説明

金属磁性粉およびその製造法

【課題】飽和磁化の高い軟質磁気特性に優れた金属磁性粉を提供する。
【解決手段】FeX1-X(ただしMはCo等の遷移元素、X:0.35〜0.85)の組成を有する平均粒子径DM:5〜500nmの粒子で構成され、保磁力Hcが400 Oe以下、飽和磁化σsが120emu/g以上、角形比σr/σsが0.20以下、好ましくは耐候性Δσsが40%以下である金属磁性粉。この金属磁性粉は、不活性ガスを吹き込みながら100℃以上まで昇温し、脱酸素・脱水処理を施したポリオール溶媒に、できあがる金属磁性粉のFeとM成分の原子比が1:(1−X)、ただしX:0.35〜0.85、となるようにこれらの元素を含む金属塩を投入し、その金属塩を溶媒のポリオールで100℃以上の温度に保持することにより還元して合金粒子を析出させる方法で製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飽和磁化が高く軟質磁気特性に優れた金属磁性粉末、およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオールによる還元反応を利用した方法(以下「ポリオール法」という)によってFe−Pt系、Co−Pt系、Fe−Co−Pt系等の合金微粉末を合成する手法が知られている(特許文献1、2)。これらの方法によると、粒径が例えば20nm以下のナノ粒子が得られ、その保磁力も高いことから、超高密度磁気記録媒体に好適な磁性粉が得られる。
【0003】
【特許文献1】特開2000−54012号公報
【特許文献2】特開2003−277803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、Feと遷移金属(Co等)との合金は、本来、低保磁力、高透磁率を呈する軟磁性合金として優れた特性を有することが知られている。これは、磁気記録媒体等の高保磁力が要求される硬磁性用途とは異なり、磁気ヘッド、電磁石の鉄心、トランスコア、電磁気シールド材といった軟磁性用途に適するものである。
【0005】
しかしながら、上記Feと遷移金属との合金は、微粉末の状態で優れた軟磁気特性を呈するものを実現することは容易ではなく、粒径が500nm以下の微粉末としては実用化されるには至っていない。その大きな要因の1つに、微粉末において高い飽和磁化を実現することが困難であったことが挙げられる。
本発明は、Feを主体とする磁性合金の微粉末において、飽和磁化が高く、優れた軟質磁気特性を呈するものを提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは種々検討の結果、ポリオール法でFe合金微粉を合成する際に、溶媒および還元剤となるポリオールを100℃以上の温度域で予め十分に脱酸素処理したのちに金属塩を投入し、還元することにより、飽和磁化の高い合金粉末が合成できることを見出した。
【0007】
すなわち本発明では、FeX1-X(ただしMは1種以上の遷移元素、X:0.35〜0.85)の組成を有する平均粒子径DM:5〜500nmの粒子で構成され、保磁力Hcが400 Oe以下、飽和磁化σsが120emu/g以上、角形比σr/σsが0.20以下であり、さらに好ましくは耐候性Δσsが40%以下である金属磁性粉が提供される。
また、本発明では粉体粒子の形状が球状ないし多角形状であり、整粒性の高い金属磁性粉が提供される。すなわち、粉体を構成する粒子の平均アスペクト比が2.0以下であるもの、あるいはさらに、粉体を構成する粒子の80個数%以上が、平均粒子径DM×0.5以上、平均粒子径DM×2以下の範囲の粒径を有するものが提供される。
【0008】
なかでも前記M成分が「CoおよびNiの1種または2種」を含む1種以上の遷移元素からなるものが好適な対象となる。例えば、M成分がCoおよびNiの1種または2種と不可避的不純物からなる、Fe−Co合金粉、Fe−Ni合金粉、Fe−Co−Ni合金粉などが挙げられる。
【0009】
ここで、平均粒子径DMおよび平均アスペクト比は、TEM(透過型電子顕微鏡)またはSEM(走査型電子顕微鏡)により観察される粉末粒子の画像において、任意に選んだ100個以上の粒子の粒径(長径および短径)を測定することによって求められる。各粒子の粒径は画像上に現れる長径および短径を測定して求める。例えば画像をプリントアウトした写真上でノギスまたはデジタイザーによって粒径を測定する方法が採用できる。平均粒子径DMは各測定粒子の長径を算術平均したものである。各粒子のアスペクト比は長径/短径の値(1が最小)で表され、平均アスペクト比は各測定粒子のアスペクト比を算術平均したものである。
【0010】
本発明では特に、この金属磁性粉において、不純物としてフェライトを含まないものが提供される。
ここで「フェライトを含まない」とは、当該粉末のX線回折パターンにおいてフェライトの存在が確認されないことをいう。極めて微量のフェライトが含まれているとしても、その回折ピークがノイズに埋もれて判別できない場合は、「フェライトを含まない」に該当する。ここでいうフェライトとは、マグネタイト、Coフェライト、Niフェライト等、原料塩から生成されうるフェライトを含み、これらの混在する状態のものをも含む。
【0011】
また本発明では、これらの金属磁性粉の製造法として、不活性ガスを吹き込みながら100℃以上まで昇温し、脱酸素・脱水処理を施したポリオール溶媒に、できあがる金属磁性粉のFeとM成分の原子比が1:(1−X)、ただしX:0.35〜0.85、となるようにこれらの元素を含む金属塩を投入し、その金属塩を溶媒のポリオールで100℃以上の温度に保持することにより還元して合金粒子を析出させる製造法が提供される。
ここで、還元反応に伴って生成する水の少なくとも一部を溶媒中から除去しながら還元を進行させることが好ましい。例えば一旦蒸発した水ができるだけ溶媒中に戻らないように分離・除去する手法が採用できる。
不活性ガスは、希ガスおよび窒素ガスをいう。Feの原料には2価の鉄塩を用いることが、フェライトの生成を抑止する上で極めて有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、飽和磁化の高い合金磁性粉末が提供された。この粉末は、アスペクト比が2.0以下と粒子の形状異方性が小さく、また、粉砕により作製した粒子のように角張っておらず、球状ないしは多角形状の滑らかな表面をもち、整粒性も高い。本発明の金属磁性粉は以下のような用途への適用が期待される。
i) MHz〜GHzの広帯域で使用可能な電波吸収体。
ii) 分子やDNAの分離技術。すなわち、磁気を利用して当該磁性粒子の周囲に特定の分子をくっつけ、この分子と反応性の高い分子やDNAなどを分離する。
iii) 温熱治療。すなわち、体内の病理組織(癌細胞など)の周囲に当該磁性粒子をドーピングし、外部から振動磁界を付与して磁性粒子を発熱させ、その病理組織を死滅させてしまう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明者らの詳細な検討によれば、合金粉末を合成するためのポリオール法において、金属塩をポリオールで還元する前に、予めポリオール中に含まれる溶存酸素と水分を十分除去しておくと、飽和磁化の高い金属磁性粉が得られることがわかった。その理由については未解明の部分も多いが、溶媒中の溶存酸素や水分が少ない状態で金属塩を還元したとき、析出後に分離・抽出された合金粉中への不純物フェライトの混入が顕著に防止されるという現象が見られた。この現象は、100℃以上の温度域での脱酸素・脱水処理を予め施していないポリオールを溶媒に用いて還元する従来一般的な方法では起こらない。すなわち、従来一般的なポリオール法では不純物としてフェライトの混入が避けられなかったが、予め100℃以上の温度域で脱酸・脱水素処理したのち還元反応を開始するとフェライトが検出されない合金粉が得られるのである。このことが飽和磁化の改善に大きく寄与しているものと推察される。
【0014】
以下、本発明を特定するための事項について説明する。
〔組成〕
本発明の合金粉末は原子比でFeX1-Xの組成をもつ。
Mは1種以上の遷移元素である。M成分は、Feの標準電極電位(−0.44V)よりも高い遷移元素を主体として構成することが好ましい。それより標準電極電位が低い場合は、ポリオールで還元することが困難となり、均一な合金の作成が困難となるため、好ましくない。
【0015】
好適なM成分としてCo(標準電極電位:−0.28V)やNi(標準電極電位:−0.25V)を主体としたものが挙げられる。Fe−Co系合金やFe−Ni系合金の微粉末では軟磁気特性に優れたものが得られやすい。Co以外にはPtその他の遷移金属元素を含むことができるが、M成分をCoおよび不可避的不純物からなる構成とすることで飽和磁化の顕著な向上が十分達成できる。
【0016】
Feの原子比を表すXは0.35〜0.85の範囲とする。Xがこの範囲を外れると保磁力Hcを400 Oe以下、飽和磁化を安定して120emu/g以上に安定して向上させること、角形比σr/σsが0.2以下の軟磁気特性を安定して得ること、あるいはさらに耐候性Δσsを40%以下に安定して改善することが難しくなる。
【0017】
〔平均粒子径、アスペクト比〕
平均粒子径DMは5〜500nmの範囲をとることができるが、高密度磁気記録媒体の場合とは異なり、磁性粒子の粒径を特に小さくする必要はない。前述のi)〜iii)のような用途を考慮すると、DMは10〜200nm程度とすればよく、20〜100nm程度がさらに好ましい。また、平均アスペクト比は2.0以下であることが好ましい。さらに、粉体を構成する粒子のDMのバラツキが小さいこと、すなわち整粒性が高いことが望ましく、具体的には、粉体を構成する粒子の80個数%以上が、平均粒子径DM×0.5以上、平均粒子径DM×2以下の範囲の粒径を有するものが好ましい対象となる。粉体を構成する粒子の95個数%以上が、平均粒子径DM×0.5以上、平均粒子径DM×2以下の範囲の粒径を有するものが一層好ましい対象となる。
平均粒子径DMは、核剤や界面活性剤といった添加物の種類および添加量を制御することによってコントロール可能である。平均アスペクト比や整粒性は、後述の製造法を実施することによって適正化される。
【0018】
〔磁気特性〕
粉末としての磁気特性はVSMを用いて最大印加磁場強度10kOeをかけ、従来一般的な方法で測定することができる。磁気特性の測定温度は特に断らない限り室温とする。
本発明の合金粉は、飽和磁化σsが120emu/g以上を呈するものである。飽和磁化σsの上限は特に規定されないが、前記i)〜iii)の用途では概ね120〜250emu/gの範囲で良好な結果が得られ、150emu/g以上とするのが一層好ましい。飽和磁化σsは、組成を前述のようにするとともに、フェライトの混入防止を図ることによって120emu/g以上にコントロールできる。
【0019】
保磁力については、あまり大きいと軟磁気特性を阻害するので、400 Oe以下に抑えることが望ましい。特に良好な軟磁気特性が要求される用途では200 Oe以下あるいはさらに100 Oe以下にすることが一層好ましい。角形比(=残留磁化/飽和磁化)は0.05〜0.2程度とすることができる。金属塩濃度や還元温度、時間、添加物量などのプロセスパラメータによってコントロールすることができる。
【0020】
耐候性を示す指標として、Δσsを用いる。この指標は、粉体作製直後に測定した飽和磁化σs(0日目)と、温度60℃、湿度90%の雰囲気に7日間暴露した後に測定した飽和磁化σs(7日目)の値から次式により定められる。
Δσs(%)={σs(0日目)−σs(7日目)}/σs(0日目)×100
Δσsについては、その値が大きいと、使用中に時間の経過とともに酸化により飽和磁化σsが小さくなってしまい、状況によっては金属粉が発火してしまうこともある。前記の用途を考慮したとき、Δσsは40%以下であることが望ましく、30%以下がより好ましく、20%以下が一層好ましい。このΔσsは、金属粉を徐酸化することにより酸化被膜を形成することや、無機物・有機物をコーティングすることによって、コントロールすることができる。
【0021】
〔製造法〕
本発明においては、ポリオールを予め100℃以上の温度域で脱酸素処理しておくことを除き、基本的にはポリオール中で金属塩を還元して合金を析出させ、これを分離抽出する従来のポリオール法の手順が採用できる。
【0022】
ポリオールは複数の水酸基を有する有機物質であり、多価アルコールとも言われる。その代表的なものとしてエチレングリコールが挙げられる。また、ポリオールの誘導体を溶媒に使用することもできる。本発明では、その誘導体もポリオールとして取り扱う。
【0023】
まず、ポリオールを脱酸素・脱水処理する。この処理は、ポリオールに不活性ガスを吹き込みながら100℃以上まで昇温を行い、さらに、100℃以上の温度で、所定の時間(例えば20min以上)保持することにより、実施される。不活性ガスによるバブリング自体で攪拌効果が得られるが、機械的攪拌を兼用することが望ましい。ただし、特段の強攪拌は必要ない。不活性ガスの吹き込みおよび攪拌は、常温からの昇温過程で既に開始することができる。還元温度は使用する溶媒の沸点以下で実施する。沸点以上では、耐圧容器等特殊な反応設備を必要とし、不経済である。
【0024】
次いで、100℃以上の温度域で脱酸素処理したポリオール中に金属塩を投入する。Feを含む金属塩と、M成分を含む金属塩を、できあがる金属磁性粉のFeとM成分の原子比が1:(1−X)、ただしX:0.35〜0.85、となるように投入する。反応条件にもよるが、例えば、標準電極電位の低い金属は還元されにくく液中に残りやすい傾向があるので、標準電極電位の低い金属の添加割合を目標組成に対し多めにすると良好な結果が得られやすい。Feを含む金属塩としては例えば塩化第一鉄が挙げられ、M成分のCoを含む金属塩としては例えば酢酸コバルトが、Niを含む金属塩としては酢酸ニッケルが挙げられる。Feの原料に関しては3価の金属塩より2価の金属塩を採用する方が還元速度の向上およびマグネタイト等の酸化物の生成抑制に効果的である。金属塩の濃度は、FeとM成分の総量が0.02〜0.1mol/Lの範囲になるように調整することが好ましい。また、溶媒に可溶な塩基性物質(NaOHなど)を投入することで、液中での還元反応速度をコントロールすることができる。添加する塩基性物質は、OH濃度で0.5〜10mol/Lとすることが好ましい。そうすることにより、軟磁気特性に優れた粒子を合成することができる。
【0025】
金属塩(必要に応じてさらに塩基性物質)投入時のポリオール温度は90℃以上とすることが望ましい。通常は、不活性ガスの吹き込みおよび攪拌を継続しながら金属塩を投入すればよい。還元反応を促進するためには120℃以上に昇温することが望ましい。150℃以上に昇温することがより好ましい。実際には加熱を継続しながらポリオールの沸点まで昇温していき、その後、還流状態で還元反応を進めるとよい。エチレングリコールの場合、沸点は197.6℃である。ただし、沸点が300℃を超える溶媒の場合は、概ね300℃前後で還流を行うことが望ましい。還元反応が進行すると合金が析出してくる。投入した金属塩が全量反応し終えるまで還元を続けることが好ましい。金属塩の濃度が上記範囲であるとき、還流状態で概ね2h程度保持すると全量を十分に反応させることができる。
【0026】
金属塩を添加する前に予め脱水処理を行っても、還元反応に伴って金属塩の結晶水に由来する水や、ポリオールの分解に起因する水が、溶媒中に生じてくる。金属塩の仕込み濃度が低いときには影響が小さいが、前述の脱酸素・脱水処理を行ってもフェライトが生成する場合には、還元中に生成する水も溶媒中より除去することが望ましい。しかし、還元中は還流状態であるため、水は溶媒からいったん蒸発しても再び溶媒中へ戻ってくることになる。このような場合は、反応容器と還流器(冷却器)の途中に、モレキュラーシーブでトラップを作る等の工夫をすることにより、効果的に水の除去が可能である。
【0027】
還元終了後、溶液を室温まで冷却する。強制冷却してもよいし、放冷してもよい。その後、析出粒子を洗浄すれば目的の金属磁性粉が得られる。洗浄は、例えば溶媒中の析出粒子を取り出してエタノール等の液中に移し、遠心分離→回収→液中に移す、という操作を繰り返す方法により行うことができる。
【実施例】
【0028】
〔実施例1〕
ポリオール法でFe−Co合金粒子を合成した。ポリオールとしてエチレングリコール(沸点197.6℃)を使用した。Fe供給源として塩化第一鉄4水和物FeCl2・4H2O、Co供給源として酢酸コバルト4水和物Co(CH3COO)2・4H2Oを使用した。
まず、溶媒および還元剤として働くエチレングリコール100mLを還流器のついたガラス容器に入れ、窒素ガスをガラス管により底部付近から吹き込んだ。窒素ガスの吹き込み量は400mL/minとした。併せてテフロン(登録商標)攪拌羽根により160rpmの回転速度で液を機械攪拌した。この状態で溶媒を加熱し、液温が100℃になってから120℃になるまでの間、約30min、窒素ガスの吹き込みと機械攪拌を継続することにより脱酸素・脱水処理を行った。
【0029】
その後、液温が約120℃の状態で上記Fe塩とCo塩を溶媒中に投入した。Fe塩とCo塩の量比はFeとCoの原子比が80:20となるように調整し、FeとCoの総濃度[M]が0.065mol/Lとなる量を投入した。さらに、[M]に対するOHの総濃度[OH]の比[OH]/[M]が40となるようにNaOHを投入した。この間、容器は還流器のついたガラス容器であるが、脱水のために、還流器(冷却器)には冷却水を流さない。
上記工程終了後、還流器に冷却しを流し、窒素ガスの吹き込みおよび機械攪拌を継続しながら加熱して、180℃の状態で還流しながら2h保持し、還元反応させた。析出した粒子は、溶液を室温まで放冷してからエタノール中に移し、遠心分離→回収→エタノール中に移す、という操作を数回繰り返すことにより洗浄し、エタノール中に保管した。
【0030】
得られた粉末についてCu−kα線によるX線回折を行った。そのX線回折パターンを図1に示す。FeCo合金(fcc構造)の各回折ピークが認められた。また、X線回折パターンにはフェライトの回折ピークは認められなかった。
この粉末粒子をSEMにより観察し、平均粒子径DMを求めた。図2にSEM像の1例を示す。個々の粒子は球状性の高いものであることがわかる。このようなSEM像において、任意に選んだ100個以上の粒子の直径(長径)を測定し、その平均値を算出することで平均粒子径DMを求めた。その結果、平均粒子径DMは約180.7nm、平均アスペクト比は1.15であり、測定した全ての粒子の粒径は、平均粒子径DM×0.5以上、平均粒子径DM×2以下の範囲であった。
この粉末についてVSMにより磁気測定を行った。そのヒステリシス曲線を図3に例示する。保磁力Hc=163.1 Oe、飽和磁化σs=210.3emu/g、角形比0.0784であった。この粉末は飽和磁化が大きく、優れた軟磁気特性を呈するものである。また、耐候性Δσs=36%であった。
【0031】
〔実施例2〕
実施例1において、金属塩投入量をFeとCoの総濃度[M]が0.025mol/Lとなるように変えたことを除き、実施例1と同様の方法で実験を行った。
X線回折パターンには、実施例1と同様にFeCo合金(fcc構造)の各回折ピークが認められ、フェライトの回折ピークは認められなかった。SEM像から求めた平均粒子径DMは141.8nm、平均アスペクト比は1.14であり、測定した全ての粒子の粒径は、平均粒子径DM×0.5以上、平均粒子径DM×2以下の範囲であった。VSMによる磁気測定の結果、保磁力Hc=389.6 Oe、飽和磁化σs=166.8emu/g、角形比0.1413であった。また、耐候性Δσs=38%であった。
【0032】
〔実施例3〕
実施例1において、金属塩投入量をFeとCoの総濃度[M]が0.070mol/Lとなるように変えたことを除き、実施例1と同様の方法で実験を行った。
X線回折パターンには、実施例1と同様にFeCo合金(fcc構造)の各回折ピークが認められ、フェライトの回折ピークは認められなかった。SEM像から求めた平均粒子径DMは271.3nm、平均スペクト比は1.79であり、測定した全ての粒子の粒径は、平均粒子径DM×0.5以上、平均粒子径DM×2以下の範囲であった。VSMによる磁気測定の結果、保磁力Hc=101.9 Oe、飽和磁化σs=203.8emu/g、角形比0.059であった。また、耐候性Δσs=34%であった。
【0033】
〔比較例1〕
実施例1において、窒素ガス吹き込みおよび機械攪拌による脱酸素処理を室温の状態で行ったのち、室温の状態で金属塩を投入し、その後加熱して沸騰状態で還流しながら2h保持して還元反応を進行させたこと、および金属塩投入量をFeとCoの総濃度[M]が0.10mol/Lとなるようにしたことを除き、実施例1と同様の方法で実験を行った。
得られた粉末のX線回折パターンを図4に示す。FeCo合金(fcc構造)の各回折ピークとともに、フェライトの回折ピークも認められた。マグネタイトとCoフェライトは回折ピークの位置がたいへん近いため、今回の測定では、どちらか同定することはできなかった。図5にSEM像を例示する。SEM像から平均粒子径DMは164.4nm、平均アスペクト比は2.32であり、測定した粒子のうち、粒径が平均粒子径DM×0.5以上、平均粒子径DM×2以下の範囲に入るものは52個数%であり、粒度のバラツキが大きかった。VSMによる磁気測定のヒステリシス曲線を図6に例示する。保磁力Hc=367.5 Oe、飽和磁化σs=115.0emu/g、角形比0.16であった。この粉末は保磁力が大きいとともに飽和磁化が小さく、上記各実施例のものと比べ、軟質磁気特性に劣る。また、耐候性Δσs=32%であった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1で得られた金属磁性粉についてのX線回折パターン。
【図2】実施例1で得られた金属磁性粉のSEM像。
【図3】実施例1で得られた金属磁性粉の交流磁気特性を示すヒステリシス曲線。
【図4】比較例1で得られた金属磁性粉についてのX線回折パターン。
【図5】比較例1で得られた金属磁性粉のSEM像。
【図6】比較例1で得られた金属磁性粉の交流磁気特性を示すヒステリシス曲線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeX1-X(ただしMは1種以上の遷移元素、X:0.35〜0.85)の組成を有する平均粒子径DM:5〜500nmの粒子で構成され、保磁力Hcが400 Oe以下、飽和磁化σsが120emu/g以上、角形比σr/σsが0.20以下である金属磁性粉。
【請求項2】
さらに耐候性Δσsが40%以下である請求項1に記載の金属磁性粉。
【請求項3】
粉体を構成する粒子の平均アスペクト比が2.0以下である請求項1または2に記載の金属磁性粉。
【請求項4】
粉体を構成する粒子の80個数%以上が、平均粒子径DM×0.5以上、平均粒子径DM×2以下の範囲の粒径を有する請求項1〜3のいずれかに記載の金属磁性粉。
【請求項5】
前記M成分はCoおよびNiの1種または2種を含む1種以上の遷移元素からなる請求項1〜4のいずれかに記載の金属磁性粉。
【請求項6】
前記M成分はCoおよびNiの1種または2種と不可避的不純物からなる請求項1〜4のいずれかに記載の金属磁性粉。
【請求項7】
不純物としてフェライトを含まない請求項1〜6のいずれかに記載の金属磁性粉。
【請求項8】
不活性ガスを吹き込みながら100℃以上まで昇温し、脱酸素・脱水処理を施したポリオール溶媒に、できあがる金属磁性粉のFeとM成分の原子比が1:(1−X)、ただしX:0.35〜0.85、となるようにこれらの元素を含む金属塩を投入し、その金属塩を溶媒のポリオールで100℃以上の温度に保持することにより還元して合金粒子を析出させる請求項1〜5のいずれかに記載の金属磁性粉の製造法。
【請求項9】
Feの原料に2価の金属塩を用いる請求項8に記載の金属磁性粉の製造法。
【請求項10】
還元反応に伴って生成する水の少なくとも一部を溶媒中から除去しながら還元を進行させる請求項8または9に記載の金属磁性粉の製造法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−184431(P2007−184431A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1919(P2006−1919)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】