説明

金属微粒子分散液を用いた塗膜形成方法及びそれを用いた塗膜

【課題】金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液を用いて塗膜を形成する際、顔料として使用する場合、乾燥後に表面に割れがなく金属光沢があり、耐久性に優れた塗膜が得られ、また、導電膜形成用材料として使用する場合、乾燥後に低温焼成することにより、焼成膜の体積抵抗率が低下され、低抵抗の塗膜が得られる塗膜形成方法と、それを用いた意匠用、又は電子部品の回路形成用として好適な塗膜を提供する。
【解決手段】下記の(イ)及び(ロ)の要件を満足する金属微粒子分散液に、ヒドロキシカルボン酸を添加して、(ハ)の要件を満足する塗布液を調製し、これを塗布した後、室温〜120℃の温度で乾燥処理に付すことを特徴とする。
(イ)前記金属微粒子は、その平均粒径が10〜100nmである。
(ロ)前記溶剤は、極性溶剤である。
(ハ)前記塗布液は、その溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が5〜40質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子分散液を用いた塗膜形成方法及びそれを用いた塗膜に関し、さらに詳しくは、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液を用いて塗膜を形成する際、顔料として使用する場合、乾燥後に表面に割れがなく金属光沢があり、耐久性に優れた塗膜が得られ、また、導電膜形成用材料として使用する場合、乾燥後に低温焼成することにより、焼成後の塗膜(以下、焼成膜と呼称する場合がある。)の体積抵抗率が低下され、低抵抗の塗膜が得られる塗膜形成方法と、それを用いた意匠用、又は電子部品の回路形成用として好適な塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒径が100nm以下の金属微粒子を含む金属微粒子分散液は、塗布した際の塗膜表面の平滑性が高く、さらに、焼結性の高さ、インクジェットで吐出した際のノズルの詰まりにくさ等もあって、印刷による導電膜形成用材料、意匠性顔料等への応用が進められている。しかしながら、分散液の種類や塗膜の厚みによっては、乾燥時に、乾燥むらによる厚みの均一性悪化、体積収縮によるひび割れ等の問題が起こりやすく、特に、例えば1μm以上の膜厚に、塗膜が厚膜化されるとき、これらの問題が発生する傾向がある。
【0003】
ところで、導電膜形成用材料としては、厚いほど抵抗値が低減でき、また、意匠性顔料としては、厚く塗ることで耐久性が向上し、下地に対する隠蔽力を向上することできるため、塗膜の厚膜化が盛んに行われている。しかしながら、得られる塗膜の均一性が悪く、欠陥がある場合には、前述したような期待される性能向上が達成されない。
【0004】
このため、均一で欠陥がない塗膜を形成するため、様々な方法が提案されている。
例えば、機能性材料を溶剤に溶解又は分散させた溶液を基板に塗布する工程と、減圧下で溶剤を除去する工程と、不活性ガス雰囲気下で焼成する工程とを含む、機能膜の製造方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。しかしながら、この方法では、乾燥を減圧下で行うため、特別な設備が必要となるので、設備費用が高くなり、かつ工程も煩雑になるという問題点があった。また、ここでは、粒子分散液に用いる溶剤の沸点は、200〜300℃であり、低温焼成による導電膜を得る場合には、溶剤の残留による抵抗値の悪化が予想される。
【0005】
また、金属微粒子と、水と、揮発性有機溶剤と、不揮発性有機化合物とを含む金属微粒子分散液を基材の表面に塗布し、乾燥させた後、焼成する金属皮膜の形成方法(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。しかしながら、この方法では、分散液中に揮発性有機溶剤を大量に含有するため、乾燥速度が極めて早く、ハンドリング性の悪化とともに、インクジェットへの適用ではノズルに乾燥物が詰まり、吐出できなくなる可能性がある。さらに、低抵抗の導電膜を形成させる場合、不揮発性有機化合物の熱分解温度以上に加熱する必要があり、低温焼成性に優れているとは言い難い。
【0006】
また、低抵抗の導電膜を形成する方法として、有機溶剤、ナノスケール金属粒子又は分解性金属有機化合物、及び熱分解性ポリマーを含む高導電性インク組成物と、該高導電性インク組成物を加熱形成する金属導電パターンの作製方法(例えば、特許文献3参照。)が提案されている。しかしながら、この方法は、低抵抗の導電膜の形成に関するものであり、意匠性顔料への適用に関しては不明であり、しかも、塗布後の加熱形成が必須であるので、用途的にも限定されるものであった。
【0007】
ところで、金属微粒子分散液の中で、銅粒微子分散液を用いて得られる塗膜は、銅が持っている高導電性により低抵抗が得られることから導電膜としても有用であり、一方、特有の色調が得られることから意匠性が高く、顔料としても非常に有用であることから注目されている。しかしながら、従来、銅微粒子を用いる場合、銀などの貴金属微粒子の場合に比べ、耐酸化性が劣る欠点があり、そのため、分散液中、或いは塗布、乾燥後の銅微粒子の酸化により、意匠の変化、長期保存性、低温焼結性等において劣り、実用化には至っていない。
【0008】
この解決策として、導電性が必要な回路形成用の銅微粒子分散液として、水溶性高分子及びヒドロキシカルボン酸により被覆された粒径100nm以下の銅微粒子とヒドロキシカルボン酸、多価アルコール及び/又は極性溶剤からなるもの(例えば、特許文献4参照)が提案されている。しかしながら、この提案は、低温焼成を前提にした回路形成用の用途であるので、意匠性を必要とする印刷用に用いる際には、その用途が限定されてしまう。また、ここで、開示されている焼成温度は、250〜300℃であるので、回路形成用の銅微粒子分散液としても、さらなる焼成温度の低温化が求められている。
以上の状況から、金属微粒子分散液を用いて、意匠用、又は電子部品の回路形成用として好適な塗膜が形成することができる方法が求められている。
【0009】
【特許文献1】特開2006−068598号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開2006−321948号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献3】特開2007−182547号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献4】WO2007/013393号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液を用いて塗膜を形成する際、顔料として使用する場合、乾燥後に表面に割れがなく金属光沢があり、耐久性に優れた塗膜が得られ、また、導電膜形成用材料として使用する場合、乾燥後に低温焼成することにより、焼成膜の体積抵抗率が低下され、低抵抗の塗膜が得られる塗膜形成方法と、それを用いた意匠用、又は電子部品の回路形成用として好適な塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液を用いる塗膜の形成方法について、鋭意研究を重ねた結果、特定の平均粒径を有する金属微粒子と特定の溶剤を含む金属微粒子分散液を用いて、ヒドロキシカルボン酸を特定量含有する塗布液を調製し、これを塗布した後、特定の条件で乾燥処理に付したところ、塗膜の均一性が向上するとともに、金属微粒子の耐酸化性が向上し、欠陥のない塗膜が得られ、顔料として使用する際、乾燥後に表面に割れがなく金属光沢があり、意匠用として好適な耐久性に優れた塗膜が得られること、及び、さらに前記乾燥処理に続いて、特定の条件で焼成処理に付したところ、導電膜形成用材料として使用する際、低温焼成することにより、焼成膜の体積抵抗率が低下され、電子部品の回路形成用として好適な低抵抗の塗膜が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液を用いる塗膜の形成方法であって、
下記の(イ)及び(ロ)の要件を満足する金属微粒子分散液に、ヒドロキシカルボン酸を添加して、(ハ)の要件を満足する塗布液を調製し、これを塗布した後、室温〜120℃の温度で乾燥処理に付すことを特徴とする塗膜形成方法が提供される。
(イ)前記金属微粒子は、その平均粒径が10〜100nmである。
(ロ)前記溶剤は、極性溶剤である。
(ハ)前記塗布液は、その溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が5〜40質量%である。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記乾燥処理は、非還元性雰囲気下に行うことを特徴とする塗膜形成方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、さらに前記乾燥処理に続いて、200℃以上、250℃未満の温度で焼成処理に付すことを特徴とする塗膜形成方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3いずれかの発明において、前記ヒドロキシカルボン酸は、クエン酸であることを特徴とする塗膜形成方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4いずれかの発明において、前記金属微粒子は、金、パラジウム、白金、銀又は銅から選ばれる少なくとも1種の微粒子であることを特徴とする塗膜形成方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5いずれかの発明において、前記金属微粒子は、そのハロゲン元素の含有量が20質量ppm以下であることを特徴とする塗膜形成方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6いずれかの発明において、前記金属微粒子分散液は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、又はトリエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種の溶液中に、金属微粒子を構成する金属の酸化物、水酸化物又は塩と、分散剤である水溶性高分子と、核生成のための貴金属化合物又は貴金属コロイドとを添加し、加熱することにより、還元析出させた金属微粒子と溶剤から構成されるものであることを特徴とする塗膜形成方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、前記金属微粒子分散液のハロゲン元素の含有量は、該分散液中の金属微粒子に対し20質量ppm以下であることを特徴とする塗膜形成方法が提供される。
【0020】
また、本発明の第9の発明によれば、第7又は8の発明において、前記(ハ)の要件の代わりに、下記の(ニ)の要件を満足することを特徴とする塗膜形成方法が提供される。
(ニ)前記塗布液は、その溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が15〜35質量%である。
【0021】
また、本発明の第10の発明によれば、第9の発明において、前記金属は、銅であることを特徴とする塗膜形成方法が提供される。
【0022】
また、本発明の第11の発明によれば、第10の発明の塗膜形成方法により得られる銅からなる塗膜であって、
基板に塗布後、窒素雰囲気下に220℃で1時間焼成した際に得られる焼成膜の体積抵抗率が、50μΩ・cm以下であることを特徴とする塗膜が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の金属微粒子分散液を用いた塗膜形成方法は、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液を用いて塗膜を形成する際、塗膜の均一性が向上するとともに、金属微粒子の耐酸化性が向上し、欠陥のない塗膜が得られるので、顔料として使用する場合、乾燥後に表面に割れがなく金属光沢があり、耐久性に優れた塗膜が、また、導電膜形成用材料として使用する場合、低温焼成することにより、焼成膜の体積抵抗率が低下され、低抵抗の塗膜が、容易に得られる塗膜形成方法であり、また、それを用いて得られた塗膜は、意匠用又は電子部品の回路形成用として好適な塗膜であるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の金属微粒子分散液を用いた塗膜形成方法及びそれを用いた塗膜を詳細に説明する。
1.金属微粒子分散液を用いた塗膜形成方法
本発明の金属微粒子分散液を用いた塗膜形成方法は、金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液を用いる塗膜の形成方法であって、
下記の(イ)及び(ロ)の要件を満足する金属微粒子分散液に、ヒドロキシカルボン酸を添加して、(ハ)の要件を満足する塗布液を調製し、これを塗布した後、室温〜120℃の温度で乾燥処理に付すことを特徴とする。
(イ)前記金属微粒子は、その平均粒径が10〜100nmである。
(ロ)前記溶剤は、極性溶剤である。
(ハ)前記塗布液は、その溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が5〜40質量%である。
これによって、顔料として使用する際、乾燥後に表面に割れがなく金属光沢があり、意匠用に好適な耐久性に優れた塗膜が得られる。
【0025】
また、上記塗膜形成方法において、さらに前記乾燥処理に続いて、200℃以上、250℃未満の温度で焼成処理に付すことを加えれば、導電膜形成用材料として使用する際、低温焼成することにより、焼成膜の体積抵抗率が低下され、電子部品の回路形成用として好適な低抵抗の塗膜が得られる。
【0026】
本発明において、その平均粒径が10〜100nmである金属微粒子と極性溶剤とから構成される金属微粒子分散液に、ヒドロキシカルボン酸を添加して、溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が5〜40質量%である塗布液を調製し、これを塗布した後、室温〜120℃の温度での乾燥処理、或いは200℃以上、250℃未満の温度での低温焼成処理に付すことが重要である。
これにより、簡便な方法で、欠陥がなく金属光沢を有する意匠性に優れた塗膜が得られる。すなわち、ヒドロキシカルボン酸を添加することにより、乾燥処理に際し、ヒドロキシカルボン酸がバインダーとして作用し、塗膜の均一性が向上して乾燥むら及び収縮によるひび割れを抑えることができる。また、焼成処理に際し、塗膜の体積抵抗率を低下させることができる。なお、体積抵抗率の低下は、ヒドロキシカルボン酸が、乾燥時のひび割れを防止すること以外に、金属微粒子表面で金属と反応して、例えばヒドロキシカルボン酸銅等のヒドロキシカルボン酸金属を形成し、焼成時に分解することで生成した活性の高い金属が互いに焼結するためであると考えられる。
【0027】
上記塗布液のヒドロキシカルボン酸の含有量としては、下記の(ハ)の要件を満足し、好ましくは下記の(ニ)の要件を満足するものである。
(ハ)前記塗布液は、その溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が5〜40質量%である。
(ニ)前記塗布液は、その溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が15〜35質量%である。
すなわち、ヒドロキシカルボン酸の添加量を調整して、塗布液の溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が5〜40質量%、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは15〜35質量%とする。ここで、前記ヒドロキシカルボン酸の含有量が5質量%未満では、塗膜の均一性の向上に大きな効果が見られない。一方、前記ヒドロキシカルボン酸の含有量が40質量%を超えると、それ以上の均一性の向上に大きな効果が見られず、pHの急激な低下による粒子の凝集が起こりやすくなるとともに、特に、金属微粒子として、銅微粒子を用いた場合には、ヒドロキシカルボン酸による銅の溶解が顕著になる。
【0028】
上記ヒドロキシカルボン酸としては、特に限定されるものではなく、例えば、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸などが挙げられ、溶剤への溶解性、粘度調整等を考慮して、これらの1種又は2種以上を適宜選択して用いることができるが、この中で、特に水、アルコール等の極性溶剤に対する溶解度が高く、かつ金属微粒子の酸化防止効果が大きいクエン酸が好ましい。
【0029】
上記塗布液中の金属微粒子の含有量としては、特に限定されるものはなく、塗布液の全量に対し2〜70質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましい。
すなわち、金属微粒子の含有量が2質量未満では、良好な金属光沢を呈する印刷面を達成出来ない恐れがある。一方、金属微粒子の含有量が70質量%を超えると、乾燥による目詰まりや粘度の増大により、インクジェット方式での印刷などに用いた場合に、インクの吐出安定性が低下して良好な印刷が達成できない恐れがある。
【0030】
上記乾燥処理としては、塗布後の金属微粒子をある程度結合させ、金属光沢を有し、塗膜としての十分な強度を得るためのものである。本発明においては、塗布液を塗布した後、室温〜120℃の温度で乾燥処理に付すことにより、前述したヒドロキシカルボン酸のバインダー効果により、欠陥がなく金属光沢を有する意匠性に優れた塗膜が得られる。これに対して、従来の方法では、金属光沢を有し、塗膜としての十分な強度を得るためには、これ以上の高温での焼成が不可欠である。
【0031】
上記乾燥処理の温度としては、簡便性及びコストの面から、加熱又は冷却操作が不要な、例えば5〜40℃程度の室温とすることがより好ましい。
上記乾燥処理の雰囲気としては、特に限定されるものではないが、非還元性雰囲気下、例えば大気雰囲気下に行うことができる。すなわち、乾燥処理の温度が低いこと、及び金属微粒子の酸化防止効果を有するヒドロキシカルボン酸を用いることにより、酸化防止のため還元性雰囲気を採用する必要がない。
【0032】
上記焼成処理としては、導電膜形成用材料として使用する際、電子部品の回路形成用として好適な低抵抗の塗膜を得るために行われるものであるが、その温度としては、好ましくは200℃以上、250℃未満、より好ましくは、200〜230℃である。これにより、欠陥がない、低抵抗の導電性に優れた塗膜を得ることができる。すなわち、焼成処理の温度が200℃未満では、金属微粒子の焼結が十分でなく、塗膜の抵抗値が十分に低下しない場合がある。一方、焼成処理の温度が250℃以上では、抵抗値は低下できるが、塗布する基材又は基板として、特に耐熱性の高いものに限られ、一般的に最も汎用的に利用されるポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等では耐熱温度の面から制限されるので、上記塗布液の用途が限定される。
【0033】
上記焼成処理の雰囲気としては、特に限定されるものではないが、金属微粒子の酸化防止のため、非酸化性雰囲気下、特に簡便性とコスト面から窒素ガス雰囲気下が好ましい。すなわち、焼成処理の温度が低いため還元性雰囲気を採用する必要がない。
【0034】
(1)塗膜の形成方法に用いる金属微粒子分散液
上記塗膜の形成方法に用いる金属微粒子分散液中の金属微粒子と溶剤としては、下記の(イ)及び(ロ)の要件を満足するものである。
(イ)前記金属微粒子は、その平均粒径が10〜100nmである。
(ロ)前記溶剤は、極性溶剤である。
【0035】
上記金属微粒子の平均粒径としては、10〜100nmであることが重要である。すなわち、前記平均粒径が10nm未満では、乾燥処理に際し、塗膜の収縮が大きくなりすぎる。一方、前記平均粒径が100nmを超えると、塗膜の表面の平滑性が低下し、また、塗膜を焼成処理する場合、焼結性が低下するとともに、インクジェット方式による吐出を行う際、ノズルの閉塞を起こしやすい。
なお、金属微粒子の平均粒径は、実施例で詳述するように、SEM観察により測定されたものである。
【0036】
上記金属微粒子としては、特に限定されるものはなく、例えば、金、銀、白金、銅、アルミニウム、パラジウム、ニッケル、コバルト、錫、鉄などの様々な金属の微粒子を使用することができるが、導電性及び意匠性を考慮すると、金、パラジウム、白金、銀又は銅から選ばれる少なくとも1種の微粒子が好ましく、特有の意匠性を有し低抵抗である塗膜が得られる銅微粒子を用いることがより好ましい。
【0037】
上記金属微粒子のハロゲン元素の含有量としては、特に限定されるものはなく、特に導電膜等の電子部品材料としての用途では、20質量ppm以下であることが好ましい。すなわち、前記ハロゲン元素の含有量が20質量ppmを超えると、基材や他の部材を腐食する恐れがあり、また、低温焼結性が低下して焼成後の塗膜の抵抗値が高くなりやすい。
【0038】
上記金属微粒子分散液中の溶剤としては、極性溶剤を用いることが重要である。
前記極性溶剤としては、特に限定されるものではなく、水のほか、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等の1価のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等等の多価アルコール(ポリオール)が挙げられるが、これらを適宜組み合わせて、塗布液の乾き具合及び粘度を調整することができる。この中で、特に、水とエチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールを適宜組み合わせると、調整が容易であるので、より好ましい。
【0039】
上記金属微粒子分散液中の金属微粒子と溶剤の含有割合としては、特に限定されるものはなく、金属微粒子分散液の製造方法等により異なるものであり、最終的には、塗布液の調製の際、溶剤中へのヒドロキシカルボン酸の添加により、金属微粒子と溶剤の含有割合が調整される。
【0040】
上記金属微粒子分散液中のハロゲン元素の含有量としては、特に限定されるものはないが、特に電子部品材料用の用途では、該分散液中の金属微粒子に対し20質量ppm以下にまで低ハロゲン化することが好ましい。すなわち、前記ハロゲン元素の含有量が20質量ppmを超えると、基材や他の部材を腐食する恐れがあり、また、低温焼結性が低下して焼成後の塗膜の抵抗値が高くなりやすい。
【0041】
(2)ポリオール法による金属微粒子分散液の製造方法
上記金属微粒子分散液としては、特に限定されるものはなく、例えば、ポリオール法を用いて、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール(DEG)又はトリエチレングリコール(TEG)から選ばれる少なくとも1種からなる溶液中に、該金属微粒子を構成する金属の酸化物、水酸化物又は塩と、分散剤である水溶性高分子と、核生成のための貴金属化合物又は貴金属コロイドとを添加し、加熱することにより、還元析出された金属微粒子と溶剤から構成されるものであることが好ましい。すなわち、この方法により得られた金属微粒子分散液は、金属微粒子の粒径のバラツキが小さく、その分散安定性が高い。
【0042】
以下に、上記金属微粒子分散液の製造方法を、ポリオール法を用いた銅微粒子分散液の場合について、具体的に説明する。
ポリオール法を用いた銅微粒子分散液の製造方法としては、銅微粒子の原料である銅の酸化物、水酸化物又は塩を、上記ポリオール溶液中に、分散剤である水溶性高分子と、核生成のための貴金属化合物又は貴金属コロイドとを添加した溶液中で加熱することにより、還元して、液相中で銅微粒子を合成するものである。なお、ポリオール法は、粒子の分散安定性、導電性、及び耐酸化性が良好であり、しかも大量生産に適した方法である。
【0043】
なお、前述した低ハロゲン化を意図する場合、銅微粒子分散液中のハロゲン元素含有量を、該分散液中の銅微粒子に対し20質量ppm以下に制御することが好ましい。そのためには、上記製造方法で使用する、銅微粒子の原料である銅の酸化物、水酸化物又は塩、分散媒であるエチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコール、分散剤である水溶性高分子、及び核生成のための貴金属化合物又は貴金属コロイドのそれぞれについて、含有されるハロゲン元素を低減させ、それらの合計含有量を銅微粒子に対し20質量ppm以下とすることが好ましい。すなわち、ハロゲン元素、特に塩素は、銅微粒子の表面に吸着するだけでなく、内部にまで含有されるので、電子部品材料用として許容可能な範囲、例えば、銅微粒子に対し20質量ppm以下まで除去することは、通常極めて困難である。
【0044】
前記銅微粒子の原料である銅の酸化物、水酸化物又は塩としては、特に限定されるものはないが、例えば、酸化銅(CuO)、亜酸化銅(CuO)等の銅酸化物、水酸化銅、酢酸銅等の銅塩の粉末が用いられる。ここで、低ハロゲン化を意図する場合、これらの原料のハロゲン元素の含有量としては、5質量ppm未満であるという要件を満足することが好ましい。例えば、通常のポリオール法に用いられる原料のうち、この要件を満足するものが選ばれる。また、ハロゲン元素の含有量がこの要件より高い場合でも、洗浄により除去できるものは使用することができる。
【0045】
前記核生成のための貴金属化合物又は貴金属コロイドは、より均一で微細な銅微粒子を生成する作用を有するものである。
前記貴金属化合物としては、特に限定されるものではなく、ポリオール溶液中で銅より容易に還元されるものが用いられる。ここで、前記貴金属化合物は、粉末状態で添加することもできるが、特に、水などの極性溶剤に溶解した状態で添加することが好ましい。すなわち、この方法では、微細な貴金属粒子を均一に形成させることができ、分散液中に得られる銅微粒子も均一で微細なものになる。したがって、極性溶剤に可溶性の貴金属化合物、即ち水溶性貴金属化合物を用いることが好ましく、例えば、塩化パラジウムアンモニウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硝酸パラジウムアンモニウム等のパラジウム塩、及び、硝酸銀、塩化銀等の銀塩が用いられる。特に、低ハロゲン化の場合には、ハロゲン元素を含まない硝酸パラジウム又は硝酸パラジウムアンモニウムが好ましい。
【0046】
一方、前記貴金属化合物として、溶解性が低い貴金属水酸化物又は貴金属酸化物を用いることもできる。すなわち、核生成物質として好適な貴金属化合物、例えば、硝酸パラジウム及び硝酸パラジウムアンモニウムは、強酸化性の硝酸イオンを含んでいる。これに対し、水酸化物及び酸化物は、硝酸イオン等の強酸化性イオンを含まず、有害な元素も成分元素としていない。このため、酸化性イオンによる還元抑制作用がないので、より低温度での還元が可能になるため、工業的には有利であるという面もある。
ここで、低ハロゲン化を意図する場合、ハロゲン元素を成分元素としている化合物は用いることができない。また、ハロゲン元素を成分元素としない化合物を用いる場合であっても、不純物として混入する場合があるので注意を要する。
【0047】
前記貴金属コロイドとしては、特に限定されるものではなく、ポリオール溶液中で置換反応を起こさせないため、銅よりもイオン化傾向が低いものが用いられ、例えば、銀、パラジウム、白金、又は金のコロイドが好ましい。ここで、得られる銅微粒子の粒径は、添加された貴金属核数に反比例すること、及び高価な貴金属の使用量は極力少ないことが望ましいことから、核として添加するコロイド中の貴金属微粒子の平均粒径は20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。すなわち、前記平均粒径が20nmを超えると、得られる銅微粒子の粒径が大きくなり過ぎるばかりか、貴金属の使用量が増えて高コストとなる。
【0048】
また、前記貴金属コロイドとしては、市販のものを用いることもできるが、公知のポリオール法を用いることによって容易に合成できる。例えば、ポリオール溶液中に、水溶性貴金属化合物と水溶性高分子を添加することにより製造される。ここで、水溶性貴金属化合物としては、例えば硝酸パラジウム、硝酸パラジウムアンモニウム等の、ハロゲン元素を成分元素としない化合物が好ましい。また、水溶性高分子としては、ポリビニルピロリドン等が好ましい。水溶性貴金属化合物及び水溶性高分子の添加量としては、必要な粒径が得られるように、温度などの合成条件を加味して定める。例えば、水溶性貴金属化合物の添加量をパラジウム濃度で5g/L、水溶性高分子の添加量を10g/Lとすれば、粒径10〜15nmの微粒子を含有したパラジウムコロイドが得られる。
【0049】
なお、貴金属コロイドを用いる場合には、貴金属化合物を直接添加する場合に比べて、貴金属コロイドの合成を銅微粒子の製造と分離することができるため、貴金属コロイドの合成を最適条件で行うことができ、コロイド中の微細な貴金属微粒子の制御も容易であるという利点がある。すなわち、貴金属微粒子は、銅微粒子生成の核となるので、貴金属微粒子を微細に制御することにより、銅微粒子の粒径制御と粒径の均一性をより向上させることができる。また、貴金属コロイドを、限外ろ過膜などにより置換洗浄すれば、有害な元素の他、銅微粒子の生成に不要な成分の混入も反応系から極力排除することができる。
ここで、低ハロゲン化を意図する場合、ハロゲン元素の含有量は、貴金属化合物と同様に、銅に対して20質量ppm未満程度に制御する。
【0050】
前記核生成のための貴金属化合物又は貴金属コロイドの添加量としては、特に限定されるものではなく、その形態にかかわらず、銅に対する貴金属の質量比(貴金属/Cu)が0.0004〜0.01の範囲とすることが好ましい。すなわち、前記質量比が0.0004未満では、貴金属微粒子の量が不足するため、銅の還元反応及び銅微粒子の形成が十分に進まない。また、銅微粒子の形成に至った場合でも、核となる貴金属微粒子数が不足しているため、粒径が粗大化してしまう場合がある。一方、前記質量比が0.01を超えると、銅微粒子は得られるが、高価な貴金属の添加量が増える割には粒径の微細化効果は得られない。以上の条件の中で、核生成用の貴金属化合物又は貴金属コロイドの貴金属にパラジウム(Pd)を用い、かつPd/Cu質量比を、0.0006〜0.005の範囲とすることが、特に好ましい。これによって、平均粒径が100nm以下であり、かつ粒径の均一性に優れた銅微粒子を得ることができる。
【0051】
前記分散剤である水溶性高分子としては、特に限定されるものではなく、極性溶剤であるポリオール溶液中に溶解することができる高分子が用いら、特に、エチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールに溶解し、生成した貴金属微粒子及び銅微粒子に吸着して立体障害を形成し得るものであればよく、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、又はポリアリルアミンが好ましく、その中でも銅との親和性が高いポリエチレンイミンが特に好ましい。ここで、水溶性高分子は、還元析出した、又は添加した貴金属微粒子及び銅微粒子の表面を被覆し、立体障害により微粒子同士の接触を防止することによって、凝集がほとんどなく分散性に優れた銅微粒子の生成を促進する作用を有する。
【0052】
前記ポリエチレンイミン(PEI)の添加量としては、銅に対する質量比(PEI/Cu)が0.005〜0.1の範囲が好ましく、0.01〜0.03の範囲がより好ましい。すなわち、前記質量比が0.005未満では、微粒子の被覆率が低下して、核となる貴金属微粒子あるいは生成した銅微粒子が反応中に凝集し、結果的に得られる銅微粒子が粗大化する。一方、前記質量比が0.1を超えると、溶液の粘性が高くなり過ぎ、後の極性溶剤との溶剤置換や濃縮に時間がかかるうえ、濃縮後に水溶性高分子の残存量が多くなるため好ましくない。
【0053】
なお、一般に、高分子分散剤は、吸着基によって対象となる微粒子の吸着能が異なるため、反応初期に生成し、又は添加される貴金属微粒子用と、貴金属微粒子に還元析出して生成する銅微粒子用として、異なる複数の高分子分散剤を混合して用いることが効果的である。具体的には、前記のポリエチレンイミンに加えて、ポリビニルピロリドンとポリアリルアミンの少なくとも1種を用いることが特に好ましい。この場合、ポリビニルピロリドン(PVP)及び/又はポリアリルアミン(PAA)の添加量は、銅に対する合計の質量比((PVP+PAA)/Cu)が0.8未満とすることが好ましく、0.01〜0.5の範囲がより好ましい。すなわち、ポリビニルピロリドンあるいはポリアリルアミンの添加により、核となる貴金属微粒子を更に微細にすることができるが、これらの合計添加量が0.8を超えるとポリエチレンイミンと同様に溶液の粘性が高くなり過ぎ、後の極性溶剤との溶剤置換や濃縮に時間がかかるうえ、濃縮後に水溶性高分子の残存量が多くなる。
【0054】
ここで、低ハロゲン化を意図する場合、水溶性高分子からハロゲン元素が混入すると、最終的に製造される銅微粒子及び分散液にハロゲン元素が残留するため、ハロゲン含有量の低い水溶性高分子を使用する必要がある。
特に、ポリエチレンイミンは、製造過程においてハロゲン元素が混入しやすいが、混入した場合には、陰イオン交換樹脂を用いてハロゲン元素の多くを除去することができる。ここで、陰イオン交換樹脂としては、OH形、NO形等のハロゲンイオン形以外の樹脂を用いることができるが、還元反応に悪影響が出ないOH形の樹脂を用いることが好ましい。なお、除去方法としては、水溶性高分子溶液を陰イオン交換樹脂と接触させ、ハロゲンイオンを交換吸着して除去する。また、樹脂との接触方法としては、バッチ式、カラム式等の公知の方法を用いることができる。水溶性高分子中のハロゲン元素含有量を1000質量ppm未満、好ましくは400質量ppm未満に低減することにより、最終的に作製される銅微粒子中のハロゲン含有量を20質量ppm未満にすることができる。
【0055】
以下に、これらの原材料を用いたポリオール法による銅微粒子分散液の製造方法の手順を具体的に説明する。
上記ポリオール法に使用する装置としては、通常のポリオール法で用いられる装置を用いることかできるが、装置内に銅微粒子が付着し難いものが好ましく、ガラス容器、フッ素樹脂等で被覆処理された金属容器等が用いられる。また、均一に還元反応を行わせるためには、撹拌装置を備えているのものが好ましい。
【0056】
まず、ポリオール溶液中に、上記銅原料、貴金属化合物又は貴金属コロイド、及び水溶性高分子を添加する。次に、得られたポリオール溶液を撹拌しながら、所定の最高到達温度に昇温して保持することによって、表面に水溶性高分子が吸着している銅微粒子が生成する。
ここで、昇温及び保持中は、反応を均一化させるため撹拌することが好ましい。なお、ポリオール溶液は、酸化防止作用も持っているが、還元反応を促進させるととともに、銅微粒子の再酸化を防止するため、昇温及び保持中は窒素ガスを吹き込むことが好ましい。
また、銅微粒子形成の核を微細かつ均一に生成させるため、貴金属化合物又は貴金属コロイドは、それ以外の原料を添加して昇温中のポリオール溶液に、後から添加してもよい。また、水溶性高分子の一部あるいは全部についても、同様に、昇温中のポリオール溶液に、後から添加することができる。
【0057】
前記最高到達温度としては、均一な銅微粒子を合成するため、120〜200℃が好ましい。すなわち、最高到達温度が120℃未満では、銅の還元反応速度が遅くなり、反応完了まで長時間を要するだけでなく、得られる銅微粒子の粗大化を招く。一方、前記最高到達温度が200℃を超えると、高分子分散剤による保護効果が薄れて、凝集性の粗大な粒子に成長する。
【0058】
(3)塗布液の製造方法
以下に、上記銅微粒子分散液の製造方法により得られた微粒子表面に水溶性高分子を吸着している銅微粒子を含むポリオール溶液を用いた塗布液の製造方法を説明する。
上記製造方法により得られた銅微粒子分散液中の銅微粒子は、微粒子表面に水溶性高分子を吸着しているので、最終的に導電膜形成用材料として用いる際、焼成後の抵抗値を低減させるため、表面に吸着している水溶性高分子の量を1.5質量%未満とすることが好ましい。そのため、これに続いて、ヒドロキシカルボン酸によって水溶性高分子を置換する工程を加えて、得られた銅微粒子の表面に吸着している水溶性高分子の量を低減させる。
【0059】
例えば、得られたポリオール溶液に、ヒドロキシカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸溶液を添加し、撹拌することにより、銅微粒子の分散性を維持しながら、銅微粒子表面を被覆している水溶性高分子の一部をヒドロキシカルボン酸で置換することができる。ここで、遊離した水溶性高分子は、限外ろ過により排出する。なお、銅微粒子表面を被覆している水溶性高分子の量を低減させると、銅微粒子は酸化しやすくなるが、ヒドロキシカルボン酸による被覆により酸化を抑制することができる。
【0060】
ここで、ヒドロキシカルボン酸の添加量としては、前述したように。塗布液の含有量として、その溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が5〜40質量%、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは15〜35質量%である。
【0061】
ところが、ヒドロキシカルボン酸を添加したポリオール溶液中には、銅微粒子以外に、余剰の水溶性高分子が含まれている。しかも、この水溶性高分子は、電子材料として使用された場合、配線材料用導電性ペースト製品中に過剰に存在すると、電気抵抗の上昇や構造欠陥などの不具合をもたらす原因となる。そのため、これに続いて、水、アルコール、又はエステルから選ばれる少なくとも1種の極性溶剤を用いて、溶剤置換し濃縮する工程を加えて、水溶性高分子をできるだけ除去することが好ましい。
【0062】
この一般的な方法としては、得られた銅微粒子分散液を、前記極性溶剤で希釈した後、限外ろ過等により溶剤置換及び濃縮を行う方法が用いられる。その後、必要に応じて、さらに極性溶剤による希釈と、溶剤置換及び濃縮を繰り返し、所望の銅微粒子含有量と不純物含有量に調整した銅微粒子分散液を得る。ここで、塗布性の向上のためには、ヒドロキシカルボン酸を加えて、溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が5〜40質量%であるように調整して、本発明の塗膜形成方法に好適な塗布液を得ることができる。
【0063】
2.塗膜
本発明の塗膜は、上記塗膜形成方法により得られる塗膜であって、基板に塗布後、窒素雰囲気下に220℃で1時間焼成した際に得られる焼成膜の体積抵抗率が、50μΩ・cm以下であることを特徴とする。
なお、上記焼成膜の体積抵抗率は、溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が15〜35質量%であるように調整して塗布液を得た場合に達成される。このとき、上記塗膜の厚さとしては、特に限定されるものではないが、1〜3μmが好ましい。すなわち、膜厚を1μm以上とすることで低体積抵抗率が得られるが、3μmを超えると、塗膜の均一性が低下するため、体積抵抗率が増加する。
【0064】
また、塗布液の溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が5質量%以上、15質量%未満の場合、乾燥時のひび割れによる体積抵抗率の増加は抑制することができるが、体積抵抗率は60μΩ・cm程度である。
一方、ヒドロキシカルボン酸を添加しない場合は、乾燥時のひび割れによって体積抵抗率は100μΩ・cm以上と高くなる。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析、SEM観察による粒径、及び焼成膜の膜厚と体積抵抗率の評価方法は次の通りである。
(1)金属の分析:ICP発光分析法で行った。
(2)SEM観察による粒径測定:日立製作所(株)製の電界放出型電子顕微鏡(FE−SEM、型式S−4700)を用いて観察し、視野から200個の銅微粒子を無作為に選択して粒径を測定し、平均粒径(d)と相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)を算出した。
(3)焼成膜の膜厚と体積抵抗率の測定:日立製作所(株)製の電界放出型電子顕微鏡(FE−SEM、型式S−4700)での基板断面観察により測定した膜厚と、(株)ダイアインスツルメンツ製の抵抗率計(型式MCP−T600)により測定した表面抵抗率とから求めた。
【0066】
(実施例1)
下記の[銅微粒子分散液の製造方法]により得た銅微粒子分散液を用いて、塗布液を製造し、下記の形成方法により得られた塗膜の評価を行った。
[銅微粒子分散液の製造方法]
以下に示す原材料を使用した。なお、亜酸化銅とポリエチレンイミン(PEI)は、低ハロゲン化を行なった後に使用した。
(a)銅原料:亜酸化銅(CuO)(Chemet社製)
(b)貴金属化合物:硝酸パラジウムアンモニウム(エヌ・イー ケムキャット社製)
(c)ポリオール溶剤:エチレングリコール(EG)(日本触媒(株)製)
(d)分散剤:分子量10、000のポリビニルピロリドン(PVP)(アイエスピー・ジャパン(株)製)、分子量1、800のポリエチレンイミン(PEI)(日本触媒(株)製)
(e)ヒドロキシカルボン酸:クエン酸(和光純薬(株)製、特級)
【0067】
(1)低ハロゲン化処理
塩素含有量40質量ppmの亜酸化銅(CuO)粉600gを、濃度0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液3リットルに添加し、懸濁液とし、80℃の温度で1時間撹拌した後、ろ過した。得られた亜酸化銅を純水3リットルに添加し、30分間撹拌した後、ろ過し、80℃の温度で真空乾燥をおこない、洗浄済みCuO粉を得た。洗浄済みCuO粉の塩素含有量は、Cuに対して2質量ppmであった。
一方、塩素含有量が3000質量ppmのポリエチレンイミン(PEI)10gを、濃度が10質量%となるように水で希釈し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてOH形に変換した陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、SA−10A)10gを添加して、8時間撹拌した。その後、樹脂を濾別し、80℃の温度で真空乾燥させることにより、洗浄済みPEIを得た。洗浄済みPEIの塩素含有量は、200質量ppmとなった。
【0068】
(2)銅微粒子分散液の合成
まず、溶剤であるエチレングリコール(EG)1リットルに、洗浄済みCuO粉110g、洗浄済みポリエチレンイミン(PEI)1.5g、及び塩素含有量が3質量ppmであるポリビニルピロリドン(PVP)40gを添加した後、窒素ガスを吹き込みながら撹拌して加熱した。次に、硝酸パラジウムアンモニウムをアンモニア水で溶解したパラジウム溶液をパラジウム量で0.2g添加し、150℃の温度で30分間保持して銅微粒子を還元析出させ、銅微粒子を含む分散液(A)を得た。なお、銅微粒子に対する全原料中の塩素の合計含有量は6質量ppmであり、PEIのCuに対する質量比(PEI/Cu)は0.015、同じくパラジウムのCuに対する質量比(Pd/Cu)は0.002であった。
ここで、得られた銅微粒子をろ過し、得られた銅微粒子の平均粒径(d)及び相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)を測定し、さらにSEMで観察した。その結果、得られた銅微粒子の平均粒径(d)は32nmで、相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)は48%であった。また、SEM写真を図1に示す。図1より、凝集のない微粒子であることが分かる。
【0069】
(3)銅微粒子分散液の溶剤置換・濃縮
次いで、得られた銅微粒子を含む分散液(A)から、溶剤のエチレングリコール(EG)の大部分を水で置換した銅微粒子分散液(B)を調製した。
具体的には、得られた銅微粒子を含む分散液(A)(Cu:10質量%)1リットルに、純水とエチレングリコールの混合溶剤(重量比が、純水:エチレングリコール=8:1である。)1リットルにクエン酸10gを添加した洗浄液を追加し、限外ろ過により約1/10になるまで濃縮した。その後、2リットルになるまで上記と同じ洗浄液を追加し、限外ろ過により純水とエタノールの混合ろ液を系外へ排出して、銅微粒子を含む溶液を100mLまで濃縮した。さらに、この濃縮液に、再び上記と同じ洗浄液を1リットルになるまで追加し、限外ろ過によりろ液を系外へ排出して、元液を1/10に希釈した。この工程をさらに2度繰り返すことによって、反応溶剤を元の1/200000の濃度にした。その後、この溶剤置換・濃縮後の液を回収して、50mLの銅微粒子分散液(B)を得た。
【0070】
得られた銅微粒子分散液(B)は、Cu:57質量%、Cl:6質量ppm、Pd:0.1質量%、及びクエン酸0.5質量%であり、残部が純水とエチレングリコールであり、銅微粒子に対する塩素含有量は11質量ppmであった。
また、銅微粒子分散液(B)を、真空中において80℃の温度で3時間乾燥させた後、窒素ガス雰囲気下に600℃の温度までの熱重量分析を行ったところ、180℃〜300℃にかけて4.6質量%の重量減少と、300℃〜600℃にかけて1.2質量%の重量減少が検出された。また、別途実施したクエン酸、PEI、PVPの各熱重量分析結果から、クエン酸に関しては、180℃付近から分解し始めて300℃でほぼ完全に分解蒸発すること、PEI及びPVPに関しては、300℃付近から分解し始めて600℃でほぼ完全に分解蒸発し、カーボンが固体として残留しないことが確認されている。これより、300℃〜600℃の重量減少は、銅に吸着したPEI及びPVPの分解に由来する重量減少であると考えられる。したがって、銅微粒子に吸着している水溶性高分子量は、1.2質量%となることが分かった。
【0071】
[塗布液の製造と塗膜の評価]
上記銅微粒子分散液(B)に、クエン酸を添加して撹拌溶解させ、溶剤中のクエン酸の含有量が11質量%である塗布液を調製し、次いで、No.4バーコーターを用いてガラス基板上に塗布した。続いて、得られた塗膜を大気雰囲気中、室温(25℃)で乾燥させたところ、塗膜表面は鏡面光沢を有していた。塗膜表面を日本電子製電子顕微鏡(SEM、型式JSM−6360A)で観察した結果、ひび割れ等は観察できなかった。なお、図2に塗膜表面のSEM像を示す。
その後、窒素雰囲気中220℃の温度で1時間焼成したところ、焼成膜は、焼成前と同様に鏡面光沢を有していた。続いて、この焼成膜の膜厚と体積抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例2)
溶剤中のクエン酸の含有量が20質量%である塗布液を調製したこと以外は実施例1と同様にして塗膜を得た。なお、乾燥後の塗膜表面は、鏡面光沢を有しており、焼成膜も、焼成前と同様に鏡面光沢を有していた。その後、この焼成膜の膜厚と体積抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例3)
溶剤中のクエン酸の含有量が33質量%である塗布液を調製したこと以外は実施例1と同様にして塗膜を得た。なお、乾燥後の塗膜表面は、鏡面光沢を有しており、焼成膜も、焼成前と同様に鏡面光沢を有していた。その後、この焼成膜の膜厚と体積抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例4)
銅微粒子分散液の合成において、洗浄済みポリエチレンイミン(PEI)量の使用量を0.75gに低減したこと、塩素含有量が3質量ppmであるポリビニルピロリドン(PVP)の代わりに、塩素含有量が54質量ppmであるポリビニルピロリドン(PVP)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、銅微粒子を還元析出させた。ここで、銅微粒子に対する全原料中の塩素の合計含有量は25質量ppmであった。得られた銅微粒子をろ過してSEMで観察したところ、凝集のない微粒子であった。この銅微粒子は、平均粒径(d)が37nm、及び相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が55%であった。
【0075】
得られた銅微粒子を含む分散液(A´)から、実施例1と同様にして、溶剤のエチレングリコール(EG)の大部分を水で置換した銅微粒子分散液(B´)を調製した。得られた銅微粒子分散液(B´)は、Cu:45質量%、Pd:0.05質量%、Na:10質量ppm未満、Mg:10質量ppm未満、Cl:13質量ppm、及びクエン酸0.6質量%であり、残部が純水とエチレングリコールであり、銅微粒子に対する塩素含有量は29質量ppmであった。また、実施例1と同様に熱重量分析により、この銅微粒子に吸着している水溶性高分子量を求めたところ、1.2質量%であることが分かった。
さらに、溶剤中のクエン酸の含有量が9質量%である塗布液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして[塗布液の製造と塗膜の評価]を行なったところ、乾燥後の塗膜表面は鏡面光沢を有していた。また、焼成膜も焼成前と同様に鏡面光沢を有していた。続いて、この焼成膜の膜厚と体積抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
(比較例1)
上記銅微粒子分散液に、クエン酸を添加しないで塗布液を調製したこと以外は実施例1と同様にして塗膜を得た。なお、乾燥後の塗膜表面は、白濁していた。白濁部分のSEM像を観察したところ、微細なひび割れが発生していることが確認された。なお、図3に塗膜表面のSEM像を示す。また、得られた焼成膜も、焼成前と同様に塗膜表面が白濁していた。その後、この焼成膜の膜厚と体積抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
(比較例2)
溶剤中のクエン酸の含有量が42質量%である塗布液を調製したこと以外は実施例1と同様にして塗膜を得た。なお、乾燥後の塗膜表面に鏡面光沢が見られず、黒色を呈していた。また、得られた焼成膜も、焼成前と同様に黒色であった。その後、この焼成膜の膜厚と体積抵抗率を測定した。結果を表1に示す
【0078】
【表1】

【0079】
表1から、実施例1〜4では、平均粒径が10〜100nmである金属微粒子と極性溶剤から構成される金属微粒子分散液にヒドロキシカルボン酸を添加して、溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が5〜40質量%である塗布液を調製し、これを塗布した後、室温〜120℃の温度で乾燥処理に付し、さらに200℃以上、250℃未満の温度での低温焼成処理に付し、本発明の方法に従って行なわれたので、大気中での乾燥でひび割れがなく均一性の高い金属光沢のある塗膜を形成できること、焼成膜の体積抵抗率を100μΩ・cm以下まで低減できること、さらに銅微粒子中に含有されるハロゲン品位を20質量ppm以下、及び溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量を15〜35質量%とすることで、膜厚が1μm以上で、体積抵抗率を50μΩ・cm以下にまで低下させることができることが分かる。
これに対して、比較例1又は2では、ヒドロキシカルボン酸の添加において、これらの条件と異なるので、塗膜の表面状態及び体積抵抗率において満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上より明らかなように、本発明の金属微粒子分散液を用いた塗膜形成方法は、特別な装置を使用せず、大気中での乾燥で1μm以上の膜厚でもひび割れのない金属光沢のある塗膜を得ることができるので、耐久性が高い意匠性顔料として好適に用いられる。また、低温焼成で低抵抗の膜が得られるので、電子材料用の導電膜にも好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施例1において、銅微粒子を含む分散液(A)の銅微粒子をろ過し、SEMで観察した銅微粒子のSEM写真である。
【図2】実施例1において、乾燥後の膜表面のSEM像である。
【図3】比較例1において、乾燥後の膜表面のSEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子と溶剤とから構成される金属微粒子分散液を用いる塗膜の形成方法であって、
下記の(イ)及び(ロ)の要件を満足する金属微粒子分散液に、ヒドロキシカルボン酸を添加して、(ハ)の要件を満足する塗布液を調製し、これを塗布した後、室温〜120℃の温度で乾燥処理に付すことを特徴とする塗膜形成方法。
(イ)前記金属微粒子は、その平均粒径が10〜100nmである。
(ロ)前記溶剤は、極性溶剤である。
(ハ)前記塗布液は、その溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が5〜40質量%である。
【請求項2】
前記乾燥処理は、非還元性雰囲気下に行うことを特徴とする請求項1に記載の塗膜形成方法。
【請求項3】
さらに前記乾燥処理に続いて、200℃以上、250℃未満の温度で焼成処理に付すことを特徴とする請求項1又は2に記載の塗膜形成方法。
【請求項4】
前記ヒドロキシカルボン酸は、クエン酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗膜形成方法。
【請求項5】
前記金属微粒子は、金、パラジウム、白金、銀又は銅から選ばれる少なくとも1種の微粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塗膜形成方法。
【請求項6】
前記金属微粒子は、そのハロゲン元素の含有量が20質量ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塗膜形成方法。
【請求項7】
前記金属微粒子分散液は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、又はトリエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種の溶液中に、金属微粒子を構成する金属の酸化物、水酸化物又は塩と、分散剤である水溶性高分子と、核生成のための貴金属化合物又は貴金属コロイドとを添加し、加熱することにより、還元析出させた金属微粒子と溶剤から構成されるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の塗膜形成方法。
【請求項8】
前記金属微粒子分散液のハロゲン元素の含有量は、該分散液中の金属微粒子に対し20質量ppm以下であることを特徴とする請求項7に記載の塗膜形成方法。
【請求項9】
前記(ハ)の要件の代わりに、下記の(ニ)の要件を満足することを特徴とする請求項7又は8に記載の塗膜形成方法。
(ニ)前記塗布液は、その溶剤中のヒドロキシカルボン酸の含有量が15〜35質量%である。
【請求項10】
前記金属は、銅であることを特徴とする請求項9に記載の塗膜形成方法。
【請求項11】
請求項10に記載の塗膜形成方法により得られる銅からなる塗膜であって、
基板に塗布後、窒素雰囲気下に220℃で1時間焼成した際に得られる焼成膜の体積抵抗率が、50μΩ・cm以下であることを特徴とする塗膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−82512(P2010−82512A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252044(P2008−252044)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】