説明

金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置

【課題】伸線コストの低下を可能とし、メンテナンスが容易であり、かつ高速度で金属極細線を得ることのできる実用的な金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置の提供を課題とする。
【解決手段】金属線巻き出し装置と、張力検出手段と、伸線ユニットと、金属線巻き取り装置とがこの順で伸線ライン上に配設され、伸線ユニットはダイスと、駆動キャプスタントと、張力検出手段とをこの順で含み、かつ張力検出手段が、一端に回転可能なプーリーが設けられ、他端に磁気式ダンパを備えられた歯車が設けられた回転可能に構成されたアームと、該歯車と噛み合い回転可能に設けられた大歯車と、ホイートストンブリッジに構成した歪ゲージを搭載した固定金属板とをスプリングで結合し、前記歪みゲージからの信号を前記サーボモーターの制御信号とする制御回路を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置に関し、さらに詳しくは、伸線コストの低下を可能とし、メンテナンスが容易であり、かつ高い伸線速度で金属極細線を得ることのできる実用的な金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ICやLSIなどの半導体素子上の電極と外部リードとを接続する場合に細い金線等よりなるボンディングワイヤが用いられている。このようなボンディングワイヤ等の金属細線、特に直径40μm以下の金属細線を製造する場合には、通常、直径5〜10mm程度の太径の素材線を単釜伸線機などで直径100〜300μm程度に細線化し、次いでこれをスリップ型金属細線用伸線機により更に細線化して上記のような所定の直径の金属細線を得ている。
一般に、この細径化には種々のタイプのスリップ型金属細線用伸線機が用いられるが、代表的なものとしては、図3に示すようなスリップ型金属細線用伸線機が挙げられる。このタイプの伸線機では、供給ボビン4に巻かれた金属線は、従動キャプスタンローラ3を介して駆動キャプスタンローラ2により巻き取られ、この2つのキャプスタンローラの間に設置された伸線ダイス(6a〜6d)により細径化された後、仕上げダイス7、ガイドローラ8を経て巻き取りボビン9に巻き取られる。
【0003】
こうしたスリップ型の伸線機を用いた伸線工程では、金属線の速度よりもキャプスタン周速を大きくして金属線とキャプスタン表面とをスリップさせながら伸線するため、2本のキャプスタンで複数のダイスの伸線が出来、大きな断面減少率で伸線が可能となる。しかし、その反面、ダイスの断面減少率によって、伸線する金属線に掛かる張力の変動が大きく、張力不足で線材が緩み、キャプスタンより外れたり、張力過多になり線材が引っ張られて断線したりすることがある。
これを防止するために伸線速度に合わせてダイスの開口径を選択して各段の金属線に掛かる張力を適正化することが行われるが、多くの場合、特定開口径のダイスを特注することになり、ダイスコストがかさみ、伸線コストを低下できないという問題がある。また、伸線速度を上げると金属線に掛かる張力の適正化が困難になり、高速で伸線できないという問題がある。
【0004】
とりわけ、近時の半導体装置の高密度化、高集積化から要求されている直径10〜25μmの金属極細線をスリップ型の伸線機を用いて高い伸線速度で得ようとすると、前記理由により頻発に断線を発生する。
伸線機の他の型式にノンスリップ型の伸線機がある。これは金属線の引き抜き速度に合わせてキャプスタンを回転させ、キャプスタン表面(駆動面)で金属線を滑らさないで引き抜く装置である。この装置を用いて連続伸線機を構成すると、ダイスを通過する毎に線径が小さく、線長は長くなることから、キャプスタンを独立駆動させるか、各ユニット間で貯線する機構を設ける必要がある。
【0005】
貯線する機構を設けないでキャプスタンを独立駆動させる場合、運転中の各ダイスの減面率や引抜力をリアルタイムにモニタリングし、これをキャプスタンの回転速度にフィードバックさせるという高度な制御技術が必要となる。このため、ノンスリップ型伸線機は比較的太い線径で、伸線速度の遅い伸線工程に用いられてきた。
近年、制御技術の向上により、金属極細線の伸線工程にノンスリップ型伸線機を用いる伸線技術が構築されつつある(特許文献1 参照)。この技術が実用化された場合には、個々のダイス毎に線材に掛かる張力を制御することが可能となり、伸線速度の高速化、各回減面率の設定自由度の向上など、大きな利点を有することになる。
【0006】
しかし、この伸線技術を操業現場の伸線工程に適用しようとした場合、運転中の各ダイスの減面率や引抜力をリアルタイムにモニタリングし、これをキャプスタンの回転速さにフィードバックさせる制御技術が高価であり、伸線コストの低下を阻むという問題、メンテナンスが難しいという問題がある。この原因の1つに、当該制御技術は、ダンサーローラーを支持するアームに回動する高価なアクチュエータを用いて金属線に掛かる張力を測定していることがある。またもう1つの原因としては、特許文献1の図2に示されているように、キャプスタンの速度センサーで得られるデータ、歪ゲージの張力センサーで得られるデータ、ポテンショメーターの角度センサーで得られるデータ等の多くのデータを制御装置に入力し、制御装置よりトルク指令と駆動モーターの回転指令を行うという複雑で大がかりな制御形態となっていることが挙げられる。
こうした状況下に、伸線コストの低下を可能とし、メンテナンスが容易であり、かつ高速度で金属極細線を得ることのできる実用的な金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−103623号公報 (第1頁参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、伸線コストの低下を可能とし、メンテナンスが容易であり、かつ高速度で金属極細線を得ることのできる実用的な金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく種々検討した結果、金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置にあって、金属線が駆動キャプスタンを通過した後に該金属線に掛かる張力を安価な歪みゲージを用いて検出し、これにより当該駆動キャプスタンの回転数を制御すれば、前記課題が解決されることを見いだして本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の第1の発明によれば、金属線巻き出し装置と、張力検出手段と、張力検出手段を構成要素として含む伸線ユニットと、金属線巻き取り装置とがこの順で伸線ライン上に配設された金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置であって、
前記張力検出手段が、一端に回転可能なプーリーが設けられ、他端に磁気式ダンパを備えられた歯車が設けられ、且つ該歯車の回転軸を中心として回転可能に構成されたアームと、該歯車と噛み合い回転可能に設けられた大歯車と、ホイートストンブリッジに構成した歪ゲージを搭載し、その一端が固定され、他端がフリー(自由端)とされた固定金属板と、前記大歯車の所定位置の作用点と前記固定金属板の自由端を結合するスプリングと、前記歪みゲージからの信号を、前記伸線ユニットを構成するサーボモーターの制御信号とする制御回路を有することを特徴とする金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置が提供される。
【0011】
そして、本発明の第2の発明によれば、前記第1の発明において、前記磁気式ダンパは0.005〜0.01Nmのものであることを特徴とする金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置が提供される。
【0012】
そして、本発明の第3の発明によれば、前記第2の発明において、前記張力検出手段を構成する歯車の直径Xと大歯車の直径Yとの比をX:Y=1:2〜1:3とし、大歯車の回転中心を通る直線上で、回転中心より外側に10〜15mm離れた位置を大歯車の作用点とすることを特徴とする金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置が提供される。
【0013】
そして、本発明の第4の発明によれば、前記第1〜第3のいずれか一つの発明において、前記伸線ユニットは、前記張力検出手段に加えて、ダイスと、前記張力検出手段により制御されるサーボモーターと、該サーボモーターにより駆動される駆動キャプスタントとを構成要素として含み、かつ、所定の減面率より必要とされる数だけ設置されることを特徴とする金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置が提供される。
【0014】
そして、本発明の第5の発明によれば、前記第1〜第4のいずれか一つの発明において、金属線が金、銅またはアルミニウムの内のいずれかの金属から製造されることを特徴とする金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置が提供される。
【0015】
そして、本発明の第6の発明によれば、前記第1〜第4の発明において、直径10〜25μmの金極細線の製造に用いられることを特徴とする金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、金属線に掛かる張力を、駆動キャプスタンを通過した後に金属線で上下に動かされるプーリーの直線運動とし、この直線運動を歯車で回転運動に変え、この回転運動を大歯車と固定金属板との間に設けられたスプリングにより再び固定金属板自由端の上下運動に変え、この動きにより歪まされた歪みゲージより出される電気信号として得る。そして、得られた電気信号を制御信号に変換し、当該駆動キャプスタンの回転数制御に用いる。
このように、本発明の張力検出手段は、プーリー、歯車、スプリング、歪みゲージと極めて安価な部材で構成されている上に、その構造も簡単であるので、メンテナンスも容易である。
また、プーリーの変化量と歪みゲージより得られる電気信号との間に良好な比例関係を持たせるように大歯車とスプリングと固定金属板との位置関係を定めているので演算処理自体も簡単で、安価な制御回路を用いることで事足りる。
【0017】
また、ノンスリップ型の伸線機構を採用しているため、スリップ型の伸線機で要求されるキャプスタンの径とスリップ率とによる所定減面率の特注ダイスを使用しなければならないという問題が無く、生産コストを低下できる。
さらに、ダイスの断面減少率に合わせてキャプスタンの駆動速度を精度よく設定できるため高速で伸線が可能である。
また、操業中に金属線巻き出し速度(伸線速度)が変動しても、張力検出手段と駆動キャプスタンとが1:1で対応しているため、応答良く対応できるため、操業中での伸線速度の変更にも柔軟に対応できる。
本発明の金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置は、こうしたことから、電子材料用の金線や、銅線、アルミニウム線等の製造に好適であり、とりわけ直径25μm以下の柔らかく傷つき易い金極細線の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の装置構成例を示した概要図である。
【図2】本発明の張力検出手段例を示した概要図である。
【図3】従来のスリップ型金属細線用伸線機の一例を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置は、金属線巻き出し装置と、張力検出手段と、張力検出手段を構成要素として含む伸線ユニットと、金属線巻き取り装置とがこの順で伸線ライン上に配設されるものである。
そして、前記伸線ユニットはダイスと、サーボモーターで駆動される駆動キャプスタンと、張力検出手段とをこの順で含むものである。そして、金属線巻き出し装置と伸線ユニットとの間に設けられる張力検出手段と伸線ユニットの構成要素として用いられる張力検出手段とは、共に、一端に回転可能なプーリーが設けられ、他端に磁気式ダンパを備えられた歯車が設けられ、且つ該歯車の回転軸を中心として回転可能に構成されたアームと、該歯車と噛み合い回転可能に設けられた大歯車と、ホイートストンブリッジに構成した歪ゲージを搭載し、その一端が固定され、他端がフリー(自由端)とされた固定金属板と、前記大歯車の所定位置の作用点と前記固定金属板の自由端を結合するスプリングと、前記歪みゲージからの信号を前記サーボモーターの制御信号とする制御回路とを含むものである。
【0020】
本発明において、駆動キャプスタンはそれぞれサーボモーターを有しているので、それぞれ独立して回転数制御される。したがって、ダイスの減面率に応じて早くなる金属線の送り速度に柔軟に対応できるので、安価な既成のダイスを用いることができ、スリップ型伸線機のように特定の減面率を有するダイスを選択し、あるいは特注して用いる必要がないので、伸線コストを大幅に低減できる。加えて、各伸線ユニット間で貯線する機構を設ける必要もない。
用いる伸線ユニットの数は、必要とされる減面率に応じて決定することができる。したがって、既成の減面率のダイスを選択して用いることができるので、ダイスコストを低下できる。
【0021】
また、金属線巻き出し装置と、隣り合う伸線ユニットとの間に張力検出手段を設けるのは、該伸線ユニットのダイスに挿入される金属線の張力を検出し、得られる制御信号を金属巻き出し装置に送り、巻き出し速度の調整に供するためである。
【0022】
金属線巻き出し装置と、隣り合う伸線ユニットとの間に設けられる張力検出手段、及び伸線ユニットにて用いられる張力検出手段は、共に下記の(1)〜(5)を用いて構成されている。
(1)一端に回転可能なプーリーが設けられ、他端に磁気式ダンパを備えた歯車が設けられ、且つ該歯車の回転軸を中心として回転可能に構成されたアームと、
(2)該歯車と噛み合い回転可能に設けられた大歯車と、
(3)ホイートストンブリッジに構成した歪ゲージを搭載し、その一端が固定され、他端がフリー(自由端)とされた固定金属板と、
(4)前記大歯車の所定位置の作用点と前記固定金属板の自由端とを結合するスプリングと、
(5)前記歪みゲージからの信号を前記サーボモーターの制御信号とする制御回路
【0023】
この張力検出手段は、伸線に掛かる張力に応じてアームの一端に設けられたプーリーを上下させ、アームの他端に設けられた歯車を回転させ、これにより大歯車を回転させる。そして、大歯車の作用点と固定金属板との間に設けたスプリングに伸縮変化を与え、このスプリングの伸縮変化により固定金属板表面に設けられた歪みゲージに歪を与え、与えられた歪みの大きさに応じた電気信号を制御回路に入力し、制御回路にて制御信号に変換して駆動キャプスタンを回転数制御するサーボモーターに送り、駆動キャプスタンの回転を制御し、金属線に掛かる張力を適正に調整させる機能を有する。
即ち、金属線の張力により上下に動かされるプーリーの直線運動を、歯車にて回転運動に変え、これを大歯車と固定金属板との間に設けられたスプリングにより再び固定金属板自由端の上下の直線運動に変換し、この直線運動により歪まされた歪みゲージより電気信号を出力として得ている。このように構成するので、金属線にかかる張力の大きさと歪みゲージより得られる出力信号の大きさとの関係を良好な比例関係とすることができる。そして、各伸線ユニット内で駆動キャプスタンと張力検出手段とを1:1で対応させているので、各伸線ユニット毎に金属線に掛かる張力を最適化できる。
【0024】
本発明では、金属線にかかる張力の大きさと歪みゲージより得られる出力信号の大きさとの関係を良好な比例関係とするために、張力検出手段の前記歯車に磁気式ダンパを設けている。これにより、アームの上下動以外の運動が該歯車の回転に影響を与えないようにしている。
【0025】
なお、本発明の金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置は前記した構成を取るため、操業中に伸線速度を変化させてもすぐに対応できるので、極めて実用的である。
【0026】
以下、図1、2を用いてさらに本発明を説明するが、本発明はこれらの図によってなんら限定されるものではない。
図1は3つの伸線ユニット50A、50B、50Cを用いた本発明の金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置例の構成を示した概念図であり、図2は張力検出手段51の構成例を示した概念図である。
金属線巻き出し装置10より巻き出された金属線11は、まず、張力検出手段51を構成するプーリー12を通る。続いて伸線ユニット50Aのガイドプーリー17a、ダイス18a、ガイドプーリー19a、サーボモーター(図示せず)により回転数制御される駆動キャプスタン20a、張力検出手段51aのプーリー12aを通る。その後、伸線ユニット50bのガイドプーリー17b、ダイス18b、ガイドプーリー19b、サーボモーター(図示せず)により回転数制御される駆動キャプスタン20b、張力検出手段51bのプーリー12bを通り、続いて伸線ユニット50cのガイドプーリー17c、ダイス18c、ガイドプーリー19c、サーボモーター(図示せず)により回転数制御される駆動キャプスタン20c、張力検出手段51cのプーリー12cを通り、金属線巻き取り装置21に巻き取られる。
図1の例では、金属線は3個のダイスにより減面され、伸線加工されるが、所望の減面率に応じてダイスの数を増加する、即ち用いる伸線ユニットを増加させることは本発明の範囲内である。
【0027】
図2は張力検出手段51、51a、51b、51cの構成例を、張力検出手段51の構成例を代表として用いて示した概念図である。12はプーリーであり、自在に回転可能となるようにアーム13の一端に設けられている。アーム13の他端には磁気式ダンパ22付きの歯車23が設けられている。アーム13は歯車23の回転軸24を中心として回転可能に設けられている。
歯車23には、歯車23の回転方向と逆に回転するように大歯車25が噛み合わされている。大歯車25の回転中心26より径方向にZだけ離れた作用点27にはスプリング14の一端が取り付けられている。そして、スプリング14の他端は、固定金属板15の自由端に結合されている。固定金属板15の一端は構造材や固定用部材等に固定され、その表面に歪みケージ16が設けられている。この歪みケージはホイートストンブリッジに構成されている。
こうした構成を取ることにより、前記したように、金属線11の張力により上下に動かされるプーリー12の運動を固定金属板15自由端の上下運動とし、この上下運動により歪みゲージ16を歪ませる。こうして、プーリー12の動き、即ち金属線11の張力と歪みゲージ16より得られる電気信号の大きさとの関係を良好な比例関係とする。
【0028】
張力検出手段51、51a、51b、51cでは、それぞれ歪みゲージ16、16A、16B、16Cにて発生した電気信号は、それぞれに設けられた図示しない制御回路により制御信号に変換し、金属線巻き出し装置10、駆動キャプスタン20A、20B、20Cのそれぞれ図示しないサーボモーターに送られ、金属巻き出し装置10の巻き出し速度や駆動キャプスタン20A、20B、20Cの回転数を制御する。
【0029】
プーリー12は自在に回転可能となるようにアーム13に設けられているが、金属線として金線のように柔らかいものを用いる場合には、樹脂製や樹脂コートしたプーリーを用いることが好ましい。金属線表面に傷を生じさせないようにするためである。
【0030】
前記したように、歯車23に磁気式ダンパ22を設けることにより、金属線11の張力に従うアーム13以外の動きの影響をなくしている。この目的から、磁気式ダンパは0.005〜0.01Nmのものとすることが好ましい。これより力が弱いと歯車23の余分な動きを押さえることができず、これより力が強いと、アーム13の動き自体に影響を与えかねないからである。
【0031】
また、歯車23に噛み合うように大歯車25を設け、歯車23の回転に同期して大歯車25を歯車23と反対方向に回転させ、大歯車25の作用点27に取り付けられたスプリング14を、歯車23の回転角度に応じて伸縮させている。この際、歯車23の直径Xと大歯車25の直径Yとの比は1:2〜1:3とし、大歯車25にスプリング14の上端を固定する作用点27の位置は、大歯車の回転中心26を通る直線上とし、回転中心と作用点との距離Zを10〜15mmとすることが好ましい。
この条件が外れた場合、例えば、Yが2Xより小さくする場合、アーム可動する範囲でのスプリングの伸縮する変位は大きくなり、スプリングの減衰性が損なわれ、追従性が損なわれるとともに、金属線に掛かるテンション変動も大きなものとなり、不都合である。Yが3Xより大きくなる場合、歯車の慣性モーメントが大きくなり、テンションアーム13部に歯車の慣性モーメントの影響を受けやすくなる問題がある。
一方、スプリングの取り付位置Zを10mmより小さくするには、設置できるスペースに制限があり、且つスプリング14に掛かる張力が大きくなりすぎて、固定金属板15の降伏点を超えて曲げてしまう虞があるから不都合である。
Zが15mmより大きくなる場合において、スプリングの伸縮する変位は大きくなり、スプリング14と固定金属板との成す角度が直角から逸脱するために電気信号の直線性を良好にするために好ましくなく、金属線に掛かるテンション変動も大きなものとなり、不都合である。
なお、歯車23と大歯車25との噛み合わせや動きをなめらかにするためには、用いる歯車は平歯車とすることが好ましく慣性モーメントが小さいほど良い。
また、金属線11に掛かる張力の大きさと、歪みケージ16より出力される電気信号の大きさとの間の直線性を悪化させない範囲でスプリング14の代わりに板バネなどの弾性体で連結しても良い。
【0032】
固定金属板15としては、ホイートストンブリッジに構成した歪ゲージ16を貼り付けて用いられる一般的な材料で良く、例えば、厚さ0.5〜1.0mmで幅10mm程度のリン青銅板が用いられる。固定金属板は一端を固定し、他端を自由端とするが、固定位置は、スプリング14と固定金属板との成す角度が略直角となるようにすることが、金属線11に掛かる張力の大きさと、歪みケージ16より出力される電気信号の大きさとの間の直線性を良好にする上で好ましい。取り付け場所は伸線ユニットを構成するケーシングでも、また取り付け用の部材を別途設けてもよい。
【0033】
以上述べた本発明の金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置は、金、銅、アルミニウム等の極細線を得るのに用いることができる。とりわけ、直径25μm以下の金極細線を得るのに好適である。
なお、本発明の金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置を使用するに際しては、金属線の張力をバネ定数に合わせて決定し、この張力を維持するようにして伸線加工すれば、金属線が駆動キャプスタンに絡みつくことはなく、安定して伸線することが出来る。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明による伸線機を用いてボンディングワイヤ用の金線を伸線加工した実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
3個の伸線ユニットを用いて図1のように構成し、金属線として直径20μmの金線を用い、減面率7〜8%のダイスを使用して、直径15μmまでダイス3個づつで伸線加工を行い、極細線を製造した。なお伸線速度はmax 1,100m/分で行った。その結果、金線が駆動キャプスタンに巻き付くことによる断線や、ガイドプーリーや駆動キャプスタンから外れることによる断線もなかった。また、金線表面には損傷が観察されなかった。
【0036】
(比較例1)
上記実施例に対する比較例として、図3に示す従来のスリップ型の伸線機を用いて、伸線速度500m/分とし、実施例1と同じ直径50μmの金線を伸線加工して線径20μmの極細線を製造したところ、金線が1ボビン当たり2〜5回、従動キャプスタンローラに巻き付いて断線が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置は、近時強く求められる金、銅、アルミニウム等の極細線、とりわけ、直径25μm以下の金極細線の製造に用いると、低伸線コストで、かつ高速度で金属極細線を得ることができる。加えて、メンテナンスも容易なので実用的な金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置であり、その工業的価値は大きい。
【符号の説明】
【0038】
1 伸線槽
2 駆動キャプスタンローラ
3 従動キャプスタンローラ
4 供給ボビン
5 繰り出しガイド部材
6a〜6d 伸線ダイス
7 仕上げダイス
8 ガイドローラ
9 巻き取りボビン
10 金属線巻き出し装置
11 金属線
12 プーリー
13 アーム
13a〜13c アーム
14 スプリング
14a〜14c スプリング
15 固定金属板
15a〜15c 固定金属板
16 歪みゲージ
16a〜16c 歪みゲージ
17a〜17c ガイドプーリー
18a〜18c ダイス
19a〜19c ガイドプーリー
20a〜20c 駆動キャプスタン
21 金属線巻き取り装置
22 磁気式ダンパ
23 歯車
24 回転軸
25 大歯車
26 回転中心
27 作用点
X 歯車22の直径
Y 大歯車24の直径
Z 大歯車25の回転中心26と作用点27との距離
W プーリーに掛かるテンションの方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属線巻き出し装置と、張力検出手段と、張力検出手段を有する伸線ユニットと、金属線巻き取り装置とが伸線ライン上に順次配設されてなる連続伸線装置であって、
前記張力検出手段は、一端に回転可能なプーリーが設けられ、他端に磁気式ダンパを備えられた歯車が設けられ、且つ該歯車の回転軸を中心として回転可能に構成されたアームと、該歯車と噛み合い回転可能に設けられた大歯車と、ホイートストンブリッジに構成した歪ゲージを搭載し、その一端が固定され、他端がフリー(自由端)とされた固定金属板と、前記大歯車の所定位置の作用点と前記固定金属板の自由端とを結合するスプリングと、前記歪みゲージからの信号を、前記伸線ユニットを構成するサーボモーターの制御信号とする制御回路とを有することを特徴とする金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置。
【請求項2】
前記磁気式ダンパは、0.005〜0.01Nmのものであることを特徴とする請求項1記載の金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置。
【請求項3】
前記張力検出手段を構成する歯車の直径Xと大歯車の直径Yとの比をX:Y=1:2〜1:3とし、大歯車の回転中心を通る直線上で、回転中心より外側に10〜15mm離れた位置を大歯車の作用点とすることを特徴とする請求項2記載の金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置。
【請求項4】
前記伸線ユニットは、前記張力検出手段に加えて、ダイスと、前記張力検出手段により制御されるサーボモーターと、該サーボモーターにより駆動される駆動キャプスタントとを含み、かつ、所定の減面率より必要とされる数だけ設置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置。
【請求項5】
金属線が、金、銅またはアルミニウムのいずれかの金属から製造されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置。
【請求項6】
直径10〜25μmの金極細線の製造に用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された金属極細線用ノンスリップ型連続伸線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−284678(P2010−284678A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139995(P2009−139995)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】