説明

金属ドープ硫化鉄を含むカソードを備えたリチウム電池

リチウムを含むアノードと、金属ドープ硫化鉄及び炭素粒子を含むカソードと、を有する一次電池。金属ドープ硫化鉄粉末、炭素、結合剤、及び液体溶媒を含むカソードスラリーが調製される。混合物を導電性基材上にコーティングし、溶媒を蒸発させて乾燥カソードコーティングを基材上に残す。アノード及びカソードは、間に挟まれたセパレータと共にらせん状に巻き付けられ、電池ケーシング内に挿入され得、次いで電解質が添加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム又はリチウム合金を含むアノードと、結晶構造の金属ドープ硫化鉄を含むカソードと、を有し、ドープする金属はニッケル、銅、鉄、又はマンガンが望ましい、一次リチウム電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムのアノードを有する一次(非充電式)電気化学電池が知られており、商業利用されている。アノードは、本質的にリチウム金属から構成されている。かかる電池は、典型的には、二酸化マンガンを含むカソードと、有機溶媒に溶解した、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)のようなリチウム塩を含む電解質と、を有する。電池は、当該技術分野では一次リチウム電池(一次Li/MnO電池)として参照されており、一般には充電式であることを意図していない。リチウム金属アノードを有するが異なるカソードを有する、代替的な一次リチウム電池も知られている。かかる電池は、例えば、二硫化鉄(FeS)を含むカソードを有しており、Li/FeS電池と呼ばれている。二硫化鉄(FeS)はまた、黄鉄鉱としても既知である。Li/MnO電池又はLi/FeS電池は、典型的には円筒形電池の形態で、典型的には単3又は単4サイズの電池であるが、その他のサイズの円筒形電池であってもよい。Li/MnO電池は、従来のZn/MnOアルカリ電池の2倍である約3.0Vの電圧を有し、またアルカリ電池よりも高いエネルギー密度(電池体積1cmあたりのワット−時)も有する。Li/FeS電池は、約1.2〜1.8Vの電圧(新品)を有し、これは従来のZn/MnOアルカリ電池とほぼ同じである。それにもかかわらず、Li/FeS電池のエネルギー密度(電池体積1cmあたりのワット−時)は、同等のサイズのZn/MnOアルカリ電池よりも高い。リチウム金属の理論特定容量は、3861.4ミリアンペア時/gと高く、FeSの理論特定容量は、893.6ミリアンペア時/gである。FeSの理論容量は、FeS1分子あたり4個のLiからの4個の電子移動に基づいており、鉄元素Feと2個のLiSとの反応生成物をもたらす。すなわち、4個の電子のうち2個が、FeSのFe+2における+2の酸化状態を鉄元素(Fe)の0に変え、残りの2個の電子が、硫黄の酸化状態をFeSの−1からLiSの−2に変える。
【0003】
全般的に見れば、Li/FeS電池は、同じサイズのZn/MnOアルカリ電池よりも一層強力である。すなわち、所与の連続電流ドレインの場合、特に単3サイズの電池に関する200ミリアンペアを超える高い電流ドレインでは、電圧対時間放電特性において明白であり得るように、Li/FeS電池の電圧は、Zn/MnOアルカリ電圧よりも長い時間安定している。これにより、Li/FeS電池から得られるエネルギー出力は、同じサイズのアルカリ電池で得られるエネルギー出力よりも高くなる。Li/FeS電池のより高いエネルギー出力はまた、エネルギー(ワット−時)対定電力(ワット)での連続放電のグラフプロットに更にはっきりとより正比例して示されており、この場合、新品の電池は、0.01ワット程度〜5ワット程度の低い範囲の一定の連続電力を最後まで放電する。かかる試験において、電力ドレインは、0.01ワット〜5ワットの間で選択された一定の連続電力で維持される。(放電中の電池の電圧が降下すると、負荷抵抗は、電流ドレインの上昇を徐々に和らげて、変わらない一定電力を維持する。)Li/FeS電池に関するエネルギー(ワット−時)対電力(ワット)のグラフプロットは、同じサイズのアルカリ電池よりも上方にある。それにもかかわらず、両方の電池(新品)の起動電圧はほぼ同じ、すなわち約1.2〜1.8Vの間である。
【0004】
このように、Li/FeS電池は、同じサイズのアルカリ電池、例えば、単4、単3、単2又は単1サイズの電池、あるいは任意の他のサイズの電池に優る利点を有するが、その利点とは、Li/FeS電池が、従来のZn/MnOアルカリ電池と互換的に使用でき、また特により高い電力需要に対して、より長い耐用年数を有するということである。同様に、一次(非充電式)電池であるLi/FeS電池を、同じサイズの充電式ニッケル水素電池の代替として使用することもできるが、これはLiFeS電池とほぼ同じ電圧(新品)を有する。したがって、一次Li/FeS電池は、デジタルカメラに電力供給するのに使用することができるが、これは高パルスの電力需要での動作を必要とする。
【0005】
Li/FeS電池用のカソード材料は、最初にスラリー混合物(カソードスラリー)などの形態で調製されてもよく、それは従来のコーティング法によって金属基材の上に容易にコーティングすることができる。電池に添加される電解質は、必要な電気化学反応を、所望の高い出力範囲にわたって効率よく引き起こすことができる、Li/FeS系に好適な有機電解質でなければならない。電解質は、良好なイオン伝導度を示し、また十分に安定でなければならず、すなわち未放電の電極材料(アノード及びカソード成分)に対して非反応性であり、放電生成物に対しても非反応性でなければならない。これは、電解質と電極材料(放電済みのもの又は未放電のもののどちらか)との間の望ましくない酸化/還元反応が、それによって電解質を徐々に汚染して、その有効性を軽減するか又は過剰にガスを発生させる可能性があるためである。この結果、壊滅的な電池の故障が生じる可能性がある。このように、Li/FeS電池で用いられる電解質は、必要な電気化学反応を促進することに加えて、更に、放電された又は放電されていない電極材料に対して安定でなければならない。更に、電解質は、良好なイオン移動性及びリチウムイオン(Li)のアノードからカソードへの輸送を可能にすべきであり、その結果、リチウムイオンは必要な還元反応に関与し、カソードでLiS生成物を生じさせることができる。
【0006】
電極複合体は、リチウムのシート、FeS活性物質を含むカソード複合体のシート、及びこれらの間に挟まれたセパレータから形成されている。電極複合体は、例えば、米国特許第4,707,421号に示されているように、らせん状に巻き付けられ、電池ケーシングの中に挿入されてもよい。Li/FeS電池用のカソードコーティング混合物は、米国特許第6,849,360号に記載されている。アノードシートの一部は、典型的には、電池の負端子を形成する電池ケーシングに電気的に接続される。電池は、ケーシングから絶縁されたエンドキャップで閉じられている。カソードシートは、電池の正端子を形成するエンドキャップと電気的に接続され得る。ケーシングは、典型的にはエンドキャップの周縁部上に圧着されて、ケーシングの開放端部を密封する。電池は、電池が短絡放電又は過熱などの悪条件にさらされた場合に電池を遮断するよう、PTC(正温度係数)デバイス等を内部に装備していてもよい。
【0007】
Li/FeS電池内のカソードの導電率を改善し、利用性(カソード活性材料の放電効率)を向上させることが望ましいであろう。その結果、FeS組成又はその結晶構造を変更して、より高い導電率(より低い固有抵抗)を有し、FeSと比較して改良された放電特性を示す代替の(しかし関連した)材料を生成することが望ましいであろう。
【0008】
C.H.Ho,C.E.Huang,and C.C.Wu,「Preparation and Characterization of Ni−Incorporated FeS Single Crystals」,Journal of Crystal Growth,Vol.270(2004),p.535〜541には、ニッケル(Ni)でドープされたFeS結晶が開示されている。Fe0.99:Ni0.01、Fe0.98:Ni0.02、Fe0.96:Ni0.04、及びFe0.9:Ni0.1の組成を有する、ニッケルが導入された単結晶を、輸送剤としてIClを使用した化学気相輸送法(CVT)により成長させた。X線回折パターンの解析により、ニッケルでドープされた一連のFeS単結晶は、単相でイソ構造を有すると決定された。導電率測定は、ニッケルのドーピング濃度が増大するにつれて、ニッケルドープFeSの固有抵抗が低下したことを示している。バッテリー内にニッケルドープFeSを使用するこの参考文献では、実際の試験は全く報告されていない。
【0009】
A.Awano,K.Haraguchi,and H.Yamasaki,「Li/Fe1−xCo System Thermal Battery Performance」,Proceedings of the International Power Sources Symposium,35th(1992),p.219〜222には、カソード材料としての合成鉄−二硫化コバルト(Fe1−xCo)の高温(熱)バッテリー内での評価が報告されている。好ましい材料は、Fe1−xCo(x=0.15における)であった。(FeのSに対する原子比は、0.5未満である。)それらの熱バッテリーは、例えば米国特許第3,992,222号に報告されているFeS熱バッテリー内のような、高温、例えば約500℃で作動する充電式(2次)電池である。合成Fe1−xCoカソード材料は、リチウム金属を含むアノードを有する熱バッテリー内で試験された。熱バッテリーは約450〜600℃の試験温度で放電された。Fe1−xCoカソードは向上された放電用途を有し、高温で特徴的に作動する一次熱バッテリーに有用であり得ると結論付けられた。
【0010】
Jae−Won Choi,et.al.,「Effect of Metal Additives(Co and Ni)On Electrochemical Properties of Lithium/FeS Batteries」,Materials Science Forum,Vols.544〜545(2007),p.973〜976には、低い重量パーセントのコバルト(Co)又はニッケル(Ni)を有する及び有さないFeSを含むカソードを備えたLi/FeS電池の再充電(サイクル可能性(cycleability))特性の研究が報告されている。カソード活性材料は、高エネルギー機械的合金化法を用いて、合金材料を形成する鉄、硫黄、及びコバルト又はニッケル添加物の出発混合物から調製された。この混合物を、アルゴン雰囲気内にて周囲温度で行われるジルコニウム粉砕ボールを用いたボールミル粉砕に供して、FeSとコバルト又はニッケルとの合金を生成した。この参考文献には、コバルト又はニッケルがFeSの結晶構造内に導入されたと述べられている。充電式コイン電池を使用して、放電試験が行われた。Li/FeS電池の室温サイクル可能性は、カソード活性材料がFeSのみの場合、充電式バッテリーに関する良好な結果を示さなかったことが述べられている。試験電池は、FeS及びコバルト、又はFeS2及びニッケルを含む試験電池が、5サイクルまで、各サイクルにて2.6Vに充電され、1.2Vに放電された際に室温で充電/放電サイクルに供された。5重量%のコバルト又は3重量%のニッケルを含むFeSカソードを有するLi/FeS試験電池の初期(第1)放電容量は、金属添加物を含まないカソードの389mAmphr/gと比較してそれぞれ571mAmphr/g及び844mAmphr/gであった。主な目的は、FeSカソードにコバルト又はニッケルを添加することによる、Li/FeS電池のサイクル可能性(再充電)特性を改良する試みであった。ボールミル粉砕によるFeSへのコバルト又はニッケルの添加が、金属材料の添加により達成される電子伝導率の向上によって、FeS電池の放電容量を向上させることが報告された。FeSに合金としてコバルトを添加することは、より良好な充電サイクル性能(rechargeable cycle performance)に好適な結果を示すことが報告されている。コバルト又はニッケルは、ボールミル粉砕により(高温で加熱することなく)FeSに添加された。コバルトがFeS結晶構造内に導入されたか否かを示す報告又は証拠は存在しない。
【0011】
日本国特許公開Yamada JP57152673Aには、リチウムアノード円盤と、FeS及び銅(Cu)又は亜鉛(Zn)のいずれかから形成された固溶体を含むカソード活性材料と、を有するコイン形状のリチウムバッテリーが開示されている。Cu/Feのグラム原子比は0.1/99.9〜3.0/97.0であってもよく、Zn/Feのグラム原子比は0.1/99.9〜2.0/98であってもよい。例えばFeS及び銅を含む固溶体は、FeS粉末をCuSと混合し(実践実施例に記載)、この混合物を窒素雰囲気中にて300℃で24時間熱処理することにより形成される。CuをFeS結晶構造に導入すること、又はFeS結晶構造に対する任意の変更、又はそのような変更の性質は、全く報告されていない。FeSと、添加されたCu又はZnとを有するリチウムバッテリーは、カソード活性材料としてFeSのみを有する同一の電池と比較して良好な性能を示す傾向がある。
【0012】
一次Li/FeS電池で用いられる電解質は、「有機溶媒」に溶解された「リチウム塩」で形成される。Li/FeS一次電池用の電解質に用いることができる代表的なリチウム塩は、米国特許第5,290,414号及び同第6,849,360(B2)号に参照されており、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSO(LiTFS);リチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSON(LiTFSI);ヨウ化リチウム、LiI;臭化リチウム、LiBr;テトラフルオロ臭素酸リチウム、LiBF;六フッ化リン酸リチウム、LiPF;六フッ化ヒ酸リチウム、LiAsF;Li(CFSOC及び様々な混合物などの塩が挙げられる。Li/FeSの電気化学分野において、リチウム塩は、特定の電解質溶媒混合物に最適に作用する特定の塩として必ずしも置き換え可能であるわけではない。
【0013】
米国特許第5,290,414号(Marple)には、電解質が、1,3−ジオキソラン(DX)と非環状(環状ではない)エーテル系溶媒である第2の溶媒との混合物を含む溶媒に溶解されたリチウム塩を含む、FeS電池に有益な電解質の使用が報告されている。参照されているような非環状(環状ではない)エーテル系溶媒は、ジメトキシエタン(DME)、エチルグリム、ジグリム、及びトリグリムであり得るが、1,2−ジメトキシエタン(DME)が好ましい。実施例に示されるように、ジオキソラン及び1,2−ジメトキシエタン(DME)は、電解質中に実質的な量、すなわち1,3−ジオキソラン(DX)50体積%及びジメトキシエタン(DME)40体積%又は1,3−ジオキソラン(DX)25体積%及びジメトキシエタン(DME)75体積%で存在する(7段目、47〜54行)。このような溶媒混合物中でイオン化可能な特定のリチウム塩は、実施例に示されているように、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、LiCFSOである。別のリチウム塩、すなわちリチウムビストリフルオロメチルスルホニルイミド、Li(CFSONも、7段目、18〜19行に記載されている。この参考文献では、所望により3,5−ジメチルイソキサゾール(DMI)、3−メチル−2−オキサゾリドン、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチレングリコールサルファイト(EGS)、ジオキサン、ジメチルサルフェート(DMS)、及びスルホラン(請求項19)から選択される第3の溶媒を選択的に追加してもよいことが教示されており、好ましいのは3,5−ジメチルイソキサゾールである。
【0014】
米国特許第6,218,054号(Webber)には、ジオキソラン系溶媒及びジメトキシエタン系溶媒を約1:3の重量比(ジオキソラン1重量部対ジメトキシエタン3重量部)で含む、電解質溶媒系が開示されている。
【0015】
米国特許第6,849,360(B2)号(Marple)には、Li/FeS電池用の電解質が開示されており、この電解質は、1,3−ジオキソラン(DX)、1,2−ジメトキシエタン(DME)及び少量の3,5ジメチルイソキサゾール(DMI)を含む有機溶媒混合物に溶解されたヨウ化リチウム塩を含む(6段目、44〜48行)。
【0016】
米国特許出願公開第2007/0202409(A1)号(Yamakawa)には、33段落目に、Li/FeS電池用の電解質溶媒に関して、「有機溶媒の例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、スルホラン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、及びジプロピルカーボネートが挙げられ、これらのうちいずれか1つ、あるいはこれらのうち2つ以上を単独で又は混合溶媒の形態で使用することができる」と、記載されている。
【0017】
このような記述は、電解質溶媒の特定の組み合わせのみが、溶媒中に溶解される特定のリチウム塩によるLi/FeS電池用として作用可能になることを教示するものであるので、誤解を招く恐れがある。(例えば、上述の米国特許第5,290,414号及び同第6,849,360号を参照。)Yamakawaによる参考文献は、上に列挙した溶媒のどの組み合わせが所与のリチウム塩と共に使用されるものかを教示していない。
【0018】
米国特許出願公開第2006/0046152号(Webber)は、FeS及びFeSをその中に含むカソードを有し得るリチウム電池用の電解質系を開示している。開示された電解質は、1,2−ジメトキシプロパン及び1,2−ジメトキシエタンの混合物を含む溶媒系に溶解されたヨウ化リチウム塩を含む。
【0019】
任意の1つ以上のリチウム塩と併用してLi/FeS電池に好適な電解質を製造するための特定の有機溶媒又は異なる有機溶媒の混合物を選択することは困難である。このことは、リチウム塩と有機溶媒との多くの組み合わせが、全く使い物にならないようなLi/FeS電池をもたらさないということではない。むしろ、既知のリチウム塩と有機溶媒とをただ組み合わせて形成される電解質を利用した、このような電池に関する課題とは、かなり根本的な問題に直面する可能性が高く、そのために電池の商業的な使用が実用的ではない。一般に、リチウム電池の開発史が示すように、例えば非充電式Li/MnO又はLi/FeS電池のようなリチウム一次電池であれ、充電式リチウム電池又はリチウムイオン電池であれ、リチウム塩と有機溶媒とをただ組み合わせるだけでは、良好な電池、すなわち良好で信頼性のある性能を示すものは得られないと予想できる。このように、Li/FeS電池で使用可能な多くの有機溶媒を単に提供するだけの参考文献は、特定の効果若しくは予期せぬ効果を示す溶媒の組み合わせ又は特定の溶媒混合物中の特定のリチウム塩の組み合わせを必ずしも教示しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第4,707,421号
【特許文献2】米国特許第6,849,360号
【特許文献3】米国特許第3,992,222号
【特許文献4】日本国特許公開Yamada JP57152673A
【特許文献5】米国特許第5,290,414号
【特許文献6】米国特許第6,849,360(B2)号
【特許文献7】米国特許第6,218,054号
【特許文献8】米国特許出願公開第2007/0202409(A1)号
【特許文献9】米国特許出願公開第2006/0046152号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】C.H.Ho,C.E.Huang,and C.C.Wu,「Preparation and Characterization of Ni−Incorporated FeS2 Single Crystals」,Journal of Crystal Growth,Vol.270(2004),p.535〜541
【非特許文献2】A.Awano,K.Haraguchi,and H.Yamasaki,「Li/Fe1−xCoxS2 System Thermal Battery Performance」,Proceedings of the International Power Sources Symposium,35th(1992),p.219〜222
【非特許文献3】Jae−Won Choi,et.al.,「Effect of Metal Additives(Co and Ni)On Electrochemical Properties of Lithium/FeS2 Batteries」,Materials Science Forum,Vols.544〜545(2007),p.973〜976
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
室内及び屋外条件下で使用するのに良好な速度能力を有し、信頼できる一次(非充電式)リチウムバッテリーを製造することが望ましい。
【0023】
デジタルカメラに電力供給するための充電式電池の代用品として使用できる、良好な速度能力を有する一次(非充電式)リチウムバッテリーを製造することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、アノードがリチウム金属を含む、一次リチウム電池を目的とする。リチウムは、少量の他の金属、例えば、アルミニウムとの合金であってもよく、典型的には、約1又は2重量%未満のリチウム合金を含む。アノード活性物質を形成するリチウムは、好ましくは薄い箔の形態である。リチウム一次電池の重要な種類は、カソード活性材料として通常「黄鉄鉱」として知られている二硫化鉄(FeS)を含むカソードを有する。
【0025】
本発明の主な態様において、リチウム電池のカソード活性材料として使用される二硫化鉄(FeS)は、その結晶構造内に比較的少量の所定の金属、例えばニッケル、銅、マンガン及び鉄を導入することにより変更できることが明らかにされている。このことは、FeSの組成を変化させ、硫化鉄結晶構造に金属を導入する。金属は、硫化鉄結晶構造内にドープされる(導入される)。金属は、硫化鉄結晶構造内で化学結合された状態で保持され、それにより二硫化鉄(FeS)と比較して根本的に変更された材料である、金属ドープ硫化鉄が生成される。したがって、本明細書で使用される用語「金属ドープ」は、生成物の結晶構造内に金属Mが導入され、化学結合によりその内部に保持されていることを意味すると理解されよう。このことは、本発明の金属ドープ硫化鉄生成物を、二硫化鉄(FeS)と金属との単純な混合物、又は硫化鉄(FeS)と金属との混合物から区別する。
【0026】
本発明の金属ドープ硫化鉄生成物は、一次リチウム電池内のカソード活性材料として使用されて、より長時間の放電サービスを提供し得ることが明らかにされている。そのような電池性能の向上を達成するために、ドープする金属はニッケル又は銅から選択されることが好ましいが、マンガン又は鉄からも選択され得る。事実、一次リチウム電池内でカソード活性材料として通常使用されているFeSの全部を、本発明の金属ドープ硫化鉄生成物で置き換え得ることが明らかにされている。しかしながら、本発明にはLi/FeS電池内で通常使用されているFeSの一部のみを金属ドープ硫化鉄生成物で置き換えることが含まれることが理解されよう。デジタルカメラの電力供給のような、高電力サービスにおける向上されたリチウム電池の放電性能は、カソード中で通常使用されているFeS全部を本発明の金属ドープ硫化鉄生成物で置き換えることにより達成することができる。
【0027】
本発明の向上されたカソード活性材料は、所望の金属粉末との混和物であるFeS粉末を含む反応混合物を不活性ガスを使用する保護環境下で加熱することにより、FeSから直接調製することができる。好ましい不活性ガスはアルゴンであり、アルゴンは、加熱プロセス中、混合物を空気から十分に保護する。他の不活性ガス又は高い部分真空(partial vacuum)を用いて、加熱プロセス中、反応混合物を空気又は他の大気汚染物質の暴露から保護する目的を達成することができる。反応混合物の加熱を不完全真空(partial vacuum of air)内で達成することは可能であり得るが、反応混合物を不活性ガス、好ましくはアルゴンガス中で加熱することにより、空気からの汚染に対するより良好な保護がもたらされる。FeS粉末と金属粉末との混合物、例えばFeSとニッケル粉末又はFeSと銅粉末との混合物は、そのような保護環境内にて約400〜550℃の温度で、少なくとも約1時間、典型的には約3〜7時間加熱されることが望ましい。FeSとニッケル粉末又はFeSと銅粉末との混合物は、約425〜500℃で望ましくは約3〜7時間加熱されることが好ましい。FeS及び金属粉末反応物は、FeSと金属Mとのモル比が約0.99:0.01〜0.9:0.1で供給されることが望ましい。したがって、金属MはFeS及びMの反応混合物中、モル比xで存在し、xは0.01〜0.1であり、又は0.01若しくは0.1と等しくてもよい。より典型的には、xは約0.01〜0.08、例えば約0.01〜0.06であってもよい。以下の反応が起こり、内部に金属Mが導入された金属ドープ硫化鉄の結晶生成物Fe(1−x)(2−2x)が得られるが、FeとMとのモル比は
(1−x)/xであり、以下のとおりである。
(1−x)FeS+xM → Fe(1−x)(2−2x) (式1)
(式中、
xは、0.01〜0.1であり、又は0.01若しくは0.1と等しくてもよい。
【0028】
Mは、好ましくはニッケル又は銅であるが、
マンガン又は鉄から選択されてもよい。)
生成物の式
Fe(1−x)(2−2x)は、(1−x)で除することにより硫黄含有量Sに正規化することができ、それ故、等価式であるFeMx/(1−x)として表すことができることを理解するであろう。
【0029】
Fe(1−x)(2−2x)金属ドープ硫化鉄結晶生成物のサンプルは、FeS粉末と金属粉末との混合物を、アルミナ酸化物等のセラミック材料から構成された小型の開放ボート形状の容器内に単に配置することにより都合よく調製することができる。上記に示したように、好ましい金属はニッケル又は銅であるが、金属は鉄又はマンガンから選択されてもよい。内部に反応混合物を有する容器は、セラミック加熱管内に挿入されてもよく、管は次に電気炉内に配置される。加熱管の末端部は炉の側部を貫通してもよく、それにより不活性ガスが典型的には低い流速で管を通過して、加熱プロセス中に反応混合物の空気に対する暴露を防止することができる。FeSと金属粉末Mとの反応混合物は(1−x)(xは0.01〜0.1である)モルのFeS毎にxモルのMのモル比に従って調製されてもよく、xは0.01又は0.1と等しくてもよい。すなわち、二硫化鉄と金属との反応混合物中の金属(M)のモル比は、0.01〜0.1であり、又は0.01若しくは0.1と等しい。反応混合物は、約425〜500℃の温度で約3〜6時間加熱及び維持されてもよく、これは所望の金属ドープFe(1−x)(2−2x)結晶生成物を生成するのに十分であることが見出されている。
【0030】
得られた金属ドープ硫化鉄生成物サンプルのX線回折分析は、反応混合物中に遊離金属相が残留せず、生成物はFeSと(同一ではないが)同様の結晶構造を有することを明らかにしている。しかしながら、得られた生成物を同定するx線ピークは、FeSに期待されるピークから離れてより低角度にシフトしており、全部の反応金属Mが生成物結晶構造内に導入されており、内部にて化学結合した状態で保持され、Fe(1−x)(2−2x)を形成していることを示唆した。このことは、FeとSとの原子比が1:2であっても、FeSと比較して異なる生成物であることを示した。加えて、金属ドープ硫化鉄生成物の固有抵抗は、FeSと金属粒子との物理的混合物で観察された4.45〜8.79ohm−cmと比較すると、ドーパント金属としてニッケルを使用して約0.25〜0.85ohm−cm、及びドーパント金属として銅を使用した場合約0.38〜2.53ohm−cmで卓越していた。
【0031】
金属ドープ硫化鉄(Fe(1−x)(2−2x))生成物の大規模製造において、必須であるFeS及び金属粉末反応物の加熱は大規模バッチ操作にて行われ得ると共に、加熱プロセス中に反応混合物が機械的に掻き混ぜ又は撹拌されて均一な加熱を確実にした。加熱プロセス中に不活性雰囲気、好ましくはアルゴンガスが反応物粉末混合物を包囲し、又は反応物粉末混合物全体に行き渡るよう強勢されてもよく、それにより反応物の空気に対する暴露を防止する。代替的に、大規模製造の場合、流動化媒体としてアルゴンガス等のリサイクル不活性ガスを使用する流動床反応器内で反応混合物を加熱して、流動床反応器内でFe(1−x)(2−2x)生成物を生成してもよい。
【0032】
リチウム又はリチウム合金アノードと、カソード活性材料として金属ドープ硫化鉄生成物を含むカソードとを使用する本発明の電池は、室内又は屋外での使用に意図されている。したがって、本発明の電池は、通常の室内又は屋外周囲条件下での使用に意図され、周囲条件は典型的には−12℃(10°F)〜43℃(110°F)の温度範囲にわたり得るが、より広い範囲、例えば約−29℃(−20°F)〜49℃(120°F)にもわたり得る。電池の内部温度も、約−29℃(−20°F)〜49℃(120°F)のような温度範囲内であろう。
【0033】
電池は、ボタン型(コイン型)電池の形態であってもよいし、又は平板状電池の形態であってもよい。望ましくは、電池は、アノードシート及びカソード複合材料シートが、これらの間に挟まれたセパレータと共にらせん状に巻き付けられてなる、らせん状の巻線形電池の形態であってもよい。カソードシートは、スラリープロセスを用いて、導電性金属基材であってもよい導電性表面上に金属ドープ硫化鉄粒子を含むカソード混合物をコーティングして製造される。金属ドープ硫化鉄粒子は、望ましくはエラストマー、好ましくはスチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)ブロックコポリマー、例えば、KRATON G1651エラストマー(Kraton Polymers,Houston,Texas)を用いて導電性基材に結合される。このポリマーは、皮膜形成剤であり、金属ドープ粒子のみならずカソード混合物中の導電性炭素粒子添加物についても良好な親和性と凝集特性とを有する。
【0034】
本発明の態様において、カソードは金属ドープ硫化鉄粉末Fe(1−x)(2−2x)、導電性炭素粒子、結合剤材料、及び溶媒を含むカソードスラリーから形成される。(本明細書で使用する用語「スラリー」は、その通常の辞書の意味を有し、したがって液体中の固体粒子の分散系又は懸濁液を意味すると理解されよう。)湿潤カソードスラリーは、導電性基材上に、例えば、アルミニウム又はステンレス鋼のシート上にコーティングされる。導電性基材は、カソード集電体として機能する。溶媒がその後蒸発すると、金属ドープ硫化鉄と好ましくはカーボンブラックを含む炭素粒子類とが互いに接着結合されて含まれる乾燥カソードコーティング混合物が残されるが、この乾燥コーティングは導電性基材と結合している。好ましいカーボンブラックは、アセチレンブラックである。炭素は、所望により、その中にブレンドされたグラファイト粒子を含んでよい。
【0035】
湿潤カソードスラリーを導電性基材の上にコーティングした後、コーティングされた基材をオーブンに入れて、溶媒が蒸発するまで高温で加熱する。得られる生成物は、二硫化鉄及び炭素粒子を含む乾燥カソードコーティングであり、導電性基材に結合されている。乾燥重量ベースで、カソードは、好ましくは、83〜94重量%、望ましくは約83〜93重量%、好ましくは、85〜92重量%の金属ドープ硫化鉄(Fe(1−x)(2−2x))カソード活性物質を含む。固体含有量、すなわち湿潤カソードスラリー中の金属ドープ硫化鉄(Fe(1−x)M(2−2x))粒子及び導電性炭素粒子は、55〜75重量%である。カソードスラリーに関する粘度範囲は、典型的には約3500〜15000センチポアズである(1センチポアズ=1mPa.s=1m Newton×秒/m)。リチウム金属を含むアノードと、金属ドープ硫化鉄を含むカソードとが、これらの間に挟まれたセパレータと共に電池ハウジング内に挿入された後、電解質が電池に添加される。
【0036】
本明細書に記載される金属ドープ硫化鉄生成物を含むカソードを有する本発明のリチウム電池用の所望の電解質は、以下のとおりである。所望の電解質は、同一出願人による国際特許出願第2008/012776(A2)号に記載されているような1,3−ジオキソラン及びスルホランを含む溶媒混合物に溶解された、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド(Li(CFSON)を含むリチウム塩を含む。リチウム塩は、溶媒混合物1リットルあたり約0.5〜1.2モル、典型的には約0.8モルの量で添加される。溶媒混合物は、望ましくは約70〜90容積パーセントの1,3−ジオキソランと約10〜30容積パーセントのスルホランとを含む。電解質は約0.1〜1重量パーセントのピリジンを含み、ジオキソラン重合を防止すること又は重合速度を遅延させることが望ましい。本明細書に報告したような多大な試験を考慮して、上記に示した電解質(1,3−ジオキソラン及びスルホランに溶解されたLi(CFSON塩)は、本発明のリチウム電池に非常に適合し、また本発明のリチウム電池の性能に有意な改善をもたらすことが結論付けられるが、金属ドープFe(1−x)2−2x生成物は、カソード活性材料として使用される。
【0037】
1,3−ジオキソラン(DX)は、環状ジエーテルであり、複素環式アセタールとしても分類される。これは、Chemical Abstracts Service(CAS)登録番号646−06−0を有する。これは、化学式C(M.W.74.08)及び構造式(I)を有する。
【化1】

【0038】
スルホランは、分子式CSであり、Chemical Abstracts Service(CAS)登録番号126−33−0の環状化合物である。スルホランは、沸点285℃、粘度10.28センチポアズ(30℃)及び誘電率43.26(30℃)の無色透明の液体である。
【0039】
スルホランの構造式は、次のように表される。
【化2】

【0040】
本出願人らは、リチウム/金属ドープ硫化鉄電池は、約0.9〜1.4センチポアズの低粘度の電解質を有することが有利であると決定した。上記に示した好ましい電解質は、約0.9〜1.4センチポアズ、典型的には約1.2〜1.4センチポアズの低い粘度を有する。このような低い粘度レベルは、アノードとカソードとの間での良好なリチウムイオン(Li)輸送を促進するので、電池性能を向上させるのに役立つ。
【0041】
リチウム/金属ドープ硫化鉄電池が適正に放電するためには、アノードからのリチウムイオンは、セパレータを横切ってFeSカソードに到達する良好な輸送を可能にする、十分なイオン移動度を有していなければならない。カソードでは、リチウムイオンは、カソードにおいてLiSを生成するイオウイオンの還元反応に関与する。低粘度の電解質はリチウム/金属ドープ硫化鉄電池に非常に望ましく、それは1)電解質中でリチウムイオン(Li)の濃度分極を低減し、また2)放電中にリチウムイオン(Li)の良好な輸送移動性を促進するためである。具体的には、リチウム/金属ドープ硫化鉄電池用の低粘度の電解質は、リチウムイオン濃度分極を低減し、電池が高いパルス速度で放電されるとき、例えば、リチウム/金属ドープ硫化鉄電池がデジタルカメラに電力供給するために使用されるときに、アノードからカソードへのより良好なリチウムイオン輸送を促進する。リチウムイオン濃度分極は、リチウムイオンがアノードからカソードに移動するときに、LiアノードとFeSカソードとの間に存在する濃度勾配によって反映される。リチウム/金属ドープ硫化鉄電池用の低粘度の電解質は、アノードでのリチウムイオン濃度の蓄積を低減して、リチウムイオン(Li)の移動性を改善し、ひいては電池の性能を改善する。
【0042】
本発明の金属ドープ硫化鉄カソード活性材料Fe(1−x)(2−2x)は、一次リチウム電池用のコイン型(ボタン型)電池又は巻線形電池、すなわちリチウム又はリチウム合金金属のアノードを有する非充電式電池のカソードに有利に使用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1A】ボタン型電池の実施形態として示される、本発明のリチウム/金属ドープ硫化鉄電池の断面図。
【図1B】図1Aの電池の中に挿入するためのスペーサディスクの平面図。
【図1C】図1Aの電池の中に挿入するためのバネリングの平面図。
【図1D】図1Cのバネリングの断面図。
【図1】円筒形電池の実施形態として示される、本発明のリチウム/金属ドープ硫化鉄電池の絵画図。
【図2】電池の上部及び内部を示すために図1の透視線2−2で切断された電池の部分横断立面図。
【図3】らせん状の巻線電極アセンブリを示すために図1の透視線2−2によって切断された電池の部分断面立面図。
【図4】電極アセンブリを構成する層の配置を示す概略図。
【図5】下にある層が見えるように、その層それぞれを部分的に剥離した、図4の電極アセンブリの平面図。
【図6】金属ドープ硫化鉄の製品サンプルを作製するための炉及び内部加熱管の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明のリチウム/金属ドープ硫化鉄電池は、平らなボタン型(コイン型)電池又はらせん状の巻線形電池の形態を有してもよい。リチウムアノード150と、二硫化鉄(FeS)を含むカソード170とを含み、その間にセパレータ160を有する、望ましいボタン型電池100構造を図1Aに示す。
【0045】
FeSカソードを有するリチウム電池は、以下の基本的な放電反応(1工程機構)を有する。
アノード:
4Li=4Li+4e 式2
カソード:
FeS+4Li+4e=Fe+2LiS 式3
全体:
FeS+4Li=Fe+2LiS 式4
【0046】
本発明では、アノードがリチウム又はリチウム合金からなり、カソードが本発明のリチウム/金属ドープ硫化鉄生成物を含むボタン型(コイン型)電池100を示す(図1A)。すなわち、FeSは、カソード活性材料として機能する本発明の金属ドープ硫化鉄生成物と置き換えられている。金属ドープ硫化鉄生成物は、式Fe(1−x)(2−2x)(0.1>x>0.01、及び金属Mは、ニッケル、銅、マンガン又は鉄であってもよい)を有する。電池100は、一次(非充電式)電池である。ボタン型電池100(図1A)では、ディスク状の円筒形カソードハウジング130は、開放端部132及び閉鎖端部138を有する形で形成させる。カソードハウジング130は、好ましくはニッケルめっき鋼から形成される。電気絶縁部材140、好ましくは中空芯を有するディスク形状のプラスチック円筒形部材は、絶縁部材140の外面がカソードハウジング130の側壁136の内面に接して裏張りするように、ハウジング130の中に挿入され得る。あるいは、側壁136の内面は、高分子材料でコーティングされていてもよく、この高分子材料が固化して絶縁体140となって、ハウジング130の内面と隣接する。絶縁体140は、カソードハウジング130の中に挿入される前に、最初にアノードハウジング120の側壁122を覆って取り付けられてもよい。絶縁体140は、多様な熱的に安定な絶縁材料から形成されることができるが、好ましくはポリプロピレンから形成される。
【0047】
金属ドープ硫化鉄粉末Fe(1−x)(2−2x)を分散された状態で含むカソード170は、望ましくはアルミニウム、アルミニウム合金、又はステンレス鋼のシートである、導電性基材シート172に直接コーティングされてもよいスラリーの形態で調製できる望ましくは、スラリーの形態のカソード170をまず導電性基材の片面にコーティングし、次いで乾燥させて最終のカソード170を形成することができる。完成したカソード170は、電池ハウジングの中に挿入する準備ができるまで、シートで保管できる。その上部にカソードスラリー170がコーティングされる導電性シート172は、貫通孔のないアルミニウム又はアルミニウム合金箔のシート等の導電性シートであってもよい。あるいは、導電性基板172は、複数の小孔を有し、これによりグリッド又はスクリーンを形成する、ステンレス鋼、アルミニウム又はアルミニウム合金のシートでもよい。カソードコーティングを乾燥させて、基板172の片面上にコーティングされた乾燥カソード170を形成する。基板172上にコーティングされた乾燥カソード170を圧延し、電池のハウジングへの挿入準備ができるまで、シート状態で保存できる。
【0048】
所望の金属ドープ硫化鉄粉末Fe(1−x)2−2xは、本明細書に記載するように、FeS粉末(Chemetall GmbHより商品表記PYROX Red 325粉末で入手可能)を、不活性雰囲気、好ましくはアルゴン雰囲気中にて約425〜500℃の制御された反応温度で、金属M、好ましくはニッケル又は銅粉末と反応させることにより調製される。上記に示したように、反応物FeS粉末及び金属(M)粉末を、好ましくは、式1(式中、0.1>x>0.01(xは、0.1又は0.01と等しくてもよい))に従って、FeSとMとのモルが比(1−x):xを有する反応混合物として反応させる。すなわち、二硫化鉄(FeS)と金属(M)との混合物中の金属(M)のモル比は、0.01〜0.1、又は0.01若しくは0.1と等しい。FeS粉末と好ましくはニッケル又は銅の金属粉末との反応混合物は、反応物を乳鉢内で乳棒により、均質な混合物が得られるまで、混合することによって都合よく調製することができる。反応は、図6に示されるように、最初に、FeS530と金属粉末Mとのサンプル反応混合物をアルミナ酸化物セラミック容器ボート520内に配置し、容器ボート520をアルミナ酸化物セラミック加熱管510内に挿入することにより都合よく行われることができる。セラミック加熱管510は次に、管510の末端部511及び512がそれぞれ炉の対向する末端側壁501及び502を貫通するように電気炉500を通過する。高圧タンク(図示せず)から供給されてもよいアルゴンガス550が管510を低流速で通過して、反応混合物が大気空気に暴露されないことを確実にしてもよい。炉500は、電気加熱コイル540により加熱されてもよい。アルゴンガス流のスイッチを入れた後、炉の温度を所望の反応温度に昇温させてもよく、炉は必要な時間中、その温度に維持される。炉の温度は所望の反応温度、例えば約425〜500℃が必要な期間、典型的には約3〜6時間維持され得るようにサーモスタット(図示せず)により調製されてもよい。そのような方法により、FeS及び金属M粉末を含む反応混合物530のサンプルは、金属ドープ硫化鉄生成物(Fe(1−x)2−2x)に変換されることができる。次に、炉が周囲温度に冷却した後、金属ドープ硫化鉄生成物が炉から除去されてもよい。金属ドープ硫化鉄生成物は、生成物を閉鎖容器内に保管することにより、その表面上への酸性汚染物質の蓄積が防止されてもよい。
【0049】
金属反応物Mの量がFeS反応物に対して少量であるため、金属ドープ硫化鉄生成物の平均粒径は、出発物質であるFeS反応物粉末の平均粒径とほぼ同一である。したがって、金属ドープ硫化鉄生成物は約1〜100マイクロメートル、望ましくは約10〜50マイクロメートルの平均粒径を有し得る。
【0050】
次に金属ドープ硫化鉄粉末を、グラファイト、カーボンブラック、並びにKRATON G1651エラストマー結合剤及び溶媒とブレンドして、カソードスラリーを形成してもよい。カソードスラリーは、2〜4重量%の結合剤(Kraton Polymers,Houston Texas.製のKRATON G1651エラストマー結合剤)、50〜70重量%の活性金属ドープ硫化鉄粉末(Fe(1−x)(2−2x))(0.1>x>0.01、及び金属Mは、ニッケル、銅、マンガン又は鉄であってもよい)、4〜7重量%の導電性炭素(カーボンブラック及びグラファイト)、及び25〜40重量%の溶媒(1種又は複数種)を含む。(カーボンブラックは、天然ガス又は石油の不完全燃焼又は熱分解により形成され得る。カーボンブラックはまた、アセチレンの不完全燃焼又は熱分解から生成されるアセチレンブラックでもよい。したがって、本明細書において参照されるカーボンブラックは、特に記載のない限り、全て又は一部としてアセチレンブラックを含んでもよい。)KRATON G1651結合剤は、エラストマーブロックコポリマー(スチレン−エチレン/ブチレン(SEBS)ブロックコポリマー)であり、皮膜形成剤である。この結合剤は、活性金属ドープ硫化鉄及びカーボンブラック粒子に対して十分な親和性を有することから、湿式カソードスラリーの調製を促進し、また溶媒を蒸発させた後でこれら粒子の相互接触状態を保持する。金属ドープ硫化鉄粉末は、約1〜100マイクロメートル、望ましくは約10〜50マイクロメートルの平均粒径を有し得る。
【0051】
好適なグラファイトは、Timcal Ltd.製の商品表記TIMREX KS6グラファイトで入手可能である。TIMREXグラファイトは、高度に結晶化した合成グラファイトである。(他のグラファイトも、天然、合成、又はエキスパンドグラファイト及びこれらの混合物から選択して用いてもよいが、Timcal製のTIMREXグラファイトは高純度であるため好適である。)カーボンブラックは、Timcal社から商品名Super P導電性カーボンブラック(アセチレンブラック、BET表面62m/g)として入手可能である。
【0052】
湿潤カソードスラリーの形成に使用される溶媒としては、好ましくは、SHELL SOL A100炭化水素溶媒(Shell Chemical Co.)として入手可能なC〜C11(優位にはC)芳香族炭化水素の混合物、及びSHELL SOL OMS炭化水素溶媒(Shell Chemical Co.)として入手可能な主としてイソパラフィン(平均M.W.166、芳香族含有率0.25重量%未満)の混合物が挙げられる。SHELL SOL A100のSHELL SOL OMS溶媒に対する重量比は、望ましくは4:6の重量比である。SHELL SOL A100溶媒は、大部分が芳香族炭化水素(90重量%以上が芳香族炭化水素)、主にC〜C11芳香族炭化水素を含む炭化水素混合物である。SHELL SOL OMS溶媒は、イソパラフィン炭化水素(98重量%イソパラフィン、M.W.約166)と、0.25重量%未満の含有量の芳香族炭化水素との混合物である。スラリー配合物は、二重遊星ミキサーを用いて分散されてよい。乾燥粉末を最初にブレンドして、均一性を確実にしてから、混合ボウル内の結合剤溶液に添加する。
【0053】
好ましいカソードスラリー混合物を表1に示す。
【表1】

【0054】
FeSを使用した、同様の湿潤カソードスラリー混合物(電解質が電池に未添加のもの)が、同一出願人による米国特許出願第11/516,534号(米国特許公開第2008−0057403(A1)号)に開示されている。湿潤カソードスラリー混合物170の合計固形分含有量は、上記表1に示されており、66.4重量%である。
【0055】
湿潤カソードスラリー170は、前述の導電性基材172、望ましくは、ステンレス鋼、アルミニウム、又はアルミニウム合金のシートの片面にコーティングされる。導電性シートは、その中に穿孔若しくは開孔を有していてもよく、又はそのような穿孔若しくは開孔のないソリッドシートであってもよい。湿潤カソードスラリー170は、断続的ロールコーティング技術を使用して導電性基材上にコーティングすることができる。導電性基材上にコーティングされたカソードスラリーを、全ての溶媒が蒸発するまで、炉内で当初温度40℃から最終温度約130℃へ徐々に調整し又は昇温させて乾燥させる(この方法によるカソードスラリーの乾燥は亀裂を回避する。)これは金属ドープ酸化鉄、炭素粒子、並びに結合剤を含む乾燥カソードコーティング170を導電性基材165上に形成する。所望により、導電性基材の反対側を、同一又は類似の湿潤カソードスラリー170でコーティングしてもよい。この第二の湿潤カソードコーティング170は、第一のコーティングと同じ方法で同様に乾燥させてもよい。コーティングされたカソードを、続いて、カレンダ処理ロールの間を通過させて、所望の乾燥カソード厚さを得る。導電性基材の両面をカソード材料でコーティングしている場合、乾燥後のカソード170は、厚さ20マイクロメートルの導電性基材、好ましくはアルミニウム箔を含む、約0.170〜約0.186mmの最終厚さを典型的には有する可能性がある。本明細書で報告する実験で使用するコイン型100電池(図1A)を製造する目的で、アルミニウム箔の片面のみをカソードスラリーでコーティングし、乾燥させて乾燥カソード170を形成した。アルミニウムシート上の乾燥カソードコーティングをカレンダリングして、20マイクロメートル厚のアルミニウム箔を含む最終的な全厚約0.096mmの乾燥カソード170を形成した。(アルミニウム箔の反対側はカソード材料でコーティングされていない。)
したがって、乾燥カソードコーティング170は以下の望ましい配合を有する。金属ドープ硫化鉄粉末、(Fe(1−x)(2−2x))(0.1>x>0.01)、89重量%;結合剤(KRATON G1651)、3重量%;グラファイト(TIMREX KS6)、7重量%;及びカーボンブラック(Super P)、1重量%。カーボンブラック(Super Pカーボンブラック)は、炭素の網状組織を造り出して、導電性を改善する。
【0056】
したがって、耐久性のある乾燥カソード170のシートは、この方法で形成される。カソード170のシートは、電池ハウジングの中に挿入するために適切な寸法に切断する準備ができるまで、取っておくことができる。
【0057】
電池の内容物を電池ハウジングの中に組み立てる及び装填する順序は、異なっていてもよい。しかしながら、ボタン型電池100は、次の方法で都合よく組み立てられて、使用又は試験に好適な完成電池を形成できることが確認されている。
【0058】
ボタン型(コイン型)電池100は、アノードハウジング120、好ましくはニッケルめっき鋼製のアノードハウジングに電解質を含む必要な電池の全構成要素を装填することによって、都合よく形成できる。次に、カソードハウジング130、好ましくはアルミニウムめっき鋼製のカソードハウジングをアノードハウジング120の上に嵌め込んで圧着し、電池を密閉できる。このように、耐久性電池100は、まず、好ましくはポリプロピレン製の絶縁体ディスク142を、アノードハウジング120の側壁122を覆うようにアノードハウジング120に挿入することで組み立てられる(図1A)。次に、バネリング200(図1C)を、図1Aに示されるように、アノードハウジング120の閉鎖端部の内面に対して置くようにアノードハウジング120の中に挿入することができる。バネリング200、好ましくはステンレス鋼製のバネリングは、周辺のリング面255によって画定される、貫通した中央開口250を有する。リング面255は、平坦ではなく、逆に図1Dに示されるような一体型の回旋部257を有する。回旋部257は、リング200がアノードハウジング120に挿入されてリングに圧力が加えられると、リングにバネ効果を与える。次に、好ましくはステンレス鋼製の1つ以上のスペーサディスク300を、図1Aに示されるように、それをバネリング200上に押し付けるように、アノードハウジング120の中に挿入することができる。スペーサディスク300は、図1Bに示されるように、固体の平坦なディスクであってもよい。電池の内容物を完成電池内に確実にぴったりと嵌めるために、このようなスペーサディスク300を複数個使用することができる。次に、リチウム又はリチウム合金金属製のリチウムアノードシート150を、図1Aに示されるように、スペーサディスク300に対して置くようにアノードハウジングの中に挿入することができる。アノードハウジングは、その開放端部が上になるように反転できる。その後、セパレータシート160、好ましくはミクロ孔質のポリプロピレン製のセパレータシートを、リチウムアノードシート150に対して挿入することができる。
【0059】
次に、少量のピリジンが添加された、1,3−ジオキソラン及びスルホランを含む溶媒混合物に溶解されたビストリフルオロメチルスルホニルイミド(Li(CFSON)の混合物を含むことが好ましい電解質溶液を、電解質溶液がセパレータ内に吸収されるようにセパレータシート160の露出表面上に注いでもよい。本発明の金属ドープ酸化鉄粉末を含む前述のカソードシート170を適切な寸法に切断した後、セパレータシート160の露出面に対して挿入することができる。この方法では、電池の全構成要素がアノードハウジング120の中に挿入される。その後、カソードハウジング130の側壁136がその間に挟まれた絶縁体140と共にアノードハウジング120の側壁122を覆うように、アノードハウジング120の上にカソードハウジング130を嵌め込むことができる。カソードハウジング130の縁部135は、露出された絶縁体縁部142の上に圧着される。縁部135を絶縁体縁部142の中に嵌合させて電池を閉じ、内部に電池内容物をしっかりと密封する。これにより、電解質が漏れにくい高耐久性ボタン型電池100が得られる。
【0060】
上述の電池100中に使用される好ましい電解質は、1,3−ジオキソラン及びスルホランを含む溶媒混合物に溶解されたビストリフルオロメチルスルホニルイミド(Li(CFSON)を含むリチウム塩を含む。リチウム塩は、溶媒混合物1リットルあたり約0.5〜1.2モル、典型的には約0.8モルの量で添加される。溶媒混合物は、望ましくは約70〜90容積パーセント(典型的には80容積パーセント)の1,3−ジオキソランと約10〜30(典型的には20容積パーセント)のスルホランとを含む。電解質は約0.1〜1重量パーセントのピリジンを含み、ジオキソラン重合を防止すること又は重合速度を遅延させることが望ましい。
【0061】
別の実施形態では、リチウム/金属ドープ硫化鉄電池は、図1に示されるような円筒形電池10の形態を有してもよい。円筒形電池10は、図2〜5に示されるように、間に挟まれたセパレータシート50と共にらせん状に巻き付けられたアノードシート40及びカソード60を有することができる。電池10の内部構造は、カソード組成が異なること以外は、米国特許第6,443,999号に示され、説明された、らせん状の巻線構造と同様であってもよい。図に示されるアノードシート40はリチウム金属を含み、カソードシート60は金属ドープ硫化鉄生成物(Fe(1−x)(2−2x))(0.1>x>0.01、及び金属Mは、ニッケル、銅、マンガン又は鉄であってもよい)を含む。電池は、好ましくは図に示されるように円筒形であり、例えば、単6(42×8mm)、単4(44×9mm)、単3(49×12mm)、単2(49×25mm)、及び単1(58×32mm)サイズのどの大きさであってもよい。それ故に、図1に示される電池10はまた、2/3 A電池(35×15mm)であってもよい。
【0062】
らせん状の巻線形電池の場合、電池ケーシング(ハウジング)20の好ましい形は、図1に示されるような円筒形である。カソード活性材料としてFeSを使用するリチウム電池に関する同様の巻線形電池の構造形態は、同一出願人による特許出願第11/516534号(US2008−0057403(A1))にも図示及び記載されている。ケーシング20は、好ましくはニッケルめっき鋼から形成される。電池ケーシング20(図1)は、連続的な円筒形表面を有する。アノード40及びカソード複合体62と共に、これらの間に挟まれたセパレータ50を備える、らせん状の巻線電極アセンブリ70(図3)を、平板状の電極複合体13(図4及び5)をらせん状に巻き付けることによって調製することができる。カソード複合体62は、金属基材65上にコーティングされた二硫化鉄(FeS)を含むカソード層60を備える(図4)。
【0063】
電極複合体13(図4及び5)は、以下の方法で作製することができる。内部に分散された金属ドープ硫化鉄粉末(Fe(1−x)(2−2x)(0.1>x>0.01)、Mはニッケル、銅、鉄、及びマンガンから選択される)を含むカソード60を最初に湿潤スラリーの形態で調製してもよく、これを導電性基材シート又は金属箔65上にコーティングする。導電性基材65は、アルミニウム又はステンレス鋼のシート、例えばアルミニウム又はステンレス鋼のエキスパンド金属箔であってもよい(図4)。アルミニウムシート65を使用する場合、貫通孔のないアルミニウムのソリッドシート、又は貫通孔を有し、それによりグリッド若しくはスクリーンを形成する、エキスパンドアルミニウム箔(EXMETエキスパンドアルミニウム箔)であってもよい(米国コネチカット州BrandfordのDexmet社のEXMETアルミニウム又はステンレス鋼箔)。導電性基板シート65の開孔はまた、基板を打ち抜き又は穿孔することでも得られる。エキスパンド金属箔は、約0.024g/cmの坪量を有して、開口部を有するメッシュ又はスクリーンを形成してもよい。典型的には、アルミニウムシート65は、約0.015〜0.040mmの厚さを有し得る。
【0064】
二硫化鉄(FeS)、結合剤、導電性炭素、及び溶媒を含む、上記の表1に示される組成物を有する湿潤カソードスラリー混合物は、均質な混合物が得られるまで表1に示される構成成分を混合することによって調製される。
【0065】
上記の量(表1)の構成成分は、当然、少量又は大量のバッチのカソードスラリーが調製できるように、比例的に増減することができる。したがって、湿潤カソードスラリーは、好ましくは以下の組成を有する。金属ドープ硫化鉄粉末(Fe(1−x)(2−2x)0.1>x>0.01、及びMは、ニッケル、銅、鉄又はマンガンから選択される)58.9重量%;バインダー、KRATON G1651(2重量%);グラファイト、TIMREX KS6(4.8重量%)、アセチレンブラック、Super P(0.7重量%)、炭化水素溶媒、SHELL SOL A100(13.4重量%)及びShelSol OMS(20.2重量%)。
【0066】
カソードスラリーを、導電性基材又はグリッド65、好ましくはアルミニウム又はステンレス鋼のエキスパンド金属箔のシートの少なくとも片面にコーティングする。金属基材65上にコーティングしたカソードスラリーを、オーブン内で、好ましくは40℃の初期温度〜130℃以下の最終温度までの温度に徐々に調節又は昇温して、約1/2時間又は溶媒が全て蒸発するまで乾燥させる。これにより、金属基材65上に金属ドープ硫化鉄粉末、炭素粒子及び結合剤を含む乾燥したカソードコーティング60が形成され、したがって、図4に最もよく示されるカソード複合体シート62が形成される。続いて、カレンダ処理ローラーをこのコーティングに適用して、所望のカソード厚さを得る。任意で、カソードスラリーを、その後、同一の導電性基板65の反対面にもコーティングしてよい。基板65の反対面をコーティングするカソードスラリーを、その後、上述と同じ方法で乾燥させ、その乾燥させたコーティングの圧延処理が続く。このことにより、金属基板65の両面がコーティングされた乾燥カソードコーティング60を備えたカソード複合体シート62が得られる。
【0067】
リチウムアノードと、金属ドープ硫化鉄(リチウム/金属ドープ硫化鉄電池)と、を含むカソードを有する単3サイズの一次電池の場合、乾燥カソード複合体62の所望の厚さは約0.172〜0.188mm、好ましくは約0.176〜0.180mmであり、カソードコーティング60はアルミニウム基材65の両面上にコーティングされている。これは、約0.015〜0.040mmの厚さを有する、好ましくはアルミニウム箔の基板65を含む。乾燥カソードコーティング60は、そのため、次の望ましい配合を有する。金属ドープ硫化鉄粉末、Fe(1−x)(2−2x)0.1>x>0.01(89.0重量%);結合剤、KRATON G1651エラストマー(3.0重量%);導電性炭素粒子、好ましくはTIMREX KS6グラファイトとしてTimcal社から入手可能なグラファイト(7重量%)、及びSuper P導電性カーボンブラックとしてTimcalから入手可能な導電性カーボンブラック(1重量%)。カーボンブラックは、炭素網状組織を造り出して、導電性を改善する。所望により、炭素粒子全体の約0〜90重量%がグラファイトであってよい。グラファイトは、添加する場合、天然若しくは合成のグラファイト又はエキスパンドグラファイト、及びこれらの混合物であってよい。乾燥カソードコーティングは、典型的には、約85〜95重量%の金属ドープ硫化鉄粉末、約4〜8重量%の導電性炭素、及び結合剤材料を含む乾燥コーティングの残りを含んでもよい。
【0068】
アノード40は、リチウム金属のソリッドシートから調製することができる。アノード40は、望ましくはリチウム金属(純度99.8%)の連続シートから形成される。あるいは、アノード40は、リチウムの合金や、合金金属、例えば、リチウムとアルミニウムとの合金であることも可能である。そのような場合、合金金属は、極少量、好ましくはリチウム合金の1又は2重量%未満で存在する。したがって、合金中のリチウムは、電池の放電時に、基本的に純粋なリチウムとして電気化学的に作用する。したがって、本明細書及び特許請求の範囲で使用する場合の「リチウム又はリチウム金属」という用語は、そのようなリチウム合金をその意味に含むものとする。アノード40を形成するリチウムシートは、基材を必要としない。リチウムアノード40は、有利には、らせん状の巻線形電池の場合、厚さが望ましくは約0.10〜0.20mm、望ましくは約0.12〜0.19mm、好ましくは約0.15mmのリチウム金属の押出成形シートから形成することができる。
【0069】
電解質透過性セパレータ材料50、好ましくは、厚さが約0.025mm以下、望ましくは約0.008〜0.025mmのミクロ孔質のポリプロピレンの個々のシートが、リチウムアノードシート40の各面に挿入される(図4及び5)。ミクロ孔質のポリプロピレンの孔径は、望ましくは約0.001〜5マイクロメートルである。第1(最上部)のセパレータシート50(図4)は、外側のセパレータシートを表すことができ、第2のシート50(図4)は、内側のセパレータシートを表すことができる。導電性基材65上にカソードコーティング60を備えたカソード複合体シート62を、次に、内側のセパレータシート50に対して配置することで、図4に示される平板状の電極複合体13が形成される。平板状の複合体13(図4)をらせん状に巻き付けることで、電極らせんアセンブリ70が形成される(図3)。巻き付けは、マンドレルを用いて電極複合体13の延長されたセパレータ縁部50b(図4)を掴んでから、複合体13を時計回りにらせん状に巻き付けることで達成されて、巻線電極アセンブリ70が形成される(図3)。
【0070】
巻き付けが完了すると、セパレータ部分50bは、図2及び3に示されるように、巻線電極アセンブリ70のコア98内に現れる。非限定的な例として、セパレータの各旋回部の底縁部50aは、図3に示され、米国特許第6,443,999号に教示されているように、連続的な膜55に熱形成されてもよい。図3から分かるように、電極らせん状物70は、アノードシート40とカソード複合体62との間にセパレータ材料50を有する。らせん状の巻線電極アセンブリ70は、ケーシング本体の形に適合した構造(図3)を有する。らせん状の巻線電極アセンブリ70を、ケーシング20の開放端部30に挿入する。巻き付けられると、電極らせん状物70の外側の層は、図2及び3に示されるセパレータ材料50を含む。電極複合体13を巻く前に、追加の絶縁層72、例えば、ポリプロピレンテープ等のプラスチックフィルムを望ましくはセパレータ層50を覆って配置してよい。このような場合、らせん状の巻線電極70は、巻線電極複合体をケーシングに挿入すると、ケーシング20の内面と接触した絶縁層72を有するようになる(図2及び3)。あるいは、ケーシング20の内面を電気絶縁材料72でコーティングしてから、巻線電極らせん状物70をケーシングの中に挿入することも可能である。
【0071】
電解質混合物は、その後、巻線電極らせん状物70を電池ケーシング20に挿入した後、このらせん状物70に添加することができる。上述したようなリチウム/金属ドープ硫化鉄電池100と共に使用される望ましい電解質は、1,3−ジオキソラン及びスルホランを含む溶媒混合物に溶解された、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド(Li(CFSON)を含むリチウム塩を含む。リチウム塩は、溶媒混合物1リットルあたり約0.5〜1.2モル、典型的には約0.8モルの量で添加される。溶媒混合物は、望ましくは約70〜90容積パーセント(典型的には80容積パーセント)の1,3−ジオキソランと約10〜30(典型的には20容積パーセント)のスルホランとを含む。電解質は約0.1〜1重量パーセントのピリジンを含み、ジオキソラン重合を防止すること又は重合速度を遅延させることが望ましい。
【0072】
電池の正端子17を形成するエンドキャップ18は、その面のうちの1つの上でエンドキャップ18の内面に溶接することができる金属タブ25(カソードタブ)を有してもよい。金属タブ25は、好ましくはアルミニウム又はアルミニウム合金から形成されている。カソード基材65の一部分は、図2に示されるように、巻き付けられたらせん状物の頂部から延びる延長部分64を形成する。延長部分64を金属タブ25の露出面に溶接してから、ケーシング周縁部22を、エンドキャップ18の周りで、間に挟まれている絶縁ディスク80の周縁部85と共に圧着して、電池の開放端部30を閉じることができる。エンドキャップ18は、望ましくは通気口19を有し、この通気口には、電池内のガス圧が予め定められたレベルを超えると破裂してガスを逃すように設計された、破裂可能な膜を収容することができる。正端子17は、望ましくはエンドキャップ18の一体化部分である。あるいは、端子17は、米国特許第5,879,832号に記載されている種類のエンドキャップアセンブリの最上部として形成することができ、このアセンブリは、エンドキャップ18の表面にある開口部から中へ挿入し、その後、それに溶接することができる。
【0073】
好ましくはニッケルの金属タブ44(アノードタブ)は、リチウム金属アノード40の一部の中に押し込むことができる。アノードタブ44は、らせん状物内のどの部分でもリチウム金属の中に押し込むことができ、例えば、それは、図5に示されるように、らせん状物の最外層でリチウム金属の中に押し込むことができる。アノードタブ44は、その片面をエンボス加工することで、リチウムの中に押し込もうとするタブの面上に複数の起立部分を形成することができる。タブ44の反対側の面は、図3に示されるように、ケーシング側壁24の内面又はより好ましくはケーシング20の閉鎖端部35の内面のうちのどちらかのケーシングの内面に溶接することができる。アノードタブ44は、ケーシングの閉鎖端部35の内面に溶接することが好ましい。なぜならば、これは、電気スポット溶接プローブ(細長い抵抗溶接電極)を電池コア98の中に挿入することによって容易に達成されるためである。溶接プローブは、電池コア98の外側境界の一部に沿って存在するセパレータスタータタブ50bと接触させないように注意する必要がある。
【0074】
一次リチウム電池10はまた、所望により、エンドキャップ18の下に配置されて、カソード60とエンドキャップ18との間に直列に接続された、PTC(正温度係数)デバイス95を備えていてもよい(図2)。かかるデバイスは、電池が、予め定められたレベルよりも高い電流ドレインで放電するのを防ぐ。したがって、電池に、並外れて高い電流、例えば、約6〜8アンペアよりも高い電流が長時間流れると、PTCデバイスの抵抗が劇的に増大することから、異常な高ドレインが抑制される。当然のことながら、通気口19及びPTCデバイス95以外のデバイスを用いて、電池を誤用又は放電から保護してもよい。
【実施例】
【0075】
比較例リチウム電池と比較した、金属ドープ硫化鉄カソードを有する試験リチウム電池の性能
試験コイン型電池アセンブリ:
アルミニウムめっき鋼製のコイン型カソードハウジング130及びニッケルめっき鋼製のコイン型アノードハウジング120は、図1Aに示されたものと同様の構造で形成される。完成した電池100は、全体の直径が約20mm、厚さが約3mmであった(これは従来のASTMサイズ2032コイン型電池の寸法である)。カソードハウジング130内の金属ドープ硫化鉄の重量は、0.0232gであった。アノードハウジング120内のリチウムは、電気化学的過剰であった。
【0076】
各電池100を形成する際、初めに、リング形のプラスチック絶縁体140を、アノードハウジング120の側壁122の周りに嵌合させた(図1A)。ステンレス鋼製のバネリング200を、アノードハウジング120の内面に配置した。リング200は、アノードハウジング120にリングを溶接する必要なく、アノードハウジング120の中に挿入される。リング200は、図1Cに最もよく示されるように、中央開口250を境界付ける周辺縁部255を有する。周辺縁部面255は、その中に一体型に形成された回旋部257(図1D)を有し、その結果、縁部面255全体は同一平面上に位置しない。バネリング200がアノードハウジング120の中に挿入され、縁部面255に圧力がかかると、回旋部257がリングに弾力性及びバネ効果をもたらす。次に、平坦な固体表面310を有するスペーサディスク300を、それがバネリング200に対して位置するように、アノードハウジング120の中に挿入する(図1A)。電池の内容物を電池内にしっかり収めるために、2つ以上のスペーサディスク300を互いの上に積み重ねて挿入してもよい。試験コイン型電池100では、3つのステンレス鋼製スペーサディスク300をバネリング200に対して積み重ねて適用した。
【0077】
厚さ0.15mm(0.006インチ)のリチウム金属シートから形成されたリチウムディスク150を、乾燥室内で14.2mm(0.56インチ)のハンドパンチを用いて打ち抜いた。次いで、電池のアノードを形成するリチウムディスク150(図1A)を、ハンドプレスを使用してスペーサディスク300の下面に押し付けた。
【0078】
続いて、カソードスラリーを調製し、アルミニウムシート172の片面にコーティングした。二硫化鉄(FeS)を含むカソードスラリーの構成成分を合わせて、次の割合で混合した。
【0079】
金属ドープ硫化鉄粉末Fe(1−x)(2−2x)、0.1>x>0.01(58.9重量%);結合剤、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンエラストマー(KRATON G1651)(2重量%);グラファイト(TIMREX KS6)(4.8重量%)、カーボンブラック(Super Pカーボンブラック)(0.7重量%)、炭化水素溶媒、SHELL SOL A100溶媒(13.4重量%)及びSHELL SOL OMS溶媒(20.2重量%)。
【0080】
次いで、アルミニウムシート172上の湿潤カソードスラリーを、40℃〜130℃のオーブン内で、カソードスラリー中の溶媒が全て蒸発するまで乾燥させて、金属ドープ硫化鉄、導電性炭素、及びエラストマー結合剤を含む乾燥カソードコーティングをアルミニウムシートの片面に形成した。アルミニウムシート172は、厚さ20マイクロメートルのアルミニウム箔であった。アルミニウムシート172上の乾燥カソードコーティング170をカレンダリングして、20マイクロメートル厚のアルミニウム箔を含む最終的な全厚約0.096mmの乾燥カソード170を形成した。(アルミニウムシート172の反対側はカソード材料でコーティングされていない。)
アノードハウジング120は、その開放端部が上になるように反転される。セパレータディスク160は、リチウムアノードディスク150と接触するようにアノードハウジング120の中に挿入される。セパレータディスク160は、ミクロ孔質のポリプロピレン製であった(Celgard,Inc)のCelgard CG2500セパレータ)。セパレータディスクは、予め、直径17.5mm(0.69インチ)のハンドパンチを使用して、シートから必要なディスク形状に打ち抜いた。
【0081】
開放端部を上にしてアノードハウジング120を反転させた状態で、0.2gの電解質溶液をセパレータ160の上に加えた。電解質は、0.1重量%ピリジンが添加された、1,3−ジオキソラン(80容積%)及びスルホラン(20容積%)を含む溶媒混合物に溶解されたビストリフルオロメチルスルホニルイミド(Li(CFSON)を含むリチウム塩を0.8mol/リットルで含んでいた。
【0082】
乾燥カソード170を直径11.1mm(0.44インチ)のハンドパンチでディスク形状の寸法に切断し、電解質を浸漬させたセパレータ160と接触するようアノードハウジング120の中に挿入した。アルミニウムシート172の片面に乾燥カソードコーティングを備えたカソード170はセパレータに面し、これによりアノード/カソードの界面領域を形成している。アルミニウムシート172の反対面(コーティングなし)は、ハウジング130の閉鎖端部138と接触する。各電池に関する乾燥カソード170中の金属ドープ硫化鉄の量は、同一であった。電気化学的放電に供される金属ドープ硫化鉄の量は、約0.0232gである。各電池の乾燥カソードコーティング170は、以下の組成を有した。
【0083】
金属ドープ硫化鉄粉末Fe(1−x)(2−2x)、0.1>x>0.01(89.0重量%);結合剤KRATON G1651エラストマー(3.0重量%);導電性炭素粒子、グラファイトTIMREX KS6(7重量%)及びカーボンアセチレンブラック、Super P(1重量%)。
【0084】
次に、カソードハウジング130の側壁136が、間に挟まれた絶縁体140と共にアノードハウジング120の側壁122を覆うように、カソードハウジング130を、充填されたアノードハウジング120の上に設置した。カソードハウジング130の閉鎖端部138を、機械式クリンパ内の中央に配置した。その後、機械式クリンパのアームを完全に引き下げて、カソードハウジング130の周縁部135を絶縁ディスク140の縁部142の上で圧着した。このプロセスを各電池に繰り返して、図1Aに示される完成したコイン型電池100を形成した。各電池を形成した後、電池のハウジングの外面をメタノールで拭いてきれいにした。
【0085】
比較例コイン型電池
比較例コイン型電池は、試験電池内で使用した同一の量の金属ドープ硫化鉄カソード活性材料に代わってFeS又はFeSと金属Mとの単純な(非加熱)混合物を使用した以外は、同一サイズの電池、同一のリチウムアノード、セパレータ及び電解質、並びに同一のカソード組成物を使用して上述した試験電池と同様の方法で調製した。
【0086】
試験結果
FeSと金属(Ni又はCu)粉末との混合物の5つのグループを、様々なモル比にて調製した。混合物を乳鉢内で乳棒により混合した。FeSと金属(Ni又はCu)とのモル比は、約0.96:0.04〜0.99:0.01であった。5グループのそれぞれに使用されたFeSと金属(Ni又はCu)との特定のモル比、FeS2と金属粉末との平均粒径を、表IIに示す。混合物の5グループのそれぞれからのサンプルを、本発明のプロセスに従って加熱して金属ドープ硫化鉄生成物を生成した。各グループのそれぞれからの別のサンプルを、加熱せずに取っておいた。
【0087】
混合物の5グループのそれぞれからのサンプルを本発明のプロセスに供したが、サンプルはモル比約0.96:0.04〜0.99:0.01のFeSと金属(Ni又はCu)とを含んでいた。各サンプルを炉500内の反応器管510内にてアルゴン雰囲気550の存在下で500℃で3時間加熱した(図6)。これにより、ドーピング金属MがNi又はCuのいずれかの場合、以下の反応に従った金属ドープ硫化鉄生成物が生成した。
【0088】
(1−x)FeS+xM → Fe(1−x)(2−2x) 式5
(式中、MはNi又はCuであり、xは0.01〜0.1である。)
グループ1〜5に関して、金属MはNi又はCuのいずれかであり、xは約0.01〜0.04であり、(1−x)は、それに応じて約0.99〜0.96である。各場合において、式5に従ってFeSと金属Mの反応混合物を調製し、式Fe(1−x)(2−2x)を有する金属ドープ硫化鉄を得た。換言すれば、結果として生じる金属ドープFe(1−x)(2−2x)生成物を生成するために任意の過剰量のFeS又はMのいずれかを必要とすることなく、反応物(1−x)FeS及びxM(xNi又はxCu)(xは0.01〜0.1である)を上記の等式に示す量で反応させた。Fe(1−x)(2−2x)生成物の粒径は、表IIに示されるFeS反応物の粒径とほぼ同一であった。X線回折分析法を用いた生成物の分析により、金属M(Ni又はCu)が内部にドープされ(導入され)、硫化鉄結晶構造の一体部分となったことが示された。生成物のX線分析により、生成物サンプル中に遊離ニッケルは存在しないことが明らかとなった。生成物を同定するX線ピークは、FeSに期待されるピークから離れてより低角度にシフトし、金属(Ni又はCu)を内部に導入した結晶の化学的構造へ変化したことを示した。したがって、金属M(Ni又はCu)はもはやFeSとの単純な物理的混合物中に存在せず、結晶構造内に導入されてFe(1−x)(2−2x)を生じた。形成された生成物Fe(1−x)(2−2x)は、金属M(Ni又は銅)が内部に完全に導入され、化学的に結合された固体結晶構造である。
【0089】
本発明のプロセスによって対応する反応混合物を加熱することにより、5グループのそれぞれに関する反応生成物Fe(1−x)Ni(2−2x)を生成した。したがって、各グループ混合物に関する反応混合物530を、表IIに示すモル比FeS:Mにて調製し、反応混合物530のサンプル5gを小型の開放アルミナ酸化物セラミックボート520内に配置したが、ボートは長さ約7.62cm(3インチ)及び幅約3.8cm(1.5インチ)であった(図6)。反応混合物530を収容するセラミックボート520を、次に直径7.62cm(3インチ)、長さ約152cm(5ft)の真っ直ぐなアルミナ酸化物セラミック加熱管510内に配置した。加熱管510を約122平方cm(4平方ft)の電気炉500内に挿入し、加熱管末端部511及び512はそれぞれ炉の対向末端壁501及び502を外部へ貫通していた。加熱管の入口末端部をアルゴンガス550の加圧タンクに接続した。タンク弁を僅かに開放して、アルゴンガス550を1l/分の低流速で、加熱管510を介して供給した。加熱管内のアルゴンガスの存在は、FeSと金属との反応混合物が加熱時間のいずれの時点でも空気に暴露されないことを確実にした。したがって、アルゴンガスの主な目的は、加熱時間中に反応混合物が空気及び大気に暴露されるのを防止することであった。
【0090】
加熱管510及びサンプル530を定位置に有する炉を、望ましい反応温度(約425〜500℃)に到達するまで、当初3℃/分の速度で加熱した。反応時間中、反応混合物530の温度をその温度に維持したが、反応時間は、3〜6時間にて変化した。試験電池の各グループに使用された特定の反応温度及び反応時間を、表IIにまとめる。この時間中、アルミナボート内のFeSと少量の金属M(Ni又はCu)とが式5に従って反応し、金属ドープ硫化鉄生成物Fe(1−x)(2−2x)が形成される。次に、生成物をアルゴン雰囲気の存在下で周囲温度に冷却させる。周囲温度に冷却後、
Fe(1−x)(2−2x)生成物を加熱管から除去し、カソード材料の作製に使用することができる。
【表2】

テーブルIIに示すグループサンプルのそれぞれに関して、Fe(1−x)(2−2x)生成物の固有抵抗を測定した。これらの固有抵抗を、対応する非加熱混合物、すなわち各グループのそれぞれの対応する同一のモル比のFeSと金属Mとの混合物の固有抵抗と比較した。固有抵抗の測定値を、表IIIにまとめる。2268キログラム(5000ポンド)で加圧した材料のペレットを用いてFe(1−x)(2−2x)材料に関する電気固有抵抗の測定を行った。ペレットは、重量〜0.500g、及び直径0.947cmを有する。Quadtech 7400 LCRメーターのAC電源を使用して、周波数2.5kHZにおけるペレットのインピーダンスを測定した。固有抵抗は、以下の等式により計算した。それらを表IIIに表す。
【数1】

【0091】
表IIIに示されるように、FeSと金属との混合物の加熱(加熱温度に関する表II参照)によって、対応する同一のモル比のFeSと金属(Ni又はCu)との単純な非加熱混合物より遙かに低い電気固有抵抗を有する結晶生成物Fe(1−x)(2−2x)が生じる。
【表3】

【0092】
理論的考察
NiS、CuS、CoS、MnS、及びZnS等の金属硫化物は全て、黄鉄鉱FeSと同様の結晶構造を所有する。これらの硫化物は全て、それらの室温での導電率に基づいて少なくともある程度、半導体材料と見なすことができる。半導体は、満たされた価電子帯と空の伝導帯との間に狭いエネルギーギャップを有する材料である。周囲温度において、価電子帯内の電子のいくつかは、金属と絶縁体との間の導電性を材料に提供するのに十分な伝導帯へ熱的に励起される。半導体の導電率は伝導帯内の電子数と比例し、この電子数はボルツマン因子e−Eg/RTと比例する。(式中、Eはエネルギーギャップである)。その結果、エネルギーギャップEgが減少するにつれて半導体の導電率が増大する。(W.L.Jolly,Modern Inorganic Chemistry,McGraw−Hill,Inc.(1984),p.316参照。)
本発明の生成物であるカソード活性材料Fe(1−x)(2−2x)も半導体材料と考えることができる。FeS結晶構造内のFeを金属M、例えばニッケル又は銅で置き換えると、価電子帯と伝導帯との間のエネルギーギャップが減少すると思われる。
【0093】
Fe(1−x)(2−2x)材料、0.1>x>0.01は、硫黄原子S(Sに代わってS2−2x)に欠乏が存在する欠陥結晶格子を有することが理論立てられる。硫黄原子の欠乏は結晶構造内に空孔(vacancy)を形成し、この空孔が電子で占有される。これらの電子は、より低いエネルギーギャップを有する伝導帯に励起され、FeS及び金属Mの非加熱混合物と比較して良好なFe(1−x)(2−2x)結晶材料の導電性(より低い固有抵抗)を生じることが理論立てられる。Fe(1−x)(2−2x)生成物の固有抵抗の低下は、テーブルIIIでの比較から明らかであり得るように、非常に有意である。
【0094】
試験電池対比較例電池の性能
5つの試験電池(ASTMサイズ2032コイン型電池100)を上述したように作製した。リチウムアノード、セパレータ及び電解質は、全ての電池に関して同一であった。電解質は、1重量%のピリジンが添加された、1,3−ジオキソラン(DX)80容積%とスルホラン(SL)20容積%とを含む溶媒混合物に溶解されたLi(CFSON(LiTFSI)から構成されていた。電解質は、同一出願人による国際出願第2008/012776(A2)号に開示されているタイプのものであった。カソードコーティングは同一であり、カソード活性材料以外は上述した方法と同様にアルミニウム基材上にコーティングした乾燥カソードスラリーから調製された。試験電池のカソード活性材料は、テーブルIIのグループ5に示されるように、FeSと、ニッケル(Ni)から選択された少量の金属との混合物を加熱して形成した金属ドープ硫化鉄Fe(1−x)(2−2x)であった。FeSとNiとのモル比は、0.97:0.03であった。
【0095】
5つの比較例コイン型電池(ASTMサイズ2032コイン型電池100)を、カソードがカソード活性材料としてFeSのみを使用した以外は、テーブルIIのグループ5に関して上述したものと同一のリチウムアノード、セパレータ、及び電解質を用いて調製した。試験電池のそれぞれに関して、同一の重量、すなわち0.023gのFe(1−x)(2−2x)生成物が、カソード中に存在した。また、比較例電池のカソード活性材料に関して、同一の重量、すなわち0.023gのFeSを使用した。
【0096】
試験電池及び比較例電池をDIGICAM試験に供した。
【0097】
しかしながら、DIGICAM試験の適用前には、全ての新品の電池(試験電池及び比較例電池)をまず、電池の容量の3%を消費するように予備放電させた。予備放電後、電池を次に周囲の室温(21℃)で24時間保管した。DIGICAM試験のプロトコルは、以下のとおりである。
【0098】
デジタルカメラ試験(DIGICAM試験)は、以下のパルス試験プロトコルからなり、各試験電池は、電池にパルス放電サイクルを適用することで、ドレインされる:各サイクルは、2秒間の6.5ミリワットパルス、及びその直後の28秒間の2.82ミリワットパルスの両方からなる。毎10サイクル後、電池を55分間休ませ、サイクルを繰り返す。1.05Vのカットオフ電圧に達するまでこのサイクルを継続する。これらのカットオフ電圧に達するために必要なパルスサイクル数を記録した。
【0099】
試験電池及び比較例電池の放電性能を、表IVにまとめる。
【表4】

注:
1.電池は全径約20mm、厚さ約3mmを有するASTMサイズ2032リチウムコイン型電池であった。全部の電池中で使用された電解質は、ピリジン0.1重量%が添加された1,3−ジオキソラン(DX)80容積%とスルホラン(SL)20容積%とを含む溶媒混合物に溶解されたLi(CFSON(LiTFSI)0.8mol/リットルから構成されていた。
2.FeSとM(Ni)とのモル比は、試験電池の金属ドープ硫化鉄生成物Fe(1−x)(2−2x)の生成に使用された0.97:0.03(表II、5番)であった。表IIの5番に関する比較例電池は、カソード活性材料としてFeSのみを使用した。
3.各パルスサイクルは、2秒間の6.5ミリワットパルスと、その直後の28秒間の2.82ミリワットパルスとからなる。毎10サイクル後、電池を55分間休ませ、カットオフ電圧1.05Vに達するまでプロトコルを繰り返した。
【0100】
表IVに示される試験データから、本発明のNiドープ硫化鉄生成物を含むカソードを有するリチウム電池が、DIGICAM試験にて、FeSカソード材料を有する同一サイズのリチウム電池よりも多数のパルスサイクルを生成したことは明らかである。
【0101】
加えて、本発明のニッケルドープ硫化鉄を用いたグループ1のカソード活性材料を使用したリチウムコイン型電池を、ニッケルドープ硫化鉄の形成に使用したものと同一の構成成分からなる単純な非加熱混合物を使用した比較例電池と比較した、電圧対時間放電特性を比較する放電試験を行った。すなわち、試験電池は、モル比0.97:0.03のFeSとニッケルとの反応混合物を、上述したようにアルゴン雰囲気中で500℃で3時間加熱して形成されたカソード活性材料を有した。それにより、式Fe(1−x)Ni(2−2x)(x=0.03)、すなわちFe0.97Ni0.031.94のカソード材料が得られた。一方、試験電池は、同量であるが、代わりにモル比0.97:0.03のFeS及びニッケルの単純な(非加熱)混合物から形成されたカソード活性材料を用いた。電池はそれ以外は同一であり、同一の電解質、すなわち1重量%ピリジンが添加された、80容積%の1,3−ジオキソラン(DX)と20容積%のスルホラン(SL)とを含む溶媒混合物に溶解されたLi(CFSON(LiTFSI)を収容していた。電池を100mA/グラムカソード活性材料の一定速度でカットオフ電圧0.6ボルトまで放電させた。試験電池に関する放電電圧は、放電時間特性全体にわたって、比較例電池に関する放電電圧よりも高かった。このことは、ニッケルドープ硫化鉄カソード活性材料が、FeS及びニッケルの単純な混合物をカソード中に有する比較例電池よりも良好な速度能力を有することを示した。
【0102】
本発明について特定の実施形態を参照しながら説明してきたが、当然のことながら、本発明の概念から逸脱することなくその他の実施形態も可能であり、すなわち、その他の実施形態は本発明の特許請求及び均等物の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、正極及び負極と、リチウム金属及びリチウム合金の少なくとも一方を含むアノードと、金属ドープ硫化鉄及び導電性炭素を含むカソードと、を備える一次電気化学電池であって、前記金属ドープ硫化鉄が、内部に金属Mが導入された結晶構造を有し、前記金属ドープ硫化鉄が、式Fe(1−x)(2−2x)(式中、xは、0.01〜0.1、又は0.01若しくは0.1と等しい値を有する)を有し、前記金属Mが、ニッケル、銅、鉄、及びマンガンからなる群より選択される、電池。
【請求項2】
前記金属ドープ硫化鉄中のFeとMとのモル比が、0.99:0.01〜0.9:0.1である、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記金属ドープ硫化鉄が、約0.25〜2.5ohm−cmの固有抵抗を有する、請求項1又は2に記載の電池。
【請求項4】
前記金属Mが、前記結晶構造内に化学結合した状態で保持されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電池。
【請求項5】
前記金属ドープ硫化鉄が、約1〜100マイクロメートルの粒径を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電池。
【請求項6】
1,3−ジオキソラン及びスルホランを含む溶媒混合物に溶解された、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド(Li(CFSON)を含むリチウム塩を含む電解質を更に備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電池。
【請求項7】
前記アノードがシートの形態である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電池。
【請求項8】
前記金属ドープ硫化鉄及び導電性炭素を含む前記カソードが、アルミニウムを含む基材シート上にコーティングされている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電池。
【請求項9】
前記導電性炭素が、カーボンブラックとグラファイトとの混合物を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電池。
【請求項10】
前記カソードが、金属基材に結合されたコーティングの形態の前記金属ドープ硫化鉄を含み、前記アノード及び前記カソードが、前記アノードと前記カソードとの間のセパレータ材料と共に、らせん状に巻き付けられた形態に構成されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電池。
【請求項11】
式Fe(1−x)(2−2x)(式中、xは、0.01〜0.1、又は0.01若しくは0.1と等しい値を有する)を有し、前記金属Mがニッケル及び銅からなる群より選択され、内部に前記金属Mが化学結合した状態で保持されている結晶構造を有する、金属ドープ硫化鉄。
【請求項12】
前記金属ドープ硫化鉄中のFeとMとのモル比が、0.99:0.01〜0.9:0.1である、請求項11に記載の金属ドープ硫化鉄。
【請求項13】
前記金属ドープ硫化鉄が、約0.25〜2.5ohm−cmの固有抵抗を有する、請求項11に記載の金属ドープ硫化鉄。
【請求項14】
前記金属ドープ硫化鉄が、約1〜100マイクロメートルの粒径を有する、請求項11に記載の金属ドープ硫化鉄。
【請求項15】
金属ドープ硫化鉄の製造方法であって、
a)二硫化鉄(FeS)粉末と金属(M)との粉末混合物を含む反応混合物を調製する工程であり、前記二硫化鉄(FeS)と金属(M)との混合物中の金属(M)のモル比が、0.01〜0.1、又は0.01若しくは0.1と等しく、前記金属Mが、ニッケル及び銅からなる群より選択される、工程と、
b)前記反応混合物を不活性雰囲気下にて約400〜550℃の高温で少なくとも約1時間加熱して、式Fe(1−x)(2−2x)(式中、xは0.01〜0.1、又は0.01若しくは0.1と等しい値を有する)を有する金属ドープ硫化鉄生成物を形成する工程と、を含む、方法。

【図1】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−500467(P2012−500467A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524064(P2011−524064)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/054715
【国際公開番号】WO2010/027720
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(593093249)ザ ジレット カンパニー (349)
【Fターム(参考)】