−フェニレン)イミノ(3−n−オクチル−1,4−フェニレン))、ポリ(N−フェニル−o−アニリン)、ポリ(N−2−ピリジル−m−アニリン)、ポリ(N−1−ナフチル−p−アニリン)、ポリ(N−1−アントリル−p−アニリン)、ポリ(N−1−アクリジニル−p−アニリン)等が挙げられる。これらの中でも、安価で金吸着容量が大きい観点からポリ(m−アニリン)が好ましく用いられる。
【0023】
ポリアニリン系樹脂の製造方法としては、例えば、アニリンを酸化重合させる方法が挙げられる。種々の酸化剤を用いて重合することができるが、通常の方法としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの1N塩酸水溶液とアニリンの塩酸水溶液を別々の容器に用意し、0℃に冷却しておき、攪拌しながら両溶液を混合することによりポリアニリン系樹脂が得られる(日本化学会誌,10,1791(1989))。
【0024】
電気化学的には、アニリンと塩酸の混合水溶液に作用電極と対向電極の白金板を入れ、その両極に1〜2Vの電圧を印加すると作用電極上にポリアニリン系樹脂が得られる(Synth.Met.,36,139(1990))。
他には、ジハロゲノベンゼン類とフェニレンジアミンとをパラジウム化合物およびホスフィン化合物を含む触媒並びに塩基の存在下に反応させる方法(Polym.J.,31,206(1999)、特開2005−200618号公報)等が知られている。
【0025】
本発明において用いるポリアニリン系樹脂の数平均分子量は、500〜1000000であり、好ましくは1000〜100000である。ポリアニリン系樹脂の数平均分子量が500未満の場合、ポリアニリン系樹脂が金を含む液体に溶解するおそれがある。また、数平均分子量が1000000を超える場合、前記液体中でのポリアニリン系樹脂の機械的安定性が低下するおそれがある。
本発明の吸着剤を、金を含有する液体と接触させることにより金を吸着することができる。
金を含有する液体としては、金を含むスクラップから金を抽出したものや、金を利用する工程より排出される金を含む廃液、金の回収や精製する工程より排出される微量の金を含む廃液など多くのものが挙げられる。
【0026】
本発明の吸着剤は、不純物として、パラジウム、白金、鉄、ニッケル、銅、鉛、亜鉛、スズ、コバルトなどの金属を含む液体から金を選択的に吸着することができる。
金を含有する液体としては、水溶液、有機溶液などのいずれの溶液でも良い。
【0027】
本発明の吸着剤に金を効率よく吸着させるには、金を含有する液体に、予め、塩酸、硝酸、硫酸の鉱酸等を加えて、金を含有する液体を酸性状態にすることが望ましく、具体的には水素イオン濃度を、pH=1〜5.5の範囲内に調整するのが好ましく、pH=1〜4.0の範囲内に調整するのがより好ましい。
【0028】
本発明の吸着剤を用いて金を吸着させる方法としては、特に限定されず、例えば、金を含有する液体に吸着剤を浸漬して金を吸着させる方法等が挙げられる。
金を含有する液体と吸着剤との接触温度は、一般には0〜100℃、好ましくは10〜60℃の温度で行われる。温度が0℃より低い場合、液体の粘度が高くなったり、固形物が析出するおそれがある。また、温度が100℃より高い場合、加熱に要する費用がかさむため好ましくない。
また、金を含有する液体と吸着剤との接触時間は、特に制限されるものではないが、通常、数秒以上、好ましくは、1分〜48時間である。
【0029】
本発明の吸着剤の形状は特に限定されない。例えば、ポリアニリン系樹脂を適当な合成樹脂に化学修飾して担持させたものをカートリッジ化して用いることができる。このようにすることにより、廃液が排出される排水路に設置したり、廃液を満たした容器中に入れて容易に攪拌して使用することができる。また、水中の移動体(例えば船体)に取り付けて使用することも可能である。このようにして使用することにより、液体中に存在する金が吸着剤によって捕集される。
かくして吸着剤に吸着した金は、脱着剤を用いて金を脱着させることにより選択的に分離回収される。
【0030】
ポリアニリン系樹脂の吸着剤に吸着した金は、比較的強固な結合をしているため、樹脂の再生に一般に使用されている塩酸、硝酸、硫酸等の鉱酸では脱着が困難であり、特殊な脱着剤を用いる必要がある。
脱着剤としては、チオ尿素、N−メチルチオ尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、N−エチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素等のチオ尿素誘導体を含む塩酸酸性水溶液が好ましく用いられる。とりわけ、安価であり脱着効果に優れる観点からチオ尿素が好ましく用いられる。
【0031】
金を吸着した吸着剤と脱着剤との接触は、一般には0〜100℃、好ましくは10〜60℃の温度で行われる。温度が0℃より低い場合、金の脱着性が低下するおそれがある。また、温度が100℃より高い場合、加熱に要する費用がかさむため好ましくない。
金を吸着した吸着剤と脱着剤との接触時間は、特に制限されるものではないが、通常、数秒以上、好ましくは、1分〜48時間である。
【0032】
脱着剤として使用する、チオ尿素誘導体を含む酸性溶液の濃度としては、0.001mol/L〜10mol/Lが好適であり、また、水素イオン濃度は、pH<4の範囲内に調整するのが好ましい。
【0033】
金を吸着した吸着剤と脱着剤との接触方法は、特に限定されるものではなく、例えば、脱着剤中へ金を吸着した吸着剤を浸漬する方法、金を吸着した吸着剤を充填した塔中に、脱着剤を通液する方法等が採用される。
上記の方法により、脱着回収した金は、次いで、濃縮、精製、電解等の公知の方法により、品位の高い金メタル、金化合物として回収され、工業用、装飾用等として用いられる。
金を脱着した後の吸着剤は、水洗、再生などの工程をへて再び使用することができる。
【0034】
従来の金を回収する際に用いられる吸着剤を使用すると、パラジウム、白金、鉄、銅、ニッケル、コバルトなどの金属イオンも同時に吸着される場合があるが、本発明に用いられるポリアニリン系樹脂を有効成分とする吸着剤を使用することにより、パラジウムや白金などが、例えば金の100倍量存在している溶液からも、実質的に金のみを選択的に吸着させることができる。
また、ポリアニリン系樹脂は、金吸着容量が大きく、例えば、一般式(1)で表される繰り返し単位あたり1molの金を吸着させることができる。これは、例えば、ポリアニリン系樹脂1.0gに対し2.2gもの金を吸着することに相当する。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例で得られたポリアニリン系樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社、商品名;HLC−8020)を用いて、LiBr(0.01mol/L)を含むN,N−ジメチルホルムアミド中30℃にて測定し、標準ポリスチレンを基準にして算出した。
【0036】
溶液中に含まれる金属は、原子吸光分析装置(株式会社日立製作所、商品名;180−80 形偏光ゼーマン原子吸光光度計)を用いて測定した。また、溶液中に含まれる全有機炭素濃度は、全有機炭素分析装置(株式会社島津製作所、商品名;TOC−500)を用いて測定した。
【0037】
製造例1
冷却管、温度計を備え付けた1L容の四つ口フラスコに、1,3−ジブロモベンゼン20.45g(86.7ミリモル)、1,3−フェニレンジアミン9.38g(86.7ミリモル)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)1.98g(2.16ミリモル)、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル4.05g(6.50ミリモル)、ナトリウム−tert−ブトキシド25.00g(260.1ミリモル)およびトルエン800mLを仕込んだ。次いで、窒素雰囲気下で100℃まで昇温し、100℃で12時間反応させた。反応終了後、反応液を25℃まで冷却し、ろ過して粗ポリ(m−アニリン)を得た。得られた粗ポリ(m−アニリン)を28重量%アンモニア水/メタノール混合溶媒2L(容積比1/4)で洗浄し、さらにメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して青紫色粉体のポリ(m−アニリン)15.50gを得た(収率98.0%)。また、得られたポリ(m−アニリン)の数平均分子量は14500であった。
【0038】
製造例2
冷却管、温度計を備え付けた1L容の四つ口フラスコに、1,4−ジブロモベンゼン20.45g(86.7ミリモル)、1,4−フェニレンジアミン9.38g(86.7ミリモル)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)1.98g(2.16ミリモル)、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル4.05g(6.50ミリモル)、ナトリウム−tert−ブトキシド25.00g(260.1ミリモル)およびトルエン800mLを仕込んだ。次いで、窒素雰囲気下で100℃まで昇温し、100℃で12時間反応させた。反応終了後、反応液を25℃まで冷却し、ろ過して粗ポリ(p−アニリン)を得た。得られた粗ポリ(p−アニリン)を28重量%アンモニア水/メタノール混合溶媒2L(容積比1/4)で洗浄し、さらにメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して青紫色粉体のポリ(p−アニリン)15.58gを得た(収率98.5%)。また、得られたポリ(p−アニリン)の数平均分子量は15500であった。
【0039】
製造例3
冷却管、温度計を備え付けた1L容の四つ口フラスコに、2,6−ジクロロピリジン12.83g(86.7ミリモル)、2,6−ジアミノピリジン9.46g(86.7ミリモル)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)1.98g(2.16ミリモル)、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル4.05g(6.50ミリモル)、ナトリウム−tert−ブトキシド25.00g(260.1ミリモル)およびトルエン800mLを仕込んだ。次いで、窒素雰囲気下で100℃まで昇温し、100℃で12時間反応させた。反応終了後、反応液を25℃まで冷却し、ろ過して粗ポリ(2,6−ピリジンジイルイミン)を得た。得られた粗ポリ(2,6−ピリジンジイルイミン)を28重量%アンモニア水/メタノール溶液2L(容積比1/4)で洗浄し、さらにメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して黄土色粉体のポリ(2,6−ピリジンジイルイミン)15.95gを得た(収率99.9%)。また、得られたポリマーの数平均分子量は6900であった。
【0040】
実施例1−4
ポリ(m−アニリン)(PmA)を用いて金(Au)(III)の吸着を検討した。
10mLのサンプル瓶に、ポリ(m−アニリン)を5mg入れ、0.1mmol/Lの金水溶液を5mL加え、種々の酸性条件下で、マグネティックスターラーを用いて25℃で16時間攪拌した。攪拌後、ディスポーサブルフィルター(孔径0.2μm)を装着したシリンジを用いてろ過し、ろ液を吸着後の溶液とした。
吸着前と吸着後の溶液中の金濃度を原子吸光分析装置により測定して吸着率を求めた。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
製造例1で得られたポリアニリン系樹脂は、酸性条件下でAu(III)について優れた吸着能を有する。
【0043】
実施例5−10
pH2に調整した0.1mmol/Lの金水溶液を用い、攪拌時間を1、3、5、10、16、25時間とした以外は実施例1と同様にして吸着率を求めた。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2は、製造例1で得られたポリアニリン系樹脂が、酸性条件下でAu(III)を迅速にかつ100%吸着し、長時間にわたりその吸着能を持続することを示す。
【0046】
実施例11−12
pH2に調整した1mmol/Lの金水溶液若しくは10mmol/Lの金水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして吸着率を求めた。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
より高濃度のAu(III)を含有する金溶液においても、製造例1で得られたポリアニリン系樹脂は優れた吸着能を有する。
【0049】
実施例13−18
0.1mmol/Lの金水溶液の代わりに、金及び共存金属(M)(Pd(II)、Pt(IV)、Fe(III)、Cu(II)、Ni(II)若しくはCo(II))の濃度比が1:1(0.1mmol/L:0.1mmol/L)の水溶液(pH2)を用い、攪拌時間を1時間とした以外は実施例1と同様にして吸着率を求めた。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

(金の濃度は0.1mmol/Lで一定である。)
【0051】
表3は、製造例1で得られたポリアニリン系樹脂が、共金属存在下、Au(III)を100%吸着し、金のみを選択的に吸着させることを示す。
【0052】
実施例19−22
0.1mmol/Lの金水溶液の代わりに、金及び共存金属(M)(Pd(II)若しくはPt(IV))の濃度比が1:10若しくは1:100の水溶液(pH2)を用い、攪拌時間を1時間とした以外は実施例1と同様にして吸着率を求めた。結果を表5に示す。
【0053】
【表5】

(金の濃度は0.1mmol/Lで一定である。)
【0054】
より高濃度の共金属が存在する溶液中においても、製造例1で得られたポリアニリン系樹脂はAu(III)のみを選択的に100%吸着させる。
【0055】
実施例23−28
ポリ(m−アニリン)(PmA)、ポリ(p−アニリン)(PpA)を用いて吸着性能、攪拌操作時の液相へのポリマーの溶出を比較した。
pH2に調整した0.1mmol/Lの金水溶液、0.1mmol/LのPd水溶液、若しくは0.1mmol/LのPt水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして吸着率を求めた。また、ろ液の全有機炭素濃度(TOC)を測定した。結果を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
製造例1および2で得られたポリアニリン系樹脂は、攪拌操作時の液相へのポリマーの溶出(TOC)が全くないかまたは非常に低値であり、かつAu(III)のみを選択的に吸着する。
【0058】
実施例29
10mLサンプル瓶に、ポリ(m−アニリン)を5mg入れ、そこにpH2に調整した0.1mmol/L金水溶液を5mL加えた。1時間攪拌後、ディスポーサブルフィルター(孔径0.2μm)を装着したシリンジを用いてろ過した。
ろ別したポリ(m−アニリン)をフィルターごとサンプル瓶にとり、0.5mol/L塩酸酸性とした0.5mol/Lチオ尿素溶液10mLを加えて30分間攪拌した後ろ過し、得られたろ液中の金濃度を原子吸光分析装置により測定して脱着率を求めたところ、脱着率は99.3%であった。
【0059】
比較例1−3
ポリ(m−アニリン)、ポリ(p−アニリン)の代わりにポリ(2,6−ピリジンジイルイミン)を用いた以外は実施例23と同様にして吸着性能、攪拌操作時の液相へのポリマーの溶出を比較した。結果を表7に示す。
【0060】
【表7】

【0061】
表6および表7の試験結果より、製造例1および2で得られたポリアニリン系樹脂は、従来から金吸着剤と知られている有機高分子化合物であるポリ(2,6−ピリジンジイルイミン)に比較し、共存金属を吸着せず、Au(III)に対して優れた選択的吸着能を有し、かつポリマーの溶出(TOC)に関しても優れることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、R1およびR2は、同一または異なり、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を示す。R3およびR4は、同一または異なり、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有してもよい単環式炭素環基、置換基を有してもよい縮合多環式炭素環基、置換基を有してもよい単環式複素環基または置換基を有してもよい縮合多環式複素環基を示す。)で表される繰り返し単位を有し、数平均分子量が500〜1000000の範囲であるポリアニリン系樹脂を有効成分とする金の吸着剤。
【請求項2】
金を含有する液体に請求項1記載の吸着剤を接触させることを特徴とする金の吸着方法。
【請求項3】
金を含有する液体に酸性下で請求項1記載の吸着剤を接触させ、金を吸着した前記吸着剤から脱着剤を用いて金を脱着させることを特徴とする金の選択的分離回収方法。
【請求項4】
脱着剤がチオ尿素誘導体を含む酸性溶液であることを特徴とする請求項3に記載の金の選択的分離回収方法。
【請求項5】
チオ尿素誘導体が、チオ尿素であることを特徴とする請求項4に記載の金の選択的分離回収方法。

【公開番号】特開2008−49315(P2008−49315A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230579(P2006−230579)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年 3月 1日 国立大学法人富山大学主催の「平成17年度工学部物質生命システム工学科応用化学コース卒業論文発表会」において発表
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】