説明

金属インク

ビヒクル、非常に多数の銅ナノ粒子、およびアルコールを含む金属インクである。この導電性金属インクは、インクジェット印刷およびドローダウン印刷を含めた方法によって基板に堆積させることができる。このインクは基板上に導体を形成するために前硬化して硬化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、銅等の金属インクを対象とする。
【背景技術】
【0002】
印刷回路基板(PCB)上の金属導体およびフレックステープコネクタは、一般にPCB上にラミネートされているか電気めっき技法によって堆積されている銅(Cu)線である。導電線、ワイヤおよび部品間の接続リード線を形成するための銅材料のパターン化は、フォトリソグラフィーおよび一面を覆っている銅膜の酸エッチングを必要とする。別法では、上記方法はメッキプロセス中に使用して銅線パターンを画定することができる。いずれにしても、銅をエッチングするために使用される化学薬品およびそのプロセスから発生して後に残る化学廃棄物は、製造される製品に対して大きなコストを追加する。そのコストは、そのエッチングおよびフォトパターニングプロセス段階のために必要な時間と労力とによってさらに増加する。
【0003】
PCB上の金属導体を形成するためのラミネーションおよび電気めっきに対する代替技術としては金属線を印刷することが挙げられる。金属銀系インクおよびペーストが、インクジェット印刷、スクリーン印刷およびその他の印刷技術のために存在する。銀は導電性が高く、低温で加工することができるが、それは高価な金属であり、多くの用途にとって桁違いの費用がかかる。
【0004】
銀とは対照的に銅金属はエレクトロニクス産業における標準であり、約10分の1のコストである。それ故、銅は、とりわけ、電子的相互接続、無線IDタグおよび、ディスプレーの製造プロセス等の用途で使用するための適切な銀の代替物である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Maruo、O. Nakamura、S. Kawata、「Three−dimensional microfabrication with two−photon absorped photopolymerization」、Opt. Lett.、1997年、第22巻、132〜134頁
【非特許文献2】S. Maruo、H. B. Sun、T. Tanaka、S. Kawata、「Finer features for functional devices」、Nature、2001年、第412巻、697〜698頁
【非特許文献3】T. Tanaka、A. Ishikawa、S. Kawata、「Two−photon−induced reduction of metal ions for fabricating three−dimension electrically conductive metallic microstructure」、Apply. Phys. Lett.、2006年、第88巻、081107頁
【非特許文献4】T. Baldacchini、A. C. Pons他、「Multiphoton laser direct writing of two dimensional silver structures」、Opt. Express、2005年、第13巻、1275〜1280頁
【非特許文献5】D. S. Ginley他、Electrochemical and Solid−State Letters、2001年、第4巻、第8号、C58頁
【非特許文献6】B. Kim、T. Ritzdorf、SEMI Technology Symposium (STS) Proceedings、Semicon Korea、2006年、269頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細が、以下の記述および付随する図面の中で説明される。その他の特徴は、その記述、図面および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】基板の表面に導体を製作するためのシステムを説明する図である。
【図2A】X線回折グラフである。
【図2B】純粋な酸化銅膜の光焼結前後のXRDパターンのグラフである。
【図3A】X線回折グラフである。
【図3B】X線回折グラフである。
【図4】さまざまなインク配合組成についての膜抵抗率対フラッシュランプ電圧または光焼結電圧を描いているグラフである。
【図5】さまざまな線幅についての膜抵抗率対フラッシュランプ電圧を描いているグラフである。
【図6】キセノンランプのスペクトル放射強度を描いているグラフである。
【図7】さまざまなインク配合組成についての膜抵抗率対フラッシュランプ電圧を描いているグラフである。
【図8A】ナノ粒子膜のインクジェットおよび光焼結のためのシステムを説明する図である。
【図8B】光焼結プロセスを描いているフローチャートである。
【図9A】ナノ粒子膜を印刷および光焼結する一例を説明する図である。
【図9B】光焼結プロセスを描いているフローチャートである。
【図10A】ハードマスクを用いてナノ粒子膜を焼結するプロセスを説明する図である。
【図10B】ハードマスクを用いてナノ粒子膜を焼結するプロセスを説明する図である。
【図10C】ハードマスクを用いてナノ粒子膜を焼結するプロセスを説明する図である。
【図10D】ハードマスクを用いてナノ粒子膜を焼結するプロセスを説明する図である。
【図11】繊維をコーティングするロールツーロールプロセスを説明する図である。
【図12】さまざまな大きさの銅ナノ粒子から調製した前処理を施したインクについての抵抗率データのグラフである。
【図13】さまざまな大きさの銅ナノ粒子から調製した前処理を施したインクについての抵抗率対粒径のグラフである。
【図14】ある大きさの銅ナノ粒子のX線回折のグラフである。
【図15】ある大きさの銅ナノ粒子のX線回折のグラフである。
【図16】ある大きさの銅ナノ粒子のX線回折のグラフである。
【図17】ある大きさの銅ナノ粒子のX線回折のグラフである。
【図18】プロパン、ヘキサンおよびデカンの線状構造を説明する図である。
【図19】接着性対抵抗率および厚さ対抵抗率のグラフである。
【図20】銅ナノ粒子についている分散剤の二重層を表す図である。
【図21】銅ナノ粒子についているポリマー分散剤の二重層を表す図である。
【図22】銅ナノインクをビア中に充填し、高速ポジショニングおよびスキャニング集束レーザーによって銅ナノ粒子を焼結するためのプロセスを説明する図である。
【図23】典型的なFRIDアンテナ導電パターンを説明する図である。
【図24A】銅ナノ粒子を基板上にパターン化するためにフォトマスクがどのように使用されるかを示す図である。
【図24B】銅ナノ粒子を基板上にパターン化するためにフォトマスクがどのように使用されるかを示す図である。
【図25A】銅ナノ粒子を基板上にパターン化するためにシャドーマスクがどのように使用されるかを示す図である。
【図25B】銅ナノ粒子を基板上にパターン化するためにシャドーマスクがどのように使用されるかを示す図である。
【図26】パッシベーション層として酸化銅を備えた銅ナノ粒子を説明する図である。
【図27】光焼結中に形成されて膜中に粒状性をもたらす融合点の形成を説明する図である。
【図28A】銅インクへのアルコールの添加による銅クラスターの減少を説明する図である。
【図28B】銅インクへのアルコールの添加による銅クラスターの減少を説明する図である。
【図28C】銅インクへのアルコールの添加による銅クラスターの減少を説明する図である。
【図28D】銅インクへのアルコールの添加による銅クラスターの減少を説明する図である。
【図28E】銅インクへのアルコールの添加による銅クラスターの減少を説明する図である。
【図28F】銅インクへのアルコールの添加による銅クラスターの減少を説明する図である。
【図29A】アルコールを含有する銅インクにより形成されたインクジェットパターンを説明する図である。
【図29B】アルコールを含有する銅インクにより形成されたインクジェットパターンを説明する図である。
【図30】金属ナノ粒子上の金属酸化物層へのアルコールの水素結合を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に言及すると、基板102の表面に導体を組み立てるためのシステム100が示されている。このシステム100は、基板表面に金属インクを印刷することができるインクジェットプリンター等の印刷装置104を含む。しかし、インクを印刷することができる任意の印刷装置、例えばエアロゾルジェットなど、を使用することもできる。他の堆積装置を同様に使用することができる。例えば、金属インクは、特に、スプレー、ドローダウン法、および、スピンキャスティングを用いて堆積させることができる。インクは、特定のパターンに印刷するかまたは基板表面全体を覆うことができる。プリンター装置104は、印刷されるインク溶液を貯蔵するための貯蔵区画106を含む。別法では、インク溶液は外部のインク源から印刷装置104に供給することができる。
【0009】
インクジェット印刷に適する金属インクから銅ベースの導体を製造するために、インク溶液は、インクジェットのヘッドにより処理される十分に小さい銅粒子から作製することができる。一般に、これは1ミクロン以下、場合によっては、0.1ミクロン(100ナノメートル)以下の直径を有する銅粒子を含む。この銅粒子は、貯蔵および印刷中は溶媒および/または懸濁液中に保存される。インクジェット溶液は、ガラス等の堅い無機基板またはポリイミドもしくはポリエチレン等のフレキシブルな有機基板を含めた多様な基板上に印刷することができる。いくつかの実施においては紙基板を使用することができる。他の基板も同様に使用することができる。
【0010】
基板表面に銅ベースのインク溶液を印刷後、そのインクを前硬化または乾燥させる。そのインク溶液がポリマー基板上に印刷される場合、その前硬化は、基板における変動、例えば、弾力性/可塑性の変化、収縮、反り、および/またはその基板に対する損傷などを防ぐために、一般に、200℃未満、好ましくは100℃未満の温度で実施する。そのインク溶液は、空気または窒素およびアルゴン等のその他のガス雰囲気中で硬化させることができる。不活性雰囲気中での前硬化は、インクジェット印刷システムのコストおよび複雑性を増す可能性がある。典型的には、その銅粒子は、暗色または黒であって光を吸収し、その結果、その前硬化したインクもまた暗色または黒の光吸収性の色を示す。加えて該前硬化インクは、高い抵抗率を有する。その前硬化インクの抵抗率は、該銅粒子を、溶融を介して共に融解することによって低減することができる。
【0011】
印刷された金属ナノ粒子中に穴の形成をもたらし得る液体成分の急速な蒸発を防ぐために、印刷された金属ナノ粒子を光フラッシュによって焼結することができる前に、印刷イメージは乾燥しておりこれらの液体が存在しない状態であるべきである。このプレ焼結乾燥段階は、印刷された材料を空気中140℃以下の温度で1時間以下の時間加熱することによって行うことができる。その温度と時間は、金属ナノ粒子の酸化を防ぐために可能な限り低くかつ短く保つべきである。これらのプレ焼結条件の使用は、金属ナノ粒子インクの成分がこれらの実験条件下で揮発性であることを要する。これらの条件下で急速な酸化を受ける印刷材料、またはそれらの成分を保持する印刷材料については、それらを除去するために他の条件を使用することができる。これらには、窒素、水素、またはガス形成雰囲気下でより高温まで加熱すること、あるいは高真空条件下加熱することが含まれる。金属インク配合物中に不揮発性成分を含めることは、それらの最終の金属膜内の閉塞により、それがバルク金属の抵抗率より高い抵抗率を有することを引き起こすために避けるべきである。この乾燥段階を促進するために、低沸点および低い気化熱を有する液体が好ましく、固体はこれらの条件下で完全に昇華するものを使用すべきである。かかる成分が、現実味がない場合、化合物がこれらの熱的条件下で揮発性生成物に分解する代替案を用いることができる。
【0012】
しかし、バルク銅は、約1000℃を超えるまで溶融しない。その融点は60nm以下の直径を有する銅粒子についてはそれより低いかもしれないが、それは依然としてポリマー基板に適する処理温度よりはかなり上である。その上、銅は、空気中および高温においてすぐに酸化し、それは抵抗率の低下ではなく増大につながり得る。
【0013】
基板を熱し過ぎることなくおよび/または殆んど酸化させることなく銅粒子を融解するために、前硬化した膜を、それをキセノンランプ等の光源からの極めて強いけれども短時間の光パルスにさらすことによって光焼結させることができる。光源からの光は、膜によってその暗色または黒色のために吸収される。それ故、直接加熱されるのは膜であって基板ではない。光強度が十分に高く(平方センチメートル当りほぼ数ジュール)、パルス長が十分に短い(ほぼ300マイクロ秒以下)場合、前硬化した膜に移されるエネルギーは、基板に大したエネルギーを移すことなく銅粒子が共に融解することを可能にするのに十分である。
【0014】
光焼結は、銀および/または銅粒子を含む膜に適用することができる。光焼結プロセスは、他の金属粒子膜にも機能する。光焼結した銀膜の抵抗率は、バルク銀の抵抗率の約4倍である。銅の光焼結膜については、その抵抗率は、バルク銅より約10〜40倍高い。例えば、10−5〜10−7Ω−cmの範囲である光焼結した銅ナノ粒子膜の抵抗率を達成することができる。そのような抵抗率の値は、電子的相互接続、RFIDタグ中のアンテナ等の用途で使用するためおよびガラスおよびフレキシブル基板上のディスプレーの製造プロセスのためには十分である。加えて、光焼結は、アライメント用の精密なオプティクスを必要とせず、大きい面積の材料上での製造に向けたスケールアップをすることができる。
【0015】
金属ナノ粒子のインクへの配合は、分散剤の添加が必要となり得る。これらの分散剤は、金属ナノ粒子と結合することができる頭部基と、インクの液相成分混合物中で使用されるビヒクル(溶媒)と相溶する尾部基とを有する。そのような分散剤は、通常、疎水性および親水性末端を有しており、その尾部基は、優先的に長鎖のアルキルまたはアルコキシ官能性を有するべきである。該頭部基の設計は、「硬いおよび軟らかい酸、塩基の法則(hard and soft acid and base principle)」および排除体積計算の使用に基づいて行うことができる。
【0016】
金属と配位子(分散剤)の差異のある錯体形成挙動は、電子対供与性ルイス塩基および電子対受容性ルイス酸の観点から説明されている。それらの間の関連性は、次の方程式で示される:
ルイス酸 + ルイス塩基 → ルイス酸/ルイス塩基錯体
【0017】
ルイス酸およびルイス塩基は、硬い、境界、または軟らかいとして分類されている。ハードソフト酸塩基(HSAB)の原理によれば、「硬い酸は、硬い塩基に優先的に結合し」、「軟らかい酸は、軟らかい塩基に優先的に結合する」。
【0018】
広範な原子、イオン、分子および分子イオンが、硬い、境界のまたは軟らかいルイス酸またはルイス塩基として分類されており、分析を従来の金属/配位子無機化学から有機化学の領域に移動している。Table 1(表1)およびTable 2(表2)は、ルイス酸および塩基をこれらの3つのカテゴリーに分類している一覧表を提供する。
【0019】
【表1】

【0020】
重要な観察結果がTable 1(表1)からもたらされる。第1は、元素銅は軟らかく、銅ナノ粒子は境界として分類されるCu2+のように挙動するが、より大きな銅ナノ粒子は軟らかいルイス酸の挙動を示すことができることである。同様に、CuOから形成されるCuは、どれも軟らかいものとして分類される。
【0021】
【表2】

【0022】
銅ナノ粒子が境界または軟らかいのいずれかに分類することができるという前提を推進する場合、境界のまたは軟らかいルイス塩基の分類に入るいくつかの分散剤を標的にすることが有利であり得る。
【0023】
硬い[ルイス]酸は、硬い[ルイス]塩基に結合して電荷制御(イオン性)錯体を生み出す。そのような相互作用は、ルイス酸およびルイス塩基の種に基づく+/−電荷によって支配される。軟らかい[ルイス]酸は、軟らかい[ルイス]塩基に結合してFMO制御(共有結合性)錯体を生み出す。これらの相互作用は、関与しているフロンティア分子軌道(FMO, frontier molecular orbital)、最高被占分子軌道(HOMO, highest occupied molecular orbital)および最低空分子軌道(LUMO, lowest unoccupied molecular orbital)のエネルギーによって支配される。この分析を使用して、電荷制御およびFMO制御ルイス酸/塩基錯体形成の寄与する態様は分類されかつ定量化される。
【0024】
硬いルイス酸は、
小さいイオン半径の原子中心を有し、
高い正電荷を有し、
この種はそれらの原子価殻中に電子対を含有せず、
低い電子親和力を有し、
強く溶媒和される傾向があり、
高いエネルギーのLUMOを有する。
【0025】
軟らかいルイス酸は、
大きい半径を有し、
低いまたは不完全な正電荷を有し、
それらの原子価殻中に電子対を含有し、
分極および酸化し易く、
低いエネルギーのLUMOであるが大きな規模のLUMO係数を有する。
【0026】
硬いルイス塩基は、
小さいが高度に溶媒和された3.0〜4.0の電気陰性の原子中心を有し、
弱く分極することができる種であり、
酸化し難く、
高いエネルギーのHOMOを有する。
【0027】
軟らかいルイス塩基は、
2.5〜3.0の範囲の中程度の電気陰性度の大型の原子を有し、
分極および酸化し易く、
低いエネルギーのHOMOであるが、大きな規模のHOMO係数を有する。
【0028】
境界の種類は、中間の性質を有する。これら種類が全ての性質を所有する必要はないという権威者が存在する。HSABは理論ではなく、何故なら、それは化学結合の強さの変化を説明しないからである。HSAB原理における「優先する」という語は、どちらかといえば適度の効果という意味を含んでおり、HSABは、厳重な規定としてではなくルイス酸−ルイス塩基のペアを選択する際のてびきとして使用すべきである。
【0029】
定性的なHSAB理論は、化学的硬さの定量的な定義によって拡張されている。マリケン(Mullikan)のスケールで定義される電気陰性度は、原子または分子中の固定核電荷でのエネルギー対電子量のプロットの一次導関数であり、化学的硬さは二次導関数である。したがって、硬さおよび電気陰性度は関係していて、この意味において、硬さは、変形または変化に対する耐性の尺度である。値がゼロの場合に、最大の軟らかさを示す(Table 3(表3))。
【0030】
【表3】

【0031】
分散剤として使用される化合物は、長鎖アルキル(CHまたはエトキシ(CHCHO)基を有する。これらの基は、炭素−炭素または炭素−酸素の単結合によって互いに結合している。このような単結合は、3次元的な振動および回転を許容するので、高度なフレキシビリティが与えられる。フレキシブルで長鎖の尾部基を有する分散剤を用いることの必要性に対する説明は、振動および回転の組み合わせを通して、これらの基は、短鎖の尾部基よりも多くの空間を占有し、その空間が、近づいてくる第二の銅ナノ粒子にとってアクセス可能ではないということである。この排除体積効果を定量化するため、プロパン(C)、ヘキサン(C14)、デカン(C1226)に対して計算を行った。これら3つのアルキル鎖化合物が、図18に示されている。それぞれのケースにおいて、線状構造が示されていて、それぞれのケースにおいて、C−C−Cの角度は、109°28’に近く、四面体角である。
【0032】
計算結果をTable 4(表4)にまとめる。
【0033】
【表4】

【0034】
長さ(オングストロームÅ)−延伸した構造での端から端(重原子)までの距離。プロパンについては、CからCまでの距離であり、ヘキサンについては、CからCまでの距離であり、デカンについては、CからC12までの距離である。
【0035】
「排除」体積(Å)−(1/6)πdとしての長さ(d)に基づいた体積。所与の対象に対する排除体積は、他の対象に排除されている所与の対象を取り囲んで含む体積として定義される。排除体積は、常に一対の対象に対して定義される。
【0036】
ファンデルワールス体積(Å)−ファンデルワールス半径に基づいた体積。共有結合していない2つの原子は互いに、特定の最低距離よりも近づくことができない。どこまで近接するかは含まれる原子の種類に依存する。この現象は、各原子タイプに対してファンデルワールス半径と呼ばれる値を、所与の原子対に対するそれらの量の和が最も接近することができる距離に等しくなるように割り当てることによって説明することができる。ここで、ファンデルワールス半径は、アルキルまたはエトキシ鎖の水素原子の「接触点」である。ファンデルワールス体積は、あらゆる重原子がそのファンデルワールス半径の分子表面によって表される分子の体積であり、その分子表面は、ファンデルワールス表示における分子を回転させた球(典型的には半径1.4Å)によって形成される表面である。
【0037】
分子体積(Å)−1.4Åの球形プローブを回転させることによって閉じられる体積。これは、1モルの化合物によって占有される体積であり、分子量を密度で割ったものに数値的に等しい。この分子体積は、上記の排除体積の体積、つまりゼロではない大きさの分子が原因で占有することができない体積である。
【0038】
分子表面(Å)−1.4Åの球形プローブを回転させることによって閉じられる面積。これは、表面積を得ることと等価である。
【0039】
これらのデータは、距離への依存度がその距離の三乗である故に、鎖の長さが増大すると、「排除」体積に大きな増加があることを示している。この「排除」体積は、フレキシブルなアルキル(またはエトキシ)鎖によって「占有される」空間を表し、第二の銅ナノ粒子によって占有されることがあり得ない空間である。この「排除」体積が大きくなればなるほど、分散剤はより効果的に銅ナノ粒子を分離されたままに保つ。この「排除」体積の第二の態様は、大きな値が、低濃度の化合物がナノ粒子の高レベル被覆を提供し、それ故、分散剤としての高度の有効性を提供するのに効果的であることを可能にすることである。
【0040】
後に光硬化によって硬化して優れた導体を与えるインクの配合において適切に用いられているポリマーは、トリトン(Triton)(登録商標)X−100、トリトンX−15、トリトンX−45、トリトンQS−15、BYK111、MA、SMA、PT、HCS−P、HCS−N、PVP、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリシロキサンである。
【0041】
分散剤としてのポリマーの使用の背後にある論拠は、それらが導電性インクのビヒクルとして用いられる典型的な液体よりも多くの場合高い粘度を有すること、および、金属ナノ粒子に対する多数の結合サイトのために、それらはモノマーの分散剤よりも低い濃度で使用することができ、それにも関わらず金属ナノ粒子の単層被覆を提供することができることである。より高い粘度は、それによってインクジェット法を用いて印刷可能な優れた分散液およびインクの生成を容易にするので重要である。より低い濃度の分散剤は、硬化(焼結)プロセス中に除去される有機物質が少なくなるので好ましい。
【0042】
粉末を安定な分散液に転換するときには3つの作用が必要となる。これらは、表面を湿潤させること、凝集体をばらばらにすること、およびその分散した粒子を凝集に対して安定化させることである。分散剤および界面活性剤は多くの場合各段階において重要な役割を果たすが、或る1つの場面で最高の性能を提供する分散剤が、後続場面に対して最高のものではあり得ない。結果として、複数の洗浄剤および界面活性剤が必要となり得る。
【0043】
粉末を湿潤させても、それは単にそのプロセスにおいて湿潤された凝集体であるに過ぎないかもしれないため、優れた分散に必ずしも繋がらない。場合によって、該ナノ粒子はそれらと共に沈殿した可溶性塩を含む塩橋を介して凝集し得る。これらの塩橋は、分散剤によって分解して凝集体をばらばらにすることができる。隙間中に吸着する分散剤も、固体中にクラックを広めるのに必要なエネルギーを減じることができ、それによって粉砕助剤として機能し得る。
【0044】
一旦非凝集化が起こると、その分散液の安定性を維持することが必要となる。引力と斥力との間のバランスは、粒子がクラスターに向けて移動して凝集体に戻るか、または、分散したままであるかどうかを決める。分散の維持は、ボールミルや同様の装置で凝集体を機械的にばらばらにすることによって補助することができる。プロセスが停止した際の再凝集化を回避するために、このような機械的プロセスが分散剤の存在下で行われる。
【0045】
分散剤の選択には2つの戦略を用いることができ、これらは立体安定化と静電的安定化である。立体安定化は通常、非イオン性分散剤またはポリマーによって達成され、静電的安定化はイオン分散剤またはポリマーによって達成される。高い親水性・親油性バランス(HLB, hydrophile−lipophile balance)を備えた分散剤が、水分散液に対して用いられ、低いHLBを備えたものが、非極性有機液体に対して用いられる。金属ナノ粒子は帯電可能であり、この性質により、静電的安定化を用いてそれらを分散させることを可能にすることができる。用いられる分散剤の量は、単層被覆を与えるのに適したものであるべきである。
【0046】
分散剤の機能は、ナノ粒子が互いに凝集し、凝塊になることを防止することである。小さな金属ナノ粒子は反応性があり、分散していないと、それらは互いに接触して凝集体を形成する。これらの大きな凝集体は導電性インクを製造するのに不適切である。分散剤は、金属ナノ粒子と結び付く頭部基と、他の金属ナノ粒子がそれに接近するのを排除する尾部基とを有する。立体分散剤は、他の金属ナノ粒子によって占有され得ない大きな「排除体積」を曲げおよび回転によって一掃する長鎖の尾部基を有する。高い排除体積が望ましい。
【0047】
分散剤の濃度は、分散剤の頭部基によってナノ粒子の単層被覆が達成されるように選択される。この状況によって、凝集または凝塊に向けて他のナノ粒子にアクセス可能であるサイトがナノ粒子上に残存しないことが確保される。単層被覆は、また、最高の分散液およびインクを作製するためにも利用される。分散剤は、ナノ粒子に化学的に適合する頭部基と、ビヒクル(溶媒)と化学的に適合する尾部基とを有するように設計される。分散液中において、分散剤がナノ粒子とビヒクルとの間の分子ブリッジとして機能することによって、いくつかの分子層によってナノ粒子が幅広く分離されることが保持される。
【0048】
金属ナノ粒子は帯電した表面を有する。この帯電は、乾式または湿式法よって作製された金属ナノ粒子中に生じ得る。その電荷は正または負であり得る。金属インクは、ハロゲン化物またはカルボン酸イオン等のアニオン成分を用いて、あるいは、水素イオンまたはI族カチオン等のカチオン成分で作製されている。
【0049】
分散剤の選択において、アンカー頭部基として作用する機能性の選択は重要である。ナノ粒子へのそのアンカーの吸収は、系内のビヒクルの吸収よりも強力でなければならない。その吸収は電荷の引力、非共有電子対と空の分子軌道との間の特定のドナー・アクセプターバンド、水素結合、または分極性分子の静電界トラッピングから起こり得る。複数の吸収アンカーを有するポリマーの使用も、これによって、アンカーサイトの加算性が得られることおよび銅ナノ粒子の多重サイト被覆が達成されることが可能となるので検討する必要がある。
【0050】
ビヒクル中の分散剤の尾部の可溶性も、その分散剤は銅ナノ粒子とビヒクルとの間の境界として作用するために、考慮しなければならない。分散剤は、アンカー頭部基が銅と優先的に結び付き、尾部基がビヒクルと結び付く場合に最も効果的である。分散剤(界面活性剤)が分散液を安定化すると、固体上の単層は、通常、その系に対して達成可能な最大の分散安定性を達成する。単層に満たないものを使用すると、銅上に凝集する可能性のあるオープンサイトが残り、単層を超えるものが吸収されると、第二の分子層が、第一の層から反対方向に向く傾向があり、それによって銅ナノ粒子のビヒクルとの親和性が低下する(図20)。
【0051】
所与の体積Vの液体中に所与の質量mの銅を分散させるのに必要な分散剤の量mは、銅の表面積(A)、界面活性剤の分子量M、分散剤の分子面積被覆率Aから以下の式によって計算することができる:
【0052】
【数1】

【0053】
図21に示されるように、ポリマー分散剤中の複数の頭部基は、それらが銅ナノ粒子上に複数のアンカーサイトを有することができるために、有利であり得る。これは、ナノ粒子と分散剤との間の引力の上昇をもたらすことができ、該分散剤は、銅ナノ粒子上の複数のサイトを占有するので、より低い濃度で用いることができる。
【0054】
ナノ粒子が液体中に沈降すると、重力、浮力および抗力がそれらに働く。重力および浮力は以下のように与えられる:
重力:F=ρVg
浮力:F=ρVg
ここで、ρ、ρは堆積物、流体の密度であり、Vは堆積粒子の体積、gは重力加速度である。
【0055】
抗力:抵抗力は、ナノ粒子の形状、大きさ、および相対速度に依存し、そして流体の密度および粘度に依存する。それは以下によって与えられる:
【0056】
【数2】

【0057】
ここで、uはナノ粒子の速度、Aは粒子の軌跡に垂直な粒子の断面積、Cは抗力係数(粒子の形状、流体の粘度、粒径に依存する無次元数)である。
【0058】
沈降速度は次式によって与えられる:
【0059】
【数3】

【0060】
ここで、ηは流体の動的粘度、ρ、ρは堆積物、流体の密度、Dはナノ粒子の直径、gは重力である。
【0061】
ナノ粒子の体積濃度(C)を考慮する場合、沈降速度を以下のように表すことができる:
【0062】
【数4】

【0063】
ここで、nは、ナノ粒子のレイノルズ数に依存して、2.3から4.6までで変化する。
【0064】
この式から、
1) ナノ粒子の高い添加濃度は分散を改善し;
2) ビヒクルの粘度の増大は分散を改善し;
3) より小さな粒径のナノ粒子はより長時間懸濁する。
【0065】
ビヒクル中に3カ月、さらには6カ月にわたってナノ粒子が懸濁することを可能にする臨界ナノ粒子の大きさはどのようなものであろうか。式1を用いたこの大きさの概算をTable 5(表5)に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
この計算においてブラウン運動は考慮されていない。
【0068】
ナノ粒子の添加濃度を増大させることを考慮する場合、沈降速度に(1−Cのファクターを乗ずる。
【0069】
例えば、100nmまたは50nmのナノ粒子に対して、ナノ粒子の体積添加濃度Csを10%から60%まで増加すると、沈降速度は低下することがTable 6(表6)に示されている。
【0070】
【表6】

【0071】
この結果は、ナノ粒子の添加濃度を10%から40%に増大させると、ナノ粒子が1カ月で移動する距離が2桁減少することを示している。
【0072】
Table 6(表6)の計算データは2g/cm・sの粘度に対するものである。Table 7(表7)には、粘度が20g/cm・sに増大した際の速度変化についてのデータを示す。
【0073】
【表7】

【0074】
まとめ
1)長期間の分散を達成するためには、ナノ粒子の体積添加濃度を増大させることが有用な方法である可能性がある。
2)ナノ粒子の高い添加濃度を用いれば、50nmのナノ粒子に対しては良好な分散液を得ることができる。
3)ビヒクルの粘度を増大させることは速度の低下をもたらす。
【0075】
金属ナノ粒子は湿式法および乾式法の両方により製造することができる。湿式法は、金属塩の元素への還元を含み、乾式法は、気相での元素のアブレーションまたは気化および金属ナノ粒子(ナノ粉末)への凝結を含む。両方法によって作製された金属ナノ粒子は、導電性金属インクに無事配合することができる。湿式法によって作製された金属ナノ粒子に対して考慮すべき重要な点は、その製造法の途中で入り込んで閉じ込められた塩を、金属ナノ粒子から、それらが導電性インク中に配合される前に洗浄することによって、完全に取り除くことである。残存している不揮発性の塩は、望ましいまたは許容できるものより高い抵抗率および不十分な接着性を有する導体が得られる結果をもたらす。
【0076】
金属ナノ粒子は、その表面の酸化物層によって不動態化することができる。その酸化物層は、例えば約1nmから約20nmの厚さを有し得る。ナノ粒子が一旦不動態化されると、さらなる酸化は非常にゆっくりと起こる。光焼結技術を用いることによって、銅酸化物のより薄い層は、空気中および室温で金属銅に光還元することができ、それによって互いに融合させて銅の導体を形成する。
【実施例1】
【0077】
銅インク用の非イオン性ポリマー分散剤
この「排除」体積は、フレキシブルなアルキル(またはエトキシ)鎖によって「占有されている」空間を表し、それは第二の銅ナノ粒子によって占有されることのあり得ない空間である。この「排除」体積が大きいほど、該分散剤は銅ナノ粒子の分離された状態を保つのにより効果的である。この「排除」体積の第二の態様は、大きな値が、低濃度の化合物がナノ粒子の高レベルの被覆と、それ故、分散剤としての高度の有効性とを提供するのに効果的であることを可能にすることである。
【0078】
後に光硬化によって硬化して優れた導体を与えるインクの配合において首尾よく用いられているポリマーは、トリトン(Triton)X−100、トリトンX−15、トリトンX−45、トリトンQS−15、線状アルキルエーテル(colar Cap MA259、colar Cap MA1610)、四級化アルキルイミダゾリン(Cola Solv IES、Cola Solv TES)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリシロキサンである。溶媒、例えば、2−ブトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテル、2−エトキシエチルアセテート、エチレングリコールジアセテート、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、2−エトキシエチルアセテート、エチレングリコールジアセテート等、を用いて、銅ナノ粒子と共に銅インクを配合することができる。分散剤の重量百分率は、0.5%から20%まで変動し得る。銅ナノ粒子の添加濃度は10%から最大60%までであり得る。バインダー物質は配合物中に必要としない。
【0079】
分散の優れたインクは、ポリイミド、PET等のフレキシブル基板上に、インクジェット印刷可能であり、または、ドローダウン、スピンキャスティング、ロールツーロール印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等の他の方法によって印刷可能である。前硬化プロセスが、空気中150℃未満の温度でインクコーティングされた基板に適用される。次に、光焼結を用いて、数マイクロ秒から1ミリ秒未満で銅ナノ粒子を焼結させて銅膜とし、一方同時に、銅ナノ粒子上の銅酸化物層を金属銅に光還元して、高純度の金属銅の導体をもたらす。銅膜と基板との間の接着は、銅の溶融による熱が比較的低い融点を有する銅とプラスチックとの間に溶接効果を生じるために、バインダー物質を用いなくても優れている。3.6〜10μΩ・cmもの低さの抵抗率(バルク銅に対しては1.7μΩ・cm)が達成される。連続レーザーおよびパルスレーザーを含めたレーザーを用いて、銅インクを銅の導体に焼結させることができる。ナノ秒からフェムト秒レーザーのパルスレーザーを用いて、同様に、銅インクを焼結させることができる。
【実施例2】
【0080】
銅インク用のイオン性ポリマー分散剤
酸性基を有するコポリマーを分散剤として用い、相溶性ビヒクルと共に銅インクを配合する。イオン性の基を有するコポリマー、例えば、ディスパービック(Disperbyk)180、ディスパービック111、スチレン無水マレイン酸コポリマー(SMA1440フレーク)、PT、HCS−P、HCS−N等は、イオン性のものであり、そのため静電的分散を得ることができる。2−ブトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテル、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、2−エトキシエチルアセテート、エチレングルコールジアセテート、テルピネオール、イソブチルアルコール等の相溶性ビヒクルのいずれか1つまたはそれらの組み合わせを用いて、銅ナノ粒子と共に銅インクを配合することができる。その銅インクはフレキシブル基板上にインクジェット印刷される。次いで、前硬化プロセスを用いて、空気中150℃未満の低温でビヒクルおよび分散剤にあたるものを除去する。最後に、印刷された銅インクに光焼結を適用して、銅ナノ粒子を溶融して導体にする。分散剤の重量百分率は0.5%から20%の範囲であり得る。銅ナノ粒子の添加濃度は10%から最大60%までであり得る。
【0081】
分散の優れたインクは、ポリイミド、PET等のフレキシブル基板上に、インクジェット印刷可能であり、または、ドローダウン、スピンキャスティング、ロールツーロール印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等の他の方法によって印刷可能である。前硬化プロセスが、空気中150℃未満の温度でインクコーティングされた基板に適用される。次に、光焼結を用いて、銅ナノ粒子を焼結させて銅膜にし、一方同時に、銅ナノ粒子上の銅酸化物層を金属銅に光還元して、高純度の金属銅の導体をもたらす。銅膜と基板との間の接着は、銅の溶融による熱が比較的低い融点を有する銅とプラスチックとの間に溶接効果を生じるために、バインダー物質を用いなくても優れている。3.6〜10μΩ・cmもの低さの抵抗率(バルク銅に対しては1.7μΩ・cm)が達成される。連続レーザーおよびパルスレーザーを含むレーザーは、同様に、銅インクを焼結させて銅導体にするために使用することができる。ナノ秒からフェムト秒レーザーのパルスレーザーもまた、銅インクを焼結させるために使用することができる。
【実施例3】
【0082】
非イオン性分散剤およびイオン分散剤を含む配合
より良好な分散を得るために、非イオン性分散剤およびイオン性分散剤の両方を用いて銅インクを配合する。非イオン性分散剤、例えば、トリトンX−100、トリトンX−15、トリトンX−45、トリトンQS−15、線状アルキルエーテル(colar Cap MA259、colar Cap MA1610)、四級化アルキルイミダゾリン(Cola Solv IES、Cola Solv TES)、ポリビニルピロリドン(PVP)等、および、イオン性の基を有するコポリマー、例えば、ディスパービック180、ディスパービック111等、ならびに、スチレン無水マレイン酸コポリマー(SMA1440フレーク)、PT、HCS−P、HCS−N等を銅インクと配合することができる。銅酸化物により不動態化された銅ナノ粒子を配合に用いる。相溶性ビヒクル、例えば、2−ブトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールブチルエーテル、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール等、を選択して、銅ナノ粒子と共に銅インクを配合することができる。特に、2−ブトキシエチルアセテートとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとの組み合わせ、2−エトキシエチルアセテートと2−エトキシエチルアセテートとの組み合わせ、およびエチレングリコールジアセテートとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとの組み合わせが、イオン性分散剤および非イオン性分散剤の両方と相溶性であるので使用することができる。分散剤の重量百分率は、0.5%から20%の範囲であり得る。銅ナノ粒子の添加濃度は10%から最大60%までであり得る。
【0083】
インクジェットが可能な金属ナノ粒子のインクは、一連の特有の課題を提起する。これらのインクは、印刷されるエレクトロニクスの製作において高性能が好都合である用途のために設計され得る。この性能には、最終の金属導体の低い抵抗率および最適な基板への良好な接着性、ならびに、無線周波数領域における良好な性能が含まれる。加えて、該インクは、広範囲の基板に適合することができる。ある場合には、この金属インクは、良好な持続性の分散、インクジェットができるための許容範囲内の粘度、および望ましい流動特性を生ずる基板との接触角を有する。性能を増すために、凝集しておらず、凝塊していない適切な大きさ分布を有する金属ナノ粒子を液相中に配合して望ましいインクジェット能力を与えることができる。その金属インクが基板にインクジェットされた後、それは焼結させて最終の金属導体を生じさせることができる。この最終の導体は、バルク金属の性質と似た性質を有することが望ましく、インク中の非金属成分は焼結プロセスにおいて除去することができる。この除去としては、気化、揮発性生成物への分解、またはインクから基板表面への移動が挙げられる。焼結プロセス中の不完全な除去は、最終の金属導体の高い抵抗率および基板表面へのその不十分な接着性をもたらし得る。具体的な詳細は、異なる金属、基板、焼結方法およびインクジェットプリンターに対して変化し得るが、一般的なやり方をここで詳記する。
【0084】
場合によって、疎水性有機ビヒクル中で配合された金属ナノ粒子インク中の金属ナノ粒子は、高い添加では凝集して大きなミクロンサイズのクラスターになる。これらの大きいクラスターは、インクジェット中に不規則な流れまたはプリンターヘッドのブロッケージを引き起こし得る。その結果、印刷された材料は、均質ではあり得ず、大きな金属の凝塊物の不規則なクラスターが印刷された材料の上にランダムに広がっている可能性がある。これらの印刷された材料の焼結は、平坦で均質ではない金属導体の形成をもたらし得る。
【0085】
これらの大きな金属クラスターの発生は、1つまたは複数の親水性化合物を金属インクに添加することによって減少させ得る。その金属インクは、1つまたは複数の酸素化された有機化合物を含むビヒクル中で配合することができる。本明細書で使用される「酸素化された有機化合物」とは、一般に、中鎖の脂肪族エーテルアセテート、エーテルアルコール、ジオールおよびトリオール、セロソルブ、カルビトール、または芳香族エーテルアルコール、ならびに中鎖の脂肪族ケトン、他に、酸化防止剤としての中鎖のアルデヒド、または上記のものの任意の組合せを指す。ビヒクル化合物の比率は、印刷適性および特性の正確さを含めたインク性能を改良または最適化するために修正することができる。選択される中鎖の脂肪族官能性を有する化合物は、約100℃から約250℃の間の沸点を有しており、それはCからC12の化合物を含み得る。その親水性化合物には、中鎖の脂肪族アルコールを含めることができる。中鎖の脂肪族アルコールの例としては、イソブタノール、2−オクタノール、などが挙げられる。
【0086】
親水性化合物を該インクに添加することにより、インク中の金属クラスターの数および/または大きさを減少させ、改良された分散液およびより均質な印刷材料に導くことができる。その親水性化合物の重量百分率は、インク中の有機液体の約30重量%から約96重量%の間で変動し得る。該インク中の有機液体は、例えば、ビヒクル、親水性化合物、およびその他の変性剤または添加剤を含むことができる。分散および均質性における驚くべき改善が、金属ナノ粒子の添加が高いとき、例えば、該インクが約40重量%から約60重量%の間のナノ粒子を含むときに達成される。分散の改良は、遠心分離なしと、次いでインクの遠心分離後5、10、15、20、25、および30分後の沈降の量の目視検査によって記録する。
【0087】
図28Aは、銅ナノ粒子(約40重量%)、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートおよびDISPERBYK(登録商標)111を含有する焼結前の金属インクを示す(倍率100倍)。図28Bは、イソブタノールを追加した図28Aの銅インクを示す(焼結前、倍率100倍)。図28Cは、焼結後の図28Aの銅インクを示す(倍率100倍)。図28Dは、イソブタノールを追加した図28Aの銅インクを示す(焼結後、倍率100倍)。図28Eは、焼結前の図28Aの銅インクを示す(倍率100倍)。図28Fは、2−オクタノールを追加した図28Aの銅インクを示す(焼結前、倍率100倍)。いずれの場合もアルコールの追加は、乾燥した金属インク中の金属クラスターの数と大きさを減少している。
【0088】
いくつかの場合で、1つまたは複数の親水性化合物を含有する金属インクは、その親水性化合物を含まない同じ金属インクよりもよりよくインクジェットしてより正確な外観を引き起こす。インクの流れ、またはインクジェット能力は、そのインクを1つまたは複数のインクの噴出を閉塞することなくインクジェットすることができる時間の長さによって評価される。インクの流れは、そのインクが目視検査により観察して実質的に直線でどれだけ長くインクジェットすることができるかによって測定することもできる。ある角度でのインクジェットは、1つまたは複数のインクジェットの部分閉塞の兆しである。外観の精度は、光学顕微鏡を用いて測定することができる。印刷された外観の光学顕微鏡による観察は、存在する場合はスプリアスのサテライトピークの確認と共に線のまっすぐなことを見極めること、および印刷されたラインが何らの不連続なしで完全に接続しているかどうかを判定することを可能にする。
【0089】
この改良されたインクジェット能力は、図29Aおよび図29Bのインクジェットパターンにおいて見ることができる。銅ナノ粒子(約40重量%)、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、DISPERBYK(登録商標)111、および2−オクタノールを含有する金属インクにより形成された図29Aおよび図29Bのインクジェットパターンは、親水性化合物のない金属インクよりもより滑らかで凸凹の少ないラインエッジを示し、より正確な外観の印刷を可能にしている。
【0090】
金属ナノ粒子は、反応性を有し、さまざまな厚さの表面酸化物層を含み得る。金属インクのための分散液の配合において、金属ナノ粒子と分散剤との間の分子間相互作用は、その金属酸化物層によって支配され得る。この酸化物層は、単純な二元酸化物(M)の形をしているか、またはそれは金属水酸化物(MOH)結合を含む部分的に水和した形をしたものであり得る。ヒドロキシル基を含むアルコール(ROH)(ただし、Rは、アルキル基官能性である)は、金属酸化物(M)または金属水酸化物(MOH)表面に対して強力な水素結合を形成することができる。その結果、その金属クラスターは、その金属酸化物表面層が他の金属ナノ粒子の酸化物表面に対してよりもむしろアルコールに対して優先的に水素結合し得るために、離散され得る。
【0091】
図30は、金属酸化物層304を有する金属302を含むナノ粒子300を示す。アルコール306が金属酸化物層304に水素結合している。高粘度を有するアルコール(例えば、2−オクタノール)を添加することによるさらなる利点は、その高粘度が金属ナノ粒子のビヒクル中の分散を促進し得ることである。このモデルは、アルコールが分散剤としてミセルのように作用しており、ヒドロキシル基は水素結合によって金属酸化物層と強力に相互作用する。金属インクへのアルコールの添加は、該インクがイオン性分散剤を含む場合に一層の利点を有し得る。殆どの他の有機液体よりもより高いものであり得るアルコールの誘電率は、インクの誘電率を上げることができ、その分散剤中のカチオンおよびアニオンが、別なふうにより低い誘電率を有する液体中で可能であるよりも、より分離された状態になることを可能にする。これらの配合された銅インクからは、優れた分散液が得られる。該インクは、ポリイミドおよびPET等のフレキシブル基板上に、ドローダウン、スピンキャスティング、ロールツーロール印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等によって印刷可能である。前硬化プロセスを、空気中150℃未満の温度でインクをコートした基板に適用する。4μΩ・cmもの低さの抵抗率が得られる。連続レーザーおよびパルスレーザーを含むレーザーは、銅インクを焼結させて銅導体にするために使用することもできる。ナノ秒からフェムト秒レーザーのパルスレーザーもまた、銅インクを焼結させるために使用することができる。
【実施例4】
【0092】
低有機残留物銅インク
光焼結により高純度銅膜を得るためには、少ない有機残留物が高導電率をもたらす。沸点の低いビヒクルおよび分散剤が銅インクを配合するために選択される。分散剤の重量百分率は0.5%から20%の範囲であり得る。銅ナノ粒子の添加濃度は10%から最大60%までであり得る。低沸点のアルコールまたは他の溶媒、例えば、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、ブチルベンゼンおよび水等、をビヒクルとして用いることができる。比較的低い分子量を有する低沸点アミン、例えば、ヘキシルアミン、オクチルアミン等、をインク配合用の分散剤として用いることができる。これらの低沸点ビヒクルおよびアミンは、前硬化プロセスが150℃未満の低温でコートされたインクに適用されるとき、容易に蒸発させることができる。アミンは、それらのほとんどが前硬化プロセス中に蒸発するように、150℃未満の低い沸点を有するべきである。前硬化段階は、印刷されたまたはコートされた金属ナノ粒子が、それらが光焼結される前に乾燥していることを確保するために必要である。この段階は、150℃未満の空気中で行われる。この段階が必要なのは、光焼結すべき金属ナノ粒子が揮発性の化合物を含有する場合、光硬化中の急速加熱がその化合物の非常に急速な蒸発を生じさせて、金属ナノ粒子のコートされた膜が不連続で非常に粗い表面となるプロセスが得られるためである。
【0093】
分散の優れたインクは、ポリイミド、PET等のフレキシブル基板上に、ドローダウン、スピンキャスティング、ロールツーロール印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等によって印刷可能である。前硬化プロセスが、空気中150℃未満の温度でインクをコートした基板に適用される。低沸点のビヒクルおよび分散剤を用いて、光焼結によって、高純度銅膜を獲得することができ、それによって3.5μΩ・cmの抵抗率が得られる。連続レーザーおよびパルスレーザーを含むレーザーは、銅インクを焼結させて銅導体にするために使用することもできる。ナノ秒からフェムト秒レーザーのパルスレーザーもまた、銅インクを焼結させるために使用することができる。
【0094】
プリンターノズルの詰まりを避けるため、銅ナノ粒子の直径は1000ナノメートル未満であるべきである。ナノ粒子が互いにクラスター化しているナノ粒子の集合化についても同じことが言える。凝集体(二次的な粒径として知られる)の直径も、1000ナノメートル未満であるべきである。
【0095】
銅ナノ粒子の大きさも、光焼結膜の性質に対して影響があり得る。例えば、場合によって、大きなナノ粒子を有するインクは、光焼結の後で、小さなナノ粒子を有する光焼結したインクよりも実質的に低い抵抗率を有し得る。抵抗率のその違いは、1つには、銅同士の融合に起因し、1つには、硬化前の膜中の銅酸化物の量と関連する光焼結後の膜中の銅酸化物の量に起因するものと考えられる。
【0096】
金属ナノ粒子の融合により金属導体を作製することには二段階が含まれる。これらの段階の1つは、ナノ粒子が互いに融合して完全に接続した金属膜を与えることであり、もう1つの段階は、それぞれの個々の金属ナノ粒子を通した融合を達成することである。これらの段階の両方が達成されると、個々の金属ナノ粒子はバルク金属に変換される。両方の段階が達成されない場合は、その金属は、ナノ粒子間の融合が生じていない導体中にホールが存在し、個々の金属ナノ粒子に対する完全な融合が生じていないと、金属導体のプロファイルが滑らかでなく、それどころか依然として個々の金属ナノ粒子のプロファイルを示すために、バルク金属よりも高い抵抗率を有する。これらの段階は両方とも、金属導体を作製するために用いられる金属ナノ粒子の大きさおよび大きさの分布によって影響される。
【0097】
いくつかの因子が、金属導体を生成するために用いられる金属ナノ粒子の大きさに依存する。金属ナノ粒子の大きさが減少すると、その反応性は増大し、その融点は低下する。これらの因子は両方とも金属ナノ粒子を融合した金属導体にする焼結に有利に働く。個々の金属ナノ粒子を完全に融合した金属導体に変換するには、各金属ナノ粒子が互いに融合して、結晶性銅原子の連続的な配列になることを要する。これを達成するためになされなければならない接続の数は金属ナノ粒子の大きさに依存する。より小さい金属ナノ粒子はより低い融点を有しておりより反応性ではあるが、連続した金属導体を生み出すためには、より多くの接続がなされなければならない。連続的な金属導体への金属ナノ粒子の融合は、より低い融点を有し、より反応性である小さな金属ナノ粒子の利点と、焼結(硬化プロセス)中になされるべき接続がより少なくてよい大きな金属ナノ粒子との間のバランスである。
【0098】
これら2つの因子の間のバランスを、一連の異なる大きさを有する銅ナノ粒子を用いて調べた。これらは30ナノメートルの大きさから100ナノメートルを超える大きさまでの範囲である。各大きさの銅ナノ粒子をインク中に配合し、それをコートし、前硬化し、空気中で光焼結した。その結果は、30nm、50nm、80nm、120nmの大きさの範囲に対して、80nmの大きさの銅ナノ粒子で最も低い抵抗率が得られることを示している。
【0099】
図12を参照すると、一連の異なる大きさの銅ナノ粒子が得られた。これらのナノ粒子は、30nm、50nm、80nm、120nmの大きさを有し、保護剤でコートされていた。これらのサンプルのそれぞれからインクを作製した。直接比較用の一貫性のある配合とするため、前処理は、1−ヘキシルアミン(2mL)およびイソプロピルアルコール(4mL)の混合物を用い、続いてイソプロピルアルコール(10mL)を加えることを含んだ。50nmの大きさの銅ナノ粒子の2つの異なるバッチをAおよびBとした。コーティング、前硬化および光硬化を実施した後に得られた抵抗率を図12に示す。
【0100】
図13に示されるように、これらのデータは、抵抗率が80nm<120nm<30nm<50nmの順であることを示している。
【0101】
抵抗率の順が酸化物含有量と何らかの相関を示すかどうかを求めるために、得られたままで処理される前の銅粒子について、XRD(X線回折グラフ)を得た。80nm、120nm、30nm、50nmのサンプルに対するそれぞれのXRDを、それぞれ図14〜17に示す。
【0102】
異なる大きさの銅ナノ粒子のXRDは、ナノ粒子上に存在する銅酸化物の量の有意な違いを何ら示していない。それぞれの場合において、酸化物の量は少ない。したがって、銅ナノ粒子の大きさの変化に対する硬化導体の抵抗率の違いは、銅酸化物含有量に起因するものではありそうにない。金属ナノ粒子からの導体の形成においては、2つの検討事項が考慮されるべきである。ナノ粒子が小さくなると、それらはより反応性となり、それらの銅導体への焼結がより有利となる。とはいっても、そのより小さなナノ粒子は連続した導体を形成するためにより多くの接続を形成する必要があり、これがより小さなナノ粒子を用いることの不利な点である。80nmの銅ナノ粒子の利点は、それが2つの考慮すべき事柄を最大限に発揮する点であり得ることである。銅ナノ粒子の大きさと形成される導体の抵抗率との間には線形の相関は存在しない。図26について言及すると、銅ナノ粒子は銅酸化物(主に不活性化層としてのCuO)を含むが、その濃度は30%を超えてはならない。そのナノ粒子の形状は、球形、楕円形、またはその他の不規則な形状であり得る。
【0103】
光焼結プロセスは、光の単一の高強度パルスを必要とする。この光エネルギーは、金属ナノ粒子によって吸収されて、そこで熱に変換される。この熱エネルギーは、金属ナノ粒子を焼結させて密着した金属導体にし、金属導体の基板への接着を引き起こす。この2つの進行は、光パルスの強度を変更することによって(ランプに加える電圧を変更することによって)、またはパルス幅を変更することによって最大化することができる。その全体のプロセスは、全粒子が焼結されて金属導体となり、その金属導体の底層が基板中に融合して導体内およびその金属導体と基板との間の両方の優れた接着が達成されるように、膜全体を通しての金属ナノ粒子の融合を必要とする。基板が十分に低い融点を有している場合は、金属導体と基板との間の直接的な接着が達成可能である。基板が金属導体に直接接着しない場合、基板と金属導体との間に接着促進剤を用いることができる。光フラッシュの強度およびパルス幅を制御することによって、何らかの基板の物理的性質の変化に繋がる基板への損傷を引き起こすことなく、金属ナノ粒子を焼結して金属導体にすること、および基板に対する接着を達成することができる。図19は、フレキシブル基板上で銅ナノ粒子の光焼結によって形成された銅の抵抗率および接着性の両方に対するエネルギー光フラッシュ電圧およびパルス幅の両方の影響を示す。電圧およびパルス幅の正しい組み合わせを選択することによって、低い抵抗率および高い接着性の両方を達成することができる。0.1から10ミクロンの粒子コーティングの厚さは、0.1から20ジュール/cmの範囲内で最適化されたエネルギーにより光焼結される。光焼結エネルギーに対する抵抗率のプロットは、部分的に焼結された領域と吹き飛ばされた領域との間に生じる最低の抵抗率による放物形を有している。0.1から20ジュール/cmのエネルギー範囲内では、より平坦な放物線が望ましく、金属インクは、この光焼結プロファイルを達成するように配合される。光焼結プロセス中に、フレキシブル基板の表面は凹凸のある状態となり、これが接着を改善する。フレキシブル基板の反りは、表面を加熱することによって最小限にすることができる。図2Aは、光焼結プロセスの前と後の20ナノメートルの銅ナノ粒子を含む膜のX線回折(XRD)を示すグラフである。そのグラフから見て取れるように、光焼結後の膜中のCuOの含量は本質的に除去されており、一方、CuOの含量は大幅には変化していない。これは、低い2θにおけるCuOラインの狭まりによって示されている。しかし、より大きな粒子については、CuOの含量も減少し得る。例えば、図3Aおよび図3Bはそれぞれ、膜を光焼結する前と後とにおける、50ナノメートルの銅粒子を含むインクジェットした金属膜のXRDグラフを示す。光焼結前の50nmの粒子膜中のCuOの形の銅酸化物の存在は28%である。対照的に、光焼結後の膜中のCuOの形の銅酸化物の存在はほぼ7%であり、これは、13:1のCu/CuOの比に相当する。100ナノメートルの銅粒子を含む膜中の相対的なCuO含量は、光焼結後にはさらに小さなものであり、抵抗率のさらなる低下に繋がる。さらに、100ナノメートルの膜は、また、光焼結の前および後においてCuO材料の含量がより低い。
【0104】
CuOは、還元プロセスによって光焼結中に除去され、その中でCuOは、銅およびCuOに変換される。より小さなナノ粒子、例えば、ほぼ20nmの直径を有するナノ粒子を有する膜については、CuOの含量は、光焼結前と基本的に同じで留まる。銅とナノ粒子間の融合プロセス中に、CuO材料は、粒子間の融合点から大部分除去され、融合領域の周辺部に向けて押し出される。加えて、銅粒子間の界面における結晶構造は、光焼結インクの導電性に影響を及ぼす。銅粒子境界における転位の効果的な阻止によって、高い導電性が観測される。CuOおよびCuOの結晶構造の検査により、CuOは一般的には単斜晶系であり、一方、CuOは立方晶系であることが明らかとなっている。したがって、2つの立方晶構造(CuO中のような)の間の境界は、境界が異種の結晶構造(CuO中のような)を含む構造よりも、転位が少ないようである。それ故、抵抗率の低下は、20nmのインクの配合で示されるように、CuOの除去に一部は起因し得る。純粋な酸化第一銅(CuO、純度99%)は、IPAおよびヘキシルアミンと共に溶液を配合するために使用することができる。CuO粉末の大きさは、光学顕微鏡で測定して、数マイクロメートルからほぼ20マイクロメートルまでである。滴下堆積を用いて、ポリイミド上にその溶液をコートして連続膜を形成するが、その膜の厚さは均一ではない。その膜はフラッシュランプに露光される。XRDを用いて、露光領域および非露光領域を調べる。非露光領域は、図2Bに示されるように、はっきりとしたCuOの特徴的なXRDパターンを示す。図2Bにおいて、露光領域は、43.4°および50.5°に強い金属銅ピークを示している。銅酸化物が銅に変換されている(これはXRDによって確かめられている)露光領域は、実際に導電性である。その抵抗率はほぼ3.7×10Ω・cmである。
【0105】
光焼結下におけるいくつかの酸化物の還元は、その酸化物のエネルギーバンドギャップ、その酸化物の生成エンタルピー、および光焼結中に加えられる放射エネルギーに基づいて起こり得る。例えば、CuOおよびCuOのバンドギャップはそれぞれ、1.9eV(188kJ/モル)、2.6eV(257kJ/モル)である。対応するCuOおよびCuOの生成エンタルピーはそれぞれ、157kJ/モル、168kJ/モルである。したがって、ほぼ100nmから400nmまでの波長範囲のUV放射は、CuOを金属銅に還元することができる。光焼結プロセスは、銅ナノ粒子間の界面の酸化を防ぐ。
【0106】
たとえインクジェット可能な銅溶液がほとんど銅酸化物を含まない場合でも、膜を高温にさらすことの結果として前硬化中に膜中に銅酸化物が導入され得る。例えば、空気中で前硬化される20nmの粒子を含む膜は、フォーミングガス中で前硬化される20nm膜よりも一桁高い抵抗率を有し得る。空気中での前硬化中のCuOの生成はより高い抵抗率をもたらす。
【0107】
その上、より小さいナノ粒子を有する膜は、単位長さ当たりより多くの数の融合点を有する。したがって、その融合点は抵抗がゼロではないので、より小さいナノ粒子を有する光焼結膜はより高い抵抗率を有することになる。それ故、100nmの粒子を用いて形成された光焼結膜の抵抗率は、50nmの粒子を用いて形成された光焼結膜のものよりも低く、50nmの粒子を用いて形成された光焼結膜は、順に、20nmの粒子を用いて形成された光焼結膜よりも低い抵抗率を有する。ナノ粒子に起因する膜の粒状性は光焼結後においてさえも見ることができる。図27は、光焼結中に形成された融合点の形成が膜中の粒状性をもたらすことを示している。金属ナノ粒子のコーティングによる導電性金属膜の生成は、個々のナノ粒子間の多数の接続の発生を要する。その上、導体が純粋な金属状態のそれに近づく場合、融合は、金属ナノ粒子間で生じるだけではなく、個々のナノ粒子自体全体にわたっても生じる必要がある。このプロセス全体の結果は、金属ナノ粒子粉末の密度からバルク金属の密度に近づく密度の上昇である。これは収縮をもたらすであろう。光焼結プロセスは非常に高速なものなので、金属ナノ粒子の配列からバルク金属への完全な変換が起こる可能性は低い。結果として、全ての粒子が、その周囲全体に、またはその体積全体にわたって、融合点を有することはないであろう。かくして、その光焼結した導体は、滑らかな金属表面の形態を有しているというよりはむしろ、依然として幾分かの元の金属ナノ粒子の形状プロファイルを保持していよう。
【0108】
光焼結プロセスと関連するさらなる因子も、インクジェットされた銅膜の抵抗率に影響を及ぼす。例えば、最初に堆積される銅膜の厚さが増加すると、より多くの入射光エネルギーが、より薄い膜と同じ抵抗率を得るために必要となる。層が厚過ぎる場合、光は金属粒子膜を完全には透過しない。したがって、その層は完全には光焼結しない。不完全な光焼結プロセスは、抵抗率が高く基板の接着の劣る膜をもたらす。焼結前の堆積させたナノ粒子インクの典型的な厚さは、0.5から10ミクロンの範囲内である。
【0109】
光焼結プロセスに用いられる最適なエネルギー量に影響を及ぼす変動要素が多数存在する。例えば、インクジェット可能な銅インクは、その配合が、液体混合物の化学組成、およびその液体混合物に添加される銅ナノ粒子の百分率であるさまざまな配合を有し得る。使用される配合および基板によって、最低の抵抗率が、様々な光焼結フラックス強度−つまり出力−において得られる。図4は、カプトン(Kapton)(登録商標)基板上の多様なインク配合物に対する抵抗率対電圧(光焼結ランプに加えられる)を示す。この光フラックス強度の変化は、一部にはインク配合およびナノ粒子の大きさによって起こり、それは粒子の融合プロセスに影響し、特定のインクでは、他のインクよりも融合を誘発させるためにより強い入射光フラックス強度を要するようになる。その上、加えられるエネルギーによっては、銅粒子のアブレーションおよび基板の損傷が生じ得る。これらの変動を考慮すると、最適な光焼結光フラックス強度は、図4に示されている放物線の下部に対応して決定することができる。インク層の厚さが増大すると、アブレーション効果はより小さくなる。結果として、特定のインク配合物に対して最低の抵抗率を得るために、より広い範囲のフラックス強度を光焼結ランプによって提供することができる(図5を参照)。場合によって、入射光フラックス強度が高過ぎるか、またはナノ粒子膜が薄過ぎると、不連続点も光焼結膜に生じて、膜中の抵抗の増大をもたらし得る。
【0110】
光焼結に用いられるランプからの光フラックス強度およびエネルギースペクトルは、インク堆積面積に基づいて、さらに最適化することができる。例えば、十分に明確で局在化されているトレースとして堆積されたインクは、基板のより大きな領域にわたって堆積されたインクよりも必要とされる光強度は小さいものであり得る。したがって、小さい模様を光焼結させるために必要な光強度は、銅インクの全体膜に対するより小さい光強度でよい。
【0111】
一般的には、UV放射(約380nm未満)として放出される出力は、キセノンランプから放出される全出力のほぼ6%である。例えば、図6は、NovaCentrix(登録商標)フラッシュランプから放出されたスペクトル放射強度対波長を示す。キセノンランプの代替物としては、エキシマUVランプおよび真空UVランプ、または崩壊性エキシマコンプレックスを含むレーザーが挙げられる。エキシマレーザーは一般的には、不活性ガス(アルゴン、クリプトンまたはキセノン)および反応性ガス(フッ素または塩素)の組み合わせを用いる。電気的刺激の適切な条件下では、ダイマーと呼ばれる擬分子が生成され、それは、通電状態においてのみ存在することができ、紫外領域のレーザー光を生じさせることができる。エキシマの利用はいくつかの利点を提供する。例えば、いくつかの場合において、崩壊性エキシマコンプレックスは、銅酸化物を同時に融合および光還元する光硬化ランプに適している。いくつかの例では、エキシマランプは、さまざまなUV波長において、高強度の狭周波数帯域放射を発する。多くの場合、エキシマ形成性ガス混合物は単一の支配的な狭い発光帯を示す。さらに、エキシマは、電子の運動エネルギーをUV放射に変換する効率的なエネルギーコンバーターであり、エキシマは一般的には自己吸収を示さない。エキシマシステムは、飽和効果が始まる前に極めて高い出力密度でポンピングされて、自然放出を制限することができる。したがって、非常に明るいUVおよび真空UV源を、光エネルギーを金属粒子膜中に吸収するために最適化されたスペクトル出力で構築することができる。
【0112】
いくつかの場合において、特に、インクの粘度、表面エネルギー、光熱容量、およびエネルギー吸収度を調整するために、添加剤をインク配合に含めることができる。より低い粘度および表面張力を有するインクは基板表面に急速かつ容易に拡散する傾向があり、一方、高い粘度および表面張力は、液体の拡散のより大きい制御を可能にすることができる。インクの粘度および表面張力を変える添加剤の一例はエチレングリコールである。インクジェット可能な銅インクの粘度は20センチポアズ未満で、好ましくは8から20センチポアズの間であるべきである。表面張力は60ダイン/cm未満で、好ましくは20から60ダイン/cmの間であるべきである。
【0113】
いくつかの例において、堆積させたインクの抵抗率は、添加剤の量の関数として変化する。例えば、エチレングリコールが添加剤として使用される場合、インクの抵抗率は、エチレングリコールの量が増加すると共に上昇する。好ましくは、インク配合中に存在するエチレングリコールの量は10%未満であるべきである。
【0114】
いくつかの実施において、インク中の導電性粒子は、インクノズルに適合するには大き過ぎる寸法に凝集する。より小さな粒径を維持するため、大きな凝塊を機械的手段で粉砕することができる。例えば、ボールミル法を用いて、大きな粒子凝塊の寸法を減じることができる。図7に示されるように、マイクロ流体化またはボールミル法は、光焼結されたさまざまなインク配合物に対して、抵抗率を低下させることができる(これは、マイクロ流体化されたB1−100B4インクについて示されている)。
【0115】
フレキシブル電子機器を製造するために、ナノ粒子インクをポリイミドやポリエチレン等のフレキシブル基板上に堆積させる。インクジェット堆積に適したポリイミド基板の一例はデュポン社のカプトン(登録商標)材料である。光焼結の後で、カプトン(登録商標)およびその他のポリイミド基板は銅に対して接着性を提供しない。場合によって、そのポリイミド表面は、基板を損傷することなく、光焼結プロセス中に特定の質感となる。加えて、ポリイミドは一般的に、光焼結中に基板に対するインクの接着性の増大を示す。
【0116】
いくつかの実施において、フレキシブル基板は光焼結の後に反りが生じ得る。この反りは、光焼結プロセス中の銅とフレキシブル基板との間の熱的性質の不整合の結果である。反り作用は、フレキシブル基板の厚さを増すこと、銅層の厚さを修正すること、または、基板の裏側に補填層を印刷および硬化することによって、補填または低減することができる。さらに、反り作用は、基板表面に1つまたは複数の連続した大面積膜を堆積させる代わりに、光焼結の前に基板上に銅トレースを形成することによって低減可能である。反り作用は、光焼結プロセス中に基板を温めることによってさらに低減可能である。
【0117】
図8Aを参照すると、ナノ粒子銅膜を同時にまたはほぼ同時にインクジェットおよび光焼結するための装置800が示されている。本装置は、基板804の表面上に銅インク801を分配するためのインクジェットディスペンサ802を含む。本装置800は、また、そのインクジェットディスペンサ802によって堆積させたインク膜803を硬化させるための光源806も含む。光源はレーザー光源(パルスまたは連続)、パルスランプ、または集束ビームであり得る。いくつかの実施において、ディスペンサ802は、所定の経路に沿って基板上を自動的に通過するように配置されている。さらに、ディスペンサ802は基板804の上の複数の所定の位置および時間において銅インクを分配するように配置可能である。光源806はインクジェットディスペンサ802に取り付けることができ、または、ディスペンサ802とは別に基板800上を移動するように配置することが可能である。光源806は、ディスペンサ802によってインクジェットされた膜が堆積された後にそのインクジェットされた膜を直ちに光焼結するように配置可能である。別法では、光源806は、光焼結の前にインクを乾燥させるために、膜の堆積に引き続いて、所定の回数膜を光焼結させるように配置可能である。光源806およびディスペンサ802の移動は、コンピュータシステム/制御装置の配置808によって制御可能である。ユーザーは、制御装置が所定の経路にわたってディスペンサ802および光源806を自動的に並進移動させるようにコンピュータ808をプログラム化することができる。いくつかの実施においては、光源806およびディスペンサ802は固定されていて、基板が、コンピュータ/制御装置808によって制御される移動可能なプラットフォーム上に配置されている。
【0118】
光焼結プロセスのフローチャートが図8Bに示されている。金属インク溶液が混合され(810)、その後、ディスペンサ802を用いて基板804上に印刷または分配される(812)。膜の堆積は、明確なパターンが形成されるように厳しく制御される。その後、膜を乾燥させて、水または溶媒を除去する(814)。
【0119】
場合によって、熱硬化段階は、膜の分配後であって、光焼結段階の前に、導入してもよい。基板および堆積膜は、オーブンを用いるか、またはホットプレート等のヒーターの表面上に基板を置くことによって、硬化させることができる。例えば、いくつかの実施において、膜は、光焼結の前に空気中100℃で30分間前硬化させる。別法では、その熱硬化は、膜表面にレーザーを向けることによって実施可能である。乾燥および/または熱硬化段階に引き続いて、光源806からのレーザービームまたは集束光が、直接記録として知られる方法で、膜表面に向けられる(816)。その光は膜が低い抵抗率を有するようにそれを光焼結させる役割を果たす。一般に、金属膜は、印刷/分配段階および乾燥段階の後は絶縁性である。しかし、光焼結プロセス後、その絶縁性膜は、導電性膜809になる(図8Aを参照)。
【0120】
いくつかの実施において、ディスペンサ802は、ブランケット膜またはパターンのおおまかなアウトラインを堆積させるために用いられる。一般的には、複数の印刷技法では、約10〜50ミクロン以上の模様の大きさがもたらされ得る。より微細な模様が必要な場合、パターン/ブランケット膜を、光の集束ビームまたはレーザーを用いて微細化または縮小させることができ、この場合、その模様は、レーザーのスポットサイズまたは光ビームの焦点によって範囲が画定される。一般的には、光は1ミクロン以下に集束可能である。したがって、サブミクロンの模様が可能である。究極的には、模様の大きさは導電性膜に用いられるナノ粒子の大きさによって制限される。金属粒子は、約1〜5nmの模様を有するように形成することができる。
【0121】
図9Aは、おおまかなパターンのアウトライン805のナノ粒子膜を印刷し、次いで、光焼結を用いてそのパターン805を微細化する一例を示している。パターン805の金属ラインが、標準的な印刷技法を用いてナノ粒子インク溶液を基板804上に印刷することによって、まず形成される。そのインクを次に乾燥させる。図9Aにおけるラインの幅はほぼ50ミクロンである。上面図および側面図の両方が図9Aに示されている。その印刷ライン805は、次に、レーザービームまたはその他の集束光源806により少なくとも部分的に光焼結される。露光時間は約500ms以下であり得る。光焼結された領域は、クロスハッチされた領域として描かれている。ミラー807および他の光学素子ならびに移動可能なテーブルおよび光学素子が、光源806が基板804を走査して特定の画像を形成することを可能にしている。
【0122】
図9Aの光焼結プロセスのフローチャートが図9Bに示されている。金属インク溶液を混合して(910)、その後、ディスペンサ802を用いて、ブランケット膜またはパターンのおおまかなアウトラインとしてパターン化せずに印刷または分配する(912)。その膜は次いで乾燥させて水または溶媒を除去する(914)。乾燥および/または熱硬化段階に続いて、光源806からのレーザービームまたは集束光を膜の表面に向ける(916)。レーザーまたは集束ビームに露光されない金属膜は一般に、基板804に緩く結合しており、基板を洗浄することによって除去することができる(918)。場合によって、その光焼結されていない膜は、膜表面に粘着テープを貼ってそのテープを剥がすことによって除去することができる。そのプロセスにおいて使用されない余剰インクまたは金属粉末はリサイクルしてもとに戻してさらにインクを作製することができる。別法では、非硬化領域が絶縁性であるならば、その膜の非硬化部分を基板上に残すことができる。
【0123】
堆積膜をレーザー806で光焼結することによって、輪郭の明確な銅トレースが、低エネルギーを用いながらも、基板表面上に空気中で形成することができる。その上、レーザー光焼結は、上にインク膜を有していない基板領域に対する損傷を減じる。場合によって、その光焼結は、レーザーの代わりに光の集束ビームを用いて達成される。直接記録の手法は、用いられるそれぞれのその後の基板に対してパターンを変更することを可能にする。さらに、そのパターン化段階がプロセスの終了近くであれば、基板は、製作して、レーザー焼結の前は、それらが後で必要となるまで印刷されたサンプルを保持するベッド上に保持することができる。
【0124】
光焼結プロセスは、レーザー、光の集束ビームまたはフラッシュランプのいずれを用いても、大気雰囲気中で行うことができる。不活性ガス雰囲気も用いることができる。さらに、反応性ガス雰囲気も用いることができる。反応性ガス雰囲気は、光焼結プロセス段階の前および/または後に化学反応を生じさせる1つまたは複数の元素を含有するガスである。
【0125】
レーザービームの小さなスポットサイズに起因して、大きな面積にわたるレーザー光焼結は時間のかかるプロセスであり、製造における低い処理能力をもたらし得る。対照的に、短パルスランプは、ナノ粒子膜で覆われた大きなサンプルを素早く光焼結させるために使用することができる。所望のパターンが、ハードマスクを用いてサンプルに転写される。25ミクロン未満の模様の大きさを有する微細パターンを、半導体産業のリソグラフィー法において用いられるものと同様のマスクを用いて得ることができる。そのマスクとしては、透明基板(例えば石英やガラス)、ならびにクロムまたはその他の金属等の薄いマスク用膜が挙げられる。マスク用膜を含むマスクの領域は、光がサンプルに到達することを防止し、一方、マスク用膜を含まないマスクの領域は、インク膜を光が通過して光焼結させることを可能にする。
【0126】
ハードマスクを利用する光焼結プロセスの一例が図10A〜図10Dに示されている。銅ナノ粒子インク膜1000が、最初に基板1002上に堆積される。マスク1004が、次に、膜1000および基板1002の上方に配置される。マスク1004は、透明プレート1005およびそのプレート上に形成された金属パターン1006を含むことができる。インク膜1000は、次に、マスク1004を通して光源に露光することによって、選択的に光焼結される。その光源(図示せず)は、500ms未満のパルス幅、好ましくは350ms未満のパルス幅を有する2J/cmのエネルギー密度を提供するパルスランプであり得る。その他の光源を、同様に使用することができる。その光焼結は、周囲の温度および大気圧における空気中で、または水素を生じるガスまたは窒素等のガスを含めた不活性ガス雰囲気中で起こり得る。露光後、導電性膜1008および非導電性膜1010の層が基板1002上に留まる(図10Cを参照)。非導電性膜1010は、その後除去する(図10Dを参照)。
【0127】
一般に、ナノ粒子インク膜は、前側(すなわち、インクが堆積されている側)からその膜を光にさらすことによって光焼結させることができる。このやり方で、光は、基板を通過する必要なく、インクに直接当たる。この手法には、特に基板が使用される光に対して吸収性である場合に多くの利点がある。また、基板を通して堆積させたナノ粒子膜を露光してインクを光焼結させることが有利である場合もある。例えば、カプトン(登録商標)基板上の銅ナノ粒子インク膜の場合、基板の裏側からインクを露光することにより、ナノ粒子膜と基板との間の接着性を改善することができ、何故なら、殆どの光を吸収して最高温度に達する銅の層はカプトン(登録商標)基板の表面付近にあるためである。これは、露光がナノ粒子膜と基板との間の界面層に到達しないような厚い膜で特に有利である。界面層が硬化されない場合、その接着は非常に劣る。
【0128】
フレキシブルディスプレイ、スマートパッケージングおよび低コスト電子タグにおける応用に対して、ポリイミド、ポリエチレン等のフレキシブル基板上に導体を適用することにますます関心が持たれている。導電性パターンを生じさせる主な方法は、100μmを越える模様に対してはスクリーン印刷であり、100μm未満の模様に対しては薄膜およびエッチング法である。導体のインクジェット印刷は、輪郭の明確な模様を形成するための有望な手法である。しかし、50μm未満の微細パターンを得ることはインクジェット印刷では非常に困難であり、コストがかかる。インクジェット印刷が可能な導電性インクは、有機基板上への堆積を可能にする低い処理温度を必要とする。後続の熱処理が、所望の導電性を得るために通常必要となる。銅については、銅を熱処理する際の銅の酸化を防止するために、不活性雰囲気が必ず必要となる。後硬化の温度が高いほど、達成される導電性が良くなる。これは、熱的に安定な基板のみが使用可能であることを意味する。印刷された金属粒子の性能も、導電性、接着性および均一性に関して、基板により顕著に変動する。インクジェットは元来、低粘度の技術であり、金属ナノ粒子インク中の金属の体積での含量はそれ故低い。これは、必要な金属含有量を堆積させるのに多重パスが必要であり得るために、事実上インライン印刷の速度を制限する。結局、ナノ粒子手法は、今日においては主に銀に限定されており、それは他の金属はより高い温度および/または不活性雰囲気を必要とするからである。このような物質のコストは、大量生産の用途に対しては相対的に高い。したがって、銅のようなはるかに安い金属が、コスト効率のよい大量生産が必要である多くの用途に対して可能性を有する。
【0129】
適切な波長のパルスレーザーおよび短パルスランプを含めた急速光硬化が、金属インクを硬化させるのに用いられてきた。レーザー直接記録技法を用いて、金属膜をパターン化することができる。しかし、レーザービームの小さな面積のために、ハードマスクを直接用いることによって、大面積にわたって輪郭が明確なパターンを生じさせることは可能ではない。他方、レーザー直接記録法では、高い処理能力の製造を達成することは非常に難しい。しかし、短パルスランプは、比較的大面積にわたって金属膜を硬化させることができるだけでなく、半導体産業のリソグラフィー法用に広く用いられているようなハードマスクを用いることによって金属膜をパターン化することもできる。しかし、ランプを用いることによる通常のリソグラフィー法は、単に、フォトレジストを露光することによって所望のパターンを生じさせるだけのものである。
【0130】
本明細書では、高エネルギーで短パルスの光ランプまたはレーザーを用いて低温で金属インクを硬化させ、同時に、ハードマスクで金属インクをパターン化する。この方法は、半導体産業のリソグラフィー法において用いられているマスクを用いることによって、50μm未満の超微細パターンを提供する可能性を有する。最も重要なのは、低コストの銅インクを空気中で硬化およびパターン化させて、さまざまな用途のための導電性パターン、例えば、RFID(Radio−frequency identification)アンテナ等、を生じさせることができることである。
【0131】
低コストの銅インク等の金属インクは、ポリマーまたは紙基板上に堆積可能である。スプレー、ドローダウン、スピンキャスティング、およびその他の印刷方法を用いて、該金属インクを堆積させることができる。空気中での前硬化の後、未だ絶縁性である銅膜は、急速光硬化の準備が出来ている状態にある。図23に示されるようなRFIDアンテナ等の所望のパターンを有するマスクを用いて、設計どおりのパターンを得ることができる。
【0132】
ハードマスクによって画定される非硬化領域は、通常は、基板に対して非常に劣る接着性および絶縁性(>2×10Ω)を有しており、硬化領域に、非常に良好な接着性および高い導電性を残す。非硬化領域上の金属は、溶媒または水によって容易に洗い流すことができ、新たな金属インクを作製するために収集およびリサイクルすることができる。非硬化領域は絶縁性であるために、これらの金属粒子は、パターン化された導電性パターンに対して影響を与えず、よって、基板上にそれらを残留させることもできる。
【実施例5】
【0133】
ポリイミド基板上の銅インクの硬化
銅インクは、低コストの堆積技法、例えば、スプレー、ドローダウン、スピンキャスティング等、のために配合される。その銅インクは、銅ナノ粒子、ビヒクル、分散剤を含む。ビヒクルは、イソプロピルアルコール(IPA)、トルエン、ブチルベンゼンまたは水等であり得る。アミン(例えばヘキシルアミン)が、銅ナノ粒子用の分散剤として使用される。銅ナノ粒子の大きさは、2nmから200nmまでの範囲である。銅の添加濃度は10%から50%までであり得る。分散剤の添加濃度はインク中に1%から30%までであり得る。該銅インクは、ドローダウン法を用いて、ポリイミド基板上に堆積される。硬化前の銅膜の厚さは1μmから10μmまでであり得る。その銅膜は、光硬化の前に、空気中100℃で30分間前硬化される。前硬化された膜は絶縁性であり、抵抗率は2×10Ωを超える。
【0134】
溶融シリカまたは石英上にデザインされるパターンは、半導体産業においてリソグラフィー法用のマスクを作るために採用されているものと類似した方法によって作製することができる。100nmを超える厚さのクロム等の金属膜を、近赤外から紫外までの波長の光に対して透明である基板上に堆積させることができる。その透明基板の厚さは、そのパターンに対するその解像度がどれだけ高いかに応じて、0.2mmまたはそれを上回る程度の薄さであり得る。デザインされたパターンは、リソグラフィーツールおよびエッチングを用いることによって製作することができる。
【0135】
図10A〜Dに示されるように、銅インクを硬化させるためには、高出力キセノンランプを採用し、最大350ミリ秒のパルス幅で最大2J/cmのエネルギー密度を与える光学システムが用いられる。その光硬化は、空気中室温で行うことができる。その硬化法は、必要に応じて、低温および不活性雰囲気中で行うこともできる。光硬化後のその銅膜からは、略10−5オーム・cmから3×10−6オーム・cmの範囲の抵抗率を得ることができる。膜の不揮発性成分は全体量の10%未満を構成する。堆積および露光段階の繰り返しによって、多層の導電性膜が形成される。硬化膜中の銅酸化物の濃度は30%を超えない。図23に記載されているRFIDアンテナ導電性パターンを、銅インクから形成することができる。
【実施例6】
【0136】
標準的なフォトマスクを用いるポリイミド基板上の銅インクの硬化
図24Aは、半導体産業において用いられる石英プレート上に作製した標準的なフォトマスクを示す。暗色領域は、高エネルギー光を通過させることのできる開口部であり、残りの領域は、受け取った高エネルギー光を反射および吸収する金属膜がコートされている。フォトマスクの開口部を通って受け取られた高エネルギー光は、基板上の銅インクを選択的に焼結させ、銅インクの他の領域は高エネルギー光に露光されないままに残す。銅インクの露光領域は、融合してポリイミド基板に接着し、非露光領域は基板に対する接着性が非常に弱い。図24Bは、銅インクの非露光領域を、水または他の溶媒で洗い流すことによって、あるいは単純にテープによって除去された後に、フォトマスクに対応する正確にパターン化された銅膜が得られ、その使用されたフォトマスクによって画定された銅トレースと同じ解像度が得られることを示している。これは、銅パターンの解像度がフォトマスクの解像度に依存することを実証している。
【0137】
銅トレースのマイクロメートルまたはサブマイクロメートルの解像度が、高解像度フォトマスクを用いることによって、達成可能である。
【実施例7】
【0138】
標準的な光マスクを用いた、ポリイミド基板上の銅インクの硬化
図25Aは、カプトン膜から作られたシャドーマスクを示す。白色領域はカプトン基板の開口部であり、高エネルギー光を通過させる。そのカプトン膜は、いくらかのUV光、可視光および赤外光を吸収し、そのためその通過光はナノ粒子を焼結させるのに十分なエネルギーを有さず、一方で、開口部を通過する高エネルギー光は、ナノ粒子を焼結させるのに十分なエネルギーを有する。図25Bは、非焼結領域を水または溶媒で洗い流すかまたはテープによって除去した後に、カプトンシャドーマスクに対応するパターン化された銅膜が得られることを示している。
【0139】
ナノ粒子インクの配合物は、1つまたは複数のビヒクル(例えば溶媒)を含むことができ、その中にナノ粒子が保存される。これらには、とりわけ、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、トルエン、ブチルベンゼン、および水等が挙げられる。該インク配合物は、また、ビヒクル中のナノ粒子の分散を高める分散剤を含むこともできる。分散剤の一例はアミン(例えばヘキシルアミン)である。ナノ粒子の大きさは直径2nmから1000nmまでの範囲であり得る。溶媒中のナノ粒子の濃度は、10%から50%までの範囲であり得る。分散剤の濃度は、1%から30%までの範囲であり得る。
【0140】
前述のように、銅酸化物の存在は、ナノ粒子膜の抵抗率を上昇させる傾向がある。銅酸化物を除去またはその量を減少する方法は多数存在する。これらの技術は、一般的には、インク溶液を配合する前にナノ粒子から酸化物を除去することを伴う。例えば、銅酸化物は、銅ナノ粒子にアスコルビン酸またはエチレンジアミンの溶液を適用することによって除去可能である。アスコルビン酸またはエチレンジアミン溶液は銅酸化物を銅に還元する。酸化物が除去されたら、ナノ粒子をインク溶媒に加えることができる。そのナノ粒子は、そのナノ粒子上に酸化物が再形成されることを防止するため、フォーミングガス、窒素またはアルゴン等の不活性雰囲気内で加えることができる。場合によって、そのナノ粒子は、熱硬化または光焼結プロセス中の酸化物形成を回避するため、カプセル化することができる。そのようなカプセル化材料は、Salvona Technologies社から入手可能な固体ナノスフィアから成る物質、NanoSal(登録商標)である。場合によって、そのインク配合物は、インサイチュでナノ粒子から酸化物を除去する物質を含むことができる。そのような化合物はグリオキシル酸である。
【0141】
いくつかの実施において、該酸化物は、インク配合物中に組み込まれる溶液を用いて除去することができる。例えば、いくつかのインク配合物は、銅酸化物を除去するためにグリオキシル酸を含むことができる。銅ナノ粒子が、そのナノ粒子上に存在する銅酸化物の少なくとも一部を除去するグリオキシル酸に最初に加えられる。そのナノ粒子−酸の溶液が、その後、水および/またはIPAを含む溶液に加えられてインク配合物が与えられる。残留している銅酸化物は、インク配合物の超音波処理を用いてさらに除去することができる。その溶液は、その後、基板上に滴下堆積または印刷されて、乾燥される。
【0142】
下のTable 8(表8)は、空気中で乾燥させたグリオキシル酸処理ナノ粒子膜についてと、60℃のオーブンで1時間にわたって乾燥させた他のグリオキシル酸処理膜についての銅酸化物含量の減少を示しているXRDデータを示す。Table 8(表8)は、また、グリオキシル酸で処理されていないナノ粒子膜についてのデータも含む。そのインク配合物には、20〜40nmの銅ナノ粒子が含まれていた。そのグリオキシル酸溶液は、1グラムの銅、4ミリリットルの水および0.1グラムのグリオキシル酸を含んでいた。Table 8(表8)から見て取れるように、XRDピークの高さおよび面積におけるCuO対銅の相対比は、60℃で1時間にわたってオーブン乾燥させたグリオキシル酸処理膜について低い。
【0143】
【表8】

【0144】
パルス化レーザービームを用いる微細加工は、100nmに近い解像度で2次元または3次元(2Dまたは3D)マイクロ構造体を形成できる能力によって、かなりの注目を集めている(非特許文献1及び非特許文献2)。しかし、フォトポリマー製の2Dまたは3Dマイクロ構造体は、非導電性であるので、それらのマイクロエレクトロニクス装置およびMEMS(微小電気機械システム、Micro−electromechanical system)における使用は制限されている。この制限を克服するため、いくつかのグループが、二光子法を採用した金属マイクロ構造体の3D直接記録を研究した(非特許文献3)。これらの方法は、銀や金等の金属イオンの光還元に基づいている。他のグループは、金属マイクロ構造体を作製するために金属イオンを含有するポリマー膜を用いている(非特許文献4)。これらの方法は、製造後に残留しているポリマーマトリクスまたは残留物のために、高度に導電性の導体を生成することができない。銅は広範囲に利用されている電子部品用材料であり、それは銀や金よりもはるかに安価である。より優れた性能を得るために、半導体装置の密度が増大し、回路素子の大きさがより小さくなると、バックエンドオブライン(BEOL)における抵抗容量(RC)遅延時間(resistance capacitance (RC) delay time)が増大し、回路性能を支配する。銅の相互接続は、従来のアルミニウムの相互接続と比較してその低い抵抗のために、シリコン集積回路に適合されている。銅は、また、銀等の他の金属が有さない高いエレクトロマイグレーション耐性を有しており、半導体産業における相互接続としてそれを最良の選択にしている。
【0145】
電気メッキ銅、化学エッチング銅、物理および化学気相堆積銅が、電子産業において最も広範に用いられている。設計された銅トレースを生成するために、フォトリソグラフィー処理が、通常は、必要である。レーザーで誘起される銅の堆積は、導電性トラックおよび回路の高速製作および修復のための有望な技法として知られている。導電性の銅マイクロ構造体の高い処理能力でかつ低コストの製造を可能にするレーザー直接記録技法の利点は、以下のとおりである:
1)高導電性マイクロ構造体の直接記録は、何らのフォトリソグラフィー処理も必要としない。残留する未処理物質は容易に取り除くことができる。
2)電気メッキ銅に対して広範に用いられているシード層を必要としない。
3)この付加的なマイクロリソグラフィー技法は安価であり(フォトリソグラフィーを必要としない)、高い処理能力である。マイクロおよびサブマイクロ構造体を、大気中で高速位置決めシステムおよび走査性レーザービームを用いることによって、予定位置に直接作ることができる。
4)導電性3Dマイクロ構造体は、何らのフォトリソグラフィー処理も用いずに、層毎の処理で構築可能である。
【0146】
マスクを用いるレーザー記録または光焼結においては、対象の装置の要求に応じて、多様なインク前駆体の化学的性質が選択される(非特許文献5)。銅ナノインクは、短い高強度の光パルスのマイクロ秒のパルス持続時間を有する光焼結システムを用いて、優れた接着性でプラスチック基板に対して焼結される。鏡のように滑らかな表面、非常に低い有機残留物の量、優れた接着性、および低い抵抗率(バルク銅に近い)を備えた銅膜が、空気中室温でこのマイクロ秒パルスランプを用いて、フレキシブル基板上に得られる。この方法は、単一のパルスで大面積にわたって銅ナノインクを焼結させて、低解像度の銅トレースを生成することができ、それは、フレキシブル基板上のロールツーロールのコスト効率的な製造に適している。しかし、この相対的に長いパルスでは、優れた接着力、およびシリコン基板上の銅ナノ粒子を光焼結させるのに十分なパルスエネルギーを達成することが非常に難しい。その理由は、シリコンのような無機基板ははるかに高い熱伝導率および融点を有することである。長パルスの光では、基板および周辺に移ってしまう高密度光子からの変換熱の割合が、短いパルスレーザーを用いた場合よりもはるかに高い。超短波レーザーシステムでは、銅ナノ粒子の完全な焼結を達成することができ、シリコン上への優れた接着を得ることができる。さらに、超短波パルスレーザーは、その焼結法の非常に短い持続時間のために、再酸化なしでの、銅酸化物の金属銅へのより効率的な光還元を示すこともできる。ナノ秒レーザーおよびさらにフェムト秒レーザーは、ナノ粒子の焼結に対してはるかに高い温度をもたらし、微細模様の銅トレースを再酸化および生成する可能性は少ない。
【0147】
TSVチップ接続と関連する技術としては、TSV形成、絶縁体/バリア/シード堆積、ビア銅充填法、表面銅除去、ウェーハ薄化、検査、試験等が含まれる。特に、プロセスのロバスト性および銅堆積の速度が、STVチップの集積化を実現するのに最も重要な技術に入る。現時点では、電気メッキ銅が、ビアを充填する主要な選択肢である。ビアを充填する方法には、一般に、3つのタイプ、すなわち、ビアの側壁に沿ったライニング、ビア内部の完全充填、およびビア上方のスタッド形成による完全充填が存在する(非特許文献6)。ビアが製造プロセス中のどの時点で形成されるかによって、多様なスルーシリコンビア(TSV)集積化スキームを分類することができる。通常、ビアまたはホールは、強反応性イオン腐食法を用いて、シリコンを腐食してその中に作製する。このホールは、その後、CVD技法によって堆積させた誘電性スリーブでライニングする。その後、拡散バリアおよび銅シード層を物理蒸着法(PVD)によって堆積させ、そのホールを電気メッキ銅により充填する。ビアを充填するために銅の電気メッキを用いることについてはいくつかの主要な以下の欠点がある:
1)電気メッキ法では、高アスペクト比でビアを充填するのに時間がかかり得る。
2)銅の電気メッキ用のバリア/シード層を堆積するためPVD設備を、高アスペクト比のビアの一様なコーティングを有するように開発しなければならない。
3)ビアを充填するため、化学薬品および添加剤を改良する必要がある。化学添加剤の消費量も重要である。
4)銅トレースを作製するのに、フォトリソグラフィー処理が必要である。
10〜40μm、50〜100μmの深さ、20〜50μmの間隔の範囲でビア開口部を充填することが、半導体産業によって現在追求されている。より小さな模様もまた必要であり得る。現状では、TSV技術での主な挑戦は、これを如何にして高い生産性でコスト効率的に作製し、ボイド無しにビアを充填し、良好な電気的結果を獲得するかということである。
【0148】
低粘度の銅ナノインクを用いることによって、ビアを、インクジェット印刷または浸漬堆積によって充填することができる。空気中100℃でのプレ硬化後、ナノ粒子は、次に、マスクを用いた高エネルギーフラッシュランプまたはパルス化レーザービームによって焼結される。走査システムおよび多層堆積によって、レーザー焼結または光焼結した銅の3D微細構造を空気中室温で作製してビアを充填することができる。そのビア中への堆積にシード層は必要ない。この方法は単純で高速であり、基板上の所望の位置に材料を堆積させるのみで高価な物質の使用を節約し、一方、従来の方法のリソグラフィーは、基板全体に対して金属コーティングを塗布し、化学的エッチングによって不要の層を除去するので、非常に有毒な廃棄物が生じる。したがって、このレーザーで誘起された導電性微細構造化は、電子産業に対して、費用効率的で高い処理能力の技術を提供する。
【0149】
図22は、ビア内に銅ナノインクを充填し、高速位置決めおよび集束レーザーの走査によって銅ナノ粒子を焼結させ、高い処理能力で低コストの2Dまたは3D導電性微細構造物の製造を提供するプロセスを示す。段階(a)では、インクジェットまたは浸漬堆積を用いて、ビア内に銅ナノインクを充填することができる。段階(b)では、インク中の溶媒を乾燥して除去する。段階(c)では、マスクを用いることによって、高速位置決めと、レーザービームの走査または高エネルギー光フラッシュとを組み合わせて、銅インクを非常に短時間で焼結させて、基板に接着させる。未焼結銅インクは、接着性が優れないために、容易に除去することができる。
【0150】
1つの単一チップ内には何百万もの相互接続用の銅のマイクロトレースが存在しており、それはレーザー直接記録で作製するには非常に時間がかかる。現状では、「ダマシン電気メッキ銅」が、当該分野において主流である。チップ間のTSVの数は非常に限られている。したがって、3Dパッケージングに対するナノ粒子のレーザー焼結は、市販の高速高精度位置決め装置をいったん組み合わせれば、高い処理能力と低コストの製造の要求を満たす適切な技法となる。いくつかの実施において、該ナノ粒子インク配合物は、平坦な基板上の導電性パターン以外の装置を形成するために使用することができる。例えば、該ナノ粒子インク配合物は、金属をコートした繊維を提供するために使用することができる。金属をコートした繊維、例えば、ニッケルおよび銅をコートした繊維等は、一般的には、炭素複合材または金属複合材産業において用いられて高強度で導電性の材料を提供する。しかし、電着によって金属をコートした繊維を形成するためには、一般に、繊維が導電性であることが必要となる。炭素繊維はある程度導電性であり得るが、他の繊維、例えば、ナイロン、カプトン(登録商標)、ケブラー(登録商標)およびその他のポリマー系材料等は、非導電性である。したがって、これらの繊維上に電着を実施することは困難である。
【0151】
導電性繊維および非導電性繊維の両方に金属をコートするために、ニッケル、クロム、銅および/または他の金属ナノ粒子を含むナノ粒子のインク配合物中に、それら繊維を浸漬させることができる。インクを乾燥させて溶媒を除去した後、光焼結のために、繊維を光源にさらすことができる。インク配合物によって、光パワーは変化する。上で説明したように、金属ナノ粒子は、光焼結段階中に融合して、繊維に接着する高度に導電性の金属コーティングを提供する。場合によっては、そのプロセスは、図11の例に示されるようなバッチ法において、プロセスを完了させることができる。
【0152】
図11は、金属インクおよび光焼結を用いて繊維をコーティングするロールツーロール法を説明している。繊維1100はスプール1102から分配されて、次いで、インクバス1104に入れられる。スプレー等の他の方法を用いて、繊維にインクをコートすることもできる。さらに、繊維の全体に満たない周囲をコートする方法を用いることができる。コートされた繊維1106は、その後、インクから水および/または溶媒を除去するために乾燥器1108を通過させる。乾燥したインクがコートされている繊維1110は、次に、光焼結ステーション1112を通過する。そのステーション1112は、インクがコートされた繊維を短時間露光するために活性化されている一連のフラッシュランプを含むことができる。ランプ活性化のタイミングは、一度を超えて露光される繊維部分がないように整えることができる。さらに、ステーション1112は、繊維1110の全体に満たない周囲を露光および硬化するように整えることができる。光焼結された繊維1114は、次に、繊維巻き取りスプール1116によって巻き取られる。別法では、繊維1114は、断片に切断して積み重ねることができる。この方法は、個々の繊維または繊維の束に対して機能する。
【0153】
同様の方法は、短い繊維または切断された繊維にも適用可能である。繊維を金属粒子のインクと混合し、次に、繊維を溶液から取り出して乾燥させることができる。それらは、乾燥の前または後のいずれかに移動表面上に置くことができる。その表面は、光焼結ステーション内を移動して、その後、収集およびパッケージングされるか、または、さらなる処理段階に送られる。その移動表面もまた、光が透過することが可能なように透明であり得る。
【0154】
本発明の多数の実施形態を説明してきた。しかし、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、多様な変更を行うことができることは理解されよう。他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内である。
【符号の説明】
【0155】
100 システム
102 基板
104 プリンター装置
106 貯蔵区画
300 ナノ粒子
302 金属酸化物層を有する金属
304 金属酸化物層
306 アルコール
800 装置
801 銅インク
802 インクジェットディスペンサ
803 インク膜
804 基板
805 パターンアウトライン
806 光源
807 ミラー
808 コンピュータ/制御装置
809 導電性膜
1000 銅ナノ粒子インク
1002 基板
1004 マスク
1005 透明プレート
1006 金属パターン
1008 導電性膜
1010 非導電性膜
1100 繊維
1102 スプール
1104 インクバス
1106 コートされた繊維
1108 乾燥器
1110 乾燥されたインクがコートされている繊維
1112 光焼結ステーション
1114 光焼結された繊維
1116 繊維巻取りスプール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の酸素化された有機化合物を含むビヒクルと、
銅ナノ粒子と、
中鎖脂肪族アルコールと、
を含む導電性金属インク。
【請求項2】
前記中鎖脂肪族アルコールが、4個と12個を含めて4個から12個までの炭素原子を有する、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記アルコールが、イソブタノール、2−オクタノール、またはそれらの組合せである、請求項2に記載のインク。
【請求項4】
前記アルコールの粘度が、前記ビヒクルの粘度を上回る、請求項1に記載のインク。
【請求項5】
前記アルコールの誘電率が、前記ビヒクルの誘電率を上回る、請求項1に記載のインク。
【請求項6】
前記アルコールが、非ポリマーアルコールである、請求項1に記載のインク。
【請求項7】
前記アルコールが、インク中の有機液体の約30重量%から約96重量%の間である、請求項1に記載のインク。
【請求項8】
イオン性分散剤をさらに含む、請求項1に記載のインク。
【請求項9】
前記イオン性分散剤が、前記インクの約0.5重量%から20重量%の間を構成する、請求項8に記載のインク。
【請求項10】
前記銅ナノ粒子が、酸化銅を含む、請求項1に記載のインク。
【請求項11】
前記銅ナノ粒子が、前記インクの約40重量%から約60重量%の間を構成する、請求項1に記載のインク。
【請求項12】
前記ビヒクルの沸点が、150℃未満である、請求項1に記載のインク。
【請求項13】
前記ビヒクルが、親水性である、請求項1に記載のインク。
【請求項14】
前記インクが、バインダーを含まない、請求項1に記載のインク。
【請求項15】
前記インクが、直径約10μmより大きいナノ粒子の凝集物を実質的に含まない、請求項1に記載のインク。
【請求項16】
前記インクが、硬化して平坦で均質な導体を形成することができる、請求項1に記載のインク。
【請求項17】
金属インクから導体を形成する方法であって、
金属インクを基板上に堆積して前記基板上に平坦で均質なインクの層を形成する段階であり、前記インクが、
2つ以上の酸素化された有機化合物を含むビヒクルと、
銅ナノ粒子と、
中鎖脂肪族アルコールと、
を含む段階と、
前記導電性金属インクを凝固させて前記基板上に導体を形成する段階と、
を含む方法。
【請求項18】
前記インクが、直径約10μmより大きいナノ粒子の凝集物を実質的に含まない、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
堆積段階が、ドローダウン印刷を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
堆積段階が、インクジェット印刷を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記導体の抵抗率が、約10μΩ・cm未満である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記銅ナノ粒子が、前記インクの約40重量%から約60重量%を構成する、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25A】
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【図25B】
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【図26】
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【図27】
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【図28A】
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【図28B】
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【図28C】
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【図28D】
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【図28E】
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【図28F】
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【図29A】
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【図29B】
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【図30】
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【図9A】
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【公表番号】特表2012−522114(P2012−522114A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503530(P2012−503530)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/028799
【国際公開番号】WO2010/114769
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(505131522)アプライド・ナノテック・ホールディングス・インコーポレーテッド (27)
【出願人】(000197975)石原薬品株式会社 (83)
【Fターム(参考)】