説明

金属製パイプとエンジンマウントの製造方法、及び金属製パイプとエンジンマウント

【課題】本願発明の課題は、高価な引抜鋼管を使用することなく、スプリングバックによる開きを生じない金属製パイプを容易に製造する方法、及びこの金属製パイプを構成部材とするエンジンマウントの製造方法、並びにこの製造方法による金属製パイプ、エンジンマウントを提供することにある。
【解決手段】本願発明の金属製パイプの製造方法は、金属板の一端に凸部を形成し、他端にはその凸部に嵌合する凹部を形成する嵌合部成形工程と、前記金属板を環状に曲げて、金属板の両端を突き合わせる曲げ加工工程と、前記凸部を凹部に嵌合させて、この嵌合部を打撃して又は/及び加圧して、凸部と凹部の嵌合部を密着固定させる端部接合工程とを備えた方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、金属製パイプとエンジンマウントの製造方法と、その製造方法で製造された金属製パイプとエンジンマウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンマウントは自動車に使用される部品であって、エンジンを搭載して車体に取り付けるものであり、エンジンの振動を車体に与えない、あるいは路面からの振動をエンジンに与えないよう、これらの振動や衝撃を吸収する緩衝機能を備えたものである。また、エンジンの騒音を抑える役割も持ち、乗り心地や運転の快適性を左右する重要な部品といえる。
【0003】
エンジンマウントは、金属製パイプ内に緩衝材が設置され、この金属製パイプの外周に車体取り付け用ブラケットが取り付けられているものが一般的である。また、緩衝材としてはゴム製のものが多く用いられるが、昨今、防振性能のある液体を流入したタイプのものや、電子的に制御するタイプのものも利用されている。
【0004】
エンジンマウントの構成部材である金属製パイプは、従来、引抜鋼管を所定長さに切断したものが利用されていたが、この引抜鋼管は高価であり、エンジンマウントの価格を上げる要因の一つとされていた。この価格の問題を解決するため、特許文献1では、金属の平板材から金属巻パイプを製造する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−52853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の金属巻パイプ製品の製造方法は、高価な引抜鋼管を使用しない利点はあるものの、平板材を環状に曲げ加工した後に突き合わされた板材端部同士を接合することがないため、スプリングバックによる端部間の開きを完全に解消することはできなかった。このスプリングバックによる端部間の開きには製品ごとにばらつきがあり、金属巻パイプ製品の内部への緩衝材設置作業などに支障を与えるおそれもあった。
一方、このスプリングバックによる端部間の開きを抑えるために溶接固定することも従来から行われてきたが、この溶接工程も製品コスト引き上げの要因となって、高価な引抜鋼管を使用しないことによるメリットが失われてしまう。
【0007】
本願発明の課題は、高価な引抜鋼管を使用することなく、スプリングバックによる開きを生じない金属製パイプを容易に製造する方法、及びこの金属製パイプを構成部材とするエンジンマウントの製造方法、並びにこれら製法によって製造された金属製パイプ、エンジンマウントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の金属製パイプの製造方法は、金属板を筒状に曲げ加工して金属板の一端と他端を突き合わせ、これら端部を接合して金属製パイプを製造する方法において、前記金属板の一端に凸部を形成し、他端にはその凸部に嵌合する凹部を形成する凹凸成形工程と、前記金属板を筒状に曲げて、前記凸部と凹部を嵌合させて金属板の両端を突き合わせる曲げ加工工程と、嵌合させた凸部と凹部の双方又は一方を打撃して又は/及び加圧して、嵌合した凸部と凹部を接合させる接合工程とを備えた製造方法である。
【0009】
本願発明のエンジンマウントの製造方法は、金属製パイプ外周に金属製ブラケットを取り付けてエンジンマウントを製造する方法において、前記金属製パイプが前記金属製パイプの製造方法によって製造されたものであり、金属製ブラケットの取り付け部を前記金属パイプの突き合わせ部に宛がって溶接して、金属製ブラケットと金属パイプを溶接固定すると共に金属パイプの突き合わせ部をも溶接固定する製造方法である。
【0010】
本願発明の金属製パイプは、筒状に曲げ加工された金属板の一端と他端が突き合わされて接合された金属製パイプにおいて、前記金属板の一端に凸部を備え、他端にその凸部と嵌合する凹部を備え、嵌合した凸部と凹部の双方又は一方が打撃され又は/及び加圧されて、凸部と凹部が接合されたものある。
【0011】
本願発明のエンジンマウントは、金属製ブラケットが金属製パイプの外周に取り付けられたエンジンマウントにおいて、金属製パイプが前記金属製パイプであり、金属製ブラケットの取り付け部が前記金属パイプの突き合わせ部に宛がって溶接されると共に金属パイプの突き合わせ部も溶接固定されたものである。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の金属製パイプの製造方法は、金属板の端部に設けられた凸部と凹部を嵌合させ、この凸部と凹部の双方向又は一方を打撃あるいは加圧するだけで凸部と凹部を密接させて金属板の端部を接合するので、嵌合部が密接した金属製パイプを手軽に製造することができる。
【0013】
本願発明のエンジンマウントの製造方法は、金属製ブラケットの取り付け部を、金属パイプの突き合わせ端部に宛がって溶接固定すると共に金属パイプの突き合わせ端部をも溶接固定するので、金属パイプの突き合わせ端部をわざわざ溶接しなくとも、その突き合わせ端部の溶接もでき、溶接工程を削減でき、コストダウン可能となる。
【0014】
本願発明の金属製パイプは次のような効果がある。
(1)金属板を筒状に曲げて突き合わせ、嵌合させた凸部と凹部を打撃又は加圧して嵌合部を密接させたので、連結が堅牢となり、スプリングバックによる端部間の開きを防止できる。
(2)連結が堅牢であるためエンジンマウントや他の分野において、それまで使用されていた高価な引抜鋼管に代えて使用可能である。
【0015】
本願発明のエンジンマウントは、金属製ブラケットの溶接箇所が金属パイプの突き合わせ端部であるため、肉盛溶接の跡などが目立ちにくい製品となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は本願発明の金属製パイプの接合途上の斜視図、(b)は金属板の嵌合した凸部と凹部の打撃又は加圧箇所を示す説明図、(c)は金属板の嵌合した凹部を打撃又は加圧して凹部の肉を凸部側に突出させた状態の説明図。
【図2】(a)は凸部及び凹部を複数備えた本願発明の金属製パイプの接合途上の斜視図、(b)はクサビ形状の凸部及び凹部を備えた本願発明の金属製パイプの接合途上の斜視図。
【図3】本願発明のエンジンマウントを示す斜視図。
【図4】本願発明のエンジンマウントを示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(金属製パイプ及びその製造方法の実施形態)
本願発明の金属製パイプ及びその製造方法の一実施形態を図1(a)、(b)に基づいて説明する。図1(a)〜(c)の金属製パイプ1は円筒状であり、断面の外径に対してその高さがやや小さいものである。もちろん金属製パイプ1はこの形状に限らず、その断面を楕円あるいは多角形などの形状とし、その高さも断面の代表外径と同等あるいはこれより大きくするなど、任意の形状で設計することができる。
【0018】
金属製パイプ1は、金属板2を曲げ加工して製造される。この金属板の材料としては鉄をはじめ非鉄金属、合金、その他の金属類が使用される。帯状の金属板2の一端(左端部)3aには凸部4が形成され、他端(右端部)3bには凹部5が形成されており、この凸部4と凹部5は互いに嵌合する形状及び大きさに形成されている。具体的には凸部4と凹部5の形状は略相似形であり、凸部4の外寸は凹部5の内寸よりも若干小さくなっている。
【0019】
金属板2はプレスにより筒状に曲げ加工され、金属板2の長手方向の一端(左端部)3aと他端(右端部)3bを突き合わせる。この場合、左端部3aと右端部3bの直線部分は完全に接触せずに、若干の隙間が生ずる場合もある。
【0020】
図1(a)に示す凸部4及び凹部5は、金属製パイプ1の左端部3a、右端部3bにそれぞれ1箇所ずつ設けられている。これに限らず、図2(a)に示すように、左端部3aに凸部4を2箇所、右端部3bに凹部5を2箇所設けることも、金属製パイプ1の高さに応じて3箇所以上に凸部4、凹部5を設けることもできる。
【0021】
凸部4の形状はコの字形に突出した矩形であり、逆に凹部5の形状はコの字形を取り除いた矩形の空間である。凸部4及び凹部5はこのような形状に限らず、図2(b)に示すように凸部4を突出側が広く根元側が狭いクサビ形状とし、凹部5をこのクサビ形状がくり抜かれたものとすることもできる。この場合、凸部4と凹部5が一旦嵌合すると、金属製パイプ1の周方向には抜けにくいという利点がある。一方、凸部4を突出側が狭く根元側が広いクサビ形状とし、凹部5をこのクサビ形状がくり抜かれたものとすることもできる。この場合は、凸部4を凹部5に嵌合させやすいという利点がある。その他、凸部4及び凹部5の形状は、円形又は楕円形など任意の形状とすることができる。
【0022】
次に、金属製パイプ1の製造方法について順を追って説明する。
(1)設計板厚の金属板母材から、凸部4と凹部5を含めた設計形状、設計寸法で素材板を切断する。このとき、凸部4が切り出された跡の母材は、次の素材板の凹部5として利用し、凹部5が切り出された跡の母材は凸部4として利用できる。母材から素材板を切り出す方法として、金属製パイプ1の完成品の周長よりも凸部4の突出分だけ長い長辺と、金属製パイプ1の完成品の高さを辺長とする短辺からなる矩形板を切り出し、その後、凸部4及び凹部5を形成する方法もある。
(2)母材から切り出した後、凸部4及び凹部5を備えた素材板に曲げ加工を施す。この曲げ加工では、素材板が設計内径(外径)となるように、かつ凸部4を備える左端部3aが凹部5を備える右端部3bに接近するまで曲げられる。その後、凸部4を凹部5に嵌合させて左端部3aと右端部3bを突き合わせる。
(3)凸部4と凹部5に嵌合し、左端部3aと右端部3bが突き合わされた状態で、図1(a)、(b)に示す凸部4や凹部5の嵌合縁寄りの箇所、或いは、突き合わせ縁寄りの加圧箇所(例えば図1(b)、(c)の黒丸部分)13を打撃する(加圧プレス)。加圧プレスすることでその箇所の金属板の肉が例えば図1(c)に仮想線で示すように外側に押し出されて、嵌合している凸部4の嵌合壁面11や突き合わされている相手方の突き合わせ端面12に押しつけられるため、凸部4と凹部5が密着して堅固な嵌合状態に、突き合わせ端面12同士が密着して堅固な接合状態になる。
【0023】
金属製パイプ1の製造は冷間加工とすることができる。順送加工、バッチ加工、その他の加工とすることもできる。
【0024】
(エンジンマウント及びその製造方法の実施形態)
本願発明のエンジンマウント及びその製造方法の一実施形態を図3及び図4に基づいて説明する。図3は本願発明のエンジンマウント6の一例を示す斜視図であり、図4はその側面図である。
【0025】
本願発明のエンジンマウント6は、自動車のエンジンを搭載して車体に固定するものであり、本願発明の金属製パイプ1に車体固定用のブラケット7を取り付けたものである。金属製パイプ1の内部には、エンジンを搭載するためのエンジン搭載部8が略中心位置に収められ、エンジン搭載部8と金属製パイプ1の内壁との間にゴム製、樹脂製といった弾性のある緩衝材9が設置されている。この緩衝材9はエンジンの振動を吸収し或いは路面からの振動を吸収する。
【0026】
図3に示すようにブラケット7は、略台形状の底板7aの両端にこれに直交して2枚のアーム板7bが形成されものである。ブラケット7の形状はこれに限らず取り付ける車体やエンジン搭載空間等に合わせた形状とする。底板7aには、車体に固定するためのボルト孔10が2箇所設けられている。
【0027】
アーム板7bの根本部分には金属製パイプ1の高さよりやや短い直線部が設けられ、この直線部がブラケット7を金属製パイプ1に取り付けるための取り付け部7cとなっている。取り付け部7cは金属製パイプ1の突き合わせ部15と直線形状に沿って宛がうことができる形状となっている。
【0028】
前記取り付け部7cは金属製パイプ1の突き合わせ部15の直線に沿って宛がわれた状態で金属製パイプ1に溶接固定されている。この溶接により金属製パイプ1の突き合わせ部15も溶接することができて、突き合わせ部15はより堅固に接合されることとなる。図4に示すようにブラケット7が凸部4と凹部5の嵌合部の外側に配置されて金属製パイプ1に取り付け(溶接)されるとその嵌合部がアーム板7bによって隠されて外観の体裁がよいエンジンマウント6となる。
【0029】
次に、エンジンマウント6の製造方法について順を追って説明する。
(1)金属製パイプ1内部の中心付近にエンジン搭載部8を配置し、支持材(図示しない)などを利用して金属製パイプ1の内壁に固定する。
(2)金属製パイプ1の内壁とエンジン搭載部8の間に形成された空間部に、ゴム製、樹脂製等の緩衝材9を充填する。この場合、ゴムを流し込んで加硫接着して形成してもよいし、固形のゴム材を内挿してもよい。
(3)内部にエンジン搭載部8及び緩衝材9を固定した金属製パイプ1の突き合わせ部15の直線に沿って取り付け部7cを宛がってブラケット7を配置する(図3、図4)。このときブラケット7は動かないように金属製パイプ1を把持する。前記取り付け部7cを金属製パイプ1の突き合わせ部15に沿って溶接し、金属製パイプ1の外壁にブラケット7を取り付ける。この際、金属製パイプ1の突き合わせ部15のうち取り付け部7cが宛がわれた部分も溶接固定される。また、この溶接時に金属製パイプ1の突き合わせ部15のうち取り付け部7cが宛がわれていない部分を溶接することもできる。
【0030】
前記実施形態では、図1(b)、(c)に示す黒丸箇所を加圧箇所13としたが、加圧箇所、加圧長、加圧面積等はそれ以外とすることもできる。例えば、嵌合部や突き合わせ部15に沿って長く加圧するなどすることもできる。図1(b)、(c)では加圧により押し出される突起を仮想線で示してあるが、突起は必ずしも出る必要はなく、突き合わせ部15の突き合わせが密になる方向に加圧すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本願発明のエンジンマウント及びその製造方法は、自動車エンジンの用途に限らず、船舶や建設機械、発動発電機などのエンジン用として応用することができる。また、本願発明の金属製パイプ及びその製造方法は、エンジンマウントの用途に限らず、従来金属製パイプが利用されている他の様々な用途で応用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 金属製パイプ
2 金属板
3 端部
3a 左端部
3b 右端部
4 凸部
5 凹部
6 エンジンマウント
7 ブラケット
7a ブラケットの底板
7b ブラケットのアーム板
7c ブラケットの取り付け部
8 エンジン搭載部
9 緩衝材
10 ボルト孔
11 嵌合壁面
12 突き合わせ端面
13 加圧箇所
15 突き合わせ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を筒状に曲げ加工して金属板の一端と他端を突き合わせ、これら端部を接合して金属製パイプを製造する方法において、前記金属板の一端に凸部を形成し、他端にはその凸部に嵌合する凹部を形成する凹凸成形工程と、前記金属板を筒状に曲げて、前記凸部と凹部を嵌合させて金属板の両端を突き合わせる曲げ加工工程と、嵌合させた凸部と凹部の双方又は一方を打撃して又は/及び加圧して、嵌合した凸部と凹部を接合させる接合工程とを備えた金属製パイプの製造方法。
【請求項2】
金属製パイプ外周に金属製ブラケットを取り付けてエンジンマウントを製造する方法において、前記金属製パイプが請求項1記載の金属製パイプの製造方法によって製造されたものであり、金属製ブラケットの取り付け部を前記金属パイプの突き合わせ部に宛がって溶接して、金属製ブラケットと金属パイプを溶接固定すると共に金属パイプの突き合わせ部をも溶接固定することを特徴とするエンジンマウントの製造方法。
【請求項3】
筒状に曲げ加工された金属板の一端と他端が突き合わされて接合された金属製パイプにおいて、前記金属板の一端に凸部を備え、他端にその凸部と嵌合する凹部を備え、嵌合した凸部と凹部の双方又は一方が打撃され又は/及び加圧されて、凸部と凹部が接合されたことを特徴とする金属製パイプ。
【請求項4】
金属製ブラケットが金属製パイプの外周に取り付けられたエンジンマウントにおいて、金属製パイプが請求項3記載の金属製パイプであり、金属製ブラケットの取り付け部が前記金属パイプの突き合わせ部に宛がって溶接されると共に金属パイプの突き合わせ部も溶接固定されたことを特徴とするエンジンマウント。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−115810(P2011−115810A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274046(P2009−274046)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000247971)株式会社マルナカ (10)
【Fターム(参考)】