説明

金属体と樹脂体を接合した部材およびその製造方法

【課題】金属体の変形および変色を抑制でき、かつ金属体と樹脂体との間に強い接合力が作用している、金属体と樹脂体を接合した部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】金属より成る金属体1と樹脂より成る樹脂体4とが接合された接合部材100であって、前記金属体1と前記樹脂体4との接合部に、前記金属体1側から順に水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、アミン化合物、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜と、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を含んで成る分子接着剤と、を有し、前記樹脂体4が前記分子接着剤と接する部分に前記樹脂体4が局部的に溶融した後硬化して形成される局部再硬化部4aを有することを特徴とする部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属体と樹脂体とを接合して一体化した部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・電気機器や自動車部品等を含む多くの用途において、強度、剛性または耐熱性等の所定の性能を確保しながら、より軽量化した部材が求められている。
このような要求に対応するために、従来金属を用いていた部材の一部を樹脂化した部材および樹脂で形成した部材を金属部材で補強した部材のように、金属体と樹脂体とを接合して一体化した部材が用いられている。
【0003】
金属体と樹脂体を接合する方法として、金属体の表面に例えば凹凸を形成する等の処理を施した後、金属体を金型内に挿入し、金型のキャビティー内に樹脂を射出成形する方法が知られている(例えば、特許文献1、2)。この方法では、射出成形時に溶融(軟化)状態の樹脂が、金属表面の凹凸内に侵入しその後の冷却過程でも樹脂が凹凸内に残存することから、アンカー効果により金属体と樹脂体の接着強度を確保して一体化できる。
【0004】
また、金属体と樹脂体を予め別々に作製した後、金属体を樹脂の溶融温度以上に加熱し、金属体の表面に樹脂を接触させて樹脂体の金属接触部を溶融して接合する熱溶着法が知られている。
【0005】
さらに、金属体の表面のみをレーザーで加熱する方法として、金属板と金属板の間に樹脂より成るガスケット(樹脂体)を挿入した積層体を形成し、2枚の金属板により樹脂体に圧縮応力が付与されるように、かしめ加工を積層体に行った後、レーザー光を金属板または樹脂体の表面に照射して樹脂体表面を溶融させて、金属板と樹脂との密着性を向上する方法が知られている(特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2004/041532号公報
【特許文献2】特開2007−203585号公報
【特許文献3】特開2009−123516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、溶着法では、金属体全体を樹脂の溶融温度以上(例えば200℃以上)に加熱するため、金属表面からの輻射熱で、樹脂部品の溶着部以外の部分が変形する場合があるという問題があった。また、この温度上昇に伴い金属体表面が酸化等に起因し変色する場合があるという問題があった。
また射出成形法では、得ようとする部材の形状が複雑な場合、金属体を挿入する金型の製作が難しく、また、例え金型を製作することが可能であっても、多額の製作費がかかるという問題もあった。
【0008】
一方、レーザー光を金属体または樹脂体の表面に照射し樹脂表面を溶融させる方法では、殆どの場合、金属体と樹脂体との間に十分に接着力が得られないという問題があった。
例えば引用文献3に示す例では、レーザーにより樹脂を溶融し、凝固(硬化)させた部分は、樹脂と金属との隙間を埋めて密着性を向上させるのに寄与するものである。すなわち、上述のように、かしめ加工を行って、2枚の金属板で樹脂をかしめて金属体を樹脂体に押し当てることによって、金属体と樹脂体とを一体にしており、レーザーによる溶融・凝固部分は接合強度の確保には殆ど寄与するものではない。
【0009】
従って、本願発明は樹脂体の変形および金属体の変色を抑制でき、かつ金属体と樹脂体との間に強い接合力が作用している、金属体と樹脂体を接合した部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様1は、金属より成る金属体と樹脂より成る樹脂体とが接合された接合部材であって、前記金属体と前記樹脂体との接合部に、前記金属体側から順に水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、アミン化合物、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜と、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を含んで成る分子接着剤とを有し、前記樹脂体が前記分子接着剤と接する部分に、前記樹脂体が局部的に溶融した後硬化して形成される局部再硬化部を有することを特徴とする部材である。
【0011】
本発明の態様2は、前記樹脂が波長300〜2,000nmのレーザー光の光透過率が80%以上であるレーザー光透過型樹脂であることを特徴とする態様1に記載の部材である。
【0012】
本発明の態様3は、前記樹脂が波長300〜2,000nmのレーザー光の光透過率が80%未満のレーザー光非透過型樹脂であることを特徴とする態様1に記載の部材である。
【0013】
本発明の態様4は、前記金属化合物皮膜が、金属の水和酸化物および水酸化物の少なくとも一方を含むことを特徴とする態様1〜3のいずれかに記載の部材である。
【0014】
本発明の態様5は、前記金属化合物皮膜が、リン酸水素金属塩、リン酸二水素金属塩およびリン酸金属塩より成る群から選択される少なくとも1つのリン酸塩を含むことを特徴とする態様1〜3のいずれかに記載の部材である。
【0015】
本発明の態様6は、前記金属体の表面の一部に波長域300〜2,000nmのレーザー光の光吸収率が前記金属より高い光吸収剤が塗布されていることを特徴とする態様1〜5のいずれか1項に記載の部材である。
【0016】
本発明の態様7は、前記樹脂体がシートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンドであることを特徴とする態様1〜6のいずれかに記載の部材である。
【0017】
本発明の態様8は、金属より成る金属体と樹脂より成る樹脂体とが接合された接合部材の製造方法であって、1)水蒸気、またはI族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、アミン類、リン酸、リン酸塩、炭酸塩、硫酸、硫酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩、ケイ酸、ケイ酸塩およびフッ化物から選択される少なくとも1つの水溶液を用いて、前記金属体の表面の少なくとも一部分に、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、アミン化合物、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜を前記金属体表面に形成する工程と、2)前記金属化合物皮膜の表面にアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を含んで成る分子接着剤を接触させる工程と、3)前記分子接着剤と前記樹脂体の表面を接触させた後、レーザー光を照射して前記樹脂体の接合しようとする表面を溶融する工程と、を含むことを特徴とする製造方法である。
【0018】
本発明の態様9は、前記レーザー光を前記金属体に照射して、前記金属体の接合しようとする表面からの熱伝達により、前記樹脂体の接合しようとする表面を溶融することを特徴とする態様8に記載の製造方法である。
【0019】
本発明の態様10は、前記樹脂が、前記レーザー光の透過率が80%以上であるレーザー光透光性樹脂であり、前記レーザー光が前記透光性樹脂を透過して前記金属体の前記接合しようとする面を加熱することを特徴とする態様9に記載の製造方法である。
【0020】
本発明の態様11は、前記樹脂が、前記レーザー光の透過率が80%未満であるレーザー光非透光型樹脂であり、前記レーザー光を前記金属体の接合しようとする面と反対側の面に照射することを特徴とする態様9に記載の製造方法である。
【0021】
本発明の態様12は、前記樹脂が、前記レーザー光の透過率が80%未満であるレーザー非透光型樹脂であり、前記レーザー光を前記金属体の接合しようとする面に隣接し露出した面に照射することを特徴とする態様9に記載の製造方法である。
【0022】
本発明の態様13は、前記金属体の前記レーザー光を照射する部分に前記レーザー光の光吸収率が前記金属より高い光吸収剤を塗布することを特徴とする態様9〜12のいずれかに記載の部材である。
【0023】
本発明の態様14は、前記樹脂体がシートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンドであることを特徴とする態様8〜13のいずれかに記載の部材である。
【発明の効果】
【0024】
本願発明の製造方法を用いることで、金属体の一部分のみを加熱し、全体を加熱することなく、金属体と樹脂体と間に強い接合力を確保した部材を得ることができる。
本願発明に係る金属体と樹脂体を一体化した部材は、溶着時および溶着後の冷却過程における金属体の変形および変色を抑制することができる。
また、本願発明の製造方法を用いると金型を用いることなく金属体と樹脂体を溶着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明に係る金属体1と樹脂体4とを接合した接合部材100の一部分を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る、レーザーを用いた樹脂体の接合処理により、金属体1と樹脂体4を接合した接合部材100を得る方法を説明する模式断面図である。
【図3】図3は、実施形態2に係る、レーザーを用いた樹脂体の接合処理により金属体と樹脂体を一体化した接合部材100Aを得る方法を説明する模式断面図である。
【図4】図4は、実施形態3に係る、レーザーを用いた樹脂体の接合処理により金属体と樹脂体を一体化した接合部材100Bを得る方法を説明する模式断面図である。
【図5】図5は、実施例4で用いた引張り試験片100Cを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は、図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は、同一の部分又は部材を示す。
【0027】
本願発明者らは、樹脂体と金属体との接合強度を確保するために、金属体と樹脂体の間にアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を含有する分子接着剤(単に「接着剤」という場合がある)を挿入して接合強度の向上を試みたが、これだけでは十分な接合強度を得られなかった。
【0028】
そこで、検討を行った結果、金属表面に前処理を行って金属化合物皮膜(「化合物皮膜」ともいう)を形成した後、この金属化合物皮膜の上に分子接着剤を塗布し、その上に樹脂体を配置することで、樹脂体と金属体との間に高い接合力を得ることができることを見出した。
【0029】
詳細は後述するが、金属化合物皮膜の上に塗布された分子接着剤中に含有されるアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、以下のように変化することで、金属体(金属化合物皮膜を介して)と樹脂体とを強力に接合するものと考えられる。
但し、このメカニズムは、得られた結果より予想したものであり、本願発明の範囲を限定するものではない。
【0030】
金属化合物皮膜に塗布された分子接着剤中に含有されるアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、まず加水分解によりシラノール含有トリアジンチオール誘導体となる。これにより金属化合物皮膜との間に水素結合的な緩い結合を生じる。
次に、金属体を所定温度に加熱することでシラノール含有トリアジンチオール誘導体のシラノール部分と金属化合物皮膜に含まれる水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、アミン化合物、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸およびフッ化物等の少なくとも1つとの間に脱水または脱ハロゲン結合反応が起こり、シラノール含有トリアジンチオール誘導体は、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体に変わる。この結果、分子接着剤は金属化合物皮膜と化学的に結合する。
そして、加熱され、溶融した状態の樹脂が、分子接着剤と接触して脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体3のトリアジンチオール誘導体部分(トリアジンチオール金属塩部分またはビスマレイミド類を結合したトリアジンチオール誘導体)との間に化学的結合を生じる。
【0031】
本願発明は、樹脂を溶融させて分子接着剤と接触させる際に、レーザーを用いて金属体表面の限られた部分を局部的にかつ急激に加熱することで、樹脂体の特定個所の表面部のみを溶融させることを特徴としている。
これにより上述した本願発明の効果を得るものである。
【0032】
なお、本明細書において用いる用語「分子接着剤」とは、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体、シラノール含有トリアジンチオール誘導体および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体から成る群より選択される少なくとも1つを含んで成る分子層を意味する。
【0033】
以下に本願発明の詳細を説明する。
図1は、本発明に係る金属体1と樹脂体4とを接合した接合部材100の一部分を模式的に示す断面図である。金属体1と樹脂体4とが、詳細を後述する金属化合物皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を含有する分子接着剤3とを介して接合(接着)している。
【0034】
このような接合部材100を得るために以下の工程(処理)を実施する必要がある。
1.金属体1の表面に金属化合物皮膜2を形成する金属化合物処理
2.金属化合物皮膜2のうえにアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を含む分子接着剤を塗布し、金属化合物皮膜2の上に脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を含む分子接着剤3を形成する分子接着剤処理
3.分子接着剤と溶融した樹脂を接触させて金属体1と樹脂体4を接合する接合処理
以下、これらの処理を順に詳述する。
【0035】
1.金属化合物処理
金属化合物皮膜(「化合物皮膜」ともいう)とは、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、アミン化合物、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、およびフッ化物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む皮膜を意味する。
好ましくは、これらの水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、アミン化合物、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、およびフッ化物の合計が金属化合物皮膜の主成分(例えば質量比で金属化合物皮膜2の50%以上)となっている。
【0036】
以下に金属化合物処理の詳細を示す。
【0037】
1−1.金属体
本発明に係る金属体1には各種の金属を用いることが可能である。
金属体1に用いる、好ましい金属として、鉄及びその合金、鋼(合金鋼を含む)、ステンレス鋼、アルミニウム及びその合金、銅及びその合金、マグネシウム及びその合金、チタン及びその合金、これら金属および合金のメッキ品を例示できる。
これらの好適な金属より成る金属体1は金属化合物皮膜2の形成が容易だからである。すなわちこれらの好適な金属は、その電位−pH図に示されるように、酸、アルカリに反応するpH範囲が広く、金属化合物皮膜の形成が比較的容易である。さらに、得られた金属化合物皮膜2が優れた安定性を有するという利点もある。
金属体1の形成には、プレス加工、鍛造加工、鋳造、ダイカスト、焼結などの各種の方法を用いることができる。また、これらの方法で成形後得られた成形材に機械加工を加えて形状、寸法等を調整してもよい。
金属体1の形状は、板(シート)状、管状、円筒状、直方体状、円錐状、角錐状を含む如何なる形状であってもよい。
【0038】
1−2.洗浄処理
金属体1の表面は、製造工程で生じる偏析、酸化被膜により不均一となったり、加工成形時に使用した圧延油、切削油、プレス油などが付着したり、あるいは搬送時に、発錆、指紋の付着等などで汚れる場合がある。このため、金属体1の表面の状態によっては適切な洗浄方法を用いて洗浄処理を行うのが好ましい。但し、洗浄は必須の処理ではない。
【0039】
洗浄方法には、研削、バフ研磨、ショットブラストなどの物理的方法、例えばアルカリ性の脱脂液中で電解処理を行い、発生する水素や酸素を利用して洗浄を行う電気化学的方法、アルカリ性、酸性および中性の溶剤(洗浄剤)による化学的方法を用いることができる。
【0040】
操作の簡便性、コストの優位性から、化学的洗浄法を用いるのが好ましい。化学洗浄に用いる洗浄剤としては、硫酸−フッ素系、硫酸−リン酸系、硫酸系、硫酸−シュウ酸系、硝酸系のような酸性洗浄剤や水酸化ナトリウム系、炭酸ナトリウム系、重炭酸ナトリウム系、ホウ酸−リン酸系、リン酸ナトリウム系、縮合リン酸系、フッ化物系、ケイ酸塩系のようなアルカリ性洗浄剤を含む工業的に使用可能ないずれの洗浄剤を用いてもよい。安価であること、操作性が良いこと、金属体1表面を荒らさないことから、縮合リン酸系、リン酸ナトリウム系、重炭酸ナトリウム系のような弱アルカリ性水溶液(弱アルカリ性洗浄剤)を用いるのが好ましい。
【0041】
洗浄処理を行った後、必要に応じて表面の粗面化処理を行った後、後述する金属化合物処理により、金属体1の表面に所望の金属化合物皮膜2を形成することが不可欠である。従って、その前工程である洗浄処理では、金属体1の表面の付着物を除去し、次工程での処理が阻害されない程度に、金属の酸化物皮膜を除去し、均一化しておくとともに、金属体1が洗浄時に溶解等により過度に損傷しないことが好ましい。このため、金属体1が鉄、ステンレス系材料、アルミニウム合金材またはチタン材より成る場合、金属体1の溶解が僅かであるオルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウムのような弱エッチングタイプを用いるのが好ましく、表面を溶解しない非エッチングタイプを用いることがさらに好ましい。
【0042】
非エッチングタイプの洗浄剤としては、縮合リン酸塩を主体とした洗浄剤を用いるのが好ましい。縮合リン酸塩としては、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム等を用いることができ、例えば、アルカリ成分が30g/L(そのうち縮合リン酸塩の占める割合が50〜60%)のpH約9.5の水溶液を用いることができる。処理温度は、40〜90℃、処理時間5〜20分程度で良好な洗浄を行うことができる。洗浄後には、水洗を行う。アルカリ成分の好ましい濃度20〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、最も好ましくは20〜40g/Lであり、好ましいpHは9〜12、好ましい温度は40℃〜60℃である。このような条件を満たす弱アルカリ性水溶液中に金属体1を浸漬することで、表面の洗浄および均一化を行うことができる。
【0043】
上記以外にも、オルソケイ酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ホウ砂のようなナトリウム塩または第1リン酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム、第3リン酸ナトリウム等の各種リン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムのようなリン酸塩類を用いてもよい。
【0044】
金属体1に銅または銅合金を用いる場合、上記のような弱エッチングタイプまたは弱酸を使用することが出来る。例えば、硫酸、塩酸、リン酸のような鉱酸の1%未満の溶液およびそれらの混合溶液で、温度30〜50℃で洗浄することが出来る。
【0045】
一方、金属体1としてアルカリと反応し難いマグネシウムまたはマグネシウム合金を用いる場合は、上記の洗浄剤のほか、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを使用することが出来る。好ましい脱脂条件は、例えば、濃度10〜100g/L、温度50〜90℃の水酸化ナトリウム水溶液を使用する。
【0046】
1−3.粗面化処理
詳細を後述する金属化合物処理の前処理として、金属体1の表面を粗面化する(荒らす)ことが好ましい。金属体1の表面が粗面化されていると、その表面に微小な凹凸を生じ、そこに形成される金属化合物皮膜2および分子接着剤3の付着面積が拡大し、結合する分子数が増えることで、接合効果が高まる。そして、接合される樹脂体4が金属体1の表面の凹部に入り込むことにより、所謂アンカー効果が生じて接合強度をよりいっそう向上することができる。
【0047】
粗面化の好ましい方法の1つは、金属体1に用いる金属の電位−pH図に基づいて、溶液への溶解による腐食域のpHで、酸またはアルカリ溶液でエッチング処理する。すなわち、金属体1を構成する金属が溶解する酸性またはアルカリ性のpH領域で、金属体1を処理して、表面を粗面化する方法である。例えば金属体1が鉄、ステンレス系材料の場合は、pH3以下、好ましくは、pH1以下の酸性溶液と接触去る。金属体1がアルミニウム等の両性金属であればその特性を利用し、pHが2以下、好ましくはpH0〜2の酸性溶液またはpHが12以上、好ましくはpH12〜14のアルカリ性溶液と接触させる。金属体1が銅および銅合金の場合は、pH0〜6およびpH13〜14、好ましくは、pH6以下の酸性溶液と接触させる。金属体1がマグネシウム合金の場合、pH6以下で、好ましくは、pH1〜3の酸性溶液を用いて処理する。金属体1がチタン材の場合は、酸化皮膜が強固に存在するので、フッ酸またはフッ化アンモニウム溶液で酸化皮膜を除去した後、pH3以下、好ましくは、pH2以下の酸性溶液を用いて処理する。
【0048】
pH6以下の酸性領域での粗面化には、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、硫酸−フッ酸、硫酸−リン酸、硫酸−シュウ酸等を用いるのが好ましい。例えば、塩酸10〜20gを1リットルの水に溶解しpHを1以下とし、この塩酸水溶液を温度40℃に加熱し金属体1を0.5〜2分浸漬し、その後、水洗する。pH12以上のアルカリ領域での粗面化には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、炭酸ナトリウム等を用いるのが好ましい。例えば、水酸化ナトリウム10〜20gを1リットルの水に溶解しpH13以上とし、40℃で金属体1を0.5〜2分浸漬し、その後、水洗する。これらの処理により、日本工業規格(JIS B0601:2001)で規定される算術平均粗さ(表面粗さ)Raを0.1〜0.6μmとすることが好ましい。より好ましい表面粗さRaは、0.1〜0.4μmである。
【0049】
これ以外にも金属の粗面化に用いられているショットブラストまたはレーザー加工のような機械的な方法および電解研磨のような電気化学的な方法を用いてもよい。
【0050】
1−4.金属化合物処理
必要に応じて上述の洗浄処理および/または粗面化処理を実施した後、金属体1の表面に、金属化合物処理(「化合物処理」ともいう)を実施して、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物の少なくとも1つを含む金属化合物皮膜2を形成する。
金属化合物処理は以下に示す化合物、酸等の少なくとも1つを用いて、例えばこれらの水溶液に浸漬することにより実施する。
【0051】
なお、本明細書に示す「金属化合物被膜」の「金属」とは、金属体1に含まれる金属および詳細を以下に示す金属化合物処理に用いる溶液(金属化合物処理液)に含まれる金属のうちの少なくとも一種を意味する。
【0052】
金属化合物処理は、アルカリ性の溶液を用いるアルカリ処理と、酸性の溶液を用いる酸性処理に大別できる。以下にそれぞれの詳細を示す。
【0053】
アルカリ処理は詳細を以下に示す中性またはアルカリ性を示す溶液を用いて、例えばこれらの溶液に浸漬することにより金属化合物処理を行う。アルカリ処理ではpH7〜12の中性から弱アルカリ性を示す、化合物の水溶液を用いるのが好ましい。
【0054】
酸性処理とは詳細を以下に示す酸性を示す溶液を用いて、例えばこれらの溶液に浸漬することにより金属化合物処理を行う。酸性処理ではpH2〜5の弱酸性を示す、化合物の水溶液を用いるのが好ましい。
アルカリ処理および酸性処理について、以下に具体的に用いる溶液を示して説明する。
【0055】
1−4−1.アルカリ処理
アルカリ処理に用いる金属化合物処理液(アルカリ化合物の水溶液)に金属体1を浸漬し金属化合物処理を行うことができる。
【0056】
(1)I族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩
リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムまたはセシウムのようなI族元素(周期律表でI族の元素)の水酸化物;I族元素の塩;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムまたはバリウムのようなII族元素(周期律表でII族の元素)の水酸化物およびII族元素の塩の水溶液を用いることができる。これらの何れかを用いることにより、金属体1の表面に、水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が生成する。このような金属化合物皮膜2の主成分となる水酸化物の例として金属水酸化物(金属は金属体1に含まれる金属)がある。また、金属化合物皮膜2として、金属水酸化物に代えて或いは金属水酸化物とともに金属水和酸化物が生成する。
【0057】
金属化合物処理に用いるI族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物およびII族元素の塩をより詳細に示す。
I族元素の水酸化物として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示される。例えば、水酸化ナトリウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水酸化ナトリウムの濃度0.04〜100g/L、温度30〜80℃で処理を行うのが好ましい。これにより、金属基体1の表面には、金属水酸化物および/または金属水和酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が形成される。
【0058】
I族元素の塩とは、I族元素と酸とにより生ずる塩であり、その水溶液がアルカリ性を示す金属塩である。主に弱酸とI族元素とが結合して生じる塩であり、このようなI族元素の塩としては、オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、およびステアリン酸カリウムが例示される。例えば、炭酸カリウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、炭酸カリウムの濃度0.05〜100g/L、温度30〜80℃で処理を行うのが好ましい。これにより、金属基体1の表面には、金属炭酸塩、金属水酸化物および/または金属水和酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が形成される。
【0059】
II族元素の水酸化物として、水酸化カルシウム、水酸化バリウムが例示される。例えば、水酸化バリウム八水和物の水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水酸化バリウム八水和物の濃度0.05〜5g/L、温度30〜80℃で処理を行うのが好ましい。
また、II族元素の塩とは、II族元素と弱酸とにより生ずる塩であり、その水溶液がアルカリ性を示す金属塩である。主に弱酸とII族元素とが結合して生じる塩であり、このようなII族元素の塩としては、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、および酢酸バリウムが例示される。例えば、酢酸バリウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、酢酸バリウムの濃度0.05〜100g/L、温度30〜80℃で処理を行うのが好ましい。これにより、金属基体1の表面には、金属カルボン酸塩、金属水酸化物および/または金属水和酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が形成される。
【0060】
例えばI族元素の塩およびII族元素の塩として、オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のような、I族元素のケイ酸塩の水溶液を用いて金属化合物処理を行った場合は、形成された金属化合物皮膜2は主成分として水酸化物に加えケイ酸塩も含む場合が多い。なお、このようなケイ酸塩の例として金属ケイ酸塩(金属は金属体1に含まれる金属)がある。例えば、オルソケイ酸ナトリウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、オルソケイ酸ナトリウムの濃度は0.05〜100g/L、温度は30〜80℃であることが好ましい。これにより、金属基体1の表面には、金属ケイ酸塩、金属水酸化物および/または金属水和酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が形成される。
【0061】
(2)アンモニア、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体または水溶性アミン化合物
アンモニア、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体または水溶性アミンの化合物の水溶液もアルカリ性を示す。これらの水溶液に金属体1を浸漬しても金属化合物皮膜を形成できる。これらの水溶液の場合は、金属体1の表面に、金属水酸化物(金属は金属体1に含まれる金属)のような水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が生成し、かつその極性から金属体1にアミン錯体の形成および/または吸着が生じる。ただし、アンモニアの場合は、アルミニウムに対しては錯体を形成しない。また、アンモニアは、例えばアルミニウムと反応し水酸化物との複合塩であるアンモニウム塩を形成する。アンモニア、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、水溶性アミンは、広い意味でのアミン系化合物であり、アンモニア、ヒドラジン以外ではヒドラジン誘導体として加水ヒドラジン、炭酸ヒドラジン等を、水溶性アミンとしてメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、アリルアミン等を用いることができる。例えば、ヒドラジンの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、ヒドラジンの濃度0.5〜100g/L、温度30〜80℃であることが好ましい。これにより、金属基体1の表面には、水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2に加え、金属とヒドラジンの錯体の形成および/またはヒドラジンの吸着による金属化合物皮膜2が形成される。
【0062】
以上に説明した「(1)I族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩」および「(2)アンモニア、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体または水溶性アミン化合物」の具体例は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムのような炭酸塩を含む。これらの炭酸塩の水溶液を用いて金属化合物処理を行うことで、金属体1の表面に、これら炭酸塩、炭酸水素塩及び/または水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が形成される。これらの炭酸塩、炭酸水素塩および/または水酸化物は、炭酸金属塩(金属は金属体1に含まれる金属)を含んでもよい。また、種類の異なる金属の炭酸塩を混合した溶液中で金属化合物処理を行うことにより、金属体1に含まれる金属の炭酸塩以外の複数の炭酸塩を形成してもよい。
例えば、炭酸ナトリウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水溶液は炭酸ナトリウムの濃度:0.05〜100g/L、温度:30〜90℃の範囲内であることが好ましい。これにより、金属基体1の表面には、金属炭酸塩および/または金属水和酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が形成される。
【0063】
1−4−2.酸性処理
以下に酸性処理に用いる金属化合物処理液の具体例を示す。
(1)リン酸、リン酸塩
リン酸、例えばリン酸水素亜鉛、リン酸水素マンガン、リン酸水素カルシウムのようなリン酸水素金属塩、例えばリン酸二水素カルシウムのようなリン酸二水素金属塩、および例えばリン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウム、リン酸ジルコニウムのようなリン酸金属塩等の−HPO、−HPOまたは−POを含有するリン酸およびリン酸塩の溶液を用い、金属化合物処理を行う。なお、本明細書でいうリン酸とはオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸等を含む広義の酸性のリン酸であり、リン酸塩とは、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸等の広義の酸性のリン酸の化合物を含む概念である。
【0064】
リン酸を用いることで、金属体1の表面にリン酸金属塩および/または水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が形成される。
【0065】
一方、リン酸亜鉛、リン酸水素亜鉛、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素金属塩、リン酸二水素金属塩、リン酸金属塩、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウム、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウム、リン酸ジルコニウムバナジウムのようなリン酸塩(リン酸の金属塩)の水溶液を用いて金属化合物処理を行うことにより、金属体1の表面に、これらリン酸塩および/または水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2を形成できる。これらのリン酸塩および/または水酸化物の金属化合物皮膜2は、金属体1に含まれる金属のリン酸金属塩を含んでもよい。また、種類の異なる金属のリン酸塩を混合した溶液中で金属化合物処理を行うことにより、複数のリン酸塩を形成してもよい。
【0066】
例えば、リン酸ジルコニウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水溶液は、濃度:1〜100g/L、温度:20〜90℃であることが好ましい。また、これ以外のリン酸、リン酸亜鉛、リン酸水素亜鉛、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素金属塩、リン酸二水素金属塩、リン酸金属塩、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウムのようなリン酸、リン酸塩の水溶液を用いる場合は、水溶液は、濃度:5〜30g/L、温度:20〜90℃であるのことが好ましく、温度については25℃〜75℃であることがより好ましい。一方、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウム、リン酸ジルコニウムバナジウムの水溶液を用いる場合は、水溶液は、濃度:0.2〜2g/L、温度:30〜70℃であるのことが好ましく、温度については50℃〜70℃であることがより好ましい。
【0067】
(2)カルボン酸、カルボン酸塩
タンニン酸のようなカルボン酸水溶液を用い、ア金属体1に金属化合物処理を行う。これにより、金属体1の表面に、カルボン酸の金属塩、および/または水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜が生成する。
【0068】
ギ酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸の金属塩の水溶液を用いて金属化合物処理を行ってもよい。この場合、金属体1の表面には、金属塩とその一部に水酸基が付いた塩基性の金属化合物皮膜2が生成する。例えばシュウ酸金属塩水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水溶液は、濃度:0.5〜100g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0069】
(3)フッ化物
フッ化水素酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、ケイフッ化水素酸、ケイフッ化アンモニウム、ホウフッ化水素酸、ホウフッ化アンモニウムのようなフッ化物水溶液に金属体1を浸漬しても金属化合物皮膜を形成ができる。これにより、金属体1の表面に、金属フッ化物および/または金属体1に含まれる金属の水酸化物のような水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が形成される。例えば、フッ化水素アンモニウム水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水溶液は、濃度:1〜60g/L、温度:30〜70℃であることが好ましい。
【0070】
(4)硫酸、硫酸塩
硫酸、または硫酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸カルシウム、硫酸チタニル、硫酸ジルコニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウムのような硫酸の金属塩水溶液を用い、金属化合物処理を行う。これらの硫酸、硫酸塩を用いた場合には、金属硫酸塩を主成分とする金属化合物皮膜2が金属基体1の表面に形成される。
例えば、硫酸カリウム金属塩の水溶液を用いて金属塩化合物処理を行う場合、水溶液は、濃度0.5〜30g/L、温度30〜60℃であることが好ましい。
【0071】
以上に示した示す金属化合物処理の中でも金属体1が、鉄及びその合金、鋼、ステンレス鋼、マグネシウム及びその合金、ならびに銅及びその合金から成る群から選択されるいずれかである場合、酸性処理の「(1)リン酸、リン酸塩」に記載の方法を用いるのが好ましい。
金属体1がアルミニウムまたはその合金である場合、アルカリ処理の「(1)I族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩」およびならびに酸性処理の「(1)リン酸、リン酸塩」に記載の方法を用いるのが好ましい。
金属体1がチタンまたはその合金では、酸性処理の「(3)フッ化物」に記載の方法を用いるのが好ましい。
リン酸、リン酸塩による処理が好ましい理由は、金属化合物皮膜2として形成されるリン酸塩化合物が大きな極性を有し、トリアジンチオール誘導体のアルコキシシランが加水分解して生成するシラノールと結合しやすいためと考えられる。
I族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩を用いた処理が好ましい理由は、水酸化物、水和酸化物が金属体表面に密に形成されやすく、そのOH基および酸基がトリアジンチオール誘導体のアルコキシシランが加水分解して生成するシラノールと結合しやすいこと、及びその結合強度が大きいからであると考えられる。
フッ化物による処理が好ましい理由は、形成される金属のフッ化物のフッ素が活性で、トリアジンチオール誘導体のアルコキシシランが加水分解して生成するシラノールと結合しやすいためと考えられる。
【0072】
分子接着剤中のアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体が金属化合物皮膜2に浸透して、金属化合物皮膜2と反応するサイトが多くなり、トリアジンチオール誘導体のアルコキシシランが加水分解して生成するシラノールと金属化合物皮膜2の水酸基、水和酸化物、アンモニウム基、リン酸基、炭酸基、硫酸基、ケイ酸基、カルボン酸基、またはフッ化物とが、加熱処理によって脱水反応または脱ハロゲン反応を起こし、化学的に結合する。この様にして、生成する脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆と金属化合物皮膜2との間に、より強固な結合を得ることができる。
【0073】
さらに、樹脂体(樹脂)4が接合後に冷却されて収縮する際に、金属化合物皮膜2が樹脂体4と金属化合物皮膜2との間に生じる応力を分散吸収し、樹脂体4の剥離および金属化合物皮膜2のクラックの発生を防ぐ効果を有する。
【0074】
なお、上記の溶液を用いた金属化合物処理は、金属体1の全体または一部を、溶液(金属化合物処理液)に浸漬することのみでなく、金属体1の表面の全部または一部を、スプレー、塗布等により溶液で被覆すること、または溶液と接触させることも含む。
【0075】
従って、上記からも明らかなように、金属化合物皮膜2は、必ずしも金属体1の表面全体に形成される必要はなく、適宜、必要な部分にのみ形成してもよい。
本願発明では、後述するように局部的に加熱することが可能なレーザーを用いることで樹脂体4の表面の一部分のみを加熱し、金属体1の表面の一部分のみを樹脂体4と容易に接合させることができる。この場合、接合しようとする所望の部分にのみ金属化合物皮膜2を形成することが好ましい。
【0076】
また、上述した金属化合物被膜を形成する方法を2つ以上組み合わせて、金属化合物処理としてもよいことは言うまでもない。
すなわち、複数の上述した金属化合物処理に用いる溶液(金属化合物処理液)を混合した溶液を用いて金属化合物皮膜を形成してもよい。また、上述した金属化合物処理に用いる溶液(金属化合物処理液)のうちの一種類を用いて金属化合物処理を行った後、別の種類の金属化合物処理液を用いて更に金属化合物処理を行ってもよい。
【0077】
上述の金属化合物処理により得られた金属化合物被膜2は、粗面化している場合が多い。すなわち、金属化合物被膜2の表面粗さは金属化合物処理を行う前の金属体1の表面粗さより粗くなっている。
例えば、表面粗さRaが0.10μm以下である金属体1の表面に、上述した粗面化処理を行って、Raを0.12〜0.60μmとした後、更に上述の金属化合物処理を施すことで、Raが0.15μm以上の金属化合物皮膜2を形成することができる。また、粗面化処理を行わない場合、すなわち例えばRaが0.10μm以下である金属体1の表面に粗面化処理を行わずに金属化合物処理を行った場合、形成された金属化合物皮膜2の表面粗さRaは0.15μm未満である。
金属化合物被膜2の表面粗面化は、金属化合物被膜2の上に形成される脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜と金属化合物皮膜2との接触面積を増加できることから、接合強度の向上に寄与する。
【0078】
2.分子接着剤処理
上述の方法により、金属体1の表面に金属化合物皮膜2を形成した後、金属化合物皮膜2の上に分子接着剤3を塗布する。
分子接着剤3は、金属化合物皮膜2に塗布する時点でアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を含んでいる(好ましくは質量%で50%以上含んでいる。)
分子接着剤3は、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体以外に例えばトリアジンチオールを含んでもよい。
【0079】
分子接着剤3に用いるアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、例えばアルコキシシラン含有トリアジンチオール金属塩のような、既知のものでよい。
即ち、以下の(式1)または(式2)に示した一般式で表される。
【0080】
【数1】

【0081】
【数2】

【0082】
式中のR、RおよびRは炭化水素である。Rは、例えば、H−、CH−、C−、CH=CHCH−、C−、C−、C13−のいずれかである。Rは、例えば、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCHCHCHCHCH−、−CHCHSCHCH−、−CHCHNHCHCHCH−のいずれかである。Rは、例えば、−(CHCHCHOCONHCHCHCH−、または、−(CHCHN−CHCHCH−であり、この場合、NとRとが環状構造となる。
【0083】
式中のXは、CH−、C−、n−C−、i−C−、n−C−、i−C−、t−C−のいずれかである。Yは、CHO−、CO−、n−CO−、i−CO−、n−CO−、i−CO−、t−CO−等のアルコキシ基である。式中のnは1、2、3のいずれかの数字である。Mはアルカリ金属であり、好ましくはLi、Na、KまたはCeである。
【0084】
金属化合物皮膜2を被覆形成した後、金属化合物皮膜2の表面にアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の被覆を形成するためにアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の溶液を作製する。用いる溶媒は、アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体が溶解するものであればよく、水およびアルコール系溶剤がこれに該当する。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、カルビトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびこれらの混合溶媒も使用可能である。アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体の好ましい濃度は0.001g〜20g/Lであり、より好ましい濃度は0.01g〜10g/Lである。
【0085】
得られた、アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体溶液中に、金属化合物皮膜2を備えた金属体1を浸漬する。溶液の好ましい温度範囲、より好ましい温度範囲は、それぞれ0℃〜100℃、20℃〜80℃である。一方、浸漬時間は、1分〜200分が好ましく、3分〜120分がより好ましい。
【0086】
この浸漬により、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体のアルコキシシラン部分は、加水分解してシラノールになるので、浸漬後のアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、シラノール含有トリアジンチオール誘導体となり、金属化合物皮膜2との間に水素結合的な緩い結合を生じ化学的結合力を得ることができる。
【0087】
従って、これにより、金属体1と金属化合物皮膜2およびシラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆より成る、表面に樹脂を接合するのに用いる金属体を得ることができる。
【0088】
そして、この金属体を、乾燥および脱水反応促進熱処理を目的に100℃〜450℃まで加熱する。この加熱により、シラノール含有トリアジンチオール誘導体のシラノール部分に、上述した金属化合物皮膜2に含まれる水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸およびフッ化物の少なくとも1つと脱水または脱ハロゲン結合反応が起こることから、シラノール含有トリアジンチオール誘導体は、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体に変わり、金属化合物皮膜2との間で化学的に結合する。
また、後述するレーザーによる加熱をこの加熱に適用して金属体1の一部分だけを加熱してもよい。レーザーによる加熱は、必要な個所だけを、短時間で必要な温度に加熱できるので、好ましい。
【0089】
この加熱処理の結果、金属体1と金属化合物皮膜2および分子接着剤より成る、表面に樹脂を接合するのに用いる金属部材(以下、「分子接着剤処理済みの金属体」と呼ぶ場合がある)を得ることができる。
【0090】
次に、この脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体と樹脂との接合力をより強くするために必要に応じ適宜、分子接着剤3の脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を、接合補助剤として例えばジマレイミド類であるN,N’−m−フェニレンジマレイミドやN、N‘−ヘキサメエチレンジマレイミドのようなラジカル反応により結合性を有する化合物とジクルミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドのような過酸化物またはその他のラジカル開始剤とを含む溶液に浸漬する。浸漬後、金属体1を、30℃〜270℃で、1分〜600分間、乾燥・熱処理する。
【0091】
これにより、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体は、トリアジンチオール金属塩(トリアジンチオール誘導体)部分の金属イオンが除去され、硫黄がメルカプト基になって、このメルカプト基がN,N’−m−フェニレンジマレイミドのマレイン酸の2つの二重結合部の一方と反応してN,N’−m−フェニレンジマレイミドを結合した脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体となる。
ラジカル開始剤は、樹脂を成形する際に行う加熱等の熱による分解でラジカルを生じ、上記マレイン酸による2つの二重結合部の他方の結合を開き、樹脂と反応、結合させる作用を有する。
【0092】
さらに、必要に応じ適宜、過酸化物、レドックス触媒などのラジカル開始剤をベンゼン、エタノールなどの有機溶媒に溶解させた溶液を、浸漬またはスプレーにより噴霧する等により金属体1の表面に付着させて、風乾する。
【0093】
ラジカル開始剤は、樹脂を成形する際に行う加熱等の熱による分解でラジカルを生じ、上記マレイン酸による2つの二重結合部の他方の結合を開き、または、トリアジンチオール誘導体の金属塩部分に働いて、樹脂と反応、結合させる作用を有する。
【0094】
なお、本願発明に係る金属体と樹脂体を一体化した部材の金属化合物皮膜2および高分子接着剤3が含む脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体は、例えばXPS分析(X線光電子分光分析)によりその成分を同定することができる。
【0095】
3.樹脂体との接合処理
次に樹脂体4を分子接着剤3と接触させた後、樹脂体4の一部分、すなわち分子接着剤3と接触している部分の樹脂を、レーザー光を用いて溶融し、樹脂体4と金属体1とを金属化合物被膜2および分子接着剤3を介して接合(接着)する。
この接合処理の詳細を以下に示す。
レーザーをどのように照射するかについては、用いる樹脂がレーザー光を透過するか否か、および樹脂体4と金属体3との相対位置により以下に示す実施形態1〜3の3つの形態に大別される。そこで、3つの実施形態を順に説明する。
【0096】
3−1.実施形態1
実施形態1は、樹脂体4を構成する樹脂がレーザー光透過型樹脂であり、レーザー光を、このレーザー光透過型樹脂を通過させて金属体1表面に照射する場合である。
図2は、実施形態1に係る、レーザーを用いた樹脂体の接合処理により、金属体1と樹脂体4を接合した接合部材100を得る方法を説明する模式断面図である。
【0097】
金属体1は、予め所定の金属を所定の形状に加工して得た。そして、金属体1の接合面(接合しようとする面)に、樹脂体4を接触させている。図2では図示していないが、接合面には、図2の金属体1に近い側から順に、金属化合物皮膜2と分子接着剤3とを有している。
そして、樹脂体4は、全体または少なくともレーザー光が通過する部分がレーザー透光性樹脂より成る。
【0098】
レーザー透光性樹脂とは、当該樹脂体に相当する樹脂試験片の光透過率を、適用するレーザー光の波長で分光光度計により測定した時に、光透過率が80%以上の樹脂である。 但し、金属樹脂接合部材100の樹脂体4に用いられている樹脂がレーザー光透過型樹脂かどうかを簡便に識別する方法として、例えば波長300〜2,000nmのレーザー光を、想定する照射条件(例えば、出力50Wの半導体レーザーを使用し、スポット径を3mmに調整し、移動速度2mm/秒で照射)で樹脂に照射して、樹脂表面が溶融しなければレーザー光透過型樹脂であると判断してよい。
一方、光透過率が80%より小さい樹脂をレーザー光非透過型樹脂という。
レーザー透光性樹脂として、例えば熱可塑性樹脂で顔料、着色料、フィラーなどの光を散乱する材料を添加しないものを使用することが出来る。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリブチレン、アクリロニトリル/スチレン(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)、ポリメタクリル酸メチル、塩化ビニル、ポリアミド(PA)、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アイオノマー樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルスルフォンなどの他、PC/ABS、PBT/ABS、PA/ABS、PC/PS等のポリマーアロイなどを使用できる。また、熱可塑性樹脂には、熱可塑性エラストマーも含む。熱可塑性エラストマーは、例えば、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、1,2−ポリブタジエン系、トランスイソプレンなどのエラストマーを使用できる。
【0099】
樹脂体4はこのような樹脂を用いて、既知の各種の形成方法を用いて得ることができる。また、樹脂体4は、上記のレーザー光透過型の熱可塑性樹脂のフィルムであってもよい。このようなフィルムとして複数の層が積層された積層フィルムを用いる場合、積層フィルムの外層の少なくとも一方が、熱可塑性フィルムから成るレーザー光透過型複合フィルムであればよい。
【0100】
そして、樹脂体4を、金属体1(すなわち分子接着剤)と接触するように配置する。より確実に接合できるように、例えばクランプ等を用いて樹脂体4を金属体1に押し当てるのが好ましい。
【0101】
図2に示すように、レーザー光Lを樹脂体4および金属体1に向けて照射する。レーザー光Lは樹脂体4を通過して金属体1の接合しようとする表面を加熱する。そして、金属体1から樹脂体4への熱伝達により、樹脂体4の金属体1と対向する表面では樹脂が溶融(軟化)し、局部溶融部4aを形成する。金属体1と樹脂体4(すなわち局部溶融部4a)との界面において溶融した樹脂は、分子接着剤中の脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体と結合する。
この後、レーザーが照射されなくなると、金属体1の加熱された部分は、周囲の加熱されていない部分により急激に冷却され、これにより局部溶融部4aも冷却されて再び硬化(または凝固)し、局部再硬化部4aとなる。
【0102】
このように局部的に溶融して再硬化した局部再硬化部4aは、無理に(せん断応力等の強い力を付与して)金属体1と樹脂体4とを剥離した時には、レーザー光の照射パターンに沿って金属体1上に溶着した樹脂(すなわち局部再硬化部4a)が残存する場合がある。従って、この剥離部を観察することにより、比較的容易にレーザー溶着により生成した局部再硬化部を識別できる場合がある。
なお、図に示す局部溶融部(局部再硬化部)4aは、模式的に示したものであり、またその存在を強調して示したものであるから、図に示す大きさおよび割合で局部溶融部(局部再鋼株)4aが存在することを示すものではないことに留意されたい。
【0103】
本実施形態では、レーザー光が樹脂体を透過して金属体1表面に達して、接合部分の金属体1の表面を局部的に加熱でき、すなわち界面の周辺のみを加熱するだけでよいことから、接合処理時に樹脂体4の変形ならびに金属体1の変色を極めて少なくすることができるという利点を有する。
【0104】
レーザー光Lを照射するのに用いるレーザーはルビーレーザー、YAGレーザー、Nd:YAGレーザー、ダイオードー励起固体レーザーのような固体レーザー、色素レーザーのような液体レーザー、COレーザーのようなガスレーザーおよび半導体レーザーを含む各種のレーザーを用いることができる。これらのなかでも半導体レーザーが好ましい。安価で、小型だからである。
【0105】
レーザーは各種の方法により照射してもよい。例えば出力を30W〜200Wとし、スポット面積0.1〜10mmとし、移動速度1mm/秒〜10mm/秒として照射してもよい。または、10〜10W/cmのパワー密度で、10−1〜10秒の照射時間だけ照射してもよい。
【0106】
レーザーの発振方式としては、パルスレーザー、CWレーザーのいずれを用いてもよい。
【0107】
さらに、レーザーの照射を所定の間隔で断続的に行う(オンオフする)ことにより、あるいは金属体1の表面の同一平面内でレーザー光Lを照射する領域としない領域を設けることにより、金属体1の表面の同一平面内で樹脂体4と接合している部分と接合していない部分を設けてもよい。このように同一平面で接合部と非接合部を設けることにより、接合に用いるレーザーのエネルギーを減少させる、または接合強度を制御して、必要に応じて金属体1と樹脂体4と比較的容易に分離できるように金属樹脂接合部材100を設計出来る等の利点がある。
【0108】
また、レーザー光Lをより確実に吸収して、樹脂体4の表面をより速く昇温させることを目的に、金属体1の表面(場合によっては、分子接着剤を介した金属体1の表面)うちレーザー光を照射する部分に光吸収剤を塗布してもよい。
光吸収剤とは、レーザー光(例えば波長域300〜2,000nmのレーザー光)の吸収率が金属体1に用いる金属よりも高く、効率的にレーザー光を吸収する材料(薬剤)である。
樹脂体4がレーザー透過型樹脂であり、レーザー光が樹脂体内を透過して分子接着剤を介して金属体1の表面を照射する場合は、光吸収剤は分子接着剤の上に塗布されることになることから分子接着剤の作用を阻害せず、すなわち接合強度に悪影響を及ぼさないものを選択する必要がある。このような好適な光吸収剤として、例えば、母体色素構造(クロモファー)が、キノン系色素、ポリメチン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素またはジイモニウム系色素を用いてよい。
【0109】
(2)実施形態2
実施形態2は、樹脂体4を構成する樹脂がレーザー光非透過型樹脂であり、レーザー光金属体1の接合しようとする表面と反対側の表面に照射する点が実施形態1と異なる。
なお、本実施形態については、実施形態1と異なる部分を中心に記載する。従って、特に断りのない部分については実施形態1で記載した内容をそのまま適用してもよい。
【0110】
図3は、実施形態2に係る、レーザーを用いた樹脂体の接合処理により金属体と樹脂体を一体化した接合部材100Aを得る方法を説明する模式断面図である。図3でも図2と同様に、金属化合物皮膜2および分子接着剤3の記載を省略してある。
実施形態2の樹脂体4は、レーザー光非透過型の熱可塑性樹脂から成る。
レーザー光非透過型熱可塑性樹脂として、例えば実施形態1で示したレーザー光透過型の熱可塑性樹脂に、顔料、着色剤、フィラー、補強材等を添加した結果レーザー光を透過することが困難になった樹脂を用いてもよい。
【0111】
本実施形態の樹脂体4は、レーザー光非透過型の熱可塑性樹脂から成るフィルムであってもよい。
また、樹脂体4は、金属体4と接合する側が熱可塑性フィルムであり、その上に異種のフィルムを積層した複合フィルムであってもよい。積層するフィルム材料は、樹脂材料に限定されるものではなく、例えばアルミニウム、ベリリウム銅、リン青銅、洋白、チタン、ステンレス、パーマロイ、42アロイ、モリブデン、真鍮、ニクロム、タンタル、亜鉛、錫、銀、コバール、鉄、ジルコニウム、鉛等の金属箔であってもよい。
【0112】
本実施形態では、樹脂体4がレーザー光非透過型であることから、樹脂体4の表面にレーザー光を照射しても実施形態1と異なり、レーザー光は樹脂体4内を通って金属体1の表面に到達することができない。
【0113】
そこで図3に示すように金属体1の表面のうち、樹脂体4と接合する面(接合面)と反対側の面にレーザーを照射し、この反対側の表面を昇温し、この熱が金属体1の内部を伝導して接合面に達して樹脂体4を溶融して、局部溶融部4aを形成するものである。金属体1のレーザー照射面に光吸収剤を塗布しておけば、加熱を効率的に行うことが出来る。
【0114】
本実施形態においても、金属体1の極めて限られた部分のみを加熱して樹脂体4の一部(局部溶融部(局部再硬化部)4a)を溶融することで、金属体1と樹脂体4を接合できることから、樹脂体4の変形および金属体1の変色を抑制することが可能となる。
【0115】
3−3.実施形態3
実施形態3は、金属体と樹脂体の配置により金属体の接合面および接合面と反対側の面にレーザー光を照射するのが適当でない場合に金属体の接合面と隣接した面でかつ容易にレーザーを照射できるように露出した面にレーザー光Lを照射する点が実施形態1および2と異なる。
【0116】
すなわち、金属体1の接合しようとする面にレーザー光を照射できない場合に、金属体1の接合しようとする面(樹脂体4と接合する面)以外の表面にレーザー光を照射する点では実施形態2と実施形態3は共通するが、選択する金属体の表面が異なる。
【0117】
なお、本実施形態については、実施形態1または2と異なる部分を中心に記載する。従って、特に断りのない部分については実施形態1または2で記載した内容をそのまま適用してもよい。
【0118】
図4は、実施形態3に係る、レーザーを用いた樹脂体の接合処理により金属体と樹脂体を一体化した接合部材100Bを得る方法を説明する模式断面図である。図4でも図2と同様に、金属化合物皮膜2および分子接着剤3の記載を省略してある。
実施形態3の樹脂体4を構成する樹脂は、レーザー光透過型であってもレーザー光非透過型であってもよい。更に実施形態1および2に示した熱可塑性樹脂であってもよく、また熱硬化性樹脂であってもよい。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ、不飽和ポリエステル、フェノール、ポリウレタン、シリコーン、ジアリルテレフタレートなどを使用してよい。また、熱硬化性樹脂は、補強材、フィラーを添加したものであってもよい。更に、SMC(シートモールディングコンパウンド、Sheet Molding Compound)、BMC(バルクモールディングコンパウンド、Bulk Molding Compound)のような、シート材やバルク状成形材であってもよい。
【0119】
本実施形態の樹脂体4は、レーザー光透過型の上記熱可塑性樹脂のフィルムであってもよい。また、フィルムは、金属体1と接合する側が熱可塑性フィルムから成る積層した複合フィルムであってもよい。積層するフィルム材料は、レーザー光透過型樹脂に限定されるものではなく、アルミニウム、ベリリウム銅、リン青銅、洋白、チタン、ステンレス、パーマロイ、42アロイ、モリブデン、真鍮、ニクロム、タンタル、亜鉛、錫、銀、コバール、鉄、ジルコニウム、鉛等の金属箔であってもよい。
【0120】
本実施形態では実施形態1で示した金属体1と同じ金属体1が2つ配置されており、2つの金属体1の対向する表面の間に樹脂体1が挟持されている。
【0121】
すなわち、樹脂体4は、1つの面が金属体1と接合する面(金属体1と接触している面)であることに加えて、その接合する面の反対側の面も、別の金属体1と接合する面(金属体1と接触している面)となっている。このため樹脂体4の表面にレーザー光を照射して、このレーザー光を金属体1の接合面に到達させることは困難である。
【0122】
また図4から判るように、金属体1の接合面と反対側の面が、接合面から相当離れているため、樹脂体4の表面を溶融(軟化)させるためには、この金属体1の反対側の表面を相当程度の高温にしなければならず、この結果金属体1が変形、溶融または酸化等により変色する可能性ある。
【0123】
そこで本実施形態では、金属体1の接合面と隣接する面(露出した表面)にレーザー光Lを照射し、この隣接面を加熱し、この熱が金属体1の内部を伝導して接合面に達して樹脂体4を溶融して、局部溶融部4aを形成するものである。
【0124】
本実施形態においても、金属体1の極めて限られた部分のみを加熱して樹脂体4の一部(局部溶融部(局部再硬化部)4a)を溶融することで、金属体1と樹脂体4を接合できることから、金属体1の変形、樹脂体4の変形および金属体1の変色を抑制することが可能となる。
【0125】
なお、図4で、それぞれの金属体1の接合面に隣接する1つの面のみ(図4では接合面の左側の面)にレーザー光Lを照射しているが、1つの接合面について複数の隣接する面にレーザー光Lを照射してもよい。これにより均一にかつ迅速に樹脂体4の表面を加熱できる。
【0126】
なお、レーザーを用いた金属体1と樹脂体4との接合方法は、実施形態1〜3に限定されるものではない。例えば、実施形態1と2を組み合わせ、金属体1と接触する部分の樹脂体4をレーザー光非透過型樹脂で形成し、樹脂体4と金属体1の接合する面(接合面)の反対側の面にレーザーを照射し、この反対側の表面を昇温し、この熱が金属体1の内部を伝導して接合面に達して樹脂体4を溶融して、局部溶融部を形成し、一方、他の部分をレーザー光透過型樹脂形成し、レーザー光透過型樹脂で形成した部分を透過したレーザー光がレーザー光非透過型樹脂を昇温させることで、局部溶融部を形成して接合する等各種の方法を用いてよい。
【実施例】
【0127】
・実施例1
アルミニウム合金ADC12材をダイカスト成形して図2に示す縦50mm、横30mm、高さ20mm、肉厚5mmの箱型金属体1を得た後、金属体1を、温度40℃のアルカリ成分が30g/L(そのうち縮合リン酸塩の占める割合が50〜60%)のpH約9.5の水溶液にアルミニウム合金基体1を5分間浸漬させることにより洗浄処理を行った。洗浄処理後は、純水で1分間水洗した。濃度10g/L、温度40℃の水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬して粗面化処理を行い、次いで、濃度1g/L、温度50℃のリン酸ジルコニウム水溶液中に3分間浸漬して金属化合物処理した。これにより金属体1の表面にリン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウムより成る金属化合物皮膜2を形成した。
さらに、この金属体1をアルコキシシラン含有トリアジンチオール溶液中に浸漬した。用いたアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、トリエトキシシリルプロピルアミノトリアジンチオールモノナトリウムであり、濃度が0.7g/Lとなるようにエタノール95:水5(体積比)の溶媒に溶解し、溶液を得た。このトリエトキシシリルプロピルアミノトリアジンチオールモノナトリウム溶液に室温で30分間浸漬した。
その後、これらサンプルをオーブン内にて160℃で10分間熱処理し、反応を完了させるとともに乾燥した。そして、濃度1.0g/LのN,N’−m−フェニレンジマレイミド(N,N’−1,3−フェニレンジマレイミド)と濃度2g/Lのジクミルパーオキシドを含有するアセトン溶液に室温で10分間浸漬し、オーブン内にて150℃で10分間熱処理した。その後、サンプルの表面全体に、濃度2g/Lのジクミルパーオキシドのエタノール溶液を室温で噴霧し、風乾した。
次に縦50mm、横30mm、厚さ2mmのPC/ABS板を用いて図2に示す樹脂体4を形成して、図2のように金属体1と樹脂体4を接触させてクランプで挟んで固定した。
次に樹脂体4の内部を通り金属体1の接合面に到達するようにレーザー光Lを照射した。レーザー光Lは、出力50Wの半導体レーザーを使用し、スポット径を金属体1の幅(図2の左右方向)と同じ3mmに調整し、移動速度2mm/秒で照射した。レーザー光Lは、樹脂体4を透過して金属体1を加熱し、樹脂体4の表面に局部溶融部4aを形成した。この結果、接合部材100を得た。
【0128】
・実施例2
実施例1で作製したのと同様の金属体の底部に直径25mmの丸穴5を機械加工して開けることで図3に示す金属体1を得た。この金属体1に実施例1と同じ金属被膜処理と分子接着剤処理を行った。
PC/ABS樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック社製ユーピロンMB2215R)を使用し、あらかじめ射出成形で板状の成形品とし、金属体1の底部に設けた穴よりも直径が6mm大きな丸板を切り出し本実施例の樹脂体4とした。
そして、図3に示すように金属体1の底部の穴部を閉塞するように円形の樹脂体4を配置し、押さえ板を挿んでクランプで締め付けて固定した。
【0129】
そして、図3に示すように、金属体1の接合面と反対側の表面にレーザー光Lを照射した。レーザー光Lは、出力50Wの半導体レーザーを使用し、スポット径を金属部材と樹脂円盤が重なる幅3mmに調整し、移動速度2mm/秒でこの重なる部分に沿って照射した。レーザー光は、金属体1を加熱し、伝導した熱で樹脂体4の界面3で樹脂が溶融して局部溶融部4aを形成した。この結果、接合部材100Aを得た。
【0130】
・実施例3
実施例1で用いたのと同じ金属体1(実施例1と同様に金属被膜処理と分子接着剤処理も実施)を2つ準備した。図4に示すように2つの金属体1のそれぞれの両端部の間に樹脂体4を配置し、金属体1と樹脂体4と4つの接合面を形成するように接触させた後クランプで挟んで固定した。
樹脂体4は、PC/ABS(三菱エンジニアリングプラスチック社製ユーピロンMB2215R)を使用し、あらかじめ射出成形で板状の成形品とし、金属体1の外周形形状に合わせて幅3mmで切り出した。
【0131】
図4に示すように、金属体1の接合面と隣接した面(側面)にレーザー光Lを照射した。レーザー光Lは、出力50Wの半導体レーザーを使用し、スポット径を5mmに調整し、移動速度2mm/秒で照射した。レーザー光は、金属体1を加熱し、伝導した熱で樹脂部材4を溶融して局部溶融部4aを形成した。この結果、接合部材100Bを得た。
【0132】
・実施例4
図5に示す幅(紙面に垂直方向の長さ)20mmの引張り試験片100Cを作製し、引張り試験機でせん断引張り強さを測定した。なお、図5では、金属化合物皮膜2、分子接着剤3および局部溶融部4aの記載は省略した。
鋼(冷間圧延鋼板SPCC)とSUS304ステンレス鋼板、アルミニウム合金板(A5053板とADC12板)およびマグネシウム板(AZ91)の5つの金属板を用い、それぞれから図5に示す形状の実施例4の金属体1を切り出した。
【0133】
それぞれの金属体1に以下の金属化合物処理と分子接着剤処理を行った、
(1)洗浄処理
長さ80mm、幅20mm、厚さ1.5mmのSUS304(日本工業規格で規定されている18Cr−8Niステンレス鋼、表面仕上げNo.2B)の板、長さ80mm、幅20mm、厚さ1.2mmのSPCC(日本工業規格、JIS G 3141:2005で規定されている冷間圧延鋼板)の鋼板、長さ80mm、幅20mm、厚さ1.5mmのA5052、ADC12アルミニウム板及びAZ91マグネシウム板を前処理した。
前処理(脱脂処理)は、全てのサンプルについて、濃度15.0g/L、温度60℃の水酸化ナトリウム水溶液中で予備脱脂を行い、次いで濃度75.0g/L、温度70℃の水酸化ナトリウム水溶液中で60秒間脱脂を行なった後、水洗を60秒間行った。
【0134】
(2)粗面化処理
SUS304、SPCC板については、温度60℃、濃度40〜50g/Lの硫酸を主体とした強酸中で300秒間エッチングし、次いで湯洗(60℃)、水洗を各60秒間行った。
A5052、ADC12板については、実施例1と同じ粗面化処理を行った。
AZ91マグネシウム板については、温度60℃、濃度1〜3g/Lの硫酸を主体とした強酸中で60秒間エッチングし、60秒間水洗後、更に濃度60g/L、温度70℃の水酸化ナトリウム中で120秒間強アルカリ処理をし、60秒間水洗した。
【0135】
(3)金属化合物処理
前処理を行った各金属板材について、次のような金属化合物処理を行った。
SUS304、SPCC板については、温度40℃、濃度10〜30g/Lのリン酸水溶液に180秒間浸漬し、60秒間水洗した。これにより金属体1の表面にリン酸鉄、リン酸ニッケルまたはリン酸クロムより成る金属化合物皮膜2を形成した。
A5052、ADC12板については、実施例1と同じ金属化合物処理を行った。これにより金属体1の表面にリン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム及び/またはリン酸ケイ素、リン酸銅などより成る金属化合物皮膜2を形成した。
AZ91マグネシウム板については、温度60℃、濃度7.5〜10g/Lのリン酸マンガン水溶液に30秒間浸漬し、60秒間水洗した。これにより金属体1の表面にリン酸マグネシウム、リン酸アルミニウムおよびリン酸マンガンより成る金属化合物皮膜2を形成した。
いずれの板材も、処理後、80℃のオーブンで30分間乾燥した。
【0136】
(4)分子接着剤処理
いずれの金属板材についても、実施例1と同様に、濃度1g/L、温度50℃のリン酸ジルコニウム水溶液中に3分間浸漬して金属化合物処理した。さらに、アルコキシシラン含有トリアジンチオール溶液中に浸漬した。用いたアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、トリエトキシシリルプロピルアミノトリアジンチオールモノナトリウムであり、濃度が0.7g/Lとなるようにエタノール95:水5(体積比)の溶媒に溶解し、溶液を得た。このトリエトキシシリルプロピルアミノトリアジンチオールモノナトリウム溶液に室温で30分間浸漬した。
その後、これらサンプルをオーブン内にて160℃で10分間熱処理し、反応を完了させるとともに乾燥した。そして、濃度1.0g/LのN,N’−m−フェニレンジマレイミド(N,N’−1,3−フェニレンジマレイミド)と濃度2g/Lのジクミルパーオキシドを含有するアセトン溶液に室温で10分間浸漬し、オーブン内にて150℃で10分間熱処理した。その後、サンプルの表面全体に、濃度2g/Lのジクミルパーオキシドのエタノール溶液を室温で噴霧し、風乾した。
【0137】
実施例4の樹脂体4として、レーザー光透過型のポリウレタンエラストマーとレーザー光非透過型のABS、PC−ABS、PA−66とPPSの5種の樹脂を、幅20mm、長さ80mm、厚さ3mmの板形状に射出成形し、それぞれを用いて、図5に示す形状の樹脂板を得た。
【0138】
準備したこれら5種の金属体1と5種の樹脂体4を組み合わせ表1に示す23種の接合部材100Cを得た。
レーザー光透過型樹脂の場合は、各金属板材の接合しようとする面に光吸収剤(日本化薬製ポリメチン系色素IR820Bの濃度500ppmのエタノール溶液)を塗布し、風乾した。一方、レーザー光非透過型樹脂の場合は、樹脂体4と接する面(接合面)と反対側の面に同じ光吸収剤を塗布し、風乾した。
使用したレーザーは、ファイバーカップリング半導体レーザーモジュール(Apollo Instrument社製F100−808−6、100W、波長808nm)で、ファイバー先端を、集光レンズに接続した。スポット径5mm、出力40〜60W、ステージ移動速度3mm/秒で、金属体1と樹脂体4が重なる幅20mm、長さ12mmの範囲で光吸収剤を塗布した部分にレーザーを照射して樹脂体4の表面の一部を溶融させて接合した。すなわち、樹脂体4がレーザー光透過型樹脂の場合は、樹脂体4を透過し、金属体1の接合しようとする面側にレーザー光を照射し、樹脂体4がレーザー光非透過型樹脂の場合は金属体1の接合しよう等する面と反対側の面にレーザー光を照射した。
【0139】
さらに、比較例として表2に示すサンプルを作製した。
本実施例と同じ、鋼(冷間圧延鋼板SPCC)、SUS304ステンレス鋼板およびアルミニウム合金板(A5053板とADC12板)の4つの金属板を用い、それぞれから図5に示す形状金属体(本実施例と)を切り出した。
そして、本実施例と同じ(1)洗浄処理、(2)粗面化処理、(3)金属化合物処理
および(4)分子接着剤処理を行った。
但し、表2に「金属化合物処理のみ」と記載したサンプルは、金属化合物処理は実施したが、分子接着剤処理を実施していない。一方、表2に「分子接着剤処理のみ」と記載したサンプルは、分子接着剤処理は実施したが、金属化合物処理を実施していない。
【0140】
そして、表2に示すように実施例サンプルにも用いたレーザー光非透過型のPC−ABSの樹脂体を用い、本実施例と同じように樹脂体と接する面(接合面)と反対側の面に同じ光吸収剤を塗布し、風乾した。
その後、本実施例と同条件でレーザーを照射し比較例に係る接合体を得た。
【0141】
得られた18種の実施例に係る接合部材と8種の比較例に係る接合部材の接合強度(引張せん断強度)を測定した。
引張り試験は、島津製作所製オートグラフAG−10TDにより、引張り速度5mm/分で行った。
【0142】
【表1】

【0143】
【表2】

【0144】
樹脂体4がポリウレタンエラストマーである実施例サンプルは金属体1の金属の種類にかかわらず、試験機の伸び計の測定範囲で樹脂体4が伸び続け、破断しなかったので、引張りせん断強度を求めることができなかったが(表1に「破断せず」と記載)、破断をしないことから相当に接合強度が高いことが判った。
【0145】
実施例サンプルの接合強度は表1に、比較例サンプルの接合強度は表2に示す。
実施例サンプルはいずれの接合部材も6MPa以上(破断瀬図を含む)と良好な接合強度を示した。
一方、比較例サンプルは、「分子接着剤処理のみ」のサンプルは、引張り試験で応力を付与すると直ちに破断し、接合強度は0MPaであった。また「金属化合物処理のみ」のサンプルの接合強度も0.8〜4.4MPaと実施例サンプルより明らかに低い値であった。
【符号の説明】
【0146】
100,100A,100B,100C 金属樹脂接合部材
1 金属体
2 金属化合物皮膜
3 分子接着剤
4 樹脂体
4a 局部溶融部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属より成る金属体と樹脂より成る樹脂体とが接合された接合部材であって、
前記金属体と前記樹脂体との接合部に、前記金属体側から順に
水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、アミン化合物、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜と、
脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を含んで成る分子接着剤と、
を有し、
前記樹脂体が前記分子接着剤と接する部分に前記樹脂体が局部的に溶融した後硬化して形成される局部再硬化部を有することを特徴とする部材。
【請求項2】
前記樹脂が波長300〜2,000nmのレーザー光の光透過率が80%以上であるレーザー光透過型樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記樹脂が波長300〜2,000nmのレーザー光の光透過率が80%未満のレーザー光非透過型樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の部材。
【請求項4】
前記金属化合物皮膜が、金属の水和酸化物および水酸化物の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の部材。
【請求項5】
前記金属化合物皮膜が、リン酸水素金属塩、リン酸二水素金属塩およびリン酸金属塩より成る群から選択される少なくとも1つのリン酸塩を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の部材。
【請求項6】
前記金属体の表面の一部に波長域300〜2,000nmのレーザー光の光吸収率が前記金属より高い光吸収剤が塗布されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の部材。
【請求項7】
前記樹脂体がシートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の部材。
【請求項8】
金属より成る金属体と樹脂より成る樹脂体とが接合された接合部材の製造方法であって、
1)水蒸気、またはI族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、アミン類、リン酸、リン酸塩、炭酸塩、硫酸、硫酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩、ケイ酸、ケイ酸塩およびフッ化物から選択される少なくとも1つの水溶液を用いて、前記金属体の表面の少なくとも一部分に、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、アミン化合物、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物より成る群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜を前記金属体表面に形成する工程と、
2)前記金属化合物皮膜の表面にアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を含んで成る分子接着剤を接触させる工程と、
3)前記分子接着剤と前記樹脂体の表面を接触させた後、レーザー光を照射して前記樹脂体の接合しようとする表面を溶融する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項9】
前記レーザー光を前記金属体に照射して、前記金属体の接合しようとする表面からの熱伝達により前記樹脂体の接合しようとする表面を溶融することを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂が、前記レーザー光の透過率が80%以上であるレーザー光透光性樹脂であり、前記レーザー光が前記透光性樹脂を透過して前記金属体の前記接合しようとする面を加熱することを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂が、前記レーザー光の透過率が80%未満であるレーザー光非透光型樹脂であり、前記レーザー光を前記金属体の接合しようとする面と反対側の面に照射することを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂が、前記レーザー光の透過率が80%未満であるレーザー非透光型樹脂であり、前記レーザー光を前記金属体の接合しようとする面に隣接し露出した面に照射することを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記金属体の前記レーザー光を照射する部分に前記レーザー光の光吸収率が前記金属より高い光吸収剤を塗布することを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂体がシートモールディングコンパウンドまたはバルクモールディングコンパウンドであることを特徴とする請求項8〜13のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−235570(P2011−235570A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110016(P2010−110016)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(506362222)株式会社新技術研究所 (9)
【Fターム(参考)】