説明

金属精製方法及び装置、精製金属、鋳造品、金属製品及び電解コンデンサ

【課題】旋回流抑止部材の溶湯中への設置により、不純物の除去を効率的に行うものでありながら、精製中に生じる気泡や酸化物が溶湯の表面近傍へ残留して溶湯表面が凝固するのを防止することができる金属精製法及び装置等を提供する。
【解決手段】容器1に収容された精製すべき溶湯2中に冷却体3を浸漬し、この冷却体3を前記容器に対して相対的に回転させながら冷却体表面に高純度金属を晶出させる金属の精製方法において、冷却体3の回転によって引き起こされる溶湯2の旋回流を抑止するように、旋回流抑止部材61、62を溶湯中に配置して精製を行い、精製途中で前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属の精製方法及び装置に関し,更に詳しく言えば、偏析凝固法の原理を利用して共晶不純物を含むアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、鉛、亜鉛等の金属から、共晶不純物の含有量を元の金属よりも少なくし,高純度の金属を製造する方法及び装置に関し、さらには前記方法により精製された金属、この金属を用いた鋳造品、金属製品及び電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム中に不純物、特にアルミニウムと共晶を生成するFe、Si、Cu等の不純物が含まれている場合、これらの不純物を除去して高純度のアルミニウムを得るためには、このアルミニウムを溶融し、これを冷却して凝固させる際の初晶アルミニウムを選択的に取り出すことが効果的であるという原理は周知である。
【0003】
従来から上記原理を利用した種々のアルミニウムの精製法が提案されている。例えば、特許文献1には、容器1に収容されたアルミニウムの溶湯2と、溶湯2中に浸漬された冷却体3の外周部との相対速度が1600〜8000mm/secとなるように冷却体3を回転させることによって、凝固界面近傍の不純物の濃縮層を薄くし、精製アルミニウム5の純度を高くすることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、冷却体を中心に冷却体の周囲で溶融アルミニウムに働く遠心加速度が0.01m/s2以上1500m/s2以下になるように溶融アルミニウムの溶湯を回転させ、且つガス気泡を溶湯中に導入し、ガス気泡を溶湯に働く遠心力の反作用の力によって、凝固界面に移動させ、浮上しながら該凝固界面及びその近傍を通過することにより、凝固界面に生じる不純物濃化層を効率よく除去できる手段が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術においては、得られるアルミニウムの不純物を十分に除去できていなかった。
【0006】
また、特許文献2に記載されたような方法でも、ガス気泡を導入し、凝固界面を擦過して濃化層を薄くしたとしてもその効果には限界があり、高い精製効率を得ることができないという問題があった。
【0007】
そこで、特許文献3には、精製炉内にバッフルプレートを設置し、冷却体の回転によって発生する溶湯の旋回流を抑止することにより、溶湯の連れ回りを抑止して冷却体の溶湯に対する周速の増大を図ることにより、不純物の除去を効率的に行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭61−3385号公報
【特許文献2】特許第3674322号公報
【特許文献3】特許昭61−170527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、精製炉内に旋回流抑止部材としてのバッフルプレートを設置する方法では次のような欠点があった。
【0010】
即ち、冷却体の回転によって精製炉内の溶湯が撹拌されることにより、溶湯中に気泡や酸化物が生じるが、溶湯の旋回流がバッフルプレートによって抑止される結果、気泡や酸化物の流れも抑止され、これらの気泡や酸化物を多く含む溶湯の部分が、溶湯の表面に近い部分に残留されてしまう。溶湯のうちこのような気泡や酸化物が多く含まれる部分は少ない部分に較べて熱伝導が悪いため、気泡や酸化物が溶湯の表面部分に残留すると、この表面部分は溶湯の他の部分からの熱が伝わりにくい状態となり、また大気により冷却されることも相俟って、溶湯表面で溶融金属が凝固しやすくなるという問題があった。
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、旋回流抑止部材の溶融金属中への設置により、不純物の除去を効率的に行うものでありながら、精製中に生じる気泡や酸化物が溶湯の表面近傍へ残留するのを防止して溶湯表面の凝固を防止することができる金属精製法及び装置を提供し、さらには前記方法により精製された金属、この金属を用いた鋳造品、金属製品及び電解コンデンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の手段によって解決される。
(1)容器に収容された精製すべき金属の溶湯中に冷却体を浸漬し、この冷却体を前記容器に対して相対的に回転させながら冷却体表面に高純度金属を晶出させる金属の精製方法において、前記冷却体の回転によって引き起こされる溶湯の旋回流を抑止するように、旋回流抑止部材を溶湯中に配置して精製を行い、精製途中で前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させることを特徴とする金属精製方法。
(2)前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力の低下が、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させることによって行われる前項1に記載の金属精製方法。
(3)旋回流抑止部材を溶湯中で移動または回転させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させる前項2に記載の金属精製方法。
(4)旋回流抑止部材の溶湯への浸漬部分の面積を変化させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させる前項2に記載の金属精製方法。
(5)前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力の低下が、溶湯中における回転冷却体から離れた旋回流の流速の遅い箇所への旋回流抑止部材の移動によって行われる前項1に記載の金属精製方法。
(6)旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力の低下を、精製開始から全精製時間×0.5以降に実施する前項1〜5のいずれかに記載の金属精製方法。
(7)前記抑止力低下後の旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積は、精製中の最大前面投影面積×0.5以下である前項2〜4のいずれかに記載の金属精製方法。
(8)精製される金属がアルミニウムである前項1〜7のいずれかに記載の金属精製方法。
(9)精製すべき金属の溶湯を収容する容器と、前記容器に収容された溶湯中に浸漬される冷却体と、前記冷却体または前記容器の少なくとも一方を回転させる回転駆動装置と、前記冷却体または前記容器の少なくとも一方の回転によって引き起こされる溶湯の旋回流を抑止するように、溶湯中に配置される旋回流抑止部材と、精製途中で前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させる手段と、を備えたことを特徴とする金属精製装置。
(10)前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させる手段が、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させる手段である前項9に記載の金属精製装置。
(11)前記旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させる手段が、旋回流抑止部材を溶湯中で移動または回転させる手段である前項10に記載の金属精製装置。
(12)前記旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させる手段が、旋回流抑止部材の溶湯への浸漬部分の面積を変化させる手段である前項10に記載の金属精製装置。
(13)前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させる手段が、溶湯中における回転冷却体から離れた旋回流の流速の遅い箇所へ旋回流抑止部材を移動させる手段である前項9に記載の金属精製装置。
(14)前項1ないし8のいずれかに記載の方法で精製された精製金属。
(15)前項14に記載の精製金属から製造された鋳造品。
(16)前項15に記載の鋳造品が圧延されてなる金属製品。
(17)前項16に記載の金属製品が電極材として用いられている電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0013】
前項(1)に記載の発明によれば、冷却体の容器に対する相対的な回転によって引き起こされる溶湯の旋回流を抑止するように、旋回流抑止部材を溶湯中に配置して精製を行うから、冷却体の回転によって発生する溶湯の旋回流が抑止され、冷却体の溶湯に対する周速の増大を図ることができ、不純物の除去を効率的に行うことができる。また、精製途中で前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させるから、この抑止力の低下により、溶湯中に発生した気泡や酸化物の旋回流に沿った流れが回復する結果、前記気泡や酸化物が溶湯中に分散され、溶湯の表面近傍へ残留するのを防止することができる。このため、溶湯の表面が凝固しやすくなるという問題を解消することができる。
【0014】
前項(2)に記載の発明によれば、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を確実に低下させることができる。
【0015】
前項(3)に記載の発明によれば、旋回流抑止部材を溶湯中で移動または回転させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を容易に且つ確実に縮小させることができる。
【0016】
前項(4)に記載の発明によれば、旋回流抑止部材の溶湯への浸漬部分の面積を変化させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を容易に且つ確実に縮小させることができる。
【0017】
前項(5)に記載の発明によれば、溶湯中における回転冷却体から離れた旋回流の流速の遅い箇所へ旋回流抑止部材を移動させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を確実に低下させることができる。
【0018】
前項(6)に記載の発明によれば、旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力の低下を、精製開始から全精製時間×0.5以降に実施するから、精製中に生じる気泡や酸化物の溶湯表面への残留防止効果を効率的に発揮させることができる。
【0019】
前項(7)に記載の発明によれば、抑止力低下後の旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積は、精製中の最大前面投影面積×0.5以下であるから、精製中に生じる気泡や酸化物の溶湯表面近傍への残留防止効果を効率的に発揮させることができる。
【0020】
前項(8)に記載の発明によれば、精製効率の高いアルミニウムを得ることができる。
【0021】
前項(9)に記載の発明によれば、旋回流抑止部材により冷却体の溶湯に対する周速の増大を図ることにより、不純物の除去を効率的に行うことができる一方、精製途中で旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させることにより、溶湯中に発生した気泡や酸化物を溶湯中に分散させて溶湯表面近傍へ残留するのを防止できる金属精製装置となしうる。
【0022】
前項(10)に記載の発明によれば、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を確実に低下させることができる金属精製装置となしうる。
【0023】
前項(11)に記載の発明によれば、旋回流抑止部材を溶湯中で移動または回転させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を容易に且つ確実に縮小させることができる金属精製装置となしうる。
【0024】
前項(12)に記載の発明によれば、旋回流抑止部材の溶湯への浸漬部分の面積を変化させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を容易に且つ確実に縮小させることができる金属精製装置となしうる。
【0025】
前項(13)に記載の発明によれば、溶湯中における回転冷却体から離れた旋回流の流速の遅い箇所へ旋回流抑止部材を移動させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を確実に低下させることができる金属精製装置となしうる。
【0026】
前項(14)に記載の発明によれば、不純物が少なく精製効率の良い精製金属となしうる。
【0027】
前項(15)に記載の発明によれば、不純物が少なく精製効率の良い精製金属から製造された鋳造品となしうる。
【0028】
前項(16)に記載の発明によれば、不純物が少なく精製効率の良い精製金属から製造された圧延金属製品となしうる。
【0029】
前項(17)に記載の発明によれば、不純物が少なく精製効率の良い精製金属から製造された電極材が用いられた電解コンデンサとなしうる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の一実施形態に係る金属精製装置の概略構成と、これを用いた金属精製方法を説明するための図である。
【図2】図1の溶湯保持炉1の上方を水平面で切断したときの切断位置から見た下面図である。
【図3】旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小するための具体的な方法の一つを説明するための図であり、図2と同様の下面図である。
【図4】旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させるための他の方法を説明するための図であり、図2と同様の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、この発明の一実施形態を説明する。
【0032】
図1はこの発明の一実施形態に係る金属精製装置の概略構成と、これを用いた金属精製方法を説明するための図、図2は図1の溶湯保持炉1の上方を水平面で切断したときの切断位置から見た下面図である。
【0033】
図1において、1は溶融金属の溶湯2を収容する容器としての溶湯保持炉であり、この溶湯保持炉1の内部に溶湯2が収容保持されている。保持炉1の上方には回転冷却体3が上下左右移動自在に配置されるとともに、金属精製時には冷却体3が下方移動して、溶湯保持炉1内の溶湯2中に浸漬されるものとなされている。また、図示は省略したが、溶湯保持炉1の側方近傍には精製金属掻き落とし装置が設置され、溶湯保持炉1の溶湯2から引き上げられ移動してきた冷却体3に晶出した金属を、前記精製金属掻き落とし装置により掻き落として回収することができるものとなされている。さらに、溶湯保持炉1内の溶湯2は、一定の温度となるよう加熱炉内に配置され、保持炉1の外側から加熱されるようになっている。
【0034】
前記冷却体3には、回転軸31を介してモータ等の回転駆動及び移動装置4が連結され、冷却体3に回転力を付与できるとともに、上下左右に移動できるようになっている。
【0035】
また、溶湯保持炉1内には冷却体3の周囲に複数個の旋回流抑止部材(バッフルプレート)61、62が設置されている。各旋回流抑止部材61、62は、縦長の翼板からなり、上端部における幅方向の一端に連結された軸部63を介して、モータ等の回転駆動及び移動装置7に連結され、回転方向及び、上下、左右、前後各方向へ自在に移動できるものとなされている。
【0036】
図1(a)及び図2に示すように、前記回転冷却体3を溶湯保持炉1内の溶湯2に浸漬するとともに、旋回流抑止部材61、62をその幅方向が溶湯保持炉1及び冷却体3の径方向に合致する態様で溶湯2に浸漬し、回転冷却体3をその内部に冷却流体を供給しつつ図2の矢印Aで示す方向に回転させ、冷却体1の周面に精製金属5をゆっくり晶出させる。この順序は特に限定するものではなく、回転冷却体3を回転させながら溶湯2に浸漬させても問題はない。共晶不純物は液相中に排出されて凝固界面近傍の液相中に共晶不純物の不純物濃化層が出来るが、回転冷却体3と溶湯2との相対速度によって不純物濃化層中の不純物が液相全体に分散させられる。
【0037】
また、回転冷却体3の溶湯保持炉1に対する回転によって、溶湯2には回転冷却体3の回転方向と同じ方向への旋回流が生じるが、溶湯2中に幅方向が溶湯保持炉1の径方向に合致する態様で配置された旋回流抑止部材61、62によって、前記旋回流が抑止され、冷却体3の溶湯2に対する周速の増大が図られ、不純物の除去を効率的に行うことができる。
【0038】
この状態で凝固を進行させると、図1(b)に示すように、冷却体3の周面には元の溶湯2の溶融金属よりはるかに高純度の晶出金属5が得られる。なお、晶出金属の純度に大きな影響を及ぼさない範囲で冷却体3の底面に金属が晶出していても構わない。
【0039】
なお、この実施形態では、冷却体3を回転させるものとしたが、溶湯保持炉2を回転させても良いし、冷却体3と溶湯保持炉2を共に回転させても良く、要は冷却体3が溶湯保持炉2に対して相対的に回転していればよい。
【0040】
また、溶湯保持炉1は単独であっても良いし連結樋によって複数の保持炉が互いに連通状に接続されていても構わない。単独の場合は精製を繰り返すと溶湯の不純物濃度が増すために、精製した金属の純度が悪化してしまう。そのために定期的に溶湯を入れ替えるのが良い。連結樋によって互いに連結した場合は、一端から新たな溶湯を注ぎこめば溶湯2が、隣接する溶湯保持炉1に流出し、高濃度の溶湯がそのまま溶湯保持炉1に滞留することはなく、このため溶湯を溶湯保持炉1毎にバッチ操作にて入れ替える必要がない。また最下流の溶湯保持炉1から流出した溶湯は、精製に適さない濃度となるので排出される。
【0041】
回転冷却体3は黒鉛、セラミックス製等が望ましいが、これに限るものではない。高温の溶湯と接触するために回転冷却体3も高温となるので、この高温で溶融せず、極端な強度低下をしないものであれば良く、金属製であっても構わない。
【0042】
同様に、旋回流抑止部材61、62も黒鉛、セラミックス製等が望ましいが、これに限るものではない。高温の溶湯と接触するために旋回流抑止部材61、62も高温となるので、この高温で溶融せず、極端な強度低下をしないものであれば良い。また、溶湯上に突き出た部分によって冷却されてしまい、溶湯表面が凝固しやすい場合などは、旋回流抑止部材表面を断熱性を持った部材で覆う構造とすることもできる。この場合の断熱性を持った部材としてケイ酸カルシウムを推奨できる。
【0043】
回転冷却体3を冷却するための冷媒も特に限定はされず、窒索ガス、二酸化炭素ガス、アルゴンガス、圧縮エアー等を使用できるが、コストの面で圧縮エアーが推奨される。
【0044】
精製金属は、共晶不純物を含むアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、鉛、亜鉛等の金属を挙げうる。特にアルミニウムを精製する際、アルミニウムと包晶を生成する不純物が含まれる場合には、ホウ素添加および撹拌を行うのが良い。ホウ素添加および撹拌を行うことで、ホウ素が溶湯中に含まれているTi、V、Zr等の包晶不純物と反応してTiB
2、VB2、ZrB2等の不溶性ホウ化物が生成される。余剰のホウ素は、共晶不純物にして除去される。上記ホウ化物は、溶湯保持炉1内で冷却体3の回転により生じる遠心力によって冷却体3から遠ざけられ、冷却体3の周面に晶出したアルミニウムに含まれることはない。また、溶湯保持炉1が連結樋によって互いに連通状に接続されている場合は、最上流にホウ素添加用るつぼを配置しておくのがよい。ホウ素は一般的にアルミニウムに添加された母合金ロッドとして溶湯中に供給される。
【0045】
この回転冷却体3の周面の晶出金属5は、ある一定時間経過後に溶湯2から冷却体3と共に引き上げられ、冷却体3から掻き落として回収される。こののち冷却体3は再度溶湯保持炉1内の溶湯2に浸潰され、金属精製に供される。この工程は繰り返し実施され連統的に金属精製が行われる。
【0046】
ところで、冷却体3の回転によって溶湯保持炉1内の溶湯2が撹拌されることにより、溶湯2中に気泡や酸化物が生じる。前述したように、溶湯2中には、溶湯2の旋回流を抑止する態様で旋回流抑止部材61、62が配置されているから、溶湯2の旋回流が旋回流抑止部材61、62によって抑止される結果、生成された前記気泡や酸化物の流れも抑止され、これらの気泡や酸化物が溶湯の表面近傍に残留してしまう。溶湯のうちこれらの気泡や酸化物を含む部分は他の部分からの熱伝導が悪く、また溶湯2の表面が大気により冷却されるため、放置しておくと、溶湯2の表面が凝固しやすくなる。
【0047】
そこで、この実施形態では、精製途中において、図2に示すように、旋回流抑止部材61、62の各軸部63を約90度回転駆動することにより、旋回流抑止部材61、62の幅方向が溶湯2の旋回流の方向(図2の矢印B及びC方向)に沿う向きとなるように回転させる。すると、溶湯2の旋回流に対する旋回流抑止部材61、62の抑止力が低下し、旋回流に沿った気泡や酸化物の流れが回復する結果、前記気泡や酸化物が溶湯2中に分散され、溶湯の表面部へ残留するのが防止される。
【0048】
このような旋回流抑止部材61、62による溶湯2の旋回流に対する抑止力の低下は、精製開始から全精製時間×0.5以降に実施するのがよい。精製開始から全精製時間×0.5までは、気泡や酸化物の量もまだ少なく、旋回流抑止部材61、62により旋回流を抑止して、冷却体3の溶湯2に対する周速を増大することにより、不純物の除去を行った方が効率的である一方、精製開始から全精製時間×0.5以降には、気泡や酸化物の量も多くなり、これら気泡や酸化物の溶湯表面近傍への残留防止効果を効率的に発揮させることができるからである。
【0049】
また、旋回流抑止部材61、62による溶湯2の旋回流に対する抑止力の低下の具体的方法は、上記のように旋回流抑止部材61、62を回動させる方法に限定されることはなく、どのような方法であっても良い。
【0050】
例えば、旋回流抑止部材61、62を回動させる方法も含めて、旋回流抑止部材61、62の旋回流に対する前面投影面積を縮小させるように、旋回流抑止部材61、62を回転、移動、変形等することによって、旋回流に対する抑止力を低下させるのが、より簡単でかつ確実な方法として推奨される。
【0051】
ここで、旋回流抑止部材61、62の旋回流に対する前面投影面積とは、図2に示すように、冷却体3の回転中心を通る仮想垂直面8を冷却体3の回転中心の回りに回転させたときに、旋回流抑止部材61、62が溶湯2内において仮想垂直面8を横切る面積をいう。この面積が小さくなるように、旋回流抑止部材61、62を回転、移動、変形することで、溶湯2の旋回流に対する抑止力を低下させることができる。
【0052】
旋回流抑止部材61、62の旋回流に対する前面投影面積を縮小するための具体的な方法として、図2に示したように、旋回流抑止部材61、62を回動させる方法の他、図3(b)に示すように、旋回流抑止部材61、62を溶湯2内で他の位置に平行移動させても良い。このような平行移動により、図3(a)の回転の場合と同様に、溶湯2の旋回流に対する抑止力を低下させることができる。
【0053】
なお、平行移動でなく、旋回流抑止部材61、62の元の状態における幅方向の線と、移動後における幅方向の線とが交差する状態に、移動後の旋回流抑止部材61、62の向きを傾斜させても良い。
【0054】
また、旋回流抑止部材61、62を上方に移動させ、あるいは溶湯保持炉1を下方に移動させ、旋回流抑止部材61、62の溶湯2への浸漬部分の面積を変化させることによって、旋回流抑止部材61、62の旋回流に対する前面投影面積を縮小しても良い。旋回流抑止部材61、62を溶湯2から完全に引き上げることにより、旋回流抑止部材61、62の旋回流に対する前面投影面積はゼロとなる。
【0055】
ここで、前記抑止力低下後の旋回流抑止部材61、62の旋回流に対する前面投影面積が、精製中の最大前面投影面積×0.5以下となるように設定するのがよい。精製中の最大前面投影面積×0.5を超える前面投影面積では、旋回流に対する抑止力を低下させることによる溶湯2の表面近傍への気泡や酸化物の残留防止効果が小さくなる恐れがある。
【0056】
特に好ましくは、抑止力低下後の旋回流抑止部材61、62の旋回流に対する前面投影面積が、精製中の最大前面投影面積×0.3以下、最も好適には精製中の最大前面投影面積×0.25以下となるように設定するのがよい。
【0057】
また、旋回流抑止部材61、62の旋回流に対する前面投影面積を縮小することによって、旋回流に対する抑止力を低下させるのではなく、図4に示すような方法を採用しても良い。
【0058】
即ち、溶湯2の旋回流は回転冷却体3の回転によって引き起こされるので、図4(a)に矢印の大きさで示すように、溶湯2の旋回流の流速分布は、回転冷却体3の近傍で大きく、溶湯保持炉1の径方向外方に到るに従って徐々に小さくなり、溶湯保持炉1の近傍で小となる。
【0059】
そこで、旋回流に対する抑止力の非低下時は、図4(b)の旋回流抑止部材61のように、旋回流抑止部材61、62を冷却体3の近傍に位置させて、流速の大きな旋回流を抑止して全体として大きな抑止力を生じさせ、旋回流に対する抑止力の低下時には、図4(b)の旋回流抑止部材62のように、旋回流抑止部材61、62を溶湯保持炉1の近傍まで径方向外方にスライドさせて、流速の大きな旋回流の抑止を解放し、全体としての抑止力を低下させる構成としても良い。
【0060】
尚、以上の説明では、全ての旋回流抑止部材61、62を旋回流に対する抑止力低下方向に移動または回動等させるものとしたが、少なくとも1つを抑止力低下方向に移動または回動等させれば良い。
【0061】
上記により精製された金属は、各種の加工や用途に用いることで優れた特性や機能を発揮させることができる。一例を挙げると、精製金属を鋳造に用いて鋳造品を製作しても良いし、この鋳造品を圧延して各種の金属板や金属箔として用いても良い。また、この金属箔を例えばアルミニウム電解コンデンサの電極材として用いてもよい。
【実施例】
【0062】
[実施例1]
不純物として主にFe:500ppm、Si:400ppmが含まれるアルミニウム溶湯を精製保持炉内に入れ、精製炉ヒーターの電力を調整し665℃の温度に保持する。その後、温度を調整した上端部の外径が150mmであるテーパー形状の回転冷却体を溶湯中に浸潰するとともに、図1及び図2に示すように、保持炉の直径方向に沿う態様で、冷却体を挟んで2枚の旋回流抑止部材を溶湯中に浸漬した。そして、冷却体を周速3.1m/secの一定速度で回転させながら、5分間、冷却体の周面に精製アルミニウムを晶出させた。なお、回転冷却体内には圧縮エアーを直接当てて冷却させた。
【0063】
前記2枚の旋回流抑止部材を表1に示すように、溶湯から完全に引き上げまたは図2に示すように90度回転させて精製を行ったときの、得られた晶出金属に含まれる不純物と精製効率及びその評価、溶湯表面の評価を表1に示す。
【0064】
なお、いずれの場合も、精製終了後、溶湯表面の気泡、酸化物は溶湯旋回流に巻き込まれて溶湯中に分散した。
【0065】
【表1】

【0066】
表1の結果からわかるように、本実施品はいずれも精製効率、溶湯表面の評価が良いものであった。
【0067】
[従来例1]
不純物として主にFe:500ppm、Si:400ppmが含まれるアルミニウム溶湯を精製保持炉内に入れ、精製炉ヒーターの電力を調整し665℃の温度に保持する。その後、温度を調整した上端部の外径が150mmであるテーパー形状の回転冷却体を溶湯中に浸潰し、周速3.1m/secの一定速度で回転させながら、5分間、回転冷却体の周面に精製アルミニウムを晶出させた。なお、回転冷却体内には圧縮エアーを直接当てて冷却させた。
【0068】
上記により得られた晶出金属に含まれる不純物と精製効率、溶湯表面の状態を調べたところ、表2のとおりであり、精製効率の良くないものであった。
【0069】
【表2】

【0070】
[従来例2]
旋回流抑止部材を移動も回転もさせることなく精製終了まで同一配置状態に保持した以外は、上記実施例と同一の条件で実験を行い、得られた晶出金属に含まれる不純物と精製効率、溶湯表面を調べたところ、表3のとおりであり、精製効率は良好であったが、溶湯表面に気泡、酸化物が多く集積した。
【0071】
【表3】

【符号の説明】
【0072】
1 溶湯保持炉(容器)
2 溶湯
3 冷却体
4 回転駆動及び移動装置
5 晶出金属
61、62 旋回流抑止部材
7 回転駆動及び移動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に収容された精製すべき金属の溶湯中に冷却体を浸漬し、この冷却体を前記容器に対して相対的に回転させながら冷却体表面に高純度金属を晶出させる金属の精製方法において、
前記冷却体の回転によって引き起こされる溶湯の旋回流を抑止するように、旋回流抑止部材を溶湯中に配置して精製を行い、精製途中で前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させることを特徴とする金属精製方法。
【請求項2】
前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力の低下が、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させることによって行われる請求項1に記載の金属精製方法。
【請求項3】
旋回流抑止部材を溶湯中で移動または回転させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させる請求項2に記載の金属精製方法。
【請求項4】
旋回流抑止部材の溶湯への浸漬部分の面積を変化させることによって、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させる請求項2に記載の金属精製方法。
【請求項5】
前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力の低下が、溶湯中における回転冷却体から離れた旋回流の流速の遅い箇所への旋回流抑止部材の移動によって行われる請求項1に記載の金属精製方法。
【請求項6】
旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力の低下を、精製開始から全精製時間×0.5以降に実施する請求項1〜5のいずれかに記載の金属精製方法。
【請求項7】
前記抑止力低下後の旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積は、精製中の最大前面投影面積×0.5以下である請求項2〜4のいずれかに記載の金属精製方法。
【請求項8】
精製される金属がアルミニウムである請求項1〜7のいずれかに記載の金属精製方法。
【請求項9】
精製すべき金属の溶湯を収容する容器と、
前記容器に収容された溶湯中に浸漬される冷却体と、
前記冷却体または前記容器の少なくとも一方を回転させる回転駆動装置と、
前記冷却体または前記容器の少なくとも一方の回転によって引き起こされる溶湯の旋回流を抑止するように、溶湯中に配置される旋回流抑止部材と、
精製途中で前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させる手段と、
を備えたことを特徴とする金属精製装置。
【請求項10】
前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させる手段が、旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させる手段である請求項9に記載の金属精製装置。
【請求項11】
前記旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させる手段が、旋回流抑止部材を溶湯中で移動または回転させる手段である請求項10に記載の金属精製装置。
【請求項12】
前記旋回流抑止部材の旋回流に対する前面投影面積を縮小させる手段が、旋回流抑止部材の溶湯への浸漬部分の面積を変化させる手段である請求項10に記載の金属精製装置。
【請求項13】
前記旋回流抑止部材の旋回流に対する抑止力を低下させる手段が、溶湯中における回転冷却体から離れた旋回流の流速の遅い箇所へ旋回流抑止部材を移動させる手段である請求項9に記載の金属精製装置。
【請求項14】
請求項1ないし8のいずれかに記載の方法で精製された精製金属。
【請求項15】
請求項14に記載の精製金属から製造された鋳造品。
【請求項16】
請求項15に記載の鋳造品が圧延されてなる金属製品。
【請求項17】
請求項16に記載の金属製品が電極材として用いられている電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−159490(P2010−159490A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281582(P2009−281582)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】