金属および磁性材料のペプチドを媒介した合成
本発明は、磁性材料に特異的に結合しうるアミノ酸オリゴマーを備えるよう改変された生体分子を使用することにより、磁性ナノ結晶を製造する方法を含むものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、Belcherらの米国特許仮出願第60/411,804号(2002年9月18日出願)にかかかる権利を主張するものであり、この出願については、ここに言及することをもって、本出願に組み込むものである。
【0002】
政府の援助についての記載
本出願において実施した研究は、一部、陸軍研究部(Army Research Office)の助成金第DADD19-99-0155号の援助を受けたものであり、政府はある程度の権利を有する可能性がある。
【0003】
また、塩基配列および/またはアミノ酸配列の配列表については、コンピュータで読み込み可能な配列表に言及することをもって、本出願に組み込むものである。
【0004】
発明の技術分野
本発明は、無機材料に結合しうる有機材料に関するものであり、より詳細には、金属材料、たとえば磁性材料に緊密かつ直接的に結合する特定のペプチド配列に関するものである。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
生体系では、有機分子は、無機材料、たとえば炭酸カルシウムおよびシリカの核生成および鉱物相、そして、構成単位が、生体機能に必要とされる複雑な構造へと組み立てられる過程を大きく制御している。
【0006】
生体プロセスで形成される材料は、通常柔軟で、分子構成単位(すなわち、脂質、ペプチド、核酸)が極めて単純なかたちで集合して驚異的に複雑な構造で配置されている。半導体産業のように、一連のリソグラフィ−プロセスのアプローチに依拠して集積回路の微細構造を構成するのとは異なり、生物は、主に、多くの構成分子に同時に作用する非共有結合性の力を使用して、構造上の「設計図」を実現する。しかも、これらの構造は、しばしば、2種以上の有用な形態の間で、その構成分子に何ら変化を生じることなく、洗練されたかたちで再編成される。
【0007】
「生体」材料を使用して次世代のマイクロエレクトロニクス装置をプロセシングすることは、従来のプロセス法の限界の解消するうえでの手だてとなりうるものである。このアプローチでは、生体材料と無機材料の適当な適合性と組み合わせを特定し、適切な構成単位の合成することが肝要である。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明者らは、構築物を設計し、金属および磁性材料をはじめとする無機材料の集合を実行、制御して、制御された精巧な構造とする生体材料を製造した。特に重要なのは、強磁性材料および粒子材料、たとえばナノ粒子材料である。生体材料を使用して、興味深い電気、磁気、または光学特性を備えた材料を創出、設計することができると、構造物を小型化し、材料の光電特性などをよりよく制御し、また、材料の製造過程をよりよく制御できる可能性がある。たとえば、本発明では、室温での製造方法を開発したが、この方法は、従来高温での製造が行われていたような材料の室温での製造を可能とするものである。
【0009】
表面に何百万種もの異なったペプチド配列を発現するバクテリオファージが多数発現されたコンビナトリアル・ペプチド・ファージ・ディスプレイ・ライブラリーを、バイオパニング法と組み合わせて、磁性材料をはじめとする金属材料(たとえば、Co、CoPt、SmCo5、またはFePt)に緊密かつ直接的に結合する特異的なペプチド配列を選択した。本発明者らは、天然状態やII-VI半導体について例証されているのと同じく、これらの金属および磁性材料に対して結合性の分子、たとえば、ペプチドを使用することによって、無機材料の核形成を制御することができることを見いだした。タンパク質を、磁性材料をはじめとする金属の核形成の制御に使用できれば、磁性ナノ粒子およびその応用物を、従来の方法を使用するよりはるかに安価かつ簡易に製造することができる。磁石および磁性材料をはじめとするナノ分子金属は、マイクロまたはナノマシン、ダイナモ、発電機、磁気記憶装置をはじめとする、磁性または磁化可能材料が有する任意の用途に使用することができる。これらの材料の別の用途は、磁性材料をはじめとする金属の表面を改質することが挙げられる。ペプチドは、材料を、磁性材料表面に結合させる際のリンカーとして機能しうるので、新規な電子素子のベースとなりうる複雑なナノ構造の自己組立てが可能となる。
【0010】
本発明者らは、(コンビナトリアル・ペプチド・ライブラリーとパニング法を用いて)結合性ペプチドを選択するこうしたアプローチは、磁性材料をはじめとする金属材料を形成し、その核形成を制御する際にも使用しうることに気づいた。磁性粒子をはじめとする金属粒子を合成する目的で研究されている他の技術は、不活性雰囲気中で高価な物質を使用する高温での合成を基調としており、所望の形状および結晶性を有するナノ粒子をはじめとする粒子を製造するには、合成後にさらに処理および精製を行うことが必要とされる。そのため、従来法での磁性ナノ粒子の製造は、大規模な生産および/または大量生産には不向きである。本発明で提案するアプローチは、安価な物質を使用して室温にて実施され、その結果として、結晶性の制御されたナノ粒子が得られるので、磁性ナノ粒子をはじめとする金属粒子を合成する際のコストが削減され、結晶の構造および配向も制御されたものとなる。
【0011】
磁性ナノ粒子をはじめとする金属粒子をペプチドを媒介として合成すると、磁性ナノ粒子をはじめととする金属材料を、はるかに安価かつ環境負荷の少ないかたちで合成することができる。現在使用されている磁性ナノ粒子をはじめとする金属ナノ粒子の合成プロトコールは、時間がかかり、高価で、有機界面活性剤で被覆されたナノ粒子を生じてしまう。こうした界面活性剤は、ナノ粒子のさらなる修飾には不適である。分子生物学の進捗によって、ペプチドへの官能基の導入が可能となっており、したがって、ペプチドから形成した粒子およびナノ粒子にも、官能基を容易に導入することができる。ペプチドに官能基/機能を付与すると、ペプチドを、電子素子に組み込んだり、磁気記憶素子に統合したりすることが可能となる。
【0012】
本発明の一形態は、金属、ナノ粒子、および磁性材料をはじめとする各種材料に結合して、規則性の高い構造を組織化するよう遺伝的に改変した自己組立性生体分子、たとえばバクテリオファージを使用する方法である。こうした構造は、たとえば、粒子およびナノ粒子のナノスケールのアレイである。バクテリオファージを例にとると、自己組立性生体材料は、特定の表面(たとえば半導体)に対する特異的結合特性に関して選択することができ、したがって、本発明で教示する修飾バクテリオファージおよび方法を使用すると、選択した物質の規則性の高い構造を創出することができる。
【0013】
より詳細には、本発明は、磁性の材料、粒子、およびナノ粒子をはじめとする金属材料を生成する組成物および方法を含むものである。一態様としては、磁性粒子をはじめとする金属粒子を製造する方法であって、磁性表面をはじめとする金属表面に特異的に結合する部分を含む分子を製造し、磁性材料をはじめとする金属材料が形成されるような条件で、1種以上の磁性材料の前駆物質をはじめとする金属材料の前駆物質を、上記分子と接触させる工程を含む方法を挙げることができる。分子は、たとえば、アミノ酸オリゴマーまたはペプチドのような生体分子とすることができる。オリゴマーは、たとえば、約7〜約100のアミノ酸の長さ、より好ましくは、約7〜約30アミノ酸の長さ、そしてさらに好ましくは、約7〜約20アミノ酸の長さとすることができ、コンビナトリアル・ライブラリーの一部を形成するものであっても、および/または、キメラ分子を含んでいてもよい。
【0014】
本発明に開示するような種類の磁性粒子をはじめとする金属材料は、たとえば、Co、CoPt、SmCo5、および/またはFePtから形成することができる。本発明の別の方法は、非磁性の相互作用によって磁性材料と結合する分子を特定する方法であって、アミノ酸オリゴマー・ライブラリーを磁性材料と接触させて、磁性材料と特異的に結合するオリゴマーを選択し、磁性材料と特異的に結合するオリゴマーを溶出させる工程を含む方法である。オリゴマー・ライブラリーは、自己組立性分子のライブラリー、たとえば、M13ファージ・ライブラリーのようなファージ・ライブラリーとすることができる。ライブラリーは、細菌内に内包させることも、また外部で集めることもできる。
【0015】
磁性粒子の製造方法は、磁性分子の形成を開始する分子を、磁性材料の前駆物質および還元剤と接触させる工程も含むことができる。磁性材料の前駆物質とともに磁性分子の形成を開始する分子は、たとえば、室温、または100℃未満、200℃未満、場合によっては300℃未満の温度で接触させることができる。この分子は、アミノ酸オリゴマー、たとえば長さが約7〜20アミノ酸であるようなアミノ酸オリゴマーとすることができる。磁性粒子は、磁性の量子ドットまたは、場合によってはフィルム形状のCo、CoPt、SmCo5、またはFePt磁性粒子とすることができる。当業者であれば、特定の用途に応じて、本明細書に開示する磁性粒子の1種以上を組み合わせて、各種の一次元、二次元、または三次元の位置、形状などに配置することができることに気づくはずである。
【0016】
本発明は、本発明に開示する方法によって製造した磁性粒子、たとえばナノ粒子も含むものである。これらの磁性粒子は、磁性材料結合性ペプチドを基板に固定し、1種以上の磁性材料前駆物質を、磁性粒子が形成されるような条件下で磁性材料結合性ペプチドと接触させ、基板上に磁性結晶を形成することによって製造された集積回路の一部を形成しうるものである。磁性材料結合性ペプチドは、基板、たとえばシリコンまたは他の半導体基板に、化学的に結合させることができる。本発明の磁性粒子は、メモリー、短期または長期記憶、IDシステム、または当業者がこうした粒子を使用して製造しうると考えるであろう任意の用途に使用することができる。本発明の磁性マイクロ、ナノ、およびフェムト粒子の他の用途の例としては、マイクロまたはナノモーター、発電機などを挙げることができる。
【0017】
本発明の別の態様は、特異的な配列特性を有するナノ粒子の形成方法である。この方法は、たとえば特異的結合特性を有するM13バクテリオファージを創出し、このバクテリオファージを高濃度となるまで増幅し(たとえば、ファージ・ライブラリーを、細菌ホストの培養とともに恒温培養して、感染、複製、そしてその後のウイルス精製を行うことにより増幅し)、ファージを再懸濁することによって行われる。
【0018】
この同じ方法は、3種の液晶相、すなわち、ネマチック相のディレクショナルな規則性、コレステリック相のねじれたネマチック構造、そして、スメクチック相のディレクショナルおよびポジショナルな規則性を有するバクテリオファージの創出に使用することができる。本発明の一観点は、ポリマー、たとえばフィルムの製造方法に関するものであり、この方法は、特異的な半導体表面に高濃度で結合する部分を含む自己組立性生体分子を増幅し、1種以上の半導体材料前駆物質を自己組立性の生体分子と接触させて、結晶の形成ないし結晶の形成の誘導を行う工程を含むものである。
【0019】
本発明の別の態様は、異なるコレステリック・ピッチを備えたナノ粒子を創出する方法である、この方法は、たとえば半導体表面と結合するよう選択したM13バクテリオファージを使用し、このファージを各種濃度に再懸濁することによって実施する。本発明の別の態様は、ナノ粒子が配列した流延フィルムを製造する方法であり、この方法は、たとえば遺伝的に改変したM13バクテリオファージを使用し、このバクテリオファージを再懸濁することにより実施する。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、ナノ粒子フィルムの製造方法であり、この方法は、ナノ粒子溶液を表面に加え、このナノ粒子溶液を表面上で蒸発させ、ナノ粒子を表面にアニーリングする工程を含むものであり、ここで、ナノ粒子は磁性分子である。表面は、分子が共有結合または非共有結合を介して付着しうるミクロで製造された固体表面、たとえばラングミュール-ボジェットフィルム、ガラス、官能基/機能を付与したガラス、ゲルマニウム、シリコン、PTFE、ポリスチレン、ヒ化ガリウム、金、銀、または表面にアミノ、カルボキシル、チオール、またはヒドロキシル官能基が導入された任意の材料を含むものとすることができる。アニーリングは、通常、高温で不活性ガス(たとえば窒素)の存在下で行う。本発明の別の態様は、上述の方法によって製造したナノ粒子のフィルムである。
【0021】
発明の詳細な説明
本出願は、Belcherらの仮特許出願第60/411,804号(2002年9月18日出願)について権利を主張するものであり、この出願については、ここに言及することをもって、その図面、開示、詳細な説明、実施例、請求の範囲、および配列表を含む全体を本出願に組み込むものである。
【0022】
以下では、本発明の各種の態様の製造や使用について詳しく論じるが、本発明は、具体的な文脈で多種多様なかたちで実施しうる応用可能な発明概念と多数提供するものであると理解されたい。本明細書に記載する具体的な態様は、本発明の具体的な製造、使用を単に例示するものであり、本発明の範囲は、これらの態様によって限定されるものではない。
【0023】
本発明を理解しやすいように、いくつかの用語について以下にさらに説明する。本明細書で使用する場合には、「金属材料」は、たとえば、磁性および/または強磁性であっても、そうでなくてもよく、結晶質であってもよく、多結晶またはアモルファスであってもよいような金属合金、金属酸化物、純粋な金属を含む物質とすることができるが、金属材料は、これらに限定されるものではない。金属材料は、また、粒子、パターニングされた表面、層状のフィルムなどのいくつかの空間形態で存在することができる。「粒子」という用語は、上記材料のサイズおよび形状について記載しうるものであり、ミクロンスケールの粒子、ナノスケールの粒子(ナノ粒子と称する)、金属材料単一分子、また本明細書では記載しないものの、本明細書に記載した生物学的方法によって制御される各種のサイズや形状を包含するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
結合性分子という用語は、本明細書では、金属材料に結合するか、金属材料を認識するか、金属材料の成長を誘導する分子であるとして定義するものである。結合性分子の例としては、ペプチド、アミノ酸オリゴマー、核酸オリゴマーを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの結合性分子は、コンビナトリアル・ライブラリーのスクリーニングによって選択することも、また、そうしたライブラリーとは独立に合成、結合、または処方することもできる。これらの結合性分子は、基体に結合させることができ、すなわち、表面または足場、たとえば、ウイルス外被に結合性分子がディスプレーされたM13ウイルス、または各種の結合性分子接合構造に接合させることができる。
【0025】
本発明者らは、ペプチドが半導体材料に結合しうることをすでに示している。本発明では、本発明者らは、結合性分子、たとえばペプチドが、金属材料、たとえば磁性材料に特異的に結合しうることを例証する。これらのペプチドは、ナノ粒子の核を形成し、ナノ粒子の自己組立を誘導するよう、さらに開発されている。このペプチドの主たる特徴は、表面特異性を有する技術上重要な材料を認識して結合し、サイズの制限された結晶質の半導体材料を核形成し、核形成したナノ粒子の結晶相を制御しうる能力を備えていることである。このペプチドは、ナノ粒子のアスペクト比、したがって光学特性も制御しうるものである。
【0026】
簡単に述べると、生体システムは、非常に複雑な構造を極小スケールで組立てる仕組みを備えており、こうした仕組みは、同様に作動しうる非生体システムを特定するというモチベーションを育んできた。また、興味深い電子特性または光学特性を備えた材料に適用しうる方法であるにもかかわらず、自然の進化によっては、生体分子とそうした材料が相互に作用するよう選択されてこなかったような方法を見いだすことができれば、その方法には特段の価値があるはずである。
【0027】
本発明は、生体システムは、ナノスケールの構成単位を、複雑かつ高機能な構造に効率的かつ正確に組立て、この構造は、高い完成度を示し、サイズおよび組成の均一性が制御されているという認識にもとづくものである。
【0028】
ペプチド配列の選択
ランダムな有機ポリマーのプールを製造する一つの方法は、M13バクテリオファージのpIIIコートタンパク質に融合させた、7〜12のアミノ酸を含むランダムなペプチドのコンビナトリアル・ライブラリーにもとづいたファージ・ディスプレイ・ライブラリーを使用して、結晶質の半導体構造と反応した各種のペプチドを得るものである。5コピーのpIIIコートタンパク質を、ファージ粒子の一端に位置させ、粒子の10〜16 nmを構成するようにした。このファージディスプレーを使用したアプローチによって、ペプチドと基板の相互作用と、この相互作用をコードするDNAとの間の物理的関連が得られた。本明細書に記載した実施例では、例として、5種の異なった単結晶半導体、すなわち、GaAs(100)、GaAs(111)A、GaAs(lll)B、InP(100)、Si(100)を使用した。こうした基板を使用すると、ペプチドと基板の相互作用を体系的に評価し、各種の結晶構造に対しての本発明の方法の一般的有用性を確認することが可能となる。
【0029】
特定の結晶と成功裏に結合したタンパク質配列を、当該表面から溶離させ、たとえば100万倍程度まで増幅し、さらに厳密な条件で基板と反応させ、この手順を5回反復して、ライブラリー中で最も特異的な結合を示すファージを選択した。3、4、および5ラウンド目等のファージ選択の後に、結晶に対して特異的であったファージを単離し、そのDNA配列を解析した。ペプチドの結合を、結晶の組成についての選択性(たとえば、GaAsに結合するが、Siに結合しないなど)および結晶面についての選択性(たとえば、(100)GaAsに結合するが、(111)B GaAsには結合しないなど)について特定した。
【0030】
GaAs(100)で選択された20のクローンを解析して、GaAs表面に対するエピトープ結合ドメインを決定した。修飾されたpIIIタンパク質またはpVIIIタンパク質の部分ペプチド配列を表1に示す。GaAsと接触させたペプチドの間に、類似したアミノ酸配列存在することが示されている。
【0031】
(表1)修飾pIIIまたはpVIIIタンパク質の部分ペプチド配列
【0032】
GaAs表面との接触回数が増加するにつれて、非帯電極性官能基とルイス塩基官能基の数が増加した。3回目、4回目、5回目のラウンドの配列解析で得られたファージクローンは、平均で、それぞれ30%、40%、44%の極性官能基を含んでおり、一方、ルイス塩基官能基の割合は、41%から、48%〜55%に増加した。我々のライブラリーのランダムな12量体のペプチドの官能基のうちの34%のみを構成するはずのルイス塩基が、今回観察されたように増加していることからは、ペプチド上のルイス塩基と、GaAs表面上のルイス酸部位との相互作用が、これらのクローンによって示された選択的な結合を媒介している可能性があることが示唆される。
【0033】
ライブラリーから選択された修飾12量体の予測される構造は、小型ペプチドでよく見られるように、伸展されたコンホメーションとなっている可能性があり、その結果、ペプチドは、GaAsの単位格子(5.65 Å)よりはるかに長いものとなっている可能性がある。したがって、ペプチドがGaAs結晶を認識する際に必要とされるのは、小型の結合ドメインのみである。表1に強調表示したこうした短いペプチドドメインは、アミンのルイス塩基、たとえばアスパラギンおよびグルタミンの存在に加えて、セリンおよびスレオニン含量の多い領域を含んでいる。正確な結合配列を決定するために、表面を、7量体のライブラリーおよびジスルフィド拘束された7量体のライブラリーを含むさらに短いライブラリーでスクリーニングした。こうした短めのライブラリーを使用して結合ドメインのサイズおよび柔軟性を低下させると、ペプチドと表面との間で生じる相互作用が低減し、選択の世代間で相互作用を期待通り増強することができる。
【0034】
特異的結合を定量的に解析するにあたっては、ストレプトアビジンで標識した20nmのコロイド状金粒子を、ビオチン標識抗M13コートタンパク質抗体を介してファージに結合させてタグを付したファージを使用した。X線光電子分光法(XPS)を用いた元素組成分析を実施し、金4f-電子信号の強度によって、ファージと基板の相互作用をモニタリングした(図1A-C)。G1-3ファージの不在時には、抗体および金-ストレプトアビジンは、GaAs(100)基板に結合しなかった。したがって、金-ストレプトアビジンの結合は、ファージに対して特異的であり、ファージの基板との結合の指標となるものであった。XPSを使用することにより、GaAs(100)から単離したG1-3クローンが、GaAs(100)に特異的に結合し、Si(100)には結合しないことも見いだした(図1A参照)。これとは相補的に、(100)Si表面でスクリーニングされたS1クローンは、(100)GaAs表面に対して低い結合性を示した。
【0035】
GaAsクローンの一部は、別の閃亜鉛鉱構造であるInP(100)の表面にも結合した。化学的、構造的、電子的のいずれかを問わず、こうした選択的結合が生じる理由については、まだ研究中である。また、基板表面上にもとから存在している酸化物の存在によっても、ペプチドの結合の選択性が変化する可能性がある。
【0036】
G1-3クローンは、GaAs(100)に対して、GaAsの(111)A(ガリウム終端)面または(111)B(ヒ素終端)面に比べて選択的かつ特異的に結合することが示された(図1B、C)。G1-3クローンの表面濃度は、選択に使用した(100)面の方が、ガリウムの多い(111)A面またはヒ素の多い(111)B面より高かった。これらの各種表面は、異なった化学反応性を示すことが知られており、ファージが各種の結晶表面に関して選択性を示しても驚くにはあたらない。双方の111面のバルクは同じ幾何構造で終端しているものの、二重層の最外面にGa原子が位置しているのか、それともAs原子が位置しているのかという違いは、表面再構成を比較するともっとはっきりする。各種のGaAs表面の酸化物の組成も、異なっていることが予測され、その結果、ペプチドの結合の性状に影響が及んでいる可能性もある。
【0037】
G1-3ファージクローンと接触した基板の結合エネルギーに対するGaの2p電子の強度を、図1Cにプロットしてある。図1Bの結果から予測されるように、GaAs(100)、(111)Aおよび(111)B面上で観察されたGaの2pの強度は、金濃度と反比例している。金-ストレプトアビジン濃度が高い表面ほどGaの2pの強度が低いのは、ファージによる表面の被覆率が増大しているからである。XPSは、サンプリングする深さが約30オングストロームの表面技術であり、したがって、有機層の厚さが増大するにつれて、無機基板からの信号が低減する。この観察結果を利用して、金-ストレプトアビジンの強度が、結晶特異的な結合性配列を含むファージがGaAs表面上に存在するために実際に生じていることを確認した。XPSのデータと相関させる、結合についての試験を行い、この試験では、等しい数の特異的なファージクローンを、表面積が等しい各種の半導体基板と接触させた。野生型クローン(ランダムペプチド・インサート非含有)は、GaAsに結合しなかった(プラークが検出されなかった)。G1-3クローンについては、溶離したファージ集団は、GaAs(100)から溶離したものの方が、GaAs(111)A表面から溶離したものより12倍大きかった。
【0038】
GaAs(100)とInP(100)に結合したG1-3、G12-3、G7-4クローンを、原子間力顕微鏡(AFM)によって画像化した。InPの結晶は、閃亜鉛鉱構造を有しており、In-Pの結合はGa-Asの結合よりイオン性が高いにもかかわらず、GaAsと同形構造である。AFMで観察されたファージの幅(10 nm)と長さ(900 nm)は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察されるM13ファージの寸法と合致し、M13抗体に結合した金の球は、ファージに結合しているのが観察された(データ示さず)。InPの表面には、高濃度のファージが存在していた。これらのデータからは、基板の認識には、原子のサイズ、電荷、極性、結晶構造をはじめとする多くの要因が関連していることが示唆された。
【0039】
TEMの画像(図示せず)では、(ネガティブ染色した)G1-3クローンがGaAs結晶質ウェファーに結合しているのが観察された。このデータは、G1-3の修飾pIIIタンパク質によって生じており、大コートタンパク質との非特異的な相互作用によって生じているのではないことを裏付けるものである。したがって、本発明のペプチドは、ナノ構造およびヘテロ構造を組み立てる際に、ペプチドと半導体との間に特異的な相互作用を生じさせるために使用することができる(図1E)。
【0040】
蛍光X線顕微鏡での観察を利用して、ファージが、化学および構造組成が異なる表面に近接した閃亜鉛鉱表面に選択的に付着することを例証した。GaAsのウェーハに入れ子上の正方形パターンをエッチングした。このパターンは、1μmのGaAsの線と、この線の間の4μmのSiO2の間隙部を含むものであった(図1A〜1B)。G12-3クローンをGaAs/SiO2のパターニングした基板と相互作用させ、洗浄して非特異的な結合を低減し、免疫蛍光プローブであるテトラメチルローダミン(TMR)のタグを付した。タグを付したファージは、図1Bでは、3本の薄色の線(カラー写真であれば赤)および中央部の点として見いだされ、これは、G12-3がGaAsのみに結合することと符合していた。パターンのSiO2領域にはファージは結合せず、この領域は暗色のままである。こうした結果は、ファージとは接触させず、第一抗体とTMRと接触させた対照では観察されなかった(図1A)。ファージ非結合のG12-3ペプチドを使用した場合も、同じ結果が得られた。
【0041】
GaAsクローンであるG12-3は、AlGaAsよりはGaAsに対して基板特異性を有することが観察された(図1C)。AlAsとGaAsは、室温ではほぼ同じ格子定数である5.66Åと5.65Åを有しており、したがって、三元合金であるAlxGal-xAsは、GaAs基板上でエピタキシャルに成長させることができる。GaAsおよびAlGaAsは、閃亜鉛鉱型結晶構造を有しているが、G12-3クローンは、GaAsのみと結合する選択性を示した。GaAs層とAl0.98Ga0.02As層とが交互に積層した多層基板を使用した。基板材料を切断してから、G12-3クローンと反応させた。
【0042】
G12-3クローンを、20-nmの金-ストレプトアビジンナノ粒子で標識した。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して調べたところ、ヘテロ構造内で、GaAsとAl0.98Ga0.02Asが交互に積層していた(図1C)。ガリウムとアルミニウムのX線元素分析を使用して、ヘテロ構造のGaAs層に金-ストレプトアビジン粒子を排他的にマッピングしたところ、化学組成に対する高度の結合特異性が示された。図1Dには、蛍光画像およびSEM画像(図1A〜C)に示したような、半導体ヘテロ構造に関してのファージの差別化についてのモデルが示してある。
【0043】
本発明は、有機ペプチド配列と無機半導体基板との結合を特定、成長、増幅させるにあたってのファージ・ディスプレイ・ライブラリーの強力な利用について例示する。このペプチドによる認識と無機結晶の特異性は、ペプチドライブラリーを使用したもっと別の基板、たとえば、GaN、ZnS、CdS、Fe3O4、Fe2O3、CdSe、ZnSe、およびCaCO3にも拡張することができた。
【0044】
二成分を認識するアタッチメントを有する二価の合成ペプチド(図1E〜F)を現在設計している。こうしたペプチドは、ナノ粒子を、半導体構造上の特定の位置に誘導する能力を備えている可能性がある。こうした有機と無機のペアは、新世代の複雑で洗練された電子構造を製造するにあたって、有力な構成単位となるはずである。
【0045】
金属および磁性材料
本発明では、結合性分子による特異的な結合および認識を、磁性および強磁性材料、粒子およびナノ粒子をはじめとする、これらに限定されない金属材料に予測不能なかたちで拡張した。何百万種もの異なったペプチド配列を表面に発現するバクテリオファージの多数の集合体を発現するコンビナトリアル・ペプチド・ファージ・ディスプレイ・ライブラリーを、バイオパニングの技術と組み合わせて、磁性材料(たとえば、Co、SmCo5、CoPt、FePt)をはじめとする金属材料にしっかりかつ直接結合し、認識する特異的なペプチド配列を選択した。本発明者は、天然状態、そして、III-VおよびII-VIの半導体で示されているように、これらの磁性材料結合性のペプチドを使用して、無機材料の核形成を制御しうることを見いだした。タンパク質を使用して磁性材料の核形成を制御できるのであれば、従来の方法を使用するよりはるかに安価かつ容易に磁性ナノ粒子を製造することが可能となる。ナノ分子磁石および磁性材料は、たとえば、マイクロまたはナノマシン、ダイナモ、発電機、磁気記憶をはじめとする、磁性または磁化可能材料が有する任意の用途に使用することができる。こうした材料の他の用途としては、磁性材料の表面を修飾することも挙げられ、この場合、ペプチドは、他の材料を磁性材料の表面に付着させるリンカーとして作用して、新規な電子素子の基礎となりうるような複雑なナノ構造の自己組立てを可能とする。
【0046】
本発明者らは、この(コンビナトリアル・ペプチド・ライブラリーとパニング技術を使用して)結合性ペプチドを選択するというアプローチが、磁性材料については使用されておらず、磁性材料の核形成を制御するうえではペプチドが使用されたことがないことに気づいた。磁性ナノ粒子を合成する目的では、現在も多くの他の技術が研究されている。これらの試みは、いずれも、高価な物質を使用して不活性雰囲気中で実施する必要のある高温での合成にもとづいており、所望の形状および結晶度を備えたナノ粒子を製造するためには、さらなる処理および精製が必要とされることも多い。その結果、従来法で磁性ナノ粒子を製造すると、費用が極めてかさみ、製造規模の拡大も困難である。本明細書で提示するアプローチは、安価な物質を使用して室温で実施し、結晶度が制御されたナノ粒子を得ることができるので、磁性ナノ粒子を合成するうえではるかに安価なアプローチとなる。このアプローチは、結晶の構造および結晶の配向を制御する際にも使用可能である。
【0047】
ペプチドで媒介した磁性材料の合成を行うと、磁性ナノ粒子の合成に際して、はるかに安価で環境負荷の少ないアプローチをとることが可能となる。現行の磁性ナノ粒子製造プロトコールは、時間がかかり、しかも費用がかさむ。また、現行のプロトコールでは、有機界面活性剤で被覆されたナノ粒子が得られ、こうした界面活性剤は、ナノ粒子をさらに修飾するには不向きである。分子生物学の進捗によって、ペプチドに機能/官能基を付与することが可能となっており、ペプチドから成長させたナノ粒子にも容易に機能/官能基を付与して、電子素子への組み込みや、磁気記憶素子への統合を促進しうることが示唆される。
【0048】
磁性ナノ粒子を製造する現行の技術は高価で、時間がかかり、高温、不活性雰囲気、高価な物質、面倒な精製、合成後の変性が必要である。粒子の形成を媒介するのにペプチドを使用するこの新規な技術では、こうした問題がすべて緩和され、従来と比べるとはるかに迅速かつ安価な粒子の合成が可能となっている。また、結晶構造および配向の制御についても改善されている。
【0049】
公知の技術を使用することにより、大量のナノ粒子を製造するのに十分なペプチドを製造することができる。遺伝的に設計した生物を使用して、目的とする1以上のペプチドを製造することができる。ペプチドは、たとえばM13バクテリオファージのコートタンパク質の一つで製造することができる。別のコートタンパク質でタンパク質を発現させるよう、バクテリオファージをさらに設計または改変することもできる。また、細菌、たとえば大腸菌を改変して、目的ペプチドを、1以上のデザインまたは、目的位置で発現させることもできる。本発明で製造する磁性材料の局在化または位置決めに際してペプチドを使用することの明瞭な利点の一つは、これらには、たとえばフォトリソグラフィの使用などによって一般に二次元に限定されている半導体のプロセシングに固有の各種の制限がないことである。本発明のペプチドは、ペプチドの三次元の位置決めまたは合成を行うことが可能であるようなマトリックスの内部または周囲で使用することができる。こうすることにより、これらのペプチドを、フィルム状、線または縞状、層状、ドット状、溝中、表面上、開口部の側面または底面などに形成することができる。
【0050】
磁性ナノ粒子には、記憶素子、センサー、強磁性流体をはじめとする各種の用途がある。本明細書に記載する材料、粒子、およびナノ粒子は、こうした分野のすべてに適用しうるものである。
【0051】
また、本発明の金属および磁性材料は、以下の用途をはじめとする各種の用途での利用方法で用いることがでいる。さらなる用途としては、治療、診断、工学、反応の化学工学的処理、細胞および環境的用途が挙げられる。たとえば、(反応工程の大規模な処理におけるバルクでの分離をはじめとして、)磁気を利用した分離を行うことができる。他の用途としては、精製、治療、生体適合性、薬剤送達、造影剤の撮影、外部からアドレス可能な磁性物質の(インビボでの)局在化への利用を挙げることができる。薬剤送達に際しては、粒子を薬剤または化学療法剤と結合させ、その後、磁界によって局在化させることができる。粒子を適切に設計すると、細胞に貫入させることもできる。また別の用途としては、血液-尿の検出を挙げることができる。工学の用途では、蛍光および腹屈折材料をはじめとする光学活性材料に、アスペクト比が制御された磁性粒子を結合させることにより、ディスプレー素子を製造することができる。結合が生じると、結合性元素と結合した磁性粒子の慣性モーメントが変化するようなセンサー素子も製造することもできる。慣性モーメントの変化は、結合させた光学活性物質を使用することにより、分極の減衰を介して検出することができる。また別の用途としては、記憶への利用を挙げることができる。たとえば、読み出しに際して経時変化する磁界に対する応答が生じるようなメモリーを製造することができる。書き込み工程では、特異的部分が特定のアドレスに結合するようにすることができる。細胞の用途としては、細胞の修飾と細胞のトリガリングを挙げることができる。細胞の修飾では、磁性粒子のサイズを調節して、磁性粒子が細胞内に貫入し、粒子が物質と結合するようにすることができる。貫入のための動力としては、磁界を利用することができる。細胞の修飾は、トランスフェクションの過程で有用である可能性がある。細胞のトリガリングでは、磁性粒子と結合させた物質を細胞に入れてから、経時変化する磁界を使用して細胞の応答をトリガーすることができる。
【0052】
磁気を利用した分離の例としては、インビトロでのアフィニティを利用した古典的な分離、およびインビボでの物質の局在化を挙げることができる。アフィニティを利用した分離の場合には、磁性ナノ粒子は、サイズが小型でアスペクト比が高く、サイズおよび形状の分布が十分に制御されている点で有利である可能性がある。粒子の磁気誘電率が高い場合には、もっと別の利点もある。すなわち、粒子を長形として磁界中で回転可能とすることができ、この場合、形状効果によるさらなる力を発生させることができる。その結果、物質1 mgあたりの分離の力が増大する。インビボでの物質の局在化の場合には、磁性粒子は、物質に結合した状態で注入または摂取することができる。対象物に、外部から空間的に変化する磁界を印加すると、最大勾配Bの領域に粒子を集めることができる。粒子と物質を合わせたサイズが小さいので、物質が組織に接近し、場合によっては細胞に貫入することができる。
【0053】
より詳細には、本発明者らは、コンビナトリアル・ペプチドファージ・ディスプレイ・ライブラリー(すなわち、何百万種もの異なったペプチド配列を表面に発現するバクテリオファージの多数の集合体)およびバイオパニング法を使用して、磁性材料(ε-Co、CoPt、FePt)に直接しっかりと結合する特異的なペプチド配列を選択した。磁性材料に高いアフィニティで結合する特異的なペプチド配列を選択、特定することにより、ペプチド磁性ナノ構造の核形成を制御する際に使用できる可能性のあるペプチドを、迅速かつ容易に特定することが可能となる。磁性ナノ粒子の核形成を制御する際にペプチドを使用すると、周囲条件での磁性ナノ構造の合成が可能となる。磁性ナノ粒子の従来の製造プロトコールでは、精緻な合成スキームと大規模な精製が必要とされることが多く、すなわち、ペプチドによって媒介された核形成は、ナノ粒子合成に際してのはるかに安価な代替法となるはずである。
【0054】
本発明の特段の利点の一つは、このアプローチによって選択されたペプチドが、磁性材料に特異的かつ直接するペプチドとして選択されたものである点である。こうしたペプチドは、選択的に、結晶度が制御された磁性ナノ構造の核を形成することが例証された。これまで、Coナノ粒子は、Coが六方最密充填された状態のものが製造されてきており、CoPtおよびFePtナノ粒子は、通常インバー合金を伴う層状の結晶状態のものが製造されてきている。こうした結晶構造は、それぞれの材料としては最大限に磁化が容易であり、また、これらの材料は、ナノメーターレベルのスケールでも所望の磁性特性を保持している。こうした特性を備えているため、これらの材料は、次世代の磁気記憶素子を製造するうえで優れた候補となっている。現在、記憶素子は、密度が16.3 Gb/in2のCoCr合金を使用して製造されている。これらのナノ粒子は、さらにサイズが小さいので、密度がテラビット/in2のレベルであるような記憶素子の構築が可能となるものと考えられる。本発明では、SmCo5ナノ粒子は、HCP P6/mm の結晶度を有するものが生成する。
【0055】
ペプチドを使用してナノ粒子の核形成を制御すると、ナノ粒子にさらに機能/官能基を付与することも可能となる。従来の方法で製造されたナノ粒子は、疎水性の界面活性剤で被覆されることが多く、さらに機能/官能基を付与する(活性を付与、または活性基を付加する)ことは面倒であった。本明細書で開示するようにして製造したナノ粒子は、ペプチドで被覆されており、当業者には公知の各種の化学および生物学的技術を使用して機能/官能基を付与するのが比較的容易である。これらのナノ粒子にさらに機能/官能基を付与すると、これらのナノ粒子の自己組立によって複雑なアーキテクチャおよび記憶素子を形成することが可能となる。
【0056】
結晶度を制御するためにペプチドを使用して製造した粒子およびナノ粒子は、サイズが小さく、高度の磁化が可能で、製造が容易であるため、磁気記録産業に革命をもたらす可能性を持っている。
【0057】
実施例I: ペプチドの製造、単離、選択、および特性解析
ペプチドの選択: ファージディスプレーまたはペプチド・ライブラリーを、半導体または他の結晶と、0.1%のTWEEN-20を含有するTris緩衝塩類溶液(TBS)中で接触させて、表面でのファージ同士の相互作用を低減させた。室温で1時間揺動した後、表面を、Tris緩衝塩類溶液(pH 7.5)に10回接触させ、TWEEN-20の濃度を0.1%から0.5%(v/v)に上昇させることによって洗浄した。ファージの表面からの溶離を、グリシン-HCl(pH 2.2)を10分間加え、新しいチューブに移し、その後Tris-HCl(pH 9.1)で中和することによって行った。溶離したファージの力価を測定し、結合効率を比較した。
【0058】
3ラウンド目の基板の接触より後に溶離したファージを、大腸菌(E. coli)ER2537の宿主と混合し、LB XGal/IPTGで平板培養した。ライブラリー・ファージは、lacZα遺伝子を持つベクターM13mpl9由来であるので、Xgal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイル-β-D-ガラクトシド)とIPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトシド)を含有する培地でファージ・プラークを培養すると、ファージ・プラークは青色となった。青/白のスクリーニングを使用して、ランダム・ペプチド・インサートを有するファージ・プラークを選択した。これらの平板培養からプラークを拾い出し、DNA配列を解析した。
【0059】
基板の製造: 基板の配向を、X線回折で確認し、もとから存在している酸化物を、適当な化学特異的エッチングで除去した。以下のエッチング液、すなわちNH4OH:H2O(1:10)、HCl:H2O(1:10)、H3PO4:H2O2:H2O(3:1:50)を、GaAsおよびInP表面で、エッチング時間1分および10分について調べた。GaAsおよびInPのエッチ面については、元素比が最良となり、酸化物の形成が最小であったのは(XPS使用)、HCl:H2Oを1分間使用し、その後脱イオン水で1分間洗浄した場合であった。しかし、ライブラリーの最初のスクリーニングで、水酸化アンモニウムのエッチング液をGaAsに使用したので、このエッチング液を、他のすべてのGaAs基板の例にも使用した。Si(100)のウェハーを、HF:H2O(1:40)の溶液中で1分間エッチングし、その後脱イオン水で洗浄した。すべての表面は、洗浄液から直接取り出し、直ちにファージ・ライブラリーに挿入した。ファージと接触させていない対照基板の表面も、エッチング過程の有効性と、AFMおよびXPSによる表面形状について特性を解析しマッピングした。
【0060】
GaAsとAl0.98Ga0.02Asの多層基板を、分子線エピタキシーで、GaAs(100)上に成長させた。エピタキシーによって成長させた層に、Siを5 x l017 cm-3のレベルでドーピング(n型)した。
【0061】
抗体と金による標識: XPS、SEM、AFMの実施例については、基板を、Tris緩衝塩類溶液中で、ファージと1時間接触させ、次に、fdファージのpIIIタンパク質に対する抗体である抗fdバクテリオファージ-ビオチン結合体(Sigma製のリン酸緩衝液への1:500溶液)に30分間導入し、リン酸緩衝液中で洗浄した。ストレプトアビジン-20-nmコロイド状金標識(1:200)のリン酸緩衝液(PBS、Sigma)への溶液を、ビオチンとストレプトアビジンの相互作用によって、ビオチン結合ファージに結合させ、表面を標識に30分間接触させ、その後PBSで数回洗浄した。
【0062】
X線光電子分光法(XPS): XPSの実施例については、以下の対照を実施して、XPSで観察された金の信号がファージに結合した金に由来するもので、非特異的抗体のGaAs表面との相互作用によるものではないことを確認した。製造したGaAs(100)面を、3種の条件においた。すなわち、(1)抗体およびストレプトアビジン-金標識とは接触させるものの、ファージとは接触させないもの、(2)G1-3ファージおよびストレプトアビジン-金標識とは接触させるものの、抗体とは接触させないもの、(3)ストレプトアビジン-金標識とは接触させるものの、G1-3ファージとも、抗体とも接触させないもの。
【0063】
使用したXPS装置は、Physical Electronics社の単色の1,487eVのX線を生成するアルミニウム陽極を備えたPhi ESCA 5700とした。サンプルは、いずれも、金がファージに(上述したようにして)結合した直後にチャンバに導入して、GaAs表面の酸化を抑制し、その後、一晩高度の真空中で排気して、XPSチャンバ内でのサンプルのガス放出を低減させた。
【0064】
原子間力顕微鏡(AFM)での観察: 使用したAFMは、ZeissのAxiovert 100s-2tvにマウントしたDigital InstrumentsのBioscopeで、これを、Gスキャナとともに、チップ走査モードで使用した。画像は、空中で、タッピングモードを使用して撮影した。AFMの探針は、125 mmのカンチレバーを備え、バネ定数が20±100 Nm-1のエッチングしたシリコン製で、共鳴周波数200±400 kHz付近で駆動した。走査レートは、1±5 mms-1程度とした。画像は、一次平面を使用してして水準し、サンプルの傾斜を除去した。
【0065】
透過型電子顕微鏡(TEM)での観察: PhilipsのEM208を60 kVで使用して、TEM画像を撮影した。Gl-3ファージ(TBS1:100に希釈)を、GaAs片(500 mm)とともに30分間インキュベートし、遠心して粒子を結合しなかったファージから分離し、TBSで洗浄し、TBSに再懸濁した。サンプルは、2%酢酸ウラニルで染色した。
【0066】
走査型電子顕微鏡(SEM)での観察: G12-3ファージ(TBSで1:100に希釈)を、新たに切断したヘテロ構造表面とともに30分間インキュベートし、TBSで洗浄した。G12-3ファージに、20 nmのコロイド状金を結合した。SEMおよび元素マッピングの画像を、Hitachiの4700電解放出型走査電子顕微鏡にマウントしたNorian検出システムを5 kVで使用して、撮影した。
【0067】
実施例II: バイオフィルム
本発明者らは、有機と無機のハイブリッド材料が、新規な材料および素子への新たな道筋となることに気づいた。サイズの制御されたナノ構造は、半導体材料に光学的、電気的に調節可能な特性を付与し、有機物の添加剤は、無機物の形状、相、核の形成方向を修正する。生体材料は単分散的な性質を備えているので、システムは、規則性の高いスメクチックな規則化構造に適したものとなる。本発明の方法を使用することにより、遺伝的に改変した自己組立性の生体分子、たとえば、特定の半導体表面を認識する部分を備えたM13バクテリオファージを利用して、規則性が高く、ナノメータースケールおよび多重長さスケールのII-VI半導体材料の配列を創出した。
【0068】
本発明の組成物および方法を使用することにより、本発明で記載する半導体の認識および自己規則化システムを利用して、半導体材料のナノスケールおよび多重長さスケールの配列を実現した。半導体の認識および自己規則化を利用すると、現行のフォトリソグラフィーの特性を凌ぐような電子素子のマイクロのミクロでの製造を可能とすることができる。こうした材料の用途としては、発光ディスプレー、光学検出装置、レーザーのような光電素子、堅牢な配線、ナノメートル・スケールのコンピュータ部品およびバイオセンサーなどを挙げることができる。本発明を使用して形成したバイオフィルムの他の用途としては、高規則性液晶ディスプレーおよび有機-無機ディスプレー技術を挙げることができる。
【0069】
フィルム、繊維をはじめとする各種構造は、生体毒素をはじめとする小型分子検出用の高密度センサーを含むものとすることもできる。他の利用としては、光学コーティングおよび光学スイッチを挙げることができる。本発明で開示する1以上の材料を、単層または多層として、または場合によっては縞状として、また当業者には明らかなようにそれらの任意の組み合わせとして使用することにより、必要に応じて、医用インプラントまたは場合によっては骨インプラント用の足場材料を構築することもできる。
【0070】
本発明の他の利用としては、電気および磁気インタフェース、または場合によっては、高密度記憶用、たとえば量子コンピューティングに使用する3D電子ナノ構造の組織化を挙げることができる。また、再構成可能な医用ウイルス、たとえば生体適合性のワクチン、アジュバント、およびワクチン容器の高密度かつ安定した貯蔵を、本発明で生成したフィルムおよび/またはマトリックスを使用して行うこともできる。識別のための量子ドットパターンに基づいた情報記憶、たとえば国防省の敵味方識別用の装備またはコーディング用の布地に利用することも可能である。本発明のナノファイバーは、場合によっては、貨幣のコーディングおよび特定に使用することもできる。
【0071】
規則性が高く、十分制御された二次元または三次元の構造をナノスケールで製造することが、次世代の光学、電子、および磁性材料および素子を製造するうえでの主要な目標である。特異的なナノ粒子を製造する現行の方法には、長さのスケールの面でも、また材料の種類の面でも制約がある。本発明は、自己組立性の有機または生体の分子または粒子、たとえばM13バクテリオファージが有する諸特性を利用して、配列、サイズ、ナノ粒子のスケール、さらには使用が可能な半導体材料の範囲を拡張するものである。
【0072】
本発明者らは、異方性の形状を有する単分散の生体材料は、規則性の高い構造を生成する際の代替法となることに気づいた。特異的な半導体表面を認識する部位(ペプチドまたはアミノ酸オリゴマー)を備えた遺伝子改変M13バクテリオファージを使用することによって、II-VI半導体材料を、ナノスケールおよび多重長さスケールで配列させることに成功した。
【0073】
Sethらは、位置的な規則性と方向的な規則性を両方備えた、Fdウイルスのスメクチックな規則化構造について記載した。Fdウイルスのスメクチックな構造には、多重スケールおよびナノスケールで構造を規則化して、ナノ粒子の二次元および三次元の配列を形成する用途に使用できる可能性がある。バクテリオファージM13を使用したのは、このバクテリオファージM13が遺伝的に改変可能で、Fdウイルスと同一の形状であるものが成功裏に選択されており、II-VI半導体表面に対して特異的な結合アフィニティを有しているからである。したがって、M13は、ナノ粒子を多重スケールまたはナノスケールで規則化させる際に使用しうるスメクチックな構造の理想的なソースである。
【0074】
本発明者らは、コンビナトリアル・スクリーニング法を使用して、半導体表面に結合しうるペプチド・インサートを含むM13バクテリオファージを見いだした。これらの半導体表面としては、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化鉄のような材料を挙げることができる。分子生物学の技術を使用することにより、特異的な半導体材料および材料表面に結合するバクテリオファージ・コンビナトリアル・ライブラリーのクローンをクローニングし、液晶を形成するのに十分な濃度まで増幅した。
【0075】
フィラメント状のバクテリオファージFdは、細長い棒状(長さ:880 nm、直径:6.6 nm)で、単分散の分子量(分子量:1.64 x 107)を有している。こうした特性の結果、このバクテリオファージは、高濃度の溶液では、リオトロピック液晶の挙動を示す。バクテリオファージのこうした異方性の形状を、生物学的選択性および自己組立を使用して規則性の高いナノ粒子の層を形成するための方法として利用した。単分散のバクテリオファージを、標準的な増幅法によって製造した本発明では、これと類似したフィラメント状のバクテリオファージであるM13を、ナノ粒子、たとえば硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化鉄と結合するよう遺伝的に改変した。
【0076】
バクテリオファージがメソスケールで規則化することによって、ナノ粒子のナノスケールのアレイが形成されていることが示された。これらのナノ粒子は、さらにミクロンレベルのドメインに規則化され、さらにセンチメートルのスケールの長さとなっている。半導体ナノ粒子は、量子封じ込め効果を示し、液晶内で合成および規則化することができる。
【0077】
特異的なペプチド・インサートを含有するバクテリオファージM13の懸濁液を製造し、AFM、TEM、およびSEMで調べた。サンプル全体を通じて、ナノ粒子が、2Dおよび3Dに均一に規則化しているのが観察された。
【0078】
AFM: ZeissのAxiovert 100s-2tvにマウントしたDigital InstrumentsのBioscopeを使用し、これを、Gスキャナとともに、チップ走査モードで使用した。画像は、空中で、タッピングモードを使用して撮影した。AFMの探針は、125 mmのカンチレバーを備え、バネ定数が20±100 Nm-1のエッチングしたシリコン製で、共鳴周波数200±400 kHz付近で駆動した。走査レートは、1±5 mms-1程度とした。画像は、一次平面を使用して水準し、サンプルの傾斜を除去した。図2Aおよび2Bは、AFMを使用することによって観察されたM13ファージのスメクチックな配列の模式図である。
【0079】
TEM: PhilipsのEM208を60 kVで使用して、TEM画像を撮影した。Gl-3ファージ(TBS1:100に希釈)を、半導体材料とともに30分間インキュベートし、遠心して、結合しなかったファージから粒子を分離し、TBSで洗浄し、TBSに再懸濁した。サンプルは、2%酢酸ウラニルで染色した。
【0080】
SEM: ファージ(TBSで1:100に希釈)を、新たに切断したヘテロ構造表面とともに30分間インキュベートし、TBSで洗浄した。G12-3ファージに、20 nmのコロイド状金を結合した。SEMおよび元素マッピングの画像を、Hitachiの4700電解放出型走査電子顕微鏡にマウントしたNorian検出システムを5 kVで使用して、撮影した。
【0081】
半導体表面に対する特異的な結合特性を備えた遺伝子改変M13バクテリオファージを、標準的な分子生物学の手法で増幅、精製した。バクテリオファージ懸濁液3.2 mL(濃度:約107ファージ/μL)と一晩培養したもの4 mLを、400 mLのLB培地に加え、量を増幅させた。増幅後、約30 mgのペレットを沈殿させた。懸濁液は、Na2S溶液を、ZnCl2をドーピングしたA7ファージの懸濁液に室温で加えることによって調製した。最高濃度のA7ファージ懸濁液は、20μLの1mM ZnCl2およびNa2S溶液を、それぞれ、約30 mgのファージ・ペレットに加えることによって調製した。濃度は、消衰係数として3.84 mg/mL(269 nm)を使用することによって測定した。
【0082】
等方性の懸濁液の濃度が上昇するにつれて、方向的な規則性を有するネマチック相、ねじれたネマチック構造を有するコレステリック相、そして方向的および位置的な規則性も有するスメクチック相が観察された。これらの相は、ナノ粒子を持たないFdウイルスで観察されていたものである。
【0083】
偏光顕微鏡(POM)での観察: M13ファージの懸濁液を偏光顕微鏡で調べた。各懸濁液を、直径0.7 mmのガラス製毛管に充填した。高濃度とした懸濁液(127 mg/ml)は、平行化した偏光下では虹色を示し[5]、直交させた偏光下ではスメクチックな組織を示した(図3A)。表2に示すように、図3Bのコレステリック・ピッチは、懸濁液の濃度を変化させることによって制御することができる。ピッチ長さを測定し、サンプル調製の24時間後に、マイクログラフを撮影した。
【0084】
(表2)コレステリック・ピッチと濃度の関係
【0085】
AFM: AFMによる観察では、5μLのM13バクテリオファージの懸濁液(濃度:30 mg/ml)を、24時間、デシケータ中で、3-アミノプロピルトリエチルシランで4時間シラン化した8 mm x 8 mmの雲母基板上で乾燥させた。画像は、空中で、タッピングモードを使用して撮影した。M13バクテリオファージの異方性の形状(長さ880 nm、幅6.6 nm)ゆえの自己組立てによって規則化した構造が観察された。図3Cでは、M13ファージは、写真の平面に延在して、スメクチックな配列を形成している。
【0086】
SEM: SEMでの観察では、バクテリオファージとZnSナノ粒子のスメクチックな懸濁液(バクテリオファージ懸濁液の濃度:127 mg/ml)を臨界点まで乾燥したサンプルを調製した。図3Dでは、ナノ粒子の多い領域とバクテリオファージの多い領域が観察された。ナノ粒子とバクテリオファージを隔てる間隔は、バクテリオファージの長さと対応している。スメクチックな懸濁液の希釈サンプルをTEMとともに使用した電子回折のパターンでは、ZnSの繊維亜鉛鉱結晶構造が確認された(図3Eおよび3F)。
【0087】
バイオフィルムの製造: バクテリオファージのペレットを、400μLのTris緩衝塩類溶液(TBS、pH 7.5)と200μLの1mM ZnCl2に懸濁し、1mM Na2Sを加えた。室温で24時間揺動した後、懸濁液(1 ml入りエッペンドルフチューブに封入)を、デシケータ中で1週間徐々に乾燥させた。厚さ約15μmの半透明のフィルムが、チューブの内に形成された。図4Aに示すこのフィルムを、ピンセットを使用して注意深く採取した。バイオフィルムの模式図を、図4Bに示す。
【0088】
バイオフィルムのSEMによる観察: SEMを使用して、A7-ZnSフィルムのナノスケールのバクテリオファージの配列を観察した。SEMによる解析を行うために、フィルムは切断してから、アルゴン雰囲気中で真空蒸着で2 nmのクロムで被覆した。サンプル全体に、高密度に充填された構造(図4D)が観察された。個々のファージの平均長さである895 nmは、ファージの長さである880 nmと妥当な類似性を有していた。フィルムは、スメクチックAまたはC様のラメラ状状の形態を示し、ナノ粒子とバクテリオファージの相との間に周期性が認められた。周期性の長さは、バクテリオファージの長さと対応していた。ナノ粒子の平均粒径は約20 nmで、TEMでの個々の粒子の観察結果と類似していた。
【0089】
バイオフィルムのTEMによる観察: ZnSナノ粒子の配列を調べるにあたっては、フィルムを、エポキシ樹脂(LR white)中に1日包埋し、10 μlの硬化促進剤を加えて重合させた。硬化後、Leicaのウルトラミクロトームを使用して、樹脂の切片を作成した。これらの約50 nmの切片を蒸留水に浮かせ、ブランクの金格子上に拾い上げた。模式図中のx-z平面に対応する平行に配列したナノ粒子が観察された(図4E-F)。各バクテリオファージが5コピーのA7部分を有しているので、各A7が1個のナノ粒子(サイズ、2〜3 nm)を認識し、幅約20 nmで配列し、長さ2μm超にわたって延在した。2μm×20 nmのバンドが平行に形成され、各バンドの間隔は約700 nmであった。この不一致は、ファージ層のスメクチックな配列がTEMによる観察に対して傾斜していることによって生じている可能性があり、この点については、Marvinのグループによる報告がある。図1Fに示したものに似たy-z軸様のナノ粒子層の平面も観察された。配列した粒子のSAEDパターンからは、ZnS粒子が、繊維亜鉛鉱の六方晶構造を有することが示された。
【0090】
バイオフィルムのAFMによる観察: ウイルスフィルムの表面配向を、AFMを用いて調べた。図4Cでは、ファージが、スメクチックOと称される表面の大半では、隣接したダイレクターの法線(バクテリオファージの軸線)がほぼ直角であるような平行に配列したヘリングボーンのパターンを形成していることが示された。フィルムは、何十μmも続く長範囲で規則化した法線ダイレクターを示した。2つの磁区の層が互いに出逢う領域の一部では、2または3の多重長さスケールのバクテリオファージが平行で、スメクチックC規則構造を保持して配列していた。
【0091】
認識ならびに自己規則化システムを使用することによって得た半導体材料のナノスケールおよび多重長さスケールの配列は、将来的に、電子素子のミクロでの製造に役立つ。これらの素子は、現行のフォトリソグラフィーの諸特性を凌駕する可能性を秘めている。こうした材料の他の用途の可能性としては、発光ディスプレー、光学検出装置、レーザーのような光電素子、堅牢な配線、ナノメートル・スケールのコンピュータ部品およびバイオセンサーなどを挙げることができる。
【0092】
実施例III: 金属および磁性材料の形成
ファージディスプレー技術を、磁性材料に選択的に結合する新規なペプチドを見いだすために使用した。これらの特定の研究では、磁性材料のフィルムの製造を、まず、磁性材料のコロイド状分散液を合成することによって行った。次に、これらのコロイド状溶液を、Siウェーハ状に滴下コーティングし、N2中でアニーリングして、所望の結晶構造を生成させた。次に、これらのフィルム(ε-Co、CoPt、およびFePt)にファージディスプレーを実施して、各基板に選択的に結合するペプチドを見いだした。次に、これらのペプチドを使用した独特のナノ粒子の核形成を、目的とするペプチドを発現しているファージ、金属塩、還元剤を混合することによって実施した。
【0093】
サイズおよび組成が制御されたナノ粒子の合成は、根本的かつ重要な技術である。ここ数年、サイズおよび形状がきちんと制御された金属および半導体製のナノ粒子を得ることのできる合成方法について記載した論文が多数発表されてきた。最近では、ファージディスプレーを利用して特定したペプチドが無機表面に選択的に結合可能であり、このペプチドが、半導体ナノ粒子の核形成の制御に利用できることがわかってきた。この場合、ペプチドは、得られるナノ粒子のサイズ、形状、組成、そして場合によっては結晶度までを制御可能である。ペプチドで半導体ナノ粒子の合成を成功裏に制御できたため、この技術を他の重要な材料に適用することに多大な興味が集まっている。
【0094】
特に重要かつ産業上有用な一群の材料としては、粒子およびナノ粒子のものをはじめとする強磁性体がある。強磁性材料は、年間何十億規模の磁気記録産業の基盤となっている。現行の素子では、磁化が容易で製造しやすいという理由で、データの記憶にCoCr合金を使用している。他の材料も、現在開発中であり、そうした材料の一つが磁気異方性が107 erg/cm3のレベルの金属Coである。こうした高い磁気異方性からは、直径が10 nmといった小型の粒子でも、単一の磁区として作用し、記憶要素として機能しうるものであることが示唆される。現行の技術では、磁区のサイズが何百ナノメータのレベルであるような記憶要素が使用されているので、サイズが10 nmレベルのCoナノ粒子の生成は、はるかに高密度の記憶素子の製造をも可能とする劇的な進歩である。さらに興味深い強磁性材料は、Ptの磁性合金、特にFePtおよびCoPtの磁性合金である。これらの材料は、磁気異方性が極めて高く(108 erg/cm3)、これは、FeとPt原子が重畳することによって生じた格子定数の乱れによって、Ptが磁性状態となるインバー効果が生じているためである。これらの系が高い異方性を備えていることからは、2 nmといった小型のナノ粒子も室温で強磁性材料として作用することができ、こうしたナノ粒子が、極めて高密度の記憶素子を開発するうえで利用しうるものであることがわかる。
【0095】
こうした系は磁気異方性が高いため、こうした材料から構成される粒子およびナノ粒子の合成には多大な努力が投下されてきた。ε-Co、FePt、およびCoPtについてはいくつかの異なる合成プロトコールが開発されているが、これらのプロトコールは、いずれも、同じ根本的な弱点をかかえている。こうした合成戦略は、いずれも、界面活性剤の存在下での高温でのナノ粒子の制限された析出に依拠しているのである。すなわち、ナノ粒子のこうした製造は、いずれも、不活性雰囲気中で高価な物質を使用する必要があるために多大な費用がかかり、規模の拡大を望めない。また、これらの製造では、所望の結晶度を実現するための高温でのアニーリングなどによる粒子のさらなる改質や、単分散集団とするためのサイズ選択的な析出が必要とされることも多い。こうした余分な合成工程のために、こうした合成戦略は費用が上昇してしまう。
【0096】
これらの材料は産業上の重要性が高いので、新規な合成戦略が必要とされてきた。ペプチドを媒介とした磁性材料の合成という原理を利用すると、そうした代替戦略が可能となる。こうした研究では、ファージディスプレーを用いた選択を重要な磁性材料(Co、CoPt、SmCo5、およびFePt)に対して実施して、磁性材料に対して高い親和性で特異的に結合するペプチドを特定する。そうしたペプチドは、特性解析後に使用して、磁性ナノ粒子の核形成を制御する。こうした研究では、当該ペプチドを発現するファージを、当該金属の金属塩と混合し、次に、還元剤(NaBH4)を加えてナノ粒子を生成した。ナノ粒子が形成され、このナノ粒子の特性をTEMで解析した。本発明の合成は、周囲条件で実施して、磁性ナノ粒子を生成する既存の合成戦略よりはるかに安価な代替戦略を提供するものである。
【0097】
磁性ナノ粒子のX線回折による解析
ファージディスプレーの基板として使用するために磁性表面を生成する必要があっった。この目的で、磁性ナノ粒子を従来法で製造し、Siウェーハに滴下コーティングした。ファージディスプレーの研究を開始する前に、表面の特性をX線回折(XRD)で解析して、この材料の結晶度が適切であることを確認した。
【0098】
ε-CoについてえられたXRDパターンは、文献で得られたパターンとよく相関しており、45度と50度の間にトリプレットのピークを示し、これらのピークは、ε-Coの(221)、(310)、および(311)結晶平面と対応しているために、特にはっきりしていた。FePtおよびCoPtのパターンも、FePtllについての文献のスペクトルと一致しており、FePtおよびCoPtの(001)、(110)、(111)、(200)、(002)、(210)、(112)、および(202)平面に対応するピークを示した。SmCo5についてのXRDも、HCP SmCo5についての文献上の値と一致し、(101)、(110)、および(111)面を表すピークを示した。これは、HCP SmCo5ナノ粒子について最初に報告された合成である。図5Aは、SmCo5ナノ粒子についての高解像度のTEM画像、図5Bは、TEMの画像の選択された領域で、電子回折パターンを示す。回折パターン中の数個のスポットが、HCP SmCo5の既知の面とよく相関した(図51B)。図5Cは、アニーリングしたSmCo5ナノ粒子についてのSTEMの画像で、ナノ粒子のサイズ、形状、および全体的な形状が図示されている。
【0099】
結合性ファージの配列解析および結合アッセイ
表3に、目的とする磁性材料との結合性についてファージディスプレーを使用して選択した全ペプチドを列挙して示す。
【0100】
(表3)磁性結合特性を有する選択されたクローン
*ε-Co上の7量体の拘束ライブラリーについては、コンセンサス配列は得られたかった。
【0101】
選択された配列は、いずれも、金属表面に対して高度の親和性を持つ有効な配列である可能性が高い。配列のいくつかには、ヒスチジン残基が出現する。ヒスチジンはイミダゾール側基を備えているので、金属の優れた配位子となり、したがって、ヒスチジンがこうした配列中に存在することは、予測される状況である。CoPt上の7量体の拘束配列を除いては、Pt合金について単離された全配列がリジン残基を含んでいる。リジンとPtの相互作用は、抗癌剤として重要なシスプラチンの作用において重要であると考えられている。リジンとPtの相互作用からは、これらの配列が、こうした材料に選択的に結合することが示唆される。とはいえ、本発明は、既知未知を問わず、特定の機構の相互作用に限定されるものではない。
【0102】
特異的結合アッセイ: 単離されたファージの磁性基板に対する親和性を測定するために、2種の試験を行った。最初の試験では、我々のCo特異的ファージ、ランダムファージ、および野生型ファージをはじめとする数種の異なったペプチド含有ファージをCo表面に接触させた。さらに、Co特異的ファージを、数種の異なった材料表面に接触させた。結果を図6に示す。Co特異的ファージは、Coに対して、野生型ファージまたはランダム・ファージライブラリー配列より高い親和性を示した(図6A)。また、Co特異性ファージは、SiよりCoに対して高い親和性を示し、このファージがCo表面に選択的に結合するものであることが示唆された。
【0103】
第二の試験では、Co表面をCo特異的ファージの溶液に浸漬させた。この試験を、数種の異なったファージ濃度で繰り返した。ファージの吸着量をファージの濃度に対してプロットしたところ(図6B)、ファージのCo表面への吸着が、分析対象物の表面への吸着に関してのラングミュアのモデルに従うことが示唆された。吸着がラングミュアのモデルに従うので、逆数プロットを生成すると、吸着されたファージと濃度が一次相関していることが示された(図示せず)。この線のスロープは、結合定数と等しく、Coの場合には、ファージのkadsは、2×10-12 Mであった。この測定は、ファージと無機表面の間の結合に伴う熱力学的特性についての初めての測定であるので、解釈が難しいが、この結合定数の大きさは、他の幾つかの生体相互反応に匹敵するものである。このアプローチは、CoPtおよびFePt系に使用することができる。
【0104】
これらの試験によって、ファージディスプレー・スクリーニングを使用して選択したペプチドが、Coに対しては特異的な結合性を持つものの、他の材料に対してはそうした結合性を持たないことが示された。磁性材料をはじめとする金属材料を形成させるうえで利用することができるのは、この特異性である。
【0105】
ペプチドで媒介した核形成によって製造したナノ粒子のTEMによる解析
本発明の一態様では、ペプチドを使用してナノ粒子を製造して、改質および/または結晶度を制御した。表3に示す7量体の拘束配列を使用して成長させたCoPtナノ粒子の高解像度のTEM画像も撮影した(図示せず)。これらのナノ粒子は、格子間隔が0.19および0.22 nmで、これはL10 CoPtの格子間隔と相関している。
【0106】
野生型ファージを使用して成長させたナノ粒子の高解像度のTEM画像も、ランダムペプチド・インサートを含むファージを使用して成長させたCoPtナノ粒子の画像とともに撮影した(図示せず)。これらの双方の対照試験では、ナノ粒子が一応形成されたものの、これらのナノ粒子は、CoPt選択性ペプチドを使用して成長させた粒子が備えているような結晶度は備えていなかった。ファージの不在下で成長させたナノ粒子は、凝集して溶液から析出してしまうので、TEMによる画像の撮影は、ほぼ不可能である。
【0107】
FePtに対して選択的な12量体のペプチドを発現するファージを使用して成長させたFePtナノ粒子についても、高解像度のTEM画像を撮影した(図示せず)。これらのナノ粒子は、CoPtナノ粒子と類似した格子間隔を示し、これらのナノ粒子がL10 FePtから構成されていることが示唆された。この同じ粒子、たとえば、野生型ファージの存在下で生育させたFePtナノ粒子について、電子回折パターンを撮影した(図示せず)。これらのナノ粒子も、FePt選択性ファージを使用して成長させた粒子が備えているような結晶度は備えていない。ファージの不在下で成長させたナノ粒子は、凝集して溶液から析出してしまうので、画像の撮影は不可能である。
【0108】
表1に示す7量体の拘束配列を使用して成長させたCoPtナノ粒子の高解像度のTEM画像を、図7に示す。これらのナノ粒子の格子間隔は、約0.22 nmで、これは、HCP Coについての文献上の値である約0.19 nm、およびLlo CoPtの格子間隔とよく相関している(図7A)。また、選択された領域を使用して、ナノ粒子の電子回折パターンを観察した(図示せず)。この回折パターンには、HCP Coの面と相関するバンドが何本か存在しており、ナノ粒子が事実上HCP Coから構成されていることが示された。野生型ファージ(図7C)または非特異的ファージ(図7B)を用いた対照実験では、ナノ粒子が一応形成されたものの、これらのナノ粒子は、CoPt選択性ペプチドを使用して成長させた粒子が備えているような結晶度は備えていなかった。ファージの不在下で成長させたナノ粒子は凝集して、溶液から析出してしまうので、TEMによる画像の撮影は、ほぼ不可能である。
【0109】
図8は、Coに対して特異的に結合する12量体のペプチドを発現したファージを使用して成長させたCoナノ粒子の高解像度のTEM画像である(図8A)。これらのナノ粒子の格子間隔は0.2 nmで、これは、HCP Coについての文献上の値(0.19 nm)とよく相関している。これらのナノ粒子の電子回折パターンを観察するために、特定の領域を選んだ(図8B)ところ、回折パターンには、HCP Coの面と相関するバンドが何本か存在しており、ナノ粒子がHCP Coから構成されていることが示された。野生型ファージまたは非特異的ファージを使用したり、ファージを使用しなかった対照実験では、Co粒子は凝集して、溶液から沈殿してしまう(図示せず)。
【0110】
図9Aは、FePtに対して選択的な12量体のペプチドを発現したファージを使用して成長させたFePtナノ粒子の高解像度のTEM画像である。これらのナノ粒子は、CoPtナノ粒子と似た格子間隔を示し、Llo FePtから構成している可能性が高かった。図9Bは、対応する電子回折パターンで、図9Cは、野生型ファージの存在下で成長させたFePtナノ粒子の画像である。野生型のファージ不在下では、ナノ粒子は、FePtに対して選択的なファージを使用して成長させたナノ粒子が備えているような結晶度は備えていなかった。また、ファージの不在下で成長させたナノ粒子は、凝集して溶液から析出してしまうので、画像の撮影は不可能である。
【0111】
SmCo5に対して特異的な12量体のペプチドを発現するファージを使用して成長させたSmCo5ナノ粒子についても、高解像度のTEM画像を撮影した(図10A)。また、選択された領域を使用して、ナノ粒子の電子回折パターンを観察した(図10B)。この場合も、回折パターンには、HCP SmCo5の面と相関するバンドが何本か存在していた。SmCo5系を使用して実施した対照実験では、非特異的ファージを使用するとナノ粒子が凝集および/または溶液から析出してしまうというCo系で観察されたのと似た結果が得られた。こうした粒子のTEM画像では、結晶質の磁区が一部示されたものの、材料の大半の部分は非晶質であった。
【0112】
ナノ粒子のMFMによる特性解析
磁力顕微鏡検査法(MFM)を使用して、ナノ粒子の磁気特性を解析した。Coナノ粒子の核形成に使用したファージの原子間力顕微鏡での画像を、まず撮影した(図11A)。ファージ末端にナノ粒子が大きく凝集しているのがはっきり観察され、予想通り、P3タンパク質が、ナノ粒子の核形成を制御していることが示唆された。対応するMFMの画像を撮影して、これらの結果を確認した(図11B)。この場合、ファージは非磁性であるために見ることができなかったが、ナノ粒子が凝集している様子については、はっきりと見え、ナノ粒子が高い磁気異方性を備えていることが示唆された。
【0113】
SQUID: 本発明の一態様では、ナノ粒子の磁気特性を、超伝導量子干渉素子(SQUID)磁力計を使用して、定量的に測定することができる。SQUID磁力測定を使用して、粒子をさらに調べた。SQUIDを使用して、ファージによって発現された12量体のペプチドを使用して成長させたFePtナノ粒子について、室温でのヒステリシス・ループを測定した(図12A)。走査中央部の高解像度のヒステリシス・ループも測定して、保磁力が存在することを明確にした(図12B)。これらのサンプルの保磁力は比較的低かった(約50 Oe)。このデータは、周囲条件で成長させた強磁性ナノ粒子についての最初の事例である。ヒステリシス・ループを、生物学的に製造したSmCosナノ粒子についても測定した(図13)。ヒステリシスは、これらのナノ粒子では、はるかに大きかった(400 Oe)。SmCosの巨視的サンプルは、通常、FePtより保持力の値が大きいので、この結果は予測通りである。
【0114】
P8コートタンパク質上の磁気特異的ペプチド
本発明の一態様では、M13バクテリオファージのp3タンパク質に発現された材料特異的なファージを使用して、磁性の挙動を示すナノ粒子を製造した。p3タンパク質は、棒形形状のファージの一端のみに存在し、また、限定数(1ファージあたり3〜5)が存在する。一方、p8コートタンパク質は、ファージの長さ方向に沿って発現され、1ファージあたり何百コピーもが発現される。このため、p8タンパク質を、CoPt特異的なペプチドを発現するよう改変し、ファージの長さ方向に沿って、CoPtナノ粒子の核を形成した。材料の製造の一例を以下に示す。他の、材料および生物科学の当業者には自明な方法も、過度の実験検証を行わずに使用可能である。
【0115】
磁性粒子およびナノ粒子をはじめとする磁性材料の核形成にあたっては、ペプチドをファージとともに、またはファージなしに十分な高温に加熱して、階梯に付随する結合性分子を、高温焼きなまし過程で、焼却、除去することができる。たとえば、500℃または1,000℃への加熱を、焼却および除去が最適なかたちで生じるような時間実施することができる。この温度を、金属のアニーリング温度の範囲とすることによって、多結晶ドメインを融合させて単結晶ドメインとすることもできる。
【0116】
方法
材料: 塩化サマリウム(III)、アセチル酢酸白金(II)(Pt(Acac)2)、ヘキサクロロ白金酸二水素(H2PtCl6)、オクタカルボニルコバルト(Co2(CO)8)を、Alfa Aesarから購入した。鉄ペンタカルボニル(Fe(CO)5)、塩化コバルト(II)(CoCl2)、塩化鉄(II)(FeCl2)、酸化トリオクチルフォスフィン(TOPO)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、オレイルアミン、オレイン酸を、Aldrichから購入した。
【0117】
ε-Coナノ粒子の合成: Coナノ粒子の製造を、まず、0.6 gのCo2(CO)8を5 mlのo-ジクロロベンゼンに溶解することによって行った。この混合物を1時間撹拌してCoを溶解させ、20 mlのo-ジクロロベンゼン、0.416 gのTOPO、0.2 mlのオレイン酸を、500 ml入りの3首の反応容器でAr雰囲気中にて混合した。次に、この混合物を100℃に加熱した。次に、この混合物を5分間減圧して、溶存O2およびH2Oをすべて除去した。次に、この混合物を沸騰するまで加熱し(180℃)、Co溶液を加えたところ、混合物は黒変し、COガスが雲状に発生した。20分間の還流後、反応系を室温まで冷却した。粒子を精製するために、3 mlのCoナノ粒子溶液を3 mlのエタノールと混合した。1時間後に混合物を10,000 rpmで5分間遠心した。沈殿物を、3 mlのCH2Cl2、さらに3 mlのエタノールに再懸濁させ、遠心工程を繰り返した。その後、沈殿物を、3 mlのCH2Cl2に再懸濁させた。
【0118】
FePtナノ粒子の合成: 20 mlのフェニルエーテル、0.205 gのPt(Acac)2、0.358 gの1,2-テトラデカンジオールを混合し、Ar雰囲気中で100℃に加熱、その後、0.16 mlのオレイン酸、0.17 mlのオレイルアミン、0.13 mlのFe(CO)5を加えた。この混合物を300℃に加熱し、30分間還流し、室温まで冷却した。FePtナノ粒子を、Coナノ粒子と同様にして精製した。
【0119】
CoPtナノ粒子の合成: 製造は、0.13 mlのFe(CO)5のかわりに0.16 gのCO2(CO)8を使用した以外は、FePtと同様にして行った。
【0120】
SmCo5ナノ粒子の合成: 停止性沈殿(arrested precipitation)法を使用して、SmCo5のナノ粒子を製造した。この技術は、以前のナノ粒子製造の試みを利用したものである。38.75 mgのCoCl2を16.0 mgのSmCl3と混合し、20 mlのフェニルエーテルに混合した。次に、0.357 mlのオレイン酸を混合物に加え、さらにAr雰囲気中で100℃に加熱した。次に、1.35 mlのトリオクチルフォスフィンを加えた。次に、この混合物を10分間減圧して、溶液に溶存しているO2およびH2Oをすべて除去した。溶液の減圧パージ後、溶液を290℃に加熱して、フェニルエーテルを沸騰させた。次に、1 mlの超水素化物溶液を加えたところ、溶液は、ただちに青から黒へと変化した。次に、この黒色混合物を20分間還流し、室温まで冷却した。
【0121】
フィルムの形成: ファージ・ディスプレーによる選択に用いるフィルムを製造するために、ナノ粒子のコロイド溶液を、Siスライド上に滴下してコーティングし、溶剤を蒸発させた。
【0122】
FePtおよびCoPtの場合には、その後スライドを700℃で30分間N2雰囲気中でアニーリングして、L10相を形成した。これらのスライドのすべてについてXRD分析を行って、適正な材料であることを確認した。
【0123】
ペプチドの選択: ε-CoならびにCoPtおよびFePtのL10相に排他的に結合するペプチドを見いだす目的で、ファージ・ディスプレイ・ライブラリー法を使用した。より具体的には、Ph.D.-12(tm)およびPh.D.-7 CTM ファージディスプレー・ペプチド・ライブラリー・キットを、1 μL(または初期量)のファージ・ディスプレイ・ライブラリーから開始して使用し、磁性基板に対する選択を開始させた(1 mlのTBS中)。ε-Coについては、選択を、NaBH4のTBSTへの10 mM溶液中で実施した。5ラウンドのパニングを行ったところ、ペプチドおよびペプチドのDNAが単離され、テキサス大学のDNA Core Facilityから配列を入手した。バクテリオファージによって提示されたペプチドに対応するこれらの配列を解析して、コンセンサス配列を決定した。DNA配列の解析結果では、アミノ酸の率が位置に対して過剰であった。最初の2ラウンドでは非特異的結合が生じている可能性があるので、解析は、最後の3ラウンドのパニングについてのみ行った。
【0124】
結合アフィニティ: ペプチドがε-Co、CoPt、FePtと特異的に結合することを確認するために、結合アフィニティを測定した。コンセンサス・ペプチドをパニングで調べて、力価の数値を得、これを、ε-CO、CoPt、FePtに結合しなかった野生型およびランダムペプチドの力価の数値と比較した。次に、各種濃度のファージを使用して、パニングで調べ、目的とする金属表面に対するファージの結合定数を決定した。
【0125】
Coのペプチドを媒介した核形成: 約880μlのH2Oを100μLの1 mM CoCl2および20μLのファージ溶液(pfu = 1011)と混合した。混合物を30分間穏やかに撹拌し、次に、100μLの100 mM NaBH4を加えた。溶液をボルテックスし、さらに5分間インキュベートした。次に、TOPOおよびオレイン酸のCH2Cl2への溶液100 mlを加えた。混合物をボルテックスし、1時間にわたって穏やかに撹拌した。この間に、CH2Cl2層が暗灰色に変化した。この操作をCo-1、Co-2、野生型ファージをはじめとする数種の異なるファージ、およびファージ非含有のTBS溶液で繰り返した。
【0126】
CoPtのペプチドを媒介した核形成: 核形成のために、50μLの1mM CoCl2溶液を、50μLの1 mM H2PtCl6溶液と混合した。次に、10 mlのファージ溶液を加えた(pfu = 1011)。この混合物を、30分間穏やかに撹拌し、次に、20μLの100mM NaBH4を加えた。この溶液をただちにボルテックスし、30分間タンブラー中に置いた。最終溶液は、黄色であった。
【0127】
FePtのペプチドを媒介した核形成: CoCl2溶液のかわりにFeCl2溶液を使用した以外はCoPtと同様にして、FePtを製造した。
【0128】
SmCo5のペプチドを媒介した核形成: 100μLの1mM CoCl2のかわりに16.7μLの1mM SmCl3および83 ulの1mM CoCl2を使用した以外は、Coの合成と同様とした。
【0129】
ペプチドのP8による発現: 遺伝子改変大腸菌を、20 mlのLB培養液中で一晩増殖させ、1:100に希釈し、次に、O.D. = 0.6となるまで生育させた。テトラサイクリン-HCl(1000x)および100mM IPTGを、lmMの最終濃度となるまで加えた。IPTGは、細胞内での修飾p8タンパク質の製造を開始させ、修飾p8タンパク質は、組立時にウイルスのコートに組み込まれる。混合物を、撹拌せずに、1時間静置した。1時間後に、ヘルパーファージを感染させ、その後、39℃にて一晩振盪した。次に、ファージを、遠心およびPEG沈殿によって分離精製した。増幅させたファージのペレットを、10 mlのTBS(pH 7.5)に再懸濁させ、18 MWの水に対して透析した。0.5 mlの5mM CoCl2および5mM H2PtCl6の双方を、遠心して沈殿させて上清を除去しておいた増幅ファージのストック1 mlに加えた。さらに60分間の振盪を行い、その後、0.5 mlの100mM NaBH4を還元剤として加えた。
【0130】
ナノ粒子のTEMによる画像を、CoPtのファセットについて期待される値に対応するバンドを多数示した選択領域の電子回折パターンとともに撮影した。CoPtナノ粒子がそのP8タンパク質に沿って成長したこれらのファージのうちの1つにいてのSTEMによる画像も撮影した。この構造の長さは、ファージの長さ(800 nm)と相関している。図14Aは、ナノ粒子のTEM画像であり、図14Bは、この高解像画像をであり、図14Cは、CoPtのファセットについて期待される値に対応する多くのバンドを示した選択領域の電子回折パターンである。CoPtナノ粒子がそのP8タンパク質に沿って成長したこれらのファージのうちの1つにいてのSTEMによる画像を、図14Dに示す。Pt(図14E)およびCo(図14F)のEDSマッピングは、CoおよびPtが、いずれも、構造の長さ方向に沿って等濃度で見いだされることを示している。
【0131】
本発明は、磁性材料と結合するペプチドを特定する際に、ファージディスプレーを使用しうることを示すものである。この特定は迅速で、費用効果が高く、必要とされる材料も少なくてすむ。得られたペプチドは、磁性ナノ粒子の核形成を制御する際に使用することができ、ユーザーが、生成するナノ粒子のサイズ、組成、結晶度を制御することが可能となる。これらのペプチドを使用すると、周囲条件でナノ粒子を合成することが可能となるので、現在用いられているナノ粒子の合成戦略を好ましいかたちで代替することが可能となるものである。
【0132】
ファージ・ディスプレイ・ライブラリー、およびこうしたライブラリーをバイオパニングに使用するための実験的方法については、たとえば、以下のBelcherら米国特許公報に記載されている。(1)"Biological Control of Nanoparticle Nucleation, Shape, and Crystal Phase"、2003/0068900 (2003年4月10日公開)、(2)"Nanoscale Ordering of Hybrid Materials Using Genetically Engineered Mesoscale Virus"、2003/0073104(2003年4月17日公開)、(3)"Biological Control of Nanoparticles"、2003/0113714(2003年6月19日公開)、および(4)"Molecular Recognition of Materials"、2003/0148380(2003年8月7日公開)。
【0133】
本発明の用途は、その利用方法についても含め、以下の参考文献に記載されている。超常磁性材料の磁気共鳴映像法での利用については、たとえば、Palmacciらの米国特許第5,262,176号(1993年11月16日)に記載されており、この文献には、コロイドおよびポリマーで被覆された超常磁性金属酸化物の利用についても記載されている。この参考文献は、ここに言及することともって、その全体を、本発明に組み込むものである。超常磁性材料については、たとえば、Lee Josephson et al., Bioconjugate Chem., 1999, 10, 186-191に記載されており、この文献には、ペプチド配列で誘導体化された生体適合性のデキストラン被覆超常磁性酸化鉄粒子が記載されている。この参考文献は、ここに言及することともって、その全体を、本発明に組み込むものである。用途としては、磁気共鳴映像法と磁気を利用した分離を挙げることができる。J. Manuel Perez et al., J. Am. Chem. Soc., 2003、125、10192-10193には、核酸、タンパク質をはじめとする各種の標的を検出しうるMRIなどの各種磁気ナノセンサーに使用する磁性ナノ粒子を、ウイルスの誘導によって自己組立てすることが記載されている。この参考文献は、ここに言及することともって、その全体を、本発明に組み込むものである。
【0134】
最後に、表面を、当業界で公知の各種の方法、たとえば、マイクロリソグラフィーおよびナノリソグラフィー、また、レジストおよび自己組立てされた単層、たとえば官能基が導入された自己組立された単層の使用などによってによってパターニングすることができる。
【0135】
以下では、本発明の各種の態様の製造および使用について記載するが、本発明は、各種の具体的な状況で具体化することのできる多くの適用可能な発明概念を提供するものであることを理解されたい。本明細書に記載する具体的な態様は、単に、本発明を製造し、利用する具体的な方法を例示するものであり、本発明の範囲は、これらの態様によって限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0136】
本発明の特徴や利点をより完全に理解するために、以下では、添付する図面に言及しつつ本発明をさらに詳細に説明する。これらの図面では、異なる図面であっても、同一番号は同一部品と対応する。
【図1】金4f-電子信号の強度による、ファージと基板の相互作用のX線光電子分光法(XPS)を用いた元素組成分析(A-C)、半導体ヘテロ構造のファージによる判別のモデル(D)、二成分を認識するアタッチメントを有する二価の合成ペプチドの例(E-F)を示す。
【図2】本発明のM13ファージのスメクチックな配列についての模式図である。
【図3】A7-ZnS懸濁液の画像で、(A-B)POM、(C)AFM、(D)SEM、(E)TEM、および(F)電子回折用インサートを用いたTEMを使用して撮影したものである。
【図4】M13バクテリオファージのナノ粒子の画像を含むものであり、(A)はフィルムの写真、(B)はフィルムの構造の模式図、(C)はAFM画像、(D)はSEM画像、(E〜F)は、x-zおよびz-y平面に沿って見たTEM画像である。
【図5】図5(A)は、アニーリングしたSmCo5ナノ粒子のTEM画像、図5(B)は、選択された領域の電子回折パターンを示すTEM画像、図5(C)は、アニーリングしたSmCo5ナノ粒子のSTEM画像である。
【図6】結合アッセイの例を示す。(A)は、Co特異的なファージのCoに対する特異性を、(B)は、本発明のCo特異的なファージのCoに対する等温線を示す。
【図7】(A)CoPtに選択的に結合する7量体の拘束ペプチドを発現するファージ、(B)ランダムペプチドを発現するファージ、および(C)野生型ファージを使用することによって製造したCoPtナノ粒子の一連の高解像度のTEM画像を含むものである。
【図8】図8(A)は、Coに対して選択的に結合する12量体のペプチドを使用して成長させたCoナノ粒子の高解像度のTEM画像であり、図8(B)は、対応する電子回折パターンである。
【図9】図9(A)は、12量体のペプチドを発現するファージを使用して成長させたFePtナノ粒子の高解像度のTEM画像であり、図9(B)は、電子回折パターンであり、これらを、図9(C)野生型ファージを使用して成長させたFePtナノ粒子と比較した。
【図10】図10(A)は、鋳型として、SmCo5に選択的に結合する12量体ペプチドを使用することによって成長させたSmCo5ナノ粒子の高解像度のTEM画像であり、図10(B)は、(A)の選択された領域についての電子回折パターン、図10(C)は、対照として、野生型ファージを使用することによって成長させたSmCo5ナノ粒子である。
【図11】図11(A)は、Coナノ粒子がP3タンパク質に結合したCo特異的なファージのAFM画像であり、図11(B)は、対応するMFM画像である。
【図12】図12(A)は、生物学的に製造したFePtナノ粒子のヒステリシス・ループ、図12(B)は、保持力を明らかにするために、ループの中央部をさらに高い解像度でスキャンしたものである。
【図13】図13(A)は、生物学的に製造したSmCo5ナノ粒子のヒステリシス・ループ、図13(B)は、保持力を明らかにするために、ループの中央部をさらに小さい軸にプロットしたものである。
【図14】本発明の、(A)CoPt特異的な12量体の配列を、そのP8タンパク質上に発現するよう遺伝的に改変されたファージを用いて成長させたCoPtナノ粒子のTEM、(B)同じCoPtナノ粒子のもっと高解像度のTEM画像、(C)対応する電子回折パターン、(D)同様にして製造した粒子のSTEM画像、(E)PtについてのSTEMマッピング、(F)CoについてのSTEMマッピングを示す。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、Belcherらの米国特許仮出願第60/411,804号(2002年9月18日出願)にかかかる権利を主張するものであり、この出願については、ここに言及することをもって、本出願に組み込むものである。
【0002】
政府の援助についての記載
本出願において実施した研究は、一部、陸軍研究部(Army Research Office)の助成金第DADD19-99-0155号の援助を受けたものであり、政府はある程度の権利を有する可能性がある。
【0003】
また、塩基配列および/またはアミノ酸配列の配列表については、コンピュータで読み込み可能な配列表に言及することをもって、本出願に組み込むものである。
【0004】
発明の技術分野
本発明は、無機材料に結合しうる有機材料に関するものであり、より詳細には、金属材料、たとえば磁性材料に緊密かつ直接的に結合する特定のペプチド配列に関するものである。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
生体系では、有機分子は、無機材料、たとえば炭酸カルシウムおよびシリカの核生成および鉱物相、そして、構成単位が、生体機能に必要とされる複雑な構造へと組み立てられる過程を大きく制御している。
【0006】
生体プロセスで形成される材料は、通常柔軟で、分子構成単位(すなわち、脂質、ペプチド、核酸)が極めて単純なかたちで集合して驚異的に複雑な構造で配置されている。半導体産業のように、一連のリソグラフィ−プロセスのアプローチに依拠して集積回路の微細構造を構成するのとは異なり、生物は、主に、多くの構成分子に同時に作用する非共有結合性の力を使用して、構造上の「設計図」を実現する。しかも、これらの構造は、しばしば、2種以上の有用な形態の間で、その構成分子に何ら変化を生じることなく、洗練されたかたちで再編成される。
【0007】
「生体」材料を使用して次世代のマイクロエレクトロニクス装置をプロセシングすることは、従来のプロセス法の限界の解消するうえでの手だてとなりうるものである。このアプローチでは、生体材料と無機材料の適当な適合性と組み合わせを特定し、適切な構成単位の合成することが肝要である。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明者らは、構築物を設計し、金属および磁性材料をはじめとする無機材料の集合を実行、制御して、制御された精巧な構造とする生体材料を製造した。特に重要なのは、強磁性材料および粒子材料、たとえばナノ粒子材料である。生体材料を使用して、興味深い電気、磁気、または光学特性を備えた材料を創出、設計することができると、構造物を小型化し、材料の光電特性などをよりよく制御し、また、材料の製造過程をよりよく制御できる可能性がある。たとえば、本発明では、室温での製造方法を開発したが、この方法は、従来高温での製造が行われていたような材料の室温での製造を可能とするものである。
【0009】
表面に何百万種もの異なったペプチド配列を発現するバクテリオファージが多数発現されたコンビナトリアル・ペプチド・ファージ・ディスプレイ・ライブラリーを、バイオパニング法と組み合わせて、磁性材料をはじめとする金属材料(たとえば、Co、CoPt、SmCo5、またはFePt)に緊密かつ直接的に結合する特異的なペプチド配列を選択した。本発明者らは、天然状態やII-VI半導体について例証されているのと同じく、これらの金属および磁性材料に対して結合性の分子、たとえば、ペプチドを使用することによって、無機材料の核形成を制御することができることを見いだした。タンパク質を、磁性材料をはじめとする金属の核形成の制御に使用できれば、磁性ナノ粒子およびその応用物を、従来の方法を使用するよりはるかに安価かつ簡易に製造することができる。磁石および磁性材料をはじめとするナノ分子金属は、マイクロまたはナノマシン、ダイナモ、発電機、磁気記憶装置をはじめとする、磁性または磁化可能材料が有する任意の用途に使用することができる。これらの材料の別の用途は、磁性材料をはじめとする金属の表面を改質することが挙げられる。ペプチドは、材料を、磁性材料表面に結合させる際のリンカーとして機能しうるので、新規な電子素子のベースとなりうる複雑なナノ構造の自己組立てが可能となる。
【0010】
本発明者らは、(コンビナトリアル・ペプチド・ライブラリーとパニング法を用いて)結合性ペプチドを選択するこうしたアプローチは、磁性材料をはじめとする金属材料を形成し、その核形成を制御する際にも使用しうることに気づいた。磁性粒子をはじめとする金属粒子を合成する目的で研究されている他の技術は、不活性雰囲気中で高価な物質を使用する高温での合成を基調としており、所望の形状および結晶性を有するナノ粒子をはじめとする粒子を製造するには、合成後にさらに処理および精製を行うことが必要とされる。そのため、従来法での磁性ナノ粒子の製造は、大規模な生産および/または大量生産には不向きである。本発明で提案するアプローチは、安価な物質を使用して室温にて実施され、その結果として、結晶性の制御されたナノ粒子が得られるので、磁性ナノ粒子をはじめとする金属粒子を合成する際のコストが削減され、結晶の構造および配向も制御されたものとなる。
【0011】
磁性ナノ粒子をはじめとする金属粒子をペプチドを媒介として合成すると、磁性ナノ粒子をはじめととする金属材料を、はるかに安価かつ環境負荷の少ないかたちで合成することができる。現在使用されている磁性ナノ粒子をはじめとする金属ナノ粒子の合成プロトコールは、時間がかかり、高価で、有機界面活性剤で被覆されたナノ粒子を生じてしまう。こうした界面活性剤は、ナノ粒子のさらなる修飾には不適である。分子生物学の進捗によって、ペプチドへの官能基の導入が可能となっており、したがって、ペプチドから形成した粒子およびナノ粒子にも、官能基を容易に導入することができる。ペプチドに官能基/機能を付与すると、ペプチドを、電子素子に組み込んだり、磁気記憶素子に統合したりすることが可能となる。
【0012】
本発明の一形態は、金属、ナノ粒子、および磁性材料をはじめとする各種材料に結合して、規則性の高い構造を組織化するよう遺伝的に改変した自己組立性生体分子、たとえばバクテリオファージを使用する方法である。こうした構造は、たとえば、粒子およびナノ粒子のナノスケールのアレイである。バクテリオファージを例にとると、自己組立性生体材料は、特定の表面(たとえば半導体)に対する特異的結合特性に関して選択することができ、したがって、本発明で教示する修飾バクテリオファージおよび方法を使用すると、選択した物質の規則性の高い構造を創出することができる。
【0013】
より詳細には、本発明は、磁性の材料、粒子、およびナノ粒子をはじめとする金属材料を生成する組成物および方法を含むものである。一態様としては、磁性粒子をはじめとする金属粒子を製造する方法であって、磁性表面をはじめとする金属表面に特異的に結合する部分を含む分子を製造し、磁性材料をはじめとする金属材料が形成されるような条件で、1種以上の磁性材料の前駆物質をはじめとする金属材料の前駆物質を、上記分子と接触させる工程を含む方法を挙げることができる。分子は、たとえば、アミノ酸オリゴマーまたはペプチドのような生体分子とすることができる。オリゴマーは、たとえば、約7〜約100のアミノ酸の長さ、より好ましくは、約7〜約30アミノ酸の長さ、そしてさらに好ましくは、約7〜約20アミノ酸の長さとすることができ、コンビナトリアル・ライブラリーの一部を形成するものであっても、および/または、キメラ分子を含んでいてもよい。
【0014】
本発明に開示するような種類の磁性粒子をはじめとする金属材料は、たとえば、Co、CoPt、SmCo5、および/またはFePtから形成することができる。本発明の別の方法は、非磁性の相互作用によって磁性材料と結合する分子を特定する方法であって、アミノ酸オリゴマー・ライブラリーを磁性材料と接触させて、磁性材料と特異的に結合するオリゴマーを選択し、磁性材料と特異的に結合するオリゴマーを溶出させる工程を含む方法である。オリゴマー・ライブラリーは、自己組立性分子のライブラリー、たとえば、M13ファージ・ライブラリーのようなファージ・ライブラリーとすることができる。ライブラリーは、細菌内に内包させることも、また外部で集めることもできる。
【0015】
磁性粒子の製造方法は、磁性分子の形成を開始する分子を、磁性材料の前駆物質および還元剤と接触させる工程も含むことができる。磁性材料の前駆物質とともに磁性分子の形成を開始する分子は、たとえば、室温、または100℃未満、200℃未満、場合によっては300℃未満の温度で接触させることができる。この分子は、アミノ酸オリゴマー、たとえば長さが約7〜20アミノ酸であるようなアミノ酸オリゴマーとすることができる。磁性粒子は、磁性の量子ドットまたは、場合によってはフィルム形状のCo、CoPt、SmCo5、またはFePt磁性粒子とすることができる。当業者であれば、特定の用途に応じて、本明細書に開示する磁性粒子の1種以上を組み合わせて、各種の一次元、二次元、または三次元の位置、形状などに配置することができることに気づくはずである。
【0016】
本発明は、本発明に開示する方法によって製造した磁性粒子、たとえばナノ粒子も含むものである。これらの磁性粒子は、磁性材料結合性ペプチドを基板に固定し、1種以上の磁性材料前駆物質を、磁性粒子が形成されるような条件下で磁性材料結合性ペプチドと接触させ、基板上に磁性結晶を形成することによって製造された集積回路の一部を形成しうるものである。磁性材料結合性ペプチドは、基板、たとえばシリコンまたは他の半導体基板に、化学的に結合させることができる。本発明の磁性粒子は、メモリー、短期または長期記憶、IDシステム、または当業者がこうした粒子を使用して製造しうると考えるであろう任意の用途に使用することができる。本発明の磁性マイクロ、ナノ、およびフェムト粒子の他の用途の例としては、マイクロまたはナノモーター、発電機などを挙げることができる。
【0017】
本発明の別の態様は、特異的な配列特性を有するナノ粒子の形成方法である。この方法は、たとえば特異的結合特性を有するM13バクテリオファージを創出し、このバクテリオファージを高濃度となるまで増幅し(たとえば、ファージ・ライブラリーを、細菌ホストの培養とともに恒温培養して、感染、複製、そしてその後のウイルス精製を行うことにより増幅し)、ファージを再懸濁することによって行われる。
【0018】
この同じ方法は、3種の液晶相、すなわち、ネマチック相のディレクショナルな規則性、コレステリック相のねじれたネマチック構造、そして、スメクチック相のディレクショナルおよびポジショナルな規則性を有するバクテリオファージの創出に使用することができる。本発明の一観点は、ポリマー、たとえばフィルムの製造方法に関するものであり、この方法は、特異的な半導体表面に高濃度で結合する部分を含む自己組立性生体分子を増幅し、1種以上の半導体材料前駆物質を自己組立性の生体分子と接触させて、結晶の形成ないし結晶の形成の誘導を行う工程を含むものである。
【0019】
本発明の別の態様は、異なるコレステリック・ピッチを備えたナノ粒子を創出する方法である、この方法は、たとえば半導体表面と結合するよう選択したM13バクテリオファージを使用し、このファージを各種濃度に再懸濁することによって実施する。本発明の別の態様は、ナノ粒子が配列した流延フィルムを製造する方法であり、この方法は、たとえば遺伝的に改変したM13バクテリオファージを使用し、このバクテリオファージを再懸濁することにより実施する。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、ナノ粒子フィルムの製造方法であり、この方法は、ナノ粒子溶液を表面に加え、このナノ粒子溶液を表面上で蒸発させ、ナノ粒子を表面にアニーリングする工程を含むものであり、ここで、ナノ粒子は磁性分子である。表面は、分子が共有結合または非共有結合を介して付着しうるミクロで製造された固体表面、たとえばラングミュール-ボジェットフィルム、ガラス、官能基/機能を付与したガラス、ゲルマニウム、シリコン、PTFE、ポリスチレン、ヒ化ガリウム、金、銀、または表面にアミノ、カルボキシル、チオール、またはヒドロキシル官能基が導入された任意の材料を含むものとすることができる。アニーリングは、通常、高温で不活性ガス(たとえば窒素)の存在下で行う。本発明の別の態様は、上述の方法によって製造したナノ粒子のフィルムである。
【0021】
発明の詳細な説明
本出願は、Belcherらの仮特許出願第60/411,804号(2002年9月18日出願)について権利を主張するものであり、この出願については、ここに言及することをもって、その図面、開示、詳細な説明、実施例、請求の範囲、および配列表を含む全体を本出願に組み込むものである。
【0022】
以下では、本発明の各種の態様の製造や使用について詳しく論じるが、本発明は、具体的な文脈で多種多様なかたちで実施しうる応用可能な発明概念と多数提供するものであると理解されたい。本明細書に記載する具体的な態様は、本発明の具体的な製造、使用を単に例示するものであり、本発明の範囲は、これらの態様によって限定されるものではない。
【0023】
本発明を理解しやすいように、いくつかの用語について以下にさらに説明する。本明細書で使用する場合には、「金属材料」は、たとえば、磁性および/または強磁性であっても、そうでなくてもよく、結晶質であってもよく、多結晶またはアモルファスであってもよいような金属合金、金属酸化物、純粋な金属を含む物質とすることができるが、金属材料は、これらに限定されるものではない。金属材料は、また、粒子、パターニングされた表面、層状のフィルムなどのいくつかの空間形態で存在することができる。「粒子」という用語は、上記材料のサイズおよび形状について記載しうるものであり、ミクロンスケールの粒子、ナノスケールの粒子(ナノ粒子と称する)、金属材料単一分子、また本明細書では記載しないものの、本明細書に記載した生物学的方法によって制御される各種のサイズや形状を包含するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
結合性分子という用語は、本明細書では、金属材料に結合するか、金属材料を認識するか、金属材料の成長を誘導する分子であるとして定義するものである。結合性分子の例としては、ペプチド、アミノ酸オリゴマー、核酸オリゴマーを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの結合性分子は、コンビナトリアル・ライブラリーのスクリーニングによって選択することも、また、そうしたライブラリーとは独立に合成、結合、または処方することもできる。これらの結合性分子は、基体に結合させることができ、すなわち、表面または足場、たとえば、ウイルス外被に結合性分子がディスプレーされたM13ウイルス、または各種の結合性分子接合構造に接合させることができる。
【0025】
本発明者らは、ペプチドが半導体材料に結合しうることをすでに示している。本発明では、本発明者らは、結合性分子、たとえばペプチドが、金属材料、たとえば磁性材料に特異的に結合しうることを例証する。これらのペプチドは、ナノ粒子の核を形成し、ナノ粒子の自己組立を誘導するよう、さらに開発されている。このペプチドの主たる特徴は、表面特異性を有する技術上重要な材料を認識して結合し、サイズの制限された結晶質の半導体材料を核形成し、核形成したナノ粒子の結晶相を制御しうる能力を備えていることである。このペプチドは、ナノ粒子のアスペクト比、したがって光学特性も制御しうるものである。
【0026】
簡単に述べると、生体システムは、非常に複雑な構造を極小スケールで組立てる仕組みを備えており、こうした仕組みは、同様に作動しうる非生体システムを特定するというモチベーションを育んできた。また、興味深い電子特性または光学特性を備えた材料に適用しうる方法であるにもかかわらず、自然の進化によっては、生体分子とそうした材料が相互に作用するよう選択されてこなかったような方法を見いだすことができれば、その方法には特段の価値があるはずである。
【0027】
本発明は、生体システムは、ナノスケールの構成単位を、複雑かつ高機能な構造に効率的かつ正確に組立て、この構造は、高い完成度を示し、サイズおよび組成の均一性が制御されているという認識にもとづくものである。
【0028】
ペプチド配列の選択
ランダムな有機ポリマーのプールを製造する一つの方法は、M13バクテリオファージのpIIIコートタンパク質に融合させた、7〜12のアミノ酸を含むランダムなペプチドのコンビナトリアル・ライブラリーにもとづいたファージ・ディスプレイ・ライブラリーを使用して、結晶質の半導体構造と反応した各種のペプチドを得るものである。5コピーのpIIIコートタンパク質を、ファージ粒子の一端に位置させ、粒子の10〜16 nmを構成するようにした。このファージディスプレーを使用したアプローチによって、ペプチドと基板の相互作用と、この相互作用をコードするDNAとの間の物理的関連が得られた。本明細書に記載した実施例では、例として、5種の異なった単結晶半導体、すなわち、GaAs(100)、GaAs(111)A、GaAs(lll)B、InP(100)、Si(100)を使用した。こうした基板を使用すると、ペプチドと基板の相互作用を体系的に評価し、各種の結晶構造に対しての本発明の方法の一般的有用性を確認することが可能となる。
【0029】
特定の結晶と成功裏に結合したタンパク質配列を、当該表面から溶離させ、たとえば100万倍程度まで増幅し、さらに厳密な条件で基板と反応させ、この手順を5回反復して、ライブラリー中で最も特異的な結合を示すファージを選択した。3、4、および5ラウンド目等のファージ選択の後に、結晶に対して特異的であったファージを単離し、そのDNA配列を解析した。ペプチドの結合を、結晶の組成についての選択性(たとえば、GaAsに結合するが、Siに結合しないなど)および結晶面についての選択性(たとえば、(100)GaAsに結合するが、(111)B GaAsには結合しないなど)について特定した。
【0030】
GaAs(100)で選択された20のクローンを解析して、GaAs表面に対するエピトープ結合ドメインを決定した。修飾されたpIIIタンパク質またはpVIIIタンパク質の部分ペプチド配列を表1に示す。GaAsと接触させたペプチドの間に、類似したアミノ酸配列存在することが示されている。
【0031】
(表1)修飾pIIIまたはpVIIIタンパク質の部分ペプチド配列
【0032】
GaAs表面との接触回数が増加するにつれて、非帯電極性官能基とルイス塩基官能基の数が増加した。3回目、4回目、5回目のラウンドの配列解析で得られたファージクローンは、平均で、それぞれ30%、40%、44%の極性官能基を含んでおり、一方、ルイス塩基官能基の割合は、41%から、48%〜55%に増加した。我々のライブラリーのランダムな12量体のペプチドの官能基のうちの34%のみを構成するはずのルイス塩基が、今回観察されたように増加していることからは、ペプチド上のルイス塩基と、GaAs表面上のルイス酸部位との相互作用が、これらのクローンによって示された選択的な結合を媒介している可能性があることが示唆される。
【0033】
ライブラリーから選択された修飾12量体の予測される構造は、小型ペプチドでよく見られるように、伸展されたコンホメーションとなっている可能性があり、その結果、ペプチドは、GaAsの単位格子(5.65 Å)よりはるかに長いものとなっている可能性がある。したがって、ペプチドがGaAs結晶を認識する際に必要とされるのは、小型の結合ドメインのみである。表1に強調表示したこうした短いペプチドドメインは、アミンのルイス塩基、たとえばアスパラギンおよびグルタミンの存在に加えて、セリンおよびスレオニン含量の多い領域を含んでいる。正確な結合配列を決定するために、表面を、7量体のライブラリーおよびジスルフィド拘束された7量体のライブラリーを含むさらに短いライブラリーでスクリーニングした。こうした短めのライブラリーを使用して結合ドメインのサイズおよび柔軟性を低下させると、ペプチドと表面との間で生じる相互作用が低減し、選択の世代間で相互作用を期待通り増強することができる。
【0034】
特異的結合を定量的に解析するにあたっては、ストレプトアビジンで標識した20nmのコロイド状金粒子を、ビオチン標識抗M13コートタンパク質抗体を介してファージに結合させてタグを付したファージを使用した。X線光電子分光法(XPS)を用いた元素組成分析を実施し、金4f-電子信号の強度によって、ファージと基板の相互作用をモニタリングした(図1A-C)。G1-3ファージの不在時には、抗体および金-ストレプトアビジンは、GaAs(100)基板に結合しなかった。したがって、金-ストレプトアビジンの結合は、ファージに対して特異的であり、ファージの基板との結合の指標となるものであった。XPSを使用することにより、GaAs(100)から単離したG1-3クローンが、GaAs(100)に特異的に結合し、Si(100)には結合しないことも見いだした(図1A参照)。これとは相補的に、(100)Si表面でスクリーニングされたS1クローンは、(100)GaAs表面に対して低い結合性を示した。
【0035】
GaAsクローンの一部は、別の閃亜鉛鉱構造であるInP(100)の表面にも結合した。化学的、構造的、電子的のいずれかを問わず、こうした選択的結合が生じる理由については、まだ研究中である。また、基板表面上にもとから存在している酸化物の存在によっても、ペプチドの結合の選択性が変化する可能性がある。
【0036】
G1-3クローンは、GaAs(100)に対して、GaAsの(111)A(ガリウム終端)面または(111)B(ヒ素終端)面に比べて選択的かつ特異的に結合することが示された(図1B、C)。G1-3クローンの表面濃度は、選択に使用した(100)面の方が、ガリウムの多い(111)A面またはヒ素の多い(111)B面より高かった。これらの各種表面は、異なった化学反応性を示すことが知られており、ファージが各種の結晶表面に関して選択性を示しても驚くにはあたらない。双方の111面のバルクは同じ幾何構造で終端しているものの、二重層の最外面にGa原子が位置しているのか、それともAs原子が位置しているのかという違いは、表面再構成を比較するともっとはっきりする。各種のGaAs表面の酸化物の組成も、異なっていることが予測され、その結果、ペプチドの結合の性状に影響が及んでいる可能性もある。
【0037】
G1-3ファージクローンと接触した基板の結合エネルギーに対するGaの2p電子の強度を、図1Cにプロットしてある。図1Bの結果から予測されるように、GaAs(100)、(111)Aおよび(111)B面上で観察されたGaの2pの強度は、金濃度と反比例している。金-ストレプトアビジン濃度が高い表面ほどGaの2pの強度が低いのは、ファージによる表面の被覆率が増大しているからである。XPSは、サンプリングする深さが約30オングストロームの表面技術であり、したがって、有機層の厚さが増大するにつれて、無機基板からの信号が低減する。この観察結果を利用して、金-ストレプトアビジンの強度が、結晶特異的な結合性配列を含むファージがGaAs表面上に存在するために実際に生じていることを確認した。XPSのデータと相関させる、結合についての試験を行い、この試験では、等しい数の特異的なファージクローンを、表面積が等しい各種の半導体基板と接触させた。野生型クローン(ランダムペプチド・インサート非含有)は、GaAsに結合しなかった(プラークが検出されなかった)。G1-3クローンについては、溶離したファージ集団は、GaAs(100)から溶離したものの方が、GaAs(111)A表面から溶離したものより12倍大きかった。
【0038】
GaAs(100)とInP(100)に結合したG1-3、G12-3、G7-4クローンを、原子間力顕微鏡(AFM)によって画像化した。InPの結晶は、閃亜鉛鉱構造を有しており、In-Pの結合はGa-Asの結合よりイオン性が高いにもかかわらず、GaAsと同形構造である。AFMで観察されたファージの幅(10 nm)と長さ(900 nm)は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察されるM13ファージの寸法と合致し、M13抗体に結合した金の球は、ファージに結合しているのが観察された(データ示さず)。InPの表面には、高濃度のファージが存在していた。これらのデータからは、基板の認識には、原子のサイズ、電荷、極性、結晶構造をはじめとする多くの要因が関連していることが示唆された。
【0039】
TEMの画像(図示せず)では、(ネガティブ染色した)G1-3クローンがGaAs結晶質ウェファーに結合しているのが観察された。このデータは、G1-3の修飾pIIIタンパク質によって生じており、大コートタンパク質との非特異的な相互作用によって生じているのではないことを裏付けるものである。したがって、本発明のペプチドは、ナノ構造およびヘテロ構造を組み立てる際に、ペプチドと半導体との間に特異的な相互作用を生じさせるために使用することができる(図1E)。
【0040】
蛍光X線顕微鏡での観察を利用して、ファージが、化学および構造組成が異なる表面に近接した閃亜鉛鉱表面に選択的に付着することを例証した。GaAsのウェーハに入れ子上の正方形パターンをエッチングした。このパターンは、1μmのGaAsの線と、この線の間の4μmのSiO2の間隙部を含むものであった(図1A〜1B)。G12-3クローンをGaAs/SiO2のパターニングした基板と相互作用させ、洗浄して非特異的な結合を低減し、免疫蛍光プローブであるテトラメチルローダミン(TMR)のタグを付した。タグを付したファージは、図1Bでは、3本の薄色の線(カラー写真であれば赤)および中央部の点として見いだされ、これは、G12-3がGaAsのみに結合することと符合していた。パターンのSiO2領域にはファージは結合せず、この領域は暗色のままである。こうした結果は、ファージとは接触させず、第一抗体とTMRと接触させた対照では観察されなかった(図1A)。ファージ非結合のG12-3ペプチドを使用した場合も、同じ結果が得られた。
【0041】
GaAsクローンであるG12-3は、AlGaAsよりはGaAsに対して基板特異性を有することが観察された(図1C)。AlAsとGaAsは、室温ではほぼ同じ格子定数である5.66Åと5.65Åを有しており、したがって、三元合金であるAlxGal-xAsは、GaAs基板上でエピタキシャルに成長させることができる。GaAsおよびAlGaAsは、閃亜鉛鉱型結晶構造を有しているが、G12-3クローンは、GaAsのみと結合する選択性を示した。GaAs層とAl0.98Ga0.02As層とが交互に積層した多層基板を使用した。基板材料を切断してから、G12-3クローンと反応させた。
【0042】
G12-3クローンを、20-nmの金-ストレプトアビジンナノ粒子で標識した。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して調べたところ、ヘテロ構造内で、GaAsとAl0.98Ga0.02Asが交互に積層していた(図1C)。ガリウムとアルミニウムのX線元素分析を使用して、ヘテロ構造のGaAs層に金-ストレプトアビジン粒子を排他的にマッピングしたところ、化学組成に対する高度の結合特異性が示された。図1Dには、蛍光画像およびSEM画像(図1A〜C)に示したような、半導体ヘテロ構造に関してのファージの差別化についてのモデルが示してある。
【0043】
本発明は、有機ペプチド配列と無機半導体基板との結合を特定、成長、増幅させるにあたってのファージ・ディスプレイ・ライブラリーの強力な利用について例示する。このペプチドによる認識と無機結晶の特異性は、ペプチドライブラリーを使用したもっと別の基板、たとえば、GaN、ZnS、CdS、Fe3O4、Fe2O3、CdSe、ZnSe、およびCaCO3にも拡張することができた。
【0044】
二成分を認識するアタッチメントを有する二価の合成ペプチド(図1E〜F)を現在設計している。こうしたペプチドは、ナノ粒子を、半導体構造上の特定の位置に誘導する能力を備えている可能性がある。こうした有機と無機のペアは、新世代の複雑で洗練された電子構造を製造するにあたって、有力な構成単位となるはずである。
【0045】
金属および磁性材料
本発明では、結合性分子による特異的な結合および認識を、磁性および強磁性材料、粒子およびナノ粒子をはじめとする、これらに限定されない金属材料に予測不能なかたちで拡張した。何百万種もの異なったペプチド配列を表面に発現するバクテリオファージの多数の集合体を発現するコンビナトリアル・ペプチド・ファージ・ディスプレイ・ライブラリーを、バイオパニングの技術と組み合わせて、磁性材料(たとえば、Co、SmCo5、CoPt、FePt)をはじめとする金属材料にしっかりかつ直接結合し、認識する特異的なペプチド配列を選択した。本発明者は、天然状態、そして、III-VおよびII-VIの半導体で示されているように、これらの磁性材料結合性のペプチドを使用して、無機材料の核形成を制御しうることを見いだした。タンパク質を使用して磁性材料の核形成を制御できるのであれば、従来の方法を使用するよりはるかに安価かつ容易に磁性ナノ粒子を製造することが可能となる。ナノ分子磁石および磁性材料は、たとえば、マイクロまたはナノマシン、ダイナモ、発電機、磁気記憶をはじめとする、磁性または磁化可能材料が有する任意の用途に使用することができる。こうした材料の他の用途としては、磁性材料の表面を修飾することも挙げられ、この場合、ペプチドは、他の材料を磁性材料の表面に付着させるリンカーとして作用して、新規な電子素子の基礎となりうるような複雑なナノ構造の自己組立てを可能とする。
【0046】
本発明者らは、この(コンビナトリアル・ペプチド・ライブラリーとパニング技術を使用して)結合性ペプチドを選択するというアプローチが、磁性材料については使用されておらず、磁性材料の核形成を制御するうえではペプチドが使用されたことがないことに気づいた。磁性ナノ粒子を合成する目的では、現在も多くの他の技術が研究されている。これらの試みは、いずれも、高価な物質を使用して不活性雰囲気中で実施する必要のある高温での合成にもとづいており、所望の形状および結晶度を備えたナノ粒子を製造するためには、さらなる処理および精製が必要とされることも多い。その結果、従来法で磁性ナノ粒子を製造すると、費用が極めてかさみ、製造規模の拡大も困難である。本明細書で提示するアプローチは、安価な物質を使用して室温で実施し、結晶度が制御されたナノ粒子を得ることができるので、磁性ナノ粒子を合成するうえではるかに安価なアプローチとなる。このアプローチは、結晶の構造および結晶の配向を制御する際にも使用可能である。
【0047】
ペプチドで媒介した磁性材料の合成を行うと、磁性ナノ粒子の合成に際して、はるかに安価で環境負荷の少ないアプローチをとることが可能となる。現行の磁性ナノ粒子製造プロトコールは、時間がかかり、しかも費用がかさむ。また、現行のプロトコールでは、有機界面活性剤で被覆されたナノ粒子が得られ、こうした界面活性剤は、ナノ粒子をさらに修飾するには不向きである。分子生物学の進捗によって、ペプチドに機能/官能基を付与することが可能となっており、ペプチドから成長させたナノ粒子にも容易に機能/官能基を付与して、電子素子への組み込みや、磁気記憶素子への統合を促進しうることが示唆される。
【0048】
磁性ナノ粒子を製造する現行の技術は高価で、時間がかかり、高温、不活性雰囲気、高価な物質、面倒な精製、合成後の変性が必要である。粒子の形成を媒介するのにペプチドを使用するこの新規な技術では、こうした問題がすべて緩和され、従来と比べるとはるかに迅速かつ安価な粒子の合成が可能となっている。また、結晶構造および配向の制御についても改善されている。
【0049】
公知の技術を使用することにより、大量のナノ粒子を製造するのに十分なペプチドを製造することができる。遺伝的に設計した生物を使用して、目的とする1以上のペプチドを製造することができる。ペプチドは、たとえばM13バクテリオファージのコートタンパク質の一つで製造することができる。別のコートタンパク質でタンパク質を発現させるよう、バクテリオファージをさらに設計または改変することもできる。また、細菌、たとえば大腸菌を改変して、目的ペプチドを、1以上のデザインまたは、目的位置で発現させることもできる。本発明で製造する磁性材料の局在化または位置決めに際してペプチドを使用することの明瞭な利点の一つは、これらには、たとえばフォトリソグラフィの使用などによって一般に二次元に限定されている半導体のプロセシングに固有の各種の制限がないことである。本発明のペプチドは、ペプチドの三次元の位置決めまたは合成を行うことが可能であるようなマトリックスの内部または周囲で使用することができる。こうすることにより、これらのペプチドを、フィルム状、線または縞状、層状、ドット状、溝中、表面上、開口部の側面または底面などに形成することができる。
【0050】
磁性ナノ粒子には、記憶素子、センサー、強磁性流体をはじめとする各種の用途がある。本明細書に記載する材料、粒子、およびナノ粒子は、こうした分野のすべてに適用しうるものである。
【0051】
また、本発明の金属および磁性材料は、以下の用途をはじめとする各種の用途での利用方法で用いることがでいる。さらなる用途としては、治療、診断、工学、反応の化学工学的処理、細胞および環境的用途が挙げられる。たとえば、(反応工程の大規模な処理におけるバルクでの分離をはじめとして、)磁気を利用した分離を行うことができる。他の用途としては、精製、治療、生体適合性、薬剤送達、造影剤の撮影、外部からアドレス可能な磁性物質の(インビボでの)局在化への利用を挙げることができる。薬剤送達に際しては、粒子を薬剤または化学療法剤と結合させ、その後、磁界によって局在化させることができる。粒子を適切に設計すると、細胞に貫入させることもできる。また別の用途としては、血液-尿の検出を挙げることができる。工学の用途では、蛍光および腹屈折材料をはじめとする光学活性材料に、アスペクト比が制御された磁性粒子を結合させることにより、ディスプレー素子を製造することができる。結合が生じると、結合性元素と結合した磁性粒子の慣性モーメントが変化するようなセンサー素子も製造することもできる。慣性モーメントの変化は、結合させた光学活性物質を使用することにより、分極の減衰を介して検出することができる。また別の用途としては、記憶への利用を挙げることができる。たとえば、読み出しに際して経時変化する磁界に対する応答が生じるようなメモリーを製造することができる。書き込み工程では、特異的部分が特定のアドレスに結合するようにすることができる。細胞の用途としては、細胞の修飾と細胞のトリガリングを挙げることができる。細胞の修飾では、磁性粒子のサイズを調節して、磁性粒子が細胞内に貫入し、粒子が物質と結合するようにすることができる。貫入のための動力としては、磁界を利用することができる。細胞の修飾は、トランスフェクションの過程で有用である可能性がある。細胞のトリガリングでは、磁性粒子と結合させた物質を細胞に入れてから、経時変化する磁界を使用して細胞の応答をトリガーすることができる。
【0052】
磁気を利用した分離の例としては、インビトロでのアフィニティを利用した古典的な分離、およびインビボでの物質の局在化を挙げることができる。アフィニティを利用した分離の場合には、磁性ナノ粒子は、サイズが小型でアスペクト比が高く、サイズおよび形状の分布が十分に制御されている点で有利である可能性がある。粒子の磁気誘電率が高い場合には、もっと別の利点もある。すなわち、粒子を長形として磁界中で回転可能とすることができ、この場合、形状効果によるさらなる力を発生させることができる。その結果、物質1 mgあたりの分離の力が増大する。インビボでの物質の局在化の場合には、磁性粒子は、物質に結合した状態で注入または摂取することができる。対象物に、外部から空間的に変化する磁界を印加すると、最大勾配Bの領域に粒子を集めることができる。粒子と物質を合わせたサイズが小さいので、物質が組織に接近し、場合によっては細胞に貫入することができる。
【0053】
より詳細には、本発明者らは、コンビナトリアル・ペプチドファージ・ディスプレイ・ライブラリー(すなわち、何百万種もの異なったペプチド配列を表面に発現するバクテリオファージの多数の集合体)およびバイオパニング法を使用して、磁性材料(ε-Co、CoPt、FePt)に直接しっかりと結合する特異的なペプチド配列を選択した。磁性材料に高いアフィニティで結合する特異的なペプチド配列を選択、特定することにより、ペプチド磁性ナノ構造の核形成を制御する際に使用できる可能性のあるペプチドを、迅速かつ容易に特定することが可能となる。磁性ナノ粒子の核形成を制御する際にペプチドを使用すると、周囲条件での磁性ナノ構造の合成が可能となる。磁性ナノ粒子の従来の製造プロトコールでは、精緻な合成スキームと大規模な精製が必要とされることが多く、すなわち、ペプチドによって媒介された核形成は、ナノ粒子合成に際してのはるかに安価な代替法となるはずである。
【0054】
本発明の特段の利点の一つは、このアプローチによって選択されたペプチドが、磁性材料に特異的かつ直接するペプチドとして選択されたものである点である。こうしたペプチドは、選択的に、結晶度が制御された磁性ナノ構造の核を形成することが例証された。これまで、Coナノ粒子は、Coが六方最密充填された状態のものが製造されてきており、CoPtおよびFePtナノ粒子は、通常インバー合金を伴う層状の結晶状態のものが製造されてきている。こうした結晶構造は、それぞれの材料としては最大限に磁化が容易であり、また、これらの材料は、ナノメーターレベルのスケールでも所望の磁性特性を保持している。こうした特性を備えているため、これらの材料は、次世代の磁気記憶素子を製造するうえで優れた候補となっている。現在、記憶素子は、密度が16.3 Gb/in2のCoCr合金を使用して製造されている。これらのナノ粒子は、さらにサイズが小さいので、密度がテラビット/in2のレベルであるような記憶素子の構築が可能となるものと考えられる。本発明では、SmCo5ナノ粒子は、HCP P6/mm の結晶度を有するものが生成する。
【0055】
ペプチドを使用してナノ粒子の核形成を制御すると、ナノ粒子にさらに機能/官能基を付与することも可能となる。従来の方法で製造されたナノ粒子は、疎水性の界面活性剤で被覆されることが多く、さらに機能/官能基を付与する(活性を付与、または活性基を付加する)ことは面倒であった。本明細書で開示するようにして製造したナノ粒子は、ペプチドで被覆されており、当業者には公知の各種の化学および生物学的技術を使用して機能/官能基を付与するのが比較的容易である。これらのナノ粒子にさらに機能/官能基を付与すると、これらのナノ粒子の自己組立によって複雑なアーキテクチャおよび記憶素子を形成することが可能となる。
【0056】
結晶度を制御するためにペプチドを使用して製造した粒子およびナノ粒子は、サイズが小さく、高度の磁化が可能で、製造が容易であるため、磁気記録産業に革命をもたらす可能性を持っている。
【0057】
実施例I: ペプチドの製造、単離、選択、および特性解析
ペプチドの選択: ファージディスプレーまたはペプチド・ライブラリーを、半導体または他の結晶と、0.1%のTWEEN-20を含有するTris緩衝塩類溶液(TBS)中で接触させて、表面でのファージ同士の相互作用を低減させた。室温で1時間揺動した後、表面を、Tris緩衝塩類溶液(pH 7.5)に10回接触させ、TWEEN-20の濃度を0.1%から0.5%(v/v)に上昇させることによって洗浄した。ファージの表面からの溶離を、グリシン-HCl(pH 2.2)を10分間加え、新しいチューブに移し、その後Tris-HCl(pH 9.1)で中和することによって行った。溶離したファージの力価を測定し、結合効率を比較した。
【0058】
3ラウンド目の基板の接触より後に溶離したファージを、大腸菌(E. coli)ER2537の宿主と混合し、LB XGal/IPTGで平板培養した。ライブラリー・ファージは、lacZα遺伝子を持つベクターM13mpl9由来であるので、Xgal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイル-β-D-ガラクトシド)とIPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトシド)を含有する培地でファージ・プラークを培養すると、ファージ・プラークは青色となった。青/白のスクリーニングを使用して、ランダム・ペプチド・インサートを有するファージ・プラークを選択した。これらの平板培養からプラークを拾い出し、DNA配列を解析した。
【0059】
基板の製造: 基板の配向を、X線回折で確認し、もとから存在している酸化物を、適当な化学特異的エッチングで除去した。以下のエッチング液、すなわちNH4OH:H2O(1:10)、HCl:H2O(1:10)、H3PO4:H2O2:H2O(3:1:50)を、GaAsおよびInP表面で、エッチング時間1分および10分について調べた。GaAsおよびInPのエッチ面については、元素比が最良となり、酸化物の形成が最小であったのは(XPS使用)、HCl:H2Oを1分間使用し、その後脱イオン水で1分間洗浄した場合であった。しかし、ライブラリーの最初のスクリーニングで、水酸化アンモニウムのエッチング液をGaAsに使用したので、このエッチング液を、他のすべてのGaAs基板の例にも使用した。Si(100)のウェハーを、HF:H2O(1:40)の溶液中で1分間エッチングし、その後脱イオン水で洗浄した。すべての表面は、洗浄液から直接取り出し、直ちにファージ・ライブラリーに挿入した。ファージと接触させていない対照基板の表面も、エッチング過程の有効性と、AFMおよびXPSによる表面形状について特性を解析しマッピングした。
【0060】
GaAsとAl0.98Ga0.02Asの多層基板を、分子線エピタキシーで、GaAs(100)上に成長させた。エピタキシーによって成長させた層に、Siを5 x l017 cm-3のレベルでドーピング(n型)した。
【0061】
抗体と金による標識: XPS、SEM、AFMの実施例については、基板を、Tris緩衝塩類溶液中で、ファージと1時間接触させ、次に、fdファージのpIIIタンパク質に対する抗体である抗fdバクテリオファージ-ビオチン結合体(Sigma製のリン酸緩衝液への1:500溶液)に30分間導入し、リン酸緩衝液中で洗浄した。ストレプトアビジン-20-nmコロイド状金標識(1:200)のリン酸緩衝液(PBS、Sigma)への溶液を、ビオチンとストレプトアビジンの相互作用によって、ビオチン結合ファージに結合させ、表面を標識に30分間接触させ、その後PBSで数回洗浄した。
【0062】
X線光電子分光法(XPS): XPSの実施例については、以下の対照を実施して、XPSで観察された金の信号がファージに結合した金に由来するもので、非特異的抗体のGaAs表面との相互作用によるものではないことを確認した。製造したGaAs(100)面を、3種の条件においた。すなわち、(1)抗体およびストレプトアビジン-金標識とは接触させるものの、ファージとは接触させないもの、(2)G1-3ファージおよびストレプトアビジン-金標識とは接触させるものの、抗体とは接触させないもの、(3)ストレプトアビジン-金標識とは接触させるものの、G1-3ファージとも、抗体とも接触させないもの。
【0063】
使用したXPS装置は、Physical Electronics社の単色の1,487eVのX線を生成するアルミニウム陽極を備えたPhi ESCA 5700とした。サンプルは、いずれも、金がファージに(上述したようにして)結合した直後にチャンバに導入して、GaAs表面の酸化を抑制し、その後、一晩高度の真空中で排気して、XPSチャンバ内でのサンプルのガス放出を低減させた。
【0064】
原子間力顕微鏡(AFM)での観察: 使用したAFMは、ZeissのAxiovert 100s-2tvにマウントしたDigital InstrumentsのBioscopeで、これを、Gスキャナとともに、チップ走査モードで使用した。画像は、空中で、タッピングモードを使用して撮影した。AFMの探針は、125 mmのカンチレバーを備え、バネ定数が20±100 Nm-1のエッチングしたシリコン製で、共鳴周波数200±400 kHz付近で駆動した。走査レートは、1±5 mms-1程度とした。画像は、一次平面を使用してして水準し、サンプルの傾斜を除去した。
【0065】
透過型電子顕微鏡(TEM)での観察: PhilipsのEM208を60 kVで使用して、TEM画像を撮影した。Gl-3ファージ(TBS1:100に希釈)を、GaAs片(500 mm)とともに30分間インキュベートし、遠心して粒子を結合しなかったファージから分離し、TBSで洗浄し、TBSに再懸濁した。サンプルは、2%酢酸ウラニルで染色した。
【0066】
走査型電子顕微鏡(SEM)での観察: G12-3ファージ(TBSで1:100に希釈)を、新たに切断したヘテロ構造表面とともに30分間インキュベートし、TBSで洗浄した。G12-3ファージに、20 nmのコロイド状金を結合した。SEMおよび元素マッピングの画像を、Hitachiの4700電解放出型走査電子顕微鏡にマウントしたNorian検出システムを5 kVで使用して、撮影した。
【0067】
実施例II: バイオフィルム
本発明者らは、有機と無機のハイブリッド材料が、新規な材料および素子への新たな道筋となることに気づいた。サイズの制御されたナノ構造は、半導体材料に光学的、電気的に調節可能な特性を付与し、有機物の添加剤は、無機物の形状、相、核の形成方向を修正する。生体材料は単分散的な性質を備えているので、システムは、規則性の高いスメクチックな規則化構造に適したものとなる。本発明の方法を使用することにより、遺伝的に改変した自己組立性の生体分子、たとえば、特定の半導体表面を認識する部分を備えたM13バクテリオファージを利用して、規則性が高く、ナノメータースケールおよび多重長さスケールのII-VI半導体材料の配列を創出した。
【0068】
本発明の組成物および方法を使用することにより、本発明で記載する半導体の認識および自己規則化システムを利用して、半導体材料のナノスケールおよび多重長さスケールの配列を実現した。半導体の認識および自己規則化を利用すると、現行のフォトリソグラフィーの特性を凌ぐような電子素子のマイクロのミクロでの製造を可能とすることができる。こうした材料の用途としては、発光ディスプレー、光学検出装置、レーザーのような光電素子、堅牢な配線、ナノメートル・スケールのコンピュータ部品およびバイオセンサーなどを挙げることができる。本発明を使用して形成したバイオフィルムの他の用途としては、高規則性液晶ディスプレーおよび有機-無機ディスプレー技術を挙げることができる。
【0069】
フィルム、繊維をはじめとする各種構造は、生体毒素をはじめとする小型分子検出用の高密度センサーを含むものとすることもできる。他の利用としては、光学コーティングおよび光学スイッチを挙げることができる。本発明で開示する1以上の材料を、単層または多層として、または場合によっては縞状として、また当業者には明らかなようにそれらの任意の組み合わせとして使用することにより、必要に応じて、医用インプラントまたは場合によっては骨インプラント用の足場材料を構築することもできる。
【0070】
本発明の他の利用としては、電気および磁気インタフェース、または場合によっては、高密度記憶用、たとえば量子コンピューティングに使用する3D電子ナノ構造の組織化を挙げることができる。また、再構成可能な医用ウイルス、たとえば生体適合性のワクチン、アジュバント、およびワクチン容器の高密度かつ安定した貯蔵を、本発明で生成したフィルムおよび/またはマトリックスを使用して行うこともできる。識別のための量子ドットパターンに基づいた情報記憶、たとえば国防省の敵味方識別用の装備またはコーディング用の布地に利用することも可能である。本発明のナノファイバーは、場合によっては、貨幣のコーディングおよび特定に使用することもできる。
【0071】
規則性が高く、十分制御された二次元または三次元の構造をナノスケールで製造することが、次世代の光学、電子、および磁性材料および素子を製造するうえでの主要な目標である。特異的なナノ粒子を製造する現行の方法には、長さのスケールの面でも、また材料の種類の面でも制約がある。本発明は、自己組立性の有機または生体の分子または粒子、たとえばM13バクテリオファージが有する諸特性を利用して、配列、サイズ、ナノ粒子のスケール、さらには使用が可能な半導体材料の範囲を拡張するものである。
【0072】
本発明者らは、異方性の形状を有する単分散の生体材料は、規則性の高い構造を生成する際の代替法となることに気づいた。特異的な半導体表面を認識する部位(ペプチドまたはアミノ酸オリゴマー)を備えた遺伝子改変M13バクテリオファージを使用することによって、II-VI半導体材料を、ナノスケールおよび多重長さスケールで配列させることに成功した。
【0073】
Sethらは、位置的な規則性と方向的な規則性を両方備えた、Fdウイルスのスメクチックな規則化構造について記載した。Fdウイルスのスメクチックな構造には、多重スケールおよびナノスケールで構造を規則化して、ナノ粒子の二次元および三次元の配列を形成する用途に使用できる可能性がある。バクテリオファージM13を使用したのは、このバクテリオファージM13が遺伝的に改変可能で、Fdウイルスと同一の形状であるものが成功裏に選択されており、II-VI半導体表面に対して特異的な結合アフィニティを有しているからである。したがって、M13は、ナノ粒子を多重スケールまたはナノスケールで規則化させる際に使用しうるスメクチックな構造の理想的なソースである。
【0074】
本発明者らは、コンビナトリアル・スクリーニング法を使用して、半導体表面に結合しうるペプチド・インサートを含むM13バクテリオファージを見いだした。これらの半導体表面としては、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化鉄のような材料を挙げることができる。分子生物学の技術を使用することにより、特異的な半導体材料および材料表面に結合するバクテリオファージ・コンビナトリアル・ライブラリーのクローンをクローニングし、液晶を形成するのに十分な濃度まで増幅した。
【0075】
フィラメント状のバクテリオファージFdは、細長い棒状(長さ:880 nm、直径:6.6 nm)で、単分散の分子量(分子量:1.64 x 107)を有している。こうした特性の結果、このバクテリオファージは、高濃度の溶液では、リオトロピック液晶の挙動を示す。バクテリオファージのこうした異方性の形状を、生物学的選択性および自己組立を使用して規則性の高いナノ粒子の層を形成するための方法として利用した。単分散のバクテリオファージを、標準的な増幅法によって製造した本発明では、これと類似したフィラメント状のバクテリオファージであるM13を、ナノ粒子、たとえば硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化鉄と結合するよう遺伝的に改変した。
【0076】
バクテリオファージがメソスケールで規則化することによって、ナノ粒子のナノスケールのアレイが形成されていることが示された。これらのナノ粒子は、さらにミクロンレベルのドメインに規則化され、さらにセンチメートルのスケールの長さとなっている。半導体ナノ粒子は、量子封じ込め効果を示し、液晶内で合成および規則化することができる。
【0077】
特異的なペプチド・インサートを含有するバクテリオファージM13の懸濁液を製造し、AFM、TEM、およびSEMで調べた。サンプル全体を通じて、ナノ粒子が、2Dおよび3Dに均一に規則化しているのが観察された。
【0078】
AFM: ZeissのAxiovert 100s-2tvにマウントしたDigital InstrumentsのBioscopeを使用し、これを、Gスキャナとともに、チップ走査モードで使用した。画像は、空中で、タッピングモードを使用して撮影した。AFMの探針は、125 mmのカンチレバーを備え、バネ定数が20±100 Nm-1のエッチングしたシリコン製で、共鳴周波数200±400 kHz付近で駆動した。走査レートは、1±5 mms-1程度とした。画像は、一次平面を使用して水準し、サンプルの傾斜を除去した。図2Aおよび2Bは、AFMを使用することによって観察されたM13ファージのスメクチックな配列の模式図である。
【0079】
TEM: PhilipsのEM208を60 kVで使用して、TEM画像を撮影した。Gl-3ファージ(TBS1:100に希釈)を、半導体材料とともに30分間インキュベートし、遠心して、結合しなかったファージから粒子を分離し、TBSで洗浄し、TBSに再懸濁した。サンプルは、2%酢酸ウラニルで染色した。
【0080】
SEM: ファージ(TBSで1:100に希釈)を、新たに切断したヘテロ構造表面とともに30分間インキュベートし、TBSで洗浄した。G12-3ファージに、20 nmのコロイド状金を結合した。SEMおよび元素マッピングの画像を、Hitachiの4700電解放出型走査電子顕微鏡にマウントしたNorian検出システムを5 kVで使用して、撮影した。
【0081】
半導体表面に対する特異的な結合特性を備えた遺伝子改変M13バクテリオファージを、標準的な分子生物学の手法で増幅、精製した。バクテリオファージ懸濁液3.2 mL(濃度:約107ファージ/μL)と一晩培養したもの4 mLを、400 mLのLB培地に加え、量を増幅させた。増幅後、約30 mgのペレットを沈殿させた。懸濁液は、Na2S溶液を、ZnCl2をドーピングしたA7ファージの懸濁液に室温で加えることによって調製した。最高濃度のA7ファージ懸濁液は、20μLの1mM ZnCl2およびNa2S溶液を、それぞれ、約30 mgのファージ・ペレットに加えることによって調製した。濃度は、消衰係数として3.84 mg/mL(269 nm)を使用することによって測定した。
【0082】
等方性の懸濁液の濃度が上昇するにつれて、方向的な規則性を有するネマチック相、ねじれたネマチック構造を有するコレステリック相、そして方向的および位置的な規則性も有するスメクチック相が観察された。これらの相は、ナノ粒子を持たないFdウイルスで観察されていたものである。
【0083】
偏光顕微鏡(POM)での観察: M13ファージの懸濁液を偏光顕微鏡で調べた。各懸濁液を、直径0.7 mmのガラス製毛管に充填した。高濃度とした懸濁液(127 mg/ml)は、平行化した偏光下では虹色を示し[5]、直交させた偏光下ではスメクチックな組織を示した(図3A)。表2に示すように、図3Bのコレステリック・ピッチは、懸濁液の濃度を変化させることによって制御することができる。ピッチ長さを測定し、サンプル調製の24時間後に、マイクログラフを撮影した。
【0084】
(表2)コレステリック・ピッチと濃度の関係
【0085】
AFM: AFMによる観察では、5μLのM13バクテリオファージの懸濁液(濃度:30 mg/ml)を、24時間、デシケータ中で、3-アミノプロピルトリエチルシランで4時間シラン化した8 mm x 8 mmの雲母基板上で乾燥させた。画像は、空中で、タッピングモードを使用して撮影した。M13バクテリオファージの異方性の形状(長さ880 nm、幅6.6 nm)ゆえの自己組立てによって規則化した構造が観察された。図3Cでは、M13ファージは、写真の平面に延在して、スメクチックな配列を形成している。
【0086】
SEM: SEMでの観察では、バクテリオファージとZnSナノ粒子のスメクチックな懸濁液(バクテリオファージ懸濁液の濃度:127 mg/ml)を臨界点まで乾燥したサンプルを調製した。図3Dでは、ナノ粒子の多い領域とバクテリオファージの多い領域が観察された。ナノ粒子とバクテリオファージを隔てる間隔は、バクテリオファージの長さと対応している。スメクチックな懸濁液の希釈サンプルをTEMとともに使用した電子回折のパターンでは、ZnSの繊維亜鉛鉱結晶構造が確認された(図3Eおよび3F)。
【0087】
バイオフィルムの製造: バクテリオファージのペレットを、400μLのTris緩衝塩類溶液(TBS、pH 7.5)と200μLの1mM ZnCl2に懸濁し、1mM Na2Sを加えた。室温で24時間揺動した後、懸濁液(1 ml入りエッペンドルフチューブに封入)を、デシケータ中で1週間徐々に乾燥させた。厚さ約15μmの半透明のフィルムが、チューブの内に形成された。図4Aに示すこのフィルムを、ピンセットを使用して注意深く採取した。バイオフィルムの模式図を、図4Bに示す。
【0088】
バイオフィルムのSEMによる観察: SEMを使用して、A7-ZnSフィルムのナノスケールのバクテリオファージの配列を観察した。SEMによる解析を行うために、フィルムは切断してから、アルゴン雰囲気中で真空蒸着で2 nmのクロムで被覆した。サンプル全体に、高密度に充填された構造(図4D)が観察された。個々のファージの平均長さである895 nmは、ファージの長さである880 nmと妥当な類似性を有していた。フィルムは、スメクチックAまたはC様のラメラ状状の形態を示し、ナノ粒子とバクテリオファージの相との間に周期性が認められた。周期性の長さは、バクテリオファージの長さと対応していた。ナノ粒子の平均粒径は約20 nmで、TEMでの個々の粒子の観察結果と類似していた。
【0089】
バイオフィルムのTEMによる観察: ZnSナノ粒子の配列を調べるにあたっては、フィルムを、エポキシ樹脂(LR white)中に1日包埋し、10 μlの硬化促進剤を加えて重合させた。硬化後、Leicaのウルトラミクロトームを使用して、樹脂の切片を作成した。これらの約50 nmの切片を蒸留水に浮かせ、ブランクの金格子上に拾い上げた。模式図中のx-z平面に対応する平行に配列したナノ粒子が観察された(図4E-F)。各バクテリオファージが5コピーのA7部分を有しているので、各A7が1個のナノ粒子(サイズ、2〜3 nm)を認識し、幅約20 nmで配列し、長さ2μm超にわたって延在した。2μm×20 nmのバンドが平行に形成され、各バンドの間隔は約700 nmであった。この不一致は、ファージ層のスメクチックな配列がTEMによる観察に対して傾斜していることによって生じている可能性があり、この点については、Marvinのグループによる報告がある。図1Fに示したものに似たy-z軸様のナノ粒子層の平面も観察された。配列した粒子のSAEDパターンからは、ZnS粒子が、繊維亜鉛鉱の六方晶構造を有することが示された。
【0090】
バイオフィルムのAFMによる観察: ウイルスフィルムの表面配向を、AFMを用いて調べた。図4Cでは、ファージが、スメクチックOと称される表面の大半では、隣接したダイレクターの法線(バクテリオファージの軸線)がほぼ直角であるような平行に配列したヘリングボーンのパターンを形成していることが示された。フィルムは、何十μmも続く長範囲で規則化した法線ダイレクターを示した。2つの磁区の層が互いに出逢う領域の一部では、2または3の多重長さスケールのバクテリオファージが平行で、スメクチックC規則構造を保持して配列していた。
【0091】
認識ならびに自己規則化システムを使用することによって得た半導体材料のナノスケールおよび多重長さスケールの配列は、将来的に、電子素子のミクロでの製造に役立つ。これらの素子は、現行のフォトリソグラフィーの諸特性を凌駕する可能性を秘めている。こうした材料の他の用途の可能性としては、発光ディスプレー、光学検出装置、レーザーのような光電素子、堅牢な配線、ナノメートル・スケールのコンピュータ部品およびバイオセンサーなどを挙げることができる。
【0092】
実施例III: 金属および磁性材料の形成
ファージディスプレー技術を、磁性材料に選択的に結合する新規なペプチドを見いだすために使用した。これらの特定の研究では、磁性材料のフィルムの製造を、まず、磁性材料のコロイド状分散液を合成することによって行った。次に、これらのコロイド状溶液を、Siウェーハ状に滴下コーティングし、N2中でアニーリングして、所望の結晶構造を生成させた。次に、これらのフィルム(ε-Co、CoPt、およびFePt)にファージディスプレーを実施して、各基板に選択的に結合するペプチドを見いだした。次に、これらのペプチドを使用した独特のナノ粒子の核形成を、目的とするペプチドを発現しているファージ、金属塩、還元剤を混合することによって実施した。
【0093】
サイズおよび組成が制御されたナノ粒子の合成は、根本的かつ重要な技術である。ここ数年、サイズおよび形状がきちんと制御された金属および半導体製のナノ粒子を得ることのできる合成方法について記載した論文が多数発表されてきた。最近では、ファージディスプレーを利用して特定したペプチドが無機表面に選択的に結合可能であり、このペプチドが、半導体ナノ粒子の核形成の制御に利用できることがわかってきた。この場合、ペプチドは、得られるナノ粒子のサイズ、形状、組成、そして場合によっては結晶度までを制御可能である。ペプチドで半導体ナノ粒子の合成を成功裏に制御できたため、この技術を他の重要な材料に適用することに多大な興味が集まっている。
【0094】
特に重要かつ産業上有用な一群の材料としては、粒子およびナノ粒子のものをはじめとする強磁性体がある。強磁性材料は、年間何十億規模の磁気記録産業の基盤となっている。現行の素子では、磁化が容易で製造しやすいという理由で、データの記憶にCoCr合金を使用している。他の材料も、現在開発中であり、そうした材料の一つが磁気異方性が107 erg/cm3のレベルの金属Coである。こうした高い磁気異方性からは、直径が10 nmといった小型の粒子でも、単一の磁区として作用し、記憶要素として機能しうるものであることが示唆される。現行の技術では、磁区のサイズが何百ナノメータのレベルであるような記憶要素が使用されているので、サイズが10 nmレベルのCoナノ粒子の生成は、はるかに高密度の記憶素子の製造をも可能とする劇的な進歩である。さらに興味深い強磁性材料は、Ptの磁性合金、特にFePtおよびCoPtの磁性合金である。これらの材料は、磁気異方性が極めて高く(108 erg/cm3)、これは、FeとPt原子が重畳することによって生じた格子定数の乱れによって、Ptが磁性状態となるインバー効果が生じているためである。これらの系が高い異方性を備えていることからは、2 nmといった小型のナノ粒子も室温で強磁性材料として作用することができ、こうしたナノ粒子が、極めて高密度の記憶素子を開発するうえで利用しうるものであることがわかる。
【0095】
こうした系は磁気異方性が高いため、こうした材料から構成される粒子およびナノ粒子の合成には多大な努力が投下されてきた。ε-Co、FePt、およびCoPtについてはいくつかの異なる合成プロトコールが開発されているが、これらのプロトコールは、いずれも、同じ根本的な弱点をかかえている。こうした合成戦略は、いずれも、界面活性剤の存在下での高温でのナノ粒子の制限された析出に依拠しているのである。すなわち、ナノ粒子のこうした製造は、いずれも、不活性雰囲気中で高価な物質を使用する必要があるために多大な費用がかかり、規模の拡大を望めない。また、これらの製造では、所望の結晶度を実現するための高温でのアニーリングなどによる粒子のさらなる改質や、単分散集団とするためのサイズ選択的な析出が必要とされることも多い。こうした余分な合成工程のために、こうした合成戦略は費用が上昇してしまう。
【0096】
これらの材料は産業上の重要性が高いので、新規な合成戦略が必要とされてきた。ペプチドを媒介とした磁性材料の合成という原理を利用すると、そうした代替戦略が可能となる。こうした研究では、ファージディスプレーを用いた選択を重要な磁性材料(Co、CoPt、SmCo5、およびFePt)に対して実施して、磁性材料に対して高い親和性で特異的に結合するペプチドを特定する。そうしたペプチドは、特性解析後に使用して、磁性ナノ粒子の核形成を制御する。こうした研究では、当該ペプチドを発現するファージを、当該金属の金属塩と混合し、次に、還元剤(NaBH4)を加えてナノ粒子を生成した。ナノ粒子が形成され、このナノ粒子の特性をTEMで解析した。本発明の合成は、周囲条件で実施して、磁性ナノ粒子を生成する既存の合成戦略よりはるかに安価な代替戦略を提供するものである。
【0097】
磁性ナノ粒子のX線回折による解析
ファージディスプレーの基板として使用するために磁性表面を生成する必要があっった。この目的で、磁性ナノ粒子を従来法で製造し、Siウェーハに滴下コーティングした。ファージディスプレーの研究を開始する前に、表面の特性をX線回折(XRD)で解析して、この材料の結晶度が適切であることを確認した。
【0098】
ε-CoについてえられたXRDパターンは、文献で得られたパターンとよく相関しており、45度と50度の間にトリプレットのピークを示し、これらのピークは、ε-Coの(221)、(310)、および(311)結晶平面と対応しているために、特にはっきりしていた。FePtおよびCoPtのパターンも、FePtllについての文献のスペクトルと一致しており、FePtおよびCoPtの(001)、(110)、(111)、(200)、(002)、(210)、(112)、および(202)平面に対応するピークを示した。SmCo5についてのXRDも、HCP SmCo5についての文献上の値と一致し、(101)、(110)、および(111)面を表すピークを示した。これは、HCP SmCo5ナノ粒子について最初に報告された合成である。図5Aは、SmCo5ナノ粒子についての高解像度のTEM画像、図5Bは、TEMの画像の選択された領域で、電子回折パターンを示す。回折パターン中の数個のスポットが、HCP SmCo5の既知の面とよく相関した(図51B)。図5Cは、アニーリングしたSmCo5ナノ粒子についてのSTEMの画像で、ナノ粒子のサイズ、形状、および全体的な形状が図示されている。
【0099】
結合性ファージの配列解析および結合アッセイ
表3に、目的とする磁性材料との結合性についてファージディスプレーを使用して選択した全ペプチドを列挙して示す。
【0100】
(表3)磁性結合特性を有する選択されたクローン
*ε-Co上の7量体の拘束ライブラリーについては、コンセンサス配列は得られたかった。
【0101】
選択された配列は、いずれも、金属表面に対して高度の親和性を持つ有効な配列である可能性が高い。配列のいくつかには、ヒスチジン残基が出現する。ヒスチジンはイミダゾール側基を備えているので、金属の優れた配位子となり、したがって、ヒスチジンがこうした配列中に存在することは、予測される状況である。CoPt上の7量体の拘束配列を除いては、Pt合金について単離された全配列がリジン残基を含んでいる。リジンとPtの相互作用は、抗癌剤として重要なシスプラチンの作用において重要であると考えられている。リジンとPtの相互作用からは、これらの配列が、こうした材料に選択的に結合することが示唆される。とはいえ、本発明は、既知未知を問わず、特定の機構の相互作用に限定されるものではない。
【0102】
特異的結合アッセイ: 単離されたファージの磁性基板に対する親和性を測定するために、2種の試験を行った。最初の試験では、我々のCo特異的ファージ、ランダムファージ、および野生型ファージをはじめとする数種の異なったペプチド含有ファージをCo表面に接触させた。さらに、Co特異的ファージを、数種の異なった材料表面に接触させた。結果を図6に示す。Co特異的ファージは、Coに対して、野生型ファージまたはランダム・ファージライブラリー配列より高い親和性を示した(図6A)。また、Co特異性ファージは、SiよりCoに対して高い親和性を示し、このファージがCo表面に選択的に結合するものであることが示唆された。
【0103】
第二の試験では、Co表面をCo特異的ファージの溶液に浸漬させた。この試験を、数種の異なったファージ濃度で繰り返した。ファージの吸着量をファージの濃度に対してプロットしたところ(図6B)、ファージのCo表面への吸着が、分析対象物の表面への吸着に関してのラングミュアのモデルに従うことが示唆された。吸着がラングミュアのモデルに従うので、逆数プロットを生成すると、吸着されたファージと濃度が一次相関していることが示された(図示せず)。この線のスロープは、結合定数と等しく、Coの場合には、ファージのkadsは、2×10-12 Mであった。この測定は、ファージと無機表面の間の結合に伴う熱力学的特性についての初めての測定であるので、解釈が難しいが、この結合定数の大きさは、他の幾つかの生体相互反応に匹敵するものである。このアプローチは、CoPtおよびFePt系に使用することができる。
【0104】
これらの試験によって、ファージディスプレー・スクリーニングを使用して選択したペプチドが、Coに対しては特異的な結合性を持つものの、他の材料に対してはそうした結合性を持たないことが示された。磁性材料をはじめとする金属材料を形成させるうえで利用することができるのは、この特異性である。
【0105】
ペプチドで媒介した核形成によって製造したナノ粒子のTEMによる解析
本発明の一態様では、ペプチドを使用してナノ粒子を製造して、改質および/または結晶度を制御した。表3に示す7量体の拘束配列を使用して成長させたCoPtナノ粒子の高解像度のTEM画像も撮影した(図示せず)。これらのナノ粒子は、格子間隔が0.19および0.22 nmで、これはL10 CoPtの格子間隔と相関している。
【0106】
野生型ファージを使用して成長させたナノ粒子の高解像度のTEM画像も、ランダムペプチド・インサートを含むファージを使用して成長させたCoPtナノ粒子の画像とともに撮影した(図示せず)。これらの双方の対照試験では、ナノ粒子が一応形成されたものの、これらのナノ粒子は、CoPt選択性ペプチドを使用して成長させた粒子が備えているような結晶度は備えていなかった。ファージの不在下で成長させたナノ粒子は、凝集して溶液から析出してしまうので、TEMによる画像の撮影は、ほぼ不可能である。
【0107】
FePtに対して選択的な12量体のペプチドを発現するファージを使用して成長させたFePtナノ粒子についても、高解像度のTEM画像を撮影した(図示せず)。これらのナノ粒子は、CoPtナノ粒子と類似した格子間隔を示し、これらのナノ粒子がL10 FePtから構成されていることが示唆された。この同じ粒子、たとえば、野生型ファージの存在下で生育させたFePtナノ粒子について、電子回折パターンを撮影した(図示せず)。これらのナノ粒子も、FePt選択性ファージを使用して成長させた粒子が備えているような結晶度は備えていない。ファージの不在下で成長させたナノ粒子は、凝集して溶液から析出してしまうので、画像の撮影は不可能である。
【0108】
表1に示す7量体の拘束配列を使用して成長させたCoPtナノ粒子の高解像度のTEM画像を、図7に示す。これらのナノ粒子の格子間隔は、約0.22 nmで、これは、HCP Coについての文献上の値である約0.19 nm、およびLlo CoPtの格子間隔とよく相関している(図7A)。また、選択された領域を使用して、ナノ粒子の電子回折パターンを観察した(図示せず)。この回折パターンには、HCP Coの面と相関するバンドが何本か存在しており、ナノ粒子が事実上HCP Coから構成されていることが示された。野生型ファージ(図7C)または非特異的ファージ(図7B)を用いた対照実験では、ナノ粒子が一応形成されたものの、これらのナノ粒子は、CoPt選択性ペプチドを使用して成長させた粒子が備えているような結晶度は備えていなかった。ファージの不在下で成長させたナノ粒子は凝集して、溶液から析出してしまうので、TEMによる画像の撮影は、ほぼ不可能である。
【0109】
図8は、Coに対して特異的に結合する12量体のペプチドを発現したファージを使用して成長させたCoナノ粒子の高解像度のTEM画像である(図8A)。これらのナノ粒子の格子間隔は0.2 nmで、これは、HCP Coについての文献上の値(0.19 nm)とよく相関している。これらのナノ粒子の電子回折パターンを観察するために、特定の領域を選んだ(図8B)ところ、回折パターンには、HCP Coの面と相関するバンドが何本か存在しており、ナノ粒子がHCP Coから構成されていることが示された。野生型ファージまたは非特異的ファージを使用したり、ファージを使用しなかった対照実験では、Co粒子は凝集して、溶液から沈殿してしまう(図示せず)。
【0110】
図9Aは、FePtに対して選択的な12量体のペプチドを発現したファージを使用して成長させたFePtナノ粒子の高解像度のTEM画像である。これらのナノ粒子は、CoPtナノ粒子と似た格子間隔を示し、Llo FePtから構成している可能性が高かった。図9Bは、対応する電子回折パターンで、図9Cは、野生型ファージの存在下で成長させたFePtナノ粒子の画像である。野生型のファージ不在下では、ナノ粒子は、FePtに対して選択的なファージを使用して成長させたナノ粒子が備えているような結晶度は備えていなかった。また、ファージの不在下で成長させたナノ粒子は、凝集して溶液から析出してしまうので、画像の撮影は不可能である。
【0111】
SmCo5に対して特異的な12量体のペプチドを発現するファージを使用して成長させたSmCo5ナノ粒子についても、高解像度のTEM画像を撮影した(図10A)。また、選択された領域を使用して、ナノ粒子の電子回折パターンを観察した(図10B)。この場合も、回折パターンには、HCP SmCo5の面と相関するバンドが何本か存在していた。SmCo5系を使用して実施した対照実験では、非特異的ファージを使用するとナノ粒子が凝集および/または溶液から析出してしまうというCo系で観察されたのと似た結果が得られた。こうした粒子のTEM画像では、結晶質の磁区が一部示されたものの、材料の大半の部分は非晶質であった。
【0112】
ナノ粒子のMFMによる特性解析
磁力顕微鏡検査法(MFM)を使用して、ナノ粒子の磁気特性を解析した。Coナノ粒子の核形成に使用したファージの原子間力顕微鏡での画像を、まず撮影した(図11A)。ファージ末端にナノ粒子が大きく凝集しているのがはっきり観察され、予想通り、P3タンパク質が、ナノ粒子の核形成を制御していることが示唆された。対応するMFMの画像を撮影して、これらの結果を確認した(図11B)。この場合、ファージは非磁性であるために見ることができなかったが、ナノ粒子が凝集している様子については、はっきりと見え、ナノ粒子が高い磁気異方性を備えていることが示唆された。
【0113】
SQUID: 本発明の一態様では、ナノ粒子の磁気特性を、超伝導量子干渉素子(SQUID)磁力計を使用して、定量的に測定することができる。SQUID磁力測定を使用して、粒子をさらに調べた。SQUIDを使用して、ファージによって発現された12量体のペプチドを使用して成長させたFePtナノ粒子について、室温でのヒステリシス・ループを測定した(図12A)。走査中央部の高解像度のヒステリシス・ループも測定して、保磁力が存在することを明確にした(図12B)。これらのサンプルの保磁力は比較的低かった(約50 Oe)。このデータは、周囲条件で成長させた強磁性ナノ粒子についての最初の事例である。ヒステリシス・ループを、生物学的に製造したSmCosナノ粒子についても測定した(図13)。ヒステリシスは、これらのナノ粒子では、はるかに大きかった(400 Oe)。SmCosの巨視的サンプルは、通常、FePtより保持力の値が大きいので、この結果は予測通りである。
【0114】
P8コートタンパク質上の磁気特異的ペプチド
本発明の一態様では、M13バクテリオファージのp3タンパク質に発現された材料特異的なファージを使用して、磁性の挙動を示すナノ粒子を製造した。p3タンパク質は、棒形形状のファージの一端のみに存在し、また、限定数(1ファージあたり3〜5)が存在する。一方、p8コートタンパク質は、ファージの長さ方向に沿って発現され、1ファージあたり何百コピーもが発現される。このため、p8タンパク質を、CoPt特異的なペプチドを発現するよう改変し、ファージの長さ方向に沿って、CoPtナノ粒子の核を形成した。材料の製造の一例を以下に示す。他の、材料および生物科学の当業者には自明な方法も、過度の実験検証を行わずに使用可能である。
【0115】
磁性粒子およびナノ粒子をはじめとする磁性材料の核形成にあたっては、ペプチドをファージとともに、またはファージなしに十分な高温に加熱して、階梯に付随する結合性分子を、高温焼きなまし過程で、焼却、除去することができる。たとえば、500℃または1,000℃への加熱を、焼却および除去が最適なかたちで生じるような時間実施することができる。この温度を、金属のアニーリング温度の範囲とすることによって、多結晶ドメインを融合させて単結晶ドメインとすることもできる。
【0116】
方法
材料: 塩化サマリウム(III)、アセチル酢酸白金(II)(Pt(Acac)2)、ヘキサクロロ白金酸二水素(H2PtCl6)、オクタカルボニルコバルト(Co2(CO)8)を、Alfa Aesarから購入した。鉄ペンタカルボニル(Fe(CO)5)、塩化コバルト(II)(CoCl2)、塩化鉄(II)(FeCl2)、酸化トリオクチルフォスフィン(TOPO)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、オレイルアミン、オレイン酸を、Aldrichから購入した。
【0117】
ε-Coナノ粒子の合成: Coナノ粒子の製造を、まず、0.6 gのCo2(CO)8を5 mlのo-ジクロロベンゼンに溶解することによって行った。この混合物を1時間撹拌してCoを溶解させ、20 mlのo-ジクロロベンゼン、0.416 gのTOPO、0.2 mlのオレイン酸を、500 ml入りの3首の反応容器でAr雰囲気中にて混合した。次に、この混合物を100℃に加熱した。次に、この混合物を5分間減圧して、溶存O2およびH2Oをすべて除去した。次に、この混合物を沸騰するまで加熱し(180℃)、Co溶液を加えたところ、混合物は黒変し、COガスが雲状に発生した。20分間の還流後、反応系を室温まで冷却した。粒子を精製するために、3 mlのCoナノ粒子溶液を3 mlのエタノールと混合した。1時間後に混合物を10,000 rpmで5分間遠心した。沈殿物を、3 mlのCH2Cl2、さらに3 mlのエタノールに再懸濁させ、遠心工程を繰り返した。その後、沈殿物を、3 mlのCH2Cl2に再懸濁させた。
【0118】
FePtナノ粒子の合成: 20 mlのフェニルエーテル、0.205 gのPt(Acac)2、0.358 gの1,2-テトラデカンジオールを混合し、Ar雰囲気中で100℃に加熱、その後、0.16 mlのオレイン酸、0.17 mlのオレイルアミン、0.13 mlのFe(CO)5を加えた。この混合物を300℃に加熱し、30分間還流し、室温まで冷却した。FePtナノ粒子を、Coナノ粒子と同様にして精製した。
【0119】
CoPtナノ粒子の合成: 製造は、0.13 mlのFe(CO)5のかわりに0.16 gのCO2(CO)8を使用した以外は、FePtと同様にして行った。
【0120】
SmCo5ナノ粒子の合成: 停止性沈殿(arrested precipitation)法を使用して、SmCo5のナノ粒子を製造した。この技術は、以前のナノ粒子製造の試みを利用したものである。38.75 mgのCoCl2を16.0 mgのSmCl3と混合し、20 mlのフェニルエーテルに混合した。次に、0.357 mlのオレイン酸を混合物に加え、さらにAr雰囲気中で100℃に加熱した。次に、1.35 mlのトリオクチルフォスフィンを加えた。次に、この混合物を10分間減圧して、溶液に溶存しているO2およびH2Oをすべて除去した。溶液の減圧パージ後、溶液を290℃に加熱して、フェニルエーテルを沸騰させた。次に、1 mlの超水素化物溶液を加えたところ、溶液は、ただちに青から黒へと変化した。次に、この黒色混合物を20分間還流し、室温まで冷却した。
【0121】
フィルムの形成: ファージ・ディスプレーによる選択に用いるフィルムを製造するために、ナノ粒子のコロイド溶液を、Siスライド上に滴下してコーティングし、溶剤を蒸発させた。
【0122】
FePtおよびCoPtの場合には、その後スライドを700℃で30分間N2雰囲気中でアニーリングして、L10相を形成した。これらのスライドのすべてについてXRD分析を行って、適正な材料であることを確認した。
【0123】
ペプチドの選択: ε-CoならびにCoPtおよびFePtのL10相に排他的に結合するペプチドを見いだす目的で、ファージ・ディスプレイ・ライブラリー法を使用した。より具体的には、Ph.D.-12(tm)およびPh.D.-7 CTM ファージディスプレー・ペプチド・ライブラリー・キットを、1 μL(または初期量)のファージ・ディスプレイ・ライブラリーから開始して使用し、磁性基板に対する選択を開始させた(1 mlのTBS中)。ε-Coについては、選択を、NaBH4のTBSTへの10 mM溶液中で実施した。5ラウンドのパニングを行ったところ、ペプチドおよびペプチドのDNAが単離され、テキサス大学のDNA Core Facilityから配列を入手した。バクテリオファージによって提示されたペプチドに対応するこれらの配列を解析して、コンセンサス配列を決定した。DNA配列の解析結果では、アミノ酸の率が位置に対して過剰であった。最初の2ラウンドでは非特異的結合が生じている可能性があるので、解析は、最後の3ラウンドのパニングについてのみ行った。
【0124】
結合アフィニティ: ペプチドがε-Co、CoPt、FePtと特異的に結合することを確認するために、結合アフィニティを測定した。コンセンサス・ペプチドをパニングで調べて、力価の数値を得、これを、ε-CO、CoPt、FePtに結合しなかった野生型およびランダムペプチドの力価の数値と比較した。次に、各種濃度のファージを使用して、パニングで調べ、目的とする金属表面に対するファージの結合定数を決定した。
【0125】
Coのペプチドを媒介した核形成: 約880μlのH2Oを100μLの1 mM CoCl2および20μLのファージ溶液(pfu = 1011)と混合した。混合物を30分間穏やかに撹拌し、次に、100μLの100 mM NaBH4を加えた。溶液をボルテックスし、さらに5分間インキュベートした。次に、TOPOおよびオレイン酸のCH2Cl2への溶液100 mlを加えた。混合物をボルテックスし、1時間にわたって穏やかに撹拌した。この間に、CH2Cl2層が暗灰色に変化した。この操作をCo-1、Co-2、野生型ファージをはじめとする数種の異なるファージ、およびファージ非含有のTBS溶液で繰り返した。
【0126】
CoPtのペプチドを媒介した核形成: 核形成のために、50μLの1mM CoCl2溶液を、50μLの1 mM H2PtCl6溶液と混合した。次に、10 mlのファージ溶液を加えた(pfu = 1011)。この混合物を、30分間穏やかに撹拌し、次に、20μLの100mM NaBH4を加えた。この溶液をただちにボルテックスし、30分間タンブラー中に置いた。最終溶液は、黄色であった。
【0127】
FePtのペプチドを媒介した核形成: CoCl2溶液のかわりにFeCl2溶液を使用した以外はCoPtと同様にして、FePtを製造した。
【0128】
SmCo5のペプチドを媒介した核形成: 100μLの1mM CoCl2のかわりに16.7μLの1mM SmCl3および83 ulの1mM CoCl2を使用した以外は、Coの合成と同様とした。
【0129】
ペプチドのP8による発現: 遺伝子改変大腸菌を、20 mlのLB培養液中で一晩増殖させ、1:100に希釈し、次に、O.D. = 0.6となるまで生育させた。テトラサイクリン-HCl(1000x)および100mM IPTGを、lmMの最終濃度となるまで加えた。IPTGは、細胞内での修飾p8タンパク質の製造を開始させ、修飾p8タンパク質は、組立時にウイルスのコートに組み込まれる。混合物を、撹拌せずに、1時間静置した。1時間後に、ヘルパーファージを感染させ、その後、39℃にて一晩振盪した。次に、ファージを、遠心およびPEG沈殿によって分離精製した。増幅させたファージのペレットを、10 mlのTBS(pH 7.5)に再懸濁させ、18 MWの水に対して透析した。0.5 mlの5mM CoCl2および5mM H2PtCl6の双方を、遠心して沈殿させて上清を除去しておいた増幅ファージのストック1 mlに加えた。さらに60分間の振盪を行い、その後、0.5 mlの100mM NaBH4を還元剤として加えた。
【0130】
ナノ粒子のTEMによる画像を、CoPtのファセットについて期待される値に対応するバンドを多数示した選択領域の電子回折パターンとともに撮影した。CoPtナノ粒子がそのP8タンパク質に沿って成長したこれらのファージのうちの1つにいてのSTEMによる画像も撮影した。この構造の長さは、ファージの長さ(800 nm)と相関している。図14Aは、ナノ粒子のTEM画像であり、図14Bは、この高解像画像をであり、図14Cは、CoPtのファセットについて期待される値に対応する多くのバンドを示した選択領域の電子回折パターンである。CoPtナノ粒子がそのP8タンパク質に沿って成長したこれらのファージのうちの1つにいてのSTEMによる画像を、図14Dに示す。Pt(図14E)およびCo(図14F)のEDSマッピングは、CoおよびPtが、いずれも、構造の長さ方向に沿って等濃度で見いだされることを示している。
【0131】
本発明は、磁性材料と結合するペプチドを特定する際に、ファージディスプレーを使用しうることを示すものである。この特定は迅速で、費用効果が高く、必要とされる材料も少なくてすむ。得られたペプチドは、磁性ナノ粒子の核形成を制御する際に使用することができ、ユーザーが、生成するナノ粒子のサイズ、組成、結晶度を制御することが可能となる。これらのペプチドを使用すると、周囲条件でナノ粒子を合成することが可能となるので、現在用いられているナノ粒子の合成戦略を好ましいかたちで代替することが可能となるものである。
【0132】
ファージ・ディスプレイ・ライブラリー、およびこうしたライブラリーをバイオパニングに使用するための実験的方法については、たとえば、以下のBelcherら米国特許公報に記載されている。(1)"Biological Control of Nanoparticle Nucleation, Shape, and Crystal Phase"、2003/0068900 (2003年4月10日公開)、(2)"Nanoscale Ordering of Hybrid Materials Using Genetically Engineered Mesoscale Virus"、2003/0073104(2003年4月17日公開)、(3)"Biological Control of Nanoparticles"、2003/0113714(2003年6月19日公開)、および(4)"Molecular Recognition of Materials"、2003/0148380(2003年8月7日公開)。
【0133】
本発明の用途は、その利用方法についても含め、以下の参考文献に記載されている。超常磁性材料の磁気共鳴映像法での利用については、たとえば、Palmacciらの米国特許第5,262,176号(1993年11月16日)に記載されており、この文献には、コロイドおよびポリマーで被覆された超常磁性金属酸化物の利用についても記載されている。この参考文献は、ここに言及することともって、その全体を、本発明に組み込むものである。超常磁性材料については、たとえば、Lee Josephson et al., Bioconjugate Chem., 1999, 10, 186-191に記載されており、この文献には、ペプチド配列で誘導体化された生体適合性のデキストラン被覆超常磁性酸化鉄粒子が記載されている。この参考文献は、ここに言及することともって、その全体を、本発明に組み込むものである。用途としては、磁気共鳴映像法と磁気を利用した分離を挙げることができる。J. Manuel Perez et al., J. Am. Chem. Soc., 2003、125、10192-10193には、核酸、タンパク質をはじめとする各種の標的を検出しうるMRIなどの各種磁気ナノセンサーに使用する磁性ナノ粒子を、ウイルスの誘導によって自己組立てすることが記載されている。この参考文献は、ここに言及することともって、その全体を、本発明に組み込むものである。
【0134】
最後に、表面を、当業界で公知の各種の方法、たとえば、マイクロリソグラフィーおよびナノリソグラフィー、また、レジストおよび自己組立てされた単層、たとえば官能基が導入された自己組立された単層の使用などによってによってパターニングすることができる。
【0135】
以下では、本発明の各種の態様の製造および使用について記載するが、本発明は、各種の具体的な状況で具体化することのできる多くの適用可能な発明概念を提供するものであることを理解されたい。本明細書に記載する具体的な態様は、単に、本発明を製造し、利用する具体的な方法を例示するものであり、本発明の範囲は、これらの態様によって限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0136】
本発明の特徴や利点をより完全に理解するために、以下では、添付する図面に言及しつつ本発明をさらに詳細に説明する。これらの図面では、異なる図面であっても、同一番号は同一部品と対応する。
【図1】金4f-電子信号の強度による、ファージと基板の相互作用のX線光電子分光法(XPS)を用いた元素組成分析(A-C)、半導体ヘテロ構造のファージによる判別のモデル(D)、二成分を認識するアタッチメントを有する二価の合成ペプチドの例(E-F)を示す。
【図2】本発明のM13ファージのスメクチックな配列についての模式図である。
【図3】A7-ZnS懸濁液の画像で、(A-B)POM、(C)AFM、(D)SEM、(E)TEM、および(F)電子回折用インサートを用いたTEMを使用して撮影したものである。
【図4】M13バクテリオファージのナノ粒子の画像を含むものであり、(A)はフィルムの写真、(B)はフィルムの構造の模式図、(C)はAFM画像、(D)はSEM画像、(E〜F)は、x-zおよびz-y平面に沿って見たTEM画像である。
【図5】図5(A)は、アニーリングしたSmCo5ナノ粒子のTEM画像、図5(B)は、選択された領域の電子回折パターンを示すTEM画像、図5(C)は、アニーリングしたSmCo5ナノ粒子のSTEM画像である。
【図6】結合アッセイの例を示す。(A)は、Co特異的なファージのCoに対する特異性を、(B)は、本発明のCo特異的なファージのCoに対する等温線を示す。
【図7】(A)CoPtに選択的に結合する7量体の拘束ペプチドを発現するファージ、(B)ランダムペプチドを発現するファージ、および(C)野生型ファージを使用することによって製造したCoPtナノ粒子の一連の高解像度のTEM画像を含むものである。
【図8】図8(A)は、Coに対して選択的に結合する12量体のペプチドを使用して成長させたCoナノ粒子の高解像度のTEM画像であり、図8(B)は、対応する電子回折パターンである。
【図9】図9(A)は、12量体のペプチドを発現するファージを使用して成長させたFePtナノ粒子の高解像度のTEM画像であり、図9(B)は、電子回折パターンであり、これらを、図9(C)野生型ファージを使用して成長させたFePtナノ粒子と比較した。
【図10】図10(A)は、鋳型として、SmCo5に選択的に結合する12量体ペプチドを使用することによって成長させたSmCo5ナノ粒子の高解像度のTEM画像であり、図10(B)は、(A)の選択された領域についての電子回折パターン、図10(C)は、対照として、野生型ファージを使用することによって成長させたSmCo5ナノ粒子である。
【図11】図11(A)は、Coナノ粒子がP3タンパク質に結合したCo特異的なファージのAFM画像であり、図11(B)は、対応するMFM画像である。
【図12】図12(A)は、生物学的に製造したFePtナノ粒子のヒステリシス・ループ、図12(B)は、保持力を明らかにするために、ループの中央部をさらに高い解像度でスキャンしたものである。
【図13】図13(A)は、生物学的に製造したSmCo5ナノ粒子のヒステリシス・ループ、図13(B)は、保持力を明らかにするために、ループの中央部をさらに小さい軸にプロットしたものである。
【図14】本発明の、(A)CoPt特異的な12量体の配列を、そのP8タンパク質上に発現するよう遺伝的に改変されたファージを用いて成長させたCoPtナノ粒子のTEM、(B)同じCoPtナノ粒子のもっと高解像度のTEM画像、(C)対応する電子回折パターン、(D)同様にして製造した粒子のSTEM画像、(E)PtについてのSTEMマッピング、(F)CoについてのSTEMマッピングを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、磁性材料を製造する方法:
磁性材料の表面に特異的に結合する部分を含む分子を提供する工程;
1種以上の磁性材料前駆物質を、磁性材料が形成されるような条件で、分子と接触させる工程。
【請求項2】
磁性材料の形成を開始する分子を、磁性材料前駆物質および還元剤に接触させる工程を含む、磁性材料を製造する方法。
【請求項3】
以下の工程を含む、磁性材料を製造する方法:
磁性材料結合性分子を基板に結合させる工程;
1種以上の磁性材料前駆物質を、磁性材料が形成されるような条件で、磁性材料結合性分子と接触させる工程;
磁性材料を形成する工程。
【請求項4】
分子が、アミノ酸オリゴマーを、磁性材料の表面に特異的に結合する部分として含む、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項5】
分子がコンビナトリアル・ライブラリーのスクリーニングによって選択される、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項6】
磁性材料を単離する工程をさらに含む、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項7】
分子が、自己組立性分子の一部を含むペプチドであるとしてさらに定義される、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項8】
自己組立性分子がファージである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
磁性材料がナノ粒子である、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項10】
分子が、1種以上の磁性材料結合性アミノ酸オリゴマーを表面に発現するキメラタンパク質を含む、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項11】
結合性分子と、1種以上の磁性材料前駆物質を使用することによって形成される磁性材料。
【請求項12】
磁性材料特異的な結合性分子を、金属塩および還元剤の存在下で使用することによって形成される磁性材料。
【請求項13】
ナノ粒子を含む、請求項11または12の磁性材料。
【請求項14】
ε-Coに特異的に結合するペプチドを含む組成物。
【請求項15】
CoPtに特異的に結合するペプチドを含む組成物。
【請求項16】
FePtに特異的に結合するペプチドを含む組成物。
【請求項17】
SmCo5に特異的に結合するペプチドを含む組成物。
【請求項18】
強磁性表面に特異的に結合するペプチドを含む組成物。
【請求項19】
以下の工程を含む、磁性材料に特異的に結合する分子を単離する方法:
分子のライブラリーを、磁性材料と接触させる工程;
非結合分子をライブラリーから除去する工程;
結合した分子を磁性材料から溶離させる工程。
【請求項20】
分子のライブラリーが、ファージ・ディスプレー・ライブラリーを含むものであるとしてさらに定義される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
分子のライブラリーが、コンビナトリアル・ケミストリー・ライブラリーを含むものであるとしてさらに定義される、請求項19記載の方法。
【請求項22】
分子が、磁性材料に特異的に結合するアミノ酸オリゴマーを含むものである、請求項19記載の方法。
【請求項23】
以下の工程を含む、粒子フィルムを調製する方法:
粒子の溶液を表面に加え、その際に、結合性分子を使用することによって粒子を合成する工程;
ナノ粒子の溶液を表面上で蒸発させる工程;
粒子を表面にアニーリングして、粒子のフィルムを創出する工程。
【請求項24】
粒子がナノ粒子である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
以下の工程を含む、金属材料の製造方法:
金属表面に特異的に結合する部分を含む分子を提供する工程;
1種以上の金属材料前駆物質を、金属材料が形成されるような条件で、分子と接触させる工程。
【請求項26】
磁性材料と特異的に結合する分子を、300℃以下の温度で磁性材料前駆物質と接触させて、磁性材料を形成する工程を含む、磁性材料の製造方法。
【請求項27】
金属材料と特異的に結合する分子を、300℃以下の温度で金属材料前駆物質と接触させて、金属材料を形成する工程を含む、金属材料の製造方法。
【請求項28】
磁性材料と磁性材料に特異的に結合するオリゴペプチドとを含む組成物。
【請求項29】
SmCo5ナノ粒子を含む組成物。
【請求項30】
結合性分子によって合成した金属粒子を含む金属材料。
【請求項31】
結合性分子によって合成した金属ナノ粒子の集まりを含んでおり、金属ナノ粒子は、多結晶材料から単結晶材料へとアニーリングされている、金属材料。
【請求項32】
結合性分子によって合成した金属ナノ粒子の集まりを含む金属材料であって、金属ナノ粒子はそれぞれ独立にウイルスから合成されたものである、金属材料。
【請求項1】
以下の工程を含む、磁性材料を製造する方法:
磁性材料の表面に特異的に結合する部分を含む分子を提供する工程;
1種以上の磁性材料前駆物質を、磁性材料が形成されるような条件で、分子と接触させる工程。
【請求項2】
磁性材料の形成を開始する分子を、磁性材料前駆物質および還元剤に接触させる工程を含む、磁性材料を製造する方法。
【請求項3】
以下の工程を含む、磁性材料を製造する方法:
磁性材料結合性分子を基板に結合させる工程;
1種以上の磁性材料前駆物質を、磁性材料が形成されるような条件で、磁性材料結合性分子と接触させる工程;
磁性材料を形成する工程。
【請求項4】
分子が、アミノ酸オリゴマーを、磁性材料の表面に特異的に結合する部分として含む、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項5】
分子がコンビナトリアル・ライブラリーのスクリーニングによって選択される、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項6】
磁性材料を単離する工程をさらに含む、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項7】
分子が、自己組立性分子の一部を含むペプチドであるとしてさらに定義される、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項8】
自己組立性分子がファージである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
磁性材料がナノ粒子である、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項10】
分子が、1種以上の磁性材料結合性アミノ酸オリゴマーを表面に発現するキメラタンパク質を含む、請求項1、2、または3記載の方法。
【請求項11】
結合性分子と、1種以上の磁性材料前駆物質を使用することによって形成される磁性材料。
【請求項12】
磁性材料特異的な結合性分子を、金属塩および還元剤の存在下で使用することによって形成される磁性材料。
【請求項13】
ナノ粒子を含む、請求項11または12の磁性材料。
【請求項14】
ε-Coに特異的に結合するペプチドを含む組成物。
【請求項15】
CoPtに特異的に結合するペプチドを含む組成物。
【請求項16】
FePtに特異的に結合するペプチドを含む組成物。
【請求項17】
SmCo5に特異的に結合するペプチドを含む組成物。
【請求項18】
強磁性表面に特異的に結合するペプチドを含む組成物。
【請求項19】
以下の工程を含む、磁性材料に特異的に結合する分子を単離する方法:
分子のライブラリーを、磁性材料と接触させる工程;
非結合分子をライブラリーから除去する工程;
結合した分子を磁性材料から溶離させる工程。
【請求項20】
分子のライブラリーが、ファージ・ディスプレー・ライブラリーを含むものであるとしてさらに定義される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
分子のライブラリーが、コンビナトリアル・ケミストリー・ライブラリーを含むものであるとしてさらに定義される、請求項19記載の方法。
【請求項22】
分子が、磁性材料に特異的に結合するアミノ酸オリゴマーを含むものである、請求項19記載の方法。
【請求項23】
以下の工程を含む、粒子フィルムを調製する方法:
粒子の溶液を表面に加え、その際に、結合性分子を使用することによって粒子を合成する工程;
ナノ粒子の溶液を表面上で蒸発させる工程;
粒子を表面にアニーリングして、粒子のフィルムを創出する工程。
【請求項24】
粒子がナノ粒子である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
以下の工程を含む、金属材料の製造方法:
金属表面に特異的に結合する部分を含む分子を提供する工程;
1種以上の金属材料前駆物質を、金属材料が形成されるような条件で、分子と接触させる工程。
【請求項26】
磁性材料と特異的に結合する分子を、300℃以下の温度で磁性材料前駆物質と接触させて、磁性材料を形成する工程を含む、磁性材料の製造方法。
【請求項27】
金属材料と特異的に結合する分子を、300℃以下の温度で金属材料前駆物質と接触させて、金属材料を形成する工程を含む、金属材料の製造方法。
【請求項28】
磁性材料と磁性材料に特異的に結合するオリゴペプチドとを含む組成物。
【請求項29】
SmCo5ナノ粒子を含む組成物。
【請求項30】
結合性分子によって合成した金属粒子を含む金属材料。
【請求項31】
結合性分子によって合成した金属ナノ粒子の集まりを含んでおり、金属ナノ粒子は、多結晶材料から単結晶材料へとアニーリングされている、金属材料。
【請求項32】
結合性分子によって合成した金属ナノ粒子の集まりを含む金属材料であって、金属ナノ粒子はそれぞれ独立にウイルスから合成されたものである、金属材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2006−520317(P2006−520317A)
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−543323(P2004−543323)
【出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2003/029555
【国際公開番号】WO2004/033488
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(503163480)ボード オブ リージェンツ ユニバーシティ オブ テキサス システム (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2003/029555
【国際公開番号】WO2004/033488
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(503163480)ボード オブ リージェンツ ユニバーシティ オブ テキサス システム (7)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]