説明

金属担持結晶性窒化ボロン複合材料、その製造方法およびその利用

【課題】アルコールを分解して水素製造する際にジメチルエーテルなど副生成物を抑制できる高選択性で、低温で機能し得る触媒として有用な材料、この材料を用いたアルコール分解用触媒、この触媒を用いたアルコールからの水素の製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性窒化ボロン粒子の表面に金属が固定化された窒化ボロンと金属との複合材料とその製造方法。この複合材料を含む、アルコール分解用触媒。この複合材料にアルコールを接触させて、炭化水素化合物を分解することを含む、アルコールの分解生成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性窒化ボロンの表面に金属が固定化された窒化ボロンと金属との複合材料およびその製造方法、並びに前記複合材料を含むアルコール分解用触媒およびアルコールからアルコール分解生成物を製造する方法に関する。特に本発明は、前記複合材料を含むメタノール分解用触媒およびメタノールから水素および一酸化炭素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
将来の燃料電池の普及において、アルコールなどの炭化水素から水素を製造する技術が必要となっている。たとえば、メタノールから水素を製造する際に、以下の化学式による反応を促進する触媒が必要となっている。
CH3OH → 2H2 + CO
【0003】
上記反応に用いられる触媒としては、種々の物質が知られているが、典型的にはニッケルやコバルトをアルミナ等の担体に担持した固体触媒である(例えば、特許文献1〜3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−531440号公報
【特許文献2】特開2002−241774号公報
【特許文献3】特開2008−221200号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】王玉艇、博士論文、北海道大学(2009)
【非特許文献2】G.L. Wood and R.T. Paine, Chem. Mater. (2006)
【非特許文献3】F. Xu, Y. Xie, X. Zhang, S. Inorg. Chem (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1〜3に記載されているニッケルやコバルトをアルミナ等の担体に担持した固体触媒を用いてメタノールから水素を製造する場合には、ジメチルエーテルなど副生成物が発生するなどの問題が生じやすく、高選択性の触媒、また、低温で機能する触媒が望まれている。
【0007】
そこで本発明の目的は、メタノール等のアルコール分解においてジメチルエーテルなど副生成物を抑制できる高選択性の触媒であって、低温で機能し得る水素製造触媒として有用な材料を提供することにある。さらに本発明は、前記材料の製造方法を提供することも目的とする。
【0008】
さらに本発明の目的は、ジメチルエーテルなど副生成物を抑制できる高選択性の触媒であって、低温で機能し得るアルコールを分解して水素を製造するための触媒の提供とこの触媒を用いたアルコールからの水素の製造方法を提供することにある。
【0009】
発明者らは、先に、サブミクロン中空窒化ボロン球の開発に成功した(非特許文献1)。中空窒化ボロン球の作製に関する研究例はH3BO3/DMF溶液からエアゾル法で作製した論文(非特許文献2)、BBr3とNaNH2やNH4Clとの反応を利用した論文(非特許文献3)がある。しかし、いずれも数十ミクロン以上の大きなサイズの中空窒化ボロン球であった。発明者らが開発した方法(非特許文献1)は、ボレイン(BH3NH3)からのサブミクロンサイズの中空窒化ボロン球の作製方法であり、この方法はサブミクロン中空窒化ボロン球の作製方法としては、世界で最初の例である。
【0010】
本発明者らは、この中空窒化ボロン球を触媒担持用に使用することで、大きな表面積による担持量の増大が期待でき、さらには、中空であることから総重量も少なくて済むという利点もあると考えた。
【0011】
しかし、上記中空窒化ボロン球は、結晶性の窒化ボロンからなり、結晶性の窒化ボロンは表面が不活性であることから、触媒金属と接触させるのみではこれを担持、固定化させることは困難であった。
【0012】
本発明者らは、不活性な表面を有する結晶性の窒化ボロン粒子の表面に金属を担持、固定化させることができる新たな技術を開発し、この技術を用いることで、金属を固定化した結晶性の窒化ボロン粒子が得られること、さらには、この金属を固定化した結晶性の窒化ボロン粒子が、高選択性で、かつ低温でメタノールを分解して高収率で水素を製造する触媒として利用できることを見出して本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下のとおりである。
[1]
結晶性窒化ボロン粒子の表面に金属が固定化された窒化ボロンと金属との複合材料。
[2]
結晶性窒化ボロン粒子が中空状の結晶性窒化ボロン粒子である[1]に記載の複合材料。
[3]
前記中空状の結晶性窒化ボロン粒子が、平均粒子経100〜2000nmの範囲の粒子であり、少なくとも粒子の外表面に金属が固定化されている[1]または[2]に記載の複合材料。
[4]
金属の固定化量は、窒化ボロン(BN)に対する金属のモル比(BN:金属)で、1:1〜20:1の範囲である[1]〜[3]のいずれかに記載の複合材料。
[5]
金属が、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、亜鉛、銅、スズおよびクロムから成る群から選ばれる少なくとも1種の金属である[1]〜[4]のいずれかに記載の複合材料。
[6]
少なくとも一部の表面を結晶化させたアモルファス窒化ボロン粒子を金属化合物含有水で処理して前記粒子からアモルファス窒化ボロンを溶出し、かつ金属水酸化物または金属酸化物を被覆した結晶性窒化ボロン粒子を得る工程、および金属水酸化物または金属酸化物を被覆した結晶性窒化ボロン粒子を還元処理して、結晶性窒化ボロン粒子の表面に金属が固定化された複合材料を得る工程を含む、結晶性窒化ボロン粒子の表面に金属が固定化された複合材料の製造方法。
[7]
前記結晶性窒化ボロン粒子が中空状である[6]に記載の製造方法。
[8]
前記少なくとも一部の表面を結晶化させたアモルファス窒化ボロン粒子が、アモルファス窒化ボロン粒子をアンモニア雰囲気中で熱処理して外表面を結晶化した中空状の窒化ボロン粒子を製造する工程で得られるものである[7]に記載の製造方法。
[9]
前記金属化合物が、有機金属塩および無機金属塩から成る群から選ばれる少なくとも1種の金属塩である[6]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]
前記還元処理は、水素雰囲気での加熱処理である[6]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]
[1]〜[5]のいずれかに記載の複合材料を含む、アルコール分解用触媒。
[12]
アルコールがメタノールである[11]に記載の触媒。
[13]
[1]〜[5]のいずれかに記載の複合材料にアルコールを接触させて、炭化水素化合物を分解することを含む、アルコールの分解生成物の製造方法。
[14]
アルコールがメタノールであり、炭化水素化合物の分解物が少なくとも水素と一酸化炭素を含む、[13]に記載の製造方法。
[15]
前記複合材料とメタノールの接触は、150〜600℃の範囲の温度で行う、[14]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルコールから水素を製造する際に、高選択性、高反応性、低温で機能する新たな触媒を提供することができる。さらに本発明によれば、ジメチルエーテルなどの副生成物の生成を抑制しつつ、アルコール分解により高収率で水素を製造できる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】表面を結晶化させたアモルファス窒化ボロン粒子の製造方法の説明図である。
【図2】実施例1において作製した球状アモルファスBN粒子、アモルファスコアー結晶化シェル構造のBN球およびアモルファスコアー結晶化シェル構造のBN球から熱水でアモルファスコアーを除去した中空粒子のSEM像およびTEM像を示す。
【図3】表面をNi(OH)2膜でコーティングされた中空BN球およびNi金属粒子状に担持された中空BN球のSEM像およびTEM像を示す。
【図4】BN:Ni(ギ酸ニッケル)モル比が1:1で作製したNi(OH)2被覆BN球の還元処理で得られたNi担持中空BN球と、BN:Niモル比が8:1で作製したNi(OH)2被覆BN球の還元処理で得られたNi担持中空BN球のSEM像およびTEM像を示す。
【図5】メタノール分解による水素生成実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[複合材料]
本発明は、結晶性窒化ボロン粒子と金属との複合材料に関する。この複合材料は、結晶性窒化ボロン粒子の表面に金属が固定化されたものである。結晶性窒化ボロン粒子は、粉末法X線回折法において窒化ボロンの002面の回折を示すものである。結晶性窒化ボロン粒子は、例えば、中空状の結晶性窒化ボロン粒子であることができ、さらに中空状の結晶性窒化ボロン粒子は、平均粒子径100〜2000nmの範囲の粒子であることができる。この粒子は、外観がほぼ球状を示すものであることができる。また、中空状の結晶性窒化ボロン粒子は、球状以外にチューブ状等の形状であることもできる。中空状の結晶性窒化ボロン粒子は、比表面積が、例えば、100〜500m2/gの範囲であることができる。但し、中空状の結晶性窒化ボロン粒子の比表面積は、例えば、中空状の結晶性窒化ボロン粒子の平均粒子径等により変動する。さらに、中空状の結晶性窒化ボロン粒子においては、金属は、少なくとも粒子の外表面に固定化されている。金属は、中空状の結晶性窒化ボロン粒子の内表面に固定化されることもできる。また、金属は、例えば、島状または半球状の形状で粒子の表面に固定化され、容易に離脱しない状態で担持される。
【0017】
金属の固定化量は、窒化ボロン(BN)に対する金属のモル比(BN:金属)で、例えば、1:1〜20:1の範囲であることができ、本発明の複合材料の用途に応じて適宜調整できる。窒化ボロン(BN)に対する金属のモル比(BN:金属)は、結晶性窒化ボロン粒子の外表面に固定化さる金属の形状に影響し、島状または半球状の形状で固定化されるという観点からは、比表面積が200〜300m2/gの範囲の結晶性窒化ボロン粒子の場合には、例えば、5:1〜10:1の範囲であることが好ましい。
【0018】
固定化される金属は、本発明の複合材料の用途に応じて適宜選択できるが、例えば、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、亜鉛、銅、スズおよびクロムから成る群から選ばれる少なくとも1種の金属であることができる。
【0019】
[複合材料の製造方法]
本発明は上記本発明の複合材料の製造方法を包含する。この製造方法は、少なくとも以下の2つの工程を含む
(1)少なくとも一部の表面を結晶化させたアモルファス窒化ボロン粒子を金属化合物含有水で処理して前記粒子からアモルファス窒化ボロンを溶出し、かつ金属水酸化物または金属酸化物を被覆した結晶性窒化ボロン粒子を得る工程、および
(2)金属水酸化物または金属酸化物を被覆した結晶性窒化ボロン粒子を還元処理して、結晶性窒化ボロン粒子の表面に金属が固定化された複合材料を得る工程
【0020】
工程(1)
工程(1)では、少なくとも一部の表面を結晶化させたアモルファス窒化ボロン粒子を金属化合物含有水で処理する。金属化合物含有水での処理は、少なくとも一部の表面を結晶化させたアモルファス窒化ボロン粒子を金属化合物含有水に浸漬して行うことができる。この処理において、アモルファス窒化ボロンは水中に溶出するが、結晶性窒化ボロンは溶出しない。その結果、粒子の内部のアモルファス窒化ボロンは水中に溶出し、外側の結晶性窒化ボロンが残り、中空状の結晶性窒化ボロン粒子が得られる。粒子表面近傍に溶出したアモルファス窒化ボロンは、水と反応してホウ酸とアンモニアを生成する。
BN + 3H2O = H3BO3 + 2NH3
【0021】
さらに、生成したアンモニアは、金属化合物含有水中の金属化合物と反応して、金属水酸化物または金属酸化物を形成する。この金属水酸化物または金属酸化物は、結晶性窒化ボロン粒子の表面に析出し、表面を被覆する。金属水酸化物または金属酸化物の析出量は、水中の金属化合物濃度やアモルファス窒化ボロン溶出量等に依存する。金属化合物含有水での処理は、例えば、50〜100℃の範囲で行うことが、アモルファス窒化ボロンと水との反応性や反応速度を考慮すれば好ましく、より好ましくは80〜100℃の範囲である。金属化合物は、例えば、有機金属塩および無機金属塩から成る群から選ばれる少なくとも1種の金属塩であることができ、有機金属塩としては、例えば、ギ酸塩、シュウ酸塩や酢酸塩等のカルボン酸塩を挙げることができる。無機金属塩としては、例えば、塩化物、硝酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。無機金属塩については、金属化合物含有水に、さらに、塩酸、硝酸などの酸を添加することもできる。例えば、無機金属塩がNiCl2の場合、NiCl2をHClに溶解した液であることもできる。金属化合物含有水中の金属化合物の濃度は、結晶性窒化ボロン粒子の表面に析出し、表面を被覆する金属の量に影響を与えるので、所望の金属被覆量に応じて、水中で処理する結晶性窒化ボロン粒子の量等を考慮して適宜決定できる。金属化合物の濃度は、例えば、1ミリモル/L〜20ミリモル/Lの範囲とすることができる。
【0022】
より詳細には、アモルファス窒化ボロンが溶解すると上記反応式で示すようにアンモニアが生成するが、このアンモニアが結晶性窒化ボロン粒子の表面にしみ出しアルカリ性を呈する(OH-を供給する)。この処理中に、例えば、ギ酸ニッケル溶液が存在すると、結晶性窒化ボロン粒子の表面で中和反応が生じて、Ni(OH)2膜が中空BN球表面に生成する。このNi(OH)2は結晶性窒化ボロン粒子の表面に被覆膜となって析出する。
【0023】
このように、工程(1)では、金属水酸化物または金属酸化物を被覆した結晶性中空窒化ボロンを得る。尚、工程(1)で用いる、少なくとも一部の表面を結晶化させたアモルファス窒化ボロン粒子は、例えば、アモルファス窒化ボロン粒子をアンモニア雰囲気中で熱処理して外表面を結晶化した窒化ボロン粒子を製造する工程で得られるものであることができる。この方法は非特許文献1に記載の方法である。具体的には、図1に示すようにボレイン(BH3NH3)を原料として、これを加熱および気化させて(BHNH)xを経由して球状のアモルファス窒化ボロン(a-BNS)が得られる。次いでこのa-BNSをアンモニア雰囲気中で1300〜1700℃の範囲の温度で熱処理することで、外表面を結晶化した窒化ボロン粒子を製造することができる。結晶化した外表面の厚さ(結晶化層の厚さ)は、上記アンモニア雰囲気中での熱処理条件により適宜設定できるが、例えば、10〜100nmの範囲とすることができる。この方法によりより得られる中空窒化ボロン粒子はほぼ球状である。この方法により得られる球状の中空窒化ボロン粒子は、平均粒子径が100〜2000nmの範囲のナノサイズからミクロンサイズである。
【0024】
工程(2)
工程(2)では、工程(1)で得た、金属水酸化物または金属酸化物を被覆した中空状の結晶性窒化ボロン球を還元処理して、この結晶性窒化ボロンの表面に金属が固定化された複合材料を得る。還元処理は、金属水酸化物または金属酸化物を金属に還元できる方法および条件であれば特に制限はない。還元処理は、例えば、水素雰囲気での加熱処理であることができる。水素雰囲気は、水素のみの雰囲気であっても、水素にアルゴンや窒素などの不活性ガスを含有する雰囲気であってもよい。加熱処理の温度は、金属水酸化物または金属酸化物の金属への還元の容易さ等を考慮して適宜決定できるが、例えば、500〜800℃の範囲の温度とすることができる。この還元によって、表面に金属が担持した結晶性中空窒化ボロン粒子が得られる。担持した金属は、結晶性中空窒化ボロン粒子の表面で粒子状に存在し、粒子状の金属のサイズは、工程(1)で用いる金属化合物含有水におけるBN:金属(金属化合物)のモル比および工程(2)における還元温度を変えることで10nm〜100nmの範囲で適宜制御できる。
【0025】
[アルコール分解用触媒]
本発明は、上記本発明の複合材料を含む、アルコール分解用触媒に関する。上記本発明の複合材料は単独で触媒として用いることもできるが、適当な担体にさらに固定することや、粒子状あるいは球状の複合材料を適当な形状、例えば、ペレット状やハニカム状に成形したものであることもできる。複合材料の成形は通常の無機系の触媒の成形方法を適宜応用できる。
【0026】
本発明の触媒は、アルコール分解用であるが、アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール等を挙げることができる。アルコール分解反応については後述する。本発明の触媒の対象物質はアルコールであるが、純水なアルコールのみではなく、アルコールを含有する物質、例えば、天然ガスも本発明の触媒の対象である。
【0027】
[アルコール分解物の製造方法]
本発明は、上記本発明の複合材料を触媒として用いたアルコール分解生成物の製造方法も包含する。この方法では、上記本発明の複合材料にアルコールを接触させる。アルコールの接触方法には制限はないが、例えば、アルコールをキャリアガス(不活性ガス、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等)とともに、本発明の複合材料を充填した反応室に導入し、反応室において生成するアルコール分解物を反応室に搬出して、アルコール分解物を得ることができる。反応室の温度は、アルコールの種類や複合材料(触媒)の種類にもよるが、例えば、150〜600℃の範囲、好ましくは200〜400℃の範囲とすることができる。
【0028】
分解されるアルコールは、例えば、メタノールであることができ、その場合には、アルコール分解生成物は少なくとも水素と一酸化炭素を含む。分解されるアルコールがエタノールの場合にも、アルコール分解生成物は少なくとも水素と一酸化炭素を含む。上述のように、本発明の触媒を用いると、天然ガス等に含まれるアルコールを分解して、水素と一酸化炭素を含むガスに転換することもできる。
【0029】
上記方法で製造された水素含有ガスは、公知の方法に供して、水素ガスを分離精製することができる。
【実施例】
【0030】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。尚、以下の実施例では、球状の窒化ボロン粒子をBN球と、また、中空状の球状窒化ボロン粒子を中空BN球とそれぞれ表記することがある。
実施例1
(1)アモルファスコアー結晶化シェル構造のBN球の作製
図1に概略を示す装置を用いて、ボレインを250℃で分解し、発生する(BHNH)x を高温部(550℃)へ輸送し、この高温部で液滴化過程を通してサブミクロンサイズの球状アモルファスBN粒子を作製した。球状アモルファスBN粒子をアンモニア中、1300℃で加熱して表面が結晶化し、内部はアモルファス状のコアであるアモルファスコアー結晶化シェル構造のBN球を作製した(平均粒子径450nm、結晶化シェル厚さ20〜40nm、比表面積11.2m2/g)。図2に球状アモルファスBN粒子、アモルファスコアー結晶化シェル構造のBN球およびアモルファスコアー結晶化シェル構造のBN球から熱水でアモルファスコアーを除去した中空粒子のSEM像およびTEM像を示す。
【0031】
得られたコア−シェルBN球にギ酸ニッケルを加え、熱水中(95℃)で24時間処理した。その結果、水酸化ニッケルの薄膜がBN球表面に均一にコーティングしたNi(OH)2-被覆中空BN球が得られた。BN:Ni(ギ酸ニッケル)モル比が8:1では均一コーティングしたNi(OH)2被覆BN球が生成し、1:1とNi量を増やすとBN表面上のNi(OH)2膜コーティングの外に、この膜から表面外に成長したNi(OH)2薄膜が生成した。図3に表面をNi(OH)2膜でコーティングされたBN粒子のSEM像およびTEM像を示す。
【0032】
これら2種類のNi(OH)2被覆中空BN球をそれぞれAr/H2中で300℃、1時間処理するとNiO薄膜(厚さ数十nm)が担持されたものが得られ、それをさらに、Ar/H2(H2濃度5%(v/v))中で600℃、3時間還元処理するとNi金属粒子状に担持された中空BN球が生成した。図3にNi金属粒子が担持された中空BN球のSEM像およびTEM像を示す。さらに図4に、BN:Ni(ギ酸ニッケル)モル比が1:1で作製したNi(OH)2被覆BN球の還元処理で得られたNi担持中空BN球(比表面積229m2/g、細孔分布:2nmに鋭いピークあり)と、BN:Niモル比が8:1で作製したNi(OH)2被覆BN球の還元処理で得られたNi担持中空BN球(Ni-BN球)のSEM像およびTEM像を示す。この結果から、中空BN球表面上のNi金属粒子のサイズは、BN:Ni(ギ酸ニッケル)のモル比を変えることで10nm〜100nmにわたり制御できることが分かる。また、還元温度および時間を変えることでも、中空BN球表面上のNi金属粒子のサイズを10nm〜100nmにわたり制御できる。
【0033】
実施例2
メタノール分解による水素製造
実施例1で作製した2種類のNi-BN球のいずれかを50mg入れた石英ガラス反応管中に、アルゴンで希釈してメタノール濃度9〜13%にしたガス状メタノール混合ガスを毎分50mlで送り込んだ。反応温度は200〜400℃の範囲で変化させた。生成ガスはガスクロマトグラフィーによって反応管出口で定量分析した。結果を図5に示す。
【0034】
尚、各成分の転換率の計算式は以下のとおりである。
【数1】

【0035】
図5において、グラフの縦軸の生成量は、例えば、水素の場合は、メタノール中に含まれる水素量(2H2)に対してどの位水素が発生したかを表した値である。従って、70%とは、メタノール中の水素を70%取り出せることを意味する。COやそれ以外の生成物も、上記計算式に基づいて、炭素の収支から見積もられる。
【0036】
図5の結果から、本発明の複合材料であるNi/BN(Ni:BN=1:1または1:8)を触媒として用いた場合には、比較で示したアルミナにニッケルを担持した触媒(Ni/Al2O3)に比べて、DME(ジメチルエーテル)の副生はなく、かつ低温側で高い水素転換率が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、水素製造技術分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性窒化ボロン粒子の表面に金属が固定化された窒化ボロンと金属との複合材料。
【請求項2】
結晶性窒化ボロン粒子が中空状の結晶性窒化ボロン粒子である請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記中空状の結晶性窒化ボロン粒子が、平均粒子経100〜2000nmの範囲の粒子であり、少なくとも粒子の外表面に金属が固定化されている請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
金属の固定化量は、窒化ボロン(BN)に対する金属のモル比(BN:金属)で、1:1〜20:1の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の複合材料。
【請求項5】
金属が、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、亜鉛、銅、スズおよびクロムから成る群から選ばれる少なくとも1種の金属である請求項1〜4のいずれかに記載の複合材料。
【請求項6】
少なくとも一部の表面を結晶化させたアモルファス窒化ボロン粒子を金属化合物含有水で処理して前記粒子からアモルファス窒化ボロンを溶出し、かつ金属水酸化物または金属酸化物を被覆した結晶性窒化ボロン粒子を得る工程、および金属水酸化物または金属酸化物を被覆した結晶性窒化ボロン粒子を還元処理して、結晶性窒化ボロン粒子の表面に金属が固定化された複合材料を得る工程を含む、結晶性窒化ボロン粒子の表面に金属が固定化された複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記結晶性窒化ボロン粒子が中空状である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記少なくとも一部の表面を結晶化させたアモルファス窒化ボロン粒子が、アモルファス窒化ボロン粒子をアンモニア雰囲気中で熱処理して外表面を結晶化した中空状の窒化ボロン粒子を製造する工程で得られるものである請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記金属化合物が、有機金属塩および無機金属塩から成る群から選ばれる少なくとも1種の金属塩である請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記還元処理は、水素雰囲気での加熱処理である請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合材料を含む、アルコール分解用触媒。
【請求項12】
アルコールがメタノールである請求項11に記載の触媒。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合材料にアルコールを接触させて、炭化水素化合物を分解することを含む、アルコールの分解生成物の製造方法。
【請求項14】
アルコールがメタノールであり、炭化水素化合物の分解物が少なくとも水素と一酸化炭素を含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記複合材料とメタノールの接触は、150〜600℃の範囲の温度で行う、請求項14に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−56438(P2011−56438A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210803(P2009−210803)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月7日 化学工業日報社発行の「化学工業日報 朝刊」に発表
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】