金属磁性粉末およびその製造方法
【課題】粒子を小さくしても粒子同士の凝集を防止することができる、金属磁性粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】金属磁性粉末の製造方法は、形状保持や焼結防止のために非磁性成分が添加された原料粉末を焼成した後に還元して、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ形状保持や焼結防止のために添加された非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する金属磁性粉末製造工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する溶出処理工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した後の金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる有機物処理工程と、有機物を付着させた金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程と、酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する再還元・安定化処理工程とを備えている。
【解決手段】金属磁性粉末の製造方法は、形状保持や焼結防止のために非磁性成分が添加された原料粉末を焼成した後に還元して、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ形状保持や焼結防止のために添加された非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する金属磁性粉末製造工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する溶出処理工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した後の金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる有機物処理工程と、有機物を付着させた金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程と、酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する再還元・安定化処理工程とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属磁性粉末およびその製造方法に関し、特に、塗布型磁気記録媒体に使用される強磁性金属粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布型磁気記録媒体に使用される代表的な金属磁性粉末として、鉄を主成分として含有する鉄系磁性粉末がある。このような鉄系金属磁性粉末は、工業的には、オキシ水酸化鉄または酸化鉄を主体とした針状粉末に、形状保持のためにSiやAlなどを含有させるとともに、焼結防止のために希土類元素やアルカリ土類金属元素などを含有させて、焼成した後に還元することによって製造されている。このような鉄系金属磁性粉末を製造する従来の方法として、α−FeOOHにNi、Co、Al、Siおよび希土類元素の化合物を被着させ、非還元性雰囲気下で熱処理し、次いで還元性ガスで還元する方法(例えば、特許文献1参照)や、含水酸化鉄の粒子表面に希土類金属化合物やAl化合物などを被着させた後、不活性ガス雰囲気において加熱脱水し、次いで還元性ガスで還元する方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0003】
近年、塗布型磁気記録媒体などの磁気記録媒体では、大容量化に伴って記録密度を高めることが要求されており、磁気記録媒体の記録密度を高めるためには、磁性粉末の粒子体積を小さくすることが必要になる。
【0004】
しかし、磁性粉末を微粒子化すると、磁性粉末の粒子の形状を保持し難くなるため、形状保持のために添加するSiやAlなどの量や、焼結防止のために添加する希土類元素などの量を増加させることが必要になる。しかし、形状保持のために添加するSiやAlなどや、焼結防止のために添加する希土類元素などは、熱処理工程後には既に役割を終えており、何ら磁性に影響を及ぼすものではなく、粒子体積を大きくするだけであり、粒子性ノイズの低減のためには少ない方がよい。特に、磁性粉末の粒子の表層部に存在する希土類元素などや、SiやAlなどの非磁性成分を除去して、粒子体積を小さくするのが望ましい。
【0005】
本出願人は、このような磁性粉末の粒子の表層部に存在する希土類元素などや、SiやAlなどの非磁性成分を除去して、粒子体積を小さくするために、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有する金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去する方法を提案している(特願2006−261531)。
【0006】
【特許文献1】特開平6−25702号公報(段落番号0006)
【特許文献2】特開平11−189421号公報(段落番号0011)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去して、金属磁性粉末の粒子を微細化すると、粒子同士が凝集して凝集体を形成し易くなる。このような凝集体が大量に存在する金属磁性粉末を、塗布型磁気記録媒体の表面の磁性層を形成するために使用すると、個々の粒子の粒度分布を改善しても、より薄層になる磁性層を形成するための塗料に使用するには適さない。
【0008】
したがって、本発明は、粒子を小さくしても粒子同士の凝集を防止することができる、金属磁性粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去するとともに、金属磁性粉末の表面に有機物を付着させることにより、金属磁性粉末の粒子を小さくしても粒子同士の凝集を防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明による金属磁性粉末の製造方法は、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した後の金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
この金属磁性粉末の製造方法において、非磁性成分は、(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上であるのが好ましい。また、非磁性成分を溶出除去する工程が、非磁性成分と錯体を形成し得る錯化剤を添加した溶液に、非磁性成分を含有する金属磁性粉末を添加して分散させた後、還元剤を添加し、浸出によって溶液中に非磁性成分を溶出除去する工程であるのが好ましい。また、金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程は、非磁性成分を溶出除去する工程において使用した溶液中に、有機溶剤または高分子有機化合物を添加することによって、金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程でもよいし、あるいは、非磁性成分を溶出除去する工程において使用した溶液から分離した金属磁性粉末に、有機溶剤または高分子有機化合物溶液を含浸させることによって、金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程でもよい。これらの場合、有機溶剤または高分子有機化合物が、アルコール、エーテルおよびそれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上であるのが好ましい。さらに、有機物を付着させた金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程を含むのが好ましく、酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する安定化処理工程を含むのが好ましい。
【0012】
また、本発明による金属磁性粉末は、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有するとともに、0.5〜4.0質量%の炭素を含有し、磁性成分の含有量に対する非磁性成分の含有量の割合が20%以下であることを特徴とする。
【0013】
この金属磁性粉末において、磁性成分が、鉄または鉄とコバルトであり、非磁性成分が、(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上と、炭素を含むのが好ましい。また、金属磁性粉末の粒子の平均長軸長が10〜50nmであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去するとともに、金属磁性粉末の表面に有機物を付着させることにより、金属磁性粉末の粒子を小さくしても粒子同士の凝集を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態は、形状保持や焼結防止のために非磁性成分が添加された原料粉末を焼成した後に還元して、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ形状保持や焼結防止のために添加された非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する金属磁性粉末製造工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する溶出処理工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した後の金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる有機物処理工程と、有機物を付着させた金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程と、酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する再還元・安定化処理工程とを備えている。以下、これらの工程について説明する。
【0016】
(金属磁性粉末製造工程)
形状保持や焼結防止のために非磁性成分が添加された原料粉末を焼成した後に還元して、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ形状保持や焼結防止のために添加された非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造するまでの工程としては、一般的な金属磁性粉末の製造工程を採用することができる。例えば、コバルトおよび焼結防止のために添加した希土類元素などを含有するオキシ水酸化鉄を250〜700℃で焼成して、α−Fe2O3などの鉄酸化物にした後、この鉄酸化物を気相還元によって加熱還元して、α−Feを主成分として含有し且つ希土類元素などの非磁性成分を含有する金属磁性粉末(中間製品としての金属磁性粉末)を得る。
【0017】
(溶出処理工程)
このようにして得られた金属磁性粉末に含まれる希土類元素(イットリウムを含む)、アルミニウム(Al)および珪素(Si)の少なくとも1種以上と錯体を形成し得る化合物(錯化剤)を溶解した溶液を処理液として用意する。この処理液は、室温付近の温度で調整することができる。錯化剤としては、無電解めっきにおいて錯化剤として通常使用されている薬品、例えば、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩などを使用することができる。錯化剤の濃度は、0.01〜10モル/L程度でよい。また、必要に応じて、pH緩衝効果がある物質、例えば、アンモニウム塩などを添加してもよい。
【0018】
次に、この処理液に金属磁性粉末を添加する。金属磁性粉末の添加量は、多過ぎると反応が不均一になる可能性があるので、処理液1L当たり1〜100g程度であるのが好ましく、5〜50g程度であるのがさらに好ましい。また、液中の反応の均一性を維持するため、撹拌または強制分散(例えば、超音波分散など)を行うのが好ましい。
【0019】
処理液中に金属磁性粉末が均一に分散させた後、還元剤を添加する。この還元剤としては、ヒドラジン(N2H2)、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)、ナトリウムボロンハイドライド(NaBH4)のような強還元剤を使用することができる。還元能力が弱い還元剤を使用すると、磁性元素の溶出が起こり易くなるので好ましくない。また、還元剤の濃度は、濃過ぎると非磁性成分の溶出効果が低下するので好ましくなく、一方、薄過ぎると磁性元素が溶出し易くなるので好ましくない。そのため、還元剤の濃度は、0.01〜10モル/Lにするのが好ましく、0.05〜5モル/Lにするのがさらに好ましく、0.1〜5モル/Lにするのが最も好ましい。
【0020】
この還元剤を添加した後、液温を10〜50℃、好ましくは15〜40℃に保持しながら、10〜300分間浸出操作を行う。この浸出操作によって処理液中に非磁性成分が溶出し、金属磁性粉末の粒子中における磁性元素の量が相対的に上昇する。なお、この反応は、不活性ガス雰囲気において行うのが好ましい。
【0021】
(有機物処理工程)
次に、溶出処理した金属磁性粉末に有機物を付着させる有機物処理工程を行う。この有機物処理工程として、溶出処理に使用した液に有機溶剤や高分子有機化合物を直接投入してもよいし、溶出処理液から分離した金属磁性粉末に有機溶剤や高分子有機化合物溶液を含浸させてもよい。この有機物処理工程によって、金属磁性粉末に炭素成分を含有させるので、金属磁性粉末に有機物を均一に付着させるために、攪拌または強制分散(例えば、超音波分散など)を行うのが好ましい。
【0022】
この有機物処理工程に使用する有機化合物としては、メタノールやエタノールなどのアルコール類またはその誘導体、ジメチルエーテルやジエチルエーテルなどのエーテル類またはその誘導体を使用するのが好ましい。
【0023】
(酸化処理工程)
次に、必要に応じて、有機物処理した金属磁性粉末の粒子の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程を行う。この酸化処理工程は、有機物処理に使用した液に酸化物を投入して湿式法で酸化処理する工程でもよいし、有機物処理液から分離して抽出した金属磁性粉末を乾式法で酸化処理する工程でもよい。
【0024】
(再還元・安定化処理工程)
次に、必要に応じて、酸化処理した金属磁性粉末に再度還元処理を施し、その後、再度酸化雰囲気に曝す安定化処理を施す。この再還元・安定化処理工程によって先端部が丸みを帯びた粒子が得られ易くなるので好ましい。再還元工程は、水素ガスなどの還元雰囲気下において熱処理することによって行うことができる。熱処理温度は、150℃以上であるのが好ましいが、高温になり過ぎると粒子間焼結が起こり易くなるので、350℃以下にする必要があり、300℃以下にするのが好ましい。また、安定化処理は、酸化性ガス雰囲気において熱処理することによって行うことができる。この場合も、温度が高過ぎると焼結が生じ易いので、約150〜350℃で行うのが好ましい。
【0025】
このように、本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態は、金属磁性粉末の表層部に存在する(焼結防止剤のために添加した)希土類元素や(形状保持のために添加した)AlやSiのような直接磁気特性への関与が薄い非磁性成分を選択的に溶出除去する工程と、金属磁性粒子の表面に炭素化合物由来の被覆層を形成する工程とを備えているので、個々の粒子の分散を保持し易い金属磁性粉末を製造することができる。
【0026】
上述した本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態により製造された金属磁性粉末は、鉄または鉄とコバルトを主成分とする金属磁性相を有する粒子からなる金属磁性粉末である。すなわち、金属磁性相を構成する磁性元素(例えば、鉄、コバルト、ニッケル)のうち、鉄または鉄とコバルトの合計の原子割合が50%以上の金属磁性粉末である。この金属磁性粉末の表面には酸化膜が形成されており、鉄(Fe)とコバルト(Co)を主成分として含有する金属磁性粉末では、酸化膜と金属磁性相を含む金属磁性粉末の粒子全体に存在する元素のモル比として「Co含有量(at%)/Fe含有量(at%)×100」で表される、Feに対するCoの原子割合(以下「Co/Fe原子比」という)が、0〜50at%であるのが好ましく、5〜45at%であるのがさらに好ましく、10〜40at%であるのが最も好ましい。このような範囲であれば、安定した磁気特性が得られ易く、耐候性も良好になる。なお、酸化膜として鉄酸化物が検出されるが、その他の元素の酸化物が同時に存在してもよい。
【0027】
また、金属磁性粉末製造工程では、焼結防止のために(イットリウム(Y)を含む)希土類元素(R)、Al、Siなどの非磁性成分が添加されているが、これらの非磁性成分は、溶出処理工程において除去されているので、(R+Si+Al)/(Fe+Co)原子比が、20at%以下になり、好ましくは15at%以下、さらに好ましくは13at%以下、最も好ましくは12at%以下にすることができる。このように非磁性成分を除去することによって、従来の微粉化された金属磁性粉末と比べて、粒子体積が小さい割に飽和磁化が大きい粉末を得ることができる。
【0028】
また、上述した本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態により製造された金属磁性粉末には、有機物処理工程において有機物による表面被覆処理によって生じた炭素化合物成分が存在している。一般に、有機物処理を行わない金属磁性粉末には0.1質量%以下の炭素分が存在しているが、このように炭素分の含有量が少ないと、金属磁性粉末の個々の粒子の分散を保持するには不十分である。一方、炭素化合物は基本的には非磁性成分であるので、炭素化合物の被着量が多過ぎると、磁気特性を劣化させ、溶出処理工程において非磁性成分を除去した効果が損なわれるので好ましくない。そのため、金属磁性粉末中の炭素化合物として炭素の量は、0.5〜4.0質量%であるのが好ましく、1.0〜3.5質量%であるのがさらに好ましく、1.0〜3.0質量%であるのが最も好ましい。
【0029】
また、金属磁性粉末の粒子サイズについては、平均長軸長が10〜50nmであるのが好ましく、10〜40nmであるのがさらに好ましく、10〜35nmであるのが最も好ましい。平均長軸長が50nmを超えると、粒子体積が大きくなってしまい、磁気記録の高記録密度化に十分対応することが難しくなる。
【0030】
上述した本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態により製造された金属磁性粉末は、重層塗布型磁気記録媒体の磁性層に使用することができる。重層塗布型磁気記録媒体は、ベースフィルムの上に、下層として非磁性層を有し、その上に上層として磁性層を有するが、金属磁性粉末は、上層の磁性層を形成するための塗料中に配合させて使用することができる。
【0031】
なお、上層および下層のいずれの塗料も、各材料を所定組成となるような割合で配合し、ニーダーやサンドグラインダーを用いて混練・分散させる方法により調合することができる。ベースフィルムへの塗料の塗布は、下層が湿潤なうちに可及的に速やかに上層の磁性層を塗布する、所謂ウエット・オン・ウエット方式で行うことが好ましい。
【0032】
重層塗布型磁気記録媒体では、ベースフィルムとして、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネイト、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォンアラミド、芳香族ポリアミドなどの樹脂フィルムを使用することができる。また、下層の非磁性層用塗料として、例えば、非磁性粉末(DOWAエレクトロニクス(株)製のα−酸化鉄、平均長軸粒子径80nm)85質量部と、カーボンブラック20質量部と、アルミナ3質量部と、塩化ビニル樹脂(日本ゼオン(株)製の塩化ビニル系バインダーMR−110)15質量部と、ポリウレタン樹脂(東洋紡(株)製のポリウレタン樹脂UR−8200)15質量部と、メチルエチルケトン190質量部と、シクロヘキサノン80質量部と、トルエン110質量部とからなる組成の非磁性塗料を使用することができる。さらに、上層の磁性層用塗料として、例えば、金属磁性粉末100質量部と、カーボンブラック5質量部と、アルミナ3質量部と、塩化ビニル樹脂(日本ゼオン(株)製のMR−110)15質量部と、ポリウレタン樹脂(東洋紡(株)製のUR−8200)15質量部と、ステアリン酸1質量部と、アセチルアセトン1質量部と、メチルエチルケトン190質量部と、シクロヘキサノン80質量部と、トルエン110質量部とからなる組成の磁性塗料を使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明による金属磁性粉末およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0034】
[実施例1]
まず、5000mLのビーカーに純水3000mLを入れた後、温調機で30℃に維持しながら、0.03モル/Lの硫酸コバルト(特級試薬)溶液と0.15モル/Lの硫酸第一鉄(特級試薬)水溶液をCo:Fe=1:4の混合割合になるように混合した。この混合溶液500mLに、Fe+Coに対して炭酸が3当量になる量の顆粒状の炭酸ナトリウムを直接添加し、液中温度が40±5℃の範囲を超えないように調整しながら、炭酸鉄を主体とする懸濁液を作製した。この懸濁液を90分間熟成させた後、Feイオンの酸化率が20%になるように調整した量の空気を50mL/分の流量で添加して核晶を形成させ、60℃まで昇温させ、純酸素を50mL/分の流量で通気して60分間酸化を継続した。その後、純酸素を窒素に切り替えて、30分間程度熟成した。
【0035】
次に、液温を40℃まで降温させて温度が安定した後、1.0質量%のAlの硫酸アルミニウム水溶液を5.0g/分の添加速度で20分間添加し続けてオキシ水酸化鉄を成長させた。その後、純酸素を50mL/分の流量で流し続け、酸化を完結させた。なお、酸化の終点の確認は、上澄み液を少量分取し、ヘキサシアノ酸鉄カリウム溶液を添加して、液色が変化しないことを確認することによって行った。
【0036】
次に、酸化終了後の液に(イットリウムとして2.0質量%含有する)酸化イットリウムの硫酸水溶液300gを添加して、Alを固溶させ、イットリウムが表面に被着したオキシ水酸化鉄の粉末(ケーキ)を得た。
【0037】
このオキシ水酸化鉄のケーキを濾過し、水洗した後、130℃で6時間乾燥させ、オキシ水酸化鉄の乾燥固形物を得た。この乾燥固形物10gをバケットに入れ、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら大気中において400℃で焼成し、α−酸化鉄(ヘマタイト)を主成分とする鉄系酸化物を得た。
【0038】
このα−酸化鉄を主成分とする鉄系酸化物を通気可能なバケット内に投入した後、バケットを貫通型還元炉内に装入し、水素ガスを40L/分の流量で通気しながら、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら、400℃で30分間焼成させて還元処理を行った。この還元処理が終了した後、水蒸気の供給を停止し、水素雰囲気下において昇温速度10℃/分で600℃まで昇温させた。その後、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら60分間高温還元処理を行い、鉄系合金粉末(中間製品としての金属磁性粉末)を得た。
【0039】
次に、この粉末の溶出処理を行うために使用する処理液として、純水900mLに対して、錯化剤として酒石酸ナトリウムを0.05モル/L、緩衝剤として硫酸アンモニウムを0.1モル/Lになるように混合し、NH3でpH=9に調整した処理液を用意した。この処理液に還元処理後の粉末10gを投入して30℃に保持した後、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを0.3モル/Lになるように添加し、30℃で30分間撹拌しながら熟成させ、スラリーを得た。このスラリーを固液分離し、固形分を水洗し、濾過して濾過物を得た。
【0040】
この濾過物を2.0質量%のポリビニルアルコール水溶液(分子量18000〜27000)に入れ、25℃で30分間攪拌して有機物処理を行い、得られたスラリーから固形分を回収した。
【0041】
次に、回収した固形分を通気可能なバケット内に入れた後、バケットを貫通型還元炉内に装入し、50L/分の流量で窒素を導入しながら90℃で乾燥させて粉末を得た。その後、窒素と純酸素をそれぞれ50L/分および400mL/分の流量で混合したガスを炉内に添加し、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら、水蒸気と酸素と窒素の混合雰囲気中において、粉末の表面に酸化膜を形成し、表面の酸化による発熱が抑制された段階で純酸素の流量を徐々に増加することによって、混合雰囲気中における酸素濃度を上昇させ、最終的な純酸素の流量を2.0L/分にした。なお、炉内に導入されるガスの総量は、窒素の流量を調整することによってほぼ一定に保たれるようにし、この酸化処理は、約90℃に維持される雰囲気下において1時間行った。
【0042】
次に、表面に酸化膜を形成した粉末を250℃の水素雰囲気下に30分間曝すことによって再還元処理を行った後、上記の酸化処理と同様の方法によって安定化処理を行った。
【0043】
このようにして得られた金属磁性粉末(最終製品としての金属磁性粉末)について、組成分析、炭素含有量および磁気特性などの測定を行った。粉末の組成は、金属磁性相と酸化膜を含む粒子全体の質量分析を行うことによって求めた。なお、Co、Alおよび希土類元素(Yを含む)の定量は、日本ジャーレルアッシュ株式会社製の高周波誘導プラズマ発光分析装置ICP(IRIS/AP)を使用し、Feの定量は、平沼産業株式会社製の平沼自動滴定装置(CONTIME−980型)を使用して行った。また、粉末中の炭素含有量は、堀場製作所製のC/S同時分析装置EMIA−220Vを使用して測定した。さらに、粉末の磁気特性は、東英工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を使用して外部磁場10kOe(795.8kA/m)で測定した。その結果を表2および表3に示す。なお、本実施例において得られた金属磁性粉末の製造条件を表1に示し、表2の「非磁性/磁性」は、磁性成分(Fe、Co)に対する非磁性成分(Al、Y、C)の割合(百分率)を示している。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表2に示すように、金属磁性粉末中のFe、Co、Al、Y、Cの含有量は、それぞれ57.56質量%、12.4質量%、1.81質量%、4.98質量%、2.46質量%であり、非磁性/磁性は13.2%であった。また、表3に示すように、金属磁性粉末の保磁力は1881Oe(149.8kA/m)、飽和磁化は123.6Am2/kgであった。
【0048】
次に、得られた金属磁性粉末(最終製品としての金属磁性粉末)0.35gを秤量して(内径45mm、深さ13mmの)ポットに入れ、蓋を開けた状態で10分間放置した後、マイクロピペットでビヒクル(東洋紡製の塩化ビニル系樹脂MR−110(22質量%)と、シクロヘキサノン(38.7質量%)と、アセチルアセトン(0.3質量%)と、ステアリン酸−n−ブチル(0.3質量%)と、メチルエチルケトン(38.7質量%)の混合溶液)0.7mLを添加し、その直後にスチールボール(2φ)30g、ナイロンボール(8φ)10個をポットに加えて、蓋を閉じた状態で10分間静置した。その後、ポットを遠心式ボールミル(FRITSH P−6)にセットし、ゆっくりと回転数を上げて600rpmに調整し、60分間分散させた。遠心式ボールミルを停止した後、ポットを取り出し、予めメチルエチルケトンとトルエンを1:1で混合した調整液1.8mLをマイクロピペットで添加した。その後、再びポットを遠心式ボールミルにセットし、600rpmで5分間分散させ、磁性塗料を作製した。
【0049】
次に、ポットの蓋を開けてナイロンボールを取り除き、スチールボールごと磁性塗料をアプリケータ(550μm)に入れ、ベースフィルム(東レ株式会社製のポリエチレンフィルム15C−B500、膜厚15μm)上に磁性塗料を塗布し、迅速に5.5kGの配向器のコイル中心に置いて磁場配向させた後、乾燥させて磁気テープを作製した。なお、ここでは金属磁性粉末の効果をより鮮明に確認するため、非磁性層を設けず、磁性層単層のテープを作製した。
【0050】
このようにして作製した媒体としての磁気テープについて、東英工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を使用して磁気測定を行い、保磁力Hc、保磁力分布SFD、角形比SQ、配向比ORを求めた。その結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
表4に示すように、磁気テープの保磁力Hcは2533Oe(201.7kA/m)、保磁力分布SFDは0.70、角形比SQは0.788、配向比ORは2.32であった。
【0053】
[実施例2〜7]
有機物処理において使用したポリビニルアルコール水溶液の代わりに、実施例2では2.0質量%のアセチレングリコール系分散剤水溶液(日信化学工業株式会社製のExp.4036)、実施例3では10質量%のビニルピロリドン水溶液(分子量111.14)、実施例4では25質量%のエチレングリコール水溶液(分子量62.07)、実施例5では25質量%のジエチレングリコール水溶液(分子量106.12)、実施例6では25質量%のポリエチレングリコール200水溶液(分子量190〜200)、実施例7ではエタノールを使用した以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末および磁気テープを作製し、実施例1と同様の測定を行った。その製造条件および結果を表1〜表4に示す。
【0054】
[実施例8〜10]
有機物処理において使用したポリビニルアルコール水溶液の代わりに25質量%のエチレングリコール水溶液(分子量62.07)を使用し、回収した固形分を乾燥させる前に、メタノール(実施例8)、アセトン(実施例9)、イソプロピルアルコール(実施例10)中で攪拌して後処理を行った以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末および磁気テープを作製し、実施例1と同様の測定を行った。その製造条件および結果を表1〜表4に示す。
【0055】
[比較例1、2]
有機物処理において使用したポリビニルアルコール水溶液の代わりに、比較例1では2.0質量%のポリビニルピロリドンK30水溶液(分子量40000)、比較例2では25質量%ポリエチレングリコール400水溶液(分子量380〜400)を使用した以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末および磁気テープを作製し、実施例1と同様の測定を行った。その製造条件および結果を表1〜表4に示す。
【0056】
[比較例3]
溶出処理と有機物処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末および磁気テープを作製し、実施例1と同様の測定を行った。その製造条件および結果を表1〜表4に示す。
【0057】
[比較例4]
有機物処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末および磁気テープを作製し、実施例1と同様の測定を行った。その製造条件および結果を表1〜表4に示す。
【0058】
また、実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末の炭素含有量と、保磁力Hc、飽和磁化、磁気テープの保磁力分布SFDなどの各特性との関係を図1〜図3に示し、非磁性成分/磁性成分と各特性との関係を図4〜図6に示す。
【0059】
図1〜図3に示すように、金属磁性粉末中の炭素含有量が4.0質量%を超える領域では、各特性が飽和または低下している。この領域では、有機物処理による効果が飽和していると考えられ、過剰の炭素分が磁気特性を悪くする方向に働いている。また、炭素含有量が0.5質量%未満の領域では、磁気記録に重要な特性である保磁力Hcを始め、各特性が悪化する傾向が見られる。また、炭素含有量が5.0質量%を超える領域では、各特性間のバランスが悪くなる。例えば、金属磁性粉末の磁気特性が実施例1〜10と同等である比較例2でも、媒体の保磁力分布が悪化し、実施例1〜10のような金属磁性粉末と媒体のバランスがとれていないことがわかる。
【0060】
また、実施例1で得られた金属磁性粉末の粒子の30,000倍と174,000倍の透過型電子顕微鏡(TEM)写真をそれぞれ図7および図8に示し、比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子の30,000倍と174,000倍のTEM写真をそれぞれ図9および図10に示す。比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子のTEM写真には、焼結によると考えられる粒子集団(数十個の粒子の塊)が所々に観察されるのに対し、実施例1で得られた金属磁性粉末の粒子のTEM写真には、そのような粒子集団が殆ど観察されないので、実施例1で得られた金属磁性粉末では、このような良好な分散性が配向性を向上させるのに働いていると考えられ、粒子の独立性が担保できる。
【0061】
また、実施例5、7および比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子のX線回折図を図11に示す。得られた回折線をJCPDS(Joint Committee on Powder Deffraction Standards)で確認したところ、いずれのピークもFeのみを示す回折線になり、FeとCは炭化鉄のような化合物に変化していないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末について炭素含有量と保磁力Hcの関係を示すグラフである。
【図2】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末について炭素含有量と飽和磁化の関係を示すグラフである。
【図3】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末を使用した磁気テープについて金属磁性粉末中の炭素含有量と保磁力分布SFDの関係を示すグラフである。
【図4】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末について非磁性成分/磁性成分と保磁力Hcの関係を示すグラフである。
【図5】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末について非磁性成分/磁性成分と飽和磁化の関係を示すグラフである。
【図6】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末を使用した磁気テープについて金属磁性粉末中の非磁性成分/磁性成分と保磁力分布SFDの関係を示すグラフである。
【図7】実施例1で得られた金属磁性粉末の粒子の30,000倍のTEM写真である。
【図8】実施例1で得られた金属磁性粉末の粒子の174,000倍のTEM写真である。
【図9】比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子の30,000倍のTEM写真である。
【図10】比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子の174,000倍のTEM写真である。
【図11】実施例5、7および比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子のX線回折図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属磁性粉末およびその製造方法に関し、特に、塗布型磁気記録媒体に使用される強磁性金属粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布型磁気記録媒体に使用される代表的な金属磁性粉末として、鉄を主成分として含有する鉄系磁性粉末がある。このような鉄系金属磁性粉末は、工業的には、オキシ水酸化鉄または酸化鉄を主体とした針状粉末に、形状保持のためにSiやAlなどを含有させるとともに、焼結防止のために希土類元素やアルカリ土類金属元素などを含有させて、焼成した後に還元することによって製造されている。このような鉄系金属磁性粉末を製造する従来の方法として、α−FeOOHにNi、Co、Al、Siおよび希土類元素の化合物を被着させ、非還元性雰囲気下で熱処理し、次いで還元性ガスで還元する方法(例えば、特許文献1参照)や、含水酸化鉄の粒子表面に希土類金属化合物やAl化合物などを被着させた後、不活性ガス雰囲気において加熱脱水し、次いで還元性ガスで還元する方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0003】
近年、塗布型磁気記録媒体などの磁気記録媒体では、大容量化に伴って記録密度を高めることが要求されており、磁気記録媒体の記録密度を高めるためには、磁性粉末の粒子体積を小さくすることが必要になる。
【0004】
しかし、磁性粉末を微粒子化すると、磁性粉末の粒子の形状を保持し難くなるため、形状保持のために添加するSiやAlなどの量や、焼結防止のために添加する希土類元素などの量を増加させることが必要になる。しかし、形状保持のために添加するSiやAlなどや、焼結防止のために添加する希土類元素などは、熱処理工程後には既に役割を終えており、何ら磁性に影響を及ぼすものではなく、粒子体積を大きくするだけであり、粒子性ノイズの低減のためには少ない方がよい。特に、磁性粉末の粒子の表層部に存在する希土類元素などや、SiやAlなどの非磁性成分を除去して、粒子体積を小さくするのが望ましい。
【0005】
本出願人は、このような磁性粉末の粒子の表層部に存在する希土類元素などや、SiやAlなどの非磁性成分を除去して、粒子体積を小さくするために、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有する金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去する方法を提案している(特願2006−261531)。
【0006】
【特許文献1】特開平6−25702号公報(段落番号0006)
【特許文献2】特開平11−189421号公報(段落番号0011)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去して、金属磁性粉末の粒子を微細化すると、粒子同士が凝集して凝集体を形成し易くなる。このような凝集体が大量に存在する金属磁性粉末を、塗布型磁気記録媒体の表面の磁性層を形成するために使用すると、個々の粒子の粒度分布を改善しても、より薄層になる磁性層を形成するための塗料に使用するには適さない。
【0008】
したがって、本発明は、粒子を小さくしても粒子同士の凝集を防止することができる、金属磁性粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去するとともに、金属磁性粉末の表面に有機物を付着させることにより、金属磁性粉末の粒子を小さくしても粒子同士の凝集を防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明による金属磁性粉末の製造方法は、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した後の金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
この金属磁性粉末の製造方法において、非磁性成分は、(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上であるのが好ましい。また、非磁性成分を溶出除去する工程が、非磁性成分と錯体を形成し得る錯化剤を添加した溶液に、非磁性成分を含有する金属磁性粉末を添加して分散させた後、還元剤を添加し、浸出によって溶液中に非磁性成分を溶出除去する工程であるのが好ましい。また、金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程は、非磁性成分を溶出除去する工程において使用した溶液中に、有機溶剤または高分子有機化合物を添加することによって、金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程でもよいし、あるいは、非磁性成分を溶出除去する工程において使用した溶液から分離した金属磁性粉末に、有機溶剤または高分子有機化合物溶液を含浸させることによって、金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程でもよい。これらの場合、有機溶剤または高分子有機化合物が、アルコール、エーテルおよびそれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上であるのが好ましい。さらに、有機物を付着させた金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程を含むのが好ましく、酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する安定化処理工程を含むのが好ましい。
【0012】
また、本発明による金属磁性粉末は、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有するとともに、0.5〜4.0質量%の炭素を含有し、磁性成分の含有量に対する非磁性成分の含有量の割合が20%以下であることを特徴とする。
【0013】
この金属磁性粉末において、磁性成分が、鉄または鉄とコバルトであり、非磁性成分が、(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上と、炭素を含むのが好ましい。また、金属磁性粉末の粒子の平均長軸長が10〜50nmであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末の表層部に存在する非磁性成分を溶出除去するとともに、金属磁性粉末の表面に有機物を付着させることにより、金属磁性粉末の粒子を小さくしても粒子同士の凝集を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態は、形状保持や焼結防止のために非磁性成分が添加された原料粉末を焼成した後に還元して、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ形状保持や焼結防止のために添加された非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する金属磁性粉末製造工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する溶出処理工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した後の金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる有機物処理工程と、有機物を付着させた金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程と、酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する再還元・安定化処理工程とを備えている。以下、これらの工程について説明する。
【0016】
(金属磁性粉末製造工程)
形状保持や焼結防止のために非磁性成分が添加された原料粉末を焼成した後に還元して、鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ形状保持や焼結防止のために添加された非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造するまでの工程としては、一般的な金属磁性粉末の製造工程を採用することができる。例えば、コバルトおよび焼結防止のために添加した希土類元素などを含有するオキシ水酸化鉄を250〜700℃で焼成して、α−Fe2O3などの鉄酸化物にした後、この鉄酸化物を気相還元によって加熱還元して、α−Feを主成分として含有し且つ希土類元素などの非磁性成分を含有する金属磁性粉末(中間製品としての金属磁性粉末)を得る。
【0017】
(溶出処理工程)
このようにして得られた金属磁性粉末に含まれる希土類元素(イットリウムを含む)、アルミニウム(Al)および珪素(Si)の少なくとも1種以上と錯体を形成し得る化合物(錯化剤)を溶解した溶液を処理液として用意する。この処理液は、室温付近の温度で調整することができる。錯化剤としては、無電解めっきにおいて錯化剤として通常使用されている薬品、例えば、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩などを使用することができる。錯化剤の濃度は、0.01〜10モル/L程度でよい。また、必要に応じて、pH緩衝効果がある物質、例えば、アンモニウム塩などを添加してもよい。
【0018】
次に、この処理液に金属磁性粉末を添加する。金属磁性粉末の添加量は、多過ぎると反応が不均一になる可能性があるので、処理液1L当たり1〜100g程度であるのが好ましく、5〜50g程度であるのがさらに好ましい。また、液中の反応の均一性を維持するため、撹拌または強制分散(例えば、超音波分散など)を行うのが好ましい。
【0019】
処理液中に金属磁性粉末が均一に分散させた後、還元剤を添加する。この還元剤としては、ヒドラジン(N2H2)、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)、ナトリウムボロンハイドライド(NaBH4)のような強還元剤を使用することができる。還元能力が弱い還元剤を使用すると、磁性元素の溶出が起こり易くなるので好ましくない。また、還元剤の濃度は、濃過ぎると非磁性成分の溶出効果が低下するので好ましくなく、一方、薄過ぎると磁性元素が溶出し易くなるので好ましくない。そのため、還元剤の濃度は、0.01〜10モル/Lにするのが好ましく、0.05〜5モル/Lにするのがさらに好ましく、0.1〜5モル/Lにするのが最も好ましい。
【0020】
この還元剤を添加した後、液温を10〜50℃、好ましくは15〜40℃に保持しながら、10〜300分間浸出操作を行う。この浸出操作によって処理液中に非磁性成分が溶出し、金属磁性粉末の粒子中における磁性元素の量が相対的に上昇する。なお、この反応は、不活性ガス雰囲気において行うのが好ましい。
【0021】
(有機物処理工程)
次に、溶出処理した金属磁性粉末に有機物を付着させる有機物処理工程を行う。この有機物処理工程として、溶出処理に使用した液に有機溶剤や高分子有機化合物を直接投入してもよいし、溶出処理液から分離した金属磁性粉末に有機溶剤や高分子有機化合物溶液を含浸させてもよい。この有機物処理工程によって、金属磁性粉末に炭素成分を含有させるので、金属磁性粉末に有機物を均一に付着させるために、攪拌または強制分散(例えば、超音波分散など)を行うのが好ましい。
【0022】
この有機物処理工程に使用する有機化合物としては、メタノールやエタノールなどのアルコール類またはその誘導体、ジメチルエーテルやジエチルエーテルなどのエーテル類またはその誘導体を使用するのが好ましい。
【0023】
(酸化処理工程)
次に、必要に応じて、有機物処理した金属磁性粉末の粒子の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程を行う。この酸化処理工程は、有機物処理に使用した液に酸化物を投入して湿式法で酸化処理する工程でもよいし、有機物処理液から分離して抽出した金属磁性粉末を乾式法で酸化処理する工程でもよい。
【0024】
(再還元・安定化処理工程)
次に、必要に応じて、酸化処理した金属磁性粉末に再度還元処理を施し、その後、再度酸化雰囲気に曝す安定化処理を施す。この再還元・安定化処理工程によって先端部が丸みを帯びた粒子が得られ易くなるので好ましい。再還元工程は、水素ガスなどの還元雰囲気下において熱処理することによって行うことができる。熱処理温度は、150℃以上であるのが好ましいが、高温になり過ぎると粒子間焼結が起こり易くなるので、350℃以下にする必要があり、300℃以下にするのが好ましい。また、安定化処理は、酸化性ガス雰囲気において熱処理することによって行うことができる。この場合も、温度が高過ぎると焼結が生じ易いので、約150〜350℃で行うのが好ましい。
【0025】
このように、本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態は、金属磁性粉末の表層部に存在する(焼結防止剤のために添加した)希土類元素や(形状保持のために添加した)AlやSiのような直接磁気特性への関与が薄い非磁性成分を選択的に溶出除去する工程と、金属磁性粒子の表面に炭素化合物由来の被覆層を形成する工程とを備えているので、個々の粒子の分散を保持し易い金属磁性粉末を製造することができる。
【0026】
上述した本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態により製造された金属磁性粉末は、鉄または鉄とコバルトを主成分とする金属磁性相を有する粒子からなる金属磁性粉末である。すなわち、金属磁性相を構成する磁性元素(例えば、鉄、コバルト、ニッケル)のうち、鉄または鉄とコバルトの合計の原子割合が50%以上の金属磁性粉末である。この金属磁性粉末の表面には酸化膜が形成されており、鉄(Fe)とコバルト(Co)を主成分として含有する金属磁性粉末では、酸化膜と金属磁性相を含む金属磁性粉末の粒子全体に存在する元素のモル比として「Co含有量(at%)/Fe含有量(at%)×100」で表される、Feに対するCoの原子割合(以下「Co/Fe原子比」という)が、0〜50at%であるのが好ましく、5〜45at%であるのがさらに好ましく、10〜40at%であるのが最も好ましい。このような範囲であれば、安定した磁気特性が得られ易く、耐候性も良好になる。なお、酸化膜として鉄酸化物が検出されるが、その他の元素の酸化物が同時に存在してもよい。
【0027】
また、金属磁性粉末製造工程では、焼結防止のために(イットリウム(Y)を含む)希土類元素(R)、Al、Siなどの非磁性成分が添加されているが、これらの非磁性成分は、溶出処理工程において除去されているので、(R+Si+Al)/(Fe+Co)原子比が、20at%以下になり、好ましくは15at%以下、さらに好ましくは13at%以下、最も好ましくは12at%以下にすることができる。このように非磁性成分を除去することによって、従来の微粉化された金属磁性粉末と比べて、粒子体積が小さい割に飽和磁化が大きい粉末を得ることができる。
【0028】
また、上述した本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態により製造された金属磁性粉末には、有機物処理工程において有機物による表面被覆処理によって生じた炭素化合物成分が存在している。一般に、有機物処理を行わない金属磁性粉末には0.1質量%以下の炭素分が存在しているが、このように炭素分の含有量が少ないと、金属磁性粉末の個々の粒子の分散を保持するには不十分である。一方、炭素化合物は基本的には非磁性成分であるので、炭素化合物の被着量が多過ぎると、磁気特性を劣化させ、溶出処理工程において非磁性成分を除去した効果が損なわれるので好ましくない。そのため、金属磁性粉末中の炭素化合物として炭素の量は、0.5〜4.0質量%であるのが好ましく、1.0〜3.5質量%であるのがさらに好ましく、1.0〜3.0質量%であるのが最も好ましい。
【0029】
また、金属磁性粉末の粒子サイズについては、平均長軸長が10〜50nmであるのが好ましく、10〜40nmであるのがさらに好ましく、10〜35nmであるのが最も好ましい。平均長軸長が50nmを超えると、粒子体積が大きくなってしまい、磁気記録の高記録密度化に十分対応することが難しくなる。
【0030】
上述した本発明による金属磁性粉末の製造方法の実施の形態により製造された金属磁性粉末は、重層塗布型磁気記録媒体の磁性層に使用することができる。重層塗布型磁気記録媒体は、ベースフィルムの上に、下層として非磁性層を有し、その上に上層として磁性層を有するが、金属磁性粉末は、上層の磁性層を形成するための塗料中に配合させて使用することができる。
【0031】
なお、上層および下層のいずれの塗料も、各材料を所定組成となるような割合で配合し、ニーダーやサンドグラインダーを用いて混練・分散させる方法により調合することができる。ベースフィルムへの塗料の塗布は、下層が湿潤なうちに可及的に速やかに上層の磁性層を塗布する、所謂ウエット・オン・ウエット方式で行うことが好ましい。
【0032】
重層塗布型磁気記録媒体では、ベースフィルムとして、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネイト、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォンアラミド、芳香族ポリアミドなどの樹脂フィルムを使用することができる。また、下層の非磁性層用塗料として、例えば、非磁性粉末(DOWAエレクトロニクス(株)製のα−酸化鉄、平均長軸粒子径80nm)85質量部と、カーボンブラック20質量部と、アルミナ3質量部と、塩化ビニル樹脂(日本ゼオン(株)製の塩化ビニル系バインダーMR−110)15質量部と、ポリウレタン樹脂(東洋紡(株)製のポリウレタン樹脂UR−8200)15質量部と、メチルエチルケトン190質量部と、シクロヘキサノン80質量部と、トルエン110質量部とからなる組成の非磁性塗料を使用することができる。さらに、上層の磁性層用塗料として、例えば、金属磁性粉末100質量部と、カーボンブラック5質量部と、アルミナ3質量部と、塩化ビニル樹脂(日本ゼオン(株)製のMR−110)15質量部と、ポリウレタン樹脂(東洋紡(株)製のUR−8200)15質量部と、ステアリン酸1質量部と、アセチルアセトン1質量部と、メチルエチルケトン190質量部と、シクロヘキサノン80質量部と、トルエン110質量部とからなる組成の磁性塗料を使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明による金属磁性粉末およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0034】
[実施例1]
まず、5000mLのビーカーに純水3000mLを入れた後、温調機で30℃に維持しながら、0.03モル/Lの硫酸コバルト(特級試薬)溶液と0.15モル/Lの硫酸第一鉄(特級試薬)水溶液をCo:Fe=1:4の混合割合になるように混合した。この混合溶液500mLに、Fe+Coに対して炭酸が3当量になる量の顆粒状の炭酸ナトリウムを直接添加し、液中温度が40±5℃の範囲を超えないように調整しながら、炭酸鉄を主体とする懸濁液を作製した。この懸濁液を90分間熟成させた後、Feイオンの酸化率が20%になるように調整した量の空気を50mL/分の流量で添加して核晶を形成させ、60℃まで昇温させ、純酸素を50mL/分の流量で通気して60分間酸化を継続した。その後、純酸素を窒素に切り替えて、30分間程度熟成した。
【0035】
次に、液温を40℃まで降温させて温度が安定した後、1.0質量%のAlの硫酸アルミニウム水溶液を5.0g/分の添加速度で20分間添加し続けてオキシ水酸化鉄を成長させた。その後、純酸素を50mL/分の流量で流し続け、酸化を完結させた。なお、酸化の終点の確認は、上澄み液を少量分取し、ヘキサシアノ酸鉄カリウム溶液を添加して、液色が変化しないことを確認することによって行った。
【0036】
次に、酸化終了後の液に(イットリウムとして2.0質量%含有する)酸化イットリウムの硫酸水溶液300gを添加して、Alを固溶させ、イットリウムが表面に被着したオキシ水酸化鉄の粉末(ケーキ)を得た。
【0037】
このオキシ水酸化鉄のケーキを濾過し、水洗した後、130℃で6時間乾燥させ、オキシ水酸化鉄の乾燥固形物を得た。この乾燥固形物10gをバケットに入れ、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら大気中において400℃で焼成し、α−酸化鉄(ヘマタイト)を主成分とする鉄系酸化物を得た。
【0038】
このα−酸化鉄を主成分とする鉄系酸化物を通気可能なバケット内に投入した後、バケットを貫通型還元炉内に装入し、水素ガスを40L/分の流量で通気しながら、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら、400℃で30分間焼成させて還元処理を行った。この還元処理が終了した後、水蒸気の供給を停止し、水素雰囲気下において昇温速度10℃/分で600℃まで昇温させた。その後、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら60分間高温還元処理を行い、鉄系合金粉末(中間製品としての金属磁性粉末)を得た。
【0039】
次に、この粉末の溶出処理を行うために使用する処理液として、純水900mLに対して、錯化剤として酒石酸ナトリウムを0.05モル/L、緩衝剤として硫酸アンモニウムを0.1モル/Lになるように混合し、NH3でpH=9に調整した処理液を用意した。この処理液に還元処理後の粉末10gを投入して30℃に保持した後、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを0.3モル/Lになるように添加し、30℃で30分間撹拌しながら熟成させ、スラリーを得た。このスラリーを固液分離し、固形分を水洗し、濾過して濾過物を得た。
【0040】
この濾過物を2.0質量%のポリビニルアルコール水溶液(分子量18000〜27000)に入れ、25℃で30分間攪拌して有機物処理を行い、得られたスラリーから固形分を回収した。
【0041】
次に、回収した固形分を通気可能なバケット内に入れた後、バケットを貫通型還元炉内に装入し、50L/分の流量で窒素を導入しながら90℃で乾燥させて粉末を得た。その後、窒素と純酸素をそれぞれ50L/分および400mL/分の流量で混合したガスを炉内に添加し、水の流量として1.0g/分で水蒸気を添加しながら、水蒸気と酸素と窒素の混合雰囲気中において、粉末の表面に酸化膜を形成し、表面の酸化による発熱が抑制された段階で純酸素の流量を徐々に増加することによって、混合雰囲気中における酸素濃度を上昇させ、最終的な純酸素の流量を2.0L/分にした。なお、炉内に導入されるガスの総量は、窒素の流量を調整することによってほぼ一定に保たれるようにし、この酸化処理は、約90℃に維持される雰囲気下において1時間行った。
【0042】
次に、表面に酸化膜を形成した粉末を250℃の水素雰囲気下に30分間曝すことによって再還元処理を行った後、上記の酸化処理と同様の方法によって安定化処理を行った。
【0043】
このようにして得られた金属磁性粉末(最終製品としての金属磁性粉末)について、組成分析、炭素含有量および磁気特性などの測定を行った。粉末の組成は、金属磁性相と酸化膜を含む粒子全体の質量分析を行うことによって求めた。なお、Co、Alおよび希土類元素(Yを含む)の定量は、日本ジャーレルアッシュ株式会社製の高周波誘導プラズマ発光分析装置ICP(IRIS/AP)を使用し、Feの定量は、平沼産業株式会社製の平沼自動滴定装置(CONTIME−980型)を使用して行った。また、粉末中の炭素含有量は、堀場製作所製のC/S同時分析装置EMIA−220Vを使用して測定した。さらに、粉末の磁気特性は、東英工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を使用して外部磁場10kOe(795.8kA/m)で測定した。その結果を表2および表3に示す。なお、本実施例において得られた金属磁性粉末の製造条件を表1に示し、表2の「非磁性/磁性」は、磁性成分(Fe、Co)に対する非磁性成分(Al、Y、C)の割合(百分率)を示している。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表2に示すように、金属磁性粉末中のFe、Co、Al、Y、Cの含有量は、それぞれ57.56質量%、12.4質量%、1.81質量%、4.98質量%、2.46質量%であり、非磁性/磁性は13.2%であった。また、表3に示すように、金属磁性粉末の保磁力は1881Oe(149.8kA/m)、飽和磁化は123.6Am2/kgであった。
【0048】
次に、得られた金属磁性粉末(最終製品としての金属磁性粉末)0.35gを秤量して(内径45mm、深さ13mmの)ポットに入れ、蓋を開けた状態で10分間放置した後、マイクロピペットでビヒクル(東洋紡製の塩化ビニル系樹脂MR−110(22質量%)と、シクロヘキサノン(38.7質量%)と、アセチルアセトン(0.3質量%)と、ステアリン酸−n−ブチル(0.3質量%)と、メチルエチルケトン(38.7質量%)の混合溶液)0.7mLを添加し、その直後にスチールボール(2φ)30g、ナイロンボール(8φ)10個をポットに加えて、蓋を閉じた状態で10分間静置した。その後、ポットを遠心式ボールミル(FRITSH P−6)にセットし、ゆっくりと回転数を上げて600rpmに調整し、60分間分散させた。遠心式ボールミルを停止した後、ポットを取り出し、予めメチルエチルケトンとトルエンを1:1で混合した調整液1.8mLをマイクロピペットで添加した。その後、再びポットを遠心式ボールミルにセットし、600rpmで5分間分散させ、磁性塗料を作製した。
【0049】
次に、ポットの蓋を開けてナイロンボールを取り除き、スチールボールごと磁性塗料をアプリケータ(550μm)に入れ、ベースフィルム(東レ株式会社製のポリエチレンフィルム15C−B500、膜厚15μm)上に磁性塗料を塗布し、迅速に5.5kGの配向器のコイル中心に置いて磁場配向させた後、乾燥させて磁気テープを作製した。なお、ここでは金属磁性粉末の効果をより鮮明に確認するため、非磁性層を設けず、磁性層単層のテープを作製した。
【0050】
このようにして作製した媒体としての磁気テープについて、東英工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を使用して磁気測定を行い、保磁力Hc、保磁力分布SFD、角形比SQ、配向比ORを求めた。その結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
表4に示すように、磁気テープの保磁力Hcは2533Oe(201.7kA/m)、保磁力分布SFDは0.70、角形比SQは0.788、配向比ORは2.32であった。
【0053】
[実施例2〜7]
有機物処理において使用したポリビニルアルコール水溶液の代わりに、実施例2では2.0質量%のアセチレングリコール系分散剤水溶液(日信化学工業株式会社製のExp.4036)、実施例3では10質量%のビニルピロリドン水溶液(分子量111.14)、実施例4では25質量%のエチレングリコール水溶液(分子量62.07)、実施例5では25質量%のジエチレングリコール水溶液(分子量106.12)、実施例6では25質量%のポリエチレングリコール200水溶液(分子量190〜200)、実施例7ではエタノールを使用した以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末および磁気テープを作製し、実施例1と同様の測定を行った。その製造条件および結果を表1〜表4に示す。
【0054】
[実施例8〜10]
有機物処理において使用したポリビニルアルコール水溶液の代わりに25質量%のエチレングリコール水溶液(分子量62.07)を使用し、回収した固形分を乾燥させる前に、メタノール(実施例8)、アセトン(実施例9)、イソプロピルアルコール(実施例10)中で攪拌して後処理を行った以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末および磁気テープを作製し、実施例1と同様の測定を行った。その製造条件および結果を表1〜表4に示す。
【0055】
[比較例1、2]
有機物処理において使用したポリビニルアルコール水溶液の代わりに、比較例1では2.0質量%のポリビニルピロリドンK30水溶液(分子量40000)、比較例2では25質量%ポリエチレングリコール400水溶液(分子量380〜400)を使用した以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末および磁気テープを作製し、実施例1と同様の測定を行った。その製造条件および結果を表1〜表4に示す。
【0056】
[比較例3]
溶出処理と有機物処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末および磁気テープを作製し、実施例1と同様の測定を行った。その製造条件および結果を表1〜表4に示す。
【0057】
[比較例4]
有機物処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の処理により、金属磁性粉末および磁気テープを作製し、実施例1と同様の測定を行った。その製造条件および結果を表1〜表4に示す。
【0058】
また、実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末の炭素含有量と、保磁力Hc、飽和磁化、磁気テープの保磁力分布SFDなどの各特性との関係を図1〜図3に示し、非磁性成分/磁性成分と各特性との関係を図4〜図6に示す。
【0059】
図1〜図3に示すように、金属磁性粉末中の炭素含有量が4.0質量%を超える領域では、各特性が飽和または低下している。この領域では、有機物処理による効果が飽和していると考えられ、過剰の炭素分が磁気特性を悪くする方向に働いている。また、炭素含有量が0.5質量%未満の領域では、磁気記録に重要な特性である保磁力Hcを始め、各特性が悪化する傾向が見られる。また、炭素含有量が5.0質量%を超える領域では、各特性間のバランスが悪くなる。例えば、金属磁性粉末の磁気特性が実施例1〜10と同等である比較例2でも、媒体の保磁力分布が悪化し、実施例1〜10のような金属磁性粉末と媒体のバランスがとれていないことがわかる。
【0060】
また、実施例1で得られた金属磁性粉末の粒子の30,000倍と174,000倍の透過型電子顕微鏡(TEM)写真をそれぞれ図7および図8に示し、比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子の30,000倍と174,000倍のTEM写真をそれぞれ図9および図10に示す。比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子のTEM写真には、焼結によると考えられる粒子集団(数十個の粒子の塊)が所々に観察されるのに対し、実施例1で得られた金属磁性粉末の粒子のTEM写真には、そのような粒子集団が殆ど観察されないので、実施例1で得られた金属磁性粉末では、このような良好な分散性が配向性を向上させるのに働いていると考えられ、粒子の独立性が担保できる。
【0061】
また、実施例5、7および比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子のX線回折図を図11に示す。得られた回折線をJCPDS(Joint Committee on Powder Deffraction Standards)で確認したところ、いずれのピークもFeのみを示す回折線になり、FeとCは炭化鉄のような化合物に変化していないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末について炭素含有量と保磁力Hcの関係を示すグラフである。
【図2】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末について炭素含有量と飽和磁化の関係を示すグラフである。
【図3】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末を使用した磁気テープについて金属磁性粉末中の炭素含有量と保磁力分布SFDの関係を示すグラフである。
【図4】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末について非磁性成分/磁性成分と保磁力Hcの関係を示すグラフである。
【図5】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末について非磁性成分/磁性成分と飽和磁化の関係を示すグラフである。
【図6】実施例1〜10および比較例1〜4で得られた金属磁性粉末を使用した磁気テープについて金属磁性粉末中の非磁性成分/磁性成分と保磁力分布SFDの関係を示すグラフである。
【図7】実施例1で得られた金属磁性粉末の粒子の30,000倍のTEM写真である。
【図8】実施例1で得られた金属磁性粉末の粒子の174,000倍のTEM写真である。
【図9】比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子の30,000倍のTEM写真である。
【図10】比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子の174,000倍のTEM写真である。
【図11】実施例5、7および比較例3で得られた金属磁性粉末の粒子のX線回折図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した後の金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程とを備えた、金属磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
前記非磁性成分が、(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記非磁性成分を溶出除去する工程が、前記非磁性成分と錯体を形成し得る錯化剤を添加した溶液に、前記非磁性成分を含有する金属磁性粉末を添加して分散させた後、還元剤を添加し、浸出によって前記溶液中に前記非磁性成分を溶出除去する工程である、請求項1または2に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程が、前記非磁性成分を溶出除去する工程において使用した前記溶液中に、有機溶剤または高分子有機化合物を添加することによって、前記金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程である、請求項3に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程が、前記非磁性成分を溶出除去する工程において使用した前記溶液から分離した金属磁性粉末に、有機溶剤または高分子有機化合物溶液を含浸させることによって、前記金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程である、請求項3に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶剤または高分子有機化合物が、アルコール、エーテルおよびそれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上である、請求項4または5に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
前記有機物を付着させた金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程を含む、請求項1乃至6のいずれかに記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項8】
前記酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する安定化処理工程を含む、請求項7に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項9】
鉄または鉄とコバルトを主成分として含有するとともに、0.5〜4.0質量%の炭素を含有し、磁性成分の含有量に対する非磁性成分の含有量の割合が20%以下である、金属磁性粉末。
【請求項10】
前記磁性成分が、鉄または鉄とコバルトであり、前記非磁性成分が、(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上と、炭素を含む、請求項9に記載の金属磁性粉末。
【請求項11】
前記金属磁性粉末の粒子の平均長軸長が10〜50nmである、請求項9または10に記載の金属磁性粉末。
【請求項1】
鉄または鉄とコバルトを主成分として含有し且つ非磁性成分を含有する金属磁性粉末を製造する工程と、この金属磁性粉末の表層部の非磁性成分を溶出除去する工程と、表層部の非磁性成分を溶出除去した後の金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程とを備えた、金属磁性粉末の製造方法。
【請求項2】
前記非磁性成分が、(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記非磁性成分を溶出除去する工程が、前記非磁性成分と錯体を形成し得る錯化剤を添加した溶液に、前記非磁性成分を含有する金属磁性粉末を添加して分散させた後、還元剤を添加し、浸出によって前記溶液中に前記非磁性成分を溶出除去する工程である、請求項1または2に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程が、前記非磁性成分を溶出除去する工程において使用した前記溶液中に、有機溶剤または高分子有機化合物を添加することによって、前記金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程である、請求項3に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程が、前記非磁性成分を溶出除去する工程において使用した前記溶液から分離した金属磁性粉末に、有機溶剤または高分子有機化合物溶液を含浸させることによって、前記金属磁性粉末の表面に有機物を付着させる工程である、請求項3に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶剤または高分子有機化合物が、アルコール、エーテルおよびそれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上である、請求項4または5に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
前記有機物を付着させた金属磁性粉末の表面に酸化膜を形成する酸化処理工程を含む、請求項1乃至6のいずれかに記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項8】
前記酸化膜を形成した金属磁性粉末を還元処理した後に酸化処理する安定化処理工程を含む、請求項7に記載の金属磁性粉末の製造方法。
【請求項9】
鉄または鉄とコバルトを主成分として含有するとともに、0.5〜4.0質量%の炭素を含有し、磁性成分の含有量に対する非磁性成分の含有量の割合が20%以下である、金属磁性粉末。
【請求項10】
前記磁性成分が、鉄または鉄とコバルトであり、前記非磁性成分が、(イットリウムを含む)希土類元素、アルミニウムおよび珪素からなる群から選ばれる1種以上と、炭素を含む、請求項9に記載の金属磁性粉末。
【請求項11】
前記金属磁性粉末の粒子の平均長軸長が10〜50nmである、請求項9または10に記載の金属磁性粉末。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−84600(P2009−84600A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252450(P2007−252450)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
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