説明

金型材表面の温度計測方法及び装置、並びに離型剤の評価方法及び装置

【課題】 従来、離型剤が塗布された金型表面の温度を測定する場合、実際に溶湯注入時の金型温度を計測するわけではなく、離型剤の熱伝達特性を考慮した温度測定を行うことができず、離型剤の適正な評価をすることができなかった。
【解決手段】 金型材2温度と該金型材内を伝播する超音波の速度との関係を求め、金型材の一側面に、底面2dが平面となる超音波反射用穴2cを形成し、金型材の一側面2aと対向する他側面2bから一側面へ向けて超音波を照射し、該超音波が金型材の一側面で反射して照射位置まで戻ってきた第1の反射波、および照射された超音波が超音波反射用穴の底面で反射して照射位置まで戻ってきた第2の反射波を検出し、第1の反射波を検出した時刻から第2の反射波を検出した時刻までの超音波伝播時間tを計測し、該超音波伝播時間に基づいて超音波速度を求め、前記金型材温度と超音波速度との関係から、金型材の一側面部の温度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造や鍛造等の金型成形技術における、金型材表面の温度計測方法及び装置、並びに離型剤の評価方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造や鍛造等の金型成形技術においては、金型温度や被成形部材となる粗材温度の他に、金型のキャビティ面に塗布する離型剤の塗布量(塗布厚)をコントロールすることが重要であり、離型剤の塗布量(塗布厚)や、熱伝達率等で表わされる離型剤の熱伝達特性が、成形品の品質や金型の寿命に影響することが知られている。
また、例えばダイカストではキャビティ内に溶湯が注入されると溶湯から金型へ熱が伝達されるが、熱の伝達度合いは、溶湯と金型との間に介在する離型剤の熱伝達特性によっても異なる。
【0003】
従って、溶湯が注入された直後の金型におけるキャビティ面部の温度を把握して、その金型の温度が最適となるように離型剤の膜厚等の塗布条件を決定することが、良好な品質の成形品を成形するためには好ましい。
しかし、従来は、溶湯がキャビティ内に注入されて金型に触れた直後の金型温度を適切に計測することができなかった。例えば、金型におけるキャビティ面部の温度の測定は、金型のキャビティ面近傍に形成した穴に挿入した熱電対により行うことが考えられるが、
熱電対での温度測定では、時間分解能が不足していて、溶湯注入時の金型の急激な温度変化に追従することができない。また、熱電対挿入用の穴をキャビティ面の近傍にまで形成することで穴形成部分の金型が肉薄となってしまい、温度計測時の現象と実際に成形を行うときの現象とが異なってしまうため、離型剤の適切な塗布条件を求めることができない。
【0004】
前述のように、従来は、離型剤の適切な塗布条件が不明であり、必要な離型剤の塗布量が不明であったため、離型剤の塗布は、塗布量が不足しないように、大量に塗布するようにしていた。
しかし、キャビティ面に離型剤を大量に塗布すると、水残りによりガスが発生して鋳巣不良の原因となったり、過冷却による湯回り性の低下が生じたりする恐れがあり、必要以上の離型剤を無駄に消費してしまうこととなる。
【0005】
このように、離型剤の大量の塗布により生ずる不具合を解消するために、予め決められたルートに従って噴霧直前の金型表面の温度を温度センサにより測定しておき、実測された金型表面の温度の中で金型表面温度が目標温度と比較して異なる箇所では、実測温度と目標温度との温度差に応じて離型剤の噴霧量を調整しながら目標温度となるように温度矯正を行うようにした離型剤の噴霧方法が考案されている。例えば、特許文献1に示す如くである。
【特許文献1】特開平6−315749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前述の特許文献1記載の技術では、金型表面の温度測定は離型剤を塗布する前に行われ、実際に溶湯が注入されたときの金型温度を計測するわけではないので、離型剤の熱伝達特性を考慮した温度測定を行うことができず、塗布量等といった、離型剤の適正な塗布条件を設定することは困難であった。また、複数種類の離型剤の熱伝達特性を比較、評価することができず、成形条件に合った適切な離型剤を選定することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する金型材表面の温度計測方法及び装置、並びに離型剤の評価方法及び装置は、以下の特徴を有する。
即ち、請求項1記載の如く、金型材表面の温度計測方法は、金型材温度と該金型材内を伝播する超音波の速度との関係を予め求めておき、金型材の一側面に、底面が平面となる超音波反射用穴を形成し、前記金型材の一側面と対向する他側面から一側面へ向けて超音波を照射し、照射された超音波が金型材の一側面で反射して照射位置まで戻ってきた第1の反射波、および照射された超音波が前記超音波反射用穴の底面で反射して照射位置まで戻ってきた第2の反射波を検出して、第1の反射波を検出した時刻から、第2の反射波を検出した時刻までの超音波伝播時間を計測し、計測した超音波伝播時間に基づいて超音波速度を求め、前記金型材温度と超音波速度との関係から、金型材の一側面部の温度を求める。
このように、高温物への接触時の超音波速度を算出することにより、急激に変化する、高温物に接触した直後の一側面部分の温度を正確に測定することができ、測定した温度に基づいて、離型剤を適切に評価することが可能となる。
【0008】
また、請求項2記載の如く、離型剤の評価方法は、金型材温度と該金型材内を伝播する超音波の速度との関係を予め求めておき、金型材の一側面に、底面が平面となる超音波反射用穴を形成し、金型材の一側面に離型剤を塗布し、金型材の一側面に高温物を接触させ、前記金型材の一側面と対向する他側面から一側面へ向けて超音波を照射し、照射された超音波が一側面で反射して照射位置まで戻ってきた第1の反射波、および照射された超音波が前記超音波反射用穴の底面で反射して照射位置まで戻ってきた第2の反射波を検出して、第1の反射波を検出した時刻から、第2の反射波を検出した時刻までの超音波伝播時間を計測し、計測した超音波伝播時間に基づいて、金型材の一側面に高温物が接触した直後の超音波速度を求め、金型材の一側面に接触させた高温物の温度を計測し、前記金型材温度と超音波速度との関係から、金型材の一側面部の温度を求めて、求めた金型材の一側面部の温度と計測した高温物の温度との差から、金型材の一側面に塗布した離型剤の熱伝達特性を求め、求めた離型剤の熱伝達特性に基づいて該離型剤の評価を行う、
このようにして算出した離型剤の熱伝達特性は、キャビティ内に注入された溶湯から金型への熱の伝達度合いを評価するための指標とすることができ、金型の温度が最適となるような離型剤の膜厚等の塗布条件を決定するための評価材料とすることができる。
【0009】
また、請求項3記載の如く、前記離型剤の評価方法において、金型材の一側面に塗布した離型剤の膜厚を測定し、複数の膜厚の離型剤について、金型材の一側面に高温物が接触した直後の金型材の一側面部の温度を求めて、金型材の一側面に高温物が接触した直後の金型材の一側面部の温度と塗布した離型剤の膜厚との関係を算出することにより離型剤の評価を行う。
このように、高温物が接触した直後の金型材の一側面部の温度、さらには、高温物に接触した直後の高温物と一側面部との温度差と、離型剤の膜厚との関係を求めることで、求めた離型剤の熱伝達率に基づいて、適正な必要塗布量の評価を行うことができる。
【0010】
また、請求項4記載の如く、前記離型剤の評価を複数種類の離型剤について行う。
これにより、複数種類の離型剤について、金型材の温度と高温物の温度との温度差を算出して、算出した各離型剤の温度差の大きさを比較し、各離型剤間での熱伝達特性を相対的に評価することができる。
【0011】
また、請求項5記載の如く、金型材表面の温度計測装置は、一側面に底面が平面となる超音波反射用穴を形成した金型材と、金型材温度と、該金型材内を伝播する超音波の速度との関係を表わす温度−速度テーブルと、前記金型材の一側面と対向する他側面から一側面へ向けて超音波を照射する超音波照射手段と、超音波照射手段から照射された超音波が、金型材の一側面で反射して照射位置まで戻ってきた第1の反射波、および照射された超音波が前記超音波反射用穴の底面で反射して照射位置まで戻ってきた第2の反射波を検出する超音波検出手段と、第1の反射波を検出した時刻から第2の反射波を検出した時刻までの超音波伝播時間を計測する時間計測手段と、計測した超音波伝播時間に基づいて超音波速度を算出する超音波速度を算出手段と、前記温度−速度テーブルから、金型材の一側面部の温度を抽出する温度抽出手段と、を備える。
このように、高温物への接触時の超音波速度を算出することにより、急激に変化する、高温物に接触した直後の金型材の一側面部分の温度を正確に測定することができ、測定した温度に基づいて、離型剤を適切に評価することが可能となる。
【0012】
また、請求項6記載の如く、離型剤の評価装置は、一側面に底面が平面となる超音波反射用穴を形成した金型材と、金型材温度と、該金型材内を伝播する超音波の速度との関係を表わす温度−速度テーブルと、金型材の一側面に離型剤を塗布する塗布機と、金型材の一側面に接触させる高温物と、前記金型材の一側面と対向する他側面から一側面へ向けて超音波を照射する超音波照射手段と、超音波照射手段から照射された超音波が、金型材の一側面で反射して照射位置まで戻ってきた第1の反射波、および照射された超音波が前記超音波反射用穴の底面で反射して照射位置まで戻ってきた第2の反射波を検出する超音波検出手段と、第1の反射波を検出した時刻から第2の反射波を検出した時刻までの超音波伝播時間を計測する時間計測手段と、計測した超音波伝播時間に基づいて超音波速度を算出する超音波速度算出手段と、金型材の一側面に接触させた高温物の温度を計測する高温物温度計測手段と、前記温度−速度テーブルから、金型材の一側面部の温度を抽出する温度抽出手段と、抽出した金型材の一側面部の温度と計測した高温物の温度との差から、金型材の一側面に塗布した離型剤の熱伝達特性を算出する熱伝達特性算出手段と、を備える
このようにして算出した離型剤の熱伝達特性は、キャビティ内に注入された溶湯から金型への熱の伝達度合いを評価するための指標とすることができ、金型の温度が最適となるような離型剤の膜厚等の塗布条件を決定するための評価材料とすることができる。
【0013】
また、請求項7記載の如く、前記離型剤の評価装置は、さらに、金型材の一側面に塗布した離型剤の膜厚を測定する膜厚測定手段と、前記超音波速度算出手段により算出した、複数の膜厚の離型剤についての、高温物が接触した金型材の一側面部の温度と、塗布した離型剤の膜厚との関係を算出する温度−膜厚カーブ算出手段と、を備える。
このように、高温物が接触した直後の金型材の一側面部の温度、さらには、高温物に接触した直後の高温物と一側面部との温度差と、離型剤の膜厚との関係を求めることで、求めた離型剤の熱伝達率に基づいて、適正な必要塗布量の評価を行うことができる。
【0014】
また、請求項8記載の如く、前記離型剤の評価装置は、離型剤の評価を複数種類の離型剤について行う。
これにより、複数種類の離型剤について、金型材の温度と高温物の温度との温度差を算出して、算出した各離型剤の温度差の大きさを比較し、各離型剤間での熱伝達特性を相対的に評価することができる。
【0015】
また、請求項9記載の如く、前記超音波反射用穴には、金型材と同じ材質の部材が充填されている。
これにより、高温物から金型材への温度の伝達に生じる影響を抑えて、超音波速度を正確に算出することができ、測定される金型材の一側面部の温度の信頼性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、急激に変化する、高温物に接触した直後の金型材の一側面部分の温度を正確に測定することができ、測定した温度に基づいて、離型剤を適切に評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0018】
本発明にかかる離型剤評価装置は、鋳造や鍛造に用いられる金型を構成する金型材の、鋳造面または鍛造面となる金型材表面の、鋳造時または鍛造時における温度を計測する温度計測装置としての機能を有するとともに、計測した金型材表面温度を用いて、該金型材表面に塗布される離型剤の熱伝達特性の評価を行う、離型剤の評価装置としての機能を有している。
【0019】
図1、図2には、例えば、鋳造に用いられる金型の金型材の、表面温度計測および離型剤の評価を行う、離型剤評価装置1を示している。
該離型剤評価装置1は、金型を構成する金型材2、金型材2の表面温度計測および離型剤の評価を行う計測・評価装置3、および金型材2の一側面2aに設置される溶湯注入容器4を備えている。溶湯注入容器4は、金型材2の一側面2aのある一定の範囲を壁面にて囲うように構成されており、該溶湯注入容器4の底面には一側面2aが露出している(すなわち、溶湯注入容器4の底面は金型材2の一側面2aとなっている)。また、溶湯注入容器4は、内部に注入される溶湯の外部雰囲気への放熱を抑えるために、例えばセラミックスにて構成されている。
【0020】
金型材2の一側面2aは、鋳造を行う金型の鋳造面(キャビティ面)に相当する表面であって、離型剤が塗布され、溶湯が注入される面である。
計測・評価装置3は、超音波送受信装置11と、高速AD変換器12と、時間計測部13a、超音波速度算出部13b、温度抽出部13c、および熱伝達特性算出部13dを備える演算装置13と、金型材温度と超音波速度との関係を示す温度−速度テーブル14aを記憶した記憶部14とを備えている。
この温度−速度テーブル14aは、予め実験により求めたものであり、金型材温度と超音波速度との相関関係を読み出し可能なデータ形式で構成されている。
【0021】
また、前記超音波送受信装置11は、超音波の送受信を行う超音波センサ11aを有しており、該超音波センサ11aは金型材2の他側面2bに装着されている。金型材2の他側面2bは、一側面2aと対向しており、互いに略平行となっている。
金型材2の内部には、該金型材2の加熱・温調するヒータ21が設けられている。ヒータ21は、例えば、加熱用オイルが循環するパイプを金型材2内に埋設して構成される。
また、金型材2の超音波センサ11a装着部近傍には、冷却器22が設けられている。該冷却器22は、金型材2の超音波センサ11a装着部近傍の温度を、該超音波センサ11aの耐熱温度以下にまで冷却・温調するものであり、超音波センサ11aが熱により破損することを防止している。
【0022】
さらに、金型材2の一側面2aには、該一側面2aから他側面2bへ向けて超音波反射用穴2cが形成されている。超音波反射用穴2cの底面2dは、金型材2の一側面2aおよび他側面2bと略平行な平面となっており、該超音波反射用穴2cはフラットボトルホールに形成されている。
【0023】
また、離型剤評価装置1は、溶湯注入容器4内へ溶湯を注入するための溶湯注入機5、溶湯注入容器4内における金型材2の一側面2aに離型剤31を塗布するための離型剤塗布用ノズル7、一側面2aに塗布された離型剤31にエアーを吹き付けるためのエアパージ用ノズル8、一側面2aに塗布された離型剤31の膜厚を測定する膜厚計6、および溶湯注入容器4内へ注入された溶湯の温度を測定する温度計9を、さらに備えている。
一側面2aに塗布された離型剤31に、前記エアパージ用ノズル8にてエアーを吹き付けることで、該離型剤31の水分を飛ばして乾燥させ、離型剤31を一側面2aに密着させることができる。また、温度計9としては、例えば熱電対が用いられる。
【0024】
図3に示すように、金型材2の他面側に装着される超音波センサ11aは、金型材2の一側面2a方向へ超音波を照射可能である。
金型材2の一側面2a方向へ照射された超音波は、金型材2の一側面2aおよび前記超音波反射用穴2cの底面2dにて反射して、超音波センサ11aへ戻ってくる。
また、超音波センサ11aは、底面2dで反射して戻ってきた超音波(以降「第1の反射波」と記載する)、および一側面2aで反射して戻ってきた超音波(以降「第2の反射波」と記載する)を受信可能に構成されている。
つまり、超音波送受信装置11は、金型材2の他側面2b側から一側面2a側へ向けて超音波を照射する超音波照射手段であるとともに、前記第1の反射波および第2の反射波を検出する超音波検出手段でもある。
【0025】
なお、超音波センサ11aから照射される超音波は、金型材2に対する透過率および急激な熱変化に対する分解能とを考慮して、例えば10MHz程度の周波数のものが用いられている。
また、超音波センサ11aと金型材2の一側面2aとの距離は、金型材2による熱拡散を評価可能なように、例えば30mm以上の距離を確保している(超音波センサ11aと金型材2の一側面2aとの距離が短過ぎると、実際の現象とは異なった状態にて検出してしまう)。
また、前記超音波反射用穴2cにおいては、例えば、その穴径を超音波センサ11aの径(例えば10mm程度)の十分の一程度の寸法に形成し、穴深さを1〜2mm程度に形成している。
【0026】
また、前記演算装置13における時間計測部13aは、超音波センサ11aが超音波を照射してから、金型材2における超音波反射用穴2cの底面2dにて反射した超音波(第1の反射波)を受信して検出するまでの時間、超音波センサ11aが超音波を照射してから、金型材2の一側面2aにて反射した超音波(第2の反射波)を受信して検出するまでの時間、および第1の反射波を検出した時刻から第2の反射波を検出した時刻までの時間等を計測可能に構成されている。
また、前記超音波速度算出部13bは、前記時間計測部13aにて計測した第1の反射波を検出した時刻から第2の反射波を検出した時刻までの時間と、金型材2の一側面2aから超音波反射用穴2cの底面2dまでの寸法等とから、金型材2内を伝播する超音波の速度を算出する。
【0027】
さらに、前記温度抽出部13cは、前記温度−速度テーブル14aから、超音波速度算出部13bにて算出した超音波速度に対応する、金型材2の一側面2a部分の温度を抽出する。
また、前記熱伝達特性算出部13dでは、溶湯注入容器4内へ注入した直後の溶湯の温度を、前記温度計9にて計測しておき、計測した溶湯の温度と、抽出された一側面2a部分の温度との温度差等から、一側面2aに塗布した離型剤31の熱伝達特性が算出される。
【0028】
以上のように構成される離型剤評価装置1においては、前記金型材2の表面となる一側面2aの温度計測、および一側面2aに塗布された離型剤の熱伝達特性の評価が行われるが、次に、その温度計測および評価を行う手順について、図4のフローを用いて説明する。
【0029】
まず、金型材2の温度を、前記ヒータ21により、実際に金型にて鋳造を行う際の温度となるように設定する(S01)。この場合、冷却器22にて、超音波センサ11aが装着される金型材2の他側面2b部分の温度を、超音波センサ11aが破損しない程度の温度まで冷却しておく。なお、金型にて鋳造を行う際の温度は、例えば100℃〜300℃程度である。
次に、前記離型剤塗布用ノズル7により、溶湯注入容器4内における金型材2の一側面2aに離型剤31を塗布する(S02)。
【0030】
その後、一側面2aに塗布された離型剤31に、エアパージ用ノズル8にてエアーを吹き付けて、該離型剤31に含まれる水分を除去して乾燥させ、離型剤31を一側面2aに密着させる(S03)。
さらに、一側面2aに塗布され、乾燥させた状態の離型剤31の膜厚を、前記膜厚計6にて測定する(S04)。膜厚計6は、例えば渦流式の膜厚計に構成されており、一側面2aにおける、超音波センサ11aの設置位置に相当する箇所の膜厚を測定する。
【0031】
このように、金型材2の温度設定、ならびに離型剤31の塗布および膜厚測定を終えた後、溶湯注入容器4内へ溶湯を注入する(S05)。溶湯を溶湯注入容器4内へ注入することで、高温物である溶湯が金型材2の一側面2aに接触する。
そして、注入した溶湯の温度を前記温度計9にて測定するとともに、少なくとも、注入した溶湯が金型材2の一側面2aに接触してから一定時間が経過するまでの間、超音波センサ11aから一側面2a方向へ超音波を照射して、前記時間計測部13aおよび超音波速度算出部13bにより、該一側面2a部分における超音波速度を算出する(S06)。実際には、注入した溶湯が金型材2の一側面2aに接触する少し前の時点から超音波速度の算出を開始し、溶湯が一側面2aに接触してから一定時間が経過するまで超音波速度の算出を継続することが好ましい。
【0032】
この場合、他側面2b側から照射された超音波は、金型材2内を伝播して、一側面2aおよび超音波反射用穴2cの底面2dにて反射して、超音波センサ11aにより受信される。
超音波送受信装置11からは、超音波センサ11aにて受信された超音波の波形が高速AD変換器12に出力され、高速AD変換器12にてデジタルデータに変換された後、演算装置13に入力される。
【0033】
演算装置13に入力された超音波センサ11aの受信信号から超音波速度を算出する場合は、次のように行う。
つまり、図3に示すように、前記超音波反射用穴2cは、深さ寸法dに形成されており、超音波センサ11aが装着される他側面2bから超音波反射用穴2cの底面2dまでの寸法はX1となり、該他側面2bから一側面2aまでの寸法はX2となっている(X2=X1+d)。
従って、超音波センサ11aから照射された超音波が一側面2aで反射して超音波センサ11aまで戻ってくるまでの距離は(2・X2)となり、超音波センサ11aから照射された超音波が底面2dで反射して超音波センサ11aまで戻ってくるまでの距離は(2・X1)となり、両距離の差は(2・d)となる。
【0034】
そして、図5に示すような、超音波センサ11aが第1の反射波を検出した時刻から、第2の反射波を検出した時刻までの時間tを、溶湯注入時に時間計測部13aにて計測する。
この時間tは、溶湯注入時に速度vで伝播する超音波が距離(2・d)を進行する時間であるので、t=(2・d)/vと表わすことができる。
この関係を用いて、超音波速度算出部13bにて、溶湯注入時に金型材2内を伝播する超音波の速度が算出される。
【0035】
次に、前記温度抽出部13cにより、前記温度−速度テーブル14aから、超音波速度算出部13bにて算出した超音波速度に対応する、金型材2の一側面2a部分の温度を抽出する(S07)。
このように、本離型剤評価装置1においては、溶湯注入時の超音波速度を算出することにより、急激に変化する溶湯注入直後の一側面2a部分の温度を正確に測定することができ、測定した温度に基づいて、離型剤31を適切に評価することが可能となる。
【0036】
なお、超音波反射用穴2c内には、一側面2a部に該超音波反射用穴2cを形成したことによって、溶湯から金型材2への温度の伝達に影響が生じることがないように、金型材2と同じ材質の充填部材23が充填されている(図2参照)。充填部材23の充填は、例えば、充填部材23を螺子に形成して、該充填部材23を超音波反射用穴2cに螺装することで行われる。
このように、超音波反射用穴2c内に充填部材23を充填して、溶湯から金型材2への温度の伝達に生じる影響を抑えることで、超音波速度を正確に算出することができ、測定される一側面2a部の温度の信頼性を向上させることが可能となっている。
【0037】
さらに、抽出した金型材2の一側面2aの温度と、温度計9にて測定した溶湯の温度との差を、熱伝達特性算出部13dにて算出する。
この場合、金型材2の温度は、少なくとも溶湯注入後から一定時間継続して抽出され、金型材2の温度と溶湯の温度との差も溶湯注入後から一定時間継続して算出される。
そして、熱伝達特性算出部13dは、算出した金型材2の温度と溶湯の温度との温度差に基づいて、塗布された離型剤31の熱伝達特性を算出する(S08)。
【0038】
このようにして算出した離型剤の熱伝達特性は、例えばキャビティ内に注入された溶湯から金型への熱の伝達度合いを評価する指標とすることができ、金型の温度が最適となるような離型剤の膜厚等の塗布条件を決定するための評価材料とすることができる。
なお、離型剤31の熱伝達特性は、例えば熱伝達率で表わすことができる。
【0039】
また、複数種類の離型剤31について、金型材2の温度と溶湯の温度との温度差を算出して、算出した各離型剤31の温度差の大きさを比較し、各離型剤31間での熱伝達特性を相対的に評価することもできる。
【0040】
例えば、次の表1に示すように、複数の離型剤A・B・Cについて、金型材2の温度と溶湯の温度との温度差を算出し、離型剤Aを塗布した場合の温度差がa℃であり、離型剤Bを塗布した場合の温度差がb℃であり、離型剤Cを塗布した場合の温度差がc℃であった場合(a℃>b℃>c℃)、温度差が大きい離型剤Aの熱伝達特性を相対的に「低い」と評価し、温度差が中間である離型剤Bの熱伝達特性を相対的に「中程度」と評価し、温度差が小さい離型剤Cの熱伝達特性を相対的に「高い」と評価することができる。
このように、各離型剤31の熱伝達特性を、複数の段階に分けて評価することができる。
【表1】

【0041】
また、ある離型剤31について、複数の異なる膜厚に塗布した場合の、金型材2の温度と溶湯の温度との温度差をそれぞれ算出し、溶湯注入直後の温度差と離型剤31の膜厚との関係を求めることで、該離型剤31の熱伝達率に基づく、必要塗布量の評価を行うことができる。
溶湯注入直後の温度差と離型剤31の膜厚との関係は、例えば図6のように示される。図6によれば、溶湯注入直後の温度差は、離型剤31の膜厚が厚くなるにつれて大きくなっていき、ある膜厚Thを超えた辺りから略一定の温度差となる。
つまり、一側面2aに塗布された離型剤31の熱伝達特性は、膜厚が厚くなるにつれて小さくなっていき、膜厚Thを超えると略一定の熱伝達特性となる。
【0042】
溶湯注入容器4へ溶湯を注入した場合、注入した溶湯から金型材2への放熱が大きいと、溶湯の温度低下が大きくなり、湯回り性が低下する不具合があるため、溶湯から金型材2への放熱はできるだけ抑えることが好ましい。
従って、一側面2aに塗布する離型剤31の膜厚を厚くすることが好ましいが、膜厚Thを超える膜厚にまで離型剤31を塗布したとしても、離型剤31の熱伝達特性は殆ど増加せず、放熱防止効果は略一定となる。
【0043】
これにより、放熱防止効果の観点からみると、離型剤31は、膜厚Thだけの厚みがあればよく、それ以上の膜厚に離型剤31を塗布したとしても、膜厚Thを超えて塗布した離型剤31は無駄であると評価できる。また、離型剤31の必要塗布量は膜厚がThとなる塗布量であると評価できる。
このように、溶湯注入直後の温度差と離型剤31の膜厚との関係を求めることで、該離型剤31の熱伝達率に基づいて、適正な必要塗布量の評価を行うことができる。
【0044】
また、前記離型剤評価装置1は、実際に鋳造を行う金型と同じ材質で形成された金型材2における超音波速度を計測するものであるが、実際に鋳造を行うダイカストマシーンの金型2’自体を離型剤評価装置として構成することもできる。
例えば、図7に示すように、金型2’の一側面となる、キャビティ21’を形成するキャビティ面に超音波反射用穴21a’を形成するとともに、金型2’の他側面となる外壁面における、超音波反射用穴21a’の形成位置に対応する箇所に超音波センサ11aを装着して、前記キャビティ面に離型剤31を塗布し、キャビティ21’に溶湯を注入することで、前述の離型剤評価装置1と同様に、離型剤31の熱伝達特性の評価等を行うことができる。
【0045】
また、離型剤31を塗布する金型が鍛造用の金型である場合は、図8に示すように、前記金型材2の一側面2aに離型剤31を塗布し、乾燥させた後に、該一側面2aを被鍛造部材となる赤熱金属のブロック材51に密着させた状態で、一側面2a部分の温度抽出および離型剤31の熱伝達特性の評価を行うことができる。
この場合、赤熱金属のブロック材51を密着させた一側面2a部分の温度抽出および離型剤31の熱伝達特性の評価は、前述の一側面2aに溶湯を注入した場合と同様に行う。
このように、金型材2の一側面2aに接触させる高温物としては、鋳造に用いられる溶湯の他に、鍛造に用いられる赤熱金属を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明にかかる離型剤評価装置を示す斜視図である。
【図2】離型剤評価装置を示す側面断面図である。
【図3】離型剤評価装置の金型材部分を示す拡大側面断面図である。
【図4】離型剤評価方法のフローを示す図である。
【図5】超音波送受信装置により検出した第1の反射波および第2の反射波の波形を示す図である。
【図6】離型剤の膜厚と、溶湯注入直後における溶湯と金型材一側面部との温度差との関係を示す図である。
【図7】離型剤評価装置をダイカストマシーンに適用した例を示す側面断面図である。
【図8】高温物を赤熱金属とした場合の離型剤評価装置を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 離型剤評価装置
2 金型材
2a 一側面
2b 他側面
2c 超音波反射用穴
2d 底面
5 溶湯
11 超音波送受信装置
11a 超音波センサ
13 演算装置
14 記憶部
14a 温度−速度テーブル
23 充填部材
31 離型剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型材温度と該金型材内を伝播する超音波の速度との関係を予め求めておき、
金型材の一側面に、底面が平面となる超音波反射用穴を形成し、
前記金型材の一側面と対向する他側面から一側面へ向けて超音波を照射し、
照射された超音波が金型材の一側面で反射して照射位置まで戻ってきた第1の反射波、および照射された超音波が前記超音波反射用穴の底面で反射して照射位置まで戻ってきた第2の反射波を検出して、
第1の反射波を検出した時刻から、第2の反射波を検出した時刻までの超音波伝播時間を計測し、計測した超音波伝播時間に基づいて超音波速度を求め、
前記金型材温度と超音波速度との関係から、金型材の一側面部の温度を求める、
ことを特徴とする金型材表面の温度計測方法。
【請求項2】
金型材温度と該金型材内を伝播する超音波の速度との関係を予め求めておき、
金型材の一側面に、底面が平面となる超音波反射用穴を形成し、
金型材の一側面に離型剤を塗布し、
金型材の一側面に高温物を接触させ、
前記金型材の一側面と対向する他側面から一側面へ向けて超音波を照射し、
照射された超音波が一側面で反射して照射位置まで戻ってきた第1の反射波、および照射された超音波が前記超音波反射用穴の底面で反射して照射位置まで戻ってきた第2の反射波を検出して、
第1の反射波を検出した時刻から、第2の反射波を検出した時刻までの超音波伝播時間を計測し、計測した超音波伝播時間に基づいて、金型材の一側面に高温物が接触した直後の超音波速度を求め、
金型材の一側面に接触させた高温物の温度を計測し、
前記金型材温度と超音波速度との関係から、金型材の一側面部の温度を求めて、
求めた金型材の一側面部の温度と計測した高温物の温度との差から、金型材の一側面に塗布した離型剤の熱伝達特性を求め、
求めた離型剤の熱伝達特性に基づいて該離型剤の評価を行う、
ことを特徴とする離型剤の評価方法。
【請求項3】
前記離型剤の評価方法において、金型材の一側面に塗布した離型剤の膜厚を測定し、
複数の膜厚の離型剤について、金型材の一側面に高温物が接触した直後の金型材の一側面部の温度を求めて、
金型材の一側面に高温物が接触した直後の金型材の一側面部の温度と塗布した離型剤の膜厚との関係を算出することにより離型剤の評価を行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の離型剤の評価方法。
【請求項4】
前記離型剤の評価を複数種類の離型剤について行うことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の離型剤の評価方法。
【請求項5】
一側面に底面が平面となる超音波反射用穴を形成した金型材と、
金型材温度と、該金型材内を伝播する超音波の速度との関係を表わす温度−速度テーブルと、
前記金型材の一側面と対向する他側面から一側面へ向けて超音波を照射する超音波照射手段と、
超音波照射手段から照射された超音波が、金型材の一側面で反射して照射位置まで戻ってきた第1の反射波、および照射された超音波が前記超音波反射用穴の底面で反射して照射位置まで戻ってきた第2の反射波を検出する超音波検出手段と、
第1の反射波を検出した時刻から第2の反射波を検出した時刻までの超音波伝播時間を計測する時間計測手段と、
計測した超音波伝播時間に基づいて超音波速度を算出する超音波速度を算出手段と、
前記温度−速度テーブルから、金型材の一側面部の温度を抽出する温度抽出手段と、
を備えることを特徴とする金型材表面の温度計測装置。
【請求項6】
一側面に底面が平面となる超音波反射用穴を形成した金型材と、
金型材温度と、該金型材内を伝播する超音波の速度との関係を表わす温度−速度テーブルと、
金型材の一側面に離型剤を塗布する塗布機と、
金型材の一側面に接触させる高温物と、
前記金型材の一側面と対向する他側面から一側面へ向けて超音波を照射する超音波照射手段と、
超音波照射手段から照射された超音波が、金型材の一側面で反射して照射位置まで戻ってきた第1の反射波、および照射された超音波が前記超音波反射用穴の底面で反射して照射位置まで戻ってきた第2の反射波を検出する超音波検出手段と、
第1の反射波を検出した時刻から第2の反射波を検出した時刻までの超音波伝播時間を計測する時間計測手段と、
計測した超音波伝播時間に基づいて超音波速度を算出する超音波速度算出手段と、
金型材の一側面に接触させた高温物の温度を計測する高温物温度計測手段と、
前記温度−速度テーブルから、金型材の一側面部の温度を抽出する温度抽出手段と、
抽出した金型材の一側面部の温度と計測した高温物の温度との差から、金型材の一側面に塗布した離型剤の熱伝達特性を算出する熱伝達特性算出手段と、
を備える離型剤の評価装置。
【請求項7】
前記離型剤の評価装置は、さらに、
金型材の一側面に塗布した離型剤の膜厚を測定する膜厚測定手段と、
前記超音波速度算出手段により算出した、複数の膜厚の離型剤についての、高温物が接触した金型材の一側面部の温度と、塗布した離型剤の膜厚との関係を算出する温度−膜厚カーブ算出手段と、
を備えることを特徴とする請求項6に記載の離型剤の評価装置。
【請求項8】
前記離型剤の評価装置は、離型剤の評価を複数種類の離型剤について行うことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の離型剤の評価装置。
【請求項9】
前記超音波反射用穴には、金型材と同じ材質の部材が充填されていることを特徴とする請求項6〜請求項8の何れかに記載の離型剤の評価装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−33077(P2007−33077A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213107(P2005−213107)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】