説明

金属内包ナノカーボン材料とその製造方法

【課題】金属内包ナノカーボンチューブ材料とその製造方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノ材料は、金属又は金属を含む化合物からなる粒子を内包させたフラーレンナノファイバー由来の材料であり、カーボンナノチューブ、カーボンナノカプセル及びカップスタック型カーボンナノチューブの何れかである。金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法は、(A)フラーレン分子を第1溶媒に溶解した第1の溶液を調製する工程と、(B)第1溶媒よりもフラーレン分子の溶解能の低い第2溶媒に金属を含む塩を添加した第2の溶液を調製する工程と、(C)第1の溶液に第2の溶液を添加し、第1の溶液と第2の溶液との間に液−液界面を形成させる工程と、(D)この溶液中に金属を内包したフラーレン細線を析出させる工程と、(E)金属を内包したフラーレン細線を所定の温度で熱処理して、金属を内包したカーボンナノ材料を得る工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属内包ナノカーボン材料とその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、フラーレンナノファイバー由来の磁性金属等を内包したカーボンナノチューブ、カーボンナノカプセル及びカップスタック型カーボンナノチューブとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノ材料についての検討は急速に進展しており、近年では、その実際的応用に向けた機能性向上のための様々な工夫が試みられている。たとえば、カーボンナノチューブ(CNT)の内部に各種の物質を内包もしくは担持させて触媒や電子材料等にその応用を拡大する試みがなされている。
【0003】
カーボンナノチューブの内部に、鉄、コバルト又はニッケルのような金属粒子を内包させる方法として、ダイヤモンド粒子と金属粒子(鉄,コバルト,ニッケル)の混合粉末を真空中にて1700℃で30分間加熱して金属内包カーボンナノカプセルを作製する方法が報告されている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、化学的、熱的に安定なグラフェンシートが円筒状に形成された構造のカーボンナノチューブの場合には、たとえば白金クラスターを担持させて燃料電池電極材料として用いることが検討されてはいるものの、カーボンナノチューブの内径は1nm程度と小さいため、金属ナノ粒子を内包させることは容易ではなく、活性部位は主としてその外表面に限られる。
【0005】
このようなカーボンナノチューブの構造的制約を解消するものとして、カーボンナノホーン(CNH)が開発されるとともに、C60、C70等のフラーレンからのチューブ状構造体としてのフラーレンチューブの形成法が種々提案され(非特許文献2〜7参照)、カーボンナノ材料の新しい技術地平が拓かれつつある。
【0006】
フラーレンは、溶媒抽出ができることが良く知られている(非特許文献2参照)。非特許文献3には、フラーレンの良溶媒と貧溶媒の液−液界面形成によりフラーレン細線を作製したことが報告されている。フラーレン細線とは、フラーレン分子から構成される繊維状物質のことである。
【0007】
非特許文献4には、C70分子を用いてフラーレン細線を作製することが報告されている。非特許文献5には、C60とC70分子を混合してフラーレン細線を作製したとの報告がなされている。
【0008】
このようなフラーレン細線に、金属を内包させることも試みられている。例えば、非特許文献6には、硝酸ニッケルを用いてニッケルを添加したフラーレン細線を作製することが報告されている。非特許文献7には、塩化鉄を用いて鉄を添加したことが報告されている。
【0009】
これらのフラーレン細線は、その内径が100ナノメター(nm)オーダと、カーボンナノチューブよりも大きいため、機能性材料への応用展開が期待されているところである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Chemical Physics Letters, Vol. 316, pp.361-364, 2000
【非特許文献2】篠原久典、斉藤弥八、「フラーレンの化学と物理」、4.2 フラーレンの溶媒抽出と溶解度」及び表4.1C60の各種溶媒中での溶解度、名古屋大学出版会、pp.39−41、1997年1月15日
【非特許文献3】Journal of the American Ceramic Society, Vol.84, pp.3037-3039, 2001
【非特許文献4】Journal of the American Ceramic Society, Vol.85, pp.1297-1299, 2002
【非特許文献5】Journal of Materials Research, Vol. 18, pp.1096-1103, 2003
【非特許文献6】Diamond and Related Materials, Vol.17, pp.571-575, 2008
【非特許文献7】NANO, Vol.3, pp.409-414, 2008
【非特許文献8】J. Minato and K. Miyazawa, Carbon, Vol.43, p.2837, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、現状では、カーボンナノチューブに1〜10nm以上の金属粒子を内包したカーボンナノチューブ材料及びその製造方法の何れもいまだ開発されていない。
【0012】
本発明は上記課題に鑑み、金属粒子を内包したカーボンナノチューブ等の材料を提供することを第一の目的とし、これらを安価で簡便に、かつ、大量合成できる製造方法を提供することを第二の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、金属粒子を内包したフラーレン細線を真空中で加熱処理することにより金属内包カーボンナノチューブ、金属内包カーボンナノカプセル、及びカップスタック型カーボンナノチューブを製造できることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
上記第一の目的を達成するため、本発明の金属を内包したカーボンナノ材料は、金属又は金属を含む化合物からなる粒子を内包させたフラーレンナノファイバー由来のカーボンナノ材料からなり、カーボンナノ材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノカプセル及びカップスタック型カーボンナノチューブの何れかであることを特徴とする。
【0015】
上記構成において、内包される金属又は金属を含む化合物からなる粒子の大きさは、好ましくは1〜10nm以上である。フラーレンは、好ましくはC60又はC70からなる。
【0016】
上記第二の目的を達成するため、本発明の金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法は、
(A)フラーレン分子を第1溶媒に溶解した第1の溶液を調製する工程と、
(B)第1溶媒よりもフラーレン分子の溶解能の低い第2溶媒に金属を含む塩を添加した第2の溶液を調製する工程と、
(C)第1の溶液に第2の溶液を添加し、第1の溶液と第2の溶液との間に液−液界面を形成させる工程と、
(D)第1の溶液と第2の溶液とからなる混合溶液中に金属又は該金属を含む化合物を内包したフラーレン細線を析出させる工程と、
(E)金属又は該金属を含む化合物を内包したフラーレン細線を所定の温度で熱処理して、金属を内包したカーボンナノ材料を得る工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
上記構成において、フラーレンは、好ましくはC60又はC70からなる。
金属は、好ましくは磁性材料からなり、好ましくはニッケル又は鉄である。
得られるカーボンナノ材料は、好ましくはカーボンナノチューブ、カーボンナノカプセル、及びカップスタック型カーボンナノチューブの何れかである。
第1溶媒は、好ましくはトルエン、ベンゼン、ピリジン、キシレン、ヘキサン及びペンタンの何れかである。
第2溶媒は、好ましくはイソプロピルアルコール、メチルアルコール、エチルアルコール、及びn-プロピルアルコールの何れかである。
金属を含む塩は、好ましくは硝化物又は塩化物からなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属を内包したカーボンナノチューブ、カーボンナノカプセルやカップスタック型カーボンナノチューブは、内包される金属層がグラファイト層に覆われた構造を持つため、内部の金属層が酸化せず、金属層が有している磁性機能や触媒機能が劣化しない。例えば、内包される金属層が磁性機能を有している場合、その特異な構造のため、バルク結晶よりも大きな磁気異方性を有しており、磁気センサー等への応用が期待される。
【0019】
本発明の金属を内包したカップスタック型カーボンナノチューブは、その特異な炭素網積層構造により、内外表面が活性であり、樹脂材料等との高密着性や高分散性を有するため、炭素繊維強化樹脂への応用が可能となる。
【0020】
また、本発明の金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法によれば、フラーレンの良溶媒と貧溶媒の液−液界面形成により金属を内包したフラーレン細線を作製し、この金属を内包したフラーレン細線を熱処理することによって、金属を内包したカーボンナノチューブ、カーボンナノカプセルやカップスタック型カーボンナノチューブを、安価で簡便に、かつ、大量に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】前駆体試料のニッケルを添加したフラーレン細線を作製する本発明の実施例を示す図である。
【図2】本発明において、ニッケルを添加したフラーレン細線が析出した実施例を示す図である。
【図3】本発明において、IPA中の硫酸ニッケル六水和物濃度を0.68mol(モル)/l(リットル)にして合成したフラーレンナノウィスカー(FNW)の明視野像を示す図である。
【図4】本発明において、ニッケルを添加したフラーレン細線を900℃で真空加熱処理した際に得られた、ニッケルを内包したカーボンナノカプセルの実施例を示す透過電子顕微鏡(TEM)像の図である。
【図5】本発明において、ニッケルを添加したフラーレン細線を1050℃で真空加熱処理した際に得られた、カップスタック型カーボンナノチューブの実施例を示す透過電子顕微鏡(TEM)像の図である。
【図6】本発明において、鉄を添加したC60フラーレンナノウィスカーを加熱して得られた繊維の実施例を示す透過電子顕微鏡(TEM)像の図である。
【図7】本発明において、鉄を添加したフラーレン細線を900℃で真空加熱した際に得られた、鉄を内包したカーボンナノチューブの実施例を示す透過電子顕微鏡(TEM)像の図である。
【図8】本発明において、鉄を添加したフラーレン細線を900℃で真空加熱した際に得られた、鉄を内包したカーボンナノカプセルの実施例を示す透過電子顕微鏡(TEM)像の図である。
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。 本発明の金属を内包したカーボンナノ材料は、金属又は金属を含む化合物からなる粒子を内包させたフラーレンナノファイバー由来のカーボンナノ材料から構成されている。このカーボンナノ材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノカプセル及びカップスタック型カーボンナノチューブの何れかである。
【0023】
本発明の磁性金属等を内包したカーボンナノチューブやカーボンナノカプセルは、その特異な構造のため、バルク結晶よりも大きな磁気異方性を有しており、磁気センサー等への応用が期待されている。また、これらは磁性金属層等がグラファイト層に覆われた構造を持つため、内部の金属層が酸化せず、金属層が有している磁性機能等が劣化しない特徴を持っている。
【0024】
本発明の金属等を内包したカーボンナノチューブは、内包させる金属にも依存するが、内包される金属粒子又は金属を含む化合物粒子の外径を1nm〜120nmとすることができる。このような1〜10nm以上の金属粒子又は金属を含む化合物粒子を内包したカーボンナノチューブは、後述するように、金属又は金属を含む化合物粒子を内包させたフラーレンナノファイバー由来の材料を出発原料として製造することができる。金属を含む化合物は、例えば金属と炭素との化合物である。
【0025】
本発明の金属等を内包したカーボンナノカプセルは、内包させる金属にも依存するが、内包される金属粒子又は金属を含む化合物粒子の外径を1nm〜120nmとすることができる。このような1〜10nm以上の金属粒子又は金属を含む化合物を内包したカーボンナノカプセルは、後述するように、金属又は金属を含む化合物を内包させたフラーレンナノファイバー由来の材料を出発原料として製造することができる。金属を含む化合物は、例えば金属と炭素との化合物である。
【0026】
本発明の金属等を内包したカップスタック型カーボンナノチューブは、内包させる金属にも依存するが、内包される金属粒子又は金属を含む化合物粒子の外径を1nm〜120nmとすることができる。このような1〜10nm以上の金属粒子又は金属を含む化合物を内包したカップスタック型カーボンナノチューブは、後述するように、金属又は金属を含む化合物を内包させたフラーレンナノファイバー由来の材料を出発原料として製造することができる。金属を含む化合物は、例えば金属と炭素との化合物である。
カップスタック型カーボンナノチューブは,その特異な炭素網積層構造により、内外表面が活性であり、樹脂材料等との高密着性や高分散性を有するため、炭素繊維強化樹脂への応用が可能となる。
【0027】
次に、本発明の金属を内包したカーボンナノ材料である、カーボンナノチューブやカーボンナノカプセル、さらに、カップスタック型カーボンナノチューブの製造方法について説明する。
本発明の金属を内包したカーボンナノ材料は、以下の工程によって製造することができる。
(A)フラーレン分子を第1溶媒に溶解した第1の溶液を調製する工程と、
(B)第1溶媒よりもフラーレン分子の溶解能の低い第2溶媒に金属を含む塩を添加した第2の溶液を調製する工程と、
(C)第1の溶液に第2の溶液を添加し、第1の溶液と第2の溶液との間に液−液界面を形成させる工程と、
(D)第1の溶液と第2の溶液とからなる混合溶液中に金属又は金属を含む化合物粒子を内包したフラーレン細線を析出させる工程と、
(E)金属を内包したフラーレン細線を所定の温度で熱処理して、金属又は金属を含む化合物粒子を内包したカーボンナノ材料を得る工程と、を含む。
ここで、上記(C)の工程において、第1の溶液に第2の溶液との間に形成される液−液界面は、自然拡散もしくは、意図的な混合による拡散によって消失する。なお、金属を含む化合物粒子は、例えば金属と炭素との化合物である。
【0028】
金属を内包したカーボンナノチューブは、金属又は金属を含む化合物粒子を内包したフラーレン細線を、900℃前後の温度で熱処理することで得ることができる。
【0029】
金属を内包したカーボンナノカプセルは、金属又は金属を含む化合物粒子を内包したフラーレン細線を、900℃〜1050℃の範囲の温度で熱処理することで得ることができる。
【0030】
金属を内包したカップスタック型カーボンナノチューブは、金属又は金属を含む化合物粒子を内包したフラーレン細線を、1050℃程度よりも高い温度で熱処理することで得ることができる。
【0031】
前駆体試料として作製するフラーレン細線はC60のほかに、C70等の高次フラーレンを使用することができる。
【0032】
フラーレンの第1溶媒は、フラーレンが良く溶解する、即ち良溶媒である。良溶媒としては、トルエンのほかに、ベンゼン、ピリジン、キシレン、ヘキサン、ペンタン等を使用することができる。
【0033】
フラーレンの第2溶媒は、フラーレンが溶解し難い、即ち貧溶媒である。貧溶媒には、イソプロピルアルコールのほかに、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール等を使用することができる。
【0034】
磁性金属等を添加するためにアルコール類等の第2溶媒に溶解させる塩としては、硝酸塩や塩酸塩を用いることができる。磁性金属としては、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等を用いることができる。
【0035】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。
(ニッケルを内包したカーボンナノ材料)
前駆体試料として磁性金属であるニッケル(Ni)を添加したフラーレン細線を作製した。
60の良溶媒として、トルエン(特級、99.5%、和光純薬株式会社)を用いた。C60粉末(99.5%、MTR Ltd.)を2.8g/l(リットル)でトルエンに加えて、30分間超音波処理を行った。これを、シリンジフィルター(膜孔450nm、PuradiscTM; Whatman Inc., Clifton, NJ, USA)を用いてろ過してC60飽和トルエン溶液を作製した。
【0036】
貧溶媒としてイソプロピルアルコール(IPAとも呼ぶ、特級、99.7%、和光純薬株式会社)を用いた。
【0037】
硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO、特級、和光純薬株式会社)を29.1g/l(リットル)でIPAに加えて、30分間超音波処理を行い、硝酸ニッケル添加IPAを作製した。作製したC60飽和トルエン溶液3ml(cm−3)を入れたバイアル瓶に、硝酸ニッケル添加IPA3mlをゆっくり滴下して液−液界面を形成させた。その後、バイアル瓶を5℃で1週間保存して、磁性金属であるニッケルを添加したフラーレン細線を作製した。
【0038】
次に、目的試料を得るために、前駆体試料である、ニッケルを添加したフラーレン細線を溶液から取り出して、石英管等に封入する。その後、石英管の内部を真空等の雰囲気にして、加熱炉で加熱処理することにより、目的試料であるニッケル内包カーボンナノチューブ、ニッケル内包カーボンナノカプセル、及びカップスタック型カーボンナノチューブを得ることができる。
【0039】
図1は、前駆体試料のニッケルを添加したフラーレン細線を作製する実施例を示す図である。
上部の液体が硝酸ニッケル六水和物を溶解させたイソプロピルアルコール溶液であり、下部の液体がC60フラーレンを溶解させたトルエン溶液である。中央部に液−液界面を形成し、フラーレン細線を析出させる。
【0040】
図2は、本発明において、ニッケルを添加したフラーレン細線が析出した実施例を示す図である。図2に示すように、図1に示したような液−液界面がなくなり、ガラス瓶の底に析出したフラーレン細線が沈殿していることが分かる。
【0041】
図3は、本発明において、IPA中の硫酸ニッケル六水和物濃度を0.68mol(モル)/l(リットル)にして合成したフラーレンナノウィスカー(FNW)の明視野像を示す図である。観察倍率は10万倍である。
図3に示すように、フラーレンナノウィスカーの直径は242nmであり、長さは902nm以上であった。このフラーレンナノウィスカーの側面は、波打ち、表面に数ナノメートル(nm)のNi粒子(図3の矢印参照)が観察された。
【0042】
この試料を真空中において700℃で熱処理すると非晶質に変化した。
【0043】
この試料を真空中において900℃で熱処理すると、ニッケルを内包したカーボンナノカプセルが得られた。ニッケルが内包されたカーボンナノカプセルを多数測定した結果、カーボンナノカプセルの外径は68.6〜222.6nmであり、平均外径は136.9nmであった。内径は10.2〜120.8nmであった。内包されるニッケル粒子の外径は17.0〜109.3nmであり、平均外径は49.0nmであった。
【0044】
図4は、本発明において、ニッケルを添加したフラーレン細線を900℃で真空加熱処理した際に得られたニッケルが内包されたカーボンナノカプセルの実施例を示す透過電子顕微鏡(TEM)像の図である。観察倍率は30万倍である。
図4に示すように、合成したニッケルが内包されたカーボンナノカプセルの直径は99.7nmであり、長さは2.50μmであった。内包されたニッケル粒子の平均粒径は49.0nmであった。
【0045】
さらに、処理温度を上げて1050℃にすると、ニッケル内包カーボンナノカプセルが鎖状につらなったカプセル鎖が合成された。
1050℃で合成したニッケルが内包されたカーボンナノカプセルを多数測定した結果、カーボンナノカプセルの外径は34.5〜165.5nmであり、平均外径は85.9nmであった。内径は10.8〜112.9nmであった。内包されるニッケル粒子の外径は10.8〜112.9nmであり、平均外径は55.0nmであった。
【0046】
さらに高温の1050℃で熱処理すると、カップスタック型カーボンナノチューブが合成された。
図5は、本発明において、ニッケルを添加したフラーレン細線を1050℃で真空加熱処理した際に得られたカップスタック型カーボンナノチューブの実施例を示す透過電子顕微鏡(TEM)像の図である。観察倍率は30万倍である。
図5に示すように、合成したニッケルが内包されたカップスタック型カーボンナノチューブの直径は85.4nmであり、内径は13.5nmであった。長さは600nm以上であった。
【0047】
上記した、各熱処理で得たニッケルを内包したカーボンナノカプセル、ニッケルを内包したカップスタック型カーボンナノチューブの寸法を纏めて表1に示す。
【表1】

【0048】
一方、IPA中の硫酸ニッケル六水和物濃度を0.01mol/l(リットル)に減らしてフラーレンナノウィスカーを合成すると、表面のNi粒子のサイズは減少し、フラーレンナノウィスカーの波打った状態は消えた。これを熱処理して合成したカプセル鎖の平均粒径は、図4のカプセル鎖のそれと比べて1/8程度に小さくなった。つまり、カプセル鎖の粒径は、フラーレンナノウィスカーにドープされたNi粒子の粒径に依存することが明らかになった。
【0049】
(鉄を内包したカーボンナノ材料)
別の実施例として、前駆体試料に鉄(Fe)を添加したフラーレン細線を用いて、同様に真空封入したのち、加熱処理をした。鉄を添加したフラーレン細線の作製手順を以下に示す。
60の良溶媒としてトルエン(特級、99.5%、和光純薬株式会社)を用いた。C60粉末(99.5%、MTR Ltd.)2.8g/l(リットル)をトルエンに加えて、30分間超音波処理をした。これを、シリンジフィルター(膜孔450nm、PuradiscTM; Whatman Inc., Clifton, NJ, USA)を用いてろ過してC60飽和トルエン溶液を作製した。
【0050】
貧溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA、特級、99.7%、和光純薬Ni(NO・6HO)を用いた。
【0051】
硝酸鉄九水和物(Fe(NO・9HO、特級、和光純薬株式会社)を40.4g/l(リットル)でIPAに加えて、30分間超音波処理を行い、硝酸鉄添加IPAを作製した。作製したC60飽和トルエン溶液3mlを入れたバイアル瓶に、硝酸鉄添加IPA3mlをゆっくり滴下して液−液界面を形成させた。その後、バイアル瓶を5℃で1週間保存して、磁性金属である鉄を添加したフラーレン細線を作製した。
【0052】
鉄を添加したC60フラーレンナノウィスカー(FNW)の電子回折図形は六方最密構造のそれに対応した。
図6は、本発明において、鉄を添加したC60フラーレンナノウィスカーを加熱して得られた繊維の実施例を示す透過電子顕微鏡(TEM)像の図である。観察倍率は30万倍である。
図6に示すように、この繊維はC60フラーレンナノウィスカーであり、その内部に他の物質が内包されている。このフラーレンナノウィスカーの外径は44nmであり、内径は21nmであり、長さは560nmであった。フラーレンナノウィスカーの長さは、観察できた範囲の長さであり、実際のフラーレンナノウィスカーの長さは560nm以上ある。さらに、電子線回折から、この内包されている物質は単結晶のFeCであることが分かった。
【0053】
六方最密構造のフラーレンナノウィスカーは、脱溶媒により面心立方構造へ変化する(非特許文献8参照)。本発明の鉄をドープしたC60フラーレンナノウィスカーは、安定な六方最密構造をもち、脱溶媒による構造変化が抑制されていることを示している。この安定化は、溶媒和位置にFe原子が存在することが原因であると考えられる。
【0054】
次に目的試料を得るために、前駆体試料である、鉄を添加したフラーレン細線を溶液から取り出して、石英管に真空封入する。その後、加熱炉で加熱処理することにより、目的試料である鉄内包カーボンナノチューブ、鉄内包カーボンナノカプセル、及びカップスタック型カーボンナノチューブを得ることができる。
【0055】
図7は、本発明において、鉄を添加したフラーレン細線を900℃で真空加熱した際に得られた鉄を内包したカーボンナノチューブの実施例を示す透過電子顕微鏡(TEM)像の図である。観察倍率は30万倍である。
図7に示すように、鉄を内包したカーボンナノチューブ(CNT)の直径は19nmであり、長さは143nmであった。カーボンナノチューブの長さは、観察できた範囲の長さであり、実際のカーボンナノチューブの長さは143nm以上ある。
【0056】
900℃で合成した鉄が内包されたカーボンナノチューブを多数測定した結果、カーボンナノチューブの外径は20〜66nmであり、その平均外径は35nmであった。カーボンナノチューブの内径は5〜45nmであり、その平均内径は15nmであった。内包されたFeC粒子の外径は5〜45nmであり、その平均直径は15nmであった。カーボンナノチューブの内径とその平均内径の寸法は、FeC粒子の外径及びその平均外径と良く一致することが分かった。これから、カーボンナノチューブの内部にはFeC粒子がほぼ隙間無く内包されていることが分かった。
【0057】
図8は本発明において、鉄を添加したフラーレン細線を900℃で真空加熱した際に得られた鉄を内包したカーボンナノカプセルの実施例を示す透過電子顕微鏡(TEM)像の図である。観察倍率は30万倍である。
図8に示すように、鉄を内包したカーボンナノカプセルの直径は平均で125nmであった。カーボンナノカプセル断面の形状の一例は楕円であった。この楕円の寸法の一例は、長軸の長さが153nmで、短軸の長さが98nmであった。
【0058】
900℃で合成した鉄が内包されたカーボンナノカプセルを多数測定した結果、カーボンナノカプセルの外径は40〜170nmであり、その平均外径は90nmであった。カーボンナノカプセルの内径は20〜90nmであり、その平均内径は50nmであった。内包されたFeC粒子の外径は20〜90nmであり、その平均直径は50nmであった。カーボンナノカプセルの内径とその平均内径の寸法は、FeC粒子の外径及びその平均外径と良く一致することが分かった。これから、カーボンナノカプセルの内部にはFeC粒子がほぼ隙間無く内包されていることが分かった。
【0059】
上記した、各熱処理で得たFeC粒子を内包したカーボンナノチューブ、FeC粒子を内包したカーボンナノカプセルの寸法を纏めて表2に示す。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の金属を内包したカーボンナノチューブ、カーボンナノカプセルやカップスタック型カーボンナノチューブのカーボンナノ材料によれば、内包される金属層がグラファイト層に覆われた構造を持つため、内部の金属層が酸化せず、金属層が有している磁性機能や触媒機能が劣化しない。例えば、内包される金属層が磁性機能を有している場合、その特異な構造のため、バルク結晶よりも大きな磁気異方性を有しており、磁気センサー等への応用が期待される。
【0061】
本発明の金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法によれば、金属を内包したカーボンナノチューブ、カーボンナノカプセルやカップスタック型カーボンナノチューブを安価で簡便に、かつ、大量に合成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属又は該金属を含む化合物からなる粒子を内包させたフラーレンナノファイバー由来のカーボンナノ材料からなり、該カーボンナノ材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノカプセル及びカップスタック型カーボンナノチューブの何れかであることを特徴とする、金属を内包したカーボンナノ材料。
【請求項2】
前記内包される金属又は該金属を含む化合物からなる粒子の大きさは、1〜10nm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の金属を内包したカーボンナノ材料。
【請求項3】
前記フラーレンは、C60又はC70からなることを特徴とする、請求項1に記載の金属を内包したカーボンナノ材料。
【請求項4】
金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法であって、
(A)フラーレン分子を第1溶媒に溶解した第1の溶液を調製する工程と、
(B)上記第1溶媒よりもフラーレン分子の溶解能の低い第2溶媒に金属を含む塩を添加した第2の溶液を調製する工程と、
(C)上記第1の溶液に上記第2の溶液を添加し、該第1の溶液と上記第2の溶液との間に液−液界面を形成させる工程と、
(D)上記第1の溶液と上記第2の溶液とからなる混合溶液中に上記金属又は該金属を含む化合物を内包したフラーレン細線を析出させる工程と、
(E)上記金属又はその金属を含む化合物を内包したフラーレン細線を所定の温度で熱処理して、金属又は該金属を含む化合物からを内包したカーボンナノ材料を得る工程と、を含むことを特徴とする、金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項5】
前記フラーレンは、C60又はC70からなることを特徴とする、請求項4に記載の金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項6】
前記金属又は該金属を含む化合物は、磁性材料からなることを特徴とする、請求項4に記載の金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項7】
前記金属は、ニッケル又は鉄であることを特徴とする、請求項4に記載の金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項8】
前記カーボンナノ材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノカプセル及びカップスタック型カーボンナノチューブの何れかであることを特徴とする、請求項4に記載の金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項9】
前記第1溶媒は、トルエン、ベンゼン、ピリジン、キシレン、ヘキサン及びペンタンの何れかであることを特徴とする、請求項4に記載の金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項10】
前記第2溶媒は、イソプロピルアルコール、メチルアルコール、エチルアルコール及びn-プロピルアルコールの何れかであることを特徴とする、請求項4に記載の金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法。
【請求項11】
前記金属を含む塩は、硝化物又は塩化物からなることを特徴とする、請求項4に記載の金属を内包したカーボンナノ材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−168429(P2011−168429A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32951(P2010−32951)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月18日 社団法人 日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集 第64巻第2号(2009年秋季大会)第4分冊」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】