説明

金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法

【課題】 金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法に関し、金属撚線に対して被覆樹脂層を密着させることができ、もって、金属撚線と被覆樹脂層とを強固に接着させ、かつ、樹脂押出被覆金属撚線の外径を小さくすることができる方法を提供する。
【解決手段】 クロスヘッド5内部の減圧状態を維持するため、クロスヘッド5の金属長尺体挿入口5eに封止具12を取り付ける。封止具12内には金属撚線1fの外径形状に沿う内径形状を有する貫通孔125aが穿設されている回転キャップ125が取り付けられている。金属撚線1fは貫通孔125aを挿通してクロスヘッド5内に進入し、回転キャップ125は走行する金属撚線1fの撚り合わせに沿って回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属素線が複数本撚り合わされて形成されている金属ストランド及び該金属ストランドが複数本撚り合わされて形成されている金属ロープ等の金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法に関し、該金属撚線に対して被覆樹脂層を密着させることができ、もって、該金属撚線と被覆樹脂層とを強固に接着させ、かつ、樹脂押出被覆金属撚線の外径を小さくすることができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属素線及び金属撚線等の金属長尺体に対するポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)等をはじめとする熱可塑性樹脂のコーティング方法として、押出被覆によるコーティングが行われてきたところである。押出被覆によるコーティングは、粉体塗装によるコーティングのようにコーティングの際に樹脂を粉末にする必要がないことから、樹脂を劣化させることなく金属長尺体にコーティングすることができ、その結果、コーティング層が割れ難いという効果を得ることができる。また、押出被覆によるコーティングは、粉体塗装によるコーティングに比較して、コーティング層にピンホールが生じにくいため、コーティング層の外観も良いという効果を得ることができる。
【0003】
そこで、まず、図8及び9を用いて、従来技術に係る金属長尺体に対する樹脂押出被覆の方法について説明する。樹脂押出被覆金属長尺体13は、芯材となる金属長尺体13aが送出装置2から送り出された後、予熱装置3により予熱される。押出機本体4は、樹脂材料を加熱溶融するための装置であり、樹脂供給路4aを介して連結するクロスヘッド5内部に溶融樹脂11を供給するための装置である。予熱された金属長尺体13aは、金属長尺体挿入口5eからクロスヘッド5内部に進入し、ニップル5a内部を走行して、雄型ダイ5bの頂部から引き出される。押出機本体4内部で溶融された溶融樹脂11は、樹脂供給路4aを通ってクロスヘッド5内部に供給され、雄型ダイ5bの外周面をくるみながら雌型ダイ5cの内部に入り、雄型ダイ5bの頂部から引き出される金属長尺体13aの外周面に付着される。上記の工程を経てクロスヘッド5から引き出された樹脂押出被覆金属長尺体13は、冷却水槽6内を走行しながら冷却されて被覆樹脂を固化した後、引取装置7により引き取られ、巻取装置8により巻き取られる。
【0004】
しかしながら、クロスヘッド5内部に空気等の気体が存在する場合には、芯材となる金属長尺体が金属素線であるときを例にすると、図10に図示するように、樹脂押出被覆金属素線14において金属素線14aと被覆樹脂層14bとの間に該気体による間隙14cが生じてしまい、金属素線14aに対して被覆樹脂層14bを密着させることができず、その結果、金属素線14aと被覆樹脂層14bとを強固に接着させることができず、また、樹脂押出被覆金属素線14の外径が大きくなってしまうという問題があった。
【0005】
そこで、上記のような従来技術に係る金属長尺体に対する樹脂押出被覆の方法にあっては、図9に図示するように、クロスヘッド5内部を減圧することにより、金属長尺体13aと溶融樹脂11との間に空気等の気体が入らないようにしているところである。ここで、クロスヘッド5内部を減圧する手段としては、クロスヘッド5内部に減圧室5dを設け、真空ポンプ9と減圧室5dとを吸引ホース9aにより接続し、真空ポンプ9によりクロスヘッド5内部の気体を吸引する手段が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。また、クロスヘッド5内部における該減圧状態を維持するため、金属長尺体挿入口5eに、金属長尺体13aの外径形状に沿った内径形状を有する貫通孔を穿設した封止具12を取り付け、該貫通孔に金属長尺体13aを挿通させてクロスヘッド5内部へと進入させることにより、クロスヘッド5内部への外部からの気体の流入を防ぐことが行われている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
上記のような金属長尺体に対する樹脂押出被覆の方法により生産された樹脂押出被覆金属長尺体13は、芯材となる金属長尺体が金属素線であるときを例にすると、図11に図示するように、金属素線14aと被覆樹脂層14bとの間に、図10に図示した間隙14cの生じることがなく、金属素線14aに対して被覆樹脂層14bとが密着しているため、金属素線14aと被覆樹脂層14bとが強固に接着しており、かつ、その外径が小さいものとなっているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−345705号公報
【特許文献2】特開2007−15145号公報(背景技術)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の従来技術に係る金属長尺体に対する樹脂押出被覆の方法では、芯材が金属素線である場合には問題が生じないが、芯材が金属撚線である場合には、前記金属長尺体挿入口に該金属撚線の外径形状に沿う内径形状を有する貫通孔を穿設した封止具を取り付けたとしても、上記の通り、該金属撚線が金属素線又は金属ストランド等が複数本撚り合わされて形成されているため、該貫通孔内に該金属撚線を挿通させてクロスヘッド内部へと進入させようとしても、該貫通孔に該金属撚線がつかえてしまうという問題がある。
【0009】
この場合、該貫通孔の最小内径を該金属撚線の最長外径よりも大きなものとすれば、該貫通孔に該金属撚線がつかえてしまうという上記のような問題を解決することができる。しかしながら、このような解決手段では、クロスヘッド5内部への外部からの気体の流入を防ぐことができなくなるため、図12及び13に図示するように、金属ストランド1b又は金属ロープ1cと被覆樹脂層1dとの間に気体による間隙1eが生じてしまい、金属ストランド1b又は金属ロープ1cに対して被覆樹脂層1dを密着させることができず、その結果、金属ストランド1b又は金属ロープ1cと被覆樹脂層1dとを強固に接着させることができず、また、樹脂押出被覆金属撚線1の外径が大きくなってしまうという問題がある。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする第一の課題は、金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法につき、クロスヘッド内部における減圧状態を維持することができることにより、金属撚線に対して被覆樹脂層を密着させることができ、もって、金属撚線と被覆樹脂層とを強固に接着させ、かつ、樹脂押出被覆金属撚線の外径を小さくすることができる方法を提供することにある。
【0011】
また、図8及び9に図示するように、上記の従来技術に係る金属長尺体に対する樹脂押出被覆の方法では、金属長尺体13aが予熱装置3により予熱されているところ、金属長尺体13aが封止具12に穿設されている貫通孔内を走行する際に、金属長尺体13aの外周面が該貫通孔の内周面に接することから、金属長尺体13aの予熱が封止具12を介してクロスヘッド5に伝導してしまっていた。そのため、金属長尺体13aは、十分な予熱を維持することができずに、クロスヘッド5内部に進入してしまうため、クロスヘッド5内部において金属長尺体13aに溶融樹脂11を十分に付着させることができないという問題があった。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする第二の課題は、金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法につき、該金属撚線をクロスヘッド内部の減圧状態を維持するための封止具に穿設された金属撚線の外径形状に沿う内径形状を有する貫通孔内を走行させる場合にあっても、金属撚線の余熱を維持しながらクロスヘッド内部に進入させることにより、該クロスヘッド内部において溶融樹脂を該金属撚線に十分に付着させることができ、もって、金属撚線と被覆樹脂層とを強固に接着させることができる方法を提供することにある。
【0013】
ところで、芯材となる金属長尺体の外周面は平滑であることが多いため、上記の従来技術に係る金属長尺体に対する樹脂押出被覆の方法では、金属長尺体の外周面に溶融樹脂を付着させることが難しく、その結果、金属長尺体と被覆樹脂層とを強固に接着させることができないという問題があった。また、樹脂被覆金属撚線は、防食性を高めるという観点からは、芯材となる金属撚線の外周面に直接被覆樹脂層を形成するのではなく、該金属撚線の外周面に鍍金の施されていることが好適であるところ、このような鍍金の施されている金属長尺体の外周面はより平滑であるため、金属撚線と被覆樹脂層とを強固に接着させることが更に困難であるという問題があった。
【0014】
そこで、本発明が解決しようとする第三の課題は、金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法につき、とりわけ芯材が外周面に鍍金の施された金属撚線の場合であっても、該金属撚線に十分に溶融樹脂を付着させることができ、もって、金属撚線と被覆樹脂層とを強固に接着させることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第一の課題を解決するため、請求項1に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、押出機に連結したクロスヘッド内に金属撚線を走行させ、減圧化手段によって減圧された該クロスヘッド内において、該押出機から押し出された溶融樹脂を該金属撚線の外周面上に押出被覆する金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法であって、該クロスヘッドの金属長尺体挿入口に取り付けられた該金属撚線を挿通させる挿通孔の穿設された封止具内に該金属撚線の撚り合わせに沿って回転可能なように取り付けられている回転キャップに穿設された該金属撚線の外径形状に沿う内径形状を有する貫通孔に該金属撚線を挿通させて該クロスヘッド内に進入させ、該金属撚線の外周面上に溶融樹脂の押出被覆を行うことを特徴とする金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法である。
【0016】
本発明の第一の課題を解決するため、請求項2に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、請求項1に記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法であって、前記回転キャップが前記封止具内に取り付けられているベアリングによりその回転を支持されていることを特徴とする方法である。
【0017】
本発明の第二の課題を解決するため、請求項3に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、請求項1又は2に記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法であって、前記回転キャップが耐熱プラスチックによって形成されていることを特徴とする方法である。
【0018】
本発明の第三の課題を解決するため、請求項4に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、請求項1から3までの何れかに記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法であって、前記クロスヘッド内において該金属撚線の外周面上に融熱樹脂を押出被覆する前に、該金属撚線の外周面を粗面加工することを特徴とする方法である。
【0019】
本発明の第三の課題を解決するため、請求項5に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、請求項4に記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法であって、前記金属撚線の外周面を粗面加工する方法が該金属撚線の外周面にワイヤブラシを圧接して回転させる方法であることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載した本発明に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、上記の通りの構成であるから、以下のような効果を奏することができる。
【0021】
請求項1に記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、芯材となる金属撚線の外径形状に沿う内径形状を有する貫通孔を穿設した回転キャップがクロスヘッドの金属長尺体挿入口に取り付けられた該金属撚線を挿通させる挿通孔の穿設された封止具内に取り付けられているから、該クロスヘッド内部への外部からの気体の流入を防ぐことができる。また、該回転キャップは、該封止具内に該金属撚線の撚り合わせに沿って回転可能なように取り付けられているため、該貫通孔内に該金属撚線を円滑に走行させることができる。
【0022】
従って、請求項1に記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法につき、クロスヘッド内部における減圧状態を維持することができることにより、金属撚線に対して被覆樹脂層を密着させることができ、もって、金属撚線と被覆樹脂層とを強固に接着させ、かつ、樹脂押出被覆金属撚線の外径を小さくすることができる方法を提供するという本発明の第一の課題を解決することができる。
【0023】
請求項2に記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、請求項1に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法であって、前記回転キャップが前記封止具内に取り付けられているベアリングによりその回転を支持されているため、該回転キャップに穿設された貫通孔内に金属撚線を円滑に走行させることができ、本発明の第一の課題を解決するために好適である。
【0024】
請求項3に記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、請求項1又は2に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法であって、前記回転キャップが耐熱プラスチックで形成されているため、前記金属撚線の外周面が前記貫通孔の内周面に接しても、金属撚線の予熱が該回転キャップを介して該クロスヘッドに伝導することを防止し、十分な予熱を維持したまま該クロスヘッド内部に該金属撚線を進入させることができるのである。
【0025】
従って、請求項3に記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法につき、該金属撚線をクロスヘッド内部の減圧状態を維持するための封止具に穿設された金属撚線の外径形状に沿う内径形状を有する貫通孔内を走行させる場合にあっても、金属撚線の予熱を維持しながらクロスヘッド内部に進入させることができるから、該クロスヘッド内部において溶融樹脂を該金属撚線に十分に付着させることができ、もって、金属撚線と被覆樹脂層とを強固に接着させることができる方法を提供するという本発明の第二の課題を解決することができる。
【0026】
請求項4に記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、請求項1から3までの何れかに係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法であって、該クロスヘッド内において該金属撚線の外周面に溶融樹脂を押出被覆する前に、該金属撚線の外周面を微細な凹凸の設けられた粗面とすることにより、溶融樹脂が該金属撚線の外周面に付着し易くするものである。
【0027】
従って、請求項4に記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法につき、とりわけ芯材がその外周面に鍍金の施された金属撚線の場合にあっても、該金属撚線に十分に溶融樹脂を付着させることができ、もって、金属撚線と被覆樹脂層とを強固に接着させることができる方法を提供するという本発明の第三の課題を解決することができる。
【0028】
請求項5に記載した金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法は、請求項4に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法であって、該金属撚線の外周面を粗面加工する方法が該金属撚線の外周面にワイヤブラシを圧接して回転させる方法であるから、撚り合せによって凹凸の形成されている該金属撚線の外周面を該ワイヤブラシによって隅々に至るまで粗面化することができ、本発明の第三の課題を解決するために好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法の一例を示す概略工程図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法に用いられるクロスヘッドの断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る封止具の斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る封止具の分解斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る封止具の断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法により生産された樹脂押出被覆金属ストランドの断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法により生産された樹脂押出被覆金属ロープの断面図である。
【図8】従来技術に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法の一例を示す概略工程図である。
【図9】従来技術に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法に用いられるクロスヘッドの断面図である。
【図10】従来技術に係る金属製長尺体に対する樹脂押出被覆の方法により樹脂被覆の施された金属素線の一例を示す断面図である。
【図11】従来技術に係る金属製長尺体に対する樹脂押出被覆を改良した方法により樹脂被覆の施された金属素線の一例を示す断面図である。
【図12】従来技術に係る金属製長尺体に対する樹脂押出被覆の方法により樹脂被覆の施された金属ストランドの一例を示す断面図である。
【図13】従来技術に係る金属製長尺体に対する樹脂押出被覆の方法により樹脂被覆の施された金属ロープの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
金属撚線1fは、図1に図示するように、送出装置2から送り出された後、巻取装置8に向かって走行しながら、粗面形成装置10において、モータ等の原動機により駆動する回転体の外周面に植え込まれているワイヤブラシが金属撚線1fの外周面に圧接回転されることにより、撚り合せによって凹凸の形成されている金属撚線1fの外周面が隅々に至るまで粗面化される。
【0031】
金属撚線1fは、その外周面が粗面化された後、予熱装置3により予熱され、封止具12の取り付けられたクロスヘッド5の金属長尺体挿入口5eに向かって走行する。
【0032】
封止具12は、図3から5に図示するように、金属撚線案内筒121と、案内筒取付けナット122と、ベアリング123と、スナップリング124と、回転キャップ125とから構成される。
【0033】
金属撚線案内筒121は、図3から5に図示するように、円筒状の部材であり、金属撚線1fを挿通させてクロスヘッド5内部へと案内するための部材である。金属撚線案内筒121の外周面の下部には雄ネジが切られている。また、金属撚線案内筒121の上部にはベアリング123及び回転キャップ125を収容するための回転キャップ収容空間121aが設けられており、回転キャップ収容空間121aの内側面上部にはスナップリング124を嵌め入れるためのスナップリング嵌入溝121bが設けられている。
【0034】
案内筒取付けナット122は、図3から5に図示するように、上面の閉鎖された短円筒状の部材であり、芯材挿入口5eに金属撚線案内筒121を取り付けるための部材である。尚、金属撚線案内筒121と案内筒取付けナット122とは、一体的に形成することも可能である。案内筒取付けナット122の上面には金属撚線案内筒121を取り付けるための案内筒取付け孔122aが穿設されており、案内筒取付け孔122aの内側面には雌ネジが切られているため、金属撚線案内筒121の下部を着脱可能なように螺着させることができる。また、案内筒取付けナット122の解放されている下面には雌ネジが切られているため、雄ネジが切られている金属長尺体挿入口5eに案内筒取付けナット122を着脱可能なように螺着させることができる。
【0035】
ベアリング123には、各種の転がり軸受をはじめとする公知のベアリングを用いることができる。ベアリング123は、金属撚線案内筒121の回転キャップ収容空間121a内に嵌め込まれている。また、ベアリング123が回転キャップ収容空間121aから脱落することを防止するために、スナップリング嵌入溝121bにスナップリング124を嵌め入れて、ベアリング123を押えることが好適である。
【0036】
回転キャップ125は、図3から5に図示するように、短円柱状の部材であり、クロスヘッド5内部への気体の流入を防ぐための部材である。回転キャップ125は、その外周長さをベアリング123の内周長さと略等しいものとして、回転キャップ125の外周面がベアリングの内周面に当接するように、ベアリング123に嵌合されている。
【0037】
回転キャップ125には、図3から5に図示するように、芯材となる金属撚線1fの外径形状に沿う内径形状を有する貫通孔125aが穿設されている。図3及び4では、貫通孔125aの内径形状は、図6に図示されるような芯材となる金属撚線1fが7本の金属素線により形成されている金属ストランドである場合の形状となっているが、図示された形状に特に限定されるものではなく、金属撚線1fの外径形状に沿って様々な形状にすることができる。
【0038】
回転キャップ125は、ベアリング123によりその回転を支持されているため、貫通孔125aに挿通された金属撚線の走行に伴い、金属撚線の撚り合わせに沿って回転することができる。
【0039】
ところで、図1に図示するように、金属撚線1fに溶融樹脂を付着させる工程の前に金属撚線1fを予熱する工程を設ける場合、金属撚線1fの外周面が貫通孔125aの内周面に接するために、金属撚線1fの予熱が回転キャップ125を介して封止具12からクロスヘッド5へと伝導することを防止するため、回転キャップ125は、耐熱プラスチックによって形成することが好適である。
【0040】
また、回転キャップ125の下面が回転キャップ収容空間121aの底部に接すると、回転に伴う摩擦により、回転キャップ125の下面が摩耗するという問題がある。そこで、図5に図示するように、回転キャップ125の厚さはベアリング123の軸方向の長さよりも薄いものとして、回転キャップ125の下面が回転キャップ収容空間121aの底部に接しないようにすることが好適である。
【0041】
更に、上記のように、回転キャップ125の厚さをベアリング123の軸方向の長さよりも薄いものとした場合、金属撚線1fがクロスヘッド5内部に向かって走行していることに伴い、回転キャップ125がベアリング123の奥側に引き込まれてしまうことが考えられる。そうすると、走行する金属撚線1fとの接触に伴う貫通孔125aの内周面の摩耗等により回転キャップ125を交換する場合もあるところ、回転キャップ125の交換作業が煩雑になる。そこで、図3から5に図示するように、回転キャップ125の外周面の一部から径方向外側に突出する鍔部125bを設け、鍔部125bの下面をベアリング123の上面に当接させることが好適である。そうすると、回転キャップ125がベアリング123の奥側に引き込まれることがなく、また、鍔部125bを摘んで持ち上げることにより容易に回転キャップ125を取り外すことができるから、回転キャップ125を交換する際の作業も容易になる。
【0042】
クロスヘッド5内部に進入した金属撚線1fは、図1及び2に図示するように、ニップル5a内部を走行して、雄型ダイ5bの頂部から引き出され、溶融樹脂11がその外周面に付着される。上記の工程を経てクロスヘッド5から引き出された樹脂被覆金属長尺体1は、冷却水槽6内を走行しながら冷却されて被覆樹脂を固化した後、引取装置7により引き取られ、巻取装置8により巻き取られる。
【0043】
上記の本発明の一実施形態に係る金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法により生産された樹脂押出被覆金属撚線1は、図6及び7に図示するように、金属ストランド1b又は金属ロープ1cと被覆樹脂層1dとの間に、図12及び13に図示したような間隙1eの生じることがなく、金属ストランド1b又は金属ロープ1cに対して被覆樹脂層1dが密着しているため、金属ストランド1b又は金属ロープ1cと被覆樹脂層1dとが強固に接着しており、かつ、その外径が従来技術に係る樹脂押出被覆の方法により生産された樹脂押出被覆金属撚線よりも小さいものとなっているのである。
【符号の説明】
【0044】
1 樹脂押出被覆金属撚線
1a 金属素線
1b 金属ストランド
1c 金属ロープ
1d 被覆樹脂層
1e 間隙
1f 金属撚線
2 送出装置
3 予熱装置
4 押出機
4a 樹脂供給路
5 クロスヘッド
5a ニップル
5b 雄型ダイ
5c 雌型ダイ
5d 減圧室
5e 金属長尺体挿入口
6 冷却水槽
7 引取装置
8 巻取装置
9 真空ポンプ
9a 吸引ホース
10 粗面形成装置
11 溶融樹脂
12 封止具
121 金属撚線案内筒
121a 回転キャップ収容空間
121b スナップリング嵌入溝
122 案内筒取付けナット
122a 案内筒取付け孔
123 ベアリング
124 スナップリング
125 回転キャップ
125a 貫通孔
125b 鍔部
13 樹脂押出被覆金属長尺体
13a 金属長尺体
14 樹脂押出被覆金属素線
14a 金属素線
14b 被覆樹脂層
14c 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機に連結したクロスヘッド内に金属撚線を走行させ、減圧化手段によって減圧された該クロスヘッド内において、該押出機から押し出された溶融樹脂を該金属撚線の外周面上に押出被覆する金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法であって、該クロスヘッドの金属長尺体挿入口に取り付けられた該金属撚線を挿通させる挿通孔の穿設された封止具内に該金属撚線の撚り合わせに沿って回転可能なように取り付けられている回転キャップに穿設された該金属撚線の外径形状に沿う内径形状を有する貫通孔に該金属撚線を挿通させて該クロスヘッド内に進入させ、該金属撚線の外周面上に溶融樹脂の押出被覆を行うことを特徴とする金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法。
【請求項2】
前記回転キャップが前記封止具内に嵌め込まれているベアリングによりその回転を支持されていることを特徴とする請求項1に記載の金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法。
【請求項3】
前記回転キャップが耐熱プラスチックによって形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法。
【請求項4】
前記クロスヘッド内において該金属撚線の外周面上に溶融熱可塑性樹脂を押出被覆する前に、該金属撚線の外周面を粗面加工することを特徴とする請求項1から3までの何れかに記載の金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法。
【請求項5】
前記金属撚線の外周面を粗面加工する方法が該金属撚線の外周面にワイヤブラシを圧接して回転させる方法であることを特徴とする請求項4に記載の金属撚線に対する樹脂押出被覆の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−11421(P2011−11421A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156575(P2009−156575)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(591051553)株式会社川熱 (5)
【Fターム(参考)】