説明

金属カーバイドの製造方法及びこれから製造された金属カーバイド

【課題】工程が簡単であり、所望の形態に製造が可能である金属カーバイドの製造方法を提供する。また、前記金属カーバイドの製造方法によって製造された金属カーバイドを提供する。さらにまた、前記金属カーバイドを利用して製造された成形品を提供する。
【解決手段】(A)金属または金属酸化物と炭素系物質の混合物に物理的力を加えることによって、金属または金属酸化物表面に炭素系物質が被覆された、および/または炭素系物質の表面に金属または金属酸化物が被覆されたハイブリッド粒子を製造する段階;及び(B)前記ハイブリッド粒子を熱処理する段階;を含む金属カーバイドの製造方法、並びにこれから製造された金属カーバイドが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属カーバイドの製造方法及びこれから製造された金属カーバイドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属カーバイドは、優れた硬度、機械的強度及び剛性(rigidity)、圧縮強度、及びクリープ(creep)特性を含んでいて、非常に低い熱膨張係数、高い熱及び電気伝導特性、そして高い熱的化学的安定性により、耐磨耗、切削または耐熱、耐化学用途、さらに核反応器のコーティング剤としても使用されている。
【0003】
このような優れた特性の金属カーバイドは、金属、金属塩または金属酸化物を入れた反応器にアルキンガス気流を加え、アルキンガス雰囲気下で熱分解(pyrolysis)を行って、アルキンガスから遊離する炭素により金属粒子をコーティングした後、不活性雰囲気で高い熱を加える熱炭素還元反応(carbothermal recuction)によって化学変化を誘導してなる、ガス−固体反応(gas−solid reaction)によって製造される(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,784,839号明細書
【特許文献2】米国特許第5,417,952号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の方法は、アルキンガスの炭素濃度、アルキンガス気流の強さ、金属粒子の表面積、不活性雰囲気内酸素の濃度などによって金属カーバイドの物性が決定されるため、全体的なプロセスが多少複雑に調節される。また、この方法によって製造された金属カーバイドは全てパウダー形態を有するため、特化された形状である針状などの金属カーバイド合成においては限界がある。
【0006】
そこで、本発明の目的(一側面)は、工程が簡単であり、所望の形態に製造が可能である金属カーバイドの製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的(一側面)は、前記金属カーバイドの製造方法によって製造された金属カーバイドを提供することにある。
【0008】
本発明のまた他の目的(一側面)は、前記金属カーバイドを利用して製造された成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的(一側面)は、金属または金属酸化物と炭素系物質の混合物に物理的力を加えることによって、金属または金属酸化物表面に炭素系物質が被覆された、および/または炭素系物質の表面に金属または金属酸化物が被覆されたハイブリッド粒子を製造する段階;及び前記ハイブリッド粒子を熱処理する段階;を含む金属カーバイドの製造方法により達成することができる。ここで、「被覆された」という形態には、「埋立てられた(filled into)」ないし「埋め尽くされた」ないし「一杯詰まった」ないし「充満された」ないし「充填された」という形態を含むものとする(以下、同様とする。)。
【0010】
前記物理的力は、物理的圧縮力または剪断力であるのが好ましい。
【0011】
前記金属または金属酸化物は、チタン、ジルコニウム、タングステン、シリコン(ケイ素)、アルミニウム、ニオブ、ホウ素、クロム、バナジウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される金属またはこれらの酸化物であるのが好ましい。
【0012】
前記炭素系物質は、石炭、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるのが好ましい。
【0013】
前記炭素系物質が表面に被覆された金属または金属酸化物(からなるハイブリッド粒子)において、前記金属または金属酸化物が母粒子であり、前記炭素系物質が子粒子であり、前記金属または金属酸化物が表面に被覆された炭素系物質(からなるハイブリッド粒子)において、前記炭素系物質が母粒子であり、前記金属または金属酸化物が子粒子であり、前記子粒子の粒径は、前記母粒子の粒径の1/10以下であるのが好ましく、具体的には1/500乃至1/10であるのが好ましい。
【0014】
前記熱処理は不活性雰囲気で行われるのが望ましく、1200℃乃至1800℃の温度で行われる。
【0015】
本発明の他の目的(一側面)は、前記金属カーバイドの製造方法によって製造された金属カーバイドにより達成することができる。
【0016】
本発明のまた他の目的(一側面)は、前記金属カーバイドを利用して製造された成形品により達成することができる。
【0017】
その他の本発明の目的(側面)の具体的な事項は以下の詳細な説明に含まれている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施態様による金属カーバイドの製造方法によれば、多様な種類の金属カーバイドを容易に合成すると同時に、大量生産も容易であり、特に、その形状において、パウダー形状だけでなく、針状などのような特化された金属カーバイドも容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1及び2と比較例1によって製造された金属カーバイドのX線回折分析結果を示すグラフである。
【図2】実施例1によって製造された金属カーバイドの走査電子顕微鏡写真を表す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施態様を詳しく説明する。ただし、これは例示のために提示されるものであって、これによって本発明が制限されるわけではなく、本発明は、特許請求の範囲の範疇によってのみ定義される。
【0021】
金属カーバイドは、耐磨耗性、切削性などの機械的特性のほか、耐腐食性、断熱性、電気伝導性、熱伝導性に優れていて、耐磨耗材、切削材、耐腐食材、断熱材、電気及び/又は熱伝導体として広く使用されている。本発明の一実施態様では、このような金属カーバイドを簡単でかつ便利に製造することができ、また、形状を特化させて製造可能である金属カーバイドの製造方法を提供することができる。
【0022】
つまり、本発明の一実施態様による金属カーバイドの製造方法によれば、多様な種類の金属カーバイドを容易に合成すると同時に、大量生産も容易であり、特に、その形状において、パウダー形状だけでなく、針状などのような特化された金属カーバイドも容易に製造することができる。
【0023】
前記本発明の一実施態様による金属カーバイドの製造方法は、金属または金属酸化物と炭素系物質の混合物に物理的力を加えることによって、金属または金属酸化物表面に炭素系物質が被覆された、および/または炭素系物質の表面に金属または金属酸化物が被覆されたハイブリッド粒子を製造する段階、そして前記ハイブリッド粒子を熱処理する段階を含む。ここで、「被覆された」という形態には、「埋立てられた(filled into)」ないし「埋め尽くされた」ないし「一杯詰まった」ないし「充満された」ないし「充填された」という形態を含むものとする(以下、同様である。)。
【0024】
以下で、各段階について詳しく説明する。
【0025】
<ハイブリッド粒子の製造段階>
本発明の一実施態様によれば、金属または金属酸化物と炭素系物質の混合物に物理的力を加えることによって、ハイブリッド粒子を製造する。
【0026】
前記金属または金属酸化物は、チタン、ジルコニウム、タングステン、シリコン(ケイ素)、アルミニウム、ニオブ、ホウ素、クロム、バナジウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される金属またはこれらの酸化物を使用することができる。
【0027】
前記金属酸化物の具体的な例としては、チタニウム(II)酸化物(酸化チタン(II),TiO;titanium(II) oxide)、チタニウム( III )酸化物(酸化チタン( III ),Ti;titanium( III ) oxide)、チタニウム(IV)酸化物(酸化チタン(IV),TiO;titanium(IV) oxide)、チタニウム(III,IV)酸化物(酸化チタン(III,IV),Ti;titanium(III,IV) oxide)、ジルコニウム(II)酸化物(酸化ジルコニウム(II),ZrO;zirconium(II) oxide)、ジルコニウム(IV)酸化物(酸化ジルコニウム(IV);ZrO;zirconium(IV) oxide)、タングステン(III)酸化物(酸化タングステン(III),W;tungsten(III) oxide)、タングステン(IV)酸化物(酸化タングステン(IV),WO;tungsten(IV) oxide)、タングステン(VI)酸化物(酸化タングステン(VI)、WO;tungsten(VI) oxide)、シリコン酸化物(酸化ケイ素;SiO;sillicon oxide)、アルミニウム酸化物(酸化アルミニウム;Al;aluminum oxide)、ニオブ(II)酸化物(酸化ニオブ(II),NbO;niobium(II) oxide)、ニオブ(IV)酸化物(酸化ニオブ(IV),NbO;niobium(IV) oxide)、ニオブ(V)酸化物(酸化ニオブ(V),Nb;niobium(V) oxide)、ボロン酸化物(酸化ボロン;B;boric oxide)、クロム(III)酸化物(酸化クロム(III),Cr;chromium(III) oxide)、クロム(IV)酸化物(酸化クロム(IV),CrO;chromium(IV) oxide)、クロム(VI)酸化物(酸化クロム(VI),CrO;chromium(VI) oxide)、クロム(II,III)酸化物(酸化クロム(II,III),Cr;chromium(II,III) oxide)、バナジウム(II)酸化物(酸化バナジウム(II),VO;vanadium(II) oxide)、バナジウム(III)酸化物(酸化バナジウム(III),V;vanadium(III) oxide)、バナジウム(IV)酸化物(酸化バナジウム(IV),VO;vanadium(IV) oxide)、バナジウム(V)酸化物(酸化バナジウム(V),V;vanadium(V) oxide)、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるものが挙げられる。
【0028】
前記金属または金属酸化物の形態は、粒状(粉末状ないしパウダー形状)とすることもできるが、板状、針状など、分野に応じて所望の形状に適切に調節して、使用することができる。この形態によって最終の複合材の形態が決定されるので、最終の複合材の形態を自由に調節することができる。
【0029】
前記炭素系物質は、石炭、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるものを使用することができる。
【0030】
前記炭素系物質の形態としては、粒状(粉末状ないしパウダー形状)、繊維状、ナノサイズのナのチューブ状などが挙げられるが、これらに制限されるものではなく、前記金属または金属酸化物の形態と同様に、板状、針状など、所望の形状のものが使用できる。
【0031】
前記金属または金属酸化物及び前記炭素系物質の平均粒径は、各々、10nm乃至100μmであることが望ましい。具体的には、ハイブリッド粒子において、金属酸化物が子粒子である場合は、母粒子の炭素系物質粒子の1/500乃至1/10の平均粒径を有し、金属酸化物が母粒子である場合は、子粒子の炭素系物質粒子の10倍乃至500倍の大きい平均粒径を有するのが、ハイブリッド粒子の製造工程に有利である。なお、前記金属または金属酸化物、及び前記炭素系物質の形態が粒状(粉末状ないしパウダー形状)の場合には、上記平均粒径を用い、板状、針状、繊維状、チューブ状等の場合、上記平均粒径に変えて、これら板状、針状、繊維状、チューブ状等の長手方向に垂直な断面の平均直径を用いるものとする。ここで、「粒径」(または「直径」)とは、粒状(粉末状)物である粒子(パウダー)、板状物、針状物、繊維、チューブなどの断面形状の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。「平均粒径」(または「平均直径」)の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子(パウダー)の粒子径(または板状物、針状物、繊維、チューブなどの直径)の平均値として算出される値を採用してもよいし、レーザ回折式粒度分布測定(レーザ回折散乱法)により測定された値を採用してもよい。
【0032】
前記ハイブリッド粒子を製造する段階は、物理的力、つまり、物理的な衝突、摩擦、及び力を加えて行うことであって、前記物理的力の具体的な例には、物理的圧縮力または剪断力が挙げられる。
【0033】
本発明の一実施態様において、ハイブリッド粒子とは、有機物(炭素系物質)及び無機物(金属または金属酸化物)が混合された状態を意味し、二つのうち一つの表面に他の成分が被覆された粒子を意味する。つまり、ハイブリッド粒子は、金属または金属酸化物の表面に炭素系物質が被覆された、および/または炭素系物質の表面に金属または金属酸化物が被覆されたものを意味する。ここで、「被覆された」という形態には、「埋立てられた(filled into)」ないし「埋め尽くされた」ないし「一杯詰まった」ないし「充満された」ないし「充填された」という形態を含むものとする(以下、同様である。)。なお、ハイブリッド粒子の「粒子」には、上記した粒状(粉末状)物である粒子(ないしパウダー)、板状物、針状物、繊維、チューブなど、分野に応じて所望の形状に適切に調節された形態を含むものとする。
【0034】
前記ハイブリッド粒子において、粒子中の大きさが大きい粒子を母粒子、大きさが小さい粒子を子粒子と称する。本発明の一実施態様では、金属または金属酸化物が子粒子である場合は炭素系物質が母粒子となり、炭素系物質が子粒子である場合は金属または金属酸化物が母粒子となる。
【0035】
つまり、本発明の一実施態様によれば、如何なる粒子が子粒子または母粒子となるとしても、金属カーバイドを合成することには問題にならない。
【0036】
如何なる粒子が母粒子となるとしても、母粒子の表面に子粒子が被覆されることであるので、子粒子より母粒子の平均粒径が大きく、具体的には、子粒子が母粒子の1/10以下の平均粒径を有することが望ましく、より具体的には、子粒子が母粒子の1/500乃至1/10の平均粒径を有することが望ましい。子粒子及び母粒子が前記範囲の平均粒径の粒径比率を有する場合、母粒子の表面に子粒子が均等に分布することができるので、ハイブリッド粒子の製造効率に優れている。ここで、「被覆される」という形態には、「埋立てられる」ないし「埋め尽くされる」ないし「充満される」ないし「充填される」という形態を含むものとする(以下、同様である。)。
【0037】
前記ハイブリッド粒子を製造する方法は、米国特許第6,892,475号明細書(及び対応する日本出願の特開2003−126,680号公報及び特開2004−041,869号公報参照)に開示された気流を利用した粒子ハイブリッド製造方法、または米国特許第4,789,105号明細書(及び対応する日本出願の特開昭62−247,846号公報、特開昭63−158,140号公報及び特開昭63−042,728号公報参照)に開示されたブレード(blade)を利用した粒子ハイブリッド製造方法などが挙げられる。詳しくは、炭素系物質と金属または金属酸化物を米国特許第6、892、475号明細書または米国特許第4、789、105号明細書で提示された粒子ハイブリッド装備を利用して物理的に結合した後、熱炭素還元反応法で熱処理して金属カーバイド粒子を製造することができる。前記気流またはブレードを利用した粒子ハイブリッド製造方法は、全て物理的圧縮力または剪断力の物理的力を加えた場合である。前記米国特許に各々の粒子ハイブリッド製造方法を実施する具体的方法及び装置が開示されているので、本明細書でこれに対する詳しい内容は記載しない。つまり、このように公知な粒子ハイブリッド製造方法を使って、母粒子の表面に子粒子が被覆されるハイブリッド粒子を製造することができる。ただし、このような粒子ハイブリッド製造方法に制限されず、物理的力を加えることによって、母粒子の表面に子粒子を被覆する任意の公知な方法によっても前記ハイブリッド粒子を製造することができ、ハイブリッド粒子を製造できる方法であればいかなる方法で実施しても差し支えない。ここで、「被覆する」という形態には、「埋めたてる」ないし「埋め尽す」ないし「充満する」ないし「充填する」という形態を含むものとする。
【0038】
前記金属または金属酸化物と前記炭素系物質の混合比率は、金属の種類による化学変化式を通して容易に計算される。
【0039】
例えば、チタニウム(IV)酸化物とカーボンは、下記反応式1のような化学変化が可能である。
【0040】
【化1】

【0041】
この場合、チタニウム(IV)酸化物及びカーボンを80:36の質量比の混合比率でハイブリッド粒子を製造することができる。具体的には、前記反応式1で計算されたカーボンの含有量より10質量%程度多い量のカーボンを混合した方が好ましい。これは、熱処理段階(つまり、熱炭素還元反応)で、炭素系物質の含有量が少ないよりは多い方が、金属カーバイドの収率を向上させることができるためである。但し、炭素系物質を過量用いると、ハイブリッド粒子が不良な状態に、つまり、母粒子に子粒子が不均一に分布した形態に製造される恐れがある。かかる観点から、例えば、前記反応式1で計算された炭素系物質(カーボン)の含有量より5〜20質量%多い量の炭素系物質(カーボン)を混合するのが、金属カーバイドの収率を向上させることができ、尚且つハイブリッド粒子が良好な状態に、つまり、母粒子に子粒子が均一に分布した形態に製造することができる点で好ましい。なお、他の金属または金属酸化物と前記炭素系物質の混合比率についても、金属の種類による化学変化式を通して容易に計算されるが、かかる計算結果と、上記炭素系物質(カーボン)含有量に関する技術的事項(技術的知見)から、最適な他の金属または金属酸化物と前記炭素系物質の混合比率を予備実験などを通じて適宜決定すればよい。
【0042】
<熱処理段階>
次に、形成されたハイブリッド粒子を熱処理する。
【0043】
前記ハイブリッド粒子の熱処理は不活性雰囲気下で行われるものであって、このような熱処理を熱炭素還元反応法(carbothermal reduction)という。前記熱処理によって、ハイブリッド粒子が金属カーバイドに化学変化される。
【0044】
前記熱処理は、具体的に、金属または金属酸化物の種類によって多少相違しているが、反応器内にハイブリッド粒子を位置させ(ないし配置させ、あるいは充填しないしは入れ)、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性雰囲気下で行うことができる。ここで、前記反応器としては、特に制限されるものではないが、撹拌翼及び加熱手段(例えば、電熱コール等あるいは反応器に加熱炉を用いる)を備えた密閉式の反応器などを用いることができる。該反応器は、熱処理温度に対し耐熱性を有する材料で形成されており、ハイブリッド粒子と接触する反応器の表面部分や構成部材(例えば、撹拌翼等)は、該ハイブリッド粒子に対して不活性な材料で形成されているのが望ましい。そして熱処理中には、不活性雰囲気ガスを封入し密閉した反応器内で、ハイブリッド粒子同士が熱融着するのを防止し、ハイブリッド粒子(群)全体に不活性雰囲気ガスが接触しやすいように、該反応器内のハイブリッド粒子を反応器に備えられた撹拌翼により撹拌しながら熱処理を行うのが望ましい。
【0045】
前記熱処理は、1200℃乃至1800℃の温度で行われ、好ましくは、1500℃乃至1800℃の温度で行われることが望ましい。熱処理が前記温度の範囲内で行われる場合、化学変化が容易に起こり、生産効率も優れているので経済的である。
【0046】
前記熱処理において、前記熱処理の温度及び雰囲気の条件を満足すれば、熱処理時間は制限する必要がない。即ち、適当な予備実験などを通じて、適宜決定することができるためである。
【0047】
前述の金属カーバイドの製造方法はハイブリッド粒子を使うものであって、前記ハイブリッド粒子は全て固体を利用して製造するようになる。これは、従来のガスを利用する方法に比べて工程条件の調節が非常に容易であり、特に、針状の金属または金属酸化物と板状の金属または金属酸化物を用いれば、各々の針状の金属カーバイドと板状の金属カーバイドの製造が可能であるので、金属カーバイドの形状を特化させることができる。
【0048】
また、前述のように、ハイブリッド粒子を使って金属カーバイドを製造する方法による場合、色々な種類の多様な金属カーバイドを容易に合成できるだけでなく、大量生産も可能になる。
【0049】
本発明の他の一実施態様によれば、前述の金属カーバイドの製造方法によって製造された金属カーバイドを提供する。前記金属カーバイドは多様な分野に有用に用いられるが、特に、前記金属カーバイドを利用して製造された成形品は、耐磨耗性、切削性などの機械的特性のほか、耐腐食性、断熱性、電気伝導性、熱伝導性に優れており、耐磨耗材、切削材、耐腐食材、断熱材、電気伝導体、熱伝導体に有用に用いられることができる。
【実施例】
【0050】
本発明は、下記の実施例によってさらに具体化されるが、下記の実施例は本発明の具体的な例示に過ぎず、本発明の保護範囲を限定したり制限しようとするものではない。ここに記載されていない内容は、この技術分野にて通常の知識を有する者であれば十分に技術的に類推できるものであるのでその説明を省略する。
[実施例]
I.使用物質
(1)金属酸化物
ナノサイズのチタニウム(IV)酸化物を用いた。前記チタニウム(IV)酸化物は、チタニウムテトライソプロオキシド(titanium tetraisopropoxide)をJ.Phys.Chem.98(1994)1366に記載された加水分解(hydrolysis)方法で製造した。製造されたチタニウム(IV)酸化物の平均粒径は27nmであった。
【0051】
(2)炭素系物質
ASTMD3037−89測定法によって、表面積が65m/gであり、超音波放射器(Ultrasonic Radiator)で超音波を5分加えた後の平均粒径が5.1μmであるカーボンブラックを使用した。
【0052】
II.製造工程(実施例1及び2と比較例1)
(A)ハイブリッド粒子の製造
前記炭素系物質を母粒子にし、前記金属酸化物を子粒子にして、物理的力、つまり、米国特許第6,892,475号明細書に開示された粒子ハイブリッド製造方法によって、炭素系物質の表面に金属酸化物が被覆されたハイブリッド粒子を製造した。この時、前記炭素系物質及び金属酸化物の混合比率は1:2(質量比)であった。前記母粒子と子粒子の各々の平均粒径の粒径比は189:1であった。
【0053】
(B)熱処理(熱炭素還元反応)
前記ハイブリッド粒子を反応器に入れ、アルゴンガス雰囲気下で、各々、1000℃(比較例1)、1200℃(実施例1)、1500℃(実施例2)で各々、2時間熱処理して、金属カーバイドを製造した。
[実験例]
実施例1及び2と比較例1によって製造された金属カーバイドに対し、CuKα線を利用してX線回折装置(XRD)を用いて測定して、その結果を図1に示した。
【0054】
図1は、実施例1及び2と比較例1により製造された金属カーバイドのX線回折分析結果を示すグラフである。
【0055】
チタニウムカーバイドは、その結晶面(xyz)が、XRDで2θ=36.3°(111)、42.1°(200)、61.1°(220)、73.3°(311)、77。1°(222)に示されるので、XRD結果より、前記で言及された角度でピークが現れれば、金属カーバイドに化学変化されたことが確認できる。
【0056】
図1を参照すれば、1000℃で熱処理した比較例1の場合、チタニウムカーバイドピークが現れなかったので、チタニウムカーバイドが形成されていないことが分かり、熱処理温度が各々1200℃及び1500℃である実施例1及び2の場合、チタニウムカーバイドピークが現れたので、この温度でチタニウムカーバイドが製造されることが分かる。また、熱処理温度が1200℃から1500℃まで増加すると共に、チタニウムカーバイドのピークの強さが増加することが分かる。結果的に、実施例1及び2によって金属カーバイドを成功的に合成することができることが確認できる。即ち、熱処理温度が高いほど(実施例2)、化学変化が良く起きてピークが増加しているが、これは、熱処理温度が低いほど(比較例1)決められた処理時間の間に化学変化が十分に進行せず、未反応のカーボンブラック量が多いと見ることができる。
【0057】
図2は、実施例1によって製造された金属カーバイドの走査電子顕微鏡写真である。
【0058】
図2を参照すれば、金属カーバイド粒子を確認することができる。SEM写真の中間に位置した大きな塊りは、チタニウム(IV)酸化物とカーボンブラックを2:1の質量比、つまり、カーボンブラックを増量してハイブリッド粒子を製造したことによって残った、反応後の残留カーボンブラックを示す。
【0059】
本発明は前記実施例に限られるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造されることができ、本発明が属する技術分野にて通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せずに、他の具体的な形態に実施できることを理解することができる。したがって、以上で説明した実施例は全て例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属または金属酸化物と炭素系物質の混合物に物理的力を加えることによって、金属または金属酸化物表面に炭素系物質が被覆された、および/または炭素系物質の表面に金属または金属酸化物が被覆されたハイブリッド粒子を製造する段階;及び
前記ハイブリッド粒子を熱処理する段階;
を含む金属カーバイドの製造方法。
【請求項2】
前記物理的力は物理的圧縮力または剪断力である、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項3】
前記金属または金属酸化物は、チタン、ジルコニウム、タングステン、シリコン、アルミニウム、ニオブ、ホウ素、クロム、バナジウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される金属またはこれらの酸化物である、請求項1または2に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項4】
前記炭素系物質は、石炭、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、カーボン繊維、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項5】
前記炭素系物質が表面に被覆された金属または金属酸化物において、前記金属または金属酸化物が母粒子であり、前記炭素系物質が子粒子であり、
前記金属または金属酸化物が表面に被覆された炭素系物質において、前記炭素系物質が母粒子であり、前記金属または金属酸化物が子粒子であり、
前記子粒子の平均粒径は、前記母粒子の平均粒径の1/10以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項6】
前記子粒子の平均粒径は、前記母粒子の平均粒径の1/500乃至1/10であることを特徴とする、請求項5に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項7】
前記熱処理は不活性雰囲気で行われることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項8】
前記熱処理は、1200℃乃至1800℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属カーバイドの製造方法によって製造された金属カーバイド。
【請求項10】
請求項9に記載の金属カーバイドを利用して製造された成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−143820(P2010−143820A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286382(P2009−286382)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】