金属体表面の放射率測定装置及び放射率測定方法並びに鋼板の製造方法
【課題】簡易な手順で、且つ、複雑な装置構成を必要とせず、なお且つ市販の単色放射温度計を利用して、金属体表面の放射率を測定できる放射率測定装置等を提供する。
【解決手段】放射率測定装置100は、測温対象である金属体表面から放射された熱放射光を直接受光する第1の単色放射温度計5と、第2の単色放射温度計1と、第2の単色放射温度計の受光部と金属体表面との間において、金属体表面に対向し且つ金属体表面に略平行に配置した第1の反射体2と、金属体表面から放射され、金属体表面と第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光Rを、第2の単色放射温度計の受光部に向けて反射させるように配設した第2の反射体3と、第1の単色放射温度計による金属体表面の測温値と、第2の単色放射温度計による金属体表面の測温値とに基づいて、金属体表面の放射率を演算する演算部とを備える。
【解決手段】放射率測定装置100は、測温対象である金属体表面から放射された熱放射光を直接受光する第1の単色放射温度計5と、第2の単色放射温度計1と、第2の単色放射温度計の受光部と金属体表面との間において、金属体表面に対向し且つ金属体表面に略平行に配置した第1の反射体2と、金属体表面から放射され、金属体表面と第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光Rを、第2の単色放射温度計の受光部に向けて反射させるように配設した第2の反射体3と、第1の単色放射温度計による金属体表面の測温値と、第2の単色放射温度計による金属体表面の測温値とに基づいて、金属体表面の放射率を演算する演算部とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板等の金属体の製造工程(連続焼鈍工程や連続溶融亜鉛メッキ工程など)において、金属体表面の放射率を測定する装置及び方法並びにこの方法によって放射率を測定する工程を含む鋼板の製造方法に関する。特に、本発明は、測温対象毎に放射率に関する関係式を求めるといった手間の掛かる測定手順を必要とせず、駆動機構等の複雑な構成要素を必要としない装置とすることができ、なお且つ市販の単色放射温度計を利用できる、金属体表面の放射率測定装置及び方法並びにこの方法によって放射率を測定する工程を含む鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、連続焼鈍工程や連続溶融亜鉛メッキ工程など、連続して通板される鋼板の製造工程においては、鋼板の表面を傷つけずに表面温度を連続的に測定するため、放射温度計を用いた非接触式の測温方法が採用されている。
【0003】
放射温度計として最も一般的な単色放射温度計は、測温対象の代表的な放射率を予め設定し、測温対象の熱放射エネルギーを測定して、該測定した熱放射エネルギーと前記設定放射率とに基づいて、測温対象の温度を算出するものである。従って、種々の要因で変動し得る測温対象の実際の放射率と前記設定放射率との差が大きくなるに伴い、測温誤差が大きくなってしまうという問題がある。
【0004】
上記の問題を解決するため、従来より種々の測温方法・装置や放射率の測定方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、互いに異なる2つの波長帯λ1、λ2における各々の熱放射エネルギーの比と、各々の分光放射率ε1、ε2の比ε1/ε2から、被測温体の温度計測を行う2色放射温度計において、予め求めておいたε1λ1/ε2λ2とε1/ε2との相関関係に基づいてε1/ε2を算出し、この算出したε1/ε2の値で熱放射エネルギーの比を補正する2色放射温度計が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、異なる測定条件で測定された2つの分光放射輝度信号を基にして、該分光放射輝度に対応する2つの分光放射率間の被測定物体に固有な既知の関係式(放射率特性関数)を解くことによって、加熱物体の温度と放射率を求める放射測温法が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2に開示された装置・方法では、測温対象毎(鋼種毎など)に放射率に関する関係式を予めオフラインで実験的に求めておく必要があるため、測定に極めて手間を要するという問題がある。
【0008】
特許文献3には、走査型放射温度計を用いた鋼板の温度・放射率測定方法が提案されている。具体的には、特許文献3には、既知の放射率及び温度の放射熱源より被測定鋼板の表面に放射エネルギーを放射し、その鋼板表面で反射される放射エネルギーと被測定鋼板からの放射エネルギーとを、走査型放射温度計を鋼板表面に対して所定角度走査しながら測定し、この走査型放射温度計により測定された放射エネルギーと被測定鋼板からの放射エネルギーとの差から得られる反射エネルギー並びに放射熱源、走査型放射温度計及び被測定鋼板の位置関係から鋼板表面での放射エネルギーの拡散反射状態を求めた後、この拡散反射状態と放射熱源の放射率及び温度から求められる放射熱源の放射エネルギーとから拡散反射の角度成分を含めた鋼板表面の反射率を求めると共に、この反射率をもとに被測定鋼板の放射率を求め、この放射率から被測定鋼板の温度を求める方法が提案されている。
【0009】
しかしながら、上記特許文献3に開示された方法では、測温対象に放射エネルギーを放射する放射熱源や、放射温度計を走査するための駆動機構が必要となり、装置構成が複雑化するという問題がある。
【0010】
また、特許文献4には、2つの異なる検出波長λ1、λ2を有する放射温度計を用いて、鋼板の放射率を算出し、該算出した放射率に基づいて鋼板表面のスケールの厚みを測定する方法が提案されている。特許文献4に記載の方法のように、連続焼鈍工程等において鋼板の放射率を算出し、鋼板表面の酸化量(スケールの量)を予測することは、鋼板表面の酸化に起因した品質不良を改善するために有用である。
【0011】
しかしながら、上記特許文献4に開示された方法では、検出波長λ1が12〜20μm、λ2が2.5〜4μmであって、長波長で且つ広範囲の帯域であるため、高・中・低温領域(200〜2000℃)の鋼板温度を測定するために市販されている一般的な単色放射温度計を用いることができない。また、大気成分(H2O、CO2)を含む炉内雰囲気では、上記の検出波長帯域に含まれる赤外線の吸収が生じることが知られており、連続焼鈍炉等の全域の炉内環境には適用できないという問題がある。
【特許文献1】特公平3−4855号公報
【特許文献2】特開平2−85730号公報
【特許文献3】特開平6−74831号公報
【特許文献4】特開平9−33464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、斯かる従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、簡易な手順で、且つ、複雑な装置構成を必要とせず、なお且つ市販の単色放射温度計を利用して、金属体表面の放射率を測定できる金属体表面の放射率測定装置及び方法並びにこの方法によって放射率を測定する工程を含む鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するべく、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、金属体表面からの熱放射光を直接受光する放射測温と、金属体表面から放射された熱放射光を金属体表面と反射体との間で多重反射させることにより金属体表面の見かけの放射率を大きくして、測温対象を黒体とみなす(黒体条件を得る)放射測温とを組み合わせることにより、比較的簡易な手順で、且つ、複雑な装置構成を必要とせず、なお且つ市販の単色放射温度計を利用して、金属体表面の放射率を測定できることに想到した。本発明は、斯かる発明者らの知見に基づき完成されたものである。
【0014】
すなわち、本発明は、測温対象である金属体表面から放射された熱放射光を直接受光する第1の単色放射温度計と、第2の単色放射温度計と、前記第2の単色放射温度計の受光部と前記金属体表面との間において、前記金属体表面に対向し且つ前記金属体表面に略平行に配置した第1の反射体と、前記金属体表面から放射され、前記金属体表面と前記第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光を、前記第2の単色放射温度計の受光部に向けて反射させるように配設した第2の反射体と、前記第1の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値と、前記第2の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値とに基づいて、前記金属体表面の放射率を演算する演算部とを備えることを特徴とする金属体表面の放射率測定装置を提供するものである。
【0015】
本発明に係る放射率測定装置は、第2の単色放射温度計と、第1の反射体と、第2の反射体とを備えることにより、多重反射を利用した放射測温を行うように構成されている。具体的には、本発明に係る放射率測定装置は、第2の単色放射温度計の受光部と測温対象である金属体表面との間において、金属体表面に対向し且つ金属体表面に略平行に配置した第1の反射体を備える。すなわち、第1の反射体の背面側(金属体表面に対向する側と反対側)に第2の放射温度計の受光部を備える構成であるため、第2の放射温度計の受光部を金属体表面から離間させることが可能であり、第2の放射温度計への金属体表面からの熱放射の影響を軽減することが可能である。また、本発明に係る放射率測定装置は、金属体表面から放射され、金属体表面と第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光を、第2の放射温度計の受光部に向けて反射させるように配設した第2の反射体を備える。このため、例えば、第2の反射体を第1の反射体の端部外方において金属体表面に略垂直になるように配設すれば、第2の反射体を配設せずに第2の放射温度計の受光部で直接受光する場合に比べて、放射光の反射される方向に沿った装置の長さを小型化できるという利点を有する。従って、装置構成を小型化できるために、装置全体の効率的な冷却を行うことができ、ひいては熱放射による装置構成部材の熱膨張による歪みが低減される。これにより、高精度に金属体の表面温度を測定でき、ひいては後述するように、第1の単色放射温度計との組み合わせによって高精度に金属体表面の放射率を測定可能である。
【0016】
また、本発明に係る放射率測定装置は、第1の単色放射温度計を備えることにより、金属体表面からの熱放射光を直接受光する放射測温を行うように構成されている。そして、本発明に係る放射率測定装置は、この第1の単色放射温度計による金属体表面の測温値(放射光を直接受光する放射測温による測温値)と、前述した第2の単色放射温度計による金属体表面の測温値(多重反射を利用した放射測温による測温値)とに基づいて、金属体表面の放射率を演算する演算部を備える。斯かる演算により、後述するように、第1及び第2の単色放射温度計の設定放射率が実際の金属体表面の放射率と異なっていたとしても、高精度に金属体表面の放射率を測定可能である。
【0017】
なお、前記演算部は、下記の式(1)及び式(2)に基づいて、前記金属体表面の放射率を演算することが好ましい。
ε0=εS・(T1)n/(T2)n ・・・ (1)
n=C2/(λ0・T2) ・・・(2)
ここで、上記の式(1)及び(2)において、ε0は金属体表面の放射率を意味し、εSは第1の単色放射温度計の設定放射率を意味し、T1は第1の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、T2は第2の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、λ0は第1及び第2の単色放射温度計における熱放射光の検出波長帯域の中心波長(m)を意味し、C2はプランクの放射第2定数(=0.014388(m・K))を意味する。
【0018】
また、前記課題を解決するべく、本発明は、測温対象である金属体表面から放射された熱放射光を第1の単色放射温度計で直接受光すると共に、第2の単色放射温度計の受光部と前記金属体表面との間において、前記金属体表面に対向し且つ前記金属体表面に略平行に第1の反射体を配置し、前記金属体表面から放射され、前記金属体表面と前記第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光を、第2の反射体で前記第2の単色放射温度計の受光部に向けて反射させ、前記第1の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値と、前記第2の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値とに基づいて、前記金属体表面の放射率を演算することを特徴とする金属体表面の放射率測定方法としても提供される。
【0019】
前記金属体表面の放射率は、前述した式(1)及び式(2)に基づいて演算することが好ましい。
【0020】
本発明に係る放射率測定方法は、金属体が連続して通板される鋼板である場合に好ましく適用することが可能である。
【0021】
また、本発明は、前記放射率測定方法を用いて、連続焼鈍炉の予熱帯出側、直火加熱帯出側、間接加熱帯出側及び冷却帯出側の内の少なくとも一箇所で、表面の放射率を測定する工程を含むことを特徴とする鋼板の製造方法としても提供される。
【0022】
ここで、鋼板表面の放射率と鋼板表面の酸化量とは正の相関関係を有するため、連続焼鈍炉の炉帯(予熱帯、直火加熱帯、間接加熱帯及び冷却帯の内の少なくとも一つ)出側で測定した鋼板表面の放射率の大小によって鋼板表面の酸化量を判断し、これに応じて放射率を測定した箇所直前の炉帯における鋼板の酸化量を調整すれば、鋼板表面の酸化に起因した品質不良を改善可能である。
【0023】
従って、前記鋼板の製造方法においては、前記測定された鋼板表面の放射率に基づいて、該放射率測定箇所直前の炉帯における鋼板表面の酸化量を調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る放射率測定装置及び方法によれば、簡易な手順で、且つ、複雑な装置構成を必要とせず、なお且つ市販の単色放射温度計を利用して、金属体表面の放射率を測定可能である。より具体的には、測温対象毎に放射率に関する関係式を求めるといった手間の掛かる測定手順を必要とせず、駆動機構等の複雑な構成要素を必要としない装置とすることができ、なお且つ市販の単色放射温度計を利用可能である。また、本発明に係る鋼板の製造方法によれば、測定した鋼板表面の放射率に基づいて、鋼板表面の酸化量を調整することにより、鋼板表面の酸化に起因した品質不良を改善可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について、鋼板表面の放射率を測定する場合を例に挙げて説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る放射率測定装置の概略構成を示す図であり、図1(a)は側面視断面図を、図1(b)は平面図を示す。図1に示すように、本実施形態に係る放射率測定装置100は、測温対象である鋼板M表面から放射された熱放射光を直接受光する第1の単色放射温度計5と、第2の単色放射温度計1と、第2の単色放射温度計1の受光部11と鋼板M表面との間において、鋼板M表面に対向し且つ鋼板M表面に略平行に配置した第1の反射体2と、鋼板M表面から放射され、鋼板M表面と第1の反射体2との間を交互に反射(多重反射)した熱放射光Rを、第2の単色放射温度計1の受光部11に向けて反射させるように配設した第2の反射体3とを備えている。本実施形態に係る放射率測定装置100は、円筒状の冷却用ジャケット4内に収容され、鋼板M表面からの熱放射による装置構成部材の熱膨張による歪みが低減されている。ただし、冷却用ジャケット4は円筒状の形態に限るものではなく、例えば、四角筒状の形態とし、その内側面に沿って第2の反射体3を配設すれば、第2の反射体3の反射面の面積を大きくできる点で有利である。なお、本実施形態に係る放射率測定装置100としては、水平方向(図1(a)の矢符の方向)に連続して通板される鋼板M表面の放射率を、その上面側から測定する場合を例に挙げて説明する。
【0027】
第2の単色放射温度計1は、パージガスを噴出するためのノズル内に熱放射光を受光するための光ファイバが配置された受光部11と、受光部11で受光した熱放射光を放射温度計本体(図示せず)に伝送するための光ファイバ12と、放射温度計本体とを備えている。なお、放射温度計本体は、受光部11で受光され光ファイバ12によって伝送された熱放射光を光電変換し、温度に換算するように構成されている。なお、本実施形態に係る第2の単色放射温度計1は、第1の単色放射温度計5と熱放射光の検出波長帯域が実質的に同一とされている。
【0028】
同様にして、第1の単色放射温度計5も、パージガスを噴出するためのノズル内に熱放射光を受光するための光ファイバが配置された受光部51と、受光部51で受光した熱放射光を放射温度計本体(図示せず)に伝送するための光ファイバ52と、放射温度計本体とを備えている。放射温度計本体は、受光部51で受光され光ファイバ52によって伝送された熱放射光を光電変換し、温度に換算するように構成されている。なお、第1の単色放射温度計5は、第2の単色放射温度計1の受光部11に入射する多重反射した熱放射光Rの光路を遮らないように、且つ、鋼板M表面から放射された熱放射光を直接受光できるように、第2の単色放射温度計1と水平方向(図1(b)の紙面下側)に位置をずらして配置されている。また、多重反射した熱放射光R等の迷光が第1の単色放射温度計5の受光部51に入射しないように、受光部51の先端には、第2の反射体3の下端部と略同位置まで延びる円筒状のフード6が取り付けられている。
【0029】
第1の反射体2は、前述のように、第2の単色放射温度計1の受光部11と鋼板M表面との間において、鋼板M表面に対向し且つ鋼板M表面に略平行に配置されている。換言すれば、第1の反射体2の背面側(鋼板M表面に対向する側と反対側)に第2の単色放射温度計1の受光部11が配置された構成であるため、第2の単色放射温度計1の受光部11は鋼板M表面から離間されており、鋼板M表面からの熱放射の影響を軽減することが可能である。
【0030】
第1の反射体2は、高温となる鋼板Mに比較的近接して配置されるため、高温となり得る。第1の反射体2として、一般的に反射体として多用されるアルミをメッキしたアルミミラーを用いた場合、600℃以上になると、アルミの酸化が進行し、その反射率が急激に低下するため、多重反射の回数が同じであっても見かけの放射率の上昇が抑制される結果、鋼板M表面の測温精度、ひいては放射率の測定精度が低下するという問題がある。アルミミラーを冷却し、高温になることを抑制することも考えられるものの、装置構成が大きくなってしまうという欠点がある。
【0031】
そこで、第1の反射体2としては、石英ガラス等の耐熱母材に多層の誘電膜をコーティングすることにより形成され、干渉現象により高い反射率を得ることが可能な干渉ミラーを用いることが好ましい。特に、上記誘電膜として、酸化による反射率の変化が少ない酸化チタンと酸化シリコンとを用いるのが好ましい。図2は、アルミミラー及び石英ガラスに酸化チタン膜と酸化シリコン膜を多層に積層した干渉ミラーのそれぞれについて、温度による反射率の変化を調査した結果を示すグラフである。図2に示すように、干渉ミラーは、アルミミラーと異なり、反射率が約98%と極めて高い上、たとえ800℃の高温となっても反射率の劣化が生じないという利点がある。
【0032】
また、第1の反射体2が高温になると、第1の反射体2自体から熱放射光(外乱光)が発生し、この外乱光が第2の単色放射温度計1の受光部11で受光されることにより鋼板M表面の測温誤差、ひいては放射率の測定誤差が生じるという問題もある。この際、第1の反射体2の反射率が高いと、逆に第1の反射体2の放射率は小さくなる(放射率=1−反射率)ため、外乱光による測温誤差を小さくすることが可能である。例えば、測温対象である鋼板Mの放射率が0.4で、温度が600℃であるとき、第1の反射体2の温度が650℃の条件においてその反射率が90%の場合には、測温誤差が17℃と大きくなってしまう。一方、第1の反射体2の反射率が98%の場合には、測温誤差は4℃となり、実用的に問題とならない測温誤差に抑制することが可能である。以上のように、第1の反射体2自体に起因した外乱光の影響を抑制するという点でも、第1の反射体2として干渉ミラーを用いることが好ましい。
【0033】
第2の反射体3は、前述のように、鋼板M表面から放射され、鋼板M表面と第1の反射体2との間を交互に反射した熱放射光Rを、第2の放射温度計1の受光部11に向けて反射させるように配設されている。より具体的には、第2の反射体3は、第1の反射体2の端部外方において鋼板M表面に略垂直になるように、そして、第2の反射体3の下端部が第1の反射体2と鉛直方向に見て略同位置又は上方に位置するように配設されている。そして、後述する反射角θaで鋼板M表面を反射した熱放射光Rが第2の反射体3に入射し、第2の反射体3で反射した熱放射光R(熱放射光Rの中心)が、ちょうど第2の単色放射温度計1の受光部11(受光部11の中心)に入射されるように第2の反射体3の向きが微調整されている。
【0034】
第2の反射体3は、第1の反射体2と異なり、その反射面が鋼板Mに対向しないため第1の反射体2に比べて高温とはならない。また、反射率が既知で安定している限り、高い反射率は不要である。従って、第2の反射体3としては、アルミや金をメッキした一般的な反射ミラーや、金属表面を鏡面研磨した反射ミラーを用いることが可能である。
【0035】
また、本実施形態に係る放射率測定装置100は、第1の単色放射温度計5による鋼板M表面の測温値と、第2の単色放射温度計1による鋼板M表面の測温値とに基づいて、鋼板M表面の放射率を演算する演算部(図示せず)を備えている。演算部は、第1の単色放射温度計5及び第2の単色放射温度計1の各温度計本体に接続されており、各温度計本体から出力された測温値に基づいて、鋼板M表面の放射率を演算する。
【0036】
具体的には、前記演算部は、下記の式(1)及び式(2)に基づいて、鋼板M表面の放射率を演算する。
ε0=εS・(T1)n/(T2)n ・・・ (1)
n=C2/(λ0・T2) ・・・(2)
ここで、上記の式(1)及び(2)において、ε0は鋼板M表面の放射率を意味し、εSは第1の単色放射温度計5の設定放射率を意味し、T1は第1の単色放射温度計5による鋼板M表面の測温値(K)を意味し、T2は第2の単色放射温度計1による鋼板M表面の測温値(K)を意味し、λ0は第1及び第2の単色放射温度計5、1における熱放射光の検出波長帯域の中心波長(m)を意味し、C2はプランクの放射第2定数(=0.014388(m・K))を意味する。
【0037】
以下、上記の式(1)及び式(2)に基づく演算により鋼板M表面の放射率ε0を測定できる理由について説明する。
【0038】
下記の式(3)に示すように、物体から放射される熱放射エネルギーは、物体の絶対温度(黒体温度)の4乗に比例する(ステファン・ボルツマンの法則)。
V=σ・ε0・TLB4 ・・・(3)
ここで、上記の式(3)において、Vは物体からの熱放射エネルギー(W・m−2)を意味し、σはステファン・ボルツマン定数(W・m−2・K−4)を意味し、ε0は物体の放射率(物体が黒体の場合はε0=1)を意味し、TLBは黒体温度(K)を意味する。
【0039】
一般的な単色放射温度計は、測温対象からの熱放射エネルギーVを検出し、上記の法則に基づいて、測温対象の温度Tを算出している。本実施形態に係る第1の単色放射温度計5も同様であり、下記の式(4)で表される熱放射エネルギーを検出し、下記の式(4)に基づいて、鋼板Mの表面温度を算出する。
V1=σ・εS・(T1)4 ・・・(4)
ここで、上記の式(4)において、V1は第1の単色放射温度計5による鋼板M表面からの熱放射エネルギー測定値(W・m−2)を意味し、εSは第1の単色放射温度計5の設定放射率を意味し、T1は第1の単色放射温度計5による鋼板Mの表面温度測定値(K)意味する。
【0040】
同様に、第2の単色放射温度計1は、下記の式(5)で表される熱放射エネルギーを検出し、下記の式(5)に基づいて、鋼板Mの表面温度を算出する。
V2=σ・ε2・(T2)4 ・・・(5)
ここで、上記の式(5)において、V2は第2の単色放射温度計1による鋼板M表面からの熱放射エネルギー測定値(W・m−2)を意味し、ε2は第2の単色放射温度計1から見た鋼板M表面の見かけの放射率を意味し、T2は第2の単色放射温度計1による鋼板Mの表面温度測定値(K)意味する。
【0041】
ここで、鋼板M表面から放射された熱放射光を鋼板M表面と第1の反射体2との間で多重反射させることにより、鋼板M表面の見かけの放射率ε2を大きくして鋼板Mを黒体とみなす(黒体条件を得る)ことが可能である。換言すれば、下記の式(6)及び式(7)を満足させることが可能である。
T2≒TLB(=黒体温度=鋼板Mの実際の表面温度) ・・・(6)
ε2≒1 ・・・(7)
【0042】
また、第1の単色放射温度計5による測温では、実際の鋼板Mの放射率ではなく、前述した式(4)に示すように設定放射率εSを用いるが、実際に第1の単色放射温度計5で検出している熱放射エネルギーは、下記の式(8)で表されるものである。
V1=σ・ε0・(TLB)4 ・・・(8)
上記の式(8)において、ε0は鋼板M表面の実際の放射率を意味し、本実施形態に係る放射率測定装置100で測定しようとするものである。
【0043】
上記の式(6)を上記の式(8)に代入することにより、下記の式(9)が得られる。
V1≒σ・ε0・(T2)4 ・・・(9)
そして、上記の式(4)及び式(9)より、下記の式(10)が得られる。
ε0≒εS・(T1)4/(T2)4 ・・・(10)
【0044】
ここで、一般的に単色放射温度計が検出している熱放射光の波長帯域(検出波長帯域)は、熱放射光の全帯域ではなく、所定の中心波長近傍の帯域に限定されている。これは、検出波長帯域を限定した方が、測温対象の存在する雰囲気内に大気成分(H2O、CO2)が含まれる場合、これら成分の赤外線吸収の影響による測温誤差を無くすことができるからである。本実施形態に係る第1の単色放射温度計5及び第2の単色放射温度計1についても同様に、熱放射光の検出波長帯域は、所定の中心波長近傍の帯域に限定されている。
【0045】
従って、前述した式(3)で表されるステファン・ボルツマンの法則に基づいて得られた上記の式(10)を下記の式(1)のように補正する必要がある。
ε0=εS・(T1)n/(T2)n ・・・ (1)
ここで、上記の式(1)におけるnは、下記の式(2)で表される。
n=C2/(λ0・T2) ・・・(2)
【0046】
以上に説明した理由により、式(1)及び式(2)に基づく演算によって鋼板M表面の放射率ε0を測定可能である。すなわち、第1及び第2の単色放射温度計5、1による鋼板M表面の測温値T1、T2と、既知のパラメータεS、C2、λ0とによって、鋼板M表面の放射率ε0を測定可能である。
【0047】
本実施形態に係る放射率測定装置100は、以上に説明した構成を有するため、装置全体の寸法(特に、熱放射光Rの反射される方向に沿った装置100の長さ)を小型化することが可能であり、鋼板M表面からの熱放射を直接受ける部材を第1の反射体2のみにすることが可能である。従って、装置100全体の効率的な冷却を行うことができ(前述のように、本実施形態では、冷却用ジャケット4内に装置100を収容している)、ひいては熱放射による装置構成部材の熱膨張による歪みが低減される。これにより、第2の単色放射温度計1によって高精度に鋼板Mの表面温度を測定でき、ひいては、第1の単色放射温度計5との組み合わせによって、高精度に鋼板M表面の放射率を測定することが可能である。
【0048】
ここで、好ましい構成として、本実施形態に係る第1の反射体2は、平板状に形成され、熱放射光Rの反射される方向に沿った長さL(図1(b)参照)が下記の式(11)を満足するように構成されている。
L≧(2lp/tan(90°−θa))・(n−1)+d/cosθa・・・(11)
ここで、上記式(11)において、lpは第1の反射体2と鋼板M表面との離間距離を意味し、θaは鋼板M表面と第1の反射体2との間を反射する熱放射光Rの反射角を意味し、下記の式(12)を満足する値である。また、nは第2の単色放射温度計1の受光部11で受光される熱放射光Rの内、第1の反射体2で反射する回数が最大となる熱放射光Rの反射回数を意味し、下記の式(13)を満足する値である。さらに、dは第1の反射体2近傍における第2の単色放射温度計1の視野径を意味する。
θa>sin−1(d/(2lp))・・・(12)
εmin≦ε0+Σε0・(ρ・(1−ε0))i・・・(13)
なお、上記式(13)において、εminは測温に必要となる見かけの放射率ε2の最小値(本実施形態の放射率測定は、前述した式(7)が成立することを前提にしているため、最小値εminはできる限り1に近い値にするのが好ましい)を、ε0は鋼板M表面の放射率を、ρは第1の反射体2の反射率を、Σはi=1〜nまで加算することを意味する。
【0049】
以下、第1の反射体2の熱放射光Rの反射される方向に沿った長さLが上記式(11)を満足することが好ましい理由について、具体的に説明する。
【0050】
本実施形態に係る放射率測定装置100は、鋼板M表面から放射され、鋼板M表面と第1の反射体2との間を交互に反射(多重反射)した熱放射光Rを第2の単色放射温度計1の受光部11で受光して測温する構成である。このように、熱放射光Rの多重反射を利用する場合、その原理上、熱放射光Rの反射回数が多ければ多いほど、見かけの放射率が大きくなり、測温精度を高めることが可能である。そして、熱放射光Rの反射回数を多くするには、熱放射光Rが鋼板M表面に対して垂直に近い状態、すなわち、鋼板M表面と第1の反射体2との間を反射する熱放射光Rの反射角をできるだけ小さくすることが好ましい。換言すれば、測温精度を高めるべく、反射回数のできるだけ多い熱放射光Rを受光部11で受光するには、できるだけ反射角の小さい熱放射光Rを受光部11で受光できるような位置関係で、第2の反射体2と受光部11とを配設すればよい。
【0051】
しかしながら、受光部11を構成する光ファイバには、図3に示すような、受光部11からの距離lSに応じて光を検出できる視野の広さ(視野径dS)が存在する。視野径dSは、光ファイバの規格等に応じて異なると共に、光ファイバの先端にレンズを取り付けることにより視野を拡大することも可能である。ここで、第1の反射体2近傍における第2の単色放射温度計1(受光部11)の視野径をd(この視野径dは第1の反射体2と鋼板M表面との間においても略一定であるとする)とし、図4に示すように、反射角度θaを小さくし過ぎた場合、受光部11の視野の一部を第1の反射体2が遮ってしまい(視野欠けが生じ)、多重反射した熱放射光Rの一部を受光部11で受光できなくなる結果、測温精度が劣化してしまうという問題がある。より具体的には、図4に示すように、第1の反射体2の第2の反射体(図4には図示せず)側の最端部(図4の紙面左側の最端部)で反射した視野径dの端部に位置する熱放射光R11、R12の内、第1の反射体2側の熱放射光R12(及びその近傍の熱放射光)が鋼板Mにおいて反射した熱反射光R13(及びその近傍の熱放射光)が第1の反射体2で遮られてしまう。
【0052】
上記問題を解消するには、図5に示すように、第1の反射体2が受光部11の視野(視野径d)を遮らないように反射角度θaを設定する必要がある。より具体的には、第1の反射体2の第2の反射体(図5には図示せず)側の最端部(図5の紙面左側の最端部)で反射した視野径dの端部に位置する熱放射光R11、R12の内、第1の反射体2側の熱放射光R12が鋼板Mにおいて反射した熱反射光R13が第1の反射体2で遮られない条件とする必要がある。これは、幾何学的な関係より、下記の式(12)を満足する反射角度θaとする必要があることを意味する。
θa>sin−1(d/(2lp))・・・(12)
ここで、lpは第1の反射体2と鋼板M表面との離間距離を意味する。
【0053】
なお、第1の反射体2と鋼板M表面との離間距離lpは、鋼板Mのパスライン変動や、第1の反射体2の耐熱性の他、第1の反射体2と鋼板M表面との間にパージを施す場合にはそのパージ能力等に応じて、適宜の値が設定される。具体的には、離間距離lpを大きく設定すればするほど、視野欠けが生じない反射角θaの最小値(すなわち、式(12)の右辺)を小さくできる反面、第1の反射体2と鋼板M表面との間にパージを施すことが困難となる他、後述するように、熱放射光Rの反射回数を多くするには第1の反射体2の長さLを大きくする必要が生じる。従って、離間距離lpは、鋼板Mのパスライン変動や、第1の反射体2の耐熱性が許す限り、小さく設定することが好ましい。
【0054】
次に、第2の単色放射温度計1の受光部11で受光される熱放射光Rの内、第1の反射体2で反射する回数が最大となる熱放射光Rの反射回数n(すなわち、第1の反射体2の第2の反射体3配設側と反対側の端部で最初に反射した熱放射光Rが、第2の反射体3に到達するまでに第1の反射体2によって反射された回数。図1(b)に図示した例ではn=7である)は、以下のようにして算出される。
【0055】
図6は、多重反射を利用せずに単色放射温度計で直接測温する場合における、測温対象の実際の放射率と測温誤差(設定放射率を0.7にした場合における測温誤差)との関係を示すグラフである。放射率は、測温対象の物性や酸化状態等によって大きく異なる。例えば、連続焼鈍炉等、連続して通板される鋼板Mを連続的に処理するプロセスにおいては、最も放射率の小さい材質からなる鋼板M表面の放射率(例えば、0.4)から、鋼板Mが酸化した状態における放射率1.0まで大きく変動することになる。図6に示すように、測温対象である鋼板M表面の最も小さな放射率を0.4、最も大きな放射率を1.0とし、単色放射温度計の設定放射率をその中間値である0.7に設定(固定)したとすると、鋼板Mの実際の表面温度が800℃である場合、±30℃程度の測温誤差が生じることになる。従って、測温誤差を低減するには、放射率の小さな測温対象については、多重反射によって見かけの放射率を大きくし、酸化した状態における放射率との差を小さくすることが必要である(放射率が1.0に近い測温対象については、多重反射による見かけの放射率の上昇無し)。
【0056】
図7は、多重反射を利用して見かけの放射率を大きくした後、単色放射温度計で測温した場合における、測温対象の見かけの放射率と測温誤差(鋼板Mの実際の表面温度が800℃であり、設定放射率を1.0にした場合における測温誤差)との関係を示すグラフである。許容される測温誤差から、測温に必要となる放射率(見かけの放射率)の最小値εminが決まる。例えば、図7に示す例において、5℃以内の測温精度を得るには、見かけの放射率を0.9以上(すなわち、εmin=0.9)にする必要がある。
【0057】
図8は、第2の単色放射温度計1の受光部11で受光される熱放射光Rの内、第1の反射体2で反射する回数が最大となる熱放射光Rの反射回数nと、この反射回数nのときに得られる見かけの放射率εnとの関係を示すグラフである。そして、見かけの放射率εnと反射回数nとの間には、下記の式(14)の関係式が成立する。
εn=ε0+Σε0・(ρ・(1−ε0))i・・・(14)
ここで、上記の式(14)において、ε0は鋼板M表面の放射率(実際の放射率)を、ρは第1の反射体2の反射率を、Σはi=1〜nまで加算することを意味する。
【0058】
そして、前述した測温に必要となる見かけの放射率の最小値εmin≦εnとなるように、反射回数nを設定すればよい。すなわち、下記の式(13)を満足するように反射回数nを設定すればよい。
εmin≦ε0+Σε0・(ρ・(1−ε0))i・・・(13)
反射回数nが上記式(13)を満足すれば、実際の放射率がどのような鋼板Mであっても、測温誤差ひいては放射率の測定誤差を許容範囲内にすることが可能である。
【0059】
そして、上記の式(12)を満足する反射角θaで、式(13)を満足する反射回数nを得るためには、幾何学的な条件より、第1の反射体2の熱放射光Rの反射される方向に沿った長さLを、前述した式(11)を満足するように構成すればよい。換言すれば、第1の反射体2の熱放射光Rの反射される方向に沿った長さLを前述した式(11)を満足するように設定することにより、測温誤差ひいては放射率の測定誤差を許容範囲内にすることができると共に、第1の反射体2の熱放射光Rの反射される方向に沿った長さLを必要最小限の寸法(L=式(11)の右辺とした場合)とすることが可能である。
【0060】
また、好ましい構成として、本実施形態に係る第1の反射体2は、熱放射光Rの反射される方向と直交する方向の幅W(図1(b)参照)が下記の式(15)を満足するように構成されている。
(W−d)/(2lp)≧tanθb・・・(15)
ここで、上記式(15)において、θbは鋼板M表面での熱放射光Rの散乱角を意味する。
【0061】
以下、第1の反射体2の熱放射光Rの反射される方向と直交する方向の幅Wが上記式(15)を満足することが好ましい理由について、具体的に説明する。
【0062】
一般に、測温対象の反射特性(散乱特性)が鏡面に近ければ近いほど、測温対象表面と第1の反射体2との間の多重反射によって見かけの放射率が高くなり易く、測温誤差の少ない温度測定、ひいては測定誤差の少ない放射率の測定が可能である。
【0063】
しかしながら、測温対象の反射特性は、鏡面性に限るものではなく、一定の拡がりをもって散乱する特性を有する場合も多い。図9は、測温対象としての鋼板の反射特性の一例を示す図であり、図9(a)は鏡面性の鋼板の反射特性の一例を、図9(b)は散乱性の鋼板の反射特性の一例を示す。具体的には、図9に示すデータは、各鋼板の法線方向から波長0.9μm帯の赤外光を照射し、各鋼板表面で反射した光を前記法線方向に対して成す角度を変更しながら光検出器で測定した結果を示す。図9の横軸は、鋼板の法線方向に対して成す角度θを、縦軸はθ=0°の時の反射強度を基準とした相対的な反射強度を示す。
【0064】
図9(a)に示す鋼板M(冷延鋼板No.1)は、散乱する光(θ≠0°の光)が非常に少ない鏡面性の反射特性を有する。このような鏡面性の鋼板Mの場合には、第1の反射体2の幅Wを前述した第2の単色放射温度計1の視野径dの2倍程度に設定すれば(第1の反射体2の幅Wを視野径dと完全に等しく設定したのでは、鋼板Mで散乱した熱放射光Rの一部が第1の反射体2で反射されなくなるため、2倍程度に設定するのが好ましい)、第2の単色放射温度計1の視野径d内に存在し且つ鋼板Mで反射した熱放射光Rの略全てを第1の反射体2で反射させることが可能であり、これにより見かけの放射率を効果的に高めることが可能である。
【0065】
一方、図9(b)に示す鋼板M(冷延鋼板No.2、No.3)では、θ=±15°程度の範囲まで散乱する光が存在している。このような散乱性の反射特性を有する鋼板Mの場合、図10に示すように、第1の反射体2によって反射できる熱放射光Rの最大の散乱角θmaxは、下記の式(16)で表されることになる。
tanθmax=(W−d)/(2lp)・・・(16)
【0066】
例えば、図9(a)に示す鋼板Mの場合と同様に、第2の単色放射温度計1の視野径d=10mmとし、第1の反射体2の幅Wを視野径dの2倍であるW=20mmに設定(離間距離lp=60mm)に設定した場合、上記式(16)より、θmax≒5°となるため、図9(b)に示す鋼板Mでは、±15°程度の範囲まで熱放射光Rを散乱するにも関わらず、±5°程度の散乱光しか第1の反射体2で反射させることができず、見かけの放射率を効果的に高めることができない。従って、測温対象の散乱性を考慮する場合には、鋼板M表面での熱放射光Rの散乱角θb(実質的に散乱光が得られなくなる角度であり、図9(b)に示す例ではθb≒15°)≦θmaxとなるように、第1の反射体2の幅Wを設定すればよい。すなわち、上記の式(15)を満足するように、第1の反射体2の幅Wを設定することが好ましい。
【0067】
以上に説明した本実施形態に係る放射率測定装置100によれば、装置構成を小型化できると共に、実際の放射率が変動する測温対象であっても多重反射を利用して高精度に表面温度ひいては表面の放射率を測定することが可能である。従って、鋼板等の連続圧延、連続焼鈍、連続塗装、連続メッキ等、測温対象である金属体が連続的に移動し処理を施されるプロセスにおいて、好適に用いることが可能である。
【0068】
なお、以上に説明した本実施形態において、第1の反射体2の形状は、平面視において長方形としているが、本発明はこれに限るものではなく、熱放射光Rの経路を妨げない限りにおいて、正方形、三角形、台形、楕円形、円形等の種々の形状とすることが可能である。
【0069】
また、第1反射体2の鋼板Mに対向する側の表面や、第1の反射体2と鋼板M表面との間の空間は、ガスパージを施すことによって、できるだけ清浄化した状態とすることが好ましい。パージするガスは、空気や窒素等のように、熱放射光を遮らない無色のガスである限りにおいて、特にその種類は限定されない。また、パージ方式も、清浄化した状態を維持できる限りにおいて、特に限定されるものではない。例えば、特開2003−248158に開示されたようなパージ方式を好適に用いることができる。
【0070】
また、本実施形態では、水平方向に連続して通板される鋼板M表面の放射率を、その上面側から測定する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、鋼板Mが竪型炉のように竪方向(鉛直方向)に連続して通板される場合であっても同様に測定可能である。ただし、この場合には、第2の反射体3の反射面に埃や異物が堆積しないように、第2の反射体3を第1の反射体2の下方側ではなく、上方側に配設することが好ましい。また、水平方向に連続して通板される鋼板M表面の放射率を、その下面側から測定することも可能であるが、この場合には、第1の反射体2の反射面に埃や異物が堆積しないように、第1の反射体2を十分にガスパージすることが肝要である。
【0071】
以下、本発明に係る放射率測定方法によって表面の放射率を測定する工程を含む鋼板の製造方法として、前述した放射率測定装置100を鋼板の連続焼鈍ライン、連続溶融亜鉛メッキラインに適用して鋼板を製造する方法を例に挙げて説明する。
【0072】
図11は、連続焼鈍ラインの概略構成例を示す模式図である。図12は、連続溶融亜鉛メッキラインの概略構成例を示す模式図である。図11、図12に示すように、連続焼鈍ライン及び連続溶融亜鉛メッキラインには、予熱帯、直火加熱帯、間接加熱帯、冷却帯等から構成され、連続して通板される鋼板Mを焼鈍するための連続焼鈍炉が設けられている。
【0073】
放射率測定装置100は、上記連続焼鈍炉の予熱帯出側、直火加熱帯出側、間接加熱帯出側及び冷却帯出側の内の少なくとも一箇所(図11又は図12の矢符で示す箇所)に配置される。斯かる配置により、放射率測定装置100で測定された鋼板表面の放射率に基づいて鋼板表面の酸化量(スケールの量)を判断し、これに応じて放射率測定箇所直前の炉帯(例えば、放射率測定装置100を直火加熱帯出側に配置した場合には、直火加熱帯が直前の炉帯となる)における鋼板表面の酸化量を調整(具体的には、故障設備の補修や、バーナー空燃比の調整等の操業条件の変更など)することが可能である。これにより、鋼板表面の酸化に起因した品質不良を迅速に改善可能である。また、鋼板表面の放射率の測定のみならず、前述のように第2の単色放射温度計1によって高精度に鋼板の表面温度を測定できるので、連続焼鈍炉を構成する各炉帯の炉温を適正に管理する上でも有用である。
【0074】
なお、連続焼鈍炉の出側一箇所に限らず、各炉帯の出側に放射率測定装置100を配置するのが好ましいが、これは酸化を引き起こす原因が各炉帯毎に異なるからである。
例えば、予熱帯は、後続する直火加熱帯や間接加熱帯の廃ガス熱を利用して鋼板を予熱する炉帯であるが、鋼板の表面温度が廃ガスの露点以下であれば、鋼板表面に結露が発生し、酸化する。また、廃ガス中の未燃ガスにエアを投入することで未燃ガスを燃焼させて熱を回収する装置が予熱帯に設けられている場合、投入するエアが過剰になると鋼板表面が酸化する。
【0075】
直火加熱帯では、例えば、配設されたバーナーやガス流量制御装置等の設備が故障することにより、空燃比が所定の範囲から外れれば鋼板表面が酸化する。
【0076】
間接加熱帯では、例えば、配設されたラジアントチューブバーナーに亀裂が生じたり、破裂することによって、鋼板表面が酸化する。
【0077】
冷却帯では、ガス冷却を行っている場合、例えば、配設されたジェットクーラーのラジエータに水漏れが生じることにより、鋼板表面が酸化する。また、気水冷却を行っている場合には、雰囲気の遮断不良によって、鋼板表面が酸化する。
【0078】
このように、鋼板表面の酸化を引き起こす原因が各炉帯毎に異なるため、各炉帯出側に放射率測定装置100を設置することで、故障設備の特定・補修や、操業条件(バーナー空燃比など)の見直しを迅速に行うことが可能である。
【0079】
以下、放射率測定装置100で測定した鋼板表面の放射率に基づく鋼板表面の酸化量調整について、より具体的に説明する。
【0080】
本発明の発明者らは、表面に熱電対を溶着した鋼板を真空容器内に収容して700℃に加熱し、熱電対で鋼板表面温度を測定する一方、単色放射温度計でも鋼板の表面温度を測定する実験を行った。そして、熱電対による測温値を真値とし、単色放射温度計の設定放射率を変更して、単色放射温度計による測温値が真値と一致するときの設定放射率を鋼板表面の放射率として算出した。
【0081】
図13は、上記の実験により、予め所定の酸化処理を施した炭素含有量0.04重量%の一般低炭素鋼板を酸化させて放射率の変化を測定した結果の一例を示す。図13に示すように、鋼板表面の酸化が進むにつれて、放射率は1近くまで上昇した。連続焼鈍炉においては、図13に示すような放射率上昇過程の中に、鋼板表面の酸化に起因した品質不良が発生する境界となる放射率が存在すると考えられる。
【0082】
ここで、通板する鋼板の鋼種に応じて、連続焼鈍炉内での鋼板表面の放射率は異なる。この鋼種は、主として鋼中に含まれる成分の違いによって分類される。また、鋼種は、鋼板の表面粗さの違い(例えば、熱間圧延、酸洗、冷間圧延のプロセスを経た冷延材では表面粗さRa=0.4〜1.5μm、熱間圧延、酸洗のプロセスを経た酸洗材では表面粗さRa=1.6〜2.5μm)によっても分類される。
【0083】
図14は、図12に示す連続溶融亜鉛メッキラインを構成する連続焼鈍炉の間接加熱帯出側に放射率測定装置100を配置し、連続焼鈍炉が定常状態(鋼板の品質不良が発生していない状態)のときに鋼板表面の放射率を測定した結果の一例を示す。図14に示すように、鋼中に含まれるSi濃度に応じて放射率が変動することが分かる。ここで、Siは易酸化元素であるため、鋼中に含まれるSi濃度によって鋼板表面の酸化量は異なる(Si濃度が高くなれば酸化量も多くなると考えられる)。従って、図14に示す結果は、鋼板表面の酸化量が増えれば、鋼板表面の放射率も大きくなることを意味している。また、図14に示すように、鋼中に含まれるSi濃度が同程度であっても(すなわち、鋼板表面の酸化量が同程度であっても)、高粗度の鋼板(酸洗材)の方が低粗度の鋼板(冷延材)に比べて放射率が大きくなることが分かる。
【0084】
図14に示す結果からも分かるように、鋼板表面の放射率は、酸化量や鋼種によって異なる。このため、鋼板表面の酸化に起因した品質不良が発生する境界となる放射率も、鋼種毎に異なると考えられる。従って、連続焼鈍炉が定常状態のときに鋼種毎に予め放射率を測定する一方、鋼種毎に品質不良が発生したときの放射率を測定しておき、両測定値の間に、鋼板表面の酸化量調整(故障設備の補修や、バーナー空燃比の調整等の操業条件の変更など)を実行するための放射率のしきい値を設定すればよい。
【0085】
図15は、図11に示す連続焼鈍ラインを構成する連続焼鈍炉の直火加熱帯出側に放射率測定装置100を配置して、鋼板表面の放射率を測定した結果の一例を示す。直火加熱帯に配設した設備の故障(トラブル)が発生した直後には、鋼板表面の酸化に起因した品質不良が頻発しており、図15に示すように、測定した鋼板の放射率は大きな値を示していた。しかしながら、一次補修、全補修と設備を健全化していくに伴い、放射率が比較的小さな値で定常化することが分かった。
【0086】
図16は、図11に示す連続焼鈍ラインを構成する連続焼鈍炉の直火加熱帯出側に放射率測定装置100を配置し、同一鋼帯の鋼板表面の放射率を連続的に測定した結果の一例を示す。本実施形態における直下加熱帯は、鋼板の入側から順に9つのゾーンに分割され、各ゾーン毎に、設置されたバーナーの燃焼制御を行っている。図16の上図は、8番目のゾーン(以下、第8ゾーンという)及び9番目のゾーン(以下、第9ゾーンという)に設置されたバーナーの空燃比を示し、下図は同タイミングでの直下加熱帯出側での放射率測定値を示す。図16に示すように、直火加熱帯に設置されたバーナーの空燃比を高くすると、鋼板表面が酸化され、放射率が高くなることを測定可能であった。なお、第8ゾーンよりも第9ゾーンに設置されたバーナーの空燃比の方が放射率の変動に対する影響が大きくなっているが、これは第9ゾーンを通過する際の鋼板の表面温度の方が第8ゾーンを通過する際の鋼板の表面温度よりも高いため、鋼板表面の酸化量が大きくなるためだと考えられる。バーナーの空燃比のような操業条件を変更することで、鋼板表面の酸化量を調整できることは明白であるため、放射率測定装置100によって、鋼板表面の酸化量を連続的にモニタリングすることも可能であることが分かる。
【0087】
図17は、図12に示す連続溶融亜鉛メッキラインを構成する連続焼鈍炉の間接加熱帯出側に放射率測定装置100を配置し、同一鋼帯の鋼板表面の放射率を連続的に測定した結果の一例を示す。図16に示すように、点線で囲んだ時間帯では、鋼板表面の酸化に起因した品質不良(不メッキ)が発生して放射率が高くなったが、バーナーの空燃比を調整した後には品質不良が改善され、放射率は低下した。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る放射率測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、アルミミラー及び干渉ミラーのそれぞれについて、温度による反射率の変化を調査した結果を示すグラフである。
【図3】図3は、単色放射温度計の視野径を説明するための説明図である。
【図4】図4は、単色放射温度計の視野の一部を第1の反射体が遮った状態を示す説明図である。
【図5】図5は、単色放射温度計の視野を第1の反射体が遮らない状態を示す説明図である。
【図6】図6は、多重反射を利用せずに単色放射温度計で直接測温する場合における、測温対象の実際の放射率と測温誤差との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、多重反射を利用して見かけの放射率を大きくした後、単色放射温度計で測温した場合における、測温対象の見かけの放射率と測温誤差との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、第2の単色放射温度計の受光部で受光される熱放射光の内、第1の反射体で反射する回数が最大となる熱放射光の反射回数nと、この反射回数nのときに得られる見かけの放射率εnとの関係を示すグラフである。
【図9】図9は、測温対象としての鋼板の反射特性の一例を示す図である。
【図10】図10は、第1の反射体の幅と第1の反射体で反射できる熱放射光の散乱角との関係を説明するための説明図である。
【図11】図11は、連続焼鈍ラインの概略構成例を示す模式図である。
【図12】図12は、連続溶融亜鉛メッキラインの概略構成例を示す模式図である。
【図13】図13は、鋼板を酸化させて放射率の変化を測定した結果の一例を示す。
【図14】図14は、図1に示す放射率測定装置によって、連続焼鈍炉を通板する鋼板表面の放射率を測定した結果の一例を示す。
【図15】図15は、図1に示す放射率測定装置によって、連続焼鈍炉を通板する鋼板表面の放射率を測定した結果の他の例を示す。
【図16】図16は、図1に示す放射率測定装置によって、連続焼鈍炉を通板する同一鋼帯の鋼板表面の放射率を連続的に測定した結果の一例を示す。
【図17】図17は、図1に示す放射率測定装置によって、連続焼鈍炉を通板する同一鋼帯の鋼板表面の放射率を連続的に測定した結果の他の例を示す。
【符号の説明】
【0089】
1・・・第2の単色放射温度計
2・・・第1の反射体
3・・・第2の反射体
4・・・冷却ジャケット
5・・・第1の単色放射温度計
11,51・・・受光部
12,52・・・光ファイバ
100・・・放射率測定装置
M・・・金属体(鋼板)
R・・・熱放射光
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板等の金属体の製造工程(連続焼鈍工程や連続溶融亜鉛メッキ工程など)において、金属体表面の放射率を測定する装置及び方法並びにこの方法によって放射率を測定する工程を含む鋼板の製造方法に関する。特に、本発明は、測温対象毎に放射率に関する関係式を求めるといった手間の掛かる測定手順を必要とせず、駆動機構等の複雑な構成要素を必要としない装置とすることができ、なお且つ市販の単色放射温度計を利用できる、金属体表面の放射率測定装置及び方法並びにこの方法によって放射率を測定する工程を含む鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、連続焼鈍工程や連続溶融亜鉛メッキ工程など、連続して通板される鋼板の製造工程においては、鋼板の表面を傷つけずに表面温度を連続的に測定するため、放射温度計を用いた非接触式の測温方法が採用されている。
【0003】
放射温度計として最も一般的な単色放射温度計は、測温対象の代表的な放射率を予め設定し、測温対象の熱放射エネルギーを測定して、該測定した熱放射エネルギーと前記設定放射率とに基づいて、測温対象の温度を算出するものである。従って、種々の要因で変動し得る測温対象の実際の放射率と前記設定放射率との差が大きくなるに伴い、測温誤差が大きくなってしまうという問題がある。
【0004】
上記の問題を解決するため、従来より種々の測温方法・装置や放射率の測定方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、互いに異なる2つの波長帯λ1、λ2における各々の熱放射エネルギーの比と、各々の分光放射率ε1、ε2の比ε1/ε2から、被測温体の温度計測を行う2色放射温度計において、予め求めておいたε1λ1/ε2λ2とε1/ε2との相関関係に基づいてε1/ε2を算出し、この算出したε1/ε2の値で熱放射エネルギーの比を補正する2色放射温度計が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、異なる測定条件で測定された2つの分光放射輝度信号を基にして、該分光放射輝度に対応する2つの分光放射率間の被測定物体に固有な既知の関係式(放射率特性関数)を解くことによって、加熱物体の温度と放射率を求める放射測温法が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2に開示された装置・方法では、測温対象毎(鋼種毎など)に放射率に関する関係式を予めオフラインで実験的に求めておく必要があるため、測定に極めて手間を要するという問題がある。
【0008】
特許文献3には、走査型放射温度計を用いた鋼板の温度・放射率測定方法が提案されている。具体的には、特許文献3には、既知の放射率及び温度の放射熱源より被測定鋼板の表面に放射エネルギーを放射し、その鋼板表面で反射される放射エネルギーと被測定鋼板からの放射エネルギーとを、走査型放射温度計を鋼板表面に対して所定角度走査しながら測定し、この走査型放射温度計により測定された放射エネルギーと被測定鋼板からの放射エネルギーとの差から得られる反射エネルギー並びに放射熱源、走査型放射温度計及び被測定鋼板の位置関係から鋼板表面での放射エネルギーの拡散反射状態を求めた後、この拡散反射状態と放射熱源の放射率及び温度から求められる放射熱源の放射エネルギーとから拡散反射の角度成分を含めた鋼板表面の反射率を求めると共に、この反射率をもとに被測定鋼板の放射率を求め、この放射率から被測定鋼板の温度を求める方法が提案されている。
【0009】
しかしながら、上記特許文献3に開示された方法では、測温対象に放射エネルギーを放射する放射熱源や、放射温度計を走査するための駆動機構が必要となり、装置構成が複雑化するという問題がある。
【0010】
また、特許文献4には、2つの異なる検出波長λ1、λ2を有する放射温度計を用いて、鋼板の放射率を算出し、該算出した放射率に基づいて鋼板表面のスケールの厚みを測定する方法が提案されている。特許文献4に記載の方法のように、連続焼鈍工程等において鋼板の放射率を算出し、鋼板表面の酸化量(スケールの量)を予測することは、鋼板表面の酸化に起因した品質不良を改善するために有用である。
【0011】
しかしながら、上記特許文献4に開示された方法では、検出波長λ1が12〜20μm、λ2が2.5〜4μmであって、長波長で且つ広範囲の帯域であるため、高・中・低温領域(200〜2000℃)の鋼板温度を測定するために市販されている一般的な単色放射温度計を用いることができない。また、大気成分(H2O、CO2)を含む炉内雰囲気では、上記の検出波長帯域に含まれる赤外線の吸収が生じることが知られており、連続焼鈍炉等の全域の炉内環境には適用できないという問題がある。
【特許文献1】特公平3−4855号公報
【特許文献2】特開平2−85730号公報
【特許文献3】特開平6−74831号公報
【特許文献4】特開平9−33464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、斯かる従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、簡易な手順で、且つ、複雑な装置構成を必要とせず、なお且つ市販の単色放射温度計を利用して、金属体表面の放射率を測定できる金属体表面の放射率測定装置及び方法並びにこの方法によって放射率を測定する工程を含む鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するべく、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、金属体表面からの熱放射光を直接受光する放射測温と、金属体表面から放射された熱放射光を金属体表面と反射体との間で多重反射させることにより金属体表面の見かけの放射率を大きくして、測温対象を黒体とみなす(黒体条件を得る)放射測温とを組み合わせることにより、比較的簡易な手順で、且つ、複雑な装置構成を必要とせず、なお且つ市販の単色放射温度計を利用して、金属体表面の放射率を測定できることに想到した。本発明は、斯かる発明者らの知見に基づき完成されたものである。
【0014】
すなわち、本発明は、測温対象である金属体表面から放射された熱放射光を直接受光する第1の単色放射温度計と、第2の単色放射温度計と、前記第2の単色放射温度計の受光部と前記金属体表面との間において、前記金属体表面に対向し且つ前記金属体表面に略平行に配置した第1の反射体と、前記金属体表面から放射され、前記金属体表面と前記第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光を、前記第2の単色放射温度計の受光部に向けて反射させるように配設した第2の反射体と、前記第1の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値と、前記第2の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値とに基づいて、前記金属体表面の放射率を演算する演算部とを備えることを特徴とする金属体表面の放射率測定装置を提供するものである。
【0015】
本発明に係る放射率測定装置は、第2の単色放射温度計と、第1の反射体と、第2の反射体とを備えることにより、多重反射を利用した放射測温を行うように構成されている。具体的には、本発明に係る放射率測定装置は、第2の単色放射温度計の受光部と測温対象である金属体表面との間において、金属体表面に対向し且つ金属体表面に略平行に配置した第1の反射体を備える。すなわち、第1の反射体の背面側(金属体表面に対向する側と反対側)に第2の放射温度計の受光部を備える構成であるため、第2の放射温度計の受光部を金属体表面から離間させることが可能であり、第2の放射温度計への金属体表面からの熱放射の影響を軽減することが可能である。また、本発明に係る放射率測定装置は、金属体表面から放射され、金属体表面と第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光を、第2の放射温度計の受光部に向けて反射させるように配設した第2の反射体を備える。このため、例えば、第2の反射体を第1の反射体の端部外方において金属体表面に略垂直になるように配設すれば、第2の反射体を配設せずに第2の放射温度計の受光部で直接受光する場合に比べて、放射光の反射される方向に沿った装置の長さを小型化できるという利点を有する。従って、装置構成を小型化できるために、装置全体の効率的な冷却を行うことができ、ひいては熱放射による装置構成部材の熱膨張による歪みが低減される。これにより、高精度に金属体の表面温度を測定でき、ひいては後述するように、第1の単色放射温度計との組み合わせによって高精度に金属体表面の放射率を測定可能である。
【0016】
また、本発明に係る放射率測定装置は、第1の単色放射温度計を備えることにより、金属体表面からの熱放射光を直接受光する放射測温を行うように構成されている。そして、本発明に係る放射率測定装置は、この第1の単色放射温度計による金属体表面の測温値(放射光を直接受光する放射測温による測温値)と、前述した第2の単色放射温度計による金属体表面の測温値(多重反射を利用した放射測温による測温値)とに基づいて、金属体表面の放射率を演算する演算部を備える。斯かる演算により、後述するように、第1及び第2の単色放射温度計の設定放射率が実際の金属体表面の放射率と異なっていたとしても、高精度に金属体表面の放射率を測定可能である。
【0017】
なお、前記演算部は、下記の式(1)及び式(2)に基づいて、前記金属体表面の放射率を演算することが好ましい。
ε0=εS・(T1)n/(T2)n ・・・ (1)
n=C2/(λ0・T2) ・・・(2)
ここで、上記の式(1)及び(2)において、ε0は金属体表面の放射率を意味し、εSは第1の単色放射温度計の設定放射率を意味し、T1は第1の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、T2は第2の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、λ0は第1及び第2の単色放射温度計における熱放射光の検出波長帯域の中心波長(m)を意味し、C2はプランクの放射第2定数(=0.014388(m・K))を意味する。
【0018】
また、前記課題を解決するべく、本発明は、測温対象である金属体表面から放射された熱放射光を第1の単色放射温度計で直接受光すると共に、第2の単色放射温度計の受光部と前記金属体表面との間において、前記金属体表面に対向し且つ前記金属体表面に略平行に第1の反射体を配置し、前記金属体表面から放射され、前記金属体表面と前記第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光を、第2の反射体で前記第2の単色放射温度計の受光部に向けて反射させ、前記第1の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値と、前記第2の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値とに基づいて、前記金属体表面の放射率を演算することを特徴とする金属体表面の放射率測定方法としても提供される。
【0019】
前記金属体表面の放射率は、前述した式(1)及び式(2)に基づいて演算することが好ましい。
【0020】
本発明に係る放射率測定方法は、金属体が連続して通板される鋼板である場合に好ましく適用することが可能である。
【0021】
また、本発明は、前記放射率測定方法を用いて、連続焼鈍炉の予熱帯出側、直火加熱帯出側、間接加熱帯出側及び冷却帯出側の内の少なくとも一箇所で、表面の放射率を測定する工程を含むことを特徴とする鋼板の製造方法としても提供される。
【0022】
ここで、鋼板表面の放射率と鋼板表面の酸化量とは正の相関関係を有するため、連続焼鈍炉の炉帯(予熱帯、直火加熱帯、間接加熱帯及び冷却帯の内の少なくとも一つ)出側で測定した鋼板表面の放射率の大小によって鋼板表面の酸化量を判断し、これに応じて放射率を測定した箇所直前の炉帯における鋼板の酸化量を調整すれば、鋼板表面の酸化に起因した品質不良を改善可能である。
【0023】
従って、前記鋼板の製造方法においては、前記測定された鋼板表面の放射率に基づいて、該放射率測定箇所直前の炉帯における鋼板表面の酸化量を調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る放射率測定装置及び方法によれば、簡易な手順で、且つ、複雑な装置構成を必要とせず、なお且つ市販の単色放射温度計を利用して、金属体表面の放射率を測定可能である。より具体的には、測温対象毎に放射率に関する関係式を求めるといった手間の掛かる測定手順を必要とせず、駆動機構等の複雑な構成要素を必要としない装置とすることができ、なお且つ市販の単色放射温度計を利用可能である。また、本発明に係る鋼板の製造方法によれば、測定した鋼板表面の放射率に基づいて、鋼板表面の酸化量を調整することにより、鋼板表面の酸化に起因した品質不良を改善可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について、鋼板表面の放射率を測定する場合を例に挙げて説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る放射率測定装置の概略構成を示す図であり、図1(a)は側面視断面図を、図1(b)は平面図を示す。図1に示すように、本実施形態に係る放射率測定装置100は、測温対象である鋼板M表面から放射された熱放射光を直接受光する第1の単色放射温度計5と、第2の単色放射温度計1と、第2の単色放射温度計1の受光部11と鋼板M表面との間において、鋼板M表面に対向し且つ鋼板M表面に略平行に配置した第1の反射体2と、鋼板M表面から放射され、鋼板M表面と第1の反射体2との間を交互に反射(多重反射)した熱放射光Rを、第2の単色放射温度計1の受光部11に向けて反射させるように配設した第2の反射体3とを備えている。本実施形態に係る放射率測定装置100は、円筒状の冷却用ジャケット4内に収容され、鋼板M表面からの熱放射による装置構成部材の熱膨張による歪みが低減されている。ただし、冷却用ジャケット4は円筒状の形態に限るものではなく、例えば、四角筒状の形態とし、その内側面に沿って第2の反射体3を配設すれば、第2の反射体3の反射面の面積を大きくできる点で有利である。なお、本実施形態に係る放射率測定装置100としては、水平方向(図1(a)の矢符の方向)に連続して通板される鋼板M表面の放射率を、その上面側から測定する場合を例に挙げて説明する。
【0027】
第2の単色放射温度計1は、パージガスを噴出するためのノズル内に熱放射光を受光するための光ファイバが配置された受光部11と、受光部11で受光した熱放射光を放射温度計本体(図示せず)に伝送するための光ファイバ12と、放射温度計本体とを備えている。なお、放射温度計本体は、受光部11で受光され光ファイバ12によって伝送された熱放射光を光電変換し、温度に換算するように構成されている。なお、本実施形態に係る第2の単色放射温度計1は、第1の単色放射温度計5と熱放射光の検出波長帯域が実質的に同一とされている。
【0028】
同様にして、第1の単色放射温度計5も、パージガスを噴出するためのノズル内に熱放射光を受光するための光ファイバが配置された受光部51と、受光部51で受光した熱放射光を放射温度計本体(図示せず)に伝送するための光ファイバ52と、放射温度計本体とを備えている。放射温度計本体は、受光部51で受光され光ファイバ52によって伝送された熱放射光を光電変換し、温度に換算するように構成されている。なお、第1の単色放射温度計5は、第2の単色放射温度計1の受光部11に入射する多重反射した熱放射光Rの光路を遮らないように、且つ、鋼板M表面から放射された熱放射光を直接受光できるように、第2の単色放射温度計1と水平方向(図1(b)の紙面下側)に位置をずらして配置されている。また、多重反射した熱放射光R等の迷光が第1の単色放射温度計5の受光部51に入射しないように、受光部51の先端には、第2の反射体3の下端部と略同位置まで延びる円筒状のフード6が取り付けられている。
【0029】
第1の反射体2は、前述のように、第2の単色放射温度計1の受光部11と鋼板M表面との間において、鋼板M表面に対向し且つ鋼板M表面に略平行に配置されている。換言すれば、第1の反射体2の背面側(鋼板M表面に対向する側と反対側)に第2の単色放射温度計1の受光部11が配置された構成であるため、第2の単色放射温度計1の受光部11は鋼板M表面から離間されており、鋼板M表面からの熱放射の影響を軽減することが可能である。
【0030】
第1の反射体2は、高温となる鋼板Mに比較的近接して配置されるため、高温となり得る。第1の反射体2として、一般的に反射体として多用されるアルミをメッキしたアルミミラーを用いた場合、600℃以上になると、アルミの酸化が進行し、その反射率が急激に低下するため、多重反射の回数が同じであっても見かけの放射率の上昇が抑制される結果、鋼板M表面の測温精度、ひいては放射率の測定精度が低下するという問題がある。アルミミラーを冷却し、高温になることを抑制することも考えられるものの、装置構成が大きくなってしまうという欠点がある。
【0031】
そこで、第1の反射体2としては、石英ガラス等の耐熱母材に多層の誘電膜をコーティングすることにより形成され、干渉現象により高い反射率を得ることが可能な干渉ミラーを用いることが好ましい。特に、上記誘電膜として、酸化による反射率の変化が少ない酸化チタンと酸化シリコンとを用いるのが好ましい。図2は、アルミミラー及び石英ガラスに酸化チタン膜と酸化シリコン膜を多層に積層した干渉ミラーのそれぞれについて、温度による反射率の変化を調査した結果を示すグラフである。図2に示すように、干渉ミラーは、アルミミラーと異なり、反射率が約98%と極めて高い上、たとえ800℃の高温となっても反射率の劣化が生じないという利点がある。
【0032】
また、第1の反射体2が高温になると、第1の反射体2自体から熱放射光(外乱光)が発生し、この外乱光が第2の単色放射温度計1の受光部11で受光されることにより鋼板M表面の測温誤差、ひいては放射率の測定誤差が生じるという問題もある。この際、第1の反射体2の反射率が高いと、逆に第1の反射体2の放射率は小さくなる(放射率=1−反射率)ため、外乱光による測温誤差を小さくすることが可能である。例えば、測温対象である鋼板Mの放射率が0.4で、温度が600℃であるとき、第1の反射体2の温度が650℃の条件においてその反射率が90%の場合には、測温誤差が17℃と大きくなってしまう。一方、第1の反射体2の反射率が98%の場合には、測温誤差は4℃となり、実用的に問題とならない測温誤差に抑制することが可能である。以上のように、第1の反射体2自体に起因した外乱光の影響を抑制するという点でも、第1の反射体2として干渉ミラーを用いることが好ましい。
【0033】
第2の反射体3は、前述のように、鋼板M表面から放射され、鋼板M表面と第1の反射体2との間を交互に反射した熱放射光Rを、第2の放射温度計1の受光部11に向けて反射させるように配設されている。より具体的には、第2の反射体3は、第1の反射体2の端部外方において鋼板M表面に略垂直になるように、そして、第2の反射体3の下端部が第1の反射体2と鉛直方向に見て略同位置又は上方に位置するように配設されている。そして、後述する反射角θaで鋼板M表面を反射した熱放射光Rが第2の反射体3に入射し、第2の反射体3で反射した熱放射光R(熱放射光Rの中心)が、ちょうど第2の単色放射温度計1の受光部11(受光部11の中心)に入射されるように第2の反射体3の向きが微調整されている。
【0034】
第2の反射体3は、第1の反射体2と異なり、その反射面が鋼板Mに対向しないため第1の反射体2に比べて高温とはならない。また、反射率が既知で安定している限り、高い反射率は不要である。従って、第2の反射体3としては、アルミや金をメッキした一般的な反射ミラーや、金属表面を鏡面研磨した反射ミラーを用いることが可能である。
【0035】
また、本実施形態に係る放射率測定装置100は、第1の単色放射温度計5による鋼板M表面の測温値と、第2の単色放射温度計1による鋼板M表面の測温値とに基づいて、鋼板M表面の放射率を演算する演算部(図示せず)を備えている。演算部は、第1の単色放射温度計5及び第2の単色放射温度計1の各温度計本体に接続されており、各温度計本体から出力された測温値に基づいて、鋼板M表面の放射率を演算する。
【0036】
具体的には、前記演算部は、下記の式(1)及び式(2)に基づいて、鋼板M表面の放射率を演算する。
ε0=εS・(T1)n/(T2)n ・・・ (1)
n=C2/(λ0・T2) ・・・(2)
ここで、上記の式(1)及び(2)において、ε0は鋼板M表面の放射率を意味し、εSは第1の単色放射温度計5の設定放射率を意味し、T1は第1の単色放射温度計5による鋼板M表面の測温値(K)を意味し、T2は第2の単色放射温度計1による鋼板M表面の測温値(K)を意味し、λ0は第1及び第2の単色放射温度計5、1における熱放射光の検出波長帯域の中心波長(m)を意味し、C2はプランクの放射第2定数(=0.014388(m・K))を意味する。
【0037】
以下、上記の式(1)及び式(2)に基づく演算により鋼板M表面の放射率ε0を測定できる理由について説明する。
【0038】
下記の式(3)に示すように、物体から放射される熱放射エネルギーは、物体の絶対温度(黒体温度)の4乗に比例する(ステファン・ボルツマンの法則)。
V=σ・ε0・TLB4 ・・・(3)
ここで、上記の式(3)において、Vは物体からの熱放射エネルギー(W・m−2)を意味し、σはステファン・ボルツマン定数(W・m−2・K−4)を意味し、ε0は物体の放射率(物体が黒体の場合はε0=1)を意味し、TLBは黒体温度(K)を意味する。
【0039】
一般的な単色放射温度計は、測温対象からの熱放射エネルギーVを検出し、上記の法則に基づいて、測温対象の温度Tを算出している。本実施形態に係る第1の単色放射温度計5も同様であり、下記の式(4)で表される熱放射エネルギーを検出し、下記の式(4)に基づいて、鋼板Mの表面温度を算出する。
V1=σ・εS・(T1)4 ・・・(4)
ここで、上記の式(4)において、V1は第1の単色放射温度計5による鋼板M表面からの熱放射エネルギー測定値(W・m−2)を意味し、εSは第1の単色放射温度計5の設定放射率を意味し、T1は第1の単色放射温度計5による鋼板Mの表面温度測定値(K)意味する。
【0040】
同様に、第2の単色放射温度計1は、下記の式(5)で表される熱放射エネルギーを検出し、下記の式(5)に基づいて、鋼板Mの表面温度を算出する。
V2=σ・ε2・(T2)4 ・・・(5)
ここで、上記の式(5)において、V2は第2の単色放射温度計1による鋼板M表面からの熱放射エネルギー測定値(W・m−2)を意味し、ε2は第2の単色放射温度計1から見た鋼板M表面の見かけの放射率を意味し、T2は第2の単色放射温度計1による鋼板Mの表面温度測定値(K)意味する。
【0041】
ここで、鋼板M表面から放射された熱放射光を鋼板M表面と第1の反射体2との間で多重反射させることにより、鋼板M表面の見かけの放射率ε2を大きくして鋼板Mを黒体とみなす(黒体条件を得る)ことが可能である。換言すれば、下記の式(6)及び式(7)を満足させることが可能である。
T2≒TLB(=黒体温度=鋼板Mの実際の表面温度) ・・・(6)
ε2≒1 ・・・(7)
【0042】
また、第1の単色放射温度計5による測温では、実際の鋼板Mの放射率ではなく、前述した式(4)に示すように設定放射率εSを用いるが、実際に第1の単色放射温度計5で検出している熱放射エネルギーは、下記の式(8)で表されるものである。
V1=σ・ε0・(TLB)4 ・・・(8)
上記の式(8)において、ε0は鋼板M表面の実際の放射率を意味し、本実施形態に係る放射率測定装置100で測定しようとするものである。
【0043】
上記の式(6)を上記の式(8)に代入することにより、下記の式(9)が得られる。
V1≒σ・ε0・(T2)4 ・・・(9)
そして、上記の式(4)及び式(9)より、下記の式(10)が得られる。
ε0≒εS・(T1)4/(T2)4 ・・・(10)
【0044】
ここで、一般的に単色放射温度計が検出している熱放射光の波長帯域(検出波長帯域)は、熱放射光の全帯域ではなく、所定の中心波長近傍の帯域に限定されている。これは、検出波長帯域を限定した方が、測温対象の存在する雰囲気内に大気成分(H2O、CO2)が含まれる場合、これら成分の赤外線吸収の影響による測温誤差を無くすことができるからである。本実施形態に係る第1の単色放射温度計5及び第2の単色放射温度計1についても同様に、熱放射光の検出波長帯域は、所定の中心波長近傍の帯域に限定されている。
【0045】
従って、前述した式(3)で表されるステファン・ボルツマンの法則に基づいて得られた上記の式(10)を下記の式(1)のように補正する必要がある。
ε0=εS・(T1)n/(T2)n ・・・ (1)
ここで、上記の式(1)におけるnは、下記の式(2)で表される。
n=C2/(λ0・T2) ・・・(2)
【0046】
以上に説明した理由により、式(1)及び式(2)に基づく演算によって鋼板M表面の放射率ε0を測定可能である。すなわち、第1及び第2の単色放射温度計5、1による鋼板M表面の測温値T1、T2と、既知のパラメータεS、C2、λ0とによって、鋼板M表面の放射率ε0を測定可能である。
【0047】
本実施形態に係る放射率測定装置100は、以上に説明した構成を有するため、装置全体の寸法(特に、熱放射光Rの反射される方向に沿った装置100の長さ)を小型化することが可能であり、鋼板M表面からの熱放射を直接受ける部材を第1の反射体2のみにすることが可能である。従って、装置100全体の効率的な冷却を行うことができ(前述のように、本実施形態では、冷却用ジャケット4内に装置100を収容している)、ひいては熱放射による装置構成部材の熱膨張による歪みが低減される。これにより、第2の単色放射温度計1によって高精度に鋼板Mの表面温度を測定でき、ひいては、第1の単色放射温度計5との組み合わせによって、高精度に鋼板M表面の放射率を測定することが可能である。
【0048】
ここで、好ましい構成として、本実施形態に係る第1の反射体2は、平板状に形成され、熱放射光Rの反射される方向に沿った長さL(図1(b)参照)が下記の式(11)を満足するように構成されている。
L≧(2lp/tan(90°−θa))・(n−1)+d/cosθa・・・(11)
ここで、上記式(11)において、lpは第1の反射体2と鋼板M表面との離間距離を意味し、θaは鋼板M表面と第1の反射体2との間を反射する熱放射光Rの反射角を意味し、下記の式(12)を満足する値である。また、nは第2の単色放射温度計1の受光部11で受光される熱放射光Rの内、第1の反射体2で反射する回数が最大となる熱放射光Rの反射回数を意味し、下記の式(13)を満足する値である。さらに、dは第1の反射体2近傍における第2の単色放射温度計1の視野径を意味する。
θa>sin−1(d/(2lp))・・・(12)
εmin≦ε0+Σε0・(ρ・(1−ε0))i・・・(13)
なお、上記式(13)において、εminは測温に必要となる見かけの放射率ε2の最小値(本実施形態の放射率測定は、前述した式(7)が成立することを前提にしているため、最小値εminはできる限り1に近い値にするのが好ましい)を、ε0は鋼板M表面の放射率を、ρは第1の反射体2の反射率を、Σはi=1〜nまで加算することを意味する。
【0049】
以下、第1の反射体2の熱放射光Rの反射される方向に沿った長さLが上記式(11)を満足することが好ましい理由について、具体的に説明する。
【0050】
本実施形態に係る放射率測定装置100は、鋼板M表面から放射され、鋼板M表面と第1の反射体2との間を交互に反射(多重反射)した熱放射光Rを第2の単色放射温度計1の受光部11で受光して測温する構成である。このように、熱放射光Rの多重反射を利用する場合、その原理上、熱放射光Rの反射回数が多ければ多いほど、見かけの放射率が大きくなり、測温精度を高めることが可能である。そして、熱放射光Rの反射回数を多くするには、熱放射光Rが鋼板M表面に対して垂直に近い状態、すなわち、鋼板M表面と第1の反射体2との間を反射する熱放射光Rの反射角をできるだけ小さくすることが好ましい。換言すれば、測温精度を高めるべく、反射回数のできるだけ多い熱放射光Rを受光部11で受光するには、できるだけ反射角の小さい熱放射光Rを受光部11で受光できるような位置関係で、第2の反射体2と受光部11とを配設すればよい。
【0051】
しかしながら、受光部11を構成する光ファイバには、図3に示すような、受光部11からの距離lSに応じて光を検出できる視野の広さ(視野径dS)が存在する。視野径dSは、光ファイバの規格等に応じて異なると共に、光ファイバの先端にレンズを取り付けることにより視野を拡大することも可能である。ここで、第1の反射体2近傍における第2の単色放射温度計1(受光部11)の視野径をd(この視野径dは第1の反射体2と鋼板M表面との間においても略一定であるとする)とし、図4に示すように、反射角度θaを小さくし過ぎた場合、受光部11の視野の一部を第1の反射体2が遮ってしまい(視野欠けが生じ)、多重反射した熱放射光Rの一部を受光部11で受光できなくなる結果、測温精度が劣化してしまうという問題がある。より具体的には、図4に示すように、第1の反射体2の第2の反射体(図4には図示せず)側の最端部(図4の紙面左側の最端部)で反射した視野径dの端部に位置する熱放射光R11、R12の内、第1の反射体2側の熱放射光R12(及びその近傍の熱放射光)が鋼板Mにおいて反射した熱反射光R13(及びその近傍の熱放射光)が第1の反射体2で遮られてしまう。
【0052】
上記問題を解消するには、図5に示すように、第1の反射体2が受光部11の視野(視野径d)を遮らないように反射角度θaを設定する必要がある。より具体的には、第1の反射体2の第2の反射体(図5には図示せず)側の最端部(図5の紙面左側の最端部)で反射した視野径dの端部に位置する熱放射光R11、R12の内、第1の反射体2側の熱放射光R12が鋼板Mにおいて反射した熱反射光R13が第1の反射体2で遮られない条件とする必要がある。これは、幾何学的な関係より、下記の式(12)を満足する反射角度θaとする必要があることを意味する。
θa>sin−1(d/(2lp))・・・(12)
ここで、lpは第1の反射体2と鋼板M表面との離間距離を意味する。
【0053】
なお、第1の反射体2と鋼板M表面との離間距離lpは、鋼板Mのパスライン変動や、第1の反射体2の耐熱性の他、第1の反射体2と鋼板M表面との間にパージを施す場合にはそのパージ能力等に応じて、適宜の値が設定される。具体的には、離間距離lpを大きく設定すればするほど、視野欠けが生じない反射角θaの最小値(すなわち、式(12)の右辺)を小さくできる反面、第1の反射体2と鋼板M表面との間にパージを施すことが困難となる他、後述するように、熱放射光Rの反射回数を多くするには第1の反射体2の長さLを大きくする必要が生じる。従って、離間距離lpは、鋼板Mのパスライン変動や、第1の反射体2の耐熱性が許す限り、小さく設定することが好ましい。
【0054】
次に、第2の単色放射温度計1の受光部11で受光される熱放射光Rの内、第1の反射体2で反射する回数が最大となる熱放射光Rの反射回数n(すなわち、第1の反射体2の第2の反射体3配設側と反対側の端部で最初に反射した熱放射光Rが、第2の反射体3に到達するまでに第1の反射体2によって反射された回数。図1(b)に図示した例ではn=7である)は、以下のようにして算出される。
【0055】
図6は、多重反射を利用せずに単色放射温度計で直接測温する場合における、測温対象の実際の放射率と測温誤差(設定放射率を0.7にした場合における測温誤差)との関係を示すグラフである。放射率は、測温対象の物性や酸化状態等によって大きく異なる。例えば、連続焼鈍炉等、連続して通板される鋼板Mを連続的に処理するプロセスにおいては、最も放射率の小さい材質からなる鋼板M表面の放射率(例えば、0.4)から、鋼板Mが酸化した状態における放射率1.0まで大きく変動することになる。図6に示すように、測温対象である鋼板M表面の最も小さな放射率を0.4、最も大きな放射率を1.0とし、単色放射温度計の設定放射率をその中間値である0.7に設定(固定)したとすると、鋼板Mの実際の表面温度が800℃である場合、±30℃程度の測温誤差が生じることになる。従って、測温誤差を低減するには、放射率の小さな測温対象については、多重反射によって見かけの放射率を大きくし、酸化した状態における放射率との差を小さくすることが必要である(放射率が1.0に近い測温対象については、多重反射による見かけの放射率の上昇無し)。
【0056】
図7は、多重反射を利用して見かけの放射率を大きくした後、単色放射温度計で測温した場合における、測温対象の見かけの放射率と測温誤差(鋼板Mの実際の表面温度が800℃であり、設定放射率を1.0にした場合における測温誤差)との関係を示すグラフである。許容される測温誤差から、測温に必要となる放射率(見かけの放射率)の最小値εminが決まる。例えば、図7に示す例において、5℃以内の測温精度を得るには、見かけの放射率を0.9以上(すなわち、εmin=0.9)にする必要がある。
【0057】
図8は、第2の単色放射温度計1の受光部11で受光される熱放射光Rの内、第1の反射体2で反射する回数が最大となる熱放射光Rの反射回数nと、この反射回数nのときに得られる見かけの放射率εnとの関係を示すグラフである。そして、見かけの放射率εnと反射回数nとの間には、下記の式(14)の関係式が成立する。
εn=ε0+Σε0・(ρ・(1−ε0))i・・・(14)
ここで、上記の式(14)において、ε0は鋼板M表面の放射率(実際の放射率)を、ρは第1の反射体2の反射率を、Σはi=1〜nまで加算することを意味する。
【0058】
そして、前述した測温に必要となる見かけの放射率の最小値εmin≦εnとなるように、反射回数nを設定すればよい。すなわち、下記の式(13)を満足するように反射回数nを設定すればよい。
εmin≦ε0+Σε0・(ρ・(1−ε0))i・・・(13)
反射回数nが上記式(13)を満足すれば、実際の放射率がどのような鋼板Mであっても、測温誤差ひいては放射率の測定誤差を許容範囲内にすることが可能である。
【0059】
そして、上記の式(12)を満足する反射角θaで、式(13)を満足する反射回数nを得るためには、幾何学的な条件より、第1の反射体2の熱放射光Rの反射される方向に沿った長さLを、前述した式(11)を満足するように構成すればよい。換言すれば、第1の反射体2の熱放射光Rの反射される方向に沿った長さLを前述した式(11)を満足するように設定することにより、測温誤差ひいては放射率の測定誤差を許容範囲内にすることができると共に、第1の反射体2の熱放射光Rの反射される方向に沿った長さLを必要最小限の寸法(L=式(11)の右辺とした場合)とすることが可能である。
【0060】
また、好ましい構成として、本実施形態に係る第1の反射体2は、熱放射光Rの反射される方向と直交する方向の幅W(図1(b)参照)が下記の式(15)を満足するように構成されている。
(W−d)/(2lp)≧tanθb・・・(15)
ここで、上記式(15)において、θbは鋼板M表面での熱放射光Rの散乱角を意味する。
【0061】
以下、第1の反射体2の熱放射光Rの反射される方向と直交する方向の幅Wが上記式(15)を満足することが好ましい理由について、具体的に説明する。
【0062】
一般に、測温対象の反射特性(散乱特性)が鏡面に近ければ近いほど、測温対象表面と第1の反射体2との間の多重反射によって見かけの放射率が高くなり易く、測温誤差の少ない温度測定、ひいては測定誤差の少ない放射率の測定が可能である。
【0063】
しかしながら、測温対象の反射特性は、鏡面性に限るものではなく、一定の拡がりをもって散乱する特性を有する場合も多い。図9は、測温対象としての鋼板の反射特性の一例を示す図であり、図9(a)は鏡面性の鋼板の反射特性の一例を、図9(b)は散乱性の鋼板の反射特性の一例を示す。具体的には、図9に示すデータは、各鋼板の法線方向から波長0.9μm帯の赤外光を照射し、各鋼板表面で反射した光を前記法線方向に対して成す角度を変更しながら光検出器で測定した結果を示す。図9の横軸は、鋼板の法線方向に対して成す角度θを、縦軸はθ=0°の時の反射強度を基準とした相対的な反射強度を示す。
【0064】
図9(a)に示す鋼板M(冷延鋼板No.1)は、散乱する光(θ≠0°の光)が非常に少ない鏡面性の反射特性を有する。このような鏡面性の鋼板Mの場合には、第1の反射体2の幅Wを前述した第2の単色放射温度計1の視野径dの2倍程度に設定すれば(第1の反射体2の幅Wを視野径dと完全に等しく設定したのでは、鋼板Mで散乱した熱放射光Rの一部が第1の反射体2で反射されなくなるため、2倍程度に設定するのが好ましい)、第2の単色放射温度計1の視野径d内に存在し且つ鋼板Mで反射した熱放射光Rの略全てを第1の反射体2で反射させることが可能であり、これにより見かけの放射率を効果的に高めることが可能である。
【0065】
一方、図9(b)に示す鋼板M(冷延鋼板No.2、No.3)では、θ=±15°程度の範囲まで散乱する光が存在している。このような散乱性の反射特性を有する鋼板Mの場合、図10に示すように、第1の反射体2によって反射できる熱放射光Rの最大の散乱角θmaxは、下記の式(16)で表されることになる。
tanθmax=(W−d)/(2lp)・・・(16)
【0066】
例えば、図9(a)に示す鋼板Mの場合と同様に、第2の単色放射温度計1の視野径d=10mmとし、第1の反射体2の幅Wを視野径dの2倍であるW=20mmに設定(離間距離lp=60mm)に設定した場合、上記式(16)より、θmax≒5°となるため、図9(b)に示す鋼板Mでは、±15°程度の範囲まで熱放射光Rを散乱するにも関わらず、±5°程度の散乱光しか第1の反射体2で反射させることができず、見かけの放射率を効果的に高めることができない。従って、測温対象の散乱性を考慮する場合には、鋼板M表面での熱放射光Rの散乱角θb(実質的に散乱光が得られなくなる角度であり、図9(b)に示す例ではθb≒15°)≦θmaxとなるように、第1の反射体2の幅Wを設定すればよい。すなわち、上記の式(15)を満足するように、第1の反射体2の幅Wを設定することが好ましい。
【0067】
以上に説明した本実施形態に係る放射率測定装置100によれば、装置構成を小型化できると共に、実際の放射率が変動する測温対象であっても多重反射を利用して高精度に表面温度ひいては表面の放射率を測定することが可能である。従って、鋼板等の連続圧延、連続焼鈍、連続塗装、連続メッキ等、測温対象である金属体が連続的に移動し処理を施されるプロセスにおいて、好適に用いることが可能である。
【0068】
なお、以上に説明した本実施形態において、第1の反射体2の形状は、平面視において長方形としているが、本発明はこれに限るものではなく、熱放射光Rの経路を妨げない限りにおいて、正方形、三角形、台形、楕円形、円形等の種々の形状とすることが可能である。
【0069】
また、第1反射体2の鋼板Mに対向する側の表面や、第1の反射体2と鋼板M表面との間の空間は、ガスパージを施すことによって、できるだけ清浄化した状態とすることが好ましい。パージするガスは、空気や窒素等のように、熱放射光を遮らない無色のガスである限りにおいて、特にその種類は限定されない。また、パージ方式も、清浄化した状態を維持できる限りにおいて、特に限定されるものではない。例えば、特開2003−248158に開示されたようなパージ方式を好適に用いることができる。
【0070】
また、本実施形態では、水平方向に連続して通板される鋼板M表面の放射率を、その上面側から測定する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、鋼板Mが竪型炉のように竪方向(鉛直方向)に連続して通板される場合であっても同様に測定可能である。ただし、この場合には、第2の反射体3の反射面に埃や異物が堆積しないように、第2の反射体3を第1の反射体2の下方側ではなく、上方側に配設することが好ましい。また、水平方向に連続して通板される鋼板M表面の放射率を、その下面側から測定することも可能であるが、この場合には、第1の反射体2の反射面に埃や異物が堆積しないように、第1の反射体2を十分にガスパージすることが肝要である。
【0071】
以下、本発明に係る放射率測定方法によって表面の放射率を測定する工程を含む鋼板の製造方法として、前述した放射率測定装置100を鋼板の連続焼鈍ライン、連続溶融亜鉛メッキラインに適用して鋼板を製造する方法を例に挙げて説明する。
【0072】
図11は、連続焼鈍ラインの概略構成例を示す模式図である。図12は、連続溶融亜鉛メッキラインの概略構成例を示す模式図である。図11、図12に示すように、連続焼鈍ライン及び連続溶融亜鉛メッキラインには、予熱帯、直火加熱帯、間接加熱帯、冷却帯等から構成され、連続して通板される鋼板Mを焼鈍するための連続焼鈍炉が設けられている。
【0073】
放射率測定装置100は、上記連続焼鈍炉の予熱帯出側、直火加熱帯出側、間接加熱帯出側及び冷却帯出側の内の少なくとも一箇所(図11又は図12の矢符で示す箇所)に配置される。斯かる配置により、放射率測定装置100で測定された鋼板表面の放射率に基づいて鋼板表面の酸化量(スケールの量)を判断し、これに応じて放射率測定箇所直前の炉帯(例えば、放射率測定装置100を直火加熱帯出側に配置した場合には、直火加熱帯が直前の炉帯となる)における鋼板表面の酸化量を調整(具体的には、故障設備の補修や、バーナー空燃比の調整等の操業条件の変更など)することが可能である。これにより、鋼板表面の酸化に起因した品質不良を迅速に改善可能である。また、鋼板表面の放射率の測定のみならず、前述のように第2の単色放射温度計1によって高精度に鋼板の表面温度を測定できるので、連続焼鈍炉を構成する各炉帯の炉温を適正に管理する上でも有用である。
【0074】
なお、連続焼鈍炉の出側一箇所に限らず、各炉帯の出側に放射率測定装置100を配置するのが好ましいが、これは酸化を引き起こす原因が各炉帯毎に異なるからである。
例えば、予熱帯は、後続する直火加熱帯や間接加熱帯の廃ガス熱を利用して鋼板を予熱する炉帯であるが、鋼板の表面温度が廃ガスの露点以下であれば、鋼板表面に結露が発生し、酸化する。また、廃ガス中の未燃ガスにエアを投入することで未燃ガスを燃焼させて熱を回収する装置が予熱帯に設けられている場合、投入するエアが過剰になると鋼板表面が酸化する。
【0075】
直火加熱帯では、例えば、配設されたバーナーやガス流量制御装置等の設備が故障することにより、空燃比が所定の範囲から外れれば鋼板表面が酸化する。
【0076】
間接加熱帯では、例えば、配設されたラジアントチューブバーナーに亀裂が生じたり、破裂することによって、鋼板表面が酸化する。
【0077】
冷却帯では、ガス冷却を行っている場合、例えば、配設されたジェットクーラーのラジエータに水漏れが生じることにより、鋼板表面が酸化する。また、気水冷却を行っている場合には、雰囲気の遮断不良によって、鋼板表面が酸化する。
【0078】
このように、鋼板表面の酸化を引き起こす原因が各炉帯毎に異なるため、各炉帯出側に放射率測定装置100を設置することで、故障設備の特定・補修や、操業条件(バーナー空燃比など)の見直しを迅速に行うことが可能である。
【0079】
以下、放射率測定装置100で測定した鋼板表面の放射率に基づく鋼板表面の酸化量調整について、より具体的に説明する。
【0080】
本発明の発明者らは、表面に熱電対を溶着した鋼板を真空容器内に収容して700℃に加熱し、熱電対で鋼板表面温度を測定する一方、単色放射温度計でも鋼板の表面温度を測定する実験を行った。そして、熱電対による測温値を真値とし、単色放射温度計の設定放射率を変更して、単色放射温度計による測温値が真値と一致するときの設定放射率を鋼板表面の放射率として算出した。
【0081】
図13は、上記の実験により、予め所定の酸化処理を施した炭素含有量0.04重量%の一般低炭素鋼板を酸化させて放射率の変化を測定した結果の一例を示す。図13に示すように、鋼板表面の酸化が進むにつれて、放射率は1近くまで上昇した。連続焼鈍炉においては、図13に示すような放射率上昇過程の中に、鋼板表面の酸化に起因した品質不良が発生する境界となる放射率が存在すると考えられる。
【0082】
ここで、通板する鋼板の鋼種に応じて、連続焼鈍炉内での鋼板表面の放射率は異なる。この鋼種は、主として鋼中に含まれる成分の違いによって分類される。また、鋼種は、鋼板の表面粗さの違い(例えば、熱間圧延、酸洗、冷間圧延のプロセスを経た冷延材では表面粗さRa=0.4〜1.5μm、熱間圧延、酸洗のプロセスを経た酸洗材では表面粗さRa=1.6〜2.5μm)によっても分類される。
【0083】
図14は、図12に示す連続溶融亜鉛メッキラインを構成する連続焼鈍炉の間接加熱帯出側に放射率測定装置100を配置し、連続焼鈍炉が定常状態(鋼板の品質不良が発生していない状態)のときに鋼板表面の放射率を測定した結果の一例を示す。図14に示すように、鋼中に含まれるSi濃度に応じて放射率が変動することが分かる。ここで、Siは易酸化元素であるため、鋼中に含まれるSi濃度によって鋼板表面の酸化量は異なる(Si濃度が高くなれば酸化量も多くなると考えられる)。従って、図14に示す結果は、鋼板表面の酸化量が増えれば、鋼板表面の放射率も大きくなることを意味している。また、図14に示すように、鋼中に含まれるSi濃度が同程度であっても(すなわち、鋼板表面の酸化量が同程度であっても)、高粗度の鋼板(酸洗材)の方が低粗度の鋼板(冷延材)に比べて放射率が大きくなることが分かる。
【0084】
図14に示す結果からも分かるように、鋼板表面の放射率は、酸化量や鋼種によって異なる。このため、鋼板表面の酸化に起因した品質不良が発生する境界となる放射率も、鋼種毎に異なると考えられる。従って、連続焼鈍炉が定常状態のときに鋼種毎に予め放射率を測定する一方、鋼種毎に品質不良が発生したときの放射率を測定しておき、両測定値の間に、鋼板表面の酸化量調整(故障設備の補修や、バーナー空燃比の調整等の操業条件の変更など)を実行するための放射率のしきい値を設定すればよい。
【0085】
図15は、図11に示す連続焼鈍ラインを構成する連続焼鈍炉の直火加熱帯出側に放射率測定装置100を配置して、鋼板表面の放射率を測定した結果の一例を示す。直火加熱帯に配設した設備の故障(トラブル)が発生した直後には、鋼板表面の酸化に起因した品質不良が頻発しており、図15に示すように、測定した鋼板の放射率は大きな値を示していた。しかしながら、一次補修、全補修と設備を健全化していくに伴い、放射率が比較的小さな値で定常化することが分かった。
【0086】
図16は、図11に示す連続焼鈍ラインを構成する連続焼鈍炉の直火加熱帯出側に放射率測定装置100を配置し、同一鋼帯の鋼板表面の放射率を連続的に測定した結果の一例を示す。本実施形態における直下加熱帯は、鋼板の入側から順に9つのゾーンに分割され、各ゾーン毎に、設置されたバーナーの燃焼制御を行っている。図16の上図は、8番目のゾーン(以下、第8ゾーンという)及び9番目のゾーン(以下、第9ゾーンという)に設置されたバーナーの空燃比を示し、下図は同タイミングでの直下加熱帯出側での放射率測定値を示す。図16に示すように、直火加熱帯に設置されたバーナーの空燃比を高くすると、鋼板表面が酸化され、放射率が高くなることを測定可能であった。なお、第8ゾーンよりも第9ゾーンに設置されたバーナーの空燃比の方が放射率の変動に対する影響が大きくなっているが、これは第9ゾーンを通過する際の鋼板の表面温度の方が第8ゾーンを通過する際の鋼板の表面温度よりも高いため、鋼板表面の酸化量が大きくなるためだと考えられる。バーナーの空燃比のような操業条件を変更することで、鋼板表面の酸化量を調整できることは明白であるため、放射率測定装置100によって、鋼板表面の酸化量を連続的にモニタリングすることも可能であることが分かる。
【0087】
図17は、図12に示す連続溶融亜鉛メッキラインを構成する連続焼鈍炉の間接加熱帯出側に放射率測定装置100を配置し、同一鋼帯の鋼板表面の放射率を連続的に測定した結果の一例を示す。図16に示すように、点線で囲んだ時間帯では、鋼板表面の酸化に起因した品質不良(不メッキ)が発生して放射率が高くなったが、バーナーの空燃比を調整した後には品質不良が改善され、放射率は低下した。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る放射率測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、アルミミラー及び干渉ミラーのそれぞれについて、温度による反射率の変化を調査した結果を示すグラフである。
【図3】図3は、単色放射温度計の視野径を説明するための説明図である。
【図4】図4は、単色放射温度計の視野の一部を第1の反射体が遮った状態を示す説明図である。
【図5】図5は、単色放射温度計の視野を第1の反射体が遮らない状態を示す説明図である。
【図6】図6は、多重反射を利用せずに単色放射温度計で直接測温する場合における、測温対象の実際の放射率と測温誤差との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、多重反射を利用して見かけの放射率を大きくした後、単色放射温度計で測温した場合における、測温対象の見かけの放射率と測温誤差との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、第2の単色放射温度計の受光部で受光される熱放射光の内、第1の反射体で反射する回数が最大となる熱放射光の反射回数nと、この反射回数nのときに得られる見かけの放射率εnとの関係を示すグラフである。
【図9】図9は、測温対象としての鋼板の反射特性の一例を示す図である。
【図10】図10は、第1の反射体の幅と第1の反射体で反射できる熱放射光の散乱角との関係を説明するための説明図である。
【図11】図11は、連続焼鈍ラインの概略構成例を示す模式図である。
【図12】図12は、連続溶融亜鉛メッキラインの概略構成例を示す模式図である。
【図13】図13は、鋼板を酸化させて放射率の変化を測定した結果の一例を示す。
【図14】図14は、図1に示す放射率測定装置によって、連続焼鈍炉を通板する鋼板表面の放射率を測定した結果の一例を示す。
【図15】図15は、図1に示す放射率測定装置によって、連続焼鈍炉を通板する鋼板表面の放射率を測定した結果の他の例を示す。
【図16】図16は、図1に示す放射率測定装置によって、連続焼鈍炉を通板する同一鋼帯の鋼板表面の放射率を連続的に測定した結果の一例を示す。
【図17】図17は、図1に示す放射率測定装置によって、連続焼鈍炉を通板する同一鋼帯の鋼板表面の放射率を連続的に測定した結果の他の例を示す。
【符号の説明】
【0089】
1・・・第2の単色放射温度計
2・・・第1の反射体
3・・・第2の反射体
4・・・冷却ジャケット
5・・・第1の単色放射温度計
11,51・・・受光部
12,52・・・光ファイバ
100・・・放射率測定装置
M・・・金属体(鋼板)
R・・・熱放射光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測温対象である金属体表面から放射された熱放射光を直接受光する第1の単色放射温度計と、
第2の単色放射温度計と、
前記第2の単色放射温度計の受光部と前記金属体表面との間において、前記金属体表面に対向し且つ前記金属体表面に略平行に配置した第1の反射体と、
前記金属体表面から放射され、前記金属体表面と前記第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光を、前記第2の単色放射温度計の受光部に向けて反射させるように配設した第2の反射体と、
前記第1の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値と、前記第2の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値とに基づいて、前記金属体表面の放射率を演算する演算部とを備えることを特徴とする金属体表面の放射率測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、下記の式(1)及び式(2)に基づいて、前記金属体表面の放射率を演算することを特徴とする請求項1に記載の金属体表面の放射率測定装置。
ε0=εS・(T1)n/(T2)n ・・・ (1)
n=C2/(λ0・T2) ・・・(2)
ここで、上記の式(1)及び(2)において、ε0は金属体表面の放射率を意味し、εSは第1の単色放射温度計の設定放射率を意味し、T1は第1の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、T2は第2の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、λ0は第1及び第2の単色放射温度計における熱放射光の検出波長帯域の中心波長(m)を意味し、C2はプランクの放射第2定数(=0.014388(m・K))を意味する。
【請求項3】
測温対象である金属体表面から放射された熱放射光を第1の単色放射温度計で直接受光すると共に、
第2の単色放射温度計の受光部と前記金属体表面との間において、前記金属体表面に対向し且つ前記金属体表面に略平行に第1の反射体を配置し、
前記金属体表面から放射され、前記金属体表面と前記第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光を、第2の反射体で前記第2の単色放射温度計の受光部に向けて反射させ、
前記第1の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値と、前記第2の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値とに基づいて、前記金属体表面の放射率を演算することを特徴とする金属体表面の放射率測定方法。
【請求項4】
下記の式(1)及び式(2)に基づいて、前記金属体表面の放射率を演算することを特徴とする請求項3に記載の金属体表面の放射率測定方法。
ε0=εS・(T1)n/(T2)n ・・・ (1)
n=C2/(λ0・T2) ・・・(2)
ここで、上記の式(1)及び(2)において、ε0は金属体表面の放射率を意味し、εSは第1の単色放射温度計の設定放射率を意味し、T1は第1の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、T2は第2の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、λ0は第1及び第2の単色放射温度計における熱放射光の検出波長帯域の中心波長(m)を意味し、C2はプランクの放射第2定数(=0.014388(m・K))を意味する。
【請求項5】
前記金属体は、連続して通板される鋼板であることを特徴とする請求項3又は4に記載の金属体表面の放射率測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の放射率測定方法を用いて、連続焼鈍炉の予熱帯出側、直火加熱帯出側、間接加熱帯出側及び冷却帯出側の内の少なくとも一箇所で、表面の放射率を測定する工程を含むことを特徴とする鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記測定された鋼板表面の放射率に基づいて、該放射率測定箇所直前の炉帯における鋼板表面の酸化量を調整することを特徴とする請求項6に記載の鋼板の製造方法。
【請求項1】
測温対象である金属体表面から放射された熱放射光を直接受光する第1の単色放射温度計と、
第2の単色放射温度計と、
前記第2の単色放射温度計の受光部と前記金属体表面との間において、前記金属体表面に対向し且つ前記金属体表面に略平行に配置した第1の反射体と、
前記金属体表面から放射され、前記金属体表面と前記第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光を、前記第2の単色放射温度計の受光部に向けて反射させるように配設した第2の反射体と、
前記第1の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値と、前記第2の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値とに基づいて、前記金属体表面の放射率を演算する演算部とを備えることを特徴とする金属体表面の放射率測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、下記の式(1)及び式(2)に基づいて、前記金属体表面の放射率を演算することを特徴とする請求項1に記載の金属体表面の放射率測定装置。
ε0=εS・(T1)n/(T2)n ・・・ (1)
n=C2/(λ0・T2) ・・・(2)
ここで、上記の式(1)及び(2)において、ε0は金属体表面の放射率を意味し、εSは第1の単色放射温度計の設定放射率を意味し、T1は第1の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、T2は第2の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、λ0は第1及び第2の単色放射温度計における熱放射光の検出波長帯域の中心波長(m)を意味し、C2はプランクの放射第2定数(=0.014388(m・K))を意味する。
【請求項3】
測温対象である金属体表面から放射された熱放射光を第1の単色放射温度計で直接受光すると共に、
第2の単色放射温度計の受光部と前記金属体表面との間において、前記金属体表面に対向し且つ前記金属体表面に略平行に第1の反射体を配置し、
前記金属体表面から放射され、前記金属体表面と前記第1の反射体との間を交互に反射した熱放射光を、第2の反射体で前記第2の単色放射温度計の受光部に向けて反射させ、
前記第1の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値と、前記第2の単色放射温度計による前記金属体表面の測温値とに基づいて、前記金属体表面の放射率を演算することを特徴とする金属体表面の放射率測定方法。
【請求項4】
下記の式(1)及び式(2)に基づいて、前記金属体表面の放射率を演算することを特徴とする請求項3に記載の金属体表面の放射率測定方法。
ε0=εS・(T1)n/(T2)n ・・・ (1)
n=C2/(λ0・T2) ・・・(2)
ここで、上記の式(1)及び(2)において、ε0は金属体表面の放射率を意味し、εSは第1の単色放射温度計の設定放射率を意味し、T1は第1の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、T2は第2の単色放射温度計による金属体表面の測温値(K)を意味し、λ0は第1及び第2の単色放射温度計における熱放射光の検出波長帯域の中心波長(m)を意味し、C2はプランクの放射第2定数(=0.014388(m・K))を意味する。
【請求項5】
前記金属体は、連続して通板される鋼板であることを特徴とする請求項3又は4に記載の金属体表面の放射率測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の放射率測定方法を用いて、連続焼鈍炉の予熱帯出側、直火加熱帯出側、間接加熱帯出側及び冷却帯出側の内の少なくとも一箇所で、表面の放射率を測定する工程を含むことを特徴とする鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記測定された鋼板表面の放射率に基づいて、該放射率測定箇所直前の炉帯における鋼板表面の酸化量を調整することを特徴とする請求項6に記載の鋼板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図15】
【図10】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図15】
【図10】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−224287(P2008−224287A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59994(P2007−59994)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]