説明

金属錯体及びそれからなる分離材

【課題】優れたガス分離性能を有する金属錯体を提供すること。
【解決手段】5−シアノイソフタル酸と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体によって上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びそれからなる分離材に関する。さらに詳しくは、5−シアノイソフタル酸と、少なくとも一種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材として好ましく、特に、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタン、エチレンとエタンまたは空気とメタンなどの分離材として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0006】
しかしながら、さらなる装置小型化によるコスト削減が求められているのが現状であり、これを達成するために吸着性能や吸蔵性能のさらなる向上が求められている。
【0007】
イソフタル酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、イソフタル酸誘導体の例として5−シアノイソフタル酸は開示されておらず、また、イソフタル酸の5位の置換基が吸着性能に与える効果についても何ら言及されていない。
【0008】
イソフタル酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献2参照)。イソフタル酸誘導体の例として5−シアノイソフタル酸が開示されているものの実施例はなく、また、イソフタル酸の5位の置換基が吸着性能に与える効果についても何ら言及されていない。
【0009】
イソフタル酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、イソフタル酸誘導体の例として5−シアノイソフタル酸は開示されておらず、また、イソフタル酸の5位の置換基が吸着性能に与える効果についても何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−247884公報
【特許文献2】特開2010−158617公報
【特許文献3】特開2010−180202公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】植村一広、北川進、未来材料、第2巻、44〜51頁(2002年)
【非特許文献2】松田亮太郎、北川進、ペトロテック、第26巻、97〜104頁(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、従来よりも高い選択性を発現するガス分離材として使用できる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討し、5−シアノイソフタル酸と、少なくとも1種のイオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)5−シアノイソフタル酸と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体。
(2)該二座配位可能な有機配位子が1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドから選択される少なくとも1種である(1)に記載の金属錯体。
(3)(1)または(2)に記載の金属錯体からなる分離材。
(4)該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である(3)に記載の分離材。
(5)該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタン、エチレンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である(3)に記載の分離材。
(6)金属錯体と炭化水素系混合ガスとを0.01〜10MPaの圧力範囲で接触させる工程を含む、(3)〜(5)のいずれかに記載の分離材を用いる混合ガスの分離方法。
(7)該分離方法が圧力スイング吸着法である(6)に記載の分離方法。
(8)5−シアノイソフタル酸と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、析出させる、(1)に記載の金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、5−シアノイソフタル酸と、少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体を提供することができる。
【0016】
本発明の金属錯体は、各種ガスの分離性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図2】比較合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図3】比較合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図4】合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図5】比較合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図6】比較合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図7】合成例1で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図8】比較合成例1で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図9】比較合成例2で得た金属錯体について、エチレン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の金属錯体は、5−シアノイソフタル酸と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる。
【0019】
金属錯体は、5−シアノイソフタル酸と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、5−シアノイソフタル酸及び二座配位可能な有機配位子を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより得ることができる。
【0020】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン及びカドミウムイオンを使用することができ、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン及び亜鉛イオンが好ましく、亜鉛イオンがより好ましい。
【0021】
金属錯体の製造に用いる周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩及びカドミウム塩を使用することができ、マンガン塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩及び亜鉛塩が好ましく、亜鉛塩がより好ましい。また、これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0022】
金属錯体の製造に用いる二座配位可能な有機配位子としては、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドを使用することができ、中でも4,4’−ビピリジルが好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属イオンに対して配位する部位を2箇所持つ中性配位子を意味する。
【0023】
金属錯体を製造するときの5−シアノイソフタル酸と二座配位可能な有機配位子の混合比率は、5−シアノイソフタル酸:二座配位可能な有機配位子=1:5〜8:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜6:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0024】
金属錯体を製造するときの金属塩と二座配位可能な有機配位子の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0025】
金属錯体を製造するための混合溶液における5−シアノイソフタル酸のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0026】
金属錯体を製造するための混合溶液における金属塩のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0027】
金属錯体を製造するための混合溶液における二座配位可能な有機配位子のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0028】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0029】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0030】
以上のようにして得られる本発明の金属錯体は、5−シアノイソフタル酸と金属イオンとからなる一次元鎖が、二座配位子により連結された二次元シートが形成されている。そして、これらの二次元シートが集積することにより、細孔(一次元チャンネル)を有する三次元構造をとる。
【0031】
金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え(相互作用の強さは物質のLennard−Jonesポテンシャルの大きさに比例)、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高い選択性が発現する。本発明では、5−シアノイソフタル酸を用いて細孔径と細孔表面の電荷密度を制御することで、構造変化のし易さを制御し、高い混合ガス分離性能を発現させることができる。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0032】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0033】
本発明の金属錯体は、各種ガスの分離性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材として好ましく、特に、メタン中の二酸化炭素、水素中の二酸化炭素、窒素中の二酸化炭素、メタン中のエタン、エチレン中のエタンまたは空気中のメタンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0034】
分離方法は、ガスが金属錯体に吸着できる条件でガスと本発明の金属錯体とを接触させる工程を含む。ガスが金属錯体に吸着できる条件である吸着圧力及び吸着温度は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、吸着圧力は0.01〜10MPaが好ましく、0.1〜3.5MPaがより好ましい。また、吸着温度は195K〜343Kが好ましく、273〜313Kがより好ましい。
【0035】
分離方法は、圧力スイング吸着法または温度スイング吸着法とすることができる。分離方法が圧力スイング吸着法である場合は、分離方法はさらに、圧力を、吸着圧力からガスを金属錯体から脱着させることができる圧力まで昇圧させる工程を含む。脱着圧力は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、脱着圧力は0.005〜2MPaが好ましく、0.01〜0.1MPaがより好ましい。分離方法が温度スイング吸着法である場合は、分離方法はさらに、温度を、吸着温度からガスを金属錯体から脱着させることができる温度まで昇温させる工程を含む。脱着温度は、吸着される物質の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、脱着温度は303〜473Kが好ましく、313〜373Kがより好ましい。
【0036】
分離方法は、圧力スイング吸着法または温度スイング吸着法である場合、ガスと金属錯体とを接触させる工程と、ガスを金属錯体から脱着させることができる圧力または温度まで変化させる工程を、適宜繰り返すことができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0038】
(1)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0039】
(2)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、50Paで10時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−HP
平衡待ち時間:500秒
【0040】
<合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.03g(17mmol)、5−シアノイソフタル酸3.23g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.64g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体6.63g(収率96%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図1に示す。
【0041】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物12.1g(42mmol)、5−ニトロイソフタル酸8.92g(42mmol)及び4,4’−ビピリジル6.60g(42mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド500mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体15.5g(収率85%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図2に示す。
【0042】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物12.6g(42mmol)、5−メトキシイソフタル酸8.29g(42mmol)及び4,4’−ビピリジル6.60g(42mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体17.0g(収率97%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図3に示す。
【0043】
<実施例1>
合成例1で得られた金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図4に示す。
【0044】
<比較例1>
比較合成例1で得られた金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図5に示す。
【0045】
<比較例2>
比較合成例2で得られた金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図6に示す。
【0046】
図4と図5及び図6の比較より、本発明の金属錯体は圧力の上昇と共にメタンを選択的に吸着し、かつ減圧にすることで吸着したメタンを放出するので、圧力スイング吸着法によるメタンとエタンの分離材として優れていることは明らかである。
【0047】
<実施例2>
合成例1で得られた金属錯体について、エチレン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図7に示す。
【0048】
<比較例3>
比較合成例1で得られた金属錯体について、エチレン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図8に示す。
【0049】
<比較例4>
比較合成例2で得られた金属錯体について、エチレン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した。結果を図9に示す。
【0050】
図7と図8及び図9の比較より、本発明の金属錯体は圧力の上昇と共にエチレンを選択的に吸着し、かつ減圧にすることで吸着したエチレンを放出するので、圧力スイング吸着法によるエチレンとエタンの分離材として優れていることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−シアノイソフタル酸と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体。
【請求項2】
該二座配位可能な有機配位子が1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)プロパン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドから選択される少なくとも1種である請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属錯体からなる分離材。
【請求項4】
該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である請求項3に記載の分離材。
【請求項5】
該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタン、エチレンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である請求項3に記載の分離材。
【請求項6】
金属錯体と炭化水素系混合ガスとを0.01〜10MPaの圧力範囲で接触させる工程を含む、請求項3〜5のいずれかに記載の分離材を用いる混合ガスの分離方法。
【請求項7】
該分離方法が圧力スイング吸着法である請求項6に記載の分離方法
【請求項8】
5−シアノイソフタル酸と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、析出させる、請求項1に記載の金属錯体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−193122(P2012−193122A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56298(P2011−56298)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発」「化学品原料の転換・多様性を可能とする革新グリーン技術の開発」「気体原料の高効率利用技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】