説明

金属チタンの製造方法およびこの方法を用いて得られた金属チタン

【課題】プロセスが単純で、得られる金属チタンの収率比および純度がより高くなる金属チタンの製造方法を提供する。
【解決手段】金属チタンの製造方法は、チタン含有材料をアノードとして、金属材料をカソードとして、溶融塩材料を電解質として用い、電気分解条件で電気分解を行い、金属チタンを得ることとを含み、チタン含有材料は、多孔性構造であり、平均孔径が1mm〜10mm、空隙率は20%〜60%、チタン含有材料中のチタン元素の少なくとも一部分が、TiOの形態で存在し、2>x>0である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2011年9月30日に出願した中国特許第201110293657.8号、表題「金属チタンの製造方法およびこの方法を用いて得られた金属チタン(Method for Production of Metallic Titanium and Metallic Titanium Obtained with the Method)」の優先権を主張し、この出願は、参照によって具体的かつ全体的に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明は、金属チタンの製造方法およびこの方法を用いて得られた金属チタンに関する。
【0003】
チタンおよびチタン合金は、密度が小さく、比強度が高く、耐熱性および耐冷性が高く、耐腐食性が高く、生体適合性が顕著であるなどの利点があり、そのため、「将来性のある金属」、「空間的な広がりがある金属」、「海上用金属」として重宝されている。
【0004】
チタンは、レアメタルの一種に属しているが、実際には、地殻中のチタン元素埋蔵量は7番目であり(0.45wt%)、多くの一般的な金属よりも埋蔵量はかなり多い。
チタンが活性な性質をもつため、精錬プロセスに求められる要件事項は非常に厳格であり、したがって、チタンを大量に製造することは困難である。
したがって、チタンは、「レア」金属材料に分類される。
現時点で、世界で一般的な唯一の金属チタンの工業的な製造プロセスは、クロール法であり、このプロセスは、酸化チタンから塩化チタンを製造することと、マグネシウム還元減圧蒸留と、生成物の後処理と、マグネシウムの電気分解を主に含む手順を含む。
クロール法の利点は、塩素およびマグネシウムの再利用であるが、クロール法の欠点は、プロセスが長いこと、還元効率が低いこと、還元剤が高コストであることであり、したがって、金属チタンの製造コストはきわめて高い。
チタン金属は、航空用途および宇宙用途、軍事用途から民間用途まで、さまざまな工業用途でさらに幅広く使われているため、チタン金属の製造コストを下げるための新しいチタン精錬技術の研究開発は、チタン冶金産業の研究活動で活発な開発分野になってきている。
【0005】
今日まで、チタンを製造するための溶融塩電解プロセスは、クロール法に代わる最も有望なプロセスであるとされている。
溶融塩電解プロセスは、通常は、TiO溶融塩電解、TiCl溶融塩電解、TiOの炭素熱還元生成物の溶融塩電解を含む。
【0006】
典型的なTiO溶融塩電解は、FFCケンブリッジプロセスであり、すなわち、固体TiOをカソードとして用い、グラファイトをアノードとして用い、CaClを電解質として用い、印加される外部電圧が、溶融塩の分解電圧よりも低いとき、カソード上の酸素が、イオンの形態で電解質に入り、アノードに拡散し、炭素と結合してCOガスまたはCOガスを発生し、これがアノードから拡散するが、一方、カソードでは金属チタンが維持されている。
従来の溶融塩電解プロセスとは異なり、FFCプロセスは、金属チタンと酸素を分離し、チタンを得る革新的なプロセスであり、環境に優しく、プロセスが単純であり、連続生産であるなどの利点がある。
しかし、今日までに、FFCプロセスは、実験室でのみうまく実行されているが、主に、FFCプロセスが、以下の問題をもつため、工業生産にはうまく適用されていない。
TiOカソードの比抵抗が大きく、したがって、安定な電気分解を達成することが難しく、カソード(TiO)中のあらゆる不純物がチタンの中に残り、そのため、得られた生成物をさらに精製しなければならず、結果として、金属チタンの製造コストが高くなりすぎる。
【0007】
典型的なTiCl溶融塩電解は、ジナッタ電気分解プロセスであり、米国、日本、旧ソ連、イタリア、フランス、中国などで長期間にわたる徹底的な研究が行われてきており、いくつかの小さなプラントが構築されてきたが、これらのプラントは、実際の製造では、ダイアフラムの損傷、樹枝状結晶の成長などの問題が生じ、予想した技術指標および経済指標が得られなかったため、後に閉鎖された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属チタンを製造する既存の方法における欠点を克服するために、本発明は、新規金属チタンの製造方法およびこの方法を用いて得られた金属チタンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、チタン含有材料をアノードとして、金属材料をカソードとして、溶融塩材料を電解質として用いて、電気分解条件で電気分解を行い、金属チタンを得ることを含む、金属チタンの製造方法であって、チタン含有材料は、多孔性構造であり、平均孔径が1mm〜10mm、空隙率が20%〜60%、チタン含有材料中のチタン元素の少なくとも一部分が、TiOの形態で存在し、2>x>0である、金属チタンの製造方法を提供する。
【0010】
本発明は、金属チタンの別の製造方法であって、以下の工程:
(1) 溶融酸化チタンを含有する原材料を炭素質還元剤と接触させ、酸化チタンを含有する原材料中の酸化チタンを完全または部分的にTiO(2>x>0)まで還元し、前記TiOの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを得る工程、
(2) 工程(1)で得られた前記TiOの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを冷却して成形し、チタン含有材料を得る工程であって、この冷却が、チタン含有材料の平均孔径が1mm〜10mmであり、空隙率が20%〜60%になるように行われる工程、
(3) 工程(2)で得られたチタン含有材料をアノードとして、金属材料をカソードとして、溶融した塩材料を電解質として用いて、電気分解条件で電気分解を行い、金属チタンを得る工程
を含む、方法をさらに提供する。
【0011】
それに加え、本発明は、さらに、上述の製造方法を用いて得られた金属チタンを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本願発明者は、チタン含有材料の平均孔径を1mm〜10mmに制御し、空隙率を20%〜60%に制御すると、チタン含有材料は、アノードとしての要件事項を満たし得、電気分解プロセスで生成する気体(例えば、CO、COなど)がうまく拡散し得、それによって、金属チタンの純度および収率比が非常に高くなるということを発見した。
さらに、酸化チタンの炭素熱還元生成物のための既存の溶融塩電解プロセスは、典型的には、MERプロセスであり、すなわち、酸化チタンおよび炭素質還元剤をボールミルで粉砕し、混合し、加圧成形し、焼結してアノードを形成するか、または、酸化チタンおよび炭素質還元剤を混合し、焼結し、次いで、炭素質還元剤およびバインダーと混合し、加圧成形し、焼結して、アノードを形成する。
本願発明者は、このプロセスが複雑であり、得られたアノードが、簡単に粉々になり、アノード製造プロセスで十分にプレス加工された場合ではないときに、使用するための要件事項を満たし得ないことを発見し、一方、アノードにプレス加工をかけ過ぎると、電気分解プロセス中にアノード分極のような深刻な問題が起こり得ることを発見した。
さらに、加圧成形および焼結プロセスによって得られるアノード材料は、通常は、孔径が小さく、空隙率が低く、その結果、電気分解プロセスで生成した気体(例えばCO)を拡散させるのは難しく、そのため、電気分解の効果は満足のいくものではなかった。
対照的に、本発明の好ましい実施形態におけるチタン含有材料の製造方法では、溶融酸化チタンを含有する原材料をまず炭素質還元剤と接触させ、その結果、酸化チタンを含有する原材料中の酸化チタンが完全または部分的に前記TiOに還元され、前記TiOの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを得て、次いで、TiOの還元生成物を含有するチタンスラグを冷却して成形し、一方、その様式で、得られた溶融還元生成物を直接冷却して成形し、さらなる処理(すなわち、酸化チタンを含有する原材料および炭素質還元剤を混合し、ボールミルで粉砕し、プレス加工することでアノードを形成し、次いで、焼結すること、または、得られた固体状態の還元生成物およびバインダーの混合物をプレス加工してアノードを形成し、次いで、焼結すること)を行わずにアノードを形成し得るので、このプロセスが単純なものとなる。
他方で、酸化チタンを含有する原材料と炭素質還元剤とを接触させることによって得られる還元生成物は、TiO、Ti、Ti、Tiからなる群から選択される1種以上を含んでいてもよく、得られた還元生成物を、接触条件を制御することによって溶融状態になるように制御し、溶融した還元生成物を直接冷却して成形するので、還元生成物は均一な状態であり、それによって、得られたアノードは、均一な組成を有し、電気分解プロセスは安定である。
【0013】
本発明の他の特徴および利点を、以下の実施形態でさらに詳細に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に記載する。
本明細書に記載の実施形態は、単に、本発明を記述し、説明するためだけに与えられているが、本発明を限定する構成であるとみなすべきではないことを理解されたい。
【0015】
本発明で提供される金属チタンの製造方法は、チタン含有材料をアノードとして、金属材料をカソードとして、溶融塩材料を電解質として用いて、電気分解条件で電気分解を行い、金属チタンを得ることとを含み、チタン含有材料は、多孔性構造であり、平均孔径が1mm〜10mm、好ましくは3mm〜7mmであり、空隙率は20%〜60%、好ましくは40%〜60%、チタン含有材料中のチタン元素の少なくとも一部分が、TiOの形態で存在し、2>x>0である。
【0016】
融合電気分解プロセスは、アノードが溶融塩電解質への特定の溶解度をもたなければならないが、酸化チタンは、溶融塩電解質への溶解性は非常に低いか、またはゼロでさえあるので、アノードとして直接使用し、電気分解によって金属チタンを得ることはできず、したがって、x≠2であることが必要なのは、当業者には公知である。
しかし、価数の低い酸化チタンTiO(2>x>0)の溶融塩電解質への溶解度は、電気分解の要求を満たし得る。
さらに、価数の低い酸化チタンTiO(2>x>0)は、溶融塩電解のアノードの他の要件事項も満たし得ることが溶融電気分解の原理からわかっている。したがって、xの値は、上述の範囲内にある限り、本発明で具体的に限定されない。
【0017】
本発明において、チタン含有材料中のTiO(2>x>0)の含有量は、広範囲の中で選択し、変えることができ、好ましくは、チタン含有材料中のTiOの含有量は、電解効果を高めるために、45wt%以上であると決定される。
【0018】
本発明のチタン含有材料の製造方法について、この方法が、平均孔径および空隙率を上述の範囲内に制御し得るのであれば、具体的な限定は定義されておらず、好ましくは、チタン含有材料は、以下の工程:
(1) 溶融酸化チタンを含有する原材料を炭素質還元剤と接触させ、酸化チタンを含有する原材料中の酸化チタンを完全または部分的にTiOまで還元し、前記TiOの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを得る工程、
(2) 工程(1)で得られた前記TiOの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを冷却して成形する工程
を含む製造方法を用いて製造される。
【0019】
ここで、冷却は、任意の外圧がかからない状態での自然な冷却であることに留意されたい。
冷却条件は、通常は、圧力と冷却速度を含む。
上述の平均孔径と空隙率をもつチタン含有材料を得るために、例えば、冷却は、圧力が0.9×10〜1.2×10Pa(絶対圧)、冷却速度が100〜150℃/時間で行われる。
【0020】
本発明では、上に示すように、溶融酸化チタンを含有する原材料を炭素質還元剤と接触させ、接触条件は、酸化チタンを含有する原材料中のチタン化合物を、価数が低いチタン化合物(0価より大きく、4価より小さい)に還元し、生成物が溶融状態であることを確保するように制御され、その結果、異なる価数状態の還元生成物が相互作用し、均一な状態を得ることができる。
より重要なことには、価数が低いチタンの溶融還元生成物を含有するチタンスラグを冷却して成形した後、得られたチタン含有材料は多孔性の構造であり、この構造は、電気分解プロセスで生成した気体(CO、CO)など)がうまく拡散するように有効に確保し得るので、電気分解の結果が非常に良好である。
【0021】
本発明では、酸化チタンを含有する原材料と炭素質還元剤とを接触させる目的は、酸化チタンを含有する原材料中の価数が大きいチタンを価数が小さいチタンに還元することであり、価数が低いチタンは、空洞をもち、導体と半導体の間の性質をもつため、導電性がより高く、溶融塩電解質に溶解し得る。
接触条件としては、接触温度、接触圧、接触期間が挙げられ、接触条件は、酸化チタンを含有する原材料中の酸化チタンを価数が低いチタンに還元することができ、価数が低いチタンの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを得ることができる限り、適切に決定し得る。
好ましくは、接触は、温度1,650〜2,000℃、圧力−100Pa〜100Pa(絶対圧)、2〜10時間で行われ、さらに好ましくは、接触は、温度1,650〜1,750℃、圧力−50Pa〜50Pa(絶対圧)、3〜5時間で行われる。
これらの条件下で、酸化チタンを含有する原材料中の酸化チタンが完全にまたはほぼ完全に価数の低いチタンへと還元されるだろう。
【0022】
炭素質還元剤の還元性に起因して、炭素質還元剤と酸化チタンを含有する原材料との酸化還元反応が起こったときに、酸化チタンを、単純な物質(例えば、TiO、Ti、Ti、Tiからなる群から選択される1種以上)の代わりに、4価より価数が小さい生成物に還元することができる。
融合電気分解プロセスは、アノードが溶融塩電解質への特定の溶解度をもたなければならないが、酸化チタンは、溶融塩電解質への溶解性は非常に低いか、またはゼロでさえあるので、アノードとして直接使用し、電気分解によって金属チタンを得ることはできず、したがって、x≠2であることが必要なのは、当業者には公知である。
しかし、価数の低い酸化チタンTiO(2>x>0)の溶融塩電解質への溶解度は、電気分解の要求を満たし得る。
さらに、価数の低い酸化チタンTiO(2>x>0)は、溶融塩電解のアノードの他の要件事項も満たし得ることが溶融電気分解の原理からわかっている。
したがって、還元生成物の組成は、酸化チタンを、価数の低いチタン化合物(例えば、TiO、Ti、Ti、Tiからなる群から選択される1種以上)に還元する限り、本発明で提供される方法で具体的に限定されない。
【0023】
本発明では、酸化チタンを含有する原材料中のチタン化合物と、炭素質還元剤中の炭素との量比は、広い範囲で変えることができ、例えば、酸化チタンで計算した場合、酸化チタンを含有する原材料中のチタン化合物と炭素質還元剤中の炭素とのモル比は、1:1〜3であり得る。
さらに、酸化チタンを含有する原材料が通常は他の還元性物質(例えば、鉄イオンなど)を含んでいるため、炭素質還元剤の実際の量は、還元結果をさらに向上させるために、所望の量よりもわずかに多いことが多く、好ましくは、酸化チタンで計算する場合、酸化チタンを含有する原材料中のチタン化合物と、炭素質還元剤中の炭素とのモル比は1:1.5〜3であり、さらに好ましくは1:1.5〜2.5である。
【0024】
本発明では、酸化チタンを含有する原材料は、任意の既存の酸化チタンを含有する材料であり得、例えば、酸化チタンを含有する材料は、チタン濃縮物および/またはチタン含有スラグであり得る。
チタン濃縮物は、イルメナイトまたはチタン磁鉄鉱から精錬され、主に、酸化チタン(42〜65wt%)、三二酸化鉄(5〜40wt%)、酸化鉄(5〜40wt%)、リン、硫黄、マグネシウム、カルシウム元素の数種の化学化合物(2〜10wt%)を含有する。
チタン含有スラグは、他の価値が高い金属がチタン含有鉱物から抽出されたときに生成されスラグを指し、主に、酸化チタン(15〜30wt%)、酸化カルシウム(10〜25wt%)、酸化アルミニウム(10〜20wt%)、酸化ケイ素(10〜28wt%)を含有する。
【0025】
本発明では、炭素質還元剤は、酸化チタンを含有する原材料中の酸化チタンを価数が低いチタン化合物(例えば、三価および二価のチタン化合物)に還元することができるのであれば、任意の既存の炭素質還元剤であり得る。
例えば、炭素質還元剤は、無煙炭、軟炭、木炭、コークス、精錬コークスからなる群から選択される1種以上であり得る。
無煙炭は、炭化度が最も高い石炭であり、炭素含有量が高く(80wt%以上)、揮発性物質の含有量が低い(10wt%より低い)。
軟炭は、炭素含有率が75〜90wt%である。
木炭は、炭素含有率が65〜95wt%である。
コークスは、軟炭を950〜1050℃に加熱し、乾燥させ、熱分解し、溶融し、凝集し、固化させ、濃縮することなどによって生成され、炭素含有量が75〜85wt%である。
精錬コークスは、粗油を蒸留し、重油から軽油を分け、重油を熱分解によって処理することによって、粗油から生成された生成物である。
その外観から見て、コークスは、不規則な形状でさまざまな大きさをした黒い塊(または顆粒)の形態であり、金属光沢をもち、コークスの顆粒は、多孔性の構造をもち、炭素含有量が90wt%以上であり、残りの成分は、水素、酸素、窒素、硫黄、金属元素である。
【0026】
カソードの金属種は、金属材料が、本発明のアノードとともに働き、金属チタンを得るように電気分解を達成することができるのであれば、本発明で具体的に限定されない。
しかし、アノードの耐用寿命と、得られる金属チタンの純度を高めるために、好ましくは、カソードの金属材料は、炭素鋼、モリブデン、銅、ニッケルからなる群から選択される1種以上であり得る。
【0027】
通常は、電解質は、水に溶解した後、または溶融状態になったときに電気を通すことができる化学化合物を指す。
本発明では、得られる金属チタンの純度を高め、異物が入り込むのを減らすため、好ましくは、溶融塩材料を電解質として使用し、例えば、溶融塩材料は、アルカリ塩化物および/またはアルカリ土類金属の塩化物から形成される溶融塩であり得る。
例えば、アルカリ塩化物は、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムであり得、アルカリ土類金属の塩化物は、塩化マグネシウムおよび/または塩化カルシウムであり得る。
【0028】
本発明では、電気分解の条件は、得られる金属チタンの純度に顕著な影響を与えないが、効率と収率は二律背反の関係にあり、好ましくは、電気分解の条件は、アノードの電流密度が0.05〜2A/cm、カソードの電流密度が0.05〜2A/cmであり、さらに好ましくは、電気分解の条件は、アノードの電流密度が0.1〜1A/cmであり、カソードの電流密度が0.1〜1A/cmである。
【0029】
本発明では、溶融塩の温度(すなわち、電気分解の温度)は、この温度が、溶融塩を形成する塩の融点よりも高く、溶融塩を形成する塩の蒸発温度および分解温度よりも低ければ、広い範囲で変わることができ、例えば、電気分解の温度は、600〜900℃、好ましくは、600〜800℃であり得る。
電気分解の時間は、電気分解される価数の低いチタンの量および電気分解の条件によって、価数の低いチタンの少なくとも90%が金属チタンに変換されるように、合理的に選択することができる。
【0030】
本発明では、電気分解によって生成される金属チタンは、電気分解温度で空気中の酸素と反応する傾向があるため、得られる金属チタンの純度を高めるために、好ましくは、電気分解は、不活性雰囲気下で行われる。
不活性雰囲気は、窒素、元素周期表の0族の1種以上の気体から選択され得、好ましくは、アルゴンガスである。
【0031】
本発明で提供される別の金属チタンの製造方法は、以下の工程:
(1) 溶融酸化チタンを含有する原材料を炭素質還元剤と接触させ、酸化チタンを含有する原材料中の酸化チタンを完全または部分的にTiO(2>x>0)まで還元し、前記TiOの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを得る工程、
(2) 工程(1)で得られた前記TiOの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを冷却して成形し、チタン含有材料を得る工程であって、この冷却が、チタン含有材料の平均孔径が1mm〜10mmであり、空隙率が20%〜60%になるように行われる工程、
(3) 工程(2)で得られたチタン含有材料をアノードとして、金属材料をカソードとして、溶融した塩材料を電解質として用いて、電気分解条件で電気分解を行い、金属チタンを得る工程
を含む。
【0032】
ここで、上記工程の物質の種類および量、酸化チタンを含有する原材料と炭素質還元剤とを接触させるための接触条件、冷却条件、電気分解条件は、上に記載しており、以下でさらに詳細に説明はしない。
【0033】
それに加え、本発明は、さらに、上述の方法を用いて得られた金属チタンを提供する。
【0034】
以下、本発明を、実施形態によってさらに詳細に記載する。
【0035】
以下の実施例および比較例では、金属チタンの収率比は、金属チタンの実際の収率/金属チタンの理論収率×100%と等しく、チタン含有材料の平均孔径は、Scanning Electron Microscope(SEM)(日立製、S−4700型)を用いて測定され、空隙率は、窒素吸着法を用いて測定される。
【実施例1】
【0036】
Panzhihua製100gの溶融チタン濃縮物(TiO:47.5wt%、Fe:5.74wt%、FeO:34.48wt%、CaO:1.42wt%、MgO:6.22wt%)、14gの無煙炭(炭素含有量:78.5wt%)を電気炉に入れ、温度1750℃、圧力−50Pa(絶対圧)で5時間精錬し、溶融チタンスラグを得る。
この溶融チタンスラグをΦ400×600の鋼鋳造型に注ぎ、外圧を加えずに溶融チタンスラグを冷却し(圧力:0.9×10Pa、冷却速度:150℃/時間)、多孔性の構造をもつチタン含有材料を得て、ここでこのチタン含有材料の平均孔径は5.75mmであり、空隙率は45%である。
チタン含有材料をアノードとして、Φ80×600炭素鋼の棒をカソードとして、NaCl−KCl(重量比:1:1)を溶融塩電解質として用いて、アルゴンで覆いつつ、820℃で300分間電気分解し、ここでアノードの電流密度は0.2A/cmであり、カソードの電流密度は0.2A/cmである。
電気分解が終了した後、カソードを取り出し、自然に冷却し、0.5wt%の希塩酸および脱イオン水で順に洗浄し、次いで、生成物を乾燥させ、22.5gの金属チタンを含有する生成物を得て、金属チタンの収率比は46.66%である。
この電気分解のプロセスでは、電流変動はきわめて小さく、このことは、電気分解プロセスが安定であることを示す。
蛍光X線分析方法を用いて測定すると、金属チタンを含有する生成物の構成元素は、以下のとおりである。
Ti:98.5wt%、Fe:0.95wt%、O:0.37wt%、H:0.18wt%。
【実施例2】
【0037】
Panzhihua製60gの溶融チタン濃縮物(TiO:47.5wt%、Fe:5.74wt%、FeO:34.48wt%、CaO:1.42wt%、MgO:6.22wt%)、Yunan製40gのチタン濃縮物(TiO:49.85wt%、Fe:9.68wt%、FeO:36.50wt%、CaO:0.24wt%、MgO:1.99wt%)、20gの無煙炭(炭素含有量:78.5wt%)を電気炉に入れ、温度1650℃、圧力50Pa(絶対圧)で3時間精錬し、溶融チタンスラグを得る。
この溶融チタンスラグをΦ300×600の鋼鋳造型に注ぎ、外圧を加えずに溶融チタンスラグを冷却し(圧力:1.0×10Pa、冷却速度:100℃/時間)、多孔性の構造をもつチタン含有材料を得て、ここでこのチタン含有材料の平均孔径は6.5mmであり、空隙率は55.3%である。
チタン含有材料をアノードとして、Φ60×600炭素鋼の棒をカソードとして、NaCl−KCl(重量比:1:1)を溶融塩電解質として用いて、不活性雰囲気下、900℃で300分間電気分解し、ここでアノードの電流密度は2A/cmであり、カソードの電流密度は1A/cmである。
この電気分解のプロセスでは、電流変動はきわめて小さく、このことは、電気分解プロセスが安定であることを示す。
電気分解が終了した後、カソードを取り出し、自然に冷却し、0.5wt%の希塩酸および脱イオン水で順に洗浄し、次いで、生成物を乾燥させ、14gの金属チタンを含有する生成物を得て、金属チタンの収率比は48.03%である。
蛍光X線分析方法を用いて測定すると、金属チタンを含有する生成物の構成元素は、以下のとおりである。
Ti:97.78wt%、Fe:0.85wt%、O:1.25wt%、H:0.12wt%。
【実施例3】
【0038】
Yunan製100gの溶融チタン濃縮物(TiO:49.85wt%、Fe:9.68wt%、FeO:36.50wt%、CaO:0.24wt%、MgO:1.99wt%)、22gのコークス(炭素含有量:85.5wt%)を電気炉に入れ、温度1700℃、圧力5Pa(絶対圧)で4時間精錬し、溶融チタンスラグを得る。
この溶融チタンスラグをΦ200×400の鋼鋳造型に注ぎ、外圧を加えずに溶融チタンスラグを冷却し(圧力:1.2×10Pa、冷却速度:120℃/時間)、多孔性の構造をもつチタン含有材料を得て、ここでこのチタン含有材料の平均孔径は3.5mmであり、空隙率は60%である。
チタン含有材料をアノードとして、Φ50×400炭素鋼の棒をカソードとして、NaCl−KCl(重量比:1:1)を溶融塩電解質として用いて、不活性雰囲気下、850℃で210分間電気分解し、ここでアノードの電流密度は1A/cmであり、カソードの電流密度は1.5A/cmである。
この電気分解のプロセスでは、電流変動はきわめて小さく、このことは、電気分解プロセスが安定であることを示す。
電気分解が終了した後、カソードを取り出し、自然に冷却し、0.5wt%の希塩酸および脱イオン水で順に洗浄し、次いで、生成物を乾燥させ、23.5gの金属チタンを含有する生成物を得て、金属チタンの収率比は46.33%である。
蛍光X線分析方法を用いて測定すると、金属チタンを含有する生成物の構成元素は、以下のとおりである。
Ti:98.28wt%、Fe:0.55wt%、O:1.05wt%、H:0.12wt%。
【実施例4】
【0039】
実施例2に記載した方法を用いて金属チタンを製造するが、以下の点が異なっている。
Panzhihua製の溶融チタン濃縮物と無煙炭との接触温度が1600℃である。
電気分解が終了した後、カソードを取り出し、自然に冷却し、0.5wt%の希塩酸および脱イオン水で順に洗浄し、次いで、生成物を乾燥させ、12gの金属チタンを含有する生成物を得て、金属チタンの収率比は41.05%である。
この電気分解のプロセスでは、電流変動はきわめて小さく、このことは、電気分解プロセスが安定であることを示す。
蛍光X線分析方法を用いて測定すると、金属チタンを含有する生成物の構成元素は、以下のとおりである。
Ti:97.5wt%、Fe:1.55wt%、O:1.25wt%、H:0.12wt%。
【比較例1】
【0040】
実施例1に記載の方法を用いて金属チタンを製造するが、以下の点が異なっている。
金属チタンを製造するためのアノードは、以下の方法を用いて得られる。
【0041】
Panzhihua製100gの溶融チタン濃縮物(TiO:47.5wt%、Fe:5.74wt%、FeO:34.48wt%、CaO:1.42wt%、MgO:6.22wt%)、14gの無煙炭(炭素含有量:78.5wt%)を電気炉に入れ、温度1750℃、圧力−50Pa(絶対圧)で5時間精錬し、溶融チタンスラグを得る。
得られた溶融チタンスラグを冷却し、次いで、Φ400×600の鋼鋳造型に入れ、圧力50,000psiで予想形状にプレス加工し、成形したチタン含有材料を得る。
ここで、チタン含有材料の平均孔径は200nmであり、空隙率は10%である。
この電気分解のプロセスでは、電流変動は大きく、このことは、電気分解プロセスが不安定であることを示す。
電気分解が終了した後、カソードを取り出し、自然に冷却し、0.5wt%の希塩酸および脱イオン水で順に洗浄し、次いで、生成物を乾燥させ、11.9gの金属チタンを含有する生成物を得て、金属チタンの収率比は24.30%である。
蛍光X線分析方法を用いて測定すると、金属チタンを含有する生成物の構成元素は、以下のとおりである。
Ti:97wt%、Fe:1.95wt%、O:0.57wt%、H:0.48wt%。
【比較例2】
【0042】
実施例1に記載の方法を用いて金属チタンを製造するが、以下の点が異なっている。
金属チタンを製造するためのアノードは、以下の方法を用いて得られる。
【0043】
Panzhihua製100gの溶融チタン濃縮物(TiO:47.5wt%、Fe:5.74wt%、FeO:34.48wt%、CaO:1.42wt%、MgO:6.22wt%)、14gの無煙炭(炭素含有量:78.5wt%)をボールミルジャーに入れ、60分間粉砕し、次いで、混合物をΦ200×400鋼鋳造型に入れ、圧力50,000psiで予想形状にプレス加工し、次いで、温度1750℃、圧力−50Pa(絶対圧)で5時間焼結し、チタン含有材料を得る。
ここで、チタン含有材料の平均孔径は300nmであり、空隙率は15%である。
この電気分解のプロセスでは、電流変動は大きく、このことは、電気分解プロセスが不安定であることを示す。
電気分解が終了した後、カソードを取り出し、自然に冷却し、0.5wt%の希塩酸および脱イオン水で順に洗浄し、次いで、生成物を乾燥させ、12.1gの金属チタンを含有する生成物を得て、金属チタンの収率比は24.73%である。
蛍光X線分析方法を用いて測定すると、金属チタンを含有する生成物の構成元素は、以下のとおりである。
Ti:97.08wt%、Fe:1.45wt%、O:0.57wt%、H:0.48wt%。
【0044】
実施例1と比較例1〜2を比較すると、本発明で提供される方法を用いて金属チタンを製造すると、生成物の収率比および純度が両方とも高いことがわかる。
さらに、本発明で得られる還元生成物は溶融状態であるため、異なる価数状態の還元生成物が互いに相互作用し、満足のいく結果を得ることができる。
それに加え、冷却して成形した後、得られたチタン含有材料は多孔性構造であり、この構造は、電気分解プロセスで生成される気体(CO、CO)などがうまく拡散し、したがって、電気分解プロセスがより安定になるのを効果的に確保し得る。
【0045】
本発明のいくつかの好ましい実施形態を上述したが、本発明は、これらの実施形態の詳細に限定されない。
当業者は、本発明の精神を逸脱することなく、本発明の技術スキームの改変例および変形例を作成し得る。
しかし、これらすべての改変例および変形例は、本発明の保護範囲にあると考えるべきである。
【0046】
それに加え、上の実施形態で記載した具体的な技術的特徴は、矛盾がない限り、任意の適切な形態と組み合わせ得ることを留意されたい。
不必要な繰り返しを避けるために、可能な組み合わせを本発明で具体的には記載していない。
【0047】
さらに、必要な場合、組み合わせることによって本発明の理想および精神から逸脱しない限り、本発明の異なる実施形態を自由に組み合わせ得る。
しかし、このような組み合わせも、本発明で開示した範囲に入ると考えるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン含有材料をアノードとして、金属材料をカソードとして、溶融塩材料を電解質として用い、電気分解条件で電気分解を行い、金属チタンを得ることを含む、金属チタンの製造方法であって、
チタン含有材料は、多孔性構造であり、平均孔径が1mm〜10mm、空隙率が20%〜60%、チタン含有材料中のチタン元素の少なくとも一部分が、TiOの形態で存在し、2>x>0である
金属チタンの製造方法。
【請求項2】
チタン含有材料の平均孔径が3mm〜7mmであり、空隙率が40%〜60%である
請求項1に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項3】
チタン含有材料の前記TiO含有量が45wt%以上である
請求項1または2に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項4】
チタン含有材料が、以下の工程:
(1)溶融酸化チタンを含有する原材料を炭素質還元剤と接触させ、酸化チタンを含有する原材料中の酸化チタンを完全または部分的にTiOまで還元し、前記TiOの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを得る工程、
(2)工程(1)で得られた前記TiOの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを冷却して成形する工程
を含む方法を用いて得られる
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項5】
金属チタンの製造方法であって、以下の工程:
(1) 溶融酸化チタンを含有する原材料を炭素質還元剤と接触させ、酸化チタンを含有する原材料中の酸化チタンを完全または部分的にTiO(2>x>0)まで還元し、前記TiOの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを得る工程、
(2) 工程(1)で得られた前記TiOの還元生成物を含有する溶融チタンスラグを冷却して成形し、チタン含有材料を得る工程であって、この冷却が、チタン含有材料の平均孔径が1mm〜10mmであり、空隙率が20%〜60%になるように行われる工程、
(3) 工程(2)で得られたチタン含有材料をアノードとして、金属材料をカソードとして、溶融した塩材料を電解質として用いて、電気分解条件で電気分解を行い、金属チタンを得る工程
を含む、金属チタンの製造方法。
【請求項6】
冷却が、圧力0.9×10〜1.2×10Paで行われる
請求項4または5に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項7】
冷却が、冷却速度100〜150℃/時間で行われる
請求項4〜6のいずれか1項に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項8】
工程(1)で、接触が温度1,650〜2,000℃、圧力−100Pa〜100Pa、2〜10時間で行われる
請求項4〜7のいずれか1項に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項9】
工程(1)で、酸化チタンで計算すると、酸化チタンを含有する原材料中のチタン化合物と、炭素質還元剤中の炭素のモル比が1:1〜3である
請求項4〜8のいずれか1項に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項10】
工程(1)で、酸化チタンを含有する原材料が、チタン濃縮物および/またはチタン含有スラグで構成され、炭素質還元剤が、無煙炭、軟炭、木炭、コークス、精錬コークスからなる群から選択される1種以上である
請求項4〜9のいずれか1項に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項11】
カソードの金属材料が、炭素鋼、モリブデン、銅、ニッケルからなる群から選択される1種以上であり、溶融塩が、溶融したアルカリ塩化物および/またはアルカリ土類金属の塩化物である
請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項12】
電気分解条件が、アノードの電流密度が0.05〜2A/cm、カソードの電流密度が0.05〜2A/cm、電気分解温度が600〜900℃である
請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属チタンの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の金属チタンの製造方法を用いて得られる金属チタン。

【公開番号】特開2013−79446(P2013−79446A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−212196(P2012−212196)
【出願日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【出願人】(509069401)攀鋼集團攀枝花鋼鐵研究院有限公司 (3)
【氏名又は名称原語表記】PanGang Group Panzhihua Iron & Steel Research Institute Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.90 Taoyuan Road, East District, Panzhihua, Sichuan Province 617000, P.R.China
【Fターム(参考)】