説明

金属ジルコニウムの製造方法

【課題】工程数が少なく、二次廃棄物の発生量が少ない方法で、ハフニウムを含むジルコニウム化合物から金属ジルコニウムを得る製造方法を提供する。
【解決手段】金属ジルコニウムの製造方法は、ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む第1の物質からハフニウム酸塩化物を分離することにより、ジルコニウム酸塩化物の含有率が高くなった第2の物質を得る分離工程と、前記第2の物質を仮焼して、ジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかを含む第3の物質を得る仮焼工程と、前記第3の物質を陰極57に接触させた状態で溶融塩13中に保持し、陽極56との間に電圧を印加して直接還元することにより金属ジルコニウムを得る直接還元工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む物質から金属ジルコニウムを得る製造方法に関し、特に、中間工程で生じたジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかを含む物質を溶融塩中で直接還元または電解精製することにより金属ジルコニウムを得る製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子燃料の被覆管やチャンネルボックス(CB)に使用されるジルカロイ合金の材料である金属ジルコニウムは、ジルコンサンドと呼ばれるジルコニウム酸化物から同族元素のハフニウムなどの不純物を除去して製造される。
【0003】
金属ジルコニウムの製造方法としては、米国特許第6929786号明細書(特許文献1)に、ハフニウムを含むジルコニウム酸化物を塩化物に転換し、塩化物の蒸気圧の差によりジルコニウムからハフニウムを分離する塩化揮発法が開示されている。
【0004】
また、金属ジルコニウムの製造方法としては、米国特許第5762890号明細書(特許文献2)に、ジルコニウム酸化物を酸塩化物に転換した後、塩酸に溶解し溶媒抽出してジルコニウムからハフニウムを分離する方法が開示されている。
【0005】
この特許文献2には、ハフニウムを分離した後の精製したジルコニウム酸塩化物から金属ジルコニウムを製造する方法として、ジルコニウム酸塩化物を一旦、酸化ジルコニウムに転換した後、塩化物にして、クロール法により金属ジルコニウムを製造する方法が開示されている。
【特許文献1】米国特許第6929786号明細書
【特許文献2】米国特許第5762890号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された塩化揮発法では、副生成物として塩化アンモニウム等の塩化物が生成し、この塩化物が二次廃棄物になるため、二次廃棄物の発生量が多いという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に開示されたクロール法を用いる場合は、工程数が多い上、二次廃棄物の発生量が多いという問題があった。
【0008】
すなわち、クロール法を用いる場合は、ハフニウムを分離した後の精製したジルコニウム酸塩化物を一旦、酸化ジルコニウムに転換した後に、第1の還元工程で炭素熱還元により塩化ジルコニウムにし、第2の還元工程で塩化ジルコニウムにマグネシウムを用いたクロール法による還元を行って金属ジルコニウムを得るため、2つの還元工程が必要になる。
【0009】
そして、この第2の還元工程では、副生成物として二次廃棄物となる塩化マグネシウム等の塩化物が生成する。また、第1の還元工程の前に行われる、ジルコニウム酸塩化物を酸化ジルコニウムに転換する工程では、二次廃棄物となる塩化アンモニウムが副生する。
【0010】
このため、特許文献2に開示されたようなクロール法を用いる場合には、酸塩化物と酸化物に転換した後、金属に還元することにより、工程数が増加するため、製造コストが高いとともに二次廃棄物の発生量が多いという問題があった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、工程数が少なく、二次廃棄物の発生量が少ない方法で、ハフニウムを含むジルコニウム化合物から金属ジルコニウムを得る金属ジルコニウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る金属ジルコニウムの製造方法は、上記問題点を解決するものであり、ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む第1の物質からハフニウム酸塩化物を分離することにより、ジルコニウム酸塩化物の含有率が高くなった第2の物質を得る分離工程と、前記第2の物質を仮焼して、ジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかを含む第3の物質を得る仮焼工程と、前記第3の物質を陰極に接触させた状態で溶融塩中に保持し、陽極との間に電圧を印加して直接還元することにより金属ジルコニウムを得る直接還元工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る金属ジルコニウムの製造方法は、上記問題点を解決するものであり、ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む第1の物質からハフニウム酸塩化物を分離することにより、ジルコニウム酸塩化物の含有率が高くなった第2の物質を得る分離工程と、前記第2の物質に水酸化物を加えて、水酸化ジルコニウムを含む第4の物質を得る水酸化物沈殿工程と、前記第4の物質を仮焼して、ジルコニウム酸化物を含む第5の物質を得る仮焼工程と、前記第5の物質を陰極に接触させた状態で溶融塩中に保持し、陽極との間に電圧を印加して直接還元することにより金属ジルコニウムを得る直接還元工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係る金属ジルコニウムの製造方法は、上記問題点を解決するものであり、ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む第1の物質からハフニウム酸塩化物を分離することにより、ジルコニウム酸塩化物の含有率が高くなった第2の物質を得る分離工程と、前記第2の物質を仮焼して、ジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかを含む第3の物質を得る仮焼工程と、前記第3の物質を溶融塩中に溶解し、溶融塩中に浸漬した陰極と陽極との間に電圧を印加して電解精製することにより金属ジルコニウムを得る電解精製工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る金属ジルコニウムの製造方法によれば、工程数が少なく、二次廃棄物の発生量が少ない方法で、ハフニウムを含むジルコニウム化合物から金属ジルコニウムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る金属ジルコニウムの製造方法について図面を参照して説明する。
【0017】
[金属ジルコニウムの第1の製造方法]
本発明に係る金属ジルコニウムの第1の製造方法は、分離工程と、仮焼工程と、直接還元工程と、を有する。
【0018】
図1は、本発明に係る金属ジルコニウムの第1の製造方法の一例を示すフロー図である。
【0019】
第1の製造方法では、分離工程の前に、通常、酸塩化物生成工程が行われる。
【0020】
(酸塩化物生成工程)
酸塩化物生成工程は、ジルコニウムおよびハフニウムを含む被処理物質1を処理して、ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む第1の物質2を取り出す工程である。
【0021】
ジルコニウムおよびハフニウムを含む被処理物質1としては、たとえば不純物としてハフニウムを含むジルコニウム鉱物が挙げられる。ハフニウムを含むジルコニウム鉱物としては、たとえばハフニウムを含むZrSiOが挙げられる。
【0022】
第1の物質2に含まれるジルコニウム酸塩化物としては、たとえばZrOClが挙げられる。第1の物質2に含まれるハフニウム酸塩化物としては、たとえばHfOClが挙げられる。
【0023】
酸塩化物生成工程の具体例としては、ハフニウムを含むジルコニウム鉱物(ZrSiO)1を処理して、ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む酸塩化物2を取り出す方法が挙げられる。
【0024】
(分離工程)
分離工程は、ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む第1の物質2からハフニウム酸塩化物5を分離することにより、ジルコニウム酸塩化物の含有率が高くなった第2の物質4を得る工程である。
【0025】
第1の物質2とは、ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む化合物を意味する。ジルコニウム酸塩化物としては、たとえばZrOClが挙げられる。ハフニウム酸塩化物としては、たとえばHfOClが挙げられる。
【0026】
第2の物質4とは、第1の物質2からハフニウム酸塩化物を分離することにより第1の物質2よりもジルコニウム酸塩化物の含有率が高くなった化合物、すなわち、精製されたジルコニウム酸塩化物を意味する。第2の物質4としては、たとえば不純物以外はZrOClからなる精製されたZrOClが挙げられる。
【0027】
第1の物質2からハフニウム酸塩化物を分離することにより第2の物質4を得る方法としては、たとえば、ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む酸塩化物(第1の物質)2を塩酸に溶解し、溶媒抽出法を用いてジルコニウムとハフニウムとを分離する操作3を行う方法が挙げられる。この分離操作3により、ジルコニウム酸塩化物の含有率が高くなった第2の物質としての精製されたジルコニウム酸塩化物(ZrOCl)4と、ハフニウム化合物(HfOCl)5とが分離される。
【0028】
(仮焼工程)
仮焼工程は、第2の物質4を仮焼して、ジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかを含む第3の物質11を得る工程である。
【0029】
第2の物質4の仮焼10は、不活性ガス雰囲気下で、所定時間加熱する。不活性ガス雰囲気に用いられる不活性ガスとしては、たとえば、アルゴン、窒素等が挙げられる。
【0030】
第2の物質4は、仮焼10されることにより水分が除去され第3の物質11になる。
【0031】
第3の物質11とは、ジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかを含む化合物を意味する。
【0032】
第2の物質4を仮焼すると、仮焼10の程度により、ジルコニウム酸塩化物、ジルコニウム酸化物、およびジルコニウム酸塩化物とジルコニウム酸化物との混合物、三形態を取り得る。第3の物質11は、これらの三形態を含む概念である。
【0033】
第3の物質11としては、たとえば、ZrOおよびZrOClのいずれか1種または2種の混合物が挙げられる。
【0034】
(直接還元工程)
直接還元工程は、第3の物質11を陰極に接触させた状態で溶融塩中に保持し、陽極との間に電圧を印加して直接還元することにより金属ジルコニウム18を得る工程である。
【0035】
図2は、直接還元工程を説明する図である。
【0036】
直接還元工程では、第3の物質11を陰極57に接触させた状態で溶融塩13中に保持する。第3の物質11を陰極57に接触させた状態で溶融塩13中に保持させる方法としては、たとえば、図2に示すように、陰極57に接続されたバスケット55中に固体の状態の第3の物質11を保持し、バスケット55ごと、電解槽51内に満たされた溶融塩13中に浸漬させる方法が挙げられる。
【0037】
バスケット55とは、導電性を有する材質からなり、内外に溶融塩13が流通可能な構造を有する箱である。バスケット55としては、たとえば、ステンレス製でメッシュ構造の有底筒状体が用いられる。バスケット55は、陰極57に電気的に接続される。
【0038】
第3の物質11を溶融塩13中に保持させる場合、第3の物質11の水分は、不活性ガス雰囲気下で、減圧にすることにより実質的に完全に除去する。不活性ガス雰囲気に用いられる不活性ガスとしては、たとえば、アルゴン、窒素等が挙げられる。
【0039】
直接還元工程で用いられる溶融塩13としては、たとえば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のいずれかの塩化物と、この塩化物を構成する金属元素と同じ金属元素の酸化物とを含むものが用いられる。
【0040】
アルカリ金属の塩化物としては、たとえば、LiClが挙げられる。アルカリ土類金属の塩化物としては、たとえば、MgClおよびCaClが挙げられる。アルカリ金属の酸化物としては、たとえば、LiOが挙げられる。アルカリ土類金属の酸化物としては、たとえば、MgOおよびCaOが挙げられる。
【0041】
また、溶融塩13は、LiCl、MgClおよびCaClのいずれかの塩化物の溶融塩中に、この塩化物を構成する金属元素と同じ金属元素の酸化物を溶融させたものが好ましい。
【0042】
LiCl、MgClおよびCaClのいずれかの塩化物を構成する金属元素と同じ金属元素の酸化物としては、それぞれLiO、MgOおよびCaOが挙げられる。
【0043】
溶融塩13は、たとえば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のいずれかの塩化物を溶融したものに、この塩化物を構成する金属元素と同じ金属元素の酸化物を添加して溶融させることにより、調製される。
【0044】
直接還元工程では、溶融塩13中に陽極56を浸漬し、陰極57に接触した状態に保持された第3の物質11との間に電圧を印加して直接還元14することにより、第3の物質11が還元されて金属ジルコニウム18が得られる。
【0045】
陽極56の形状としては特に限定されない。陽極56の材質としては、たとえば、白金、黒鉛等が用いられる。
【0046】
たとえば、図2に示すように、第3の物質11をバスケット55中に保持した場合は、第3の物質11は、バスケット55中で還元されて金属ジルコニウム18を生成する。
【0047】
直接還元工程の陰極57では、下記式(1)〜(3)の反応式のうち、全ての式、下記式(1)のみ、または下記式(2)および(3)の反応が生じ、固体の状態の第3の物質11がそのまま直接還元14されて金属ジルコニウム18が得られる。
[化1]
ZrO+4e → Zr+2O2− (1)
[化2]
ZrOCl+2e → ZrO2−+Cl (2)
[化3]
ZrO2− → Zr+O2− (3)
【0048】
すなわち、第3の物質11がジルコニウム酸化物のみからなる場合、式(1)の反応が生じて、ジルコニウム酸化物から金属ジルコニウムが生成する。
【0049】
また、第3の物質11がジルコニウム酸塩化物のみからなる場合、式(2)の反応が生じてジルコニウム酸塩化物からZrO2−が生成したのち、式(3)の反応が生じてZrO2−から金属ジルコニウムが生成する。
【0050】
さらに、第3の物質11がジルコニウム酸化物およびジルコニウム酸塩化物を含む場合、式(1)〜(3)の反応が生じて、ジルコニウム酸化物およびジルコニウム酸塩化物から、金属ジルコニウムが生成する。
【0051】
陽極56が白金である場合、直接還元工程の陽極56では、下記式(4)の反応が生じ、酸素が発生する。
[化4]
2O2− → O+4e (4)
【0052】
陽極56が黒鉛である場合、直接還元工程の陽極56では、下記式(5)の反応が生じ、二酸化炭素が発生する。
[化5]
C+2O2− → CO+4e (5)
【0053】
直接還元工程を経て得られた金属ジルコニウム18は、たとえば、ジルカロイとした後、原子燃料の被覆管やチャンネルボックスの作製に使用される。
【0054】
金属ジルコニウムの第1の製造方法によれば、工程数が少なく、二次廃棄物の発生量が少ない方法で、ハフニウムを含むジルコニウム化合物から金属ジルコニウムを製造することができる。
【0055】
なお、溶融塩13は、直接還元工程に用いられた後は、使用後の溶融塩19になる。たとえば、MgClおよびMgOを含む溶融塩13が、直接還元工程に用いられた後は、溶融塩13に比べてMgClの含有率が高くなった使用後の溶融塩19になる。使用後の溶融塩19は、以下の溶融塩再生工程を実施することにより溶融塩13に再生することができる。
【0056】
(溶融塩再生工程)
溶融塩再生工程は、直接還元工程で用いられた溶融塩19中に存在するLi、MgおよびCaの少なくともいずれかの塩化物を電解して、金属Li、金属Mgおよび金属Caの少なくともいずれかを再生する工程である。
【0057】
具体的には、図2に示すバスケット55に代えて、棒状、板状等の図示しない陰極を用い、電解することにより、陰極表面に金属Li、金属Mgおよび金属Caの少なくともいずれかを付着させることができる。付着した金属は、金属Li、金属Mgおよび金属Caそのままでまたはこれらの金属の化合物として再利用することができる。
【0058】
本工程では、溶融塩19中のLiCl、MgCl、CaCl等を、金属Li、金属Mg、金属Ca等に再生する。さらに金属Li、金属Mg、金属Ca等を公知の方法でLiO、MgO、CaO等に再生する。これにより、直接還元工程後の溶融塩19を溶融塩13として再生して繰り返し使用することができるため、直接還元工程で生じるアルカリ金属の塩化物またはアルカリ土類金属の塩化物溶融塩を二次廃棄物にしない。
【0059】
溶融塩再生工程は、直接還元工程で用いられた溶融塩を再生する工程であるため、通常、直接還元工程の後に行われる。
【0060】
[金属ジルコニウムの第2の製造方法]
本発明に係る金属ジルコニウムの第2の製造方法は、分離工程と、水酸化物沈殿工程と、仮焼工程と、直接還元工程と、を有する。
【0061】
図3は、本発明に係る金属ジルコニウムの第2の製造方法の一例を示すフロー図である。金属ジルコニウムの第2の製造方法が示された図3中、金属ジルコニウムの第1の製造方法が示された図1と同じ操作、物質については、図1と同じ符号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0062】
金属ジルコニウムの第2の製造方法は、金属ジルコニウムの第1の製造方法に対して、分離工程と仮焼工程との間に水酸化物沈殿工程が設けられた点で異なり、他の点は実質的に同じであるため、相違点についてのみ説明する。
【0063】
金属ジルコニウムの第2の製造方法では、金属ジルコニウムの第1の製造方法と同様に、予備的工程としての酸塩化物生成工程および分離工程を行い、第2の物質4を得る。
【0064】
金属ジルコニウムの第2の製造方法では、分離工程の後に、水酸化物沈殿工程を行う。
【0065】
(水酸化物沈殿工程)
水酸化物沈殿工程は、第2の物質4に水酸化物6を加えて、水酸化ジルコニウムを含む第4の物質8を得る工程である。
【0066】
水酸化物沈殿工程7で用いられる水酸化物6としては、たとえば、水酸化アンモニウムが挙げられる。
【0067】
第4の物質8とは、第2の物質4である精製されたジルコニウム酸塩化物を水酸化してなる水酸化ジルコニウムを意味する。
【0068】
第2の物質4を水酸化して水酸化ジルコニウムを含む第4の物質8を得る方法としては、たとえば、水酸化アンモニウム(NHOH)6中に精製されたジルコニウム酸塩化物(第2の物質)4を添加して水酸化ジルコニウム(第4の物質)8の沈殿を生成する方法が挙げられる。水酸化アンモニウム(NHOH)6を用いた場合は、塩化アンモニウム(NHCl)9が副生する。
【0069】
(仮焼工程)
仮焼工程は、第4の物質8を仮焼して、ジルコニウム酸化物を含む第5の物質11Aを得る工程である。
【0070】
第4の物質8の仮焼10の条件は、金属ジルコニウムの第1の製造方法の仮焼工程の条件と同じであるため、説明を省略する。
【0071】
水酸化ジルコニウムを含む第4の物質8は、仮焼10されることにより第5の物質11Aになる。
【0072】
第5の物質11Aとは、第4の物質8である水酸化ジルコニウムを酸化してなるジルコニウム酸化物を意味する。
【0073】
第4の物質8を仮焼10すると、通常、硫酸ナトリウム(NaSO)12が副生する。
【0074】
(直接還元工程)
直接還元工程は、第5の物質11Aを陰極に接触させた状態で溶融塩中に保持し、陽極との間に電圧を印加して直接還元することにより金属ジルコニウム18を得る工程である。
【0075】
金属ジルコニウムの第2の製造方法の直接還元工程は、金属ジルコニウムの第1の製造方法の直接還元工程に対し、金属ジルコニウムの第1の製造方法の直接還元工程が第3の物質11としてのジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかについて行われるのに対し、金属ジルコニウムの第2の製造方法の直接還元工程では第5の物質11Aとしてのジルコニウム酸化物についてのみ行われる点以外は、同じである。このため直接還元工程についての説明を省略する。
【0076】
金属ジルコニウムの第2の製造方法によれば、金属ジルコニウムの第1の製造方法と同じ効果に加え、直接還元工程で直接還元する対象がジルコニウム酸化物の1種類であるため、直接還元工程で直接還元する対象がジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかである金属ジルコニウムの第1の製造方法よりも、直接還元工程の条件を調整しやすい。
【0077】
なお、金属ジルコニウムの第2の製造方法においても、金属ジルコニウムの第1の製造方法の場合と同様に溶融塩再生工程を実施することができる。
【0078】
[金属ジルコニウムの第3の製造方法]
本発明に係る金属ジルコニウムの第3の製造方法は、分離工程と、仮焼工程と、電解精製工程と、を有する。
【0079】
図4は、本発明に係る金属ジルコニウムの第3の製造方法の一例を示すフロー図である。図5は、本発明に係る金属ジルコニウムの第3の製造方法の変形例を示すフロー図である。金属ジルコニウムの第3の製造方法が示された図4中、金属ジルコニウムの第1の製造方法が示された図1と同じ操作、物質については、図1と同じ符号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0080】
金属ジルコニウムの第3の製造方法は、金属ジルコニウムの第1の製造方法に対して、直接還元工程に代えて電解精製工程を行う点で異なり、他の点は実質的に同じであるため、相違点についてのみ説明する。
【0081】
金属ジルコニウムの第3の製造方法では、金属ジルコニウムの第1の製造方法と同様に、予備的工程としての酸塩化物生成工程、分離工程、および仮焼工程を行い、第3の物質11を得る。
【0082】
金属ジルコニウムの第3の製造方法では、仮焼工程の後に、電解精製工程を行う。
【0083】
(電解精製工程)
電解精製工程は、第3の物質11を溶融塩中に溶解し、溶融塩中に浸漬した陰極と陽極との間に電圧を印加して電解精製することにより金属ジルコニウム18を得る工程である。
【0084】
電解精製工程21では、ジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかを含む第3の物質11を溶融塩20中に溶解して、ジルコニウムイオンZr4+を生成する。第3の物質11を溶融塩20中に溶解させる方法としては、溶融塩20を、ジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかが融解可能な温度にする方法が挙げられる。
【0085】
電解精製工程で用いられる溶融塩20としては、たとえば、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のいずれかの塩化物を含むものが用いられる。
【0086】
アルカリ金属の塩化物としては、たとえば、LiCl、NaCl、KClが挙げられる。アルカリ土類金属の塩化物としては、たとえば、MgClおよびCaClが挙げられる。
【0087】
また、溶融塩20としては、たとえば、塩化カリウムと塩化ナトリウムの混合塩、塩化カリウムと塩化リチウムの混合塩、塩化ナトリウムと塩化セシウムの混合塩等の二元系塩化物溶融塩が挙げられる。
【0088】
溶融塩20は、フッ化物をさらに含むと、ジルコニウムの4価イオンが溶融塩20中で安定化し、金属ジルコニウムが陰極に定量的に析出するため好ましい。フッ化物としては、たとえば、KF、NaF、LiF、CsFが挙げられる。
【0089】
溶融塩20の具体例としては、塩化カリウムと塩化ナトリウムの混合塩にフッ化カリウムまたはフッ化ナトリウムを添加した塩、塩化カリウムと塩化リチウムの混合塩にフッ化カリウムやフッ化リチウムを添加した塩、塩化ナトリウムと塩化セシウムの混合塩にフッ化ナトリウムやフッ化セシウムを添加した塩が挙げられる。
【0090】
図5に溶融塩20として、フッ化物を含む溶融塩20Aを用いた例を示す。図5は、溶融塩20Aを用いた以外は、図4と同じであるため、図4と同じ操作および物質に同じ符号を付し、説明を省略する。
【0091】
電解精製工程では、溶融塩20中に浸漬した図示しない陰極と陽極との間に電圧を印加して電解精製することにより、溶融塩20中のジルコニウムイオンZr4+が還元されて金属ジルコニウムが得られる。
【0092】
陽極の形状としては特に限定されない。陽極の材質としては、たとえば、Zrが用いられる。
【0093】
陰極の形状としては特に限定されないが、たとえば、円筒状、円柱状、板状等が挙げられる。陰極の材質としては、たとえば、低炭素鋼やZrが用いられる。
【0094】
電解精製工程の陰極では、下記式(6)の反応が生じ、ジルコニウムイオンZr4+が還元されて金属ジルコニウム18が得られる。
[化6]
Zr4++4e → Zr (6)
【0095】
電解精製工程の陽極では、下記式(7)の反応が生じ、ジルコニウムイオンZr4+が生じる。
[化7]
Zr → Zr4++4e (7)
【0096】
電解精製工程を経て得られた金属ジルコニウム18は、たとえば、ジルカロイとした後、原子燃料の被覆管やチャンネルボックスの作製に使用される。
【0097】
金属ジルコニウムの第3の製造方法によれば、金属ジルコニウムの第1の製造方法と同じ効果に加え、直接還元工程よりも簡便な電解精製工程で金属ジルコニウムを製造することができ、製造コストが低くなり、製造時間を短縮させることができる。
【0098】
上記の金属ジルコニウムの第1の製造方法〜第3の製造方法では、分離工程においてジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む第1の物質2からハフニウム酸塩化物5を分離している。金属ジルコニウムの第1の製造方法〜第3の製造方法は、第1の物質2から分離したハフニウム酸塩化物5を還元することにより金属ハフニウムを得る製造方法をさらに含むものであってもよい。
【0099】
金属ハフニウムを得る製造方法としては、たとえば、以下の方法が挙げられる。
【0100】
[金属ハフニウムの第1の製造方法]
金属ハフニウムの第1の製造方法は、仮焼工程と、直接還元工程と、を有する。
【0101】
図6は、本発明に係る金属ハフニウムの第1の製造方法の一例を示すフロー図である。金属ハフニウムの第1の製造方法が示された図6中、金属ジルコニウムの第1の製造方法が示された図1と同じ操作、物質については、図1と同じ符号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0102】
(仮焼工程)
仮焼工程は、金属ジルコニウムの第1の製造方法〜第3の製造方法の分離工程で第1の物質2から分離され、ハフニウム酸塩化物の含有率が高くなった第6の物質5を仮焼して、ハフニウム酸塩化物およびハフニウム酸化物の少なくともいずれかを含む第7の物質27を得る工程である。
【0103】
第6の物質5とは、金属ジルコニウムの第1の製造方法〜第3の製造方法の分離工程で第1の物質2からジルコニウム酸塩化物を分離することにより第1の物質2よりもハフニウム酸塩化物の含有率が高くなった化合物、すなわち、精製されたハフニウム酸塩化物を意味する。第6の物質5としては、たとえば、HfOClが挙げられる。
【0104】
第6の物質5の仮焼26は、不活性ガス雰囲気下で、所定時間加熱する。不活性ガス雰囲気に用いられる不活性ガスとしては、たとえば、アルゴン、窒素等が挙げられる。
【0105】
第6の物質5は、仮焼26されることにより第7の物質27になる。
【0106】
第7の物質27とは、ハフニウム酸塩化物およびハフニウム酸化物の少なくともいずれかを含む化合物を意味する。
【0107】
第6の物質5を仮焼すると、仮焼26の程度により、ハフニウム酸塩化物およびハフニウム酸化物、およびハフニウム酸塩化物とハフニウム酸化物との混合物、三形態を取り得る。第7の物質27は、これらの三形態を含む概念である。
【0108】
第7の物質27としては、たとえば、HfOおよびHfOClのいずれか1種または2種の混合物が挙げられる。
【0109】
(直接還元工程)
直接還元工程は、第7の物質27を陰極に接触させた状態で溶融塩中に保持し、陽極との間に電圧を印加して直接還元することにより金属ハフニウム33を得る工程である。
【0110】
金属ハフニウムの第1の製造方法の直接還元工程は、金属ジルコニウムの第1の製造方法の直接還元工程に対し、第3の物質11に代えて第7の物質27を直接還元する点以外は同じである。このため、両工程で共通する部分については説明を省略または簡略化し、主に相違点について説明する。
【0111】
なお、金属ジルコニウムの第1の製造方法の直接還元工程では、溶融塩を13、電解還元を14と示したが、本工程では、溶融塩を29、電解還元を28と示す。本工程で用いられる溶融塩29は、金属ジルコニウムの第1の製造方法の直接還元工程で用いられる溶融塩13と同じものが用いられる。
【0112】
両工程の相違点は、直接還元工程の際の陰極電位、電解時の温度、および直接還元工程の陰極での反応式である。
【0113】
本工程の陰極では、下記式(8)〜(10)の反応式のうち、全ての式、下記式(8)のみ、または下記式(9)および(10)の反応が生じ、固体の状態の第7の物質27がそのまま直接還元されて金属ハフニウム33が得られる。
[化8]
HfO+4e → Hf+2O2− (8)
[化9]
HfOCl+2e → HfO2−+Cl (9)
[化10]
HfO2− → Hf+O2− (10)
【0114】
すなわち、第7の物質27がハフニウム酸化物のみからなる場合、式(8)の反応が生じて、ハフニウム酸化物から金属ハフニウムが生成する。
【0115】
また、第7の物質27がハフニウム酸塩化物のみからなる場合、式(9)の反応が生じてハフニウム酸塩化物からHfO2−が生成したのち、式(10)の反応が生じてHfO2−から金属ハフニウムが生成する。
【0116】
さらに、第7の物質27がハフニウム酸化物およびハフニウム酸塩化物を含む場合、式(8)〜(10)の反応が生じて、ハフニウム酸化物およびハフニウム酸塩化物から、金属ハフニウムが生成する。
【0117】
陽極が白金である場合、本工程の陽極では、金属ジルコニウムの第1の製造方法の直接還元工程と同様に上記式(4)の反応が生じ、酸素が発生する。
【0118】
陽極が黒鉛である場合、本工程の陽極では、金属ジルコニウムの第1の製造方法の直接還元工程と同様に上記式(5)の反応が生じ、二酸化炭素が発生する。
【0119】
直接還元工程を経て得られた金属ハフニウム33は、たとえば、制御棒や半導体の材料として使用される。
【0120】
金属ジルコニウムの第1の製造方法〜第3の製造方法に、金属ハフニウムの第1の製造方法を組み合わせた金属ジルコニウムの製造方法によれば、金属ジルコニウムの第1の製造方法〜第3の製造方法と同じ効果に加え、工程数が少なく、二次廃棄物の発生量が少ない方法で、金属ハフニウムを製造することができる。
【0121】
[金属ハフニウムの第2の製造方法]
金属ハフニウムの第2の製造方法は、水酸化物沈殿工程と、仮焼工程と、直接還元工程と、を有する。
【0122】
図7は、本発明に係る金属ハフニウムの第2の製造方法の一例を示すフロー図である。金属ハフニウムの第2の製造方法が示された図7中、金属ハフニウムの第1の製造方法が示された図6と同じ操作、物質については、図6と同じ符号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0123】
金属ハフニウムの第2の製造方法は、金属ハフニウムの第1の製造方法に対して、分離工程と仮焼工程との間に水酸化物沈殿工程が設けられた点で異なり、他の点は実質的に同じであるため、相違点についてのみ説明する。
【0124】
金属ハフニウムの第2の製造方法では、金属ハフニウムの第1の製造方法と同様に分離工程を行い、第7の物質27を得る。
【0125】
金属ハフニウムの第2の製造方法では、分離工程の後に、水酸化物沈殿工程を行う。
【0126】
(水酸化物沈殿工程)
水酸化物沈殿工程は、金属ジルコニウムの第1の製造方法〜第3の製造方法の分離工程で第1の物質2から分離され、ハフニウム酸塩化物の含有率が高くなった第6の物質5に水酸化物を加えて、水酸化ハフニウムを含む第8の物質25を得る工程である。
【0127】
水酸化物沈殿工程で用いられる水酸化物としては、たとえば、水酸化物アンモニウムが挙げられる。
【0128】
第8の物質25とは、第6の物質5である精製されたハフニウム酸塩化物を水酸化してなる水酸化ハフニウムを意味する。
【0129】
第6の物質5を水酸化して水酸化ハフニウムを含む第8の物質25を得る方法としては、たとえば、水酸化アンモニウム(NHOH)中に精製されたハフニウム酸塩化物(第6の物質)5を添加して水酸化ハフニウム(第8の物質)25の沈殿を生成する方法が挙げられる。水酸化アンモニウム(NHOH)を用いた場合は、塩化アンモニウム(NHCl)が副生する。
【0130】
(仮焼工程)
仮焼工程は、第8の物質25を仮焼して、ハフニウム酸化物を含む第9の物質27Aを得る工程である。
【0131】
第8の物質25の仮焼10の条件は、金属ハフニウムの第1の製造方法の仮焼工程の条件と同じであるため、説明を省略する。
【0132】
水酸化ハフニウムを含む第8の物質25は、仮焼26されることにより第9の物質27Aになる。
【0133】
第9の物質27Aとは、第8の物質25である水酸化ハフニウムを酸化してなるハフニウム酸化物を意味する。
【0134】
(直接還元工程)
直接還元工程は、第9の物質27Aを陰極に接触させた状態で溶融塩中に保持し、陽極との間に電圧を印加して直接還元することにより金属ハフニウム33を得る工程である。
【0135】
金属ハフニウムの第2の製造方法の直接還元工程は、金属ハフニウムの第1の製造方法の直接還元工程に対し、金属ハフニウムの第1の製造方法の直接還元工程が第7の物質27としてのハフニウム酸塩化物およびハフニウム酸化物の少なくともいずれかについて行われるのに対し、金属ハフニウムの第2の製造方法の直接還元工程では第9の物質27Aとしてのハフニウム酸化物についてのみ行われる点以外は、同じである。このため直接還元工程についての説明を省略する。
【0136】
金属ジルコニウムの第1の製造方法〜第3の製造方法に、金属ハフニウムの第2の製造方法を組み合わせた金属ジルコニウムの製造方法によれば、金属ジルコニウムの第1の製造方法〜第3の製造方法に、金属ハフニウムの第1の製造方法を組み合わせた金属ジルコニウムの製造方法と同じ効果を有する。
【0137】
さらに、金属ジルコニウムの第1の製造方法〜第3の製造方法に、金属ハフニウムの第2の製造方法を組み合わせた金属ジルコニウムの製造方法によれば、直接還元工程で直接還元する対象がハフニウム酸化物の1種類であるため、金属ジルコニウムの第1の製造方法〜第3の製造方法に、金属ハフニウムの第1の製造方法を組み合わせた金属ジルコニウムの製造方法よりも、直接還元工程の条件を調整しやすい。
【0138】
なお、金属ハフニウムの第2の製造方法においても、金属ハフニウムの第1の製造方法の場合と同様に溶融塩再生工程を実施することができる。
【実施例】
【0139】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
【0140】
[実施例1]
図1に示す手順で金属ジルコニウムを製造した。
【0141】
(酸塩化物生成工程)
ジルコニウム鉱物(ZrSiO)1を処理してジルコニウムを多く含んだ酸塩化物(ZrOCl)2を取り出した。酸塩化物(ZrOCl)2には不純物としてのハフニウム化合物が含まれていた。
【0142】
(分離工程)
ジルコニムの酸塩化物(ZrOCl)2を塩酸に溶解し、溶媒抽出法を用いた分離工程3により、ジルコニウム化合物(ZrOCl)4とハフニウム化合物(HfOCl)5を分離した。分離したジルコニウム化合物(ZrOCl)4およびハフニウム化合物(HfOCl)5は、それぞれ回収した。
【0143】
(仮焼工程)
精製されたジルコニウム酸塩化物(ZrOCl)4を、仮焼工程10において、アルゴンガス雰囲気下、所定温度、時間で仮焼したところ、水分が除去され、ZrOCl−ZrO混合物11が生成された。
【0144】
(直接還元工程)
図2に示す装置を用い、アルゴンガス雰囲気の下、電解槽51内に、溶融した塩化マグネシウムMgClに、酸化マグネシウムMgOを溶解してなる溶融塩13を満たした。溶融塩13は、アルゴンガスのバブルで撹拌した。
【0145】
次に、図2に示すステンレス製でメッシュ状の有底筒状のバスケット55内に、ZrOCl−ZrO混合物11を載置し、バスケット55ごと溶融塩13中に浸漬させた。溶融塩13はバスケット55のメッシュ状壁面を介してバスケット55内に速やかに浸入し、バスケット55内は溶融塩13で満たされた。
【0146】
さらに、白金製の棒状陽極17をバスケット55外の溶融塩13中に浸漬させた後、バスケット55に陰極16を接続し、陽極17と陰極16との間に電圧を印加した。
【0147】
この状態で電圧を印加し続けた後、バスケット55を溶融塩13から引き上げたところ、バスケット55内に金属ジルコニウム18が得られた。電解還元14の終了後の溶融塩19は、電解還元開始前に比べてMgClの濃度が高くなり、MgOの濃度が低下していた。
【0148】
(溶融塩再生工程)
直接還元工程後、MgClとMgOをする溶融塩19中に図示しない白金製棒状陰極を浸漬し、陽極17との間に電圧を印加した。電圧の印加は、白金製棒状陰極の電位および電流密度を所定値になるように調整した。
【0149】
この状態で電圧を印加し続けた後、白金製棒状陰極を溶融塩19から引き上げたところ、白金製棒状陰極の表面に金属マグネシウムが析出していた。
【0150】
得られた金属マグネシウムは、処理してMgOを生成した後、次の直接還元工程に用いる溶融塩13の原料として再利用した。
【0151】
従来の還元方法では、塩化アンモニウムNHClがプロセス廃棄物(二次廃棄物)になっていたが、本実施例ではNHClを生成しないためNHClのプロセス廃棄物はなかった。
【0152】
また、従来は、直接還元工程でMgClの含有量が高くなった溶融塩13はプロセス廃棄物になっていたが、本実施例では溶融塩再生工程により溶融塩13の再利用が可能になったためMgClのプロセス廃棄物は少なくなった。
【0153】
[比較例1]
図8に示す手順で金属ジルコニウムを製造した。
【0154】
実施例1と同様にして酸塩化物生成工程を行い、ジルコニウム鉱物(ZrSiO)1からジルコニウムを多く含んだ酸塩化物(ZrOCl)2を取り出した。
【0155】
(分離工程)
ジルコニムの酸塩化物(ZrOCl)2を塩酸に溶解し、溶媒抽出法を用いた分離工程3により、ジルコニウム化合物(ZrOCl)4とハフニウム化合物を分離した。分離したジルコニウム化合物(ZrOCl)4およびハフニウム化合物は、それぞれ回収した。
【0156】
(水酸化物沈殿工程)
アンモニウム水(NHOH)中にジルコニウム化合物(ZrOCl)4を溶解させたところ、Zr(OH)が沈殿した。この工程で副生した塩化アンモニウム(NHCl)9は、廃棄物となった。
【0157】
(仮焼工程)
Zr(OH)を乾燥させた後、仮焼工程において、アルゴンガス雰囲気下、所定温度、時間で仮焼したところ、水分が除去され、ジルコニウム酸化物(ZrO)が生成された。
【0158】
(炭素還元工程)
Clを流しながらZrOと黒鉛との混合物を炭素熱還元したところ、塩化ジルコニウム(ZrCl)が生成された。
【0159】
(Mg還元工程)
クロール法により、アルゴンガス中で、金属Mgと塩化ジルコニウム(ZrCl)とを反応させたところ、金属ジルコニウムが得られた。
【0160】
本比較例では、水酸化物沈殿工程において、NHClがプロセス廃棄物になった。
【0161】
本比較例ではMg還元工程で生成したMgClがプロセス廃棄物になった。
【0162】
[実施例2]
図4に示す手順で金属ジルコニウムを製造した。
【0163】
はじめに、実施例1と同様にして、酸塩化物生成工程、分離工程および仮焼工程を行い、ZrOCl−ZrO混合物11を得た。ZrOCl−ZrO混合物11中のジルコニウム酸塩化物(ZrOCl)の含有量およびジルコニウム酸化物(ZrO)の含有量は実施例1と同じであった。
【0164】
(電解精製工程)
アルゴンガス雰囲気の下、電解槽51内に、塩化カリウムと塩化ナトリウムとが溶解してなる溶融塩20を満たした。溶融塩20は、アルゴンガスのバブルで撹拌した。
【0165】
次に、溶融塩20中に、ZrOCl−ZrO混合物11を融解させた。
【0166】
さらに、溶融塩20中に、白金製の棒状陽極とジルコニウム製の棒状陰極とを浸漬し、陽極と陰極との間に電圧を印加し、電解精製21した。
【0167】
この状態で電圧を印加し続けた後、陰極を溶融塩20から引き上げたところ、陰極表面に金属ジルコニウム18が析出していた。
【0168】
(溶融塩再生工程)
電解精製工程後、MgClとMgOがする溶融塩13中に図示しない白金製棒状陰極を浸漬し、陽極17との間に電圧を印加した。電圧の印加は、白金製棒状陰極の電位および電流密度が所定値になるように調整した。
【0169】
この状態で電圧を印加し続けた後、白金製棒状陰極を溶融塩13から引き上げたところ、白金製棒状陰極の表面に金属マグネシウムが析出していた。
【0170】
得られた金属マグネシウムは、処理してMgOを生成した後、次の電解精製工程に用いる溶融塩13の原料として再利用した。
【0171】
本実施例では、水酸化物沈殿工程において、NHClがプロセス廃棄物になった。
【0172】
本実施例では溶融塩再生工程により溶融塩13の再利用が可能になり、MgClのプロセス廃棄物は少なくなった。
【0173】
実施例1、2および比較例1それぞれのプロセス廃棄物の量は以下のとおりである。
【0174】
すなわち、NHClとMgClがプロセス廃棄物になる比較例1の全工程のプロセス廃棄物の重量100に対し、NHClを生成せず、MgClのプロセス廃棄物量が少ない実施例1の全工程のプロセス廃棄物の重量は20であった。
【0175】
また、比較例1の全工程のプロセス廃棄物の重量100に対し、NHClを生成するが、MgClのプロセス廃棄物量が少ない実施例2の全工程のプロセス廃棄物の重量は60であった。
【0176】
[実施例3]
図6に示す手順で金属ハフニウムを製造した。
【0177】
はじめに、実施例1と同様にして酸塩化物生成工程および分離工程を行い、ジルコニウム化合物(ZrOCl)4とハフニウム化合物(HfOCl)5を分離した。分離したジルコニウム化合物(ZrOCl)4およびハフニウム化合物(HfOCl)5は、それぞれ回収した。
【0178】
(仮焼工程)
精製されたハフニウム化合物(HfOCl)5を、仮焼工程26において、アルゴンガス雰囲気下、仮焼したところ、水分が除去され、HfOCl−HfO混合物27が生成された。
【0179】
(直接還元工程)
図2に示す装置を用い、アルゴンガス雰囲気の下、電解槽51内に、溶融した塩化マグネシウムMgClに、酸化マグネシウムMgOを溶解してなる850℃の溶融塩29を満たした。溶融塩29は、アルゴンガスのバブルで撹拌した。
【0180】
次に、図2に示すステンレス製でメッシュ状の有底筒状のバスケット55内に、HfOCl−HfO混合物27を載置し、バスケット55ごと溶融塩29中に浸漬させた。溶融塩29はバスケット55のメッシュ状壁面を介してバスケット55内に速やかに浸入し、バスケット55内は溶融塩29で満たされた。
【0181】
さらに、白金製の棒状陽極17をバスケット55外の溶融塩29中に浸漬させた後、バスケット55に陰極16を接続し、陽極17と陰極16との間に電圧を印加した。電圧の印加は、陰極16の電位および電流密度が所定値になるように調整した。
【0182】
この状態で電圧を印加し続けた後、バスケット55を溶融塩29から引き上げたところ、バスケット55内に金属ハフニウム33が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】本発明に係る金属ジルコニウムの第1の製造方法の一例を示すフロー図。
【図2】直接還元工程を説明する図。
【図3】本発明に係る金属ジルコニウムの第2の製造方法の一例を示すフロー図。
【図4】本発明に係る金属ジルコニウムの第3の製造方法の一例を示すフロー図。
【図5】本発明に係る金属ジルコニウムの第3の製造方法の変形例を示すフロー図。
【図6】本発明に係る金属ハフニウムの第1の製造方法の一例を示すフロー図。
【図7】本発明に係る金属ハフニウムの第2の製造方法の一例を示すフロー図。
【図8】比較例1の金属ジルコニウムの製造方法を示すフロー図。
【符号の説明】
【0184】
1 ジルコニウム鉱物(ジルコニウムおよびハフニウムを含む被処理物質)
2 ジルコニウムの酸塩化物(第1の物質)
3 ジルコニウムとハフニウムの分離工程
4 精製されたジルコニウム酸塩化物(第2の物質)
5 分離されたハフニウム酸塩化物(ハフニウム化合物、第6の物質)
6 水酸化アンモニウム(水酸化物)
7、24 水酸化物沈殿工程
8 ジルコニウム水酸化物(水酸化ジルコニウム、第4の物質)
9 塩化アンモニウム
10、26 仮焼工程
11 ジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかを含む物質(第3の物質)
11A ジルコニウム酸化物を含む物質(第5の物質)
12 硫酸ナトリウム
13、20、20A 溶融塩
14、28 電解還元工程(直接還元工程)
18 金属ジルコニウム
19 使用後の溶融塩
21 電解精製工程
25 ハフニウム水酸化物(水酸化ハフニウム、第8の物質)
27 ハフニウム酸塩化物およびハフニウム酸化物の少なくともいずれかを含む物質(第7の物質)
27A ハフニウム酸化物を含む物質(第9の物質)
33 金属ハフニウム
51 電解槽
55 陰極バスケット
56 陽極
57 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む第1の物質からハフニウム酸塩化物を分離することにより、ジルコニウム酸塩化物の含有率が高くなった第2の物質を得る分離工程と、
前記第2の物質を仮焼して、ジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかを含む第3の物質を得る仮焼工程と、
前記第3の物質を陰極に接触させた状態で溶融塩中に保持し、陽極との間に電圧を印加して直接還元することにより金属ジルコニウムを得る直接還元工程と、
を有することを特徴とする金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項2】
前記直接還元工程で、前記第3の物質は、前記陰極に接続されたバスケット中に固体の状態で保持され、固体の状態のまま直接還元されることを特徴とする請求項1に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項3】
前記溶融塩は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のいずれかの塩化物と、この塩化物を構成する金属元素と同じ金属元素の酸化物とを含むことを特徴とする請求項1に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項4】
前記溶融塩は、LiCl、MgClおよびCaClのいずれかの塩化物の溶融塩中に、この塩化物を構成する金属元素と同じ金属元素の酸化物を溶融させたものであることを特徴とする請求項3に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項5】
前記直接還元工程で用いられた溶融塩中に存在するLi、MgおよびCaの少なくともいずれかの塩化物を電解して、金属Li、金属Mgおよび金属Caの少なくともいずれかを再生する溶融塩再生工程を、さらに有することを特徴とする請求項4に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項6】
ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む第1の物質からハフニウム酸塩化物を分離することにより、ジルコニウム酸塩化物の含有率が高くなった第2の物質を得る分離工程と、
前記第2の物質に水酸化物を加えて、水酸化ジルコニウムを含む第4の物質を得る水酸化物沈殿工程と、
前記第4の物質を仮焼して、ジルコニウム酸化物を含む第5の物質を得る仮焼工程と、
前記第5の物質を陰極に接触させた状態で溶融塩中に保持し、陽極との間に電圧を印加して直接還元することにより金属ジルコニウムを得る直接還元工程と、
を有することを特徴とする金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項7】
前記直接還元工程で、前記第5の物質は、前記陰極に接続されたバスケット中に固体の状態で保持され、固体の状態のまま直接還元されることを特徴とする請求項6に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項8】
前記溶融塩は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくともいずれかの塩化物と、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の少なくともいずれかの酸化物とを含むことを特徴とする請求項6に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項9】
前記溶融塩は、LiCl、MgClおよびCaClの少なくとも1種の溶融塩中に、LiO、MgOおよびCaOの少なくとも1種を溶融させたものであることを特徴とする請求項8に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項10】
ジルコニウム酸塩化物およびハフニウム酸塩化物を含む第1の物質からハフニウム酸塩化物を分離することにより、ジルコニウム酸塩化物の含有率が高くなった第2の物質を得る分離工程と、
前記第2の物質を仮焼して、ジルコニウム酸塩化物およびジルコニウム酸化物の少なくともいずれかを含む第3の物質を得る仮焼工程と、
前記第3の物質を溶融塩中に溶解し、溶融塩中に浸漬した陰極と陽極との間に電圧を印加して電解精製することにより金属ジルコニウムを得る電解精製工程と、
を有することを特徴とする金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項11】
前記溶融塩は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のいずれかの塩化物を含むことを特徴とする請求項10に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項12】
前記溶融塩は、フッ化物をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項13】
前記分離工程で第1の物質から分離され、ハフニウム酸塩化物の含有率が高くなった第6の物質を仮焼して、ハフニウム酸塩化物およびハフニウム酸化物の少なくともいずれかを含む第7の物質を得る仮焼工程と、
前記第7の物質を陰極に接触させた状態で溶融塩中に保持し、陽極との間に電圧を印加して直接還元することにより金属ハフニウムを得る直接還元工程と、
をさらに有することを特徴とする請求項1、請求項6または請求項10に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項14】
前記直接還元工程で、前記第7の物質は、前記陰極に接続されたバスケット中に固体の状態で保持され、固体の状態のまま直接還元されることを特徴とする請求項13に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項15】
前記溶融塩は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のいずれかの塩化物と、この塩化物を構成する金属元素と同じ金属元素の酸化物とを含むことを特徴とする請求項13に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項16】
前記溶融塩は、LiCl、MgClおよびCaClの少なくとも1種の溶融塩中に、LiO、MgOおよびCaOの少なくとも1種を溶融させたものであることを特徴とする請求項15に記載の金属ジルコニウムの製造方法。
【請求項17】
前記分離工程で第1の物質から分離され、ハフニウム酸塩化物の含有率が高くなった第6の物質に水酸化物を加えて、水酸化ハフニウムを含む第8の物質を得る水酸化物沈殿工程と、
前記第8の物質を仮焼して、ハフニウム酸化物を含む第9の物質を得る仮焼工程と、
前記第9の物質を陰極に接触させた状態で溶融塩中に保持し、陽極との間に電圧を印加して直接還元することにより金属ハフニウムを得る直接還元工程と、
をさらに有することを特徴とする請求項1、請求項6または請求項10に記載の金属ジルコニウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−13668(P2010−13668A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171837(P2008−171837)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】