説明

金属リング用周長測定装置

【課題】油が過剰に付着している金属リングであっても正確に周長を測定することができる金属リング用周長測定装置を提供する。
【解決手段】金属リング用周長測定装置1は、各外周面11に金属リングWが掛け回される駆動ローラ2及び従動ローラ3と、両ローラ2,3に金属リングWを掛け回した状態で、従動ローラ3を駆動ローラ2から離間する方向へ移動させることにより、金属リングWに張力を付与する引張シリンダ4と、張力が付与された金属リングWを、駆動ローラ2の回転駆動により両ローラ2,3の間で周回させるときに、移動された従動ローラ3の変位量を検出する測定手段5とを備える。両ローラ2,3は、外周面11に、周方向に形成された第1の溝12と、第1の溝12に対して所定の角度θで交差し、両端面13a,13bに開口して形成された複数の第2の溝14とを備える。複数の第2の溝14は、互いに等間隔かつ平行に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機等のベルトに用いられる無端帯状金属リングの周長を測定する金属リング用周長測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機(CVT)等の動力伝達に用いられるベルトは、複数の無端帯状金属リングを相互に積層して形成された金属リング積層体により、環状に積層配列された複数の金属エレメントを一体に結束したものである。各金属リングは、厚さ方向に相互に積層可能とするために、少しずつ周長が異なるように形成されている。
【0003】
前記無段変速機用ベルトを構成する金属リングは、次のようにして製造される。まず、例えばマルエージング鋼等の金属からなる薄板の端部同士を溶接して円筒状のドラムを形成し、該ドラムを所定の幅に裁断して無端帯状金属リングを形成する。次に、前記金属リングを圧延し、該金属リングの周長を測定して、所望の周長を備える金属リングを得る。
【0004】
従来、前記周長測定を行う金属リング用周長測定装置としては、金属リングが掛け回される駆動ローラ及び従動ローラと、従動ローラを駆動ローラから離間する方向へ移動させて金属リングに張力を付与する張力付与手段と、張力が付与された金属リングを両ローラの間で周回させるときに、従動ローラの変位量を検出する測定手段とを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。前記金属リング用周長測定装置によれば、両ローラに掛け回されるとともに張力が付与された金属リングを両ローラの間で周回させるときに、従動ローラの変位量を検出することにより、各ローラの直径と両ローラの軸間距離とから該金属リングの周長を算出することができる。
【0005】
通常、圧延された金属リングは、発錆を防止するために防錆油が塗布されている。しかし、防錆油が金属リングに付着した状態で前記周長測定を行うと、金属リングと各ローラとの間に油膜が形成され、この油膜の厚みが金属リングの周長の測定精度に影響を与えてしまう。そこで、前記周長測定は、過剰に付着している前記防錆油を除去した後で行われる。そして、前記防錆油の除去は、前記金属リングを所定の容器等に所定時間静置することにより行われる。
【0006】
ところで、近年、製造工程における在庫削減を目的として、前記防錆油の除去に要する時間の削減が求められている。しかしながら、従来の前記金属リング用周長測定装置では、防錆油が過剰に付着していると、金属リングの周長を正確に測定することができないという不都合がある。
【特許文献1】特開2002−156220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、油が過剰に付着している金属リングであっても正確に周長を測定することができる金属リング用周長測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明は、金属リングが掛け回される駆動ローラ及び従動ローラと、該金属リングが掛け回された該駆動ローラ及び該従動ローラの少なくとも一方を他方から離間する方向へ移動させることにより、該金属リングに張力を付与する張力付与手段と、該張力付与手段により張力が付与された該金属リングを、該駆動ローラの回転駆動により該駆動ローラと該従動ローラとの間で周回させるときに、移動された一方のローラの変位量を検出する測定手段とを備える金属リング用周長測定装置において、該駆動ローラ及び該従動ローラは、外周面に、周方向に形成された第1の溝と、該第1の溝に対して所定の角度で交差し、両端面に開口して形成された複数の第2の溝とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の金属リング用周長測定装置では、前記駆動ローラ及び前記従動ローラに前記金属リングを掛け回し、前記張力付与手段により、該駆動ローラ及び該従動ローラの少なくとも一方のローラを他方のローラから離間する方向へ移動させて、該金属リングに張力を付与する。そして、張力が付与された前記金属リングを、前記駆動ローラの回転駆動により、該駆動ローラと前記従動ローラとの間で周回させる。このとき、前記金属リングに過剰に付着している油は、前記駆動ローラ及び前記従動ローラの回転に伴って、前記外周面に形成された前記第1の溝及び前記第2の溝に移動する。本発明の金属リング用周長測定装置によれば、前記第2の溝が前記第1の溝に対して所定の角度で交差して設けられているので、該第1の溝に移動された油を該第2の溝に容易に移動させることができる。また、第2の溝が前記両端面に開口して形成されているので、該第2の溝に移動された油を開口部から容易に脱離させることができる。したがって、本発明の金属リング用周長測定装置によれば、前記金属リングに過剰に付着している油を十分に除去することができる。
【0010】
そして、張力が付与された前記金属リングを、前述のように、前記駆動ローラと前記従動ローラとの間で周回させながら、前記測定手段により、移動された前記一方のローラの変位量を検出する。これにより、本発明の金属リング用周長測定装置は、前記駆動ローラの直径と、前記従動ローラの直径と、該駆動ローラ及び該従動ローラの軸間距離とから、前記金属リングの周長を算出する。このとき、前記金属リングは過剰に付着している油が十分に除去されているので、前記測定手段は移動された前記一方のローラの変位量を正確に検出することができる。したがって、本発明の金属リング用周長測定装置は、油が過剰に付着している金属リングであっても正確に周長を測定することができる。
【0011】
また、本発明の金属リング用周長測定装置においては、前記複数の第2の溝は、互いに等間隔かつ平行に配設されていることが好ましい。このように構成することにより、前記金属リングに過剰に付着している油を、該金属リングの周方向全体に亘って均一に除去することができるので、周長をより正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の金属リング用周長測定装置を示す説明的正面図である。図2(a)は図1に示す駆動ローラ及び従動ローラの説明的平面図であり、図2(b)は駆動ローラ及び従動ローラの説明的側面図である。
【0013】
図1に示す金属リング用周長測定装置1は、無段変速機用ベルトを構成するための無端帯状金属リングWの周長を測定するものであり、金属リングWが掛け回される駆動ローラ2及び従動ローラ3と、金属リングWに張力を付与する張力付与手段としての引張シリンダ4と、従動ローラ3の変位量を検出する測定手段5とを備える。
【0014】
駆動ローラ2及び従動ローラ3は、同径であり、水平方向に所定の間隔を存して設けられ、金属リングWが掛け回されるようになっている。駆動ローラ2は、駆動ローラ用軸受部材6に接続されたモータ7の作動により、回転駆動する。また、従動ローラ2は、引張シリンダ4のシリンダロッド4aの先端に取着されるとともにガイドレール8に沿って摺動可能に設けられた軸支部材9に軸支されている。従動ローラ3は、引張シリンダ4により、ガイドレール8に沿って駆動ローラ2から離間する方向に変位自在とされている。
【0015】
引張シリンダ4は、従動ローラ3を駆動ローラ2から離間する方向に変位させることにより、駆動ローラ2及び従動ローラ3に掛け回された金属リングWに張力を付与するようになっている。
【0016】
軸支部材9は、測定手段5の先端が当接される当接部材10を備え、当接部材10は外方に突出して設けられている。測定手段5は、ガイドレール8に沿って移動する従動ローラ3の変位量を検出するようになっている。
【0017】
また、駆動ローラ2及び従動ローラ3は、外周面11に、図2(a),(b)に示すように、周方向に形成された第1の溝12と、第1の溝12に対して所定の角度θで交差し、各ローラ2,3の両端面13a,13bに開口して形成された複数の第2の溝14とを備えている。本実施形態では、第2の溝14は、12本形成されていて、互いに等間隔かつ平行に配設されている。また、第2の溝14は、第1の溝12に対して角度θ=30°で交差している。
【0018】
次に、図1を参照しながら金属リング用周長測定装置1の作動について説明する。まず、従動ローラ3を駆動ローラ2に近接させた状態で、駆動ローラ2及び従動ローラ3に金属リングWを掛け回す。この金属リングWは、圧延された後に防錆油を塗布したものであり、防錆油が過剰に付着した状態となっている。
【0019】
次に、引張シリンダ4により、従動ローラ3を、ガイドレール8に沿って駆動ローラ2から離間する方向へ移動させることにより、金属リングWに張力を付与して金属リングWを緊張状態にさせる。
【0020】
次に、モータ7を作動し、駆動ローラ2の回転駆動により金属リングWを駆動ローラ2と従動ローラ3との間で周回させる。このとき、金属リングWに過剰に付着している防錆油は、駆動ローラ2及び従動ローラ3の回転に伴って、外周面11に形成された第1の溝12及び第2の溝14に移動する。本実施形態の金属リング用周長測定装置1によれば、第2の溝14が第1の溝12に対して所定の角度θ=30°で交差して設けられているので、第1の溝12に移動された防錆油を第2の溝14に容易に移動させることができる。また、第2の溝14が両端面13a,13bに開口して形成されているので、第2の溝14に移動された防錆油を開口部から容易に脱離させることができる。したがって、本実施形態の金属リング用周長測定装置1によれば、金属リングWに過剰に付着している防錆油を十分に除去することができる。また、本実施形態の金属リング用周長測定装置1では、12本の第2の溝14が互いに等間隔かつ平行に配設されていることにより、金属リングWの周方向全体に亘って防錆油を均一に除去することができる。
【0021】
そして、引張シリンダ4により張力が付与された金属リングWを、前述のように、駆動ローラ2と従動ローラ3との間で周回させながら、測定手段5により、移動された従動ローラ3の変位量を検出する。これにより、本実施形態の金属リング用周長測定装置1は、駆動ローラ2の直径と、従動ローラ3の直径と、駆動ローラ2及び従動ローラ3の軸間距離とから、金属リングWの周長を算出する。このとき、金属リングWは過剰に付着している油が十分に除去されているので、測定手段5は従動ローラ3の変位量を正確に検出することができる。したがって、本実施形態の金属リング用周長測定装置1は、油が過剰に付着している金属リングWであっても正確に周長を測定することができる。
【0022】
本実施形態では、第2の溝14を12本形成するとしたが、この本数は2本以上であれば適宜変更可能である。また、第2の溝14は第1の溝12に対して角度θ=30°で交差するとしたが、この角度θは適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態の金属リング用周長測定装置を示す説明的正面図。
【図2】図1に示す駆動ローラ及び従動ローラの説明図。
【符号の説明】
【0024】
1…金属リング用周長測定装置、 2…駆動ローラ、 3…従動ローラ、 4…張力付与手段、 5…測定手段、 11…外周面、 12…第1の溝、 13a,13b…端面、 14…第2の溝、 W…金属リング、 θ…所定の角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属リングが掛け回される駆動ローラ及び従動ローラと、
該金属リングが掛け回された該駆動ローラ及び該従動ローラの少なくとも一方を他方から離間する方向へ移動させることにより、該金属リングに張力を付与する張力付与手段と、
該張力付与手段により張力が付与された該金属リングを、該駆動ローラの回転駆動により該駆動ローラと該従動ローラとの間で周回させるときに、移動された一方のローラの変位量を検出する測定手段とを備える金属リング用周長測定装置において、
該駆動ローラ及び該従動ローラは、外周面に、周方向に形成された第1の溝と、該第1の溝に対して所定の角度で交差し、両端面に開口して形成された複数の第2の溝とを備えることを特徴とする金属リング用周長測定装置。
【請求項2】
前記複数の第2の溝は、互いに等間隔かつ平行に配設されていることを特徴とする請求項1記載の金属リング用周長測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−66093(P2010−66093A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231916(P2008−231916)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】