説明

金属カーボン複合通電摺動材料

【課題】通電特性を損なうことなく耐熱性を向上させることができるとともに、鉛を配合することなく、特に200℃を超える高温下での寸法増大を抑制できる金属カーボン複合通電摺動材料を提供する。
【解決手段】本発明に係る金属カーボン複合通電摺動材料は、銀又は銀化合物を被覆した粒子が配合されている。前記銀又は銀化合物を被覆した粒子の平均粒径が、5μmを超えるものであることが好ましい。銀又は銀化合物を被覆する前の前記粒子自体の密度が、銅以下、さらには黒鉛以下であることがより好ましい。別の観点として、本発明の金属カーボン複合通電摺動材料は、外気と接する表面および気孔が、銀又は銀化合物により被覆された金属黒鉛材料を有しているものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動回転機用ブラシ又は給電用ブラシ、および給電用すり板又は集電子などを含む、金属とカーボンとを主成分とする金属カーボン複合通電摺動材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属とカーボンとが配合されているこれまでの金属カーボン複合通電摺動材料には、下記特許文献1で開示されているように潤滑性付与のため、鉛が配合されてきた。また同時に、鉛を配合することにより、高温高湿下での酸化を防止してきた。また、下記特許文献2には、機械的強度を高めるために鉛などの粒子に金属メッキを施した金属黒鉛ブラシが開示されている。しかし、環境負荷の観点から、鉛を無添加とする必要性が高まってきている。
【0003】
また、近年、電動回転機の小型化、軽量化に加えて、高出力化が進み、それに伴い、これに使用される金属黒鉛質ブラシにも小型化および、高出力化による高電流密度の要求がある。すなわち、金属黒鉛質ブラシには高導電性かつ耐摩耗性が求められている。加えて、これらの特性を満たすために、銅粒子径を細かくする手法が挙げられる。しかし、銅粒子径を細かくすると、高温下での寸法増大が顕著となり、ブラシを固定又は収納する保持器内で、ブラシが固着してしまい、これを起点に特性の低下を招き、最悪の場合、作動停止および焼損の原因にもつながる。具体的に述べると、ブラシと保持器との間には、作動するようにある範囲で隙間が設けられており、この隙間が広すぎるとブラシがうまく保持できず、一方、狭すぎると固渋の原因となる。両者問題を引き起こさない程度で、隙間が設けられている。また、この隙間の範囲は、一般的にブラシ寸法の2%前後に設定されているが、ブラシ振動による不具合防止のためこの隙間は、1%前後であるとより好ましいとされている。
また、移動車両のその運転速度は上がる傾向が顕著であり、車両に取り付けられるすり板の数量は少なくなる傾向がある。そのため、上述の金属カーボン複合通電摺動材料にとっては、給電や集電環境がより過酷な使用条件のものとなっており、上述と同様の性能が求められている。
【0004】
これらの対策として、酸化防止剤ベンゾトリアゾールや、パラフィンなどの飽和炭化水素を含む有機化合物を、気孔内に含浸させることにより、酸化を抑制することが下記特許文献3や下記特許文献4に提案されているが、100℃を超える高温下での酸化抑制、寸法増大抑制までは開示していない。
【0005】
また、100℃を超える高温下での、酸化による寸法増大を抑制させるため、アルキルイミダゾール誘導体を含浸させることが下記特許文献5で提案されているが、200℃を超える高温下での酸化抑制、寸法増大抑制までは開示していない。
【0006】
さらに、200℃を超える高温下での酸化抑制のため、平均粒径5μm以下の銀粒子を配合することを下記特許文献6で提案している。しかし、平均粒径5μm以下の銀粒子を混合機などで、均一に分散させるためには非常に時間を要し、場合によっては粒子間で凝集を生じる。また、銀の密度は10.49g/cmと、通常の複合通電摺動材に主に配合される銅の8.93g/cmや黒鉛の2.25g/cmに比べて高く、分離の原因となるなどの課題がある。またこれも、寸法増大抑制については、特に開示していない。なお、上記密度は改訂最新元素知識(東京書籍、昭和60年発行)より引用した。
【0007】
【特許文献1】特公昭58−029586号公報
【特許文献2】特公昭61−47055号公報
【特許文献3】特開平1−103140号公報
【特許文献4】特開2006−25568号公報
【特許文献5】特開2003−123928号公報
【特許文献6】特開2003−299319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記以外にも、耐酸化または耐食性、耐熱性を向上させる手法として、Zn、Sn、Ni、Alなどを配合させることもできるが、これらを配合すると電気抵抗が著しく上昇してしまい、通電材料としては不適である。
【0009】
そこで、本発明の目的は、通電特性を損なうことなく耐熱性を向上させることができるとともに、鉛を配合することなく、特に200℃を超える高温下での寸法増大を抑制できる金属カーボン複合通電摺動材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 前記課題を解決するための本発明に係る金属カーボン複合通電摺動材料は、銀又は銀化合物を被覆した粒子が配合されている。
【0011】
上記(1)の構成によれば、通電特性を損なうことなく耐熱性を向上させることができるとともに、鉛を配合することなく、特に200℃を超える高温下での寸法増大を抑制できる金属カーボン複合通電摺動材料を提供できる。
【0012】
(2) 上記(1)の金属カーボン複合通電摺動材料においては、前記銀又は銀化合物を被覆した粒子の平均粒径が、5μmを超えるものであることが好ましい。また、前記銀又は銀化合物を被覆した粒子の平均粒径が10μm以上であると、銀または銀化合物がその存在系の中で出現しやすくなる。その結果として、その配合量が少量となるので、効率よく系内に分布することができるので、均一な組織が得られ、かつ経済的にもより好ましい。しかし、500μm以上になると粒子離脱が発生する原因となるため好ましくない。
【0013】
(3) 上記(1)又は(2)の金属カーボン複合通電摺動材料においては、銀又は銀化合物を被覆する前の前記粒子自体の密度が、銅以下であることが好ましい。
【0014】
(4) 上記(1)〜(3)の金属カーボン複合通電摺動材料においては、銀又は銀化合物を被覆する前の前記粒子自体の密度が、黒鉛以上であることが好ましい。
【0015】
上記(2)〜(4)の構成によれば、前記銀又は銀化合物を被覆した粒子の分散性が適度に保持されるので、確実に、通電特性を損なうことなく耐熱性を向上させることができるとともに、鉛を配合することなく、特に200℃を超える高温下での寸法増大を抑制できる。
【0016】
(5) 上記(1)〜(4)の金属カーボン複合通電摺動材料においては、前記銀又は銀化合物を被覆した粒子が、メッキ法(電解、無電解などを含む)によって銀又は銀化合物が被覆されたものであることが好ましい。
【0017】
銀又は銀化合物の被覆には、蒸着法、浸漬による含浸法なども用いることができるが、上記(5)の構成によれば、蒸着法、浸漬による含浸法に比べ、より均一に粒子へ被覆できる。
【0018】
(6) 上記(1)の別の観点として、本発明の金属カーボン複合通電摺動材料は、外気と接する表面および気孔が、銀又は銀化合物により被覆された金属黒鉛材料を有しているものであってもよい。
【0019】
上記(6)の構成によれば、上記(1)と同様、通電特性を損なうことなく耐熱性を向上させることができるとともに、鉛を配合することなく、特に200℃を超える高温下での寸法増大を抑制できる金属カーボン複合通電摺動材料を提供できる。
【0020】
(7) 上記(6)の金属カーボン複合通電摺動材料においては、前記銀化合物が溶媒に可溶なものであり、前記銀化合物を含んだ溶液に浸漬することによって、前記銀化合物が被覆されたものであることがより好ましい。
【0021】
(8) 上記(7)の金属カーボン複合通電摺動材料においては、前記銀化合物が水溶性であることがさらに好ましい。
【0022】
上記(7)又は(8)の構成によれば、より簡便に、環境性により配慮した形で均一な被覆が可能である。
【0023】
(9) 上記(1)〜(8)の金属カーボン複合通電摺動材料においては、含有される金属成分に対して、銀又は銀化合物の含有量が0.01wt%以上であることが好ましく、0.05wt%以上であるとさらに好ましい。
【0024】
上記(9)の構成によれば、この金属カーボン複合通電摺動材料を保持器内で使用する場合、寸法増大による作動不具合や固着を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
<第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態に係る金属カーボン複合通電摺動材料について説明する。本発明の金属カーボン複合通電摺動材料は、主に金属とカーボンから成り、更に銀又は銀化合物を被覆した粒子(平均粒径が5μmを超えるもの)が配合されている。
【0026】
銀又は銀化合物が被覆される粒子においては、その密度が、黒鉛以上銅以下の材料が選択される。具体例としては、黒鉛粒子、銅粒子や、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの固体潤滑粒子、さらにはSn、Al、Zn、Ni、Co、Fe、Mn、Ti、Mgなどの金属粒子またはこれらの合金粒子、さらにこれらの酸化物粒子、硫化物粒子及び炭化物粒子が挙げられる。
【0027】
なお、銀又は銀化合物が被覆される粒子自体の密度が銅以上となると、銀又は銀化合物を被覆した粒子が、外的振動や密度差による自然沈降などにより系より分離してしまい、その存在系に対する出現性が悪くなるので、好ましくない。また、銀又は銀化合物が被覆される粒子自体の密度が黒鉛より小さくなると、銀又は銀化合物を被覆した粒子が分散され難くなり、その存在系に対する出現性が悪くなるので、好ましくない。
【0028】
ここで、主成分となる金属は、電解法、アトマイズ法、粉砕法、搗砕法などから得られる平均粒径が5〜500μmに調整した銅粒子が好適であるが、金属カーボン複合通電摺動材料の成型性の観点から平均粒径が5〜100μmの電解銅粉が好ましい。さらに、導電性および耐摩耗性を加味すると平均粒径5〜30μmのものがより好ましい。なお、平均粒径が5μm以下となると、凝集による流動性悪化、またこれに起因する分散性の低下により、品質の不安定化につながるため、好ましくない。一方、500μm以上となると粒子離脱が発生する原因となるため、好ましくない。
【0029】
次に、主成分となるカーボンとしては、キッシュ黒鉛、熱分解炭素、膨張黒鉛など人造黒鉛、または鱗状あるいは土状黒鉛などの天然黒鉛を平均粒径が5〜500μmに調整したものが好適である。導電性および潤滑性の観点から、結晶が発達した天然黒鉛がさらに好ましい。なお、平均粒径が5μm以下となると強度低下となるため好ましくなく、500μm以上となると粒子離脱が発生する原因となるため、好ましくない。また、上記黒鉛以外に、コークス、炭素繊維などの不定形炭素も使用できる。
【0030】
なお、銀又は銀化合物が被覆される粒子への銀又は銀化合物の被覆には、蒸着法、浸漬による含浸法なども用いることもできるが、蒸着法、浸漬による含浸法に比べより均一に被覆できるので、メッキ法(電解、無電解などを含む)を用いる。
【0031】
結合剤としてバインダーを使用する場合、一般的に熱硬化性樹脂として市販されている液状もしくは固体フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂などが例示できる。また、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂など熱可塑性樹脂も使用できる。この他、樹脂以外にピッチなどもバインダーとして使用してもよい。さらには、これらの混合系を使用しても差し支えない。
【0032】
上記以外の成分としては、潤滑性を付与させるため、二硫化タングステン、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を配合してもよい。また、皮膜調整のためにSiC、SiO、Al、ZnO、WCなど、さらには、焼結性の観点から、Sn、Al、Zn、Ni、Co、Fe、Mn、Ti、Mgなど、またはこれらの合金粉を配合しても差し支えない。
【0033】
なお、本実施形態の金属カーボン複合通電摺動材料における銀又は銀化合物の含有量は、含有される金属成分に対して0.01wt%以上となるように調整されている。
【0034】
次に、本実施形態の金属カーボン複合通電摺動材料の製造方法を説明する。まず、天然黒鉛と、バインダーとなる熱硬化性樹脂を所定の重量割合にて混合、さらに室温〜200℃で混練する。この場合、バインダーを溶媒に溶解させ使用してもよい。次に、この混練物を所定の粒子径になるように粉砕し、造粒黒鉛を得る。また、この造粒黒鉛および銅粒子と、上述した銀又は銀化合物を被覆した粒子を所定の重量割合にて混合後、100〜500MPaの圧力で成型し、非酸化雰囲気又は、還元雰囲気中にて焼成せしめることにより、本実施形態の金属カーボン複合通電摺動材料が製造される。
【0035】
上記構成により、少量の銀又は銀化合物配合で効率的に、通電特性を損なうことなく耐熱性を向上させることができるとともに、鉛を配合することなく、特に200℃を超える高温下での寸法増大を抑制できる金属カーボン複合通電摺動材料を提供できる。
【0036】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る金属カーボン複合通電摺動材料について説明する。
【0037】
本実施形態の金属カーボン複合通電摺動材料は、含有される粒子自体の表面を被覆するのではなく、成型された材料自体の外気と接する表面および気孔が、銀又は銀化合物により被覆されている点で第1実施形態の金属カーボン複合通電摺動材料と異なる。すなわち、本実施形態の金属カーボン複合通電摺動材料は、外気と接する表面および気孔が、銀又は銀化合物により被覆された金属カーボン材料を有しているものである。
【0038】
本実施形態での金属カーボン材料には、黒鉛粒子および銅粒子と、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの固体潤滑粒子、さらにはSn、Al、Zn、Ni、Co、Fe、Mn、Ti、Mgなどの金属粒子またはこれらの合金粒子、さらにこれらの酸化物粒子、硫化物粒子及び炭化物粒子などから1種以上選択される粒子とが含有されている。なお、銀化合物としては、溶媒に可溶な物質であり、無機塩または有機錯体などが好ましいが、硝酸銀などの水溶性銀化合物がさらに好ましい。
【0039】
結合剤として用いるバインダーや上記金属カーボン材料以外の成分については、第1実施形態と同様である。
【0040】
なお、本実施形態の金属カーボン複合通電摺動材料における銀又は銀化合物の含有量は、含有される金属成分に対して0.01wt%以上となるように調整されている。
【0041】
次に、本実施形態の金属カーボン複合通電摺動材料の製造方法を説明する。まず、天然黒鉛と、バインダーとなる熱硬化性樹脂を所定の重量割合にて混合、さらに室温〜200℃で混練する。この場合、バインダーを溶媒に溶解させ使用してもよい。次に、この混練物を所定の粒子径になるように粉砕し、造粒黒鉛を得る。そして、100〜500MPaの圧力で成型し、非酸化雰囲気又は、還元雰囲気中にて焼成せしめることにより、成形体が製造される。この焼成体の表面および気孔に銀又は銀化合物を被覆することによって、本実施形態の金属カーボン複合通電摺動材料が製造される。
【0042】
本実施形態における銀又は銀化合物の被覆方法としては、メッキ法、蒸着法、浸漬による含浸法などが例示できるが、特に含浸法が好ましい。含浸法の場合、大気圧、加圧もしくは減圧いずれの条件下でも差し支えない。
【0043】
上記構成により、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
平均粒径が50μmの天然黒鉛85wt%と、バインダーとしてフェノール樹脂15wt%を秤量し、これを100℃で混練した。この混練物を粉砕し、造粒黒鉛を得た。
【0045】
この造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉45.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を3wt%被覆した平均粒径が80μmの銅粉5.0wt%を配合させ、混合機にて10分間混合後、300MPaの圧力で成型し、800℃の還元雰囲気中で焼成した成形体を得た。
【0046】
(実施例2)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉47.5wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を3wt%被覆した平均粒径が80μmの銅粉2.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0047】
(実施例3)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉49.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を3wt%被覆した平均粒径が80μmの銅粉1.0wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0048】
(実施例4)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉49.5wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を3wt%被覆した平均粒径が80μmの銅粉0.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0049】
(実施例5)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、二硫化タングステン1.5wt%に、銀を3wt%被覆した平均粒径が80μmの銅粉50.0wt%を配合させ、その後、実施例と同工程により成形体を得た。
【0050】
(実施例6)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉45.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を10wt%被覆した平均粒径16μmの銅粉5.0wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0051】
(実施例7)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉47.5wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を10wt%被覆した平均粒径が16μmの銅粉2.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0052】
(実施例8)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉48.5wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を10wt%被覆した平均粒径が16μmの銅粉1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0053】
(実施例9)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉49.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を15wt%被覆した平均粒径が50μmの黒鉛1.0wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0054】
(実施例10)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉48.5wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を10wt%被覆した平均粒径が25μmの黄銅粉1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0055】
(実施例11)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が27μmの電解銅粉50.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。次に、硝酸銀を水に完全溶解させ、30wt%硝酸銀水溶液を準備する。この水溶液に上記で得た成形体を10分間浸漬し、その後余分な溶液を布などで拭い、500℃の還元雰囲気中で熱処理し、銀化合物を被覆した成形体をさらに得た。
【0056】
(実施例12)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉49.83wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を3wt%被覆した平均粒径が80μmの銅粉0.17wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0057】
(実施例13)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉48.5wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を10wt%被覆した平均粒径が10μmの銅粉1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0058】
(実施例14)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉49.5wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を10wt%被覆した平均粒径が5μmの銅粉1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0059】
(実施例15)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が27μmの電解銅粉50.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。次に、硝酸銀を水に完全溶解させ、4.7wt%硝酸銀水溶液を準備する。この水溶液に上記で得た成形体を10分間浸漬し、その後余分な溶液を布などで拭い、500℃の還元雰囲気中で熱処理し、銀化合物を被覆した成形体をさらに得た。
【0060】
(実施例16)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が27μmの電解銅粉50.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。次に、硝酸銀を水に完全溶解させ、0.16wt%硝酸銀水溶液を準備する。この水溶液に上記で得た成形体を10分間浸漬し、その後余分な溶液を布などで拭い、500℃の還元雰囲気中で熱処理し、銀化合物を被覆した成形体をさらに得た。
【0061】
(実施例17)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉50.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。次に、硝酸銀を水に完全溶解させ、4.7wt%硝酸銀水溶液を準備する。この水溶液に上記で得た成形体を10分間浸漬し、その後余分な溶液を布などで拭い、500℃の還元雰囲気中で熱処理し、銀化合物を被覆した成形体をさらに得た。
【0062】
(比較例1)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉50.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0063】
(比較例2)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉49.9wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を3wt%被覆した平均粒径が80μmの銅粉0.1wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0064】
(比較例3)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉48.5wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、銀を10wt%被覆した平均粒径が3μmの銅粉1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0065】
(比較例4)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が16μmの電解銅粉49.95wt%に、二硫化タングステン1.5wt%、平均粒径が2.5μmの銀粉0.05wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0066】
(比較例5)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が27μmの電解銅粉50.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0067】
(比較例6)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が27μmの電解銅粉50.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。次に、硝酸銀を水に完全溶解させ、0.08wt%硝酸銀水溶液を準備する。この水溶液に上記で得た成形体を10分間浸漬し、その後余分な溶液を布などで拭い、500℃の還元雰囲気中で熱処理し、銀化合物を被覆した成形体をさらに得た。
【0068】
(比較例7)
実施例1の造粒黒鉛48.5wt%と、平均粒径が50μmの電解銅粉50.0wt%に、二硫化タングステン1.5wt%を配合させ、その後、実施例1と同工程により成形体を得た。
【0069】
さらに、実施例1〜17、比較例1〜7で得た成形体を機械加工により、所定の寸法に加工し、金属カーボン複合通電摺動材を得た。
【0070】
次に、実施例1〜17、比較例1〜7で得た金属カーボン複合通電摺動材の成型方向に対して、同軸方向の寸法を測定した。また、200℃の酸化雰囲気中に1000時間曝露後の寸法を測定し、曝露前を基準とした寸法変化を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1には、金属成分に対する銀または銀化合物含有率も共に示した。
【0071】
【表1】

【0072】
このように、表中の比較例1または5に示すように、銀または銀化合物を被覆した粒子を配合しない場合、200℃を超える酸化雰囲気中での寸法は増大し、さらに細かい銅粒子を配合されたほうが、より顕著となっている。一方、比較例7に示すように、銅粒子の平均粒径が粗くなるにつれて、寸法の増大はほとんど認められなくなる。この酸化雰囲気中での寸法増大に対して、実施例1〜10、12〜14に示すよう、銀または銀化合物を被覆した粒子を配合した場合、寸法増大は抑制されていることが判明した。この場合、比較例3と比較されるように、被覆した粒子の平均粒径は5μmを超えると効果的である。さらに、実施例9または10に示すよう、被覆される被粒子は銅以外でも、その効果は一概であることが明らかとなった。また、金属カーボン複合通電摺動材を構成する金属成分中の銀または銀化合物の含有率が0.01wt%以上となれば、その効果は十分に発揮されることは、比較例2との比較から明らかである。比較例4の含有率と比較しても、より少量でその効果が発揮されていることが読み取れる。一方、実施例11、15〜17が示すよう、銀または銀化合物を外気と接する表面および気孔に被覆されても、その効果は十分発揮されることも明らかとなった。また、この場合においても金属カーボン複合通電摺動材を構成する金属成分中の銀または銀化合物の含有率が0.01wt%以上となれば、その効果は十分に発揮されることは、比較例6との比較から明らかである。
【0073】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態や実施例に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀又は銀化合物を被覆した粒子が配合されていることを特徴とする金属カーボン複合通電摺動材料。
【請求項2】
前記銀又は銀化合物を被覆した粒子の平均粒径が、5μmを超えるものである請求項1に記載の金属カーボン複合通電摺動材料。
【請求項3】
銀又は銀化合物を被覆する前の前記粒子自体の密度が、銅以下である請求項1又は2に記載の金属カーボン複合通電摺動材料。
【請求項4】
銀又は銀化合物を被覆する前の前記粒子自体の密度が、黒鉛以上である請求項3に記載の金属カーボン複合通電摺動材料。
【請求項5】
前記銀又は銀化合物を被覆した粒子が、メッキ法によって銀又は銀化合物が被覆されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属カーボン複合通電摺動材料。
【請求項6】
外気と接する表面および気孔が銀又は銀化合物により被覆された金属黒鉛材料を有していることを特徴とする金属カーボン複合通電摺動材料。
【請求項7】
前記銀化合物が溶媒に可溶なものであり、前記銀化合物を含んだ溶液に浸漬することによって、前記銀化合物が被覆されたことを特徴とする請求項6に記載の金属カーボン複合通電摺動材料。
【請求項8】
前記銀化合物が水溶性であることを特徴とする請求項7に記載の金属カーボン複合通電摺動材料。
【請求項9】
含有される金属成分に対して、銀又は銀化合物の含有量が0.01wt%以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属カーボン複合通電摺動材料。

【公開番号】特開2007−306724(P2007−306724A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133389(P2006−133389)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(592026174)東炭化工株式会社 (11)
【Fターム(参考)】