説明

金属超微粒子形成用脂肪酸金属塩

【課題】樹脂中で金属超微粒子、或いは金属超微粒子を含む樹脂組成物、塗膜、分散液又はその成形物を生成させる上で、好適に使用することのできる脂肪酸金属塩を提供することである。
【解決手段】含水率が200ppm以下であり、金属超微粒子形成に用いられることを特徴とする脂肪酸金属塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸金属塩に関するものであり、より詳細には金属超微粒子、該金属超微粒子含有樹脂組成物、該金属超微粒子含有塗膜又は該金属超微粒子分散液への前駆体として好適に使用可能な脂肪酸金属塩に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、脂肪酸金属塩は電子印刷分野、粉末治金分野、化粧品分野、塗料分野、樹脂加工分野など、多くの分野において幅広く用いられており、例えば、脂肪酸のマグネシウム塩やカルシウム塩などは、化粧品分野では、皮膚への滑沢性、付着性の向上を目的として、樹脂加工分野では、顔料の分散性向上を目的として用いられている。
一方、脂肪酸の銀塩は従来、写真製版や医療用途の熱現像画像記録材料として使用されてきたが、最近では、下記特許文献1や2に記載されているように、平均粒径1〜100nmの金属超微粒子を得るための前駆体としての用途が開示されている。
【0003】
すなわち、下記特許文献1においては、脂肪酸銀や脂肪酸金塩等の有機金属化合物を不活性化ガス雰囲気下で固相反応により熱分解することで、表面が脂肪酸によって保護された銀や金の平均粒径1〜100nmである金属超微粒子を合成している。一方、特許文献2においては、脂肪酸の銀や金塩と樹脂との混合物を当該脂肪酸金属塩の熱分解開始温度以上且つ樹脂の劣化温度未満の温度で加熱成形して、平均粒径1〜100nmである金属超微粒子を樹脂成形物中で生成せしめている。
【0004】
このような金属超粒子は、バルクとは異なる特異な性質を示す為、インクジェット材料、記録材料、触媒などへの応用や、導電性ペーストなど電子デバイスの材料、さらに、プラズモン吸収を利用した色材としての利用等、様々な分野において応用が検討されている。また、これらの金属超微粒子が安定に分散された樹脂成形物は導電性材料、磁性材料や電磁波吸収材料などの幅広く検討されている。
また本出願人により、例えば特許文献2記載の手法により製造した、表面が有機酸によって修飾された金属超微粒子を含む樹脂化合物は、メチルメルカプタン等の悪臭成分、或いはホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds 以下「VOC」という)の吸着性能を有することや、抗菌性、アレルゲン物質などの微小蛋白質を不活性化する性質を有することが明らかにされている(特願2006−237898及び特願2006−332077)。
【0005】
上述したように金属超微粒子は多様な分野における応用が検討されており、このような金属超微粒子を得るための製造方法としては、気相中に高温で蒸発させた金属の蒸気を供給し、ガス分子との衝突により急冷させて微粒子を形成する気相法や、金属イオンを含む溶液に還元剤を添加して金属イオンの還元を行う液相法等が一般的であるが、脂肪酸金属塩を前駆体として樹脂と混合し、加熱成形する方法は、粒度分布が狭く分散安定性に優れた金属超微粒子を含む樹脂化合物が極めて簡便且つ汎用的な方法にて得られる生産性に富んだ製造方法である。
【0006】
脂肪酸金属塩の代表的な製造方法は以下の2つが知られている。
第1種類の製造方法は、溶融法であり、脂肪酸を加熱溶融後、金属の酸化物あるいは水酸化物と反応させて脂肪酸金属塩を生成させるものである。この方法によれば、生産設備が簡単であるが、反応を完全に進行させるのが難しいため、反応物が容易に生成物に残留する、また、生成物を粉砕細粒化する工程が必要であるといった欠点がある。
第2種類の製造方法は、複分解法であり、脂肪酸を水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物とけん化反応させるか、あるいは脂肪酸アルカリ金属塩を溶解させて作製した水溶液に金属イオンを含む水溶液を添加して脂肪酸金属塩を生成させるものである。この反応は高温条件を必要とせず、かつ後処理がろ過、洗浄、乾燥、解砕といった簡便な工程のみであり、粒子径の小さい粒子が得られるという利点があるため、商業生産によく利用されている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−183207号公報
【特許文献2】特開2005−348213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した金属超微粒子前駆体用としての脂肪酸金属塩の製造方法としては、溶融法、複分解法いずれの手法も適用することは可能であると考えられるが、どのような特性の脂肪酸金属塩が、金属超微粒子或いは金属超微粒子を含む樹脂組成物又はその成形物を生成する上でより好適に使用できるかは明らかにされていなかった。
従って本発明の目的は、樹脂中で金属超微粒子、或いは金属超微粒子を含む樹脂組成物、塗膜、分散液又はその成形物を生成させる上で、好適に使用することのできる脂肪酸金属塩を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、含水率が200ppm以下であり、金属超微粒子の形成に用いられることを特徴とする脂肪酸金属塩が提供される。
本発明の脂肪酸金属塩においては、
1.金属超微粒子が吸着性及び/又は微小蛋白質不活性化を有すること、
2.金属が、Cu,Ag,Au,Id,Pd,Pt,Fe,Ni,Co,Zn,Nb,Ru及びRhからなる群から選択される少なくとも1種からなること、
3.金属が、Cu,Au,Id,Pd,Pt,Fe,Ni,Co,Zn,Nb,Ru及びRhからなる群から選択される少なくとも1種と、Agとの組み合わせであること、
4.脂肪酸の炭素数が3〜30のものであること、
が好適である。
【0010】
本発明によればまた、上記脂肪酸金属塩が樹脂中で熱分解する温度以上、且つ樹脂の劣化温度未満の温度で加熱することにより、樹脂中で脂肪酸金属塩から金属超微粒子を生成分散させることを特徴とする金属超微粒子含有樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0011】
本発明によればまた、上記脂肪酸金属塩が塗料中で熱分解する温度以上、且つ塗料成分の劣化温度未満の温度で加熱することにより、塗膜中で脂肪酸金属塩から金属超微粒子を生成分散させることを特徴とする金属超微粒子含有塗膜の製造方法が提供される。
【0012】
本発明によれば更に上記脂肪酸金属塩が分散媒中で熱分解する温度以上、且つ分散媒の沸点以下の温度で加熱することにより、分散媒中で脂肪酸金属塩から金属超微粒子を生成分散させることを特徴とする金属超微粒子含有分散液の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の含水率が200ppm以下の脂肪酸金属塩を前駆体として用いることにより、樹脂、塗料或いは分散媒中で金属超微粒子を製造すると、平均粒径1〜100nmの金属超微粒子が安定して得ることが可能となる。
またこの金属超微粒子を含む樹脂成形物、塗膜又は分散液は、含水率が本発明の範囲内にない脂肪酸金属塩を用いた場合に比して、悪臭物質やVOCの吸着能力、或いは抗菌性及び微小蛋白質不活性能力等の性能が顕著に優れている。
本発明の脂肪酸金属塩は、金属超微粒子、同超微粒子を含む樹脂組成物、塗膜または分散液を生成させる際に、金属超微粒子前駆体として好適に使用することができる。
本発明の脂肪酸金属塩を用いて成形された金属超微粒子含有樹脂成形品、金属超微粒子含有塗膜又は金属超微粒子分散液は、臭気成分、VOCを効果的に吸着することができ、優れた消臭性能或いはVOC吸着性能を発現することができると共に、スギ花粉等の植物性蛋白質アレルゲン物質や酵素、あるいはウィルス等を有効に不活性化することができ、しかも成形加工と同時に金属超微粒子化とその均一分散が可能であり、生産性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者等は、200ppm以下の含水率を有する脂肪酸金属塩が、樹脂、塗料又は溶液中で混合され、加熱されることにより、良好な色調や悪臭物質やVOCの吸着能力、抗菌性、微小蛋白質を不活性化する能力に特に優れた樹脂組成物或いは分散液を提供できることを見出した。
【0015】
本発明の含水率が200ppmの脂肪族金属塩が、上述した作用効果を奏することは後述する実施例の結果からも明らかである。
すなわち、後述する実施例においては、含水率の異なる脂肪酸金属塩を用いてフィルム成形を行い、このフィルムの吸光度を分光光度計(島津製作所製)を用いて測定した。貴金属や銅の超微粒子は、自由電子が光磁場による振動を受けて生じるプラズモン吸収に起因する発色を示すことが知られている。この吸収波長は金属の種類に固有のものであり、銀超微粒子の場合には、波長420nm付近に吸収をもっている。
図1〜5より、実施例1〜4および比較例1、比較例2のフィルムは420nm付近に銀のプラズモン吸収に起因する吸収をもつことが分かる。また、図1〜4から含水率の低いステアリン酸銀から得られたフィルムの方が420nm付近の吸光度が高くなっていることが分かる。
この結果は含水率が200ppm以下の脂肪酸金属塩を用いることにより、成形品中に、狭い粒度分布をもった銀超微粒子が凝集することなく安定分散して生成していることを示すものであり、このような成形品は、吸着性能においても、含水率が200ppmよりも大きい脂肪酸金属塩を用いた場合よりも優れていることが明らかである。
【0016】
(脂肪酸金属塩)
本発明の脂肪酸金属塩における金属の種類は、Cu、Ag、Au、In、Pd、Pt、Fe、Ni、Co、Zn、Nb、Ru及びRhからなる群より選択される少なくとも1種であり、特にCu、Ag、Co、Niが消臭や抗菌等の性能が高い点から望ましい。また、含まれる金属は複数であってもよく、この場合には、Agを必須成分とし、Ag以外の他の金属を少なくとも1種組み合わせることが望ましい。
また本発明の脂肪酸金属塩における脂肪酸は、炭素数3〜30の脂肪酸で、飽和、不飽和のいずれであってもよい。このようなものとしては、例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアリン酸、アラキジン酸等を挙げることができる。また、含まれる脂肪酸が複数であってもよい。
好適には炭素数12〜22の直鎖飽和脂肪酸である。炭素数が12よりも小さい場合、水への溶解度が高いため、生成物である脂肪酸金属塩の収率が低下する。また、炭素数が23以上の場合、原料の水に対する溶解度が低く、脂肪酸金属塩を生成できなくなるおそれがある。
【0017】
本発明による脂肪酸金属塩を製造する為の製造方法は上述の溶融法、複分解法いずれの製法を用いても良いが、粒子径の小さい脂肪酸金属塩が得られる点において、複分解法が好ましく適用される。
金属の原料は水溶性であれば特に限定されないが、中でも硝酸塩が好ましい。
脂肪酸の原料には脂肪酸か、脂肪酸のアルカリ金属塩を使用できる。脂肪酸を用いる場合はNaOH等のアルカリを用いて水に脂肪酸を溶解させる。
【0018】
本発明の脂肪酸金属塩を製造する際の配合は、原料として用いる脂肪酸の価数をA、モル量をX、金属イオンの価数をB、モル量をYとすると、AX/BY は0.9以上1.1未満であることが望ましい。0.9未満であると、脂肪酸金属塩の生成効率が悪く、1.1以上であると、金属含有量が低くなり、樹脂成形物の消臭や抗菌性能が低下する。
また、合成に用いる反応溶媒は水、或いは水と有機化合物との混合溶液であってよい。混合可能な有機化合物は水と混和可能なものであり、かつ原料や生成物の構造を破壊しないものに限られる。混合可能な有機化合物の例として、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのアルコール類や、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル等のグリコールエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル類、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの極性溶媒などを挙げることができる。
【0019】
複分解法において反応を行った後、得られた脂肪酸金属塩を含むスラリーは洗浄、及び濾過の工程を経て、乾燥に処される。乾燥は乾燥後の脂肪酸金属塩の含水量が200ppm以下となるような乾燥法であれば、特に限定は受けない。例えば、真空乾燥機、凍結乾燥機、気流式乾燥機を使用することができる。
乾燥は熱風式乾燥機の場合には、80乃至120℃、特に90乃至110℃の温度範囲で行うのが望ましい。80℃以下では水分が十分に蒸発せず、120℃以上で行うと脂肪酸が一部、熱により分解を受ける等の好ましくない反応が生じる。
また脂肪酸金属塩は、乾燥により含水量を200ppm以下に制御しても、経時により含水率が増加するため、本発明の脂肪酸金属塩の製造直後に使用、すなわち樹脂と混合し、加熱成形する場合を除き、遮光して乾燥条件で保管するか、使用直前に再乾燥して用いることが望ましい。
【0020】
(金属超微粒子含有樹脂組成物)
本発明の脂肪酸金属塩は、脂肪酸金属塩を配合する樹脂組成物の熱処理によって成形加工することにより、樹脂組成物中に上述した作用効果を有する金属超微粒子が均一分散した金属超微粒子含有樹脂組成物を得ることが可能になる。
本発明の脂肪酸金属塩を配合し得る樹脂としては、溶融成形が可能な熱可塑性樹脂であれば従来公知のものをすべて使用でき、例えば、低−,中−,高−密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタエート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。
本発明の樹脂成形体においては、特にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルを用いることが好適である。
また本発明の樹脂成形体においては、その用途に応じて、それ自体公知の各種配合剤、例えば、充填剤、可塑剤、レベリング剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を公知の処方に従って樹脂に含有することもできる。
【0021】
本発明の脂肪酸金属塩は、樹脂100重量部当り0.001乃至5重量部の量で配合することが好ましく、上記範囲よりも少ないと金属超微粒子が有する効果を十分に得ることができず、一方上記範囲よりも多いと金属超微粒子が凝集し、均一分散が困難になるおそれがあるので好ましくない。
本発明においては、二本ロール法、射出成形、押出成形、圧縮成形等の従来公知の溶融成形に賦することにより、最終成形品の用途に応じた形状、例えば、粒状、ペレット状、繊維状、フィルム、シート、容器等の樹脂成形体を成形することができる。
樹脂成形体への成形温度は、成形方法や用いる樹脂及び脂肪酸金属塩の種類によって一概に規定できないが、用いる樹脂の熱劣化を生じない温度、且つ脂肪酸金属塩が樹脂中で熱分解する上述した温度範囲内であることが必要である。
また本発明の金属超微粒子含有樹脂成形体は、本発明の脂肪酸金属塩を含有する樹脂単独で樹脂成形品を構成することもできるが、他の樹脂との組み合わせで多層構造とすることもできる。
【0022】
(金属超微粒子含有塗膜)
また含水率200ppm以下の脂肪酸金属塩を用いて調製されたコーティング剤により、上述した金属超微粒子を含有する塗膜を形成することができる。
すなわち前述した通り、本発明の脂肪酸金属塩が、塗膜の焼付けの際の熱処理によって、塗料成分中で均一分散された金属超微粒子を形成することで、塗膜中に金属超微粒子が存在することが可能になる。
脂肪酸金属塩は、塗料成分100重量部に対して0.001乃至5重量部の量で配合させることが好ましく、上記範囲よりも少ないと金属超微粒子が有する効果を十分に発現させることができず、一方上記範囲よりも多いと金属超微粒子が凝集するおそれがあるので好ましくない。
【0023】
本発明の脂肪酸金属塩を含有させる塗料成分としては、加熱により塗膜形成が可能なものであれば種々のものを使用することができる。例えば、これに限定されないが、アクリル系塗料、エポキシ系塗料、フェノール系塗料、ウレタン系塗料、ポリエステル系塗料、アルキド樹脂塗料等の従来公知の塗料組成物を用いることができる。
また塗膜形成のためのコーティング剤においても、樹脂成形体の場合と同様に、その用途に応じて、それ自体公知の各種配合剤、例えば、レベリング剤、増粘剤、減粘剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤等を公知の処方に従って含有することができる。
塗膜形成のための熱処理条件は、用いる塗料成分及び脂肪酸金属塩の種類によって一概に規定できないが、用いる塗料成分の熱劣化を生じない温度、且つ脂肪酸金属塩が塗料中で熱分解する温度範囲内で、60乃至600秒間加熱処理を行うことが必要である。
【0024】
(金属超微粒子分散液)
本発明の脂肪酸金属塩を用いて調製された分散液は、本発明の含水率200ppm以下の脂肪酸金属塩を分散媒中に分散し、脂肪酸金属塩が分散媒中で熱分解する温度以上且つ分散媒の沸点以下の温度で混合加熱することにより、金属超微粒子が分散媒中に分散して成る分散液を調製することができる。
本発明の分散液の製造方法に用いる分散媒としては、多価アルコールを好適に用いることができる。多価アルコールは、脂肪酸金属塩が分散媒中で熱分解する温度よりも高い沸点を有するものであることが好ましく、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロールを挙げることができるが、特にポリエチレングリコールを好適に用いることができる。
ポリエチレングリコールは、平均分子量200乃至20000、特に400乃至10000の範囲のものを好適に使用することができ、また異なる分子量のものを複数種混合して用いることもできる。
【0025】
本発明の分散液の製造方法においては、分散液中に脂肪酸金属塩を1×10−6乃至20重量%、特に1×10−5乃至10重量%の量で配合することが好ましい。上記範囲よりも脂肪酸金属塩の量が少ないと充分な量の金属超微粒子を分散させることができず、その一方上記範囲よりも多いと金属超微粒子の凝集を招くおそれがある。
また保護剤として酸化防止剤を配合することが好ましく、酸化防止剤を配合することにより、加熱時の熱劣化を防止することが可能となる。
用いる酸化防止剤としては、これに限定されないが、トコフェロール (ビタミンE)類、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、エチレンビスステアリン酸アミド等従来より公知のものを挙げることができるが、特にIRGANOX1010(登録商標)を好適に使用することができる。酸化防止剤は、溶液中に0.1乃至10重量%の量で配合することが好ましい。
【0026】
本発明の分散液の製造方法においては、分散媒中に脂肪酸金属塩、必要により酸化防止剤を配合した後、脂肪酸金属塩が分散媒中で熱分解する温度以上且つ分散媒の沸点未満の温度で加熱しながら攪拌混合して、分散媒中で金属超微粒子を生成させる。
加熱時間は、用いる溶液の種類及び脂肪酸金属塩の配合量などによって異なり、一概に規定できないが、1乃至1800、特に5乃至300秒の範囲で加熱することが好適である。
加熱混合後、室温で冷却し、溶液の濾過を行う。これにより分散媒中の遊離脂肪酸を除去させることができ、本発明の金属超微粒子、特に平均粒径1乃至100nmの金属超微粒子が分散媒中に均一分散された分散液を得ることができる。
【0027】
本発明の製造方法により得られた分散液は、そのまま吸着剤(消臭剤)或いは微小蛋白質不活性化剤として使用することもできるが、溶媒で希釈して用いることが好ましい。
希釈に用いる溶媒としては、これに限定されないが、精製水、イオン交換水等の水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコール;メタノール変性、ベンゾール変性、トリオール変性、メチルエチルケトン変性、安息香酸デナトニウム変性、香料変性等の一般変性アルコール;エチレングリコールモノエチルエーテル、クロロホルム、炭酸ジエチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、ヘキサン、工業用エチルエーテル等の変性アルコール;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコール系溶剤等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で用いても又2種以上併用しても良い。
本発明においては、特に水又はエタノール等の沸点100℃以下の低沸点溶媒を好適に使用することができ、特に1乃至30%の濃度のエタノール水溶液を好適に使用できる。
本発明の分散液は、床、壁面、カーテン、カーペット等の住宅関連部材、空調機器、織布、不織布等の繊維製品、マスク、フィルター等の濾過部材に、噴霧、塗布、含浸等させて用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例などにより何ら限定されるものではない。
1.脂肪酸金属塩含有フィルム
後述する実施例1乃至6及び比較例1、比較例2で得たステアリン酸塩の含有量が0.5wt%となるように低密度ポリエチレン(住友化学社製)に混合し、250℃に温度設定した二軸押出機(東洋精機社製)で加熱溶融し、Tダイフィルム成形機(東洋精機社製)から押出し、引き取りロールを介して膜厚50μmの脂肪酸金属塩含有フィルムを作成した。
【0029】
2.脂肪酸金属塩の含水率の測定
得られた脂肪酸金属塩の含水率をカールフィッシャー水分計(ダイアインスツルメンツ社製)を用いて測定した。
【0030】
3.未消臭時メチルメルカプタン濃度の測定
口部をゴム栓で密封した窒素ガス置換した500mLガラス製瓶(GL-サイエンス社製)内に、悪臭物質メチルメルカプタン5μLをマイクロシリンジにて注入し、その濃度が10、20ppmとなるようにそれぞれ調整し、室温(25℃)で1日放置した。1日放置後、各瓶内へガステック製検知管を挿入し、残存メチルメルカプタン濃度を測定して未消臭時メチルメルカプタン濃度(A)とした。
【0031】
4.消臭後メチルメルカプタン濃度の測定
脂肪酸金属塩含有フィルムを5cm四方の大きさに切り取り、樹脂糸を用いて、500mLのガラス製瓶内に吊り下げた。攪拌のための回転子を入れ、各瓶内を窒素置換後、マイクロシリンジ(伊藤製作所製)を用いて、悪臭物質メチルメルカプタン水溶液5μLを滴下した。
次いで、スターラー(アズワン社製)を用いて15分攪拌し、メチルメルカプタン水溶液を完全に気化させ、その濃度が10、20ppmとなるように調整した後、一日放置し、各瓶内のメチルメルカプタン濃度(B)を検知管キット(ガステック社製)を用いて測定した。
【0032】
5.メチルメルカプタン消臭率の算出
前記未消臭時のメチルメルカプタン濃度(A)から消臭後メチルメルカプタン濃度(B)を引いた値を未消臭時のメチルメルカプタン濃度(A)で割り、百分率で表した値を消臭率とした。
【0033】
(実施例1)
ステアリン酸ナトリウム76.6gを90℃の水3000gに溶解させたa液と、硝酸銀40.3gを水600gに溶解させたb液とをそれぞれ調製した。次に、a液を攪拌しながら、b液をa液に投入した。投入後15分攪拌した後、吸引ろ過により固液分離を行いながら、脱イオン水を用いて十分に洗浄を行った。得られた固体を熱風乾燥機(タバイエスペック社製SPH−101型)にて、100℃で24時間乾燥させ、含水率が80ppmのステアリン酸銀を得た後、次いで、このステアリン酸銀を用いて前記金属超微粒子含有フィルムを作製した。得られたフィルムによる上述の消臭試験を行い、消臭率を算出した。
【0034】
(実施例2)
熱風乾燥を100℃で20時間行い、含水率を125ppmとした以外は、実施例1と同様にステアリン酸銀の作製し、金属超微粒子含有フィルムの作製、及び消臭試験による消臭率の算出を行った。
【0035】
(実施例3)
熱風乾燥を100℃で18時間行い、含水率を184ppmとした以外は、実施例1と同様にステアリン酸銀の作製し、金属超微粒子含有フィルムの作製、及び消臭試験による消臭率の算出を行った。
【0036】
(実施例4)
熱風乾燥機を用いて80℃で18時間乾燥させた後、真空乾燥機(タバイエスペック社製LV−120型)にて0.1MPa、60℃の条件下で8時間乾燥させ、含水率を66ppmとした以外は、実施例1と同様にステアリン酸銀の作製し、金属超微粒子含有フィルムの作製、及び消臭試験による消臭率の算出を行った。
【0037】
(実施例5)
硝酸銀14.2gと硝酸コバルト(II)六水和物24.3gを水600gに溶解させたc液と実施例1のa液を用いて、熱風乾燥機にて、80℃で20時間乾燥させた後、真空乾燥機にて0.1MPa、60℃の条件下で12時間乾燥させ、含水率が153ppmのコバルトと銀を含むステアリン酸塩を作製した以外は、実施例1と同様にステアリン酸銀の作製し、金属超微粒子含有フィルムの作製、及び消臭試験による消臭率の算出を行った。
【0038】
(実施例6)
硝酸銀14.2gと硝酸銅(II)六水和物20.1gを水600gに溶解させたd液を用いて、銀および銅を含む含水率が25ppmのステアリン酸塩を得た以外は、実施例5と同様にステアリン酸銀の作製し、金属超微粒子含有フィルムの作製、及び消臭試験による消臭率の算出を行った。
【0039】
(比較例1)
熱風乾燥を100℃で12時間行い、含水率を373ppmとした以外は、実施例1と同様にステアリン酸銀の作製し、金属超微粒子含有フィルムの作製、及び消臭試験による消臭率の算出を行った。
【0040】
(比較例2)
熱風乾燥を100℃で6時間行い、含水率を640ppmとした以外は、実施例1と同様にステアリン酸銀の作製し、金属超微粒子含有フィルムの作製、及び消臭試験による消臭率の算出を行った。
【0041】
上記結果を表1に示す。
【表1】

【0042】
実施例1〜6の脂肪酸金属塩を添加した樹脂成形体は、一日経過後のメチルメルカプタン濃度が低くなっている。このことは実施例1〜6の脂肪酸金属塩を添加した樹脂成形体が優れた消臭性能を有していることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1及び比較例2のステアリン酸銀を添加した成形体の吸光度を示すグラフである。
【図2】実施例2のステアリン酸銀を添加した成形体の吸光度を示すグラフである。
【図3】実施例3のステアリン酸銀を添加した成形体の吸光度を示すグラフである。
【図4】実施例4の銀と銅を含むステアリン酸塩を添加した成形体の吸光度を示すグラフである。
【図5】比較例1のステアリン酸銀を添加した成形体の吸光度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水率が200ppm以下であり、金属超微粒子形成に用いられることを特徴とする脂肪酸金属塩。
【請求項2】
前記金属超微粒子が吸着性及び/又は微小蛋白質不活性化を有する請求項1記載の脂肪酸金属塩。
【請求項3】
前記金属が、Cu,Ag,Au,Id,Pd,Pt,Fe,Ni,Co,Zn,Nb,Ru及びRhから成る群から選択される少なくとも1種からなる請求項1又は2記載の脂肪酸金属塩。
【請求項4】
前記金属が、Cu,Au,Id,Pd,Pt,Fe,Ni,Co,Zn,Nb,Ru及びRhから成る群から選択される少なくとも1種と、Agとの組み合わせである請求項1乃至3の何れかに記載の脂肪酸金属塩。
【請求項5】
前記脂肪酸の炭素数が3乃至30である請求項1乃至4の何れかに記載の脂肪酸金属塩。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の脂肪酸金属塩が樹脂中で熱分解する温度以上、且つ樹脂の劣化温度以下の温度で加熱することにより、樹脂中で脂肪酸金属塩から金属超微粒子を生成分散させることを特徴とする金属超微粒子含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至5の何れかに記載の脂肪酸金属塩が塗料中で熱分解する温度以上、且つ塗料成分の劣化温度以下の温度で加熱することにより、塗膜中で脂肪酸金属塩から金属超微粒子を生成分散させることを特徴とする金属超微粒子含有塗膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至5の何れかに記載の脂肪酸金属塩が分散媒中で熱分解する温度以上、且つ分散媒の沸点以下の温度で加熱することにより、分散媒中で脂肪酸金属塩から金属超微粒子を生成分散させることを特徴とする金属超微粒子含有分散液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−209387(P2009−209387A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50988(P2008−50988)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000229874)東罐マテリアル・テクノロジー株式会社 (27)
【Fターム(参考)】