説明

金属光沢性を有する印刷用インク組成物、その製造方法及びそれを用いた塗膜

【課題】金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液であって、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性と、印刷面の密着性及び耐変色性に優れた金属光沢性を有する印刷用インク組成物とその製造方法、及びそれを用いた塗膜を提供する。
【解決手段】金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液からなる、金属光沢性を有する印刷用インク組成物であって、前記金属微粒子は、その粒径が100nm以下であり、その表面を水溶性高分子とヒドロキシカルボン酸とで被覆され、かつ該水溶性高分子と該ヒドロキシカルボン酸の含有量が、それぞれ金属微粒子に対し1.5〜15質量%と0.5質量%以上であり、一方、前記溶剤は、多価アルコール及び/又は極性溶媒であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属光沢性を有する印刷用インク組成物、その製造方法及びそれを用いた塗膜に関し、さらに詳しくは、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液であって、それを用いた塗膜からなる印刷面が酸化し変色することを防止して長期間に渡って良好な金属光沢を維持することができ、さらに、紙面などの被印刷体への金属微粒子の密着性を向上させることができる、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性と、印刷面の密着性及び耐変色性とに優れた、金属光沢性を有する印刷用インク組成物とその効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷などにより金属光沢の意匠を表現する場合、一般的には、粒径サイズが数ミクロンメートルから数十ミクロンメートル金属粒子を扁平状に加工した金属フレーク粉を溶媒中に分散させて得た塗料を用いる手法が行なわれていた。しかしながら、このような扁平状の金属フレークを含む塗料を用いて印刷した際には、その印刷面は、個々の粒子の粒子感が目立ち、例えば、金属塊、金属箔、メッキ調の連続した滑らかな意匠を表現することが困難であった。
【0003】
ところで、近年の印刷技術の急速な向上に伴い、インクジェット方式による印刷が幅広い分野で採用されているが、従来のようなミクロンサイズの金属フレーク粉を用いた塗料では、塗料溶媒中で金属フレークが沈降し分散安定性が十分でないという問題があり、さらに印刷の高画質化のためにプリンタヘッド径の微少化の進行により、これまでの金属フレーク粉ではヘッドの目詰まりを生じさせやすいという問題もあった。
【0004】
一方、粒径がナノメートルから数十ナノメートルまで微細化され、かつ粒径の揃った金属微粒子を含む分散液を用いて印刷すると、分散媒の揮発に伴い、金属微粒子が均一に配列し、平滑で良好な金属光沢が得られることが知られている。また、金属微粒子を適切に選択された保護剤で被覆することによって、インクジェットプリンタ用のインクに多用される水やアルコールなどの低粘度溶媒中でも沈降することなく、優れた分散安定性が得られ、インクジェットプリンタ用のインクに含有させる光輝剤顔料として最適であることが知られている。これらにより、ナノサイズの金属微粒子を含むインク組成物により、印刷後に金属光沢が得られる。
【0005】
しかしながら、上記インク組成物では、印刷後に長期間にわたって良好な金属光沢と金属微粒子の密着性を維持させること、及びインク組成物としての分散安定性を十分に確保することが不十分である場合が多い。
例えば、銀コロイドに銀の変色防止剤を含有させるとともに、レーザー回折散乱法によるメジアン径が0.04μm以下であるインク組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では、変色は防止できるものの密着性、又は分散安定性を確保するために、各種の添加剤が必要であり、組成が複雑で製造時の管理も複雑となる。
【0006】
また、銅微粒子を用いたインクは、特有の色調を持つことから意匠性が高く、顔料として非常に有用であると思われる。しかしながら、金属微粒子として銅微粒子を用いる場合、銀などの貴金属に比べて耐酸化性がさらに劣る欠点があり、分散液中、或いは塗布、乾燥後の銅微粒子の酸化により、意匠の変化、長期保存性などにおいて劣るため、実用化には至っていない。ところで、導電性が必要な回路形成用の銅微粒子分散液とその製造法として、水溶性高分子及びヒドロキシカルボン酸により被覆された粒径100nm以下の銅微粒子とヒドロキシカルボン酸、多価アルコール及び/又は極性溶媒からなるもの(例えば、特許文献2参照)、或いは核生成のために貴金属イオンを添加するとともに分散剤と還元反応制御剤を添加して、銅化合物をエチレングリコール等のポリオール溶液中で加熱還元して銅微粒子を得る方法(例えば、特許文献3参照。)が提案されている。しかしながら、これらの提案では、あくまでも導電性回路形成用に用いるものであるので、意匠性を必要とする印刷用インク組成物に用いる点については、その作用効果に関して全く開示されていない。
【0007】
以上の状況から、意匠性を必要とする金属光沢性を有する印刷用インク組成物として用いられる、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液からなるインク組成物が求められている。
【特許文献1】特開2005−120226号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】WO2007/013393号公報(第1頁、第17頁)
【特許文献3】特開2005−307335号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液であって、それを用いた塗膜からなる印刷面(以下、単に印刷面と略称する場合がある。)が酸化し変色することを防止して長期間に渡って良好な金属光沢を維持することができ、さらに、紙面などの被印刷体への金属微粒子の密着性を向上させることができる、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性と、印刷面の密着性及び耐変色性とに優れた、金属光沢性を有する印刷用インク組成物とその製造方法、及びそれを用いた塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液からなる、金属光沢性を有する印刷用インク組成物について、鋭意研究を重ねた結果、特定の粒径と特定の化合物で表面を被覆した金属微粒子と特定の溶剤とから構成される分散液としたところ、それを用いた印刷面が酸化し変色することを防止して長期間に渡って良好な金属光沢を維持することができ、さらに、紙面などの被印刷体への金属微粒子の密着性を向上させることができ、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性と、印刷面の密着性及び耐変色性とに優れた、金属光沢性を有する印刷用インク組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液からなる、金属光沢性を有する印刷用インク組成物であって、
前記金属微粒子は、その粒径が100nm以下であり、その表面を水溶性高分子とヒドロキシカルボン酸とで被覆され、かつ該水溶性高分子と該ヒドロキシカルボン酸の含有量が、それぞれ金属微粒子に対し1.5〜15質量%と0.5質量%以上であり、一方、前記溶剤は、多価アルコール及び/又は極性溶媒であることを特徴とする印刷用インク組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記水溶性高分子は、ポリビニルピロリドンとポリエチレンイミンとを含むことを特徴とする印刷用インク組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記溶剤は、ヒドロキシカルボン酸と多価アルコール及び/又は極性溶媒であることを特徴とする印刷用インク組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、前記ヒドロキシカルボン酸の含有量は、金属微粒子に対し5〜40質量%であることを特徴とする印刷用インク組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4いずれかの発明において、前記ヒドロキシカルボン酸がクエン酸であり、多価アルコールがエチレングリコールであり、及び極性溶媒が水であることを特徴とする印刷用インク組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5いずれかの発明において、前記金属微粒子の含有量は、組成物の全量に対し、2〜50質量%であることを特徴とする印刷用インク組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6いずれかの発明において、前記金属微粒子は、銅微粒子であることを特徴とする印刷用インク組成物が提供される。
【0017】
また、本発明の第8の発明によれば、粒径が100nm以下で、水溶性高分子で被覆された金属微粒子が多価アルコール中に分散された金属微粒子分散液を用いて、該金属微粒子分散液にヒドロキシカルボン酸を添加し、遊離した水溶性高分子を限外ろ過により排出した後、ヒドロキシカルボン酸と多価アルコール及び/又は極性溶媒を添加して金属微粒子分散液を得る、或いは、該金属微粒子分散液にヒドロキシカルボン酸を含む多価アルコール及び/又は極性溶媒で希釈し、次いで限外ろ過により濃縮して金属微粒子分散液を得ることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印刷用インク組成物の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜7いずれかの発明の印刷用インク組成物を用いてなる、水溶性高分子とヒドロキシカルボン酸を含有する金属微粒子から構成される金属光沢を有する塗膜が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の金属光沢性を有する印刷用インク組成物、その製造方法及びそれを用いた塗膜法は、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液であって、それを用いた印刷面が酸化し変色することを防止して長期間に渡って良好な金属光沢を維持することができ、さらに、紙面などの被印刷体への金属微粒子の密着性を向上させることができる、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性と、塗膜の密着性及び耐変色性とに優れた、金属光沢性を有する印刷用インク組成物であり、また、その効率的な製造方法であるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の金属光沢性を有する印刷用インク組成物とその製造方法を詳細に説明する。
本発明の金属光沢性を有する印刷用インク組成物は、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液からなる、金属光沢性を有する印刷用インク組成物であって、前記金属微粒子は、その粒径が100nm以下であり、その表面を水溶性高分子とヒドロキシカルボン酸とで被覆され、かつ該水溶性高分子と該ヒドロキシカルボン酸の含有量が、それぞれ金属微粒子に対し1.5〜15質量%と0.5質量%以上であり、一方、前記溶剤は、多価アルコール及び/又は極性溶媒であることを特徴とする。これによって、本発明の印刷用インク組成物を用いて光沢紙などに印刷することで、長期に渡って安定した金属光沢と優れた密着性を有する乾燥膜からなる印刷面が得られる。
【0021】
本発明において、金属微粒子を水溶性高分子で被覆することにより、金属微粒子をインク組成物中に安定に分散させると同時に、紙などの被印刷体への金属微粒子の密着性を高めることができる。また、金属微粒子をヒドロキシカルボン酸で被覆することにより、耐酸化性を向上させることができる。
【0022】
上記水溶性高分子としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルピロリドンとポリエチレンイミンとを含むものが好ましい。
上記ヒドロキシカルボン酸としては、特に限定されるものではなく、例えば、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸などが挙げられるが、金属微粒子、特に銅微粒子への吸着性が高いクエン酸が好ましい。
【0023】
上記水溶性高分子の含有量としては、金属微粒子に対し1.5〜15質量%であり、好ましくは2〜11質量%である。ここで、水溶性高分子は、インク組成物中に一定量以上存在するのではなく、金属微粒子を被覆した形態であることが不可欠である。水溶性高分子が金属微粒子を被覆せず、単純にインク組成物中に含まれる場合は、インク組成物中での金属微粒子の分散安定性などに寄与することはなく、印刷面の密着性にも十分な効果を発揮できない。
すなわち、水溶性高分子の含有量、即ち金属微粒子に対する被覆量が、金属微粒子に対し15質量%を超えると、インク組成の粘度が高くなり過ぎるため、インクの吐出安定性が低下して良好な印刷が達成できない恐れがある。一方、水溶性高分子の含有量が金属微粒子に対し1.5質量%未満では、インク組成物中での金属微粒子の分散安定性が不十分で、長期保存が困難になりインクの吐出安定性が低下して良好な印刷が達成できない。さらに、印刷面の密着性にも劣る恐れがある。
【0024】
上記ヒドロキシカルボン酸の含有量としては、金属微粒子に対し0.5質量%以上であり、好ましくは1質量%以上である。すなわち、ヒドロキシカルボン酸の含有量、即ち金属微粒子に対する被覆量が、金属微粒子に対し0.5質量%未満では、耐酸化性向上の効果がない。なお、上限としては、特に限定されるものではなく、金属微粒子の種類により異なるが、被覆可能な量が用いられる。例えば、銅微粒子では、その上限は、7質量%である。
【0025】
上記金属微粒子の粒径としては、100nm以下であり、好ましくは80nm以下である。すなわち、粒径が100nmを超えると、個々の粒子感のない、例えば金属塊、金属箔、メッキ調の連続した滑らかな意匠が達成されない。これによって、近年の印刷技術の急速な向上に伴い、微少化が進行しているインクジェットプリンタヘッドの目詰まりの改善も達成される。また、金属微粒子の粒径の下限としては、特に限定されず、技術上、製造可能な最小の範囲のものまで用いられるが、例えば、10nm以上が好ましい。すなわち、10nm未満では、酸化されやすい。
【0026】
上記金属微粒子としては、特に限定されるものはなく、例えば金、銀、白金、銅、アルミニウム、パラジウム、ニッケル、コバルト、錫、鉄などの様々な金属の微粒子を使用することができるが、意匠性を考慮すると、銅微粒子を用いることが好ましい。また、それらの純度としては、工業的に製造される純度のものが用いられる。
【0027】
上記溶媒としては、多価アルコール及び/又は極性溶媒を用いる。ここで、極性溶媒としては、特に限定されるものはなく、水やメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトールなどの1価のアルコール類が用いられる。また、多価アルコール類としては、特に限定されるものはなく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が用いられる。これらを適宜組み合わせて、組成物の構成成分とすることで、インク組成物の乾き具合や粘度を調整することができる。この中で、特に、水と多価アルコールを適宜組み合わせると、調整が容易であるので、より好ましい。
【0028】
上記溶媒としては、必要に応じて、多価アルコール及び/又は極性溶媒の他に、さらにヒドロキシカルボン酸を同時に用いることができる。これによって、ヒドロキシカルボン酸をインク組成物中に含むことにより、金属微粒子の耐酸化性をさらに向上させることができるので、空気との界面に酸化による変色が起こらず、優れた耐酸化性を示す。したがって、より好ましい組み合わせとしては、ヒドロキシカルボン酸がクエン酸であり、多価アルコールがエチレングリコールであり、及び極性溶媒が水である場合である。
【0029】
上記溶媒中のヒドロキシカルボン酸の含有量としては、特に限定されるものはなく、例えば、金属微粒子に対し5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
すなわち、ヒドロキシカルボン酸の含有量が5質量%未満では、耐酸化性が劣り、空気との界面に酸化により変色、例えば銅微粒子の場合には黒青色への変色が生じる。一方、ヒドロキシカルボン酸の含有量が40質量%を超えると、インク組成物の粘度の増大により、インクジェット方式での印刷などに用いた場合に、インクの吐出安定性が低下して良好な印刷が達成できない恐れがある。
【0030】
上記金属微粒子のインク組成物に対する含有量としては、特に限定されるものはなく、組成物の全量に対し2〜50質量%が好ましく、3〜30質量%がより好ましい。
すなわち、金属微粒子の含有量が2質量未満では、良好な金属光沢を呈する印刷面を達成出来ない恐れがある。一方、金属微粒子の含有量が50質量%を超えると、乾燥による目詰まりや粘度の増大により、インクジェット方式での印刷などに用いた場合に、インクの吐出安定性が低下して良好な印刷が達成できない恐れがある。
【0031】
本発明の金属光沢性を有する印刷用インク組成物の製造方法としては、特に限定されるものはなく、例えば、粒径が100nm以下で、水溶性高分子で被覆された金属微粒子が多価アルコール中に分散された金属微粒子分散液を用いて、次の(イ)又は(ロ)の方法により金属微粒子分散液を得る方法が用いられる。
(イ)前記金属微粒子分散液にヒドロキシカルボン酸を添加し、遊離した水溶性高分子を限外ろ過により排出した後、ヒドロキシカルボン酸と多価アルコール及び/又は極性溶媒を添加して金属微粒子分散液を得る。
(ロ)前記金属微粒子分散液にヒドロキシカルボン酸を含む多価アルコール及び/又は極性溶媒で希釈し、次いで限外ろ過により濃縮して金属微粒子分散液を得る。
ここで、水溶性高分子で被覆された金属微粒子の水溶性高分子の一部は、ヒドロキシカルボン酸により置換され、遊離される。後者の方法では、金属微粒子の水溶性高分子とヒドロキシカルボン酸の含有量(被覆量)が所定の値になるように、必要により、希釈と濃縮を繰り返し行うことができる。
【0032】
上記水溶性高分子で被覆された金属微粒子が多価アルコール中に分散された金属微粒子分散液の製造方法としては、特に限定されるものはなく、例えば、下記の製造方法によって製造することができる。
[銅微粒子分散液の製造方法]
銅の酸化物、水酸化物又は塩を、多価アルコール中で加熱還元して銅微粒子を得る方法であって、核生成のために貴金属イオンを添加すると共に、水溶性高分子を分散剤及び還元反応制御剤として添加して、貴金属を含有する累積95%粒径が100nm以下の銅微粒子を得ることを特徴とする。ここで、前記貴金属イオンとして、パラジウムイオン又は銀イオンが用いられる。また、前記アミン系有機化合物として、側鎖あるいは主鎖にアミノ基又はイミノ基をもつ水溶性高分子が用いられる。
これによって、多価アルコール中に分散された水溶性高分子で被覆された銅微粒子が得られる。
【0033】
上記多価アルコールとしては、特に限定されるものはなく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が用いられる。
【0034】
上記水溶性高分子としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリビニルピロリドンとポリエチレンイミンとを含むものが好ましい。
上記ヒドロキシカルボン酸としては、特に限定されるものではなく、例えば、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸などが挙げられるが、金属微粒子、特に銅微粒子への吸着性が高いクエン酸が好ましい。
【0035】
本発明の塗膜は、上記印刷用インク組成物を用いてなる、水溶性高分子とヒドロキシカルボン酸を含有する金属微粒子から構成される塗膜である。ここで、水溶性高分子とヒドロキシカルボン酸の含有量としては、インク組成物中に含有される水溶性高分子とヒドロキシカルボン酸に対応する。すなわち、上記印刷用インク組成物を用いて、光沢紙などに印刷することで、長期に渡って安定した金属光沢と優れた密着性及び耐酸化性を有する塗膜からなる印刷面が得られる。特に、銅微粒子から構成される塗膜は、意匠性に優れているので、インクのみならず、顔料としても望ましい。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析は、ICP発光分析法で行った。
【0037】
また、実施例及び比較例で用いた銅微粒子分散液の製造方法は、下記の通りである。
[銅微粒子分散液(A)の製造方法]
銅微粒子を合成する銅原料として亜酸化銅(CuO)(日進ケムコ(株)製)、Pdイオンとして塩化パラジウムアンモン(住友金属鉱山(株)製)にアンモニア水を加えて溶解したPd溶液、溶媒としてエチレングリコール(EG)(日本触媒(株)製)、分散剤として分子量10、000のポリビニルピロリドン(PVP)(東京化成工業(株)製)と分子量1、800のポリエチレンイミン(PEI)(アイスピー・ジャパン(株)製)、及び変色防止剤として無水クエン酸(和光純薬工業製、試薬)を用いた。
まず、溶媒であるエチレングリコール(EG)1.0リットルに、CuO粉110gと、ポリビニルピロリドン(PVP)40g、及びポリエチレンイミン(PEI)0.7gを加えて、窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、次いで加熱し、さらにPd量で0.3gに当たるPd溶液を加えて、150℃で1時間保持して銅微粒子を還元析出させた。これのより、濃赤色のエチレングリコール中に分散した銅含有量が15質量%である銅微粒子分散液(A)を得た。得られた微粒子をSEMで観察したところ、凝集のない単分散性の微粒子であった。また、粒径測定を行ったところ、平均粒径は39.8nmであり、標準偏差σ/平均粒径は22%であった。また、X線回折法により銅相のみが検出され、金属状態の銅微粒子であることが確認できた。
【0038】
[銅微粒子分散液(B)の製造方法]
銅微粒子を合成する銅原料として亜酸化銅(CuO)(日進ケムコ(株)製)、Pdイオンとして塩化パラジウムアンモン(住友金属鉱山(株)製)にアンモニア水を加えて溶解したPd溶液、溶媒としてエチレングリコール(EG)(日本触媒(株)製)、分散剤として分子量40、000のポリビニルピロリドン(PVP)(東京化成工業(株)製)と分子量1、800のポリエチレンイミン(PEI)(アイスピー・ジャパン(株)製)、及び変色防止剤として無水クエン酸(和光純薬工業製、試薬)を用いた。
まず、溶媒であるエチレングリコール(EG)1.0リットルに、CuO粉110gと、ポリビニルピロリドン(PVP)40g、及びポリエチレンイミン(PEI)0.7gを加えて、窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、次いで加熱し、さらにPd量で0.3gに当たるPd溶液を加えて、150℃で1時間保持して銅微粒子を還元析出させた。これのより、濃赤色のエチレングリコール中に分散した銅含有量が15質量%である銅微粒子分散液(B)を得た。得られた微粒子をSEMで観察したところ、凝集のない単分散性の微粒子であった。また、粒径測定を行ったところ、平均粒径は70.2nmであり、標準偏差σ/平均粒径は21%であった。また、X線回折法により銅相のみが検出され、金属状態の銅微粒子であることが確認できた。
【0039】
また、実施例及び比較例で用いたインク組成物及び塗膜の評価方法は、下記の通りである。
[インク組成物及び塗膜の評価方法]
(1)クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定:インク組成物を、真空中80℃で4時間乾燥させた後に、窒素雰囲気中で600℃までの熱重量分析を行った。ここで、200℃から300℃にかけての重量減少は、ヒドロキシカルボン酸の分解によるものであり、また300℃から600℃にかけての重量減少はポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子によるものである。この熱重量分析の結果から、インク組成物中の銅微粒子を被覆するヒドロキシカルボン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)を決定した。
(2)インク組成物の印刷性の評価:市販のインクジェットプリンタを用いて、インクジェット用フォト光沢紙に印刷を行い、印刷性の評価を行った。印刷性は下記の評価基準で確認した。
[印刷性の評価基準]
◎:目詰まりなく印刷できる。
○:僅かに目詰まりの兆候が認められるが、印刷できる。
△:なんとか印刷できるが、目詰まりする。
×:目詰まりが激しく何とか一度は印刷できる。
【0040】
(3)インク組成物の分散安定性と耐酸化性の評価:インク組成物をガラス製の保存瓶に入れて常温で一ヶ月放置した後、分散安定性と耐酸化性の2項目についてそれぞれ評価を行った。分散安定性はインク組成物中での銅微粒子の凝集や沈降を確認した。耐酸化性は、保存瓶中でのインク組成物の変色を目視にて確認した。評価基準を下記に示す。
[分散安定性]
◎:調整直後と変わらず良好な分散状態である。
○:僅かに変化が認められるが問題ない分散状態である。
△:液面に凝集物が認められる。
×:銅粒子が凝集し、沈降する。
[耐酸化性]
◎:調整直後から殆ど変化なし。
○:僅かに変色があるが問題なし。
△:明らかに変色が認められる。
×:銅がインク中に溶出し激しく変色する
【0041】
(4)塗膜の密着性の評価:インクジェットプリンタにてインク組成物を印刷した面を用いて、連続10回擦過した際の状態変化を目視にて確認した。評価基準を下記に示す。
[塗膜の密着性]
◎:10回擦過しても印刷面に変化はなかった。
○:10回擦過すると僅かに変化が見られたが問題ない。
△:5回擦過では問題はない。
×:1回擦過で印刷面が剥がれた。
【0042】
(5)塗膜の耐変色性の評価:印刷面を常温にて1ヶ月間放置した後、目視にて確認し、変色の有無を評価した。また、印刷面を110℃の大気乾燥機にて1時間放置した後、同様に変色の有無を評価した。
[耐変色性]
○:印刷直後と変わらず良好な金属光沢を呈した。
×:変色が認められる。
−:銅微粒子による発色が不十分で印刷直後から金属光沢が得られない。
【0043】
(実施例1)
上記銅微粒子分散液(A)1.0リットルを、クエン酸を1.0質量%含有する水とエチレングリコールの混合液(質量比で、水:エチレングリコール=8:1)で2倍に希釈し、クロスフロー方式の限外ろ過により約200mLになるまで濃縮した。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例2)
銅微粒子分散液(A)200mLを用いて、実施例1と同様の条件で濃縮した後、さらに、濃縮液をクエン酸を1.0質量%含有する水とエチレングリコールの混合液(質量比で、水:エチレングリコール=8:1)で10倍に希釈し、クロスフロー方式の限外ろ過により約200mLになるまで濃縮した。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例3)
銅微粒子分散液(A)200mLを用いて、実施例1と同様の条件で濃縮した後、さらに、濃縮液をクエン酸を1.0質量%含有する水とエチレングリコールの混合液(質量比で、水:エチレングリコール=8:1)で10倍に希釈し、クロスフロー方式の限外ろ過により約200mLになるまで濃縮した。この希釈と濃縮の操作を全部で3回繰り返して得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例4)
クエン酸の代わりにリンゴ酸を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてインク組成物を得た。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例5)
上記銅微粒子分散液(B)1.0リットル用いて、実施例1と同様の条件で濃縮した。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
クエン酸を1.0質量%含有する水とエチレングリコールの混合液の代わりに、水とエチレングリコールの混合液(質量比で、水:エチレングリコール=8:1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてインク組成物を得た。得られたインク組成物は、銅微粒子が、水に酸化溶出し、黄色に変色し耐酸化性に欠けるインク組成物であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0049】
(比較例2)
希釈と濃縮の繰り返しを全部で8回としたこと以外は、実施例3と同様にしてインク組成物を得た。得られたインク組成物は、銅微粒子が沈降凝集し分散安定性に欠けるものであった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0050】
(比較例3)
希釈と濃縮の繰り返しを全部で10回としたこと以外は、実施例3と同様にしてインク組成物を得た。得られたインク組成物は、銅微粒子が沈降凝集し分散安定性に欠けるものであった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0051】
(比較例4)
比較例2で得られたインク組成物に、ポリビニルピロリドンを銅に対し4.0質量%添加してインク組成物を得た。得られたインク組成物の分散安定性は、比較例2と比較して改善することはなかった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例5)
比較例2で得られたインク組成物に、ポリエチレンイミンを銅に対し1.0質量%添加してインク組成物を得た。得られたインク組成物の分散安定性は、比較例2と比較して改善することはなかった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0053】
(比較例6)
比較例2で得られたインク組成物に、ポリビニルピロリドンを銅に対し4.0質量%、及びポリエチレンイミンを銅に対し1.0質量%添加してインク組成物を得た。得られたインク組成物の分散安定性は、比較例2と比較して改善することはなかった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1より、実施例1〜5では、銅微粒子と溶剤とから構成される銅微粒子分散液からなる、金属光沢性を有する印刷用インク組成物であって、前記銅微粒子は、その粒径が100nm以下であり、その表面を水溶性高分子とクエン酸とで被覆され、かつ該水溶性高分子と該クエン酸の含有量が、それぞれ金属微粒子に対し1.5〜15質量%と0.5質量%以上であり、一方、前記溶剤は、多価アルコール及び/又は極性溶媒であり、本発明に従って行なわれたので、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性と、印刷面の密着性及び耐変色性に優れた、金属光沢性を有する印刷用インク組成物が得られることが分かる。
【0056】
一方、比較例1〜6では、銅微粒子の水溶性高分子とクエン酸の含有量(被覆量)のいずれかがこれらの条件に合わないので、インク組成物の印刷性、インク組成物の分散安定性と耐酸化性、印刷面の密着性及び印刷面の耐変色性のいずれかによって満足すべき結果が得られないことが分かる。より詳しくは、銅微粒子に変色防止剤としてヒドロキシカルボン酸を被覆しなかった比較例1のインク組成物は、特に印刷面の耐酸化性に劣り、常温で1ヶ月放置した際に金属光沢が失われ、またインク組成物の耐酸化性にも劣るものであった。また、繰り返しの希釈と洗浄が多く、水溶性高分子被覆量が銅に対して1.5質量%未満である比較例2、3のインク組成物は、インク中で銅微粒子が沈降し、インクジェットプリンタノズルが激しく目詰まりし、何とか得られた印刷面も、密着性や耐変色性に劣るものであった。また、水溶性高分子の被覆量が銅に対して1.1質量%である比較例2のインク組成物に、水溶性高分子を後添加した比較例4〜6の場合も、比較例2と同様の特徴を示した。これは、インク組成物中の水溶性高分子量が印刷性や印刷面の性質に影響を与えるのではなく、銅微粒子に被覆している水溶性高分子が重要であることを示している。
【0057】
(実施例6)
実施例2で得られた銅濃度が30.2質量%のインク組成物に、水とエチレングリコールの混合液(質量比で、水:エチレングリコール=8:1)を加えて、銅濃度が5.0質量%になるように調整して、インク組成物を得た。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0058】
(実施例7)
実施例2にて得られた銅濃度が30.2質量%のインク組成物に、水とエチレングリコールの混合液(質量比で、水:エチレングリコール=8:1)とクエン酸を銅に対し2.0質量%添加し、銅濃度が5.0質量%になるように調整して、インク組成物を得た。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0059】
(実施例8)
実施例2にて得られた銅濃度が30.2質量%のインク組成物に、水とエチレングリコールの混合液(質量比で、水:エチレングリコール=8:1)とクエン酸を銅に対し5.0質量%添加し、銅濃度が5.0質量%になるように調整して、インク組成物を得た。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0060】
(実施例9)
実施例2にて得られた銅濃度が30.2質量%のインク組成物に、水とエチレングリコールの混合液(質量比で、水:エチレングリコール=8:1)とクエン酸を銅に対し30.0質量%添加し、銅濃度が5.0質量%になるように調整して、インク組成物を得た。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2より、実施例6〜9では、銅微粒子と溶剤とから構成される銅微粒子分散液からなる、金属光沢性を有する印刷用インク組成物であって、前記銅微粒子は、その粒径が100nm以下であり、その表面を水溶性高分子とクエン酸とで被覆され、かつ該水溶性高分子と該クエン酸の含有量が、それぞれ金属微粒子に対し1.5〜15質量%と0.5質量%以上であり、一方、前記溶剤は、多価アルコール及び/又は極性溶媒であり、本発明に従って行なわれたので、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性と、印刷面の密着性及び耐変色性とに優れた、金属光沢性を有する印刷用インク組成物が得られることが分かる。より詳しくは、クエン酸を銅に対し5.0質量%以上添加した実施例8、9のインク組成物は、インクの耐酸化性が向上し、より好ましいインク組成物であることがわかった。従って、銅微粒子に吸着しているヒドロキシカルボン酸の他に、添加剤としてヒドロキシカルボン酸を銅に対して5.0質量%以上加えることが好ましい。
【0063】
(実施例10)
実施例2にて得られた銅濃度が30.2質量%のインク組成物に、水とエチレングリコールの混合液(質量比で、水:エチレングリコール=8:1)とクエン酸を銅に対し5.0質量%添加し、銅濃度が1.0質量%になるように調整して、インク組成物を得た。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表3に示す。
【0064】
(実施例11)
実施例2にて得られた銅濃度が30.2質量%のインク組成物に、水とエチレングリコールの混合液(質量比で、水:エチレングリコール=8:1)とクエン酸を銅に対し5.0質量%添加し、銅濃度が2.0質量%になるように調整して、インク組成物を得た。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表3に示す。
【0065】
(実施例12)
実施例2にて得られた銅濃度が30.2質量%のインク組成物に、水とエチレングリコールの混合液(質量比で、水:エチレングリコール=8:1)とクエン酸を銅に対し5.0質量%添加し、銅濃度が10.0質量%になるように調整して、インク組成物を得た。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表3に示す。
【0066】
(実施例13)
実施例2にて得られた銅濃度が30.2質量%のインク組成物を、クロスフロー方式の限外ろ過により濃縮し、銅濃度が50.3質量%のインク組成物を調整し、さらに得られたインク組成物にクエン酸を銅に対し5.0質量%添加し、銅濃度49.8質量%に調整して、インク組成物を得た。得られたインク組成物は、沈降のない良好な分散液であった。また、得られたインク組成物を用いて、上記[インク組成物及び塗膜の評価方法]により、クエン酸と水溶性高分子の含有量(被覆量)の測定と、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性、並びに印刷面の密着性及び耐変色性の評価を行なった。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3より、実施例10〜13では、銅微粒子と溶剤とから構成される銅微粒子分散液からなる、金属光沢性を有する印刷用インク組成物であって、前記銅微粒子は、その粒径が100nm以下であり、その表面を水溶性高分子とクエン酸とで被覆され、かつ該水溶性高分子と該クエン酸の含有量が、それぞれ金属微粒子に対し1.5〜15質量%と0.5質量%以上であり、一方、前記溶剤は、多価アルコール及び/又は極性溶媒であり、本発明に従って行なわれたので、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性と、印刷面の密着性及び耐変色性とに優れた、金属光沢性を有する印刷用インク組成物が得られることが分かる。より詳しくは、銅濃度を2.0質量%以上に調整した実施例11〜13の何れのインク組成物も印刷性、印刷面の密着性、印刷面の耐変色性、インクの分散安定性、インクの耐酸化性等に優れているが、一方、銅濃度を1.0質量%に調整した実施例10のインク組成物では、溶媒の僅かな着色を銅微粒子の銅色で隠すことが困難になり、良好な金属光沢を呈する印刷面を得られない。ただし、金属濃度が薄いインクでは、重ね書きなどの手法により金属光沢を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上より明らかなように、金属光沢性を有する印刷用インク組成物、その製造方法及びそれを用いた塗膜は、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液であって、インク組成物の印刷性、分散安定性及び耐酸化性と、塗膜の密着性及び耐変色性とに優れた、金属光沢性を有する印刷用インク組成物であり、また、その効率的な製造方法であるので、特にインクジェットプリンタ用のインクとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液からなる、金属光沢性を有する印刷用インク組成物であって、
前記金属微粒子は、その粒径が100nm以下であり、その表面を水溶性高分子とヒドロキシカルボン酸とで被覆され、かつ該水溶性高分子と該ヒドロキシカルボン酸の含有量が、それぞれ金属微粒子に対し1.5〜15質量%と0.5質量%以上であり、一方、前記溶剤は、多価アルコール及び/又は極性溶媒であることを特徴とする印刷用インク組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子は、ポリビニルピロリドンとポリエチレンイミンとを含むことを特徴とする請求項1に記載の印刷用インク組成物。
【請求項3】
前記溶剤は、ヒドロキシカルボン酸と多価アルコール及び/又は極性溶媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷用インク組成物。
【請求項4】
前記ヒドロキシカルボン酸の含有量は、金属微粒子に対し5〜40質量%であることを特徴とする請求項3に記載の印刷用インク組成物。
【請求項5】
前記ヒドロキシカルボン酸がクエン酸であり、多価アルコールがエチレングリコールであり、及び極性溶媒が水であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の印刷用インク組成物。
【請求項6】
前記金属微粒子の含有量は、組成物の全量に対し、2〜50質量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の印刷用インク組成物。
【請求項7】
前記金属微粒子は、銅微粒子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の印刷用インク組成物。
【請求項8】
粒径が100nm以下で、水溶性高分子で被覆された金属微粒子が多価アルコール中に分散された金属微粒子分散液を用いて、該金属微粒子分散液にヒドロキシカルボン酸を添加し、遊離した水溶性高分子を限外ろ過により排出した後、ヒドロキシカルボン酸と多価アルコール及び/又は極性溶媒を添加して金属微粒子分散液を得る、或いは、該金属微粒子分散液にヒドロキシカルボン酸を含む多価アルコール及び/又は極性溶媒で希釈し、次いで限外ろ過により濃縮して金属微粒子分散液を得ることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の印刷用インク組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7に記載の印刷用インク組成物を用いてなる、水溶性高分子とヒドロキシカルボン酸を含有する金属微粒子から構成される金属光沢を有する塗膜。

【公開番号】特開2008−255148(P2008−255148A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96090(P2007−96090)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】