説明

金属用研磨液及び金属用研磨液を用いた研磨方法

【課題】高性能配線板等の厚い銅膜の研磨で必要な研磨速度を維持しながら、バリア層の研磨速度の充分な抑制を可能とする金属用研磨液及び当該金属用研磨液を用いた研磨方法を提供する。
【解決手段】本発明の金属用研磨液は、有機酸、無機酸、アミノ酸、保護膜形成剤、砥粒、酸化剤及び水を含み、有機酸は、カルボキシル基を2つ有しかつpKaが2.7以下である有機酸、及びカルボキシル基を3つ以上有する有機酸の少なくとも一方であり、砥粒は、表面がスルホン酸基又はフェニル基で化学修飾されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属用研磨液及び金属用研磨液を用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路(LSI)の高集積化、高性能化に伴って、新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(CMP)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜層の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線形成において頻繁に利用される技術となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
CMPに用いられる金属用の研磨液は、一般に酸化剤及び固体砥粒を有しており、必要に応じてさらに酸化金属溶解剤、保護膜形成剤(金属防食剤)が添加される。研磨は、まず、酸化剤によって金属層表面を酸化し、その酸化層を固体砥粒によって削り取るのが基本的なメカニズムであると考えられている。
【0004】
溝(凹部)上に堆積した金層表面の酸化層は、研磨パッドにあまり触れず、固体砥粒による削り取りの効果が及ばないが、研磨パッドに触れる凸部上に堆積した金属層表面の酸化層では、削り取りが進む。従って、CMPの進行とともに、凸部上の金属層が除去されて基板表面は平坦化される(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
一般にLSIの製造において、研磨される銅膜の膜厚は1μm程度であり、研磨速度が500nm/分程度となる研磨液が使用されている(例えば、下記特許文献2参照)。そして、近年では銅膜のCMP処理は、パッケージ基板等の高性能配線板や微細配線板の製造、又は新しい実装方法として注目されているシリコン貫通ビア(TSV:Through Silicon Via)形成にも適用されようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4944836号公報
【特許文献2】特開2003−124160号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of The Electrochemical Society,138(11)3460−3464(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の高性能配線板等は、LSIに比べて銅膜の膜厚が厚いため、従来のLSI用の研磨液を用いて研磨すると、研磨速度が低く生産性が低下するという課題があった。特にTSV用では3μm以上、多いものでは10μm以上の膜厚の銅を研磨する必要があるため、より高速の研磨が可能な研磨液が求められている。
【0009】
また、銅膜の下地には、タンタル、窒化タンタル等の金属がバリア層として使用されている。一般に、このようなバリア層は、銅膜の拡散を防ぐために設けられるものであり、銅膜と比較して非常に薄い。バリア層は銅膜と比較して研磨されにくいため、従来の銅用の研磨液で研磨した場合は、バリア層を残して銅膜のみを研磨することが可能であった。しかしながら、銅膜の研磨速度が速い場合、バリア層まで研磨されてしまうという課題があった。
【0010】
本発明の目的は、高性能配線板等の厚い銅膜の研磨に必要な研磨速度を維持しながら、バリア層の研磨速度の充分な抑制を可能とする金属用研磨液及び当該金属用研磨液を用いた研磨方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る研磨液は、有機酸、無機酸、アミノ酸、保護膜形成剤、砥粒、酸化剤及び水を含み、前記有機酸は、カルボキシル基を2つ有しかつpKaが2.7以下である有機酸、及びカルボキシル基を3つ以上有する有機酸の少なくとも一方であり、前記砥粒は、表面がスルホン酸基又はフェニル基で化学修飾されている。
【0012】
本発明によれば、銅膜を速い研磨速度で研磨することが可能であり、高性能配線板やTSV等の製造のように厚い銅膜の研磨が必要となる用途においても、短時間で研磨処理が可能であり、充分な生産性を確保できる。また、銅膜の研磨速度を維持しながら、タンタル又は窒化タンタルのバリア層の研磨速度を充分に抑制可能である。
【0013】
ここで、「pKa」とは、第1解離可能酸性基の酸解離定数を意味し、該基の平衡定数Kaの負の常用対数である。また、本実施形態において、特に断りがない限り、「銅」とは、純銅の他、銅を含む金属(例えば銅合金、銅の酸化物及び銅合金の酸化物)を含むものとする。また、本実施形態において、特に断りのない限り、「金属用研磨液」とは、純銅からなる銅膜、銅を含む金属膜(例えば銅合金膜)、又はそれらの金属膜と他の金属との積層膜を研磨するための研磨液をいう。
【0014】
更に、本発明に係る研磨液は、溶解作用の強い有機酸、無機酸及びアミノ酸を含むpH緩衝溶液となるため、被研磨物である銅膜が研磨液中に溶解してもpH変動が起こりにくい。このため、研磨の進行の程度に依存せず、安定して高い研磨速度を維持することができる。
【0015】
上記本発明では、砥粒の二次粒子径が50nmを超え110nm未満であることが好ましい。この場合、研磨液中の保護膜形成剤による研磨速度の抑制の影響を抑えることができ、厚い銅膜の研磨で必要な銅膜の研磨速度を維持しながら、バリア層の研磨速度を充分に抑えることが可能である。また、保管安定性にも優れる傾向がある。
【0016】
上記本発明では、砥粒の含有量が研磨液全量に対し、0.1質量%以上2.0質量%未満であることが好ましい。砥粒の含有量が0.1質量%以上であると、物理的な削り取り作用を得ることができ、CMPによる研磨速度が大きくなる傾向がある。また、砥粒の含有量が2.0質量%未満であると、バリア層であるタンタル又は窒化タンタルの研磨速度を抑制しやすい。よって、砥粒の含有量が上記範囲にあることにより、厚い銅膜の研磨で必要な研磨速度を高めながら、バリア層での研磨速度をより充分に抑制できる。
【0017】
上記本発明では、有機酸は、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びマロン酸からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。これにより、これら以外の有機酸及びその酸無水物を同量添加した場合と比較して、銅膜の研磨速度が顕著に向上する。
【0018】
上記本発明では、pHが1.5〜4.0であることが好ましい。この場合、pH緩衝溶液としての機能が向上し、安定して高い研磨速度を維持することが容易になる。
【0019】
上記本発明では、無機酸は、硫酸及びリン酸の少なくとも一方であることが好ましい。この場合、研磨速度及び平滑性を更に高度に両立することが可能である。
【0020】
上記本発明では、アミノ酸のpKaが2〜3であることが好ましい。この場合、研磨液のpHを容易に所定の範囲(1.5〜4.0)の範囲とすることができる。
【0021】
上記本発明では、保護膜形成剤は、トリアゾール化合物であることが好ましく、ベンゾトリアゾール及びベンゾトリゾール誘導体の少なくとも一方であることがより好ましい。
【0022】
酸化剤は、過酸化水素(H)、過硫酸塩及び過硝酸塩からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。この場合、銅膜の研磨速度を更に高めることができる。
【0023】
また、本発明の研磨方法は、上記金属用研磨液を用いる研磨方法であって、銅を含む金属膜を研磨し、金属膜の一部を除去する工程を含む。
【0024】
このような研磨方法によれば、高性能配線板等の厚い銅膜の研磨で必要な研磨速度を維持しながら、バリア層の研磨速度の充分な抑制できると共に、研磨終了後の銅膜上の腐食を抑制することが可能である。高性能配線板やTSV等の厚い銅膜の研磨が必要とされる用途においても、生産性の向上と、製品歩留まりの向上とを両立できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、高性能配線板等の厚い銅膜の研磨に必要な研磨速度を維持しながら、バリア層の研磨速度の充分な抑制を可能とする金属用研磨液及び当該金属用研磨液を用いた研磨方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る研磨液をVIA−LASTに用いた場合の使用方法を示す第1の工程図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る研磨液をVIA−LASTに用いた場合の使用方法を示す第2の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る金属用研磨液及び当該研磨液を用いた研磨方法について、必要に応じて図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は下記実施形態のみに限定されるものではない。
【0028】
本実施形態の金属用研磨液(以下、単に「研磨液」という。)は、有機酸、無機酸、アミノ酸、保護膜形成剤、砥粒、酸化剤及び水を含み、有機酸は、カルボキシル基を2つ有しかつpKaが2.7以下である有機酸、及びカルボキシル基を3つ以上有する有機酸の少なくとも一方であり、砥粒は、表面がスルホン酸基又はフェニル基で化学修飾されている。また、本実施形態においては、研磨液中の有機酸の含有量が0.02mol/kg以上であることが好ましく、無機酸の含有量が0.08mol/kg以上であることが好ましく、アミノ酸の含有量が0.20mol/kg以上であることが好ましい。
【0029】
(研磨機構)
研磨液中に、有機酸、無機酸及びアミノ酸をそれぞれ単独又はこれらの中の2種を選択して含有させると、ある程度研磨速度を向上させることはできるが、含有量に見合う研磨速度の向上効果を得ることができない。これに対し、本実施形態に係る研磨液は、有機酸、無機酸及びアミノ酸を組み合わせて含有させ、更にそれらの含有量を前記のような特定量としている。このような研磨液は、有機酸、無機酸及びアミノ酸をそれぞれ単独又はこれらの中の2種を選択して使用したときと比較して、所定の研磨速度の向上効果を得るために必要な有機酸、無機酸及びアミノ酸の総含有量を低減することができる。更に、従来の研磨液では、有機酸、無機酸及びアミノ酸のいずれかの成分を研磨液に溶解可能な量以上含有させると、研磨液の保管安定性が低下してしまうが、本実施形態に係る研磨液は、これらの成分のいずれかを研磨液に溶解可能な量以上含有させても、保管安定性の低下を抑制することができる。
【0030】
また、有機酸、無機酸を使用することで、銅膜を速い研磨速度で除去することが可能となるが、バリア層であるタンタル又は窒化タンタルの研磨速度も高くなってしまう。これにより、バリア層の下地の絶縁膜の欠陥増、平坦性の低下といった課題が生じる。この課題に対して、研磨液に保護膜形成剤を使用すると、窒化タンタル表面に保護膜を形成することによる窒化タンタルの研磨速度の抑制効果が得られる一方で、銅膜の研磨速度を抑制してしまう場合があった。
【0031】
これに対して、本願実施形態に係る研磨液のように、表面をスルホン酸基又はフェニル基により化学修飾した砥粒を含有することで銅膜の研磨速度を維持しつつ、バリア層の研磨速度を充分に抑制することができる。具体的には、銅膜に対する研磨速度が3000nm/分を超えても、タンタル又は窒化タンタルのバリア層の研磨速度は、例えば、60nm分以下と、通常の研磨液よりも格段に低い研磨速度を示す研磨液の提供が可能である。
【0032】
なお、本実施形態に係る研磨液によって銅膜の研磨速度の向上効果が得られる理由は必ずしも明確ではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0033】
すなわち、有機酸、アミノ酸、保護膜形成剤そして無機酸の作用により、銅表面に、有機酸、アミノ酸、保護膜形成剤及び銅イオンを含む溶出し易い「反応層」が形成される。このような複数の研磨プロセスは、それぞれが独立して同時並行に進むのではなく、個々の研磨プロセスが他の研磨プロセスと連関して進行すると考えられる。そのため、無機酸、アミノ酸及び保護膜形成剤のうちいずれかの成分のみを増やしても、他の成分による研磨プロセスがボトルネック(律速過程)になり、全体としての研磨速度は効率的に向上しないと考えられる。これに対し、本実施形態に係る研磨液では、それぞれの成分を特定量用いることで、各研磨プロセスが促進され、研磨速度を効率的に向上させることができると考えられる。
【0034】
以下、本実施形態に係る研磨液を例にして、各構成成分についてより具体的に説明する。
【0035】
(研磨液のpH)
本実施形態に係る研磨液は、有機酸、無機酸を含むpH緩衝溶液となる。無機酸は一般に強酸であり、無機酸を多量に含有するとpHが低下してしまい、pHを所定の範囲(例えば1.5〜4.0の範囲)に調整するのは困難である。しかし、本実施形態に係る研磨液では、無機酸に加えて有機酸及びを含有しており、有機酸、無機酸及びアミノ酸の含有量を調整することにより、研磨液を容易にpHが所定の範囲(例えば1.5〜4.0の範囲)のpH緩衝溶液とすることができる。
【0036】
研磨液のpHは、有機酸、無機酸の含有量により適宜調整することができる。また、研磨液には、所望のpHに調整するために、酸性成分又はアルカリ成分をpH調整剤として含有することができる。このようなpH調整剤としては例えば、塩酸、硝酸、アンモニア、水酸化ナトリウム及びテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。もちろん、pH調整剤を含まずにpHが所望の範囲である場合には、pH調整剤を含有する必要はない。
【0037】
研磨液のpHは、pHメーター(例えば、横河電機株式会社製の型番PH81)で測定することができる。pHの測定値としては、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性りん酸塩pH緩衝液pH6.86(25℃))を用いて、2点校正した後、電極を研磨液に入れて、2分以上経過し安定した後の値を採用する。
【0038】
(砥粒)
砥粒を構成する物質としては、特に制限はなく、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、チタニア、炭化珪素等の無機物砥粒、ポリスチレン、ポリアクリル及びポリ塩化ビニル等の有機物砥粒を挙げることができる。中でも、研磨液中での分散安定性が良く、CMPにより発生する研磨傷(スクラッチ)の発生数が少ない点で、シリカ又はアルミナが好ましい。また、粒径の制御が容易であり、研磨特性により優れる点で、コロイダルシリカ又はコロイダルアルミナが好ましい。コロイダルシリカは、シリコンアルコキシドの加水分解又は珪酸ナトリウムのイオン交換による製造方法が知られており、コロイダルアルミナは、硝酸アルミニウムの加水分解による製造方法が知られている。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
砥粒は、表面がフェニル基又はスルホン酸基の少なくともいずれかにより化学修飾されている。つまり、砥粒の表面には、フェニル基又はスルホン酸基の少なくともいずれかが形成されている。砥粒の表面に、フェニル基及びスルホン酸基の両方が形成されていてもよい。この場合、表面がメチル基、アミノ基、アルミン酸基等で化学修飾された場合と比較して、銅膜の高研磨速度及びバリア層であるタンタル又は窒化タンタルの低研磨速度を両立させることができる。これらの砥粒は、砥粒メーカから入手することができる。なお、フェニル基又はスルホン酸基が形成された砥粒の表面の一部に、更にメチル基、アミノ基、アルミン酸基などが形成されていても構わない。
【0040】
前記の表面を化学修飾した砥粒の平均二次粒子径は、銅膜の研磨速度が向上する点で50nmを超えることが好ましく、54nm以上であることがより好ましく、58nm以上であることが更に好ましい。また保管安定性の観点から、平均二次粒子径は110未満であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、90nm以下であることが更に好ましい。
【0041】
なお、「平均二次粒子径」とは、砥粒を水に分散させたサンプルの当該砥粒の粒子径を動的光散乱方式の粒度分布計を用いて測定し、測定結果から得られた平均粒子径を意味する。平均二次粒子径は、具体的には例えば、以下に示す方法により得られる。まず、サンプル4gに0.3%クエン酸水溶液50mlを加え、軽く振とうしたものを測定用試料とする。この試料を大塚電子(株)製のELS−8000を用いて測定した値を平均二次粒子径とする。
【0042】
砥粒の含有量は、研磨液全量に対し、0.1質量%以上2.0質量%未満であることが好ましい。砥粒の含有量が0.1質量%以上であると、物理的な削り取り作用を得ることができ、CMPによる研磨速度が大きくなる。また、砥粒の含有量が2.0質量%未満であると、バリア層であるタンタル又は窒化タンタルの研磨速度を抑制しやすい。よって、砥粒の含有量が上記範囲にあることにより、銅膜の研磨で必要な研磨速度を高めながら、バリア層での研磨速度をより充分に抑制することが可能である。
【0043】
(有機酸)
有機酸としては、銅との相互作用を強め、高い研磨速度を得る点で、カルボキシル基を2つ有しかつpKaが2.7以下である有機酸及びその酸無水物、並びに、カルボキシル基を3つ以上有する有機酸から選択される少なくとも一種を使用する。
【0044】
カルボキシル基を2つ有する有機酸は、pKaが2.7以下であれば、その効果を発揮するために有効な水溶性を有している限り、従来公知の物質を特に制限なく使用することができる。カルボキシル基を2つ有する有機酸のpKaは、2.7以下であり、2.6以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。なお、有機酸の「pKa」の値については、化学便覧、基礎編II(改訂5版、丸善(株))を参照することができる。
【0045】
カルボキシル基を2つ有しかつpKaが2.7以下である有機酸及びその酸無水物としては、例えば、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、無水マレイン酸、オキサロ酢酸等が挙げられる。これらの中でも、CMPによる研磨速度を更に向上させることができるという点で、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、無水マレイン酸が好ましい。
【0046】
カルボキシル基を3つ以上有する有機酸としては、例えば、クエン酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、メリト酸、イソクエン酸、アコニット酸、オキサロコハク酸等が挙げられる。これらの中でも、クエン酸は、銅膜の研磨速度に優れるだけでなく、研磨後のパッド着色が抑制できる点で、上記カルボキシル基を2つ有する有機酸と比較しても、特に好ましい。上記有機酸又はその酸無水物は、単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
有機酸の含有量は、研磨速度に優れるという点で、研磨液全量に対して0.02mol/kg以上であることが好ましく、0.03mol/kg以上であることがより好ましい。有機酸の含有量は、有機酸を一定量以上加えても研磨速度が増加しない傾向があることから、有機酸の含有量の増加を抑制する点で、1.0mol/kg以下であることが好ましく、0.8mol/kg以下であることがより好ましい。
【0048】
(無機酸)
研磨液において、無機酸としては、公知のものを特に制限なく使用することができ、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。上記の無機酸の中でも、CMPによる研磨速度が大きく、銅膜の表面粗さを低減できるという点で、硫酸、リン酸、又は硫酸とリン酸の混合物が好ましい。
【0049】
無機酸の含有量は、研磨速度に優れるという点で、研磨液全量に対して0.08mol/kg以上であることが好ましく、0.09mol/kg以上であることがより好ましく、0.1mol/kg以上であることが更に好ましい。無機酸の含有量は、一定以上加えても研磨速度が増加しない傾向にあるという点で、1.0mol/kg以下であることが好ましく、0.8mol/kg以下であることがより好ましい。
【0050】
(アミノ酸)
研磨液において、アミノ酸は、pHを調整し、かつ銅を溶解させる目的で使用されるものである。このようなアミノ酸としては、わずかでも水に溶解するものであれば特に制限はなく、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、シシチン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリン、オキシプロリン等が挙げられる。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
上記アミノ酸の中でも、研磨液のpHを1.5〜4に調整し易いという点で、pKaが2〜3のアミノ酸を使用することが好ましい。このようなアミノ酸としては、上記の例示化合物の中では、具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、トリプトファン等が該当する。研磨速度の向上効果が高く、安価である点で、特にグリシンが好ましい。なお、アミノ酸の「pKa」の値については、化学便覧、基礎編II(改訂5版、丸善(株))を参照することができる。
【0052】
アミノ酸の含有量は、研磨速度に優れるという点で、研磨液全量に対して0.20mol/kg以上であることが好ましく、0.25mol/kg以上であることがより好ましく、0.30mol/kg以上であることが更に好ましい。アミノ酸の含有量は、一定以上加えても研磨速度が増加しない傾向にあるという点で、2.0mol/kg以下であることが好ましく、1.8mol/kg以下であることがより好ましい。
【0053】
(保護膜形成剤)
研磨液において、保護膜形成剤とは、銅膜表面に対して保護膜を形成する作用を有する物質をいう。ただし、前記のように保護膜形成剤は、研磨進行時に除去される「反応層」を構成していると考えられ、必ずしも銅膜が研磨されるのを防ぐための「保護膜」を形成する必要はない。
【0054】
保護膜形成剤としては、効果を発揮するために有効な量の水溶性を有していれば、従来公知の物質を特に制限なく使用することができる。保護膜形成剤としては、例えば、キナルジン酸、アントニル酸、サリチルアルドキシム、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物、ピラゾール化合物、テトラゾール化合物等が挙げられ、中でもトリアゾール化合物が好ましい。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
トリアゾール化合物としては、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体;ベンゾトリアゾール;1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1−ジヒドロキシプロピルベンゾトリアゾール、2,3−ジカルボキシプロピルベンゾトリアゾール、4−ヒドロキシベンゾトリアゾール、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾール、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾールメチルエステル、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾールブチルエステル、4−カルボキシル(−1H−)ベンゾトリアゾールオクチルエステル、5−ヘキシルベンゾトリアゾール、[1,2,3−ベンゾトリアゾリル−1−メチル][1,2,4−トリアゾリル−1−メチル][2−エチルヘキシル]アミン、トリルトリアゾール、ナフトトリアゾール、ビス[(1−ベンゾトリアゾリル)メチル]ホスホン酸、3−アミノトリアゾール等のベンゾトリアゾール誘導体;などが挙げられ、中でも研磨速度と防食性のバランスに優れるという点でベンゾトリアゾール及びベンゾトリアゾール誘導体の少なくとも一方を使用することが好ましい。
【0056】
イミダゾール化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2、4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−アミノイミダゾール等が挙げられる。
【0057】
ピラゾール化合物としては、例えば、3,5−ジメチルピラゾール、3−アミノ−5−メチルピラゾール、4−メチルピラゾール、3−アミノ−5−ヒドロキシピラゾール等が挙げられる。
【0058】
テトラゾール化合物としては、例えば、1H−テトラゾール、5−アミノ−1H−テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、5−フェニル−1H−テトラゾール、1−(2−ジアミノエチル)−5−メルカプトテトラゾール等が挙げられる。
【0059】
保護膜形成剤の含有量は、金属の表面粗さを更に小さくできる点で、研磨液全量に対して、0.02mol/kg以上であることが好ましく、0.025mol/kg以上であることがより好ましく、0.03mol/kg以上であることが更に好ましい。保護膜形成剤の含有量は、一定以上加えても研磨速度が増加しない傾向にあるという点で、0.3mol/kg以下であることが好ましく、0.25mol/kg以下であることがより好ましい。
【0060】
保護膜形成剤の含有量(mol/kg)に対する無機酸の含有量(mol/kg)の比率(無機酸の含有量/保護膜形成剤の含有量)は、研磨速度に優れる点で、2.00以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましく、2.8以上であることが更に好ましい。上記比率は、表面粗さの増大を抑えるという点で、12以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
【0061】
(酸化剤)
酸化剤としては、銅に対する酸化作用を有するものであれば特に制限なく使用することができ、例えば、過酸化水素(H)、過硫酸、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸カリウム等が挙げられ、その中でも研磨速度に優れるという点で過酸化水素、過硫酸、過硫酸塩が好ましい。これらの酸化剤は単独で又は二種類以上組み合わせて使用することができる。
【0062】
酸化剤の含有量は、更に良好な研磨速度が得られやすい点で、研磨液全量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。また、過剰に含有しても研磨速度が向上しないか、又は、かえって低下する場合もあるため、上限としては20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0063】
(研磨方法)
本実施形態に係る研磨方法は、前記した研磨液を用いた研磨方法であって、銅を含む金属膜を研磨し、金属膜の一部を除去する工程を含むことを特徴とする。ここで、「銅を含む金属膜」とは、銅膜、銅合金膜等が挙げられ、更に他の金属との積層膜等であってもよい。
【0064】
研磨液は、従来の金属用研磨液と比較して、極めて研磨速度が速いという特徴を有しており、例えば、LSI等パッケージ基板等に代表される高性能配線板や微細配線板の製造工程における厚い銅膜を研磨するのに特に好適に使用することができる。より具体的には、研磨されるべき銅を含む金属膜の厚みが3μm以上である基板を研磨する場合に特に好適に使用することができる。
【0065】
このように、非常に厚い銅膜を研磨する必要がある工程として、シリコン貫通ビア(TSV:Through Silicon Via)形成工程を挙げることができる。TSVの形成方法は様々な方法が提案されているが、具体例として、素子を形成した後にビアを形成するVIA−LASTと言われる方法がある。また、VIA−LASTと言われる方法において、前記銅膜の下に、銅の拡散するのを抑制するためのバリア層を設ける場合もある。
【0066】
以下、図面を参照しながら、前記のようなVIA−LAST工程において、本実施形態に係る研磨液をVIA−LASTに用いた場合の使用方法を説明する。
【0067】
図1は、シリコン基板上に銅膜を形成する工程を示す模式断面図である。図1(a)に示すように、シリコン基板1上の所定の位置に、素子2を形成する。次に、図1(b)に示すように、貫通ビアとするための凹部3をプラズマエッチング等の方法により形成する。次に、図1(c)に示すように、スパッタリングや電解メッキ等の方法により、表面に追従するようにバリア層4を形成する。さらに、凹部3を埋め込むように銅を積層して銅層5を形成し、図1(d)に示すような構造の基板100を得る。
【0068】
図2は、このように形成した基板100を研磨する工程を示す模式断面図である。上記研磨液を、図2(a)における銅層5の表面と、研磨布(図示せず)の間に供給しながら、図2(b)に示すように、バリア層4が露出するまで銅層5を研磨する。
【0069】
より具体的には、基板100の銅層5と、研磨定盤の研磨布の表面との間に上記研磨液を供給しながら、押圧した状態で、研磨定盤と基板100とを相対的に動かすことによって銅層5を研磨する。研磨布の代わりに、金属製又は樹脂製のブラシを使用しても良い。また、研磨液を所定の圧力で吹きつけることで研磨しても良い。
【0070】
次いで、バリア層用の研磨液を用いて、素子2が露出するまで銅層5を研磨して、基板200を得る。
【0071】
研磨装置としては、例えば研磨布により研磨する場合、回転数が変更可能なモータ等に接続されていて研磨布を貼り付けることができる研磨定盤と、研磨される基板を保持できるホルダとを有する一般的な研磨装置を使用できる。研磨布としては、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等が使用でき、特に制限はない。
【0072】
研磨条件には制限はないが、研磨定盤の回転速度は基板が飛び出さないように200min−1以下の低回転が好ましい。被研磨面を有する基板の研磨布への押し付け圧力(研磨圧力)は、1〜100kPaであることが好ましく、CMP速度の被研磨面内の均一性及びパターンの平坦性を満足するためには、5〜50kPaであることがより好ましい。研磨している間、研磨布には研磨液をポンプ等で連続的に供給する。この供給量に制限はないが、研磨布の表面が常に研磨液で覆われていることが好ましい。
【0073】
研磨終了後の基板は、流水中でよく洗浄後、スピンドライ等を用いて基板上に付着した水滴を払い落としてから乾燥させることが好ましい。研磨布の表面状態を常に同一にしてCMPを行うために、研磨の前に研磨布のコンディショニング工程を入れるのが好ましい。例えば、ダイヤモンド粒子のついたドレッサを用いて少なくとも水を含む液で研磨布のコンディショニングを行う。続いて本実施形態によるCMP研磨工程を実施し、更に、基板洗浄工程を加えるのが好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。なお、特に限定しない限り、「%」とは「質量%」を意味するものとする。
【0075】
実施例1
(研磨液の作製)
無機酸として濃度96%の硫酸5.1g(0.0500mol/kg)及び濃度85%のリン酸5.8g(0.0503mol/kg)、有機酸として無水マレイン酸5.9g(0.0601mol/kg)及びクエン酸3.8g(0.0198mol/kg)、アミノ酸としてセリン35.1g(0.3340mol/kg)、ベンゾトリアゾール(BTA)2.5g(0.0210mol/kg)、20%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液0.4g、及び砥粒としてテトラエトキシシランのアンモニア溶液中での加水分解により作製し、フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA(液体;固形分20%)50gを純水500gに加えて、コロイダルシリカ以外の成分を溶解させた。更に25%のアンモニア水溶液を添加して液のpHを2.6に調整した後、純水を更に加えて全量を700gとした。これに、過酸化水素水(試薬特級、30%水溶液)300gを加えて、全量1000gの研磨液1を得た。なお、有機酸、無機酸、アミノ酸及び保護膜形成剤の濃度は、それぞれ0.080mol/kg、0.103mol/kg、0.3340mol/kg、0.0210mol/kgであり、保護膜形成剤の含有量に対する無機酸の含有量の比率は、4.9である。
【0076】
実施例2
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりにスルホン酸基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカB50g(液体;固形分20%)とした以外は実施例1と同様にして研磨液2を作製した。
【0077】
実施例3
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりにスルホン酸基で表面を化学修飾した平均二次粒子径80nmのコロイダルシリカC50g(液体;固形分20%)とした以外は実施例1と同様にして研磨液3を作製した。
【0078】
実施例4
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりにスルホン酸基で表面を化学修飾した平均二次粒子径80nmのコロイダルシリカC25g(液体;固形分20%)とした以外は実施例1と同様にして研磨液4を作製した。
【0079】
実施例5
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりにスルホン酸基で表面を化学修飾した平均二次粒子径80nmのコロイダルシリカC75g(液体;固形分20%)とした以外は実施例1と同様にして研磨液5を作製した。
【0080】
実施例6
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりにスルホン基で表面を化学修飾した平均二次粒子径50nmのコロイダルシリカH50g(液体;固形分20%)とした以外は実施例1と同様にして研磨液6を作製した。
【0081】
実施例7
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりにスルホン基で表面を化学修飾した平均二次粒子径110nmのコロイダルシリカI50g(液体;固形分20%)とした以外は実施例1と同様にして研磨液7を作製した。
【0082】
実施例8
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりにスルホン基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカC100g(液体;固形分20%)とした以外は実施例1と同様にして研磨液8を作製した。
【0083】
比較例1
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりに表面を化学修飾していない平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカD50g(液体;固形分20%)とした以外は実施例1と同様にして研磨液X1を作製した。
【0084】
比較例2
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりにメチル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカE50g(液体;固形分20%)とした以外は実施例1と同様にして研磨液X2を作製した。
【0085】
比較例3
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりにアミノ基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカF50g(液体;固形分20%)とした以外は実施例1と同様にして研磨液X3を作製した。
【0086】
比較例4
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりにアルミン基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカG50g(液体;固形分20%)とした以外は実施例1と同様にして研磨液X4を作製した。
【0087】
比較例5
フェニル基で表面を化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカA50gの代わりに水50g(液体;固形分20%)を加えた以外は実施例1と同様にして研磨液X5を作製した。
【0088】
(研磨液のpH測定)
上記研磨液1〜8、X1〜X5のpHを、堀場製作所製pHメーターF8Eを用いて測定した。
【0089】
(基板の研磨)
1)銅膜の研磨 直径8インチ(20.3cm)(φ)サイズのシリコン基板上に20μm厚さの銅膜を製膜した基板を用意した。この基板を使用し、上記研磨液1〜8及び研磨液X1〜X5を、研磨装置の定盤に貼り付けた研磨布に滴下しながら、CMP研磨を行った。
【0090】
2)窒化タンタル膜の研磨
厚さ200nmの窒化タンタルをスパッタ法で形成したシリコン基板を用意した。この基板を使用し、上記研磨液1〜8及び研磨液X1〜X5を、研磨装置の定盤に貼り付けた研磨布に滴下しながら、CMP研磨を行った。
【0091】
なお、研磨条件は下記の通りである。
研磨装置:定盤寸法は直径600mm(φ)、ロータリータイプ
研磨布:独立気泡を持つ発泡ポリウレタン樹脂(IC−1010、ロームアンドハース社製)
研磨圧力:32kPa
研磨定盤/ヘッド回転速度:93/87rpm
研磨液流量:200ml/分
【0092】
評価項目及び評価方法
(研磨速度)
前記のようにして研磨した基板について、CMPによる銅膜の研磨速度、窒化タンタル膜の研磨速度を測定した。
【0093】
研磨速度:基板のCMP前後での膜厚差をシート抵抗変化から換算して求めた。測定装置はナプソン社製抵抗率測定器Model RT−7を用いた。ウエハの直径方向77点(エッジから5mm部分除外)の平均値を抵抗値とした。
【0094】
(凝集沈降)
上記研磨液1〜8、X1〜X5の過酸化水素水を加えていないサンプルを、60℃恒温槽(三洋電機社製インキュベータMIR−153)にて4週間静置、加熱した後、凝集の有無を目視で確認した。
【0095】
研磨液1〜8、X1〜X5の構成成分、各研磨液のpH及び研磨試験の評価結果を表1に示す。
【0096】
【表1】


【0097】
表1に示す結果より下記のことがわかる。すなわち、実施例1〜8におけるそれぞれの研磨液は、銅膜に対し2000nm/分の高い研磨速度を維持しつつ、バリア層である窒化タンタル膜に対する研磨速度を抑制できることが分かった。
【0098】
実施例1の研磨液に対して、表面を化学修飾していない平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカDを配合した比較例1の研磨液は、銅膜の研磨速度は同等であるが、バリア層である窒化タンタル膜の研磨速度が上昇した。
【0099】
実施例1の研磨液に対して、表面をメチル基で化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカEを配合した比較例2の研磨液は、銅膜の研磨速度は同等であるが、バリア層である窒化タンタル膜の研磨速度が上昇した。
【0100】
実施例1の研磨液に対して、表面をアミノ基で化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカFを配合した比較例3の研磨液は、銅膜の研磨速度は低下し、バリア層である窒化タンタル膜の研磨速度が上昇した。
【0101】
実施例1の研磨液に対して、表面をアルミン酸基で化学修飾した平均二次粒子径60nmのコロイダルシリカGを配合した比較例4の研磨液は、銅膜の研磨速度は同等であるが、バリア層である窒化タンタル膜の研磨速度が上昇した。
【0102】
実施例1の研磨液に対して、砥粒を配合していない比較例5の研磨液は、バリア層である窒化タンタル膜の研磨速度は低下したが、銅膜の研磨速度は低下した。
【0103】
以上より、表面がスルホン酸基又はフェニル基により化学修飾されており、平均二次粒子径が60〜100nmである砥粒を用いることで、銅膜に対する高い研磨速度を維持しつつ、バリア層である窒化タンタル膜の研磨速度を充分に抑制することがわかる。特に、銅膜に対する研磨速度が3μm/分を超えるような研磨液は、短時間で大量に銅を研磨する用途、例えばTSV形成用途に最適である。
【符号の説明】
【0104】
1…シリコン基板、2…素子、3…凹部、4…バリア層、5…銅層、100,200…基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸、無機酸、アミノ酸、保護膜形成剤、砥粒、酸化剤及び水を含み、
前記有機酸は、カルボキシル基を2つ有しかつpKaが2.7以下である有機酸、及びカルボキシル基を3つ以上有する有機酸の少なくとも一方であり、
前記砥粒は、表面がスルホン酸基又はフェニル基で化学修飾されている、金属用研磨液。
【請求項2】
前記砥粒の二次粒子径が50nmを超え110nm未満である、請求項1記載の金属用研磨液。
【請求項3】
前記砥粒の含有量が0.1質量%以上2.0質量%未満である、請求項1又は2記載の金属用研磨液。
【請求項4】
前記有機酸は、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びマロン酸からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属用研磨液。
【請求項5】
pHが1.5〜4.0である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属用研磨液。
【請求項6】
前記無機酸は、硫酸及びリン酸の少なくとも一方である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属用研磨液。
【請求項7】
前記アミノ酸のpKaが2〜3である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属用研磨液。
【請求項8】
前記保護膜形成剤は、トリアゾール化合物である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属用研磨液。
【請求項9】
前記保護膜形成剤は、ベンゾトリアゾール及びベンゾトリアゾール誘導体の少なくとも一方である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の金属用研磨液。
【請求項10】
前記酸化剤は、過酸化水素、過硫酸及び過硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の金属用研磨液。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の金属用研磨液を用いた研磨方法であって、
銅を含む金属膜を研磨し、前記金属膜の一部を除去する工程を含む、研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−4670(P2013−4670A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133310(P2011−133310)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】