説明

金属触感を有する成形用金属調加飾シートおよびその成形品

【課題】使用者が直接手に触れた時に、金属様の触感を得ることができる樹脂製品または樹脂製部品を提供することができる成形用金属調加飾シートを提供する。
【解決手段】厚さ130μm以下の透明もしくは半透明樹脂フィルム層、接着剤層、厚さ200〜400μmの金属薄板、接着剤層および熱可塑性樹脂層をこの順で有する、成形用金属調加飾シート、および該シートを成形した樹脂製品もしくは樹脂部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に金属様の触感および外観を付与した成形用金属調加飾シートに関し、また、該加飾シートを用いた自動車の内装部品等の樹脂部品、パーソナルコンピュータ、携帯電話等の樹脂製品といった、該加飾シートを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品の成形にあたり、金属調加飾シートを金型に挿入して、成形品表面に金属調の外見を付加した成形品は、高級感を減ずることなく従来の金属材料と置き換えができ、同時に製造工程が省略でき、低コスト化を図ることができる。
特許文献1では、樹脂基材の上にアルミニウム層を備え、該アルミニウム層の表面に陽極酸化皮膜層が形成されていることを特徴とする樹脂部品を開示する。この樹脂部品では、アルミニウム層に陽極酸化処理を施すことで傷付きを防止し、軽量かつ安価な樹脂部品を提供することを特徴とする。
【0003】
特許文献2は、透明あるいは半透明の表面フィルム層、接着剤層、少なくとも片面に金属層を有する金属層保持用フィルム層、接着剤層及びベースフィルム層をこの順で有することを特徴とする金属調加飾シートを開示する。この特許文献では、該金属調加飾シートが、生産性、成形性、外観のいずれにも問題が生じない効果を有することを記載している。
特許文献3は、透明な熱可塑性樹脂フィルム、金属層、接着剤層および熱可塑性樹脂フィルムをこの順で有することを特徴とする立体成形用金属光沢シートを開示する。該金属光沢シートは立体成形性、特に深絞り成形品に対応できるシートであることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−173796号公報
【特許文献2】特開2004−1243号公報
【特許文献3】特開2002−370311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載されているシートは金属板の代替品として、外観上優れたものであるが、その触感としては樹脂そのものと同じであった。近年、工業製品に関して、需用者の嗜好に合わせてデザインの多様性が要求され、より高級感を有する工業製品の需要も増えている。特に、使用者が直接手に触れて使用する製品では、外観上金属調の製品でも、手に触れたとき樹脂のような触感では使用者の満足を十分に満たせないことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この様な状況を踏まえ、樹脂製品等に使用する金属調加飾シートに関して、より金属に近い触感を得られるシートを開発すべく鋭意検討を行った結果、ある一定の厚さの金属薄板およびその上の保護フィルムも一定の厚さに制御し使用することで、生産性の低下やコストの増加をもたらすことなく、金属様触感を得られる金属調加飾シートを得た。
【0007】
具体的には、本願発明は、(1)厚さ130μm以下の透明もしくは半透明樹脂フィルム層、接着剤層、厚さ200〜400μmの金属薄板、接着剤層および熱可塑性樹脂層をこの順で有する、成形用金属調加飾シート、
(2)前記金属薄板はアルミニウム薄板である、(1)の成形用金属調加飾シート、
(3)前記樹脂フィルム層がアクリル系樹脂からなる、(1)又(2)の成形用金属調加飾シート、
(4)前記アクリル系樹脂がポリメチルメタアクリレートである、(3)の成形用金属調加飾シート、および
(5)(1)〜(4)のいずれかの成形用金属調加飾シートを成形してなる自動車内装部品である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来の金属調加飾シートと同様に生産性に優れ、またコストを上げることなく、金属様の触感を得ることができる、成形用金属調加飾シートを提供することができる。そして本発明の成形用金属調加飾シートが、工業製品に対して多様な意匠性、嗜好性を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の成形用金属調加飾シートの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の成形用金属調加飾シートは、図1に示すように、透明もしくは半透明の樹脂フィルムで構成される樹脂フィルム層1、その下に接着剤層2、金属薄板3、接着剤層4、熱可塑性樹脂層5を備えた構成を有する。
【0011】
透明もしくは半透明の樹脂フィルムで構成される樹脂フィルム層1(以下「樹脂フィルム層1」と略す)は、本発明の効果を奏する限りにおいて、その材質には特に限定されないが、具体的にはアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素樹脂等が使用可能である。この中では、ポリエステル系樹脂あるいはアクリル系樹脂であることが好ましい。これらの樹脂は取り扱い易く、成形用金属調加飾シートとするための貼り合わせ工程で、貼り合わせしわが生じることもなく、製造工程を少なくすることができ、製造コストが上昇することもない。これらの樹脂の中でも、ポリメチルメタクリレートもしくはポリエチレンテレフタレートがより好ましい。さらに、アクリル系樹脂は、透明性が高く、高い耐摩擦性に優れ、さらに成形性が良好であるため、表面フィルムとして比較的薄く使用することが可能である。従って、本発明の樹脂フィルム層1としてはアクリル樹脂が特に好ましい。
【0012】
樹脂フィルム層1は、厚さ130μm以下とする。以下の実施例でも示すが、樹脂フィルム層1が130μmより厚くなると、金属触感が得られなくなる。また、樹脂フィルム1の厚さは25μm以上であることが好ましい。25μmより薄いと、強度が不足してラミネート加工や成形加工時にフィルムが破断しやすくなる。特に50μm以上であることが好ましい。
【0013】
樹脂フィルム層1のいずれかの面にサンドマット、ヘアライン加工などの各種加工が施されていてもよい。さらに、フィルム原料に顔料練込を行って着色したり、あるいはフィルム表面及び/または裏面に印刷を施したり、染色したりしても良い。
【0014】
本発明で、樹脂フィルム層1と金属薄板3の間には、接着剤層2を配する。接着剤層2を構成する接着剤としては、樹脂フィルム層1と金属薄板3との接着性に優れていることが必要である。このような接着剤としては、十分な接着力と成形時の熱に耐えられる耐熱性を有しているものが使用可能であるが、一般にポリウレタン系接着剤などを使用することができる。本発明の成形用金属調加飾シートの接着剤層2に使用する接着剤として、成形時の温度に耐えられることが必要であることを考慮して選択する必要がある。これら接着剤は使用に際しては適宜溶剤を用いて、あるいは、エマルジョンとして、グラビアコーター、リバースコーター、ダイコーター、ロールコーター等の公知の手段により、樹脂フィルム層1或いは金属薄板3に、または両者に塗布し、必要により乾燥する。
【0015】
なお、接着剤層2の厚さは、本発明の効果である金属触感を損なわない程度の厚さであることが必要であり、また、成形用のシートとして層間の十分な接着力を確保する必要がある。これらを考慮して、2μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下であることがより好ましい。2μm未満であると接着力が小さすぎる場合があり、また、100μm超であると、十分な金属触感を得られない場合があり、また乾燥に時間がかかり工程上好ましくなく、また、コストアップとなる。
【0016】
接着剤層2には、金属光沢の色調への影響を考慮し、積極的に色調を調整するために、顔料、染料、金属粉やマイカ等の添加物を添加しても良い。
【0017】
本発明における金属薄板3は、アルミニウム、ステンレス、鉄、銅、亜鉛、錫、チタン、マグネシウム等やこれらの合金が使用可能であるが、これらの中でも、アルミニウムを使用することが好ましい。アルミニウムは軽量かつ成形が容易であり、また安価な金属であるため、アルミニウムを使用することにより、コストを上昇させることなく、複雑な形状の構造を有する樹脂部品を得ることをできる。
また、金属薄板3に関しても、べーマイト法、クロメート法などの化成処理、化学研磨、電解研磨、サンドブラスト、ヘアライン加工、化学梨地仕上げ、各種めっき等の表面処理を施した金属を用いることができる。
【0018】
本発明において金属薄板3の厚さは、200μm〜400μmとする。厚さが200μm未満であると、以下の実施例で詳述するように、十分な金属触感を得られない。また、厚さが400μm超えた場合は、シートとしての成形性が悪くなる。
【0019】
金属薄板3と熱可塑性樹脂層5との間には、接着剤層4を設ける。接着剤層4を構成する接着剤としては、金属薄板3と熱可塑性樹脂層5の接着性に優れていることが必要である。接着剤層4に使用する具体的な接着剤としては、接着剤層2と同様な接着剤を使用することができる。
接着剤層4の厚さについても、接着剤層2と同様な範囲に設定することが可能であり、また、塗布手段に関しても接着剤層2と同様な方法を採用することができる。
【0020】
本発明における熱可塑性樹脂層5としては、成形時の温度に耐えられるものである必要があり、従来から金属調加飾シートに使用できる熱可塑性樹脂を使用することができる。そのような樹脂として、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどが挙げられ、成形時の温度に対する耐熱性、経済性などを考慮して適宜選択する。
【0021】
この熱可塑性樹脂フィルムの厚さとしては、50μm以上1000μm以下が望ましい。50μm未満であるとラミネート加工時にしわ等の瑕疵が発生しやすくまた成形加工時にシートが破断しやすくなる。一方、1000μm超となると成形性が低下する場合がある。なお、熱可塑性樹脂層5で使用する熱可塑性樹脂に印刷、顔料練り込みなどによって部分的、あるいは全体に着色することもできる。
【0022】
以下に、本発明の成形用金属調加飾シートの製造方法について説明する。
本発明の成形用金属調加飾シートは、特に限定されることなく、従来の方法を用いて製造することができる。
例えば、溶剤に溶かした接着剤を熱可塑性樹脂層5に、グラビアコーター、リバースコーター、ダイコーター、ロールコーター等の手段を用いて接着剤を塗布し、乾燥炉にて溶剤を十分乾燥させて接着剤層4を設ける。この時、接着剤は前記の所望の接着剤層の厚さとなる量を塗布する。そして、これに金属薄板を貼り合わせ、金属薄板3、接着剤層4および熱可塑性樹脂層5からなるシートを得る。一方で、樹脂フィルム層1に上記と同様の方法で、接着剤を塗布し、接着剤層2を設ける。そして、金属薄板3、接着剤層4および熱可塑性樹脂層5からなるシートの金属薄板3を貼り合わせ面として、接着剤層2と貼り合わせ、本発明の成形用金属調加飾シートを得る。
【0023】
本発明の成形用金属調加飾シートを、使用する樹脂製品もしくは部品の形状に成形する。成形する方法は従来の方法を用いることができる。
例えば、本発明の加飾シートを所望の形状にトムソン型等を使用して打ち抜き加工する。この様にトリミングした後、プレス型に入れてプレス加工を行い立体形状に変形させる。立体形状に変形したシートを、射出成形の金型内に配置し、型閉め後、熱可塑性樹脂を溶融射出し、金型内に樹脂を充填させることにより、成形と同時にシートと熱可塑性樹脂とを一体化させた。冷却後、型開きして樹脂製品(部品)を取り出す。
【0024】
本発明の成形用金属調加飾シートを用いて得られる樹脂製品(部品)として、自動車内装部品、携帯電話、携帯情報端末、カメラ、音響機器、AV機器、計算機、ゲーム機、電子辞書、パーソナルコンピュータなどの筐体、銘板が挙げられる。特に、本発明の加飾シートは、人間の手が直接触れる部分に使用されることを目的とする。
自動車用内装部品として、具体的には、センターコンソール、インスツルメントパネル、ドアハンドル、ドアハンドルオーナメント、パワーウィンドウスイッチカバー、シフトゲートパネル、シフトノブ、ステアリングオーナメント、アッシュトレイカバーが挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明の成形用金属調加飾シートについて具体的に説明する。
(実施例1の成形用金属調加飾シートの製造方法)
厚さ250μmのアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂製シート(チッソ(株)製パスカラBS−100、450mm幅ロール)の片面にロールコーターを使用してポリウレタン系接着剤(三井化学(株)製タケラックA543:タケネートA3:酢酸エチル=18:2:1の比で配合)を、50g/mの量で塗布後、乾燥炉にて接着剤の溶剤を充分乾燥させ(60℃、2分)、厚さ20μmの接着剤層を形成したのち、この接着剤層面に厚さ200μmのアルミ板(昭和電工製、04S、400mm×1200mm)を貼り合せてABS樹脂シート、接着剤層、アルミ薄板からなる積層体Aを形成した。
【0026】
次に、厚さ75μmのポリメチルメタアクリレート(PMMA)製透明フィルム(住友化学(株)製テクノロイS001、450mm幅ロール)の片面に、上記同様の方法で、厚さ20μmの接着剤層を形成したのち、この接着剤層面に、上記積層体Aのアルミ板面を貼り合わせ面として、貼り合わせ、PMMA製フィルム、接着剤層、アルミ薄板、接着剤層、ABS樹脂製シートからなる成形用金属調加飾シートを得た。
このようにして得られた本発明に係る加飾シートをトムソン型により製品形状にトリミングした後、160℃で数秒間プレヒーティングを行った後、プレス型により立体形状にプレフォーミングした。
プレフォーミングされたシートを、射出成形の金型内へ挿入、所定位置にセットし、型締め後にABS樹脂を溶融射出し、金型内に樹脂を充填させることにより、成形と同時にシートと樹脂を一体化させ、冷却後、型から取り出して製品(アッシュトレイカバー)を得た。
【0027】
(実施例2〜5、比較例1〜3)
樹脂フィルム層1の厚さを変更させたシート(実施例4、比較例2)、PMMA以外にポリエチレンテレフタレート(PET)を用いたシート(実施例5)、金属薄板の厚さを変更したシート(実施例2、3、5、比較例1〜3)をそれぞれ、実施例1と同様な方法で製造した。
【0028】
接触冷温感評価値(qmax)の測定
上記実施例1〜5、比較例1〜3の接触冷温感評価値を、KES−F7サーモラボII型精密迅速熱物性測定装置(カトーテック株式会社製)を用いて測定した。この値が小さいと暖かく、この値が大きいと冷たく感じることを表す。
人間の感覚として、金属触感はその触れた感覚がより冷たいと金属様の触感として認識できるため、本発明のシートの金属触感を接触冷温感評価値を用いて表した。
【0029】
成形性の評価
プレス型により、立体形状にプレフォーミングした際、
○:細部に亘って金型の形状に忠実に成形されている。
×:金型形状の凹凸が十分に再現されておらず、射出成形の金型内に挿入セットできない。
【0030】
評価結果を以下の表に記す。
【表1】

【0031】
上記実施例1〜5、比較例1〜3を、成人男女30人に実際に触れてもらい、金属冷感を感じると回答した数で評価した。
【0032】
【表2】

【0033】
上記の表1の通り、樹脂フィルム層1および金属薄板3が特定の厚さを有するときに、成形性に問題がなく、金属調の冷たい感触を有する加飾シートを提供することができる。また、実際に人間の感覚で金属冷感を評価した結果、本願発明品で明確に金属冷感を感じられることが確認された。
【符号の説明】
【0034】
1.樹脂フィルム層
2.接着剤層
3.金属薄板
4.接着剤層
5.熱可塑性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ130μm以下の透明もしくは半透明樹脂フィルム層、接着剤層、厚さ200〜400μmの金属薄板、接着剤層および熱可塑性樹脂層をこの順で有する、成形用金属調加飾シート。
【請求項2】
前記金属薄板はアルミニウム薄板である、請求項1に記載の成形用金属調加飾シート。
【請求項3】
前記樹脂フィルム層がアクリル系樹脂からなる、請求項1又は2に記載の成形用金属調加飾シート。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂がポリメチルメタアクリレートである、請求項3に記載の成形用金属調加飾シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形用金属調加飾シートを成形してなる自動車内装部品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−16243(P2011−16243A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160608(P2009−160608)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(510127882)株式会社ウェーブロック・アドバンスト・テクノロジー (5)
【Fターム(参考)】