説明

金属ラミネートフィルム用ポリエステル樹脂組成物

【課題】 飲食料品用金属缶にラミネートフィルムとして用いた際、充填物の風味を損なうことのない、良好な耐レトルト性とフレーバー特性を有する金属ラミネートフィルム用ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とするポリエステル(A)と、ポリブチレンテレフタレートまたはこれを主体するポリエステル(B)とから構成されるポリエステル樹脂組成物において、ポリエステル(A)とポリエステル(B)の質量比率が30:70〜70:30であり、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物からなる固溶体を30〜280ppm含有し、極限粘度が0.6〜1.0であることを特徴とする金属ラミネートフィルム用ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食料品用金属缶にラミネートフィルムとして用いた際、充填物の風味を損なうことのない、良好な耐レトルト性とフレーバー特性を有する金属ラミネートフィルム用ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属缶の内外面の腐食防止には、熱硬化性樹脂を主成分とする溶剤型の塗料が塗布されていた。しかし、溶剤型塗料は塗膜を形成するために高温での加熱が必要であり、その時に多量の溶剤が発生するため、作業の安全性および環境の面からも問題があった。そのため、最近は溶剤を用いない腐食防止法として、ポリエステルをベースとした金属ラミネート用フィルムの開発が進められている。
【0003】
熱可塑性樹脂フィルムを被覆した金属缶は、鋼板、アルミ板等の金属板(メッキ等の表面処理を施したものを含む)に熱可塑性樹脂フィルムをラミネートし、ラミネート金属板を成形加工して製造される。このような用途に用いられる熱可塑性樹脂フィルムには、金属板との熱ラミネート性がよいこと、缶の成形性に優れていること、つまり、缶の成形時にフィルムの剥離、亀裂、ピンホール等の発生がないこと、缶成形後の印刷、レトルト殺菌処理および長期の保存の際に脆化しないこと、内容物の保味保香性に優れること等の数々の特性が同時に要求される。
【0004】
このような金属板ラミネート用ポリエステルフィルムとしては、熱ラミネート性を付与し、缶の成形性を向上させる目的で、共重合したフィルムが提案がされている。しかしながら、共重合することで、缶成形後の熱処理およびレトルト殺菌処理時に脆化し、耐衝撃性が低下するという問題や、絞り成形やしごき成形等の厳しい条件での成形性(高加工性)については、十分な成形性は付与されていなかった。
【0005】
また、同じ目的で、他の成分を混合したフィルム、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)主体のポリエステルやポリブチレンテレフタレート(PBT)主体のポリエステルなど、結晶性の異なる実質的に非相溶の2種以上のポリエステルを特定割合で配合したフィルムが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
ところで、代表的なポリエステルであるPETの場合には、テレフタル酸もしくはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル化もしくはエステル交換によってビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートを製造し、これを高温、真空下で触媒を用いて重縮合する重縮合法等により、工業的に製造されている。このようなポリエステルの重縮合時に用いられるポリエステル重合触媒としては、三酸化アンチモンが広く用いられている。三酸化アンチモンは、安価で、かつ優れた触媒活性をもつ触媒であるが、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、PETに黒ずみや異物が発生する。これが、フィルム化する際に、分解物発生の起因となり、フレーバー性に劣ることも問題となっている。また、最近環境面からアンチモンの安全性に対する問題が指摘されている。アンチモンを触媒とした場合はこのような経緯で、アンチモンを含まないポリエステルが望まれている。
【0007】
このような問題を解決するために、ゲルマニウム化合物が実用化されているが、この触媒は非常に高価であることや、重合中に反応系から外へ溜出しやすいため反応系の触媒濃度が変化し、重合の制御が困難であるといった問題を有している。
【0008】
また、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物を逐次的に添加することで、それらの触媒活性を足し合わせた以上の触媒活性を持たせる方法が提案されているが、得られるポリエステル樹脂の着色が起こるという問題があった(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−313755号公報
【特許文献2】特開2000−302854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、飲食料品用金属缶にラミネートフィルムとして用いた際、充填物の風味を損なうことのない、良好な耐レトルト性とフレーバー特性を有する金属ラミネートフィルム用ポリエステル樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記問題を解決するために種々検討した結果、PET主体のポリエステルと、PBT主体のポリエステルとを特定割合で配合した樹脂組成物において、ポリエステルの重合触媒として、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物からなる固溶体を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
PETまたはこれを主体とするポリエステル(A)と、PBTまたはこれを主体するポリエステル(B)とから構成されるポリエステル樹脂組成物において、ポリエステル(A)とポリエステル(B)の質量比率が30:70〜70:30であり、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物からなる固溶体を30〜280ppm含有し、極限粘度が0.6〜1.0であることを特徴とする金属ラミネートフィルム用ポリエステル樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、アンチモン化合物を含まないため、アンチモン原子に起因する析出異物がなく、また、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物からなる固溶体をポリエステルの重縮合触媒として用いたことで適度な重合度を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるPET又はこれを主体とするポリエステル(A)は、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分とを主成分とするものであり、その特性が損なわれない範囲で他の成分が共重合されていてもよい。そのような共重合成分としては、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸成分、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトールなどのジオール成分、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸成分などが挙げられる。
【0013】
本発明におけるPBT又はこれを主体とするポリエステル(B)は、テレフタル酸成分と1,4−ブタンジオール成分とを主成分とするものであり、その特性が損なわれない範囲で他の成分が共重合されていてもよい。そのような共重合成分としては、ポリエステル(A)の場合と同様な化合物が挙げられる。
【0014】
本発明のポリエステル樹脂組成物において、ポリエステル(A)とポリエステル(B)の質量比率は、30:70〜70:30の範囲であることが必要である。ポリエステル(A)の比率がこの範囲よりも小さい場合は、耐衝撃性や接着性が劣り、一方、ポリエステル(B)の比率がこの範囲よりも小さい場合は、耐レトルト性が劣るため、好ましくない。
【0015】
本発明のポリエステル樹脂組成物の極限粘度は、0.6〜1.0であることが必要である。そのためには、ポリエステル(A)の極限粘度が0.6〜1.6であり、ポリエステル(B)の極限粘度が0.5〜0.9であることが好ましい。ポリエステル樹脂組成物の極限粘度が0.6未満では、フィルムとしての強度が劣り、耐衝撃性が低いため好ましくない。極限粘度が1.0を超える場合は、フィルムとしての特性は問題ないが、ポリエステルの製造時間が長くなり、製造コストがかかるばかりであるため、好ましくない。ポリエステルの極限粘度は、重縮合装置における撹拌動力値と相関があるため、ポリエステルの重縮合反応において、目標の極限粘度に対応した撹拌動力値に到達した時点で反応を終了させることで、所定の極限粘度を有するポリエステルを得ることができる。
【0016】
本発明においてポリエステル(A)は、その重合時にマグネシウム化合物及びアルミニウム化合物からなる固溶体をポリエステルの重縮合触媒として使用するため、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物からなる固溶体を含有する。マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物を固溶体として用いることによって、マグネシウム化合物とアルミニウム化合物の複合効果が得られ、適度な重合活性が得られる。また、アンチモン化合物や、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物を逐次的に添加した場合に見られる、触媒の分解物等に起因する粗大な異物の発生という問題が解決される。
【0017】
アルミニウム化合物及びマグネシウム化合物からなる固溶体とは、それぞれが均一に溶け合った固体であり、これらの結晶格子の一部は他の原子によって置き換わり、組成を変化させることができるものである。
【0018】
アルミニウム化合物としては特に限定はされないが、例えば、水酸化アルミニウム、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウムなどの塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物、酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。これらの中でもさらに水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウムが特に好ましい。
【0019】
マグネシウム化合物としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、マグネシウムアセチルアセトネート、酢酸以外のカルボン酸塩などが挙げられ、特に水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが好ましい。
【0020】
アルミニウム化合物及びマグネシウム化合物からなる固溶体は、必要に応じて、他の金属を含有していてもよい。他の金属としては亜鉛、チタン、錫、コバルト、マンガン、ニオブ、ジルコニウム、ケイ素、鉄、ニッケル、ガリウムなどが挙げられる。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物からなる固溶体を含有するポリエステル(A)を構成成分とするため、固溶体を30〜280ppm含有する。ポリエステル(A)の重合時に、樹脂組成物中の含有量が30ppmより少なくなるように固溶体が用いられると、重縮合触媒としての活性が十分でないため、十分な極限粘度を有するポリエステルが得られない。そのため、ポリエステル樹脂組成物を用いてフィルムにした際に十分な強度が得られず、耐衝撃性が劣るため好ましくない。一方、樹脂組成物中の含有量が280ppmを超えるように固溶体が用いられると、固溶体がポリエステル樹脂中で凝集して粗大粒子となり、このポリエステル樹脂組成物をフィルムに製膜する際に、フィルターの濾過圧力の上昇が大きく、フィルム製膜時の操業性が悪くなり、好ましくない。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂組成物を構成するポリエステル(A)、ポリエステル(B)は、以下のような方法で製造することができる。
【0023】
ポリエステル(A)は、溶融重合工程、固相重合工程を経て製造する。
溶融重合の方法は、例えば、次のように行う。ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体の存在するエステル化反応槽に、テレフタル酸とエチレングリコールとのスラリーを連続的に供給し、250℃の温度で3〜8時間程度反応させて、エステル化反応率95%付近のエステル化物を連続的に得る。次いで、これを重合缶に移送し、触媒の存在下に、1.3hPa以下の減圧下、280℃の温度で所望の極限粘度のポリエステルが得られるまで溶融重縮合反応する。
固相重合の方法は、例えば、あらかじめ、ポリエステルを乾燥、結晶化させた後、通常、減圧又は不活性ガス流通下で、ポリエステル(A)の融点以下、通常、200〜240℃の温度で3時間〜50時間、反応容器内にてポリエステルを反応させることにより行われる。
【0024】
ポリエステル(B)も、溶融重合工程、固相重合工程を経て製造する。
溶融重合の方法は、例えば、次のように行う。例えば、ジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオール、エステル交換触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートをエステル交換反応槽に仕込み、230℃の温度で5時間程度反応させて、エステル交換反応率95%付近のエステル化物を得る。次いで、これを重合缶に移送し、触媒の存在下に、1.3hPa以下の減圧下、250℃の温度で所望の極限粘度のポリエステルが得られるまで溶融重縮合反応する。
固相重合は、例えば、あらかじめ、ポリエステルを乾燥、結晶化させた後、通常、減圧又は不活性ガス流通下で、ポリエステル(B)の融点以下、通常、170〜200℃の温度で3時間〜50時間、反応容器内にてポリエステルを反応させることにより行われる。
【0025】
ポリエステルの重合においては必要に応じ添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等を、熱安定剤としては、例えばリン系化合物等を、紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系の化合物等を挙げることができる。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂組成物を用い、一般的なラミネートフィルムを製造する方法としては下記の方法が挙げられる。まず、上記のポリエステル樹脂組成物を十分に乾燥させた後、Tダイを備えた押出機に供給し、ポリマーの融点より10〜80℃高い温度で溶融押出し、シート状又は円筒状に口金より吐出させ、冷却ロール又は水などの冷媒中に導いて冷却固化させ、未延伸フィルムを得る。続いて、この未延伸フィルムを少なくとも一軸方向に延伸する。一軸に延伸する場合は、オーブンなどを用いて幅方向に延伸することが望ましく、二軸に延伸する場合には、延伸ロールなどを用いて長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する逐次二軸延伸、両方向に実質的に同時に延伸する同時二軸延伸のいずれでもよい。その後、必要に応じて、フィルムの特性を損なわない程度に、熱処理や乾燥、表面処理などの処理を施す。
【0027】
このようにして得られたポリエステルフィルムは、鋼板、アルミ等の金属板に熱ラミネートされるが、ラミネートする金属板は、クロム酸処理、リン酸処理、電解クロム酸処理、クロメート処理等の化成処理や、ニッケル、スズ、亜鉛、アルミ、砲金、真鍮、その他の各種メッキ処理などを施した鋼板を用いることができる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例において特性評価は次のようにして行った。
【0029】
(a)極限粘度(IV)
フェノール/四塩化エタンの等質量混合溶媒を用いて、温度20℃で測定した溶液粘度から求めた。
【0030】
(b)濾過圧力の昇圧速度
ポリエステルを、エクストルーダーにて溶融し、計量ポンプを介して目開きが20μmのストレーナーを通過させ、計量ポンプ、ストレーナー間のポリマー圧力から求めた。具体的には、ポリマー温度300℃、吐出量30g/分で24時間昇圧試験を行った際の初期圧力と最終圧力の値から、下記計算式により昇圧速度を算出した。昇圧速度は遅い方が良好であり、0.30MPa/h以下の場合を合格(○)、0.30MPaを超えた場合を不合格(×)とした。
昇圧速度=(最終圧力値−初期圧力値)/24
【0031】
(c)接着性
240℃に加熱した金属ロールとシリコーンゴムロールの間に、厚み12μmのフィルムと厚み0.25mmのティンフリースチール板とを重ね合わせ、線圧98N/cmで加圧接着した後、水冷した。次いで、25mm幅に切断した試験片を用いて、島津製作所社製オートグラフで、剥離速度10mm/分で180度剥離テストを行い、その剥離強力を測定することにより、接着性の指標とした。
○:剥離強力が2.9N以上で合格
×:剥離強力が2.9N未満で不合格
【0032】
(d)耐衝撃性
厚み12μmのフィルムと厚み0.25mmのティンフリースチール板とを重ね合わせ、温度160℃、圧力9.8MPaの条件で、バッチ法によりプレス成形して、フィルムをラミネートした鋼板を得た。次いで、このラミネート鋼板を円形に打ち抜き、薄肉深絞り成形を行って、直径100mm、深さ130mm、絞り比(深さと直径との比)1.3のカップを作製した。作製したカップを、180℃で10分間熱処理し、次いで、このカップ側面及びカップ底面の7箇所にセンターポンチで衝撃を与えた。続いて、このカップ内に1質量%の食塩水を入れ、80℃で24時間加熱し、カップ内に生じた錆の量及びその状態を判定することにより、耐衝撃性の指標とした。A〜Cの3段階評価で、A及びBを合格とした。
A:殆ど錆がみられない
B:カップの表面積の5%未満に錆がみられる
C:カップの表面積の5%以上に錆がみられる
【0033】
(e)耐レトルト性
上記(d)で作製したラミネート鋼板を、14cm×12cmの長方形に打ち抜き、120℃で30分間のスチーム処理を行った後の外観を判定することにより、耐レトルト性の指標とした。なお、外観は、ウォータースポット(白く浮き上がったように見える斑点)を目視検査し、A及びBを合格とした。
A:殆ど変化なし
B:カップの表面積の5%未満にウォータースポットの発生がみられる
C:カップの表面積の5%以上にウォータースポットの発生がみられる
【0034】
(f)フレーバー特性
14cm×12cm、厚み12μmの長方形のフィルムを二枚重ね合わせてから、その三方をヒートシールし、その中に清涼飲料水50mlを入れて、残りの一方をヒートシールした。この清涼飲料水を充填したフィルム袋を、室温下に1か月間放置した後、開封し、パネラー5人による官能検査で、清涼飲料水の味をA〜Cの3段階評価し、A及びBを合格とした。
A:パネラー5人中4人以上が変化を認められなかった。
B:パネラー5人中3人以上が変化を認められなかった。
C:パネラー5人中2人以上が変化を認めた。
【0035】
実施例1
ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体の存在するエステル化反応缶に、テレフタル酸とエチレングリコールとのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaGの条件で反応させ、滞留時間を8時間としてエステル化反応率95%のPETオリゴマーを連続的に得た。
このPETオリゴマー55.5kgを重合反応器に移送し、さらに滑剤として生成ポリマー量に対して0.08質量%となる量の二酸化ケイ素微粒子、触媒として、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムからなり、アルミニウム/マグネシウムのモル比率が0.4である固溶体(堺化学工業社製HT−P)を、固溶体の含有量がポリエステルに対し250ppmとなる量(125g)添加し、重縮合反応器中を減圧にして、最終的に0.9hPa、280℃で3時間重縮合反応を行ってポリエステルを得た。このポリエステルをチップ化し、真空乾燥機により乾燥後、固相重合装置に移送し、温度230℃で、最終的に1.5hPaで10時間固相重合を行い、極限粘度0.78のポリエステル(A)を得た。
テレフタル酸ジメチル44kg、1,4−ブタンジオール23.9kgに対しエステル交換反応触媒として酸成分1モルに対し2.6×10−4モルとなる量のテトラブチルチタネート20gを加え、常圧にて150℃で撹拌を開始し、温度を210℃まで上昇させながら、副生するメタノールを留去し、180分後、エステル交換反応を終了した。次いで、酸成分1モルに対し1.4×10−4モルとなる量のテトラブチルチタネート13gを加え250℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて0.9hPaで2時間重縮合反応を行った。このポリエステルをチップ化し、真空乾燥機により乾燥後、固相重合装置に移送し、温度190℃で、最終的に1.5hPaで8時間固相重合を行い、極限粘度0.90のポリエステル(B)を得た。
以上の方法で得られたポリエステル(A)とポリエステル(B)を質量比が40:60となるようにチップブレンドにて配合し、極限粘度0.85、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物からなる固溶体の含有量が100ppmのポリエステル樹脂組成物を得た。
次いで、このポリエステル樹脂組成物を280℃で溶融し、Tダイを備えた押出機より押出してシート状に成形し、続いて、これを表面温度18℃に調節した冷却ドラム上に密着させて急冷し、厚み120μmの未延伸シートを得た。この未延伸シートの端部をテンター式同時二軸延伸機のクリップに把持させ、80℃に加熱して縦方向に3.0倍及び横方向に3.3倍になるように同時二軸延伸した。その後、横方向の弛緩率を5%として、180℃で4秒間熱処理した後、室温まで冷却し、50m/分の速度で巻き取って厚み12μmのフィルムを得た。次に、このフィルムを用いて各種の性能試験を行った。得られた結果を表1に示した。
【0036】
実施例2〜6、比較例1〜5
PETとPBTの配合割合や、重合触媒の含有量や種類を変えた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物及びフィルムを作成し、このフィルムを用いて各種の性能試験を行った。得られた結果を表1に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1〜5では、良好な特性を有するフィルムが得られたが、比較例では、次のような問題があった。
比較例1では、ポリエステル(A)の比率が小さかったため、フィルムの耐衝撃性や接着性が悪かった。
比較例2では、ポリエステル(B)の比率が小さかったため、フィルムの耐レトルト性が悪かった。
比較例3では、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物からなる固溶体の含有量が30ppmより少なかったため、重縮合反応が進み難く、ポリエステル樹脂組成物の極限粘度が低かった。そのため、フィルムの耐衝撃性が悪かった。
比較例4では、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物からなる固溶体の含有量が280ppmより多かったため、ポリエステル中に固溶体が凝集して異物が発生し、濾過圧力の昇圧速度は大きく、フィルム製膜時の操業性が悪かった。
比較例5では、重縮合触媒として三酸化アンチモンを使用したため、フィルムのフレーバー性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とするポリエステル(A)と、ポリブチレンテレフタレートまたはこれを主体するポリエステル(B)とから構成されるポリエステル樹脂組成物において、ポリエステル(A)とポリエステル(B)の質量比率が30:70〜70:30であり、マグネシウム化合物及びアルミニウム化合物からなる固溶体を30〜280ppm含有し、極限粘度が0.6〜1.0であることを特徴とする金属ラミネートフィルム用ポリエステル樹脂組成物。



【公開番号】特開2006−233069(P2006−233069A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50925(P2005−50925)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】