説明

金属帯の矯正方法

【課題】せん断された入側コイルの最内巻き部をスクラップとして収容するスクラップバッグの廃棄作業に伴い、プロセスライン全体の操業効率が低下することを回避する。
【解決手段】シャー6の入側に設けられたピンチロール5の上ロール5uをゴムロール、下ロール5dを鋼ロールで構成し、且つ上ロール(ゴムロール)5uよりも下ロール(鋼ロール)5dの外径を小さくする。さらに下ロール5dのロール速度を、ストリップ2の搬送速度に同期させ、上ロール5uをストリップ2の搬送速度よりも速めることにより、ストリップ2が、下ロール5dに巻き付きやすくして巻き付き量を多くすることにより、より広い範囲を矯正することができ、結果的に矯正能力を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯の矯正方法に関し、特に、金属帯の曲がり(巻き癖)を矯正する金属帯の矯正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼板の製造プロセスは、製鋼工程で成型されたスラブを、熱間圧延、酸洗、冷間圧延により所定の厚みに圧延した後、連続焼鈍或いはバッチ焼鈍、調質圧延にて鋼板としての性能や表面形状が整えられ、必要に応じて矯正、精製ラインにて出荷のための最終調整が行われる。
各工程間では、鋼板がコイル状に巻き取られた状態で運搬され、各プロセスラインのペイオフリールに挿入された後、先端から払い出される。連続ラインにおいては、各コイルは先端部と後端部とがシャーカットされた後、先行コイルの後端部と後行コイルの先端部とが溶接されることにより、鋼板が連続的に処理される。
【0003】
また、コイルの先端部(外巻き部)、コイルの後端部(内巻き部)は非定常部であって、板厚精度、形状、熱処理における温度履歴等が、非定常部と定常部とでは異なり製品とならないため、冷間圧延より後の工程ではこうした非定常部を溶接前にスクラップとして廃棄している。廃棄する場合、例えば、数100〔mm〕毎に、シャーカットすることにより鋼板を切断している。
【0004】
このように、鋼板プロセスラインの入り側では、コイル状に巻かれた鋼板の払い出しが行われており、鋼板払い出しの際に、コイル先端部(外巻き部)に対し、溶接性改善などの目的で、鼻曲げと呼ばれるL反りを付与すること等も提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。
一方、コイル後端部(内巻き部)では、いわゆる巻きぐせによりL反りがついており、巻きぐせのひどいところはシャーカットしてスクラップとしてスクラップバッグに落している。
【0005】
ところで、このように、スクラップバッグに鋼板をスクラップとして落として回収する場合、カットされた鋼板に巻きぐせがない場合には、図5に示すように、カットされた鋼板は比較的隙間がない状態で順次積層されていくのに対し、カットされた鋼板に巻きぐせがある場合には、鋼板にいわゆるコシがあるため、図6に示すように、鋼板どうしが順序よく積層されにくく、逆にひっかかりやすくなって嵩張ってしまうことから、スクラップバッグがすぐに満杯となってしまう。そのため、カットされた鋼板に巻きぐせがない場合に比較してより早い段階でスクラップバッグが満杯となってしまい、スクラップバッグが満杯となる都度、スクラップバッグ内のスクラップを廃却する必要があるため、その間、操業を停止せざるを得ず、生産効率が低下するという問題がある。
【0006】
この巻きぐせによるL反りを簡易に矯正する方法として、ピンチロールの上下ロールのうちの一方を鋼系ロール、他方を弾性率の低い材質(例えばゴムなど)からなるロールとすることにより、鋼板をロール外周に沿わせて曲げる技術が提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、このように、弾性率の異なる上下ロールを用いて矯正を行う技術は、特許文献5等にも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−56727号公報
【特許文献2】特開昭61−132218号公報
【特許文献3】特開昭56−45214号公報
【特許文献4】実開昭61−31509号公報
【特許文献5】特開昭60−83723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、弾性率の異なる上下ロールを用いて反りを矯正する方法において、さらに反り矯正能力を大きくするためには、(a)鋼ロールの外径を小さくする、(b)ゴム系ロールの外径を大きくする、(c)ロールの押しつけ荷重を大きくする、ことが有効である。
しかしながら、(a)鋼ロールの外径を小さくする、という方法においては、(c)ロールの押しつけ荷重を大きくする、という方法との関係もあり、ロールが撓んでしまうことから、限界があった。
【0009】
また、(b)ゴム系ロールの外径を大きくする方法及び(c)ロールの押し付け荷重を大きくする方法は、シャー入り側に配置されたピンチロールに適用した場合、ピンチロール装置が大きくなってしまい、設置場所の空間的制約から限界があった。
そこで、本発明は、上記従来の未解決の問題に着目してなされたものであり、コイルの曲がりを矯正する際の矯正能力を簡易な構造で向上させることの可能な金属帯の矯正方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る金属帯の矯正方法は、上下ロール間を通過させることにより金属帯の曲がりを矯正するようにした、金属帯の矯正方法であって、上下ロールのうちの一方をゴム系ロール、且つ他方を前記ゴム系ロールよりも小さいロール外径を有する鋼系ロールで構成し、前記ゴム系ロールのロール速度と前記鋼系ロールのロール速度との間に速度差をもたせることを特徴としている。
【0011】
また、請求項2に係る金属帯の矯正方法は、プロセスライン入側において、コイル状に巻き取られた金属帯を払い出した後、当該金属帯をピンチロールを介してシャー装置に導入し、当該シャー装置により前記金属帯の最内巻き部をせん断してスクラップとする処理工程における前記金属帯の矯正方法であって、前記ピンチロールを構成する上下ロールのうちの一方をゴム系ロール、且つ他方を前記ゴム系ロールよりも小さいロール外径を有する鋼系ロールで構成し、前記ゴム系ロールのロール速度と前記鋼系ロールのロール速度との間に速度差をもたせることを特徴としている。
さらに、請求項3に係る金属帯の矯正方法は、前記鋼系ロールのロール速度を前記金属帯の搬送速度に同期させ、前記ゴム系ロールのロール速度を前記搬送速度よりも速くすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、上下ロールのうちの一方をゴム系ロール、他方をゴム系ロールよりも小さいロール外径を有する鋼系ロールで構成し、ゴム系ロールのロール速度と鋼系ロールのロール速度の間に速度差をもたせたため、上下ロール間を通過する金属帯の曲がりを矯正し、曲がりを抑制することができる。
また、請求項2に係る発明によれば、シャー装置入側に設けられたピンチロールにおいて、一方をゴム系ロール、他方をゴム系ロールよりも小さいロール外径を有する鋼系ロールで構成し、ゴム系ロールのロール速度と鋼系ロールのロール速度の間に速度差をもたせたため、シャー装置により切断された金属帯の最内巻き部の曲がりを矯正することができるため、シャー装置により切断された金属帯をスクラップバッグに収容するようにした場合は、スクラップバッグ内で重なり合うように貯めることができ、より多くのスクラップを貯めることができる。したがって、スクラップバッグ内のスクラップの廃棄に伴いプロセスラインを停止する回数を削減することができ、すなわち操業効率を向上させることができる。
さらに、請求項3に係る発明によれば、鋼系ロールのロール速度を金属帯の搬送速度に同期させ、ゴム系ロールのロール速度を搬送速度よりも速くするようにしたため、安定した通板を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の金属帯の矯正方法を適用した鋼板プロセスラインの入側設備の概略構成を示す模式図である。
【図2】荷重をかけたときのピンチロールの状態を説明するための模式図である。
【図3】ピンチロールの一例を示す説明図である。
【図4】速度差比と反りとの対応を表す特性図である。
【図5】スクラップの状態を表す模式図である。
【図6】スクラップの状態を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明による金属帯の矯正方法を適用した、鋼板プロセスラインの入側設備の概略構成を模式的に示したものであり、一般的な鋼板プロセスラインを示したものである。
図1において、1は入側コイル、2はストリップであって、ストリップ2はデフロール3、搬送テーブル4を介して、ピンチロール5に案内された後、シャー6に入力される。そして、入側コイル1の後端部(内巻き部)の所定のシャーカット位置が、シャー6の位置に到達すると、シャー6の入側に設けられたピンチロール5がストリップ2を押さえ、シャーカット時にストリップ2が入側コイル1の方向に逆送することを防止すると共に、ストリップ2を前方に送り出して、次々にカットを行うことができるようになっている。
【0015】
シャー6でカットされた入側コイル1の後端部(内巻き部)は、シャー6近傍に設けられたスクラップバッグ7に落下し、このスクラップバッグ7に貯められるようになっている。
図1において、ピンチロール5の上ロール5uはゴムロールで構成され、下ロール5dは鋼ロールで構成される。さらに、下ロール(鋼ロール)5dの外径は、上ロール(ゴムロール)5uの外径よりも小さい値に設定される。
【0016】
また、上ロール5u及び下ロール5dは個別に駆動制御され、上ロール5uは上ロール駆動回路11u、下ロール5dは下ロール駆動回路11dによりそれぞれ駆動制御され、上ロール駆動回路11u及び下ロール駆動回路11dは、鋼板プロセスライン全体の駆動制御を行う、図示しない上位装置により制御されるようになっている。
ここで、図1の例では、入側コイル1はストリップ2を下側から払い出しているため、コイル後端部(内巻き部)のL反りは、上反り(下に凸)の状態である。
そして、前述のように、ピンチロール5の、上ロール5uはゴムロール、下ロール5dは鋼ロールであり、下ロール5dは上ロール5uよりも外径が小さい。
【0017】
このため、上下ロールの押し付け荷重を大きくすると、鋼ロール(下ロール5d)がゴムロール(上ロール5u)に押しつけられてゴムロール(上ロール5u)が凹み、ゴムロール(上ロール5u)が鋼ロール(下ロール5d)の表面に沿ってこれを覆うように変形するため、上下ロール間を搬送中のストリップ2は、鋼ロール(下ロール5d)に巻き付いた形状に曲げられることになる。つまり結果的に、図2に模式的に示すように、上ロール5ua及び5ubの間に下ロール5dが設けられ、下ロール5dを通過するストリップ2に対して、下ロール5dの、ストリップ2の搬送方向前後に接して設けられた上ロール5ua及び5ubにより、図2において下方向に力が加わり、下反りとなる方向に矯正が行われることと同等となる。そのため、上反りの状態であったコイル後端部(内巻き部)は、下反りの方向に力が加わるため、上反りのストリップ2が平坦となるように矯正されることになる。そして、このような状態でピンチロール5が回転すれば、ストリップ2は、連続的に下反りとなる方向に力が加わって、連続的に反りが矯正されることになる。
【0018】
したがって、前述のように、(a)鋼ロールの外径を小さくする、(b)ゴム系ロールの外径を大きくする、(c)上下ロールの押し付け荷重を大きくする、ことにより矯正能力を大きくすることができることがわかる。
以上を踏まえ、本願発明者らは、さらに矯正能力を大きくする方法について検討を行った。
その結果、従来の例えば特許文献4記載の発明では、上下ロールのうち、片方のロールを駆動ロールとし、他方のロールを従動ロールとして連れ回りにしており、上下ロールのロール速度(外周速度)を同じ速度で回転させていたのに対し、上下ロールのロール速度に速度差を付けることにより、矯正能力がさらに大きくなることを見出した。
【0019】
ここで、図1に示す鋼板プロセスラインにおいて、一方がゴムロール、他方が鋼ロールからなるピンチロール5を用いて、上下ロール間に一定荷重をかけた状態で、ゴムロール(上ロール5u)と鋼ロール(下ロール5d)との外周速度差と、矯正可能な最小板厚との関係を調査したところ、上下ロールのうちの何れのロールが速いか遅いかに関係なく、上下ロールの速度差により矯正できる最小板厚が変化することを確認し、具体的には、上下ロールのロール速度差が大きいときほど、矯正できる最小板厚が小さくなることを確認した。これは、上下ロールにロール速度差を付けることにより、鋼ロール(下ロール5d)にストリップ2が、より巻き付きやすくなることを示している。
【0020】
発明者らの検討によれば、ロール速度差による摩擦力によりゴムロール(上ロール5u)が弾性変形することにより、ゴムロール(上ロール5u)と鋼ロール(下ロール5d)との接触面積が増加するため、回転方向の接触長さの増加に伴い鋼ロール5dへのストリップ2の巻き付きが大きくなると推定される。
上述のように、上ロール5uがゴムロール、下ロール5dが鋼ロールからなるピンチロール5として、例えば、図3のピンチロールを適用することができる。
【0021】
図1の鋼板プロセスラインでは、入側コイル1はストリップ2を下側から払い出すため、巻きぐせは上反り(下に凸)となる。つまり、下反り方向に力を加える必要があるため、下ロール5dを鋼ロール、上ロール5uをゴムロールとする。
なお、入側コイル1が、ストリップ2を上側から払い出す場合には、巻きぐせは下反り(上に凸)となるため、下ロール5dをゴムロール、上ロール5uを鋼ロールとし、上反り方向に力を加えるようにすればよい。
【0022】
すなわち、入側コイル1の巻きぐせで凸となる側のストリップ2の面に鋼ロールが当接するように配置すればよい。
鋼ロールからなる下ロール5dの外径は、矯正すべき鋼板の最小板厚により求めることができる。鋼ロール(下ロール5d)の外径をDs〔mm〕、ストリップ2の最小板厚をt〔mm〕とすると、鋼ロール(下ロール5d)の外径Dsは、次式(1)を満足するように設定することが好ましい。
150<Ds/t<600 ……(1)
【0023】
矯正の原理から、ゴムロール(上ロール5u)外径に対し鋼ロール(下ロール5d)外径が小さいほど矯正能力は大きくなるが、上述のように鋼ロール(下ロール5d)外径が小さくなり過ぎると、鋼ロール(下ロール5d)のたわみが問題となり、バックアップロールが必要になるという問題がある。また、矯正荷重の変化に対して反りの変動が大きくなって安定した矯正が難しくなるという問題もある。
【0024】
そのため、鋼ロール(下ロール5d)外径は小さ過ぎても問題があり、逆に鋼ロール(下ロール5d)外径が大き過ぎ、ゴムロール(上ロール5u)外径と鋼ロール(下ロール5d)外径との差が小さくなると、ゴムロール(上ロール5u)と鋼ロール(下ロール5d)とにより、ストリップ2が鋼ロール(下ロール5d)に巻き付くようにすなわち完全巻き付き状態となるように力が加えられたとしても、ストリップ2が塑性変形域に入らず矯正能力不足となり、充分な矯正を行うことができない。
【0025】
発明者らは、Ds/tが150<Ds/t<600を満足すれば、良好な矯正を行うことができ、Ds/t≦150の場合には、鋼ロール(下ロール5d)のたわみの問題が発生する可能性があり、600≦Ds/tの場合には、充分な矯正を行うことができない可能性があることを確認した。
なお、ここでいう最小板厚tとは、通板されるストリップ2の最小板厚ではなく、巻きぐせによりスクラップトラブルを引き起こす最小の板厚のことである。すなわち、板厚が小さい場合には巻きぐせがつきにくいため、本発明による矯正の対象とする必要はない。
【0026】
また、通常の炭素鋼鋼板(高Si鋼(電磁鋼板)、ハイテン、ステンレスなどを含む)であれば、(1)式の範囲で問題なく矯正を行うことができる。
前記鋼ロール(下ロール5d)は、中実ロールでもよいが、厚みが外径の10%以上のスリーブでもよい。また、鋼ロール(下ロール5d)の材質は、通常の炭素綱であればよい。
【0027】
一方、ゴムロール(上ロール5u)の外径Drは、鋼ロール(下ロール5d)の外径Dsに対し、次式(2)を満足することが好ましい。
1.0<Dr/Ds<1.7 ……(2)
反りを確実に矯正するためには、ゴムロール(上ロール5u)の外径Drを鋼ロール(下ロール5d)の外径Dsよりも大きくする方が好ましい。前記(2)式の範囲を超えて大きくしても、大きな効果の改善は困難である上、ピンチロール架台(ハウジング)の設計が複雑になり好ましくない。
【0028】
発明者らは、Dr/Dsが、1.0<Dr/Ds<1.7を満足すれば、良好な矯正を行うことができ、Dr/Ds≦1.0の場合には鋼ロール(下ロール5d)の外径Drがゴムロール(上ロール5u)の外径Ds以上となり鋼ロール(下ロール5d)にストリップ2を巻き付けることができず、逆に、1.7≦Dr/Dsの場合には大きな効果の改善は困難であることを確認した。
【0029】
(1)式の場合と同様、前述した通常の炭素鋼鋼板であれば、(2)式の範囲で問題なく矯正を行うことができる。
このゴムロール(上ロール5u)も、中実ロールでもよいが、図3に示すように、厚みが外径の10%以上の鋼スリーブu1に、厚みが外径の5%以上のゴム層u2をライニングしてもよい。原理的には、ゴム層厚みが厚いほど、ストリップ2の反りを矯正しやすくなるが、10%を超えて厚くしても効果は小さい。ゴムの材質は、柔らかいほどストリップ2の反りを矯正しやすくなるが、ショア硬度JIS−Aで、70〜80とすることが好ましい。これ以上柔らかいと、ゴムロールの磨耗が激しくなる。逆に硬すぎると反り矯正しづらくなる。
【0030】
上下ロールにロール速度差を付けるためには、鋼ロール(下ロール5d)の速度を通板速度、すなわち入側コイル1のストリップ2の払い出し速度と同期させ、ゴムロール(上ロール5u)の速度を変更することが好ましい。上述のとおり、ゴムロール(上ロール5u)の速度を鋼ロール(下ロール5d)の速度(通板速度)に対して速くしても遅くしても、矯正を行うことができるが、ゴムロール(上ロール5u)の速度を鋼ロール(下ロール5d)の速度よりも速くすると、通板が安定するためゴムロール(上ロール5u)の速度を通板速度よりも早めることが望ましい。
【0031】
上下ロールのロール回転速度を制御するためには、上下ロールを、図示しない、スピンドルを介してモータにより駆動することが、簡易且つ精度がよく制御することができるため好ましい。ただし、設備上の制約から上下ロールいずれか一方のロールしか駆動できない場合は、ゴムロール側を駆動ロールとし、鋼ロール側を従動ロールとすることが好ましい。また、このとき、鋼ロール側を従動ロールとすると共に、例えば、鋼ロールにブレーキを設け、その制動力を調整すること等により、鋼ロール側を、ゴムロールにより連れまわされにくい構造とするようにしてもよい。この場合、ゴムロールの回転に比較して、鋼ロールは回転しにくいためロール回転速度はより小さくなる。その結果、ゴムロールと鋼ロールとの間にロール速度差が生じるため、このロール速度差を利用してもよい。
【0032】
このようにしてゴムロール(上ロール5u)及び鋼ロール(下ロール5d)の仕様を決定した後、ピンチロール5の押し付け荷重を変更する。押し付け荷重を変更することにより、矯正力を調整することができる。押し付け荷重は、矯正後に、シャーカットされたストリップ2の反り量に応じて、押し付け荷重を調整するようにすればよい。
このように、ピンチロール5の一方のロールをゴムロール、他方を鋼ロールで構成し、且つ鋼ロールの外径をゴムロールの外径よりも小さくし、さらにゴムロールと鋼ロールとをロール速度差をもって回転させるようにしたため、鋼ロールへのスプリット2の巻き付け量を大きくすることができ、その結果、反りの矯正をより効率よく行うことができる。
【0033】
そして、このように反りを矯正した後に、コイル後端部をシャーカットするようにしているため、数100〔mm〕ごとにカットされたストリップ2は反りが比較的少ない。そのため、スクラップバッグ7においてカットされた鋼板からなるスクラップどうしは比較的隙間が小さい状態で順序よく積層されやすくなり、クラップに反りがある場合に比較してスクラップバッグ7により多くのスクラップを収容することができ、すなわちスクラップバッブ7のその収容能力相当分のスクラップを収容することができる。そのため、スクラップバッグ7内のスクラップを廃棄する回数をより少なくすることができ、鋼板プロセスラインにおける操業効率を向上させることができる。
【0034】
なお、上記実施の形態においては、シャー6の入り側に配置されたピンチロール5において、入り側コイル1の内巻き部の反りを矯正する場合について説明したが、シャー6入り側で矯正する場合に限るものではなく、任意の箇所において反りを矯正する場合であっても適用することができ、また、コイル内巻き部の反りに限らず、コイル外巻き部の反りを矯正する場合であっても適用することができる。
ここで、上記実施の形態において、ストリップ2が金属帯に対応し、ピンチロール5が上下ロールに対応し、上ロール5uがゴム系ロールに対応し、下ロール5dが鋼系ロールに対応している。
【実施例】
【0035】
図1の鋼板プロセスラインにおいて、板厚0.35〔mm〕の低炭素綱の通板実験を行い、シャーカット後の反り量を測定した。実験は、内径508〔mm〕に巻かれたコイルの内巻き部10〔m〕を用いて行った。
この内巻き部10〔m〕における、通板前の平均反り量Lは、120〔mm〕であった。
この平均反り量Lは、以下の手順で測定した。すなわち、内巻き部10〔m〕を、長さ600〔mm〕にせん断し、水平な床面上に置いた状態で板の反り上がり量を測定した。これを複数回繰り返して、600〔mm〕の長さにせん断した各鋼板の反り上がり量の平均を求め、これを平均反り量Lとした。
【0036】
また、ピンチロール5は、上ロール(ゴムロール)5uとして、鋼スリーブにゴム層をライニングしたゴムロールを用いた。上ロール(ゴムロール)5uの外径は200〔mm〕、ゴム厚は15〔mm〕、ゴムをライニングした内層スリーブの厚みは15〔mm〕である。
下ロール(鋼ロール)5dとして中空スリーブを用い、外径130〔mm〕、スリーブ厚み15〔mm〕とした。
【0037】
上ロール(ゴムロール)5u及び下ロール(鋼ロール)5dの鋼スリーブの材質は、STS370(JIS G 3455)とし、ゴムロール(上ロール5u)の硬度は70(ショア硬度)とした。また、押し付け荷重は、鋼板の単位幅当たり0.5〔N/mm〕とした。
この状態で、鋼ロール(下ロール5d)をストリップ2の通板速度と同期させ、ゴムロール(上ロール5u)の速度を変化させて600〔mm〕ごとにシャーカットを行ったところ、図4に示すように、反り量が変化することが確認された。
【0038】
なお、図4において、横軸は速度差比((ゴムロール(上ロール5u)速度−鋼ロール(下ロール5d)速度)/鋼ロール(下ロール5d)速度)〔%〕である。縦軸は鋼板の反り〔mm〕である。
図4に示すように、速度差比が小さいときには、速度差比が大きくなるにつれて、つまり鋼ロールのロール速度に対しゴムロールのロール速度を早めるにつれて反り量は急峻に減少し、その後、ある程度の速度差比以上となると反り量は略一定となることが確認された。
比較例として、ピンチロール5の上下ロールのロール速度を同一、すなわち、ストリップ2の通板速度と同期させ、シャーカットを行ったところ鋼板の反り量は120〔mm〕程度となり、平均反り量Lと同等であって、反り量はほとんど変換しないことが確認された。
【符号の説明】
【0039】
1 入側コイル
2 ストリップ
3 デフロール
4 搬送テーブル
5 ピンチロール
5u 上ロール(ゴムロール)
5d 下ロール(鋼ロール)
6 シャー
7 スクラップバッグ
11u 上ロール駆動回路
11d 下ロール駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下ロール間を通過させることにより金属帯の曲がりを矯正するようにした、金属帯の矯正方法であって、
上下ロールのうちの一方をゴム系ロール、且つ他方を前記ゴム系ロールよりも小さいロール外径を有する鋼系ロールで構成し、
前記ゴム系ロールのロール速度と前記鋼系ロールのロール速度との間に速度差をもたせることを特徴とする金属帯の矯正方法。
【請求項2】
プロセスライン入側において、コイル状に巻き取られた金属帯を払い出した後、当該金属帯をピンチロールを介してシャー装置に導入し、当該シャー装置により前記金属帯の最内巻き部をせん断してスクラップとする処理工程における前記金属帯の矯正方法であって、
前記ピンチロールを構成する上下ロールのうちの一方をゴム系ロール、且つ他方を前記ゴム系ロールよりも小さいロール外径を有する鋼系ロールで構成し、
前記ゴム系ロールのロール速度と前記鋼系ロールのロール速度との間に速度差をもたせることを特徴とする金属帯の矯正方法。
【請求項3】
前記鋼系ロールのロール速度を前記金属帯の搬送速度に同期させ、前記ゴム系ロールのロール速度を前記搬送速度よりも速くすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の金属帯の矯正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−240396(P2011−240396A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117233(P2010−117233)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】