説明

金属浸潤炭化ケイ素チタンおよび炭化アルミニウムチタン体

銅またはアルミニウムなどの金属と炭化ケイ素チタンまたは炭化アルミニウムチタンセラミック材料との高密度化された複合材料は、前記セラミック材料から物体を形成し、該物体に溶融金属を浸潤させることによって調製される。前記金属は、粒界間の隙間内、およびさらには前記セラミック粒体の結晶構造内にも迅速に浸透して、複合材料を形成することができる。出発セラミック材料は、予め高密度化されていてよく、この場合、種々のタイプの勾配構造が容易に生成され得る。このプロセスは、低圧で操作することができ、そのため、これらのセラミック材料を高密度化するのに通常は用いなければならないホットプレス法を回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年6月6日に出願された米国仮特許出願第61/059,315号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、金属と炭化ケイ素チタンまたは炭化アルミニウムチタンとの複合材料に関する。
【背景技術】
【0003】
ある種の炭化ケイ素チタン(TSC)および炭化アルミニウムチタン(TAC)材料は、「MAX」材料と称される場合があるセラミック分類の一部を形成する。これらのセラミックは、積層分子構造を有し、チタンおよび炭素原子から構成される強く結合したプレートは、より弱い結合によって中間のシリコンまたはアルミニウム層に結合されている。この積層構造は、これらの材料のいくつかの非常に興味深い特性を説明すると考えられる。これらの材料は、大部分のセラミックと同様に耐酸化性であるが、容易に機械加工可能である。これらは、大部分のセラミック材料と比較して優れた靱性を有すると同時に、高弾性を有する。これらの材料は、グラファイトが自己潤滑性であるのと大体同じように、自己潤滑性である。
【0004】
これらの材料を用いることによる一つの主な障害は、これらの材料が、高密度化して部品を形成することが困難なことである。後に長時間の熱処理が続くホットプレス法は、高密度の部品を生成することが必要とされる。これらの処理要件では、コストが高くなり、高密度化された部品において大きな粒体が形成される。さらに、ホットプレス法は、かなりシンプルな形状を作製するためにのみ用いることができる。より複雑な形状の部品は、高密度化ステップの後に機械加工されなければならない。
【0005】
金属とTSC材料またはTAC材料との複合材料を形成することもまた提案されてきた。例えば、銅と炭化ケイ素チタンとの複合材料を粉末の混合物から形成することが試みられてきた。しかし、ホットプレス法を用いても、セラミック相の添加量がかなり低くない限り、材料を高密度化することは困難である。このアプローチの別の欠点は、セラミック相が金属相に望まれるように微細に分散されないことである。セラミックが金属相に分散される程度は、出発粉末の粒径によって制限される。出発材料として非常に微細な粉末が用いられるときでも、セラミック粒子の凝集を防止することは実際には困難である。結果として、セラミック相は、非常に微細な出発粉末が用いられる場合でも、複合材料全体にわたってやや粗く分布される。したがって、このようにして作製される部品は、期待されるほど良好な特性を有さない。
【0006】
銅をTSC粒子上にコーティングし、次いでコーティングされた粒子を高密度化することによって複合材料を形成する試みは、大幅な改善をもたらさなかった。材料を高密度化するためには、ホットプレス法が依然として必要とされている。同様に、TiAlCと銅粉末とが混合され、ホットプレス法を用いて高密度化されてきた。この場合、セラミック相と金属相との間の反応が観察されてきた。高密度化された複合材料は、主相として、Cu(Al)および立方晶TiCxを主に含有する。2007年出版の、Zhangら、「Structure Stability of TiAlC in Cu and microstructure evolution of Cu−TiAlC composites」(Acta Materialia)を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、容易に高密度化することができ、高添加量のセラミック相を含有でき、良好な機械的および電気的特性を有する、金属とTSCまたはTACとの複合材料を提供することが望ましいであろう。好ましくは、該複合材料は、金属相内に密に分散するセラミック相を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一態様において、金属と炭化ケイ素チタンまたは炭化アルミニウムチタン出発セラミック材料との複合材料を形成する方法であって、出発セラミック材料体を形成すること、該体と金属とを、金属の溶融温度を超えるがセラミック材料の劣化温度未満である温度で、金属の少なくとも一部が該体内に浸潤して複合材料を形成するのに十分な時間にわたって接触させること、次いで、得られた複合材料を金属の溶融温度未満に冷却することを含む方法である。
【0009】
本発明は、いくつかの利点を提示し、多くの場合において、独特の複合材料を提供する。第1に、十分に高密度の複合材料が容易かつ迅速に形成される。このプロセスを、大気圧または準大気圧で実施することができる。したがって、高密度体を形成するのにホットプレス技術を必要としない。低圧高密度化法を使用できることで、複雑な形状を有する複合材料体を直接生成することを場合により可能にする。これにより、その後の処理の必要性を低減またはまさに排除することができる。加えて、炭化ケイ素チタンおよび炭化アルミニウムチタン部品を十分に高密度化するために通常は必要とされるような、いずれの高密度化後の熱処理も必要としない。このプロセスによって作製される複合材料は、広範囲のセラミック含量を有することができる。
【0010】
本発明はまた、金属相と炭化ケイ素チタンまたは炭化アルミニウムチタンセラミック相とを有する高密度化された複合材料であって、金属相が、その体積の約10〜90%を構成する、複合材料でもある。
【0011】
本発明の複合材料は、多くの有用な特性を有し、これらの特性は、当然ながら、いずれの特定の場合においても、金属相およびセラミック相の相対比率ならびに複合材料内の金属相およびセラミック相の分布に依存するであろう。該複合材料は、高度に熱および電気伝導性である。本発明の複合材料は、高密度化された100%のTSCおよびTAC材料と比較して、許容されるヤング率を依然として保持しながら、より高い靱性およびより高い引張強度を有する。該複合材料は、機械加工が必要であるとき、より高価なダイヤモンド工具の代わりに、炭化タングステン工具などの工具を用いて機械加工することができる。
【0012】
さらに、本発明のプロセスは、金属が複合材料内にどのように分布するかに対する制御の測定を可能にする。スペクトルの一端において、該プロセスを用いて、巨視的規模で、複合材料体にわたって高度に均一な金属分布を有する複合材料を作製することができる。また、該プロセスを用いて、勾配構造を作製することもでき、ここで、金属の巨視的濃度は、複合材料体の一つまたは複数の寸法に沿って変化する。これにより、ある領域が、他の領域が有するのに比べて、巨視的規模で、より高い金属含量を有する複合材料体がもたらされる。ある一定の場合では、複合材料体の一つまたは複数の領域が、本質的に100%の金属から構成されていてよい。金属濃度は、次いで複合材料体の別の領域(複数可)において、ゼロほどに小さくてよい所望されるさらに低いレベルにまで低減されるまで、金属領域(複数可)からの距離の増加に伴って徐々にまたは段階的に減少する。このような勾配構造は、可鍛性および/または溶接可能な金属面(これを介して、複合材料を別の材料に(例えば、それを別の金属に溶接することによって)付着させることができる)、ならびにセラミック相をより多く含む別の面を提供することができ、また、炭化ケイ素チタンまたは炭化アルミニウムチタンセラミックの自己潤滑特性を利用する例えば摩耗または接触面を提供することができる。
【0013】
本発明の別の驚くべき特徴は、浸潤プロセスの間に、金属がセラミック相の粒界の周囲およびその間に浸潤して、隣接するセラミック粒体の界面に金属ドメインを形成できることである。これは、特に驚くべきことには、セラミックが予め高密度化されていても起こる。場合により、金属は、TSCおよびTAC材料の薄層の間に介在して、剥離された構造を形成することがさらに分かっている。したがって、本発明のプロセスは、出発材料としてのナノ粉末を用いる必要がなく、ナノ複合材料を生成することができる。ナノ粉末の出発材料を回避することにより、ナノ粉末がより高価な出発材料であるためにコスト面において、さらには、ナノ粉末を取り扱うことによって見られ得る潜在的な健康問題を回避することにおいて、利益がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】250Xの倍率での本発明の複合材料の顕微鏡写真である。
【図2】図1において参照番号4によって特定した領域を示す、1000Xの倍率での本発明の複合材料の顕微鏡写真である。
【図3】図2において参照番号25によって特定した領域を示す、5000Xの倍率での本発明の複合材料の顕微鏡写真である。
【図4】図2において参照番号21によって特定した領域を示す、20,000Xの倍率での本発明の複合材料の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
出発材料として本発明に用いられる炭化ケイ素チタン(TSC)は、積層分子構造を有するセラミック材料である。TSCの経験式は、TiSiC、または一部の場合にはTiSiとして一般に与えられるが、これらの式に由来するいくつかの出発物は、実際の試料中に、またはまさに単一試料内にしばしば存在する。Ti対Siの原子比は、約2.3:1〜3.3:1で変動してよく、C対Siの原子比は、約1.8:1〜約2.3:1で変動してよい。いくつかのTSC生成物では、経験式は、近似的にTiSiCまたはTiSiであり得る。TSCは、炭化チタンとケイ化チタンとの反応において形成され得る。別のチタン源は、チタン金属、フッ化チタンまたは二酸化チタンであり得、シリコン源(例えば、シリコン金属または二酸化シリコン)および炭素源(典型的には炭素または炭化シリコン)と反応して、TSC材料を形成することができる。炭化ケイ素チタンは、純粋な材料であっても、そうでなくてもよい。場合により、TSCは、他の材料の相、とりわけ、チタン−炭素相および/またはチタン−シリコン相を含有していてよく、これらの相は、不完全な反応の結果として存在し得る。
【0016】
本発明に用いられる炭化アルミニウムチタン(TAC)もまた、積層構造を有するセラミック材料である。この場合、経験式は、TiAlCとして一般に与えられるが、既に述べたように、これらの式に由来するいくつかの出発物は、実際の試料中に、または単一試料内にしばしば存在する。Ti対Siの原子比は、約1.8:1〜2.5:1で変動してよく、C対Siの原子比は、約0.8:1〜約1.3:1で変動してよい。TACは、チタン源(例えば、チタン金属または酸化チタン)、アルミニウム源(例えば、アルミニウム金属、フッ化アルミニウムまたは酸化アルミニウム)、および炭素源の反応において形成され得る。TACは、その合成に由来する未反応の出発材料の相を含めた他の材料の相を含有していてよい。
【0017】
金属は、溶融の際、セラミック相の分解温度未満のある温度においてセラミック相を湿潤させる任意の金属である。分解温度は、TSCまたはTAC材料が、単独で不活性雰囲気において加熱されたとき、熱的に分解する温度である。TSC材料に関しては、該温度は、真空中で約1500℃であり、アルゴン雰囲気中で1800℃以上である。TAC材料に関しては、該温度は、約1500〜1800℃である。
【0018】
好ましい金属として、銅、および少なくとも75重量%の銅を含有する銅合金が挙げられる。好ましい銅および銅合金の中でも、銅鍛錬合金および鋳造合金、高銅鍛錬合金および鋳造合金、銅−亜鉛(黄色黄銅)合金、銅−亜鉛−鉛(有鉛黄銅)合金、銅−亜鉛−錫合金(錫黄銅)、銅−錫−リン合金(リン青銅)、銅−錫−鉛−リン合金(有鉛リン青銅)、銅−リン合金、銅−銀−リン合金、銅−銀−亜鉛合金、銅−アルミニウム合金(アルミニウム青銅)、銅−シリコン鍛錬合金および鋳造合金(シリコン青銅および黄銅)、銅−ニッケル合金、銅−錫−亜鉛鋳造合金、銅−錫−亜鉛−鉛鋳造合金、銅−錫−鉛合金(有鉛錫青銅)、銅−錫−ニッケル合金(ニッケル錫青銅)、銅−アルミニウム−鉄合金、銅−アルミニウム−鉄−ニッケル合金などであり、各場合において、好ましくは少なくとも75重量%の銅、より好ましくは少なくとも80重量%の銅を含有する。これらの中でも、少なくとも99重量%の銅を含有する銅鍛錬および鋳造合金、少なくとも97重量%の銅を含有する高銅合金、ならびに最大で約15%のアルミニウム、最大で6%のニッケル、最大で5%の鉄および少なくとも80重量%の銅を含有するアルミニウム青銅が好ましい。
【0019】
他の好ましい金属として、アルミニウム、およびアルミニウム合金(2007年3月のアルミニウム協会の「Gold Sheets」における、P0202A−P2585Bと示されるものなどを包括する非合金アルミニウム生成物を含む);鍛錬アルミニウムおよび鍛錬アルミニウム合金(例えば、2006年4月のアルミニウム協会の「Teal Sheets」における、1050−8211と示されるものなどを包括する)、ならびにアルミニウム硬化剤(例えば、2007年7月のアルミニウム協会の「Gray Sheets」における、H2206−H2975と示されるものなど)が挙げられる。アルミニウム合金は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも90重量%のアルミニウムを含有する。アルミニウムおよびアルミニウム合金は、TAC材料を用いた組成物を形成するのに特に好ましい。
【0020】
複合材料は、TSCまたはTAC材料の出発体を形成すること、および該体と金属とを下記の処理温度において接触させることによって生成される。出発体とは、簡単には、ある好都合な形状およびサイズの、金属によって浸潤されるべき、ある質量の出発TSCまたはTAC材料である。形状および寸法は、これらの因子が、必要とされる処理時間および金属量に影響を与え得るような程度を除いて、プロセスには重要でない。出発体は、複合材料が用いられるであろう最終用途適用に必要とされる大体の形状および寸法とすることができる。代替的には、出発体は、ある他の任意のまたは好都合な形状およびサイズに形成されてよく、この場合、複合材料は、特定の最終用途適用に適応する部品が生成されるように、さらなる処理に付されてよい。
【0021】
出発体は、圧縮粉末状または粒子状のTSCまたはTAC材料であっても、予め高密度化されたTSCまたはTAC材料であってもよい。出発体を作り上げるのに用いる粉末状のTSC材料は、例えば、わずか約10nmから最大で100μm以上の、いずれの粒径範囲の粉末の形態であってもよい。出発体中のTSCまたはTAC材料は、100μmから1cm以上のサイズを有するより大きな粒子の形態をとることができる。同様に、出発体中のTSCまたはTAC材料は、出発体自身と同程度の大きさであってよい、十分にまたは部分的に高密度化されたより大きな体の形態であってもよい。粉末状または粒子状のTSCまたはTAC出発材料から作製される出発体は、一般に多孔性である。通常、圧縮粉末または粒子状物は、材料の理論密度の40〜70%が高密度化されているであろう。高密度化されたTSCまたはTAC材料から作製される出発体は、一般に非多孔性であるか、せいぜい僅かにのみ多孔性である。以下にさらに記載するように、特定の複合材料構造を生ずるには、場合により、出発体中のTSCまたはTACの一物理形態が、別のものよりも好ましい可能性がある。
【0022】
さらに、出発材料は、一種または複数種の他の材料と混合されたTSCまたはTAC材料を含有していてよい。該他の材料は、別のTSCまたはTAC材料を含めた別のセラミック材料であってよく、最大で50体積%のセラミック出発材料を構成していてよい。該他のセラミック材料は、TSCまたはTAC材料を作製するのに用いた一種または複数種の出発材料を含んでいてよい。例えば、TSC材料は、不完全な反応に起因して存在する、あるチタン−炭素および/またはチタン−シリコン相を含有していてよい。該他のセラミック材料は、近似経験式Mn+1AX(式中、Mは、Sc、Ti、V、Cr、Zn、Nb、Mo、HfまたはTaであり、Aは、Al、Ga、Si、InまたはSnであり、Xは、CまたはNである)を有するいわゆる「MAX」セラミック材料と称される別のものであってよい。TSCまたはTAC出発材料と混合することができる他の有用な出発セラミック材料として、酸化物(例えば、Al、MgO、ZrO、TiO)、ムライト(AlSi13)、窒化物(例えば、Si、AlN)、炭化物(例えば、SiC、BC、WC、TiC)およびホウ化物(例えば、SiB、SiB)が挙げられる。これらの中でも、SiC、BC、WC、Al、MgO、ZrO、AlN、SiB、SiBまたはこれらの二種以上の混合物が好ましい。該他の材料はまた、出発体に浸潤するのに用いる金属と同じ金属であっても、異なる金属であってもよい。存在し得る別の材料は、有機もしくは他の結合剤であるか、または焼結助剤である。該他の材料は、出発体の好ましくは50重量%以下、特に25重量%以下を構成する。
【0023】
複合材料を形成するために、金属は、出発体の一つまたは複数の外面と接触して配置される。これは、出発体が処理温度となる前になされても、後になされてもよい。金属は、出発体と接触する際に、固体(例えば、膜、シート、またはプレート)、粒子状物、またはさらには液体などの任意の好都合な物理形態であってよい。
【0024】
処理温度は、金属の溶融温度を超えるが、セラミック材料の劣化温度未満である。
【0025】
出発材料が加熱される温度は、特にTSCまたはTAC出発材料が高密度化されないときに、所望の複合材料を形成するのに重要であることが分かっている。金属を単独で溶融するのに十分に高い温度に材料を加熱することは、TSCまたはTAC出発材料が高密度化されないとき、より低品質な複合材料をしばしば生成することが分かっている。複合材料は、高密度化され得ず、その物理的、電気的および/または熱的特性を十分に向上させないことがしばしばあった。しかし、出発材料がやや高い温度に加熱されると、複合材料は、容易に高密度化し、金属は、セラミック相内に高度に分散されるようになる。これにより、特性の大幅な改善がもたらされる。金属の溶融温度よりも高いある温度では、金属は、TSCまたはTAC出発材料の粒体を、特にこれらが高密度化されないときに、より湿潤することができるようになると考えられている。この湿潤により、金属が粒体間、さらには粒体内に浸透することを可能にし、ひいては、複合材料の迅速な高密度化およびセラミック相内への金属のより良好な分散を可能にする。この現象は十分には理解されていないが、より高い温度での溶融金属による粒界の溶解、および/または、湿潤を改善することにより、溶融金属の粒界間およびさらには粒体内への浸透を可能にする、金属とセラミック相の面との間のある反応が関係している可能性がある。
【0026】
銅および銅合金の場合には、溶融温度は、しばしば、約1050〜1150℃の範囲内である。しかし、本発明においては、複合材料を形成するのに用いられる温度は、銅、または少なくとも75重量%の銅を含有する銅合金が用いられ、かつTSCまたはTAC出発材料が高密度化されないとき、好ましくは少なくとも1250℃であり、より好ましくは少なくとも約1300℃である。これらのより高い温度では、銅および銅合金が、セラミック相の粒体の周囲およびさらには該粒体内に容易に浸透する。少量のコピーまたは銅合金が粉末もしくは微粒子状物の形態で出発体内に分散しているとき、または出発体内のTSCもしくはTAC粒子の一部または全てが金属でコーティングされているとき、1125〜1250℃などのやや低い処理温度を用いると、良好な品質の複合材料を作製できることが分かっている。この目的では、出発体内の金属は約1〜20重量%で十分である。金属は、好ましくは、銅、または少なくとも75重量%の銅を含有する銅合金である。
【0027】
同様に、多くのアルミニウムおよびアルミニウム合金が650〜700℃の範囲の溶融温度を有するが、複合材料は、大幅に高い温度に加熱することによって形成すべきであることが分かっている。処理温度は、アルミニウム、または少なくとも75%のアルミニウムを含有するアルミニウム合金が金属として用いられ、かつ全てのTSCまたはTAC出発材料が高密度化されないとき、好ましくは少なくとも1100℃であり、好ましくは少なくとも約1150℃である。また、ある金属が、粉末もしくは微粒子の形態でまたはTSCもしくはTAC粒子のコーティングとして出発体に分散しているとき、より低い温度が有用であり得る。既に述べたように、この目的では、出発体内の金属は1〜20重量%で十分である。
【0028】
加熱ステップの温度範囲の上限は、TSCまたはTAC材料の熱的安定性によって決定される。該温度は、TSCまたはTAC材料が、分解、粗大化、または酸化するほど高くあってはならない。TSCおよびTAC材料についての好適な上限温度は、約1500℃、好ましくは最大で約1400℃であり、TACの場合には、より好ましくは最大で1350℃である。
【0029】
TSCまたはTAC出発材料が高密度化されるとき、金属の溶融温度を超えてTSCまたはTAC材料が分解、粗大化、または酸化する温度未満の温度範囲が好適である。金属が、銅、または少なくとも75%の銅を含有する銅合金であるとき、この温度は、好ましくは1050〜1800℃、より好ましくは1150〜1500℃、さらにより好ましくは1150〜1400℃である。金属が、アルミニウム、または少なくとも75%のアルミニウムを含有するアルミニウム合金であるとき、この温度は、好ましくは650〜1800℃、より好ましくは1000〜1400℃、さらにより好ましくは1050〜1200℃である。
【0030】
加熱ステップは、準大気圧下および/または不活性雰囲気下において実施することができる。不活性雰囲気とは、加熱ステップの条件下で出発材料または複合材料と有意に反応しない雰囲気である。水素、アルゴンおよびヘリウムが、不活性雰囲気の例である。加熱ステップを真空下で行うことにより、同伴気体が機械的バリアを形成することを防止して、セラミック相の粒体または粒子間に金属を浸潤させるという利点を有し得る。準大気圧が用いられるとき、その圧は、好ましくは1Torr未満、より好ましくは10−3Torr未満である。加熱ステップは大気圧で行っても準大気圧で行ってもよいが、2気圧を超えるような高圧条件は、高密度化された生成物を得るには通常必要ではない。
【0031】
溶融金属は、TSCまたはTAC出発体内に一般には迅速に浸潤する。したがって、複合材料は、出発材料が所要の温度に一旦加熱されると、一般には迅速に形成されるが、該温度に一旦達するのに必要とされる時間は、部品の物理的寸法およびどれだけの金属が浸潤されるべきであるかに場合によっては依存する可能性がある。典型的には、複合材料は、処理温度に一旦達すると、約5分から約1時間で形成される。
【0032】
複合材料は、形成された後、金属の溶融温度未満の温度に冷却される。複合材料を冷却する方法は重要ではない。複合材料は、必要であり得るまたは所望され得るときには、機械加工または他の製造ステップなどの種々のさらなる操作に供されてよい。TSCまたはTAC材料が、金属に十分には浸透しないとき、したがって、高密度化されないとき、複合材料は、ホットプレスステップまたは熱処理ステップに供されて、部品を完全に高密度化することができる。高密度化された複合材料は、任意の所望の形状およびサイズに機械加工されても、あるいは、特定の用途のために必要または所望により別の方法で処理されてもよい。
【0033】
本発明のプロセスにおいて、出発体は、二つの大まかなタイプに分類することができる。第1のタイプでは、出発体は、予め高密度化されないため、粒子状または粉末状のTSCまたはTAC材料から作製される。第2のタイプでは、出発体は、既に高密度化されている。いずれのタイプを用いても、作製され得る複合材料のタイプ、ならびにその特性に影響を及ぼし得る。
【0034】
第1タイプの出発体は、TSCまたはTAC材料を粒子状または粉末形態で通常含有する。粉末状または粒子状の出発材料を用いるとき、好適な金型または容器内に導入することができ、これらの内面が、出発体および得られる複合材料の形状を画定することとなる。所望の形状および近似寸法の最終複合材料を有する自己支持型の「グリーン体」を形成することも可能である。このようなグリーン体は、出発粒子を共に結合させて、より容易な取り扱いを可能にする働きをする、一種または複数種の有機結合剤を一般的には含有するであろう。
【0035】
本発明において第1タイプの出発体が用いられるとき、金属が溶融して処理温度でTSCまたはTAC材料の粒子間に浸潤し、複合材料を形成する。得られた複合材料は、全ての空隙を充填するのに十分な金属が提供されて、かつ、金属が全ての隙間に浸潤することを可能にするのに十分な時間が処理温度において提供される程度まで、実質的に高密度化されることとなる。この場合には、複合材料は、巨視的規模で、高度に均一な金属分布を有することとなる。典型的には、この高度に均一な分布を形成するのに必要とされる金属量は、出発体のおおよその空隙体積に等しいかまたはそれより大きい金属体積である。大部分の場合において、複合材料の組成における非常に良好な均一性は、金属を出発体の空隙間に浸潤させるのに十分な処理時間が与えられるという条件下で、金属が複合材料の約20体積%以上を構成するときに達成され得ることが分かっている。この場合に得られる複合材料は、20〜90体積%の金属、好ましくは20〜75体積%の金属、最も好ましくは25〜50体積%の金属を典型的には含有する。
【0036】
本発明の目的で、巨視的規模とは、複合材料中の個々の材料のドメインの典型的なサイズよりも少なくとも大きい程度である。典型的なドメインサイズは、通常0.5〜10μmである。一辺が少なくとも0.5mmの寸法を有する任意の面積または体積は、本発明の目的で巨視的であるとみなされる。十分に小さな規模で複合材料の組成が大きく変動し得ることが当然ながら理解されよう。
【0037】
金属はまた、熱処理ステップの間に、TSCおよびTAC出発材料中の粒界間に浸透することもできる。結果として、金属が十分に利用可能であり、かつ十分な処理時間がある程度まで、TSCおよびTAC出発材料の個々の粒体が金属相によって包含されるようになり、典型的には約0.5〜10μm程度であるセラミック相(複数可)の粒体径の規模で複合材料を形成する。
【0038】
さらに、処理温度において十分な時間が与えられるとき、金属はまた、TSCまたはTAC粒体自体に浸透することもでき、少なくとも場合により、TSCまたはTACと反応することもできる。TSCまたはTAC粒体内への金属の浸透は、恐らくは金属とTSCまたはTACとの間のある反応と組み合わされて、TSCまたはTACの一部または全ての剥離を引き起こし得る。得られた剥離された構造は、交互するプレート構造を形成する個々の層(または、個々の層の集まり)を有し、ここで、交互するプレートは、それぞれ、約3〜100nmの厚みを有する。これは、高密度化された出発体を用いて作製した複合材料の顕微鏡的特徴を示す図4に示す効果と同様である。
【0039】
したがって、例えば、銅金属は、このようにしてTSC粒体を剥離してナノ複合材料を形成することができ、ここで、各相は、3〜100nmの範囲の最小寸法を有する。銅は、TSC粒体と反応して、チタン−シリコン−銅−炭素相を主として含む剥離されたプレートを形成すると考えられる。チタン−シリコン−銅−炭素プレートは、これら4種の元素を、シリコン原子1個あたりチタンおよび炭素原子がそれぞれ約3〜4.5個、シリコン原子1個あたり銅原子が約0.75〜1.25個の比で含有するとこができる。さらに、剥離されたチタン−シリコン−銅−炭素プレートは、銅によって全体的に分離されていないときには部分的であるように見える。ただし、十分な銅が与えられ、かつ、十分な反応時間が許容されていることを条件とする。このような場合には、チタン−シリコン−銅−炭素プレートおよびこれらのプレートを分離する銅ドメインは、それぞれ、3〜100nm程度の最小寸法(厚み)を典型的には有する。
【0040】
金属が粒界およびさらにはTSCまたはTAC粒体内に浸透する程度は、存在する金属量および出発材料がプロセス温度に暴露される時間量に部分的に依存する。処理時間が長いほど、金属量を増加させるときと同様に、粒界間の浸透が高まり、TSCまたはTAC粒体の剥離が促進される。
【0041】
出発体が粉末または粒子状のTSCまたはTAC材料であるとき、十分な金属および該金属に十分な処理時間を与えて体全体を通して分布するようになることが一般に好ましく、この場合において、複合材料が、本質的に高密度化されるであろう。本発明の目的で、複合材料は、その高密度化が理論上の少なくとも96%、好ましくは少なくとも98%であるとき、高密度化されていると言われる。理論密度は、出発材料の重量分率および密度から公知の方法において決定される。
【0042】
金属が浸透していない領域は、高密度化されることはないであろう。このような場合には、十分に高密度の複合材料を生成するために、さらなる高密度化法が必要とされ得る。したがって、巨視的レベルで、やや均一な組成を有する高密度化された複合材料を生成するには、第1タイプの出発体が特に有用である。
【0043】
第2タイプの出発体、すなわち、高密度化されたTSCまたはTAC材料が用いられるとき、空隙または孔(これを介して、金属が浸透し得る)は本質的に存在しない。したがって、金属は、TSCまたはTAC粒体間に浸潤するには、粒界間に浸透することによって出発体に浸潤しなければならない。金属はまた、TSCまたはTAC粒体内に浸潤して、図4に示すように、剥離された構造を形成することもできる。これらのプロセスは、粒子状の出発セラミック材料中の空隙を介して金属を浸潤させるよりも長い時間規模で操作し得る。したがって、金属は、粒子状または粉末状の出発体の孔および空隙を介して浸透可能であるよりも遅く第2タイプの出発体を介して浸透し得る。初めに、金属は、金属源に近接する出発体領域のみを介して浸透する。処理温度における追加の時間により、金属は、さらなる体積の出発体を介して浸透する。
【0044】
この場合の浸透速度は、材料が処理温度にある時間の長さを操作することによって勾配構造を生成することができるように十分なほどに、しばしば遅い。金属が体全体を通して浸透する前に熱処理ステップが終了すると、得られる複合材料は、勾配構造を有することとなり、ここで、いくつかの領域が、他の領域よりも高い巨視的金属含量を有することとなる。同じ効果は、全出発体を通して浸潤するのに必要とされるよりも少ない金属を用いることによって達成され得る。いずれの場合にも、金属源に近接する出発体の領域は、金属を比較的多く含む傾向となり、また、金属源からより遠い領域は、セラミック相を比較的多く含むこととなる。
【0045】
高密度化されたTSCまたはTAC体を用いて巨視的に均一な複合材料を形成することが可能であるが、より遅い生成速度に起因して、粉末状または粒子状のTSCまたはTAC出発材料を用いて巨視的に均一な複合材料を作製することが好ましい場合がある。出発体が既に高密度化されているため、高密度化されたTSCまたはTAC出発体を用いて作製した複合材料もまた、金属が体全体にわたって浸潤しなくても、高密度化されることとなる。
【0046】
高密度化されたTSCまたはTAC出発体を用いて複合材料を形成するとき、得られる複合材料は、熱処理ステップの間に適用される金属の不完全な浸潤の結果として複合材料面に形成されるいずれの金属層をもこの算出目的において無視すると、1〜50重量%の金属を含有し得る。金属含量は、複合材料を通して巨視的に均一でなくてよい。
【0047】
高密度化されたTSCまたはTAC出発体を用いることにより、本発明に従って勾配構造を有する多種の物体を生成することができる。いくつかの実施形態において、該物体は一側面では高い金属濃度、反対の側面ではより低い金属濃度(ゼロであり得る)を有する。この構造は、高密度化されたTSCまたはTACの一側面のみに金属を与えることによって生成され得る。加熱ステップの間に、金属は、高密度化されたTSCまたはTACの全部または一部を介して浸透することとなり、金属量および/または加熱時間を制御することによって、金属を、出発体を介して部分的にのみ浸透させて、勾配構造を作り上げることができる。
【0048】
プロセスは、同じように、TSCまたはTACと接触する金属量および処理温度にある時間量の選択を通じて、得られる複合材料が、実に最大で100%の金属という非常に多くの金属を含む一つまたは複数の領域を含有するように、実施され得る。金属面を有する勾配構造は、複合材料が他の金属に固定される必要がある用途において非常に有用である。なぜなら、溶接および他の金属製造技術を金属面に適用できるからである。金属面はまた、電気接点としても機能することもでき、該接点を介して複合材料が種々のタイプの電気または電子回路に接続される。
【0049】
金属が接触する場所および熱処理ステップがどのように行われるかを選択することにより、高密度化されたTSCまたはTAC出発材料を用いて、多種多様の勾配構造を生成できることが認識されよう。
【0050】
興味深い一タイプの勾配構造は、金属面、および100%高密度化されたTSCもしくはTAC材料または金属とTSCもしくはTAC材料との複合材料である反対の面を有する。金属面は、約10μmの薄さであってよいが、好ましくは少なくとも1mmの厚みであり、最大で、所望される、いずれのより大きな厚みであってもよい。複合材料中の巨視的な金属濃度は、部品の厚みを通して金属側から反対側に徐々に減少し得る。代替的には、巨視的な金属濃度において一つまたは複数の急な推移が存在し得る。しばしば、巨視的規模において、金属面に最も近接する領域は金属を比較的多く含み、金属面からより遠い領域は金属を比較的少なく含む。このタイプのいくつかの勾配構造は、反対側またはその付近に金属を本質的に有さない。このタイプの勾配構造は、比較的大質量の金属を出発体の一側面に適用することによって作製することができ、出発体が割り当てられた処理時間において全ての金属を吸収できないようにする。代替的には、金属が出発体に十分に浸潤する時間を有さないように、処理時間を短くする。100%がTSCまたはTACの面は、いくつかの用途において、自己潤滑性の摩耗面として機能することができる。
【0051】
別のタイプの勾配構造は、金属相が巨視的に比較的多く含まれる外周と、金属相が巨視的に比較的少なく含まれる内部またはコアとを有する。部品の外周は、上記のようにいずれの厚みであってもよい金属面を有していてよい。勾配構造の中心領域は、金属を殆どまたは全く有さなくてよい。これらの構造は、上記と類似する方法で、出発体の外周を金属源と接触させること、ならびに勾配構造が形成されるように処理時間および/または金属量を制御することによって調製されてよい。既に述べたように、この物体内の巨視的な金属濃度は、部品の外周から内周に徐々に、または1もしくは複数の推移において多かれ少なかれ突然に減少し得る。また、既に述べたように、金属面は、例えば、他の金属への付着のための溶接可能な面として、または電気接点として機能することができる。
【0052】
既に言及したように、金属は、個々のTSCまたはTAC粒体内に浸潤して、層構造を有する剥離されたTSCまたはTAC粒体を形成することができる。これは、プロセスにおいて、高密度化された、または高密度化されていない、いずれの出発セラミック材料を用いても起こる。層構造は、交互するプレート状相を含有し、ここで、各相は、3〜100nmの範囲の最小寸法(厚み)を有する。この剥離は、透過型電子顕微鏡法を用いて、3nm以下のサイズ規模で特徴を可視化するのに十分な倍率で可視化され得る。
【0053】
この剥離プロセスは、先に記載した、空隙および孔を介した浸透または粒界間の浸透のいずれかよりも長い時間規模で操作してよい。したがって、この剥離された構造の存在は、出発材料が処理温度に暴露される時間の長さにやや依存し得る。さらに、剥離の程度は、複合材料を通して巨視的に一貫していなくてよい。元の金属源(複数可)に近接する複合材料領域は、より高い巨視的濃度の剥離された材料を示すことができる、なぜなら、これらの領域は、熱処理ステップの間、他の領域よりも長い時間にわたって金属に暴露されていたことになるからである。好ましい複合材料は、測定可能な量でこの剥離を有する。より好ましい複合材料は、少なくとも5重量%の剥離された材料を含有する。なおより好ましい複合材料は、少なくとも10重量%の剥離された材料を含有し、さらにより好ましい複合材料は、少なくとも25重量%の剥離された材料を含有する。剥離された材料は、複合材料の最大で75重量%以上を構成し得る。先に言及したように、ある実施形態では、この剥離された材料は、銅と炭化ケイ素チタン−銅材料とが交互する層を含むと考えられる。
【0054】
本発明の複合材料は、自動車電子機器およびコンピュータなどの電子装置用の熱管理装置として、電動機、電極または機関車パンタグラフ用のブラシとして、ブラシレス巻線形発電機用のスリップリングアセンブリとして、ディーゼルエンジン、軸受、タービン翼、耐食コーティング用の、および他の用途のためのタービンインペラとして、ディーゼルエンジン部品を作製するのに有用である。
【0055】
本発明を説明するために以下の実施例を提供するが、これらは、本発明の範囲を限定することを意図していない。全ての部および百分率は、別途示さない限り、重量基準である。別途記述しない限り、本明細書において表される全ての分子量は、重量平均分子量である。
【実施例1】
【0056】
高密度化されたTSC材料を走査電子顕微鏡法(SEM)および電子プローブマイクロ分析(EPMA)によって分析し、その微細構造を評価する。サンプルをBuehler Epomet Molding Compoundに取り付け、次いでこれらを標準の金属組織学的技術を用いて粉砕および研磨することによって、SEMを実施する。10keV、電流設定が3、および作動距離が8mmで操作するJEOL6320電界放射型走査電子顕微鏡を用いて高分解能撮像を実施する。
【0057】
SAMxオペレーティングシステムをランするCameca SX50電子マイクロプローブ(シリーズ#SX401)を用いて、EPMAを行う。全ての元素を:CをPC2結晶によって、SiをTAPによって、Ti KαをPETによって、かつ、Cu KαをLiFによって;波長分光計を用いて測定する。定量微量分析を15keV、10nAで、ピークにおいて15〜20秒間、二つの各背景位置において5秒間取得する。PAP補正係数を適用する。C、Si、TiおよびCuについての較正基準は、それぞれ、グラファイト、シリコン、チタンおよび銅である。多変量画像分析(MIA)を用いて、MATLAB(商標)(バージョン7.1−R14SP3;Mathworks、Natick、MA)におけるPLS Toolbox/MIA Toolbox(バージョン3.5.4/1.0;Eigenvector Research、Inc;Wenatchee、WA)からのソフトウエアを用いたC、Si、TiおよびCuの元素マップに関する主成分分析を実施する。
【0058】
この分析は、高密度化されたTSC材料が、1〜10μmの範囲の、近似組成TiSiを有する粒体から主になることを示す。約25体積%の材料を、近似組成TiCを有する1〜10μmの粒体から作製する。最大で約3μmの粒体サイズを有する小体積の材料は、近似組成TiSiを有する。この高密度化されたTSC材料は、4:1のモル比でのTiCとTiSiとの不完全な反応の生成物であるとみられる。高密度化されたTSC材料は、350MPaの曲げ強度、6.8MPa/mの破壊靱性、320GPaのヤング率を有する。
【0059】
高密度化されたTSC材料のサンプル(12mm×12mm×8mm)を真空炉に設置する。銅箔(10g)をTSC材料の上部に置く。炉を10−4Torrの圧力になるまで排気し、材料を1150℃で30分間加熱し、次いで室温に冷却する。得られた複合材料は、十分に高密度である。これを実施例1と呼ぶ。複合材料の強度は700MPaである。ヤング率は185GPaであり、靱性は約17MPa・m1/2である。
【0060】
複合材料実施例1の顕微鏡写真を種々の倍率で撮影する。図1は、250Xの倍率における実施例1の顕微鏡写真である。複合材料実施例1は、表面銅層2を有することが分かり、銅の鉱脈3がサンプルの領域に浸透している。銅鉱脈3は、幅が1〜20μm程度であり、数100μmが複合材料構造内に広がる。ボックス4は、さらに拡大されて図2を形成する領域を示す。
【0061】
図2に、実施例1の微細構造を1000Xの倍率でさらに示す。銅鉱脈3は、複合材料部分4を通して広がる。より濃い微細構造、例えば参照番号24で示す構造は、近似組成TiC0.66〜1.0を有するチタン−炭素ドメインである。灰色のより薄い陰として現れるドメイン、例えば参照番号22で示すドメインは、近似組成TiSiCuC3〜4を有する。ドメイン22の組成は、銅が出発材料中に存在したTiSiドメインと反応したことを示す。
【0062】
図2の最も薄く着色した領域は、銅ドメインに相当する。図に示すように、銅は、本質的に全てのセラミック粒体を包囲し、個々の粒体を隣接する粒体から分離する。ボックス25は、5000Xの倍率で図3に示す複合材料の領域を特定する。図3に、銅の各セラミック粒子の周囲へのこの浸潤をはっきりと示す。図3において、チタン−炭素ドメインは、最も濃い領域として現れる。これらのいくつかを参照番号24で示す。チタン−炭素ドメインのいくつかは、出発TSC材料に存在していた残存不純物である。近似組成TiSiCuC3〜4を有するドメインはまた、灰色のより薄い陰、例えば参照番号22で示す陰として現れる。薄く着色した銅ドメインは、各セラミックドメインを近隣から分離することが分かる。
【0063】
いくつかのチタン−炭素ドメインが、細長いプレート状構造、例えば参照番号24Aおよび24Bで示す構造として図3に現れる。これらの細長いチタン−炭素ドメインのいくつかは、TiSiCuC3〜4ドメイン22A内またはこれを介して広がるチタン−炭素ドメイン24Aの場合と同様に、TiSiCuC3〜4ドメイン内またはこれを介して広がることが分かる。この現象は、TiSi出発材料の層構造内への銅金属の浸透に起因すると考えられ、ここで、該材料は反応してTiSiCuC3〜4およびチタン−炭素相を形成し、次いで別個のミクロドメイン、例えば参照番号22Aおよび24Aで示されるミクロドメインを形成する。参照番号26は、TiSi領域の層内へのより完全な浸透が起こり得た領域を示す。
【0064】
図4は、図2のボックス21で示されるエリアの拡大であり、20,000Xの倍率で示される。濃い領域41は、既に述べたように近似組成TiC0.66〜1を有する。銅ドメイン、例えば参照番号42で示すドメインは、薄く着色されており、セラミック粒体を隣接する粒体から分離する。線状エリア43は、銅がTiSi出発材料の層間にかなり浸透して材料を剥離し、ナノスケールのドメインを形成する領域である。図4に示す複合材料領域は、図3に示す領域よりも金属層に近接する。このことは、図4の領域が、図3に示す領域などの金属源からより遠く離れている領域よりも長い時間にわたって金属に暴露されていたことになるため、図4においてTiSi出発材料のドメイン内により完全に浸潤しているとみられることを説明することができる。
【0065】
種々の量の銅を用い、かつ処理温度での時間を変動させて実施例1を繰り返すことによって、種々の勾配構造を生成する。これらの構造の範囲は、銅が全サンプルを通して浸透している構造から、一側面では100%が銅であり、反対の側面では銅を含有しない構造にまで及ぶ。
【実施例2】
【0066】
ホットプレスによって予め高密度化したTiAlC材料のサンプル(12mm×12mm×6mm)を真空炉に設置する。アルミニウム箔(約10g)をTAC材料の上部に置く。炉を10−4Torrの圧力になるまで排気し、材料を1150℃に30分間加熱し、次いで室温に冷却する。得られた複合材料は、アルミニウムが粒界間および個々のセラミック粒体の周囲に浸透しており、十分に高密度である。金属の量および処理温度での時間を変動させることにより、金属の浸透の程度が変動し、勾配構造が生成される。これらの構造の範囲は、アルミニウムが全構造を通して浸透している構造から、構造の一側面では100%がアルミニウムであり、反対の側面ではアルミニウム相を含有しない構造にまで及ぶ。
【実施例3】
【0067】
TiSiC粉末を押圧して直径12mm×6mmの円盤にし、グリーン密度を58%にして、グラファイト製Astro炉に置く。10gの銅箔(合金110)を円盤の上部に配置し、サンプルを1300℃に120分間、5%の水素を含むアルゴン流下で加熱する。冷却後、サンプルは十分に高密度であり、約40%の銅を含有する。顕微鏡分析は、TiSiC相が銅と反応し、剥離されて、それぞれ近似組成TiSiCuC3〜4およびTiC0.66〜1を有する、交互する個々のプレートとなることを示す。これらのプレートは、厚みが100nm程度であり、0.5〜1μmの範囲の長さを有する。いくつかのプレートは、さらに反応して、図4に示すものと類似する、より小さなミクロプレートを形成した。しかし、高密度化されたサンプルは、巨視的レベルで、高度に均一な組成を有する。この材料の強度は810MPaであり、硬度は280kg/mmであり、ヤング率は210GPaであり、靱性は17〜20MPa/mである。
【実施例4】
【0068】
90重量%のTiSiC粉末と10%の銅粉末との混合物を押圧し、50mm×12mm×8mmのバーとする。50gの銅箔(合金110)をペレットの上部に置き、アセンブリを真空オーブンにおいて10−4Torrおよび1100℃で10分間加熱する。次いでサンプルを室温に冷却する。得られた複合材料は、高密度化されている。SEM顕微鏡写真は、複合材料が巨視的に均質であることを示すが、μmのスケールでは、炭化ケイ素チタンドメインが、銅金属のドメインによってほぼ全体的に包囲されていることが分かる。これは、銅が複合材料を通して粒界に浸透したことを示す。この材料の機械的特性は、実施例3の機械的特性と同等である。
【0069】
90/10の粉末/銅混合物の代わりに100重量%のTiSiC粉末を用いてこの実験を繰り返すと、浸潤および高密度化が起こらず、得られるサンプルはかなり多孔性である。この実験は、実施例3および4と共に、高密度化されていないTSC材料が出発体として用いられるとき、出発体の処理温度や組成への依存を示す。金属粉末が出発粉末内に混合されないときには、高密度化は、(実施例3の場合と同様に)銅金属の溶融温度を大幅に超える温度でのみ起こる。しかし、実施例4の場合と同様に、いくらかの銅粉末がTSC出発体内に混合されるときには、高密度化は、銅金属の溶融温度付近の温度で起こり得る。
【実施例5】
【0070】
TiAlC粉末を押圧して、直径12mm、厚み6mmのペレットにし、真空炉に置く。アルミニウム−青銅箔(10g)をペレットの上部に配置し、サンプルを1300℃に5分間、アルゴン/水素雰囲気下において周囲圧力で加熱する。冷却後、サンプルは十分に高密度であり、約30〜40重量%の金属を含有する。顕微鏡分析は、金属が構造を通して浸透し、個々の粒界間に浸潤したことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属と炭化ケイ素チタンまたは炭化アルミニウムチタン出発セラミック材料との複合材料を形成する方法であって、炭化ケイ素チタンまたは炭化アルミニウムチタン出発セラミック材料を含む出発体を形成すること、前記出発体と前記金属とを、前記金属の溶融温度を超えるが前記セラミック材料の分解温度未満である温度で、前記金属の少なくとも一部が前記出発体内に浸潤して複合材料を形成するのに十分な時間にわたって接触させること、次いで、得られた複合材料を前記金属の溶融温度未満に冷却することを含む方法。
【請求項2】
前記出発セラミック材料が、炭化ケイ素チタン相を含み、ここで、チタン対シリコンの原子比が2.3:1〜3.3:1であり、炭素対シリコンの原子比が1.8:1〜2.3:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属が、銅、または少なくとも75重量%の銅を含有する銅合金である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属が、少なくとも99重量%の銅を含有する銅鍛錬または鋳造合金、少なくとも97重量%の銅を含有する高銅合金、または最大で約15重量%のアルミニウム、最大で6重量%のニッケル、最大で5重量%の鉄および少なくとも80重量%の銅を含有するアルミニウム青銅である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属の少なくとも一部が、前記出発セラミック材料の粒体間に浸透する、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記金属の少なくとも一部が、前記出発セラミック材料の粒体内に浸透する、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記出発セラミック材料の一部が剥離されて、交互するプレート状相を有する層構造を形成し、ここで、交互するプレート状相が、それぞれ、3〜100nmの厚みを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記出発セラミック材料が、炭化ケイ素チタン相を含み、ここで、チタン対シリコンの原子比が2.3:1〜3.3:1であり、炭素対シリコンの原子比が1.8:1〜2.3:1であり、前記金属が、少なくとも99重量%の銅を含有する銅鍛錬または鋳造合金、少なくとも97重量%の銅を含有する高銅合金、または最大で約15重量%のアルミニウム、最大で6重量%のニッケル、最大で5重量%の鉄および少なくとも80重量%の銅を含有するアルミニウム青銅であり、前記金属の一部が、前記炭化ケイ素チタン相と反応して、チタン−シリコン−銅−炭素相の剥離されたプレートを形成する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記出発セラミック材料が、高密度化されている、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記複合材料が、1〜50重量%の金属を含有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記複合材料が、勾配構造を有する物体であり、金属の濃度が、複合材料体の一つまたは複数の寸法に沿って巨視的規模で変化して、複合材料体のある領域が、複合材料体の他の領域が有するのに比べて、巨視的規模で、より高い金属含量を有するようにする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記複合材料体の一つまたは複数の領域が、本質的に100%の金属を含有し、前記複合材料体中の金属濃度が、前記金属領域(複数可)からの距離の増加に伴って減少する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記出発セラミック材料が、高密度化されておらず、前記複合材料が、高密度化されている、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記金属が、前記複合材料の体積の約10〜90%を構成する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記金属が、前記複合材料の体積の約40〜75%を構成する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記出発体が、最大で50体積%のSiC、BC、WC、Al、MgO、ZrO、AlN、SiB、SiBまたはこれらの二つ以上の混合物を含有する、請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記複合材料が、高密度化されている、請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
金属相と炭化ケイ素チタンまたは炭化アルミニウムチタンセラミック相とを有する高密度化された複合材料であって、前記金属相が、前記複合材料の体積の約10〜90%を構成する複合材料。
【請求項19】
前記金属相が、前記複合材料の体積の40〜75%を構成する、請求項18に記載の高密度化された複合材料。
【請求項20】
前記金属相が、銅、少なくとも75重量%の銅を含有する銅合金、アルミニウム、または少なくとも75重量%のアルミニウムを含有するアルミニウム合金である、請求項18または19に記載の高密度化された複合材料。
【請求項21】
前記セラミック相が、炭化ケイ素チタンセラミック材料を含み、ここで、チタン対シリコンの原子比が2.3:1〜3.3:1であり、炭素対シリコンの原子比が1.8:1〜2.3:1である、請求項18から20のいずれかに記載の高密度化された複合材料。
【請求項22】
前記セラミック相の一部が剥離されて、交互するプレート状相を有する層構造を形成し、ここで、交互するプレート状相が、それぞれ、3〜100nmの厚みを有する、請求項18から21のいずれかに記載の高密度化された複合材料。
【請求項23】
前記層構造が、前記高密度化された複合材料の重量の10〜75%を構成する、請求項22に記載の高密度化された複合材料。
【請求項24】
勾配構造を有し、金属の巨視的濃度が、前記複合材料体の一つまたは複数の寸法に沿って変化して、前記複合材料体のある領域が、複合材料体の他の領域が有するのに比べて、巨視的規模で、より高い金属含量を有するようにする、請求項18から21のいずれかに記載の高密度化された複合材料。
【請求項25】
前記複合材料体の一つまたは複数の領域が、本質的に100%の金属を含有し、前記複合材料体中の金属濃度が、前記本質的に100%の金属領域(複数可)からの距離の増加に伴って減少する、請求項24に記載の高密度化された複合材料。
【請求項26】
金属面と、反対面とを有し、前記反対面が、100%高密度化された炭化ケイ素チタンもしくは炭化アルミニウムチタン、または金属と炭化ケイ素チタンもしくは炭化アルミニウムチタンとの複合材料である、請求項24または25に記載の高密度化された複合材料。
【請求項27】
前記金属相が巨視的に比較的多く含まれる外周と、前記金属相が巨視的に比較的少なく含まれる内部とを有する、請求項24または25に記載の高密度化された複合材料。
【請求項28】
その外周に金属面を有する、請求項27に記載の高密度化された複合材料。
【請求項29】
前記金属面が、少なくとも10μmの厚みである、請求項26または28に記載の高密度化された複合材料。
【請求項30】
前記金属面が、少なくとも1mmの厚みである、請求項29に記載の高密度化された複合材料。
【請求項31】
請求項1から17のいずれかに従って作製された、高密度化された複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−524466(P2011−524466A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512602(P2011−512602)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/046062
【国際公開番号】WO2010/033278
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】