説明

金属表面用被覆材組成物及び積層樹脂成型品

【課題】金属に対して優れた付着性を有し、耐擦傷性が優れた硬化物を得ることができる金属表面用被覆材組成物及びその硬化物層が積層された積層樹脂成型品を提供する。
【解決手段】単独重合体のガラス転移温度が100℃以上である環構造を有する単量体単位15〜60質量%及び他のビニル単量体単位40〜85質量%を含有する共重合体(A)3〜15質量部、ビスフェノール骨格を有するウレタンジ(メタ)アクリレート(B)15〜30質量部並びにウレタンジ(メタ)アクリレート(B)を除く1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(C)55〜80質量部を含有し、共重合体(A)、ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)及び単量体(C)の合計量が100質量部である金属表面用被覆材組成物及び金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に金属表面用被覆材組成物の硬化物層が積層された積層樹脂成型品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属表面用被覆材組成物及び積層樹脂成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
生産性や省エネルギーの観点から紫外線硬化型樹脂組成物が広く使用されており、特にプラスチック成型品へのハードコート処理や、真空蒸着やスパッタリング等の処理による金属化処理の際に用いられるアンダーコート材やトップコート材に利用されている。紫外線硬化型樹脂組成物が使用されている用途としては、例えば、照明、ライト等の反射鏡、リフレクター部品及び携帯電話等の家電製品並びに化粧品容器の加飾用途が挙げられる。
【0003】
従来使用されている紫外線硬化型樹脂組成物として、例えば、特許文献1には、樹脂成形品の表面に被覆して耐傷つき性、耐候性及び可とう性に優れ、樹脂成形品との付着性に優れた硬化塗膜を与える紫外線硬化性被覆用樹脂組成物が提案されている。しかしながら、表面が金属で被覆された樹脂成形品の表面に積層した場合、金属との付着性が十分でないという問題がある。
【0004】
また、金属との密着性を改善するために、例えば、特許文献2には紫外線硬化型トップコート剤組成物が提案されている。しかしながら、この場合、硬化膜の耐擦傷性は十分とはいえない。
【特許文献1】特開2000−281935号公報
【特許文献2】特開2007−314677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、金属に対して優れた付着性を有し、耐擦傷性が優れた硬化物を得ることができる金属表面用被覆材組成物及びその硬化物層が積層された積層樹脂成型品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、単独重合体のガラス転移温度が100℃以上である環構造を有する単量体単位(以下、「単量体(a−1)単位」という)15〜60質量%及び他のビニル単量体単位(以下、「単量体(a−2)単位」という)40〜85質量%を含有する共重合体(A)3〜15質量部、ビスフェノール骨格を有するウレタンジ(メタ)アクリレート(B)15〜30質量部並びにウレタンジ(メタ)アクリレート(B)を除く1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(C)55〜80質量部を含有し、共重合体(A)、ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)及び単量体(C)の合計量が100質量部である金属表面用被覆材組成物(以下、「本被覆材組成物」という)を第1の発明とする。
【0007】
また、金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に、本被覆材組成物の硬化物層が積層された積層樹脂成型品(以下、「本積層樹脂成型品」という)を第2の発明とする。
【発明の効果】
【0008】
本被覆材組成物の硬化物(以下、「本硬化物」という)は、金属との付着性及び耐擦傷性に優れていることから、本被覆材組成物は携帯電話、化粧品容器等に用いられる金属薄膜層が積層された樹脂成型品のトップコート層形成用被覆材組成物として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
単量体(a−1)単位
本発明において、単量体(a−1)単位は後述する共重合体(A)の構成単位の1つであり、共重合体(A)中に15〜60質量%、好ましくは30〜50質量%含有される。
【0010】
単量体(a−1)単位は本硬化物の耐擦傷性を向上させるための成分であり、単量体(a−1)単位が15質量%以上で本硬化物の硬度が良好であり、60質量%以下で本硬化物と金属との付着性が良好である。
【0011】
単量体(a−1)単位を構成するための原料である単量体(a−1)は環構造を有し、単独重合体のガラス転移温度(以下、「Tg」という)が100℃以上のものである。
【0012】
単量体(a−1)としては、例えば、2−(メタ)アクリロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロキシプロピルフタレート、2−(メタ)アクリロキシエチルヒドロフタレート、2−(メタ)アクリロキシプロピルヒドロフタレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニルメタクリレート、(メタ)アクリロイルモルフォリン及びアダマンチル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0013】
これらの中で、Tgが比較的高く、本硬化物の表面硬度を向上させる点で、ジシクロペンタニルメタクリレート及びイソボルニルメタクリレートが好ましい。
【0014】
尚、本発明において、「(メタ)アクリ」は「アクリ」及び「メタクリ」の少なくとも一種を示す。
【0015】
単量体(a−2)単位
本発明において、単量体(a−2)単位は後述する共重合体(A)の構成単位の1つであり、共重合体(A)中に40〜85質量%、好ましくは50〜70質量%含有される。単量体(a−2)単位が85質量%以下で本硬化物の硬度が良好であり、40質量%以上で本硬化物と金属との付着性が良好である。
【0016】
単量体(a−2)単位を構成するための原料である単量体(a−2)は単量体(a−1)と共重合可能なものである。
【0017】
単量体(a−2)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸及びフマル酸が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0018】
共重合体(A)
本発明において、共重合体(A)は上記の単量体(a−1)単位及び単量体(a−2)単位を含有する共重合体である。
【0019】
共重合体(A)は、本被覆組成物を硬化させる際に生じる重合収縮を緩和し、本硬化物と金属との付着性を向上させるための成分である。
【0020】
共重合体(A)の本被覆材組成物中の含有量としては、共重合体(A)、後述するウレタンジ(メタ)アクリレート(B)及び単量体(C)の合計量100質量部に対して3〜15質量部、好ましくは5〜10質量部である。共重合体(A)の含有量が3質量部以上で本硬化物と金属との付着性が良好であり、15質量部以下で本硬化物の硬度が良好である。
【0021】
共重合体(A)を得るための方法としては、例えば、単量体(a−1)及び単量体(a−2)を含有する単量体の混合物をラジカル重合開始剤の存在下に溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法等の公知の重合方法により得る方法が挙げられる。
【0022】
ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)
本発明において、ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)はビスフェノール骨格を有するものである。
【0023】
ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)の本被覆材組成物中の含有量としては、共重合体(A)、ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)及び後述する単量体(C)の合計量100質量部に対して15〜30質量部、好ましくは20〜25質量部である。ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)の含有量が15質量部以上で本硬化物の硬度が良好となり、30質量部以下で本硬化物と金属との付着性が良好となる。
【0024】
ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)は、例えば、ビスフェノール骨格を有するジオール(b−1)、ジイソシアネート(b−2)及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(b−3)の反応によって得ることができる。
【0025】
ビスフェノール骨格を有するジオール(b−1)としては、例えば、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(付加モル数n=1〜15)、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(付加モル数n=1〜15)、ビスフェノールAカプロラクトン付加物(付加モル数n=1〜10)、ビスフェノールSエチレンオキサイド付加物(付加モル数n=1〜10)及びビスフェノールSプロピレンオキサイド付加物(付加モル数n=1〜10)が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0026】
これらの中で、ビスフェノールAエチレンオキサイド1モル付加物及びビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物が工業的に入手し易く、好ましい。
【0027】
ジイソシアネート(b−2)としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート及びトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0028】
これらの中で、得られるウレタンジ(メタ)アクリレート(B)の粘度が低く、本被覆材組成物の塗装時の作業性を向上させる点で、イソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0029】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(b−3)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート及びそのカプロラクトン変性品やアルキルオキサイド変性品等に代表される、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート変性品;並びにブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のモノエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との付加反応物が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0030】
これらの中で、ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)の粘度が低く、本被覆材組成物の塗装時の作業性を向上させる点で、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及び4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0031】
ビスフェノール骨格を有するジオール(b−1)、ジイソシアネート(b−2)及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(b−3)の反応は公知の方法により行なうことができる。例えば、30〜90℃に加温したビスフェノール骨格を有するジオール(b−1)とジブチル錫ジラウレート等の触媒との混合物中に、ジイソシアネート(b−2)を2〜6時間かけて滴下し、更に1〜3時間反応させる。次いで、得られた反応液中にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(b−3)を1〜3時間かけて滴下し、更に1〜3時間反応させることにより、ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)を得ることができる。
【0032】
単量体(C)
本発明に使用される単量体(C)としては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の6官能(メタ)アクリル酸エステル類;ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート等の5官能(メタ)アクリル酸エステル類;ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシ変性テトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリル酸エステル類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリスエトキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシレーテッドペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等の3官能(メタ)アクリル酸エステル類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)−2−ヒドロキシエチルイソシアヌレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエトキシレーテッドビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエトキシレーテッド水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのカプロラクトン付加物(付加モル数2〜5)のジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのカプロラクトン付加物(付加モル数2〜5)のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのカプロラクトン付加物(付加モル数2〜5)のジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリル酸エステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとエチレンオキシドの付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとプロピレンオキシドの付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとε−カプロラクトンの付加物等の2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと有機ラクトン類の付加物等の(メタ)アクリル酸エステル類;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;フタル酸、コハク酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テレフタル酸、アゼライン酸、アジピン酸等の多塩基酸とエチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸又はその誘導体との反応で得られるポリエステルジ(メタ)アクリレート類;及びアルカンジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、スピログリコール化合物等の一種又は二種以上の混合物からなるアルコール類の水酸基に有機ジイソシアネート化合物を付加し、残ったイソシアネート基に分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基及び1個のヒドロキシ基を有するヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルを反応させた、ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)を除くウレタンジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0033】
これらの中で、本硬化物の耐熱性と塗膜表面の平滑性とのバランスの点で、2官能以上の(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、3官能以上の(メタ)アクリル酸エステル類がより好ましい。
【0034】
単量体(C)の本被覆材組成物中の含有量としては、共重合体(A)、ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)及び単量体(C)の合計量100質量部に対して55〜80質量部、好ましくは60〜70質量部である。単量体(C)の含有量が55質量部以上で本硬化物の硬度が良好であり、80質量部以下で本硬化物と金属との付着性が良好である。
【0035】
本被覆材組成物
本被覆材組成物は、上述したように、共重合体(A)、ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)及び単量体(C)を必須成分とするものである。
【0036】
本発明においては、本被覆材組成物を硬化させるために紫外線を用いることが好ましく、本被覆材組成物中に光重合開始剤を含有することができる。
【0037】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−エチルアントラキノン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;及び2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイドが挙げられる。これらは単独で、又は二種以上を併用して用いることができる。
【0038】
これらの中で、硬化性に優れる点で、ベンゾフェノン及びメチルフェニルグリオキシレートが好ましい。
【0039】
光重合開始剤の含有量としては、本被覆材組成物100質量部当たり0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、光重合開始剤の含有量としては、本被覆材組成物100質量部当たり15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0040】
更に、本被覆材組成物には、必要に応じて4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸アミル、4−ジメチルアミノアセトフェノン等の公知の光増感剤を添加することができる。
【0041】
また、本被覆材組成物には、必要に応じて、望ましい粘度に調整するために有機溶剤を添加することができる。
【0042】
有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチル等のエステル系化合物;エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール系化合物、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系化合物;トルエン、キシレン等の芳香族化合物;及びペンタン、ヘキサン、石油ナフサ等の脂肪族化合物が挙げられる。
【0043】
有機溶剤の添加量としては、本被覆材組成物100質量部に対して100〜500質量部が好ましい。
【0044】
更に、本被覆材組成物には、レベリング剤、消泡剤、沈降防止剤、潤滑剤、研磨剤、防錆剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤等の添加剤を添加することができる。
【0045】
樹脂成型品
本発明に用いられる樹脂成型品としては、例えば、ABS樹脂、PC樹脂、AS樹脂及びPP樹脂並びにこれら樹脂のアロイ樹脂の成型品が挙げられる。
【0046】
また、本発明においては、上記樹脂成型品の表面に金属薄膜層が積層される。
【0047】
樹脂成型品の表面に金属薄膜層を積層する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0048】
本発明においては、金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に本被覆材組成物を積層する際に、必要に応じて、アンダーコート層を形成させ、次いで金属薄膜層を形成した後に本被覆材組成物を積層することができる。
【0049】
樹脂成型品の表面に、まず、熱硬化性又は紫外線硬化性の公知のアンダーコート層を形成する。その後、形成されたアンダーコート層の表面に、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等によって金属薄膜層を形成させる。
【0050】
樹脂成型品の表面に積層される金属としては、例えば、アルミニウム及び錫が挙げられる。
【0051】
樹脂成型品への本被覆材組成物の塗布方法としては、ハケ塗り、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、フローコート等の公知方法が挙げられるが、塗布作業性、被膜の平滑性、均一性等の点から、スプレーコート法及びフローコート法が好ましい。
【0052】
本被覆材組成物を塗付した後に本硬化物を得る方法としては、例えば、活性エネルギー線照射により硬化する方法が挙げられる。
【0053】
活性エネルギー線としては、例えば、紫外線及び電子線が挙げられる。
【0054】
活性エネルギー線の照射条件としては、例えば、高圧水銀灯を用いた場合には、照射される紫外線エネルギー量が500〜4,000mJ/cm程度の条件が好ましい。
【0055】
本被覆材組成物を塗布したときの膜厚は、硬化後の膜厚が3〜40μm程度であることが好ましい。
【0056】
本被覆材組成物を塗布する際に、本被覆材組成物に前述した有機溶剤を添加した場合には、本被覆材組成物を硬化させる前に溶剤を揮発させる。溶剤を揮発する方法としては、例えば、赤外線ヒーターや温風等で加温して、40〜130℃及び1〜20分の条件下で有機溶剤を揮発させることができる。
【0057】
本積層樹脂成型品
本積層樹脂成型品は金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に本硬化物の層が積層されたものであり、照明、ライト等の反射鏡、リフレクター部品及び携帯電話等の家電製品並びに化粧品容器等の各種用途に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により説明する。尚、以下において「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。また、被覆材組成物の硬化物の各種評価は以下の方法により実施した。
【0059】
(1)付着性
被覆材組成物の硬化物と金属との付着性を碁盤目剥離試験により評価した。
金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に被覆材組成物の硬化物の層が積層された積層樹脂成型品の表面に、1mm間隔で樹脂基材まで達するクロスカットをカッターナイフで入れ、1mmの碁盤目を100個作成し、その上にセロハンテープを貼りつけ、急激に剥がし、剥離した碁盤目を数えた。付着性の判定は以下の基準で行った。
「〇」:剥離なし。
「△」:剥離の数1〜50個。
「×」:剥離の数51〜100個。
【0060】
(2)耐湿性
金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に被覆材組成物の硬化物の層が積層された積層樹脂成型品を80℃、相対湿度85%の恒温恒湿器に24時間入れ、その後被覆材組成物の硬化物の表面に樹脂基材まで達するクロスカットをカッターナイフで傷を入れ、その上にセロハンテープを貼りつけ、急激に剥がし、碁盤目の剥離状態を観察し、耐湿性の評価の判定を以下の基準で行った。また、碁盤目の付着性が良好なものについは、上記の付着性の評価における碁盤目剥離試験を実施し、碁盤目の剥離の有無を確認した。
「○」:クロスカット部の付着性は良好、剥離なし。
「△」:クロスカット部の付着性はやや良好、やや剥離。
「×」:クロスカット部の付着性は不良、セロハンテープ貼付け面積のほぼ全面が剥離。
「◎」:碁盤目剥離試験で剥離なし。
【0061】
(3)硬度
金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に被覆材組成物の硬化物の層が積層された積層樹脂成型品の表面をスチールウール(#0000、ボンスター(株)製)で表面を5往復擦り、積層樹脂成型品の表面の傷つき易さを目視にて観察し、以下の基準で硬度を評価した。
「◎」:傷の跡がない。
「○」:僅かに傷跡がある。
「△」:傷跡がはっきりと残っている。
「×」:傷跡が多く残っている。
【0062】
[合成例1]共重合体(PA−1)の製造
2Lの4つ口フラスコにトルエン500gを仕込み、内温が80℃になるように加温した。次いで、内温を80℃に保ち、フラスコ内を攪拌しながら、滴下する単量体としてN−(n−ブトキシメチル)アクリルアミド150g(30%)、メチルメタクリレート25g(5%)、スチレン75g(15%)及びイソボルニルメタクリレート250g(50%)と、重合触媒としてアゾビスイソブチルニトリル1gの混合物を、2時間等速滴下によりフラスコ内に滴下した。その後1時間毎にアゾビスイソブチルニトリル0.2gを合計4回追加投入しながら6時間攪拌し、GPC測定によるポリスチレン換算による質量平均分子量が1.8×10の共重合体(PA−1)を50%含むトルエン溶液を得た。
【0063】
[合成例2]共重合体(PA−2)の製造
滴下する単量体として、N−(n−ブトキシメチル)アクリルアミド125g(25%)、メチルメタクリレート100g(20%)、スチレン150g(30%)及びジシクロペンタニルメタクリレート125g(25%)とした。それ以外は合成例1と同様にして、GPC測定によるポリスチレン換算による質量平均分子量が2.3×10の共重合体(PA−2)を50%含むトルエン溶液を得た。
【0064】
[合成例3]共重合体(PA−3)の製造
滴下する単量体として、メチルメタクリレート250g(50%)、スチレン125g(25%)及びn−ブチルアクリレート125g(25%)とした。それ以外は合成例1と同様にして、GPC測定によるポリスチレン換算による質量平均分子量が2.7×10の共重合体(PA−3)を50%含むトルエン溶液を得た。
【0065】
[合成例4]ウレタンジ(メタ)アクリレート(B−1)の製造
(1)3Lの4つ口フラスコに、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物((株)ADEKA製、商品名:アデカポリエーテルBPX−11)285g、ネオペンチルグリコール21g及びジブチル錫ジラウレート0.2gを仕込んでウォーターバスで内温が60℃になるように加温した。
【0066】
(2)次いで、イソホロンジイソシアネート436gを側管付きの滴下ロートに仕込み、この滴下ロート内の液を、上記(1)で調整したフラスコ中の内容物を攪拌しながら、フラスコ内温を60℃に保って、フラスコ内に2時間等速滴下により滴下し、同温度で1時間攪拌してイソホロンジイソシアネートを反応させた。
【0067】
(3)この後、(2)で得られたフラスコ内容物の温度を70℃に上げ、別の滴下ロートに仕込んだ2−ヒドロキシエチルアクリレート232gと2,6−ジ−ターシャリブチル−4−メチルフェノール1.5gの均一溶液を、フラスコ内温を70℃に保ちながら、フラスコ内に1時間等速滴下により滴下した。その後、フラスコ内容物の温度を70℃に保ちながら、6時間撹拌して、GPC測定によるポリスチレン換算の数平均分子量が6,800のウレタンジ(メタ)アクリレート(B−1)を製造した。
【0068】
[合成例5]ウレタンジ(メタ)アクリレート(B−2)の製造
ネオペンチルグリコール21gの代わりにポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学工業(株)製、商品名:プラクセル−208)を202g、イソホロンジイソシアネートを389g及び2−ヒドロキシエチルアクリレートを203g使用した。それ以外は合成例4と同様にしてGPC測定によるポリスチレン換算の数平均分子量が8,000のウレタンジ(メタ)アクリレート(B−2)を製造した。
【0069】
[アンダーコート材の調整]
滴下する単量体として、N−(n−ブトキシメチル)アクリルアミド150g(30%)、メチルメタクリレート200g(40%)及びスチレン150g(30%)とした。それ以外は合成例1と同様にして、GPC測定によるポリスチレン換算による質量平均分子量が3.0×10の共重合体(K)を50%含むトルエン溶液を得た。共重合体(K)のトルエン溶液100部と、DPHA(日本化薬(株)製、商品名:KAYARAD DPHA)30部、EO変性水素化ビスフェノールAジアクリレート(第一工業製薬(株)製、商品名:ニューフロンティアHBPE―4)10部、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業(株)製、商品名:ファンクリルFA−512A)5部、ベンゾフェノン5部、酢酸ブチル80部及びイソブタノール100部を混合し、攪拌してアンダーコート材を調整した。
【0070】
[実施例1]
表1に示す組成の被覆材組成物の原料をステンレス容器に投入し、全体が均一になるまで約30分間攪拌して、被覆材組成物(1)を調製した。
【0071】
次いで、幅5cm、長さ9cm及び厚さ3mmのABS樹脂成型品のテストピースに、前述したアンダーコート材を硬化後の膜厚が10〜20μmとなるようにスプレー塗装した
この後、塗装された樹脂成型品のテストピースを、60℃の温風乾燥器中に5分間保持して有機溶剤を揮発させた。次いで、得られたテストピースを、空気中で、高圧水銀灯により、波長340〜380nm、積算光量1,000mJ/cmの活性エネルギー線を照射し、硬化後の膜厚が約15〜20μm程度となるようにアンダーコート層を形成した。
【0072】
次いで、日本真空技術(株)製の真空蒸着装置(商品名:EBX−6D)を使用してアルミニウム膜厚が約100nmとなるように真空蒸着させて、表面にアルミニウム膜が積層された樹脂成型品を得た。その後、樹脂成型品のアルミニウム膜の表面に、前述の被覆材組成物(1)の溶液を、硬化後の膜厚が5〜10μmとなるようにスプレー塗装した。更に、得られた塗装物を60℃の温風乾燥器中に5分間保持して有機溶剤を揮発させ、空気中で、高圧水銀灯により、波長340〜380nm、積算光量1,000mJ/cmの活性エネルギー線を照射し、積層樹脂成型品を得た。得られた積層樹脂成型品の評価結果を表1に示す。
【0073】
[実施例2〜4、比較例1〜5]
表1に示す組成の被覆材組成物を使用する以外は実施例1と同様にして積層樹脂成型品を得た。得られた積層樹脂成型品の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0074】
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製、商品名:KAYARAD DPHA)
PETA:ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステル A−TMMT)
HDDA:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(第一工業製薬(株)製、商品名:ニューフロンティアHDDA)
BNP:ベンゾフェノン
MFG:メチルフェニルグリオキシレート
PM−21:リン酸基含有メタクリレート(日本化薬(株)製、商品名:KAYAMER PM−21)
BYK−300:ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(レベリング剤)(ビックケミー・ジャパン(株)製、商品名:BYK−300)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単独重合体のガラス転移温度が100℃以上である環構造を有する単量体単位15〜60質量%及び他のビニル単量体単位40〜85質量%を含有する共重合体(A)3〜15質量部、ビスフェノール骨格を有するウレタンジ(メタ)アクリレート(B)15〜30質量部並びにウレタンジ(メタ)アクリレート(B)を除く1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体(C)55〜80質量部を含有し、共重合体(A)、ウレタンジ(メタ)アクリレート(B)及び単量体(C)の合計量が100質量部である金属表面用被覆材組成物。
【請求項2】
金属薄膜層が積層された樹脂成型品の金属薄膜層の表面に、請求項1に記載の金属表面用被覆材組成物の硬化物層が積層された積層樹脂成型品。

【公開番号】特開2010−31152(P2010−31152A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195168(P2008−195168)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】