説明

金属Ti又はTi合金の製造方法

【課題】還元工程で生成したTi粒又はTi合金粒に付着している溶融塩のCa濃度を低下させ、溶解炉へ持ち込まれるCa量を低減できる金属Ti又はTi合金の製造方法を提供する。
【解決手段】還元工程で生成したTi粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物を、溶解前に溶融塩で洗浄することにより前記Ca含有溶融塩のCa濃度を低下させて、溶解炉へ持ち込まれるCa量を低減する。洗浄用の溶融塩(例えば、溶融CaCl2)として、本発明の方法の実施に用いられる製造装置に取り付けられたCa除去濃縮装置5でCaが除去された溶融CaCl2の一部を洗浄用溶融CaCl2槽15に貯留しておき、この溶融CaCl2を使用するのが特に望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TiCl4のCa還元により生成させ、溶融塩から分離した後のTi粒又はTi合金粒を連続的に溶解して金属Ti又はTi合金のインゴットとする工程を含むCa還元による金属Ti又はTi合金の製造方法に関し、特に、溶解炉へ持ち込まれるCa量を低減することができる金属Ti又はTi合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属Tiの工業的な製法としては、TiCl4をMgにより還元するクロール法が一般的であるが、この方法はバッチ式であるために製品価格が非常に高くなるという問題がある。これに対し、TiCl4をCaで還元して金属Tiを製造する技術が提案されている。
【0003】
本発明者らは、このCa還元による金属Tiの製造方法を工業的に確立するためには、還元反応で消費される溶融塩中のCaを経済的に補充する必要があると考え、溶融CaCl2の電気分解により生成するCaを利用すると共に、このCaを循環使用する方法、即ち「OYIK法(オーイック法)」を提案した。
【0004】
この方法は、例えば、特許文献1に記載されるように、Caが溶解した溶融CaCl2中のCaにTiCl4を反応させてTi粒を生成させる還元工程および生成したTi粒を分離する工程と、Ti粒の生成に伴ってCa濃度が低下した溶融CaCl2を電解することにより溶融CaCl2中のCa濃度を高める電解工程を含み、電解工程で生成したCaを還元工程でTiCl4の還元に用いる金属Tiの製造方法であって、電解工程で生成したCaを還元剤として循環使用し、操業を連続的に行うことができる。
【0005】
さらに、本発明者らは、このCa還元による金属Tiの製造方法において、特許文献2に記載されるように、電解工程で、溶融塩(例えば、溶融CaCl2)を保持する一方向に長い電解槽容器と、電解槽容器の長手方向に沿って配置されたアノードおよびカソードを有し、前記電解槽容器の長手方向の一方の端部に溶融塩供給口が設けられ、他方の端部に溶融塩の電気分解により生成するCa濃度が高められた溶融塩を電解槽外へ抜き出す溶融塩抜き出し口が設けられた電解槽を使用する金属Tiの製造方法を提案した。この方法によれば、大量の溶融塩を連続電解して生成するCaを還元工程へ供給できるので、金属Tiを効率よく製造することが可能である。
【0006】
このCa還元による金属Tiの製造方法では、TiCl4の還元により生成したTi粒は溶融CaCl2から分離された後、溶解工程へ移送され、加熱溶解されてTiインゴットとなる。
【0007】
しかしながら、分離工程で溶融CaCl2が完全に除かれるわけではなく、分離されたTi粒には溶融CaCl2が付着しており、この付着している溶融CaCl2には微量のCaが含まれている。そのため、溶解工程で、このCaに起因するトラブルが生じ易く、連続操業の妨げとなる。すなわち、Caは揮発性で、ガス状となり易いため、溶解工程の入り側で、Ti粒と微量のCaが含まれる溶融CaCl2との混合物を同時に溶解する際、Caが蒸発して溶解炉の内壁や排気管等の配管の内面に付着し、配管の閉塞に至る場合も起こる。また、Caは活性な金属で、しかも蒸発後は微細な粒子となるので、雰囲気条件によっては酸化燃焼するおそれもある。
【0008】
したがって、Ca還元による金属Tiの製造を長期にわたり連続して行うには、付着している溶融CaCl2のCa濃度を操業の妨げにならない程度に低下させたTi粒を溶解炉へ入れることが必要になる。
【0009】
【特許文献1】特開2005−133195号公報
【特許文献2】特開2007−63585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みなされたもので、その目的は、本発明者らが提案したOYIK法に立脚した製造プロセスによりTi又はTi合金を製造するに際し、還元工程で生成したTi粒又はTi合金粒に付着している溶融塩のCa濃度を低下させて、溶解炉へ持ち込まれるCa量を、連続操業の妨げにならない程度にまで低減することができる金属Ti又はTi合金の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、特に、経済性を重視し、比較的容易に実施できる技術の開発を目指して検討を重ねた。
【0012】
Ti粒又はTi合金粒に付随して溶解炉へ持ち込まれるCa量を低減するには、Ca含有溶融塩が付着しているTi粒又はTi合金粒を溶解して液相とし、上層の溶融塩(例えば、溶融CaCl2)を除去する溶解分離等の方法が有効である。しかし、そのためには多量のエネルギーを要し、製造コストの上昇は避けられない。また、水洗を長時間続けてCaCl2を除去することにより、CaCl2に含まれるCaを同時に除去する方法も考えられるが、生産能率が著しく低下し、製造コストが上昇する。
【0013】
そこで、本発明者らは、Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩(溶融CaCl2)との混合物を、溶解炉へ装入する前に他の溶融CaCl2により洗浄する方法を試みた。洗浄することによって、前記混合物中のCaを含有する溶融CaCl2が他の溶融CaCl2で置き換えられるので、Ca濃度が前記混合物中の溶融CaCl2のCa濃度より低い溶融CaCl2を使用して洗浄すれば、混合物中の溶融CaCl2は、それに溶解しているCaを伴って洗浄に用いた溶融CaCl2で置き換えられ、混合物中に含まれる全Ca量は減少する。
【0014】
洗浄に用いる溶融CaCl2としては、例えば、製造プロセスにおいて各工程間を循環させている溶融CaCl2のうちCa濃度の低いものを使用することができるので、経済的にも有利である。
【0015】
本発明はこのような発想のもとになされたもので、その要旨は、下記の金属Ti又はTi合金の製造方法にある。
【0016】
すなわち、CaCl2を含み且つCaが溶解した溶融塩中にTiCl4を含む金属塩化物を連続的に供給して溶融塩中にTi粒又はTi合金粒を生成させる還元工程と、生成したTi粒又はTi合金粒を溶融塩から分離する分離工程と、分離後のTi粒又はTi合金粒を連続的に溶解して金属Ti又はTi合金のインゴットとする溶解工程と、Ti粒又はTi合金粒の生成に伴ってCa濃度が低下した溶融塩を電解することによりCa濃度を高める電解工程を含み、電解工程で生成されたCa濃度が高まった溶融塩を還元工程でTiCl4の還元に用いる金属Ti又はTi合金の製造方法において、還元工程で生成したTi粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物を、溶解前に溶融塩で洗浄することにより前記Ca含有溶融塩のCa濃度を低下させて、溶解炉へ持ち込まれるCa量を低減することを特徴とする金属Ti又はTi合金の製造方法である。
【0017】
前記の「CaCl2を含む溶融塩」とは、溶融CaCl2のみ、又は、溶融CaCl2に、融点の低下、粘性等の調整のためにKCl、CaF2等を加えた溶融塩をいう。
【0018】
「TiCl4を含む金属塩化物」とは、TiCl4を必須の塩化物として含む金属塩化物で、TiCl4のみ、又は、TiCl4と、V、Al、Cr等、Tiの合金成分となる金属の塩化物とを含む金属塩化物である。TiCl4の還元と同時に、これらTiの合金成分となる金属の塩化物もCaにより還元されるので、TiCl4を含む金属塩化物を用いることによって、金属Tiの他、Ti合金を得ることもできる。
【0019】
また、「還元工程で生成したTi粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物」とは、還元槽から抜き出された混合物で、還元工程で生成したTi粒又はTi合金粒と、反応に用いられずに残存したCaが溶解しているCa含有溶融塩との混合物をいう。Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩とは還元槽から混合物として同時に抜き出されるので、ここでは、Ca含有溶融塩についても、「還元工程で生成した」という表現を用いている。なお、Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との分離が進行し、例えば、分離工程の最終段階で大半のCa含有溶融塩が除去された後の、Ca含有溶融塩が付着した状態のTi粒又はTi合金粒も、Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物である。
【0020】
洗浄に使用する「溶融塩」とは、主として製造プロセスにおいて各工程間を循環させている溶融塩をいうが、製造プロセスへの浴塩の補充等の目的で新たに調製した溶融塩も含む。前記「溶融塩」は、Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物を洗浄してCa濃度を低下させるために用いるので、実質的には、Ca濃度が還元工程で生成したCa含有溶融塩より低い溶融塩を意味する。
【0021】
本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法において、洗浄用の溶融塩として、還元工程で生成した前記Ca含有溶融塩よりCa濃度が低い溶融塩を使用することを実施形態の一つとしてあげているが、前記の実質的に定まるCa濃度についての条件を、具体的に示したものである。
【0022】
本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法が、さらに、前記分離工程で分離された溶融塩を保持するCa除去領域内の溶融塩側の電極板が、この領域と隔てられたCa濃縮領域内の溶融塩側の電極板に対して+極となるようにCaCl2の分解電圧未満の電圧を印加することにより、Caの濃度が低下したCa除去領域内の溶融塩を電解工程へ送り、Caが高濃度化されたCa濃縮領域内の溶融塩を還元工程へ送るCa除去濃縮工程を含むものであって、洗浄用の溶融塩として、前記Ca除去濃縮工程でCa濃度が低下した溶融塩を使用することとすれば、溶解炉へ持ち込まれるCa量を著しく低減することができる。本発明の望ましい実施形態である。
【0023】
本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法において、前記Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物の洗浄を分離工程で行うこととすれば、洗浄による溶解炉持ち込みCa量の低減を効率よく行えるので望ましい。
【0024】
また、本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法において、前記溶融塩として溶融CaCl2を使用する実施形態を採ることができる。本発明の代表的な実施の態様である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法によれば、比較的容易且つ安価な手段により、還元工程で生成したTi粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物を、溶解前に溶融塩で洗浄して前記Ca含有溶融塩のCa濃度を低下させ、溶解炉へ持ち込まれるCa量を、操業の妨げにならない程度にまで低減することが可能となる。その結果、溶解工程において、Caの蒸発に起因して生じる溶解炉の内壁、配管の内面等におけるCaの付着や、配管の閉塞等の問題を回避し、Ca還元による金属Tiの製造を長期にわたり連続して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法は、前記のとおりで、溶融塩中でのCa還元による金属Ti又はTi合金の製造方法において、還元工程で生成したTi粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物を、溶解前に溶融塩で洗浄することにより前記Ca含有溶融塩のCa濃度を低下させて、溶解炉へ持ち込まれるCa量を低減することを特徴とする方法である。
【0027】
この製造方法は、CaCl2を含み且つCaが溶解した溶融塩中にTiCl4を含む金属塩化物を連続的に供給して溶融塩中にTi粒又はTi合金粒を生成させる還元工程と、生成したTi粒又はTi合金粒を溶融塩から分離する分離工程と、分離後のTi粒又はTi合金粒を連続的に溶解して金属Ti又はTi合金のインゴットとする溶解工程と、Ti粒又はTi合金粒の生成に伴ってCa濃度が低下した溶融塩を電解することによりCa濃度を高める電解工程を含み、電解工程で生成されたCa濃度が高まった溶融塩を還元工程でTiCl4の還元に用いる、すなわち、溶融CaCl2の電気分解により生成するCaをTiCl4の還元に利用すると共に、このCaを循環使用して、金属Ti又はTi合金の製造を連続して行う金属Ti又はTi合金の製造方法(すなわち、OYIK法)を前提としている。これは、本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法が、OYIK法又はそれに立脚した製造プロセスにおいて、連続操業の妨げになる溶解炉への持ち込みCa量を低減することを目的としているからである。
【0028】
本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法において、溶解炉へ持ち込まれるCa量を低減するのは、前述のように、溶解工程でCa含有溶融塩が付着しているTi粒又はTi合金粒を溶解する際に、溶融塩に溶解しているCaの蒸発及び溶解炉の内壁や配管内面への付着を防止し、酸化燃焼のおそれをなくすためである。そのために、本発明の方法では、還元工程で生成したTi粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物を溶融塩で洗浄して、Ca含有溶融塩のCa濃度を低下させる。
【0029】
洗浄に使用する溶融塩としては、製造プロセスにおいて各工程間を循環させている溶融塩の一部を用いるのが、経済的に有利である。その場合、実際には、Ca濃度が前記付着溶融塩のCa濃度より低い溶融塩を使用することになる。例えば、後述する図1の金属Ti又はTi合金の製造プロセスにおけるCa除去濃縮装置5のCa除去領域7ではCa濃度の低い溶融CaCl2が得られるが、この溶融塩を使用することが可能である。
【0030】
また、製造プロセスへの溶融塩の補充等の目的で新たに溶融塩を調製する場合があるが、その際に、Caを含有(溶解)させる前の溶融塩を使用すれば、Caが含まれていないので、洗浄によるCa低減効果が大きい。
【0031】
洗浄に用いる溶融塩のCa濃度は、Ti粒に付着しているCa含有溶融塩のCa濃度に対して、1/5未満の濃度であれば、洗浄によるCa濃度の低減効果が大きく、溶解炉へ持ち込まれるCa量を、連続操業の妨げにならない程度にまで低減可能とし得るので、望ましい。
【0032】
溶解炉への持ち込みCaの限界量については、ある程度の操業実績を積み重ねた上で判断せざるを得ないが、洗浄に用いる溶融塩のCa濃度がTi粒に付着しているCa含有溶融塩のCa濃度に対して例えば1/5未満の濃度であれば、溶解炉への持ち込みCa量は、洗浄により付着溶融塩の全量が洗浄用の溶融塩で置き換えられたとして1/5未満になるので、溶解炉への持ち込みCa量を大幅に低減することができる。したがって、洗浄に用いる溶融塩のCa濃度の規定如何により、連続操業の阻害要因にならない程度にまで前記Ca量を低減することも可能であると言える。なお、実質的には、Ca濃度は0.1質量%以下で用いられることが多く、この程度であれば、溶解炉へ持ち込まれても、操業上の大きな支障にはなりにくい。
【0033】
Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物の溶融塩による洗浄は、溶解工程で溶解炉に装入する前であればどの段階で行ってもよい。しかし、分離工程で行うこととすれば、Ca含有溶融塩の分離が進行しており、特に同工程の最終段階では、Ca含有溶融塩はTi粒又はTi合金粒に付着しているだけとなっていて、少量の洗浄用溶融塩で洗浄効果を高めることができるので、溶解炉に持ち込まれるCa量を効率よく低減することができ、望ましい。
【0034】
分離工程では、Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物のTi濃度(前記混合物中におけるTiの含有比率)を10質量%以上とすることが望ましい。より望ましくは、20質量%以上である。溶解工程では、Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物の全量を溶融してCa含有溶融塩を浮上分離するので、Tiの含有比率が高く、Ca含有溶融塩の比率が低いほどエネルギー効率は高くなり、また、溶解炉に装入されるCa量を低く抑えることができる。前記の10質量%は、現時点で許容できるエネルギー効率の下限である。
【0035】
Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物を溶融塩で洗浄する方法については、特に定めない。洗浄を行う段階、混合物の状態等に応じて適切な方法を採るのがよい。例えば、混合物中におけるCa含有溶融塩の量が比較的多い段階で洗浄する場合は、所定の効果を得るために、混合物に洗浄用の溶融塩を加え抜き出す操作を複数回行うことが必要になる。また、分離工程の最終段階で洗浄する場合は、Ca含有溶融塩がTi粒又はTi合金粒に付着しているだけであり、混合物に洗浄用の溶融塩を1回ゆっくりと通すだけで洗浄効果が得られる。
【0036】
本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法においては、TiCl4の還元反応を進行させる溶融塩、すなわちCaCl2を含み且つCaが溶解した溶融塩として、特に、Caが溶解した溶融CaCl2のみを使用する実施形態を採ることが望ましい。溶融塩(浴塩)の組成が単純なので、溶解Ca濃度、温度等、浴塩の管理が容易であり、操業をより円滑に行うことができる。
【0037】
本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法において、前提となる製造プロセスが、さらに、Ca除去濃縮工程を含むものであれば、次に述べるように、洗浄用の溶融塩として、製造プロセス内の、しかもCa濃度が著しく低下した溶融塩を使用することができる。
【0038】
この実施の形態は、本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法における特に望ましい実施形態である。Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物の洗浄に使用する溶融塩として、製造プロセス内の循環溶融塩の一部で、しかもCa濃度の極めて低い溶融塩を用いるので、洗浄によるCa低減効果が大きく、比較的容易に実施することができ、経済的にも有利である。以下に、この実施形態を、図面を参照して説明する。
【0039】
図1は、本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法の実施に用いられる、Ca除去濃縮工程を含む装置の概略構成例を示す図である。
【0040】
図1に示すように、この装置は、CaCl2を含み且つCaが溶解した溶融塩(例えば、Caが溶解した溶融CaCl2)を保持し、この溶融CaCl2中にTiCl4を含む金属塩化物(ここでは、TiCl4のみとする)を連続的に供給して溶融CaCl2中にTi粒を生成させるための還元槽1と、生成したTi粒を溶融CaCl2から分離する分離手段2と、分離後のTi粒を連続的に溶解して金属Tiのインゴット20とする溶解手段3と、Ti粒の生成に伴ってCa濃度が低下した溶融CaCl2を電解することによりCa濃度を高める電解槽4を有している。
【0041】
さらに、この装置は、本発明者らが新たに開発したCa除去濃縮装置5及び調整槽6を備え(例えば、特願2006−65838)、分離手段2として、液体サイクロン13と、金網を使用した濾過分離器14が用いられている(特願2006−271787)。
【0042】
Ca除去濃縮装置5は、Ca除去領域7と、隔壁9によってこの領域7と隔てられたCa濃縮領域8、並びに前記Ca除去領域7及びCa濃縮領域8内の溶融CaCl2と接触してCa含有合金(例えば、溶融Mg−Ca合金)を保持する溶融合金保持領域を備えており、Ca除去領域7内の溶融CaCl2に溶解しているCaを除去し、Ca濃縮領域8内の溶融CaCl2のCaを濃化する機能を有している。すなわち、Ca除去領域7側の電極板がCa濃縮領域8側の電極板に対して+極となるようにCaCl2の分解電圧未満の電圧を印加することによって、Ca除去領域7内の溶融CaCl2に溶解しているCaが溶融Mg−Ca合金電極10側へ移行してCa除去領域7内の溶解Caの濃度が低下し、一方、溶融Mg−Ca合金電極10のCaがCa濃縮領域8内の溶融CaCl2側へ移行してCa濃縮領域8内の溶解Caの濃度が増大する。
【0043】
調整槽6は、槽6内に導入される溶融CaCl211の上層に溶融金属Caや溶融Mg−Ca合金のようなCa供給源12を浮遊させた槽で、溶融CaCl211のCa濃度がその飽和溶解度未満であれば、Ca供給源12からCaが溶融CaCl211へ供給されて、Ca濃度を飽和溶解度近傍の濃度に維持することができ、また、溶融CaCl211のCa濃度がその飽和溶解度を超え、析出した金属Caも混在している場合は、金属Caが浮上分離し、Ca濃度が飽和溶解度近傍の濃度に保たれる。これにより、還元槽6に供給される溶融CaCl211のCa濃度を一定に維持することができ、TiCl4の還元反応効率の低下を抑え、安定した操業を行うことができる。
【0044】
また、分離手段2として、液体サイクロン13を使用することにより、還元工程で溶融CaCl2中に生成した微細なTi粒の造粒が進行し、同時に溶融CaCl2の一部が上方へ分離され、濃縮される。造粒後のTi粒は液体サイクロン13の下方から残りの溶融CaCl2と共に排出され、濾過分離器14で溶融CaCl2が除去され、濃縮、分離される。
【0045】
そして、この装置には、Ca除去濃縮装置5のCa除去領域7内に保持され、溶解Caの濃度が低下した溶融CaCl2の一部を貯留するための洗浄用溶融CaCl2槽15が設けられている。
【0046】
この図1に示した装置を使用して行う本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法について、溶融塩として溶融CaCl2を用いる場合を例にとって説明する。
【0047】
先ず、電解槽4から調整槽6を介して連続的に供給される溶融CaCl2を、還元槽1内に保持し、その溶融塩中のCaに、TiCl4供給口16から供給したTiCl4(ここでは、金属塩化物としてTiCl4を用いる)を反応させ、前記溶融塩中にTi粒を生成させる(還元工程)。
【0048】
前記還元工程で溶融CaCl2中に生成した微細なTi粒は、分離工程で液体サイクロン13により造粒されると共に、分離、濃縮される。造粒後のTi粒は液体サイクロン13の下方から残りの溶融CaCl2とともに排出される。排出されたTi粒は、濾過分離器14で溶融CaCl2が除去され、濃縮、分離される。
【0049】
分離後のTi粒は、溶解炉の分離槽17内でプラズマトーチ18から照射されるプラズマにより連続的に加熱溶融され、鋳型19に流し込まれ、Tiインゴット20となる。
【0050】
分離工程において、液体サイクロン13で分離された溶融CaCl2、濾過分離器14で除去された溶融CaCl2、及びプラズマトーチ18による加熱溶融により分離槽17内で上層として分離された溶融CaCl2は、それぞれ経路La、Lb、Lcを経てCa濃縮除去装置5のCa除去領域7へ送られる。なお、経路Ldは、経路La、Lbを通過する溶融CaCl2が経路Lcを通過する溶融CaCl2に比べて圧倒的に多いので、Ca除去領域7内の溶融CaCl2とCa濃縮領域8内の溶融CaCl2の量的バランスをとって、Ca除去濃縮装置5でCaの除去及び濃縮処理を連続的に行うための経路である。
【0051】
Ca除去濃縮装置5で電気分解に悪影響を及ぼす(陽極で生成する塩素とバックリアクションを引き起こす)Caが除去されたCa除去領域7内の溶融CaCl2は電解工程へ送られ、電気分解されてCa濃度が高められる。なお、電解槽4は、前掲の特許文献2に記載されている電解槽と同様に、溶融塩を保持する円筒状の電解槽容器21と、同じく円筒状の陽極22及び円柱状の陰極23を、隔膜24を隔てて有しており、電解槽4の下端から陽極22と陰極23の間に連続的に供給された溶融CaCl2を電気分解して、Caが濃化した溶融CaCl2を抜き出すことができるように構成されている。
【0052】
電解工程で電気分解により生成されたCaは、溶融塩とともに、Ca供給源を有する調整槽6へ導入され、溶融塩のCa濃度が一定とされた後、前記還元槽1へ投入され、金属Tiの製造が連続的に行われる。
【0053】
本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法では、電解工程へ送られるCa除去領域7内の溶融CaCl2の一部が洗浄用溶融CaCl2槽15内に貯留される。Ti粒とCaを含む溶融CaCl2との混合物は、液体サイクロン13を経て濾過分離器14で溶融CaCl2の大部分が除去されるが、このTi粒とCaを含む溶融CaCl2との混合物を、前記の洗浄用溶融CaCl2槽15に貯留された溶融CaCl2で洗浄する。この溶融CaCl2は、通常は濃度が0.01%程度にまでCaが除去されているので、洗浄によって前記混合物中のCaを含む溶融CaCl2のCa濃度を0.01%程度にまで低下させることが可能になる。
【0054】
この例では、Ti粒とCa含有溶融塩との混合物の洗浄を分離工程のしかも最終段階(濾過分離器14)で行っている。濾過分離器14は、円筒状で、筒(管)の内壁にらせん状のひれが取り付けられ、更に、該内壁の内側近傍に目の細かい金網が張られており、出側が入側に対して若干上向きに傾斜し、筒の軸を中心に回転可能に構成されている。液体サイクロン13の下方から排出された混合物中のCa含有溶融塩の殆どは、濾過分離器14で処理される間に金網を通過して濾過分離器14の入側へ移行し、排出され、金網上のTi粒又はTi合金粒は濾過分離器14の回転に伴いらせん状のひれにより押し上げられ、出側から排出される。
【0055】
液体サイクロン13及び濾過分離器14で大部分の溶融CaCl2が除去されているので、洗浄に用いる溶融CaCl2槽15内の溶融CaCl2の量は最小限でよく、溶解炉に持ち込まれるCa量の低減を効率よく行うことができる。
【0056】
なお、分離手段として、前記図1に示した液体サイクロン13及び濾過分離器14を用いれば、前述の「Ti濃度10質量%以上」という望ましい条件は十分達成できる。
【0057】
また、前述の、洗浄に用いる溶融塩のCa濃度についての望ましい条件(Ti粒に付着しているCa含有溶融塩のCa濃度に対して、1/5未満の濃度)も、前記図1に示した装置を用いれば達成可能である。具体的に示すと、還元槽1からTi粒と共に排出される溶融塩のCa濃度は、0.05〜0.30%程度であり、一方、Ca除去領域7内でCaが除去された溶融CaCl2のCa濃度は、通常の操業条件の下で0.01%程度であり、前記の望ましい条件を満たすことは十分可能である。
【0058】
以上説明したように、本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法は、還元工程で生成したTi粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物を、溶融塩、特に製造プロセスにお内で各工程間を循環させている溶融塩で洗浄することにより、前記Ca含有溶融塩のCa濃度を低下させて、溶解工程の溶解炉内へ持ち込まれるCa量を低減する方法である。この方法によれば、比較的容易且つ安価な手段により、溶解炉内への持ち込みCa量を、操業の妨げにならない程度にまで低減することが可能であり、Caの蒸発に起因して生じる溶解炉の内壁や配管の内面におけるCaの付着や、配管の閉塞等の問題を生じさせることなく、Ca還元による金属Ti又はTi合金の製造を長期にわたり連続して行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法によれば、溶解炉へ持ち込まれるCa量を低減して、溶解工程におけるCaの蒸発に起因して生じる溶解炉の内壁や配管の内面におけるCaの付着、配管の閉塞等の問題を比較的容易且つ安価な手段により回避して、Ca還元による金属Tiの製造を長期にわたり連続して行うことができる。
【0060】
したがって、本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法は、Ca還元による金属Ti又はTi合金の製造を連続的に実施する方法として、有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の金属Ti又はTi合金の製造方法の実施に用いられる装置の概略構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1:還元槽
2:分離手段
3:溶解手段
4:電解槽
5:Ca除去濃縮装置
6:調整槽
7:Ca除去領域
8:Ca濃縮領域
9:隔壁
10:溶融Mg−Ca合金電極
11:溶融CaCl2
12:Ca供給源
13:液体サイクロン
14:濾過分離器
15:洗浄用溶融CaCl2
16:TiCl4供給口
17:分離槽
18:プラズマトーチ
19:鋳型
20:Tiインゴット
21:電解槽容器
22:陽極
23:陰極
24:隔膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaCl2を含み且つCaが溶解した溶融塩中にTiCl4を含む金属塩化物を連続的に供給して溶融塩中にTi粒又はTi合金粒を生成させる還元工程と、生成したTi粒又はTi合金粒を溶融塩から分離する分離工程と、分離後のTi粒又はTi合金粒を連続的に溶解して金属Ti又はTi合金のインゴットとする溶解工程と、前記Ti粒又はTi合金粒の生成に伴ってCa濃度が低下した溶融塩を電気分解することによりCa濃度を高める電解工程を含み、電解工程で生成されたCa濃度が高まった溶融塩を還元工程でTiCl4の還元に用いる金属Ti又はTi合金の製造方法において、
還元工程で生成したTi粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物を、溶解前に溶融塩で洗浄することにより前記Ca含有溶融塩のCa濃度を低下させて、溶解炉へ持ち込まれるCa量を低減することを特徴とする金属Ti又はTi合金の製造方法。
【請求項2】
洗浄用の溶融塩として、還元工程で生成した前記Ca含有溶融塩よりCa濃度が低い溶融塩を使用することを特徴とする請求項1に記載の金属Ti又はTi合金の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の金属Ti又はTi合金の製造方法が、さらに、前記分離工程で分離された溶融塩を保持するCa除去領域内の溶融塩側の電極板が、この領域と隔てられたCa濃縮領域内の溶融塩側の電極板に対して+極となるようにCaCl2の分解電圧未満の電圧を印加することにより、Caの濃度が低下したCa除去領域内の溶融塩を電解工程へ送り、Caが高濃度化されたCa濃縮領域内の溶融塩を還元工程へ送るCa除去濃縮工程を含むものであって、
前記洗浄用の溶融塩として、Ca除去濃縮工程でCa濃度が低下した溶融塩を使用することを特徴とする請求項1に記載の金属Ti又はTi合金の製造方法。
【請求項4】
前記Ti粒又はTi合金粒とCa含有溶融塩との混合物の洗浄を分離工程で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属Ti又はTi合金の製造方法。
【請求項5】
前記溶融塩が溶融CaCl2からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属Ti又はTi合金の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−308738(P2008−308738A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158575(P2007−158575)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】