金属基材上のコーティングおよびコーティングした製品
本発明は、一般的なレベルで、大きい表面積を備える金属製品をコーティングするための方法に関する。本発明はまた、この方法により製造された、コーティングされた金属製品にも関する。このコーティングは、レーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備える回転光学スキャナを用いてパルス状レーザー光線が走査される超短パルスレーザー堆積を用いて実施される。本発明は、いくつかの工業的にかつ品質的に有利な効果(例えば、高コーティング生産速度、優れたコーティング特性および全体的な低製造コスト)を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的に、大表面積を備える金属製品を超短パルスレーザーアブレーションによってコーティングする方法に関する。本発明は、その方法によって製造される製品にも関する。本発明は、高コーティング生産速度、優れたコーティング特性および低製造コストのような多くの有利な効果を有する。
【背景技術】
【0002】
(金属製品)
青銅器時代以降ずっと、金属およびそれより誘導される様々な製品は人類にとって非常に重要な役割を果たしてきた。金属は優れた磨耗特性、化学特性および物理特性を有しているとしても、これらの製品に関連する多くの問題がまだ存在する。これらの問題の一部は、金属材料の構成(合金および組成)を変更することにより金属製品の物理特性および化学特性を改良することによって解決されてきたが、表面特性に関連する問題を解決しようとする試みはあまり功を奏してはいない。
【0003】
鉄製品を考えると、もとの鉄は鋼、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、工具鋼、および例えば鋳鉄に誘導される。
【0004】
金属製品の表面についての問題は、耐腐食性、磨耗特性およびトライボロジー特性、耐熱性と特に関連するだけでなく、種々の金属製品を建造物ならびに内部用途および/または外部用途で使用することにも関連する。通常は、金属製品は非常に長期の用途向けに設計され、それらの技術的特性、機械的特性および視覚的特性は、好ましくは数十年を超える寿命を実現するべきである。
【0005】
目に見える建造物のみならず直接の内部用途において金属製品の使用が継続的に拡大していることに起因して、それらの清浄特性も特に強調されている。
【0006】
通常、金属製品は大表面積を備え、例えば建造物および内部製品用の薄いシートは例えば1200mm×1500mmのサイズで製造され、平らなシートまたはロール状のシートとして顧客に配達される。製品を保護し寿命を伸ばすために、通常、上記問題は塗装による単純なコーティングにより、またはある場合には電解コーティングにより対処されてきた。例えば、アルミニウム製品は、通常、電解皮膜形成(eloxation)、すなわちシュウ酸または現在は硫酸による電解酸化に供される。銅、および真鍮のような多くの他の金属製品は、それらの化学特性のために酸化されるが、内部効果は所望の効果を保つ。環境面で有害であるので、銅およびいくつかの他の金属酸化物またはそれらの誘導体の漏出は望ましくなく、この問題は、製品の内部効果を同時に保持する別の保護コーティングによって解決するべきである。
【0007】
現在、金属的な外観を備える製品に対する要求、すなわちもとの金属(特に、銅、真鍮およびステンレス鋼)の装飾的効果を失うことなく金属製品表面の酸化を防止すべきであるという要求がある。従って、保護。
【0008】
目に見える建造物および内部用途において、最近では清浄化の問題はナノテクノロジーの手段によって対処されてきている。UV照射によって活性化されるナノサイズの二酸化チタン粒子は、UV触媒反応において水と一緒になって有機物質を分解することによる自浄性を有する。清浄効果および透明性を同時にもたらすことに起因して、上記技術は共通にガラス、特に窓に、そして少しはコンクリート製品に適用される。それらは金属に対する接着性が乏しいため、この技術は金属製品には共通には適用されない。さらに、粒径分布があるため均一層の自浄性表面を作製することはできない。
【0009】
例えば化学反応器および化学チューブならびに腐食性化学物質と接触しているかそうでなければ有害環境または磨耗環境に曝されるすべての金属製品をコーティングすることは困難であるので、通常はこれらの構成要素は高価な特殊金属(例えば、チタンおよびその種々の合金)から製造されねばならなかった。
【0010】
金属製品のコーティングに関連する現在の問題のいくつかに取り組むいくつかのアプローチがあり、最も最近かつ技術的に進歩した方法は、CVD(化学的気相堆積)およびPVD(物理的気相堆積)の両方を含んでなる。最も最近のコーティング/薄膜生成法の1つは、とりわけ低温アブレーション法であり、この技術は高真空、長いコーティング時間およびバッチ式のコーティング装置において非常に小さい面積をコーティングすることのみに利用可能である。
【0011】
(レーザーアブレーション)
近年、レーザー技術の注目すべき進歩により、半導体ファイバーに基づく非常に高効率のレーザーシステムを生成する手段がもたらされた。これにより、いわゆる低温アブレーション法における進歩が支えられている。
【0012】
本願の優先日において、ファイバー一体型ダイオード励起半導体レーザーのみが光バルブ励起半導体レーザーと競合しており、これらはともにレーザー光がまずファイバーの中に導かれ、次に作業ターゲットに転送されるという特徴を有する。これらのファイバーレーザーシステムは、工業的スケールでレーザーアブレーション用途に適用できる唯一のレーザーシステムである。
【0013】
ファイバーレーザーの最近のファイバー、およびその結果もたらされる低放射パワーは、気化/アブレーションターゲットとして気化/アブレーションにおいて使用される材料を制限するようである。アルミニウムを気化/アブレーションすることは、低パルスパワーで促進することができるが、銅、タングステンなどのような気化/剥離させることがより困難な物質はより大きいパルスパワーを必要とする。同じことは、新しい化合物を同じ従来技術を用いて成長させたいという状況にも当てはまる。触れるべき例としては、例えば、レーザーアブレーション後の条件において気相で適切な反応を行うことによって、炭素(黒鉛)から直接ダイヤモンドを製造すること、またはアルミニウムと酸素から直接アルミナを生成することが挙げられる。
【0014】
一方で、ファイバーレーザー技術の前向きの進歩にとっての最も重大な障害の1つは、ファイバーが破壊することなくまたはレーザー光線の質を落とすことなく高パワーレーザーパルスに耐えるためのファイバーのファイバー容量であるように思われる。
【0015】
新規な低温アブレーションを用いる場合には、コーティング、薄膜生産および切断/溝切り/彫刻などに伴う定性的な問題ならびに生産速度に関する問題に対しては、レーザーパワーを上げることおよびターゲット上のレーザー光線のスポットサイズを小さくすることに注目することによってアプローチされてきた。しかしながら、パワー増加のほとんどはノイズに消費された。いくつかのレーザー製造業者はレーザーパワーに関する問題を解決したが、定性的な問題および生産速度に関する問題は依然として残っていた。コーティング/薄膜および切断/溝切り/彫刻などの両方に対する代表的なサンプルは、低繰り返し速度、狭い走査幅ともにのみ、および従って工業的な実行可能性を超えた長い作業時間(大きい物体については特に問題になる)をかけなければ製造することはできなかった。
【0016】
パルスのエネルギー容量が一定に保たれる場合、パルスのパワーは、パルス持続時間が短くなると増加する。これはレーザーパルス持続時間が短くなるにつれて重大さが増してくる問題である。この問題は、ナノ秒パルスレーザーについてでさえ重大であるが、低温アブレーション法においてはそれ自体は当てはまらない。
【0017】
パルス持続時間がフェムト秒スケールまたはさらにはアト秒スケールにまで短くなると、この問題は解決できなくなる。例えば、10〜15psのパルス持続時間を用いたピコ秒レーザーシステムにおいて、レーザーの全パワーが100Wであり繰り返し速度が20MHzである場合、パルスエネルギーは10〜30μmスポットについて5μJであるはずである。 このようなパルスに耐えるためのファイバーは、本願の優先日において本発明者らが知る限りでは、まさにその優先日の時点では利用可能ではなかった。
【0018】
生産速度は繰り返し速度または繰り返し周波数に正比例する。一方で、公知のミラーフィルムスキャナ(ガルバノスキャナまたは前後に揺動する(back and worth wobbling)タイプのスキャナ)は前後への動きを特徴とする様式でデューティサイクルをこなすが、デューティサイクルの両端におけるミラーの停止、加えて折り返し点における加減速および関連する運動量停止にはいくらか問題があり、これらはすべてスキャナとしてのミラーの利用可能性を制限するだけでなく、特に走査幅にも制限を加える。繰り返し速度を大きくして製造速度を高めようとすると、加減速により走査範囲を狭くなるか照射の分布が不均一になるかのいずれかが起こり、これにより照射がミラーの加速および/または減速を介してターゲットにぶつかるときターゲットにおいてプラズマが発生する。
【0019】
単にパルス繰り返し速度を高めることでコーティング/薄膜製造速度を高めようとすると、現在の上述の公知のスキャナでは、制御せずにkHz範囲の低パルス繰り返し速度でパルスをターゲット領域のスポットを重ねるということになる。悪い場合には、かかるアプローチは、ターゲット材からのプラズマではなく粒子の放出をもたらし、少なくともプラズマの中への粒子の形成をもたらす。いくつかの連続するレーザーパルスがターゲット表面の同じ場所に向けられると、蓄積効果によってターゲット材を不均一に侵食し、ターゲット材の加熱を導くこともあり、これでは低温アブレーションの利点は失われる。
【0020】
同じ問題はナノ秒範囲のレーザーにも当てはまり、高エネルギーで長時間継続するパルスのために、この問題は必然的にさらにより過酷になる。この場合、ターゲット材の加熱が常に起こり、ターゲット材の温度は約5000Kにまで上昇する。従って、1回の単発のナノ秒範囲のパルスでも上述の問題を伴いターゲット材を大きく侵食する。
【0021】
公知の技術では、ターゲットは不均一に磨耗するかも知れないだけでなく、容易にフラグメント化しプラズマ品質を劣化させるかも知れない。従って、かかるプラズマでコーティングされる表面はプラズマの不利益な効果を受ける。表面はフラグメントを含むことがあり、プラズマはかかるコーティングなどを形成するには不均一に分布したものであるかも知れない。これは精度を要求する用途では問題であるが、欠陥がまさにその用途の検出限界より下を保つかぎりは、例えば塗料または顔料については問題ではないかも知れない。
【0022】
現在の方法は、使い捨て式でターゲットを磨耗させ、そのため同じターゲットは同じ表面から再度さらなる使用において利用できない。この問題は、ターゲット材を移動させることによりおよび/またはひいては光線スポットを移動させることでターゲットの新しい表面を利用することによって対処されてきた。
【0023】
機械加工または作業関連用途においては、いくらかのフラグメントを含む残留物または屑も切断線を不均一に従って不適切にする可能性がある。これは、例えば流れ制御の穿孔で起こり得る。また面は、放出されたフラグメントによってもたらされるランダムな凹凸のある外観を有するように形成されることがあり、これは例えば特定の半導体製造用とでは適切でないかも知れない。
【0024】
加えて、前後に動くミラーフィルムスキャナは構造体自体にだけでなく、ミラーが取り付けられておりそして/またはミラーの移動をもたらすベアリングに負荷をかける慣性力を発生する。特にかかるミラーがほぼ極端な範囲の可能な操作設定で作動している場合にはかかる慣性は徐々にミラーの取り付けを弛めるかも知れず、不均一な製品の品質が繰返される可能性から理解できるように、長いタイムスケールでは設定のずれ(roaming)を導くかも知れない。停止ならびに動きの方向および関連する速度変化のために、かかるミラーフィルムスキャナは、アブレーションおよびプラズマ生成に使用するには、非常に制限された走査幅を有する。操作はとにかく非常にゆっくりであるが、効果的なデューティサイクルはサイクル全体に比べて短い。ミラーフィルムスキャナを利用するシステムの生産性を向上させるという観点からは、プラズマ生成速度は前提条件として遅く、走査幅は狭く、操作は長期間のスケールでは不安定であるだけでなく、歩留まりはプラズマへの、そしてその結果、機械および/またはコーティングを介してプラズマに関連する製品への不必要な粒子の放出に関連する可能性は非常に高い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
金属製品についての維持コストは莫大であり、着実に増加しているので、特に大表面積を備える金属製品をコーティングする技術に対するニーズがある。持続可能な発展が前提条件であるなら、製品寿命は伸ばすべきであり、維持費は低くするべきである。優れた光学特性、化学特性および/または耐磨耗性、耐熱性、コーティング接着性、自浄性および可能ならばトライボロジー特性などの特性のうちの1つまたはいくつかを賦与して大きい金属表面をコーティングすること、とりわけ均一にコーティングすることは未解決の問題として残っている。
【0026】
最近の高度な技術のコーティング方法も、ナノ秒範囲であろうが低温アブレーション範囲(ピコ秒レーザー、フェムト秒レーザー)であろうがレーザーアブレーションに関する現在のコーティング技術も、大表面積を備える金属製品の工業規模でのコーティングについての実行可能な方法は何も提供することはできない。現在のCVDコーティング技術およびPVDコーティング技術は高真空条件を必要とし、これではコーティングプロセスは回分式になり、従って現在の製品のほとんどを工業規模でコーティングするには実行可能ではない。さらに、コーティングすべき金属材料とアブレーションされるコーティング材料との間の距離は長く、通常は50cmを超え、これではコーティングチャンバは大きくなり、真空ポンプ排出期間は時間がかかりエネルギーがかかるものになる。このような大容量真空チャンバは、コーティングプロセス自体においてコーティング材料で容易に汚染されることにもなり、連続的な時間のかかる洗浄プロセスが必要になる。
【0027】
現在のレーザー支援コーティング方法一般においてコーティング生産速度を高めようとすると、他方で,種々の欠陥(例えば、ピンホール、表面粗さの増大、光学特性の低下または消失、コーティング表面の粒子状物質、腐蝕経路に影響を及ぼす表面構造中の粒子状物質、表面均一性の低下、接着性の低下、不十分な表面厚みおよびトライボロジー特性などが起こる。
【0028】
現在のコーティング方法は、コーティング目的一般に用いられ得る材料を厳しく制限し、従って今日市場で利用可能な様々なコーティングされた金属製品の範囲を限定する。適用できる場合には、ターゲット材表面はターゲット材の一番外側の層のみがコーティング目的のために用いることができるような様式で侵食される。この材料の残りは無駄にされるか、または再使用の前に再加工に供されねばらないかのいずれかである。本発明の目的は、公知の技術のこれらの問題を解決、または少なくとも軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の第1の目的は、コーティングすべき均一な表面積が少なくとも0.2dm2を備えるように、パルス状レーザー堆積によって金属製品の特定の表面をコーティングするための問題を解決するための新しい方法を提供することである。
【0030】
本発明の第2の目的は、コーティングされた均一な表面積が少なくとも0.2dm2を備えるように、パルス状レーザー堆積によってコーティングされた新しい金属製品を提供することである。
【0031】
本発明の第3の目的は、ターゲット材がプラズマの中へ粒子状断片をまったく生成しないか(すなわち、そのプラズマは純粋プラズマである)または(存在するとしても)その断片は稀でありかつプラズマがアブレーションによって前記ターゲットから生成されるアブレーション深さよりも少なくともサイズが小さいように、金属製品のコーティングにおいて使用される任意のターゲットから利用可能なそのような微細なプラズマをどうやって提供するかという問題を解決するための少なくとも新しい方法および/または関連する手段を提供することである。
【0032】
本発明の第4の目的は、金属製品の均一な表面積を微細なプラズマでアブレーションによって前記ターゲットから生成されるアブレーション深さよりもサイズが大きい粒子状断片なしにどうやってコーティングするか、すなわち基材を実際上任意の材料に由来する純粋プラズマでどうやってコーティングするかという問題を解決するための少なくとも新しい方法および/または関連する手段を提供することである。
【0033】
本発明の第5の目的は、粒子状断片の存在または前記アブレーション深さよりも小さいそれらのサイズを制限することにより運動エネルギーを粒子状断片に対して無駄にすることが抑制されるように、上記純粋プラズマによって金属製品の均一な表面積に対するコーティングの良好な接着性を提供することである。同時に、粒子状断片は顕著には存在しないため、それらは核生成および凝縮に関連する現象を介してプラズマプルームの均質性に影響を及ぼし得る冷えた表面を形成しない。
【0034】
本発明の第6の目的は、大きい金属本体に対してでさえも工業的な様式で微細なプラズマ品質および幅広いコーティング幅と同時に幅広い走査幅をどうやって提供するかという問題を解決するための少なくとも新しい方法および/または関連する手段を提供することである。
【0035】
本発明の第7の目的は、上述の本発明の目的に従う工業規模の適用を実現するために使用する高い繰り返し速度をどうやって提供するかという問題を解決するための少なくとも新しい方法および/または関連する手段を提供することである。
【0036】
本発明の第8の目的は、第1から第7の目的に従う製品を製造するために、均一な製品表面のコーティングのための微細プラズマをどうやって提供するか、しかし必要なところに同品質のコーティング/薄膜を生成するコーティング段階において使用するためのターゲット材を依然として節約するかという問題を解決するための少なくとも新しい方法および/または関連する手段を提供することである。
【0037】
本発明のさらなる目的は、コーティングされた製品のためにどうやって低温で作業するかおよび/または表面をコーティングするかという問題を解決するために、前述の目的に従ってこのような方法および手段を使用することである。
【0038】
本発明は、パルス状レーザー光線がレーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備える回転光学スキャナで走査される超短パルスレーザー堆積(Ultra Short Laser Pulsed Deposition)を用いると、大きい表面を備える金属製品を、工業的生産速度および1つ以上の技術的特徴(例えば、光学的透明性、耐薬品性および/または耐磨耗性、引っかき抵抗性、耐熱性および/または熱伝導性、コーティング接着性、自浄性、および可能ならばトライボロジー特性、微粒子を含まないコーティング、ピンホールがないコーティングおよび導電性)に関する優れた品質を備えてコーティングすることができるという驚くべき発見に基づいている。さらに、本方法はターゲット材の経済的な使用を実現する。なぜなら、このターゲット材は、高コーティング結果を保持してすでに供された材料の再使用を実現する様式でアブレーションされるからである。本発明はさらに、比較的低い真空条件で同時に高いコーティング特性を備えて金属製品のコーティングを実現する。さらに、必要とされるコーティングチャンバの容積は、競合する方法と比べて劇的に小さい。このような特徴は設備費全体を劇的に下げかつコーティング生産速度を高める。多くの好ましい場面では、コーティング設備はオンライン様式での生産ラインに適合させることができる。
【0039】
20W USPLD装置の場合のコーティング堆積速度は2mm3/分である。レーザーパワーを80Wまで上昇すると、それに応じてこのUSPLDコーティング堆積速度は8mm3/分に上昇する。本発明によれば、今、高められた堆積速度は高品質コーティング生産のために十分に採用することができる。
【0040】
本願では、用語「コーティング」は基材上の任意の厚みの材料を形成することを意味する。従って、コーティングは、例えば<1μmの厚みの薄膜を製造することも意味することがある。
【0041】
本発明の種々の実施形態は適切な部分を組み合わせることができる。
【0042】
本発明を読んで理解したとき、当業者は、示した本発明の実施形態を本発明の範囲を離れることなく修正するための多くの方法を知るであろう。しかしながら、本発明の範囲は本発明の実施形態の実施例として示した、示された実施形態のみに限定されない。
【0043】
本発明の説明した利点および他の利点は、以下の詳細な説明から、そして図面を参照することにより明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明によれば、金属製品の特定の表面をレーザーアブレーションによってコーティングするための手段が提供される。この方法ではコーティングすべき均一な表面積は少なくとも0.2dm2を備え、コーティングはパルス状レーザー光線がこのレーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備える回転光学スキャナを用いて走査される超短パルスレーザー堆積を用いて実施される。
【0045】
金属製品ということによって、金属製品(例えば、構造物全般用、内部用途および装飾用途、機械加工用)、車両(例えば、自動車、トラック、オートバイおよびトラクター)、航空機、船舶、ボート、列車、レール、工具、医療用製品、電子デバイスおよびそれらのケーシング、電光、プロフィール、フレーム、部品(component parts)、プロセス設備、種々の産業(例えば、化学産業、電力業界およびエネルギー業界)のためのパイプおよびタンク、宇宙船、金属平板、軍事用品、空調、掘削機(mining)、ねじ、製パン機およびパン切り用具およびナイフ、送水管、ドリルおよびその部品などを意味するがこれらに限定されない。従って、金属製品は必ずしも金属から成っていなければならないわけではない。本発明によれば、金属含量が100%であるか1%であるかどうかに係わらず金属表面を含むすべての製品が、本明細書において提示される方法によってコーティングすることができる。本発明の可能な実施形態のいくつかが図4および図10〜図31に示されている。
【0046】
超短パルスレーザー堆積(Ultra Short Laser Pulsed Deposition)はしばしばUSPLDと略される。この堆積法は低温アブレーションとも呼ばれる。この方法では、特徴の1つは、例えば競合するナノ秒レーザーとは反対に、露出されたターゲット領域からこの領域の周辺への熱移動が現実的には起こらないが、レーザーパルスエネルギーは依然としてターゲット材のアブレーション閾値を超えるに十分であることである。パルス長は、通常は50ps未満、例えば5〜30ps(すなわち、超短)であり、低温アブレーションはピコ秒、フェムト秒およびアト秒パルス状レーザーを用いて到達される。レーザーアブレーションによってターゲットから気化した材料は室温近くに保持された基材上に堆積する。依然として、プラズマ温度は露出されたターゲット領域では1.000.000Kに達する。プラズマ速度は秀でており100.000m/sさえに達し、従って生成したコーティング/薄膜の十分な接着性にとって見通しはよりよい。本発明の別の好ましい実施形態では、上記均一な表面積は少なくとも0.5dm2を備える。本発明のさらに好ましい実施形態では、上記均一な表面積は少なくとも1.0dm2を備える。本発明は、0.5m2より大きい、例えば1m2以上の均一なコーティングされた表面積を備える製品のコーティングをも容易に実現する。本プロセスは高品質プラズマで大きい表面をコーティングするために特に有益であるので、それはいくつかの異なる金属製品のあまり開拓されていない市場または未開拓の市場を満たす。
【0047】
工業的な用途においては、高効率のレーザー処理を達成することが重要である。低温アブレーションでは、低温アブレーション現象を容易にするために、レーザーパルスの強度は所定の閾値を超えなければならない。この閾値はターゲット材に依存する。高処理効率およびひいては工業的な生産性を達成するために、パルスの繰り返し速度は高くあるべきであり、例えば1MHz、好ましくは2MHzより高く、より好ましくは5MHzより高くあるべきである。上で触れたように、いくつかのパルスをターゲット表面の同じ場所に向けないことが有利である。なぜなら、いくつかのパルスをターゲット表面の同じ場所に向けるとターゲット材における蓄積効果を引き起こし、粒子の堆積によって劣悪な品質のプラズマが生じ、ひいては劣悪な品質のコーティングおよび薄膜、ターゲット材の望ましくない侵食、ターゲット材の加熱の可能性が生じるからである。それゆえに、高効率の処理を実現するために、レーザー光線の高い走査速度を有することも必要である。本発明によれば、効率よい加工を実現するために、ターゲットの表面での光線の速度は一般に10m/sより高く、好ましくは50m/sより高く、より好ましくは100m/sより高く、さらには2000m/sのような速度であるべきである。しかしながら、振動ミラーに基づく光学スキャナでは、慣性モーメントによってミラーの十分に高い角速度を実現することは妨げられる。それゆえに、ターゲット表面で得られたレーザー光線はわずか数m/sである。図1はこのような振動ミラー(ガルバノスキャナとも呼ばれる)の例を図示する。
【0048】
ガルバノスキャナを用いる本コーティング方法は最大限10cm(これより小さいことが好ましい)の走査幅を生成することができるので、本発明は同時に優れたコーティング特性および生産速度を備えてはるかに幅広い走査幅(例えば30cm、および1メートルを超えるものまで)を実現する。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、本明細書において回転光学スキャナは、レーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備えたスキャナを意味する。このようなスキャナおよびその応用はフィンランド国特許出願番号20065867に記載されている。本発明の別の実施形態によれば、回転光学スキャナはレーザー光線を反射するための少なくとも3つのミラーを備える。本発明の一実施形態では、本コーティング方法は図5に示す多角形プリズムを採用する。本明細書においては、多角形プリズムは面21、22、23、24、25、26、27および28を有する。矢印20は、このプリズムが、そのプリズムの対称軸であるその軸19の周りに回転できることを示す。図5のプリズムの面は反射鏡面であり、走査線を獲得するのに有利なように斜めになっており、プリズムがその軸の周りに回転するにつれて順番に当たっている各面が反射によってその鏡面上に入射する放射線の方向を変えるように配置されており、このプリズムは回転スキャナ(すなわちタービンスキャナ)の一部として本発明の実施形態にかかる方法で、その放射線透過線において適用可能である。図5は8個の面を示しているが、これよりももっと多くの面、実に数十または数百の面が存在してもよい。図5は、ミラーが軸に対して同一の斜めの角度にあるとも示しているが、特にいくつかのミラーを備える実施形態では、特定の範囲内で段階的にすることによって、とりわけ図6に示すような作業スポットでの特定の段階的な移動がターゲット上で実現されるように、上記角度は段階的に変化してもよい。本発明の異なる実施形態は、例えばレーザー光線を反射するミラーのサイズ、形状および数に関して、種々のタービンスキャナミラーの構成に限定されるべきではない。
【0050】
タービンスキャナの構造(図5)は、中心軸19の周りに対称的に配置された少なくとも2個のミラー、好ましくは6個より多いミラー(例えば8個のミラー)(21〜28)を備える。タービンスキャナのプリズム21が中心軸19の周りで回転する(20)につれて、ミラーは、スポット29から常に1つの同一方向から出発する(図6)線状領域へと正確に反射される放射線(例えば、レーザー光線)を方向付ける。タービンスキャナのミラー構造は傾いていなくてもよく(図7)、または所望の角度で傾いていてもよい(例えば、図8および図9)。タービンスキャナのサイズおよび釣合いは自由に選択することができる。コーティング方法の1つの有利な実施形態では、それは周囲長30cm、直径12cmおよび高さ5cmを有する。
【0051】
本発明の実施形態では、タービンスキャナのミラー21〜28は好ましくは中心軸19に対して斜めの角度で配置されることが有利である。なぜなら、レーザー光線がスキャナシステムの中に容易に導かれるからである。
【0052】
本発明の実施形態に従って採用されるタービンスキャナ(図5)では、1回転の回転運動の間にミラー21〜28が存在する数だけ多くの線状領域(図6)29が走査されるような様式で、ミラー21〜28は互いからそれることができる。
【0053】
本発明によれば、コーティングすべき表面は製品表面の全体または一部を構成していてよい。
【0054】
本発明の1つの特に好適な実施形態、すなわち建造物または内部仕上げにおける種々の用途向けの金属薄板では、コーティングの好ましい効果を得るために、シート全体がコーティングされる。厚み1mmの1200mm×1500mmの薄銅板を構成し、最初にCu2Oでコーティングされ、透明なATO(アルミニウムチタンオキシド(aluminumtitanoxide))の保護コーティングで仕上げされた本発明にかかる1つのかかる代表的な製品が図4に示されている。Cu2Oは内部効果をもたらし、ATOは有害な銅化合物が自然界に漏出するのを防止するとともに耐磨耗性をもたらす。本発明の1つの好ましい実施形態では、レーザーアブレーションは10-1〜10-12気圧(約100hPa〜約10-9hPa)の真空下で実施される。高真空条件はかなり長いポンプ排出時間、ひいては長い生産時間のコーティングを必要とする。特定の高級品についてはこれはさほど大きな問題ではないが、例えばとりわけより大きい表面を備える日用品についてはこれは間違いなく問題である。これらの新規な耐磨耗性および引っかき抵抗性のコーティング、化学的不活性なコーティング、トライボロジーコーティング、耐熱性および/または熱伝導性コーティング、導電性コーティングおよび恐らくは同時に優れた透明性を考慮すると、技術的観点からみても経済的観点から見ても、上記製品に対して利用可能なコーティング方法は断じて1つもない。
【0055】
このように、本発明の特に好ましい実施形態では、レーザーアブレーションは10-1〜10-4気圧(約100hPa〜約10-1hPa)の真空下で実施される。本発明によれば、優れたコーティング/薄膜特性はすでに低気圧で達成することができ、加工時間の劇的な短縮および産業上の利用可能性の拡大につながる。
【0056】
本発明によれば、ターゲット材と上記コーティングすべき均一な表面積との間の距離が25cm未満、好ましくは15cm未満、最も好ましくは10cm未満であるようにしてコーティングを実施することが可能である。これは、劇的に小さくなった容積を備えたコーティングチャンバの開発を実現し、コーティング生産ラインの全体の価格をより低いものにし、さらに真空ポンプ排出に必要な時間を短くする。
【0057】
本発明の好ましい実施形態では、欠陥のないコーティングを生成するために、上記ターゲット材のアブレーションされた表面を繰り返しアブレーションしてもよい。現在のコーティング技術のほとんどの場合において、ターゲット材はアブレーションを受けた領域がアブレーションのために再使用できないような様式で不均一に磨耗し、従って廃棄するしかないか、または特定の使用後の再生に送られねばならない。この問題は、例えばx/y軸方向にターゲット材を移動させることにより、または円筒形に形成したターゲット材を回転させることにより、コーティング目的のために新しいアブレーションされていないターゲット表面を常に供給するための様々な技術を開発することによって取り組まれてきた。本発明は、優れたコーティング特性および生産速度、ならびにターゲット材の実質的に全体を使用する間ずっと良質のプラズマがその品質を保持するような方法でターゲット材を使用することを同時に実現する。好ましくは、1つのターゲット材重量の50%より多くが本発明にかかる良質のプラズマの生成のために消費される。良質のプラズマということによって、欠陥のないコーティングおよび薄膜を生成するためのプラズマを意味し、高品質のプラズマプルームは高いパルス周波数および堆積速度で維持される。このような特性のいくつかについては本明細書中で以下に説明する。
【0058】
本発明の一実施形態によれば、上記均一な表面積上に生成したコーティングの平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、100nm未満である。より好ましくは、平均表面粗さは30nm未満である。平均表面粗さということによって、適切な手順(例えば、AFMまたはプロフィロメータにおいて利用可能なもの)によってフィットさせた中心線平均カーブからの平均のずれを意味する。この表面粗さは、とりわけ、本発明に従ってコーティングされた金属製品上のコーティングの耐摩耗性および引っかき抵抗性、トライボロジー特性および透明性に影響を及ぼす。
【0059】
本発明のさらに好ましい実施形態では、上記均一な表面積上に生成したコーティングの光の透過率は、88%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは92%以上である。それは98%よりも高くてさえもよい。金属製品におけるコーティングの光学的透明性は、本発明にかかるコーティングによって得られる他の利点に加えてもとの金属の外観が好ましい用途においては、特に重要である。
【0060】
本発明の別の実施形態では、上記均一な表面積上に生成したコーティングは、1mm2あたり1個未満のピンホールを含み、好ましくは1cm2あたり1個未満のピンホールを含み、最も好ましくは前記均一な表面積においてピンホールを含まない。ピンホールは、コーティングを貫くまたは実質的に貫く穴である。ピンホールは、例えば化学的要因または環境上の要因によるもともとコーティングされた材料の侵食にとって土台を提供する。例えば化学反応器またはチュービング、医療用インプラント、宇宙船、様々な車両の様々な部品およびそれらの機械的部品など、金属構造物または内部構造のコーティングにおける1つのピンホールが、これらの製品の寿命が劇的に短くなることに容易につながる。
【0061】
従って、別の好ましい実施形態では、上記均一な表面積上の上記コーティングの最初の50%が1000nm、好ましくは100nm、最も好ましくは30nmを超える直径を有する粒子を含まない様式で、上記均一な表面積はコーティングされる。コーティング製造プロセスの初期段階でミクロンサイズの粒子が生成する場合には、このような粒子は生成したコーティングの次の層の中に無防備の腐食経路を生じかねない。さらに、粒子のでこぼこした形状に起因してこのような粒子の下にある表面を封止することは極めて困難である。加えて、このような粒子は、表面粗さを実質的に大きくする。本方法は、このような場合においてさえ寿命を長くし、様々な金属製品の維持費を下げることができる。
【0062】
金属製品自体は、実質的に、金属でも、金属化合物(例えば、金属合金、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、またはこれらの複合材料)のどれでも含み得る。本発明によれば、上記金属製品の均一な表面積は、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物またはこれらの混合物でコーティングされる。金属の非限定的な例としては、アルミニウム、モリブデン、チタン、ジルコニウム、銅、イットリウム、マグネシウム、亜鉛、クロム、銀、金、コバルト、スズ、ニッケル、タンタル、ガリウム、マンガン、バナジウム、白金、および実質的にどんな金属をも挙げることができる。
【0063】
優れた光学特性、磨耗特性、および引っかき抵抗性のいずれをも備える本発明にかかるコーティングを生成する場合、特に有利な金属酸化物は、例えば、アルミニウムチタンオキシド(ATO)、酸化インジウムスズ(ITO)、イットリウム安定化酸化ジルコニウムである。
【0064】
酸化チタンおよび酸化亜鉛のような特定の金属酸化物が生成したコーティングのUV活性をもたらす表面厚みで塗布される場合、そのコーティングは自浄性を有し得る。かかる特性は、使用を実現しかつ内部用途および外部用途の両方においていくつかの金属製品の維持コストを下げる上で、非常に好ましい。
【0065】
金属酸化物コーティングは、活性酸素雰囲気中で金属(複数個であってもよい)をアブレーションするか、酸化物をアブレーションすることにより生成することができる。後者の可能性においてさえ、酸素雰囲気中でアブレーションを実施することによりコーティングの品質および/または生産速度を向上させることが可能である。同じことは窒化物の場合にも同様に当てはまる。
【0066】
本発明の別の実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面積は90原子%を超える炭素、70%を超えるsp3結合を含む炭素材料でコーティングされる。かかる材料としては、例えばアモルファスダイヤモンド、ナノ結晶ダイヤモンドまたは擬単結晶ダイヤモンドが挙げられる。種々のダイヤモンドコーティングによって、優れたトライボロジー特性、磨耗特性および引っかき抵抗性を備えた金属製品がもたらされるが、耐熱性および熱伝導性も高まる。
【0067】
本発明にさらに別の実施形態では、上記金属製品の均一な表面積は、炭素、窒素および/またはホウ素を様々な比で含む材料でコーティングされる。かかる材料としては、窒化ホウ素炭素、窒化炭素(C2N2およびC3N4の両方)、窒化ホウ素、炭化ホウ素またはB−N、B−CおよびC−N相の様々な混成相が挙げられる。上記材料は、低密度を有するダイヤモンド様材料であり、非常に耐磨耗性に優れ、一般に化学的に不活性である。例えば、窒化炭素は、医療装置および医療用インプラント、バッテリー電極、湿度センサおよびガスセンサのためのコーティングとして、半導体用途、コンピュータハードディスクを保護するため、そして太陽電池、工具などにおいて、腐食性条件に対して金属製品を保護するために用いることができる。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、特定の金属製品の均一な表面積は有機ポリマー材料でコーティングされる。かかる材料としては、キトサンおよびその誘導体、ポリシロキサンおよび様々な有機ポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
金属製品をキトサンでコーティングすることによって、海洋および他の水生環境用の新しいクラスの金属製品ならびに内部用途および外部用途の両方に向けた新しい金属製品を製造できるという見通しがもてる。この場合、ポリシロキサンは、比較的高い耐磨耗性および引っかき抵抗性ならびに同時に優れた光学的透明性を備える製品を製造するために特に有利である。
【0070】
本発明のさらに別の実施形態によれば、上記均一の表面積は無機材料でコーティングされる。かかる材料としては、石材およびセラミックから誘導される材料が挙げられるがこれらに限定されない。
【0071】
本発明の特に好ましい実施形態では、様々な金属シートおよび三次元金属構造体は桃色の瑪瑙を含むターゲット材をアブレーションすることによってコーティングされ、この場合着色しているが不透明なコーティング結果をもたらした。
【0072】
本発明の一実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面は、一回だけの単層コーティングによりコーティングされる。本発明の別の実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面は多層コーティングによりコーティングされる。数回のコーティングは、様々な理由によって生成されてもよい。1つの理由は、金属表面に対するより良好な接着性を有し、かつ以降のコーティング層が金属表面自体に対してよりも上記層に対してより良好な接着性を有するという特性を保有する第1のセットのコーティングを製造することによって、表面処理した金属製品への特定のコーティングの接着性を高めることであろう。加えて、多層コーティングは、その構造がなければ実現できないいくつかの機能を保有することができる。本発明により、1つの単一なコーティングチャンバ中または隣接するチャンバ中でいくつかのコーティングを生産することができる。
【0073】
本発明はさらに、1つの複合材料ターゲットをアブレーションすることにより、または1つ以上の物質を含む2つ以上のターゲット材を同時にアブレーションすることにより、金属製品表面への複合コーティングの生成を実現する。
【0074】
本発明によれば、上記金属製品の均一な表面上のコーティングの厚みは、20nm〜20μmであり、好ましくは100nm〜5μmの間である。コーティング厚みは、これらに限定されるべきではない。なぜなら、本発明は他方で分子スケールのコーティングの調製を実現し、他方で非常に厚いコーティング(例えば、100μm以上)のコーティングの調製を実現するからである。
【0075】
本発明はさらに、三次元構造を成長させるための足場として金属要素を用いる三次元構造の調製を実現する。
【0076】
本発明によれば、レーザーアブレーションによってコーティングされた特定の表面を備える金属製品も提供される。このコーティングされた均一な表面積は少なくとも0.2dm2を備え、コーティングは、パルス状レーザー光線が上記レーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備える回転光学スキャナを用いて走査される超短パルスレーザー堆積を用いることにより実施される。これらの製品を用いて享受できる利益は、本方法の以前の説明の中により詳細に説明されている。
【0077】
本発明の一実施形態では、上記均一な表面積は少なくとも0.5dm2を備える。本発明のより好ましい実施形態では、上記均一な表面積は少なくとも1.0dm2を備える。本発明は、0.5m2より大きい、例えば1m2以上の均一なコーティングされた表面積を備える製品をも容易に実現する。
【0078】
本発明の一実施形態によれば、上記均一な表面積上に生成したコーティングの平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、100nm未満である。より好ましくは、平均表面粗さは30nm未満である。平均表面粗さということによって、適切な手順(例えば、AFMまたはプロフィロメータにおいて利用可能なもの)によってフィットさせた中心線平均カーブからの平均のずれを意味する。この表面粗さは、とりわけ、本発明に従ってコーティングされた金属製品上のコーティングの耐摩耗性および引っかき抵抗性、トライボロジー特性および透明性に影響を及ぼす。
【0079】
本発明の別の実施形態によれば、上記均一な表面積上に生成したコーティングの光の透過率は、88%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは92%以上である。いくつかの場合には、光の透過率は98%を超えてもよい。金属製品におけるコーティングの光学的透明性は、本発明にかかるコーティングによって得られる他の利点に加えてもとの金属の外観が好ましい用途においては、特に重要である。
【0080】
本発明のさらに別の実施形態によれば、上記均一な表面積上に生成したコーティングは、1mm2あたり1個未満のピンホールを含み、好ましくは1cm2あたり1個未満のピンホールを含み、最も好ましくは前記均一な表面積においてピンホールを含まない。
【0081】
本発明のさらに別の実施形態によれば、上記均一な表面積上の上記コーティングの最初の50%が1000nm、好ましくは100nm、最も好ましくは30nmを超える直径を有する粒子を含まない様式で、上記均一な表面積はコーティングされる。
【0082】
本発明にかかる金属製品は、実質的に、金属でも、金属化合物(例えば、金属合金、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、またはこれらの複合材料)のどれでも含み得る。すでに説明したように、この関連において金属製品の定義は、製品が本発明の方法でコーティングすることができる特定の金属表面を含むというように理解されるべきである。従って、製品本体(未コーティング製品)の金属含量は、0.1〜100%の間で変動し得る。
【0083】
本発明の一実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面積は、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物またはこれらの混合物でコーティングされる。用いられ得る金属は、本発明のコーティング方法の説明においてすでに説明した。
【0084】
本発明の別の実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面積は90原子%を超える炭素、70%を超えるsp3結合を含む炭素材料でコーティングされる。用いられ得る炭素材料は、本発明のコーティング方法の説明においてすでに説明した。
【0085】
本発明のさらに別の実施形態では、上記金属製品の均一な表面積は、炭素、窒素および/またはホウ素を様々な比で含む材料でコーティングされる。かかる材料は、本発明のコーティング方法の説明においてすでに説明した。
【0086】
本発明のさらに別の実施形態によれば、特定の金属製品の均一な表面積は有機ポリマー材料でコーティングされる。かかる材料は、本発明のコーティング方法の説明においてすでにより詳細に説明した。
【0087】
本発明の一実施形態によれば、上記均一な表面積は無機材料でコーティングされる。かかる材料は、本発明のコーティング方法の説明においてすでにより詳細に説明した。
【0088】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面は多層コーティングによってコーティングされる。本発明の別の好ましい実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面は単層コーティングによってコーティングされる。
【0089】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面上のコーティングの厚みは20nm〜20μmの間であり、好ましくは100nm〜5μmの間である。本発明は、1層または数層の原子層コーティングおよび100μmを超える(例えば1mm)ような厚いコーティングを含むコーティングされた製品をも実現する。本発明はさらに、三次元構造を成長させるための足場として金属要素を用いることによって三次元構造の調製を実現する。
【実施例】
【0090】
(公知の技術の問題を示すための実施例−レーザー技術)
図2は、先行技術の光学スキャナ、つまり振動ミラー(ガルバノスキャナ)を用いて異なるITO薄膜厚み(30nm、60nmおよび90nm)で生成したポリカーボネートシート(約100mm×30mm)上のITOコーティングを示す。ITOコーティングは金属基材上に堆積していないが、この図は、特に超短パルスレーザー堆積(USPLD)においてのみならずレーザー支援コーティング一般において、光学スキャナとして振動ミラーを採用することに関連する問題のいくつかを明瞭に示している。振動ミラーがその末端位置でその角運動の方向を変えるので、そして慣性モーメントがあるために、このミラーの角速度はその末端位置の近くでは一定ではない。振動運動に起因して、このミラーは連続的にブレーキがかかっており、再び加速する前に停止し、これにより走査した領域のエッジでターゲット材のでこぼこした処理を引き起こす。図2からわかるように、これは次にとりわけ走査した領域のエッジに粒子を含む低質のプラズマをもたらし、ついには低品質で一見しただけで不均一とわかるコーティング結果をもたらす。用いたスキャナの性質に起因してアブレーションされた材料の不均一な分布を示すために、コーティングパラメータを選択した。パラメータを適切に選択すると、膜の品質を向上させることができ、問題は見えなくなるが、なくなるわけではない。
【0091】
(公知の技術の問題を示すための実施例−レーザー技術)
従来どおり、約2〜3m/sの代表的な最大速度、実際には約1m/sの速度でレーザー光線を走査するためにガルバノスキャナを使用する。これは、実に40〜60パルスが2MHzの繰り返し速度で重なっていることを意味する(図3)。
【0092】
(公知の技術の問題を示すための実施例−レーザー技術)
プラズマに関連する質の問題を、公知の技術によるプラズマ発生を示す図34aおよび図34bに示す。レーザーパルスエネルギーγ1114がターゲット表面1111に衝突する。このパルスは長パルスであるので、深さhおよび光線直径dは同程度の強度であり、パルス1114の熱も衝突スポット領域の表面だけでなく、表面1111の下深さhよりも深くまでも加熱する。この構造体は熱ショックを経験し、張力が発生し、これにより破壊を伴いながらFと示した断片が生成する。この実施例においてはプラズマは品質がまったく劣悪であるかも知れないため、小さい点1115で示す分子およびそれらのクラスターも存在するように見せてある。これと関連して、図34bに示すガス1116から形成されるような類似の構造の核またはクラスターについても数字1115により参照している。文字「o」は、粒子ガスからおよび/または凝集によって形成および成長し得る粒子を示す。放出された断片は、凝縮/およびまたは凝集によっても成長する可能性がある。これは点からFへおよびoからFへと湾曲した矢印で示してある。湾曲した矢印はプラズマ1113からガス1116へ、さらには粒子1115およびサイズが大きくなった粒子1117への相転移をも示している。図34bのアブレーションプルームは劣悪なプラズマ生成に起因して断片Fおよび蒸気およびガスから生成する粒子を含むことがあるので、このプラズマはプラズマ領域として連続的ではなく、従って単一のパルスプルーム内で品質のばらつき(variation)が見られるかも知れない。組成および/または深さhより下の構造の欠陥ならびにその結果生じる深さのばらつき(図34a)に起因して、図34bのターゲット表面1111はさらなるアブレーションのためにはもはや利用可能ではなく、材料のいくらかは利用可能であるにもかかわらずこのターゲットは無駄にされる。
【0093】
このような問題は、最新のスキャナを採用しているとしても、ナノ秒レーザー一般および現在のピコ秒レーザーに関して共通である。
【0094】
(本発明の実施例−1)
図32aは、隣接するパルスとわずかに重なりながらターゲット材のアブレーションを実現する速度で回転スキャナを用い、先行技術のガルバノスキャナに関連する問題を回避するピコ秒範囲のパルス状レーザーによってアブレーションされたターゲット材を示す。図32bはアブレーションされた材料の1つの部分の拡大図を示しており、材料のx軸上およびy軸上の滑らかかつ制御されたアブレーション、従って粒子を含まない高品質のプラズマの発生ひいては高品質の薄膜およびコーティングの発生を明瞭に示す。図32cは1つまたはいくつかのパルスによって実現できる1つの単独のアブレーションスポットの実現可能なx方向寸法およびy方向寸法の例を示す。本発明は、アブレーションされたスポットの幅はアブレーションされたスポット領域の深さよりも常にはるかに大きいような様式で材料のアブレーションを実現することがここではっきりと見て取れる。理論的には、(粒子が生成するであろう場合は)生成し得る粒子はスポット深さの最大サイズを有することができるであろう。回転スキャナは、大きい走査幅と同時に大きい生産速度で良質の、粒子を含まないプラズマを生成する。これはコーティングすべき大きい表面積を備える基材にとっては特に有益である。さらに図32a、図32bおよび図32cは、現在の技術とは対照的に、すでにアブレーションされたターゲット材領域は高品質のプラズマを新しく発生させるためにアブレーションを受けることができ、従ってコーティング/薄膜製造コスト全体は劇的に下がることを明瞭に示す。
【0095】
(本発明の実施例−2)図33aは、ピコ秒USPLDレーザーを用い、タービンスキャナでレーザーパルスを走査することによってコーティングを実施する実施例を示している。この実施例では、走査速度は30m/sでありレーザースポット幅は30μmである。この実施例では、隣接するパルス間で1/3の重なりがある。
【0096】
(本発明の実施例−コーティングされた製品)1064nmのピコ秒範囲のレーザー(X−lase、20〜80W)による超短パルスレーザー堆積(USPLD)を採用することにより、以下のサンプルを種々の金属基材上に成長させた。基材温度は室温〜400℃まで変化し、ターゲット温度は室温〜700℃の範囲にあった。酸化物、焼結した黒鉛、焼結した黒鉛状C3N4Hx(Carbodeon Ltd Oy)および種々の金属ターゲットを採用した。酸素雰囲気を採用した場合には、酸素圧は10-4〜10-1mbar(10-4hPa〜10-1hPa)の範囲で変動した。窒素雰囲気を採用した場合には、窒素圧は10-4〜10-1mbar(10-4hPa〜10-1hPa)の範囲で変動した。採用したスキャナは、ターゲットの表面で1m/s〜350m/sの間の調節可能な光線の速度を実現する回転ミラースキャナであった。採用した繰り返し速度は1〜52MHzの間で変動し、高品質コーティングを工業的に製造する場合はスキャナおよび高繰り返し速度の両方が重要であることが明瞭に示された。堆積した膜は、共焦点顕微鏡、FTIR分光法およびラマン分光法、AFM、光透過率測定、ESEMによって、そしてある場合には電気測定(University of Kuopio,Finland;ORC,Tampere,FinlandおよびCorelase Oy,Tampere Finland)によって特性解析した。採用したスポットサイズは20〜80μmの間で変動した。摩耗試験は平円板上にピンを置く方法(pin on disk−method)(University of Kuopio,Finland)を採用して実施した。試験は、室温22℃、相対湿度50%(ADコーティング)または相対湿度25%(他の場合)(潤滑なし)で、ピンとして直径6mmの硬い鋼球(AISI420)を用いて10〜125gの範囲の荷重で実施した。ADコーティングについては、回転速度は300〜600rpmであり、レンズについては1rpmであった。すべてのコーティングは優れた磨耗特性および接着性を保有していた。
【0097】
(実施例1)
4MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は4mmで、焼結した炭素をアブレーションすることにより、250mm×400mmの大きさの鏡面仕上げのアルミ箔の一片をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-5気圧(約0.01hPa)であった。このプロセスにより、均一な空色に着色した透明なコーティングが得られた。コーティング厚みは200nmであった。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、8nmであると測定した。測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0098】
(実施例2)
4MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長17ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10mmで、酸化銅をアブレーションすることにより、300mm×400mmの大きさの薄銅板をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-1気圧(約100hPa)であった。このプロセスにより、均一な淡緑色に着色した不透明なコーティングが得られた。コーティング厚みは5μmであった。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、50nmであると測定した。
【0099】
(実施例3)
15MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は6cmで、アルミニウムチタンオキシド(ATO)をアブレーションすることにより、実施例2の酸化銅をコーティングした薄銅板ををコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-3気圧(約1hPa)であった。このプロセスにより、均一な淡緑色に着色した透明なコーティングが得られ、ATOはもとの不透明な酸化銅のコーティングの色を変えなかった。コーティング厚みは420nmであった。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、40nmであると測定した。ATOコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0100】
(実施例4)
20MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー4μJ、パルス長10ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は1mmで、酸素雰囲気中で酸化チタンをアブレーションすることにより、500mm×600mmの大きさの薄鋼板(厚み1.5mm)をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-2気圧(約10hPa)であった。このプロセスにより、コーティング厚み50nmを有する透明なコーティングが得られた。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、3nmであると測定した。酸化チタンコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。TiO2コーティングの光学的透明性が98%より高いことを測定した。
【0101】
(実施例5)
20MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー4μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10mmで、チタンをアブレーションすることにより、500mm×600mmの大きさの薄鋼板(厚み1.5mm)をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-5気圧(約0.01hPa)であった。このプロセスにより、コーティング厚み280nmを有する金属的なチタンコーティングが得られた。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、より良好であると測定した。酸化チタンコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0102】
(実施例6)
20MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10mmで、タンタルをアブレーションすることにより、500mm×600mmの大きさの薄鋼板(厚み1.5mm)をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-4気圧(約0.1hPa)であった。このプロセスにより、コーティング厚み320nmを有する金属的なタンタルのコーティングが得られた。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、3nmであると測定した。タンタルコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0103】
(実施例7)
35MHzのパルス繰り返し速度、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は2cmで、桃色の瑪瑙(粉砕して焼結したもの)をアブレーションすることにより、マークのない0.33dm3の体積のアルミニウム缶、10cmの従来の金属ねじおよび一片の薄鋼(35mm×50mm)をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-4気圧(約0.1hPa)であった。このプロセスにより、100nmと550nmとの間のコーティング厚みを有する桃色の瑪瑙で着色した不透明なコーティングが得られた。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、10nmより良好であると測定した。瑪瑙コーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0104】
(実施例8)
10MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は20mmで、コールドプレスしたキトサンをアブレーションすることにより、500mm×600mmの大きさの薄鋼板(厚み1.5mm)をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-5気圧(約0.01hPa)であった。このプロセスにより、コーティング厚み250nmを有する一部不透明なコーティングが得られた。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、10nmより良好であると測定した。ポリマーコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0105】
(実施例9)
ステンレス鋼製の骨ネジを、20MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー4μJ、パルス長15ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は1mmで、加熱プレスした黒鉛をアブレーションすることによりコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-5気圧(約0.01hPa)であった。コーティング厚みを、1μmであると測定した。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、3nmであると測定した。ダイヤモンドコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。炭素含量を98%より高いと測定し、sp3結合の割合は約86%であった。
【0106】
(実施例10)
20MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10mmで加熱プレスしたC3N4Hxをアブレーションすることにより、ステンレス鋼製の骨ネジをコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-5気圧(約0.01hPa)であった。コーティング厚みを、1μmであると測定した。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、3nm未満であると測定した。窒化炭素コーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0107】
(実施例11)
30MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10.2cmで、酸化形態のITO(90重量%のIn2O3、10重量%のSnO2)をアブレーションすることにより、300mm×400mmの大きさの薄銅板をコーティングした。酸素圧は10-4〜10-1mbar(10-4〜10-1hPa)の範囲で変動した。このプロセスにより、均一で透明なコーティングが得られた。コーティング厚みを110nmと測定した。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、2nm未満であると測定した。ITOコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0108】
(実施例12)
27MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10.2cmで、金属ターゲット(90重量%のIn、10重量%のSn)由来のITOをアブレーションすることにより、300mm×400mmの大きさの薄銅板をコーティングした。酸素圧は10-4〜10-1mbar(10-4〜10-1hPa)の範囲で変動した。このプロセスにより、均一で透明なコーティングが得られた。コーティング厚みは40nmであった。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、2nm未満であると測定した。ITOコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0109】
(実施例13)
4MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長24ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は15cmでクロムをアブレーションすることにより、図14にかかる金属製やすりをクロム金属でコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-4気圧(約0.1hPa)であった。このプロセスにより均一な金属的なコーティングが得られた。コーティングの厚みを320nmと測定し、平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、2nm未満であると測定した。クロムコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0110】
(実施例14)
6MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長24ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は5cmで、焼結したC3N4Hx材料をアブレーションすることにより、実施例13にかかる金属製やすりをコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-4気圧(約0.1hPa)であった。このプロセスにより均一な金属的なコーティングが得られた。窒化炭素コーティングの厚みを390nmと測定し、平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、2nm未満であると測定した。窒化炭素(C3N4)コーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0111】
(実施例15)
4MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長24ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は3cmで焼結したC3N4Hx材料をアブレーションすることにより、図17にかかる金属電動弁を窒化炭素でコーティングした。窒素圧は10-4〜10-1mbar(10-4〜10-1hPa)の間で変動した。このプロセスにより均一なC3N4コーティングが得られた。窒化炭素コーティングの厚みを500nmと測定し、平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合2nm未満であると測定した。窒化炭素(C3N4)コーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0112】
(実施例16)
26MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は2.5cmで、活性酸素雰囲気中で酸化アルミニウムをアブレーションすることにより、図15にかかる車両モーターの金属製シリンダを酸化アルミニウムでコーティングした。酸素圧は10-4〜10-1mbar(10-4〜10-1hPa)の間で変動した。このプロセスにより均一で透明なコーティングが得られた。酸化アルミニウムコーティングの厚みを2.3μmと測定し、平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合2nm未満であると測定した。酸化アルミニウムコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0113】
(実施例17)
9MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は2.5cmで、活性酸素雰囲気中でチタン金属をアブレーションすることにより、図20にかかる金属製蛇口を酸化チタンでコーティングした。酸素圧は10-4〜10-1mbar(10-4〜10-1hPa)の間で変動した。このプロセスにより均一で透明なコーティングが得られた。酸化アルミニウムコーティングの厚みを25nmと測定し、平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合2nm未満であると測定した。酸化アルミニウムコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。コーティングした物体を有機物の汚れにさらし、その後その物体を光および特定の湿度にさらした。このコーティングは自浄性を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】最先端の低温アブレーションコーティング/薄膜生産および機械加工ならびに他の仕事関連用途において用いられる2つのガルバノスキャナを備える例示的なガルバノスキャナ装置の図である。レーザー光線を方向付けるガルバノスキャナの数は変わるが、通常は1つの単独のガルバノスキャナに限定される。
【図2】先行技術の振動ミラー(ガルバノスキャナ)を用いて異なるITO薄膜厚み(30nm、60nmおよび90nm)で生成したポリカーボネートシート(約100mm×30mm)上のITO−コーティングの図である。
【図3】先行技術のガルバノスキャナがレーザー光線を走査するために用いられ、2MHzの繰り返し速度でパルスが何度も重なっている状況を示す図である。
【図4】本発明にかかる、酸化銅およびATOでコーティングされた製品の図である。
【図5】本発明かかる方法において用いられる1つの可能なタービンスキャナミラーの図である。
【図6】図5の例において各ミラーによってもたらされるアブレーション光線の移動を示す図である。
【図7】本発明に従って用いられる1つの可能な回転スキャナを介する光線の誘導を示す図である。
【図8】本発明に従って用いられる1つの可能な回転スキャナを介する光線の誘導を示す図である。
【図9】本発明に従って用いられる1つの可能な回転スキャナを介する光線の誘導を示す図である。
【図10】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図11】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図12】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図13】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図14】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図15】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図16】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図17】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図18】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図19】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図20】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図21】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図22】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図23】本発明にかかる、2つの異なるコーティング層を有するコーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図24】本発明にかかる、コーティングされた製品の2つの実施形態の図である。
【図25】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図26】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図27】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図28】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図29】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図30】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図31】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図32】(図32a)回転スキャナ(タービンスキャナ)を用いてレーザー光線を走査することによりターゲット材がアブレーションされた、本発明にかかる実施形態の図である。(図32b)図32aのターゲット材の例示的な部分を示す図である。(図32c)図32bのターゲット材の例示的なアブレーションされた領域を示す図である。
【図33a】タービンスキャナ(回転スキャナ)を用いてターゲット材を走査およびアブレーションするための、本発明にかかる例示的な方法を示す図である。
【図34a】公知の技術のプラズマに関連する問題を示す図である。
【図34b】公知の技術のプラズマに関連する問題を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的に、大表面積を備える金属製品を超短パルスレーザーアブレーションによってコーティングする方法に関する。本発明は、その方法によって製造される製品にも関する。本発明は、高コーティング生産速度、優れたコーティング特性および低製造コストのような多くの有利な効果を有する。
【背景技術】
【0002】
(金属製品)
青銅器時代以降ずっと、金属およびそれより誘導される様々な製品は人類にとって非常に重要な役割を果たしてきた。金属は優れた磨耗特性、化学特性および物理特性を有しているとしても、これらの製品に関連する多くの問題がまだ存在する。これらの問題の一部は、金属材料の構成(合金および組成)を変更することにより金属製品の物理特性および化学特性を改良することによって解決されてきたが、表面特性に関連する問題を解決しようとする試みはあまり功を奏してはいない。
【0003】
鉄製品を考えると、もとの鉄は鋼、炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、工具鋼、および例えば鋳鉄に誘導される。
【0004】
金属製品の表面についての問題は、耐腐食性、磨耗特性およびトライボロジー特性、耐熱性と特に関連するだけでなく、種々の金属製品を建造物ならびに内部用途および/または外部用途で使用することにも関連する。通常は、金属製品は非常に長期の用途向けに設計され、それらの技術的特性、機械的特性および視覚的特性は、好ましくは数十年を超える寿命を実現するべきである。
【0005】
目に見える建造物のみならず直接の内部用途において金属製品の使用が継続的に拡大していることに起因して、それらの清浄特性も特に強調されている。
【0006】
通常、金属製品は大表面積を備え、例えば建造物および内部製品用の薄いシートは例えば1200mm×1500mmのサイズで製造され、平らなシートまたはロール状のシートとして顧客に配達される。製品を保護し寿命を伸ばすために、通常、上記問題は塗装による単純なコーティングにより、またはある場合には電解コーティングにより対処されてきた。例えば、アルミニウム製品は、通常、電解皮膜形成(eloxation)、すなわちシュウ酸または現在は硫酸による電解酸化に供される。銅、および真鍮のような多くの他の金属製品は、それらの化学特性のために酸化されるが、内部効果は所望の効果を保つ。環境面で有害であるので、銅およびいくつかの他の金属酸化物またはそれらの誘導体の漏出は望ましくなく、この問題は、製品の内部効果を同時に保持する別の保護コーティングによって解決するべきである。
【0007】
現在、金属的な外観を備える製品に対する要求、すなわちもとの金属(特に、銅、真鍮およびステンレス鋼)の装飾的効果を失うことなく金属製品表面の酸化を防止すべきであるという要求がある。従って、保護。
【0008】
目に見える建造物および内部用途において、最近では清浄化の問題はナノテクノロジーの手段によって対処されてきている。UV照射によって活性化されるナノサイズの二酸化チタン粒子は、UV触媒反応において水と一緒になって有機物質を分解することによる自浄性を有する。清浄効果および透明性を同時にもたらすことに起因して、上記技術は共通にガラス、特に窓に、そして少しはコンクリート製品に適用される。それらは金属に対する接着性が乏しいため、この技術は金属製品には共通には適用されない。さらに、粒径分布があるため均一層の自浄性表面を作製することはできない。
【0009】
例えば化学反応器および化学チューブならびに腐食性化学物質と接触しているかそうでなければ有害環境または磨耗環境に曝されるすべての金属製品をコーティングすることは困難であるので、通常はこれらの構成要素は高価な特殊金属(例えば、チタンおよびその種々の合金)から製造されねばならなかった。
【0010】
金属製品のコーティングに関連する現在の問題のいくつかに取り組むいくつかのアプローチがあり、最も最近かつ技術的に進歩した方法は、CVD(化学的気相堆積)およびPVD(物理的気相堆積)の両方を含んでなる。最も最近のコーティング/薄膜生成法の1つは、とりわけ低温アブレーション法であり、この技術は高真空、長いコーティング時間およびバッチ式のコーティング装置において非常に小さい面積をコーティングすることのみに利用可能である。
【0011】
(レーザーアブレーション)
近年、レーザー技術の注目すべき進歩により、半導体ファイバーに基づく非常に高効率のレーザーシステムを生成する手段がもたらされた。これにより、いわゆる低温アブレーション法における進歩が支えられている。
【0012】
本願の優先日において、ファイバー一体型ダイオード励起半導体レーザーのみが光バルブ励起半導体レーザーと競合しており、これらはともにレーザー光がまずファイバーの中に導かれ、次に作業ターゲットに転送されるという特徴を有する。これらのファイバーレーザーシステムは、工業的スケールでレーザーアブレーション用途に適用できる唯一のレーザーシステムである。
【0013】
ファイバーレーザーの最近のファイバー、およびその結果もたらされる低放射パワーは、気化/アブレーションターゲットとして気化/アブレーションにおいて使用される材料を制限するようである。アルミニウムを気化/アブレーションすることは、低パルスパワーで促進することができるが、銅、タングステンなどのような気化/剥離させることがより困難な物質はより大きいパルスパワーを必要とする。同じことは、新しい化合物を同じ従来技術を用いて成長させたいという状況にも当てはまる。触れるべき例としては、例えば、レーザーアブレーション後の条件において気相で適切な反応を行うことによって、炭素(黒鉛)から直接ダイヤモンドを製造すること、またはアルミニウムと酸素から直接アルミナを生成することが挙げられる。
【0014】
一方で、ファイバーレーザー技術の前向きの進歩にとっての最も重大な障害の1つは、ファイバーが破壊することなくまたはレーザー光線の質を落とすことなく高パワーレーザーパルスに耐えるためのファイバーのファイバー容量であるように思われる。
【0015】
新規な低温アブレーションを用いる場合には、コーティング、薄膜生産および切断/溝切り/彫刻などに伴う定性的な問題ならびに生産速度に関する問題に対しては、レーザーパワーを上げることおよびターゲット上のレーザー光線のスポットサイズを小さくすることに注目することによってアプローチされてきた。しかしながら、パワー増加のほとんどはノイズに消費された。いくつかのレーザー製造業者はレーザーパワーに関する問題を解決したが、定性的な問題および生産速度に関する問題は依然として残っていた。コーティング/薄膜および切断/溝切り/彫刻などの両方に対する代表的なサンプルは、低繰り返し速度、狭い走査幅ともにのみ、および従って工業的な実行可能性を超えた長い作業時間(大きい物体については特に問題になる)をかけなければ製造することはできなかった。
【0016】
パルスのエネルギー容量が一定に保たれる場合、パルスのパワーは、パルス持続時間が短くなると増加する。これはレーザーパルス持続時間が短くなるにつれて重大さが増してくる問題である。この問題は、ナノ秒パルスレーザーについてでさえ重大であるが、低温アブレーション法においてはそれ自体は当てはまらない。
【0017】
パルス持続時間がフェムト秒スケールまたはさらにはアト秒スケールにまで短くなると、この問題は解決できなくなる。例えば、10〜15psのパルス持続時間を用いたピコ秒レーザーシステムにおいて、レーザーの全パワーが100Wであり繰り返し速度が20MHzである場合、パルスエネルギーは10〜30μmスポットについて5μJであるはずである。 このようなパルスに耐えるためのファイバーは、本願の優先日において本発明者らが知る限りでは、まさにその優先日の時点では利用可能ではなかった。
【0018】
生産速度は繰り返し速度または繰り返し周波数に正比例する。一方で、公知のミラーフィルムスキャナ(ガルバノスキャナまたは前後に揺動する(back and worth wobbling)タイプのスキャナ)は前後への動きを特徴とする様式でデューティサイクルをこなすが、デューティサイクルの両端におけるミラーの停止、加えて折り返し点における加減速および関連する運動量停止にはいくらか問題があり、これらはすべてスキャナとしてのミラーの利用可能性を制限するだけでなく、特に走査幅にも制限を加える。繰り返し速度を大きくして製造速度を高めようとすると、加減速により走査範囲を狭くなるか照射の分布が不均一になるかのいずれかが起こり、これにより照射がミラーの加速および/または減速を介してターゲットにぶつかるときターゲットにおいてプラズマが発生する。
【0019】
単にパルス繰り返し速度を高めることでコーティング/薄膜製造速度を高めようとすると、現在の上述の公知のスキャナでは、制御せずにkHz範囲の低パルス繰り返し速度でパルスをターゲット領域のスポットを重ねるということになる。悪い場合には、かかるアプローチは、ターゲット材からのプラズマではなく粒子の放出をもたらし、少なくともプラズマの中への粒子の形成をもたらす。いくつかの連続するレーザーパルスがターゲット表面の同じ場所に向けられると、蓄積効果によってターゲット材を不均一に侵食し、ターゲット材の加熱を導くこともあり、これでは低温アブレーションの利点は失われる。
【0020】
同じ問題はナノ秒範囲のレーザーにも当てはまり、高エネルギーで長時間継続するパルスのために、この問題は必然的にさらにより過酷になる。この場合、ターゲット材の加熱が常に起こり、ターゲット材の温度は約5000Kにまで上昇する。従って、1回の単発のナノ秒範囲のパルスでも上述の問題を伴いターゲット材を大きく侵食する。
【0021】
公知の技術では、ターゲットは不均一に磨耗するかも知れないだけでなく、容易にフラグメント化しプラズマ品質を劣化させるかも知れない。従って、かかるプラズマでコーティングされる表面はプラズマの不利益な効果を受ける。表面はフラグメントを含むことがあり、プラズマはかかるコーティングなどを形成するには不均一に分布したものであるかも知れない。これは精度を要求する用途では問題であるが、欠陥がまさにその用途の検出限界より下を保つかぎりは、例えば塗料または顔料については問題ではないかも知れない。
【0022】
現在の方法は、使い捨て式でターゲットを磨耗させ、そのため同じターゲットは同じ表面から再度さらなる使用において利用できない。この問題は、ターゲット材を移動させることによりおよび/またはひいては光線スポットを移動させることでターゲットの新しい表面を利用することによって対処されてきた。
【0023】
機械加工または作業関連用途においては、いくらかのフラグメントを含む残留物または屑も切断線を不均一に従って不適切にする可能性がある。これは、例えば流れ制御の穿孔で起こり得る。また面は、放出されたフラグメントによってもたらされるランダムな凹凸のある外観を有するように形成されることがあり、これは例えば特定の半導体製造用とでは適切でないかも知れない。
【0024】
加えて、前後に動くミラーフィルムスキャナは構造体自体にだけでなく、ミラーが取り付けられておりそして/またはミラーの移動をもたらすベアリングに負荷をかける慣性力を発生する。特にかかるミラーがほぼ極端な範囲の可能な操作設定で作動している場合にはかかる慣性は徐々にミラーの取り付けを弛めるかも知れず、不均一な製品の品質が繰返される可能性から理解できるように、長いタイムスケールでは設定のずれ(roaming)を導くかも知れない。停止ならびに動きの方向および関連する速度変化のために、かかるミラーフィルムスキャナは、アブレーションおよびプラズマ生成に使用するには、非常に制限された走査幅を有する。操作はとにかく非常にゆっくりであるが、効果的なデューティサイクルはサイクル全体に比べて短い。ミラーフィルムスキャナを利用するシステムの生産性を向上させるという観点からは、プラズマ生成速度は前提条件として遅く、走査幅は狭く、操作は長期間のスケールでは不安定であるだけでなく、歩留まりはプラズマへの、そしてその結果、機械および/またはコーティングを介してプラズマに関連する製品への不必要な粒子の放出に関連する可能性は非常に高い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
金属製品についての維持コストは莫大であり、着実に増加しているので、特に大表面積を備える金属製品をコーティングする技術に対するニーズがある。持続可能な発展が前提条件であるなら、製品寿命は伸ばすべきであり、維持費は低くするべきである。優れた光学特性、化学特性および/または耐磨耗性、耐熱性、コーティング接着性、自浄性および可能ならばトライボロジー特性などの特性のうちの1つまたはいくつかを賦与して大きい金属表面をコーティングすること、とりわけ均一にコーティングすることは未解決の問題として残っている。
【0026】
最近の高度な技術のコーティング方法も、ナノ秒範囲であろうが低温アブレーション範囲(ピコ秒レーザー、フェムト秒レーザー)であろうがレーザーアブレーションに関する現在のコーティング技術も、大表面積を備える金属製品の工業規模でのコーティングについての実行可能な方法は何も提供することはできない。現在のCVDコーティング技術およびPVDコーティング技術は高真空条件を必要とし、これではコーティングプロセスは回分式になり、従って現在の製品のほとんどを工業規模でコーティングするには実行可能ではない。さらに、コーティングすべき金属材料とアブレーションされるコーティング材料との間の距離は長く、通常は50cmを超え、これではコーティングチャンバは大きくなり、真空ポンプ排出期間は時間がかかりエネルギーがかかるものになる。このような大容量真空チャンバは、コーティングプロセス自体においてコーティング材料で容易に汚染されることにもなり、連続的な時間のかかる洗浄プロセスが必要になる。
【0027】
現在のレーザー支援コーティング方法一般においてコーティング生産速度を高めようとすると、他方で,種々の欠陥(例えば、ピンホール、表面粗さの増大、光学特性の低下または消失、コーティング表面の粒子状物質、腐蝕経路に影響を及ぼす表面構造中の粒子状物質、表面均一性の低下、接着性の低下、不十分な表面厚みおよびトライボロジー特性などが起こる。
【0028】
現在のコーティング方法は、コーティング目的一般に用いられ得る材料を厳しく制限し、従って今日市場で利用可能な様々なコーティングされた金属製品の範囲を限定する。適用できる場合には、ターゲット材表面はターゲット材の一番外側の層のみがコーティング目的のために用いることができるような様式で侵食される。この材料の残りは無駄にされるか、または再使用の前に再加工に供されねばらないかのいずれかである。本発明の目的は、公知の技術のこれらの問題を解決、または少なくとも軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の第1の目的は、コーティングすべき均一な表面積が少なくとも0.2dm2を備えるように、パルス状レーザー堆積によって金属製品の特定の表面をコーティングするための問題を解決するための新しい方法を提供することである。
【0030】
本発明の第2の目的は、コーティングされた均一な表面積が少なくとも0.2dm2を備えるように、パルス状レーザー堆積によってコーティングされた新しい金属製品を提供することである。
【0031】
本発明の第3の目的は、ターゲット材がプラズマの中へ粒子状断片をまったく生成しないか(すなわち、そのプラズマは純粋プラズマである)または(存在するとしても)その断片は稀でありかつプラズマがアブレーションによって前記ターゲットから生成されるアブレーション深さよりも少なくともサイズが小さいように、金属製品のコーティングにおいて使用される任意のターゲットから利用可能なそのような微細なプラズマをどうやって提供するかという問題を解決するための少なくとも新しい方法および/または関連する手段を提供することである。
【0032】
本発明の第4の目的は、金属製品の均一な表面積を微細なプラズマでアブレーションによって前記ターゲットから生成されるアブレーション深さよりもサイズが大きい粒子状断片なしにどうやってコーティングするか、すなわち基材を実際上任意の材料に由来する純粋プラズマでどうやってコーティングするかという問題を解決するための少なくとも新しい方法および/または関連する手段を提供することである。
【0033】
本発明の第5の目的は、粒子状断片の存在または前記アブレーション深さよりも小さいそれらのサイズを制限することにより運動エネルギーを粒子状断片に対して無駄にすることが抑制されるように、上記純粋プラズマによって金属製品の均一な表面積に対するコーティングの良好な接着性を提供することである。同時に、粒子状断片は顕著には存在しないため、それらは核生成および凝縮に関連する現象を介してプラズマプルームの均質性に影響を及ぼし得る冷えた表面を形成しない。
【0034】
本発明の第6の目的は、大きい金属本体に対してでさえも工業的な様式で微細なプラズマ品質および幅広いコーティング幅と同時に幅広い走査幅をどうやって提供するかという問題を解決するための少なくとも新しい方法および/または関連する手段を提供することである。
【0035】
本発明の第7の目的は、上述の本発明の目的に従う工業規模の適用を実現するために使用する高い繰り返し速度をどうやって提供するかという問題を解決するための少なくとも新しい方法および/または関連する手段を提供することである。
【0036】
本発明の第8の目的は、第1から第7の目的に従う製品を製造するために、均一な製品表面のコーティングのための微細プラズマをどうやって提供するか、しかし必要なところに同品質のコーティング/薄膜を生成するコーティング段階において使用するためのターゲット材を依然として節約するかという問題を解決するための少なくとも新しい方法および/または関連する手段を提供することである。
【0037】
本発明のさらなる目的は、コーティングされた製品のためにどうやって低温で作業するかおよび/または表面をコーティングするかという問題を解決するために、前述の目的に従ってこのような方法および手段を使用することである。
【0038】
本発明は、パルス状レーザー光線がレーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備える回転光学スキャナで走査される超短パルスレーザー堆積(Ultra Short Laser Pulsed Deposition)を用いると、大きい表面を備える金属製品を、工業的生産速度および1つ以上の技術的特徴(例えば、光学的透明性、耐薬品性および/または耐磨耗性、引っかき抵抗性、耐熱性および/または熱伝導性、コーティング接着性、自浄性、および可能ならばトライボロジー特性、微粒子を含まないコーティング、ピンホールがないコーティングおよび導電性)に関する優れた品質を備えてコーティングすることができるという驚くべき発見に基づいている。さらに、本方法はターゲット材の経済的な使用を実現する。なぜなら、このターゲット材は、高コーティング結果を保持してすでに供された材料の再使用を実現する様式でアブレーションされるからである。本発明はさらに、比較的低い真空条件で同時に高いコーティング特性を備えて金属製品のコーティングを実現する。さらに、必要とされるコーティングチャンバの容積は、競合する方法と比べて劇的に小さい。このような特徴は設備費全体を劇的に下げかつコーティング生産速度を高める。多くの好ましい場面では、コーティング設備はオンライン様式での生産ラインに適合させることができる。
【0039】
20W USPLD装置の場合のコーティング堆積速度は2mm3/分である。レーザーパワーを80Wまで上昇すると、それに応じてこのUSPLDコーティング堆積速度は8mm3/分に上昇する。本発明によれば、今、高められた堆積速度は高品質コーティング生産のために十分に採用することができる。
【0040】
本願では、用語「コーティング」は基材上の任意の厚みの材料を形成することを意味する。従って、コーティングは、例えば<1μmの厚みの薄膜を製造することも意味することがある。
【0041】
本発明の種々の実施形態は適切な部分を組み合わせることができる。
【0042】
本発明を読んで理解したとき、当業者は、示した本発明の実施形態を本発明の範囲を離れることなく修正するための多くの方法を知るであろう。しかしながら、本発明の範囲は本発明の実施形態の実施例として示した、示された実施形態のみに限定されない。
【0043】
本発明の説明した利点および他の利点は、以下の詳細な説明から、そして図面を参照することにより明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明によれば、金属製品の特定の表面をレーザーアブレーションによってコーティングするための手段が提供される。この方法ではコーティングすべき均一な表面積は少なくとも0.2dm2を備え、コーティングはパルス状レーザー光線がこのレーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備える回転光学スキャナを用いて走査される超短パルスレーザー堆積を用いて実施される。
【0045】
金属製品ということによって、金属製品(例えば、構造物全般用、内部用途および装飾用途、機械加工用)、車両(例えば、自動車、トラック、オートバイおよびトラクター)、航空機、船舶、ボート、列車、レール、工具、医療用製品、電子デバイスおよびそれらのケーシング、電光、プロフィール、フレーム、部品(component parts)、プロセス設備、種々の産業(例えば、化学産業、電力業界およびエネルギー業界)のためのパイプおよびタンク、宇宙船、金属平板、軍事用品、空調、掘削機(mining)、ねじ、製パン機およびパン切り用具およびナイフ、送水管、ドリルおよびその部品などを意味するがこれらに限定されない。従って、金属製品は必ずしも金属から成っていなければならないわけではない。本発明によれば、金属含量が100%であるか1%であるかどうかに係わらず金属表面を含むすべての製品が、本明細書において提示される方法によってコーティングすることができる。本発明の可能な実施形態のいくつかが図4および図10〜図31に示されている。
【0046】
超短パルスレーザー堆積(Ultra Short Laser Pulsed Deposition)はしばしばUSPLDと略される。この堆積法は低温アブレーションとも呼ばれる。この方法では、特徴の1つは、例えば競合するナノ秒レーザーとは反対に、露出されたターゲット領域からこの領域の周辺への熱移動が現実的には起こらないが、レーザーパルスエネルギーは依然としてターゲット材のアブレーション閾値を超えるに十分であることである。パルス長は、通常は50ps未満、例えば5〜30ps(すなわち、超短)であり、低温アブレーションはピコ秒、フェムト秒およびアト秒パルス状レーザーを用いて到達される。レーザーアブレーションによってターゲットから気化した材料は室温近くに保持された基材上に堆積する。依然として、プラズマ温度は露出されたターゲット領域では1.000.000Kに達する。プラズマ速度は秀でており100.000m/sさえに達し、従って生成したコーティング/薄膜の十分な接着性にとって見通しはよりよい。本発明の別の好ましい実施形態では、上記均一な表面積は少なくとも0.5dm2を備える。本発明のさらに好ましい実施形態では、上記均一な表面積は少なくとも1.0dm2を備える。本発明は、0.5m2より大きい、例えば1m2以上の均一なコーティングされた表面積を備える製品のコーティングをも容易に実現する。本プロセスは高品質プラズマで大きい表面をコーティングするために特に有益であるので、それはいくつかの異なる金属製品のあまり開拓されていない市場または未開拓の市場を満たす。
【0047】
工業的な用途においては、高効率のレーザー処理を達成することが重要である。低温アブレーションでは、低温アブレーション現象を容易にするために、レーザーパルスの強度は所定の閾値を超えなければならない。この閾値はターゲット材に依存する。高処理効率およびひいては工業的な生産性を達成するために、パルスの繰り返し速度は高くあるべきであり、例えば1MHz、好ましくは2MHzより高く、より好ましくは5MHzより高くあるべきである。上で触れたように、いくつかのパルスをターゲット表面の同じ場所に向けないことが有利である。なぜなら、いくつかのパルスをターゲット表面の同じ場所に向けるとターゲット材における蓄積効果を引き起こし、粒子の堆積によって劣悪な品質のプラズマが生じ、ひいては劣悪な品質のコーティングおよび薄膜、ターゲット材の望ましくない侵食、ターゲット材の加熱の可能性が生じるからである。それゆえに、高効率の処理を実現するために、レーザー光線の高い走査速度を有することも必要である。本発明によれば、効率よい加工を実現するために、ターゲットの表面での光線の速度は一般に10m/sより高く、好ましくは50m/sより高く、より好ましくは100m/sより高く、さらには2000m/sのような速度であるべきである。しかしながら、振動ミラーに基づく光学スキャナでは、慣性モーメントによってミラーの十分に高い角速度を実現することは妨げられる。それゆえに、ターゲット表面で得られたレーザー光線はわずか数m/sである。図1はこのような振動ミラー(ガルバノスキャナとも呼ばれる)の例を図示する。
【0048】
ガルバノスキャナを用いる本コーティング方法は最大限10cm(これより小さいことが好ましい)の走査幅を生成することができるので、本発明は同時に優れたコーティング特性および生産速度を備えてはるかに幅広い走査幅(例えば30cm、および1メートルを超えるものまで)を実現する。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、本明細書において回転光学スキャナは、レーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備えたスキャナを意味する。このようなスキャナおよびその応用はフィンランド国特許出願番号20065867に記載されている。本発明の別の実施形態によれば、回転光学スキャナはレーザー光線を反射するための少なくとも3つのミラーを備える。本発明の一実施形態では、本コーティング方法は図5に示す多角形プリズムを採用する。本明細書においては、多角形プリズムは面21、22、23、24、25、26、27および28を有する。矢印20は、このプリズムが、そのプリズムの対称軸であるその軸19の周りに回転できることを示す。図5のプリズムの面は反射鏡面であり、走査線を獲得するのに有利なように斜めになっており、プリズムがその軸の周りに回転するにつれて順番に当たっている各面が反射によってその鏡面上に入射する放射線の方向を変えるように配置されており、このプリズムは回転スキャナ(すなわちタービンスキャナ)の一部として本発明の実施形態にかかる方法で、その放射線透過線において適用可能である。図5は8個の面を示しているが、これよりももっと多くの面、実に数十または数百の面が存在してもよい。図5は、ミラーが軸に対して同一の斜めの角度にあるとも示しているが、特にいくつかのミラーを備える実施形態では、特定の範囲内で段階的にすることによって、とりわけ図6に示すような作業スポットでの特定の段階的な移動がターゲット上で実現されるように、上記角度は段階的に変化してもよい。本発明の異なる実施形態は、例えばレーザー光線を反射するミラーのサイズ、形状および数に関して、種々のタービンスキャナミラーの構成に限定されるべきではない。
【0050】
タービンスキャナの構造(図5)は、中心軸19の周りに対称的に配置された少なくとも2個のミラー、好ましくは6個より多いミラー(例えば8個のミラー)(21〜28)を備える。タービンスキャナのプリズム21が中心軸19の周りで回転する(20)につれて、ミラーは、スポット29から常に1つの同一方向から出発する(図6)線状領域へと正確に反射される放射線(例えば、レーザー光線)を方向付ける。タービンスキャナのミラー構造は傾いていなくてもよく(図7)、または所望の角度で傾いていてもよい(例えば、図8および図9)。タービンスキャナのサイズおよび釣合いは自由に選択することができる。コーティング方法の1つの有利な実施形態では、それは周囲長30cm、直径12cmおよび高さ5cmを有する。
【0051】
本発明の実施形態では、タービンスキャナのミラー21〜28は好ましくは中心軸19に対して斜めの角度で配置されることが有利である。なぜなら、レーザー光線がスキャナシステムの中に容易に導かれるからである。
【0052】
本発明の実施形態に従って採用されるタービンスキャナ(図5)では、1回転の回転運動の間にミラー21〜28が存在する数だけ多くの線状領域(図6)29が走査されるような様式で、ミラー21〜28は互いからそれることができる。
【0053】
本発明によれば、コーティングすべき表面は製品表面の全体または一部を構成していてよい。
【0054】
本発明の1つの特に好適な実施形態、すなわち建造物または内部仕上げにおける種々の用途向けの金属薄板では、コーティングの好ましい効果を得るために、シート全体がコーティングされる。厚み1mmの1200mm×1500mmの薄銅板を構成し、最初にCu2Oでコーティングされ、透明なATO(アルミニウムチタンオキシド(aluminumtitanoxide))の保護コーティングで仕上げされた本発明にかかる1つのかかる代表的な製品が図4に示されている。Cu2Oは内部効果をもたらし、ATOは有害な銅化合物が自然界に漏出するのを防止するとともに耐磨耗性をもたらす。本発明の1つの好ましい実施形態では、レーザーアブレーションは10-1〜10-12気圧(約100hPa〜約10-9hPa)の真空下で実施される。高真空条件はかなり長いポンプ排出時間、ひいては長い生産時間のコーティングを必要とする。特定の高級品についてはこれはさほど大きな問題ではないが、例えばとりわけより大きい表面を備える日用品についてはこれは間違いなく問題である。これらの新規な耐磨耗性および引っかき抵抗性のコーティング、化学的不活性なコーティング、トライボロジーコーティング、耐熱性および/または熱伝導性コーティング、導電性コーティングおよび恐らくは同時に優れた透明性を考慮すると、技術的観点からみても経済的観点から見ても、上記製品に対して利用可能なコーティング方法は断じて1つもない。
【0055】
このように、本発明の特に好ましい実施形態では、レーザーアブレーションは10-1〜10-4気圧(約100hPa〜約10-1hPa)の真空下で実施される。本発明によれば、優れたコーティング/薄膜特性はすでに低気圧で達成することができ、加工時間の劇的な短縮および産業上の利用可能性の拡大につながる。
【0056】
本発明によれば、ターゲット材と上記コーティングすべき均一な表面積との間の距離が25cm未満、好ましくは15cm未満、最も好ましくは10cm未満であるようにしてコーティングを実施することが可能である。これは、劇的に小さくなった容積を備えたコーティングチャンバの開発を実現し、コーティング生産ラインの全体の価格をより低いものにし、さらに真空ポンプ排出に必要な時間を短くする。
【0057】
本発明の好ましい実施形態では、欠陥のないコーティングを生成するために、上記ターゲット材のアブレーションされた表面を繰り返しアブレーションしてもよい。現在のコーティング技術のほとんどの場合において、ターゲット材はアブレーションを受けた領域がアブレーションのために再使用できないような様式で不均一に磨耗し、従って廃棄するしかないか、または特定の使用後の再生に送られねばならない。この問題は、例えばx/y軸方向にターゲット材を移動させることにより、または円筒形に形成したターゲット材を回転させることにより、コーティング目的のために新しいアブレーションされていないターゲット表面を常に供給するための様々な技術を開発することによって取り組まれてきた。本発明は、優れたコーティング特性および生産速度、ならびにターゲット材の実質的に全体を使用する間ずっと良質のプラズマがその品質を保持するような方法でターゲット材を使用することを同時に実現する。好ましくは、1つのターゲット材重量の50%より多くが本発明にかかる良質のプラズマの生成のために消費される。良質のプラズマということによって、欠陥のないコーティングおよび薄膜を生成するためのプラズマを意味し、高品質のプラズマプルームは高いパルス周波数および堆積速度で維持される。このような特性のいくつかについては本明細書中で以下に説明する。
【0058】
本発明の一実施形態によれば、上記均一な表面積上に生成したコーティングの平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、100nm未満である。より好ましくは、平均表面粗さは30nm未満である。平均表面粗さということによって、適切な手順(例えば、AFMまたはプロフィロメータにおいて利用可能なもの)によってフィットさせた中心線平均カーブからの平均のずれを意味する。この表面粗さは、とりわけ、本発明に従ってコーティングされた金属製品上のコーティングの耐摩耗性および引っかき抵抗性、トライボロジー特性および透明性に影響を及ぼす。
【0059】
本発明のさらに好ましい実施形態では、上記均一な表面積上に生成したコーティングの光の透過率は、88%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは92%以上である。それは98%よりも高くてさえもよい。金属製品におけるコーティングの光学的透明性は、本発明にかかるコーティングによって得られる他の利点に加えてもとの金属の外観が好ましい用途においては、特に重要である。
【0060】
本発明の別の実施形態では、上記均一な表面積上に生成したコーティングは、1mm2あたり1個未満のピンホールを含み、好ましくは1cm2あたり1個未満のピンホールを含み、最も好ましくは前記均一な表面積においてピンホールを含まない。ピンホールは、コーティングを貫くまたは実質的に貫く穴である。ピンホールは、例えば化学的要因または環境上の要因によるもともとコーティングされた材料の侵食にとって土台を提供する。例えば化学反応器またはチュービング、医療用インプラント、宇宙船、様々な車両の様々な部品およびそれらの機械的部品など、金属構造物または内部構造のコーティングにおける1つのピンホールが、これらの製品の寿命が劇的に短くなることに容易につながる。
【0061】
従って、別の好ましい実施形態では、上記均一な表面積上の上記コーティングの最初の50%が1000nm、好ましくは100nm、最も好ましくは30nmを超える直径を有する粒子を含まない様式で、上記均一な表面積はコーティングされる。コーティング製造プロセスの初期段階でミクロンサイズの粒子が生成する場合には、このような粒子は生成したコーティングの次の層の中に無防備の腐食経路を生じかねない。さらに、粒子のでこぼこした形状に起因してこのような粒子の下にある表面を封止することは極めて困難である。加えて、このような粒子は、表面粗さを実質的に大きくする。本方法は、このような場合においてさえ寿命を長くし、様々な金属製品の維持費を下げることができる。
【0062】
金属製品自体は、実質的に、金属でも、金属化合物(例えば、金属合金、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、またはこれらの複合材料)のどれでも含み得る。本発明によれば、上記金属製品の均一な表面積は、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物またはこれらの混合物でコーティングされる。金属の非限定的な例としては、アルミニウム、モリブデン、チタン、ジルコニウム、銅、イットリウム、マグネシウム、亜鉛、クロム、銀、金、コバルト、スズ、ニッケル、タンタル、ガリウム、マンガン、バナジウム、白金、および実質的にどんな金属をも挙げることができる。
【0063】
優れた光学特性、磨耗特性、および引っかき抵抗性のいずれをも備える本発明にかかるコーティングを生成する場合、特に有利な金属酸化物は、例えば、アルミニウムチタンオキシド(ATO)、酸化インジウムスズ(ITO)、イットリウム安定化酸化ジルコニウムである。
【0064】
酸化チタンおよび酸化亜鉛のような特定の金属酸化物が生成したコーティングのUV活性をもたらす表面厚みで塗布される場合、そのコーティングは自浄性を有し得る。かかる特性は、使用を実現しかつ内部用途および外部用途の両方においていくつかの金属製品の維持コストを下げる上で、非常に好ましい。
【0065】
金属酸化物コーティングは、活性酸素雰囲気中で金属(複数個であってもよい)をアブレーションするか、酸化物をアブレーションすることにより生成することができる。後者の可能性においてさえ、酸素雰囲気中でアブレーションを実施することによりコーティングの品質および/または生産速度を向上させることが可能である。同じことは窒化物の場合にも同様に当てはまる。
【0066】
本発明の別の実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面積は90原子%を超える炭素、70%を超えるsp3結合を含む炭素材料でコーティングされる。かかる材料としては、例えばアモルファスダイヤモンド、ナノ結晶ダイヤモンドまたは擬単結晶ダイヤモンドが挙げられる。種々のダイヤモンドコーティングによって、優れたトライボロジー特性、磨耗特性および引っかき抵抗性を備えた金属製品がもたらされるが、耐熱性および熱伝導性も高まる。
【0067】
本発明にさらに別の実施形態では、上記金属製品の均一な表面積は、炭素、窒素および/またはホウ素を様々な比で含む材料でコーティングされる。かかる材料としては、窒化ホウ素炭素、窒化炭素(C2N2およびC3N4の両方)、窒化ホウ素、炭化ホウ素またはB−N、B−CおよびC−N相の様々な混成相が挙げられる。上記材料は、低密度を有するダイヤモンド様材料であり、非常に耐磨耗性に優れ、一般に化学的に不活性である。例えば、窒化炭素は、医療装置および医療用インプラント、バッテリー電極、湿度センサおよびガスセンサのためのコーティングとして、半導体用途、コンピュータハードディスクを保護するため、そして太陽電池、工具などにおいて、腐食性条件に対して金属製品を保護するために用いることができる。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、特定の金属製品の均一な表面積は有機ポリマー材料でコーティングされる。かかる材料としては、キトサンおよびその誘導体、ポリシロキサンおよび様々な有機ポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
金属製品をキトサンでコーティングすることによって、海洋および他の水生環境用の新しいクラスの金属製品ならびに内部用途および外部用途の両方に向けた新しい金属製品を製造できるという見通しがもてる。この場合、ポリシロキサンは、比較的高い耐磨耗性および引っかき抵抗性ならびに同時に優れた光学的透明性を備える製品を製造するために特に有利である。
【0070】
本発明のさらに別の実施形態によれば、上記均一の表面積は無機材料でコーティングされる。かかる材料としては、石材およびセラミックから誘導される材料が挙げられるがこれらに限定されない。
【0071】
本発明の特に好ましい実施形態では、様々な金属シートおよび三次元金属構造体は桃色の瑪瑙を含むターゲット材をアブレーションすることによってコーティングされ、この場合着色しているが不透明なコーティング結果をもたらした。
【0072】
本発明の一実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面は、一回だけの単層コーティングによりコーティングされる。本発明の別の実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面は多層コーティングによりコーティングされる。数回のコーティングは、様々な理由によって生成されてもよい。1つの理由は、金属表面に対するより良好な接着性を有し、かつ以降のコーティング層が金属表面自体に対してよりも上記層に対してより良好な接着性を有するという特性を保有する第1のセットのコーティングを製造することによって、表面処理した金属製品への特定のコーティングの接着性を高めることであろう。加えて、多層コーティングは、その構造がなければ実現できないいくつかの機能を保有することができる。本発明により、1つの単一なコーティングチャンバ中または隣接するチャンバ中でいくつかのコーティングを生産することができる。
【0073】
本発明はさらに、1つの複合材料ターゲットをアブレーションすることにより、または1つ以上の物質を含む2つ以上のターゲット材を同時にアブレーションすることにより、金属製品表面への複合コーティングの生成を実現する。
【0074】
本発明によれば、上記金属製品の均一な表面上のコーティングの厚みは、20nm〜20μmであり、好ましくは100nm〜5μmの間である。コーティング厚みは、これらに限定されるべきではない。なぜなら、本発明は他方で分子スケールのコーティングの調製を実現し、他方で非常に厚いコーティング(例えば、100μm以上)のコーティングの調製を実現するからである。
【0075】
本発明はさらに、三次元構造を成長させるための足場として金属要素を用いる三次元構造の調製を実現する。
【0076】
本発明によれば、レーザーアブレーションによってコーティングされた特定の表面を備える金属製品も提供される。このコーティングされた均一な表面積は少なくとも0.2dm2を備え、コーティングは、パルス状レーザー光線が上記レーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備える回転光学スキャナを用いて走査される超短パルスレーザー堆積を用いることにより実施される。これらの製品を用いて享受できる利益は、本方法の以前の説明の中により詳細に説明されている。
【0077】
本発明の一実施形態では、上記均一な表面積は少なくとも0.5dm2を備える。本発明のより好ましい実施形態では、上記均一な表面積は少なくとも1.0dm2を備える。本発明は、0.5m2より大きい、例えば1m2以上の均一なコーティングされた表面積を備える製品をも容易に実現する。
【0078】
本発明の一実施形態によれば、上記均一な表面積上に生成したコーティングの平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、100nm未満である。より好ましくは、平均表面粗さは30nm未満である。平均表面粗さということによって、適切な手順(例えば、AFMまたはプロフィロメータにおいて利用可能なもの)によってフィットさせた中心線平均カーブからの平均のずれを意味する。この表面粗さは、とりわけ、本発明に従ってコーティングされた金属製品上のコーティングの耐摩耗性および引っかき抵抗性、トライボロジー特性および透明性に影響を及ぼす。
【0079】
本発明の別の実施形態によれば、上記均一な表面積上に生成したコーティングの光の透過率は、88%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは92%以上である。いくつかの場合には、光の透過率は98%を超えてもよい。金属製品におけるコーティングの光学的透明性は、本発明にかかるコーティングによって得られる他の利点に加えてもとの金属の外観が好ましい用途においては、特に重要である。
【0080】
本発明のさらに別の実施形態によれば、上記均一な表面積上に生成したコーティングは、1mm2あたり1個未満のピンホールを含み、好ましくは1cm2あたり1個未満のピンホールを含み、最も好ましくは前記均一な表面積においてピンホールを含まない。
【0081】
本発明のさらに別の実施形態によれば、上記均一な表面積上の上記コーティングの最初の50%が1000nm、好ましくは100nm、最も好ましくは30nmを超える直径を有する粒子を含まない様式で、上記均一な表面積はコーティングされる。
【0082】
本発明にかかる金属製品は、実質的に、金属でも、金属化合物(例えば、金属合金、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、またはこれらの複合材料)のどれでも含み得る。すでに説明したように、この関連において金属製品の定義は、製品が本発明の方法でコーティングすることができる特定の金属表面を含むというように理解されるべきである。従って、製品本体(未コーティング製品)の金属含量は、0.1〜100%の間で変動し得る。
【0083】
本発明の一実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面積は、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物またはこれらの混合物でコーティングされる。用いられ得る金属は、本発明のコーティング方法の説明においてすでに説明した。
【0084】
本発明の別の実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面積は90原子%を超える炭素、70%を超えるsp3結合を含む炭素材料でコーティングされる。用いられ得る炭素材料は、本発明のコーティング方法の説明においてすでに説明した。
【0085】
本発明のさらに別の実施形態では、上記金属製品の均一な表面積は、炭素、窒素および/またはホウ素を様々な比で含む材料でコーティングされる。かかる材料は、本発明のコーティング方法の説明においてすでに説明した。
【0086】
本発明のさらに別の実施形態によれば、特定の金属製品の均一な表面積は有機ポリマー材料でコーティングされる。かかる材料は、本発明のコーティング方法の説明においてすでにより詳細に説明した。
【0087】
本発明の一実施形態によれば、上記均一な表面積は無機材料でコーティングされる。かかる材料は、本発明のコーティング方法の説明においてすでにより詳細に説明した。
【0088】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面は多層コーティングによってコーティングされる。本発明の別の好ましい実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面は単層コーティングによってコーティングされる。
【0089】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、上記金属製品の均一な表面上のコーティングの厚みは20nm〜20μmの間であり、好ましくは100nm〜5μmの間である。本発明は、1層または数層の原子層コーティングおよび100μmを超える(例えば1mm)ような厚いコーティングを含むコーティングされた製品をも実現する。本発明はさらに、三次元構造を成長させるための足場として金属要素を用いることによって三次元構造の調製を実現する。
【実施例】
【0090】
(公知の技術の問題を示すための実施例−レーザー技術)
図2は、先行技術の光学スキャナ、つまり振動ミラー(ガルバノスキャナ)を用いて異なるITO薄膜厚み(30nm、60nmおよび90nm)で生成したポリカーボネートシート(約100mm×30mm)上のITOコーティングを示す。ITOコーティングは金属基材上に堆積していないが、この図は、特に超短パルスレーザー堆積(USPLD)においてのみならずレーザー支援コーティング一般において、光学スキャナとして振動ミラーを採用することに関連する問題のいくつかを明瞭に示している。振動ミラーがその末端位置でその角運動の方向を変えるので、そして慣性モーメントがあるために、このミラーの角速度はその末端位置の近くでは一定ではない。振動運動に起因して、このミラーは連続的にブレーキがかかっており、再び加速する前に停止し、これにより走査した領域のエッジでターゲット材のでこぼこした処理を引き起こす。図2からわかるように、これは次にとりわけ走査した領域のエッジに粒子を含む低質のプラズマをもたらし、ついには低品質で一見しただけで不均一とわかるコーティング結果をもたらす。用いたスキャナの性質に起因してアブレーションされた材料の不均一な分布を示すために、コーティングパラメータを選択した。パラメータを適切に選択すると、膜の品質を向上させることができ、問題は見えなくなるが、なくなるわけではない。
【0091】
(公知の技術の問題を示すための実施例−レーザー技術)
従来どおり、約2〜3m/sの代表的な最大速度、実際には約1m/sの速度でレーザー光線を走査するためにガルバノスキャナを使用する。これは、実に40〜60パルスが2MHzの繰り返し速度で重なっていることを意味する(図3)。
【0092】
(公知の技術の問題を示すための実施例−レーザー技術)
プラズマに関連する質の問題を、公知の技術によるプラズマ発生を示す図34aおよび図34bに示す。レーザーパルスエネルギーγ1114がターゲット表面1111に衝突する。このパルスは長パルスであるので、深さhおよび光線直径dは同程度の強度であり、パルス1114の熱も衝突スポット領域の表面だけでなく、表面1111の下深さhよりも深くまでも加熱する。この構造体は熱ショックを経験し、張力が発生し、これにより破壊を伴いながらFと示した断片が生成する。この実施例においてはプラズマは品質がまったく劣悪であるかも知れないため、小さい点1115で示す分子およびそれらのクラスターも存在するように見せてある。これと関連して、図34bに示すガス1116から形成されるような類似の構造の核またはクラスターについても数字1115により参照している。文字「o」は、粒子ガスからおよび/または凝集によって形成および成長し得る粒子を示す。放出された断片は、凝縮/およびまたは凝集によっても成長する可能性がある。これは点からFへおよびoからFへと湾曲した矢印で示してある。湾曲した矢印はプラズマ1113からガス1116へ、さらには粒子1115およびサイズが大きくなった粒子1117への相転移をも示している。図34bのアブレーションプルームは劣悪なプラズマ生成に起因して断片Fおよび蒸気およびガスから生成する粒子を含むことがあるので、このプラズマはプラズマ領域として連続的ではなく、従って単一のパルスプルーム内で品質のばらつき(variation)が見られるかも知れない。組成および/または深さhより下の構造の欠陥ならびにその結果生じる深さのばらつき(図34a)に起因して、図34bのターゲット表面1111はさらなるアブレーションのためにはもはや利用可能ではなく、材料のいくらかは利用可能であるにもかかわらずこのターゲットは無駄にされる。
【0093】
このような問題は、最新のスキャナを採用しているとしても、ナノ秒レーザー一般および現在のピコ秒レーザーに関して共通である。
【0094】
(本発明の実施例−1)
図32aは、隣接するパルスとわずかに重なりながらターゲット材のアブレーションを実現する速度で回転スキャナを用い、先行技術のガルバノスキャナに関連する問題を回避するピコ秒範囲のパルス状レーザーによってアブレーションされたターゲット材を示す。図32bはアブレーションされた材料の1つの部分の拡大図を示しており、材料のx軸上およびy軸上の滑らかかつ制御されたアブレーション、従って粒子を含まない高品質のプラズマの発生ひいては高品質の薄膜およびコーティングの発生を明瞭に示す。図32cは1つまたはいくつかのパルスによって実現できる1つの単独のアブレーションスポットの実現可能なx方向寸法およびy方向寸法の例を示す。本発明は、アブレーションされたスポットの幅はアブレーションされたスポット領域の深さよりも常にはるかに大きいような様式で材料のアブレーションを実現することがここではっきりと見て取れる。理論的には、(粒子が生成するであろう場合は)生成し得る粒子はスポット深さの最大サイズを有することができるであろう。回転スキャナは、大きい走査幅と同時に大きい生産速度で良質の、粒子を含まないプラズマを生成する。これはコーティングすべき大きい表面積を備える基材にとっては特に有益である。さらに図32a、図32bおよび図32cは、現在の技術とは対照的に、すでにアブレーションされたターゲット材領域は高品質のプラズマを新しく発生させるためにアブレーションを受けることができ、従ってコーティング/薄膜製造コスト全体は劇的に下がることを明瞭に示す。
【0095】
(本発明の実施例−2)図33aは、ピコ秒USPLDレーザーを用い、タービンスキャナでレーザーパルスを走査することによってコーティングを実施する実施例を示している。この実施例では、走査速度は30m/sでありレーザースポット幅は30μmである。この実施例では、隣接するパルス間で1/3の重なりがある。
【0096】
(本発明の実施例−コーティングされた製品)1064nmのピコ秒範囲のレーザー(X−lase、20〜80W)による超短パルスレーザー堆積(USPLD)を採用することにより、以下のサンプルを種々の金属基材上に成長させた。基材温度は室温〜400℃まで変化し、ターゲット温度は室温〜700℃の範囲にあった。酸化物、焼結した黒鉛、焼結した黒鉛状C3N4Hx(Carbodeon Ltd Oy)および種々の金属ターゲットを採用した。酸素雰囲気を採用した場合には、酸素圧は10-4〜10-1mbar(10-4hPa〜10-1hPa)の範囲で変動した。窒素雰囲気を採用した場合には、窒素圧は10-4〜10-1mbar(10-4hPa〜10-1hPa)の範囲で変動した。採用したスキャナは、ターゲットの表面で1m/s〜350m/sの間の調節可能な光線の速度を実現する回転ミラースキャナであった。採用した繰り返し速度は1〜52MHzの間で変動し、高品質コーティングを工業的に製造する場合はスキャナおよび高繰り返し速度の両方が重要であることが明瞭に示された。堆積した膜は、共焦点顕微鏡、FTIR分光法およびラマン分光法、AFM、光透過率測定、ESEMによって、そしてある場合には電気測定(University of Kuopio,Finland;ORC,Tampere,FinlandおよびCorelase Oy,Tampere Finland)によって特性解析した。採用したスポットサイズは20〜80μmの間で変動した。摩耗試験は平円板上にピンを置く方法(pin on disk−method)(University of Kuopio,Finland)を採用して実施した。試験は、室温22℃、相対湿度50%(ADコーティング)または相対湿度25%(他の場合)(潤滑なし)で、ピンとして直径6mmの硬い鋼球(AISI420)を用いて10〜125gの範囲の荷重で実施した。ADコーティングについては、回転速度は300〜600rpmであり、レンズについては1rpmであった。すべてのコーティングは優れた磨耗特性および接着性を保有していた。
【0097】
(実施例1)
4MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は4mmで、焼結した炭素をアブレーションすることにより、250mm×400mmの大きさの鏡面仕上げのアルミ箔の一片をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-5気圧(約0.01hPa)であった。このプロセスにより、均一な空色に着色した透明なコーティングが得られた。コーティング厚みは200nmであった。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、8nmであると測定した。測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0098】
(実施例2)
4MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長17ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10mmで、酸化銅をアブレーションすることにより、300mm×400mmの大きさの薄銅板をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-1気圧(約100hPa)であった。このプロセスにより、均一な淡緑色に着色した不透明なコーティングが得られた。コーティング厚みは5μmであった。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、50nmであると測定した。
【0099】
(実施例3)
15MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は6cmで、アルミニウムチタンオキシド(ATO)をアブレーションすることにより、実施例2の酸化銅をコーティングした薄銅板ををコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-3気圧(約1hPa)であった。このプロセスにより、均一な淡緑色に着色した透明なコーティングが得られ、ATOはもとの不透明な酸化銅のコーティングの色を変えなかった。コーティング厚みは420nmであった。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、40nmであると測定した。ATOコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0100】
(実施例4)
20MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー4μJ、パルス長10ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は1mmで、酸素雰囲気中で酸化チタンをアブレーションすることにより、500mm×600mmの大きさの薄鋼板(厚み1.5mm)をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-2気圧(約10hPa)であった。このプロセスにより、コーティング厚み50nmを有する透明なコーティングが得られた。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、3nmであると測定した。酸化チタンコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。TiO2コーティングの光学的透明性が98%より高いことを測定した。
【0101】
(実施例5)
20MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー4μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10mmで、チタンをアブレーションすることにより、500mm×600mmの大きさの薄鋼板(厚み1.5mm)をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-5気圧(約0.01hPa)であった。このプロセスにより、コーティング厚み280nmを有する金属的なチタンコーティングが得られた。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、より良好であると測定した。酸化チタンコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0102】
(実施例6)
20MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10mmで、タンタルをアブレーションすることにより、500mm×600mmの大きさの薄鋼板(厚み1.5mm)をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-4気圧(約0.1hPa)であった。このプロセスにより、コーティング厚み320nmを有する金属的なタンタルのコーティングが得られた。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、3nmであると測定した。タンタルコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0103】
(実施例7)
35MHzのパルス繰り返し速度、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は2cmで、桃色の瑪瑙(粉砕して焼結したもの)をアブレーションすることにより、マークのない0.33dm3の体積のアルミニウム缶、10cmの従来の金属ねじおよび一片の薄鋼(35mm×50mm)をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-4気圧(約0.1hPa)であった。このプロセスにより、100nmと550nmとの間のコーティング厚みを有する桃色の瑪瑙で着色した不透明なコーティングが得られた。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、10nmより良好であると測定した。瑪瑙コーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0104】
(実施例8)
10MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は20mmで、コールドプレスしたキトサンをアブレーションすることにより、500mm×600mmの大きさの薄鋼板(厚み1.5mm)をコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-5気圧(約0.01hPa)であった。このプロセスにより、コーティング厚み250nmを有する一部不透明なコーティングが得られた。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、10nmより良好であると測定した。ポリマーコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0105】
(実施例9)
ステンレス鋼製の骨ネジを、20MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー4μJ、パルス長15ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は1mmで、加熱プレスした黒鉛をアブレーションすることによりコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-5気圧(約0.01hPa)であった。コーティング厚みを、1μmであると測定した。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、3nmであると測定した。ダイヤモンドコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。炭素含量を98%より高いと測定し、sp3結合の割合は約86%であった。
【0106】
(実施例10)
20MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10mmで加熱プレスしたC3N4Hxをアブレーションすることにより、ステンレス鋼製の骨ネジをコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-5気圧(約0.01hPa)であった。コーティング厚みを、1μmであると測定した。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、3nm未満であると測定した。窒化炭素コーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0107】
(実施例11)
30MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10.2cmで、酸化形態のITO(90重量%のIn2O3、10重量%のSnO2)をアブレーションすることにより、300mm×400mmの大きさの薄銅板をコーティングした。酸素圧は10-4〜10-1mbar(10-4〜10-1hPa)の範囲で変動した。このプロセスにより、均一で透明なコーティングが得られた。コーティング厚みを110nmと測定した。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、2nm未満であると測定した。ITOコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0108】
(実施例12)
27MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は10.2cmで、金属ターゲット(90重量%のIn、10重量%のSn)由来のITOをアブレーションすることにより、300mm×400mmの大きさの薄銅板をコーティングした。酸素圧は10-4〜10-1mbar(10-4〜10-1hPa)の範囲で変動した。このプロセスにより、均一で透明なコーティングが得られた。コーティング厚みは40nmであった。平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、2nm未満であると測定した。ITOコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0109】
(実施例13)
4MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長24ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は15cmでクロムをアブレーションすることにより、図14にかかる金属製やすりをクロム金属でコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-4気圧(約0.1hPa)であった。このプロセスにより均一な金属的なコーティングが得られた。コーティングの厚みを320nmと測定し、平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、2nm未満であると測定した。クロムコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0110】
(実施例14)
6MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長24ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は5cmで、焼結したC3N4Hx材料をアブレーションすることにより、実施例13にかかる金属製やすりをコーティングした。真空レベルは、コーティングプロセスのあいだ10-4気圧(約0.1hPa)であった。このプロセスにより均一な金属的なコーティングが得られた。窒化炭素コーティングの厚みを390nmと測定し、平均表面粗さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、2nm未満であると測定した。窒化炭素(C3N4)コーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0111】
(実施例15)
4MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長24ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は3cmで焼結したC3N4Hx材料をアブレーションすることにより、図17にかかる金属電動弁を窒化炭素でコーティングした。窒素圧は10-4〜10-1mbar(10-4〜10-1hPa)の間で変動した。このプロセスにより均一なC3N4コーティングが得られた。窒化炭素コーティングの厚みを500nmと測定し、平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合2nm未満であると測定した。窒化炭素(C3N4)コーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0112】
(実施例16)
26MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は2.5cmで、活性酸素雰囲気中で酸化アルミニウムをアブレーションすることにより、図15にかかる車両モーターの金属製シリンダを酸化アルミニウムでコーティングした。酸素圧は10-4〜10-1mbar(10-4〜10-1hPa)の間で変動した。このプロセスにより均一で透明なコーティングが得られた。酸化アルミニウムコーティングの厚みを2.3μmと測定し、平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合2nm未満であると測定した。酸化アルミニウムコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。
【0113】
(実施例17)
9MHzのパルス繰り返し速度、パルスエネルギー5μJ、パルス長20ps、ターゲット材とコーティングすべき表面との間の距離は2.5cmで、活性酸素雰囲気中でチタン金属をアブレーションすることにより、図20にかかる金属製蛇口を酸化チタンでコーティングした。酸素圧は10-4〜10-1mbar(10-4〜10-1hPa)の間で変動した。このプロセスにより均一で透明なコーティングが得られた。酸化アルミニウムコーティングの厚みを25nmと測定し、平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合2nm未満であると測定した。酸化アルミニウムコーティングの測定したどの領域にもピンホールは見出せなかった。コーティングした物体を有機物の汚れにさらし、その後その物体を光および特定の湿度にさらした。このコーティングは自浄性を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】最先端の低温アブレーションコーティング/薄膜生産および機械加工ならびに他の仕事関連用途において用いられる2つのガルバノスキャナを備える例示的なガルバノスキャナ装置の図である。レーザー光線を方向付けるガルバノスキャナの数は変わるが、通常は1つの単独のガルバノスキャナに限定される。
【図2】先行技術の振動ミラー(ガルバノスキャナ)を用いて異なるITO薄膜厚み(30nm、60nmおよび90nm)で生成したポリカーボネートシート(約100mm×30mm)上のITO−コーティングの図である。
【図3】先行技術のガルバノスキャナがレーザー光線を走査するために用いられ、2MHzの繰り返し速度でパルスが何度も重なっている状況を示す図である。
【図4】本発明にかかる、酸化銅およびATOでコーティングされた製品の図である。
【図5】本発明かかる方法において用いられる1つの可能なタービンスキャナミラーの図である。
【図6】図5の例において各ミラーによってもたらされるアブレーション光線の移動を示す図である。
【図7】本発明に従って用いられる1つの可能な回転スキャナを介する光線の誘導を示す図である。
【図8】本発明に従って用いられる1つの可能な回転スキャナを介する光線の誘導を示す図である。
【図9】本発明に従って用いられる1つの可能な回転スキャナを介する光線の誘導を示す図である。
【図10】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図11】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図12】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図13】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図14】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図15】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図16】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図17】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図18】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図19】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図20】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図21】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図22】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図23】本発明にかかる、2つの異なるコーティング層を有するコーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図24】本発明にかかる、コーティングされた製品の2つの実施形態の図である。
【図25】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図26】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図27】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図28】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図29】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図30】本発明にかかる、コーティングされた製品の1つの実施形態の図である。
【図31】本発明にかかる、コーティングされた製品のいくつかの実施形態の図である。
【図32】(図32a)回転スキャナ(タービンスキャナ)を用いてレーザー光線を走査することによりターゲット材がアブレーションされた、本発明にかかる実施形態の図である。(図32b)図32aのターゲット材の例示的な部分を示す図である。(図32c)図32bのターゲット材の例示的なアブレーションされた領域を示す図である。
【図33a】タービンスキャナ(回転スキャナ)を用いてターゲット材を走査およびアブレーションするための、本発明にかかる例示的な方法を示す図である。
【図34a】公知の技術のプラズマに関連する問題を示す図である。
【図34b】公知の技術のプラズマに関連する問題を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製品の特定の表面をレーザーアブレーションによってコーティングするための方法であって、コーティングすべき均一な表面積が少なくとも0.2dm2を備え、前記コーティングが、パルス状レーザー光線が前記レーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備える回転光学スキャナを用いて走査される超短パルスレーザー堆積を用いて実施されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記均一な表面積が少なくとも0.5dm2を備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記均一な表面積が少なくとも1.0dm2を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザー堆積の用いるパルス周波数が少なくとも1MHzであることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザーアブレーションが10-1〜10-12気圧(約100hPa〜約10-9hPa)の真空下で実施されることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記レーザーアブレーションが10-1〜10-4気圧(約100hPa〜約10-1hPa)の真空下で実施されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ターゲット材と前記コーティングすべき均一な表面積との間の距離が25cm未満、好ましくは15cm未満、最も好ましくは10cm未満であることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
欠陥のないコーティングを生成するために、前記ターゲット材のアブレーションされた表面が繰り返しアブレーションされてもよいことを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、前記均一な表面積上に生成したコーティングの平均表面粗さが100nm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記均一な表面積に生成したコーティングの光の透過率が88%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは92%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記均一な表面積上に生成したコーティングが1mm2あたり1個未満のピンホールを含み、好ましくは1cm2あたり1個未満のピンホールを含み、最も好ましくは前記均一な表面積においてピンホールを含まないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記均一な表面積上の前記コーティングの最初の50%が1000nm、好ましくは100nm、最も好ましくは30nmを超える直径を有する粒子を含まない様式で、前記均一な表面積がコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記金属製品の均一な表面積が金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物またはこれらの混合物でコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記金属製品の均一な表面積が90原子%を超える炭素、70%を超えるsp3結合を含む炭素材料でコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記金属製品の均一な表面積が炭素、窒素および/またはホウ素を様々な比で含む材料でコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記金属製品の均一な表面積が有機ポリマー材料でコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記均一な表面積が無機材料でコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記金属製品の均一な表面積が多層コーティングでコーティングされることを特徴とする、請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記金属製品の均一な表面上の前記コーティングの厚みが20nm〜20μmの間、好ましくは100nm〜5μmの間であることを特徴とする、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
レーザーアブレーションによりコーティングされた特定の表面を含む金属製品であって、前記コーティングされた均一な表面積が少なくとも0.2dm2を備え、かつ前記コーティングは、パルス状レーザー光線が前記レーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備える回転光学スキャナを用いて走査される超短パルスレーザー堆積を用いて実施されることを特徴とする、金属製品。
【請求項21】
前記均一な表面積が少なくとも0.5dm2を備えることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項22】
前記均一な表面積が少なくとも1.0dm2を備えることを特徴とする、請求項20または請求項21に記載の金属製品。
【請求項23】
前記均一な表面積上に生成したコーティングの平均表面粗さが、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、100nm未満であることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項24】
前記均一な表面積上に生成したコーティングの光の透過率が88%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは92%以上であることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項25】
前記均一な表面積上に生成したコーティングが1mm2あたり1個未満のピンホールを含み、好ましくは1cm2あたり1個未満のピンホールを含み、最も好ましくは前記均一な表面積においてピンホールを含まないことを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項26】
前記均一な表面積上の前記コーティングの最初の50%が1000nm、好ましくは100nm、最も好ましくは30nmを超える直径を有する粒子を含まない様式で、前記均一な表面積がコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項27】
前記金属製品の均一な表面積が金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物またはこれらの混合物でコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項28】
前記金属製品の均一な表面積が90原子%を超える炭素、70%を超えるsp3結合を含む炭素材料でコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項29】
前記金属製品の均一な表面積が炭素、窒素および/またはホウ素を様々な比で含む材料でコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項30】
前記金属製品の均一な表面積が有機ポリマー材料でコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項31】
前記均一な表面積が無機材料でコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項32】
前記金属製品の均一な表面積が多層コーティングでコーティングされることを特徴とする、請求項20から請求項31のいずれか1項に記載の金属製品。
【請求項33】
前記金属製品の均一な表面上のコーティングの厚みが20nm〜20μmの間、好ましくは100nm〜5μmの間であることを特徴とする、請求項20から請求項32のいずれか1項に記載の金属製品。
【請求項1】
金属製品の特定の表面をレーザーアブレーションによってコーティングするための方法であって、コーティングすべき均一な表面積が少なくとも0.2dm2を備え、前記コーティングが、パルス状レーザー光線が前記レーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備える回転光学スキャナを用いて走査される超短パルスレーザー堆積を用いて実施されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記均一な表面積が少なくとも0.5dm2を備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記均一な表面積が少なくとも1.0dm2を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザー堆積の用いるパルス周波数が少なくとも1MHzであることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザーアブレーションが10-1〜10-12気圧(約100hPa〜約10-9hPa)の真空下で実施されることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記レーザーアブレーションが10-1〜10-4気圧(約100hPa〜約10-1hPa)の真空下で実施されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ターゲット材と前記コーティングすべき均一な表面積との間の距離が25cm未満、好ましくは15cm未満、最も好ましくは10cm未満であることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
欠陥のないコーティングを生成するために、前記ターゲット材のアブレーションされた表面が繰り返しアブレーションされてもよいことを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、前記均一な表面積上に生成したコーティングの平均表面粗さが100nm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記均一な表面積に生成したコーティングの光の透過率が88%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは92%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記均一な表面積上に生成したコーティングが1mm2あたり1個未満のピンホールを含み、好ましくは1cm2あたり1個未満のピンホールを含み、最も好ましくは前記均一な表面積においてピンホールを含まないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記均一な表面積上の前記コーティングの最初の50%が1000nm、好ましくは100nm、最も好ましくは30nmを超える直径を有する粒子を含まない様式で、前記均一な表面積がコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記金属製品の均一な表面積が金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物またはこれらの混合物でコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記金属製品の均一な表面積が90原子%を超える炭素、70%を超えるsp3結合を含む炭素材料でコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記金属製品の均一な表面積が炭素、窒素および/またはホウ素を様々な比で含む材料でコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記金属製品の均一な表面積が有機ポリマー材料でコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記均一な表面積が無機材料でコーティングされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記金属製品の均一な表面積が多層コーティングでコーティングされることを特徴とする、請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記金属製品の均一な表面上の前記コーティングの厚みが20nm〜20μmの間、好ましくは100nm〜5μmの間であることを特徴とする、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
レーザーアブレーションによりコーティングされた特定の表面を含む金属製品であって、前記コーティングされた均一な表面積が少なくとも0.2dm2を備え、かつ前記コーティングは、パルス状レーザー光線が前記レーザー光線を反射するための少なくとも1つのミラーを備える回転光学スキャナを用いて走査される超短パルスレーザー堆積を用いて実施されることを特徴とする、金属製品。
【請求項21】
前記均一な表面積が少なくとも0.5dm2を備えることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項22】
前記均一な表面積が少なくとも1.0dm2を備えることを特徴とする、請求項20または請求項21に記載の金属製品。
【請求項23】
前記均一な表面積上に生成したコーティングの平均表面粗さが、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm2の領域から走査した場合、100nm未満であることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項24】
前記均一な表面積上に生成したコーティングの光の透過率が88%以上、好ましくは90%以上、最も好ましくは92%以上であることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項25】
前記均一な表面積上に生成したコーティングが1mm2あたり1個未満のピンホールを含み、好ましくは1cm2あたり1個未満のピンホールを含み、最も好ましくは前記均一な表面積においてピンホールを含まないことを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項26】
前記均一な表面積上の前記コーティングの最初の50%が1000nm、好ましくは100nm、最も好ましくは30nmを超える直径を有する粒子を含まない様式で、前記均一な表面積がコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項27】
前記金属製品の均一な表面積が金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物またはこれらの混合物でコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項28】
前記金属製品の均一な表面積が90原子%を超える炭素、70%を超えるsp3結合を含む炭素材料でコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項29】
前記金属製品の均一な表面積が炭素、窒素および/またはホウ素を様々な比で含む材料でコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項30】
前記金属製品の均一な表面積が有機ポリマー材料でコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項31】
前記均一な表面積が無機材料でコーティングされることを特徴とする、請求項20に記載の金属製品。
【請求項32】
前記金属製品の均一な表面積が多層コーティングでコーティングされることを特徴とする、請求項20から請求項31のいずれか1項に記載の金属製品。
【請求項33】
前記金属製品の均一な表面上のコーティングの厚みが20nm〜20μmの間、好ましくは100nm〜5μmの間であることを特徴とする、請求項20から請求項32のいずれか1項に記載の金属製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33a】
【図34a】
【図34b】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33a】
【図34a】
【図34b】
【公表番号】特表2009−527648(P2009−527648A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555823(P2008−555823)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【国際出願番号】PCT/FI2007/050106
【国際公開番号】WO2007/096485
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(507283908)ピコデオン エルティーディー オイ (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【国際出願番号】PCT/FI2007/050106
【国際公開番号】WO2007/096485
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(507283908)ピコデオン エルティーディー オイ (8)
【Fターム(参考)】
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